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華南・アジアビジネスレポート 発行番号: 2号 発行日 - I

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華南・アジアビジネスレポート 発行番号: 2号 発行日 - I
華南・アジアビジネスレポート
発行番号: 2号
発行日: 2011年5月5日
内容: カンボジアの制度会計と税務実務
筆者: I-GLOCAL CAMBODIA代表 山崎 / I-GLOCALグループ代表 蕪木
はじめに
前回の投稿において、現在のカンボジアの投資環境の概要について説明し、その中で日系企
業のカンボジアへの注目が高まっていることを説明した。
実際にカンボジアへの進出を決め、現地法人を設立した場合には、当然国内規定に則した会
計記録、各種納税が義務付けられることとなるが、進出を検討もしくは現地で実務を遂行するにあ
たってのこれらの情報は不足している。カンボジアの制度の中には、周辺国に比べ進出企業にと
って有利な点や、カンボジア特有の留意が必要な点などがあり、進出の検討段階においても制度
を理解していることが望ましい。また、現地での実務においても、法制度自体に不備があることや、
現地当局の管理能力、コンプライアンス意識の浸透が不十分であるために、カンボジア国内の全
ての企業が統一的な解釈に基づいているか疑わしい実情がある。
カンボジアの投資環境を紹介するシリーズ第2回の本稿においては、進出企業が準拠すべき制
度会計と税務実務に関する概略を説明する。なお、本稿で言及するのは法令に基づいた、本来あ
るべき実務である。
1. 制度会計概要
カンボジアの会計法は 1992 年に制定されている。当時は内戦の混乱から抜け出したばかりの状
況であり、会計の主体となる企業の存在も少なく、当制度が十分かつ厳守されていたものではない
と考えられよう。2000 年以降、カンボジア政府による積極的な外交や外資誘致に伴い、会計法、税
法、投資法等の法改正・整備がすすめられた。現在の投資に関する法制度は当時に制定されたも
のに基づくものが多い。
カンボジアの制度会計についても、2002 年制定の「企業会計、監査および会計業に関する法律
(Law on Corporate Accounting, Audit and Accounting Profession)」に従う。その主な特徴は以下
である。
① 決算期
カンボジアの決算期は原則 12 月末とされている。税務上の決算も同様に 12 月末とされてい
るが、要件を満たした場合6月末に変更することも可能である。親会社の決算期と異なる場合、
多くは親会社向けに決算書類を別途作成している。
華南・アジアビジネスレポート
② 記帳通貨
法令上はクメールリエルでの記帳を義務付けているが、外資企業には外貨での記帳を認め
ている。カンボジア企業であっても、実務上は商取引のほとんどが米ドルで行われていることも
あり、ほとんどの企業が米ドルで会計帳簿を記録している。ただし、年次の財務諸表はクメール
リエル建てのものを準備しなくてはならない。
③ 会計監査
以下の条件のうち2つ以上を満たす場合、企業はカンボジア公認会計士・監査人協会登録
の監査人による会計監査を受けることが義務付けられる。
・
年間売上高 30 億リエル(約 750,000 米ドル)以上
・
期中平均総資産 20 億リエル(約 500,000 米ドル)以上
・
期中平均従業員数 100 人以上
監査を受けた年度以降に上記基準を満たさなくなった場合でも、引続き監査の対象となる。
④ 決算書類の作成
決算書類は期末から3カ月以内に準備することとされている。この期日内に準備が不可能な
場合は経済財務省への届け出が必要との規定はあるが、税務申告上で財務情報を利用する
以外に、決算書類の各省庁への提出などは求められていない。
2. 税制概要
カンボジアの税制は 1997 年に制定された税法を改正する 2003 年税法(Low on Taxation)に基
づく。現地法人で発生する主な税金のみ概略を説明する。
① 法人税
事業活動からの所得および事業活動に関連しない不動産や金融資産からの所得など、全
ての所得が課税対象となる。損金には、事業に関わる費用の大部分が認められるが、接待交
際費、寄付金等は損金として認められていない。法人税の通常税率は 20%であり、ベトナム
(25%)やタイ(30%)などの近隣諸国と比べても低い税率となっている。
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[最低課税]
