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再点検と発見の実践テクニック
Ⅱ 再点検と発見の実践テクニック q ワークショップをしよう 1.ワークショップによる計画づくり 住民は、 「農業用水路で子供たちが遊べる場所があれば良いのに」、 「この道路、もうちょっと幅が広 かったら車のすれ違いが楽なのに」等、地域に対して様々な想いを持ちながら暮らしています。こう した想いを農山漁村の景観計画にどう反映させていったら良いのでしょうか。アメリカでは都市開発 や地域計画の策定への住民参加が早くから行われており、住民がワークショップを行って、自分達の 住むところをどうしていきたいかを考え、学習し、行動し、住民みんなの合意のもと、公園や道路、学 校、商店街などの整備が行われています。さぁ、私たちも、住民みんなで参加して、ワークショップを 活用して、地域の景観づくりを考えていきましょう。 2. 「ワークショップ」ってなに ワークショップは、直訳すれば「作業場」ですが、農山漁村づくりの場においては、参加者が自主的 に活動する学習会という意味で使われています。専門家の助言、指導等も得ながら住民自らが考え、 意見を述べ、自分たちのものとして計画づくりを進めていきます。ワークショップでは、住民が計画づ くりの中心となって参加し、自ら作成する計画としての認識も高まることから、農山漁村づくりの有効 な手法とされています。 3.ワークショップの原則 ワークショップでは、次の4 つのポイントを守りましょう。 みんなで楽しく||ワークショップは楽しい雰囲気で ワークショップは継続することが大切です。そのため、参加する人が緊張することなく、楽し く、また興味をもって参加する雰囲気づくりが大切です。ワークショップの目的、規模、参加者の 属性に応じた雰囲気づくりをしましょう。 みんなでびっくり||ワークショップは景観づくりのための新たな発見さがし 日頃何気なく通っている場所でも、みんなと一緒に別の視点で見ると、新しい魅力を発見する ことができます。また、大人と子供、男性と女性では、まったく違ったものの見方をしていることに も気づきます。今まで、当たり前だと思っていたことが、他の地域の人から見れば当たり前じゃな いことだってあります。お互いが、 「教え・教えられ」 、お宝発見をしていくことが必要です。 みんなで一緒に||ワークショップは新たなコミュニティづくり ワークショップは、子供からお年寄り、男性から女性まで、多くの人が参加して一つのテーマ について、みんなで検討することが出来ます。問題解決の合意形成を行うという単一的な目標 を達成することに終始せず、集まることが楽しいのだという雰囲気もつくっていくべきです。 みんなの想いを||地域の自由な意見交換の場 ワークショップでは特定の意見にかたよらず、みんな平等に積極的な提案をしましょう。そして、 176 意見が違っても、違った意見を謙虚に受け止め、相手の立場に立った認識も必要となります。 地域住民の意向を活かした地域づくりをすすめるために、3 回のワークショップを実施し、住民自身 による将来像の作成と、地域づくりへの主体的参加を啓発した事例です。この事例では、3 ∼ 4 カ月の 時間をかけて、一連のワークショップを開催しています。 ◇第1回ワークショップ(11月の半日) 昔と今を比べて/地域の景観や風習 (地域環境点検) 〔保全〕 ●暮らし方(親しみのある場所) ●魅力発見(身近な自然の再評価) 〔改善〕 ●改善点(整備箇所の把握) ●地域の問題点(危険箇所の把握) Ⅶ 住 民 参 加 に よ る 美 し い 農 山 漁 村 づ く り の 実 践 . w ワークショップの実践フロー 「 昔と今を比べ て 」 「地 域の景観や風習」という テーマで、カードに考え を書いてもらい、地図に 張り、グループ毎に発表 しました。 ◇第2回ワークショップ(12月半日) 地域のアイデアマップづくり (地域の将来像と役割分担の検討) 〔課題の整理〕 ●「いつ」「どこに」「なにが」必要 〔役割分担の検討〕 ●「だれが(地域・公共)」 「どのよ うに」整備・管理する 「いつ、どこに、何がほし い」をテーマに誰がやる の か の 役 割 分 担 別に色 違いのカードを作り、地 図に張り、発表しました。 ◇第3回ワークショップ(2月半日) 地区整備の優先順位の検討とキャッチフレーズの検討 (プログラムとテーマの検討) 〔優先順位の検討〕 ●課題の中から優先して対応すべき 事項を検討 〔キャッチフレーズ〕 ●キャッチフレーズを全員が提案 これまでの成果を基に、 整 備 の 優 先 順 位を 決 め るとともに、地域毎に、キ ャッチフレーズを考えま した。 「まちづくりの継続」と「計画の具体化」へ 177 e 環境認知マップづくり|地域環境知ってるつもり| 1.目的 環境認知マップづくりは、住民が、日頃、地域のどんなところにどんなイメージを持っているか、将 来的に、どんな場所をどんな風に使っていきたいのか等の地域に対する想いを知り、地図上にまとめ るためのワークショップです。 2.認知マップとは 人がどのように空間または空間の要素を把握しているのか、その知覚、認知のしくみを調べるため、 白紙上に地図を描画したり、提示された図上にマーキングなどをすることによって調査する方法を 「認知マップ調査」と言います。ケビン・リンチという人の調査に由来するもので、白紙上に各自の知っ ている空間要素を描画してもらう自由描画法、主要な空間要素の位置形状をあらかじめ記入した地図 を用意し、他の部分を埋めた描画を行う統制的描画法などがあります。ここでは、ワークショップ用に 改良した方法を紹介します。 3.作業方法 作業の方法は、先ず、4 ∼ 6 人で一班を構成し、一つのテーブルに着きます。全体としては 30 人、6 班程度が望ましいでしょう。