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新しい電気事業制度の評価 - 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所

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新しい電気事業制度の評価 - 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所
第380回定例研究報告会
新しい電気事業制度の評価
∼欧米諸制度との比較を中心に∼
平成15年4月11日
(財)日本エネルギー経済研究所
電力グループ 主任研究員
小笠原 潤一
1
報告の目的
本年2月18日第十四回電気事業分科会において、新しい電気事業の枠組
みに係る「今後の望ましい電気事業制度の骨格について(案) 」が了承され、
経済産業大臣に答申が提出された。そして同3月にこれに基づく電気事業
法改正案が国会に上程された。
「我が国経済活動及び国民生活の基盤となる電力の安定供給を効率的に
達成しうる公正かつ実効性のあるシステムの構築に向けて、今後の電気事
業制度はいかにあるべきか」という付託を受けて、電気事業分科会で新し
い制度設計の議論が行われた。
今回の制度改革は、①諸外国に比して割高な電気料金の是正、②国際的
に遜色のない制度設計を行うこと、という目的と公益的課題との両立を図る
制度を実現すべく議論が行われた。
そこで答申で示された新しい制度の枠組みが、上記目的に②にどの程度適っ
たものか、欧米の現状を踏まえて評価を試みることとする。
2
報告内容
1.現在の自由化進展状況
2.答申の概要
3.欧米の現状
米国の状況
欧州の状況
4.答申の評価
5.まとめと今後の展望
3
1.現在の自由化進展状況
主要なポイント
これまでの自由化
• 1995年電気事業法改正によるIPP(Independent Power Producer、独立
発電事業者)を導入し、卸発電部門に競争原理を導入。
• 1999年電気事業法改正により、2000年3月より特別高圧需要家を対象に
小売自由化が開始された。
1999年電気事業法改正の効果
• 2003年1月時点で新規参入者(PPS)の市場シェアは全体で0.87%と低い
ものの、大都市圏業務用を中心に活発な競争を実現。
• 中長期的にはPPS電源も着実に増加する見込み。
• 一般電気事業者による効率化も進展し、規制部門でも料金値下げの形で
自由化メリットが還元された。
4
1.現在の自由化進展状況
内外価格差:電力(家庭用)
円 /kWh
30
2002年
25
2001年
20
15
10
22.5
26.0
23.0
16.1
17.7
13.6
20.4
15.5
5
15.4
12.8
12.0
TXU(UK)
PG
RWE
EnBW
EDF
(英)
(独)
(独)
(仏)
0
東電
ConEd
ComEd TXU(US)
(米)
(米)
(米)
LE
BG
(英)
(英)
(英)
(注1)グラフ中の略称は以下の通り。Con Ed:Consolidated Edison(ニューヨーク州)、Com Ed:Commonwealth Edison(イリノイ州)、TXU(US):
Texas Utilities(テキサス州)、LE:London Electricity、BG:British Gas、TXU(UK):TXU Energie、PG:PowerGen
(注2)2001年の各社料金は、2002年モデルで使用した為替レートで評価している。
(出所)日本エネルギー経済研究所
5
1.現在の自由化進展状況
内外価格差:電力(大口用)
円 /kWh
20
18
16
2002年
14
2001年
12
10
16.3
8
6
13.6
15.3
11.9
4
6.4
7.2
7.2
7.1
7.1
LE
BG
TXU(UK)
(英)
(英)
6.0
6.8
6.0
PG
RWE
EnBW
EDF
(英)
(独)
(独)
(仏)
2
0
東電
東電
(産業用) (業務用)
ConEd
(米)
ComEd TXU(US)
(米)
(米)
(英)
(注1)グラフ中の略称は以下の通り。Con Ed:Consolidated Edison(ニューヨーク州)、Com Ed:Commonwealth Edison(イリノイ州)、TXU(US):
Texas Utilities(テキサス州)、LE:London Electricity、BG:British Gas、TXU(UK):TXU Energie、PG:PowerGen
