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援助が受取国のマクロ経済に及ぼす短期的な影響

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援助が受取国のマクロ経済に及ぼす短期的な影響
I
論文
はじめに
援助は受取国の 総生産 や国際収支にどのよう
な 影響 を与えているのだろうか。これまでの 研究
は必ずしも一致した結論に達していない。それらは
援助が受取国のマクロ経済に
及 ぼす短期的な影響1)
受取国にとっての 援助 の 規模 をあまり考慮せず、
また分析期間もそれほど問題にしていなかった
(多
くの研究は4 年をひとかたまりにしたパネル分析で
ある)。そして援助 が 受取国の 供給能力を高めて
成長に寄与するという、供給面からの影響を想定
していた。
本稿では、影響がより強く検出されると推測さ
れる小国(援助が受取国のGDPの20% 以上と援
助の変化の絶対値がGDPの10% 以上)を対象に、
需要面からの短期的な影響を、基本的なケインズ
・
谷口裕亮
モデルに援助を組み込 んだもので分析 する。それ
Yasuaki Tanig uchi
は援助は長期的には経済 の 供給面から、短期的
松山大学経済学部 / 准教授
には需要面から受取国の生産に影響を与えるとい
う枠組みに基づくものである。
本稿の結論は次の通り。理論的には、援助は短
期的に総生産を増加させる可能性があり、貿易収
支を悪化させるが、経常収支 がどうなるのかはわ
からない。この理論的な帰結に沿って単純な実証
分析を行ったところ、援助の増加は同じ年 の名目
GDPを若干増加させるが、これまでのいくつかの
研究結果とは異なり、実質GDPは増加させない。
また、貿易収支を若干悪化させる。援助と輸入の
規模から援助の限界輸入性向を推計した結果、1
の援助は0.5の大きさの輸入に対応していることが
わかる。なお、本稿の実証分析は計量的に因果関
係を明らかにするものではない。
続くⅡでは、援助と経済成長に関するこれまで
の 研究を概観 する。ただし、それは包括的なもの
(2006)に依っているが、
1)本稿は、基本的な枠組みを谷口
その後発表されたいくつかの研究成果でその枠組みを
補強し、新しいデータで分析し直し、全面的に
書き直したものである。
066
彦根論叢
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でない。その多くが供給面からのアプローチであっ
ず、民主主義と市場経済を広めようとしている米国
たことや、必ずしも短期的な影響を分析したもので
が 援助を行うのは矛盾しているという。そして先進
はなかったこと、援助とその 変化の 規模 が小さい
国は援助を行うよりも自国の市場を開放し、貿易
ケースも含 む 分析 であったことなどを念頭に置い
の自由化を 進 めることが 大切 だと主張している。
ている。Ⅲでは、受取国に入った援助資金はどのよ
彼らの文章からは途上国と援助の実際を感じるこ
うな経路をたどりうるのか、そしてその国の総生産
とができないし、検証されていないこともあって批
に需要面からどのように影響しうるのかということ
判され無視されることもあるようだが、正論で傾聴
などを説明する。Ⅳでは、Ⅲの理論的な帰結を簡
に値するものである。Bhagwati
(2010)も彼らと同
単な実証分析 で検証する。最後にⅤでまとめと考
じような立場 に立っているようだ。彼 はその 書評
察を行う。
エッセイで、紹介する書物の著者(Moyo)の言葉
を借りて、援助に関する一部の楽観的な流れを牽
II
乱立 する頑健 な研究 の 数々
制している。
援助が受取国の経済成長に及ぼす影響を概説
経済的な側面のみを考慮した場合、援助 が 受
したものでは、Clemens et al.
(2004)の先行研究
取国の経済発展に貢献 することが明らかになって
を整理した部分 が評価されているようだが、私は
初めて供与国の納税者 は援助に理解を示し支持
Perkins et al.(2006) の 第14 章 3)やRoodman
するはずである。Roodman
(2007)によると、援助
(2007)
、Tarp
(2010)
、Temple
(2010)が、後発者
が受取国のマクロ経済に及ぼす影響に関する“科
の強みを生かしていると思う。包括的な概説はそれ
2)
学的な”研究は1960 年代に始まり 、これまでに
らに任せることにして、以下では、短期的には需要面
100本を超えている(p.4)。その後も毎月のように
からの分析 が重要であることなどを念頭において、
新しい論文が生産されているが、その中でおそらく
本稿に関係するいくつかの研究を解説する。
最もよく合意されているのは、援助の効果について
ODAが 受取国 のマクロ経済 に及 ぼす 影響 に
必ずしも合意されていないということであろう(直
関する研究として、古くはハロッド=ドーマー・モデ
近のものでもBerg and Zanna 2010)。
ルに基 づいた2ギャップ・モデルがあり、主にその
コリアー(2008)は、援助 の 効果 に楽観的 な
流れでこれまでに数多くの研究が蓄積されてきた。
サックス
(Sachs)を左派とし、これまでの援助に批
その多くはODAが国内投資(の上限)を引き上げ、
判的・悲観的なイースタリー
(Easterly)を右派とし
資本ストックを増加させたり、人的資本を高めた
て、いずれも極論であると批判している(311−312
りすること(内生的成長 モデル)で 経済成長を生
頁)。しかし、おそらくイースタリーよりも援助に批
み出すという、基本的に受取国の供給能力を拡大
判的なのは、古くなるがFriedman
(1958)やBauer
させることを想定していた。Cassen and associates
(1991)であろう。このうち前者によると、援助は受
(1994)は、援助が 投資を20%(ΔODA/GDPで
取国の政府を強化し、その民主化を阻害する誘因
は3∼5%に相当)増加させたなら、経済成長率は
を持ち、計画経済的な性格を持 つ。それにも拘ら
0.6%∼1.5%高まるだろうという単純な推計を示し
(1958)は
2)従って、後述する1950 年代のFriedman
(2006)は教科書であり、
3)Perkins et al.