カンボジアの法人税務においては、最低課税の制度が定められている。企業が損失を計上
する場合でも、収益の1%に相当する額が課税される。中国やタイ、ベトナムなど日本企業の
進出が既に進んでいる国の中でも特異な制度であり、事業形態によっては当課税の負担が大
きくなるケースも考えられ、進出検討の際には注意が必要である。
② 個人所得税
カンボジアの個人の税務は、主に給与税(Tax on Salary)の制度に基づく。給与税は、雇用
関係により受領する給与に課される税金であり、カンボジア居住者であれば、カンボジア源泉
給与および外国源泉給与が課税対象となる。累進課税方式であり、税率は以下の表の通りで
ある。最高税率でも 20%であり、アジア諸国の中でも低水準の税率となっている。
なお、カンボジア税務上、年間 182 日を超えてカンボジアへ滞在する者は居住者とみなされ
る。カンボジア非居住者に対しては、カンボジア源泉所得に対してのみ 20%の税率が課せら
れる。
【表1:給与税率】
月額所得
税率
0 ~ 500,000 リエル (約 125 米ドル以下)
0%
500,001 ~ 1,250,000 リエル (約 125 ~ 312.5 米ドル)
5%
1,250,001 ~ 8,500,000 リエル (約 312.5 ~ 2,215 米ドル)
10%
8,500,001 ~ 12,500,000 リエル (約 2,215 ~ 3,125 米ドル)
15%
12,500,001 リエル以上 (約 3,125 米ドル以上)
20%
1米ドル=約 4,000 リエル
③ 付加価値税
付加価値税は、カンボジア国内において提供される物品やサービスを対象に幅広く課税さ
れる。税率は 10%であり、公共郵便、交通サービスなどは非課税取引とされている。付加価値
税の納税義務者は、付加価値税登録事業者として登録された法人である。
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④ その他
[源泉徴収税]
カンボジア国内において事業を行う者は、以下の表中に記載される法人および個人への支
払い内容に対し、源泉徴収の義務が課せられる。カンボジア居住者への支払いには以下の表
の税率で源泉が義務付けられ、カンボジア非居住者への支払いには、同様の内容の支払い
に対し一律 14%の税率で源泉徴収する。なお、サービスの支払いに関しては、付加価値税登
録事業者に対する支払いの場合、源泉徴収を必要としない実務がある。
【表2:源泉徴収税率(カンボジア居住者)】
内容
税率
コンサルティング、運送、メンテナンス等のサービス料
ロイヤルティ
15%
支払利息 (金融機関等への支払いを除く)
定期預金利息・普通預金利息 (金融機関から居住者への支払い)
5%
事務所、住居、車両、機械設備の賃借等のリース料
10%
[付加給付税]
企業が従業員に提供する住居や車両等の付加給付に対して、一律 20%の税率が課せられ
る。企業が従業員もしくはサービス等の提供先への支払いから源泉徴収する。実質は従業員
の個人所得税にあたるものであるが、給与税とは別途計算し、申告される。
3. 納税実務
カンボジアの納税実務は、2003 年税法に概要が規定されている。また税務当局から税務申告の
ガイドブック等が発行されており、それに従って実務がなされているが、不明確な部分も多く、さま
ざまな解釈により実務が行われている。
以下にそれぞれの税金の種類に応じて、納税実務を解説する。
① 法人税
法人税は月次の申告・前納と年次確定申告が義務付けられている。月次の申告は翌月
15 日までに申告書の提出と納付が求められ、インボイスに基づき収益の1%に当たる最低
課税額を毎月前納する。年次確定申告は期末から3カ月以内に提出することとされている。
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確定申告時に、前納してある額を差し引き、法人税を納付する。最低課税分は月次の前納
によりほぼ相殺されることとなる。
なお、前述のとおり、米ドルで記帳している企業であっても、クメールリエルでの申告納税
が求められ、税務局が公示している月次と年次の換算レートを用いて申告することとなる。
② 個人所得税
現在のカンボジアの制度では、個人の確定申告制度はなく、月次に申告される給与税の
みで個人の税務は完結している。給与税は雇用主が源泉徴収し翌月 15 日までに申告、納
付する。納税については従業員と雇用主が共同して義務を負うとされているが、雇用主側に
