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表題紙 - 第3章

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表題紙 - 第3章
光技術を利用した
ビーム走査アレーアンテナに関する研究
総合理工学研究科
物理電子システム創造専攻
稲垣惠三
1
目 次
第1章
序論
5
1.1
本研究の背景 ........................ 5
1.2
本研究の課題 ........................ 8
1.3
各章の概要 ......................... 9
第2章
電波と光のビーム走査技術
12
2.1
序言 ............................12
2.2
光のビーム走査技術 .....................12
2.2.1 ミラーによる機械的走査
2.2.2
AO スキャナ
2.2.3
EO スキャナ
2.3
電波のビーム走査技術 ....................14
2.3.1
ビーム制御機能から見たアンテナシステムの分類
2.3.2
アレーアンテナの主な電子的ビーム走査方法
2.3.3
ビーム形成回路の実装技術
2.4
光技術を利用したアンテナの研究例 ..............17
2.4.1
マイクロ波位相制御方式と光位相制御方式
2.4.2
ビーム形成回路技術の分類
2.5
応用例 ...........................22
2.5.1
広帯域移動体通信システム
2.5.2
広帯域衛星通信システム
2.5.3
光空間通信システム
2.6
第3章
結言 ............................27
光フェーズドアレーアンテナ
31
3.1
序言 ............................31
3.2
ファイバ型光フェーズドアレーアンテナのシステム構成 .....35
3.3
3素子ファイバ型光フェーズドアレーアンテナの特性 ......37
2
3.3.1
光給電回路部の特性
3.3.2
アレーアンテナ部の特性
3.3.3
素子アンテナによるグレーティングローブ抑圧法
3.4
第4章
結言 ............................49
空間制御型ビーム走査アレーアンテナ
52
4.1
序言 ............................52
4.2
動作理論 ..........................54
4.2.1
システム構成
4.2.2
基本動作
4.2.2
位相分布の制御
4.2.3
2次元ビーム偏向動作
4.3
光損失推定 .........................61
4.3.1
光損失解析
4.3.2
光損失測定
4.3.3
サンプリングファイバアレー全体の損失推定
4.4
実験 ............................65
4.4.1
レーザ系
4.4.2
ビーム偏向実験
4.5
結言 ............................76
第5章 波長制御型ビーム走査アレーアンテナ
78
5.1
序言 ............................78
5.2
システム構成と動作原理 ...................80
5.3.
光導波路の設計と試作 ....................86
5.4
移相特性の測定 .......................89
5.5
結言 ............................93
第6章
結論
95
謝辞
97
3
研究業績リスト
付録
99
PD の周波数特性測定法
104
A.1
序言 ........................... 104
A.2
ヘテロダイン法 ...................... 106
A.2.1 ヘテロダイン法の原理
A.3
光変調器を用いた校正用光源 ................ 109
A.3.1
校正用光源の構成方法
A.3.2
キャリア抑圧比モニタ法の解析
A.4
周波数応答特性の校正実験 ................. 112
A.4.1
高消光比 MZ 光変調器
A.4.2
校正試験結果
A.5
結言 ........................... 116
4
第1章 序論
1.1
本研究の背景
空中に放射する電磁波について,そのエネルギーを一定の角度範囲に集中させ
ること,およびその方向を自由に制御すること,を目的とする技術がある.前者
をビーム整形技術,後者を走査技術と呼び,両者を合わせてビーム走査技術と呼
ぶ.
波源には,点波源,線波源,面波源,およびこれらを複数組み合わせた波源が
考えられ,波源近傍ではなく,ある程度離れた遠方界での電磁波分布は波源と
フーリエ変換の関係にある.遠方界でのエネルギーの集中範囲は波源の広がりと
反比例するため,ビーム整形のためには,エネルギーを集中したい範囲から計算
される大きさまで,コヒーレンスを保ったまま波源の振幅分布を広げる必要があ
る.また,伝搬方向は波源の等位相面に対して垂直な方向となるので,所望の方
向に伝搬するように波源の位相分布を的確に制御する必要がある.結局,ビーム
走査技術とは,走査したいビームおよび走査方法に応じて波源の振幅位相分布を
的確に制御することとなる.これを図 1-1 に示す.
図 1-1 ビーム走査技術の概念
5
電磁波の周波数は,いわゆる電波と称される低周波数帯から 300GHz までの
電磁波,THz 波,赤外線,可視光,紫外線,X 線,γ線まで,非常に幅広いス
ペクトルにわたって広がっている.これらのうち,人類が最初に利用したのは見
に見える可視光のスペクトルであり,そのビームを走査するためには,ミラー,
レンズ,そしてその機械的走査が使われてきた.紀元前3世紀にはエジプトのア
レクサンドリアに大灯台が建設され,世界の7不思議のひとつに数えられてい
る.巨大なミラーによって,日中は陽光を反射し,夜は薪を燃やして反射させ,
56km 先から見えたであるとか,敵の軍船を燃やすことができたという伝説が
残っている.可視光の波長は 1 μ m 以下と非常に短いため,研磨した金属板で
反射させ,その傾きを機械的に変化させることで,開口面全体にわたる位相分布
に一定の傾きを持たせることが容易に可能である.
次に人類によって利用されるようになった電磁波は,電波である.当初は無
線通信通信用に実用化が進められたが,特に1930年代に戦争への足音が高
まる中,遠方の金属物体の探知用に電波のビーム制御技術の開発が進められ,
1935年に英国が世界で初めて航空機の探知に成功した.その後,第2次世界
大戦が始まると急速に改良が進められ,英国ではアンテナの指向性を得るために
日本では全く無視されていた八木宇田アンテナをいち早く導入して高性能 VHF
レーダを実用化している.電波の場合,VHF 帯でも波長は数メートルと可視光
に比べて著しく大きい.このため,当初は八木宇田アンテナやパラボラアンテナ
でビーム整形し,全体を機械的に所望方向へ回転させることでビーム走査を実現
していたが,装置が大き過ぎて高速走査は不可能であった.その後,アンテナ
を複数配列してその給電位相を制御することで,機械的には固定されているが放
射されるビームの伝搬方向は変えられる,フェズドアレーレーダーの技術が開発
された.この技術は,現在では更に改良が進み,同一の開口面から同時に複数の
ビームを放射し,各ビームの伝搬方向を独立に制御することで複数の目標を同時
に捕捉・追尾できるように進化している.
以上のように,ビーム走査技術は,まずビームを空中に放射した後,ミラーで
開口面の位相分布を変化させるという光波のビーム制御技術と,アンテナ開口面
の背後のビーム形成回路で振幅・位相分布を形成してから空中に放射する電波の
ビーム制御技術に大別され,それぞれ独自の発展を遂げてきた.これらを図 1-2
に示す.
6
近年の光ファイバ通信技術の急速な進歩により,シングルモードの光の振幅・
位相を制御する技術が著しく発展してきた.この技術を応用すれば,光の点波
源の振幅・位相を自由に制御できるため,電波におけるフェーズドアレーアンテ
ナと同じ原理に基づく光ビーム走査技術を実現できる.このような方向で研究開
発を進めていけば,従来のミラーの機械的走査では不可能であった,ミリ秒より
はるかに速いナノ秒オーダーの超高速光ビーム走査や,単に光ビームの方向を制
御するだけでなく光ビームの広がり角も制御して初期アライメントを完全自動化
したり,複数の光ビームを同時に出射させたり,電波ですでに実用化されている
Multi-Input Multi-Output(MIMO)技術と融合させたりすることで,空間やマ
ルチモード光ファイバを用いた光通信において空間多重化による超大容量化を推
進したり,などの全く新しい応用分野が開拓することができる.
あるいは,電波のビーム制御技術において,高周波信号の振幅・位相を制御す
るための減衰器,位相器,分岐・合波回路,増幅器などのアナログ信号処理部品
は,基本的に波長オーダーのサイズとなるため大きく高価になってしまう.とこ
ろが,高周波信号を光信号に変換してから様々なアナログ信号処理を施す技術に
ついて,ファイバ無線技術として近年研究開発が進んでいる.ファイバ無線では
光の波長オーダーのコンポーネントで同等の処理が行なえ,光導波路技術による
集積化も可能なことから,システム全体を著しく小型化できる.
(a) 光のビーム走査技術
(b) 電波のビーム走査
図 1-2 2つのビーム走査技術
7
1.2
本研究の課題
本論文ではビーム制御技術について,主に光波と電波で独立に開発が進められ
てきたビーム走査技術について,いったんその垣根を取り払い,融合することで
従来にない新しい利点を実現できないか,検討を進めた.
具体的には,(1)光ビーム制御技術に電波のフェーズドアレー技術を適用し
た光フェーズドアレーアンテナ,(2)電波のビーム制御技術であるフェーズド
アレーアンテナにおいて,各素子アンテナへの給電振幅・位相を空間光学系で
一括して形成する,空間制御型ビーム走査アレーアンテナ,(3)同じく電波の
フェーズドアレーアンテナにおいて,各素子アンテナへの給電振幅・位相を光導
波路チップで形成するとともに,ビーム出射方向を光波長で制御する波長制御型
ビーム走査アレーアンテナ,の3方式について,それぞれ,方式の提案/動作原
理の解析/キーデバイスの開発/基礎実験による動作確認,を行なった.
本研究における課題は,独立に研究・開発が進められてきた光ビーム制御技術
と電波ビーム制御技術を融合することで,それぞれの利点が活かされ,欠点はカ
バーし合って問題とならないような方式やデバイスを考案する点である.
