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第 13 講 ありえないこと:氷河期の発見

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第 13 講 ありえないこと:氷河期の発見
地学
小出良幸
第 13 講 ありえないこと:氷河期の発見
http://ext-web.edu.sgu.ac.jp/koide/chigaku/
E-mail:
[email protected]
▼ ものの見方はいろいろ
問題点
▼ ありえないこと
1 ありないことは、本当にないのか
2 人間が知っていることはまだまだ少ない
▼ 新生代の氷河期
1 新生代の寒冷化
新生代の気温変化の推定
12
▼ 氷河期の発見
1 氷河期の発見と研究
アガシー(1807.5.28—1873.12.14)
2 過去の氷河の証拠
氷河擦痕、羊背岩、モレーン、氷河谷、氷河性堆積
物
3 氷河期の周期性の発見
名称
区分
万年前
ヴュルム 氷期
1.5–7
間氷期 7–13
リス
氷期
13–18
間氷期 18–23
ミンデル 氷期
23–30
間氷期 30–33
ギュンツ 氷期
33–47
間氷期 47–54
ドナウ II 氷期
54–55
間氷期 55–58.5
ドナウ I
氷期
58.5–60
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現在の平均気温との差(℃)
氷床の酸素同位体から推定した気温変化
IGBP/PAGES より
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時代(万年前)
▼ 氷河期の原因
1 原因
・大気組成(特に二酸化炭素とメタン)
・大陸の配置
・太陽を周る地球の軌道要素(ミランコビッチ・サ
イクル)や銀河系を周る太陽系の軌道
2 大気組成の変化
原生代後期の大規模な氷河時代:スノーボールアー
ス仮説
3 大陸の配置
4 地球軌道要素の変化
ミランコビッチ・サイクル
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2 氷河期スタート
・南極大陸の移動
・北半球の大陸配置
3 生物進化への影響:ヒトへの進化
▼ 全地球凍結:スノーボールアース
1 発見
・22 億年前の全地球凍結へのきっかけ
2 理論
3 観察
・氷河堆積物:ティライト、氷礫岩、ヴァーブ、ド
ロップストーン
・氷河地形:氷河擦痕、モレーン
・乾燥した大陸:蒸発岩(石膏、岩塩)
4 全地球凍結へのきっかけ
超大陸の分裂
二酸化炭素の減少
5 全地球凍結へ
暴走冷却
全地球凍結期:スノーボールアース
大陸の乾燥
6 全地球凍結のようす:スノーボールアース
7 全地球凍結からの脱出
二酸化炭素の濃集
温暖化
▼ ありないことは、まだまだ未発見
▼ 第 3 回レポート
地球温暖化のメリットを考えなさい。
12 月 22 日 24 時(締切り厳守)
レポートには、氏名、学生番号、テーマを忘れな
いようにしてください。
地学
小出良幸
第 13 講 ありえないこと:氷河期の発見
http://ext-web.edu.sgu.ac.jp/koide/chigaku/
E-mail:
[email protected]
▼ ものの見方はいろいろ
笠信太郎「ものの見方について」(1951 年)
「イギリス人は歩きながら考える。フランス人は考えた後で走り出す。そしてスペイン人は、走ってしま
った後で考える。―― 誰れが最初に言いだしたことかは知らないが、(中略)スペインの明敏な外交官、
マドリヤーガが書いたことである。
(後略)」
という書き出し。
「話はドイツのなかのことである。二つの門が並んで立っていた。第一の門には、
「天国への入口」と書い
てあった。隣の、もう一つの門には、
「天国に関する講演会への入口」とあった。ところが、すべてのドイ
ツ人が、最初の門をくぐろうとはせずに、その第二の門へと殺到したというのである。」
口の悪い人は、これをもじって「走る前、走りながら、そして走った後も考えないのがイタリア人だ!」
という。
▼ ありえないこと
1 ありないことは、本当にないのか
「ありえないこと」というの表現を使うことがあるが、非常に珍しいことが行った時、使うことが多い。
だから、「ありえないこと」とは、起こっていることなのである。
「ありえないこと」の中には、
・本当にありないこと:起こったことがないこと
・非常に小さい確率のこと:稀なこと