集落の白地図(A4 判程度が適当)を 1 人に 4、5 枚程度(テーマの数) と8 色程度の色鉛筆一ケース、一つの班に少し大きめの集落の白地図(A3 判程度が適当) を 4 枚程度、更 に大きな集落の白地図(A0 判程度が適当)1 枚と太字の書けるマジック 8 色一式を配布します。進行 役のルールに従い、地図に色を塗ってもらいます。ラウンドは、例えば、3 回に分けます。 ① 個人マップの作成:1 回目は、進行役が、テーマを決めて、例えば、 「お家はどこですか」とか、 「あ なたの農地はどこにありますか」とか、 「通勤のコースはどこですか」などの簡単な質問をしていき ますので、指定した項目について、指定した色で、個人別で、個人用の地図に色を塗ります。これ を「個人マップ」と言います。 ② 納得マップの作成:2 回目は、進行役が、 「あなたがよく知っている神社やお寺はどこですか」、 「景 観が良いと思う場所はどこですか」等の班共通の質問をしていきますので、班全員で合意した部 分だけに色を塗ります。このとき、個人マップをお互いに見せ合い、全体を考慮しながら選択でき るようにします。これを、 「納得マップ」と言います。 ③ イメージマップの作成:3 回目は、進行役は、新たな項目として、 「景観を楽しむ散策コースを作って みましょう」等の地域づくりのテーマで質問をしますので、先ほどの納得マップを活用しながら、班 で話し合い、合意した部分に色を塗ります。これを「イメージマップ」と言います。全部できました ら、最後に、班毎に、作った地図の範囲をどうしてそう決めたのかについて発表してもらい、他の 組のものと比較してみましょう。 質問項目は、 「個人の認知」|「集団の認知」|「集団の想い」が段階的に地図上に表現されるように 設定します。個人的に景観が良いと思う場所を統合して、みんなで納得した景観の良い場所が選定 され、さらに、他の要素としての、歴史を感じる場所や交通の便の良い場所などが考慮され、最終的 な景観散策コースができあがっていきます。 178 4.作業のフロー . Ⅶ 住 民 参 加 に よ る 美 し い 農 山 漁 村 づ く り の 実 践 個人マップの作成 Aさん ●記憶を確認 4 ∼ 6 人 個人で認識している集 落環境の様子や資源の位 置等を、色分けして書き Fさん 込みます。間違いがあっ てもかまいません。質問 に対して知っていること d をすべて書き込んでいき ましょう。 納得マップの作成 ●意見を整理 個人で作った地図を持ち寄り、 自分はここに色を塗ったが、他の 人はどこに色を塗ったのかを見 比べながら、共通の位置、差異の ある位置を探し出していきます。 「昔、この小川に蛍がいたんだけ どなぁ」、 「俺ん家の裏の川もいなくなったよな」、 「どっちに色を塗 ろうか」、 「景観的に良いのはこの山からの見晴らしだろうなぁ」、 「そうだなぁ」、 「じゃぁここに色を塗ろう」というように話は進んで いきます。始めはぎこちなく進みますが、だんだんと慣れてきま d す。 自然環境を誇れる場所、景観が美しいと思う場所、 歴史・文化を感じる場所、農業の力を感じる場所など、 テーマは個人マップを活かせるように設定します。 イメージマップの作成 ●成果を発表 「映画のロケ地としてお薦めの場所は」の問いに、 「納得マップ」 の作成で、みんなで塗ったさまざまな魅力を持つ場所を活かして、 ロケ・ポイントとコースを選定しました。 「どんな映画を撮るのか、 どんな役者が出るのかによっても違うよな」と言いながら、作成し た「イメージマップ」をみんなの前で発表です。 「あの班は、A 神社 の裏を推薦してるよ、確かにあそこは良いなぁ。気づかなかった なぁ」と各住民がいろいろと頭の中で、想いをめぐらします。 関心を生む段階でのワークショップですから、現実から離れた テーマもおもしろいでしょう。もちろん、都市農村交流のための 拠点施設づくりや歴史の散歩道づくりなどもできます。 179 r 集落環境点検マップづくり 1.集落環境点検活動を進めるための留意点と準備 ①環境点検手法の 5W1H 環境点検に際して、What( 何を)/ When(いつ)/ Where(どこで)/ Who(誰が)/ Why(な ぜ)/ How(どのように)実施するのか、明確にしておかなければなりません。 ● What → 点検の対象が何であるかを明確にします。 環境といっても対象は極めて幅が広いので、 生産・生活、自然、文化、社会の様々な環境に仕分けをして、各環境毎に点検し、一 側面だけで捉えないように注意しましょう。 ● When → 点検の時期、時刻は評価の際の重要な要件となります。特に、農村空間は季節毎に使 われ方が異なることから、できれば季節毎の点検が望ましいでしょう。 ● Where →地域の特性、人の関わりを十分考慮した点検であることが重要です。地域のアイデン ティティを模索し、それを確認し得る区域の設定が不可欠となります。 ● Who → 地域住民は、男性もいれば女性もおり、子供もいれば大人も、農家もいれば非農家も います。属性の違いは点検の視点を異にします。したがって、 「誰が点検したか」は、 その後の展開に大きな影響を及ぼします。 ● Why → 住民は、身近な環境に慣れの傾向があるため、環境を客観的に評価できない場合が あります。また、個々の環境点検の目的は生活欲求に応じて多様です。それゆえ、地 域を構成する多くの人の情報が必要となります。 ● How → 点検は、やり方によっては、計画に有効に結びつかない場合もあります。どのようなや り方をするかが重要となります。 ②準備 a.ファシリテータの準備 ① 環境点検の企画(住民と行政担当者が協力して検討) 準備、点検作業、点検のまとめ、発表会の考え方と進め方をまとめます。住民側の世話役は 集落自治会の役員(数名)等にお願いするのが一般的です。 ② 環境点検の事前の現地踏査 ワークショップ企画者(行政担当者、地域リーダー=世話役、住民有志等)が事前の現地踏査 を行い、点検する領域、点検ルート、点検項目の選定、必要となる機器や携行品等を検討し ます。 ③ 住民への呼びかけ 広報係などを置いて、市町村や集落の広報誌への掲載、ポスター等の作成、有線放送等の 利用、新聞社等への連絡、各住民組識への要請をしましょう。 ④ 点検グループの分け方、グループごとのリーダーの選定、参加者名簿の作成 ⑤ 点検グループのリーダーとの事前打ち合わせ 環境・景観点検の目的、項目、グループ内の役割、地図への記入要領、点検結果のまとめ等 をしっかり理解してもらいます。 ⑥ 点検当日の準備の分担 会場設置、説明図、掲示板、拡声器等の機材、地図、弁当、飲み物等を準備します。 180 b.グループ編成の考え方 . Ⅶ 住 民 参 加 に よ る 美 し い 農 山 漁 村 づ く り の 実 践 ① グループ編成は自由ですが、あまり人数が多くなると、役割が不明確になる上、十分に意見 が反映されません。また、逆にあまり小人数だと問題意識が平板になって、魅力ある発見の チャンスまでも小さくなります。よって、4 ∼ 6 名ぐらいでチームを分けるのが適当です。 ② 年齢構成や性別などの属性分けも原則として自由です。子供グループ、婦人グループ、男性 グループ、お年寄りグループというように立場が共通であったり、普段からの顔見知りの人 たちでチームを作ると円滑な運営ができます。しかし、目的やテーマによっては、いろいろ 異なった立場の人たちでグループを再編して、お互い学び合い、景観や環境への理解を深 めることも有効です。 c.地図の選定 地図は、点検の対象地区の様子がよくわかり問題点等を記入しやすい縮尺のものを選びます。 また、点検グループの対象区域ごとに地図は異なります。地図を選定したら、図中に縮尺と方位 を記入しておきます。 準備できる地図 ①市町村管内図 (縮尺 1 / 2,500 ∼ 1 / 5,000 ) (縮小 1 / 10,000 ∼ 1 / 25,000) ②集落の地図 (等高線や地番が記入されているもの) ③住宅地図 (縮尺 1 / 1,000 ∼ 1 / 2,500) ④農業関連地図 (作目、基盤整備状況等がわかるもの) d.道具の準備(各グループ単位) 戸外で歩きながら使うことを念頭において選びます。ただし、多くの用具を持ち歩いて、 「運ぶ だけで精いっぱいで点検どころではなかった」ということのないように気をつけましょう。 ① 最低限必要なもの 点検用地図、画板(A3 判程度)、メモ用紙(はがき大=ポケットに入るものがよい)、消しゴム 付鉛筆(3 本程度)、色鉛筆 2 ∼ 3 色(油性カラーサインペンでも可)、カメラ (デジタルカメラ、 ポラロイドカメラがあるとよい。カメラが用意できない場合は、持たなくてもよい)、水筒、ご み袋等 ② 必要に応じて、 画用紙(スケッチ、平面図、断面図、構造図用)、ビデオ、磁石、巻尺、救急用具、弁当、天気 に合わせて傘、雨合羽(特に子供が参加する場合は必ず用意します)等 ③ 服装 歩きやすく滑らない安全な靴、行動しやすい服装(ズボン、長袖上衣等)、手袋、帽子、タオ ル等 181 2.活動プログラム 集落環境点検活動のプログラムに定番はなく、地域の状況や特性、センスによって大きく変わります。 しかし大きな流れとしては下記のフローのようなものとなります。活動を行うに当たって自分の地域に 対する考えと地域住民の立場とを明確に分けて、取り組んでいきましょう。決して、自分の思いこみを 押しつけることがないように心掛けましょう。 ステップ1 オリエンテーション ステップ2 環境点検の活動「ここの場所見て・聞いて」 ステップ3 環境点検マップの作成「こんなとこマップ」 関心 参加(発見) 理解 ステップ4 創出 ステップ5 行動 将来構想図の提案 「お宝を生かした魅力ある将来構想」 発表(プレゼンテーション) 地域づくりひとつひとつの挑戦へ 3.オリエンテーション(ステップ 1) ①挨拶 参加者はグループごとに席についてもらい、主催者とファシリテータが挨拶をします。 ②説明 ワークショップに当たっての行程の説明と注意事項を伝えます。 ③グループ名を考える 最初にグループ名を考えてもらいます。地域の雰囲気や景観を勘案した上でウィットに富んだ楽し いグループ名を付けて下さい。 ④役割分担の決定 作業は全員で行います。各自の役割分担をグループ内で相談して決めましょう。 182 係名 適正人数 役 割 進行 1人 グループ内の全体作業の流れと時間配分を考えながら、グループ員に指 示するとともに、グループ員の意見を積極的に引き出すように工夫しまし ょう。 記録 2人 各作業中に話された内容(コメントならびに感想等)についての記録。環 境点検時には点検ポイントの記録を行います。また、カード、シート作成と その整理を行います。 写真 1人 作業、あるいは点検ポイントの撮影を行います。 連絡 1人 道具等、カメラのチェック、発表シナリオの提出、日程確認をします。 4.環境点検の活動「ここの場所見て・聞いて」 (ステップ 2) . Ⅶ 住 民 参 加 に よ る 美 し い 農 山 漁 村 づ く り の 実 践 ①点検活動 何を点検するかは、地域の実情に応じて異なりますが、初めは、反対者の想定し得ないテーマを選 定する方が良いでしょう。利害関係の生じないものを対象にしながら、だんだんと利害の生じる対象 へと移していくと、円滑な点検活動となります。 ②点検するポイント 地域の子供達が生き生きと成長し、お年寄りの豊かな暮らしが実現し、青壮年層にとって魅力と活 力あふれる地域を創造していくためには、地域に埋もれている生産・生活を支える多面的な機能を 見つけだし、地域活性化の資源として利用していくことを考えていく必要があります。