(注2)2001年の各社料金は、2002年モデルで使用した為替レートで評価している。
(出所)日本エネルギー経済研究所
6
1.現在の自由化進展状況
新規参入者の動向①
自由化対象需要家に占めるシェア
100万 kWh
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
0.87%
PPS販売電力量
シェア
1.0%
0.9%
0.8%
0.7%
0.6%
0.5%
0.4%
0.3%
0.2%
0.1%
0.0%
00/4 00/7 00/10 01/1 01/4 01/7 01/10 02/1 02/4 02/7 02/10 03/1
2001年に入り、PPSの獲得する需要家件数も増加したものの、2003年1月
時点で自由化対象需要家の0.87%を占めるのみ。
7
1.現在の自由化進展状況
新規参入者の動向②
1,000kW
6,000
その他
5,000
水力
4,000
灯油
3,000
LPG
都市ガス
天然ガス(複合)
2,000
石炭
石油
1,000
0
2000
2005
2010
2015
現行の計画ベースでも2010年のPPS電源は458万kWに達す
る見込み。
8
2.答申の概要①
2003年2月18日第十四回電気事業分科会において、新しい電気事業の枠
組みに係る「今後の望ましい電気事業制度の骨格について(案) 」が了承さ
れ、経済産業大臣に答申が提出された。同3月にこれに基づく電気事業法
改正案が国会に上程されたところである。
答申の主要なポイント
パンケーキ問題の解消(=振替料金の廃止)
中立機関、電力取引所の設立
発送電分離のような構造規制(アンバンドリング)の不採用
段階的小売自由化(スケジュールの明示)
(原子力の取扱いの再定義)
わが国の実態に合わせ、着実かつ段階的な自由化制度が選択され、「全
国単一市場化」の概念が強く打出された点が特徴的。
9
2.答申の概要②
パンケーキ問題の解消(=振替料金の廃止)
電力間競争、広域的な供給力の利用や需要家の選択肢拡大の阻害要因となっていた、供
給区域を跨る毎に課金される振替料金を廃止することになった。これに応じて、託送料金は
接続料金に一本化され、いわゆる需要地毎の郵便切手方式となる。振替料金廃止に伴って、
会社間精算措置を導入し、コスト回収の確実性を担保するものとされている。
中立機関、電力取引所の設立
中立機関は、共通インフラであるネットワーク利用に係わる、①設備形成、②系統アクセス、
③系統運用、④情報開示についての規則を定め、監視・紛争処理(斡旋・調停)を行う他、連
系線の空き容量情報の公開、中央給電連絡機能、地域間連系線整備計画に係る調整を行
うための場の提供、供給信頼度評価、各種統計の作成・公表、及び電力系統に関する調査
研究等を行う機関として重要な役割を担う。
また、広域的な電源利用を促進するために一日前市場・先渡市場から成る全国規模の電力
取引所を創設することが決定された。取引所創設初期にはある程度の取引量確保が課題と
なるが、電力会社に電源の強制的投入の義務づけは行わないものの、電力会社が自主的
に初期投入する電源の考え方を公表することとなった。
発送電分離のような構造規制(アンバンドリング)の不採用
わが国固有の地理的・設備的要件を勘案し、供給信頼度維持を目的として一般電気事業者
に対して発送電分離などの構造規制(アンバンドリング)を今回採用しないことが決まった。
その代わりに行為規制として、①情報遮断、②内部相互補助の禁止、③差別的取扱いの禁
止の3点が確実に担保されるように、それぞれ法律により担保すること、また行政による事
後チェック機能の整備が図られることとなった。
10
2.答申の概要③
段階的小売自由化(スケジュールの明示)
2004年500kW以上(自由化範囲約40%)、2005年50kW以上自由化(同約63%)、
2007年より全面自由化の議論開始、という小売自由化スケジュールが明示され
た。諸外国の一部に見られるような、急激な自由化ではなく、中立機関・電力取引
所の設置等を踏まえながらの段階的なアプローチを採用することになった。
(原子力の位置付けと市場との整合性)
「バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性等を分析・
評価する場を立ち上げ、その結果を踏まえ、官民の役割分担の在り方、既存の制
度との整合性等を整理の上、平成16年末を目途に、経済的措置等具体的な制度・
措置の在り方について必要性を含め検討する」ことが決定されている。この検討
が終了した段階で、本答申は「完成」することとなる。
11
3.欧米の現状