科学的な研究でないということだろう。
本稿の引用としては、その第14章を修正して要約した
ハンドブックであるRadelet
(2008)の方が
ふさわしいかもしれないが、前者に勢いとまとまりがある。
援助が受取国のマクロ経済に及ぼす短期的な影響
谷口裕亮
067
たが
(p.20−21)、それもこの考えに基づいている。
話はODA 以外にも広がるが、Kaminsky et al.
その後も、
「私たちの研究こそ頑健である」と数多
(2004)によると、外国からの資本流入は多くの途
くの研究が発表されてきた。ある研究は、良い政策
上国において国内景気と正循環的であり、現地政
を行っている国に対する、ないし国でのみ援助が有
府がその変動を緩和するような金融政策を採用し
効であったと主張した。それは複数の有力な経済
ていないこともあり、
「降れば必ず土砂降り」になっ
学者から頑健性に疑問が出されていたのにも拘らず
ているという。
発表され、展望論文の類(例えばRoodman 2007
援助が 受取国のマクロ経済に及ぼす影響につ
やTemple 2010)に「出版バイアス(publication
いて、需要面からの影響を想定していると考えられ
bias)」という項目を追加することになった。
るものにWerker et al.
(2009)がある。彼らによると、
Radelet et al.
(2005)は、援助を緊急援助や食
糧援助などの人道的な援助、インフラ整備など効
ある国 から他 の国 への資金 の移転 は、受取国
果 が早く出る援助、社会開発など効果 が遅く出る
の政府が利用できる資金 の量を増加させる。それ
援助の3 種類に分類し、受取国の経済に及ぼす影
が支出されるなら、援助の流入は経済を刺激し、
4)
響が異なることに着目して分析した 。人道援助の
総需要 の外側へのシフトとなる。他の条件が同じ
場合、旱魃や災害などの第三の要因が原因となり、
なら、それ は 産出( 成長)と物価 を 引き上 げる
それによって経済 が悪化し、同時に援助が増加す
(p.230)。
るのだから、援助と経済水準は負の関係になるは
ずである。効果 が早く出る援助に絞って分析を行
そして、その 効果 を2度 の石油危機 における一部
うと、4 年をひとかたまりにしたパネル分析 でも頑
のイスラム諸国について 計測し、援助とマクロ経
健な結果 が検出されたという。なお、その 効果 が
済 の間に頑健な結果を検出している。ただし彼ら
早く出る援助の場合でも、供給能力を増大させる
は 乗数効果 に言及していない。結果的にGDP へ
という供給面からの影響を想定している。
の 影響 が 発生しなかったからであろう。彼らの 推
多くのアフリカ諸国に関し、ODAとGDPの間
計では、国民勘定の恒等式
に強い正循環性(procyclicality)を見出したのが
Y≡C+G+I+X−M
Pallage and Robe(2001)である。正循環性の原
において、1単位の援助の増加が最終的に家計消
因として、彼らは乗数効果の考えを最初に否定して
費Cに及 ぼす 影響 は+0.8、政府消費Gに及 ぼす
いる。その理由は、援助依存度(ODA/GDP)と
影響は+0.1( ただし有意ではない)、総資本形成I
正循環性との間の関係が必ずしも強くなく
(彼らの
に及 ぼす 影響 は+0.3、純輸出 X−Mに及 ぼす 影
Figure 2)、しかも援助依存度 の高 い(30% 以上
響 は−1.3であった。単純に計算すると生産Yに及
の)3カ国を分析 から外すと有意な結果 が 得られ
ぼす影響は
なかったからだという。しかし逆に言えば、援助依
0.8+0.1+0.3−1.3=0.1
存度 の高 い国を入 れると有意な結果 が 得られる
となる。つまり、総需要 の 構成要因から計算した
のだ。
場合、援助が生産に及ぼす影響は+0.1となる。こ
(2005)はClemens et al.
(2004)などに
4)Radelet et al.
