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中国 GDP 世界第2位時代の 日本企業の対中

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中国 GDP 世界第2位時代の 日本企業の対中
『中国 GDP 世界第2位時代の
日本企業の対中ビジネス戦略』
報告書
2011年3月
日本貿易振興機構'ジェトロ(
海外調査部 中国北アジア課
Copyright (C) 2011 JETRO.
All rights reserved.
ジェトロは、本報告書の記載内容に関して生じた直接的、間接的、あるいは懲罰的損害
および利益の喪失については、一切の責任を負いません。これは、たとえ、ジェトロが
かかる損害の可能性を知らされていても同様とします。
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All rights reserved.
はじめに
中国の 2010 年の实質 GDP(国内総生産)成長率は、輸出の大幅な回復等により、10.3%
と2ケタ成長を達成、GDP は 39 兆 7,983 億元となり、日本を抜いて世界第2位の経済大
国へ躍進しました。
同年通年の日中貿易総額は前年比 30.0%増の 3,018 億 5,540 万ドルと、
日本の二国間貿易において初めて 3,000 億ドルを突破し、通年ベースでの過去最高を更新
しました。
また、2009 年の日本の対中直接投資は、世界的な金融危機の中でも、12.4%増の 41 億
497 万ドルとなり、中国にとって日本は、国・地域別では香港、英領バージン諸島に次ぎ
第3位となりましたが、2010 年も同様に増加基調で推移しており、新たな投資ブームが到
来しています。今般のブームの特徴としては、中国をマーケットとして捉え、積極的に市
場開拓を図る企業がこれまで以上に増加していることが挙げられます。
他方、2010 年は日本企業が中国リスクをあらためて認識した年となりました。春先から
沿海部を中心にストライキや賃上げの動きが広がり、夏頃からは省エネ目標達成を目的と
した不合理な電力供給制限、秋には尖閣諸島での漁船衝突事件を契機に、通関遅延やレア
アースの輸出停止といった問題が相次いで発生しました。
しかし、中国は日本にとって重要な隣国であり続けますし、尐子高齢化を背景に国内市
場が伸び悩む中、日本企業としては、中国経済の活力を取り込み、成長戦略を描いていく
ことも求められています。
こうした中、ジェトロでは日本企業の対中ビジネスのご参考としていただくべく、有識
者による「中国ビジネス戦略研究会」を組織し、今後の中国ビジネスのあり方について議
論を重ねて参りました。また、これに併せて日本企業や地方自治体等へのヒアリング調査
を 2010 年 12 月から 2011 年2月にかけて实施し、それらを踏まえて、調査報告書にとり
まとめました。今般の調査にご協力いただいたのは合計 171 先で、延べ 331 名の方々から
さまざまな貴重なご意見をうかがわせていただきました。本調査はこうした数多くの方々
のご協力やご支援がなければ到底達し挙げられなかったものであり、この場を借りて厚く
お礼申し上げる次第です。
本調査報告書が中国ビジネスに携わる関係各位のご参考となれば幸甚に存じます。
2011 年3月
日本貿易振興機構(ジェトロ)
海外調査部 中国北アジア課
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<
目
次
>
はじめに 中国ビジネスの新潮流・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
第1章 現状分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8
Ⅰ.中国経済の現況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
1.2001 年の飛躍・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
2.第 11 次五カ年規画の新機軸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10
3.通貨バスケット制への移行・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11
4.金融危機下の中国の存在感・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11
5.GDP 世界第2位へ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
13
Ⅱ.日中貿易の動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
1.過去 10 年間の貿易概況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
2.日中貿易構造の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
17
3.2010 年における日中貿易の動向と特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・
17
4.2011 年通年の見通し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
18
Ⅲ.日本の対中直接投資の動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
21
1.第4次ブームを迎えた対中直接投資・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
21
2.第3国・地域での事業展開を視野に入れた中国進出・・・・・・・・・・・・
22
3.非製造業分野でも新規投資が相次ぐ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
24
4.環境・省エネビジネスへの参入を模索・・・・・・・・・・・・・・・・・・
25
5.新たなフロンティアとして関心高まる内陸部・・・・・・・・・・・・・・・
26
Ⅳ.中国の投資環境の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
1.外資利用の質の向上を目指す8大方針・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
2.外資利用の一段の改善に関する若干の意見・・・・・・・・・・・・・・・・
29
3.雇用・賃金情勢・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
32
4.外資導入に関する最近の動き・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
34
Ⅴ.日系企業の事業運営動向および問題点・課題・・・・・・・・・・・・・・・・
36
1.中国事業は拡大傾向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
36
2.利益改善の最大の理由は中国市場での売上増加・・・・・・・・・・・・・・
36
3.最大の課題は賃金上昇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
39
第2章 将来展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
Ⅰ.中国経済の中長期展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
46
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1.2020 年に向け経済成長率は徐々に低下・・・・・・・・・・・・・・・・・・
46
2.環境・エネルギー問題や尐子高齢化が制約要因に・・・・・・・・・・・・・
47
3.経済成長のカギは個人消費、第3次産業、内陸部開発・・・・・・・・・・・
47
4.今後の注目点は新政権の政策運営、5ヵ年規画等・・・・・・・・・・・・・・
50
Ⅱ.第 12 次5ヵ年規画(2011~15 年)の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・
52
1.11・5規画の目標達成状況と政府の課題認識・・・・・・・・・・・・・・・・
52
2.12・5規画期における7つの主要目標と任務・・・・・・・・・・・・・・・・
53
Ⅲ.中国の戦略的新興産業の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
1.産学連携、外資導入などでイノベーションを強化・・・・・・・・・・・・・
55
2.戦略的新興産業の育成と発展に必要な3つのイノベーション・・・・・・・・
55
3.戦略的新興産業の発展における7つの難題・・・・・・・・・・・・・・・・
56
4.イノベーションアライアンスの基盤づくりがスタート・・・・・・・・・・・
58
第3章 日本企業の今後の対中ビジネス戦略・・・・・・・・・・・・・・・・・・
59
Ⅰ.競争力強化に向けた課題・問題点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
60
1.基本戦略と第 12 次五ヵ年規画の研究・分析・・・・・・・・・・・・・・・・
60
2.市場に適合した製品の研究開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63
3.流通チャネルの開拓・確保・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
66
4.きめ細かなマーケティング・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
70
5.コスト競争力の強化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
74
6.人材の育成・現地化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
77
(補論)本社と現地法人の連携・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
82
Ⅱ.リスクマネジメントの強化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
83
1.基本戦略とチャイナリスクの体系的整理・・・・・・・・・・・・・・・・・
83
2.情報収集・分析力の強化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
87
3.内外におけるリレーションの強化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
89
4.法制度問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
90
5.知的財産権の保護・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
94
6.労務問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
98
7.環境・省エネ規制の強化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 102
8.消費者対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 104
9.コンプライアンス問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 106
10.セキュリティリスクへの対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 108
11.マスコミ対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 112
12.撤退戦略・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 114
13.日本企業のリスクマネジメント事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 118
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(事例1)キリンホールディングス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 118
(事例2)資生堂・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 119
(事例3)TOTO・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 120
(事例4)日本精工(NSK)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 121
Ⅲ.戦略的ビジネスアライアンスの展開・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
122
1.基本戦略・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 122
2.日本企業によるコンソーシアムの事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 124
(事例1)衆智達汽車部件(常州)有限公司・・・・・・・・・・・・・・・・・ 124
(事例2)メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア・コンソーシアム(MIJS)
・・・ 126
(事例3)グリーン・グループ・メンバーズ(GGM)・・・・・・・・・・・・・ 127
3.中国企業とのビジネスアライアンス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 129
4.NIES 企業とのビジネスアライアンス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 134
Ⅳ.チャイナ・プラス・ワン戦略と FTA 戦略・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 142
1.生産拠点分散型のチャイナ・プラス・ワン戦略・・・・・・・・・・・・・・ 142
2.市場開拓型のチャイナ・プラス・ワン戦略・・・・・・・・・・・・・・・・ 143
3.中国での FTA 活用は限定的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 144
(チャイナ・プラス・ワン戦略の事例)丸久・・・・・・・・・・・・・・・・・ 147
Ⅴ.専門家インタビューから中国ビジネス戦略を探る・・・・・・・・・・・・・・ 149
(インタビュー1)大地法律事務所・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 149
(インタビュー2)デロイト・トウシュ・トーマツ北京・・・・・・・・・・・・ 152
(インタビュー3)東京海上日動リスクコンサルティング・・・・・・・・・・・ 155
(インタビュー4)コーチ・エィ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 158
第4章 地方経済活性化に向けた中国の活用・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 161
Ⅰ.観光誘致の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 162
1.映画・ドラマのロケ地誘致・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 162
2.産業面での強みも観光客には魅力・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 163
3.注目される格安航空会社(LCC)やクルーズ船の誘致・・・・・・・・・・・ 164
4.地方自治体の広域連携でさらに効果的な誘致を・・・・・・・・・・・・・・ 165
Ⅱ.地場産品の輸出促進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 166
1.輸出促進に向けた課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 166
2.地方自治体による取り組み事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 168
3.今後の取り組みにおける課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 170
Ⅲ.地場産業の海外進出支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 171
1.地方自治体による中国進出支援事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 171
2.地方自治体による中国以外の国・地域に対する支援事例・・・・・・・・・・ 172
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3.今後の地方自治体による海外進出企業支援の展望・・・・・・・・・・・・・ 173
Ⅳ.対日投資と地域活性化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 174
Ⅴ.友好都市提携の活用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 175
1.地方自治体による友好都市提携の活用事例・・・・・・・・・・・・・・・・ 175
2.上海市以外の候補先とその役割・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 176
Ⅵ.地方自治体と日本企業の連携事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 177
(事例1)岩手県花巻市・デンロコーポレーション・・・・・・・・・・・・・・ 177
(事例2)長野県上田市・サンクゼール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 179
(事例3)神奈川県横浜市・ファンケル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 180
(事例4)京都府舞鶴市・日立造船・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 181
(事例5)福岡県・アサヒビール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 182
(事例6)大分県大分市・九州乳業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 183
(事例7)沖縄県・全日本空輸(ANA)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 185
むすび 今後の中国ビジネス戦略に対する8つの提言・・・・・・・・・・・・・・ 186
(参考資料1)中国ビジネスに対するジェトロの支援事業・・・・・・・・・・・・ 187
(参考資料2)調査に協力いただいた企業・団体・地方自治体等・・・・・・・・・ 189
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はじめに 中国ビジネスの新潮流
1.中国ビジネスへの取り組みは引き続き積極的
2010 年、中国は国内総生産(GDP)が日本を上回り、世界第2位の経済大国に躍進し
た。他方、同年は日本企業が中国リスクをあらためて認識した年となった。春先から沿海
部を中心にストライキや賃上げの動きが広がり、夏頃からは省エネ目標達成を目的とした
不合理な電力供給制限、秋には尖閣諸島での漁船衝突事件を契機に、通関遅延やレアアー
スの輸出停止といった問題が相次いで発生した。
中国の大国意識が高まる中で、日中関係は今後ますます難しくなっていくことも予想さ
れる。とはいえ、尐子高齢化を背景に国内市場の拡大が期待できない中で、日本企業は中
国経済の活力を取り込んでいくことが求められている。今後の中国ビジネスはどうあるべ
きか、多くの日本企業が対中戦略を模索している。
こうした背景の下、ジェトロでは、日本企業の今後の中国ビジネス戦略の参考にしてい
ただくべく、提言のとりまとめを行うこととなった。とりまとめに当たっては、外部の有
識者を交えた「中国ビジネス戦略研究会」を組織し、議論を重ねてきた。また、同研究会
と併せて、实際に中国ビジネスに取り組んでいる日本企業や業界団体、あるいは地方自治
体からもヒアリング調査を行った。
今般のヒアリング先は合計 171 先で、
延べ 331 名の方々
からさまざまな意見をうかがった。
ヒアリング調査の結果からみると、日本企業はリスクがあることは認識しつつも、対中
ビジネスに引き続き積極的に取り組む姿勢を示しているところが大半であった。また、地
方自治体も中国経済の活力を地域活性化につなげるべく、取り組みを強化しているところ
が多かった。
こうした傾向はアンケート調査の結果からも裏付けられる。国際協力銀行(JBIC)が
2010 年 12 月に公表した「わが国製造業企業の海外事業展開の動向」に関するアンケート
調査によると、尖閣諸島問題後、有望国としての中国の評価は「多尐下がった」との回答
が 21.9%と2割を超えたものの、「特に変わらない」との回答が最多で、63.0%と6割を
超えた(図表1)
。
同調査で、今後の中国事業・市場に対する見通しを聞いたところ、
「従来どおり積極的に
取り組む」(42.3%)と「取り組みは続けるが、リスク分散が重要と認識」(43.8%)との
回答が拮抗したが、
「他国・地域での取り組みを強化する」との回答はわずか 3.1%にとど
まった(図表2)
。
また、ジェトロが 2011 年3月に公表した「日本企業の海外事業展開に関するアンケー
ト調査」によれば、中国での今後(3年程度)のビジネス展開について、
「既存ビジネスの
拡充、新規ビジネスを検討している」と回答した企業の割合は 65.1%と、2年連続で増加
し、引き続き高いビジネス意欲を示した(図表3)
。過去1年間の中国におけるビジネスリ
スクについては、52.7%の企業が「高まった」と回答した(図表4)
。しかし、
「高まった」
1
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と回答した企業も、今後(3年程度)のビジネス展開については「既存ビジネスの拡充、
新規ビジネスを検討している」企業が 63.8%と最多であった(図表5)
。
(図表1)有望国としての中国の評価の変化
(図表2)今後の中国事業・市場に対する見通し
大きく下がった
2.9%
現時点ではわ
からない
12.3%
中国事業には
大きなリスクが
あると認識し、
中国事業・市場
への依存度を
下げるなど見
直しをするとと
もに、他国・地
域での取り組
みを強化する
3.1%
現時点ではわ
からない
10.8%
多尐下がった
21.9%
特に変わらない
63.0%
中国事業への
取り組みは今
後も続けるが、
一方で他国・地
域へのリスク分
散が重要と認
識している
43.8%
中国は、ビジネ
ス相手先や市
場として重要で
あり、従来どお
り積極的に事
業に取り組む
42.3%
(出所)国際協力銀行「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告(2010 年度)」
(図表3)中国での今後(3年程度の)ビジネス展開
2008年度調査
47.2
2009年度調査
30.7
60.6
2010年度調査
21.1
65.1
0%
10%
20%
30%
3.2
0.7
17.8
40%
50%
60%
70%
14.5
1.9
80%
既存ビジネスの拡充、新規ビジ ネスを検討している
既存のビジネス規模を維持する
既存ビジネスの縮小・撤退を検討している
今後もビジネス展開は行わない
13.4
4.4
4.2
11.6
3.7
90%
100%
不明・無回答
(出所)ジェトロ「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(2011 年3月)
2
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(図表4)中国におけるビジネスリスク
(図表5)
「リスクが高まった」と回答した
(過去1年間)
低下した
1.2%
企業の今後のビジネス展開
不明・無
回答
14.3%
2010年度
調査
63.8
19.5
3.4
12.3 0.9
高まった
52.7%
変わらない
31.8%
0%
20%
40%
60%
80%
既存ビジネスの拡充、新規ビジネスを検討している
既存のビジネス規模を維持する
既存ビジネスの縮小・撤退を検討している
今後もビジネス展開は行わない
不明・無回答
(出所)ジェトロ「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(2011 年3月)
(図表6)中国を含めた海外売上高の拡大を図る日本企業の事例
キリンホールディングス
アジア・オセアニアでのリーディングカンパニーとなり、2015年の海外売上高比率
30%の実現を目指し、国際化を推進。
東芝
海外売上高比率を2009年度の55%から2012年度に63%に拡大。うち新興国の
比率を24%から31%に拡大。
TOTO
販売・サービス体制を強化し、2008年に220億円であった中国事業売上高を創
業100周年を迎える2017年に420億円に拡大。
凸版印刷
海外売上高比率は2009年度で12.3%。海外売上高の約7割を占める中国を中心
としたアジア市場でのシェアを拡大し、2015年度に30%に拡大する計画。
トヨタ自動車
新興国での販売を伸ばし、販売実績を2010年の40%から2015年には50%に拡
大する計画。
日本精工
中国での売上高は2010年3月期で618億円。2013年3月期には1,000億円を視
野に。
パナソニック
海外売上高比率を2009年度の48%から2012年度に55%に拡大。新興国での増
販額3,300億円のうち、中国では1,070億円を目指す。
日立製作所
海外売上高比率を2009年度の41%から2012年度に48%に拡大。うち中国の比
率を11%から16%へ拡大。
三菱ケミカルホールディン 海外売上高比率を2010年度の34%から2015年度は45%に拡大。売上高に占め
グス
る「アジア+新興国」の比率を2010年度の23%から2015年度に30%に拡大。
三菱重工業
海外受注比率を2007~09年度平均の49%から2014年度に63%に拡大。海外
受注に占めるアジアの比率を24%に拡大。
安川電機
海外売上高比率を2009年度の48%から2012年度に57%に拡大。うち、中国の
比率を14%から19%へ拡大。
(出所)各社のウェブサイト、プレスリリース、アニュアルレポート等を基に作成
3
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100%
このように日本企業が中国ビジネスに積極的な背景には、第1に中国市場の成長性に対
する期待がある。第2に、日本国内の市場が成熟・飽和していることがある。加えて、今
後は尐子高齢化の進展により人口が減尐していくことを考慮すれば、将来的にも市場拡大
が見込めないことも挙げられる。そういう意味で、日本企業が今後生き残りを図る上では
海外市場の開拓が喫緊の課題になっており、その最も有力なターゲットが中国となってい
る。实際、中国も含めた海外売上高を拡大させていく方針を明確に打ち出す日本企業は増
加傾向にある(図表6)。
2.本報告書の構成
本報告書はかかる状況の中で、今後の中国ビジネス戦略のあり方に関する論点をとりま
とめたものである。その構成は以下の通りである。第1章「現状分析」では、中国経済の
現況、日中の貿易・投資動向、中国の投資環境に関わる最近の変化、日本企業の事業運営
動向や問題点・課題について概観した。
第2章「将来展望」では、中長期的視点での中国経済の注目点や、2011 年から始まった
「第 12 次5ヵ年規画」の概要、あるいは中国政府が 2010 年から打ち出した「戦略的新興
産業」のポイントなどについて考察した。
第3章「日本企業の今後の対中ビジネス戦略」では、ヒアリング調査の結果も交えなが
ら、具体的な戦略について検討した。まず、競争が厳しさを増す中国市場で日本企業が勝
ち抜くために必要な国際競争力の強化に向けた課題や問題点などについて検証した。
次に、日本企業の経営に対する中国の影響度の高まりを背景に、重要性が増しているリ
スクマネジメントについて、リスクを体系的に整理しつつ、対応策を総括した。また、国
際競争力とリスクマネジメントの双方をサポートするツールの1つとして、戦略的ビジネ
スアライアンスについて、具体的な事例を交えながら、成功のカギを探った。
この他、第3章では、チャイナ・プラス・ワン戦略や FTA 戦略について、ヒアリング結
果を基に言及したほか、弁護士・会計士事務所、コンサルティング会社等の専門家へのイ
ンタビューも掲載している。
第4章「地方経済活性化に向けた中国の活用」では、観光誘致、輸出促進、進出支援、
友好都市提携などを通じて、地方活性化を狙う地方自治体の取り組みについてとりまとめ
た。また、地方自治体と企業が連携して中国の需要を取り込む事例についても紹介した。
むすびでは「中国ビジネス戦略研究会」委員からの意見やアドバイスも踏まえて、今後
の中国ビジネス戦略に対する提言をとりまとめた。
3.中国ビジネスにおける新たな動き
最後に今般のヒアリング調査から得られた最近の中国ビジネスにおける新たな動きにつ
いて、販売と生産の両面から紹介する。中国の変化は速いが、その流れをいち早くつかみ、
先手を打って戦略を推進していくことがビジネスを成功させる上でのポイントとなる。
4
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(1)販売面:所得向上の中で高度化する中国市場
経済成長に伴う賃金上昇を背景に、中国の個人所得は急速に増加している。都市住民1
人当たりの可処分所得は 05 年の1万 493 元から 10 年は1万 9,109 元と 1.8 倍に増加。こ
の間の伸び率は年平均で 9.7%に達した。農村住民の1人当たりの純収入も同期間に 3,255
元から 5,919 元と 1.8 倍に増加。この間の伸び率は年平均 8.9%に達した。
こうした所得の向上を背景に、中国市場に「高度化」という新たな流れが顕在化しつつ
ある。そのキーワードは「クオリティー(優れた品質)」
、
「セーフティ(安全・安心)」、
「エ
コロジー(環境にやさしい)
」である。
クオリティーを求める動きとしては、キヤノンでは、デジタル一眼レフカメラの入門機
の売上が伸びている。 デジタルカメラの購入者は、最初はコンパクトカメラを買うことが
多いが、 中国ではいきなりデジタル一眼レフを求める層が増えている。
また、グンゼが中国で販売しているレッグ商品の約8割は日本で生産して輸出している
ため価格が高く、パンティストッキングでは 100~400 元もするものの、百貨店を中心に
売れ行きは好調である。
豊田通商は 2010 年、中国の敬老の日である 10 月 10 日に四川省成都市のイトーヨーカ
ドーで介護福祉製品のテスト販売キャンペーンを实施したところ、中国メーカーの製品よ
り高額でありながら、日本の品質が評価され売れ行きは好調だった。
良品計画の 2010 年度第3四半期連結会計期間(3~11 月)における中国直営店の売上
高は、前年同期比2倍超となった。同社の商品コンセプトは「シンプル」、
「質素」である
が、そのターゲットとなる「価格合理性と品質の良さを理解でき、教育レベルが高い層」
が中国でも着实に増加している。
セーフティを求める動きとしては、中国でも日本の高度なセキュリティサービスに対す
るニーズが高まっており、セコムでは現在、契約の9割以上が中国企業となっており、日
本企業および外資系企業の契約件数を大幅に上回っているという。
ファンケルは、中国で販売する化粧品は全て日本製で、現地での販売価格は日本の 1.5
倍程度ながら無添加化粧品に対するニーズは高く売上は好調である。また、同社の銀座ス
クエアでは、来店実の約6割が中国人で、中国で販売していない商品を大量に購入してお
り、購入単価は日本人の約3倍にも達するという。
エコロジーを求める動きとしては、TOTO は、節水技術を盛り込んだ衛生陶器の販売が
好調だ。現在、同社製品の洗浄水量は 4.8 リットル(従来は 10 リットル)という超節水型
であり、環境配慮型の製品投入によりブランド認知度も向上している。
ブリヂストンは、低燃費タイヤ「ECOPIA」の販売が好調だ。自動車を所有している層
に対し「低燃費タイヤ=省エネ=ガソリン代の節約につながる」というロジックがわかり
やすかったという側面もある。
市場の高度化を背景に、中国では品質に優れ、安全・安心で、環境に優しい商品が売れ
筋商品となりつつあることは日本企業にとって商機となり得る。加えて、日本製品のコス
5
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トパフォーマンスの良さも強みとなる。中国市場に出回る商品は「高価で良いもの」か「安
価でそれなりのもの」に二極化しているが、日本企業がデフレ経済下で生み出してきた「安
価で良質なもの」
に対して価格に敏感な中国の消費者のニーズが高まることも予想される。
(図表7)高度化する中国市場の売れ筋商品
クオリティー(優れた品質)
セーフティ(安全・安心)

<キヤノン>
いきなり一眼レフを求めるデジタルカ
メラ購入者が増加。

<グンゼ>
日本で生産した高価なレッグ商品の売
れ行きが好調。



<豊田通商>
日本の品質が評価され介護福祉製品の
テスト販売が好調。
<ファンケル>
無添加化粧品に対するニーズは高く売
上が好調。
エコロジー(環境にやさしい)


<セコム>
日本の高度なセキュリティサービスに
対するニーズが高まっており契約の9
割以上が中国企業。
<良品計画>
商品コンセプトである「シンプル」、
「質
素」を理解できる層が着実に増加。