米国の状況
標準市場設計
RTO、ISOの設立動向
PJM ISOとERCOT ISOの比較
欧州の状況
フローレンス・フォーラムによる調整プロセス
• パンケーキ問題
• 混雑管理
2002年11月閣僚理事会での合意事項
12
3.欧米の状況
(1)米国の状況①∼概要
2002年7月にFERCは、標準市場設計(Standard Market Design)という「標
準化」された卸電力市場・送電部門の枠組みを提唱。
カリフォルニア電力危機、エンロン崩壊等を踏まえ、卸電力市場及び送電部門
に関する包括的な枠組みを提唱。
PJM ISOで行われている市場の枠組みに類似したものとなっている。(一日前市
場・リアルタイム市場の設立とLMP(地点別限界価格)方式の適用、金融的送電
権の導入など)
州の規制機関に卸電力市場プロセスへの参加を促している点が特徴的。(広域
諮問委員会)
当初は2002年10月末にコメント提出、12月に施行の予定となっていたが、スケ
ジュールは遅延気味。
NERC基準の法的裏付け
エネルギー包括法案の中で、NERC(北米信頼度協議会)による信頼度基準に
法的拘束力を持たせる動き。
テキサス州系統はFERCの管轄外であるため、独自の自由化を選択。PJM
ISOと対極的な分権的なシステムを採用。着実な自由化の成果実現に注目
が高まっている状態。
13
3.欧米の状況
(1)米国の状況②∼RTO、ISO設立動向
ISO New England
RTO West
Midwest ISO
New York ISO
TRANSLink
PJM Interconnection
PSCo
(TRANSLink West)
California ISO
SPP
TVA
Grid South
West Connect
SETrans
ERCOT ISO
GridFlorida
14
3.欧米の状況
(1)米国の状況③∼PJMシステムの特徴
ペンシルベニア州、ニュージャージー州、メリーランド
州を中心送電系統の運用を行う非営利
の系統運用会社。FERCの提唱する標
準市場設計(SMD)のモデルとなったこ
とでも有名。AEPやCom Edの参加や
Midwest ISOとの共通市場形成が予定
されている。
特徴は「中央集権型」の系統運用が行
われている点。
市場参加者は一日前市場及びリアル
タイム市場を通じて電力の取引を行う
義務が課せられている。(但し大部分
は相対契約でカバー)
小売事業者は事前の発電設備確保義
務が課せられている。
ComEd
Duquesne
PJM
PJM West
(Allegheny)
Illinois Power
DPL
PJM South
(Dominion)
AEP
(注)AEP:American Electric Power、DPL:Dayton Power & Light Company、
ComEd:Commonwealth Edison(Exelon)
ISOが系統運用において中心的な役割を演じるシステム。
15
3.欧米の状況
(1)米国の状況④∼テキサス・システムの特徴
テキサス系統の供給信頼度確保の調整を行う組織であったERCOT ISOを
テキサス州自由化を機に改組し、独立系統運用機関化した。
特徴は「分権型」の系統運用が行われている点。
ISOの役割は一日前時点におけるスケジュール調整と情報伝達機能が中心。
QSEと呼ばれるスケジュール調整事業者がアンシラリー・サービスの調達を含
め、中心的な役割を担う。
TXU Corp(持株会社)
一日前市場は設置されていない。
会計分離、情報遮断
ISOは系統運用の上で補 物理的運用
ONCOR Electric
完的な役割を担うのみ。
(送電会社)
但し、既存電力会社も物
理的運用と経済的運用が
アンバンドリングされ、垂
情報
指示
直統合的な組織から大きく
変化している。
TXU Gas
(ガスパイプライン会社)
TXU Genco
(発電会社)
規制部門
TXU PM
(パワーマーケター)
QSE
(経済的運用)
TXU Retail
(小売会社)
自由化部門
スケジュール
ERCOT ISO
調整後指示
16
3.欧米の状況
(2)欧州の状況①∼概要
欧州では「EU」の枠組みの中で、「統一電力市場」の形成を目指し各国間・利害関
係者間調整が行われている。
フローレンス・フォーラム
各国規制機関、利害関係者団体(送電系統運用者協会、配電事業者協会、取引事
業者協会、需要家代表等)の参加により、重要課題について議論。(これまで9回開催)
国際電力取引メカニズム(Cross Border Trade Mechanism)、混雑管理がこれまでの
主要議題。