そこで、地域に 存在する、国土保全としての機能はもとより、景観、生態系、文化・歴史、教育等の多様な機能を呈す る資源を、再発見し、その現状について整理することが必要です。 但し、何でもかんでも資源を取り出してくるのではなく、整理する場合には、機能毎の整理や資源 と機能のつながりについて明確にしていく必要があります。 【景観点検テーマ】 景観:山並み、川、庭園、生け垣、大木、鎮守の森、石畳の歩道、家並みなど 生態:川に生息する魚類、ホタル、山菜など 情緒:よく散歩するところ、散歩したいところ、夕涼みするところ、季節を感じるところなど 歴史:歴史的建造物、文化財、道祖神、祠、祭りや昔ながらの遊び、言い伝え、伝統工芸など 衛生:汚水の排水不良、水はけの悪いところ、ゴミの不法投棄など 安全:交通事故の多いところ、見通しの悪いところ、子供が遊ぶと危険なところなど 利便:交通手段、駐車場など 自然景観系 生産施設系 ・山あいの風景の美しさ ・耕作放棄等による荒れ地の有無 ・里山や共有林の管理の状況 ・用水路、道路の雑草、ゴミ等の管理状況 ・公共工事等と周辺景観との調和 ・自然を生かした遊び場、憩いの場等の有無 ・大型農業生産施設と周囲景観との調和 生活施設系、社会施設系 生活や行事等景観系 ・宅地と周囲の景観の調和 ・社寺、名所旧跡、文化財等の管理状況 ・集落内における廃屋等の有無 ・伝承行事等の場所の管理状況 ・使用済みのビニール等の放置状況 ・沿道及び空き地等の草花や植栽の状況 ・広告、看板等と周辺景観との調和 183 ③点検方法 グループ毎に、カメラと地図をもって、各自の役割分担により、いっしょに歩きながら多様な視点で 環境点検を行います。進行係は時間までに集合箇所に戻れるようにして下さい。一般的には、 「点検 ルート計画」を作ってもらいますが、グループ毎に点検ルートを指定してもかまいません。 ④写真撮影 グループ毎に地域内を歩き、 「点検マップ作成」は「グループ員の意見や気が付いた点や特徴」を確 認しながら記録係が地図に書き込みます。 また、写真撮影者は写真チェックシートに撮影した写真の題名とグループの意見をまとめて、撮影 の理由を書きます。写真チェックシートの番号と地図上の写真番号は同じにして下さい。 (カメラを準 備できない場合は点検内容の書き込みのみ) 大人も子供も、都市住民も一緒になって地域のお宝探し ● 集会所に集まり、集落環境点検の方法の説明 をします。ここで紹介している点検手法の場 合は、作業が多いので、室内でしっかりと説 明した方が良いが、点検が中心なら、 外でコ ースの説明をする程度でも良いでしょう。 ● グループを構成せず、集団で見て回る場合も あります。また、子供だけの場合は、各グルー プに、指導員が付いた方が良いでしょう。 ● 写真を並べ、点検チェックシートに整理します。 また、地図上に置いてみて、みんなで、気づ いたことについて意見を出し合いましょう。 ★★写真チェックシート★★ 印象 No. 写 真 撮影対象(タイトル) 撮影理由 1 変なPR看板 農村風景とミスマッチ ○ 2 人家脇の用水路 用水に家庭雑排水が 混入している ○ 3 あぜ道の蛇イチゴ 普段通らないあぜ道に 珍しい草花が生えている 4 水田横にある古木 古い塚を 思わせる?景色 5 住宅街を流れる 排水路 空き缶等ゴミが 落ちている 6 散歩道に点在する 普段散歩している人の マナーを呼びかける マナーに疑問があった 看板 7 人通りが多そうで 円通寺に通じる参道 きれいに手入れが 行き届いていた 8 寺(高乾院)跡の 竹林 地区の人も記憶にある 有名な寺の跡地だった 写真チェックシートの例 184 要 要 要 要 保 改 活 調 全 善 用 査 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 5.環境点検マップの作成「こんなとこマップ」 (ステップ 3) . Ⅶ 住 民 参 加 に よ る 美 し い 農 山 漁 村 づ く り の 実 践 ①資源マップの作成 テーブルに地域の地図を広げ、現在地を確認するとともに、主な道路、河川と、点検活動でチェック してきた様々な地域資源の位置を確認し、資源を色分けして図化しましょう。 【資源の色分け事例】 ¡河川等水環境関連 …青色 ¡公共・準公共施設関連 ……紫色 ¡山林・樹園地関連 …緑色 ¡ほ場(田畑)等生産関連 ……黄色 ¡道路等交通関連 ……茶色 ¡歴史・文化関連 ……………赤色 ②写真の整理 ポラロイドカメラやデジタルカメラの場合は、撮影してきた写真を、写真チェックシートとあわせ、写 真撮影地点の確認をします。 ③点検の整理方法を決定 点検項目を整理せず、単に、気づいたことをバラバラに環境点検マップに書き入れると、後で、マッ プを見るときに大変わかりにくいものとなります。点検のポイントをいくつかに分けて、色分けや図上 での配置により分かりやすく構成しましょう。 ④マップ作成にとりかかろう 視点を整理したら、構成にとりかかりましょう。一気に図面に書き入れると、後で、貼れないものが 出てきたり、写真のスペースが無くなったりしますので、ポストイットカードや写真を使って、構成して いきましょう。 点検マップの事例 子供たちが、テーマ毎に写真を整理し て、地図に置いています。また、道路、 水路などの施設について、確認した位 置の色塗りをしています。はじめは、ま ごまごしてしまいますが、だんだん楽し くなってきます。 この点検マップは最も簡単なものです。写真の位置と、環境の状態や意見 を書き入れただけです。これだけでも、問題点は整理されます。 ⑤表題作成 表題を付けましょう。表題を見ただけで、何を言おうとしているのかが分かるようにしましょう。字 体・色の工夫も必要です。ワープロも良いですが、手作りの個性を醸し出す工夫が必要です。 185 6.