基づいている。なお、援助を一括りにせず
効果の異なるものに分けて分析すべきだとの彼らの主張は、
分類は異なるがCassen and associates
(1994)の
第2 章で既に強調されている
(p.31など)
。
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彦根論叢
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れでは有意な結果 は期待できないだろう(直接測
款」と「償還」は金融勘定のその他投資にそれぞ
定した 影響 は+0.2である)。結果として乗数効果
れ記入される。国際収支の恒等式を
は発生しなかったことになる。
経常収支+資本・金融収支+ 外貨準備増減
なお、1の援助が1.3もの大きさの純輸入の増加
+誤差脱漏≡0
をもたらすという彼らの結果は、理論上あり得ない
と書き、援助に着目してこの式を分解すると、
ことではないが、大きすぎるのではないだろうか。
[贈与−利子支払]を除く経常収支+[贈与
彼 らが 引用 している 他 の 研究 の 結果 は0.16 ∼
−利子支払]
0.23であり、谷口(2006)の推計では0.3∼ 0.8の
+[債務帳消し+借款−償還]を除く資本・
範囲にほぼ 収まっている。食糧援助などはそのま
金融収支+[債務帳消し+ 借款−償還]
ま輸入にも算入されるので、その限界輸入性向は
+ 外貨準備増減
公共投資などによるものよりも大きくなるのはわか
+誤差脱漏=0
るが(従って彼らが引用した研究の 値は小さすぎ
る)、受け取った援助がそれ以上
(1.4)の輸入を発
5)
生させるというのは大きすぎる 。
となる。援助、つまり
[贈与−利子支払]+[債務帳消し+借款
−償還]
が増加するとき、上の恒等式が成り立つためには、
III
本稿 の理論的 な枠組 み
他 の項目が減少しなければならない。
「[贈与−利
子支払]を除く経常収支」が減少する例としては輸
援助された資金 がすべて国内で支出されるわ
入の増加が、
「[債務帳消し+ 借款−償還]を除く資
けではない。外貨準備を積み 増すことに使われた
本・金融収支」や誤差脱漏が減少する例としては
り、それを手にした独裁者が外国の銀行に逃避さ
資本逃避 があげられる。外貨準備増減( フロー)
せたりすることがある。また、商品援助などの場合
が減少して負になると、外貨準備( ストック)は増
には最初から財 サービスがやってくる。ここでは、
加に転じる。
まず援助資金の流れをやや詳しく説明し、その後
で本稿のモデルを説明する。
2:受取国 に 入った 援助 の 流 れ
ここで、途上国に流入する援助資金の流れを見
1:国際収支表 における援助6)
てみよう(図表1)。援助は形式的には外貨 で供与
国際収支表では援助はどのように扱われている
され、受取国の政府部門や民間部門に入る7)
。政
のだろうか。援助の純流入を分解すると、
府 はその 一部 を中央銀行に外貨準備として 積み
債務帳消しを除く贈与+ 債務帳消し+ 借款
増 すことがある(①)。受取国政府 は援助流入額
−利子支払−償還
の変動に対処しなければならず、支出を平準化さ
となる。このうち「債務帳消しを除く贈与」
(以下で
せるために外貨準備を緩衝的に用いるのだ( その
は単に「贈与」と書く)と「利子支払」は経常勘定
典型例として、Hussain et al. 2009はガーナをあ
の経常移転に、
「債務帳消し」は資本勘定に、
「借
げている)。
5)そのように私が考えるもうひとつの理由として、
(2009)や
6)この部分は、Hussain et al.
資本逃避の推計値が大きいこともあげられる。
IMF(1993)などを参考にした。
彼らの計算では、GDP比で1%の援助流入が
0.35%もの資本逃避を発生させるという。
つまり、1の援助増加が0.35の資本逃避を促し、
さらに1.4 の輸入を発生させるというのだ。
援助が受取国のマクロ経済に及ぼす短期的な影響
(2009)などは援助がすべて
7)Hussain et al.
政府部門に入ると想定して分析を行っているが、
実際には民間部門にも入る。
なお、本稿では援助がどこに入るかは重要でない。
谷口裕亮
069
政府 はまた、援助の 外貨を民間銀行で現地通
現地通貨に対 する需要が相対的に大きくなること
貨 に換 えて公務員への 給料支払いなどに充 てる
から、この国の通貨 は増価する。その結果、実質
(②)。民間が受け取った場合も、援助を民間銀行
為替レートが上昇してオランダ 病 が 発生する可能
で現地通貨に換えて国内で支出する(②)。ただし、
性がある。ただし、本稿ではこれを長期の影響と
公務員も民間人もそのすべてを国内財に支出する
考えて扱っていない。
のではなく、一部を国外財(輸入品)にも支出する。
公務員や民間人などが 受け取った現地通貨 の
このとき、国外財を扱う輸入業者 は受け取った現
すべてを国外財に支出する場合、国内 の 貨幣量
地通貨を再び外貨に換えて輸入支払を行う(③)。
は変わらず、援助は短期的に受取国の生産に影響
通常は「最初の両替(外貨→現地通貨)」が「後の
を及 ぼさない。ただし長期的には、資本財の輸入
両替
(現地通貨→外貨)」よりも大きいため、2度の
や技術 の輸入などが 生産能力を高めて供給面か
両替を通して現地通貨
(貨幣量)は増加する。
ら成長に貢献するだろう。
なお、現地通貨 の 形で支出する割合 が 特に大
食糧援助や緊急医療援助などの商品援助の場
きければ、インフレが 発生する恐れがある。また、
合には、はじめから輸入の項にも記入されている
供与国
援 助
援助受取国
中央銀行
政
府
や
民
間
④先進国の
銀行
(資本逃避)
①外貨準備の増加
民間銀行
「最初の両替」
②国内支出
「後の両替」
③輸 入
輸入先
注) は外貨、 は現地通貨の流れを表す。中央銀行と民間銀行を分けてあるが、そうする意味はあ