まず責任があるのが実態である。そのため、国外で給与が支払われている場合や国内にお
いて複数から給与を得ている場合などにおいて、当局が個人の所得全体を管理している体
制はみられない。
③ 付加価値税
付加価値税についても月次での申告納税が求められている。規定上期日は、翌月 20 日
までとしているが、通常はその他の税務申告と同時になされるため、15 日までに準備されて
いる。インボイスに基づき、売上付加価値税から仕入付加価値税を控除して納付する形とな
る。インボイスについては、記載すべき項目が法令中に定められているが、様式そのものが
定められているものではない。
④ その他
[源泉徴収税]
源泉徴収税を徴収した事業者は、翌月の 15 日までに申告・納付する。付加価値税登録
をしていない個人事業者との取引が多いカンボジアの実務においては、サービス提供者の
当税制に対する理解がなく源泉を認めないケースが多い。そのため報酬の支払者は、支払
額から総報酬額を逆算(グロスアップ)して税額を計算し、支払者側が源泉徴収税分を負担
して申告していることがほとんどである。
[付加給付税]
企業は源泉した付加給付税を、翌月 15 日までに申告納付する。個人の負担とされるもの
であるが、実務上は、企業の従業員への補助に課せられる税金であるため、グロスアップし
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て計算し、企業側が負担して納付している事例が多い。当課税の対象となる従業員への付
加給付としては、住居や車両の提供などが一般的だが、その支払いにおいて、上述の源泉
徴収税の対象となることも多い。付加給付税の課税対象はすべての税金を含む総支給額と
されており、源泉徴収税をグロスアップして企業が負担し、その上に付加給付税を課させる
こととなるため、企業側の負担がかなり大きくなることに注意が必要である。
総括~実務上の課題
以上、カンボジアの現在の制度会計および税務実務について説明した。税制上において、法人
税、個人所得税の税率が周辺諸国に比べて低い水準にあることは、ガンボジアへの投資の利点の
一つと言えるであろう。しかし、カンボジアでの事業スキーム、利益計画等の策定においては、損
失計上時にも負担となる最低課税制度について留意が必要である。
また、制度は整えてあるものの、実務との乖離が存在している、もしくは制度自体に不備があると
考えられる部分も多い。特に税務においては解釈も様々で、税務担当官の知識不足により、法令
に則さない実務が通常に受け入れられている状況がある。例えば、源泉徴収税の制度において、
グロスアップによらない計算や、適用する税率の解釈の違いがあっても、申告時点では許容されて
いる。また、個人の税務においても、各企業における給与管理のみに基づいているのが実態で、
居住者に対し全世界所得での申告を求める国際的な慣習、制度から考えると不合理なものとなっ
ている。
現在では、社会的にコンプライアンスの意識が低く、適切な実務を遂行しようとする企業に負担が
掛ってしまう状況にあるといえる。しかし、外資系企業の進出が加速している中で、現在のような実
務が今後も続いていくとは考え難い。現在の対応が、将来の査察などにより予期せぬ指摘を受け
るリスクも想定され、進出企業には、適切な制度の理解と国際的な慣習を鑑みた実務の遂行が求
められる。今後、コンプライアンス意識の高い外資企業からの積極的な税務申告により、当局の徴
税意識が国際的な感覚に近づくことで、さらなる法整備がなされ、実務も法令に基づく公正なもの
となっていくであろう。
※参考文献・法令
あずさ監査法人、KPMG(2009)『メコン流域諸国の税務』中央経済社
カンボジア開発評議会(2010)『カンボジア投資ガイドブック 2010 年 1 月』
PricewaterhouseCoopers (2010)『Cambodia Tax Book 2010』
http://www.pwc.com/en_KH/kh/publications/assets/cambodiatax-2010-booklet-update.pdf
<2011 年 4 月アクセス>
「Law on Taxation(1997)」
華南・アジアビジネスレポート
「Amendment Law to the Law on Taxation (2003)」
「Low on Corporate accounts, audit and the accounting profession (2002)」
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