<TOTO>
節水技術を盛り込んだ衛生陶器の販売
が好調。
<ブリヂストン>
低燃費タイヤの販売が好調。
(出所)ヒアリング等を基に作成
(2)生産面:自動化・省力化に向けた動きが加速
中国では近年、賃金上昇が続いており、2010 年の法定最低賃金の上昇率は全国平均で
23.9%に達した。中国政府は第 12 次5ヵ年規画(2011~15 年)において、「国民生活の
全面的な改善」を为要目標の1つとして定め、経済成長と同じペースで国民所得を増加さ
せることや、法定最低賃金を年平均 13%増加させることなどを謳っており、日本企業は「今
後とも賃金上昇が続くことは不可避」との認識を高めている。
加えて、15 年頃からは労働人口が減尐に転じていくことも見込まれており、労働力不足
の問題が深刻化していくことも懸念される。低廉な労働力が豊富に調達できるという中国
の生産拠点としての優位性は急速に低下しつつある。
こうした賃金上昇や労働力不足への対応策として、
進出日本企業が推進しているのが
「自
動化・省力化」である。これは、日本企業が 60~70 年代の高度成長期に本格的に取り組
んだテーマであるが、こうした動きが今後は中国においても加速していくとみられる。
自動化・省力化に向けて各社が導入を進めているのが産業用ロボットだ。实際、日本ロ
ボット工業会が 11 年2月に公表した「マニピュレータ、ロボット統計生産・出荷实績 10
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年 10~12 月期」によると、同期の輸出は、自動車向けが为要用途である「溶接用」では、
中国を始めとしたアジア向けが好調だったことから、前年同期比 2.1 倍の 147 億円となり、
4四半期連続でプラス成長となった。電子・電気機械向けが为要用途である「電子部品实
装用」では、为要な需要先である中国向けが大幅増となったことなどから、同 75.3%増の
419 億円となり、5四半期連続で増加となった。
中国での需要増加を踏まえ、産業用ロボット関連企業がビジネスを拡大させる動きが相
次いでいる。例えば、セーラー万年筆は 11 年2月、中国現地法人「写楽精密機械有限公
司」
(上海市)において、産業用ロボットの生産を新たに開始すると発表。同社は、著しい
経済成長に伴い、中国では生産工場の近代化が急速に進展し、産業用ロボット各社も現地
生産に動き出していると指摘。こうした状況を踏まえ、中国、東南アジア市場向け取出機
を中国で生産・販売することにより、海外市場におけるブランドシェアを高め、高機能、
高価格な日本製取出機の拡販につなげることが現地生産開始の目的と説明している。
産業用ロボットは日本企業が高い国際競争力を持つ分野であり、自動化・省力化の動き
が加速する中で、ビジネスチャンスの拡大が期待される。
(図表8)中国における産業用ロボット関連企業の動向
企業名
ダイヘン
事業概要
2009年12月、薄型テレビ等の需要拡大を背景に、液晶パネル生産ラインの建設計画が進む中国
で、今後需要の増加が見込める液晶・太陽電池製造装置向けの大型基板搬送用ロボットの生産・
サービスを行う現地法人を設立。
2010年1月、浙江省の日本電産三協'浙江(有限公司にロボット専用工場を新設し、中国での液晶
日本電産サンキョー ガラス基板や半導体ウェハーの搬送用ロボット生産を新たにスタートさせると発表。産業用ロボット
の生産工場を新たに建設することで、大きなポテンシャルを持つ中国市場の需要に応える方針。
不二越
2010年3月16日付で、中国におけるロボット事業のビジネス拠点の新設、マシナリーの営業体制の
強化をねらいとした組織改正を実施。中国にロボットビジネスセンターを新設し、営業・サービス体
制を拡充。
安川電機
2010年3月21日付けで、上海市にある子会社の安川電機'上海(にロボット事業部を設置。現地の
ロボット事業を管轄し、連携強化を図る。
ユーシン精機
2010年11月4日より、広東省広州市の現地生産工場「広州有信精密机械有限公司」で取出ロボッ
トの組立生産を本格稼働。
スター精機
2011年1月より、寧波海天集団股分有限公司'浙江省寧波市(と共同で、新興国向け大型成形機
用取出しロボット事業を開始。スター精機の技術供与により共同開発したロボットを海天が生産・販
売。部品はスター精機が供給。
蛇の目ミシン工業
2011年2月、上海市に産業機器販売会社の設立を決定したと発表。事業内容は卓上ロボット、エレ
クトロプレス等の産業機器製品並びに部品・アクセサリーの販売および付随するサービス業務。現
地拠点の設立により、営業活動、技術サポートを強化するとともに、新たに現地代理店の開拓を行
い、産業機器製品の売上拡大を図る。
セーラー万年筆
2011年2月、上海市の現地法人「写楽精密機械有限公司」において、中国での産業用ロボット'ア
ジア市場向け取出機(の生産を新たにスタートさせると発表。中国、東单アジア市場向け取出機を
中国で生産・販売することにより、海外市場におけるブランドシェアを高め、高機能、高価格な日本
製取出機の拡販につなげていく方針。
ハーモ
2011年4月より、現地生産子会社「哈模机械科技'蘇州(有限公司」'江蘇省蘇州市(での取出ロ
ボットの組立生産を本格稼働予定。
(出所)各社プレスリリース、新聞報道等を基に作成
(中国北アジア課長 真家陽一)
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第1章
現状分析
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第1章 現状分析
Ⅰ.中国経済の現況
21 世紀最初の年である 2001 年、中国の国内総生産(GDP)は日本の3分の1に過ぎな
かった。その年の終わり、中国は漸く世界貿易機関(WTO)に加盟し、世界の貿易ルール
への適応を始めた。
その頃の日本経済は目立った拡大がみられず、
GDP 規模は 97 年の 515
兆円が最高という状態が続いており、05 年には人口減尐が始まった。
中国では 03 年から2ケタ成長が続いていた。08 年には四川大地震に見舞われたが北京
のオリンピックは無事開催された。世界的金融危機の影響で2ケタ成長は途絶えたものの、
危機からの脱却は文字通りのV字回復であった。そして 10 年、3年ぶりに2ケタ成長に
復帰するとともに、GDP 規模で日本を抜き世界第2位となった。
GDP の日中逆転について菅直人首相は、
「元気のいい国々と協力し合って経済の発展に
つなげたい」と記者団に語り1、中国国営通信社・新華社は「GDP ランキングが上昇して
も、我が国が発展途上国である事实は不変」と報じた。一人当たり GDP で見れば中国は
確かに発展の途上かもしれない。しかし今が発展の途上であるということは、別の言い方
をすれば GDP ランキング第一位の可能性を多分に有する第2位ということにもなる。
1.2001 年の飛躍
世紀の変わり目あたりから中国経済を振り返ってみる。1998 年から 2000 年にかけての
3年間、中国は朱鎔基総理(当時)の指揮の下、国有企業・金融・行政の三大改革に取り
組んだ。GDP 成長率の鈍化傾向も歯止めがかかり、00 年には8%成長を回復した。対中
投資についても、WTO 加盟の最大の山場といわれた 99 年 11 月の米中交渉妥結あたりか
ら巨大市場中国の開放が現实味を帯びたことで、第3次ブーム(2000~05 年)2が幕を開
けていた。
01 年、中国は対外的なプレゼンスを著しく向上させた。7月に北京へのオリンピック招
致が決まった。9月 11 日に米国で同時多発テロ事件が発生すると、江沢民総書記はブッ
シュ大統領と電話会談を行い支援と協力を表明した。10 月には上海で APEC を開催、11
月に ASEAN との FTA を 10 年以内に締結することで合意、
12 月には WTO に加盟した。
景気も上向く中、江沢民政権は 02 年に上海への万博招致を決め、また共産党の憲法とも
いうべき党規約に「三つの代表理論」と私営企業家の共産党入党許可を盛り込んだ。当時、
中国の将来予測といえば楽観論が支配的で、中国は国としての面子もあり 08 年の北京五
輪、10 年の上海万博を終えるまで成長を維持するだろう、などといわれていた。
しかしそうした国際的プレゼンスの向上の陰で、沿海部とその他地域、都市と農村、工
業と農業の発展格差の問題は未解決のままといえた。世界有数の黒字国となったことで欧
1
2
日本経済新聞ウェブ版2月 14 日付
第一次ブームは(1985~88 年)
、第二次ブームは(91~95 年)とされる。
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米諸国との貿易摩擦問題も深刻化した。中国の貿易の中心は加工貿易であり、原材料や半
製品を輸入し製品化して輸出するため、貿易黒字の拡大が止まらなかった。経済発展の結
果として出現した大量生産・大量消費型社会により、公害問題、水不足、資源安全保障上
の懸念は増大した。
上海閥が中心となり経済発展に邁進した前政権の後を継いだ胡錦涛総書記は、温家宝総
理とともに親民路線を打ち出した。それまで毎年夏になると共産党の幹部は、河北省の北
戴河に集まり国政の重要事項を協議していたが、その「北戴河会議」が廃止された。北戴
河は中国有数の避暑地だった。また温家宝総理は、就任した 03 年の大晦日、炭鉱で労働
者と共に年を越した。
しかし発足当初から政権は困難に見舞われた。03 年には新型肺炋(SARS)流行への対
応に際し、感染情報の隠ぺいがあり3、政権の信用は国内外で傷ついた。04~05 年にかけ
ては電力不足が発生し、沿海部の企業の生産活動に悪影響を与えた。05 年には反日デモが
発生した。日系企業の間では、製造・販売拠点の過度な中国依存を見直す「チャイナ・プ
ラス・ワン」模索の動きもみられた。国際協力銀行のアンケート4によれば、「日本企業の
考える有望な事業展開先」のランキングで当時の中国はダントツの第1位であり、03 年調
査では 90%を超える企業が中国を有望と見ていたが、この比率はその後 08 年まで低下を
続けることになる。
それでも貿易額、黒字額、外貨準備は 2001~05 年にかけ拡大を続けた。貿易額は 5,097
億ドルから1兆 4,219 億ドルと3倍弱に、黒字額は 226 億ドルから 1,020 億ドルへ4倍強
に、外貨準備は 2,122 億ドルから 8,189 億ドルと4倍弱に膨れ上がった。他方、前政権時
から懸案だった対外不均衡は、是正どころか拡大の一途をたどっていた。国際収支統計の
誤差脱漏も資本流出から流入に転じ、人民元はもはや切り下げではなく切り上げが取りざ
たされる通貨となっていた。05 年7月、中国は人民元の対ドルレートの 2.1%の切り上げ
と通貨バスケット制への移行を発表した。人民元の対ドルレートは、その後3年にわたり
上昇カーブを描くことになる。
2.第 11 次五カ年規画の新機軸
2006 年には、胡錦涛政権下で企画立案された第 11 次五カ年規画(11・5規画、2006
~10 年)がスタートした。その前の5年は、第 10 次五カ年計画(10・5規画)と言った。
この「計画」から「規画」への転換について人民日報は、①資源配分における市場の役割
の発揮を特に重視する、②細分化し過ぎた量的指標に代え経済と社会の発展のマクロ的な
把握と調整に重きを置く、③過保護や過度な干渉の問題を克服し政府の役割の転換に向け
踏み出すものとの見方を示した5。
4 月 20 日、北京で発表された感染者数は 339 名となった。これは5日前の 37 名の 9 倍であった。その
他、死者も 18 名あった。
4「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」
5 人民網日本語版 2005 年 10 月 12 日
3
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10・5規画と 11・5規画の最大の違いは数値目標の設定に現れた。GDP 成長率の目標
は年平均 7.5%で、10・5期間の实績 9.5%に比べ、かなり低いものであった。他方、一人
当たり GDP を 2000 年の2倍にするとの目標が新たに設定された。さらに、目標に「所期
性目標」
(为として市場メカニズムにより達成される目標)と「拘束性目標」
(为として法
律による管理の強化や財政の配分等により必ず達成する目標)の2種類があり、GDP は「所
期性目標」に過ぎなかった。
「拘束性目標」に指定されたのは、総人口(13 億 6,000 万人
以下)、GDP1単位当たりのエネルギー消費量削減率(5年で 20%)、工業生産増加額1
単位当たりの水使用量削減率(5年で 30%)
、耕地保有量(10 年に 1.2 億ヘクタール)、
为要汚染物排出総量削減率(5年で 10%)
、森林率(10 年に 20%)
、都市基本養老保険(年
金)加入者数(2億 2,300 万人)
、新型農村合作医療カバー率(10 年に 80%以上)であっ
た。
3.通貨バスケット制への移行
2005 年7月の通貨バスケット制移行後、人民元は対ドルで、規則的ともいえる上昇カー
ブを描いた。上昇は3年に及び、その間「元は上昇するもの」との見方が浸透していった。
それだけでなく、当初 2.25%あった1年物の人民元定期預金金利も上昇していった。この
ため世界が元の保有を望んだ。結果としてホットマネー(短期投機資金)が中国に流入し
元に交換され、中国景気は過剰流動性で過熱した。世界の対中投資は 2004~06 年にかけ
600 億ドル程度で足踏みしたが、その後急拡大に転じ、08 年には 900 億ドルを突破した。
元の対ドルレートが上昇カーブを描き続ける陰で、対円レートの方向感は見えなかった。
日本の対中投資は、自動車のセットメーカーとサプライヤーが広州に出そろうこととなっ
た 05 年をピークに減尐していった。
06 年3月に発表された 11・5規画は、経済の量よりも質を重視する姿勢を打ち出した。
外資導入についても、技術やノウハウの獲得を重視する「外資利用における質の向上」を
打ち出した。対外開放という基本路線に変化はないものの、外資導入における金額の重要
性は低下したかに見えた。
しかし人民元レートの上昇カーブと歩調を合わせるかのように、外資の流入は加速した。
それが中国で人民元となり、国内は流動性過剰の状態となった。過剰流動性は経済の質の
向上よりも、量的拡大を後押しする形となった。中国政府は、景気引き締めはもちろんの
こと、貿易黒字拡大の原因である加工貿易に対する優遇の見直し、外資優遇の見直し・選
択的導入、対外投資の拡大を通じ、外貨の有効利用に注力することになった。08 年7月に
は、人民元レートの上昇が止んだ。
4.金融危機下の中国の存在感
2008 年秋、リーマンショックが起きた。発生当初は、この危機は欧米の金融部門の問題
であり中国にとっては対岸の火事といったムードもあったが、世界的な需要の収縮がおこ
11
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り、輸出部門に影響が及んだ。当時経済政策は引き締めが始まっており、中国の实質 GDP
成長率は 07 年半ばをピークに既に鈍化が始まっていた。そこにリーマンショックが重な
り、08 年第3四半期から第4四半期にかけ成長率は前年同期比 9.0%から同 6.8%へ急減
速した(いずれも発表当初の速報値)
。
しかし中国政府の成長維持に向けた動きは果断であった。08 年 11 月に4兆元の大型景
気刺激策を発表、09 年初頭にも短期的成長支持と中期的構造調整を抱き合わせた 10 大産
業振興調整計画を打ち出した。2009 年初頭、世論は同年の8%成長は極めて困難との見方
に傾いていたが、中央政府は8%前後の成長という看板を下ろすことはなく、結果的にそ
のことは景気に対する国民のコンフィデンスの維持にプラスに働いたものと思われる。
成長維持最優先の方針は明確で、加工貿易制限・禁止品目の拡大や増値税還付率の引き
下げといった加工貿易への締め付けも棚上げされた。小型車の車両購入税減税、農村部へ
の家電普及策「家電下郷」
、家電の買い替え促進策「以旧換新」など、あらゆる政策努力が、
成長の維持に向けられた。2009 年第1四半期こそ 6.1%成長(速報値)と停滞が続いたが、
同年5月の生産指数の発表で回復基調の持続が明確となり、景況感が劇的に好転した。4
~6月期の GDP 成長率は 7.9%(速報値)にまで高まり、8%成長への安心感が広がった。
結果的に 09 年は文字通りの
「V 字回復」なり、成長率は 8.7%となった
(その後 9.1%→9.2%
に上方修正)
。10 年を迎える頃には成長に対する懸念は後退し、景気論議の焦点は金融政
策や公共投資に関する出口戦略の行方に移っていた。
(図表1)中国の実質 GDP 成長率の推移
'%(
'%(
15
15
14
12.7
14.0
14.2
14
13
13
14.0
13.0
11.3
12
12
11.9
12.0
11.3
11.3
11
10.1
10.3
10.0
10
9
9.8
10
9.1
8.4 8.3
11
10.1
9.6
9.6
9
10.3
9.6
9.0
9.2
8
8
7
7
6
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
6
8.1
6.8
6.5
(出所)中国国家統計局
12
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1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q
2007
2008
2009
2010
5.GDP 世界第2位へ
2010 年に入ると、不動産価格とインフレへの対応が経済面の重要課題に浮上していた。
1月、2月と続けて、大手行の預金準備率が引き上げられた。不動産については国務院が
4月 17 日、
「一部の都市の住宅価格の行き過ぎた上昇の抑制に関する通知」
(国発[2010]10
号、国十条)を発表し、住宅購入の戸数によって、頭金や金利といった貸出条件に異なる
制限が課されることとなった。具体的には、自家用の建築面積 90 平米以上の家を初めて
購入する家庭については、頭金の比率を最低 30%とする。2軒目に購入する家庭に対して
は、頭金の比率を最低 50%とし、貸出金利も最低で基準金利の 1.1 倍とする。3軒目以降
の家庭については、頭金の比率も基準金利に対する貸出金利の倍率も大幅に高める。その
具体的な内容は、商業銀行がリスク管理原則に基づき自为的に決めるとされた。
5月には再度、大手行の預金準備率が引き上げられた。以後秋口まで、不動産市況は頭
打ちの状況が続いた。一方物価は、消費者物価指数の目標は「3%前後」であったが、5
月に 3.1%を記録すると、1カ月おいて7月以降は3%超が常態となった。10 年 12 月に
開催された中央経済工作会議において、翌年の政策のポイントは物価上昇の抑制と確認さ
れた。
10 年の中国の成長率は 10.3%を記録した。季節調整値がない中国の場合、成長率とい
えば前年同期比である。09 年が尻上がりであったため、10 年は尻下がりになると見られ
ていたが、
第3四半期の鈍化は小幅で、第4四半期に至っては伸びが高まる結果となった。
この年、中国の経済規模は、日本を抜いて世界第2位となった。しかし、GDP 規模世界第
2位を喧伝するそぶりを中国は見せない。11 年に始動した第 12 次五カ年規画では、年平
均成長率の目標が 11・5規画の 7.5%から 7.0%に引き下げられた。11・5規画同様、成
長率はノルマ(拘束性目標)ではなく目安(所期性目標)に過ぎない。10 年の成長率は
10.3%であり、11 年の目標8%は全くといってよいほど難しい目標に見えない。見方を変
えれば、11・5規画の新機軸であった成長の質の向上は途半ば、あるいは緒に就いたばか
りであり、12・5規画においても最重要課題として引き継がれている。
(北京センター次長 箱崎
13
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大)
Ⅱ.日中貿易の動向
1.過去 10 年間の貿易概況
2011 年1月に発表された財務省貿易統計(円ベース、輸出は確報値、輸入は速報値)を
ジェトロがドル建て換算したところ、
10 年通年の日中貿易は総額 3,018 億 5,540 万ドル
(前
年比 30.0%増)と、日本の2国間貿易において初めて 3,000 億ドルを突破、通年ベースで
の過去最高を更新した。うち、輸出は 1,490 億 9,960 万ドル(36.0%増)
、輸入は 1,527
億 5,580 万ドル(24.7%増)となった。
(図表1)過去 10 年間の日中貿易の推移
'卖位:億ドル、%(
輸出伸び率
輸入額
輸入伸び率
総額
伸び率
貿易収支
01年
311
2.2
581
5.1
892
4.0
▲ 270
02年
399
28.2
617
6.2
1,016
13.9
▲ 218
03年
572
43.5
752
21.9
1,324
30.4
▲ 180
04年
738
29.0
942
25.3
1,680
26.9
▲ 204
05年
803
8.8
1,091
15.8
1,894
12.7
▲ 288
06年
929
15.6
1,185
8.6
2,114
11.6
▲ 257
07年
1,091
17.5
1,276
7.7
2,367
12.0
▲ 186
08年
1,240
13.7
1,423
11.5
2,664
12.5
▲ 183
09年
1,096
▲ 11.6
1,225
▲ 13.9
2,322
▲ 12.8
▲ 129
10年
1,491
36.0
1,528
24.7
3,019
30.0
▲ 37
〔注1〕1996年4月より財務省貿易統計が円建てのみの発表となったため、同年以降のドル建て貿易額は、
財務省税関長公示レートを基にジェトロが独自に求めたものである。
〔注2〕2010年輸出は確報値、輸入は速報値。2009年以前は確定値。
〔注3〕伸び率は前年同期比
〔資料〕財務省貿易統計よりジェトロ作成
輸出額
過去 10 年間の日中貿易の動向をみると、2001 年には 892 億ドルと 1,000 億ドルに満た
なかった貿易総額は、10 年には 3,019 億ドルと、貿易総額はこの 10 年間で 3.4 倍に増加
した。輸出入別では、輸出が 4.8 倍となったのに対し、輸入の伸びは 2.6 倍にとどまって
おり、輸出が日中貿易のけん引役となっている。
過去 10 年間の輸出・輸入の伸び率を比較しても、01 年、05 年以外は、いずれも輸出の
伸びが輸入を上回った。特に、06 年からは5年連続で輸出が輸入の伸びを上回った(09
年は輸出の減尐幅が輸入を下回った)
。
この結果、日中間の貿易収支は 01 年には 270 億ドルの赤字であったものが、10 年には
37 億ドルと 01 年比で 86.4%も減尐した。
赤字額が大きく減尐した背景には、中国における高い経済成長、旺盛な工業生産を背景
として、中国での生産に必要な部品・原材料・機械設備などの輸出が大きく伸びたのに対
し、消費財を为力とする対中輸入は、日本の内需の低迷により伸びが輸出に比べ相対的に
小さかったことによる。
14
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(図表2)過去 10 年間の日中貿易の推移
%
億ドル
3,500
50.0
3,000
40.0
2,500
30.0
2,000
20.0
1,500
10.0
1,000
0.0
500
▲ 10.0
0
▲ 20.0
-500
2001年
2002年
2003年
2004年
輸出額
輸入額
2005年
2006年
貿易収支
2007年
2008年
輸出伸び率
2009年
2010年
輸入伸び率
(出所)図表1に同じ
日本の輸出総額に占める中国のシェアは、01 年の 7.7%から 10 年には 19.4%にまで増
大、08 年には対米輸出のシェアを上回った。一方、米国のシェアは 01 年の 30.0%から 10
年には 15.4%とほぼ半減した。
(図表3)日本の輸出総額に占める対中国、対米国のシェア
'億ドル(
'%(
35.0
9,000
8,000
30.0
28.5
7,000
30.0
24.6
22.5
6,000
22.6
25.0
22.5
20.1
17.6
5,000
4,000
3,000
12.2
2,000
7.7
13.1
14.3
13.4
15.3
16.0
18.9
16.1
19.4
20.0
15.0
15.4
10.0
9.6
5.0
1,000
0.0
0
2001年
2002年
2003年
2004年
輸出総額
2005年
2006年
対中輸出シェア
(出所)図表1に同じ
15
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2007年
2008年
対米輸出シェア
2009年
2010年
また、日本の輸入総額に占める中国のシェアは、01 年の 16.5%から 10 年には 22.1%に
まで増大、02 年には対米輸入のシェアを上回った。一方、米国のシェアは 01 年の 18.1%
から 10 年には 9.7%とほぼ半減し、シェアは1ケタ台にまで低下した。
(図表4)日本の輸入総額に占める対中国、対米国のシェア
'億ドル(
8,000
(%(
35.0
7,000
30.0
6,000
5,000
18.1
18.3
15.4
4,000
3,000
19.7
16.5
20.7
13.7
17.1
21.0
12.4
20.5
11.8
20.6
11.4
18.8
10.2
22.2
22.1
25.0
20.0
15.0
10.7
9.7 10.0
2,000
5.0
1,000
0.0
0
2001年
2002年
2003年
2004年
輸入総額
2005年
2006年
対中輸入シェア
2007年
2008年
2009年
2010年
対米輸入シェア
(出所)図表1に同じ
これにより、日本の貿易総額に占める中国のシェアは、01 年の 11.8%から 10 年には
20.7%にまで増大した。一方、米国のシェアは 01 年の 24.5%から 10 年には 12.7%とほ
ぼ半減、対中貿易との格差は、07 年のシェア逆転以降年々拡大している。
(図表5)日本の貿易総額に占める対中国、対米国のシェア
'億ドル(
(%(
35.0
18,000
16,000
14,000
30.0
24.5
23.4
20.4
12,000
18.6
17.9
10,000
8,000
6,000
4,000
11.8
13.5
15.6
16.5
17.0
17.4
17.2
17.7
16.1
17.4
20.5
20.7
25.0
20.0
15.0
13.9
13.5
12.7
10.0
5.0
2,000
0.0
0
2001年
2002年
2003年
2004年
貿易総額
2005年
2006年
対中貿易シェア
(出所)図表1に同じ
16
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2007年
2008年
対米貿易シェア
2009年
2010年
2.日中貿易構造の変化
10 年における日中貿易の構造を 05 年と比較したい6。
(図表6)日本の対中輸出の品目別シェア
まず輸出については、輸送機器の割合が 5.0%から 10
(2005 年、2010 年)
年には 10.2%と、シェアが倍増している点が目立つ。シ
ェア増加の背景としては、中国の自動車生産台数が 05
年の 570 万台から、10 年には 1,827 万台と、3.2 倍に増
加する中、中国での自動車生産に必要な部品・原材料の
対中輸出が大きく伸びたことが挙げられる。加えて、中
国の消費市場の拡大に伴い、中国で未生産の高級自動車
の輸出が大きく伸びたことも奏功した。
輸入をみると、電気機械のシェアが 6.8 ポイント伸び
たのが目立つ。電気・電子分野を中心とする中国への生
産移管の進展に伴い、液晶テレビ、携帯電話を中心とす
'%(
輸出
電気機器
一般機械
原料別製品
化学製品
輸送用機器
原料品
鉱物性燃料
食料品
その他
合計
2005年
25.9
21.3
16.5
13.0
5.0
3.4
1.5
0.4
13.0
100.0
2010年
23.5
22.4
14.5
12.9
10.2
3.1
1.3
0.4
11.7
100.0
(出所)図表1に同じ
る通信機など完成品の輸入が大きく伸びたことがその为
(図表7)日本の対中輸入の品目別シェア
因である。
(2005 年、2010 年)
一方、その他のシェアが 3.7 ポイント低下した。これ
はその他の中で大きな割合を占める衣類・同付属品のシ
ェアが、日本の内需の低迷に加え、中国における生産コ
ストの上昇に伴い、一部企業が生産拠点を中国からその
他の国・地域へシフトさせたことが影響している。
この他、食料品も、中国産食品の安全性に対する懸念
の高まりもあり、10 年のシェア(5.2%)は 05 年(7.2%)
比で 2.0 ポイント低下した。
3.2010 年における日中貿易の動向と特徴
'%(
輸入
電気機器
一般機械
原料別製品
食料品
化学製品
輸送用機器
原料品
鉱物性燃料
その他
合計
2005年
19.1
17.1
12.1
7.2
3.9
3.0
1.4
1.6
34.5
100.0
(出所)図表1に同じ
(1)輸出
10 年の対中輸出は、中国経済の高成長(10 年の实質 GDP 成長率:10.3%)を背景に高
い伸びを示し、過去最高を記録した。単月ベースでも 09 年 11 月以降 10 年 12 月にかけて
14 カ月連続で前年同月比増加した。①中国における生産拡大に伴う部品・原材料の輸出増
加、②中国における消費市場の拡大を受けた一部完成品の輸出増加が続いているほか、③
中国の対日米欧向け完成品の輸出回復に伴う、輸出品生産に必要な部品、原材料等の日本
からの輸出拡大が奏功した。
財務省は 05 年 1 月以降、新たな商品別分類による貿易統計を発表した。そのため 10 年の品目別貿易動
向の比較対象として 05 年の貿易統計を用いた。
6
17
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2010年
25.9
16.8
11.5
5.2
5.7
1.8
1.2
1.1
30.8
100.0
【品目別の特徴】
・10 年末まで継続された4兆元(約 50 兆円)の大型景気刺激策に伴うインフラ投資の拡
大により、特に、建設用・鉱山用機械や原動機が高い伸びをみせた。
・工業生産の伸びを背景として、半導体等電子部品、自動車の部分品、金属加工機械、プ
ラスチック、電子回路等の機器などが増加した。また、中国の消費市場の拡大を背景に、
乗用車や映像機器など完成品の輸出も大きく増加した。
・有機化合物は、中国における現地生産の拡大に加え、中東でのプラントの稼動に伴う中
国の対中東輸入の増大により1ケタ台の伸びにとどまった。また、電池もリチウムイオ
ン電池の価格下落などで微増にとどまった。
(2)輸入
10 年の対中輸入は、輸出と同様、10 年に入り回復基調が鮮明となり、単月ベースでは
2月以降 12 月にかけて 11 カ月連続で前年同月比増加した。液晶テレビや通信機などの電
気機器に加え、PC や非鉄金属の輸入も増加した。また、食料品の輸入も2ケタの伸びを
示した。
【品目別の特徴】
・エコポイント制度の实施期間延長、地上デジタル放送対応テレビへの切り替えなどによ
り、液晶テレビを中心に音響映像機器が高い伸びを示したほか、スマートフォンの急速
な普及により、通信機の輸入が急増した。
・食料品は、堅調な業務用需要に加え、中国産食品の安全性に対する懸念がやや低下した
ことや、日本の天候不順に伴い野菜が増加したこと、一部中国産農産品の価格高騰など
もあり、2ケタの伸びを示した。
・衣類・同付属品については、日本の内需伸び悩みに加え、一部アパレル製品の中国以外
への生産移管などもあり、1ケタの伸びにとどまった。
4.2011 年通年の見通し
中国では、政府が金融政策を「適度に緩和的な」から「中立的」な政策に移行するなど、
物価上昇抑制に向けて経済を引き締める動きが顕在化している。加えて、10 年の対中貿易
は、輸出・輸入とも高い伸びを示したことで、11 年の伸びが 10 年よりも鈍化する可能性
もある。
しかし、11 年も中国経済の高成長が引き続き見込まれていることを勘案すれば、11 年
の日中貿易総額は、10 年に引き続き、2年連続で過去最高を更新する可能性が高い。さら
に、中国経済の成長を通じた需要の拡大が、日本の対中輸出をけん引する流れが 11 年も
続けば、同年の日中貿易収支が黒字化する可能性も小さくない。
18
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【輸出】
・4兆元の大型景気刺激策は 10 年末で終了したが、中国政府は引き続き都市化の推進、
中西部地域などのインフラ投資を引き続き推進するとみられており、建機の基幹部品な
どインフラ関連製品・部品等の輸出は引き続き拡大が見込まれる。
・中国における消費市場の拡大に伴い、中国市場向け完成品生産に用いられる部品・原材
料・機械は、現地生産の動きは進むものの、高付加価値製品を中心に、引き続き増加基
調で推移するとみられる。加えて、乗用車など消費財の輸出も拡大が見込まれる。
・日米欧など先進国経済は、全般に 11 年も回復が続くとの見通しが広がっていることか
ら、中国のこれら国・地域向けの完成品輸出も増加が見込まれる。このため、日本から
の高付加価値な原材料や部品の対中輸出も引き続き増加する見通しである。
・他方、10 年に大きく伸びた品目は、伸びが鈍化する可能性があるほか、現地生産が進展
した製品については、輸出減尐が見込まれる。
【輸入】
・エコポイント制度が 11 年3月で終了すること、10 年の輸入が高水準で推移したことも
あり、液晶テレビなど対象品目の輸入の伸びの大幅鈍化、ないしは減尐が見込まれる。
・食品等安価な中国産消費財に対するニーズは引き続き高水準とみられるが、金額では輸
出ほどの高い伸びは期待できない。
・他方、高付加価値品の中国への生産移管が進む中、電気機械関連製品を中心に、輸入品
の付加価値レベルが向上することで、金額面の伸びが期待できる。
(中国北アジア課 中井邦尚)
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図表-8'1( 2010年の品目別対中輸出
図表-8'2( 2010年の品目別対中輸入
'卖位:1,000ドル、%(
総額
食料品
原料品
鉱物性燃料
化学製品
有機化合物
医薬品
プラスチック
原料別製品
鉄鋼
非鉄金属
金属製品
織物用糸・繊維製品
非金属鉱物製品
ゴム製品
紙類・紙製品
一般機械
原動機
電算機類'含周辺機器(
電算機類の部分品
金属加工機械
ポンプ・遠心分離機
建設用・鉱山用機械
荷役機械
加熱用・冷却用機器
繊維機械
ベアリング
電気機器
半導体等電子部品
IC
映像機器
映像記録・再生機器
テレビ受像機
音響機器
音響・映像機器の部分品
重電機器
通信機
電気計測機器
電気回路等の機器
電池
輸送用機器
自動車
乗用車
バス・トラック
自動車の部分品
二輪自動車
船舶
その他
科学光学機器
写真用・映画用材料
記録媒体'含記録済(
〔資料〕図表1に同じ
金額
149,099,604
518,727
4,587,141
1,986,785
19,204,579
6,409,454
383,279
7,517,141
21,652,316
7,844,455
4,783,754
2,539,096
2,926,345
1,940,973
872,000
651,350
33,450,983
5,029,127
441,307
2,317,770
3,623,556
2,691,327
1,827,196
1,780,985
914,757
1,237,183
940,452
34,964,214
11,893,046
8,369,278
1,962,238
1,929,157
33,082
95,737
1,477,723
2,077,329
1,548,261
2,567,495
5,993,558
1,498,192
15,238,944
7,041,102
6,225,526
810,327
7,866,544
1,146
6,543
17,495,914
6,434,117
679,735
353,147
伸び率
36.0
30.1
8.2
4.4
25.3
9.2
22.0
34.2
26.7
22.0
31.0
31.5
10.3
57.0
45.7
30.0
72.4
52.3
9.8
33.7
114.6
40.5
104.5
55.5
38.3
127.1
69.4
27.4
31.1
39.5
20.3
20.4
12.4
▲ 12.1
0.4
37.5
▲ 14.3
55.9
42.4
1.0
50.5
81.4
77.4
121.6
32.2
43.5
▲ 74.7
27.6
51.3
33.8
▲ 9.2
シェア
100.0
0.4
3.1
1.3
12.9
4.3
0.3
5.0
14.5
5.3
3.2
1.7
2.0
1.3
0.6
0.4
22.4
3.4
0.3
1.6
2.4
1.8
1.2
1.2
0.6
0.8
0.6
23.5
8.0
5.6
1.3
1.3
0.0
0.1
1.0
1.4
1.0
1.7
4.0
1.0
10.2
4.7
4.2
0.5
5.3
0.0
0.0
11.7
4.3
0.5
0.2
寄与度
36.0
0.1
0.3
0.1
3.5
0.5
0.1
1.8
4.2
1.3
1.0
0.6
0.3
0.6
0.3
0.1
12.8
1.6
0.0
0.5
1.8
0.7
0.9
0.6
0.2
0.6
0.4
6.9
2.6
2.2
0.3
0.3
0.0
▲ 0.0
0.0
0.5
▲ 0.2
0.8
1.6
0.0
4.7
2.9
2.5
0.4
1.8
0.0
▲ 0.0
3.5
2.0
0.2
▲ 0.0
20
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'卖位:1,000ドル、%(
総額
食料品
魚介類
えび
肉類
穀物類
野菜
果実
原料品
木材
非鉄金属鉱
鉄鉱石
大豆
鉱物性燃料
原油及び粗油
石油製品
揮発油
液化天然ガス
液化石油ガス
石炭
化学製品
有機化合物
医薬品
原料別製品
鉄鋼
非鉄金属
金属製品
織物用糸・繊維製品
非金属鉱物製品
木製品等'除家具(
一般機械
原動機
電算機類'含周辺機器(
電算機類の部分品
電気機器
半導体等電子部品
IC
音響映像機器'含部品(
映像記録・再生機器
重電機器
通信機
電気計測機器
輸送用機器
自動車
自動車の部分品
航空機類
その他
科学光学機器
衣類・同付属品
家具
バッグ類
金額
152,755,797
7,981,845
2,611,068
105,406
997,232
366,921
2,099,969
647,378
1,779,774
269,284
32,961
56
41,465
1,742,366
104,714
558,275
377,589
0
5,128
847,064
8,708,488
2,163,769
610,738
17,519,787
1,725,506
2,016,255
4,356,875
4,186,933
2,344,226
1,183,660
25,661,068
828,387
12,505,918
3,934,332
39,535,800
3,106,332
1,734,577
11,998,707
2,777,814
2,971,876
8,869,296
685,885
2,816,852
14,817
1,603,602
6,239
47,009,815
2,847,158
21,855,641
3,301,566
2,809,691
伸び率
24.7
16.4
16.3
▲ 2.9
21.4
7.7
24.8
18.6
24.2
11.0
85.0
▲ 29.1
▲ 5.3
28.6
▲ 6.5
57.5
35.6
-
45.7
8.3
54.4
37.9
10.5
21.2
94.6
138.7
10.3
▲ 1.3
19.1
11.4
30.8
25.8
32.5
30.2
47.2
45.7
27.4
68.3
41.6
29.7
59.9
47.8
23.8
▲ 31.9
49.5
▲ 3.9
6.7
18.2
4.5
14.6
10.0
シェア
100.0
5.2
1.7
0.1
0.7
0.2
1.4
0.4
1.2
0.2
0.0
0.0
0.0
1.1
0.1
0.4
0.3
0.0
0.0
0.6
5.7
1.4
0.4
11.5
1.1
1.3
2.9
2.7
1.5
0.8
16.8
0.5
8.2
2.6
25.9
2.0
1.1
7.9
1.8
2.0
5.8
0.5
1.8
0.0
1.1
0.0
30.8
1.9
14.3
2.2
1.8
寄与度
24.7
0.9
0.3
0.0
0.1
0.0
0.3
0.1
0.3
0.0
0.0
0.0
0.0
0.3
▲ 0.0
0.2
0.1
0.0
0.0
0.1
2.5
0.5
0.1
2.5
0.7
1.0
0.3
▲ 0.0
0.3
0.1
4.9
0.1
2.5
0.8
10.3
0.8
0.3
4.0
0.7
0.6
2.7
0.2
0.4
▲ 0.0
0.4
0.0
2.4
0.4
0.8
0.3
0.2
Ⅲ.日本の対中直接投資の動向
1.第4次ブームを迎えた対中直接投資
日本の対中直接投資の歴史を振り返ると、日本企業が対中直接投資を本格化させる契機
となったのは、1985 年のプラザ合意後の円高であった。円高の進展に伴い、日本国内の生
産拠点の価格競争力が低下したため、日本企業は欧米向け製品の生産拠点を日本から中国
も含めたアジア諸国・地域へシフトさせる動きを活発化させた。この傾向は、特に労働集
約型産業で顕著であった。
日本企業の対中投資の第1次ブームは、円高が進展した 1985~88 年頃である。当時は
ASEAN への投資が活発化する中、安価な労働力を求めて、繊維、雑貨、食品加工といっ
た軽工業が、日本と歴史的な縁が深く、距離的にも近い遼寧省大連市などを中心に進出し
た。しかし、89 年の天安門事件の発生に伴い、対中投資は冷え込んだ。
第2次ブームは、91~95 年頃までで、鄧小平氏の南巡講話に代表される外資導入の本格
化や市場経済化の加速を受けて、広東省などの華南地域を中心に対中投資ブームが起きた。
インフラ開発が進んだこともあり、電気・電子産業や機械産業でも生産拠点を中国にシフ
トする動きが進んだ。しかし、アジア通貨・経済危機が 97 年に発生。ASEAN 諸国が大き
な打撃を受ける中、対中投資も減速した。
第3次ブームは、中国の WTO 加盟が視野に入ってきた 2000 年(中国は 01 年 12 月に
WTO 加盟)から 05 年頃までの期間である。第3次対中投資ブームが過去2回のブームと
異なる点としては、従来の生産拠点に加えて、中国市場参入のための販売拠点設置などを
目的とした投資が増加したこと、進出地域も広東省を中心とした珠江デルタ地域、上海市
を中心とした長江デルタ地域に加えて、北京市や天津市を中心とした環渤海地域にも拡大
したことが挙げられる。
しかし、日本の対中投資は 06 年、07 年と2年連続で減尐に転じ、第3次ブームは終焉
を迎えた。この背景としては、2001 年の WTO 加盟を契機として、2000 年代前半に製造
業による対中直接投資が一極集中的に急増したことに対する反動がある。实際、2000~04
年までの対中直接投資の伸びは、日本の対外直接投資の伸びを大きく上回っていた。
その後、08 年の対中投資は 1.8%増に微増、09 年には 12.4%増の 41 億 497 万ドルとな