まりない。なお、この図では援助の供与国と先進国の銀行(資本逃避先)、輸入先は別のところに描かれ
ているが、これは単に作図上の都合であり、同じ国であることも少なくない。
出所)筆者作成。
図表1:援助資金の流れ
8)ところが実際には記入されていないことも
少なくないようである
(World Bank 2009の
Table 6-15の
“About the data”による)
。
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彦根論叢
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(③)8)
。これは上述した、援助が国内の経済主体
教科書モデルと異なるのは、政府支出がODA
に現地通貨 で支払 われてその一部 が輸入に支出
の関数であることと、輸入の説明変数としてGDP
される、というものとは性格が異なる。国内の経済
の 他にODAが入っていることである。a ODAは、
主体 の行動が輸入に影響を与えないからだ。ただ
ODAのうち中央銀行に積み増しされる分(①)と
し、後の分析では両者を一緒に扱う。
資本逃避する分(④)を除いた部分で、食糧援助
流入した援助の一部は、何らかの経路を通って
のように輸入に直接算入されるものは含んでいる。
先進国の銀行などに資本逃避することがある(④)。 図表1では②と③ の部分である。
アフリカなどの独裁者 が、受け取った援助資金の
a ODAは受取国 の政府部門に入ると仮定して
一部を先進国にある個人の秘密口座に振り込 ん
いるので、受取国では何らかの 形でaODAと同じ
でいたことはよく知られている。
だけ政府支出を増加させるはずである。なお、本
以上をまとめると、流入した援助は①外貨準備
稿ではa ODAがどれくらい国内需要を増加させる
として中央銀行に積み増しされる、②現地通貨に
のかが問題なのであって、政府部門に入らなくても
換えられて国内の財 サービスに支出される、③直
よい。また、これまでの 多くのモデルとは 異 なり、
接的・間接的に輸入支払に用いられる、④海外に
ODAが 投資されるか消費されるかということも問
逃避する、のいずれかとなる。このうち、①と③と
題ではない。国内需要をCとIとGに分けたことには、
④ は短期的には受取国 のマクロ経済 に影響 を及
消費関数を組み込むという目的以外に意味はない。
ぼさない。本稿では特に②と③ の部分に注目する。
重要なのは、aODAのどれほどが輸入に用いら
れるのかということである。この段落では、輸入関
3:本稿 の 理論的な枠組 み 9)
数にaODAが入っている理由について説明する10)
。
ここでは、マクロ経済学 の教科書にある最も単
ここで、中間財 Z
(サービスを含む。以下同じ)を含
純なケインズ・モデルを用い、その政府部門
(政府
む国内総産出Q(=Y+Z)を想定する。Qは中間財
投資を含 む)にODAを組み込 んだモデルを説明
を含む国内財に対する支出に等しくなるため、
する。
d
Q=C d+Id+G 0 d+
(a ODA)
+X+Z d
Y ≡ C + I + G + X− M Y:GDP、C:民間消費
が成り立つ。ここではODAの部分を説明するため、
C = C 0 + cY
I :民間投資
Gのみ上述の政府支出関数を用いている。右肩の
I= I
G:政府支出
dは「国内財に対する」を意味している。例えば、C d
(消費+ 投資)
は家計 の国内最終財に対 する支出を、Z dは生産
G = G 0 + a ODA
X=X
a:ODAのうち支出さ
主体 の国内中間財に対 する支出を表している。X
れる割合
は国内 で生産された 最終財と中間財に対 する海
X:財サービス輸出
外 の需要、つまり輸出である。この式を、
M:財サービス輸入
C=C d+Cf
M = M0+mY
f:a ODAの 限界輸入
+ f a ODA
性向
(右肩のfは「国外財に対する」を意味する)などで
整理すると、
(2006)に国際収支についての
9)この部分は、谷口
(2003)第 6 章の説明に
10)この段落は、マンキュー
考察を加えたものである。
援助と中間財を加えたものである。
援助が受取国のマクロ経済に及ぼす短期的な影響
谷口裕亮
071
Y=C+I+G0+aODA+X−{Cf +I f +G 0f +
f
f
(a ODA)+Z }
が得られる。右辺の最後の項
f
f
f
f
(1−f)a
ΔY= ・ΔODA ・・・・・
(2)
1−c+m が得られる。ΔODAの係数をODA 乗数と呼ぶこ
f
C +I +G 0 +
(a ODA)+Z
は輸入である(中間財の輸入 Z fも含まれている)。
f
(a ODA)は、a ODAのうち国外財に対して用いら
れた部分であり、その割合をf、つまり
f
とにする。a ODAのうち輸入に用いられる割合fが
0の時、つまりa ODAのすべてが国内財の購入に
用いられる場合には、この乗数はマクロ経済学の
教科書に載っている値と同じになり、fが1の時、つ
f≡
(a ODA)
(
/ a ODA)
まりそのすべてが輸入に用いられるような場合に
と定義すると、上のモデルにある輸入関数
は乗数は0となる。
M=M 0 +mY+faODA ・・・・・
(1)
次に、ODAの増加が国際収支に及ぼす影響を
が 得られる。輸入関数にYが 含まれている理由も
検討しよう。財 サービス収支 TBの 変化 は上と同
同様に説明できる。
様に計算すればよい。その結果、
次に輸出関数について説明する。ODAが輸出
に及 ぼす影響には正に働くものと負に働くものが
(m+
(1−c)f)a
ΔTB=− ・ΔODA・・・・・
(3)
1−c+m
あり、どちらが強いかを理論的に特定できなかっ
という式 が 得られる。よほどのことがない限りΔ
たため、輸出はとりあえず外生変数とした。供与国