将来構想図の提案「お宝を生かした魅力ある将来構想」 (ステップ 4) ①提案シートづくり 作成した「こんなとこマップ」を参考にしながら、 「お宝を生かした魅力ある将来構想」を作成する ため、 「提案シートづくり」を行います。 提案シートは、グループ毎に個性的に作成する場合もありますが、ファシリテータが様式を決め、そ れに従って作成する場合もあります。提案シートの例を以下に示します。 【提案の視点】 これからの地域を展望し、子供達から高齢者まで地域住民のみならず、地域外住民にとっても 魅力のある環境とするため、今後どのような取り組みや期待が必要かを、個人提案をはじめ、グル ープ内で相談しながら「提案カード」を作成します。 【提案の事例】 ¡水と緑の環境づくりの提案 ¡教育環境づくりの提案 ¡生産・生活環境の改善の提案 ¡景観の保全の提案 ¡歴史や文化の保全の提案 ¡都市農村交流の提案 提案シートの作成例 点検マップ図の位置 提案シート3 提案シート2 カード3 カード12 提案シート1 カード1 水と緑の環境づくりに関する提案 カード1 カード3 カード12 カード1 カー ド54 カー ド3 カード54 カード54 カー ド69 カー ド12 カード1 カード3 カード30 カード12 カード69 カード69 ※点検マップとの位置が対応していること ●ポストイットにアイデアを書いて、テーマ毎に色分けして整理しました。 186 Ⅶ 住 民 参 加 に よ る 美 し い 農 山 漁 村 づ く り の 実 践 . ②地域づくり運営方針案作成の必要性 点検マップ、将来構想図ができあがったとしても、 「こうなれば良いね」と言うだけでは絵に描いた 餅に過ぎません。よく、ワークショップに参加した人から、 「絵は綺麗に描けたけど、まぁ夢だしなぁ」 という意見を聞きます。ワークショップは、みんなで考えることが大切だというものの、やはり、活動 につなげて、一つでも実現してみたくなります。具体的な事業等が予定される場合は、それに活かし ていけば良いのですが、そうでない場合でも、自分達で出来ること、出来ないこと、すぐやれることと やれないこと等を整理し、夢の現実に向けて、目標とそのやり方を作っておけばよいでしょう。 ③時間・役割シナリオ 地域づくり運営方針をまとめるに当たっては、グループごとに検討した提案シートを、今度は運営面 から整理していきます。ここでの整理のポイントは、どんな提案をどんな時期に実現していくかという 点と、誰がそれを実施するのかという点です。つまり時間的なシナリオと役割分担のシナリオを作っ ていく必要があります。 シナリオの考え方 住民主導 住民行政連携 行政主導 短期的 中期的 長期的 住民が主体となり、すぐ 住民が主体となり、数年 住民が主体となるが、具 に具体化すべき提案内容 先に具体化することが望 体化はもっと先でも良い ましい提案内容 という提案内容 住民が主体となり、行政 住民が主体となり、行政 住民が行政のソフト支援 のソフト支援のもと、す のソフト支援のもとに数 を受け実現するが、具体 ぐに具体化すべき提案内 年先に具体化することが 化はもっと先でも良いと 容 望ましい提案内容 いう提案内容 住民の要望をもとに行政 住民の要望をもとに行政 住民の要望をもとに行政 が主導で、すぐに具体化 が主導で数年先に具体化 が主導で実現するが、時 することが望ましい提案 期はもっと先でよいとい 内容 う提案内容 すべき提案内容 シナリオシートの作成 ××提案 ○○提案 住民主導 住民行政連携 行政主導 □□提案 短期的 ポストイットを張る 中期的 長期的 ※ 整理の軸は、何を縦軸・横軸にとっ ても良い 187 ④将来構想図の作成にとりかかろう 提案シートを図上に表現する作業を行います。点検マップと比較しながら、点検マップで指摘した ポイントを将来的にどうするのかをまとめていきましょう。点検マップは点検マップ、将来構想は将来 構想という形にならないように工夫することが必要です。 【表題の作成】 提案シートの中から、中心となるアイデアやアイデア間の繋がりをストーリーにして、地域の将来 像のコンセプトを考え、キャッチフレーズを考えます。一言で地域の将来が見えてくるような工夫を しましょう。 【グループ名】 グループ名をマップに書き入れましょう。点検マップや将来構想図は、グループの合意の上でで きあがった成果品です。遠慮せずに全員の名前を書いておきましょう。 【ビジュアル化】 提案を図上に挿絵で表現しましょう。現況の点検ではイメージがすぐ分かるのですが、新しいも のが作られたり、改善された後の状況は、言葉で示すよりイメージ化したほうが、多くの人に理解 されやすいものとなります。 【発表用の工夫があっても良い】 将来構想図は、最終的には地域住民全員に見てもらえるように、公民館等に張り出しておくこと になりますが、ライブで行うプレゼンテーションとして、はがしたり、引っ張ったりしながら、将来 構想図をプレゼンテーションの中で作っていくような方法もあります。 将来構想マップの事例 ● 上のマップは、左が「点検マップ」、右が将来構想 マップです。これらは、かなり時間をかけて作った ものです。挿絵や現況の写真を張って、これを今 後どのようにしたいかを提案シートを参考に書き 込みます。 ● 左のマップのように、テーマを一つにしぼって、 「ひ やりマップ」 (例:安全点検) を作り安全施設整備の ための指針にしてもかまいません。また、無理に 絵を描く必要はありません。提案がわかるようにし ておけば良いだけのことです。 188 7.プレゼンテーション(ステップ 5) . Ⅶ 住 民 参 加 に よ る 美 し い 農 山 漁 村 づ く り の 実 践 ①発表する ワークショップの締めくくりとして、発表会をしましょう。みんなで作り上げたものをより多くの人た ちに知ってもらうことが一番大切です。