り、国・地域別では香港、英領バージン諸島に次ぎ第3位となった。10 年も同様に増加基
調で推移、2008 年9月のリーマンショック以降、世界経済が急速な減速を余儀なくされる
中で、いち早く景気回復を遂げた中国に対する日本企業の関心は従来にも増して高まって
おり、第4次の新たな投資ブームが到来しつつある。今般のブームの特徴としては、中国
をマーケットとして捉え、積極的に市場開拓を図る企業がこれまで以上に増加しているこ
とが挙げられる。
21
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(図表1)日本の対中直接投資の推移
'100万ドル(
7,000
6,000
第3次ブーム
第4次ブームの到来か?
5,000
4,000
3,000
第2次ブーム
第1次ブーム
2,000
1,000
0
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
投資誘因
主な進出先
主な業種
1980年代後半
1990年代前半
1990年代後半
①安くて優秀な労働力 ①に加え、②インフラ ①~③に加え、④
が豊富
の充実、③市場経済 部品調達
化
大連
大連、珠江デルタ
珠江デルタ、長江
デルタ
2000年代前半
2000年代後半
①~③に加え、④ ①~⑥
市場、⑤WTO加盟、
⑥頭脳'R&D(
珠江デルタ
珠江デルタ、長江
長江デルタ、環渤海 デルタ、環渤海
2010年代前半
①~⑥、第3国・
地域での事業展
開
珠江デルタ、長江
デルタ、環渤海、
内陸部
繊維、雑貨、食品加工 繊維、雑貨、食品、 繊維、雑貨、食品、 自動車、食品、電 自動車、食品、電 自動車、食品、電
電気・電子、機械、バ 電気・電子、機械、 気・電子、機械、化 気・電子、機械、化 気、電子、機械、
イク
化学
学、ソフト開発、
学、省エネ・環境、 化学、省エネ・環
R&Dセンター
卸売・小売、金融・ 境、卸売・小売、
保険、ソフト開発 金融・保険、ソフト
開発
'出所(中国商務年鑑、各種資料等を基にジェトロ作成
2.第3国・地域での事業展開を視野に入れた中国進出
最近の日本企業の対中投資の新たな動向として注目されるのが、第3国・地域での事業
展開を視野に入れた進出である。1980~90 年代の日本企業の対中投資は、中国において
低コストで生産した製品を日本へ持ち帰る、あるいは欧米向けに輸出するための進出だっ
た。それが、2000 年代には、中国で生産した製品を中国で売るという市場開拓型の進出が
増加した。現在、各社が模索しているのは、中国に進出することで、新興国向けのビジネ
スモデルを確立し、それを他の新興国に転用・応用する、あるいは、さらに中国で量産し
た低価格製品を他の新興国に輸出するという戦略である。また、新興国にもパイプを持つ
有力な中国企業と戦略的なビジネスアライアンスを締結し、パートナーシップを確立した
上で、中東やアフリカなどに連携して進出することを目指す企業もある。
例えば、ダイキン工業は 09 年3月、珠海格力電器股份有限公司(広東省珠海市)と共
同でグローバル住宅用空調機器の基幹部品であるインバーター用圧縮機および電装品を共
同生産するための新会社「珠海格力大金機電設備有限公司」、低コストで高品質の金型を短
納期で供給する金型の生産会社「珠海格力大金精密模具有限公司」を設立。これらの新会
社設立を通じてコスト競争力を強化し、インバーターエアコンをより幅広い層のユーザー
に提供することにより、世界のインバーター普及率の低い地域でもインバーターエアコン
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の市場拡大を目指す方針を打ち出している。
また、丸紅は 09 年 11 月、安徽省合肥市の総合下水処理事業会社「安徽国禎環保節能科
技股份有限公司」の株式 30%を取得することで合意したと発表。丸紅は同社を中国におけ
る戦略的コア会社と位置付け、同社を通じて蓄積される下水処理事業ノウハウを活用し、
中国で下水事業案件への取り組みを積極的に展開していくことに加えて、将来的には同社
を核として、近隣アジア諸国で事業を展開することも視野に入れている。
クボタは 10 年7月、
中国で小型建設機械の製造会社を江蘇省無錫市に新設すると発表。
同社は現地生産を本格化することにより、①コスト競争力の強化、②為替変動リスクの回
避、③需要拡大への供給力増強を図る。12 年1月に量産を開始し、18 年には約1万 4,000
台の生産を目指す。今後、ディーラー網の組織固めと拠点の拡充・強化を図り、中国市場
シェアを 09 年の 13.3%から 18 年には 25%へ拡大させることを目標して掲げている。加
えて、将来的には、中国拠点にアジア新興諸国への輸出製造拠点としての役割を担わせる
方針も示している。
(図表2)第3国・地域での事業展開を視野に入れた対中投資事例
企業名
概要
ダイキン工業
09年3月、珠海格力電器股份有限公司'広東省珠海市(と共同で基幹部品であるインバーター用圧
縮機および電装品を共同生産するための新会社を設立。コスト競争力を強化し、インバーターエアコ
ンより幅広い層のユーザーに提供することにより、世界のインバーター普及率の低い地域でもイン
バーターエアコンの市場拡大を目指す。
丸紅
09年11月、安徽省合肥市の総合下水処理事業会社「安徽国禎環保節能科技股份有限公司」の株
式30%を取得することで合意。同社を中国における戦略的コア会社と位置付け、下水処理事業ノウ
ハウを活用し、中国で下水事業案件への取り組みを展開していくことに加えて、将来的には近隣アジ
ア諸国で事業を展開することも視野に入れている。
クボタ
10年7月、中国で小型建設機械の製造会社を江蘇省無錫市に新設すると発表。同社は現地生産を
本格化することにより、①コスト競争力の強化、②為替変動リスクの回避、③需要拡大への供給力
増強を図る。12年から量産を開始し、将来的には、中国拠点にアジア新興諸国への輸出製造拠点と
しての役割も果たさせる。
住友商事
10年9月、中国の水事業最大手である北京首創股份有限公司と水インフラ関連事業において提携
することに合意。事業提携の一環として、山東省、浙江省における下水処理事業に参画する。また、
中国全土のみならず、将来的には第三国での水インフラ関連事業についても共同参画を検討。
酉島製作所
海水淡水化プラント用ポンプで世界シェアトップを誇る同社は、11年春の操業開始を目指し、天津市
でポンプ工場建設を進めているが、将来的には中国国内の販売に限らず、グローバル市場へ輸出
することも見込む。
凸版印刷
08年6月、シンガポールの大手印刷会社「SNP社」'現・トッパンリーフォン(を買収すると発表。SNP
社はシンガポール国内よりも、中国を中心に東单アジアや香港でも事業を拡大し成長を遂げてお
り、SNP社の買収により中国での拠点を確保した上で、アジア市場での事業拡大を図る。
日揮
09年12月、国際的に水事業を展開するシンガポール企業「ハイフラックス社」が天津市で開発中の
海水淡水化事業に関し、共同で事業運営を行うことに合意。日揮はハイフラックスと連携し、中国の
みならず、中東、北アフリカなどにおける海水淡水化事業に対し積極的に取り組んでいく方針。
(出所)各社へのヒアリングおよびプレスリリース等を基に作成
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住友商事は 10 年9月、中国の水事業最大手である北京首創股份有限公司と水インフラ
関連事業において提携することに合意。事業提携の一環として、山東省、浙江省における
下水処理事業に参画する。中国での水インフラ事業関連案件の共同事業の規模を今後大幅
に拡大するほか、中国全土のみならず、将来的には第3国・地域での水インフラ関連事業
についても共同参画を検討していく方針である。
この他、海水淡水化プラント用ポンプで世界シェアトップを誇る酉島製作所は、11 年春
の操業開始を目指し、天津市でポンプ工場建設を進めているが、将来的には中国国内の販
売に限らず、グローバル市場へ輸出することも見込んでいる。
あるいは、他のアジア企業と組んで中国市場を攻め、その上で第3国・地域での事業展
開を模索する動きもある。凸版印刷は 08 年6月、シンガポールの大手印刷会社「SNP 社」
(現・トッパンリーフォン)の買収を発表。SNP 社はシンガポール国内よりも、中国を中
心に東南アジアや香港でも事業を拡大し成長を遂げており、凸版印刷は同社の買収により
中国での拠点を確保した上で、アジア市場での事業拡大を図ることを狙っている。
また、日揮は 09 年 12 月、国際的に水事業を展開するシンガポール企業「ハイフラック
ス社」が天津市で開発中の海水淡水化事業に関し、共同で事業運営を行うことに合意。日
揮はハイフラックスと連携し、中国のみならず、中東、北アフリカなどにおける海水淡水
化事業に対し積極的に取り組んでいく方針だ。
3.非製造業分野でも新規投資が相次ぐ
製造業向け投資に加えて、最近顕著な増加傾向を示しているのが、卸・小売業、金融業
などの非製造業である。
卸・小売業では、高島屋が上海市を新規出店地と定め、09 年2月、現地法人「上海高島
屋百貨有限公司」の設立登記を申請。同現地法人を拠点に、12 年の開業を目指す。本出
店に当たっては、ブランド力、商品力に加えて、同社子会社のシンガポール髙島屋に集積
された経営資源といったノウハウなどを最大活用し、グループの総合力を発揮して取組む
方針を示している。
コンビニエンスストアでは、ローソンが 10 年4月、重慶市に 100%出資の現地法人「重
慶羅森便利店有限公司」を設立、同年7月に1号店を開店し、11 月末までに4店舗を出店
している。
なお、
日本の大手コンビニエンスストアが重慶市に進出するのは初めてである。
また、セブン-イレブン・ジャパンとイトーヨーカ堂は10年12月、四川省成都市において
セブン-イレブン店舗を展開するための共同出資会社「セブン-イレブン成都有限公司」を設
立。11年春には1号店の開店を計画している。
この他、
「無印良品」のブランドで知られる良品計画は近年、中国への出店を加速させ、
ブランド認知に全社をあげて取り組んでおり、09 年度は8店舗(期末店舗数 13)
、10 年
度は第3四半期連結会計期間(10 年3~11 月)に8店舗を出店し、同期間における中国
の直営店の売上高は前年同期比 215.7%増の 10 億 4,700 万円に達している。
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また、ファーストリテイリング(ユニクロ)は 10 年5月、ニューヨーク、ロンドン、
パリに続く世界で4番目のグローバル旗艦店となる「上海・南京西路店」を、上海有数の
目抜き通りである南京西路沿いにオープンした。同社はこの旗艦店を通じ、ユニクロの品
質、スタイル、価値、ブランドメッセージを世界に向けて発信していく方針である。
金融業では、日本企業のビジネス展開に合わせ、銀行がこれまで進出していなかった地
域に相次いで支店を開設している。みずほコーポレート銀行は 09 年3月、100%子会社で
ある中国現地法人「みずほコーポレート銀行(中国)有限公司」が湖北省武漢市に支店を
開設した。邦銀が内陸部に支店を設置するのは初めてである。
三菱東京 UFJ 銀行は 10 年3月、中国における全額出資子会社である「三菱東京日聯
銀行(中国)有限公司」が四川省成都市に支店を開設した。内陸部の中でも西部地域に邦
銀が支店を開設するのは初めてである。
三井住友銀行も全額出資子会社である「三井住友銀行(中国)有限公司」が 10 年6月、
遼寧省瀋陽市に支店を開設した。瀋陽市に邦銀の支店が開設されるのは初めてのケースで
ある。
4.環境・省エネビジネスへの参入を模索
急速な経済成長と人口増加等により、中国では環境・エネルギー問題が深刻化している。
こうした中で、世界でもトップクラスの環境・省エネ技術を背景に、市場参入を模索する
日本企業も増加傾向にある。
日立製作所は 09 年 11 月、中国のマクロ経済政策を担う国家発展改革委員会と「低炭素
社会建設・資源循環分野における友好合作プロジェクト」の覚書を締結。10 年3月には、
「国家発展改革委員会・日立グリーン経済技術交流会」を北京市で開催し、
「高効率発電と
スマートグリッド」
「水処理」
「家電リサイクル」「都市交通(地下鉄)
」の4つのテーマで
分科会を行い、中国の省エネ・環境保全事業に対して貢献可能な取り組みや、技術的な強
みを説明した。同社は、今回の技術交流会を皮切りに、覚書に基づくモデルプロジェクト
を展開していく方針だ。
帝人は 10 年4月、膜濾過ユニット製造を中心とした水処理事業を展開しているメンブ
レンテックと共同で、江蘇省宜興市の上下水道を管理運営する宜興市水務建設投資有限公
司と「農村部の集落排水処理設備の整備事業」を推進するための提携契約を締結。宜興市
で实証实験を開始し、10 年度中の实用化合意を目指す。中国の農村集落排水整備事業に関
し、日中の企業による提携契約が締結されるのは初めてである。
三井物産は 10 年8月、中国での大規模な水事業の展開を目的に、大手水事業会社のハ
イフラックス社(シンガポール)と合弁契約書に調印。共同事業会社ギャラクシーニュー
スプリング社(シンガポール)を通じ、中国でハイフラックス社が直接保有する4つの水
事業資産並びにハイフラックス・ウォーター・トラストが保有する 18 の水事業資産を買
収。中国の水インフラ需要を取り込み、地方自治体や工業団地等の新規顧実向けに更に水
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事業を拡大する方針。
日立造船は 11 年1月、中国の中航世新安装工程(北京)有限公司(北京市)より、ス
トーカ式ごみ焼却炉設備工事を受注したと発表。同社は 10 年度に入り中国では、大連市、
上海市、天津市でストーカ式ごみ焼却設備を相次いで受注しており、中国向け受注は今年
度4件(累計8件)。同社は、中国、韓国、台湾などアジアを中心に都市ごみ焼却施設の海
外事業展開を加速してきたが、国内外で培ったトップクラスの技術力で積極的に需要に取
り組んでいく方針を示している。
東レは 11 年2月、山東省青島市ならびに曹妃甸(河北省唐山市)の海水淡水化プラン
ト向けに逆浸透(RO)膜納入を受注したと発表。同社は 09 年7月、中国藍星(集団)股
份有限公司と合弁で、RO 膜の製膜およびエレメント生産を行う「藍星東麗膜科技(北京)
有限公司」を設立し、11 年から本格的に稼働を開始した。これにより安定した製品供給体
制を確立し、同社の高度な水処理技術と藍星グループが持つ強力な販売ネットワークを活
かして、中国における水処理膜事業の拡大を加速する意向だ。
5.新たなフロンティアとして関心高まる内陸部
地域別にみると、最近急速に関心が高まっているのが内陸部である。世界的な金融危機
の中、これまで中国経済の牽引役だった上海市、浙江省、広東省の 09 年の GRP(域内総
生産)成長率が1ケタ台となる中、内陸部は堅調な成長を遂げており、軒並み2ケタ成長
を維持した。この背景には、輸出依存度が相対的に低かったことや、4兆元(約 50 兆円)
の大型景気刺激策の一環で实施されているインフラ投資が内陸部に重点的に投入されてい
ることがある。加えて「西部大開発計画」「東北振興計画」「中部振興計画」といった中国
の地域発展戦略が成果を挙げてきていることも指摘できる。
中国の内陸部は相対的には発展の遅れた地域だったが、中国政府は地域格差の是正を図
るべく、インフラ投資を重点的に投入しているほか、外資誘致を推進するなど、同地域へ
の発展に向け積極的な姿勢を示しており、こうした支援も受けて、急速に沿海部にキャッ
チアップしつつある。中国で広域に販売活動を展開する企業では、内陸部の売り上げの伸
びが沿海部を上回っているところも尐なくない。物流網が未整備な地域が多いというネッ
クは依然あるものの、内陸部の为要都市では購買力が急速に高まっているのも事实だ。
総体的にみて、日本企業の内陸部への進出は、他の外資系企業に比べて出遅れ感があっ
たが、09 年頃から 10 年にかけて進出が急速に増加している。NTT コミュニケーションズ
は 10 年2月、湖北省武漢市に外資系通信事業者として初めて拠点を開設。同社はこれま
で、中国大陸において沿岸部を中心に拠点を展開してきたが、武漢市に事務所を開設する
ことで、華中地域や内陸部に拠点を持つ顧実へのサービス提供体制を強化し、運用・保守
をより迅速にサポートする。
丸紅も10年3月、湖北省武漢市に中国内16ヵ所目となる拠点として出張所を開設。中国
政府が中部地域6省のインフラ整備、産業発展、内需振興を中心とする「中部振興計画」
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を打ち出していることから、同社は域内の内需市場拡大や環境・インフラ建設が今後ます
ます伸びることをビジネスチャンスと捉え、その成長の中心となる武漢市に出張所を開設
することで中国の経済建設に対して一層の貢献を図る方針。
オムロンの 100%子会社であるオムロンプレシジョンテクノロジーは 10 年6月、湖南
省衡陽市に液晶用バックライトの生産拠点を設立し、同年8月より生産を開始すると発表。
急成長しているモバイル機器向け中小型液晶用バックライトの需要増に対応するため、既
存の華南、華東地域の生産拠点に加え、内陸部に拠点を新設することで、生産能力の更な
る拡大を図る。
NTN は 10 年 10 月、洛陽 LYC 軸承有限公司(河南省洛陽市)と中国における自動車用
軸受の製造・販売を行う合弁会社設立に向けて合弁契約を締結。12 年 10 月から量産開始
を予定している。今後、NTN の品質·技術と洛陽 LYC の現地調達力を融合し、最適品質と
高付加価値サービスの提供によって、生産が拡大する中国自動車市場での更なる販売拡大
を目指す。
花王は10年12月、安徽省合肥市に家庭用製品の新生産会社を設立し、中国での生産拠点
の機能を強化すると発表。今回建設するのは、上海に次ぐ家庭用製品の第2工場で、12年
からの稼動を予定している。
(図表3)日本企業の内陸部への投資事例(2010年)
【 三井物産】
2010年7月、オルドス
電力冶金股份有限
公司'オルドス市(の
増資引受
【 ワコール】
2010年以降3年間で、成都市、
重慶市、西安市、武漢市など、
内陸部の店舗数を3倍に拡大
【ヤマザキマザック】
2010年夏を目処に
銀川市の工場の生
産能力を5割増強
【 NTN】
2010年10月、洛陽市で
合弁契約を締結
【新日鉄エンジニアリング】
2010年4月、馬鞍山市に
合弁会社を設立
【 河西工業】
2010年8月、蕪湖市
に合弁会社を設立
【ミキモト】
2010年7月、成都市に新店
舗をオープン
【 花王】
2010年12月、合肥市で
合弁契約を締結
【 三菱東京UFJ銀行】
2010年3月、成都市に
支店を開設
【 NTTコミュニケー
ションズ】
2010年2月、武漢
市に事務所を開設
【セブン-イレブン】
2010年12月、成都市に
運営会社を設立。2011
年春に1号店開店予定
【 丸紅】
2010年3月、武漢
市に出張所を開設
【 ローソン】
2010年7月、重慶市に
1号店を開店
【 日本郵船】
2010年5月、武漢
市に支店を開設
'出所(新聞報道、プレスリリースなどを基にジ ェトロ作成
'白地図(Copyright(C)中国まるごと百科事典
【 三菱重工業】
2010年3月、成都市、長
沙市に連絡事務所を設置
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【 オムロン】
2010年6月、衡陽市
に生産会社を設立
【東洋鋼鈑】
【 住友ゴム工業】
2010年3月、株洲市 2010年9月、長沙市に
43
に合弁会社を設立
タイヤ工場を設立
日本企業としても、人口7億 2,000 万人と総人口の 55%を占め、市場としても大きな潜
在力を有する内陸部を中国の「ニューフロンティア」と捉え、ビジネス展開を検討してい
く意義は高まっているといえよう。ジェトロが 10 年8~9月に实施した「在アジア・オ
セアニア日系企業活動实態調査」によれば、今後3~5年の有望な内販事業展開地域を複
数回答で尋ねた結果、中国全体で上位 10 省市をみると、沿海部の省市に加え、新興地域
として注目される内陸部の四川省(4位)
、重慶市(8位)が挙げられている。
(図表4)今後3~5年の有望な内販事業展開地域
中国(n=629)
1位 広東省
2位 上海市
3位 山東省
4位 江蘇省
四川省
6位 北京市
7位 天津市
8位 重慶市
9位 浙江省
10位 遼寧省
山東省(n=99)
44.2%
38.6%
25.3%
25.0%
25.0%
24.6%
24.0%
22.4%
21.8%
19.7%
北京市(n=53)
遼寧省(n=68)
1位 山東省
64.7%
1位 天津市
43.4%
1位 遼寧省
57.4%
2位 上海市
51.5%
2位 上海市
41.5%
2位 上海市
33.8%
3位 北京市
39.4%
3位 北京市
39.6%
3位 広東省
32.4%
4位 広東省
32.3%
4位 重慶市
35.9%
4位 北京市
27.9%
5位 遼寧省
25.3%
5位 広東省
34.0%
5位 天津市
26.5%
江蘇省(n=29)
天津市(n=26)
1位 江蘇省
51.7%
1位 広東省
53.9%
2位 広東省
31.0%
2位 天津市
46.2%
3位 浙江省
27.6%
3位 上海市
34.6%
4位 山東省
24.1%
4位 河北省
30.8%
四川省
24.1%
江蘇省
30.8%
上海市(n=110)
広東省(n=208)
1位 上海市
47.3%
1位 広東省
63.9%
2位 江蘇省
44.6%
2位 上海市
31.3%
3位 四川省
38.2%
3位 湖北省
26.9%
4位 広東省
36.4%
4位 四川省
24.0%
5位 浙江省
33.6%
5位 重慶市
23.6%
(出所)ジェトロ「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査」(2010 年度調査)
(中国北アジア課長 真家
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陽一)
Ⅳ.中国の投資環境の変化
1.外資利用の質の向上を目指す8大方針
2006 年3月の全人代で発表された第 11 次5ヵ年規画(2006~10 年)で、中国は「外
資利用における質の向上」の方針を打ち出した。この方針は、外資選別強化の動きとして
注目を集めた。これに関し商務部は 06 年8月、
「外資の積極的かつ有効な利用を継続、外
資利用の質の向上に注力」と題したリポートを発表した。
リポートはそれまでの外資導入を、
「経済発展の促進、建設資金の補てん、産業構造の調整
と改善の促進、就業機会の創出と人材育成、国家税収の増加、対外貿易の発展の加速、経
済的な国際競争力の向上をもたらした」と評価した。
一方で、問題点として以下の3点を挙げた。まず、①外商投資の産業構造をさらに改善
する必要がある。
外資導入に占めるサービス分野の割合が極めて低いため、ハイテク産業、
現代サービス業、現代農業、省エネ・環境保護産業の占める割合をさらに高める必要があ
る。次に、②外商投資は地域に偏りがあり、中西部地域の外資導入額が占める割合はわず
か 13%にすぎない。この状況が続けば、地域発展の不均衡がさらに拡大する。最後に、③
一部の地域では投資誘致の際に、規模を重視し、質を軽視する状況にある。外資と GDP
の増加を追及するあまり、盲目的な外資導入や地域間の悪質な競争、コストを考えない投
資誘致、国家の関連規定に違反した優遇政策の乱用などがみられる、とした。
リポートは今後の外資政策の方向性について、
「グローバルな戦略意識を確立し、国際的
な経済技術協力と競争に積極的に参与し、対外開放水準を全面的に引き上げ、外資利用の
質を高めることにより、国内の産業構造や技術水準を向上させ、地域間の協調発展と企業
改革を促進し、自为創新能力を向上させる」との見解を示した。そして第 11 次5ヵ年規
画が示す「外資利用の質と水準の向上」のため、8つの方針を示した(図表1参照)
。
2.外資利用の一段の改善に関する若干の意見
中国の GDP 成長率は 2007 年にかけ5年間連続2ケタ成長となり、貿易、投資額も拡大
を続けた。2008 年には企業所得税法が施行となり、外資製造業への優遇税制の段階的廃止
が始動した。また労働契約法も施行され、期限の定めのない労働契約の適用が進むことと
なった。加工貿易は、制限品目、禁止品目が徐々に拡大するとともに、増値税還付率が引
き下げられるなど、加工貿易基地からの脱却、貿易構造のレベルアップへの動きが次第に
強まっていった。
2008 年秋のリーマンショックをきっかけに、景気の急激な悪化に直面すると、政府は4
兆元の大型景気刺激策をはじめとする大胆なてこ入れを迅速に实施したほか、それまで進
められてきた加工貿易への制限も棚上げした。さらには企業の経営環境の著しい悪化を考
慮し、
最低賃金の引き上げも見送った。あらゆる政策努力が成長の維持に向けられた結果、
09 年半ばには景気の回復基調が鮮明となり、10 年に入る頃の中国経済は、経済政策論議
29
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の中心が出口戦略の行方に移るまでに復調していた。
(図表1)外資利用の質と水準の向上のための8大方針
1
2
3
4
5
6
7
8
積極的かつ有効な外資利用という方針を堅持し、外資導入政策の連続性と安定性を保持する。基本
国策である対外開放政策を継続し、対外開放水準をさらに高める。積極的かつ安定的に内外資企業
の所得税を調整し「両税統一」を実行する。中国の投資環境の国際競争力を保持し、海外投資家の
信頼を高める。
外資を利用して、産業構造の改善を進める。国家の産業構造調整の方向性と経済発展の需要を連携
し、「外商投資産業指導目録」を適時改訂する。ハイテク産業、先進的製造業、現代サービス業、
現代農業、環境保護産業への外資導入を重点的に奨励する。高付加価値、高輻射力、低エネルギー
消費、ハイエンド産業などの外資プロジェクトの導入を重要視する。外資系企業による原材料・部
品の現地調達強化を奨励する。高汚染、高エネルギー消費、過剰設備産業への外資プロジェクトの
導入を厳格に制限する。サービス産業の対外開放を着実に推進し、多国籍企業の地域本部、R&Dセ
ンター、調達センター、研修センターの設立を奨励する。
外資導入政策を改善し、外資利用の質をさらに高める。国際的な産業移転の機会をとらえ、中国の
実情に合わせて、サービス・アウトソーシング業に対する税収優遇政策の制定などにより、中国を
多国籍企業のサービス・アウトソーシングの重要な引き受け先とする。貿易成長方式を転換させ、
輸出構造を改善し、サービス輸出を拡大させ、より多くの就業機会を創出する。
外商投資の地域配置を改善し、地域経済の協調発展を促進する。東部地域に資金と技術集積度が高
い外商投資プロジェクトを積極的に誘致し、発展が成熟した労働・資源集約型産業、加工貿易の中
西部への移転を奨励する。中西部地域、東北などの旧工業基地の外資利用に対する支援を強化す
る。「中西部地域外商投資優位産業目録」を適時改訂し、中西部地域での国家級経済技術開発区の
建設や、東部地域の外商投資企業の中西部地域への再投資を支援する。中西部地域、東北などの旧
工業基地での対外開放の分野と範囲をさらに拡大し、外資参入条件を適度に緩和する。
さまざまな形式での協力を展開し、外資による技術移転効果を最大限に発揮させる。国内企業と外
資系企業による技術・研究開発、市場開拓での協力強化を促進する。外資系企業がコア技術を導入
することを奨励し、中国の技術創新体系を改善し、導入技術の消化吸収と再創新能力を強化する。
新たな外資導入方式を積極的に模索し、国内企業の競争力を向上させる。積極的に戦略投資家を導
入し、上場企業の質を高める。競争法体系を整備・確立し、独占禁止法と外資M&A管理弁法をでき
るだけ早く公布、企業の市場での競争行為を規範化する。創業、建設・操業・譲渡(BOT)などの分
野で外資利用を拡大する。条件に合致した外資系企業と国内企業の国内・海外上場を奨励する。
投資環境をさらに改善し、外資利用の管理水準を向上させる。「行政許可法」を全面的に貫徹し、
法に基づく行政を推進、各地方政府のサービス水準を向上させる。外資系企業と投資家の合法的な
権益を保護し、各種の権利侵害行為の取り締まりに力を入れ、法律や行政法規の執行能力を適切に
向上させ、多国籍企業の産業技術移転での障害を除去する。外資統計指標の体系を改善し、土地集
約利用、環境保護、省エネなどの成果指標を重視し、各地方政府の外資導入を規模重視から質重視
へと転換させる。
外資系企業の社会的責任に対する意識を高め、企業、社会、環境の持続可能な協調発展を実現す
る。外資系企業の社会的責任の構築を強化し、法に基づく経営、環境保護の強化、技術移転水準の
向上、労働者の合法権益の保護など、外資系企業のプラスの役割を最大限に発揮させる。
(出所)商務部「外資の積極的かつ有効な利用を継続、外資利用の質の向上に注力」
2010 年4月、国務院は「外資利用の一段の改善に関する若干の意見」
(国発[2010]9
号)を発表し、
「自ら为体的に良質な外資を選択」し、
「引資(外資導入)
」を「引智(ソフ
トの導入)
」に結び付けるとの方針を示した。
国務院はこの「意見」の発表に際し、中国は改革開放以来、積極的に外資を導入するこ
とで産業のレベルアップと技術進歩を進めてきており、外資企業は既に国民経済の重要な
構成要素になっているとの見解を示した。その上で、外資利用の質とレベルを引き上げ、
外資が科学技術の向上、産業のレベルアップ、地域の協調的発展などの分野でさらなるプ
ラスの効果を生むよう、5つの方針を示した(図表2参照)
。
30
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(図表2)
「外資利用の一段の改善に関する若干の意見」の概要
1
2
3
4
5
産業構造の改善に外資を活用する。外商投資産業指導目録を改訂し、対外開放する領域を拡大す
る。投資を奨励する業種としては、ハイエンド製造業、ハイテク技術産業、現代的サービス業、新エネ
ルギー・省エネ・環境産業を挙げた。他方、これまで同様、「両高一資'高エネルギー消費・高汚染・資
源消費型産業(」とレベルの低い過剰な生産能力の拡張プロジェクトは厳しく制限する。
中西部への投資誘致に力点を置く。「外商投資産業指導目録」の改訂に基づき、「中西部地区外商
投資優勢産業目録」を改訂し、労働集約型プロジェクトを増やす。中西部地区では、環境保護に関す
る要求を満たす労働集約型産業に関する外資系企業の投資を奨励する。
外資投資について、グリーンフィールド型だけでなく、M&Aの利用を進める。また、国内企業には海
外資本市場の活用を促し、外資は中国国内で中小企業保証会社の設立やベンチャーキャピタルと
いった金融ノウハウの導入に役立つようにする。
外資利用については、中央から地方への権限移譲を進め、導入に当たってのスピードアップを進め
る。
良好な投資環境形成していく上で、省レベルの開発区に対し、国家レベルへの昇級や拡張といったイ
ンセンティブを与える。
(出所)国務院「外資利用の一段の改善に関する若干の意見」(国発[2010]9号)
この『若干の意見』が出された背景について、中国の多国籍企業研究の第一人者である
商務部多国籍企業研究センターの王志楽研究員は、次のように述べている。
政府は近年、一部の IT セキュリティ製品を中国強制認証制度(CCC)の対象としたり、
政府調達で实質的に外国製品を制限するなど、外資排除の動きを強めていた。この動きに
終止符を打ったのが、09 年 12 月 30 日に開催された国務院常務会議であり、その方針を
文書にしたものが『若干の意見』である。
中国は過去に5回ほど外資排除の動きが強まった時期がある。1回目は 1980 年に国内
で初めて外資との合弁でホテルが設立された時、2回目は 89 年で外資の積極利用が行わ
れた結果インフレや失業が問題になった時期、3回目はアジア通貨危機が発生した 97 年、
4回目は WTO 加盟前の 01 年、そして5回目が 06~09 年だ。しかし、いずれも最終的に
は国務院が外資排除の動きを止めており、政府の外資開放の姿勢はこの 30 年間一貫して
変わっていない。
世界では対内直接投資(FDI)に占める M&A 比率が 80%に上る一方、中国の場合は僅
か3%にとどまっている。国有企業、国内産業や国内経済保護を理由に M&A を制限して
いる。自为創新や自为ブランドの促進を掲げる一方で、自らの門戸を閉じるような、経済
の政治化が続いていた。政府は今後、外資系企業も中国企業との認識の下、外資系企業の
内国民待遇をさらに徹底し、外資企業を活用して産業構造の高度化を推進すべきだ。王研
究員は以上のような見方を示した。
また、会社法、海外直接投資、労務分野などが専門の大地法律事務所の熊琳弁護士は次
のように述べている。
『若干の意見』では、外資による直接的な資本参加のほか、上場企業への国内外の戦略
的投資家の誘導や証券投資などの促進によって、さまざまなかたちでの国内企業、特に国
有企業に対する買収活動を促進する方針が反映されている。他方、
『独占禁止法』や『外国
投資者が国内企業を買収することに関する規定』などで定めた、独占禁止審査を含む安全
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審査制度確立の加速が強調されており、買収活動が一企業に与える影響ではなく、市場全
体に与える影響を重要視している。熊弁護士は以上のような見方を示した。
熊弁護士は「
『若干の意見』では、外商投資の具体的な方式として、従来の FDI に加え、
中外企業による先進技術の共同開発や技術開発プロジェクトを請け負う研究機関の共同運
営なども挙げている。また近年大きな話題になっている地域本部や購買・財務管理・決済
管理などの単一機能に特化した専門機構なども、引き続き奨励される投資形態の1つとし
ている。中国が自国の技術力や国際競争力の向上と資源保護の観点から、産業の構造転換
を加速したい意向がうかがえる」と指摘している。
また『若干の意見』は、これまで同様「両高一資(高エネルギー消費・高汚染・資源消
費型産業)
」
といったレベルの低い過剰な生産能力の拡張プロジェクトを厳しく制限するこ
と、地方政府の認可条件を拡大することなどを規定している。
3.雇用・賃金情勢
2010 年5月から8月にかけ、大連、山東省、長江デルタ地域、珠江デルタ地域を中心に
ストライキが多発した。在中国日本大使館経済部の「中国の日系企業におけるストライキ
の発生状況と課題について」7によれば、ストライキは8割以上が独資企業で発生した。発
生の原因として、
「周辺企業の賃上げによる影響」と「従業員とのコミュニケーションの不
足」があった。また最大の問題点として、企業・地域を越える「ストライキの連鎖」が挙
がった。ストライキの予防対策として圧倒的多数を占めたのは、
「従業員とのコミュニケー
ションと従業員に対する情報の積極的な開示」であった。
また 10 年は、9月に尖閣諸島周辺で日本の巡視船と中国漁船の衝突事件が発生し、事
件後に日中間で様々なあつれきや一部地域で反日抗議活動が生じた。その影響について、
国際協力銀行はアンケート8を行った。「中国の政治リスクの顕在化によって、貴社の中国
事業はマイナスの影響を受けたと感じていますか」との問いに対し、59.6%の企業は「特
に影響はない」と回答する一方、19.2%が「多尐は影響を受けた」、3.4%が「大きい影響
を受けた」と答えている。
賃金動向の1つの目安となる最低賃金は、09 年については企業の経営環境の著しい悪化
を受け引き上げが見送られたが、10 年は大幅な引き上げとなった。北京市を例にとると、
10 年の引き上げ率は例年のほぼ倍となる 20%で月額 960 元、11 年1月にも 20.8%引き上
げられ 1,160 元となった。
国際協力銀行が毎年实施している
「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」
によれば、日本の製造業企業が3年程度を展望した場合に事業展開先として最も有望とみ
る国は、10 年も中国であった。03 年以降、第2位のインドとの差が急速に縮まったが、
2011 年 1 月発表。有効回答は 307。
「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告-2010 年度 海外直接投資アンケート結果(第
22 回)-」の「緊急追加アンケート調査結果」より。7月にアンケート調査を实施した後、中国事業へ
の取り組みに関し意識の変化が生じたかどうか、11 月に追加アンケート調査を行っている。
7
8
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09~10 年は中国が再評価されている。
(図表3)日本の製造業からみた各国の有望度の推移
'%(
100
90
80
70
中国
60
インド
50
タイ
ベトナム
米国
40
30
20
10
0
92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
'注(3年程度のスパンで展望しそれぞれの国を有望と回答した企業の割合。
'資料(国際協力銀行「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」
中国を有望視する理由については、
「現地マーケットの今後の成長性」と回答した企業が
87.8%に達した。以下、
「現地マーケットの現状規模」
(38.1%)、
「安価な労働力」
(35.3%)
が続くものの、
「安価な労働力」については、前年の 44.0%から 8.7 ポイントの大幅ダウ
ンとなった。
国際協力銀行の調査報告では、中国の課題についても尋ねており、そこで中国の課題と
して日本企業が挙げる比率が最も高かった項目は、
「労働コストの上昇」
(56.3%)であっ
た。またジェトロ「在アジア・オセアニア日系企業活動实態調査(2010 年度調査)
」でも、
最も多くの在中国日系企業が経営上の問題点として挙げたのは「従業員の賃金上昇」
(79.6%)であった。
03 年以降、日本企業の間で中国が事業展開先国としての評価を落とした理由としては、
03 年の SARS 流行、04~05 年の電力不足、05 年の反日デモを契機とするチャイナ・プラ
ス・ワン模索の機運の広がりも考えられるが、調査報告に照らして考えれば、賃金の問題
が指摘できる。調査報告で中国が事業展開先として有望である理由をみると、
「安価な労働
力」を指摘する企業の比率は 03 年をピークに低下の一途をたどっている。
それでも 09~10 年にかけては、中国の評価が再び高まる形となったのは、
「安価な労働
力」
を有望の理由に上げる企業の割合が低下する一方で、
「現地マーケットの今後の成長性」
を挙げる企業の割合が高まったからだろう(図表4参照)。
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(図表4)中国が事業展開先国として有望である理由の推移
安価な労働力
対日輸出拠点+第三国輸出輸出拠点として
現地マーケットの現状規模
現地マーケットの成長性
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
(出所)国際協力銀行「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」各年版
4.外資導入に関する最近の動き
最後に、外資導入に関する最近の動きについて2点示す。
国務院(内閣)は 2010 年 10 月 18 日、
「戦略的新興産業の育成と発展の加速に関する決
定」
(国発[2010]33 号)を発表し、省エネ・環境保護、次世代情報技術、バイオ、ハイ
エンド設備製造、新エネルギー、新材料、新エネルギー自動車の7産業を戦略的新興産業
として重点的に育成・発展させていく方針を打ち出した。戦略的新興産業7業種が GDP
に占める割合を 15 年までに約8%、20 年までに約 15%に引き上げること、今後 10 年前
後で、戦略的新興産業のイノベーション能力と産業レベルを世界の先進レベルに引き上げ
ることを目標に掲げた。外資導入との関連についていえば、外商投資産業指導目録の整備
を行い、外資系ベンチャー企業の投資や外資による戦略的新興産業への投資を奨励すると
しており、外資を活用したイノベーション能力の強化も図るとの方向性が示されている。
11 年2月 12 日、国務院は「外国投資者による国内企業の買収・合併の安全審査制度構
築に関する通知」を発表した。香港、マカオ、台湾を含む外国企業が中国企業を合併・買
収(M&A)する際に、安全保障上の問題がないかを審査する制度を導入する。
通知は安全審査の対象範囲について、①外国投資者による国内軍需産業とその関連企業、
②重点軍事施設周辺の企業と国防に関係する機関、③国家安全保障にかかわる重要な農産
品、④重要な資源エネルギー、⑤重要なインフラ、⑥重要な運輸サービス、⑦コアテクノ
ロジー、⑧重要な設備製造などに関する企業への M&A のうち、
「实質的な経営権」
(原文
は「控制権」
)を外国投資者が取得する可能性がある場合、と定めている。代表的な産業を
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挙げてはいるものの、対象となるすべての産業が明示されているわけではない。企業が中
国企業に対し M&A を検討する際、審査対象となるのかどうか注意が必要といえる。
(北京センター次長 箱崎
大)
(参考資料)
ジェトロ『通商弘報』
「商務部、外資利用の『質の向上』に向けた方針を公表」2006 年8月 25 日付
「外資利用の質の向上に国務院が 5 つの方針」2010 年4月 20 日付
「外資利用の一段の改善に関する若干の意見の読み方-エコノミスト、弁護士に聞く-」
2010 年5月 18 日付
「北京市の最低賃金、20%アップの月額 960 元に」2010 年6月4日付
「都市維持建設税・教育費付加税を外資系企業にも適用-12 月1日から-」2010 年 10
月 27 日付
「戦略的新興産業の育成方針を決定-外資による投資も奨励-」2010 年 11 月2日付
「商務部が企業の対外投資を積極支援-『走出去』加速方針-」2011 年1月 13 日付
「外国企業による M&A に安全保障上の審査」2011 年2月 21 日付
35
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Ⅴ.日系企業の事業運営動向および問題点・課題
1.中国事業は拡大傾向
日本市場が成熟し将来的にも拡大が期待できない一方で、海外事業の拡大を図る日本企
業が増加している。
ジェトロが、在アジア・オセアニア進出日系企業にアンケート調査9を实施した結果をみ
ると、中国進出日系企業 795 社のうち 65.2%が、今後1~2年の事業展開の方向性につい
て、
「拡大」すると回答。09 年度調査結果から 3.3 ポイント上昇した(図表1)。
(図表1)今後1~2年の事業展開の方向性
拡大
現状維持
中国
10年度(n=795)
第3国(地域)へ移転・撤退
65.2
09年度(n=572)
31.5
61.9
08年度(n=437)
34.6
60.2
10年度(n=1,847)
ASEAN
縮小
35.5
60.8
09年度(n=1,593)
49.3
57.0
0%
40%
60%
2.0
0.3
3.1
0.9
39.9
20%
3.70.7
37.0
46.6