ODAの 係数 は負となり、援助 の 増加によって財
の景気 が良いときにODAは増加 する傾向 がある
サービス収支は悪化する。経常収支CAの変化は、
が、供与国は貿易相手国でもあり、その景気が良
これに[贈与−利子支払]の変化分を加えたものな
くなると受取国の輸出も増加するはずである
(ただ
ので、
し、これは[ODA→受取国 の 輸出増加]という因
ΔCA=ΔTB+Δ[贈与−利子支払]
果関係ではなく、[供与国の好景気(第三の要因)
となる。こちらは正になるか 負になるか、つまり援
→受取国 の 輸出増加]である)。他方、ODAの 流
助 の 増加によって経常収支 が黒字化 するのか 赤
入は受取国の通貨(実質為替レート)を増価させ
字化 するのかわからない。贈与 の割合 が大きくな
るため、輸出を抑制 する可能性 がある( オランダ
れば黒字化するだろう。
病)。なお、これは本稿 の枠組みでは長期的な影
次に、援助の増加による生産と財サービス収支、
響と考えている。Werker et al.
(2009)の文献調査
経常収支の 変化を 教科書風 にグラフを用いて 説
では輸出は減少 するとしているが(p. 234)、彼ら
明しよう11)
。図表 2において、横軸にGDPを、縦軸
自身の 分析 は有意な結果となっていない。この点
に 投資貯蓄 ギャップS−Iと財 サービス 収支 TB 、
は本稿でも検証する。
経常収支CAをとる。当初 は援助 が 行 われておら
上のモデルよりODAの 変化と生産 の 変化との
ず、財 サービス収支と経常収支 が 等しく、しかも
関係を計算すると、
収支 が 均衡していると仮定する。このときの 均衡
点は、直線 S−(傾
I きは1−c)と直線TB=CA
(同じ
く−m)の交点となり、図では↓で示されている。
(2007)の17.4 節を
11)この部分はCaves et al.
参考にしたものだが、彼らの説明とは異なる。
072
彦根論叢
2011 spring / No.387
この 国 がODAの 大きさの 援助 を 受 け取ると、
直線 S−IはaODA だけ下方にシフトし、点線(S−
IV
実証分析 の方法と結果
I)’となる。他方、財 サービス収支を表す直線は、
ここで、Ⅲで示した援助と諸変数との関係 のう
直線TB=CAからfaODA だけ下方 にシフトした
ち、輸入関数
((1)式)と、援助の変化とODAの変
点線TB’となり、新しい均衡点は点線(S−I)’と
化との関係((2)式)、援助の変化と財サービス収
点線TB’の交点となる(図では↑で示されている)。 支の変化の関係((3)式)などについて、最近の
均衡GDPは増加し、財 サービス収支は赤字化す
データを用いて実証的に分析 する。ただし、モデ
ることがわかる。経常収支は、点線TB’から上方
ルは単純な線形の回帰分析であり、また計量的に
に[贈与−利子支払]の 大 きさだけ 乖離した 点線
因果関係を明らかにするものではない。
CA’となる。図では経常収支は正になって(黒字
単純なモデルで暫定的な分析にとどめたのは、
化して)いるが、これは先に述べたように特定でき
より複雑 な処理 や 多くの 説明変数 による実証分
ない。贈与の部分 が小さければ、点線 CA’はそれ
析は、正しい結果を導き出していないのではない
ほど上に離れないからである。
かと私は考えているからである。実際、操作変数を
用いた因果関係 の検出に関する研究の頑健性に
ついては疑問が出されている12)
。
S−I, TB, CA
直線 S−I
X+M0
X+M0−faODA
点線(S−I)’
↓
GDP
点線 CA’
↓
−
(C0+G0+I)
直線 TB=CA
点線 TB’
−
(C0+G0+I)
−aODA
出所)Caves, et al. (2007) の Figure 17.3 を参考に筆者作成。
図表2:援助が生産と国際収支に及ぼす影響
12)The Economist(2009), p.67による。
同記事に関係する論文のいくつかが
Journal of Economic Literature 48(June 2010)に
収められているが、私の能力不足もあり、まだ読めていない。
援助と成長に関する実証分析が、計量経済学の方法に
影響を与えようとしているようだ。
援助が受取国のマクロ経済に及ぼす短期的な影響
谷口裕亮
073
これまでの 研究 では、GDP比 でみてわずか 数
も多く
(そのような国のデータはパネルでは消えて
パーセント(1% 以下のデータが 含まれるものもあ
しまう)、プールの方が望ましいと判断した。なお、
るだろう)のODAによる影響 を検出するために、
(2)式や(3)式そのままならデータの大きさが各国
複雑なモデルを用い、さまざまなテストを行ってい
で大きく異なるのでプールにはできないが、後で説
る。しかし、そもそも数パーセントのODAによる
明するように、前年や当年のGDPで割るので問題
影響を検出すること自体に無理があるのではない
ないだろう。ただし、援助の限界輸入性向を求 め
だろうか。本 研究 ではODAの 規 模 については
る式(後の(4)式)などに関し、輸入依存度などの
GDPの20% 以上、ODAの 変化 についてはGDP
大きさは援助に関係なく国によって大きく異なるの
の10% 以上と−10% 以下のものについて分析 す
ではないか、との批判には甘んじるしかない。
13)
る 。
2:若干 の 重要な問題点
1:データについて
(1)因果関係と援助の外生性
ODAのデータはDACのホームページのものを
援助と成長に関するこれまでの研究で何度も繰
用 いた。
“All Donors, Total ”による、
“Part I −
り返されてきたのが、それらの間に単純な相関が
Developing Countries”に対する、
“ODA: Total
ある
(ない)からといって、援助が成長を促した
(阻