また、完成した成果を地域の人が集まる場所に掲示して見て もらったり、機会があれば、是非、ワークショップに参加できなかった人たちに集まってもらい、発表 会をするのも良いでしょう。 発表会の準備や進め方については、次のことを参考に進めてみてください。 ②発表シナリオの作成 各グループ毎に「環境点検マップ」、 「将来構想図」を中心に全体作業の成果を発表します。発表時 間は「1 グループ 15 分程度」が良いと思われます。 また、15 分程度と限られた時間の中なので、せっかく良い成果であっても発表内容がわかりにくい と、グループの想いが伝わりません。時間があれば、発表用のシナリオを作成すると良いでしょう。 発表は楽しく 住民は、発表することに慣れていませんので、はじめは、躊躇される場合もありますが、ファシリテータは、うまく誘導し ましょう。ワークショップの感想だけでもかまいませんから必ず、発表会はやりましょう。やっているうちにだんだんと楽 しくなってくるものです。 ③プレゼンテーションの練習 シナリオができれば、グループで読み合わせをしましょう。また、シナリオはあっても、読むのでは なく自分の言葉ではっきりと言いましょう。 シナリオはあくまでも言いたいポイントを時間内で明確化するために作るものです。グループで何 度か練習して、台本なしで言えるようになれば最高です。 ④発表 発表では、参加者みんなにわかるよう元気に熱い想いが伝わるよう発表しましょう。 ⑤感想 通常であれば、アンケートなどで感想を記述してもらいますが、時間があれば 1 グループに 20 分程 度の持ち時間を与えて、一人一人に一言ずつ発表してもらう方法も良いでしょう。 189 t 生産・生活点検チェックリスト 景観に対する関心を呼び起こすためには、先ず、自分たちの生産・生活に関わる環境の現状に対 する点検を机上で実施する必要があります。以下のようなチェック表を作り、住民みんなでそれぞれ の項目について点検、診断をしてみましょう。これらの結果を持ち寄って、共通的な項目や考え方に ついて、みんなで話し合ってみましょう。ここで例としてあげたチェック項目は、地域毎、テーマ毎に 作り替えましょう。都市農村交流や教育・福祉などさまざまなテーマ、地域ならではのチェック項目が 挙げられるはずです。この段階では、地域リーダーや景観に関心のある有志を中心とした取り組みか ら始めて良いでしょう。 景 対象 の 区 分 問題 領域 近 景 区分 居 住 空 間 観 問題 遠 景 あ な り し ブロック塀が増え、周辺景観との連続性を欠く 寺社林・屋敷林が減り、緑が減っている ゴミ集積場所にゴミが散乱している 廃屋が増える 歩道が狭く、花壇などを設置できない 茅葺き屋根の農家住宅が減っている 沿道の広告看板類が目立つ 建物の色彩に落ちつきがない 沿道・川の中にゴミが散乱 高層の建物が建ち、景観が不揃い 水路の水質が悪く、水がよどんでいる 公共建築物の形態が画一的 路上駐車が増加している 電柱・電線・鉄塔が目立つ 農村公園内に緑が少ない 道路が直線的で単調な景観である 神社・寺の管理ができず荒廃している レストラン・娯楽施設が無秩序に乱立 文化財・歴史的な遺跡が荒廃している 工場等の建物が単調で樹木がない 庭が雑然としている 生 産 空 間 ほ場内にゴミの無断投棄が多い ハウスなどが雑然と配置されている 畜舎周辺が汚れている 耕作放棄地が増え荒れている 農道、水路が安全ではない 農地が虫食い的に転用されている 排水不良で水がたまる 農地の中に違法建築物が建っている 農業用資機材が散在 用排水路のコンクリ−ト面が目立つ 家畜糞尿処理が不適切である ため池の管理が悪く草が生い茂っている カントリーエレベーターなど大規模な農業施設が目立つ 大規模な法面がむき出しになっている 水利遺構等の保存の状態が悪い 地 域 全 体 ゴミの不法投棄が多く、目立つ 農地と宅地が混在している 廃車の山がある 山林の乱伐が目立つ 土木工事に伴う土砂の投棄が目立つ 山林の管理が低下し山が荒れている 伝統芸能や行事が伝承されていない 河川のコンクリ−ト護岸が目立つ 民具、伝統工芸の保存状態が悪い 新しい住宅団地が集落の佇まいを損なっている 道路の法面・支柱が水平面を分断している 190 シンボルとなる景観がない あ な り し Ⅶ 住 民 参 加 に よ る 美 し い 農 山 漁 村 づ く り の 実 践 . y 環境家計簿の取り組み 環境家計簿は、盛岡通らによって 1980 年に「新しい家計簿」と名付けられ提案されました。基本的 な考え方は、人間が生活を営む上で自他の依存関係が環境の質に影響する「環境依存」の関係を、生 活を見直すことによって理解し、問題点を抽出しようとする活動です。景観を形成している地域環境 の有りさまに対して、関心を広げていくためには、環境そのものに問題を投げかけるのではなく、環 境をその状態にしているのは自らの生活そのものだと考え、原因を見いだしていくことが、身近な環 境への取り組みから始める上に重要なこととなります。 『身近な環境づくり』 |盛岡通(日本評論社)より 帰宅途中の夜道の街灯がいつも明るいのはそれを管理する人がいるからであり、なじみの露 店のきゅうりを食べられるのは無農薬、有機肥料でていねいに育てる人がいるからだ。また排 泄物を下水道へ流すだけで気持ち良くすごせるのは、下水処理場で水をきれいにしている人が いるからだ。このようにあらゆる分野で、別の空間での他人の営みに依存することによって、私 たちの生活は成りたっている。この依存関係があいまいになる部分で、いわゆる環境問題が発 生していることが多い。知らずしらずのうちに、ある地域にのみ偏った負担を一方的にかける こともある。いまは市場経済を通して金銭だけでその依存の代償が支払われることが多い。そ の結果、依存先に関心をもつといった初歩的レベルから、負担をかけている人の働きや被害を 肩がわりしてみる極端なレベルまでの、意識や行動の裏にある本質的なかかわりを私たちは忘 れがちである。