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市民の政治的表現の自由――大垣警察市民監視事件からみえるもの

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市民の政治的表現の自由――大垣警察市民監視事件からみえるもの
秘密保全法に反対する愛知の会 12・6講演会(2016/12/06)
市民の政治的表現の自由――大垣警察市民監視事件からみえるもの
愛敬浩二(名古屋大学)
1 市民の政治的表現の自由の現在
*『法学セミナー』2016 年 11 月号特集「市民の政治的表現の自由とプライバシー」
(1)警察と自衛隊による市民監視
①自衛隊情報保全隊による市民監視事件(仙台高裁 2016/02/02 判決)
②ムスリム監視捜査事件(東京高裁 2015/04/15 判決、最高裁 2016/05/31 判決)
③大垣警察市民監視事件
④大分県警別府警察署監視カメラ事件
(2)市民の政治的表現の自由への規制強化
①JR大阪駅前事件(2012 年 12 月)
②さいたま市公民館「9条守れ」俳句掲載拒否事件(2014 年 6 月)
③東京都美術館「政治的アート」撤去要求事件(2014 年 2 月)
中垣克久(彫刻家)の作品「時代の肖像――絶滅危惧種」
2 表現の自由とプライバシー
(1)プライバシー権
①伝統的なプライバシー権→私事の覗き見や私事を暴露されない自由
Cf. 『宴のあと』
(三島由紀夫)事件(東京地裁 1964/09/28 判決)
②自己情報コントロール権(佐藤幸治・芦部信喜)cf. 個人情報保護法
*公権力が、個人の「プライバシー固有情報」を取得し、あるいは利用ないし対外的に開示することが
原則的に禁止される→私人による取得・利用・開示も法的規制の対象
(a)プライバシー固有情報:個人の心身の基本に関する情報。思想・信条・精神・身体に関する基本情報、
重大な社会的差別の原因となる情報
(b)プライバシー外延情報:(a)以外の個人情報。氏名、性別、住所、年齢、職業など。
(2)プライバシー侵害の「激痛」と「鈍痛」
(山本龍彦)
①激痛:私生活上の秘密の暴露
②鈍痛:データベースを前にした情報主体の感じる《不確実性》
Cf. 住基ネットやマイナンバー制度の問題
(3)プライバシーの保護と表現の政治的自由(毛利透・塚田哲之)
①萎縮効果(chilling effect):市民の政治的表現の自由は民主主義社会にとって必要不可欠であるが、法
的規制によって一般市民の自由行使は「萎縮」しやすい。
→営利表現やわいせつ表現は「金儲けの種」になりうる。政治的表現は?
*O.W, Holmes 米国連邦最高裁判事の警句「権力者が反対者の発言を抑圧したいと思うのは Logical な
ことだ」
Cf. 自民党「文化芸術懇話会」での百田尚樹と関係議員の発言
②「同調効果」の問題:他者との政治的意見の交流が監視されているという意識があると、人々は少数
意見との接触を避けるようになる(毛利)
1
3 大垣警察市民監視事件の憲法的意味
(1)大垣警察市民監視事件の特徴
①事件の特徴:警察が収集した「プライバシー固有情報」
(Dの病気等)が、正当な理由なく(市民運動
潰しが目的)
、第三者である私企業(市民運動の相手方)に提供されたことが、議事録で明らかになって
いること。
②早稲田大学講演会事件(最判 2003/09/12 判時 1837=3)との相違
*早稲田大学が江沢民(中国国家主席)を招いて講演会をした際、参加者が大学に対して提供した個人
情報(学籍番号・氏名・住所・電話番号)を警察の求めに応じて提供した事件
(a)情報の性格→固有情報を含む。Cf. 市民運動・政治活動の「実績」→公開事実 but プライバシー?
(b)開示先=民間企業→「それ以上の伝播」の可能性あり
cf.「開示先は警察機関であってそれ以上の伝播の可能性がなく……」
(杉原則彦・最高裁調査官の解説)
(c)本人の承諾・同意の要件の充足は本来的に困難
(2)大垣警察市民監視事件を踏まえた塚田哲之による問題提起
政治的表現活動とプライバシー保護との関係→表現活動にコミットする(可能性のある)特定個人の
情報・属性を公権力が露顕・収集・提供・利用することがもたらす、自由な表現活動を困難にする危険
への配慮→(a)自己情報コントロール権の強化という戦略と、(b)プライバシー保護の基礎にある複合的な
諸価値を踏まえた社会的な文脈を重視して、表現活動の直接的抑圧として把握する戦略
補論 「安倍改憲」と市民の政治的表現の自由――自民党改憲草案の検討
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放
棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
第9条の2 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官
とする国防軍を保持する。
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の
統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社
会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生
命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯し
た場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、
被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。
第9条の3 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源
を確保しなければならない。
第 12 条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければな
らない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に
公益及び公の秩序に反してはならない。
第 13 条 全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、
公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。
第 21 条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目
的として結社をすることは、認められない。
3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。
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