Net Current Prices(USD)”から“Grants: Debt
害した)とは必ずしも言えないということである。あ
Forgiveness”を引いたもの(Disbursements)であ
る国の経済状態が悪い(成長率が低い)から援助
る。債務帳消しは純ODAに含まれるが、それは単
を行うのなら、援助と成長率の間には負の相関が
に帳簿上のことなので引いてある。GDPと輸出、
検出されるはずだし
(逆方向の因果関係)、ある国
輸入のデータはWorld Bank(2009)のものを用
に災害が 発生し、それが成長率を低下させ、同時
い た。GDP はGDP(current US$)、 輸 出 は
に援助を増加させる場合 にも負の 相関 が 検出さ
Exports of goods and services(current US$、及
れるであろう(第三の要因による影響)。これらの
び % of GDP)、 輸 入 は Imports of goods and
場合に援助が成長を阻害したというわけではない。
services(同)である。
本稿 の 分析 では、ある年 の 援助の 増加と同じ
分析対象期間は1974 年から2008年までとした。 年の成長率を用いることで、逆方向の因果関係の
長くとれば観測数は増えるが、時代によるパラメー
可能性を排除している。受取国 の 経済状態 が 供
タの変化を無視することになる。また、古いデータ
与国側に分 かるのは数年後 のことだからである。
には正確でないものが含まれる可能性が高くなる。
ただし、第三の要因による影響 の方は排除できて
データはパネルではなく単純 なプールにした。
いない。これは 援助総額に占める緊急援助 の 割
その理由は、GDPやGDPの変化の規模が大きい
合は低い(OECD 2008, p.17)ということで無視
国・年のデータのみを用いたため、歯抜けのパネ
する。
ルになっているからである。もちろんそれでも分析
なお、本稿の分析では、いずれの式でも説明変
は行えるが、データを1年のみしか 使わなかった国
数と誤差項の間に相関は検出されなかった。
13)本稿の分析対象となる国・年を明記すべきだろうが、
彼らの国・期間のうち、本稿で使用したのは
膨大なものとなるため省略する。
2000年のモザンビークのみである。
ところで、Hussain et al.
(2009)は、
援助の急激な増加が観察された2000−04 年頃の
アフリカ5カ国を分析対象としているが、
それでもその変化の規模は本稿の基準では小さい。
074
彦根論叢
2011 spring / No.387
(2)援助による限界生産の逓減について
は−0.33 で有意な値となった(観測数 374 、t 値−
援助が増えても限界生産力が逓減するため、直
4.04)。上述したように、Werker et al.(2009)の
線的な関係を推計 するだけでは不十分 だというこ
文献調査では援助によって輸出が減少するとなっ
とも繰り返し強調されている(Perkins et al. 2006
ていたが、ここでもそれを支持 する結果 が 得られ
など)。そしてこれを解決するため、説明変数に援
た。ただし、これは本稿の枠組みでは説明できない。
助 の2 乗 が 追加されている。しかし、本稿 の 場合
これらの結果を単純に引き算すると、援助によ
は援助 の 変化を用いており、これを2 乗 するのは
る純輸入 の 増加 は0.83となる。この 値 はWerker
間違 いである。また、一般 に援助と援助 の2 乗 の
et al.(2009)の結果(1.3)よりも小さいが、彼らの
間の相関は高く、多重共線性が発生する恐れがあ
文献調査に見られる値
(0.2前後)よりは大きい。
14)
ることも指摘されている 。また、そもそも本稿 は
次に、ODAの変化と経済成長率 の関係を見て
援助と供給側から見た生産との関係を分析してい
みよう。
(2)式の両辺をY−1で割ると、
るのではない。
ΔY (1−f)a ΔODA
= ・ ・・・・・
(5)
Y−1
1−c+m Y−1
3:分析結果
という式が得られる。左辺は経済成長率、右辺の
まず、援助の規模と輸入の規模との関係を調べ
変数 はODAの前年 からの 変化分を前年 のGDP
るため、
(1)式の両辺をYで割り、
で割ったものである。この値の絶対値が10% 以上
M/Y=m 0 +fa
(ODA/Y) ・・・・・
( 4)
(−10% 以下も含む)の国・年のサンプルを用いて
という 式( 誤 差項 は 省略。以下同 じ )にして、
回帰分析を行った( ただし100% 以上となった1組
ODA/Yの大きさが20%以上の国・年のサンプル
を除いた)。
について回帰分析を行った( ただし100% 以上と
本稿の基本的な考えは、ODAは短期的には実
なった2 組を除 いた)。その結果、係数 faは0.50で
質成長率を引き上げ、インフレ率には影響を与え
有意な値となった(観測数 374 、t 値4.13)。この分
ないというものである。左辺を実質成長率(“GDP
析 から因果関係については何も言えないが、Ⅲの
(constant 2000 US$)”の変化率)にした場合の
枠組みに従ってこれを説明すると、GDPで測って1
推計結果は、係数
(ODA 乗数の部分)が−0.03で
の大きさのODAのうち、いくらかは外貨準備の増
有意ではない
(観測数186 、t 値−0.89)。左辺を名
加や資本逃避となり、また国内でも支出されるが、
目成長率
(“GDP(current US$)”の変化率)にし
0.50の大きさが直接的・間接的に輸入に支出され
て計算すると、係数 は0.11で弱いながらも有意な
ることになる。
結果 が得られた
(観測数 200、t 値1.73)。左辺をイ
次に、援助 の 規模と輸出 の 規模との関係 を推
ンフレ率(名目成長率−実質成長率で計算)にし
計した。Ⅲのモデルでは輸出は外生変数としたが、 て計算してみると、係数は0.10で有意とならなかっ