・今まで知らなかったこと:もしかすると今までいっぱいあったが知らなかっただけ
が含まれている。
「本当にありないこと」は、起こっていないので、科学的調べることができない。「小さい確率」なら、
その確率がどの程度かを科学的に調べることができる。
「今まで知らなかったかこと」なら、自分あるいは
人類が知らべることができれば、「ありえないこと」ではなく、「今まであったこと」になる。
2 人間が知っていることはまだまだ少ない
人間の知識は、まだまだ少ない。過去を探る技術もつたなく、証拠も断片的でだから、過去に起こった
ことを探るのは非常に困難である。
氷河期というのは、今では誰もが知っているが、100 年前に、過去に氷河期があったことを知っていた
のは、音の一部の人だけであった。
また、何億年も前にすごい氷河期あったのが、わかったてきたのは、10 年ほど前であった。
▼ 氷河期の発見
1 氷河期の発見と研究
ヨーロッパの山岳地帯に住む人は、過去には氷河がより広がっていたという一般的な知識を持っていた。
誰かが氷河期のアイデアを作り出したのではない。
1782~1855 年にカーペンター(J. Charpentier)は、氷河期説の証拠をまとめ。
1836 年に、カーペンターは、氷河期説をルイ・アガシー (J. L. R. Agassiz) に納得させた。
1840 年 アガシーは、氷河期に関する本「Étude sur les glaciers」を出版した。
アガシー (1807.5.28—1873.12.14)
スイスから、アメリカにわたった動物学者、地質学者、氷河学者であった。アメリカの最初の国際的な
科学者であった
1846 年に渡米。チャールズ・ダーウィンの進化論の反対者 "Study nature, not books"
1837 年「ヌーシャテルの講演」
スイス自然科学界の年次総会で氷河期について講演。北半球全体が一つの巨大な氷河であったと発表。会
場は騒然とし、反対意見多く論争は 3 日間続いたという。
北米大陸で氷河が融けた時にできたはずの巨大な湖をアガシー湖と呼んでいる ヨーロッパアルプスの氷
河が、研究の基礎となった。
2 過去の氷河の証拠
氷河擦痕:岩が磨かれ、削られた跡
羊背岩:氷河の浸食作用をうけてきた独特の形状の岩
モレーン:氷河の末端や縁辺に堆積した角礫
氷河谷:独特の氷河地形
氷河性堆積物:ティルやティライト等
氷河は繰り返し起こるので、以前の氷河作用の痕跡を消すので原因究明を難しくしている。現在の理論
に到達するまでには時間がかかった。
氷河期を知らない人にとっては、氷河の痕跡は不思議なものであった。
3 氷河期の周期性の発見
寒冷な氷河期と暖かい間氷期が交互に訪れている。
名称
ヴュルム
リス
ミンデル
ギュンツ
ドナウ II
ドナウ I
区分
氷期
間氷期
氷期
間氷期
氷期
間氷期
氷期
間氷期
氷期
間氷期
氷期
万年前
1.5–7
7–13
13–18
18–23
23–30
30–33
33–47
47–54
54–55
55–58.5
58.5–60
南極の氷床からとった氷のサンプルから、過去の気温変化を推定する方法がある。その方法で、過去に
低温の時期が繰り返しあったことが、定量的に観測された。
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IGBP/PAGES より
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時代(万年前)
▼ 氷河期の原因
1 原因
氷河期の原因として、
・大気組成(特に二酸化炭素とメタン)
・大陸の配置
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現在の平均気温との差(℃)
氷床の酸素同位体から推定した気温変化
・太陽を周る地球の軌道要素(ミランコビッチ・サイクル)や銀河系を周る太陽系の軌道
の 3 つが考えられている。
2 大気組成の変化
大気中の二酸化炭素濃度の急激な減少と、急激な上昇が原因によるものがあると考えられている。
原生代後期の大規模な氷河時代:スノーボールアース仮説
3 大陸の配置
コンピュータシミュレーションによって、極地にどの程度大陸があるかによって、氷河期が起こるかど
うかに重要であることがわかってきた。新生代の氷河期が始まった原因は大陸の配置によるとされている。
大陸が極地にあると、寒冷期に雪や氷が集積する。氷は太陽光を反射するので、地球が暖まりにくくな
る。雪がたくさん降り、夏に解けないで残っていく。以上のことが、フィードバックされることにより、