• CBTメカニズム:2002年3月より同額の輸出料金に統一化。最終的には同料金も撤廃予定。
• 混雑管理:第六回フォーラム(2000年11月)で混雑管理ガイドラインを合意。国際間連系線
の混雑解消は原則的に市場原理を導入する方向を指向。
• UCTE(大陸欧州の系統運用者協会)等が中心となって、系統運用ハンドブックを作成中。
系統運用規則に法的拘束力を与える必要性を議論しつつも、「自主的規制」に止まる見込
み。
閣僚理事会での合意
小売自由化範囲:2004年7月までに家庭部門以外を自由化、2007年7月までに全面
自由化
送配電部門に運用分離・法的分離を義務づけ
17
3.欧米の状況
(2)欧州の状況②∼CBTメカニズム
2003年メカニズム
輸出を行う事業者の計画量に対し、0.5ユーロ/MWhの輸出料金を課
すことで統一化。(2002年メカニズムでの1.0ユーロ/MWhより引下げを
実現)
水平的ネットワーク(Horizontal Network)という標準モデルを構築し、
中継潮流に要した送電設備に係る費用の特定化を各国が統一的に行
うことが可能に。
輸出料金収入と上記モデルで特定化された費用の差額は、各国が通
常の託送料金を通じて回収。
段階的に各国の託送料金制度を統一化し、最終的には上記
輸出料金を廃止し、「パンケーキ問題」の解消を目指している。
18
3.欧米の状況
(2)欧州の状況③∼混雑管理
2000年に開催された第六回フローレンス・フォーラムにおいて
「混雑管理ガイドライン」が合意された。
一般原則:混雑管理手法は効率的なネットワーク利用と最適な電源立
地に適切なインセンティブを提供するものである必要があり、非差別性、
透明性の原則が満たされる必要がある。
長期契約について契約更新時に特別な取扱いは認められず、市場参
加者とTSO(送電系統運用者)に対し適切な価格シグナルを提供する
混雑管理手法(オークション等)が推奨されている。
上記ガイドラインの達成状況は、個別項目の単純平均で77%
にも達している。(第9回フォーラム「EU域内における送電混雑
に係るステータス・レポート」)
しかし、大陸欧州の送電系統はメッシュ状になっており、複数国のTSO
の協調が不可欠であり、課題も多い。
19
3.欧米の状況
(2)欧州の状況④∼電力取引所設立動向
<北欧>
Nord Pool
<イングランド
・ウェールズ>
UKPX等
<オランダ>
APX
<ドイツ>
EEX
<ポーランド>
Polpx
<フランス>
Powernext
<スロベニア>
BORZEN
<スペイン>
Omel
<ルーマニア>
Opcom
ドイツEuropean Energy
Exchange、フランス
Powernext、スペインOmel、
北欧(ノルウェー、スウェーデ
ン、フィンランド、デンマーク)、
オランダAPXと一ヶ国一取引
所に近い形で設立されている。
価格も一国一価格の形式が
主。(Nord Poolの価格ゾーン
は主に国別で形成されてい
る。)
<イタリア>
GME
20
4.答申の評価
今回の制度改正の柱である、①全国単一市場化、②中立機関
の設立、③電力取引所の設立、の3点について評価を課題の
抽出を行いたい。
21
4.答申の評価
(1)全国単一市場化の評価と諸問題
振替料金の廃止及び全国大の卸電力取引所の設立により、地域市場から
全国単一市場化への方向性が鮮明となった。これにより、需要家の選択肢
は大きく拡大し、全国大での競争が進展することになろう。
特に欧米でも「パンケーキ問題の解消」に取り組んでいるが、なかなか実効
性を挙げられない中で、わが国がその解消を実現できたことは先進的事例
として注目に値する。
「なお、振替供給料金の廃止については、コスト回収、地域間精算、遠隔地立
地への対処を図るともに、廃止後の状況の推移をみて、大きな問題が生ずれ
ば、直ちに廃止を見直すものとする。」
しかし、物理的なインフラ面では連系設備が弱く、長期的にはその増強が
求められることから、適切な「振替料金廃止分の補償」メカニズムの構築が
不可欠。この補償金の算定方法は、欧米でも議論を呼ぶところであり、十分
な検討が必要。
22
4.答申の評価
(2)中立機関設立に伴う評価と諸問題①
中立機関は、共通インフラであるネットワーク利用に係わる以下の規則を定
め、監視・紛争処理(斡旋・調停)を行う。
①設備形成(流通設備計画策定ルール)
②系統アクセス(発電機側アクセスルール、需要家側アクセスルール)
③系統運用(系統運用時の供給力確保ルール、流通設備の運用計画策定ルー
ル、給電指令ルール、連系線運用ルール)
④情報開示
この他、連系線の空き容量情報の公開、中央給電連絡機能、地域間連系