例えば,第3章で述べる(1)光フェーズドアレーアンテナでは,電波の
フェーズドアレーアンテナを光領域で実現した.しかし,光の波長はマイクロ波
の波長より約5桁も短く 1 μ m 程度しかないことから,素子アンテナ間の位相
差に対する温度や振動など外乱の影響が非常に大きいという課題がある.この対
策として,単一の光信号を,分配/振幅制御/位相制御を行なう光給電回路部を
1チップに集積し,外乱の影響がほとんど等しくなることで相対位相は変化しな
いようにしている.
また,第4章で述べる(2)空間制御型ビーム走査アレーアンテナでは,多数
の素子アンテナに信号を分配する場合,単純な2分岐回路を多段に重ねる方式
では全体の過剰損失は(2分岐当たりの過剰損失)x(段数)となり基礎実験の
441 素子の場合は9段必要なことから,過剰損失が非常に大きくなってしまう.
空間的に一括して分配する方式も考えられるが,2GHz 帯の波長は 15cm もある
ことから非常に大掛かりな装置となってしまうという課題がある.この対策とし
ては,元の高周波信号を波長が著しく短い光波に変換してから空間光学系で分配
8
し,もう一度高周波信号に戻すこととした.空間光学系のサイズは高周波の導波
管回路などに比べて著しく小型化でき,光の短波長性という利点が有効に機能し
ている.
第5章で述べる(3)波長制御型ビーム走査アレーアンテナでは,システムシ
ステム構成をシンプルにするためにビーム走査原理として最も簡単な周波数走査
を利用しようとすると,ビーム走査に伴って放射される周波数が変化してしま
うというという課題がある.そこで,一旦光信号に変換し,周波数の代わりに光
の波長を走査することとすれば,ビーム走査に伴う周波数変化という問題は生じ
ず,簡単な受動光集積回路というシンプルなシステム構成を実現することができ
た.これは,電波の周波数走査の課題を,光技術を利用することでうまくカバー
している例になろう.
1.3
各章の概要
以下に各章の概要を記す.
第 2 章「ビーム走査アレーアンテナのためのビーム形成回路技術」では , 電子
的ビーム走査に必要な給電系のビーム形成回路技術について概観し , 本論文で行
なった研究の位置付けを明らかにしている . ビーム形成回路の実現手法として ,
高周波・デジタル・光の 3 種類の方法について議論し , 未開拓周波数帯における
大規模アレーアンテナ用としては , 高い周波数帯で信号処理を行うため比帯域
の制約がない , 波長が短いことから空間一括あるいは導波路集積による小型化
が期待できる , という 2 つの点から光技術が適していることを述べる . さらに
アンテナへの光技術適用の従来例を分類整理し , 各方式の得失から光集積回路技
術を用いたコヒーレント方式が有望なことを述べる .
第 3 章「光フェーズドアレーアンテナ」では , 光ビームの 2 次元走査を実現す
るために,電波のフェーズドアレーアンテナの方法を採用した研究について述
べる . ミラーを機械的に駆動する方法に比べてミラーの慣性による制約がなく,
ビーム幅を可変することで初期アライメントを自動化したり,光 MIMO 化して
空間分割多重することにより通信容量を飛躍的に高めたり,などの可能性があ
る.素子アンテナ間の相対位相が外乱の影響を受けないように,信号分配 / 強度
9
調整 / 位相調整する機能を集積した LN 導波路チップと , グレーデッドインデッ
クスファイバを用いた光素子アンテナを開発し ,3 つの素子アンテナを正三角形
配置して 2 次元ビーム走査が可能な光フェーズドアレーを構成した.放射パター
ンを測定する実験を行なって ,2 次元光ビーム走査機能を実証した . これによ
り ,Tbps 級の移動体通信システムを使い易くするために必須となる光ビーム電
子制御技術の実現性を実証することができた .
第第 4 章「空間走査型ビーム走査アレーアンテナ」では , 大規模アレーアンテ
ナのビーム走査用位相分布を一括して生成できるフーリエ光学型の光制御アレー
アンテナに関する研究について述べている . 素子アンテナ数の多い大規模アレー
アンテナへの給電位相分布を空間光学系で生成しても,光の波長が短いために
コンパクトにできる.信号光・参照光をそれぞれ 1 次元走査することで 2 次元
走査を実現すること ,1 次元走査には光導波路スイッチが利用できることを提案
し , ナノ秒オーダーの超高速ビーム走査が可能なことを示した.基礎実験では,
21x21=441 素子分の給電信号を生成してその強度・位相分布を測定し ,2 次元
ビーム走査機能を実証した . 結果として , 本方式の有効性が示された.衛星通信
用の衛星搭載アンテナなどの応用が考えられる.
第 5 章「波長走査型ビーム走査アレーアンテナ」では , 各ビームを独立に走査
できる独立走査マルチビーム機能をファイバ無線システムに適用しやすい形で実
現する方法の研究について述べている . 高周波技術の周波数走査型アレーアンテ
ナからの連想で光技術における波長走査型アレーアンテナを着想し , 波長可変偏
波直交光マイクロ波光源と複屈折性導波路の波長分散を利用してビーム走査用
給電位相分布を得る方法を考案した . これは既に提案されていた光ロットマンレ
ンズによる固定マルチビーム形成機能と融合させることで , 独立走査マルチビー
ムが実現できる .LN の受動導波路技術を用いて 3 ビーム x5 素子用のビーム形成
回路チップを開発し ,8.24 /nm の移相感度を得た . これは市販の波長可変光源
の 1500nm から 1584nm の波長可変範囲を 28nm づつ 3 本のビームに割り当て
ることで ,3 ビームを各々 50 の範囲で独立に走査できることになる . この結果
から , 高機能光源は中央局に集中し , 無線基地局には簡単な LN 受動導波路を追
加するだけで独立走査マルチビーム機能が実現できることを実証することができ
た.
第 6 章「結論」は本論文を総括している .
10
なお , 付録で , 第 3 章∼第 5 章の実験で使われているフォトダイオード (PD)
の周波数特性測定方法について , 従来の測定方法の課題について説明し,高消光
比光変調器を用いた新しい方法について詳細に述べている .
以上のように,光および電波のビーム制御技術を融合することで,従来のそれ
ぞれ別々に発展してきた技術を単独で使用していた場合に比べて,新しい機能や
性能が実現でき実現できることが示された.
11
第2章 電波と光のビーム走査技術
2.1
序言
本章では,まず従来技術としての光ビーム走査技術および電波のビーム走査技
術について簡単に紹介し,ビーム走査技術の性能を表す主要なパラメータについ
て説明する.次に光技術を利用したビーム走査アレーアンテナ技術について,他
の研究機関における研究動向を述べるとともに,本論文で検討したビーム走査技
術の特徴について説明し,その位置付けを明らかにする.最後に,検討した技術
の応用例について述べ,その有効性を示す.
2.2
光のビーム走査技術
光のビーム走査技術には様々な方式が研究・開発されているが,ここでは位
相差を形成するためのデバイスと原理,ミラーによる機械的走査,音響光学
(Acousto-Optic, AO)素子による走査,電気光学(Electro-Optic, EO)素子に
よる走査,について説明する.
2.2.1 ミラーによる機械的走査
この方式には,レーザマーキングや各種各種レーザ加工用に幅広く使われてい
るガルバノスキャナ,レーザプリンタ等の面を走査するのに利用されるポリゴン
ミラー(回転多面鏡)スキャナなどがある.ここでは,汎用性・精度・高速性・
操作性に優れるガルバノスキャナと近年研究開発が急速に進んでいる光 MEMS
スキャナについて説明する.
ガルバノスキャナでは,ビーム走査方向を決定するビーム断面内の位相分布
は,ビームを反射する微小ミラーの傾きを変化させることで制御する.ミラーの
傾きを制御するためにはモーターが使われる.温度ドリフトなどで位置再現性
12
が劣化するのを防ぐため,高精度品ではモーターの回転角度を検出するエンコー
ダーが内蔵されており,クローズドループ制御系で駆動される.最近は,制御系
のディジタル化が進展し,位置再現性が大幅に改善されている.
光 MEMS スキャナは反射させるミラーの角度で位相分布を形成する点はガル
バノスキャナと同じであるが,MEMS 技術を使って全体を小型・集積化してい
る.最近,スマートフォンなどの高機能携帯端末用の外部ディスプレイとして,
本技術を応用したピコプロジェクタが期待されている.
2.2.2
AO スキャナ
二酸化テルルやモリブデン酸鉛などの AO 媒体に圧電素子を接着し,圧電素子
に印加した高周波信号により媒体中に超音波を発生させると,AO 効果により超
音波の粗密波に対応した屈折率分布が形成される.これが回折格子として働き,
入射ビームを特定の方向に反射する.反射角度を制御するには,圧電素子に印可
する高周波信号の周波数を変化させる.
2.2.3
EO スキャナ
印加電界に比例した屈折率変化を起こす EO 媒体を三角プリズム状に整形した
デバイスに光ビームを入射すると,入射ビームに対して斜めの面において,空気
と EO 媒質の屈折率差により,スネルの法則に従ってビームは屈折される.電界
を印加して EO 媒質の屈折率を変化させると,ビーム屈折角も変化し,ビームを
走査できる.