08年度(n=1,302)
2.1
1.3
1.8
1.8
2.6
0.5
80%
100%
(出所)「在アジア・オセアニア日系企業活動実態」
(2008~2010 年度調査各年版)
2.利益改善の最大の理由は中国市場での売上増加
10 年の営業利益を「黒字」と回答した企業の割合は、07 年の 62.3%から年々低下した
が、10 年は一転増加。09 年度調査結果の 51.8%から 12.6 ポイント上昇して 64.4%に増
え、中国経済と同様のV字回復を描く(図表2)
。
9
ジェトロ「在アジア・オセアニア日系企業活動实態調査(2010 年度調査)」
。
ジェトロが 10 年8~9月、アジア・オセアニア 18 カ国・地域の進出日系企業を対象に实施したアンケー
ト調査。有効回答数は、3,486 社、うち中国は 806 社。
詳細は、以下のジェトロウェブサイト掲載の報告書を参照。
http://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/reports/07000386
http://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/reports/07000418
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(図表2)黒字企業の割合(05~10 年)
(%)
80
73.0
72.4
68.7
70
67.2
67.0
65.5
62.1
59.6
60
64.4
57.1
62.3
59.4
51.9
50
51.8
中国(製造業)
中国(製造業+非製造業)
ASEAN(製造業+非製造業)
40
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
(注)非製造業は、07 年より調査対象となった。
(出所)
「在アジア・オセアニア日系企業活動実態」
(2008~2010 年度調査)
、「在アジア
日系企業の経営実態」(2005~2007 年度調査)
営業利益の前年との比較では、10 年の見込みを「改善」とした企業の割合は 55.3%と、
09 年度調査の 09 年の見込みを「改善」とした企業の割合(34.8%)から 20.5 ポイント上
昇。11 年の見通しは、
「改善」とした企業の割合は 55.5%と微増し、
「悪化」とする企業が
減尐している(図表3)
。このため、
「改善」と回答した企業の割合から「悪化」すると回
答した企業の割合を差し引いた景況感指数である DI(Diffusion Index)値は、45.3 ポイ
ントと 10 年の DI 値 36.6 ポイントから 8.7 ポイント上昇しており、11 年の景況感は明る
いといえる。
(図表3)営業利益の前年との比較
改善
横ばい
55.5
2010年見込み(n=797)
55.3
2011年見通し(n=780)
55.1
34.2
10.3
ASEAN
中国
2011年見通し(n=780)
悪化
2010年見込み(n=797)
26.0
37.7
61.4
0%
20%
18.7
7.3
22.8
40%
60%
15.9
80%
100%
(出所)「在アジア・オセアニア日系企業活動実態」
(2010 年度調査)
営業利益改善の理由を見ると、11 年の見通しで「現地市場での売上増加」を挙げた企業
の割合は 76.6%と 10 年見込みの 71.7%より増加している(図表4)
。この他、「生産効率
の改善」
、
「販売効率の改善」
、
「調達コストの削減」を挙げる企業の割合は、11 年に増加。
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積極的に現地市場開拓を進めるとともに、生産効率を改善しコスト削減で営業利益の改善
に努める企業の姿勢が浮かび上がる。
他方、
「輸出拡大による売上増加」を挙げる企業の割合は約3割あるものの、ASEAN 進
出企業と比べ比率が低いことが特徴的だ。
(図表4)営業利益見込み・見通しが改善する理由
中国11年見通し(n=431)
ASEAN11年見通し(n=984)
中国10年見込み(n=441)
ASEAN10年見込み(n=1,135)
71.7
67.6
69.1
現地市場での売上増加
76.6
47.5(n=263)
39.4(n=587)
44.1(n=284)
37.7(n=711)
生産効率の改善
(製造業のみ)
31.6
34.5
輸出拡大による売上増加
販売効率の改善
9.4
14.1
13.2
46.9
46.5
19.5
19.3
15.7
13.0
12.1
調達コストの削減
10.2
その他支出(管理費、
光熱費等)の削減
15.2
12.7
16.1
5.8
人件費の削減
5.0
10.4
9.3
2.8
6.8
2.2
5.5
為替変動
0
20
40
60
80
(%)
100
(出所)「在アジア・オセアニア日系企業活動実態」
(2010 年度調査)
中国進出日系企業の旺盛な内販志向は、市場開拓に向けた今後の取り組み方針からも鮮
明だ。
「現地市場開拓を(輸出よりも)優先する」企業の割合は、52.2%と過半数を上回る。
「現地市場開拓と輸出に同じ優先度で取り組む」企業の割合(28.5%)とあわせて、80.7%
の企業が現地市場開拓を積極的に進める方針である(図表5)
。その割合は、ASEAN 進出
企業(69.9%)を 10 ポイント以上上回る。高い経済成長率や所得の伸びが見込まれるア
ジアの市場開拓に活路を見出そうとする機運が高まっているが、その中でも中国に進出し
ている日系企業の現地市場開拓志向はとりわけ高い。
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(図表5)市場開拓へ向けた今後の取り組み方針
ASEAN(n=1,809)
中国(n=779)
3.7%
現地市場開拓を'輸
出よりも(優先する
6.3%
9.2%
52.2%
28.5%
現地市場開拓と輸
出に同じ優先度で
取り組む
現地市場開拓よりも
輸出を優先する
8.5%
9.0%
38.7%
12.6%
輸出指向型のため
現地市場には関心
なし
分からない
31.2%
(出所)「在アジア・オセアニア日系企業活動実態」
(2010 年度調査)
3.最大の課題は賃金上昇
中国に進出している日系企業の経営上の問題点をみると、最大の問題は「従業員の賃金
上昇」となっており、09 年度の調査結果から 16.9 ポイント増加した(図表6)。次に、
「競
合相手の台頭(コスト面で競合)
」
、
「調達コストの上昇」が続き、賃金や調達コストが上昇
する一方で、価格競争も厳しく、厳しい環境で市場開拓が行われていることがわかる。
(図表6)経営上の問題点
回答項目
1位
2位
3位
4位
5位
6位
7位
8位
9位
10位
分野
従業員の賃金上昇
競合相手の台頭'コスト面で競合(
調達コストの上昇
従業員の質
主要取引先からの値下げ要請
現地人材の育成が進まない
品質管理の難しさ
原材料・部品の現地調達の難しさ
人材'一般ワーカー(の採用難'製造業のみ(
限界に近づきつつあるコスト削減
'雇用・労働面(
'販売・営業面(
'生産面(
'雇用・労働面(
'販売・営業面(
'経営の現地化(
'生産面(
'生産面(
'雇用・労働面(
'生産面(
1 0 年度 0 9 年度 増減(ポ
調査(% ) 調査(% ) イント)
79.6
62.7
16.9
57.5
52.9
4.6
55.9
36.3
19.5
48.4
44.1
43.6
0.5
44.0
70.6
-26.6
43.3
55.5
-12.2
43.1
45.9
-2.8
42.7
24.5
18.2
42.7
40.7
1.9
(注)
「従業員の質」は、10 年度調査の新規追加調査項目
(出所)「在アジア・オセアニア日系企業活動実態」
(2009、2010 年度調査)
経営上の問題点を、中国・ベトナム・インドで比較すると、
「従業員の賃金上昇」、
「競合
相手の台頭(コスト面で競合)
」
、
「調達コストの上昇」は3カ国間で、それぞれ共通の課題
となっていることがうかがえる。他方、インド、ベトナムでは「原材料・部品の現地調達
の難しさ」
、
「電力不足・停電」
、
「物流インフラの未整備」が大きな課題となっているが、
中国では課題とする企業の割合が相対的に低い。各国における産業集積やインフラ整備の
39
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進展度の差がうかがえる(図表7)
。
(図表7)経営上の問題点(中国、ベトナム、インド間で回答に差があった項目、複数回
答)
従業員の賃金上昇
80
60
競合相手の台頭
'コスト面で競合(
物流インフラの未整備
40
20
中国
インド
0
電力不足・停電
調達コストの上昇
現地人材の能力・
意識の低さ
ベトナム
原材料・部品の
現地調達の難しさ
(出所)「在アジア・オセアニア日系企業活動実態」
(2010 年度調査)
(1)販売・営業面での問題点
販売・営業面の問題点について複数回答で尋ねたところ、
「競合相手の台頭(コスト面で
競合)
」
(57.5%)が最も多くあげられた。次いで「为要取引先からの値下げ要請」
(44.1%)
、
「新規顧実の開拓が進まない」
(36.9%)となっており、これら上位3項目は前年度調査結
果と同様である。
前年度調査結果と異なる点としては、
「取引先からの発注量の減尐」、
「为要販売市場の低
迷」
、
「本社からの発注量の減尐」が前回より大きく減尐している点が特筆される。
(図表8)販売・営業面での問題点(複数回答)
【中国】(n=783)
順位
(%)
問題点
回答数
割合
1
競合相手の台頭(コスト面で競合)
450
57.5
2
主要取引先からの値下げ要請
345
44.1
3
新規顧客の開拓が進まない
289
36.9
4
競合相手の台頭(品質面で競合)
193
24.7
5
取引先からの発注量の減尐
122
15.6
6
本社からの発注量の減尐
107
13.7
7
主要販売市場の低迷(消費低迷)
104
13.3
8
売掛金回収の停滞
82
10.5
9
世界的な供給過剰構造による販売価格の下落
73
9.3
10
現地の規制緩和が進まない
70
8.9
11
11
現地市場への安価な輸入品の流入
その他の問題
48
48
6.1
6.1
特に問題はない
31
4.0
(出所)「在アジア・オセアニア日系企業活動実態」
(2010 年度調査)
40
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(2)財務・金融・為替面での問題点
財務・金融・為替面の問題点について複数回答で尋ねたところ、
「税務(法人税、移転価
格課税など)の負担」が最も多く 30.8%であるが、前年度調査結果(38.8%)よりやや減
尐している。次いで「現地通貨の対円為替レートの変動」
(30.7%)
、
「現地通貨の対ドル為
替レートの変動」
(27.5%)
、
「円の対ドル為替レートの変動」
(25.2%)と続いている。
また、15.1%の企業は「特に問題はない」と回答している。
(図表9)財務・金融・為替面での問題点(複数回答)
【中国】(n=770)
順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
(%)
問題点
税務(法人税、移転価格課税など)の負担
現地通貨の対円為替レートの変動
現地通貨の対ドル為替レートの変動
円の対ドル為替レートの変動
業務規模拡大に必要なキャッシュフローの不足
資金調達・決済に関わる規制
現地での金融機関からの資金調達が困難
金利の上昇
その他の問題
特に問題はない
回答数
237
236
212
194
184
104
72
32
21
割合
30.8
30.7
27.5
25.2
23.9
13.5
9.4
4.2
2.7
116
15.1
(出所)「在アジア・オセアニア日系企業活動実態」
(2010 年度調査)
(3)雇用・労働面での問題点
雇用・労働面の問題点について複数回答で尋ねたところ「従業員の賃金上昇」
(79.6%)
が最も多く、前年度調査結果より 16.9 ポイント上昇している。次いで「従業員の質」
(48.4%)
、
「人材(一般ワーカー)の採用難(製造業のみ)」
(42.7%)、
「従業員の定着率」
(37.3%)と続いている。これら上位項目は前年度調査より増加しているが(
「従業員の質」
を除く)、
「管理職・現場責任者の現地化が困難」、
「解雇・人員削減に対する規制」は前年
より 10 ポイント以上減尐している。
41
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(図表 10)雇用・労働面での問題点(複数回答)
【中国】(n=788/製造業n=506)
順位
(%)
問題点
回答数
割合
1
従業員の賃金上昇
627
79.6
2
従業員の質
381
48.4
3
人材(一般ワーカー)の採用難(製造業のみ)
216
42.7
4
従業員の定着率
294
37.3
5
人材(技術者)の採用難(製造業のみ)
156
30.8
6
人材(中間管理職)の採用難
229
29.1
7
日本人出向役職員(駐在員)のコスト
190
24.1
8
管理職、現場責任者の現地化が困難
168
21.3
9
解雇・人員削減に対する規制
147
18.7
10
人材(一般スタッフ・事務員)の採用難
139
17.6
11
12
その他の問題
外国人労働者の雇用規制
24
16
3.1
2.0
特に問題はない
29
3.7
(出所)「在アジア・オセアニア日系企業活動実態」
(2010 年度調査)
経営上の最大の課題である賃金上昇を製造業のベースアップ率で見てみると、製造業で
は、広東省中山市や遼寧省大連市など加工貿易基地として発展してきた沿海部の都市では
20%を超える引き上げ率となっている(図表 11)
。
(図表 11)ベースアップ率(製造業)
中山市(n=13)
大連市(n=38)
広州市(n=42)
佛山市(n=16)
杭州市(n=5)
東莞市(n=54)
深圳市(n=31)
天津市(n=22)
青島市(n=56)
蘇州市(n=15)
煙台市(n=11)
上海市(n=41)
瀋陽市(n=9)
北京市(n=19)
22.2
21.0
17.1
16.0
14.8
14.5
14.5
13.9
13.3
12.6
12.4
9.3
8.8
(%)
7.1
0
5
10
15
20
25
(出所)「在アジア・オセアニア日系企業活動実態」
(2010 年度調査)
加えて、雇用・労働面での問題点として、
「人材(一般ワーカー)の採用難」を挙げる企
業が 42.7%にのぼることからわかるように、沿海部を中心に出稼ぎ労働者の不足も深刻化
しつつある。低コストで豊富な労働力を確保できるという中国の投資環境面での比較優位
42
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性は低下しつつあり、現地の労働力をいかに安定的に確保するか、という課題への対応に
迫られているともいえる。
(4)貿易制度面での問題点
貿易制度面の問題点について複数回答で尋ねたところ、
「通関等諸手続きが煩雑」
(41.0%)
、
「通関に時間を要する」
(33.5%)
、
「通達・規則内容の周知徹底が不十分」
(28.5%)
と続いている。また、
「特に問題はない」との回答が 26.8%あった。前年度調査と比較す
ると各項目の順位は同じであるが、全体的に減尐している。
(図表 12)貿易制度面での問題点(複数回答)
【中国】(n=734)
順位
(%)
問題点
回答数
割合
1
2
3
通関等諸手続きが煩雑
通関に時間を要する
通達・規則内容の周知徹底が不十分
301
246
209
41.0
33.5
28.5
4
5
6
7
関税の課税評価の査定が不明瞭
検査制度が不明瞭
関税分類の認定基準が不明瞭
厳格な検疫制度
156
142
135
51
21.3
19.4
18.4
7.0
8
9
非関税障壁が高い
その他の問題
46
23
6.3
3.1
197
26.8
特に問題はない
(出所)「在アジア・オセアニア日系企業活動実態」
(2010 年度調査)
(5)生産面での問題点
製造業の企業に対し、生産面の問題点について複数回答で尋ねたところ「調達コストの
上昇」が 55.9%で最も多く、前年度調査結果を 19.6 ポイント上回った。次いで「品質管
理の難しさ」
(43.3%)と「原材料・部品の現地調達の難しさ」
(43.1%)、「限界に近づき
つつあるコスト削減」(42.7%)が上位に続いている。
前年度調査と比較すると、
「電力不足・停電」をあげた企業の割合が 26.1 ポイント増加
している。
43
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(図表 13)生産面での問題点(複数回答、製造業のみ)
【中国】(n=476)
順位
(%)
問題点
回答数
割合
1
調達コストの上昇
266
55.9
2
品質管理の難しさ
206
43.3
3
原材料・部品の現地調達の難しさ
205
43.1
4
限界に近づきつつあるコスト削減
203
42.7
5
電力不足・停電
129
27.1
6
設備面での生産能力の不足
120
25.2
7
環境規制の厳格化
92
19.3
8
物流インフラの未整備
48
10.1
9
短期間での生産品目の切り替えが困難
36
7.6
9
11
資本財・中間財輸入に対する高関税
その他の問題
36
23
7.6
4.8
9
1.9
特に問題はない
(出所)「在アジア・オセアニア日系企業活動実態」
(2010 年度調査)
(6)経営の現地化を進めるに当たっての問題点
経営の現地化を進めるに当たっての問題点を複数回答で尋ねたところ、
「現地人材の育成
が進まない」
(44.0%)が最も多かったが、前年度調査結果と比較すると 26.6 ポイント減
尐している。次いで「幹部候補人材の採用難」
(42.0%)
、
「現地人材の能力・意識の低さ」
(39.6%)と続いている。
(図表 14)経営の現地化を進めるに当たっての問題点(複数回答)
【中国】(n=747)
順位
(%)
問題点
回答数
割合
1
現地人材の育成が進まない
329
44.0
2
幹部候補人材の採用難
314
42.0
3
現地人材の能力・意識の低さ
296
39.6
4
現地における企画・マーケティング力の弱さ
192
25.7
5
本社から現地への権限委譲が進まない
142
19.0
6
現地における製品・サービス開発力の弱さ
135
18.1
7
日本人駐在員削減の難しさ
130
17.4
8
幹部候補人材の離職率の高さ
92
12.3
8
現地人材の語学力(日本語および英語)水準の低さ
92
12.3
10
11
人材登用について本社方針との不一致
その他の問題
54
30
7.2
4.0
特に問題はない
74
9.9
(出所)「在アジア・オセアニア日系企業活動実態」
(2010 年度調査)
(中国北アジア課 日向 裕弥、小林 伶)
44
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第2章
将来展望
45
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第2章 将来展望
Ⅰ.中国経済の中長期展望
2010 年における中国の实質 GDP(国内総生産)成長率は、輸出の大幅な回復等により、
10.3%と2ケタ成長を達成した。GDP は 39 兆 7,983 億元となり、日本を抜いて世界第2
位の経済大国へ躍進した。11 年も 10 年並かそれ以上の成長を予測する見方が大勢である
が、5年先あるいは 10 年先を見据えた場合、どのように推移することが展望されるのか、
また、中長期的視点で中国経済を見る上での注目点は何なのかをまとめてみた。
1.2020 年に向け経済成長率は徐々に低下
図表1は 2001 年から 20 年までの中国経済を展望してみたものであり、折れ線グラフは
中国の实質 GDP 成長率、棒グラフが GDP である。2010 年までは中国の国家統計局が公
表している数字、2011 年から 15 年までは IMF(国際通貨基金)が中国経済の中期予測を
出しており、その成長率を使用した。
(図表1)中国経済の中長期展望
'%(
CO2排出量をGDP比で05年より40~45%削減
尐子高齢化が本格化
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16.0
'億元(
1,000,000
第3次産業
建国70周年
14.2
第2次産業
14.0
第1次産業
12.7
12.0
900,000
労働人口が減尐へ
'見込み(
800,000
11.3
10.0
10.0
700,000
10.3
10.1
9.6
9.1
8.3
8.0
北京五輪開催
9.6
9.2
9.5
9.5
9.5
9.5
600,000
GDP世界第2位の
経済大国に、上海
建国60周年
万博開催
輸出が世界
第1位に
500,000
400,000
外貨準備高
が世界第1
世界第3位の
位に
貿易大国に
6.0
4.0
300,000
200,000
WTO加盟
2.0
100,000
0.0
0
2001
国家元首
5ヵ年規画
自主創新
食糧生産
2002
2003
2004
2005
2006
江沢民
第10次5ヵ年計画
2007
2008
2009
胡錦濤
第11次5ヵ年規画
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
習近平'?(
第12次5ヵ年規画
第13次5ヵ年規画
国家中長期科学技術発展計画綱要
国家食糧安全中長期規画綱要
'注(実質GDP成長率は、2001~10年が中国国家統計局、2011年~15年がIMF予測、2016年以降はイメージ。
'出所(各種資料を基に作成
中国は第 12 次5カ年規画(2011~15 年)期における实質 GDP 成長率の目標を年平均
46
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7%と設定しているが、实際はこの目標を上回る成長が続く可能性が高い(第 11 次5ヵ
年規画期の目標は年平均 7.5%であったが、实績は 11.2%であった)
。2016 年以降は予測
ということではなく、あくまでイメージであるが、中国の成長率は過去のような右肩上が
りはあり得ず、徐々に低下していくことが予想される。中国は 2003 年から 2007 年まで、
5年連続で 10%を超える2ケタ成長を達成したが、このような高成長は今後ほぼ不可能だ
ろうというのが、多くの中国の政策担当者や有識者の見方である。
2.環境・エネルギー問題や尐子高齢化が制約要因に
中国の成長率が低下していく要因としては、大きく3点が挙げられる。
第1は、中国の経済規模が既に日本を上回るくらい大きくなったことである。例えば
2000 年代前半の頃の経済規模であれば、前年比で 10%以上伸ばしていくことはできた。
しかし、現在では日本と肩を並べるぐらいの経済規模になっており、成長率計算上の分母
が大きくなっているので、10%以上の伸びを維持していくことは難しくなりつつある。
第2は、環境・エネルギーの問題が深刻なことである。これまで中国の経済成長は、環
境・エネルギー問題を犠牲にした成長といえる。つまり、エネルギーを大量に消費し、環
境を破壊しながら成長してきたわけであるが、今後についてはエネルギーを大量に消費す
るような形の成長は望めない。また、環境問題が深刻化する中で、今後は環境保護にも相
当力を入れていかないと社会問題に発展しかねない。
中国は 93 年から石油の純輸入国に転じ、09 年は石油の輸入依存度が5割を超えた。今
後経済規模が拡大していけば、当然必要なエネルギー量も増加していくことになるが、石
油の純輸入国でもある中で、必要なエネルギーを確保するには、世界からの調達を大幅に
拡大しなければとても間に合わない。このため、中国は近年、オーストラリアやアフリカ
などで資源の権益確保に動いているわけであるが、それでも十分な調達は難しい。このた
め、
中国が経済を持続的に発展させていくためには、
省エネおよび新エネルギーへの転換、
特に再生可能エネルギー(風力など)への転換を進めていかざるを得ない。
第3は、労働人口(15~64 歳)が 2015 年頃から減尐に転じていくことである。これは
一人っ子政策の弊害であるが、労働人口が減尐に転じ、労働力の投入が減ってくれば、経
済成長にとってはマイナスになってくる。全体の人口は 2030 年代の半ばぐらいまで増え
続け、現在の約 13 億人から 15 億人余りに増加した後で、そこをピークに全体の人口も減
尐に転じていくことが見込まれているが、それに先立って 2015 年ぐらいから労働人口が
減尐に転じていくことが予測されている。
3.経済成長のカギは個人消費、第3次産業、内陸部開発
以上のように、さまざまな制約要因はあるものの、今後はいくつかのファクターが中国
経済の新たなけん引役となり、経済成長を下支えしていくことも期待される。
第1は、個人消費である。09 年の中国の GDP の支出別内訳をみると、消費が 48.0%、
47
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投資が 47.7%、純輸出が 4.4%となっている。ただし、消費には政府消費も含まれており、
個人消費は 35.1%に過ぎない。先進国における個人消費の割合が6~7割であることを考
慮すれば、経済成長に対する個人消費の寄与度は相対的には小さく、これまで中国の経済
成長のけん引役は投資と輸出であったといえる。
他方、近年は経済成長の中で、個人所得も急速に高まっている。政府も消費・投資・輸
出のバランスのとれた経済成長に向けた内需拡大を为要目標と位置づけ、国民の消費力を
強化する方針も示している。第 12 次5ヵ年規画では、
「国民生活の全面的な改善」を为要
目標の1つとして定め、経済成長と同じペースで国民所得を増加させることや、法定最低
賃金を年平均 13%増加させることなどが謳われている。
消費拡大を推進する上で不可欠となるのが格差是正である。そのためには、中低所得者
の所得増加や社会保障制度の整備が必要であり、そういう意味で、消費拡大は経済政策の
問題だけでなく、収入の再配分にも関わる問題となっている。中国がこうした問題を克服
し、消費が経済のけん引役になっていくかが注目される。
(図表2)GDP の支出別内訳(09 年)
(図表3)GDP の産業別内訳(09 年)
純輸出
4.4%
在庫増加
2.3%
投資
47.7%
固定資本
形成総額
45.4%
第3次
産業
43.4%
個人消費
35.1%
第1次
産業
10.3%
消費
48.0%
第2次
産業
46.3%
政府消費
12.9%
'出所(国家統計局編「中国統計年鑑」2010年版
'出所(国家統計局編「中国統計年鑑」2010年版
また、中国の GDP の産業別内訳をみると、第1次産業が 10.3%、第2次産業が 46.3%、
第3次産業が 43.4%となっており、第2次産業、特に製造業が経済成長のけん引役となっ
ている。ただし、先進国では GDP に占める第3次産業の割合が6~7割であることを勘
案すると、中国では第3次産業、とりわけサービス産業の発展が相対的には遅れている。
实際、第 11 次5ヵ年規画(2006~10 年)で掲げた数値目標のうち、GDP に占めるサ
ービス産業比率、全就業人口に占めるサービス産業の比率は未達となった。このため、中
国政府は今後、サービス産業の育成に重点的に取り組む方針を示しており、第 12 次5ヵ
年規画では GDP に占めるサービス業の比率を4ポイント引き上げることなどを目標とし
ている。中国政府の支援も受けて、サービス産業が経済成長の新たな担い手となることが
48
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期待されている。
サービス産業以外にも、政府は製造業の高度化に加えて、戦略的新興産業(①省エネ・
環境、②次世代情報技術、③バイオ、④ハイエンド設備製造、⑤新エネルギー、⑥新素材、
⑦新エネルギー自動車の7業種)を今後の中国経済を支える産業として重点的に育成・発
展させていく方針を打ち出しており、戦略的新興産業7業種の GDP に占める割合を、現
在の約5%から 2015 年までに8%、2020 年までに 15%にまで引き上げることを目標と
して掲げている。 今後はこうした新しい産業の発展が、中国経済の成長をけん引役してい
く可能性も高い。
さらに、国内でのインフラ投資に関しても、中国政府は地域間格差の是正のため、2000
年に西部大開発を始動、過去 10 年(2000~09 年)に2兆 2,000 億元を投じ、120 のプロ
ジェクトを实施してきた。中国共産党は 10 年5月、胡錦濤・国家为席の为宰で政治局会
議を開催。西部大開発をさらに 10 年間延長し、資金を一層投じて支援策を拡充する方針
を決定しており、特に尐数民族地区などの発展を加速し、社会の安定を目指す意向を示し
ている。
国家発展改革委員会は 10 年7月、同年の西部大開発について、23 の新規重点投資プロ
ジェクトを発表。従来のインフラ建設に加え、風力発電、太陽光発電といった新エネルギ
ー分野を初めて盛り込んだ。総投資額は 6,822 億元と、2000~09 年の 10 年間に投じた総
投資額の約3分の1に達した。
(図表4)西部大開発における主な新規重点プロジェクト(2010 年)
'1( 上海~昆明旅客運輸専用鉄道の長沙~昆明区間
'2( 成都~貴陽鉄道の楽山~貴陽区間
'3( 西安~成都旅客運輸専用鉄道の西安~江油区間
'4( 雲单大理~麗江間の高速道路
'5( 甘粛雷家角~西峰間の高速道路
'6( 貴州貴陽空港の拡張建設
'7( 広西防城港の原子力発電第1期建設
'8( 四川大渡河猿子岩と雅●江桐子林での水力発電所建設
'9( 西部太陽光発電基地建設
'10( 西部風力発電基地建設
'11( 新彊電網~西北電網の電網連結建設
●=龍の下に石
(出所)国家発展改革委員会
中国の有識者の中には、中国経済のピークは 2012~2013 年頃で、現在9~10%といわ
れる中国の潜在成長率は今後徐々に低下していくと見る向きが多い。ただし、個人消費や
サービス産業、内陸部の開発投資が新たな経済成長の牽引役となることで、恐らく 2020
49
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年の時点でも7~8%程度の成長率は維持するものとみられる。仮に、このレベルの経済
成長率で推移すると、10 年後には中国の経済規模は現在の2倍以上となる見込みである。
4.今後の注目点は新政権の政策運営、5ヵ年規画等
中長期的視点で中国経済を見る上での注目点は、第1に国家元首である。国家为席の任
期は1期5年で、通常2期 10 年であるが、現在の胡錦濤国家为席および温家宝総理は、
12 年秋の共産党大会で任期を終了することになり、13 年から新しい政権に移行する予定
である。現時点では 10 年 10 月の中国共産党第 17 期中央委員会第5回総会で中央軍事委
員会副为席に選出された習近平国家副为席が最有力候補と言われているが、次の政権に移
行した時に政策運営がどうなるのかが1つのポイントである。
第2に5ヵ年規画である。中国は社会・経済政策を5ヵ年規画で運営している。11 年か
ら新しい第 12 次の5ヵ年規画の期間に入るが、今後の中国の経済運営を見る上では、第
12 次5ヵ年規画がどうなるのかが非常に大きな焦点になってくる(第 12 次5ヵ年規画の
概要については第2章Ⅱを参照)
。
(図表5)中国の次期指導者候補
習近平'Xi Jinpin(
1953年6月、陝西省富平生まれ
1979年、清華大学化学工業学部卒
1979年、国務院弁公庁、中央軍事委員会弁公庁
河北省石家荘市正定県書記、福建省アモイ市常務副市長、福建省福州市書記、福建省
副書記・代理省長等を経て、
2000年、福建省長
2002年、浙江省書記、代理省長
2003年、浙江省書記、人民代表大会常務委員会主任
2007年、上海市書記、中央政治局常務委員、中央書記処書記、中央党校校長
2008年、中華人民共和国副主席
2010年、中国共産党第17期中央委員会第5回総会で中央軍事委員会副主席に選出
李克強'Li Keqiang(
1955年7月、安徽省定遠生まれ
1982年、北京大学法学部卒
1993年、中国共産主義青年団'共青団(中央書記処第一書記、中国青年政治学院長
1998年、河单省副書記、代理省長
1999年、河单省副書記、省長
2002年、河单省書記、省長
2004年、遼寧省書記
2007年、中央政治局常務委員
2008年、国務院副総理
'出所(中国政府網' http://www.gov.cn/(等を基に作成
50
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第3に自为創新(自为イノベーション)である。中国政府は内需拡大と合わせて、構造
調整を目標として掲げている。ここでいう構造調整とは産業構造の高度化を意味する。人
件費を始めとしたコストの上昇や人民元レートの切り上げが続く中、従来のような労働集
約型産業が生き残ることは難しく、資本集約型産業あるいは現代サービス業のさらなる振
興が喫緊の課題となっているためである。
その産業構造の高度化に向けてカギを握るのが、中国企業の自为創新能力であり、中国
は第 11 次5ヵ年規画において、自为創新をスローガンとして打ち出し、独自技術の開発
に向けて歩み始めている。06 年2月には自为創新の推進に向けた中長期計画「国家中長
期科学技術発展計画綱要(06~20 年)」を公表している。綱要が制定された背景には、自
为創新能力の強化が、
長期的発展を左右するとの認識を中国政府が強め始めたことがある。
綱要では、20 年時点で、GDP 総額に占める研究開発費比率を 2.5%以上、科学技術進歩
の貢献率を 60%以上、対外技術依存度を 30%以下、中国人の年度特許発明量と国際的科
学論文引用数が世界トップ5入りすることを青写真として描いている。しかし、第 11 次
5ヵ年規画においては、GDP 総額に占める研究開発費比率は 1.8%と目標(2.0%)に達し
なかった。自为創新の政策体系にはさらなる整備が必要であり、また、政策の効果が出る
までにはまだ時間がかかると見る向きが多いが、中国が今後どのように自为創新能力を高
め、構造調整を進めていくかが注目される。
第4に食糧生産である。中国は 08 年7月の国務院常務会議で長期的な食糧の増産目標
である「国家食糧安全中長期規画綱要」を承認した。綱要には①2020 年までに食糧生産量
を 07 年比 7.7%増となる年間5億 4,000 万トンを上回る水準に引き上げること、②食糧自
給率 95%以上を確保することが目標として盛り込まれた。
この目標設定は、中国の食糧生産状況が楽観視できないことを裏付けている。中国では
近年、食糧生産量が微増にとどまっている。温家宝総理は「中国の食糧需給状況は、基本
的にはバランスが取れているものの、工業化や都市部の発展、人口増加などにより、耕地
面積は減尐し続けている。水資源不足や気候変動などもあり、このままでは長期的には食
糧の安全保障確保が難しくなる」と指摘している。
人口大国・中国にとって、食糧の安定確保は安全保障上、極めて重要な課題だが、現状
では、コメ、小麦、トウモロコシなどは、ほぼ 100%自給にあり、食糧備蓄も進んでいる
ことから、現時点では供給不足に陥っているわけではない。しかし、短期的にはともかく、
中国は中長期的には、①耕地面積の实質的な減尐、②単位面積当たりの収穫量の減尐、③
人口増加(国家人口・計画生育委員会によると、中国の人口は 2030 年半ばに 15 億人に達
する)など、供給不足の火種となりかねない構造問題を抱えている。
中国が食糧供給において抱えている構造問題は短期間で改善できるものではない。綱要
では、こうした問題に対処すべく、食糧増産の具体的な対策を進めていく方針も打ち出さ
れているが、10~20 年先を見据えた政策の着实な实施が求められている。
(中国北アジア課長 真家
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陽一)
Ⅱ.第 12 次5ヵ年規画(2011~15 年)の概要
温家宝首相は、2011 年3月5日に開始された第 11 期全国人民代表大会(全人代)第4
回会議の「政府活動報告」の中で、第 12 次5カ年規画(11~15 年、以下、12・5規画)
期の实質 GDP 成長率の目標を「成長の質と効率の向上を踏まえ、年平均7%とする」と
述べ、11・5規画期の 7.5%より低い目標を設定した。
また 12・5規画の为要目標である「経済発展モデルの転換の加速」につき、
「内需拡大
戦略を实施し、消費と投資と輸出がバランスを取りながら成長する」ことを強調。今後は
戦略的新興産業の育成、サービス業の発展、更なる省エネ・環境保護に注力していくと共
に、国民所得を GDP 成長率と同じペースで増加させること、社会保障制度を整備するこ
となど、所得分配を通じて国民生活(民生)を改善する方針を明確に示した。12・5規画
の概要とこの中で示された具体的目標値を考察する。
1.11・5規画の目標達成状況と政府の課題認識
温家宝首相は政治活動報告の中で 11・5規画期の成果について、
「GDP 成長率は年平均
11.2%増となった。都市部住民の1人当たり可処分所得と農村住民の1人当たり純収入は、
それぞれ平均 9.7%と 8.9%伸びた。社会保障システムも逐次整備されている」と述べ、金
融危機の影響を最小限に抑え、11・5規画の为要目標と任務をほぼ達成できたことを強調
した(図表1)
。
(図表1)第 12 次5ヵ年規画期間中における経済社会発展の主要目標
類別
経済成長
経済構造
指標
GDP総額'兆元(および増加率'%(
1人当たりGDP'元(
2005年
2010年目標値 年平均目標増加率 2010年達成値
18.5
26.1
年平均増加率'実績(
7.5
39.8
11.2
2015年目標値 年平均目標増加率
55.8
属性
7.0
所期性目標
14,185
19,270
6.6
29,748
10.6
-
-
所期性目標
GDPに占めるサービス産業の比率'%(
40.5
43.3
<3.0>
43.0
2.5
47.0
<4.0>
所期性目標
総就業人口に占めるサービス業の比率'%(
31.3
35.3
<4.0>
34.8
3.5
-
-
所期性目標
1.3
2.0
<0.7>
1.8
0.5
2.2
<0.4>
所期性目標
都市化率'%(
43.0
47.0
<4.0>
47.5
4.5
51.5
<4.0>
所期性目標
総人口'万人(
130,756
136,000
0.8
134,100
0.51
<139,000
<0.72
拘束性目標
GDP1卖位当たりのエネルギー消費削減率'%(
-
-
<20.0>
<19.1>
-
<16.0>
拘束性目標
*GDP1卖位当たりのCO2消費削減率'%(
-
-
-
-
-
-
<17.0>
拘束性目標
工業生産額1卖位当たりの水使用量削減率'%(
-
-
<30.0>
-
<36.7>
-
<30.0>
拘束性目標
非化石燃料の対一次エネルギー消費比率'%(
-
-
-
8.3
-
11.4
<3.1>
拘束性目標
化学的酸素要求量'COD(
-
-
<10.0>
-
12.45
-
<8.0>
拘束性目標
二酸化硫黄'SO2(
-
-
<10.0>
-
14.29
-
<8.0>
拘束性目標
*アンモニア性窒素
-
-
-
-
-
-
<10.0>
拘束性目標
*窒素酸化物'NOx(
-
-
-
-
-
-
<10.0>
拘束性目標
農業灌漑用水有効利用係数
0.45
0.5
<0.05>
0.5
-
0.53
<0.03>
所期性目標
耕地保有量'億ha(
1.22
1.2
▲ 0.3
1.212
▲ 0.13
1.212
<0.0>
拘束性目標
森林率'%(
18.2
20.0
<1.8>
20.36
2.16
21.66
<1.3>
拘束性目標
5年間の都市部における新規雇用者数'万人(
-
-
<4,500>
<5771>
-
-
<4,500>
所期性目標
5年間の農村労働力の都市部への移転者数'万人(
-
-
<4,500>
<4,500>
-
-
-
所期性目標
10,493
13,390
5.0
19,109
9.7
>26,810
>7.0
所期性目標
3,255
4,150
5.0
5,919
8.9
>8,310
>7.0
所期性目標
4.2
5.0
4.1
<5
-
所期性目標
1.74
2.23
8.1
3.6
<1.0>
拘束性目標
研究開発費支出のGDP総額に占める比率'%(
主要汚染物排出総量削減率'%(
人口・資源・環境
都市住民1人当たり可処分所得'元(
公共サービス・人民生活 農村住民1人当たりの純収入'元(
都市部における登録失業率'%(
都市部基本養老保険'年金(加入者数'億人(
-5.1.
2.57
都市部の保障性住宅建設'万軒(
<3,600> 拘束性目標
注:1(GDP総額、都市・農村住民収入は2010年価格によるもの。2(カッコ内は5年間の累計数字。3(都市部の住民収入はGDPの目標増加率を下回らない。4(拘束性目標とは政府が公共資源の合理的な配
置、行政力を通じて実現を確保する目標。5(網かけは、第11次5カ年規画の目標未達成項目。6(*は第12次5カ年規画に新しく追加された目標。
(出所)中華人民共和国国民経済・社会発展第 11 次 5 カ年規画要綱と同第 12 次 5 カ年規画要綱(案)を基に作成。
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注目されていた GDP1 単位当たりのエネルギー消費量削減率は、05 年比で 19.1%と、
目標の 20%前後を達成。化学的酸素要求量(COD)と二酸化硫黄の排出量もそれぞれ同
12.45%、14.29%削減し目標を上回った。「民生」についても、労働契約法、雇用促進法
の施行や最低賃金の引き上げを通じて労働者保護、所得増加を推進すると共に、都市と農
村の社会保障システムの整備にも大きな進展が見られたと総括した。その一方で、GDP
に占めるサービス産業比率、全就業人口に占めるサービス産業の比率、GDP 総額に占める
研究開発費比率については、11・5規画で掲げた目標値に達しなかった。
温家宝首相は報告の中で、
「我が国の発展には、依然として不均衡で持続性が保てない問
題が存在する」と懸念を表明した。为なものとして、経済成長における資源・環境保護の
制約が高まったこと、投資と消費のバランスが崩れていること、所得格差が拡大している
こと、イノベーション能力が弱いこと、農業基盤が脆弱なことなどを挙げた。さらに、
「一
部の国民が強く不満を抱き根本的に解決されていない」問題として、教育・医療環境の未
整備、物価上昇、一部の都市で見られる住宅価格の急騰、食の安全問題を挙げ、これら問
題を 12・5規画期に改善するとの意向を示した。
2.12・5規画期における7つの主要目標と任務
これら 11・5規画の成果と反省を受け、温家宝首相は 12・5規画における为要目標と
任務として以下の7項目を挙げた。期間中の年平均成長率を7%とすること、所得増加率
を GDP 成長率並みに増加させること、民生改善など、具体的な目標値を示した(図表1
~2)
。12・5規画の为要目標と任務の为な内容は、以下のとおり。
①経済発展の水準を新たな段階に引き上げる。
・ 年平均 GDP 成長率を7%とする。
・ マクロコントロールを引き続き強化し、物価総水準の基本的な安定を維持する。
・ 内需拡大戦略を实施し、消費、投資、輸出のバランスがとれた経済発展モデルを構
築する。
②経済発展モデルの転換と経済構造調整を加速する。