線整備計画に係る調整を行うための場の提供、供給信頼度評価、各種統
計の作成・公表、及び電力系統に関する調査研究等を行う機関として重要
な役割を担う。
欧米諸国で同種の全国的機関を設置した例はなく、わが国独特の制度となっ
ている。
23
4.答申の評価
(2)中立機関設立に伴う評価と諸問題②
ガバナンス
中立機関は、共通インフラであるネットワーク利用に係わる要件や規則を定め、
監視を行う機関として重要な役割を担う。
中立機関内部に設置される理事会及び専門委員会ともに利害関係者の代表
により構成されており、「利害関係者の範囲」、「配分比率」及び「選出方法」が
意思決定プロセスにおいて大きな影響を与えることは不可避である。
欧米でも、中立性を求められる機関における利害関係者の関与方法は大きく
変動しており、一度決定された枠組みが最終的なものと考えることは危険であ
る。
利害関係者の参加方法(理事会、専門委員会等)を定める枠組みが重要。同
時に各利害関係者グループが内部で如何に合意を形成するかも重要。
• PPS及び自家発、卸電気事業者それぞれの合意を形成するための組織が
必要ではないか。
中長期的には、専門的な議論に耐え得る中立的な専門家育成が課題。
24
4.答申の評価
(2)中立機関設立に伴う評価と諸問題③
強制力の担保
今回設置される中立機関の定める規則は、「自主規制方式」によってその遵守
を担保することになっている。
欧米においても送電部門のルールに関する強制力の確保は大きな課題であり、
現在のところいずれの国でも「自主規制方式」が採用されている。(米国では強
制力を法的に担保するための法律の制定が審議されている状態。)
「自主規制方式」による市場参加者の遵守は、その規則の制定プロセスにお
いて各利害関係者の意見が表明され、十分な議論を尽くすことが肝要である。
強制力の観点からも中立機関のガバナンスは重要。
25
4.答申の評価
<参考>諸外国におけるガバナンスの状況①
米国の状況
SMD:現在FERCにより提唱されている標準市場設計(SMD)における独立送電
事業者の理事は、市場参加者より金銭面を含め利害関係を有しない独立者で
あることが求められている。
PJM ISO:1997年有限会社化当初より最終的な意思決定主体である「独立委
員会」のメンバーになるには、市場参加者より金銭面を含め利害関係を有しな
い独立者であることが求められている。
ERCOT ISO:最終的な意思決定主体である理事会は、従来利害関係者の代
表者により構成されていたが、市場参加者より金銭面を含め利害関係を有し
ない「独立者」の割合を増やしている。
NERC:従来業界の自主的な協会であった組織に法的位置付けを与える(信頼
度基準に強制力を付与する)途上にあり、最終的な意思決定主体である理事
会のメンバーを市場参加者より金銭面を含め利害関係を有しない独立者に限
定化。
最終的な意思決定主体のメンバーを「独立者」に限定する傾向。利害関係者
は議論を通じて、意思決定を行う独立者に判断材料を提供する役割を担う。
26
4.答申の評価
<参考>諸外国におけるガバナンスの状況②
欧州の状況
独占的な送電部門をアンバンドリングし、独立規制機関が監視を行う
ことで中立性を担保しているので、ガバナンスの問題はあまり聞かれ
ない。
• 2002年閣僚会議では、送配電部門の運用分離・法的分離の義務化が決
定した。(運用分離:意思決定面での独立性確保)
むしろ欧州大で行われるフローレンス・フォーラムが、利害関係者間
の意思決定プロセスとして機能している現状。
欧州委員会がフォーラムへの参加者を決定し、多様な利害関係者の
意見が反映されているか疑問が残る現状。
• 大国・小国という国の規模の違い、多様な利害関係者という条件の中で
合意を形成する必要があり、非常に困難な意思決定プロセスとなってい
る。
• フォーラムに参加する利害関係者団体毎にガバナンスも異なり、全体的
なバランスが保たれているのか問題も残る。
27
4.答申の評価
(3)電力取引所設置に伴う評価と諸問題①
「全国単一市場化」に向けて、全国大の電力取引所を設置したこと
は大きな前進。
公的関与のあり方
純然たる「私設取引所」として設置され、中間法人という組織形態で中立性
を担保することが合意された。
しかし複数の取引所設置は現実的でないこと、PPSの市場シェアが小規模
であることを考慮すると、当電力取引所には一定の公的性格が求められる
こととなり、ある程度公的な議論の場を通じて、取引所の組織・運用ルール
が決定されることが望ましいのではないか。
どの段階までの内容を公的な場で決定するのが望ましいか?