以上のような光ビーム走査技術における主な性能指標として,ビームサイズ,
制御帯域幅,角度可変範囲,位置再現性,などがある.典型的な値を表2­1に
まとめる.機械走査方式は汎用性が高いが,ビームサイズ,すなわちミラーサイ
ズと制御帯域幅にトレードオフの関係がある.AO および EO スキャナは可動部
がないため慣性の制約を受けず超高速ビーム走査が可能だが,ビームサイズや走
査範囲が限られる.AO と EO の差は,AO の方が偏光角の波長依存性が大きい
が走査範囲が広いことである.
13
2.3
電波のビーム走査技術
2.3.1
ビーム制御機能から見たアンテナシステムの分類
電波を放射するアンテナをビームの制御機能という観点から分類すると,無指
向性アンテナ,固定ビームアンテナの機械走査,固定マルチビーム,単一ビーム
の電子走査,そして独立偏向マルチビームという5種類に分類できる.
無指向性アンテナは携帯電話等のモバイル機器に広く使われている.立って話
すだけでなく,寝転んだり,鞄の中で待ち受けたり,というように様々な姿勢で
使われても特性の変動が少なく,しかも構造が簡単である.
固定ビームアンテナの機械走査は,衛星通信の地球局に良く用いられている.
アンテナ利得が最優先の課題で,コストやサイズ等の制約が比較的少ない場合に
使われる.
固定マルチビームは衛星通信の宇宙局に良く用いられ,サービスエリア全体を
多数のビームで覆うように使用する.少し離れたビーム間では周波数を再利用す
ることができ,全体の通信容量を拡大できる.
単一ビームの電子走査は,レーダなど,ある範囲を高速に走査する必要がある
場合に良く用いられる.電波を放射する部分を複数の素子アンテナを配列したア
レーアンテナとし,電波がアンテナから放射される前に,給電系あるいはビーム
制御回路と呼ばれるシステムによって所望の振幅・位相分布を生成し,アレーア
ンテナに給電する.固定的な振幅・位相を形成することでビーム整形が,更に位
相分布の直線的な傾きを制御することでビーム走査が実現できる.
独立走査マルチビームというのは,あまり知られてないが,単一のアレーアン
テナから複数のビームが同時に放射され,しかも,各ビームの走査方向を他の
ビームとは独立に自由に制御できることを意味している.同時に多数の目標を追
捕捉・追尾する多機能レーダーや,本章の最後で説明しているビームアクセス型
の無線通信システムなどで用いられる.
本論文で検討の対象とする「ビーム走査アレーアンテナ」は,これらのうち単
14
一ビームの電子走査と,独立走査マルチビームの技術である.この場合,アレー
アンテナの技術そのものよりも,その背後で各素子アンテナへの励振振幅および
位相を制御している「ビーム形成回路」と呼ばれる複雑な給電系部分が最も重要
になってくる.
電波のアレーアンテナの研究では,これらの他,受信信号に応じて一定のアル
ゴリズム(例:信号対雑音比(SNR)を最大にする,妨害波を抑圧する,など)
に従って給電振幅・位相を変化させるアダプティブアレーアンテナや,送受のア
レーアンテナ間で各素子アンテナペア毎のチャネル応答を求め,空間分割多重化
により伝送容量を拡大する MIMO 技術などが検討されているが,ビーム走査技
術の範疇を超えるため,本論文では扱わない.
2.3.2
アレーアンテナの主な電子的ビーム走査方法
ここでは,単一ビームの電子走査を例として,主な電子的ビーム走査方法につ
いてまとめておく [1].図2­1に,各方式の概念図を示す.
まず,最も高機能なフェーズドアレー方式がある.各素子アンテナに位相器を
取り付け,外部からコントロールすることで,任意の開口面位相分布を形成する
ことができる.例えば直線的な位相分布として,その傾きを変化させれば単一
ビームの走査ができる.また,,円弧状の位相分布とすれば,拡散する電波を放
射することができ,その広がり方まで任意に設定できる.ただし,現在マイクロ
波帯域で一般的な位相器は,1, 2, 4, 8 という 2 の n 乗の長さの遅延線を挿入す
るかどうかを PIN ダイオードスイッチで切り替えるというもので,4 ビッや5
ビット位相器が市販されている.1個の位相器だけでもこれだけ複雑なのに,各
素子アンテナ全てに取り付けるとなると,非常に大掛かりなシステムになってし
まう.
次に,マルチビームを形成してそれを切り替えることで等価的にビーム走査を
実現する方式がある.マルチビームの形成で良く用いられるのはバトラーマトリ
クス [2] という 90 位相器や 180 ハイブリッドを組み合わせた回路であるが,要
は FFT の積和計算のアルゴリズムをハードウェア的に行なっているのである.
特定の入力ポートからの信号は全ての出力ポートに等振幅で分配され,位相分
15
布は入力ポートに応じた傾きを持ち,遠方界では別の方向に伝搬するビームと
なる.そこで,給電ポートを切り替えることで等価的にビームを走査できる.n
ビーム x n 素子のバトラーマトリクスの部品数は n log n のオーダであり,n x
n となるフェーズドアレー型マルチビームよりは構成が簡単である.また,ミリ
波帯等の波長が短い周波数帯では,Rotman レンズと呼ばれる誘電体レンズを用
いた方式もある.
最後に紹介するのは周波数走査アレーである.これは周波数可変の発信器を,
周期的に穴を開けた導波管に接続したものである.穴から漏れる電波間の位相差
は,穴間隔と放射する電波の波長で決まるが,発振周波数を変化させると波長
も変化するので,ビームを走査できる.ただし,放射される信号の周波数も変化
してしまうため,割当できる周波数が逼迫している現状ではあまり使われていな
い.
光技術を利用してビーム走査用の位相分布を実現する場合にも,基本的な考え
方は同じである.第3章以降で実際に研究を行った方式は,これらの考え方を
ベースとして,目的に応じて適宜組み合わせて使っている.
2
4 1
3
d
-45°
-45°
1 2
(1)位相走査
3
4
(3)マルチビーム切替
(2)周波数走査
図 2-1 主な単一ビームの電子的走査手法の概念図
16
2.3.3
ビーム形成回路の実装技術
上記のようなビーム形成回路は,その実装技術によって,RF 回路技術を用い
る方法,ディジタル信号処理技術を用いる方法,光技術を用いる方法,の3種類
に大別できる.RF 回路技術を用いる方法は最も一般的な方法で実際に使用され
ており,今後は MMIC 化 [3] によって発展していくと思われる.ディジタル信
号処理技術を用いる方法は時空間的に適応的な信号処理が可能であり,複雑な伝
搬環境に対応できるソフトウェアアンテナ [4] として最近話題になっている.光
技術を用いる方法が本論文で検討の対象とする技術であり,広帯域・小型軽量な
どの潜在的な利点を持つが,まだ基礎研究段階といえる [5].
2.4
光技術を利用したアンテナの研究例
ここでは,他の研究機関で行なわれている光技術を利用したアンテナに関する
研究について紹介する.図 2-2 に示すように,高周波信号の位相制御方法という
観点から 7 種類に分類できる [6].
2.4.1
マイクロ波位相制御方式と光位相制御方式
まず,マイクロ波位相制御方式と光波位相制御方式に大別されているが,これ
らはインコヒーレント方式およびコヒーレント方式と呼ばれることも多い.前
者のマイクロ波位相制御方式では,光波の位相は利用せず,変調された RF 信号
の位相にだけ着目して制御する.このため,位相を制御するには RF 信号の波長
オーダ(5mm 10cm)で光路長を制御しなければならない.後者の光波位相制
御方式では,RF 信号を2光波の差として伝送し,受信点でヘテロダイン検波す
る.位相を制御するには,2光波の相対位相を変化させるだけで良く,光波の波
長オーダで( 1 μ m) 制御すれば良い.
このような動作原理の違いから,それぞれ
・ マイクロ波位相制御方式は,少々の外乱があっても位相ズレが生じないた
め安定な動作が期待できるが,個々の移相器のサイズは基本的に RF 信号
17
の波長オーダとなる.
・ 光波位相制御方式では,個々の移相器のサイズは基本的に光波の波長オー
ダとなり,多数の移相器を集積化したり空間並列処理が可能になる.しか
し,2光波が別光路を通っている際にミクロンオーダの外乱があると容易
に位相が乱れてしまい,安定化が課題となる.
という特徴がある.本論文では,高機能を追求することのできる光波位相制御方
式を採用し,安定化という課題を克服するために信号処理部を全て1チップに集
積し,たとえ外乱があっても 2 光波に同等の影響を与えるように設計・実装する
こととし,実際に実験でその有効性を示した.
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図 2-2 光技術を利用したアンテナに関する研究の分類
18
2.4.2
ビーム形成回路技術の分類
以下では,各方式について簡単に紹介する.
(1) 信号伝送型(RF/LO/Control)
これは,光技術を単に RF 信号/ LO 信号/制御信号などを伝送するために用
いる.光ファイバの超低損失・軽量・電磁干渉フリーな特性が,マイクロ波伝
送線路に対する利点となる.位相を変化させるには,RF 信号の波長オーダで光
ファイバの光路長を切り替えるなどで行う [7-10].
(2) 光制御 RF デバイス型
FET などの RF デバイスは,光を照射することで等価回路のパラメータが変わ
る.そこで,FET を用いた発振器と素子アンテナを一体化したアクティブアレー
アンテナを構成し,FET に光を照射して発振周波数を変化させることでビーム
切替や走査などを実現する方法である [11-13].