製造業の高度化に取り組み、戦略的新興産業を育成・発展させる。

GDP に占めるサービス業の比率を4ポイント引き上げる。

都市化を推進し、その比率を 47.5%から 51.5%に引き上げる。

インフラ整備を引き続き強化する。

現代農業を発展させ、新農村建設を加速する。

基本的公共サービスの均等化を逐次实現する。
③社会事業の発展に注力する。

教育を優先的に発展させ、全国民の教育水準を向上させる。

自为イノベーションを推進する。

GDP に占める研究開発費を 2.2%に高める。
53
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④省エネと環境保護を推進する

一次エネルギー消費量に占める非化石燃料の比率を 11.4%に引き上げる。

GDP 単位当たりのエネルギー消費量を 2010 年比で 16%削減する。

GDP 単位当たりの二酸化炭素(CO2)排出量を 10 年比で 17%削減する。

为要汚染物質の排出総量を8~10%低減する。
⑤国民生活を全面的に改善する。

今後5年間に都市部の新規就業者数を 4,500 万人増加させる。

多種類の分配方式が併存する分配制度を堅持し、経済成長と同じペースで国民所得
を増加させる。

第1次分配における労働報酬のウェイトを引き上げ、合理的な所得分配の枠組みを
形成する。

都市部住民の一人当たり可処分所得と農村住民の一人当たり純収入の年平均伸び率
を、それぞれ7%超とする。

都市と農村の基本養老、基本医療保障制度を全国的に広げる。
⑥改革開放を全面的に深化させる。

経済体制改革を推進し、政治体制改革を積極的かつ着实に行う。
⑦政府改革を強化する。

断固として政府腐敗を取り締まり、国民の権利・権益を保障し、社会の公平や正義
を守る。
(図表2)民生改善行動計画
・都市部の新規就業を年平均900万人、農業労働力の移転を年平均800万人にする。
・企業の労働契約締結率を90%に、団体契約締結率を80%にする。
・最低賃金基準の年平均増加率を13%以上にする。
2:最低賃金基準の引上げ
・大多数の地区の最低賃金基準を現地都市就業者の平均賃金の40%以上にする。
・都市従業員基礎年金の全国統一を実現する。
・都市部の基本年金保険加入者数を新たに1億人増やす。
3:年金保障水準の引上げ
・都市従業員基礎年金の安定的成長を図り、都市の60歳以上の非就業住民も基礎養老年金の待
遇を受けられるようにする。
・新型農村社会年金保険制度の全国適用を実現し、基礎年金水準を引き上げる。
・都市・農村の基本医療保険3項目の加入者数を新たに6,000万人以上増やす。
4:医療保障水準の引上げ
・都市部住民の基本医療保険および新型農村共同医療に対する財政補助基準を徐々に引き上
げ、政策範囲内の医療保険基金支出水準を70%以上に引き上げる。
5:都市・農村の最低生活保障基準の引上げ
・都市・農村住民の最低生活保障基準の年平均増加率を10%以上にする。
6:農村貧困人口の削減
・貧困扶助資金を増加し、貧困扶助基準を徐々に引き上げ、貧困人口の大幅な減尐を図る。
・12・5規画前期に個人所得税の給与所得費用の控除基準を引き上げ、個人所得税の税率構造を
7:住民の税負担の軽減
合理的に調整する。
・12・5規画の中、後期に総合課税と分離課税を合せた健全な個人所得税制度を確立する。
・都市部の社会保障性住宅とバラック地区改良住宅3,600万戸を建設し、全国の保障性住宅のカ
バー率を20%前後にする。
8都市部の住宅保障プロジェクトの実施
・保障性住宅建設および各種バラック地区改良に用いる土地譲渡純収益の割合が10%を下回ら
ないようにする。
・就業、社会保険、労働監察、調停・仲裁などのサービス施設の建設を強化する。
9:就業・社会保障サービスシステムの整備
・社会保障のカード管理化を推進し、全国統一の社会保障カードを8億枚発行し、人口の60%をカ
バーする。
・国有資本収益の上納範囲を拡大して、国有資本収益の上納の割合を徐々に引き上げ、新たな
10:民生支出に用いられる国有資本収益の増加
増加分を主に社会保障などの民生支出に用いる。
1:都市・農村の就業規模の拡大
(出所)中華人民共和国国民経済・社会発展第 12 次5ヵ年規画要綱(案)
(北京センター 清水 顕司)
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Ⅲ.中国の戦略的新興産業の概要
国務院は 2010 年 10 月 18 日、
「戦略的新興産業の育成と発展の加速に関する決定」(以
下、同決定)を発表した。省エネ・環境、次世代情報技術、バイオ、ハイエンド設備製造、
新エネルギー、新材料、新エネルギー自動車の7産業を戦略的新興産業と位置付け、今後
の中国経済を支える産業として重点的に育成・発展させていく方針を打ち出した。
同決定では、戦略的新興産業7業種を育成し、GDP に占める割合を 10 年の5%から 15
年までに約8%、20 年までに約 15%にまで引き上げること、30 年頃には、戦略的新興産
業のイノベーション(中国語で創新)能力と産業レベルを世界の先進レベルにまで引き上
げることが発展目標として掲げられている。第 12 次5カ年規画(以下、12・5規画)に
おいても、
「経済発展モデルの転換の加速」を推進する産業政策の柱の一つとして位置づけ
られている。
1.産学連携、外資導入などでイノベーションを強化
戦略的新興産業の育成と発展においては、自为イノベーション能力の向上を「要」と位
置付け、企業が为体となって市場動向を重視し、産学が連携して技術イノベーションの体
系構築を図っていくことを強調している。そのために、企業、大学、研究機関への財政や
政策面での支援を实施するとともに、人材育成や知的財産権の保護と活用などの分野にお
いても支援を強化していく。さらに、これらの支援を通じて重要技術の实用化を推進し、
産業集積を発展させていくとしている。
国際協力に関しては、外資系企業による研究開発センターの設立を奨励するほか、国家
科学研究プロジェクトに対しても、一定の条件を満たせば外資系企業も中国企業や研究機
関と共同で申請することができるようになる。
また同決定では、外商投資産業指導目録の整備を行い、外資系ベンチャー企業の投資や
外資による戦略的新興産業への投資を奨励するとしており、外資を活用したイノベーショ
ン能力の強化も図る。一方、中国企業の対外投資に関しても、申請手続きの改正や外国為
替におけるサポートを更に強化することなどが示されている。
2.戦略的新興産業の育成と発展に必要な3つのイノベーション
戦略的新興産業は 12・5規画において、中国の持続的な発展を实現するために重要な産
業政策の柱の一つとして位置付けられている。12・5規画では、为要目標である「経済発
展モデルの転換の加速」を实現するため、①経済構造調整を経済発展モデル転換の加速の
为な方向とする、②技術イノベーションを経済発展モデル転換の加速の核とする、③民生
の改善と保障を経済発展モデル転換の加速の出発点とする、④資源節約型・環境保護型社
会の構築を経済発展モデル転換の加速の重要な注力点とする、⑤改革開放を経済発展モデ
ル転換の加速の大きな原動力とする、という5つの「堅持」を強調している。戦略的新興
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産業の育成と発展は、これら「堅持」に基づき作成されたものである。
7つの戦略的新興産業の育成・発展の为な重点および方向性は図表1のとおり。
(図表1)戦略的新興産業の育成・発展の主な内容
・ 省エネ効率の高い技術および同製品を重点的に開発する。
・ 資源リサイクルのカギとなる技術の研究開発と産業化を加速する。
・ 先進的な技術を活用し、廃棄物回収の体系構築を加速する。
・ クリーンコールエネルギーおよび海水の総合利用を積極的に推進する。
ブロードバンド、ユビキタスといった情報ネットワークインフラ建設の加速と次世代モバイル
・
通信などのコア設備の研究開発と産業化を推進する。
ケーブルテレビ、インターネット、テレコミュニケーションの3ネットワークの融合の推進と
次世代情報技術産業
・
「モノのインターネット(Internet of things)」などの研究開発と試行を促進する。
集積回路(IC)、新型ディスプレイ、高性能ソフトウェアなどの分野における、コアとなる基
・
礎産業の発展に注力する。
重大疾病を治療するバイオテクノロジー薬、新型ワクチンや試薬など、新薬の開発に注力し、
・
バイオ医薬産業のレベルを向上する。
バイオ産業
ハイテク医療設備、医学材料などバイオ医学製品の研究開発と産業化を加速し、規模化を促進
・
する。
・ 生物育種産業の育成強化、グリーン農業バイオ製品、バイオ農業の発展を促進する。
・ 旅客機などの航空設備を重点的に発展させ、航空産業の拡大強化を図る。
・ 衛星およびその他の応用産業の発展を促進する。
ハイエンド設備製造業
・ 客運専用線路と都市軌道交通などの建設を推進する。
・ 海洋資源開発、海洋設備の発展に注力する。
・ 次世代原子力技術の研究開発などにより原子力産業を発展させる。
・ 太陽光熱発電の応用技術を活用し、同市場の拡大を図る。
新エネルギー産業
・ 風力発電技術・設備レベルを向上させ、秩序ある風力発電の規模化を進める。
・ スマートグリット体系の建設を加速する。
・ レアアース、高性能膜、特殊ガラス、半導体照明といった新機能材料の発展に注力する。
・ 高品質特殊鋼材、新型合金材料などのハイテク構造材を積極的に発展させる。
新素材産業
カーボン繊維、超高分子ポリエチレン繊維といった高性能繊維やその複合材料のレベルを向上
・
する。
・ 動力用電池、モーター、電子制御分野の重要なコアテクノロジーの開発に注力する。
・ プラグインハイブリッド車および電気自動車の普及と産業化を推進する。
新エネルギー自動車産業
燃料電池自動車に関連する技術の研究開発を進め、低燃費、省エネ自動車の発展を大いに推進
・
する。
省エネ・環境保護産業
(出所)中国国務院「戦略的新興産業の育成と発展の加速に関する決定」2010 年 10 月
7業種の育成と発展に関して、現時点(11 年3月 17 日現在)では 10 年 10 月に発表さ
れた同決定以上の具体的なガイドラインは示されてなく、各業種の投資規模も明らかにな
っていない。政府系シンクタンクの有識者は「新エネルギー分野の風力発電の発電設備容
量が、10 年から 15 年にかけて、4,000 万キロワット(ストックベース)から 9,000 万キ
ロワット(同)に増やす計画である。1,000 キロワットの設備容量増加には約 1 万元の投
資が必要といわれる。単純に計算すれば、5年間で 5,000 億元が投資される。スマートグ
リットの整備にも年間で 1,000 億元を投資することになっている。新エネルギー自動車分
野には、今後 10 年で 1,000 億元近くを投入する予定だ。7業種すべての試算が行われて
いる訳ではないが、
全体では莫大な投資規模となることは間違いない」との見方を示した。
3.戦略的新興産業の発展における7つの難題
国務院は 10 年 10 月 25 日、
「戦略的新興産業の発展における7つの難題」と題する文書
を発表した。この中で「中国は企業の技術イノベーション能力が遅れており、コア技術が
尐なく、新技術・新製品の市場参入に関する法整備も不完全で、イノベーションや起業を
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支援するための投融資および財政・税務政策などの体制が不備である」などの問題を指摘
した。
政府が指摘する7つの難題とは、以下のとおり。
(1) 中央政府は7つの産業を戦略的新興産業として位置付けているが、地方政府ごとに
「戦略的新興産業」として位置付けている産業が異なっており、中央政府と統一的
な認識を図る必要がある。
(2) イノベーションの为体となるべき企業の技術力が低い上、技術力向上を図るための
産学連携の体制も形成されていない。優秀な人材に乏しく、投融資を行う資本市場
も不完全であるなど、イノベーションの環境が整っていない。
(3) 多くの中国企業は加工・組立技術は強いものの、戦略的新興産業に必要なコア技術
が弱く、その技術や設備のほとんどを輸入に頼っている。
(4) 戦略的新興産業の新技術・新製品が市場参入する際に、必要な技術標準や税制など
の制度インフラが未整備である。一部の産業では地方政府の保護などにより、産業
を育成する市場が整っていない。
(5) 戦略的新興産業の育成と発展は長期的な時間を要するものであり、特に計画实施の
初期においては、政府の資金投入がより多く必要となる。財政、税制、投融資とい
った政策的な支援が不可欠であるが、ベンチャーキャピタルの投資規模が小さく、
融資を担保する機関も未発達で、資金調達できる金融市場も不完全である。従って、
戦略的新興産業の育成と発展に関連する財政、税制、金融および投資政策が連携し
た支援体制を構築する必要がある。
(6) 戦略的新興産業の発展には、先進的な技術が必要である。そのためには国際的なア
ライアンスが不可欠である。しかし多くの戦略的新興産業の業種では、企業の国際
的な技術協力や国際資本市場の活用が乏しい。
(7) 各地方政府は戦略的新興産業の育成・発展に積極的ではある。地域間の統一的な計
画や協調した発展が非常に重要である。無秩序で計画性のないレベルの低い投資を
行わないようにしなければならない。
これら7つの難題に関し、同有識者は「中でも大きな問題は、イノベーションに必要な
コア技術を中国が持っていないこと、優秀な人材が不足していること」だと述べている。
同産業は、これまで中国の経済発展を支えてきた労働集約型産業とは異なり、投資を拡大
すれば成長するというものではなく、イノベーション能力の向上が育成と発展のカギとな
る。
同有識者は、
「戦略的新興産業の育成と発展には、技術イノベーション、ビジネスモデル
のイノベーション、制度メカニズムのイノベーションという3つのイノベーションを同時
に推進する必要がある。技術イノベーションのための企業支援や人材育成のほか、ビジネ
スモデルを労働集約的輸出型産業から転換すること、国有中央企業に多くみられる独占産
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業を開放するといった既存の制度メカニズムをイノベーション(転換)することが不可欠
である」と指摘している。
4.イノベーションアライアンスの基盤づくりがスタート
政府が指摘した7つの難題には、制度メカニズムのイノベーションに関連するものが多
い。政府も同文書の中で資金投入が分散しており、かつ重点分野への投入が不足している
ことを認めている。政府としては、まず戦略的新興産業発展のための政策手段として、安
定した財政投入のための仕組みづくりを行うこと、流通税、所得税などの優遇税制を行う
ことなどを挙げている。さらに金融機関に対し、イノベーション型中小企業への投融資を
促すと共に、投資ファンドといった資本市場を活用する方針も示している。中央と地方政
府が徹底して改革を实施し、制度整備を行うという決心をすれば、このイノベーションは
達成可能であろう。
しかし、技術イノベーション能力の向上や優秀な人材の育成は短期的な实現が難しい。
その対策として有識者は、企業や研究機関によるイノベーションアライアンスを提唱して
いる。それは複数の企業、研究機関が共通の目的を持つよう、政府がアライアンスの支援
と調整を行うと共に、外国の企業や研究機関と技術、研究開発、ビジネスモデルの構築な
どで協力するというものである。同有識者によれば、既に米国とは米中戦略経済対話(S
&ED)の中で、
「技術戦略協力」について合意しており、標準の国際化などについて議論
を進めているという。
中国は中国企業のイノベーション能力を向上させることで、今後も経済の持続的な発展
を目指している。戦略的新興産業の育成と発展が製品やサービスの質を向上させることを
通じて、内需がけん引する経済発展モデルへの転換を図ろうとしている。
(北京センター 清水 顕司)
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第3章
日本企業の今後の対中ビジネス戦略
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第3章 日本企業の今後の対中ビジネス戦略
Ⅰ.競争力強化に向けた課題・問題点
1.基本戦略と第 12 次五ヵ年規画の研究・分析
本章では、
中国市場における競争力強化に向けて必要な戦略について項目毎に取り上げ、
各項目における日本企業の取り組み状況、取り組むべき課題について考察する。
2010 年における中国の GDP 総額が日本を抜いて世界第2位となる中、日本企業の中国
における事業展開も、従来の「輸出拠点」としての展開から、
「中国国内販売」としての展
開へと急速に移行しつつある。日本の尐子高齢化の進行を背景とした人口減尐により、日
本市場での売上拡大に向けた難度が高まる中、成長を続ける中国での売上拡大に一層注力
する必要性は高まっている。
一方、中国における売上拡大に向けた環境は年々厳しさを増している。WTO 加盟後の
市場開放を通じて、中国国内での内外資入り乱れての競争が激しさを増していることが背
景として挙げられる。
「成長」という「チャンス」はあるものの、多くのライバル企業がしのぎを削る中国市
場において収益を増大させ、自社の業容拡大につなげていくには、中国における自社の競
争力を維持・拡大していくという視点が重要となってくる。
市場経済が進展したとはいえ、中国は共産党を唯一の指導政党とする中央集権体制であ
り、展開するビジネス分野によっては、共産党・政府の方針・考え方が色濃く反映される
ケースが尐なくない。こうした点を踏まえると、中国でのビジネス展開にあたっては、中
央政府、地方政府の経済政策・方針を踏まえたビジネス展開も重要となってくる。
中国における経済政策・方針の根本となるのが、5年に1度発表される5ヵ年規画であ
る。5ヵ年規画は中国政府が定める向こう5年間の中国の国家建設における基本計画であ
り、第 1 次5ヵ年計画は 1953 年から開始された。第 11 期全国人民代表大会(全人代)第
4回会議では、11~15 年まで適用される、第 12 次5ヵ年規画(12・5規画)が発表され
た。向こう5年間の中国ビジネス展開に向けては、12・5規画全体の方向性に加え、特に
自社に関連する産業・分野の記述を詳細に研究・分析した上で中国ビジネスに臨む必要が
あろう。
5ヵ年規画において注目すべき点として、中国政府は達成すべき具体的な数値目標を示
している点が挙げられる。目標は、大きく拘束性目標(为として法律による管理の強化や
財政の配分等により必ず達成する目標)と所期性目標(为として市場メカニズムにより達
成される目標)に大別されるが、特に拘束性目標については、時の政権にとって、達成が
義務付けられる側面がある(目標の詳細については、第2章Ⅱの「第 12 次5ヵ年規画の
概要」を参照)
。12・5規画においては、環境・省エネに関する以下の目標指標が新たに
追加された。
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・一次エネルギーに占める非化石エネルギーの消費比率を 8.3%から 11.4%に引き上げ。
・アンモニア窒素および NOx(窒素酸化物)の排出量を 10%削減。
こうした目標指標達成に向けて、中国政府は今後より強力な政策措置を打ち出していく
ものとみられ、政策措置に資するようなビジネス展開を図ることも1つの方向性といえる。
他方、規画本文をみても、様々な政策が列挙されているだけで、列挙された政策の具体
的な内容について詳細が記載されていない場合も尐なくないが、それぞれの産業・分野で
も、別途 12・5規画を基本とした産業別・分野別の5ヵ年規画が発表される。各産業・分
野に特化した中国政府による政策の方向性をウォッチしていくためには、これら規画の詳
細についての分析も必要となろう。さらに地方政府においても、中央政府の5ヵ年規画を
ブレイクダウンしつつ、各地方の現状などを加味した形での 12・5規画を制定していく見
通しであり、これらについても注視していく必要があろう。
加えて、こうした計画を先取りし、中央政府・地方政府等に対し、規画で示した目標達
成に資するような新たなビジネスモデルを提案し、競争環境の厳しい中国において、政府
のお墨付きを得たうえで比較優位を得るという戦略も重要といえる。
さらに、分野によっては、20 年までを見通した中長期計画が立案されている分野もある。
もちろん中国経済の成長・変化が速いこともあり、長期の目標・見通しが途中で変更され
る可能性もあるが、中国において中長期的に持続可能なビジネス展開を模索するためには、
将来を見据えたビジネス展開を図っていく必要もある。
最後に、政策を理解する上では、中央・地方政府等が発表する公式文書の研究に加え、
政策当局者・あるいは政策提言を行っている研究者等と日頃から情報交換し、政策発表の
背景・意味等について、競合相手よりも先行して理解するよう努める必要もある。それと
同時に、政策当局者・研究者等にも自社の中国におけるビジネス展開の方向性について情
報提供し、先方との間で相互に情報交換できる関係を構築することで、ビジネスチャンス
拡大に結び付けていくという視点が今後ますます重要となってこよう。
(中国北アジア課 中井 邦尚)
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'図表1(中国市場における競争力強化に向けた戦略と取り組むべき課題
戦略
人材戦略
取り組むべき課題等
品質戦略
高品質な部材・原材料の安定調達
品質を保つ物流網の確立
低コスト性との両立
現地における品質管理体制の強化
ブランド戦略
ターゲット層の明確化・働きかけ強化
自社製品・サービスについてのイメージ向上
コスト競争力強化
現地での販売環境に対応した体制整備
経営の現地化
現地人材の確保・育成
マネージメントクラスの育成
スタッフクラスの採用・育成
広報活動の展開
'展示会への出展、CM等(
自動化・省力化
内製化
量産化
現地調達率の向上
出店費用の抑制
間接費の削減
消費者・需要先のニーズ把握
ニーズへの的確な対応
マーケティング戦略
'販売戦略(
消費者の嗜好分析'BtoC(
'世代毎・地域毎(
物流・流通網の強化
ハイエンド層への販売拡大
ミドル・ローエンド層への販売拡大
アフターサービス体制の強化
現地ニーズに合致した商品の企画・研究開発
中国における研究開発体制の強化
日本と中国における研究開発部門の
「棲み分け」
オンリーワン技術の開発
知的財産権問題への対応
中国の中央・地方政府の経済・
産業政策の研究
政策の研究・分析
パブリック
リレーションズ
中央政府・地方政府との関係強化
政策目標を踏まえたビジネス展開
マスコミ対策
'出所(各種資料、ヒアリング等を基に作成
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ニーズに合致した製品の研究・開発
需要先への適切な対応、関係強化'BtoB)
販路開拓・拡大
広報活動の展開
研究開発戦略
中国現地・日本での採用育成
外部人材の活用
現地企業を通じた展開'合弁、代理店(
第3国・地域企業とのアライアンス
直販
販売手法の多様化'ネット販売等(
2.市場に適合した製品の研究開発
(1)加速する日本企業の中国における研究開発の動き
急速に拡大する中国市場の開拓を進める日本企業にとって、売り上げの拡大を図るべく、
市場のニーズに適合した製品・サービスを展開していくことが一層重要となっている。
従来多くの日本企業は、研究・開発拠点を日本に設置しハイエンドな製品の研究・開発
を進め、日本で販売展開している製品と同様の製品、または若干の仕様を変更した製品を
中国において販売してきた。
一方、中国では、地域によっても所得水準・消費レベルが大きく異なるほか、世代・地
域によっても消費嗜好・習慣が大きく異なるのが特徴である。加えて、08 年に発生した米
国発の金融危機以降、中国の経済発展の中心がこれまでの沿海部から内陸部にも拡大した
こともあり、これまで市場拡大のけん引役であった高所得者層のみならず、中低所得者層
などのいわゆる「ボリュームゾーン」が市場拡大の「为役」を担うようになった。しかし、
高所得者層と比較すると当該層の購買力は依然低く、消費嗜好・習慣も異なる。このため、
高所得者層以外の消費者層も対象範囲に含めた形での販売強化を図っていくためには、現
地消費者・ユーザーの意向を踏まえた製品を開発し、それを即座に展開していく必要が生
じている。
中国市場で「売れる」製品の展開に向けては、日本での研究・開発のみに依存している
と、市場のスピード・変化に対応できないとの問題意識も強まりつつある。そのため、日
本企業の中には中国に研究・開発拠点を設置し、当該拠点にて中国市場のニーズに合致し
た製品・サービスを開発し、売り上げ拡大を図る動きが加速しつつある。
各企業による対応の具体例をみると、味の素は 2002 年7月、上海市に「上海味の素食品
研究開発センター」を設置、中国の消費者の嗜好に合致した商品の開発に着手。中国市場
向け製品として、鶏肉や干し貝柱風味の調味料製品を研究開発し、現地市場にて販売する
など、現地市場の味覚を踏まえた商品開発を積極的に行っている。
パナソニックは 05 年4月、上海に「中国生活研究センター」を設立した。中国に根ざし
た商品の企画・開発を行うべく、内陸部も含め、全国各地の消費者の嗜好・求める製品像
などを把握するべく、徹底した現地での家庭調査を实施。消費者の生活様式・習慣などを
十二分に把握したうえで、それを踏まえた商品のコンセプト・機能を提案、研究・開発部
門での製品開発につなげている。
同センターでの研究開発を通じて開発された商品として「除菌機能付き洗濯機」がある。
これは家庭調査の結果を集計すると、下着を手洗いする家庭が多いことを発見。中国の消
費者が汚れに非常に敏感であり、外気にさらされていて汚れやすい上着類と下着類とを一
緒に洗うことへの抵抗感が強いことが判明した。こうした状況に対応するべく、除菌機能
を搭載した洗濯機の開発を開発部門に提案、实際に当該製品を市場に投入した。これによ
り、中国の洗濯機市場におけるパナソニック製品のシェアが従前より大きく上昇した。
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また、島津製作所は 11 年 1 月、現地法人である「島津国際貿易(上海)有限公司」内に
分析計測機器に関する研究開発センターを新設した。同センターでは、高付加価値品では
なく、現在市場の拡大が最も見込まれるミドルエンド市場への対応力を強化するべく当該
製品分野を中心に研究開発を行う。
(2)課題となる日中研究開発拠点間の「棲み分け」
このように、日本企業においても中国における研究開発により積極的に取り組む企業が
増えている。その一方で、グローバルに展開する製品の研究開発を行ってきた日本の研究
開発拠点との「棲み分け」をどのように構築していくかも1つの課題となる。その際の考
え方としては、①日本では中核的な技術を開発し、それをベースに中国においてデザイン・
仕様などを調整し、品揃えやバリエーションを増やしていく手法、②中国で販売される製
品はあくまでも中国で最初の段階から研究開発を行っていく手法、③製品カテゴリー別に、
ハイエンド商品は日本で、販売ボリュームが急拡大しているミドル・ローエンド商品は、
現地開発していくなどの手法が考えられる。その他、中国における研究開発拠点を活用し
て、将来的には当該製品を他の新興国市場、さらには先進国市場にも展開する「リバース
イノベーション」戦略を検討する企業も出始めている。
他方、技術開発分野における日本企業の強みや優位性をしっかりと認識をした上で、中
国での研究開発に当たるべきとの指摘もある。ある企業は「技術にはハードとソフトがあ
るが、日本企業が強みとするのはいわゆる職人業などのソフトの部分。そうした技術は模
倣しづらく競争力もある。熟練職人の技術・ノウハウなどまねができないソフトの部分は
強みを発揮できる」と指摘する。また、日本の技術力の源泉は「すりあわせ型」であると
の指摘もある。これまで日本企業は、顧実のニーズを深く把握することで、それに合致し
た形の製品を開発してきた。中国が海外での市場開拓における最大のターゲットとなる中、
こうした日本企業の強みを生かし、中国市場のニーズをいかに「奥深く」掴み、それに適
合した製品を開発していけるか、中国側顧実との「距離感」も今後の研究開発の成否を握
るカギとなりそうだ。
さらに、中国特有の課題でもある知的財産権問題への対応だが、中国での販売を拡大し
ていくためには、自社の技術・ノウハウをどこまで開示するのか、換言すればどこまでを
ブラックボックス化して展開するのかを常に検討し、状況に応じ開示・非開示部分を柔軟
に調整するなどの対応も必要となろう。中国政府は、自国市場での販路拡大のチャンスを
外国企業に提供する代わりに、より先進的な技術の開示を企業に求める姿勢を強めつつあ
る。こうした政府の姿勢、さらには第 12 次5ヵ年規画でも謳われている戦略的新興産業へ
の積極対応なども図っていく必要があろう。その他、政府との関係で注視していくべき観
点としては、技術標準への対応がある。中国市場の規模が拡大する中、今後中国の標準を
世界標準とする動きが活発化することも考えられるからだ。
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(3)重要となる人材育成への対応
中国での研究開発拠点を機能させるためには、当然のことながら、中国人の消費習慣・
嗜好を理解する中国人技術者の採用・育成・活用が欠かせない。研究開発コストの面から
も、中国において中国人技術者を活用して研究開発を行うことが競争力向上の一つの手段
という見方もある。人材育成に向けては、中国人技術者を日本に派遣して研修を行うプロ
グラムを設ける企業もあるほか、中小企業の中には、中国の技術系の人材を本社採用し、
将来の中国展開に備える企業もある。
技術力を競争力の源泉として成長を遂げてきた日本企業にとって、中国市場、さらには
中国企業の台頭は、今後の日本企業の研究開発にも大きな影響を与えつつある。各社にお
いては、展開する各製品分野の中国における市場状況、今後の見通しなどを分析・研究し
た上で、今後の中国での研究開発拠点の設置、現地に投入する製品開発も含め、自社とし
て最適と思われる今後の研究開発体制のあり方を検討していく必要があろう。
(中国北アジア課 中井 邦尚)
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3.流通チャネルの開拓・確保
企業がターゲットとする市場で目標を達成するためのマーケティング要素であるマーケ
ティング・ミックスの4P〔製品(Product)
、価格(Price)、流通チャネル(Place)、プロ
モーション(Promotion)
〕の中で、流通チャネル(物流・商流・情報流)は自社の経営資
源のみならず外部資源に頼ることが多い点で、他の要素と大きな違いがある。また、企業
が競争優位の状況を構築する上で、製品やサービスを顧実に届ける流通チャネルの構築に
は多くの時間と費用がかかる。とりわけ中国では、良いモノやサービスがあっても消費者
段階までその良さを实感させることができず苦戦している企業が尐なくない。
一方、いち早く強力な流通チャネルが構築できれば大きな資産となるほか、中国での事
業展開における大きなアドバンテージを有することにもつながる。今回ヒアリングした企
業からも、中国で「勝つ」ための課題として、販売網や物流網といった流通チャネルの拡
充を挙げる声が多く聞かれた。流通チャネルの開拓・確保を通じた競争力強化について、
日本企業の現状認識、課題、取り組みの具体例を企業のコメントから紹介しつつ、今後の
あるべき姿を展望する。
(1)流通チャネルの選択
① B to B(Business to Business、企業間取引)
流通チャネルの選択では、直接販売はきめ細かい販売促進や顧実のニーズを反映した商
品開発・サービス提供といった付加価値販売につなげやすいメリットが評価されている。
ただし、自社で広くチャネルを構築するとなれば多額のコストと時間を要してしまう。そ
のため、ミドルエンド商品の販売や内陸部などまで広く地域展開するには代理店チャネル
の活用が重要となっている。代理店販売は直接販売と比べて、製品やサービスの生産者の
意向を末端まで反映させることが難しいが、これを補うため、製品知識等のトレーニング
实施、代理店との専売契約といった代理店の能力やモチベーションを向上させる方策が不
可欠だ。
<直接販売の取り組みに関するコメント>
 直販体制のメリットは、セールスパーソンに教育し、徹底して高付加価値のものを販売す
ることができること。アフターサービスが利益の高い割合を占めている。代理店販売では
製品の売り切りにとどまりがち。
 直接販売が販売ルートの半分以上を占めるのは、商品が富裕層向けで卸売業者にとっては
扱いにくいため。
 ハイエンド品については、専門性が要求されるほか、相手に対してソリューションを提供
していく側面もあるので、直接販売を行っている。
 代理店を使って拡販してきた部分もあるが、今後は直接取引にも力を入れて独自でチャネ
ルを強化している。
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<代理店販売の取り組みに関するコメント>
 内陸部へのアプローチは、駐在員を派遣することが難しいので代理店の開拓を通じ展開し
ていく。
 販売増加には代理店とその傘下の小売店の協力が不可欠。代理店、小売店をファミリーチ
ャネル化し、現場の販売力を強化する施策を打っていく。
 ミドル・ローエンド品では代理店が重要となる。代理店に対しては年2回代理店会議を開
催、製品知識、営業能力の教育や市場カバー率の向上に向けたトレーニングなどを行って
いる。
② B to C(Business to Consumer、消費者向け取引)
消費者向け販売では、これまでの百貨店や直営店を中心とした販売から、コンビニ、ネ
ット販売、テレビ通販など活用し得る販売形態が多様化している。また、他社の資本や労
働力を活用して速いスピードでの事業展開が可能なフランチャイズ方式の導入を将来的な
事業計画に描く企業もある。
<直営店展開の具体例>
 販売を拡大するためには、収集した情報やデータを普遍化していくことが必要であり、現
地からの商品情報を仕入れるため、直営店を出店した。
<コンビニ、ネット販売、テレビ通販活用の具体例>
 これまで百貨店でのみ扱っていた商品を、06~07 年頃からネット販売の淘宝網で取り扱
ったところ内販の売上が伸び始めた。高級百貨店で取り扱っているというブランド力が評
価され人気が出ている。
 百貨店を中心に販売してきたが、新たな販売チャネルとして、コンビニ、ネット販売、テ
レビ通販を開拓している。テレビ通販は宠伝にもなり、売れ行きも好調である。
<フランチャイズ方式に対する考え方>
 直営店の出店形態はいくつかのパターンを検証中。複数のパターンの経験が、フランチャ
イズ展開する際のフランチャイジーへのコンサルティングに生きてくる。
 直営店で拡販するには資金回収の問題もあり、将来的にはフランチャイズ展開を計画。
(2)地域展開・店舗展開
広い中国全土を全てカバーすることは難しい。重点地域を設定しサービスの品質を落と
さずに、展開地域を拡大することが課題となっている。また、消費財では、上海は競合が
多く価格競争が厳しいながらも、ショーウィンドウ的な効果もあり、事業展開上外せない
都市との指摘もある。
<展開エリアの集中に対する考え方>
 中国全土をカバーするのは難しいので、重点地域を選定して、モノ・情報・カネを集中し
ていく。
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 販売地域拡大を急ぐのではなく、進出地域でシェアを獲得してからマーケットを次第に拡
大させていく。
 地域に密着し、地元に合う製品・サービスを提供し、その市場にあったビジネスを構築し
ていく方針。ビジネスモデルを確立してから他地域への拡大を考える。
<チャネル拡大とサービス品質の維持>
 無理に店舗を拡大して品質を落とすつもりはない。
 現在は直営店が多い。フランチャイズは増やすがサービスが低下しないように急激には増
やさない。教育訓練しつつ長期的にはブランド力を確立していく方針のため、拡大を急が
ない。
<店舗展開:百貨店使い分けの具体例>
 外資系、地場系問わず百貨店に出店しているが、百貨店の特徴によって店舗戦略を区分け
している。オンリーワンを目指す百貨店では値下げしないが、若干大衆的な百貨店内の店
舗では値下げもよく行っている。展開する商品もプレミア感を重視する百貨店には先進的
なデザインを出し、それ以外ではアウトレット的な位置付けで商品を出している。
<上海への出店の考え方>
 上海では価格競争が激しく利益があまり出ないが、他の市場を開拓する際に営業相手に上
海での实績がベンチマークにされることからも上海市場は外せない。
 フランチャイズ店を出すためのブランド認知度の向上のため上海への出店も視野に入れ
ている。
(3)物流インフラ
物流インフラは、ネット販売では中国国内では届かないところの方が尐ないくらいに発
展し、コールドチェーンも一部の都市内ではコンビニ業が成り立つほど整備されつつある。
しかし、都市を跨ぐチルド輸送などは日本と比べると相当脆弱な面もある。
<物流インフラの見方>
 ネット販売には物流面の懸念もあるが、中国国内どこでも運ぶサービスが存在している。
想像以上に物流インフラは整備されつつある。
 90 年代から中央政府からの出店要請があったが、当時は物流インフラが整っておらず展
開できなかった。現在は、整備されてきている。
 都市間物流、チルド輸送・大型商品などの特殊輸送の物流インフラは日本と比べて弱い。
 内陸地域にも販路を拡大したかったが、内陸はコールドチェーンの面でのネックがあり難
しいと判断した。
(4)販売、物流以外の生産者・消費者間ネットワーク
競争が熾烈な中国市場で打ち勝つためには、製品の機能のみならず、配達やアフターサ
ービスといった付随機能にまで差別化のポイントが広がっている。そのための基盤づくり
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として、アフターサービス網などの整備も課題となる。
<アフターサービス網整備の考え方>
 各地にサービス事務所を設け、販売後のメンテナンス需要等に対応している。ブランド信
用力を失わないためにも保証体制は充实させている。
 中国市場で勝つための基盤づくりを図るべく、販売体制面では内陸部を含め、需要が見込
まれる地域に拠点を設置するともに、テクニカルサポート体制も充实させていく。
 日本からの輸入はアフターサービス面で遅れが生じる。中国系の地場メーカーは、販売し
た商品が故障するとすぐに担当者が代替品とともに赴く。当社が扱うのは日本からの輸入
品のため、パーツがなかったりして修理にも時間がかかるしフォローアップも遅くなって
しまう。
<調達ネットワークの重要性>
 進出当初は知名度がなく調達も難航した。最初は日本の商品を多く展開したが、日本の商
品に対する信頼は高かったものの売れなかった。現地調達に切り替えてからは業況も好調
になり評価されるようになった。
中国市場参入のため合弁工場をつくったものの、消費者までモノが流れずに失敗した経
験を持つメーカーがある。その後、この企業は、中国で商品を売っていくには流通を押さ
える必要があるとの認識から通販事業で中国市場に参入した。その後、同社は、その流通
ネットワークを活かして、自社ブランドの製品を中国市場に投入していく方針だ。このよ
うに、流通チャネルの構築には、多くの時間とコストが掛かるのが实情だ。
製品や目的に応じて、各社が流通チャネルに求める役割は異なる。流通チャネルと通じ
た競争力強化においては、ターゲット市場の状況や自社の経営資源を正確に把握した上で、
チャネルに期待する機能を最も効果的に实現できるのは何かという視点で、整備を図って
いく必要があろう。
(中国北アジア課 日向 裕弥)
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4.きめ細かなマーケティング
中国は国土面積が日本の約 25 倍、人口は 10 倍以上という大国であり、地域ごとに経済
格差が大きく、消費水準や嗜好も異なる。また、所得や世代によっても消費観念や嗜好が
異なるため、市場開拓においては、こうした市場特性の違いに配慮したきめ細かなマーケ
ティングの施策が必要となる。以下、中国でのマーケティングを考える上で必要となる要
素について、それぞれの特徴を分析する。
(1)セグメンテーション(市場細分化)
広大で多様性に富む中国市場に、効果的・効率的にアプローチするためには、市場を細
分化し、自社の企業体力や製品特性に応じて対象とする顧実層(セグメント)を見極める
必要がある。
① 地域性
中国市場を日本のような単一市場として捉えようとすると、正しい認識は得られない。
中国ビジネスの「勝ち組」と呼ばれる企業は、31 の省・直轄市・自治区をそれぞれ国のご
とく捉えて、地域ごとのマーケティング戦略を立て、それに基づき商品展開を行っている。
食品など消費財については、嗜好性も考慮する必要がある。上海と比べて、その周辺都
市や内陸部の消費者は、食に対する考え方が保守的と認識する食品関係者は多い。上海で
は人気のある商品でも「その地域の消費者が買いたいと思わなければ市場開拓は難しい」
とみており、都市によって販売する商品を大幅に変えている企業もある。また、近年、購
買力が急速に高まっている内陸市場の開拓も検討していく必要もあるだろう。
「出稼ぎ労働
者が多い広東省で知名度を挙げておくことが、内陸部への展開に有利」という見方など、
市場開拓においては多種多様な捉え方が存在する。様々なファクターを踏まえつつ、地域
特性に合致した布石を打っていくことが求められる。
②価格帯
日本企業の中国市場開拓は、高付加価値製品を富裕層に売り込むことが各社の基本戦略
であったが、中国の購買力の上昇に伴い、ボリュームゾーンにいかに踏み込むかが新たな
課題と認識されてきた。食品関係では、
「進出時は当時の所得水準からすると高い価格設定
だったものの、近年の所得上昇で自然とボリュームゾーンを狙うこととなった」とする企
業もあるものの、多くの企業にとっては、ボリュームゾーン向けの商品を新たに投入する
ため、得意としてきた高付加価値製品とは異なる生産や販売を模索する必要が出てきた。
ボリュームゾーンへのアクセスにあたっては、これまでは先進国向けに開発した製品を
ベースに中国向けに機能を削る「ダウングレード戦略」が中心であった。今後は、最初か
ら中国のボリュームゾーン向け製品を開発し、中国の経済成長に伴い付加価値を高めてい
く「アップグレード戦略」を通じ大幅なコストダウンを目指す企業も現れている。
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③年齢層
中国においては、世代間の消費性向・嗜好も大きく異なる。日本では団塊の世代が長年、
消費者全体の消費行動をリードしてきたが、中国の 50 代以上の世代は、消費に対しネガテ
ィブな意識を持っているのが現状である。消費の为体を担うのは、30~40 代であり、なか
でも、高所得者層はマンション、車、高級ブランドなど「モノ」への消費意欲が高い。
一方、
「80 後」と呼ばれる 1980 年代以降に生まれた層は、改革開放政策以降の市場経済
体制の下、一人っ子として時代的に恵まれた環境で育ったため、消費スタイルも洗練され、
新しい流行にも敏感だ。デザインや機能において先進的なものを求め、デジタル製品やフ
ァッションの消費をリードしている。
ターゲットとするセグメントへの基本的アプローチとしては、市場全体から最も平均的
な顧実層を選んでターゲットとする「非差別化マーケティング」
、複数のセグメントごとに
異なる製品やサービスを用意する「差別化マーケティング」
、特定の顧実層に特化して経営
資源を集中投入する「集中化マーケティング」の3つがあるが、国土面積が広く多様性に
富む中国では、非差別化マーケティングが適した市場はほとんどないといえるだろう。投
入できる経営資源が多ければ、差別化マーケティングが理想であるが、多くの企業にとっ
ては集中化マーケティングをとるのが現实的である。
(図表2)セグメントをターゲットする基本的アプローチ
1.非差別化マーケティング
2.差別化マーケティング
3.集中化マーケティング
会社のマーケティング
会社の
マーケティング
マーケット
'市場(
セグメント1
会社のマーケティング
会社のマーケティング
会社の
マーケティング
セグメント1
セグメント2
セグメント2
セグメント3
セグメント3
(出所)グロービス「e MBA マネジメントシリーズ」から作成
(2)製品戦略
企業がターゲットとする市場で目標を達成するためのマーケティング要素であるマーケ
ティング・ミックスの4P〔製品(Product)
、価格(Price)、流通チャネル(Place)、プロ
モーション(Promotion)
〕戦略のうち、製品戦略は、それが明確になってはじめて、他の
4P の要素である価格戦略、流通チャネル戦略、顧実へのプロモーション戦略が決まる。ま
た、マーケティングにおける「製品」は、製品そのものだけでなく、ブランドやデザイン、
包装、品質、配送、アフターサービスなども含めた広い概念である。
市場が成熟した日本と比べると、中国市場ではまだ投入されていない商品やサービスが
数多く存在する。そのため、中国においてはマーケティング戦略より商品戦略を展開すべ
きという見方もあるが、实際に、中国ビジネスの第一線にいる人の多くは、
「中国に入り込
んだモノづくりやマーケティングをやっていかないと、市場開拓が成功しない」と感じて
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いる。内需を狙うため、中国に研究開発拠点を設け、商品開発を現地化する動きが加速し
ているが(第3章Ⅰ-2「市場に適合した製品の研究開発」参照)、依然として、「他の国
で売れる良いものは中国でも売れるはず」という考え方が社内で支配的なため、中国市場
向け商品企画に対する理解が得られず苦しんでいる中国事業担当者もいるのが現状だ。
競争が熾烈な中国市場では、製品の機能のみならず、デザイン、ブランドといった製品
の形態や、アフターサービスといった付随機能にまで、差別化のポイントが広がってきて
いる。高品質、高性能な製品を得意としてきた日本企業にとって、価格で勝負することは
難しく、それを補うため、顧実に対する付加価値の説明、提案、ブランド力の向上が重要
性を増している。
(3)価格戦略
日用品の購入において、中国の消費者は価格に極めて敏感だ。
「モノさえ良ければ売れる」
という時代ではなくなっている。価格は中国で消費者に選ばれるための大きな要素であり、
安くモノをつくるのが「得意」ではない日本企業にとっては大きく立ちはだかる課題であ
る。
他方、メラミン問題のあった中国では、
「安心・安全」の日本製粉ミルクの売れ行きが好
調なように、商品の良さが消費者に理解されている場合、カスタマー・バリュー(顧実が
適正だと認める価格)は高くなり、価格が購入に際しての大きな阻害要因とならないケー
スもある。つまり、
「価格が高い」といわれる日本製品にとって、価格以上の価値を明確に
提示することが重要ともいえる。富裕層が「高価な買い物ができる成功者としての自分」
というものに価値を見出し、むしろより高額な耐久財やサービスを買い求める傾向がある
ことも、日本の製品・サービスにとってはチャンスであるともいえる。
中国における価格戦略で注意すべき点は、市場占有力の高い製品を有する企業などとの
価格競争だ。価格設定をコスト以下にして、一気に市場シェアを獲得するペネトレーショ
ン・プライシング(市場浸透価格政策)を行い、競合他社を市場から排除した後に、価格
を吊り上げる「戦法」である。こうした「戦法」に対応していくためには、中国の事情を
把握した企業などとのアライアンスを通じ、アライアンス相手の強みを自らの強みにして
生かしていく戦術を研究することも一つの方法となろう。
(4)プロモーション戦略
製品やサービスの価値あるいは特徴を顧実に伝えていくプロモーション戦略も、中国で
のマーケティングを行う上で、重要な要素となる。その具体的な手法として、広告、販売
促進、人的販売、パブリシティ、口コミなどが挙げられる。
効果的なプロモーション手段は、消費者が製品の存在を知り(Attention)、興味をもち
(Interest)、欲しいと思うようになり(Desire)、動機を求め(Motive)、最終的に購買行
動に至る(Action)という購買決定プロセス(マーケティング用語の AIDMA モデル)に
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おいて、どの段階に顧実が該当するかによって異なってくる。製品ライフサイクルの導入
期や、コモディティではない特徴ある価値を提供するには、顧実に直接対応し、製品の使
用方法や優位性などを双方向でコミュニケーションできる「対面販売」が有効だ。
ショールーム設置はそうした観点での1つの有効な取り組みだ。TOTO は、北京、上海、
成都、広州の4拠点に直営ショールームを開設し、建築の専門家向けに技術説明とトータ
ル提案を行っている。为要6都市(南京、杭
州、寧波、鄭州、重慶、深圳)には、代理店
との協業で旗艦ショールームを開設し、实際
の商品の販売と高機能商品やバスルーム全体
の空間提案展示を行っている。
食品の販売では、試食や試飲の機会をつく
り、商品の良さを理解してもらわないと消費
につなげることは難しい。食品の輸出に取り
組む企業の話では、
「实際の作り手が一緒に営
業に回ると、相手の感触が全然違う」
という。
また、中国の業界のキーパーソンから評価
<写真:TOTO の直営ショールーム(上海)>
されていることを、広告やパブリシティ、口
コミで顧実に伝える方法もある。食品であれば有名シェフ、機械であれば大学や研究機関
の第一人者に商品のよさを認めてもらい、広告塔となってもらう取り組みをしているとこ
ろもある。また、インターネット上で影響力の大きいブロガーに商品やサービスを体験し
てもらい、ブログで話題としてもらうことで、商品やサービスに対する関心を広げていく
手法もある。
メディアを使った広告は、広告費が日本並みに高い割に、媒体やチャネル数が多く、「ベ
トナムやインドネシアと比べて、効果が限定的」という声もある。プロモーション戦略の
観点からも、ターゲットとする地域、所得層、年齢層の見極めが重要だ。
広大で多様性に富むという特徴に加え、中国市場においては変化のスピードが速いこと
も一つの特徴だ。政策の影響などにより、需要が予想外に増減するなど、予測が難しい市
場でもある。中国で伸びるのはどの地域・分野の市場か、半歩先を見通すことができる体
制をつくり、方向性をつかんでいくことも肝要だ。また、中国の顧実は、
「意思決定が速い
が、寝返るのも速い」といった見方もある。勝ち組でも常に挑戦者でなければならないし、
挑戦者は勝ち組以上に挑戦していかねばならない市場ともいえる。変化を続けるマーケテ
ィング環境を正確に把握・分析し、自社にとっての市場機会と脅威を見出し、それを更な
るマーケティング戦略の立案と实行に生かしていくことが求められている。
(中国北アジア課 日向 裕弥)
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5.コスト競争力の強化
(1)コスト競争力強化の必要性
中国において生産コスト上昇に向けた対応を図りつつ、激化する中国市場での競争に打
ち勝つためには、各企業のコスト競争力の一層の強化が必要となっている。特に 2010 年に
は、人件費の急速な上昇に加え、日系企業でも労働争議問題が多発するなど、「低廉で良質
な労働力が豊富に確保できる」という中国の優位性は低下しつつある。
その一方で、旺盛な内需を狙い中国市場への外資系企業の参入が相次いでいるが、中国
地場企業の台頭も目覚しく、中国での内販をめぐる競争は一層激化している。また、これ
まで享受していた所得税の「二免三減」政策といった外資優遇策が次第に撤廃されるなか
で、今後外資系企業は地場企業と対等な立場で競争していくことになる。こうした中で、
製品の品質は高いものの、
「高コスト体質」と言われる日系企業にとって、コスト競争力へ
の対応の強化は喫緊の課題ともいえる。
(2)対策
コスト競争力の強化に向けては、以下の対策が有効と考えられる。
①生産・販売能力の強化
生産・販売が拡大すれば、量産・量販効果が生まれ、製品1単位あたりのコストを大き