寒冷化がより進む。
4 地球軌道要素の変化
地球軌道要素とは、地球の天体としての運動に起因する周期性のことである。氷河期と間氷期の繰り返
しのパターンは、地球軌道要素によっているように見える。このような周期性をミランコビッチ・サイク
ルという。
ミランコビッチ・サイクル
氷期/間氷期の繰り返しが、ミランコビッチの提唱した周期(ミランコビッチ・サイクル)とよくあう。
ミランコビッチ・サイクルの原因は、
太陽からの距離の変化(軌道離心率)、地軸の歳差運動、地軸の傾き(傾斜角)が連動して、
地球が受ける日射量の変化に影響を与えているという考えである。なかでも、地軸の傾きの変化は重要で
ある。
問題点
軌道要素は氷期の開始の引き金になれない。→二酸化炭素の増加で説明可能
▼ 新生代の氷河期
1 新生代の寒冷化
古第三紀初期(約 5500 万年前)から、地球の気候は寒冷化を続けている。
この寒冷化は、グラフを見れば明らかだが、現在も、進行中である。
新生代の気温変化の推定
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2 氷河期スタート
・南極大陸の移動
新生代の氷河時代が始まった原因として南極大陸の移動が考えられている。中生代にゴンドワナ大陸か
ら分かれた南極大陸が南へ移動して、南極大陸の寒冷化が始まり、周南極海流が南極大陸への北からの熱
供給をさえぎるようになり寒冷化が促進された。南極大陸では、4000 万年前に氷床の成長が始まり、3000
万年前には巨大な氷床で覆われるようになった。
・北半球の大陸配置
300 万年前頃から北半球でも氷床の発達が始まった。北アメリカからユーラシア大陸の北部は北極圏に
入っている。パナマ地峡の形成によって、海流が変化した。
インド大陸のユーラシア大陸への衝突で、ヒマラヤ山脈が隆起して、気候システムに大きな変化が起こ
った。
3 生物進化への影響:ヒトへの進化
ヒト科には現生種としてヒト 1 種だけである。絶滅した種も含めて、広義に人類と呼ばれる。
3000 万年前から現在に至る約 400 万年の間、地球上に生息した人類には、ほぼ連続的な形態変化が認め
られる。
中期更新世の終り(200 万年前)から後期更新世の半ば(100 万年前)にかけて、新人(ホモ・サピエン
ス・サピエンス)の出現と人種の分化があった。
▼ 全地球凍結:スノーボールアース
1 発見
ハーバード大学のポール・ホフマンが発見
ポール・ホフマンの研究より世界的に全球凍結が認知されてくるようになった。つまり、全球凍結という
地球史上最大の氷河期が発見されたのである。
・22 億年前の全地球凍結へのきっかけ
カリフォルニア工科大学のジョセフ・カーシュビンクの考え。
シアノバクテリアの出現。
発生した酸素によって、大気中に合ったメタンが酸化されて、温室効果が弱まる。そして、一気に全地球
凍結まで至る。
2 理論
かつて気象学の理論から考えると、地球上のすべての H2O が凍ることはありえないとされてきた。最近
のシミュレーションでは、地球の気候には 3 つの安定した状態があることがわかってきた。
・無氷床状態:地表にまったく氷が存在しない状態
・部分氷床状態:一部分に氷が存在する状態
・全地球凍結状態:地球全体が氷で覆われる状態。平均気温-40℃
全地球凍結状態になっても、二酸化炭素が 0.1 気圧(今の数 100 倍)あれば、全地球凍結から脱出でき
ることがわかっている。つまり、全地球凍結状態であっても、二酸化炭素を大気に蓄積するメカニズムが
あれば、現在の地球に戻れることがわかっている。
その時間は 1000 年ほどの短時間でもどれる。さらに、もどっても大気には大量の二酸化炭素があるので、
平均気温 60℃ほどの高温状態へと移る。
3 観察
氷河堆積物や氷河地形などの氷河の証拠が見つかる。
・氷河堆積物:氷河堆積物とは、氷河によって運ばれた堆積物
ティライト(tilite)、氷礫岩:巨大な礫から粘土まで、さまざまなサイズの堆積物が混在した岩石
ヴァーブ(varve):年輪のような縞模様をもつとよばれる堆積岩
ドロップストーン(dropstone):氷河で運ばれた大きな石が、縞状堆積物の中に挟まっているもの
・氷河地形
氷河擦痕(さっこん):岩石につけられた氷河の傷跡
モレーン
・乾燥した大陸
蒸発岩(石膏、岩塩)
このような岩石は、大陸地域が乾燥していたことを示す
氷河堆積物や氷河地形は、
24 億 5000 万~22 億年前に 1 回(4 回のうち最後の氷河期)、
7 億 5000 万年前から 5 億 8000 万年前までに 2 回の氷河期の地層がみつかる。