(3) 実時間遅延 (True Time Delay, TTD) 型
実時間遅延型というのは代表的な電子走査アンテナである位相制御型アレー
(フェーズドアレー)に対する用語であって,光制御アンテナに限られたもので
はない.位相制御型では隣接素子アンテナ間の位相を制御する場合に 2 πの整数
倍の不確定性は許容されるが,実時間遅延型ではこれも一意に定め,隣接素子ア
ンテナ間の遅延時間差を厳密に制御する.図 2-3 にこの様子を示す.この結果,
位相制御型では設計周波数からずれると主ビームの指向方向が変化してしまう
(Squint, やぶにらみ)が,実時間遅延型ではそれがなく非常に比帯域の広いビー
ムが形成できる [14-17].
レーダ用途では,距離分解能を向上するには短パルス化が必要であり,比帯域
の広い実時間遅延型アレーは大きな利点となる.反面,多素子アレーの周辺部の
素子アンテナでは波長の何百倍もの遅延時間を制御する必要があり,RF 回路で
は実現が困難であった.ところが光ファイバは非常に低損失で少々伝送距離が変
化しても損失変動は小さい.このため,光技術を適用することが実時間遅延型ア
19
図 2-3 実時間遅延型アレーアンテナと位相制御型アレーアンテナ
レーの唯一の現実的な実装方法と考えられ,活発に研究されている.
実装では,単に長さの違う光ファイバを切り替える方式 [9] と光の波長に対す
る分散性を利用する方式 [10] がある.後者は,高分散性ファイバとゼロ分散ファ
イバを組み合わせた「分散プリズム」を用いて給電する構成で,光源の波長を変
化させることで連続的にビーム走査が可能である.多数の光ファイバ遅延線とス
イッチマトリクスが不要で,構成が比較的簡単になる.
20
(4)空間光学系型
コヒーレント型の一方の光波の位相を制御するために,液晶モジュールや空間
光変調器(SLM)などの空間的に集積化されたデバイスを用いる方式である.多
素子アレーをコンパクトに実現できるが,空間光学系で構成するため振動やクロ
ストークなどが課題となる [18-20].
(5)光導波路型
光波の位相制御に導波路型光移相器を使う方式である.振動によるアライメン
トずれはないが,多数の光移相器を集積する大規模光集積回路技術が課題となろ
う.[21] では,16 素子分を InP 系半導体導波路で 1 チップに集積している.
(6)フーリエ光学系型
光波の位相を制御するために,上記(4)と(5)の2方式は各素子毎に1個
の光移相器を使う位相制御型である.それに対してフーリエ光学型は各素子毎に
移相器を持たずにフーリエ変換レンズで一括して所望の位相分布を形成してお
り,RF 回路ではバトラーマトリクス型に相当する.マトリクス部は一個のレン
ズで容易に実現できるうえ,マルチビーム化しても各ビームで共有することがで
きるため,特に多素子・多ビームの大規模マルチビームアンテナをコンパクトに
実現できる可能性がある.
実装方法には,フーリエ変換レンズを用いた空間光学系型とスラブ導波路を用
いた光導波路型がある.実際の使用では小型軽量で振動に強い光導波路型が有利
と考えられるが,やはり大規模集積化技術が課題となろう.
本方式は [22] で提案されたが,ATR で研究が続けられ,ビーム走査・マルチ
ビーム・受信用など様々な構成が報告されている [23-27].また,導波路型によ
る実装 [28,29] が報告されている.
(7) 波長制御型
コヒーレント型では,RF の位相を制御するためには2光波の相対位相を変化
させなければならない.そこで,一軸性結晶における常光と異常光の屈折率差で
21
ある複屈折が,比較的大きな波長分散特性を持つことを利用する.具体的には,
一軸性結晶上に光導波路を形成し,2光波をそれぞれ一軸性結晶の常光と異常光
として入射させる.光導波路の出射端では,2光波は複屈折による屈折率差と
光導波路長の積で決まる位相差を持つようになる.そこで,光源の光波長を変化
させると,複屈折の波長分散により2光波間の相対位相を変化させることができ
る.この方式では,位相器部分は一定の長さを持つ一軸性結晶の光導波路のみで
あり,システム構成が非常に簡単になる.
本論文では,将来的に高機能化と集積化が見込める(6)フーリエ光学型と
(7)波長制御型について検討した.
2.5
応用例
ここでは,本論文で検討した光技術を利用したアレーアンテナの応用例につい
て検討する.
2.5.1
広帯域移動体通信システム
我国では,1979 年に電電公社により自動車電話サービスが開始されて以来,
移動体通信のトラフィックは爆発的な拡大を続けている.これには,普及台数の
拡大と,端末の高速化の2つの方向があるが,1980 年代から 2000 年代まで,
およそ10年で100倍のペースで高速化が図られている.最近も,iPhone の
ようなスマートフォンの急速な普及と,google のようなクラウドサービスの拡
大により,ネットワーク上のデータやアプリケーションを使うことでいつでもど
こでも必要なコンピュータ資源を簡単に利用できる環境が整備されつつあり,移
動体データ通信への需要は今後も急速な成長を続けていくものと見込まれてい
る.
将来の超高速移動体通信技術については,様々なレベルで研究開発が進められ
ている.最近実用化されたものとしては,いわゆる 3.9 世代移動通信システムの
LTE やモバイル WiMAX が挙げられ,数十から 100Mbps 程度のデータ通信を
ターゲットとしている.その次となると,搬送波の周波数帯により大きく2つに
22
分けられる.一つは,現在の移動体通信システムが利用している数 GHz 程度の
マイクロ波帯の利用を前提とする システムであるが,既に割り当てられる周波
数が枯渇しているという課題がある.そこで,端末が自分の周囲のその時・その
場での電波利用状況をセンシングし,空いていれば使うというコグニティブ無線
技術の方向である.しかしこの方式では,オフィスや駅前等の本当に需要が集中
するところでは空きができる確率は低く,道路が交通集中によって渋滞してしま
うように,実効的な高速化には制限があると予想されている.
もう一つの方向は,今まで利用されていない未開拓周波数帯を利用するシス
テムである.例えば,日本では 59 ∼ 66GHz 帯に 7GHz もの広大な帯域幅をも
つ免許不要バンドが割り当てられており,米国や欧州でも同様の免許不要バン
ドが割り当てられている.これは,60GHz 付近の電波が大気中の酸素分子によ
り選択的に 15dB/km もの強い吸収を受けるため,数 km 離れた無線局に対して
干渉する可能性が低いためである.この周波数帯を利用する無線通信の標準と
して IEEE802.15.3c や IEEE 802.11ad などがあり,2つの企業アライアンス
Wireless HD と WiGig が競っている.1 Gbps 以上の高速化を狙っており,普及
前夜の様相を呈している.また,開発段階のものでは NTT による 120GHz 帯を
利用した 10Gbps システム,研究段階では NICT の光空間通信における 1.28Tbps
伝送実験がある.ただし,60GHz 帯のシステムは無線 LAN あるいは無線 PAN
(Wireless Personal Area Network)用で無線基地局のカバレッジは 10m ∼
100m 程度と限られており,120GHz 帯のシステムや光空間通信は固定無線通信
システムであり,携帯電話サービスのような広いサービスエリアと新幹線のよう
な高速移動に対応したシステムではない.
60GHz 以上の未開拓周波数領域は,現在の第3世代の携帯電話が利用してい
る 2GHz 帯に比べて 30 倍も周波数が高く,波長は 2GHz 帯の 15cm に比べて
5mm と 1/30 以下に短くなる.そのため,この周波数帯を開拓するには新たに
多くの課題を解決しなければならないが,ここでは,電波伝搬損失の増大,受信
電力の低下,所要受信電力の増大,という3点について説明する.
まず,60GHz の電波の伝搬特性で特徴的な点は,15dB/lkm 程度の酸素分子
による吸収と,非常に大きな降雨減衰である.このため 1km 以上の遠地点間の
通信は現実的ではなく,雨の影響を受けない屋内応用が中心となる.ただし,
この大きな減衰は少し離れた無線局にはほとんど干渉を与えないという利点にも
23
なる.次に屋内伝搬を考えると,5mm という波長の短さが問題になる.通常の
屋内では,ドア,窓,パーティションなどの構造物は人体のサイズに合わせて
作られており,2GHz 帯の 15cm という波長とはあまり大きく変わらない.この
ため,回折によって見通し外にも電波が到達することが期待できる.ところが
5mm の波長では回折はほとんど期待できず,見通しかせいぜい数回の反射によ
る伝搬路しか期待できない.イメージ的には,2GHz 帯の電波は液体のように見
えないところまでしみ込んでいくが,60GHz 帯の電波は光のように見通せると
ころだけが照らされ物陰にはほとんど回り込まない,と捉えることができる.
次に,たとえ見通しでの直接波による伝搬であっても,同じ送信電力,同じ指
向性利得のアンテナを用いた場合,周波数の 2 乗に半比例して(波長の 2 乗に
比例して)受信器の受信電力が低下してしまう.これは,同一の指向性利得を持
つアンテナの開口面積は,周波数が異なっていても波長を単位とすれば同一にな
ることから,実際の実効面積は波長の 2 乗に比例して小さくなってしまうためで
ある.
3番目は通信速度に比例した所要受信電力の増大である.これは,熱雑音の
ような加法性白色ガウス雑音が支配的な状況では,1 ビット当たりの所要エネル
ギーはほぼ一定と看做せるため,単位時間内に必要なエネルギーは通信速度に比
例して増大してしまう.
