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『美術解剖学・人のかたちの学び』 東京国立博物館 2012年7月 黒田と
aizo・TATEBAYASHI 『美術解剖学・人のかたちの学び』 ●東京国立博物館:本館▶特別1室・2012年7月3日~7月29日 「人体を描く」ことはどのような意味を持つのでしょ う。皮膚の下にある構造と外との関係、動きやプロポ ーションなど、人のかたちとその意味を探求する学問 が<美術解剖学>です。 明治期に西洋画・彫刻とともに日本にもたらされた <芸用解剖学(美術解剖学)>は、岡倉天心に招かれ た森林太郎(鷗外)*1の、東京美術学校(現東京藝大) における講義が基礎となりました。東京美術学校にお ける美術解剖学教育は、ドイツに学んだ森鷗外以後、 フランスで絵画を学んだ久米桂一郎に引き継がれます。 *1:1917年(大正6年)12月 帝室博物館(国立東京博物 館)総長に就任。 今回の特集陳列では、ドイツ・フランスで出版され 久米・鷗外によって著された『芸用解剖学・骨論の部』 はよく知られています。また久米とともに学んだ黒田 清輝は、フランスで美術解剖学を受講し、 『美術解剖学・ 受講ノート』 『写生帖4号(解剖学講義)』を残してい ます。久米・黒田が「人体をどのように観察・表現し ●学術エッセイ・ 2012. 7▶(社)熊谷薬剤師会会報「くまやく会報」掲載 ―――――――――――― aizo・TATEBAYASHI た美術解剖学書を紹介します。当時最新の知見により、 aizo・TATEBAYASHI たのか」は、両者が同じモデル・同じポーズを描いた 素描、そして裸体、裸婦を描いた油画習作からうかが うことができます。体表の奥にある構造への学び、そ して人体の造形的な美しさに取り組んだ成果をご覧く ださい。と博物館の特集陳列アナウンス。相変わらず トウハク*2 の静けさの中に身をおいて陳列を鑑賞する と彼らがいかに苦心したかがハッキリと見て取れます。 同モデルに同ポーズを数日を置いて描いた黒田と久 米の素描が対照的に陳列されています。今までに見た *2:東京国立博物館を呼ぶ業界 用語だった。 こともない光景で息を呑みます。 その素描の紹介には以下の文が添えられていた。藝 用解剖學【雑誌「美術評論」連載 无名氏(森林太郎、 久米桂一郎)著】无名氏(むめいし)=久米桂一郎ペ ンネーム「藝用解剖學骨論之部」の雑誌「美術評論」 第5号(明治31年1月)~ 23号(明治33年1月)まで の15回連載。藝用解剖學がもとになっている。ここで の著者名は无名氏のペンネームが使われている。 《緒言 藝用解剖學の起源及び沿革》の結びに「技藝 家は、醫家と僭(せん)にここに熱衷(ねっちゅう) して親(みずか)ら刀(とう)を執(と)り屍(しか ばね)を剖(さば)き審(つまびらか)に筋骨連繋(き んこつれんけい)の状(じょう)を寫(うつ)せり」 aizo・TATEBAYASHI ●学術エッセイ・ 2012. 7▶(社)熊谷薬剤師会会報「くまやく会報」掲載 ―――――――――――― aizo・TATEBAYASHI として、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、 ラファエロの解剖図を紹介している。」 展示の素描が芸術の裏打ちになっている様は感動す る。久米と黒田はデッサン用の椅子の位置を変えた「素 描の稽古」をしつつ技量を高め合おうと切磋琢磨する 姿を目の当たりにするように思われる。 ●タッチパネルが登場した! ―――――― これは良い!!やるじゃないかトウハク! ピンチ *3 が出来るので微細なものが鮮明に見られ る!老眼にも優しい。 この機械には、大きな字でタッチパネルの右側に基 本動作方法が案内されている。 *3:ピンチイン/ピンチクロー ズ二本の指でドラッグ(ス ワイプ・フリック)画像の 拡大・縮小時に頻繁に使 う。 展示デジタル内容は、【渡仏中の“美術解剖学”受講 ノート】黒田清輝筆。実物からこれほど精緻なものの 隅々まで見られるのはデジタルが秀悦。 ●男性ヌード ――――――――――――― 日本では「女性の美しさを描く」ことがヌードデッ サンの主題とされることが、しばしばあるが、久米の 裸体の全身像素描は裸体(男性)74枚ある。当時フラ ンスのアカデミック造形教育では、男性ヌードが基本 に位置づけられていたことがわかる。 ●日本の医学の世界では ―――――――― 「解体新書」のリアリズムに驚倒した日本の医師たち は、医学は「精密科学」であるというドグマに陥(お ちい)ります。 医学は医療のためであり、「精密科学」は手段に過ぎ ●学術エッセイ・ 2012. 7▶(社)熊谷薬剤師会会報「くまやく会報」掲載 ―――――――――――― aizo・TATEBAYASHI aizo・TATEBAYASHI ません。科学の出発点は経験的な事実です。彼らの出 発点は真の科学的認識ではなく、ドグマだったわけで す。 志田信男 *4:コイゾー日記;埼玉県薬剤師会雑誌 2010 Vol. 36 No. 11 石黒忠悳【森鷗外の上官】などが関係しています。 英国の医師ウィリアム・ウィリスを解任し、ドイツの 医師を採用しました。その根拠は医療実績ではなく、 英国にも解剖学はあるけれども、やはりドイツの解剖 *4:東京薬科大学名誉教授、ノ ーベル文学賞受賞セフェリ ス詩集;志田翻訳等著作多 数。 学には敵わない、ということを言っています。つまり、 解剖学=医学という錯覚を起こしてしまい…志田信男; (社)新宿区医師会会誌第52巻。 〈建林 愛造〉 建林のホームページ http://koizou.net/ をリニュー アルしました。 現在進行中の埼玉県薬剤師会雑誌、拙コラム【コイゾー日 記】もパブリッシュしたものを掲載しました。 【ナッキーとコ イゾー】連載も、薬剤師ノートも全てアップ致しました。宜 しくお願い致します。 aizo・TATEBAYASHI ●学術エッセイ・ 2012. 7▶(社)熊谷薬剤師会会報「くまやく会報」掲載 ――――――――――――