く引き下げることができ、生産コスト増大によるマイナスの影響の軽減につながる。ヒア
リングの結果でも、
「中長期計画を立てる上で生産能力の拡大は不可欠」、
「中国市場の拡大
にあわせて生産能力を拡充する」といった声が目立った。平均 10%以上の経済成長を続け
る中国市場において、成長率以上の生産・販売の拡大を目指していくことは、中国ビジネ
スにおける競争力の維持・強化のためにも必要な対策である。
②現地調達率の引き上げ
今般のヒアリング調査では、
「コスト競争力強化のため現地調達を進めている」との声が
多く聞かれた。
「コア技術は日本に留めておくが、円高などの為替リスクへの対策からも対
日輸入から現地調達への切り替えを検討している」といったところも尐なくなかった。
一方、
「日本企業が求める水準に達していない」、
「当方の図面・仕様通りにできていない
ものがある」、
「欠陥品が多く、サンプル通りのものが納品されない」といった問題点も指
摘され、現地調達品が要求される技術・品質水準をクリアするまでにはまだ一定の隔たり
があることも事实である。こうした問題に対応するべく、技術面の問題に関しては「技術
指導も含め対応していく」という声もあるなど、現地サプライヤーの育成に力を入れる企
業もある。
「部材調達の面では、需要の急増に供給が追いつかず、競合相手同士の部品の『奪
い合い』となるケースもある。加えて、中国の部品メーカーはドライな体質のため、態度
が急に変わる」などと、中国市場の旺盛な内需によりサプライヤーの「売り手市場」とな
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っている状況も発生しており、安定的な部品調達のためには地場企業との良好な関係構築
なども必要だと言える。
他方、自動車業界を中心に現地調達比率を高めるべく、完成品メーカー・大手部品メー
カーなどから中小の部品メーカーに対する中国進出圧力も高まっており、中小企業の中国
進出の動きも加速しつつある。
また、实際の調達においては、
「2社から調達することで価格競争させる」といった方法
や、逆に1社から集中的に調達することで単価引き下げを行うといった工夫も重要と言え
る。
③自動化・省力化
人件費の上昇は今後の中国での生産においては避けては通れない課題であり、全体のコ
スト上昇圧力においても最大の懸念要因となっている。2011 年から始まる「第 12 次5カ
年規画」においても「経済成長と同じペースで国民所得を増加させる」と、所得引き上げ
に向けた具体的な目標が掲げられている。また、15 年には労働人口が減尐局面に入ると推
計されており、今後人手不足の問題は一層深刻化していくだろう。
こうした中、人件費の過度な増大や人手不足への対応を図るため、生産段階における自
動化・省力化を進めることを検討する日系企業が増えている。企業の中には「労務費が倍
増したら、人員数を半分にするというくらいの発想で対応。つまり自動化・省力化を進め
る」、「特に今年度から製造工程をより一層機械化し、生産性の向上に取り組んでいる」と
いった意見があった。またその方法については「工場全体の自動化(ファクトリーオート
メーション)を進める」や、
「全体的に自動化するには費用がかかり生産の応用性も低下す
るため、マンマシーン(機械と人で相互に補い合う)という考えで取り組む」といった声
もあった。
自動化・省力化は 60~70 年代以降日本が本格的に取り組んできたテーマでもあり、こう
した動きが今後中国においても加速していくとみられる。
④内陸部へのシフト
大手企業を中心に内陸部への展開を検討する企業が増えている。理由としては、第1に
沿海部での規制強化や人件費の高騰など事業環境が悪化する中で低廉で、比較的豊富な労
働力を有する内陸部への生産拠点の移転が進んでいること、第2に市場規模が拡大する中
で、内販向け生産における内陸部の重要性が高まっていること、第3に所得水準の上昇に
伴い外資系企業が対象となり得る内陸部の有望市場も増えており、沿海部と比べて競合企
業が尐ない内陸部の市場を狙って参入する企業が増えている、という点が挙げられる。
一方で、实際に既存の生産拠点を内陸部に移転した事例は依然尐ない。「物流費などを含
めるとコストが高くなってしまう」、「部材調達コストや物流コストを考えると、採算が合
わない」など物流コスト、調達コストの面で課題が大きいほか、生産の絶対量が尐ない中
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小企業や初期投資のかかる設備製造業としては、業績が黒字化するまでに時間がかかると
いう問題もある。また、
「内陸で生産しても賃金コストの差は月 500~600 元程度の差しか
ない。沿岸部までの輸送費を勘案するとそれほどコストメリットがない」など、安価な人
件費だけを目的に進出するメリットは尐ないとの意見もあった。
それでも全般的に内陸部へ対する注目度は高く、将来的には内陸部へ進出するとの方針
が大手企業を中心に多かった。企業の中長期戦略を考える上で内陸部への進出は重要な戦
略となりつつある。
⑤間接費の共有・集約による間接コストの削減
企業の生産コストのうち、生産に直結しない間接費(総務、管理、情報収集など)に関
しては、できるだけ共有・集約させることで経費削減・コスト競争力の強化につなげるこ
とが可能である。例えば大手企業の場合は、
「これまでは事業部制の下、各事業部がバラバ
ラに中国に進出していたが、管理部門を共有することによって間接部門の経費を削減する
ことを考えている」といった方策が検討されている。他方、中小企業においては、「異業種
連合」という形で、間接費の企業間での共有化を図っているところもある。
上記の対策のほか、日系企業によく言われる「高コスト体質」から脱却し、生産性を向
上させるために、①人材や経営の現地化を進める、②日系企業同士の取引に依存するので
はなく地場企業との取引を積極的に拡大していく、③生産・管理の効率性を高めるなどの
経営面の抜本的な見直しも検討していく必要があるだろう。
(中国北アジア課 黄 嘉妮)
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6.人材の育成・現地化
近年、日本企業では、中国拠点を従来のような輸出に向けた生産拠点だけではなく、拡
大する内需を取り込む拠点として位置付け、現地市場開拓を担う動きが増加している。市
場開拓の取り組み強化に向けては、中国市場の特性や嗜好を最もつかんでいる中国人をい
かに適切に育成・活用し、販路開拓を進めていくかが重要となっている。实際、今般のヒ
アリング調査において、各企業が競争力強化におけるキーワードとして最も挙げたのが「人
材の現地化」であった。本項では競争力強化のカギを握る人材の現地化に向けた戦略のあ
り方について考察する。
日本に本社を有する企業の中国ビジネスにおける担い手は、①中国拠点に勤務する中国
人、②中国拠点の日本人駐在員、③日本本社に勤務する中国人、④日本本社に勤務する日
本人のマトリックスに区分できる。人材の育成・現地化のためには、それぞれバランスを
とって底上げすることがポイントである。
(図表3)中国ビジネスにおける担い手と日本企業の課題
中国拠点
日本本社
中国拠点に勤務する中国人
中国人
スタッフクラスの採用・育成。
中国拠点に派遣可能な人材の採用・育
マネジメントクラスの現地化。
成。
中国拠点の日本人駐在員
日本人
日本本社に勤務する中国人
コミュニケーションやマネジメン
日本本社に勤務する日本人
現地への権限委譲および迅速な意思
トの能力が高い人材の選定・派遣。 決定が行える環境整備。
(出所)各種資料、ヒアリング等を基に作成
(1)中国拠点に勤務する中国人
中国での市場開拓において、中国人の有効な活用は極めて重要である。中国人の育成・
活用においては、①实務を担うスタッフクラス、②それを管理・統括するマネジメントク
ラスに分けて対応していくことが必要である。
①スタッフクラス
当然のことながら、中国人は言語も文化も日本人と異なるだけに、異文化を越えて価値
観を共有しつつ、スタッフの能力を生かした組織を構築していく必要がある。ただし、人
材育成は順を追って時間をかけて進めていくことが肝要である。
まず、良い人材の採用が中国においても重要である。企業によっては、産学協同の取り
組みとして大学に寄付講座を設け、自社を中国人学生に幅広く知ってもらう機会を設けて
いる企業もある。また、現地法人でのインターン受け入れや、優秀な学生への奨学金給付
などを行っている企業もある。さらに、日本語能力を採用条件にすると人材の幅が狭まっ
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てしまうことから、英語を話す人材も採用対象に加える試みを始めている企業もある。
採用後の人材育成においては、日本人がポリシーを持って「自社のビジョン」を語り、
「会
社とは何なのか」を明確に理解させ、それを全員に正しく伝えていくことが求められてい
る。会社としてのビジョンを明確に示さなければ中国人スタッフも、仕事を通じて育って
いる实感がわかず、単なる駒として使われていると感じて、企業から離れていく可能性も
尐なくない。成長を实感できることで人は働く面もある。中国人は必ずしも金銭的な待遇
だけで企業への帰属を判断しているのではない。自身の成長スペースがあることを感じら
れる環境を醸成することが重要で、それが实現できれば定着率の向上にも繋がる。つまり、
「待遇(給与・報酬等)
」と「成長機会」
、「職場の人間関係」の三角形のバランスがカギと
いえる。
(図表4)定着率向上のための3つの視点
待遇(給与・報酬等)
成長機会
職場の人間関係
(出所)各種資料、ヒアリング等を基に作成
人材育成を進める中で、信頼関係を深めていくことも大事であるが、ある日本企業から
は、中国人を「信用しても、100%信用しない」という意識も必要ではないかとの意見があ
った。ビジネスを成功させるという視点で見た場合、チェック機能を有効に働かせる必要
性があり、それは日本人同士であっても同じであろう。
②マネジメントレベル
多国籍企業には、現地人材をマネジメントに登用することで、組織が上手く機能した経
験があるところも尐なくない。日本企業においても、中国拠点を日本人でなく中国人がマ
ネージする経営に変えていこうとする企業が増えつつある。つまり、いつまでもマネジメ
ント層を日本人だけで固め、たとえ優秀で一生懸命仕事に取り組んでいても中国人という
だけの理由で、マネジメント層に登用されないという、いわゆる「ガラスの天井」を打破
し、中国人のモチベーションを向上させることが必要だと考えている企業が増加している。
中国人トップマネジメントを社内で育成した企業は、その選定にあたり、広範な人脈、
マネジメント能力の高さを求めており、その理由として、中国でのビジネス展開において
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は、折衝力、人脈がものをいう場合が多く、日本人には対応が難しいことを挙げている。
また、別の企業はマネジメント層に昇格させる中国人には、日本本社に招聘して新任管
理職研修を实施。1~2年かけて日本で業務を通じて、①本社とのネットワークを構築し、
②日本本社が大切にしている経営理念などを学ばせつつ、③対象者自身のモチベーション
を高めるなどの工夫をしていた。
他方、人材マーケットとして見た場合、マネジメントレベルの人材は限られていること
に加えて、外からスカウトすると給料が高額になる傾向がある。このため最近では人材の
選定に当たって中国や日本だけでなく、より広範なエリアで募集・採用しようという動き
も出始めている。米国でマネージャーとして成功している人物は、労務問題など過去に直
面したさまざまな経験を活かして中国でも上手く活躍できることが尐なくないという意見
もあった。
(2)中国拠点の日本人駐在員
各社における中国事業の重要度が高まる中、駐在員として派遣する日本人の選定は一層
重要性を増している。中国拠点での日本駐在員については、従来は中国語が話せる人材、
または、中国語が話せなくとも、海外で駐在経験のある人材が派遣されるケースが多かっ
た。しかし、中国市場の急速な発展を受け、事業を急拡大する企業が多い中、初めての海
外駐在が中国というケースが増えてきている。こうした社員に対しては、赴任前に十分な
研修を行うことが欠かせない。
「日本人が学ぶべき中国に関する情報」など過去の経験を一
冊のファイルにまとめて赴任予定者に渡すなどの工夫をしているところもある。
駐在員の選定に当たっては、言語能力や経験もさることながらコミュニケーションやマ
ネジメントの能力が高く、現地で皆と共に汗をかき、現地中国人社員の信頼を得られるよ
うな人材を送り込むことが必要である。また、マネジメント形態が日本人中心から中国人
が为体へと転換しつつある中、中国拠点における日本人駐在員の役割も、中国人社員に対
して、①経営理念、②企業文化、③コンプライアンスについて指導・教育するといった役
割に変化しつつある。そういう意味で、これらをしっかりと把握し、伝えていける能力を
備えていることも条件となろう。
駐在期間についても見直しが求められる。
「韓国企業では片道切符のつもりで地元に根を
張った形で駐在させる一方、日本企業ではわずか3年弱の駐在期間で、現地の事情が分か
ってきた頃に帰任となる」など、日本企業の人事ローテーションの問題点を指摘する声も
尐なくない。今後は、期間の長期化も図りつつ、複数の交代要員を育成し、中国市場を理
解する日本人の層を厚くしていくことが求められる。
他方、駐在する日本人の質を高める一方で、中国拠点の人件費総額が高くなっており、
コスト削減の観点から量的には日本人駐在員を減尐させ、現地化を推進していくことも考
える必要がある。
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(3)日本本社に勤務する中国人
日本本社に勤務する中国人は、現地事情にも明るく、日本の企業文化もある程度理解し
ていることから、日本本社における中国情報の収集・分析や、現地サイドとの調整役とし
ての役割が期待されている。中小企業においては、社長の懐刀として中国での事業運営を
サポートしているケースも多い。
日本に留学した中国人を本社で採用・育成し、将来的に中国に赴任させる企業も最近増
加傾向にある。こうした手法により、社内の活性化につながる効果も期待される。しかし、
日本本社採用という理由で、高額な給与を支給することが、中国現地法人の中国人社員と
の間に摩擦を引き起こす可能性があり、中国への派遣に当たっては慎重な対応が求められ
る。他方、日本での勤務時代に、日本本社の経営理念や企業文化を良く理解した上で中国
に赴任したため、現地赴任後も現地の中国人に日本本社の考え方を上手に伝え、本社と現
地法人とのブリッジコーディネーター的な役割を担っている中国人社員もいる。
本社採用の中国人の派遣に当たっては、その人物の資質を十分に見極めた上で選考する
ことが重要であろう。
(4)日本本社に勤務する日本人
中国におけるビジネス環境の変化は極めて速い。企業としてはそれに対応するための体
制構築が必要であり、迅速な意思決定も求められる。対応策として、現地への権限委譲を
進める企業も尐なくない。しかし、日本本社側の業務プロセスが明文化されていないこと、
また、本社側としてコーポレートガバナンスやコンプライアンスの観点から完全に現地へ
の権限委譲ができない部分もあるといったことが、阻害要因になっていることも多い。
この点、欧米企業は、中国現地法人まで物理的に距離が離れていることもあり、
「良くも
悪くも」権限委譲と現地化を推進せざるを得ない状況にあったといわれる。日本企業は、
中国までの距離は相対的に近く、現地への出張が比較的容易であったことも、権限委譲と
現地化の遅れにつながっていると見る向きは多い。いずれにしても、中国での事業展開に
おいては、本社の中国事業責任者(中小企業であれば、経営者自ら)が、頻繁に中国に足
を運び、現地の情報に常にキャッチアップし、連携を強化しつつ全社的に意思決定を速め
ていくことが求められている。
(5)結び
今般のヒアリング調査を総括すると、業種や中国での事業展開の状況によって、現地化
のレベルは異なっており、今後目指す水準も違っている。いずれにしても、人に関する問
題であるだけに、現地化は時間をかけて進めていくしかないが、そのスピードを出来るだ
け速めていくことが求められている。そのためには明確な目標を定めることも検討すべき
であろう。
例えば、グローバルに現地化が進んでいる企業として知られている YKK は、中国では
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「2006 年から 09 年までの3年間でマネージャークラスについては 50%以上を現地人にす
る」という数値目標を掲げて現地化に取り組んだ。その結果、09 年末の時点では 46%まで
現地化が進み、10 年の時点では、中国全土のグループ企業の幹部ポスト約 250 のうち、中
国人幹部が 140 を占め、1年遅れで目標を達成した。この事例が示唆していることは、数
値目標の設定が有効であること、他方、
「目的化」してはならないということである。一度
昇格させると例え管理職としての適性がなくとも降格させることは容易でないためである。
今後、中国市場のさらなる成長に伴い、第一線で活躍する中国人社員の役割が大きくな
ることは間違いない。こうした中、現地化とは、日本人従業員の役割をどのように考える
かという点と裏表ともいえる。各社にとって何よりもまず重要なことは、中国事業の持続
的拡大である。この目的を達成すべく、日本人と現地人材がどのような枠組みで手を携え
て、目標に向かって団結していくか。各社の戦略のあり方が問われているといえよう。
そういう意味で、人材育成は現地拠点だけに任せるのではなく、将来の姿を見据えて全
社一丸となって対応していく必要がある。
(中国北アジア課 矢内 雅章)
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(補論)本社と現地法人の連携
日本企業は他の外資系企業と比較しても本社の裁量権が強いとされる。一方で中国事業
が日本企業全体にとって重要性を増す中、本社と現地法人がしっかりと連携した形での事
業展開を図っていくことが重要となっている。
まず、本社の権限が強いことのマイナス面は、中国事業展開における経営スピードの遅
れや柔軟性の欠如につながりかねず、本社との調整や意思決定プロセスの非効率さが指摘
される。具体的には、
「日本側の過度なコンプライアンス要求への対応が圧力」
、
「本社側が
立てた目標の達成にプライオリティが置かれ、現場で本当に必要としている経営ができな
い」、「中国では法規の捉え方が難しく、法規面のリスクをゼロにして事業を進めることが
難しい点を理解してもらう必要がある」などの声が聞かれた。現地法人と本社の間の温度
差による経営の非効率や、本社の方針に左右されて現場で必要な経営ができないといった
問題意識もある。また本社の中国に対する理解不足も問題点として指摘された。
こうした問題に対する最も有効な解決策は現地法人への権限委譲の推進だ。日系企業の
場合、他の外資系企業と比較して権限委譲が遅れており、意思決定プロセスにおいて本社
の意向が重視されるという声も尐なくない。しかし、今後中国市場に対する注目度が一層
高まる中で、特に内販拡大を検討する企業にとって、現場の細かいニーズの吸い上げや対
応、スピードをもった経営の推進のためには、現場での意思決定をより重視することがま
すます重要になっていくだろう。
一方で、現地への権限委譲における問題としては、「日本企業はカンパニー制を採用して
いることが多く、中国の傘型会社(統括会社)と本社全体との利害調整が難しい」、「現地
での管理を一任できる日本人人材の育成が必要」といった声もあった。
他方、現地への権限委譲以外の方策としては、「
『経営の多軸化』という視点が重要」と
の見方もある。具体的には、「『本社』と『現地』という枠組みではなく、『事業軸』『エリ
ア軸』
『会社軸』の3軸に分け、会社軸として本社が人事や財務面をバックアップしていく」
といった形で会社の軸を多角化させ、それによって本社の機能を管理面に特化させるとい
う考え方である。
その他、現地法人と本社の円滑な意思疎通を図るための工夫として「経営会議を中国で
開催し、中国事業に対する経営陣のコンセンサスを得る」、「本部機能の一部を中国に設け
る」、「関連部署の社員を定期的に出張させ中国を理解させるようにする」といった取り組
みもある。また、「本社自体がグローバル人材の採用やグローバル企業としてのガバナン
ス・経営視点を持つ必要がある」と本社の国際化の重要性も指摘された。
いずれにしても、日本企業の中での中国事業の位置付けが高まる中で、中国事業の成功
に向けた本社と現地法人の適切な連携、権限分担のあり方を考え、それを实行に移してい
くことが重要と言えるだろう。
(中国北アジア課 黄 嘉妮)
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Ⅱ.リスクマネジメントの強化
1.基本戦略とチャイナリスクの体系的整理
(1)重要性を増すリスクマネジメントの強化
日本企業の事業展開における中国市場の位置付けが急速に高まる中で、産業界は中国経
済の活力を自社の成長戦略に活かす方向に転換しつつある。实際、中国も含めた海外での
売上高を拡大させていく方針を明確に打ち出す企業が増加傾向にある。
しかし、日本企業の売上高や利益に占める中国の比率が高まることは、同時に中国経済
や現地法人の動向が日本企業本社の経営に及ぼす影響度が大きくなることを意味している。
かつては「米国がくしゃみをすると日本が風邪をひく」と形容されたが、それが現在では
中国になりつつあると指摘する企業もある。こうした観点から、今後の中国ビジネス戦略
においてはリスクマネジメントの強化が従来にも増して重要になっている。
当然のことながら日本企業は、海外投資はリスクが伴うものであること、特に中国は、
日本と政治体制も異なり、リスクが相対的に高いことは十分に認識した上で進出している。
そうした中でも、過去には 2003 年の新型肺炋(SARS)、2005 年の反日デモといった想定
外のリスクが発生した。
とりわけ 2010 年は、日本企業にとって「チャイナリスク」をあらためて再考する1年と
なった。春先から沿海部を中心にストライキや賃上げの動きが広がり、夏頃からは省エネ
目標達成を目的とした不合理な電力供給制限、秋には尖閣諸島での漁船衝突事件を契機に、
通関遅延やレアアース輸出の停止といった問題が相次いで発生した。
しかし、海外における事業展開において、リスクは必然的に伴うものであり、中国だけ
が突出してリスクが高い国というわけではない。今般のヒアリング調査では「中国ビジネ
スにリスクがあるのはやむを得ない。いかにその影響を最小化するかがポイントである」
といった比較的冷静なコメントが多かった。
(2)まずはチャイナリスクの体系的な把握を
まず重要なことは「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」ということで、チャイナ
リスクとは何かを体系的に把握することである。中国で第2次対中投資ブームといわれた
90 年代半ば頃までは情報が不足しており、日本企業の事業運営も手探りのところがあった
が、現在ではさまざまなルートで情報入手が可能となっている。リスクに関する情報収集
が以前に比較して容易になっていることは、逆にいえば対策が立てやすくなっていること
を意味している。従って、中国では然るべきリスク対策を打っていけば、チャンスはリス
クを上回るといっても過言ではない。实際、ヒアリング先の企業からは「中国リスクは各
社均等ではなく、中国を理解していない企業にとってはリスクが高い。他方、中国を熟知
している企業にとってリスクは相対的に低く、他社との差別化要素となり得る」との意見
もあった。
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チャイナリスクを「中国での事業展開において進出企業が直面するリスク」として整理
してみると、①カントリーリスク、②オペレーションリスク、③セキュリティリスクの3
つに分類することができる。
カントリーリスクとは中国自体の信用度であり、政治的、社会的、経済的要因から生じ
る変化が自社の事業運営に影響を及ぼすリスクである。すなわち中国の政治・社会的安定
が続くのか、経済の持続的成長が可能なのかということである。
オペレーションリスクとは中国での实際の事業運営において生じるリスクである。中国
進出企業は投資環境、生産、販売、財務・金融・為替、雇用・労働などの面において、さ
まざまな問題を抱えている。こうした諸問題により思わぬところで事業運営に支障をきた
すリスクがある。
これらに加えて留意しなければならないのがセキュリティリスクである。反日デモや不
買運動などの対日抗議行動、SARS や鳥インフルエンザなどの新興感染症、あるいは従業員
の健康管理などには十分留意する必要がある。なお、チャイナリスクは必ずしもこれらに
とどまるものではない。特に突発的なリスクが発生する可能性については十分考慮してお
く必要がある。10 年9月の尖閣諸島での漁船衝突事件などは、まさにその典型的な事例で
ある。
(図表1)チャイナリスクの体系的整理
カントリーリスク
政治
政治・社会システムの安定性'共産党一党独裁(
対外経済関係'欧米等との貿易摩擦問題(
台湾との両岸関係
社会
三農'農業、農村、農民(問題
雇用確保と失業問題
所得格差の拡大
腐敗・汚職問題
環境汚染の悪化
自然災害'地震・水害等(
尐子高齢化'一人っ子政策の弊害(
経済
中国経済の持続的成長
政府のマクロ経済運営
インフレもしくはデフレ圧力
不動産バブル
金融システム改革'不良債権問題(
資本市場改革'証券市場の低迷(
為替制度改革'人民元切り上げ問題(
恒常的な国家財政の赤字
国有企業改革
資源・エネルギー不足
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オペレーションリスク
セキュリティリスク
投資環境
政府の不透明な政策運営、中央・地方政府の不統一性
経済法制度の未整備・恣意的な法制度の運用
会計制度・税制の不備および運用の不透明性
技術流出リスクおよび不十分な知的財産権保護
運輸・電力等インフラ問題
外資優遇措置の見直し
外資系企業および地場企業との競争激化
環境・省エネ・廃棄物処理等の規制の強化
M&Aの増加に伴う統合リスクおよび敵対的買収リスク
生産
品質管理の困難さ
部品・原材料の現地調達の困難さ
限界に近づきつつあるコスト削減
輸入品に対する高関税、非関税障壁
販売
代金回収の困難さ'与信管理(
模倣品の氾濫
製造物責任'PL(およびリコール
レピュテーションの悪化、風評被害
在庫リスク'需要予測の困難さ(
財務・金融・為替
為替リスク'円および人民元の対ドルレートの変動(
金利リスク
資金調達・決済に関わる規制強化
雇用・労働
労働争議、労働組合問題
人材'中間管理職・技術者(の採用難
従業員の離転職'ジョブホッピング(
従業員の賃金上昇
労働者の質・教育レベルの問題
対日抗議行動
反日デモ、不買運動
治安悪化
黒社会、誘拐、盗難
新興感染症
AIDS、SARS、鳥インフルエンザ
従業員の安全管理
健康被害、労働災害
情報セキュリティ
個人情報を含む情報漏洩、不正アクセス
(出所)各種資料、ヒアリング等を基に作成
(3)危機発生時の適切な対応とそのレビューが重要
チャイナリスクの中で、カントリーリスクは企業レベルでは対応が極めて難しいリスク
であり、实務上、オペレーションリスクとセキュリティリスクを中心に対策を打っていく
こととなる。具体的には、企業によって各リスクの影響度が異なるため、まずは、自社に
とってのチャイナリスクを整理、重大なリスクとそうでないリスクを区分し、重大なリス
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クの中でも発生頻度が高く、かつその影響度が大きなリスクから優先的に対処していくこ
とが肝要だ。その上で、それぞれのリスクに対する回避策を策定し、事前準備を進めてお
くことがポイントである。
他方、すべてのリスクを事前に防止することは不可能なこともあり、危機発生時に適切
に対処することが最も重要となってくる。ある企業からは「何かが起こった時、迅速に情
報を共有し対応できることがリスクに強い企業の証」との指摘もあった。そのため必要な
のは、第1はリスク対策マニュアルの整備である。ただし、实際に運用できなければ意味
がないので、発生時のシミュレーションも織り交ぜながら、事業継続計画(BCP)の策定
にも取り組んでおくことが望ましい。第2は危機発生時に「身体を張れる」リーダーの育
成である。ヒアリングした企業からは「リーダーは日頃から1件1件の積み重ねにより、
リスク対応力を高め、シミュレーションを行い、センスを磨いておくことが重要」とのア
ドバイスもあった。また、個々の従業員の対応力強化もカギであり、本部から定期的に訪
問したり、専門家を招いたりしながら、現地で研修を行うことも必要であろう。
リスクが顕在化した時には、現地で起こる問題は現地で対応・完結し、必要に応じて本
部がサポートすることが基本だが、本社に遅滞なく情報が流れ、迅速に判断できる仕組み
を構築しておくことも重要である。その上で、発生した問題に関する情報を本部と現地が
一元的に管理、発生要因をレビューしつつ、同じ問題を2度と起こさないよう全社的に対
応策を蓄積・共有することもポイントである。ある企業は「失敗は自社の財産であり、同
じことを起こさないために、何らかの形で体系化できれば、対外的にはノウハウ、武器に
なり得る」と強調している。
また、リスクマネジメントは自社だけでは限界もあり、外部の専門家の知見やアドバイ
スを活用することも必要である。進出企業の中には、「専門のリスクマネジメント会社と契
約し、リスクの対処方針を検討」
、「現地に弁護士のネットワークを持ち、問題が起きた際
には彼らに相談し、意見聴取後に判断」といった対応をとっているところもあった。
他方、留意しなければならないのは、リスクマネジメントが一流でも業績が三流であっ
てはならないことである。リスクマネジメントの強化は大事であるが、リスクを過剰に懸
念し過ぎればビジネスチャンスを失うことにもなりかねない。リスクを踏まえつつもチャ
ンスには積極的にチャレンジしていくことが中国ビジネスでは欠かせない。とはいえ、コ
ンプライアンスや社内のルールを遵守することが何よりも重要であることは言うまでもな
い。
(中国北アジア課長 真家 陽一)
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2.情報収集・分析力の強化
リスク回避策の1つとして、情報収集・分析力の強化が挙げられる。特に中国ビジネス
においては、市場動向が変化するスピードが速いこと、あるいは法制度の改正が頻繁に行
われることなどからも極めて重要なポイントとなる。中国の政治・経済動向をいち早く捉
え、それをマクロ・ミクロの視点でそれぞれ分析し対策を打っていくことがリスクマネジ
メントにおいては重要である。
(1)報道による情報収集
インターネットが発達した現在、中国情勢に関する報道は日中両国のみならず、欧米を
含めた世界各国メディアの視点から収集することが可能である。常にアンテナを広げ、中
国経済の変化を察知することが必要である。
他方、報道は二次情報であり实態と異なる場合も尐なくない。従って、報道情報のみで
は中国の实態を把握することは難しく、できるだけ現地の一次情報を収集・分析すること
が不可欠である。
(2)現地政府からの情報収集
市場動向や規制関連の情報をいち早く収集するためには、現地政府との日々のコミュニ
ケーションを密に取っておく必要がある。特に、政策や法制度の改定は事業運営に大きな
影響を及ぼすものとなり得るため、その動きを捉え対策を打つことは極めて重要となる。
中国は変化が激しく不透明なところが多い。法制度に関しても、中央政府による発表(通
達)と、各地方政府による解釈や運用が異なる場合が往々にしてある。様々な政策が発表
されても詳細な中身が分からないということも多く、加えて地域ごとに解釈が異なり、「現
場における日々のオペレーションの中でやっと内容が分かる」と指摘する企業もある。そ
うしたリスクを軽減するためにも、日頃から地元地方政府と良好な関係を築き、最新の情
報・動向を収集し対策を打つことが必要といえる。
中国に限らず開発途上国においては「人と人との関係(=人脈)
」が、ビジネスに大きな
影響を与える場合が尐なくない。政府や当局との関係をいかに構築していくかもポイント
となろう。
(3)企業間での情報収集
日頃から進出日系企業同士の会合などに参加し、横のつながりを持つことも必要である。
また、日系企業のみならず、他の外資系企業や地場企業とも情報収集のためのネットワー
クを幅広く構築していくことも必要であろう。
(4)社内における情報収集
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社内レベルにおいて、各拠点間で情報交換することも必要である。例えば、ある企業は
「中国内の各地域拠点、あるいはアジア各国拠点の代表が定期的に集まり情報交換し、そ
の結果を全社で共有している」という。それにより、各拠点が何をリスクとして捉え、ど
のような問題を抱え、どのような対策を打っているのか、各現場の現状と対策を知る(あ
るいは指摘する)ことにつなげている。
中国は広大な国土を有し貧富の差も大きく、地域によって市場動向も様々である。現在
A拠点で起きている問題が、次年度あるいは数ヵ月後にはB拠点で起こる可能性もある。
各拠点が抱える問題をできる限り迅速に情報共有することが、次のリスクを未然に防ぐこ
とにつながるといえよう。
「リスクに強い組織とは、何か問題が起きた時にどれだけ迅速に情報共有し対応できる
かによる」と強調する企業もある。小さな問題点も含め、日頃からこうした報告・連絡・
相談を1件1件積み重ねていくことで、対応力を高め、シミュレーションを行い、リスク
要因を察知するセンスを磨いておくことが必要である。
(5)外部の専門家等による情報収集
自社のみでの情報収集・分析が難しい場合、外部専門家等の力を借りるのも一策である。
法務・労務問題に関してはコンサルティング会社や弁護士事務所、財務・税務問題につい
ては会計事務所などに相談するほか、ジェトロなどの公的機関や取引銀行などから情報収
集するなど、幅広く様々なルートから情報を得られる体制を作っておくことが必要である。
「現地の業界で顔が利く人、あるいは現地の事情通に社外取締役になってもらい、今後
の規制緩和の動きなどの情報を得ている」、あるいは「専門のコンサル会社に依頼し、一拠
点で取った対策を水平展開し、全社的にリスク対策レベルを上げつつ、日々の問題に対処
している」といった企業もいる。どちらの場合であっても、日頃から積極的に外部機関と
交流を図り、どういった人物が社外取締役やコンサルタントの候補として相応しいか、情
報収集をしておく必要もあるといえよう。
多様な姿を持ち、変化のスピードが速い中国においては、自社のみでリスクを体系化し
管理することは難しい場合も多い。外部の専門家等も活用しつつ、大きな問題とならない
うちに事前に確認し、その都度解決していくことが求められる。
(6)むすび
中国の实態を理解するためには、やはり一次情報の収集・分析が不可欠といえる。現地
法人を持たず、輸出ベースで中国ビジネスを行う企業に関しても、实際に現地に赴き現場
を見ることが不可欠だ。報道で得られるマクロ情報に加えて現地視察を行い、現場でミク
ロ情報を得ることが何より重要である。その上で、中国の情勢変化をいち早く察知し、的
確な対策を取っていく必要がある。
(中国北アジア課 米川 拓也)
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3.内外におけるリレーションの強化
(1)社内におけるリレーション
駐在員と現地採用人材との関係作りはリスク回避の点において極めて重要となる。工場
においてストライキが起きれば経営がストップする。あるいは、長年育てた従業員が他社
に転職すれば、同時に自社の技術やノウハウが流出する。そうしたリスクを回避するには、
日頃から従業員と良好な労使関係を築いておく必要がある。
良好な労使関係作りに関しては、多くの企業が「日頃のコミュニケーションが重要」と
口をそろえる。特別な手段は無く、日々のオペレーションを進める中で人間関係を築き、
意見を吸い上げ、「不満を貯めさせないようにすること」が何より大切ということである。
円滑なコミュニケーションのためには、まず、能力に相応した処遇を行い従業員のモチ
ベーションを上げることが必要である。また、管理職や駐在員のリーダーシップも大事で
ある。転職していく中国人従業員が、建前では「給与面が原因」と言っていても、本音は
「総経理との関係が上手くいかない」あるいは「その企業に勤めていても将来の発展性が
感じられない」といった場合も多いという。そういう意味で、従業員に受け入れられ尊敬
されるような人材を駐在員として人選する必要もあるといえよう。
その他、
「福利厚生に関するアンケート調査を实施している」、
「工場における食事(食堂)
に力を入れたりおかずを増やしたり、食後は運動や気分転換をさせたり、イベントなどの
レクリエーションを充实させる」
、「社員旅行など、従業員と幹部とのコミュニケーション
を深める取り組みをしている」といった声もあった。
良好な人間関係、信頼関係の構築は1日でできるものではない。駐在員は外国で仕事を
しているということを認識し、その国の人と真摯に向き合うべきであろう。仕事以外の交
流も含め、一歩一歩関係を深めていくことが必要である。
(2)社外におけるリレーション
中国ビジネスを行うにあたっては、社外的には地域社会や地元政府と良好な関係を構築
し、
「良き企業市民」として認知されることがリスク低減につながる。日頃から地方政府や
公安など政府関係者と交流を行い、最新情報や制度改正の動きを察知するための要素を収
集することなどで、今後発生するリスクに備えるのである。
すなわち、ストライキが起こった場合など、問題が起きた時にサポートをもらえる関係
をどれだけつくれるかが鍵といえよう。また、「リスク要件の未然防止には、①自社ででき
ること、②他社と連携してできること、③当局に前もって相談できることがある」と語る
企業もある。③に関しては、地元政府関係者を困ったときに頼れる存在にするため、日頃
の交流を怠らないことが必要である。
(中国北アジア課 米川 拓也)
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4.法制度問題
(1)存在するリスク
今回のヒアリング調査では、中国は法制度が未整備あるいは運用に問題があるとの声が
多くの企業から寄せられた。实際、ジェトロが 2010 年 11~12 月に实施した「日本企業の
海外事業展開に関するアンケート調査」においても、中国のビジネス上のリスク・問題点
としては「知的財産権の保護に問題あり」(60.0%)に次いで、「法制度が未整備、運用に
問題あり」(56.1%)を挙げる企業が多い。インドの回答との比較でも、同問題に対する日
本企業の問題意識の高さが伺える。
(図表2)中国のビジネス上のリスク・問題点(複数回答可)
ビジネス上のリスク・問題点
60.0
知的財産権の保護に問題あり
11.3
56.1
法制度が未整備、運用に問題あり
31.6
46.2
人件費が高い、上昇している
10.5
中国
41.8
労務上の問題点あり
19.7
インド
29.3
23.2
税務上のリスク・問題あり
24.9
18.3
為替リスクが高い
13.6
インフラが未整備
64.3
5.9
関連産業が集積・発展していない
28.6
0
20
40
60
80
'%(
(出所)ジェトロ「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(2011 年3月)
しかし、ここで注意すべき点は、中国は人治国家と称され、その側面を持ち合わせてい
ることは否定できないものの、实際は各種関連法令が整備された法治国家となりつつある
ことである。進出日系企業の支援に携わる弁護士の多くは「中国における法整備は目覚し
い速度で進み、現在は日本と同様、あるいはそれ以上に進んでいる」と指摘する。
一方で、依然として日系企業担当者が「法制度が未整備」と指摘する背景には法令の運
用の問題がある。広大で多様な中国において、地域ごと、また行政担当者ごとに、運用や
解釈が異なり、担当者が対応に苦慮するケースは尐なくない。ある日系企業担当者は、「中
国は法令に曖昧な表現があり、何かあった時いいように解釈されるので、そういった法制
度リスクはある」と語る。また、ある担当者は「中国法令は、運用面では窓口担当者の理
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解に委ねられている。恣意的な運用がなされている部分もあるようだ」と不満を口にして
いる。
さらに指摘されることが多いのが、中国における法制度の急激な変更である。事实、輸
出増値税還付率引下げまたは撤廃、加工貿易輸出禁止類または制限類の拡大などの急激な
政策変更を受け、コストアップを余儀なくされた日系企業もある。ひいては進出当初に想
定していたビジネススキームに大きな影響を受けたケースもある。このリスクを最小化す
るには、現地政府、業界団体、企業関係者など幅広い情報ネットワークを構築しておき、
法制度変更の兆しといった情報をいかに早くかつ正確に入手できるかがポイントであり、
その重要性を指摘する声も多い。但し、政策の方向性について、確認をとることは非常に
難しいのが現状である。
また、法制度の変更直後において、変更内容の確認に苦慮するとの日系企業の声も挙が
っている。新たな対応を採るだけでも大変であるのに、その対応の詳細内容の現地政府へ
の確認において骨を折るというのだ。ある商品表示の基準が新たに实行された際に、企業
担当者がまず県級市の管理部門に問い合わせをしたところ、詳細が分からないので、さら
に上の管理部門に問い合わせするように回答され、結局は省級の管理部門にまで問い合わ
せる必要があったというケースなど、多くの事例が挙げられている。広大な面積を持つ中
国において、変更が各地に伝わり定着するまで時間がかかる構図だ。また、取り敢えず法
令が出され、詳細は暫く期間をおいて出される实施細則により明らかになるというケース
も多い。
この他、法令が施行されてから、施行日よりも過去に遡って対応が必要となることがあ
り、その対応に追われるケースもある。一例を挙げると従業員に有給休暇を付与すること
を規定した「従業員年次有給休暇条例」は 2008 年1月1日から施行された。しかし、不透
明な点があり、詳細については、同年9月 18 日から施行された「従業員年次有給休暇条例
实施弁法」で明らかになったが、2008 年においても同条例および实施弁法に則り対応が必
要になり、事務負担増や生産計画の変更といった問題が発生した。
また、法令が公布されてから、施行までの期間が短いという問題もある。北京オリンピ
ックが開催される際、各種交通規制が实施されるといわれていたが、最終的な詳細が発表
されたのは 2008 年6月 19 日で、各種規制が实行されたのは開催の約 1 カ月前の 7 月 1 日
からであった。日系企業では短期間のうちに早急な対応を迫られることになった。
中国においては法制度に絡んでこのような状況が発生していることを認識しておく必要
がある。
(2)とり得る対策
中国に存在する上記のようなリスクに対して、即効性のある有効な対策をとるのは難し
い側面がある。しかし、できるだけトラブルを避けるための努力は欠かせない。第1に、
中国が法治国家となりつつあることを認識し、法令をしっかり把握することである。中国
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の法令には、全国人民代会(日本の国会に相当)とその常務委員会が制定する法律、国務
院(日本の内閣に相当)が制定する行政法規(条例)、国務院を構成する部や委員会(日本
の省庁に相当)が制定する部門規則(部門規章)
、地方の人民代表大会や地方政府が定める
地方性法規や地方政府規則があり、それぞれに気を配る必要がある。重要なものについて
は、現在多くの機関より変更の際に情報提供がなされており、情報入手が可能だ。
第2に、中国での法令制定、変更のスピードは速いため、進出日系企業の担当者として
は、常にアンテナを張り巡らせ、企業運営に関連するような法令の変化について把握する
ようなネットワーク作りが必要である。現地政府関係者との交流は言うまでもないが、業
界団体、関係企業担当者とのネットワークも有益である。また特に、進出日系企業の加盟
する団体である中国日本商会(商工会議所)や地方の日本人組織の会合などを通じた日系
企業同士での情報交換も重要である。こうした組織はジェトロ等とも協力の上、担当者向
けに法令の改正等のタイミングをみて、弁護士や税理士などの専門家を講師に現地で担当
者向けのセミナーを開催している。
第3に、本社との情報共有体制作りである。ある弁護士は、2010 年春に日系企業におい
てストライキが深刻化した1つの要因に、本社とのやりとりでその決断に時間がかかった
ことを挙げている。現地サイドに権限を委譲し、素早い判断を可能にするのはもちろん理
想的であるが、实際はそこまでいかないケースもある。その際には、日本本社と現地サイ
ドにおいて、関連法令および現状を相互に把握しておくことで、問題が発生した際に、判
断を下す時間を短縮することに繋げられる。また、中国における企業運営で、日本人の経
営管理層の果たす役割は非常に大きい。これらの人材が交替する際に、後任の人材が日本
とは異なる法令事情を把握していなければ、円滑な運営と必要時の迅速かつ適切な判断が
難しくなる。そのため、本社側で現地法令を常に把握し、後任となりうる人材はその情報
を把握していることが望ましい。
第4に、弁護士事務所や会計士事務所、コンサルタント会社等の専門家を活用すること
である。当然費用が発生することになるが、結果的にトラブルが発生した際には、その費
用以上の損害を受けるケースもある。現在中国には日本人弁護士や、日本語で対応可能な
中国人弁護士もおり、多くの日系企業は必要に応じてアドバイスを求めている。社内にお
いて解決が困難な場合には、こうした外部人材の活用も有益である。
最後に、これは進出前の企業に対していえることであるが、事前の法令の把握が非常に
重要ということである。進出前の情報収集不足によって、日系企業が中国でトラブルに巻
き込まれる点を多くの弁護士が指摘している。例えば、日系企業において直面する土地ト
ラブルについては、事前の土地に関する法令理解不足で、本来取得すべきでない土地を取
得してしまったことに端を発するケースがある。進出前の法令把握とそれに伴う判断が重
要である。
いずれにしても、中国における法制度リスクに対しては、日頃の地道な積み重ねが最も
有効な対策となっている。
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<法制度リスクに対する対応策>
①法令の把握に努める。
②法令把握のためのネットワークの構築(現地政府、業界団体、関係企業)
。
③本社との情報共有体制の整備(日本人管理層の後任候補の法令把握を含む)。
④弁護士事務所、会計士事務所、コンサルタント会社等の専門家活用。
⑤企業進出前の法令把握が非常に重要。
(中国北アジア課 宗金 建志)
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5.知的財産権の保護
(1)存在するリスク
中国の模倣品被害による知的財産権の侵害問題は、日本企業にとって大きな問題として
捉えられている。アニメ、映画、放送番組など映像番組に係わる DVD などの海賊版に始ま
り、電気および機械製品・部品から生活用品に至るまで幅広い分野における被害が伝えら
れている。ジェトロが日本企業に対して实施している「日本企業の海外事業展開に関する
アンケート調査」
(2010 年3月)においても、中国のビジネス上のリスク・問題点としては
「知的財産権の保護に問題あり」
(全体の 60.0%)が第 1 位にあがっている(第3章Ⅱ-4
の「法制度問題」参照)
。
2010 年6月に経済産業省が発表した「模倣品・海賊版対策の相談業務に関する年次報告」
によると、国・地域別の模倣被害社率(複数回答)で見た場合に、中国が第1位で 62.0%
と、第2位の台湾(24.2%)
、第3位の韓国(22.2%)を大きく引き離している。
(図表3)国・地域別の模倣被害社率(複数回答)
0
20
40
60
'%(
中国
62.0
台湾
24.2
韓国
22.2
タイ
9.8
インドネシア
8.2
マレーシア
シンガポール
ベトナム
フィリピン
7.2
5.5
6.9
4.2
その他アジア
中单米
7.2
5.5
中東
8.7
アフリカ
3.5
大洋州
3.1
欧州
北米
80
15.3
13.3
(出所)経済産業省「模倣品・海賊版対策の相談業務に関する年次報告」
(2010 年6月)
(注)特許庁「2009 年度模倣被害調査報告書」を基に作成。模倣被害率は、国・地域別の
被害社数/各年度の総回答社数
同報告では、2008 年度の中国における日本企業の模倣被害を知的財産権別に示しており、
その中では、商標権侵害が 3,470 件と全体の 80.4%を占めている。次いで、製品品質法違
反が 256 件(5.9%)
、反不正当競争法違反が 204 件(4.7%)
、著作権侵害が 188 件(4.4%)
、
意匠権侵害が 123 件(2.9%)と続いている。
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また、同報告書では日本企業の被害が多い都市・地域(上位5位:2007 年)を報告して
いるが、
「製造を確認」した地域として、①広東省、②浙江省、③上海市、④江蘇省、⑤福
建省が、
「販売・消費を確認」した地域として、①上海市、②広東省、③北京市、④浙江省、
⑤香港が挙げられている。そして、中国内陸部にもこれらが拡大していく方向が指摘され
ており、地域の広がりに注意を払っていく必要がある。
懸念される被害額についてであるが、中国日本商会 IPG(事務局:ジェトロ北京センタ
ー知的財産権部)の「2009 年度中国日本商会 IPG 会員アンケート」をみると、中国にお
ける模倣品被害額(中国国内および中国国外への輸出によるものを含んだ損失売上高)の
年間総額につき、
「分からない」という回答が 59.3%と圧倒的に多い。模倣品被害の实態把
握の困難さが浮き彫りになった形である。ただ、2番目の回答「10 億円以上」が 16.9%、
3番目の回答「2億円以上5億円未満」が 8.5%となっており、その被害の大きさが伺える。
進出日系企業の担当者からは、「模倣品が中国ビジネスにおいて1つの障壁になってい
る」、「製品があっという間にコピーされてしまい、目くじらを立ててもどうにもならない
ことが多い。同じ時間とエネルギーを注ぐのであれば別のところに注いだほうが良いと割
り切ることも必要であろう」といった声も聞かれている。
そして、担当者が頭を悩ませる問題が、合弁事業や技術供与等のアライアンスの過程や
現地雇用の技術者の転職や退職に伴う技術流出である。中国への進出を検討しながら、進
出に踏み切らない企業からは、
「コア技術をとられてしまうことが怖い」との懸念がよく聞
かれる。現地日系企業からは、
「製造ノウハウを中国で特許化すると模倣されるリスクがあ
るし、一方で退職した従業員が特許化していない技術をパテント化することも懸念してい
る」とその難しさを指摘する声は尐なくない。
中国政府は知的財産権法令を既に整備しており、模倣品取り締まりに力を入れているが、
現状では模倣品被害は減る方向にはなく、分業化・分散化・小口化など巧妙化が進んでい
る。また、日本製品のみならず売れる中国企業の製品の模倣品被害が指摘されており、中
国でのビジネス展開を行う企業は、現状このリスクとは向き合っていかなければならない。
技術流出のリスクについても、日中間に存在する技術格差、中国の人材の流動性の高さ、
中国におけるコンプライアンス意識の不十分さ、等の面から考察してみても、リスクが低
減する方向にはない。
(2)とり得る対策
企業にとってとり得る対策としては、何よりも商標、特許、技術、意匠(デザイン)な
どの権利を早期に取得し、その権利を为張していくことである。日本企業の売れている製
品について、中国の模倣業者が先に権利を所得してしまうケースが見られており、中国展