これら,伝搬損失増大,受信電力低下,所要受信電力増大は,全て回線設計が
厳しくなる方向に働く.これを補償するには,送信電力の増加,伝搬距離の短
縮,アンテナ利得の増加,受信器の RF フロントエンドの低雑音化などの対策が
必要となる.送信電力の増加は,他の無線局に与える干渉量が増加するため,あ
まり大きくすることはできない.伝搬距離は無線 PAN ではすでに 10m 程度ま
で短くなっている.RF フロントエンドの低雑音化は,デバイス性能の改善に依
存するため,一朝一夕には解決できない.
アンテナ利得を増加するという対策は,空間にまき散らしていた電波を特定の
方向に集中させるということである.元々,上記のような電波伝搬特性から見通
し外での通信が困難なミリ波帯の場合,通信に全く寄与しない不要な電波を放出
しないことで端末の低消費電力化にもつながる.一方で,ある特定の方向にしか
電波を出さないとなると送受信機を対向させなければならないが,これをユーザ
24
が手動で行なうとなると非常に利便性が低下してしまう.できれば端末の向きは
任意で,自動的に通信リンクが設定されることが望ましい.
そこで,図 2-4 に示すようなシステムが考えられる.端末側はあまり指向性
が強くないアンテナを搭載し,使用時の向きの自由度を高める.無線基地局側
には電子的にビーム走査が可能なアレーアンテナを設置し,各ユーザをビームで
アクセスする.無線基地局1局で複数のユーザを収容する場合,一本のビームで
各ユーザを時分割でアクセスしていくビームホッピング型と,一つのアレーアン
テナから同時に複数のビームを放射し,各ビームがユーザの移動に伴って独立に
ビームを偏向させるマルチビームアクセス型が考えられる.100m 程度の最大伝
搬距離を想定した回線設計例からは,アレーアンテナの総合利得が 30dBi,素子
アンテナ数としては 100 素子以上が必要になる.ビームホッピング型およびマ
ルチビームアクセス型の超高速無線通信システムに必要なアレーアンテナの主要
諸元をまとめると、次の表 2-1 ようになる。
表 2-1 広帯域移動体通信システムに必要なアレーアンテナの主要諸元
ビームホッピング型
アンテナ総合利得 [dBi]
30
アンテナ素子数
ビーム数
ビーム走査時間
マルチビームアクセス型
>100
1
3
マイクロ秒以下
100 ミリ秒程度
また,せっかく光技術を用いるのであれば,更にファイバ無線(Radio on
Fiber,ROF)技術を用いることでシステム全体のコストを著しく削減できる可
能性がある.複数台の無線基地局を配置してまとまったサービスエリアを実現し
たい場合,各無線基地局に 60GHz の変復調,アンテナの指向性制御,メディア
アクセス層以上のネットワーク向けベースバンド信号処理,など全ての機能をイ
25
ンストールしていては非常に高価なシステムとなってしまうことが予想される.
そこで,各無線基地局の構成はできるだけシンプルにし,複雑な機能は全て中央
制御局に設置する.そして両者を広帯域な光ファイバで接続するという構成が考
えられる.光技術を利用したアレーアンテナは,この RoF 技術との親和性が高
いことも,望まれる特性の一つである.
本論文の第5章で検討する波長制御型のビーム走査アレーアンテナは,独立走
査マルチビームという複雑な機能を実現できるとともに,無線基地局に設置する
ビーム形成回路部は受動光導波路のみという簡単なシステム構成を特徴としてい
る.また,制御局から無線基地局までのミリ波信号の分配・伝送には低損失なミ
リ波ファイバリンクがそのまま使えると思われ,このようなシステムへの応用に
適している.
[30] では,ミリ波ファイバリンクで制御局から伝送された信号を無線基地局に
設置されたビーム形成回路によって指向性を制御しながら通信するシステムが提
案されており,[25] ではそれに必要な各ビームを独立に偏向できるマルチビーム
アンテナ用の光信号処理ビーム形成回路を導波路型フーリエ光学系によって簡単
に実現する方法が提案されている.[31] では,ビーム形成回路を制御局側に設置
して各素子アンテナへのミリ波信号を全てミリ波ファイバリンクで伝送する方式
を想定した要素技術の開発が報告されており,波長多重により伝送線路数を削減
している.
2.5.2
広帯域衛星通信システム
次世代のパーソナル衛星通信システムでは,地上にいるユーザの携帯機を小型
化するために衛星搭載側のアンテナ利得を高める必要があり,広いサービスエリ
アを多数の高利得ビームで覆うマルチビーム方式が提案されている [32].第4章
に述べる空間制御型ビーム走査型アレーアンテナを少し修正すれば,数百素子ア
ンテナおよび百ビーム以上の大規模な固定マルチビームアレーアンテナを比較的
容易に構成することができ,衛星搭載用のビーム形成回路に適している.
26
2.5.3
光空間通信システム
現在,無線通信で最高速のデータレートを実現しているのは,1.26Tbps を達
成している光空間通信システムである [33].しかしそのポイントは,通信技術と
いうよりも,空間を伝送されてきた光信号を口径 10cm 程度の望遠鏡のような
光アンテナで受信した後,シングルモードファイバの直径 10 μ um のコアに導
くために微小なミラーを制御する機械系の技術にある.これが実現されると,超
高速光ファイバ通信で使われている送受信機を接続するだけで著しい高速化が達
成できる.
ここで問題となるのは,外乱の影響で光の到来方向が変動するのを機械駆動の
ミラーで補償している点である.応答周波数が kHz 程度のため高速の外乱には
追随できず,残留追尾誤差となって空間光ー光ファイバの結合効率が低下する.
そこで,第3章で述べる,光ビームの方向を電子的に制御する光フェーズドア
レーにより超高速に偏向方向を制御できれば,残留追尾誤差を大幅に低減できる
可能性がある.
2.6
結言
光および電波のビーム走査技術それぞれについて簡単に紹介し,光技術と電波
技術を融合させたビーム走査技術の研究例について整理分類して説明した.
従来の光ビーム走査技術は,ビームを反射するミラーの角度を機械的に変化さ
せる技術が主流であり,その他の AO や EO 素子によるビーム走査技術において
も,ビームをの伝搬方向が変化するだけでビーム制御機能としては限定されてい
る.そこで,電波のフェーズドアレーアンテナの考え方を光ビーム走査技術にも
適用することで,初期捕捉/追尾機構を含めた完全に自動の光ビームアライメン
トや,空間分割多重技術が使える光 MIMO などの全く新しい多様な光ビーム制
御機能が実現できることから,第3章では光フェーズドアレーアンテナについて
検討する.LN の位相変調器の帯域が DC ∼ 40 GHz という非常に広帯域である
ことを考えれば,制御速度も最高速になると期待される.また,光フェーズドア
レーアンテナの応用例として,光空間通信システムを紹介した.
27
また,光技術を利用した電波のビーム走査技術では,高機能が期待できること
と,光波の短波長性から小型集積化が可能なことから,コヒーレント型の光位相
制御方式について検討した.中でも,数百素子以上もの多素子アレーアンテナへ
の給電信号を一括して形成できる空間制御型ビーム走査アレーアンテナと,ビー
ム形成回路部分が受動光導波路のみで構成されシステムが著しく簡単化される波
長制御型ビーム走査アレーアンテナは,特に重要と思われる.そこで,空間制御
型は第4章で,波長制御型は第5章で詳細に述べる.
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Communication Satellites," Tech. Digest of MWP '97, WE1-2, 1997.
30
第3章 光フェーズドアレーアンテナ
3.1
序言
本章では,光ビームを走査する技術として,電波のアレーアンテナにおける
フェーズドアレー技術を適用した研究について述べる.
光ビーム走査の従来技術としては,第2章で説明したように光ビームをミラー
で反射させ,そのミラーの角度を機械的に変化させる技術が主流である.これ
は,光の波長が1ミクロン程度と非常に短いため,センチメートル程度の小さな
開口のミラーでもビームが広がってしまうということがなく,またミラーの質量
も数十グラム程度に抑えられることから,多くの応用で必要な 100Hz 程度の走
査スピードを比較的容易に実現できるためである.しかし,このままでは実現で
きる機能はビームの走査や偏向のみに限られてしまう.また,ビーム走査速度を
向上するにはミラー質量を軽くする必要があり,このために小開口のミラーを使
うとビームが広がってしまい分解点数が少なくなる,というトレードオフの関係
に拘束され大幅な性能改善は期待できない.
そこで,電波のフェーズドアレーアンテナ技術と同じ考え方を適用し,複数の
開口からコヒーレントな光波を放射するシステムにおいて,各光波の位相を制御
することで出射光波全体の放射パターンを制御する,光フェーズドアレーアンテ
ナについて検討した.光波の位相制御デバイスとして LN の光位相変調器を用い
ると,現在では直流から 40GHz もの超広帯域の製品が市販されており,ミラー
質量やビーム広がり角とのトレードオフに縛られない超高速ビーム走査が可能に
なる.また,多素子化を進めてビーム走査・偏向だけでなく広がり角を可変にし
たり,ディジタル信号処理と融合させることで光 MIMO のような高機能なビー
ム制御を実現する,という多様な可能性が見えて来る.
ところで,電波の高周波信号と光信号の最も基本的な相違点は周波数と波長
である.例えば,無線 LAN で使われる 2.4GHz 帯のマイクロ波信号の波長は約
13cm であるのに対し,光ファイバ通信で利用される 1.3µm 帯の光信号の周波
31
数は 230THz であり,105 もの差がある.このため,高周波信号の場合と比較す
ると光信号は温度変化や振動などの外乱による伝送線路長の変化に対して位相が
非常に敏感に変化してしまい,アレーアンテナを構成した場合に素子アンテナ間
のコヒーレンシーを保つことが基本的な課題となる.