……「新しい家計簿=環境家計簿」をつけることによって、このことをじっくりと 考えてみよう。身勝手な依存と負担とをキャッチボールのように投げあっている状態から脱し て、互いに自らの責任で過剰な負担を与えることをなくし、また自ら治める範囲をふやしてみよ う。そのことは、必ず、家と外を含むトータルな生活環境の向上につながるはずである。 環境家計簿のチェックシート 環境への働きかけ 身近な生 活 環 日 境で、悪くなっ たこと、気持よく なった点をふと 付 感じたこと その 原 因は何 だろう。 誰の行動が原 因だろう 同じような自分 の行 動で環 境 に良い、あるい は悪 い 影 響を 与えたことはな いか 身近な環境をも っと快適にする ためにはどんな ことをしたら良 いだろう 集 計 備 考 ︵ + ︶ ︵ | ︶ の 得 点 マイナス プラス 自分 の 行 動で 環 境に悪い影 響を与えている かもしれないと 思ったこと 気持良い環境 にするために心 掛けたことや自 分の行動 環境からの受けとり 環 境 索 引 番 号 マイナス プラス 身近な生 活 環 境が悪くなって 快 適さが 損わ れたと感じたこ と 日常 生 活で環 境の快適さをと くに意識して感 じたこと ︵ + ︶ ︵ | ︶ の 得 点 備 考 ︵ 索 引 ︶ 191 u ファシリテータの役割と心得 ファシリテータは、ワークショップにおいて、単なる「まとめ役」ではありません。ファシリテータは、 参加者みんなが共同してものごとを判断し、合意をして、決定を下していくための手助けをする役割 を担っています。 活動が滞っている参加者がいたら、活動への参画を促したり、全体のプログラムの進行と調整を図 ったりします。決して、リーダーシップをとるのではなく、情報を分け合う役割であり、マニュアルに沿 った推進ではなく、柔軟に、プロセスの必要に即した対応をしていきます。 中野民夫の『ファシリテーション革命』 (岩波書店)では、ファシリテータの心得が、とても楽しく、わ かりやすく整理されていますので、ここに紹介しておきます。 ファシリテータ 8 か条 フ :ふらっと現れふらっと去る。オイラは脇役、縁の下の力持ち。 参加者が主体の学びの場。よい体験が残っても、ファシリテータのことは忘れられるくらいが いい。ちょっと寂しいけど。 ァ :在りようそのものが見られてる。その場その時にしっかりと在れ! ファシリテータは「技術」よりも、結局その存在感が場に影響を与えている。突発的な状 況にも深呼吸して Be Here Now! シ :事前の準備は入念に。人事を尽くして、天命を待て! 事前にはいろいろシミュレーションをして幾通りもの万全の準備を。しかし始まったらそ れにこだわらず、流れにまかせよう。 リ :リラックスしているとみんなも安心。でも時にはキリリとメリハリを! ファシリテータがくつろいでると皆にも伝染。でも「促進役」でもあるので、時には巻い たりプッシュしたりも必要。 テ :丁寧に耳を傾けよく聞こう。一人ひとりの多様さを! 「誰もがその場に貢献できる何かを持っている (anyone can contribute) という信念傾聴 を。その姿勢は皆に伝わる。 ィ :一番大事な「場」を読む力。常に個と全体に気配りを! これがなかなか難しい。一人では困難なので、複数のファシリテータやスタッフチーム で分担して全体をカバーしよう。 タ :タイムキープはしっかりと。無理なく自然に、かつ容赦なく! 終わりはたいてい遅れがち。だが後の約束がある人もいる。ルーズにならずに時間 管理は大切。それもあせらず自然に。 ア :遊び心、ユーモア、そして無条件の愛と信頼を忘れずに! なにより楽しくなくっては。そして、人やグループやプロセスへの無条件の深∼い 「愛」と「信頼」こそがワークショップの基本。 192 参照: 『ファシリテーション革命』 (岩波アクティブ新書) Ⅶ 住 民 参 加 に よ る 美 し い 農 山 漁 村 づ く り の 実 践 . i ワークショップの七つ道具 ●ポストイット ポストイットはいくつかの色の種類があるので、意見をテーマ毎に分類するのにたいへん便利です。 ワークショップでは、マーカーペン等で太めの文字で書き込み、発表時には、字が読めるようにしまし ょう。ポストイットは使い慣れた人には便利なものですが、子供や高齢者で、初めての場合は、使いに くい人もいると思いますので、少し書き方の説明をする方が良い場合もあります。 ●マーカーペン・色鉛筆 ワークショップでは、話し合いの内容を記録したり、地図や図面に色を塗ったり、意見の分類のた め、ビジュアルを工夫して、色分けしたりすることがあります。その際の必需品がマーカーペンや色鉛 筆です。特に、マーカーペンは発表時に字がよく見えるように、太字が書けるものが最適で、色鉛筆 も 8 色∼ 12 色程度のセットを、グループの作業テーブル毎に各 1 セット用意しましょう。また、テーブ ルを汚さないためにも、テーブルには、クロスをしておいた方が良いでしょう。 ●模造紙 模造紙は、話し合いの内容を書きとめたり、ポストイットを貼る台紙になったり、グループ作業の発 表用紙になったりと、いろいろな利用価値があります。罫線入りの模造紙ならば、表をつくったり平行 に文字を書いたりするにも便利です。ワークショップには必ず数十枚用意しましょう。また、発表時に 地図や模造紙を張るためのベニヤ板や黒板なども準備しておきましょう。 ●名札 ワークショップでは、日頃よく知っている住民同士で行う場合もありますが、初めての人とグループ を組む場合もありますから、そんな場合は、参加者には名札をつけてもらいましょう。また、ファシリ テータも、名前を覚えることは大変なので、名札があれば、発表会等の時に名前を紹介でき、たいへ ん親近感がわきます。