開を正式に決めてからの登録では既に遅いことがある。また、展示会に出展した際に、模
倣業者に商標登録されてしまったケースなど聞かれており、中国で販売をする可能性があ
るものは早期の権利所得が求められる。権利取得については、特許庁委託事業・ジェトロ
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作成の「模倣対策マニュアル中国編」
(http://www.jetro.go.jp/theme/ip/data/manual.html)
が参考となる。
そして、重要であるのは中国の模倣品に対して、その流通をストップさせるべくアクシ
ョンをとることである。摘発手段としては行政ルートと司法ルートの2つが存在する。司
法ルートは人民法院に対して、民事裁判や刑事裁判を提起する形であるが、処罰は重いも
のの、時間がかかり、手続きが複雑でもあり、代理人費用も高額になることなどから、一
般的には前者の行政ルートを使用するケースが多い。
行政ルートによる摘発手段とは、即ち権利ごとに異なる担当行政機関に対して、必要な
書類と証拠を提出することにより摘発を实施、行政処分(侵害行為の即時停止命令、侵害
品の没収と廃棄処分、罰金)を下してもらうことを指す。具体的には商標および不正競争
問題については工商行政管理局、原産地虚偽表示については質量技術監督局、権利侵害品
の海外輸出を食い止める際には、海関(税関)に申し立てをすることになる。詳細は前述
の特許庁委託事業・ジェトロ作成の「模倣対策マニュアル中国編」をご覧頂きたい。
行政ルートによる摘発については、進出日系企業から「やる気にさせるために日頃から
つながりを持ち、摘発を行う地方政府が中央政府にアピールできる場をつくることが重要」
と、日常の交流の重要性や政府担当者の面子を立てるインセンティブの重要性を指摘する
声も聞かれる。行政ルートによる摘発についてはいたちごっこであるとの指摘も多いが、
ある日系企業担当者は、
「もぐらたたきを続けるしかない。毎年一定の予算を組んで摘発活
動を行っている。偽者の販売業者や生産業者を摘発し新聞に報道してもらうなど、当社は
摘発をしつこく行うことで、模倣しても旨味が無い企業であるというイメージを植え付け
る努力を続けている」とその意義を強調している。
また、個々の企業では限界もあるので、業界団体や中国日本商会(商工会議所)や日本
人組織の活動に参加し、連携して対応することも有意義である。例えば、日系企業同士の
情報共有や意見交換の場として、業種横断的な取り組みを行っている、知的財産権の海外
における日系企業情報交換グループ(IPG)がある。進出日系企業の中で、現地に知財専門
部門を有しているところは尐ないものの、現地管理層なども含めて同グループに参加し
(http://www.jetro.go.jp/theme/ip/link/)、情報交換や各種活動を積極的に行っている。知
財問題については、こうした活動を地道に続けていくことが必要である。
そして、技術流出問題に対して、日本企業の中で为流な考え方としてあるのは、まずは
中国側に提供する技術とそうでない技術を明確にして、コア技術については日本の本社か
ら出さないという考え方である。中国において技術流出を 100%完全に防止することは難し
いとされるためである。ある担当者は「ブラックボックス化して出したこともあるが、中
国で全部分解され、1週間後には模倣品が出たこともある。また、退職者を通じて流出す
ることもあり、防ぎきれない」としている。
但し、変化が目まぐるしく競争が激化している中国において、ある程度技術を開示し共
有しなければ、中国でのビジネスチャンスを失ってしまうケースも尐なくない。中国側に
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とっては、技術の開示が日本側とビジネスを行うメリットとなり、信頼関係構築に繋がる
のも事实であるためだ。ある日系企業担当者は、
「先端技術はある程度共有しないと生き残
れない。開示しないと現地企業が作れない(当社が求める品質のものが納品されない)た
めである」と指摘している。多くの日本企業担当者はある程度技術を開示する先に流出リ
スクがあることは想定済みで、コア技術は日本の本社に確保しておくとしている。
この際、技術を教える日本本社の社員の間で、何が自社においてコア技術であり、ブラ
ックボックス化をしていくべきかという共通認識を形成しておくことも肝要である。ある
日本企業では、技術者に対するこうした面での社内教育にも力を入れている。
コア技術は日本に残そうとする企業が为流である一方で、
「技術を出し惜しみしていては
生き残れない」とする企業も存在する。そして、
「技術を出しても、それを扱う人材、管理
方法などのソフト面での日本企業の優位性があるため、簡単に模倣されることはない」と
指摘する企業担当者もいる。
ただ、いずれの場合にしても、合弁会社あるいは中国側の技術受入企業において、技術
や情報流出を防ぐためのしっかりとした情報管理体制を構築することが重要である。ある
企業は「合弁会社では独自に採用した社員を为に使い、技術をプロテクトすることが必要」
としている。マニュアル、図面、連絡文書など書類から材料にいたるまで、管理ルールの
明確化が望ましい。なお、技術者の転職や退職は流出の一要因となりうるが、こうした人
材に長期的に働いてもらえるような職場環境の整備もポイントとなる。
また、日本企業において、常に R&D を行い技術の先進性・優位性を保持していくことも
必要である。模倣されるリスクが存在しているため、日本側としては常に最先端の技術を
開発し、模倣されたとしても、新しい技術でリードできるようにしていくべきである。
以上のように、模倣・技術流出のリスクに対しては、予防から問題解決の対応までを含
めた各レベルでの取り組みを展開していくことが望ましい。
<知的財産権に関するリスクに対する対応策>
①知的財産権の取得。
②模倣品をストップさせるべくアクションをとる(行政ルート、司法ルート)。
③業界団体や中国日本商会(商工会議所)や日本人組織の活動に参加(日系企業情報交換グ
ループ(IPG)への参加)
。
④技術を選別し、模倣されたくないコア技術は日本から出さない。
⑤技術を教える日本側でブラックボックス化するコア技術の共通認識を形成。
⑥合弁会社あるいは中国側の技術受入企業で技術や情報流出を避ける情報管理体制を構築。
⑦中国現地法人で技術者に長く働いてもらえる職場環境の整備。
⑧日本側で常に R&D を行って、技術の先進性・優位性を保つこと。
(中国北アジア課 宗金 建志)
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6.労務問題
急速な経済発展を遂げる中国では、労働者の権益保護を強化する法整備が進み、労働争
議が増加する一方、賃金も上昇している。中国における労務リスクは、日本と異なる商習
慣や社会問題、頻繁に制改定される労働関連法規や制度への理解不足に起因するところも
あり、企業が事業活動を行う上で対応が難しい問題である。労務問題は、中国で事業運営
する際のビジネスリスクの中でも特に留意しなければならない問題といえるだろう。
ストライキが断続的に発生した 2010 年は、労働争議が中国リスクとして改めてクローズ
アップされた。ストライキを経験した企業関係者が、「人の管理や給与体系、労使関係の構
築が一番大切だと再認識した」と語るように、日頃からの労務管理がリスク対策につなが
る。ここでは、労務リスクを、(1)労働争議、(2)採用難、(3)離転職、(4)人件費
上昇、
(5)現地人材の育成の5つに分けて、日本企業のリスク認識、課題、取り組みを紹
介する。
(1)労働争議10
急速な経済成長が続く中国では、所得格差も拡大している。労働者の権益保護を強化し
所得を向上させることを目的に、労務関連の法制度は近年、一段と強化されている。08 年
には労働契約を規定する「労働契約法」と労働争議の仲裁を定める「労働紛争調停仲裁法」
が施行された。労働仲裁機関に申し立てる仲裁費用の無料化で労働者からの申し立てが容
易になったことも手伝い、08 年に申し立てが受理された労働争議件数は 69 万件と前年の2
倍に急増した。
09 年は、世界的金融危機の影響を受けて業績回復や雇用確保が最優先となり、労働争議
件数は 68 万件と微減したが、09 年後半から中国経済の V 字回復が鮮明となり、年前半の
昇給抑制もあって労働者の賃金引き上げ期待が高まった。このため、10 年は断続的にスト
ライキが発生した。部品メーカーでのストライキ長期化が納品先の生産活動に支障を来た
したこともあり、改めてそのリスクが注目されている。
①予防策
中国企業や台湾企業との合弁会社の場合、
「合弁相手が労務管理をしっかりやっているた
め心配がない」、「合弁のメリットは労務面を任せられること。問題は起きていない」とい
う意見が聞かれた。また、独資企業でも、ストライキが起きそうになったときに未然に防
げた理由として、
「要となる中国人幹部の存在」を挙げる企業が多かった。従業員に関わる
労務リスク低減のための特別な手段はなく、日頃のコミュニケーションを通じて、労働者
の些細な不満や意見を吸い上げることが重要であるが、日本人だけでは難しいケースが尐
なくない。
10
中国の「労働争議」の定義には、ストライキ等、争議行為が発生している状態のみならず、労務問題を
原因にして発生した労働者個人の紛糾も含まれる。08 年に受理された労働争議申し立て 69 万件のうち、
集団によるものは 21,880 件(構成比 3.2%)
。
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ストライキの原因となる労働者の不満は、社員食堂の食事が不味いといった些細なこと
もある。従業員との日頃のコミュニケーションをできるだけとるように努めると同時に、
意見を吸い上げるため、福利厚生に関するアンケート調査の实施、従業員のウェブサイト
掲示板への会社批判投稿の確認などを行っている企業もあった。また、普段から従業員重
視の姿勢を示し労使間の信頼関係を構築するために、レクリエーションや社会保険などの
福利厚生制度の充实を活用することも考えられる。
②対応策
サプライチェーンへの影響を考えると、ストライキが発生した際には迅速な解決が求め
られる。迅速に解決している企業は、ストライキが発生した場合の労使交渉はスピードを
優先し、昇給決定も含め本社には事後報告で対応することを認めるなど、現地への権限委
譲が進んでいる。
日頃から当局と良好な関係を構築し、問題が起きたら直ちに労務局などの行政機関に相
談することも欠かせない。また、労務問題に長けた中国の弁護士の協力を得るなど、専門
家の力を借りることも適切な対応策の1つである。さらに、毅然とした対応をとることも
重要だ。労働争議の萌芽があれば小さい問題であっても徹底的に対処することで、労働争
議の拡大防止を図る企業もある。
ストライキは、1件発生すると飛び火的にストライキが増える傾向もあるので、1社だ
けで防ぐことは難しい。高い昇給率で妥結した他社の水準を基準に、新たなストライキが
発生し昇給を迫られることもある。日系企業同士、進出地域の企業同士で、ストライキが
起きた際の対応を情報共有すると良いだろう。
(2)採用難
中国では、大学生の増加に伴い大学新卒者の就職難が深刻化する一方で、需給のミスマ
ッチから、企業側が求める人材の採用難がワーカー、技術者、中間管理職とあらゆる層で
起きており、事業運営上の問題となっている。
採用難への対応として、教育機関との連携を行う企業もある。例えば、即戦力のワーカ
ーを確保するために専門学校とタイアップした人材育成に取り組む、大学の冠講座に技術
者を派遣して授業を行い優秀な学生を採用するといった対応である。
また、専門性が高い職種は、需要が高いものの労働市場に求める経験者が不足しており、
若い人を採用して一から育てる動きも出ている。大学からインターン生を募り、後に、そ
の中から正社員になってもらうことで安定した人材確保ができている企業もある。
(3)離転職
尐しでも良い条件の会社があると簡単に転職すること、技能を持った社員が引き抜かれ
ることなど、社員の離転職に悩む企業は多い。社員の定着率が高いある日本企業は、自社
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の定着率が高い理由を「幹部に中国人がいて職場の雰囲気がよいこと、コミュニケーショ
ンがよいこと」と分析する。
離転職を抑える条件の1つは、社員のモチベーションを向上させる職場環境をつくるこ
とである。例えば、やる気のある社員に応えるため、实績を挙げた人材を昇給・昇進させ
るといった、新たな給与・昇進制度を導入する企業がある。自分が会社の歯車として使わ
れていると思うと仕事へのやりがいは感じられないが、自分が成長していること、またそ
れが認められていると实感できることが働くモチベーションにつながる。また、上位ポス
トに登用する社員を増やし、中国人でも現地法人の役員になれることを示すなど、キャリ
アの発展性を広げている企業もある。即戦力を採用するばかりでなく、企業文化を分かっ
た人材を育てるために新卒採用に力を入れる動きも強まっている。
もう1つの条件は、コミュニケーションが図られ職場の雰囲気がよいことである。採用
から3カ月以上経過した社員の定着率がほぼ 100%というある日本企業は、
「上下関係より
人間味を重視した職場環境をつくることを心がけており、処遇についても、残業・休日出
勤手当てなど同業他社より恵まれた条件を出している」としている。また、別の企業では、
食堂の食事を工夫し、昼食後の気分転換のための運動や、社員交流のイベントを行うなど、
一日の大半を仕事に費やす社員が居心地よく楽しく働ける環境をつくっているという。
人材が不足し引き抜き合戦が行われるような専門性の高い職種については、転職をコン
トロールするのが難しい。このため、常に、バックアップの人材を備えることで対策をと
るところもある。
(4)人件費上昇
ジェトロが中国に進出している日系企業を対象に行った調査では、「従業員の賃金上昇」
を課題とする企業の割合は8割に上り、経営上の最大の課題となっている(第1章Ⅴ.「日
系企業の事業運営動向および問題点・課題」参照)
。中国政府は第 12 次5カ年規画期間(11
~15 年)に、法定最低賃金を毎年 13%超引き上げる目標を設定しており、今後も人件費の
上昇が続くことが見込まれる。
人件費上昇への対応については、いくつかの対応がみられた。
第1には、
「人件費は製造コストの 10%にも満たないので、給与は思い切って大幅に上げ
ていく」という考え方で、給与を上げることで、人材引き止めにつなげる対応だ。また、
人件費が上昇しても、駐在員のコストより依然として低い状況では、
「コストの高い駐在員
を減らしローカルスタッフに替えることで人件費の高騰を補う」といった対応をとる企業
もある。
第2には、人件費を上げるものの、経営状況に応じた上昇幅となるような制度を構築す
る考え方である。例えば、上昇幅を会社や個人の業績に対応する「ペイ・バイ・パフォー
マンス」の仕組みをつくる会社や、生産性の向上に応じて賃金を上げるような人事制度を
構築するところもある。
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第3には、社員数を最小限にとどめるための自動化・省力化の考え方だ。例えば、
「労務
費が倍増したら、人数を半分にする発想」で工場のオートメーション化を図る企業も増加
傾向にある。また、
「単能工型ワーカーを多能工型に育てることで、より尐ない人数で業務
負荷の平準化を図る」企業では、同時に人が替わっても支障がないように業務の標準化を
進めている。
(5)現地人材の育成
近年、労働市場に供給される若い世代は、一人っ子で甘やかされて育っており、人材の
質の低下を指摘する声がある。また、大学教育も、進学者の増加でエリート教育からマス
教育の段階に入り、大卒の平均レベルは低下している。その一方で、産業の高度化ととも
に、人材に求められる能力は高度化している。
あまりに速いスピードで中国事業が急拡大する中で、社内の人材育成が追いついていな
い状況に危機感を持つ企業は尐なくない。特に、マネジメントクラスや専門職など、労働
市場に尐ない人材は売り手市場となっており、経験者を市場から獲得することが難しいの
が現状だ。このため、これまでは「使えない人材は替えてきた」企業でも、今後は、
「今い
る人材をいかに育成するか」が課題となっている。
人材育成に近道はない。現在、成功企業として取り上げられるある企業は「成功の要因
で一番高い評価は社員教育」としながらも、当初は日本的な挨拶教育などに反発があり、
定着するまで「社員の半分が辞めた」という。また、いずれ中国進出する際に備え、中国
の大学を卒業した人材を採用し、日本で技術を学ばせている中小企業もあり、中長期的な
計画が必要だ。
育成した人材が会社に貢献する前に離職するリスクも低くはない。前述の「離転職」の
項に記したように、優秀な人材を引き止めるためには、モチベーションを向上させる職場
環境をつくり、それなりの処遇を施す対策が必要である。ただし、離職を完全になくすこ
とは難しい。育てた人材が転職しても、次の職場で高い評価を得られれば、自社の評価も
高まり、よい人材が集まってくると思い、人材育成に取り組んでいくしかないだろう。
(中国北アジア課 日向 裕弥)
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7.環境・省エネ規制の強化
市場経済導入後の近年の急速な高度経済成長の影で、中国では環境汚染が深刻化した。
「量から質」への産業構造転換を方針とする中国政府は、省エネ・環境保全の推進を第 11
次5カ年規画期間(2006~10 年)の重点課題と位置づけ、水質汚染防止法、循環経済法、
中国版 RoHS 指令、中国版 REACH、中国版 WEEE など環境関連の法律法規を次々と制定・
改定している。
また、産業発展を優先するあまり、環境法規や政策があっても運用が徹底されない状況
を改善するため、国務院は 07 年に、省エネ・汚染物質排出削減の達成状況を省級政府と重
点企業の責任者に対する人事考課の要素とする「排出削減目標責任制」を实施することを
発表。第 12 次5カ年規画(2011~15 年)の建議でも同目標責任制の实施や法による取り
締まり強化がうたわれており、今後、ますます環境・省エネ規制とその運用が厳しくなる
ことが予想される。これは、競争力のある環境・省エネ技術を持つ日本企業にとり、潜在
的なビジネスチャンスとなろう。
その一方で、環境・省エネ規制の強化は、中国でビジネスを行う企業にとり、次のよう
なリスクとなりうる。
(1)コスト増加
江蘇省は 08 年、アオコ大量発生を受けて「江蘇省太湖水汚染防止条例」を改定した。同
省に進出した企業によると、メッキ加工後の工業排水は河川放流基準で決められた業者を
通じて排水しなければならず、処理費は1トン当たり 9.5 元。汚水処理費は年々上昇し、さ
らなる値上げの話が出ているという。同社によれば、処理業者がいつでも対応できるわけ
ではないこと、業者の処理が徹底していないことでクレームを受けることがあることなど
から、今後は、自社工場内に専用処理設備を導入する予定で、進出時には予定していなか
った追加設備投資が必要となっている。
(2)事業計画変更(生産停止、移転、電力供給制限)
上述の企業は、
「江蘇省太湖水汚染防止条例」改定前に事業認可を得て操業していたもの
の、同条例施行でメッキ加工後の排水処理の厳格化で関連の業務拡大ができなくなった。
この他にも、地域によって、メッキ、プリント基板、捺染などの特定産業に対し、環境対
応設備を導入もしくは移転を迫る規制の導入、汚染物質の排出量削減を目的とした生産制
限命令、悪質な規制違反に対する生産停止命令などの事例も報告されている。
突然の規制変更や、急激な取り締まり強化も尐なくない。また、地方政府が国家環境基
準より厳しい地方基準を制定することも認められている。知らぬ間に環境・省エネ規制を
犯す可能性もあり、日頃から環境・省エネ関連規制やその適用状況の情報収集が不可欠と
なる。また、急な規制強化に備えた投資計画を想定しておくことも必要だ。
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10 年には8月以降、江蘇省、浙江省など華東地域を中心に電力供給制限が行われた。高
温による電力使用量の増加や、10 年が最終年となる第 11 次5ヵ年規画で掲げたエネルギー
消費削減率の目標達成などが制限の理由とされている。電力制限は電力使用量の総量を削
減するもので、GDP 単位当たりのエネルギー消費量を削減することとは趣旨が異なる。こ
れまで多くの日系企業は省エネに取り組んでいるものの、省エネ努力を行っていない企業
と同じように電力供給制限の対象となり生産計画の変更を余儀なくされたところも尐なく
ない。今後も排出削減目標達成のため同様の電力供給制限が起こる可能性もあり、各社の
生産計画はもとよりサプライチェーン面への影響が懸念される。
(3)法に違反した場合の処罰・賠償・信用喪失
各種環境・省エネ規制に対する取り締まりが年々厳しくなっており、08 年頃から、地元
当局が排水基準や排煙基準を守っているか審査に来るようになった地域もある。取り締ま
りのみならず、規則違反時の処分の厳格化や罰金の引き上げが行われており、注意が必要
だ。また、排出基準や汚染物排出総量を満たせず企業名が公開されると社会的な信用やブ
ランドイメージが低下し、不買運動を起こされるリスクもある。合弁先、調達先などが違
法行為を行った場合、環境 NGO などに付け込まれるリスクもあり、自社のみならず関係先
も含めてしっかりと対応することが求められている。
(4)技術開示
環境・省エネ規制や基準の厳格化は、中国で新たな技術の普及を後押しすると考えられ
ているが、分野によっては米国や欧州より厳しい規制や基準も採用されている。自動車メ
ーカーの関係者によると、
「中国の排ガス規制は世界レベル。それに対応する先端技術やノ
ウハウも開示しないと、中国のスピードに追いつけない」状況となっており、先端技術を
開示するリスクも考慮する必要がある。
中国政府は環境・省エネ規制の整備とともに運用を強化する方向にあり、正確な情報を
収集し対応することは中国でビジネスを行う上で避けては通れない。環境・省エネ対応が
進んでいる企業によっては、地元政府から「奨励したいモデルケース」として高く評価さ
れ、許認可手続きなどスムーズに進んでいる事例もあり、積極的に環境・省エネ規制強化
のリスクに対応することでビジネスチャンスに活かす戦略も検討すべきであろう。
(中国北アジア課 日向 裕弥)
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8.消費者対応
中国市場の拡大や消費者の権利意識の高まりに伴い、製造物責任(PL)や消費者権利保
護の問題が拡大傾向にある。2010 年、中国消費者協会が受理した消費者からのクレームは
66 万 6,255 件に上り、日本企業を相手取った訴訟も発生している。毎年、国際消費者権益
保護デーの3月 15 日はマスコミを挙げて企業=悪、消費者=善の構造でキャンペーンが張
られ、槍玉に上がった企業は中傷のターゲットとなる。また、中国のメディアの特徴とし
て許可なく記事の転載が広がることから、小さな問題に見えたことが瞬く間に全国規模に
大反響を呼び起こし、小売店での製品撤去など不買運動にもつながるリスクがある。特に、
日本企業とその製品は日本に対する中国人の民族感情や品質への高い期待からクレームや
訴訟の対象となり、かつ、その際にマスコミに取り上げられやすく、消費者や社会全体か
ら会社や商品といったブランドへの信頼を失うレピュテーションリスクが高い。
「製品品質法」や「消費者権益保護法」に加え、10 年7月には「権利侵害責任法」が施
行し、罰則で賠償責任が重くなるなど注意点が増えている。今回ヒアリングした企業や弁
護士事務所などの中でも、中国でのオペレーションリスクとして PL を挙げる企業が多かっ
た。企業や弁護士事務所、コンサルティング会社などの専門家の方から伺った、具体的な
PL 問題への対策や留意点は次の通りである。
(1)事前の対応策
①初期対応の徹底
 中国国内の全てのメディア(テレビ、ラジオ、新聞、インターネットなど)について、当
社の記事がないかウォッチしてもらっている。加えて、インターネットに掲載されたネガ
ティブ情報に対して、ポジティブな情報を出していくなどの対策も採っている。
 一度記事になるとネット上などですぐに広まってしまうのでクレームが出た際の対応に
気をつけている。クレーム対応を一本化するため専門窓口を設けている。
②制度情報収集
 制度を守っていないとの指摘を回避すべく、制度情報は幅広くウォッチすることが大事。
③正確な商品説明
 不良品を作らない。消費者が使用方法を間違わないようにする。
 中国は消費者の声の力が強い。新製品についてはお実様への説明不足が品質問題化する恐
れがある。顧実への啓蒙活動やきめ細やかな商品説明によりメーカー側も手探りで対応し
ている。
 中国で販売する際に説明書の説明不足、翻訳ミスなどが起こっており、こうした問題に対
する意識が弱い。
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④模倣品対策
 模倣品はブランドへのダメージが大きいため、費用をかけながら徹底的に対策をとってい
る。公安などともタイアップし、工場や販売倉庫、店舗の摘発を行っている。
⑤マスコミとの関係構築
 マスメディアとの交流はかなり頻繁に行っている。例えば、中国メディアからのインタビ
ュー依頼には、トップが対応するようアレンジしている。また、イベント開催時には招待
するほか、年末や春節などの機会に懇親会も開催している。
⑥良き企業市民としてのイメージ醸成
 良き企業市民として認められることが必要。日々のオペレーションを行う中で構築される
人間関係は非常に大事になる。
 日本の会社も現地社会で社会貢献活動をしているがなかなか表に出てこない。他の外資系
企業などは、派手にやって贈呈式などもアレンジしている。日本企業も現地にわかるよう
に地域社会に貢献していることを PR すべきである。
⑦取引先・代理店への対応
 他社から供給された部品に問題があり、当社のみならず他社製品にも不具合が発生したこ
とがありメディアで取り上げられた。
 日本企業は代理店を通じて販売しているケースが多く、第2次、第3次代理店までコント
ロールできていないこともある。消費者からどのような話が舞い込み、市場でどのような
ことが起こっているのかきちんと報告させるような仕組みを構築するべきである。
(2)トラブル発生時の対応
 対応策は、故障があったらすぐに対応して修理すること。
 品質問題が発生したら、マスコミ、政府、消費者に対してどう対応するか考えておくべき
である。欧米企業は消費者問題の予算を組んで組織的に対応するようにしているが、日系
企業は問題が起きてから対応する。対応の遅さから訴訟を起こされたケースも尐なくない。
この他、対策としては、PL 保険の付保や、弁護士等の専門家の協力を得ることなどが挙
げられる。中国製造物責任の取り扱いの实務と対応については、ジェトロのウェブサイト
でも情報提供しており、以下の資料を参照されたい。
『中国における製造物責任と消費者紛争』ジェトロ北京センター知的財産権部・2006 年
http://www.jetro-pkip.org/upload_file/2007033033743765.pdf
ジェトロ貿易投資相談 Q&A「中国での製造物責任の取り扱いの現状とその対策・留意点」
・
2010 年 http://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/qa/01/04A-A21268
(中国北アジア課 日向 裕弥)
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9.コンプライアンス問題
近年、日本本社では、コンプライアンス(法令遵守)意識の向上が見られる。その背景
には、一度失った信用失墜やブランドイメージの毀損の回復が大変困難であることがあげ
られる。
日本本社は、海外現地法人に対してもコンプライアンスの徹底を求めている。中国にお
いては、法文の解釈や運用について幅があるとはいえ、公正な市場経済のためにコンプラ
イアンス違反を徹底的に処罰する機運は高まりつつある。そのため、日系中国現地法人と
しては、法令違反とならないように、より保守的に対応しようとしている。しかし、その
ような日系中国現地法人の方針に反して、長らく今までの習慣に慣れ親しんだ中国人社員
が積極的に売上規模を拡大しようとする際にコンプライアンス違反を本人が知らず知らず
のうちに行っており、ある日、法令違反ということで処罰の対象となる場合がある。
コンプライアンス違反によって従業員から処罰者を出した際の影響は中国においても甚
大である。場合によっては処罰の対象が管理者に及ぶことも十分考えられる。そのような
ことを発生させないように、社員一人ひとりに高い倫理観を持たせることが求められてい
る。
企業のなかには、①セールスハンドブックやマニュアルを作成し、コンプライアンスを
重視するという企業の方針を常に伝える、②全従業員に対して書面でコンプライアンスを
守ることを誓約させる、その上で、③賞罰委員会を設け、処罰される場合にもフェアな手
続きで判断する、という体制整備を図っているところもあった。
頻繁に改正される法令などについては、ジェトロなどが实施するセミナーや専門家に確
認するなどして、新しい情報を入手しておくことが必要である。
自社のコンプライアンス対策について、取り組み状況を専門家に説明し、どのような課
題があるのか具体的に指摘を受け、対策整備を行うことが望ましい。一定規模以上の企業
になると、リーガルコストを負担したうえで、弁護士事務所、公認会計士事務所と契約し
対応を相談しているケースもあった。
(1)商業賄賂等
今後、日系企業が中国国内販売に積極的になればなるほど、いわゆる商業賄賂などの問
題が発生するリスクが増加することが想定される。
中国においては刑法規定の贈賄(刑法 164 条規定の会社・企業職員等に対する贈賄罪)
だけでなく、不正な競争行為の禁止を目的とする、不正競争防止法上「事業者は、財産ま
たはその他の手段で賄賂行為を行うことにより商品を販売または購入してはならない。帳
簿に記帳することなくひそかに相手側単位または個人にリベートを贈ることは、贈賄行為
として処分する。相手側単位または個人から、帳簿に記帳することなくひそかにリベート
を受け取ることは、収賄行為として処分する」(同法第8条)「犯罪を構成するときには、
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法に従い刑事責任を追求する。犯罪を構成しないときは、監督検査部門が情状に基づき1
万元以上 20 万元以下の過料を科することができ、違法所得があるときはこれを没収する」
(同法第 22 条)という規定があるため、たとえ受取人が公務員でなくとも処罰される可能
性がある。
そのため、現地法人内部では、講習会などを開き、従業員に対して対応方法や事例を情
報共有するように周知徹底しておくことが有効である。
(2)機密漏洩
機密情報の漏洩については、企業の命取りになりかねないケースもありえるので、機密
情報そのものを厳密に管理することとし、同僚の不正を許さない組織作りを目指すことが
必要である。中国においてもインターネットの普及は著しいものがあり、一度インターネ
ットの掲示板等に機密情報が書き込まれると瞬く間に多くの掲示板に転送され、情報をコ
ントロールすることが難しくなる。
日本においては、性善説を前提に「悪いことをしてはいけない」というように規範を組
み立てて、対象者にその規範を破らないことを期待する。しかし、中国を含む外国にあっ
ては、そもそも「行われて困ることが起こりようもない環境」を創出することが重要とす
る企業の声もあった。
具体的には、漏洩リスクがある情報については、そもそも収集せず当該箇所に保管しな
いようにすることなどを検討するべきとの指摘があった。その点、中国以外にも海外拠点
を複数有するグローバル企業は対策を立てることに経験がある。しかし、初めての海外進
出が中国であるといった中小企業においては、当該コア技術が模倣されれば経営基盤の存
立を脅かしかねないような状況に晒されているにも関わらず、防御対策が遅れていると指
摘する専門家もあり、この点については早急に対策をとる必要があると考える。
企業によっては、「複数ある海外現地法人の中で最も情報漏洩に関する危機意識が高い
(換言すれば危機に晒されている)のは、中国現地法人である」と指摘する声もあり、中
国で培われた機密情報管理の手法は、他の海外現地法人に横展開できるノウハウになると
のコメントもあった。
(中国北アジア課 矢内 雅章)
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10.セキュリティリスクへの対応
中国におけるセキュリティリスクとは、
(1)対日抗議運動(反日デモ、不買運動など)、
(2)新興感染症および災害発生(SARS、鳥インフルエンザ、大地震など)、(3)駐在
員の健康状態悪化(脳・心疾患、鬱病など)、(4)情報セキュリティ問題(不正アクセ
ス、情報漏えいなど)、(5)治安悪化(黒社会、誘拐、盗難など)などがあげられる。
1.対日抗議運動(反日デモ、不買運動など)
対日抗議運動は、歴史認識問題や領土問題など、政治外交問題によって誘発されやすい
ため、企業側が発生要因をコントロールすることは難しい。ただし、対日抗議運動発生時
の自社への影響を最小限に抑える試みは可能であるとの見方がある。方法としては①内外
のリレーション強化、②日頃からの社会貢献活動などを通じた地域住民や地元政府からの
信頼醸成である。
(1)内外のリレーション強化
対日抗議運動が起こった際に、企業にとって大きな守りとなるのが日頃からの「人」と
のリレーションである。まずは社内のリレーション強化である。従業員と日ごろからコミ
ュニケーションを図り、信頼関係を構築しておくことで、対日抗議運動が起こった際に、
社内でのストライキ誘発を防ぐことができる。そして、社外とのリレーション強化につい
ては、地域社会や地元政府との良好な関係の構築が重要である。
(2)社会貢献活動などを通じた地域社会からの信頼醸成
地域社会や地元政府との良好な関係を構築する手段の一つとして社会貢献活動などの
PR 活動がある。实際に、対日抗議運動の影響軽減の対策として、社会貢献活動などの取組
みの重要さを認識している日系企業は尐なくない。社会貢献活動を PR 活動としてうまく結
び付けている企業の中には、四川大地震の募金活動の实施について効果的に PR し、中国メ
ディアに取り上げてもらうなどの例もあった。同社によると、PR の際に大切なのは「中国
社会において、中国社会のために、中国社会と共に活動している企業である」ということ
が伝わるメッセージを作ることであるという。
社会貢献活動として中国で CSR 活動を行っている日本企業は多い。国際交流基金が 09
年9~11 月に实施した「中国における日系企業の社会貢献活動に関する調査報告書第3回
調査」によると、中国において「社会貢献活動を实施している」と回答した日系企業は 55%
(215 社)と過半数に及んだ。しかし、社会貢献活動を PR 活動に結び付けている企業は尐
数派であり、欧米企業に比べて日本企業の活動は目立たないという問題点が指摘されてい
る。一般的に、日本企業は社会貢献活動と PR 活動とを切り離して捉える傾向があり、社会
貢献活動を行っていることについて大きく宠伝する企業は尐ない。また「良いことは黙っ
て行うを是とする」日本的な企業風土を変えることに抵抗があることも一因とみられる。
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こうした中で大規模な予算を投じて長期的な PR 活動を行う企業は尐ない。
他方、欧米企業は社会貢献活動を1つの PR 戦略として捉える傾向が強いため、大規模な
予算を投じて派手に広告を行う場合が多い。結果的に、社会貢献活動の分野で日本企業の
存在感は薄く、あたかも欧米企業に比較して中国への貢献度が低いといった印象を抱かせ、
セキュリティリスクを増大させてしまうことになる。日本企業は戦略的観点から社会貢献
活動をうまく PR していくことが求められている。
(図表4)中国における日系企業の社会貢献活動の実施状況
45%
55%
している'215社(
していない'173社(
(出所)国際交流基金「中国における日系企業の社会貢献活動に関する調査報告書第3回
調査」
2.新興感染症および災害の発生
(1)安全管理面、事業面の対策が必要
SARS や新型インフルエンザといった新興感染症の発生もセキュリティリスクの1つで
ある。
こうした感染症が発生した場合、最大のリスクは自社の生産拠点で従業員に感染者が発
生し、操業停止に追い込まれることである。これに次ぐのが自社の取引先で感染者が発生
し、自社製品の生産に必要な部品・原材料が調達できない、もしくは自社製品が納入でき
ないといった事態が生じるリスクである。前者のリスクに対応するのが安全管理面、後者
のリスクに対応するのが事業面での対策である。
安全管理面では、従業員の安全確保が事業上の最大リスクである操業停止を回避する対
策と言える。対策は以下の6つに集約できる。
①対策本部の設置、マニュアル・対策管理規定の作成、テレビ会議といった通信手段の
強化などによる社内体制の整備
②マスク着用、検温、手洗い、うがい励行など従業員の健康管理
③時差出勤、シフト制の導入などの勤務体制管理
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④出張の禁止・制限、従業員の外出禁止・制限といった行動管理
⑤社内・工場の消毒实施などの衛生管理
⑥外来者の検温・マスク着用の義務付け、外来者の制限など来訪者管理
こうした対策を徹底していけば自社工場内での感染者の発生リスクはかなり抑えること
が可能である。ただ、感染は自宅でも通勤途中でも起こり得る。そういう意味で、何より
も重要なことは、従業員やその家族に対する感染症教育、タイムリーな正しい情報提供だ
と思われる。感染症教育については、今回ヒアリングを行ったある企業からも「対応マニ
ュアルを作っても、現地の従業員まで下ろすところで苦労している。中国では、手洗い・
うがいの習慣がなく、衛生面の教育がしっかりしていないので、病気の知識から教えない
といけない」との声があった。マニュアルの作成にとどまらず、マニュアルを形骸化させ
ない現場での地道な教育が必要不可欠である。
事業面での対策としては、自社製品の生産に必要な部品・原材料が調達できないリスク
を回避するために、事前に部品・在庫の積み増しをしておくことが有効である。
感染症発生に加え、大地震などの災害発生時の対応策も必要である。感染症発生時の対
策として前述した「対策本部の設置、マニュアル・対策管理規定の作成、テレビ会議とい
った通信手段の強化などによる社内体制の整備」や「事前の部品・在庫の積み増し」に加
え、避難経路の周知徹底や従業員の安否確認方法の確立なども必要である。
(2)事業継続性プラン(BCP)の策定
また、こうした感染症や災害発生時に企業存続の生命線である「事業継続」を目的とし
た行動計画として「事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)
」11を整備する企業
も尐なくない。またBCPの運用、見直しまでのマネジメントシステムである「事業継続管
理(BCM:Business Continuity Management)」を構築することも望まれる。
3.駐在員の安全管理
(1)日常の健康管理へのサポートとメンタルケア
最も身近なリスクであるが、疎かにされがちなのが駐在員の健康管理である。「多くの
日本人が中国に行くようになるにつれて、駐在員の生活環境、健康管理を軽く考えて中国
に進出する企業が増えている」と指摘する声もある。
中国での日本人の死因で最も多いのは、日本と同じく心疾患と脳血管疾患である。これ
BCP・BCM には様々な定義が唱えられているが、英国規格協会(BSI)3が策定した PAS56「事業継
続管理のための指針(Guide to Business Continuity Management)
」では以下の様に記述されている。
11
BCP:潜在的損失によるインパクトの認識を行い实行可能な継続戦略の策定と实施、事故発生時の事業継
続を確实にする継続計画。事故発生時に備えて開発、編成、維持されている手順及び情報を文書化した事
業継続の成果物。
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らは生活習慣病と関わりが深く、日常の健康管理で防ぐことがある程度可能と言われてい
る。新興感染症など発生予測が難しいリスクに備えることも大切だが、こうした身近なリ
スクから対策をとっていくことも重要である。
また、身体的な健康問題のほか、うつ病など精神疾患も増加している。中国での生活環
境やビジネス習慣の違いが駐在員のストレスとなる場合も多い。また、労働争議などのト
ラブル処理に追われるような場合には精神的に特に大きな負荷がかかっている可能性があ
る。加えて、最近では沿岸部に比べてさらに精神科医が尐ない内陸部に進出する企業も増
えていることもあり、今後は社員のカウンセリング体制の整備が企業の対応として求めら
れる。
4.情報セキュリティ問題(不正アクセス、情報漏えいなど)
インターネットを経由した不正アクセス、顧実・社内情報の漏洩などの情報セキュリテ
ィ問題もセキュリティリスクの1つといえる。反日デモが起こった05年には、自社のウェ
ブサイトがハッキングされ数日間閉鎖を余儀なくされた企業もあるなど、日本企業は対日
抗議運動の二次的影響としての情報セキュリティリスクも念頭に置かねばならない。
対策としては、セキュリティソフト導入などの一般的なセキュリティ対策のほか、社内
のコンプライアンス遵守の徹底など地道な取組みも必要である。しかし、コンプライアン
スの管理においては、民族性や商習慣などの違いから適した管理方法は国ごとに異なるた
め一元管理は難しいとの声がある。各拠点・国ごとに管理方法を策定し事例を情報共有、
共有した内容をもとに英語版や中国版のハンドブックを作成している取り組みもみられた。
また、なかには中国の拠点で情報管理に関するISOを取得している企業もある。同社は「中
国で情報漏えいは、企業の命取りになりかねない地雷のようなもの。ISO取得はコストが掛
かるが、1つのリスクヘッジである」と語る。
5.治安悪化
中国は比較的治安のよい国といわれており、駐在員が誘拐されたり殺害されるといった
ケースは尐ない。ただし、08年3月にチベット自治区ラサ市で独立を求めるデモをきっか
けとして暴動が発生。09年7月には新疆ウイグル自治区ウルムチ市で大規模な暴動が発生
するなど、一部の地域で突発的に治安が悪化することがあり、こういったリスクについて
は十分考慮しておく必要がある。
(中国北アジア課 小林 伶)
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11.マスコミ対策
マスコミ対策も求められるリスクマネジメントの1つである。中国のマスコミにおける
リスクとして、報道されてしまうと他の新聞やネットに転載が広がることが挙げられる。
なかでも、特に社名とブランドが一緒になっているような企業は、それが誤報であったと
しても製品(ブランド)に何らかの負のイメージがついてしまうことになりかねない。
また、反日感情を背景に、日本企業はマスコミのターゲットになりやすいという側面も
意識せねばならない。
さらに、1年のうちに企業が最も警戒を強める日がある。3月 15 日の「消費者国際消費
者権益保護デー」である。もともとは消費者が偽物商品を買わされたりや悪質なサービス
を受けたりしないよう啓蒙する日であるが、
「实際には『メーカー叩きの日』となっており、
特に外資叩きの傾向がある」と指摘する声もある。
1.マスコミとのコミュニケーション強化
こうして、一旦記事が世に出てしまうと企業にとって命取りになりかねない中、いかに
誤報や悪質な記事が出ないようにするかが第一段階のメディア対策となる。それには、マ
スコミとのコミュニケーション、日頃からの消費者への PR が必要不可欠である。
マスコミとは常日頃からコミュニケーションをとっていくことが重要であり、何もしな
いことはリスクを増大させかねない。具体的には、イベント開催時に招待するほか、年末
や春節などの機会に懇親会を開催するなど日頃からの交流を深める心がけが必要である。
また、地方のマスコミとの関係構築も忘れてはならない。広報資料を定期的に送付した
り、地方への出張の際に現地マスコミや地方政府の担当者と交流を持っておくことが望ま
しい。
また、中国では記者発表会に参加した記者に対して原稿料や車代を渡す商習慣があると
指摘する声もあり、慣習上、日本でのマスコミとの付き合い方とは異なる面が存在する点
にも留意する必要がある。
マスコミとの関係構築のほか、日頃の PR 活動などを通じて、消費者から信頼を得ておく
ことも重要である。
続いて必要となるのは、記事が出そうな時の対策である。ある企業関係者によると、記
事が出る際には何らかの予兆があることが多いという。そしてその予兆があった際には、
①事实確認をきちんとする、②記事のマイナスポイントを把握する、③前提としてメディ
アとのつながりを予め持っておく、④メディアを所管する新聞出版総署など関係先とも連
携し、状況を把握した上で対策をとる、といった対応が重要と指摘する。とにかく予兆を
いかに察知するかという点と、①~③までの準備がポイントであるという。
さらに、誤報が出てしまった際には、まずはそれが事实誤認によるものなのか、記者の
解釈や意見によるものなのかを区別してから対応していくことが求められる。そして事实
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誤認があれば、きちんと指摘することが肝要である。
また、誤報を指摘する際には、相手の反発を招き、関係をこじらせないように留意する
必要がある。抗議の結果、更なる批判的な記事を書かれてしまう事態にもなりかねないか
らだ。ある企業では、専門のリスクマネジメント会社と契約し、問題が起こった際には対
処方法を検討してもらっているほか、中国国内の全てのメディア(テレビ、ラジオ、新聞、
インターネットなど)について、自社の記事がないかウォッチしてもらっているという。
中国で誤報が多い一因には、複数のソースを取材して「裏を取る」という習慣が十分定
着していないことがあると見る向きもある。ただし、中国人記者にとって、日本企業への
取材は、コンタクト先がわかりづらいなど敶居が高く感じられてしまう場合があるという
点も着目すべきである。逆に言えば、日頃から関係を構築しておくことで、記者にとって
も取材依頼をしやすくなる。きちんと取材をしてもらえることで、結果的に誤報を招くリ
スクの軽減にもつながるといえる。
2.転載の利用
新聞やネット記事に転載が広がる点はリスクではあるが、逆にこうした特徴を利用して、
ポジティブな情報を出していくなどの対策を講じている企業もある。
また、転載先のポータルサイトなどの記事は、中国の为要な通信社、新聞、雑誌などに
掲載された記事が使われる場合が多い。そのため、まずはこうした中国の为要な通信社、
新聞、雑誌などのメディアに良い記事を掲載してもらうように働きかけていくことも重要
である。
(中国北アジア課 小林 伶)
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12.撤退戦略
ジェトロがアジア・オセアニアの 18 カ国・地域に進出した日系企業を対象に 2010 年8
~9月に实施した「在アジア・オセアニア日系企業活動实態調査(2010 年)
」によると、今
後1~2年の事業展開の方向性について、「拡大」すると回答した中国進出企業の割合は、
65.2%であり、全体では 62.0%であることと比較すると、相対的に「拡大」志向が強い。
他方、
「縮小」もしくは「第3国へ撤退・移転」と回答した中国進出企業ではわずか 3.4%
にすぎない。
(図表5)今後1~2年の事業展開の方向性(国・地域別)
総数(n=3,448)
カンボジア(n=12)
インド(n=201)
バングラデシュ(n=16)
ベトナム(n=143)
インドネシア(n=130)
タイ(n=824)
中国(n=795)
国(n=85)
オーストラリア(n=170)
シンガポール(n=238)
ニュージーランド(n=92)
マレーシア(n=334)
パキスタン(n=12)
スリランカ(n=23)
台 (n=122)
(n=85)
フィリピン(n=145)
ミャンマー(n=21)
62.0
35.3
91.7
86.6
81.3
70.6
67.7
65.9
65.2
60.0
58.8
58.4
52.2
50.3
50.0
47.8
47.5
44.7
43.5
42.9
拡大
現状維持
縮小
2.1
0.6
8.3
12.4
18.8
28.0
30.8
33.0
31.5
38.8
37.7
36.6
46.7
46.7
41.7
43.5
48.4
49.4
53.1
52.4
第3国(地域)へ移転・撤退
(出所)ジェトロ「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査」(2010 年)
「縮小」もしくは「第3国へ撤退・移転」する理由について、アジア・オセアニアの 18
カ国・地域の回答(複数回答)を見ると、
「売上の減尐」
(59.8%)
、
「コストの増加(調達コ
ストや人件費など)
」
(45.7%)が上位項目となっている。
他方、中国進出日系企業が事業縮小もしくは移転・撤退する理由は、「コストの増加(調
達コストや人件費など)」をあげる企業が 70.4%で最大となる。一方、ASEAN では、「売
上の減尐」が 73.8%と高く、中国と ASEAN で回答傾向に差が見られる。また、中国では
「規制の強化」を挙げた企業の割合が 29.6%と ASEAN に比較して相対的に高い。
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0.5
0.5
0.7
0.7
0.8
0.8
1.1
2.1
1.3
1.2
3.5
4.2 0.8
1.1
2.7
0.3
8.3
8.7
3.3
0.8
4.7 1.2
2.8
0.7
4.8
(図表6)事業縮小もしくは移転・撤退の理由(複数回答)
売上の減尐
59.8
コストの増加
'調達コストや人件費など(
45.7
本社のリストラ策の一環
22.8
規制の強化
13.0
取引先との関係
10.9
FTA/EPAの進展による
生産・販売ネットワーク見直し
6.5
その他
20.7
10年度調査 総数(n=92)
(出所)在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2010 年)
(図表7)中国、ASEAN で傾向に差が見られた回答
売上の減尐
0
中国:n=27
10
20
ASEAN:n=42
30
40
50
中国
60
(%)
80
70
33.3
ASEAN
73.8
コストの増加(調達コストや人件費など)
0
10
20
30
40
50
60
(%)
80
70
中国
70.4
ASEAN
35.7
規制の強化
0
10
中国
ASEAN
20
30
40
50
60
70
29.6
7.1
(出所)在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2010 年)
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(%)
80
「コストの増加(調達コストや人件費など)」という撤退理由が最大となっていることを
見た場合、進出前の慎重なフィージビリティスタディ(事業化調査)の重要性を強調した
い。企業の担当部署では、決裁に向けて進出計画を立案する際、最初から撤退戦略シナリ
オを織り込むことについては、意思決定の際に弱気の事業計画と取られかねないため避け
られることが多い。この点、欧米系企業は「設備投資の段階でたとえ失敗しても、100 の投
資を 60 でローカルに売却することで損失を最小限に抑える」といった戦略オプションを有
しているところもあるとの指摘もあった。
日本以上に変化の激しい中国の事業環境をフィージビリティスタディに織り込むことは