ここでとりあえず
た
(観測数184 、t 値1.53)。
X/Y=x 0 +x
(ODA/Y)
最後に、ODAの変化と財 サービス収支の変化
という式で上と同様に分析した。その結果、xの値
との関係を見てみよう(
。3)式の両辺をY−1で割ると、
(2007)のp.17。実験的にランダムな数値を
14)Roodman
両方用いても差し支えないだろう。
2
用いてxとx の間の相関を計算してみると、
2
R 2の値はしばしば0.9を上回る
(一般に、1/
(1−R )の
値が10を超えると多重共線性を疑うべきとされる)
。
2
本稿の
(4)式のODA/Yと
(ODA/Y)の間の
R 2の値は0.66なので、左辺が生産に関する変数ならば
援助が受取国のマクロ経済に及ぼす短期的な影響
谷口裕亮
075
ΔTB (m+
(1−c)f )a ΔODA
=− ・ ・・・・
(6)
Y−1 1−c+m Y−1
ことであった。また実証的には、できるだけ多くの
国を分析対象としたこれまでの 研究とは異 なり、
という式が得られる。これも同様に推計 すると、右
受取国にとって援助の規模が大きいケースのみを
辺の係数は−0.09と小さいながらも有意な結果 が
取り上げたということであった。
得られた(観測数153、t 値−2.31)。これはⅢの理
理論的には、援助された外貨 の資金 は外国に
論的な説明と整合的である。
漏れたり(資本逃避)中央銀行に貯め込まれたり
以上の結果 からaやf の 値を求めることはできな
(外貨準備の増加)するが、現地通貨に換えられ
いが(
、4)式のfa が0.50であり(
、5)式の係数が0.1
国内 で 支出されたものの 一部 が 乗数効果 により
程度であることなどから推計 すると、aは0.5に近く、 GDPを引き上げる可能性 があることを示した。ま
fは1に近 い 値となる。ODAの 約半分 が 外国に逃
た、直接的・間接的な輸入の増加により財 サービ
避したり外貨準備の積み 増しに使われ(a が0.5に
ス収支は赤字化することもわかった。
近い)、その他のかなりの部分も輸入に用いられて
この結果を単純な実証分析で検証すると、援助
いる
(fが1に近い)。
の変化の規模が大きいのにも拘らず、乗数効果に
これを図表 2で 説明 すると次のようになる。a が
よるものと期待された短期的な実質GDPの 増加
小さいため直線 S−Iの下方へのシフトは小さく、ま
は検出されなかった。ただし、名目GDPは少しだ
たf が1に近いため直線TBの下方シフトは直線 S−
が増加した
(1の援助増加に対して0.11)。また、効
Iの下方シフトと同程度の大きさとなる。その結果、
果 は 小さいものの財 サービス収支の 赤字化も検
新たな均衡点↑での財サービス収支は若干マイナ
出された(1の 援助増加に対して−0.09)。この 結
スとなるものの、GDPの増加は検出できるほど大
果 は、援助された資金 のうち国内で支出するとこ
きなものにはならなかった(f=1のとき、TBの下方
ろまで到達する割合が大きくはないことと、援助の
シフトはS−Iの 下方シフトと同 じ 大 きさになり、
うち輸入に費やされる部分 が大きい(援助の限界
GDPは変化しない)。
輸入性向は0.50)ことで説明できた。
IV
まとめと考察
2:考察と問題点
援助資金の流入が教科書的な乗数効果を生み
出すという考えは、誰でも思いつきそうなものだが、
1:まとめ
本稿では、受取国にとって巨額の援助の流入が、 私 が読 んだものの中からはほとんど見出すことが
短期的にその国の経済にどのような影響を与える
できなかった。なぜだろうか。Temple(2010)に、
のかを 理論的・実証的 に分析した。ポイントは、
「初期の文献 は、援助をケインズのマクロ経済学
理論的には援助 が資本形成を通して受取国の 供
風 に、単純な水圧式 の 体系への資金 の注入と捉
給能力を高めるというこれまでの枠組みではなく、
える傾向 があった(p.4420、原文 は 本稿末尾 の
需要を拡大することで需要側から短期的にその国
abstractに)」と書かれている。この一文は、かつて
のGDPを高めるという考えに基 づいているという
乗数効果の考えが 提出されたが否定されたとも読
076
彦根論叢
2011 spring / No.387
めるが、その前後の文脈から考えると、どうやら
「単
べてゆく必要があるだろう。しかし、それは国別の
純な水圧式の体系」とはハロッド=ドーマー・モデ
分析に委ねるしかない。
15)
ルや2ギャップ・モデルのことのようである 。また、
Pallage and Robe(2001)は短期的な正の関係を
謝辞
検出したが乗数効果 の可能性を(必ずしも十分な
小田野先生には、大学に生きる人間として守ら
説明なしに)否定した。逆に、Ⅱに引用文を掲げた
なければならないことなどを教えていただきました。
Werker et al.(2009)は、検出はできなかったが
ありがとうございました。
実質的には乗数効果を想定しているように読めた。
本稿では、援助による諸価格 への 影響を教科
書的に長期の現象としてはじめから排除していた。
しかしⅣの短期の実証分析を行う中で、援助の変
化が物価に正の影響を与えている可能性が感じら
れた。本稿 の物価のデータはドル建てであるため
名目為替レートの変化も含んでおり、援助の増加
によって実質為替レートが増価している可能性が
ある。また、援助の規模と輸出の規模との間には
負の相関も検出されている。1年という短期では物
価や為替レートは変化せず、オランダ病は発生しな
いだろう、という想定は間違っていたのかもしれない。
問題点として、データの信頼性をあげておく。今
世紀に入って債務の帳消しが増加し、その規模は
マクロの分析でも無視できないほどの大きさとなっ
ている
(OECD 2008, p.17)。帳消し分は純ODA