ヒューロニアン(マクガニン)氷期:24 億 5000 万~22 億年前
スターチアン氷河期:7 億 6000 万年~7 億年前
ヴァランガー(マリノアン)氷河期:6 億年前
10 億年前にできた超大陸ロディニアが、8 億年前には、分裂はじめる。
氷河期の頃、大陸は赤道付近にあった。現在、赤道付近では、氷河は標高 5000m 以上でないと形成され
ない。5000m 以上の陸地は、そんな広く分布することはない。
つまり、7~6 億年前の地球全体が、非常に冷たかったことを意味する。
4 全地球凍結へのきっかけ
超大陸の分裂
7 億 7000 万年前まで赤道付近にあった一つの巨大な超大陸ロディニアが、分裂をはじめる。6 億年前に
は、大陸は小さく分裂し、赤道付近に分布する。
二酸化炭素の減少
赤道付近の大陸では、雨がたくさん降り、大陸を侵食する。激しい雨は、大気中の二酸化炭素を溶かし、
大陸から持たされたイオンと結びついて、炭酸塩の沈殿物をつくる。
二酸化炭素の急速減少によって、温室効果が下がり、地表の温度が急激に下がる。
その結果、大きな氷が極地域の海にできる。
広く白い氷は、太陽の光をたくさんはね返し、地球を暖めるために使われなくなる。
5 全地球凍結へ
暴走冷却
白っぽい地球は、寒冷化に拍車をかける。この連鎖が悪循環をうみ、全球凍結へと向かう。
暴走冷却によって、地球は一気に寒冷化が起こる。
全地球凍結期:スノーボールアース
地球は、一番寒い季節を迎える
全地球凍結期の
平均気温は-50℃、
海面は 1km を越える厚さの氷に覆われていた
氷に覆われた海洋は、今まで海洋がおこなっていた役割を果たさなくなる。それまで、太陽光と地球の
自転で、地球表層の温度を平均化する役割を果たしてきた。その働きを、海洋はしなくなったのです。
大陸の乾燥
海洋から、大気への水蒸気の供給はほとんどなくなる。つまり、雨が降らなくなる。大気は、乾燥して
いく。氷に覆われずにかろうじて残っていた陸地も、冷たく乾燥した砂漠となっていたはず。
6 全地球凍結のようす:スノーボールアース
地球全体が真っ白で、雪や氷に覆われていたと考えられる。平均気温は-40℃、海面は 1km の厚さの氷に
覆われていた。地球内部の熱が、放出されているので、海洋の底までは凍らなかった。こんな時期が、1000
万年あるいはそれ以上続いた。
地球が白い雪球のように見えるので、スノーボールアースあるいは、全球凍結とも呼ばれている。
カリフォルニア工科大学クリチュヴィンク(Krischvink, 1992)が、「スノーボール(Snowball Earth」
仮説」と名づけた。この仮説は、8~6 億年前にみつかる縞状鉄鉱層を説明するために提示された。しかし、
この説は忘れられていた。
1998 年 ハーバード大学のポール・ホフマンは、炭素の同位体組成から、生物活動が停止したと考えた。
7 全地球凍結からの脱出
二酸化炭素の濃集
二酸化炭素は、火山活動によって地球内部から定常的供給されていたはず。その二酸化炭素が、雨が降
らないことで、大気中に二酸化炭素がたまってくる。氷の時代が 1000 万年以上も続き、火山活動が続くと、
大気中の二酸化炭素の濃度は、1000 倍になる。
大気への二酸化炭素の濃集によって、温室効果が促進され、暖かくなる。海の氷が融けて、やがて赤道
付近では、氷がとけ、海が顔を出します。
温暖化
急激に熱くなることによって、大量の水蒸気が発生して、激しい温室効果が生じる。その結果、寒冷化
のゆり戻しのような激しい温暖化がおきる。
その推定値は平均気温 50℃
▼ ありないことは、まだまだ未発見
過去は、まだ十分解明されていない。それは、この講義で示してきたように、過去を探ることがすごく
難しいからである。だから、地球の過去においてすら、その程度であるから、人類のこの世に対する知識
はまだまだ十分である。
「ありえない」と思えることが、まだまだいっぱいあり、これから「ありえる」ことになってくるであ
ろう。それが進歩というものである。
▼ 第 3 回レポート
地球温暖化のメリットを考えなさい。
12 月 22 日 24 時(締切り厳守)
人の考えではなく、自分で考えて、自分自身の考えを述べること。レポートは資料や参考書を見ないよ
うに!!レポートはメール(携帯の E-mail でも可)の提出でもかまいません。紙でのレポートは、各回の
講義の最後に小出に出してください。なおレポートには、氏名、学生番号、テーマを忘れないようにして
ください。
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