これに対し,まず,光信号を複数に分割する光分配機・光位相器・アレーアン
テナを全て一枚の光導波路に集積した導波路型フェーズドアレーアンテナを試作
した [1,2].光信号を分岐してから放射するまでの全機能を一枚の光導波路に集
積することで,温度や振動などの外乱が複数の給電光路に対して同一の影響を与
えるようになり,絶対位相は変動しても相対位相差は一定に保たれることが期待
される .
次に,光フェーズドアレーアンテナの新しい構成として,ファイバ型光フェー
ズドアレーアンテナについて検討した [3,4].これは光導波路で集積した光給電
回路部と微小レンズを素子アンテナとするアレーアンテナ部を光ファイバで接
続するという基本構成を持ち,素子アンテナ間の相対位相変動やグレーティング
ローブの発生を抑えながら光ビームを高速で2次元的に偏向できる.各給電用
ファイバにエルビウムドープファイバアンプ(EDFA)のような光アンプを組み
込めば,空間電力合成機能により,単に各光アンプの出力が合成されるだけでな
く,素子アンテナ数分に開口が広がるためビーム径が細くなるという効果も加わ
り,ピーク方向への放射電力は素子数の2乗に比例して増大することとなる.
本研究では,ファイバ型光フェーズドアレーアンテナの基礎実験として,3素
子のファイバ型光フェーズドアレーアンテナを構成し,実験で2次元ビーム走査
機能を確認した.3個の 1x2 可変電力分配器と4個の可変移相器を集積した LN
光導波路を光給電回路に,グレーデッドインデックスファイバ(GIF)レンズを
素子アンテナに用いて,これらを偏波面保存ファイバ(PMF)で接続した.導
波路に集積した可変移相器の 3 dB 帯域幅は DC から 924 MHz,正三角形に配
列した3素子アレーの光ビーム偏向範囲は半径 0.2 あった.素子アンテナである
GIF レンズのパラメータの最適化について検討し,利得係数最大という条件下で
グレーティングローブレベルを -14.5 dB,利得係数を 0.815 とできる見通しを
得た.
32
光フェーズドアレーアンテナは光を空間伝送するシステムに幅広い応用が期待
できる.例えば,光衛星間通信システムでは光アンテナに衛星の太陽電池パドル
の駆動や姿勢制御に伴う高速な姿勢変動を補償する機能を求めるが,光フェーズ
ドアレーアンテナはこれを可能にする [3].また,光無線 LAN 等において,光
ビームを自由自在に相手に向けるためには潜在的にその機能を有する光フェーズ
ドアレーアンテナが適している.
これら光の空間伝送システムでは,多くの場合,光を2次元的に偏向させる機
能が必要とされる.光ビーム中に多数の液晶素子を並べたり [5],ピエゾ素子で
ファイバを伸縮させて [6],2次元光ビーム偏向を実現した例があるが,位相制
御速度がミリ秒程度と遅い.高速な位相制御器としては光ファイバ通信で用いら
れる位相変調器があるが,これを使うには素子アンテナ間の相対的な位相の安定
度が課題となる.フェーズドアレーアンテナでは各素子アンテナから放射される
電磁波の位相を制御してビームを偏向するため,各素子アンテナ間の相対的な位
相差が外乱によって変動するとビーム出射方向も変動してしまう.そこで,入力
信号を各素子アンテナへの給電線路に分配したあと放射されるまでの各給電線路
長の変動を搬送波の波長に対して無視できる程度に抑えなければならない.光
フェーズドアレーアンテナの場合,搬送波の波長が 1 μ m 前後とマイクロ波に
比べて5桁も短いため,許容される給電線路長の変動は 10 nm 程度と非常に厳
しくなる.素子アンテナ間の相対的な位相を安定化する一般的な方法は,導波路
型光フェーズドアレーアンテナである [1,2].電力分配・位相制御・電波放射と
いうフェーズドアレーアンテナに必要とされる全機能を光集積回路技術によって
一枚の基板上に作製すると,温度変動などの外乱下でも各給電線路は一体として
変動するため,相対的な線路長変動は抑えられる.但し,現状の光集積回路技術
では基板表面にしか光導波路を形成できないため,素子アンテナは一列に並べる
ことしかできず,ビームの偏向は一次元に限られる.
もう一つの光フェーズドアレーアンテナに特徴的な課題は,グレーティング
ローブである.グレーティングローブは,アレーアンテナの素子アンテナ間隔が
離れている場合に所望の方向以外でも位相面が揃うために生じる強い放射のこ
とで,他システムへの干渉の原因となるため抑圧することが望ましい.一般にグ
レーティングローブを抑圧するには,素子アンテナ間隔を半波長以下などとして
その生じる方向を 90* 以上の不可視領域とする.しかし,光の場合,光ファイ
33
バや光導波路などの給電用光路はコアとクラッドの僅かな屈折率差で光のエネル
ギーを閉じ込めて伝送するため,単一モード伝送時においても光波のエネルギー
の横方向の広がりは波長より大きくなる.例えば標準的な 1.3 μ m 用単一モー
ド光ファイバの場合,コア径は 10 μ m で 7.7 波長,クラッド径は 125 μ m で
96 波長ある.このため,素子アンテナ間隔を十分狭くすることができず,数多
くの高レベルのグレーティングローブが発生する.
本章では,これらの現状の光フェーズドアレーアンテナの課題を克服し,高速
2次元光ビーム偏向を可能にする新しい構成として,ファイバ型光フェーズドア
レーアンテナをについて述べる.これは光導波路で集積した光給電回路部と素子
アンテナを2次元的に配列したアレーアンテナ部を短い光ファイバで接続すると
いう基本構成を持ち,高速で2次元的に光ビームを偏向できる.素子アンテナ間
の相対位相変動は光導波路で給電回路部を集積することと接続ファイバ長を短く
することにより,グレーティングローブはファイバ先端に微小なレンズを付ける
ことにより抑える.3.2節では,実験を行った3素子ファイバ型光フェーズド
アレーアンテナの構成について説明する.3.3節では実験結果として,光給電
回路における可変電力分配器の電力分配特性,可変移相器の静的な移相特性と周
波数特性,素子アンテナおよびアレーアンテナの放射パターン測定結果をまと
め,高速2次元光ビーム偏向動作が可能なことを示す.3.4節では,レンズに
よるグレーティングローブの抑圧方法について検討した結果を示す.
Optical Beam Forming Network (BFN)
VPD-2
Polarization
Filter
VPS-2
VPD-1
LD Pumped
Nd:YAG Laser
Array Antenna
VPS-1
Polarization
Controllers
PMFs
Graded-Index
Fiber Lenses
VPS-3
VPD-3
VPS-4
LiNbO3 Substrate
VPD:Variable Power Divider
VPS:Variable Phase Shifter
図 3-1 3 素子ファイバ型光フェーズドアレーアンテナの構成
34
3.2
ファイバ型光フェーズドアレーアンテナのシステム構成
高速2次元光ビーム偏向可能な光フェーズドアレーアンテナとして,ファイバ
型光フェーズドアレーアンテナについて検討した.電力分配・位相制御を行う光
給電回路部のみを光集積回路で一体として製作し,微小レンズを用いた素子アン
テナは導波路から分離して両者を光ファイバで接続する.光導波路で作製した光
給電回路部は,導波路型光フェーズドアレーアンテナで実証されているように,
多くの機能をコンパクトに集積できるとともに外乱に対して安定である.導波路
の基板材料としてはニオブ酸リチウム(LN),半導体,石英などがあるが,LN
では光ファイバ通信用外部変調器として非常に高速な移相器が実現されており
[8],高速光ビーム制御用光給電回路の基板材料として適している.導波路から
分離された素子アンテナは自由に配列でき,平面アレーアンテナとすれば2次元
光ビーム偏向が可能になる.一列に並んだ光導波路出力と任意に配列された素子
アンテナの間は光ファイバによって接続する.接続ファイバの役割は1次元的に
配列された光導波路の出力を2次元的に配列しなおすのみであり,これを短くす
ることなどにより素子アンテナ間の相対位相変動を小さく抑えることができる.
ファイバ型光フェーズドアレーアンテナによる高速2次元光ビーム偏向動作を
実証するため,最も単純な3素子のアレーアンテナを試作した.図 3-1 に3素子
ファイバ型光フェーズドアレーアンテナの構成を示す.
光源には波長 1.319 μ m(周波数 227 THz)の LD 励起 Nd:YAG レーザを用
いた.コヒーレンス長が 1 km 以上と長く,光給電回路で分岐した後の各給電光
路長の差によるコヒーレンスの劣化が無視できる.
光給電回路部では,3個の 1x2 可変電力分配器(Variable Power Divider,
VPD)と4個の可変移相器(Variable Phase Shifter, VPS)を Ti 拡散光導波路
により一枚の LN の基板上に集積した.3個の VPD で一本の入力を4本の出力
導波路に分配し,4個の VPS で各出力導波路の光波の位相を制御する.入力導
波路には不要な偏光成分を除去するために偏光フィルターを付けている.LN の
基板サイズは 65 mm x 2 mm である.