また、グループ作業では、よくグループ名を付けますが、グループ名の立て札も 机に置ける工夫をしましょう。結束力も高まりますし、他のグループとの競争心も生まれてきます。 ●参加者名簿 ワークショップでは、当日に参加者に住所、氏名、所属などを記入してもらうか、事前に参加者名簿 作っておき、当日配布できるように用意しましょう。この名簿は、次回のワークショップのお誘いを発送 したり、ワークショップの結果をまとめたニュースを郵送したり、計画の進行内容についてお知らせす るのに役立ちます。 ●その他のよく使われる文房具 鉛筆あるいはサインペンは参加人数分用意しておきたいものです。またテープ、のり、はさみは、切 り貼りをともなう作業に必要です。画板は、屋外の敷地見学を行う際にメモ用紙等を各自持ち運ぶの に便利です。 出典: 『参加のデザイン道具箱』平成 5 年 8月 財団法人世田谷区都市整備公社まちづくりセンター 193 oTN 法第一ステップの活用 1.TN 法とは TN 法は、住民参加型の地域づくり活動において、地域住民の意思決定を支援するため、様々な問 題解決のための具体的な手法を体系化した道具箱であり、東北農業試験場農村計画部において構築 されました。道具箱に組み込まれている個々の手法はいずれも、 「ある課題に対する意見を項目別に 整理して抽出し、項目や項目間の関係に対する定量的評価に基づいて処理を行い、主観的な意識を 数値や図表で示す」という共通の特徴を持っています。そして、それらの手法は、 「短時間で多くの意 見の収集と集約を行う手法:第一ステップ」、 「意識を行列的な数値構造として把握する手法:第二ス テップ」、 「代替案の順位づけを行う手法:第三ステップ」の 3 つのグループに大きく分類されています。 特に、第一ステップ(カード発想法)は、利用しやすく、地域づくりの現場でかなり普及しているので、 ここでは、それを実践事例に則して紹介します。 2.カード発想法(TN 法第 1 ステップ) 事前準備 ●チームをつくる 実際に意見を出して、それを自ら評価する役割をもつ「発想チーム」、道具・時間管理や情報 の提供など、発想チームをサポートする役割をもった「サポートチーム」を結成し、サポート チームの代表としてプロセス全体を進行させるコーディネータを一人おきます。 (地域づくり では、発想チーム=住民代表、サポートチーム=行政職員、コーディネータ=専門家という形 が一般的です) ●テーマの検討・設定 発想チームにとってできるだけ身近で関心が深い問題をテーマに取り上げます。 ●外部情報の収集・整理 サポートチームは、発想チームに参考として提供する情報をあらかじめ収集・整理しておき ます。 ワークの実施 ●イントロダクション サポートチームは、発想チームに、ワークの趣旨と手順、約束事等について説明します。 ●テーマの提示・参考情報の提供 サポートチームは、発想チームに対して意見を抽出するテーマを提示し、意見を出すにあた って参考となる外部情報を提供します。 (テーマの伝え方はできるだけ具体的でわかりやす いものにします) ●カードによる意見の抽出 発想チームの各メンバーは、テーマに沿って、意見やアイデアを一人一人個別にカードに記 入します。テーマにもよりますが、時間としては 15 分程度が良いでしょう。 (コーディネータは、 意見が要素的かつ具体的な情報として記述されるように注意を促すとともに、意見やアイデ アがうまく出ない場合は、どのようにしたら出やすくなるのか、 「情報抽出の視点」を提示する などしてアドバイスを行います) 194 Ⅶ 住 民 参 加 に よ る 美 し い 農 山 漁 村 づ く り の 実 践 . ●意見の集約 サポートチームは、カードを回収し、コーディネータがグルーピングを行いながら、その一つ 一つについてコメントを加え、抽出された情報を素材にアドバイスをしていきます。 高齢化問題が深刻 道路条件が悪い 歩道がなく危険なところがある。 バスが運行されていない。 幹線道路に未舗装部がある。 高齢化率が40%を超えている。 一人暮らしが多い。 農業生産基盤が未整備 私たちの集落が 抱える問題 ほ場整備が遅れている。 水利施設が老朽化している。 自然環境の悪化 水路の水質が悪い 蛍が減ってきた。 山菜が採れる場所が少なくなった。 松食い虫の被害大きい。 農地荒廃と担い手不足 耕作放棄地が増えた。 後継者がいない。 収益性の高い作目が導入されていない。 ●抽出された意見の評価 サポートチームは、複数の評価基準を持った評価票を、その場で状況に応じて作成し、抽出 された一つ一つの情報に対する 5 段階評価を発想チームに行ってもらい、結果を回収します。 ( ) アイデア評価票 抽出したアイデアを3つの評価基準ごとに評価した点数をつけてください(番号に○をつける) 名前( ) 性別(男・女) 年令( 歳) 居住地( 県 市・町・村) 職業(農業・自治体職員・役場職員・普及所職員・その他 … ) 価値基準1 (効果の大きさ) 抽出したアイデア項目 価値基準2 (実行のしやすさ) 価値基準3 (住民参加の可能性) そう思 そう そう思 そう そう思 そう わない 思う わない 思う わない 思う 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 以下、省略 得られた結果のフィードバック ●評価結果の集計・分析 サポートチームは、評価基準別及び評価者の属性別に結果を集計し、発想チームの意識を 定量化します。 ●集計・分析結果の提示 サポートチームは、表や図の形で結果を発想チームに示し、抽出された意見の特性、意識の 多様性のあり方(どこが共通していてどこが違っているか)等に関するコメントを行い、テー マに則した話し合いの展開を促します。 注)ここで紹介した方法は、実践事例に則して改良した手法であり、市販の TN 法の解説書とは異なりますので、ご 留意ください。 195