少なくとも組織形態、運用ルールの概要の段階までを公的な場で
議論することが必要ではないか。
28
4.答申の評価
(3)電力取引所設置に伴う評価と諸問題②
玉出しの内容と監視体制
市場においては自由な取引が行われることが望ましく、その購入・販売
において取引を強制することは市場の形成を歪める可能性があるが、
取引量が少ない場合に市場支配力の行使が懸念され、有効な価格イ
ンデックスが形成されない可能性が残る。
そこで今回、電力会社に電源の強制的投入の義務づけは行わないも
のの、電力会社が自主的に初期投入する電源の考え方を公表すること
となった。この自主的な初期投入は、市場における取引・価格を歪めな
い運用が必要であり、正常な市場運営が行われているか、公的関与が
薄い状況の中でどう監視体制を実現するか課題となる。
このような状況下では、取引所内部での監視・報告を執行する体制に
重点が置かれることになるが、公的関与のあり方を含めて将来的に検
討の余地があるのではないか。
取引所内部での監視・報告を執行する体制が重要
29
4.答申の評価
<参考>諸外国における電力取引所の位置付け
スポット取引(一日前取引)を扱う取引所の法的位置付けは様々
①電気事業法準拠型:Nord Pool(北欧)
• ノルウェー国営送電会社であるStatnettの国際電力取引独占権に準拠して
取引所を設立。
②金融法準拠型:Powernext(仏)、European Energy Exchange(独)等
• 一日前取引を「先物取引」とみなし、金融法に準拠して設立。金融当局の規
制も受ける。
③私設型:APX(米)等
• 相対取引の一形態として設立。取引事業者として位置付けられる。
多様な取引所の法的枠組みを背景として、規制当局の権限も監
視方法も様々。日本で設立が予定されている取引所は③のタイ
プ。
30
4.答申の評価
(4)小売自由化範囲・アンバンドリング
小売自由化範囲
欧米諸国では、一挙に全面自由化を行う国・地域や競争実態に合わせて段階
的な自由化範囲を拡大する国・地域など、様々な例がある。
そういった諸外国の事例を見ても、競争条件の整わない状況で、安易に自由化
範囲を拡大すると小口需要家に競争の弊害が生じる恐れあり。
中立機関・電力取引所の設置時期を考慮しながらの、段階的な小売自由化範
囲拡大の決定は妥当と言える。
発送電分離のような構造規制(アンバンドリング)の不採用
欧米諸国では、送電部門を他の事業活動からの独立性を高めるべく、様々な方
式が採用されている。(資本分離、法的分離、運用分離等) 自由化後もわが国
のような一貫体制を続ける国は少ない。
しかし、自由化範囲拡大後も、規制分野を抱えつつ地域の電力供給の太宗を担
うことが予想される既存電力会社の発送電分離のような構造規制(アンバンドリ
ング)を採用しなかったことは、安定供給の視点からも妥当な選択。
代わりに採用された行為規制(①情報遮断、②内部相互補助の禁止、③差別的取扱
いの禁止)の強化が決定したが、これらを如何に規制当局が対応するかが重要と
なる。
31
5.まとめと今後の展望
(1)残された課題と展望
中期的課題
電気事業法改正案の国会での可決を待って、詳細制度ワーキング・グ
ループでの検討
原子力の位置付けと市場との整合性(2004年末までに検討)
• 今回の枠組みに影響を及ぼすか否か
2007年より全面自由化の議論開始
• 全面自由化により、供給義務の概念が大きく変質することとなり、従来の
電気事業の枠組みの延長線上で捉えられない側面も多く、十分な検討が
必要である。
地球環境問題との関係
長期的課題
「全国単一市場化」に相応しいネットワーク・インフラの形成
供給信頼度の確保
32
5.まとめと今後の展望
(2)原子力の位置付けと市場との整合性
「バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電全体の収益性等を
分析・評価する場を立ち上げ、その結果を踏まえ、官民の役割分担の在り
方、既存の制度との整合性等を整理の上、平成16年末を目途に、経済的