VPD は反転Δβ型方向性結合器型の光スイッチとした.LN 結晶の電気光学効
果により,制御電極に印加する電圧で方向性結合器内の伝搬定数 b を変化させ,
35
結合度を変えることで光強度の分配比を変える.2分割された電極は互いに印加
電圧の極性が反転しており,方向性結合器の結合長製作誤差があっても高い消光
比が得られ,光スイッチ全体のサイズも小さい.制御電圧により分配比を任意に
設定できるため,素子アンテナの励振分布を制御することもできる.
VPS は集中定数型電極を持つ位相変調器とした.VPD と同様に電気光学効果
によって導波路中の屈折率を変化させ,出力の位相を制御できる.将来,制御電
圧信号と導波路中の光波の速度を整合させる進行波型電極とすれば,更に高速度
の動作が期待できる.
光給電回路の4本の出力のうち3本を素子アンテナへ給電する.使わない分岐
には電力を分配しないように VPD を設定する.給電には,各素子アンテナの偏
波を揃えるため,偏波面保存ファイバ(PMF)を用いる.PMF 固有の偏波軸と
一致している直線偏光であればその偏波状態が保存されるため,外乱によってア
レーアンテナ部での各素子アンテナの偏波面が乱されない.筆者らの実験では光
給電回路の出力が単一モードファイバ(SMF)となっていたため,SMF 出射光
と PMF 固有の偏波軸を合わせるために偏波コントローラを用いた.出力ファイ
バが PMF であれば偏波コントローラは不要になる.
PMF 中を単一モードで伝搬する光波の電界はガウス分布で近似でき,その振
幅が 1/e となる直径をモードフィールド径(MFD)とよぶ.波長 1.3 μ m 用の
PMF では,MFD は 10 μ m(7.7 波長),ファイバ外径は 125 μ m(96 波長)
となる.このため,ファイバ端を並べてアレーを構成しただけでは素子アンテナ
間隔が大きくなり,非常に多数のグレーティングローブが生じる.ファイバ間隔
を狭くすることは困難なため,微小レンズを素子アンテナに用いて MFD を拡大
し,素子アンテナの放射パターンを鋭くすることでグレーティングローブを低減
する.この方法はビーム偏向時にメインローブの利得が低下してビーム偏向範囲
が制限されるが,実現が容易である.微小レンズにはグレーデッドインデックス
ファイバ(GIF)レンズを用いた [9].ここで用いた GIF は,外径は PMF と同一
であるが,内部の屈折率分布が中心から外側へと放物線状にゆるやかに減少して
いる.一定の長さの GIF は屈折率分布によって GRIN ロッドレンズと同様にレ
ンズ作用を示し,MFD を拡大できる.屈折率分布と長さをパラメータとして,
拡大後の MFD と出射波面の曲率を設計できる.GIF レンズは単に超小型である
だけでなく,PMF と同一外径なので融着接続でき,PMF とのアライメントやレ
36
ンズホルダが不要になる.また,隣接 GIF レンズと接するまで素子アンテナ間
隔を狭くできるため,3.3 節で述べるようにグレーティングローブの低減に有利
である.
3.3
3素子ファイバ型光フェーズドアレーアンテナの特性
3.3.1
光給電回路部の特性
光導波路で集積した光給電回路の基本特性を測定した.
図 3-2 に VPD の電力分配特性を示す.横軸は制御電圧,縦軸は全出力を1と
した場合の電力分配比をリニアスケールで表している.白印はスルーポート,黒
図 3-2 集積された可変電力分配器の電力分配特性
37
印はクロスポートへの出力電力比を示し,丸・四角・三角はそれぞれ VPD-1,
VPD-2,VPD-3 の特性を示している.30 V 程度までの直流電圧で任意の分岐比
が得られている.実験では,4本の出力のうち3本にのみ光を分配するように設
定した.
VPS の DC 制御電圧に対する移相量をヘテロダイン法で測定した.図 3-3 に
測定系を示す.Laser-1 および Laser-2 はともに波長 1.319 μ m の LD 励起 Nd:
YAG レーザであり,PLL によって各々の出力光の周波数差は 40 MHz に固定さ
れている.実験に用いた LN の光給電回路には,図 3-3 に示したヘテロダイン法
で測定するための導波路パターンをあらかじめ作製しておいた.制御電圧によっ
て移相された Laser-1 と移相されていない Laser-2 間の 40 MHz のビート信号
と,参照信号となるどちらも移相されていない Laser-1 と Laser-2 間の 40 MHz
のビート信号の位相差をネットワークアナライザで測定する.測定結果を図 3-4
に示す.横軸は制御電圧,縦軸は移相量である.測定では 10 秒間で最大 4 度
程度のランダムな変動がみられ,各測定値は 200 個の測定データを平均して求
めた.最小2乗法による近似直線も同図に示す.近似直線の傾きから求めた半
波長電圧は VPS-1,VPS-2,VPS-3,VPS-4 についてそれぞれ 4.84V,4.84V,
4.85V,4.86V と十分低いうえ良く一致しており,良好な特性が得られている.
図 3-5 に光コンポーネントアナライザを用いた VPS の周波数特性測定系を示
す.光コンポーネントアナライザは入出力にそれぞれ RF および光のポートを持
つネットワークアナライザで,電気,光,電気­光,光­電気の4種類のデバイ
スの周波数特性を測定できる.本測定では電気­光デバイスを測定する構成を用
いた.レーザからの光を2分岐して VPS を通過する光路と通過しない光路に通
した後,合波する.光コンポーネントアナライザの RF 正弦波信号出力を VPS
の位相制御電極に,合波光を光コンポーネントアナライザの光応答入力に接続
し,RF 正弦波信号の周波数を掃引しながら,合波光の検波出力に含まれる RF
正弦波信号と同じ周波数成分の強度を測定する.ここで,RF 正弦波信号の振幅
は約 40 の移相量に相当する 1 V とした.図 3-6 に測定結果の例を示す.低周波
側はほぼフラットで,光の応答が 3 dB 低下する点は 924 MHz である.この結
果より,本 VPS で位相制御することによりナノ秒程度の高速な光ビーム偏向が
可能なことが示された.
38
Control Voltage
PD
Laser-1
PLL Cont.
PD
Laser-2
Optical BFN
Network
Analyzer
Reference
Beat Signal
Phase Shifted
Beat Signal
図 3-3 集積された可変移相器の移相特性測定系
図 3-4 集積された可変移相器の移相特性
39
Laser
Optical BFN
Stimulus:
RF
Responce:
Optical
Optical Component Analyzer
図 3-5 集積された可変移相器の周波数特性測定系
図 3-6 集積された可変光移相器の周波数特性
40
3.3.2
アレーアンテナ部の特性
素子アンテナとして用いた3本の GIF レンズ付 PMF の放射パターンを図 3-7
に示す.遠方界条件を満たすように,GIF レンズ面から 26 cm 離れた位置に赤
外カメラの撮像面を設置して測定した.横軸は放射角度,縦軸はピーク強度で規
格化した相対強度である.各放射パターンともガウスビーム形状をしており,最
小2乗法でフィッティングしたガウスビームも同図に示す.各素子アンテナ放射
パターンの強度が 1/e2 となるビーム広がり角(FWe-2),それから計算した MFD
を表 3-1 に示す.広がり角約 1.6 度,MFD 約 60 μ m(46 λ)のほぼ同一の放
射パターンを持つ3本の素子アンテナが得られている.
2次元光ビーム偏向機能を実証するため,3本の GIF レンズ付 PMF を正三角
形に配列した.まず,各素子アンテナの放射ビームの偏波面が一致するように
PMF の回転角を調整する.次に放射パターンの最大方向が一致するように上下,
左右の傾きを調整する.最後に,各 GIF レンズ付 PMF の端面の中心を正三角形
図 3-7 GIF レンズを用いた素子アンテナの放射パターン
41
の頂点位置に配置する.図 3-8 は,調整後のアレーアンテナ部を出射方向から顕
微鏡で見た写真である.3本の GIF レンズの端面が一辺 247 μ m(187 l)の正
三角形の頂点に配置されている.
正三角配列とした3素子ファイバ型光フェーズドアレーアンテナの放射パター
ン例として(a)和パターンと(b)差パターンを図 3-9 に示す.縦軸・横軸に
上下・左右の2次元の放射角度θ x,θ y をとり,各方向への放射強度を等高線
図状に表している.等高線のレベルは各図の右端のスケールに示している.放射
表 3-1 素子アンテナが放射するガウスビームの特性
FWe-2 [Degree]
MFD [μm]
MFD [λ]
Element-1
1.64
58.5
44.4
Element-2
1.46
65.9
50.0
Element-3
1.63
58.9
44.7
�
図 3-8 素子アンテナが正三角配列された光フェーズドアレー放射部
42
(a)
(b)
図 3-9
3 素子ファイバ型光フェーズドアレーアンテナの放射パターン .
等高線のレベルは右端のスケール参照 . 放射強度が最も強い方向も少し
暗く表されているので注意 . (a) 和パターン,(b) 差パターン
43
強度が最も強い方向も少し暗く表されているので注意していただきたい.給電系
の VPD は両例とも各素子アンテナが等強度で給電されるように設定した.VPS
は(a)では各素子アンテナへの給電位相が等しくなるように設定しており,図
中央の正面方向への放射強度が最大となっている.(b)では 120°づつ異なる
ように設定しており,放射強度は正面方向では極小値を示し,0.20°離れたれ
た円周上の 120°おきの3方向で最大となっている.VPS の制御電圧を調整す
ることにより,メインローブの放射方向をこれらの中間の任意の2次元方向に偏
向することができる.メインローブの放射方向を 0.2°上偏向させると隣接する
グレーティングローブの強度の方が強くなるため,この光フェーズドアレーアン
テナの2次元的なビーム偏向範囲は 0.2°の円内となる.また,同図よりメイン
ローブだけでなく,その近くの正三角格子状の方向にも強いビームが放射されて
いることがわかる.