に含まれるはずだが、実際に含まれているのかどう
かを疑いたくなるようなデータがあった。また、本
稿 の 分析 はODAの 規模や 変化 が 相対的に大き
い小国を対象としたが、そのような国には公表さ
れているデータではよくわからない 性格 の巨額の
資金 が 流 れ 込 んでいるようである(本分析 では
GDP比で測ったODAやその変化が100% 以上と
なった3組を外 れ値として除いた)。注8)に書いた
商品援助が輸入の項に計上されているのかという
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問題も含め、本来はデータを一つひとつ丹念に調
15)ギャップ・モデルを精緻化した世界銀行のRMSMは、
受けてのことだろうか。
Agénor and Montiel, Development Macroeconomicsの
第2 版
(1999 年)の第13章で説明されていたが、
第3 版
(2008年)では同章が忽然と消えている。
同モデルと現実の援助との間のギャップに関する
イースタリー
(2003)の厳しい指摘
(特に47∼53頁)を
援助が受取国のマクロ経済に及ぼす短期的な影響
谷口裕亮
077
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078
彦根論叢
2011 spring / No.387
Aid on Growth: Some New Tips
and Data into the Old Theory
Yasuaki Taniguchi
On aid effectiveness, Temple (2010) wrote
that “(t)he early literature tended to see aid as a
cash injection into a simple hydraulic system,
in the style of Keynesian macroeconomics.” In
this paper, I pour some new ideas and data into
the old Keynesian style. The probable new
ideas are to see the effect of aid only from the
demand side of the economy and, therefore, to
estimate the short term effect of aid, and to analyze only the cases of huge ODA inflows
compared to the recipients’ GDP.
Part of the ODA may leak out as capital
flight and import payments, and may be accumulated in the recipients’ central banks as
foreign reserves, but the rest must be converted
to the local currency and spent in the domestic
economy. The last part can increase the expenditure or demand of the economy and finally
boost its GDP through the familiar multiplier
effect. The increase of imports by aid, directly
such as food aid and indirectly such as the case
when school teachers spend their aid financed
salaries on imported goods, would worsen the
trade balance provided the export is constant.
Simple OLS regressions of huge aid inflows,
with a size of more than 20% of GDP and a
change of more than 10% of GDP, show that
there is no correlation between aid and real
GDP, but the correlation between aid and
nominal GDP is significantly positive (“aid
Aid on Growth: Some New Tips and Data into the Old Theory
multiplier” is 0.11) while between aid and trade
balance it is significantly negative. Also, the
marginal propensity to import by overall aid is
estimated at 0.50. These results can be read
that about half of aid inflow leaks out from the
recipient countries or is accumulated in the
central banks, and even the part that flows
within the domestic economy is used for import in large quantities.
Yasuaki Taniguchi
079
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