措置等具体的な制度・措置の在り方について必要性を含め検討する」こと
となった。
我が国エネルギー政策において重要な役割を果たす原子力発電の着実な
推進と自由化の整合性
エネルギー・セキュリティー
地球環境問題
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5.まとめと今後の展望
(3)「全国単一市場化」とネットワーク・インフラ
「地域の安定供給」を重視して形成された現状のネットワーク・
インフラの設計思想と「全国単一市場化」は両立するか。
米国では大規模RTO化により、広域ネットワークの費用負担を個別負
担から一般負担へ。
欧州では各国の個別負担の側面が残るが、各国規制機関による「独
占事業たる送電会社」への投資計画の認可の場面で連系設備増強を
促す。
中立機関での合意形成が課題
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5.まとめと今後の展望
(2)欧米諸国との比較
EU諸国
米国
z 州により異なる(17州で全面自由化。北東部の
州が大半。)
z 米国全体として統一的な方向性はない。
市場開放度
z 平均75%(全面自由化:オーストリア、フィンランド、ド
イツ、ノルウェー、スウェーデン、イギリス)
2002年11月閣僚理事会では2004年7月まで
に家庭部門を除き自由化、2007年7月までに
全面自由化を行うことで合意。
送電部門アンバンド
リング状況
z FERCは広域的なRTO(地域送電機関)を導入
z 運用分離:フランス、ルクセンブルグ
することを求めている。市場の一体性をRTOの
z 法的分離:オーストリア、ベルギー、デンマーク、ドイツ、
地域区分上重視しているため、RTO内ではパン
イタリア、ポルトガル
ケーキ問題は解消。
z 所有分離:フィンランド、オランダ、スペイン、スウェーデン、
z 現在までにMidwest ISO、PJM ISOがRTOとし
ノルウェー、イギリス)
2002年11月閣僚理事会では、運用分離かつ
ての認可を得ている。
FERCの管轄の及ばないテキサス州では、より
法的分離を義務づける方向で合意。
緩い形態のISOを採用している(ERCOT ISO)。
z 2002年4月より同額の輸出料金に統一、中継
潮流補填のための基金創設。最終的には輸
出料金も撤廃の方向。
パンケーキ問題
電力
取引所
日本
z 2000年:特別高圧需要家(26%)
z 2004年:高圧500kW以上(40%)
z 2005年:高圧50kW以上(60%強)
z 「会計分離」、「情報遮断」、「差別
的取扱の禁止」の強化
z 振替料金の廃止により、需要地
毎の「郵便切手方式」に。
状況
z オランダ、イギリス、スペイン、ドイツ、フランス、北欧(ノル
ウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク)で設立。
z FERCは標準市場設計の中で一日前市場、リア
ルタイム市場の構築を求めている。
z 現在のところPJM ISO、New York ISO、ISO
New Englandで取引市場が設立されている。
価格設定
方式
z 大半の国で「国」を一つのエリアとする単一価
格方式を採用。
z FERCは価格設定及び混雑管理方式として、
z 一日前市場:単一価格(混雑前)
LMP(地点別限界価格)方式の導入を求めてい
z 先渡市場:ザラ場方式
る。
z 一日前市場で連系部分に混雑
z 現在のところPJM ISOとNew York ISOがLMP
が発生した場合、市場分割方式
方式を採用している。
で混雑解消。
テキサス州ERCOT ISOでは一日前電力市場を
設立しておらず、リアルタイム市場を基にしたゾー
ン間・ゾーン内混雑管理を実施。
混雑管理(連系)
z 大陸欧州:送電権オークションの採用例が増
加
z 北欧:市場分割方式
z 2005年に私設電力取引所設立
予定(一日前市場、先渡市場)
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