図 3-10 はアレーアンテナの垂直断面内のパターンを素子アンテナパターンと
共に示している.横軸は放射角度,縦軸は素子アンテナパターンの最大値で規格
化した相対強度である.3本の素子アンテナに等電力分配した後2素子を遮蔽
して各素子アンテナパターンを測定したため,アレーの全放射電力は3倍となっ
ており,和パターンの最大強度の理論値は9となる.測定値は8で理論値より少
し低いが,各素子アンテナの放射電力が空間的にコヒーレントに合成されている
ことを示している.理論値からの低下は素子アンテナのアライメントが不完全で
あったためと考えられる.また,メインローブに隣接するローブの放射方向は
0.35°,グレーティングローブの理論値 0.353°に良く一致しており,グレー
ティングローブと考えられる.そのレベルはメインローブより 1.8 dB 低下して
いるが,このサイドローブ抑圧比は十分ではない.この問題について,次節で検
討する
44
図 3-10 垂直断面内のアレーアンテナ和パターンと素子アンテナパターン
45
3.3.3
素子アンテナによるグレーティングローブ抑圧法
グレーティングローブを抑圧するために.筆者らは GIF レンズによって素子
アンテナの MFD を拡大し,素子パターンの広がり角を狭くする方法を試みた.
しかし,図 3-9 および図 3-10 から,まだ十分に抑圧できていないことがわか
る.そこで本手法を最適化することにより,どの程度グレーティングローブレベ
ルを抑圧できるか検討した.
図 3-11 に GIF レンズを用いた3素子アレーアンテナの模式図を示す.各素子
アンテナは GIF レンズで PMF の MFD を拡大し,ビームウェスト半径 w,波面
曲率 のガウスビームを出射する.ガウスビーム周辺部の GIF レンズ半径 a 以上
の部分の光は GIF レンズ端面には到達できず,GIF レンズ側面から漏れて隣接
ファイバで更に反射・散乱されるなどと考えられる.しかし,この光の放射角度
が大きいことおよび GIF レンズ側面にコーティングすることで吸収できること
から,計算では漏れ損失として放射パターンには寄与しないとする.この素子ア
ンテナの開口面上の電界 E(r) は,
2
E(r) = E 0 exp ± r 2 ; r ≤ a
w
E(r) = 0
;r>a
(3-1)
Spill-Over Loss
PMF
GIF Lens
a
w
Array
G(θ1) Pattern
G(0)
Elm Pattern
G(θ)
図 3-11 アレーアンテ部の模式図
46
と表される.ここで,r は GIF レンズ面上の半径方向の長さである.この素子ア
ンテナによる指向性利得パターン G( θ ) は,
G(θ ) = 2π a
λ
2
η(θ ) = 2a2
w
1
0
2
η( θ )
(3-2)
exp - a 2 u J 0 ka sin θ u du
w
2
2
(3-3)
となる.ここで k は波数,(2 π a/ λ )2 は半径 a の円形開口一様照射アンテナ
の最大指向性利得である.η ( θ ) はファイバ開口径 a を最も有効に利用した場
合の利得からの劣化量を表す利得係数であり,正面方向からの角度 q,周辺部の
ないガウス型開口面分布,およびファイバ側面での漏れ損失の効果を表してい
る.
一辺 d の正三角アレーアンテナの和パターンの場合,メインローブの隣の第
1グレーティングローブが生じる方向θ 1 は ,
θ 1 = sin -1
2λ
3d
(3-4)
で与えられる.正面およびグレーティングローブ方向では各素子アンテナからの
放射が同相で合成されるため,グレーティングローブレベル g1 は単に素子アン
テナにおける正面方向と第一グレーティングローブ方向の利得比
g1 =
G(θ 1) η(θ 1)
=
G(0)
η(0)
(3-5)
で計算できる.ここで,
2
2
η(0) = 2w2 1 - exp - a 2
a
w
2
(3-6)
は素子アンテナの正面方向の利得係数である.
図 3-12 に GIF レンズによって拡大された MFD(ビームウェスト直径 2w)に
47
対するグレーティングローブレベルの変化を示す.ここでファイバ外径 (2a) は
125 μ m とし,素子アンテナ間隔 d として実験時の値である 247 μ m とファ
イバ外形と同じ 125 μ m の場合の2例について計算した.標準的な単一モード
光ファイバのように MFD が小さい場合,素子アンテナの放射パターンが大きく
広がっているため,グレーティングローブはほとんど低下せず,メインローブ
と同等の強度を持つローブが多数発生する.MFD を大きくしていくと素子アン
テナパターンが鋭くなり,グレーティングローブレベルは単調に減少する.減
少の度合いは素子間隔によって大きく異なり,247 μ m の場合は緩やかである
が,125 μ m の場合は急速に減少する.最終的には,素子間隔 247 μ m の場合
図 3-12 グレーティングローブレベルおよび利得係数の MFD 依存性
48
-3.96 dB,素子間隔 125 μ m の場合 -26.7 dB に漸近する.グレーティングロー
ブレベル低減の観点からは,素子間隔はできるだけ狭く,MFD はできるだけ大
きくすることが望ましい.
一方,メインローブの利得を最大にするという条件では,ファイバ側面からの
漏れ損失のため,MFD に最適値が存在する.図 3-12 には素子アンテナの正面
方向の利得係数η (0) の MFD による変化も破線で示している.なお,このη (0)
は素子間隔には依存しない.MFD が小さい場合,ファイバ開口の中心部しか
使っていないためη (0) は低い.MFD を大きくしていくとファイバ開口を有効
に使うようになるためη (0) は増大する.しかし,MFD が 100 μ m 以上にな
るとファイバ側面からの漏れ損失が増大し,h(0) は MFD が 111.5 μ m のとき
最大値 0.815 となった後,減少する.MFD を無限大とした場合,h(0) は 0 とな
る.
PMF 端面をそのまま素子アンテナとした場合の MFD は 10 μ m であり,
グレーティングローブレベルは素子間隔 247 μ m の場合 -0.047dB,素子間隔
125 μ m の場合 -0.18 dB とほとんどメインローブと同レベルである.今回実
験で素子アンテナに用いた GIF レンズでは拡大後の MFD が約 60 μ m,素子ア
ンテナ間隔が 247 μ m でグレーティングローブレベルは -1.8 dB であり,理論
値の -1.6 dB と良く一致している.実験結果を図 3-12 中に白丸で示す.メイン
ローブの利得を最大にするには,MFD を h(0) が最大となる 111.5 μ m にする
とともに,素子間隔を 125 μ m まで接近させることで,グレーティングローブ
レベルを -14.5 dB,利得係数を 0.815 とできる.更にグレーティングローブレ
ベルを低減するには 111.5 μ m 以上の適当な MFD を選定するが,利得係数は
低下する.多素子化した場合には,全体に励振分布を持たせる方法も考えられ
る.
3.4
結言
本章では,光のビーム走査技術に,電波の分野で培われてきたフェーズドア
レーの考え方を適用することを試みた.光導波路に集積した光給電回路部と微小
レンズを素子アンテナとするアレーアンテナ部を短いファイバで接続するという
49
構成を持つ.
光の場合,電波と比べて波長が5桁程度短いため,複数の素子アンテナが放射
する光波の間でコヒーレンシーを保ちながら,位相関係を所望の値に制御するこ
とが大きな課題となる.本研究では,単一の光波を,分配/強度制御/位相制御
を行なう光給電回路部分を単一の LN チップ上に集積し,たとえ温度や振動など
の外乱の影響を受けても各素子の位相変動量が等しくなり相対位相は安定となる
ようにした.光給電回路では一枚の LiNbO3 基板上に Ti 拡散導波路で3個の可
変電力分配器(VPD)と4個の可変移相器(VPS)を集積した.可変移相器の周
波数特性は DC から 924 MHz と広帯域であり,ナノ秒程度の高速な光ビーム制
御が可能なことが示された.
また,ビーム形成回路部分と出射アンテナ部は直径 125 μ m の市販の偏波面
保存ファイバで接続する構成としたが,この場合,必然的に素子アンテナ間隔
も 125 μ m 以上,波長を単位とすると 100 波長以上にもなってしまい,不要な
グレーティングローブが多数形成されてしまう.この課題に対しては,アレーア
ンテナ全体の指向性がアレー配列で決まるアレーファクタと素子アンテナパター
ンの積となることから,アレー配列を変更して素子アンテナ間を接近させる方法
と,素子アンテナの開口を広げて素子パターンを狭くする方法が考えられる.こ
こでは,ファイバ端面に融着された GIF レンズを素子アンテナとすることで素
子アンテナパターンを狭くし,グレーティングローブを低減する手法について検
討した.
実験では,3素子で正三角アレーアンテナを構成し,2次元光ビーム偏向動作
を実証した.偏向範囲は半径 0.2 度の円内,正面指向時に 0.35 度方向に発生す
る第一グレーティングローブレベルは -1.8 dB であった.
以上のように,電波のフェーズドアレーアンテナの考え方を光にも適用し,実
際に動作させることが可能であることを実証することができた.これによって,
今後ディジタル技術などとの融合を進めることで,光 MIMO などの更に高度な
光ビーム走査技術への可能性を拓くことができた.
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