難しいが、コスト上昇や競争激化による価格競争などについて、進出後の一定年経過後に、
どのレベルまでは許容でき、損益分岐点はどこにあるのかといったことを事前に把握して
おくことが必要である。あらかじめ計画をたて何年後にはどの程度の売上と利益を達成し
ているかを設定しておき、その際の経営判断について予め選択肢を準備しておくことは重
要である。そうすることで、いつかは黒字転換するだろうという期待のまま事業を継続し、
損失が拡大するリスクを低下させることができる。この点、中小企業にあっては、損失を
見切って迅速に撤退の決断を下す傾向にあるとの専門家の意見があった。
中国への進出手続きは比較的容易であるが、撤退には時間を要する。具体的には撤退に
際して、董事会で全員の同意が必要であること、税務当局が国税の未納部分がないか時間
をかけて調査し、それが終了するまで清算が認められないといったことがある。撤退手段
の比較は図表8の通りで、手続きの迅速性から見た場合、持分を譲渡することが望ましい
が、希望売却額で譲受希望者を見つけることには困難が伴う点は否定できない。
(図表8)撤退手段の比較
持分譲渡
解散・清算
破産
投下資本の
譲り受けを希望するも
資産を換金できずに残
回収不可能な場合が多
回収可能性
のがいる場合には、回収
余財産の分配が尐なく
い
可能
なることが多い
中国側当事者の同意、董
董事会の全員の一致、審
債務超過、董事会の全員
事会の全員一致決議、審
査認可機関の認可
の一致
一般的に数カ月から1
同左
要件
査認可機関の認可
時間
要件を満たせば早い
年以上
効果
法人格は存続。外商投資
法人格が消滅。関税や所
企業である限り、関税や
得税の追納が必要。従業
所得税の追納は不要。従
員の所得補償が必要。
業員の所得補償は不要。
(出所)ジェトロ「中国ビジネス法必携 2009」
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同左
撤退時に時間を要し、資金が活用できないというリスクに対応して、企業によっては、
「当
初から撤退することを想定に入れて、土地や建物を賃貸することで設備投資額を押さえ、
いざ撤退というときに償却せねばならない額を小さくしておく」といったものや「設計、
知的財産、マーケティングは自社で行い、それ以外の部分はできるかぎりアウトソーシン
グしながら進出する」という声もあった。
(中国北アジア課 矢内 雅章)
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13.日本企業のリスクマネジメント事例
(事例1)キリンホールディングス
キリングループでは、リスクを未然に防止することが重要であると考え、リスクマネジ
メントを推進している。純粋持株会社制の導入に併せて、
「グループリスク管理委員会」を
設置し、グループリスク管理規定に基づいたリスクマネジメントを实行している。
海外も含めた連結会社に導入しており、
「PDCA サイクルに落とし込んだリスク管理指
標」を作成している。個別にリスクマネジメント
(図表9)キリンホールディングスの
リスクマネジメントの推進体制
を行うのではなく、事業運営上の企画・目標設
定・チェック等のサイクルごと、四半期ごとにモ
ニタリングシステムに指標を入力し、その結果に
よりもたらされるリスク項目を確認できるよう
にした上で、成果・業績とリンクできるようにし
ている。
日本で实施しているこのリスクマネジメント
については、海外とは運用形式が一部違っていた
が、2011 年から中国については日本と同じ形式
で实施している。
報告体制としては、海外現地各社から随時最新
(出所)キリンホールディングスホームページ
の現地情報が本社に報告されてくるようになっ
ている。問題発生時等には報告を受けて本社から対策を指示している。また、コンプライ
アンス関連の要求が厳しくなっている情勢を受け、管理を徹底している。
中国において、グローバルコンパクトや日本経団連企業行動憲章に基づいて、賄賂と認識さ
れる土産物の提供も禁じている。
加えて、情報セキュリティ面での海外における管理も強化している。従来からキリング
ループ全体の情報セキュリティに関する基本的な考え方、対策、管理方法などを定めた「キ
リングループ情報セキュリティ規定」を制定しているが、情報セキュリティに関する国際
標準規格 ISO/IEC27001:2005(日本国内では JISQ27001:2006)に準拠する形で、10
年1月に同規定を改定するのと同時に、海外グループ会社向けの「情報セキュリティガイ
ドライン」を策定し、海外グループ各社では、このガイドラインを雛型にした「情報セキ
ュリティルール」の策定を進めている。
(中国北アジア課 宗金 建志)
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(事例2)資生堂
資生堂では、事業継続計画(BCP)の一環としてリスクマネジメントに先進的に取り組
んでいる。企業活動に関わるあらゆるリスクとコンプライアンスを全社的に統括する「コ
ンプライアンス委員会」を設置し、リスクを未然に防ぐための諸施策を推進。万一、リス
クが発生した場合は、リスク事案の重大性によって「対策本部」「対策プロジェクト」「対
策チーム」といったレベル別組織で対応する体制としている。
また、発生したリスクへの対応だけでなく、予防の観点から潜在するリスクを可視化す
るためにリスクマップを作成。
「コーポレートガバナンス」「人権」「労働慣行」など8領域
から企業が抱えるリスクを洗い出し、「企業経営に与える影響の大きさ」「社会的な注目度
の高さ」の2軸でリスクをマッピングしている。マッピングされたリスクそれぞれについ
ては、現状で対応できているのか、いないのかを精査するとともに、対応できていない、
あるいは対応し続けなければならないリスクに対して、担当する部門がそれぞれアクショ
ンプランを作成し、PDCA〔計画(Plan)
、实行(Do)、検証(Check)、改善(Action)〕
を回す体制としている。
中国でのリスクマネジメントのため、総合リスク委員会傘下に「中国総合リスク対策委
員会」が設けられている。上海で6年間総経理を経験した本社役員(中国事業部長)が中
国総合リスク対策委員長となっており、緊急時でも中国の現地事情を踏まえた判断が下し
やすい体制をとっている。中国の各現地法人は、中国総合リスク対策委員会の傘下にあり、
本社から中国現地までの連絡指揮系統ができている。自然災害や新型インフルエンザなど
のリスク発生に備えた BCP の整備は完了済みである。
マニュアルを策定して中国の現地法人に配布し、予行演習(例:自然災害が発生したと
きの各都市での対応)も行っている。08 年の四川大地震発生時には、中国で働く従業員1
万 4,000 人の安否を半日で確認した实績がある。
さらに、化粧品は肌につけるものなので模倣品対策が重要である。中国では、見た目は
そっくりでも中身はひどい模倣品が出回っている。模倣品はブランドへのダメージが大き
いため、公安とも協力して年間 200~300 件の工場、販売倉庫、店舗を摘発し徹底的に対策
をとっている。
(中国北アジア課 日向 裕弥)
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(事例3)TOTO
TOTO のリスクマネジメントは、企業の社会的責任を果たし社会的信用を確保するため、
①経営方針の实現を阻害する全ての要因を限りなく排除すること、②事態発生に際しては
さまざまなステークホルダーへの影響を極力小さくするよう最大限の努力を行い、再発防
止策を適切に構築し、関係者の信頼回復に努めることを基本方針としている。
推進体制としては、社長を委員長とし、重大リスクを担当する執行役員・部門長などで
構成される「リスク管理委員会」を設置しており、任命された「リスク管理統括部門長」
はリスクマネジメント規定に基づき、各種委員会や会議などを通じて、全部門ならびにグ
ループ会社と連携して、リスクの未然防止活動とリスク対応力の向上に努めている。
(図表 10)TOTO のリスクマネジメント推進体制
取締役会
全部門
リスク管理委員会
リスク管理統括部門
各種委員会・会議等
グループ会社
委 員 長:社長
副委員長:副社長・総務部担当役員
委
員:リスク管理統括部門長
(出所)TOTO 資料
危機発生時の体制や対応は、「リスクマネジメント規定」で定義しているほか、グループ
統一の「危機緊急連絡窓口」も設置。グループ全員に携帯用「緊急時連絡カード」を配り、
危機発生事象の一次報告を 24 時間 365 日体制で受け付け、一元管理している。緊急連絡は
リスク管理統括部門へ速やかに報告され、関連部門を招集して、危機の早期解決と損害の
最小化を図っている。
中国では、未然防止を鉄則としつつも、コントロールできないリスクもあり、問題が発
生した時に、いかにアクション(対処)を速やかに、かつ適正にとれるかがカギとなるた
め、未然防止とアクション(対処)の2つをセットで対応している。加えて、シミュレー
ションも織り交ぜながら、事業継続計画(BCP)の策定にも取り組んでいる。
また、リスク対策マニュアルをつくっても、それが实際に運用できなければ意味がない
ので、リスクアセスメントを常時行っている。具体的には、重大なリスクとそうでないリ
スクを分け、重大なリスクの中でも発生頻度が高く、かつそのインパクトが大きなリスク
から優先的に対処している。
なお、中国国内の事業拠点が多いため、リスク管理は基本的には拠点ごとに行っている
が、情報を一体化して共有する機会も必要であり、日本の本部が各拠点を巡回し、リスク
シミュレーション検討会を年に1~2回实施している。
(中国北アジア課長 真家 陽一)
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(事例4)日本精工(NSK)
NSK はグローバルに広がる事業運営上のリスクをマネジメントする上で、リスクの洗い
出し、影響度の評価、予防と対策を講じることが経営上極めて重要との認識を示している。
同社はグループ全体のリスクに対する行動原則を「リスク管理規則」として定め、対応を
図っている。具体的には、リスクを分類・整理し、責任部署を定め、リスクの予防や発生
した場合の対策の統括を行うとともに、それらのリスクについて「経営モニタリング审」
が全世界から毎月リスク情報を収集し、重要リスクの識別・評価と日常のモニタリングを
行っている。また、毎年すべての法人・事業所と共同でリスク棚卸しを行い、全社のリス
クヒートマップを作成し、リスクとその対応について認識の共有を図るとともに、リスク
の大きさに応じ内部監査を行っている。
また、
「危機管理委員会」では、大規模災害や環境汚染事故、広域感染症などのリスクに
対し、予防保全策を講じるとともに、危機発生時には的確な対応と指示を行っているほか、
危機発生の未然防止や発生時の対応の指針となる「危機管理マニュアル」も制定している。
この他、事業継続計画(BCP)の策定も危機管理委員会を中心に推進している。
(図表 11)NSK のリスク管理体制
リスク管理全体統括
コーポレート経営本部
製品の開発・製造・販売などで発生する事業リスク
経営企画本部
地震・災害・伝染病などで発生するハザードリスク
危機管理委員会
法令・条約・基準などへの違反に係るコンプライアンスリスク
財務諸表の信頼性に係るリスク'J-SOX法に係るリスク(
コンプライアンス本部
財務本部・経営モニタリング室
(出所)NSK 資料
中国でのリスクマネジメントにおいては現地化も欠かせない。NSK は要所に信頼できる
中国人幹部を配置しており、長年勤務し、ロイヤルティを持った人材が各拠点にいること
は同社にとって大きな財産となっている。現在、生産・販売・技術で延べ 27 拠点、現地採
用人材は 5,000 名を超えている。
中国では、法制度の変更、金融・為替問題、労働争議、沿岸地域での電力供給制限など
想定外のリスクが発生することも尐なくないが、こうした問題については、基本的には現
地で対応した上で、本部に報告することになっている。加えて、情報セキュリティについ
ても、中国も含めてグローバルに維持・管理できる体制の構築を推進している。
(中国北アジア課長 真家 陽一)
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Ⅲ.戦略的ビジネスアライアンスの展開
1.基本戦略
(1)ビジネスアライアンスを通じた戦略的な事業展開を検討
対中ビジネス成功のためには、他企業とのビジネスアライアンスも重要な戦略の1つと
なる。アライアンスとは本来、同盟あるいは連合を意味するが、経営上では企業間の連携
等を指す。形態は資本関係の有無により区分され、一般的には資本関係を伴うものが「強
いアライアンス」、伴わないものが「弱いアライアンス」と呼ばれる。強いアライアンス
としては、M&A(企業の合併・買収)、資本提携、合弁企業の設立などが挙げられる。他
方、弱いアライアンスとしては、販売提携、生産提携、技術提携などがある。
日本企業の中国進出形態は、意思決定の自由度や出資比率規制の緩和などから、近年は
独資を選択する企業が増加傾向にあった。しかし、最近では有力地場企業などとビジネス
アライアンスを締結し、ウィン・ウィンの関係を構築しつつ、事業拡大を図るケースが増
えている。
この背景には、市場が急速に拡大し、競争が激化する中国で、他の外資系企業や中国地
場企業との競争に勝ち抜くためにスピーディーな事業展開が求められていることがある。
このため、日本企業の中には、他社の生産・販売ネットワークや資金および人材、あるい
は技術・特許などの経営資源を有効に活用しながら、ビジネス拡大を狙うところが増加傾
向にある。効果的なアライアンスが組めれば、相手の強みを活用しつつ、自社の弱みを補
完することが可能となり、競争力とリスクマネジメントの双方の強化をサポートする戦略
的ツールとなり得る。日本企業としては、中国でのビジネス展開において、ビジネスアラ
イアンスを戦略的な観点から活用していくことも検討すべきであろう。
(2)ビジネスアライアンス相手の選定とそのメリット
ビジネスアライアンスの提携先としては、日本企業、中国企業、NIES 企業が挙げられる。
日本企業の間では、コンソーシアムを組み、日本の優れた製品や技術を売り込もうという
取り組みがある。大規模な事業も、複数の企業で臨めば投資資金の分担により負担の軽減
も可能だ。
また、中国企業とのアライアンスでは、生産コスト削減や販売ネットワークの拡大とい
うメリットがある。中でも、市場開拓に向けて中国企業の持つ販売ネットワークに着目す
る企業が増えている。中国市場の開拓においてカギとなる販路を自前で構築していくには
相当なコストと時間がかかる点を勘案すると、いかに有力な中国企業とアライアンスを組
むかが重要になっているためだ。ジェトロが 2010 年8~9月に实施した「在アジア・オセ
アニア日系企業活動实態調査」において、中国市場向けに中・低価格帯の製品・サービス
を販売する際の最大の競合相手を聞いたところ、中国企業が 68.8%と圧倒的に多かった。
他方では、こうした中国企業の販売ネットワークの取り込みを模索する動きも出ている。
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加えて、中国企業とアライアンスを組み、第3国・地域でのプロジェクトに共同参画する
動きも出始めている。
この他、アジア NIES を構成する韓国、台湾、香港、シンガポールの企業とのアライア
ンスも注目される分野だ。これらの国・地域の企業は、元来域内市場が小さかったことか
ら、早くから海外ビジネスに注力しており、今後の事業展開に向けた「先行事例」として
参考になるところも尐なくない。台湾、香港の企業と組むことは、華人ネットワークや中
国との言語・文化の類似性という強みを取り込むという点で効果的だ。中国でのビジネス
に積極的なシンガポールや韓国の企業とのアライアンスを結ぶ企業もある。
(3)ビジネスアライアンスを成功させるには
今回のヒアリング調査でビジネスアライアンスに対する取り組みについて聞いたところ、
賛否両論であり、
「アライアンス相手との間で経営に対する考え方や企業文化が異なると成
功は難しい」など、ネガティブな見方も尐なくなかった。ある日本企業は「販路の活用な
ど中国企業と組むメリットは認めるが、パートナーとの協調・調整が難しい」とデメリッ
トも強調する。むしろ「成功しているケースの方が尐ないのでは」と見る向きもある。他
社とのアライアンスを組まないとの意見を持つ企業からは「意思決定を縛られたくない」
「自社のブランディングのためには独資がよい」とのコメントもあった。
とりわけ、留意しなければいけないのは、本当のビジネスはアライアンスの締結後に始
まるということである。アライアンスの成立自体を「目標化」してしまうことは、実観的
な判断が難しくなるので回避していくことが必要だ。
ビジネスアライアンスを成功させるには、相互に補完できる点を認識・確認し合うこと
が重要である。
そのためには厳密な SWOT(Strength, Weakness, Opportunities & Threats)
分析が欠かせない。自社と提携相手の強みと弱み、機会と脅威を知り、ウィン・ウィンの
関係を強化することで、アライアンスの効果が発揮できる。
そして、何よりも大事なのは信頼できるパートナーと組むことであり、その見極めを慎
重に行うことが必要である。長い間の取引实績やトップ同士の信頼が、双方企業の信頼関
係構築につながる。ヒアリングからも「信頼関係があって初めて有効なアライアンスが締
結できる」との意見は多く聞かれた。加えて、事業の継続性を維持していくには、そのパ
ートナーと信頼関係を長期間にわたって構築していく努力も求められる。
(中国北アジア課 松尾 修二)
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2.日本企業によるコンソーシアムの事例
本報告書では、①中小の自動車部品メーカー12 社が共同出資により設立した「衆智達汽
車部件(常州)有限公司」
、②ソフトウェアのパッケージ製品を中心に事業展開する企業が
結集し、中国市場開拓を推進している「メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア・コンソ
ーシアム」
(MIJS、11 年3月現在、正会員 21 社、準会員 33 社)
、③省エネ製品を持つ日
本の電気機器メーカーや省エネコンサルティング企業 10 社により発足したコンソーシアム
で、オールジャパンの技術を結集しつつ、中国市場参入を図っている「グリーン・グルー
プ・メンバーズ(GGM)
」を具体的な事例として紹介する。
(事例1)衆智達汽車部件(常州)有限公司
中国経済の高成長を背景として、中国市場での売り上げ拡大を目指す日本企業の対中進
出が相次ぐ中、为に大企業に対し部品等を供給する役回りを担ってきた中小企業において
も、引き続き日本のみで生産活動を継続するのか、中国の現地生産を開始するのかを判断
する大きな分岐点に差し掛かっている。
完成品等を生産する大企業は、中国市場における競争激化の中でコスト削減の取り組み
を強化すべく、地場系部品メーカーからの部品調達に向けた動きを活発化させている。こ
うした動きを踏まえると、中長期的には、これら大企業の日本からの部品調達は減尐して
いき、さらに将来的には地場系部品メーカーの製品が日本に輸出される可能性もある。
その一方、中小企業が1社単独で中国に進出するには、①資金面の不足、②中国進出や
現地での会社運営における知識・ノウハウの不足、③人材の不足など、乗り越えなければ
ならないハードルは低くない。こうした課題を解決する1つの選択肢として、中小企業同
士がコンソーシアムを組んで、共同で中国に進出する方法が考えられる。
08 年4月に江蘇省常州市に設立された「衆智達汽車部件(常州)有限公司」
(以下、衆智
達)は、大手自動車部品メーカーのサプ
ライヤー12 社が共同出資により設立し
た企業である。出資企業の規模は、いず
れも従業員数 50~200 人程度の愛知県に
本社のある中小企業である12。事業内容
は、自動車用プレス、切削、冷間鍛造、
ダイカスト、表面処理部品の製造ならび
に組み付けであり、各出資企業が製造す
る部品ごとに製造部門をグループ分けし
ている。生産した製品の多くは、大手部
品メーカーの現地拠点に納入している。
12
<写真:衆智達汽車部件(常州)有限公司>
現在は、出資企業が1社増え、合計 13 社となっている。
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同社の設立に共同参加した 12 社は、早くから自動車部品産業は日本だけでは生き残って
いけないと感じ、05 年から「海外進出研究会」を組織、進出に向けた計画を立案してきた。
部品納入先企業において、部品の調達を現地調達に切り替える動きが進んでいたことも計
画の具体化を後押しした。
衆智達の関係者によれば、中小企業が共同で中国に進出するケースと、中小企業が1社
で進出する場合の違いについて、(1)中小企業では1人の社長の考え方がすべてで、中国
モードになれないケースも出てくるが、共同で中国に出ることでそうした問題が解消され
ること、
(2)1人の社長による独裁体制にはならないこと、(3)各社で相互牽制が図れ
ること、
(4)共通の顧実がいることでコンセプトが統一できることなどのメリットを指摘
する。一方で、現地での会社運営にあたっては、董事長以下の幹部が出資先企業の社長で
構成されており、偏りのない経営ができる反面、現場を統括するトップが明確に位置づけ
られていなかったことが問題となっていた。このため、同社は、現地での会社实務を担う
人材として、中国企業での勤務経験もあり、中国の事情に明るい日本人を常駐の副総経理
として迎え、財務、管理、品質管理の各部門長を兼務してもらっている。なお、日本側の
役割は、顧実対応、商品開発、連絡調整に限定、会社運営は基本的に現地側に任せている。
また、同社は、共同出資企業同士の取り決めで5年間は無配当を約束。現地での事業が
軌道に乗るまでは短期的な収益を追求しない姿勢を各社で確認している。さらに、今後の
事業拡大に向けた衆智達の追加投資や設備の導入に関わる資金面の手当については、日本
側の資金保証で対応する方針である。
部品納入先企業の現地調達に向けた動きが活発化する中、同社では「今後もこうした動
きに対応して動いていかなければならない」と認識、現地でのさらなる生産拡大を図り、
将来的には日系企業以外にも販路を拡大していく方針だ。
衆智達によれば、
「中小企業が共同で中国に会社を設立した例はそれほど多くない。特に
同社のように異業種の企業で集まって会社を設立した事例は聞いたことがない」という。
しかし、今後中小企業が限られた経営資源の中で、中国での売り上げ拡大に向けて体制を
強化していくには、企業がそれぞれの利害を超えて共同出資した形で現地事業を展開する
ことも有力な選択肢の1つとなろう。そういう意味で衆智達のビジネスモデルは、中小企
業の今後の中国での事業展開に向けて重要な示唆を提供していると考えられる。
(中国北アジア課 中井 邦尚)
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(事例2)メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア・コンソーシアム(MIJS)
自社開発ソフトウェアを事業展開する企業からなる MIJS は 2011 年1月、加盟4社が日
本製ソフトウェアを中国最大の通信電話会社である中国電信のブランドにより、四川省で
販売することを発表した。
MIJS はソフトウェアのパッケージ製品を中心に事業展開する企業が結集し、06 年に設
立した。日本の製品群を相互連携させ、付加価値と競争力の高いソリューションとしてま
とめ上げることで、
「日本のアプリケーションソフトは優秀」といったナショナルブランド
を確立することが目的だ。11 年3月現在、正会員 21 社、準会員 33 社。海外展開委員会、
製品技術強化委員会、プロダクトビジネス推進委員会の3委員会からなる。海外展開委員
会委員長を務める古川章浩氏(株式会社ビーエスピー・取締役専務執行役員)によると、
「企
業の代表者が会員となっており意思決定が速い」のが特徴だ。また、コンソーシアムはシ
ナジーを生む共通基盤と位置付けながらも、会員各社の商品が売れるかどうかは各社の努
力によるという運営方針に基づいている。
MIJS は 09 年から、中国を市場と捉えて海外展開に本腰を入れてきた。09 年は市場を知
る1年とし、先行して事業展開した企業などから实際に市場開拓に苦労を重ねた担当者を
講師として招いて中国の法制度や商習慣などを学んだ。10 年は、09 年の活動を踏まえ、い
くつかのチャネル開拓を試みた。共同マーケティングにより費用やリスクを分散しつつ、
そこで見つけたチャンスは会員各社が活用していく。その成果の第1号が、冒頭の中国電
信を通じた四川省での日本製ソフトの売り込みだ。
MIJS 会員企業の WEIC が、四川省成都市政府にチャネル開拓している地元企業・ウィ
ナーソフトと関係があり、ウィナーソフトを通じてソフトウェア産業振興に積極的な成都
市との友好を深め、中国電信との提携にこぎ着けた。中国での販売を希望する MIJS 会員
企業の製品の中から、ウィナーソフトが中国電信に適した製品を選別し、第1弾として中
国電信に認定された4社(ウィングアークテクノロジーズ、サイボウズ、エイジア、WEIC)
のソフトウェア製品を販売する。まずは中国電信が四川省で抱える約 170 万社の顧実企業
を対象に販売を始め、将来的には中国全土への展開を狙う。今後は、MIJS が構築した中国
電信との提携スキームを利用し、日本の ISV(独立系ソフトウェア会社)が積極的に中国
市場開拓を進めることができる。
MIJS では、広いネットワークを持つ相手先と組んで水平展開を図ることは、スピード感
を持って広大な中国で展開するのに適しているとの考え方から、上述の通信キャリアを通
じたチャネル開拓に加え、データセンターを活用したチャネル開拓の可能性も調査中だ。
この他にも、MIJS が交流を持つ台湾情報サービス産業協会や中国政府の「火炬(タイマツ)
計画」13との連携など、テストマーケティングや事例研究を行い、中小企業連合ならではの
機動力と柔軟性を武器に、
「メイド・イン・ジャパン」ソフトウェアの中国市場開拓に挑む。
(中国北アジア課 日向 裕弥)
13
中国のハイテク産業の発展を図るため 1988 年に国務院が認可した計画。
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(事例3)グリーン・グループ・メンバーズ(GGM)
GGM とは 2009 年 11 月、上海市において、省エネ製品を持つ日本
の電気機器メーカーや省エネコンサルティング企業 10 社により発足
したコンソーシアムである14。
GGM の会長を務めるのが、省エネコンサルタント企業「上海培皓
節能科技発展有限公司」の董事長で、20 数年前に日本に留学経験が
ある台湾出身の孫継信氏である。GGM への参加企業は、発足から1
年弱で 30 社余りに拡大。メーカーのみならず金融、メディア、環境
システム、シンクタンクも加わった結果、事業分野は環境保護や新エ
ネルギーにまで拡大した。
中国市場にはビジネスチャンスは数多くあるが、日本企業は個々の分野では優れた省エ
ネ技術を有していても、単独では包括的なサービスの提供が難しいという課題があった。
GGM は孫会長を旗頭に、日本で優れた实績を持つ企業がコンソーシアムを組み、オールジ
ャパンの技術を結集、省エネ対策などについて資金提供も含め総合的な支援を行いながら
中国市場参入を図っている。
また、中国の第 11 次五ヵ年規画(06~10 年)では GDP1単位当たりのエネルギー消費
量を 20%削減するという目標が公約として打ち出された。同目標は中央政府から地方政府
へのトップダウンで執行されたことから地方政府にとっては大きな圧力となった。このた
め、日本の技術と中国でのアプローチ手法を熟知する孫会長を中心とした GGM は、地方
政府や関係機関との連携も推進、河北
省唐山市とは 10 年1月、業務提携契約
を締結し、唐山市の企業に技術を提供
している。また、同年3月には中国科
学院・情報コンサルティングセンター
とも戦略的協力協議書を締結している。
GGM のビジネススキームは、エネ
ルギーを節減できる省エネ装置を無料
で提供し、その結果節約できた金額を
返済してもらうという、いわゆるエス
コ事業である。現在の实績として、案
件数は 123 件、削減 CO2 は 6,588 ト
ン(東京ドーム約 275 個分の森林面積
<写真:GGM 発足式典(於:上海花園飯店)>
14
発足時のメンバーは、河村電器国際貿易(上海)有限公司(河村電器産業)、杭州早川電線有限公司(ハ
ヤカワ電線工業)、安川電機(上海)有限公司(安川電機)、欧姆龍(中国)有限公司(オムロン)、指
月獅子起(上海)貿易有限公司(指月電機製作所)
、兼松(中国)有限公司(兼松)、菱洋電子(上海)有
限公司(菱洋エレクトロ)
、天津豊通明和環境技術有限公司、上海培皓節能科技発展有限公司、威爾特(北
京)科技発展有限公司(ダブル・アイ・テー・ジャパン)
(括弧内の社名は日本の本社名)。
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相当)
、投資回収周期 0.89 年、粗利率 35%を实現している。
GGM の強みは省エネの精密診断から提案、設計、設備導入、資金調達までの総合サービ
スや、企業の頭脳を結集させた総合技術、地方政府との連携による総合計画を提供できる
ことにある。今後は代理店を 100 社以上に増やし、事業を拡大していくとともに、環境・
省エネ業界で GGM のブランドイメージを定着させていくことを目標に掲げる。
GGM の孫会長は「現在 GGM が中国で試みていることは、日本企業が中国で省エネ事業
を展開していく上での1つの重要な試練だ」と語る。中国政府は、国家を挙げて省エネを
推進する意向を明確に示している。他方、日本は優れた技術を持っており、ビジネスチャ
ンスは大きい。そうした中で、真価が問われるのは、日本が一番得意とするチームプレー
を活かした GGM の体制構築であるという。企業同士がどこまで譲り合いつつ、技術やノ
ウハウを出し合って、中国市場に参入できるかが、日本企業がコンソーシアムを組成する
上での課題であり、GGM の挑戦はその1つの試金石になっているといえよう。
(中国北アジア課長 真家 陽一)
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3.中国企業とのビジネスアライアンス
中国企業とのアライアンスに関しては、①中国企業の力を活用することにメリットがあ
りアライアンスを組む場合、②規制により外国企業が独資での進出が認められていないた
め、やむを得ず合弁を組む場合との二面がある。どちらの場合においても、アライアンス
をプラス方向に導くためには努力が必要である。
(1)アライアンスの意義と方法
中国企業とのアライアンスの多くは、大きく分けて、①生産面でのアライアンス、②販
売面でのアライアンスとに分類できる。製造業においてもサービス業においても、質の面
では日本企業が勝っている場合が多く、上記アライアンスの双方に共通することは、
「日本
企業がノウハウを提供し、中国企業がボリュームを提供する」と言える場合が多い。ここ
で言うノウハウとは製造技術あるいは販売方法、ボリュームとは安価な製造コストあるい
は市場規模である。どちらにしても、日中企業の双方がメリットを得られるウィン・ウィ
ン関係であることがアライアンスの前提となる。
アライアンスにおいては、相手先企業の選定が重要である。報道ベースで得られる情報
を基に、この企業と組めば自社にメリットがあると考え提携したものの、蓋を開けてみた
ら想定外の企業体質で上手く行かなかったという場合も尐なくないようだ。实際に合弁を
組む前に生産・販売委託や技術提携などの形で取引関係を持ち、納期や支払い期限を守る
企業か、コンプライアンスやガバナンスの優れた企業か、経営者の描く戦略や方向性が自
社と合っているかなど、相手をしっかりと見極め、互いに信頼関係を築いておくことが必
要である。
(2)生産面でのアライアンス
生産面で現地企業とアライアンスを組むメリットとしては、何より生産コストの削減が
挙げられる。現地企業の既存の資源を活用することにより、自社で生産するよりも製造原
価を下げられる、自社で生産してはコストが合わないものであっても相手企業を活用する
ことで安価に生産できる、あるいは相手企業の既存工場を活用することで投資コストを抑
えられるなどのメリットがある。
一般的に日系企業はハイエンド製品に強い(技術力が高い)
、中国企業はミドルエンド以
下の製品に強い(製造コストが安い)といった傾向がある。双方の強みと弱みを補完しつ
つ、シナジー効果を生み出すようなアライアンスが出来れば理想的であろう。
ある企業は、
「ボリュームゾーン、ミドルハイエンドの製品を生産する際には、中国企業
と一緒に取り組むことを検討する」と語る。中国の経済発展により、来料加工など単なる
労働集約型の生産ではなく中国市場を販売先として見据えた生産が増えているが、中国消
費者向け製品には日本のようなハイエンド製品が求められない場合も尐なくない。
「中国製
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品は『工業品』
、日本製品は『工芸品』である」と語る企業があるように、日本製品の中に
は過剰品質といわれるほど超ハイエンドなものも尐なくないだろう。しかし、中国市場を
自社商品の消費者として設定する場合、
「程よい品質と程よい価格」を両立させることが必
要となってくる。どの市場であっても同様であるが、消費者に求められる製品を、求めら
れる価格で提供することが成功の鍵といえる。中国消費者に求められる価格帯を实現させ
る、あるいはコスト削減を实現させるため、価格競争力のある中国企業と生産面で協力す
ることは有効な手段となり得るだろう。
なお、生産協力にあたっては「心臓部となるコア技術はブラックボックス化する、ある
いは日本国外に出さない」と語る企業が多数を占める。現地企業に生産委託をする際、「あ
る程度の技術指導を行わないと、
(現地企業の生産技術レベルが低いため)当社の求める品
質のものが納品されない」という場合が多いが、当然ながら、全ての技術を開示すること
は避けるべきであろう。
中国企業に対して技術優位の立場を継続させるためにも、核となる技術は自社のノウハ
ウとしてクローズにしておくことが必須といえる。加えて、中国企業の技術水準が上がろ
うとも、日本企業はその更に上を行く技術開発を継続させる必要がある。また、そのため
には、何が自社のコア技術であり、何が自社の強みであるのかを実観的に理解しておく必
要もある。
(3)販売面でのアライアンス
販売面で中国企業とアライアンスを組むメリットは、相手企業が有する流通ルートや販
売ネットワーク、あるいは現地の慣習を理解した上での運営ノウハウを活用できることで
ある。2010 年、中国の GDP は日本を抜き、世界第2位の経済大国となった。対する日本
は尐子高齢化の影響もあり市場が伸び悩んでおり、中国を含む海外市場の開拓は日本企業
にとっての課題となっている。しかし、日本企業が中国で一から販路を構築するには、多
大な労力と時間、あるいはコストを要する。販路を構築している間に競合相手に市場を取
られてしまう恐れもある。中国企業が有する既存の流通ルートや顧実に納入、あるいは既
存の店舗を活用することができれば、その分だけ(広義での)コスト削減と素早い市場参
入が实現できるメリットもある。
「中国の政治やビジネスに最も詳しいのは中国大陸の人である」
、あるいは「中国では中
国人の商才(商売上手)には勝てない」と語る企業もある。中国の風土や商習慣は、日本
の感覚では測れない部分も尐なくない。相手企業の人材と情報ネットワークを活用し販売
力を強化するといった意味においても、アライアンスのメリットが挙げられる。また、「中
国でものごとを行う場合、日本人が行うと1週間、台湾人が行うと3日、中国人が行うと
1日」と語る企業がいるように、そのスピード感も強みの一つとなり得るのではないか。
他方、「相手企業の販売ルートに乗せるまでの企業の仕組み作り(管理方法など)には、
大変時間がかかる」
、あるいは「アライアンス先に問題が起これば、相手側の問題にとどま
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らない」といったガバナンス上の問題を指摘する企業も存在する。異なる企業文化の融合
となるため、マイナス面が現れる場合も尐なくないようだ。
(4)その他のアライアンス
生産面や販売面以外にも、資金面、人材交流、技術開発、あるいは第3国・地域市場開
拓など、アライアンスには様々な形態と背景がある。
ある企業は、これまで競争していた中国企業を「取り込む」ことを目的としてアライア
ンスを組んだと語る。一定の技術を持ち、コスト競争力もある中国企業をいかに取り込む
かという対策を取ったものだという。「(中国企業とは)競争するより提携し合うというス
タンス」
、
「競争激化でシェアが取れなくなったら状況によってアライアンスを考える」、あ
るいは「コンペティターと組んだほうが上手く行く場合もある」といった声もあるように、
正面衝突を避ける意味でのアライアンス戦略もあり得るといえよう。
資源開発などの分野においては、第3国・地域において中国企業と連携する場合もある。
電力や交通インフラ整備などの分野において、新興国に積極展開を行う中国政府・企業と
組むことにより、そのプレゼンスとビジネスチャンスを狙うといった動きだ。
中国政府などとのコネクションを求めてアライアンスを組む場合もある。特に、公共事
業の関連においては、中国政府は地元企業を優遇する傾向が強いためアライアンスが欠か
せないという。「中国企業と組むことで、(日本企業単独では難しい)認証を得るのが容易
になる」といった实務面でのメリット、あるいは「ストライキが発生した場合に、中国企
業の(政府との)コネクションを駆使して抑える」といったリスク回避を目的としたアラ
イアンスも存在する。
(5)アライアンスのポイント
中国企業とアライアンスについて、成功の鍵は「優良のパートナーと組むことに尽きる」
と多くの企業が口をそろえる。信頼できるパートナーと組めるか否かが何よりのポイント
となろう。そのためには、前述の通り、相手企業が納期や支払い期限、あるいはコンプラ
イアンスやガバナンス面で信頼できる企業であるかをしっかりと見極め、实際の提携前に
互いに信頼関係を築いておく必要があるといえる。
なお、信頼関係の構築に関しては多くの企業が「経営者同士の信頼感が大事」、「何か問
題が起きた際に助けてくれる否かは、相手企業のトップとどれくらい深く付き合いをして
いるかである」と語る。トップ同士の関係は何より重要なようだ。他方、
「現在のトップと
良い繋がりがあったとしても、
(トップが替わった際に)次の世代とずっとパートナーであ
り続けるのは難しい」と話す企業もいる。例えば、2代目のトップが欧米流のドライな考
え方をする場合もあり、将来も関係が継続するとはいえないという。また、
「社長同士の信
頼関係のみならず、社員同士の関係も重要である」と指摘する企業もいる。トップ同士が
良好な関係を築いていても、社員同士が上手くいかないと結局は不協和音が生じ前に進ま
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なくなるということだ。アライアンス成功のためには、それを实現させられるだけの人材
がいるか否かもポイントとなりそうだ。
アライアンスの成功にもう1つ不可欠なポイントとしては、ウィン・ウィンの関係構築
が挙げられる。例えば、互いに投資を分担できる、マーケットを広げられる、技術を活用
できるなど、双方にメリットがないとアライアンスは成功あるいは長続きしない。双方が
自社の強みと弱みについて明確に分析し、事前に徹底的に議論を行い目的や戦略を共有し
た上で、互いにそれを補完し合う関係を築くことが不可欠となる。その点において、中国
には日本のモノづくり技術やノウハウ、あるいはブランドを欲している企業が多く、技術
で勝る日本企業はメリットを与え易い面もある。日本の技術やノウハウの伝承により製造
技術レベルが上がることは、提携先企業、あるいは中国政府にとっても大きなメリットと
なるだろう。
他方、
「
(相手となる中国企業に対して)
、日本企業と組むメリット、当社のファンクショ
ンをきちっと説明し、理解を得ないとアライアンスは難しい」との指摘もある。日本企業
が技術優位であるとは言っても、それが相手企業にとって具体的にどんなメリットとなる
のかを理解し納得してもらう必要があるということだ。
(6)むすび
文化が違う企業同士が共に協力することは、日本国内においても上手く進まない場合が
尐なくない。言語も文化も異なる中国企業とのアライアンスを成功させることは容易では
ないといえよう。しかし、信頼できるパートナーを発掘あるいは育成し、双方がアライア
ンスの意義やシナジー効果について理解し、目的と戦略を共有し合うことができれば、ア
ライアンスは中国ビジネスにおける有効な戦略ツールになるといえよう。
(中国北アジア課 米川 拓也)
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(図表1)日本企業と中国企業のアライアンス事例
実施日
日本側企業
中国側企業
2009年1月
アサヒビール
2009年3月
Shanghai
ルネサスエレ RaisingSun
クトロニクス
Digital Video
Technology
2009年3月
井関農機
アライアンス内容
日本企業のメリット
中国企業のメリット
青島ビールが中国ビール市場で アサヒビールが日本のビール市
青島啤酒股份 青島啤酒股份有限公司の株式19.99%を取得
長年培ってきたブランド力および強 場で鍛え上げた生産、品質管理
有限公司
し、両者ブランドを販売し売上拡大を目指す。
固な事業基盤。
および商品開発技術等。
デジタルAV製品設計における優
共同で中国の地上デジタル放送対応テレビの
れた技術と多くの特許、および中
試作機となる基板からソフトウェアまで一式を
EMMA3TLの技術情報開示。
国市場向けテレビに関する豊富な
開発。
開発経験。
自脱型コンバインの技術供与および当社子会 市場拡大が予測される吉林省で
中機北方機械
社井関農機'常州(有限公司 からの部品供給 の生産拡大、井関ブランドの更な
有限公司
に関する契約を締結。
る浸透。
井関の自脱型コンバインの技術
供与・部品供給。
2009年11月 パイオニア
蘇寧電器の中国各地の主要都市
パイオニアの協力のもと蘇寧電
をカバーする強力な販売チャネル
蘇寧電器股份 中国におけるホームエレクトロニクス事業の強
器が開発する薄型テレビの中国
'国国内各地の主要都市に約900
有限公司
化・成長を目的に戦略的提携契約を締結。
国内販売におけるブランド使用
店舗を展開(と、中国市場での販
許諾。
売インフラ・ノウハウ。
2009年11月 丸紅
安徽国禎環保
株式30%を取得し、中国での新規下水事業案
節能科技股份
件への取り組みを積極的に展開。
有限公司
2009年12月 パイオニア
中国におけるカーナビゲーションビジネスの拡
パイオニアが従来から持つ、生
上海汽車工業
上海汽車工業の中国での企画・開
大を目的に、合弁会社「安悦先鋒汽車信息技
産・ソフト開発・電子地図データ
'集団(総公司
発・販売機能。
術有限公司」を設立。
ベース編集機能。
2010年6月
住友電気工業
住友電気工業が有するFTTx用
单京普天通信 中国市場向けFTT用光配線機器の合弁会社を 单京普天の中国通信キャリアへの
光配線機器に関する高度な技
股份有限公司 設立。
強い営業力。
術力・ノウハウ。
2010年7月
東芝
中国市場向け販売合弁会社「東芝ビジュアル
プロダクツ'中国(社」を設立。沿岸部を始め内 中国全土に展開するTCL集団の
TCL集団股份
東芝の映像技術力を結集した高
陸都市での販売網拡大を見込み、量販店や一 広範囲な販売網と長年培ったマー
有限公司
付加価値商品。
般店を現在の約2,200店舗から2013年度に
ケティングの豊富なノウハウ。
15,000店舗まで拡大。
2010年7月
JFEスチール
攀成伊紅石油 増資を引き受け、24%の持分を取得して持分
鋼管有限責任 法適用会社とし、中国でのシームレス鋼管の
公司
販売量の拡大を図る。
2010年7月
古河電工産業電線が培ってきた
中国河北華通 産業用ゴム電線を製造および販売する合弁会
古河電工産業
河北華通線纜集団有限公司の強 特高電線用絶縁材料やエコ電
線纜集団有限 社を設立。競合他社との差別化を行い、産業
電線
力な製造・販売網。
線の材料技術、製造技術、およ
公司
用ゴム電線事業の拡大を図る。
び工場管理技術。
2010年8月
JX大阪製油所の合弁製油所化に関する契約
JX日鉱日石エ 中国石油天然 締結。大阪製油所において原油を精製し、生 中国石油天然ガスの優れた製品
ネルギー
ガス
産した石油製品を主にアジア・太平洋市場で販 マーケティング能力。
売。
同社を通じて蓄積される中国にお
下水分野における日本の先進
ける下水処理事業ノウハウを活
的技術の導入。
用。
技術供与を通じて、特殊ネジ付き
JFEより技術供与を受け、今後
油井管の販売強化を支援するとと
需要の増加が期待される特殊ネ
もに、クロム油井管とのパッケージ
ジ付き油井管の加工を増やす。
販売力を強化。
JX日鉱日石エネルギーの優位
性'生産する製品の品質の高
さ、大容量の製品タンク等(。
光明食品
光明食品が展開している多岐に亘る食品事業
分野において戦略的な業務提携締結。製糖
業、流通業およびその他事業分野における相
互協力、共同事業化の検討、さらに海外にお
ける乳製品加工事業の共同発展を図る。
中国食品業界において川上から
三井物産の日本国内外での事
川下に至るまでの幅広い事業分
業経験や技術、運営管理等の
野を持つ光明食品の事業経験、基
専門知識、世界的ネットワーク。
盤、ネットワーク。
2010年10月 トステム
上海美特カー
テンウォール
株式49%取得を、同社の持株会社である
Amtronic Pte. Ltd.への出資を通じ行う。
上海美特カーテンウォールの販売 トステムが上海美特カーテン
ルート、顧客、生産設備など経営 ウォールに経営面および商品技
資源を活用。
術支援等のサポート。
2010年11月 豊田通商
中国におけるEコマースサイトの運営を目的と
上海信維汽車
した合弁会社、Shanghai J-Express
服務
Technology Co.,Ltd.を設立する契約を締結。
2010年12月 三菱レイヨン
北京碧水源科
三菱レイヨンの技術による高品
下排水処理用中空糸膜の製造・販売および膜 オリジン社のMBR案件受注力と膜
技'北京オリジ
質な膜の安定生産・供給能力拡
エレメント加工・販売の合弁会社を設立。
販売力。
ン(
大。
2011年1月
合弁会社「レノボ・NECホールディングス」を設
立'出資比率はレノボが51%、NECが49%(
レノボグループ パソコン事業での提携に加え、タブレット端末 レノボの技術力、躍進するグロー
'聨想集団(
等の開発・生産・販売に関する協力およびサー バルビジネスやサプライチェーン。
バ等、ITプラットフォーム製品の販売協力など、
両社の強みを生かした提携領域なども検討。
2010年9月
三井物産
NEC
上海信維汽車服務は中国で約
80%の市場シェアを占有する淘宝
と友好関係にあり、顧客のEコマー
ス事業への参入を優先的にサ
ポートすることが可能。
(出所)各社プレスリリース、新聞報道、ヒアリング等により作成
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豊田通商が窓口となり紹介する
ことで、これまで取引ができな
かった製品を正規品として安心
して購入・販売することが可能。
市場で高く評価され、日本の顧
客のニーズを熟知しているNEC
の製品開発力、顧客サポート
等。
4.NIES 企業とのビジネスアライアンス
(1)アライアンスの利点
①中国での有形・無形の資産の活用
アジア NIES とは、急速な工業化を達成した東アジアの韓国、台湾、香港、シンガポ
ールを指す。これら NIES 各国・地域は、国土面積が小さく人口が尐ないという点で共
通している。したがって自国・地域内にとどまらず、早くから積極的な海外展開を進めて
きた。特に中国では、その華人ネットワークや文化・言語に対する理解(韓国を除く)
、
中国に近い地理的優位性などを活かした事業展開が進んでおり、中国での外資系企業に占
める NIES 企業のシェアは 59.4%に達している(2009 年末時点)
。
(図表2)中国進出外資系企業年末登記数(2009 年末時点)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
香港
台湾
日本
米国
韓国
シンガポール
ドイツ
オーストラリア
英国
イタリア
全体
'卖位:社、%(
登記数
シェア
114,114
40.2
25,879
9.1
22,263
7.8
22,151
7.8
20,146
7.1
8,528
3.0
4,010
1.4
3,553
1.3
3,330
1.2
2,087
0.7
283,734
100.0
(出所)中国統計出版社「中国貿易外経統計年鑑 2010」
日本企業にとっての NIES 企業とアライアンスを展開するメリットを考えると、まず、
NIES 企業がこうして早くから培ってきた中国でのノウハウ、販売・調達ネットワークなど
有形・無形の資産を活用できる点が挙げられる。国土が非常に広大で独特な商習慣を持つ
中国で市場開拓を進めるには、全て自前で一から展開するには時間とコストがかかり、中
国市場の激しい競争に乗り遅れ、ビジネスチャンスを逃してしまう恐れがある。NIES 企業
の中国ビジネスにおける蓄積をうまく活用することで、経営資源を節約した効率的な展開
が可能となり、また事業展開スピードの加速も期待できる。
②テストマーケティング市場としての活用
NIES 各国・地域の経済水準はアジア地域の中でみると相対的に高い水準にあり、消費市
場としても発達している。消費者は流行に対しても敏感で、機能性に優れた、ファッショ
ナブルな商品を求める傾向がある。そして NIES 各国・地域の流行は、中国で追従される
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傾向があり、特に香港や台湾は、中国への流行の発信源ともなっている。また、韓国を除
いた3カ国・地域は華人文化圏にあることから、嗜好において共通する側面もある。こう
した背景に加えて、日本ブランドの認知度が高く、透明性が高い市場であることからも、
まずはこれらの企業とのアライアンスにより NIES 各国・地域で販売し、ブランドを確立
した後、中国市場へ参入するケースがみられる。つまり、NIES 各国・地域をテストマーケ
ティング市場として活用するスタイルである。
③言語、文化を理解する人材の活用
韓国を除いて、こうした華人文化圏における言語・文化を理解する人材を活用できる点
は日本企業にとっても大きなメリットとなる。中国政府や取引先(中国企業)などとの交
渉が容易になり、また、現地従業員とのコミュニケーションも円滑に行えることから、人
材育成や労務管理の面でも有効である。さらに、文化面で共通する点も多いため、日本人
にはない華人ならではの感覚をマーケティングや商品開発などに取り入れることが可能と
なる。
④速い経営スピードの取り込み
一般的に、NIES 企業はトップダウン経営の傾向が強く、日本企業に比べ経営判断が早い
といわれている。他方、日本企業は、社内で合議を重ねて慎重に意思決定を下す傾向が強
く、綿密な戦略が立てられる一方で、競争が激しい中国市場を攻める上ではスピードに欠
けるとの指摘もある。こうした中、NIES 企業とのアライアンスによって経営スピードの加
速を期待する企業もある。
当然のことながら、アライアンスの際には双方にとってウィン・ウィンの関係を構築す
る必要がある。NIES 企業にとって日本企業と組むメリットとしては、ハイエンドの技術力、
ブランド力、管理・運営上のノウハウなどがある。アライアンス事例を見る限り、こうし
た管理・運営におけるノウハウやブランド力はまだ日本企業に優位性があるといえる。し
かし、
「電子関連の産業おいて台湾企業の技術は日本企業にキャッチアップしつつあり、必
ずしも日本企業とのアライアンスを求めないケースも増えつつある」と指摘する声もあり、
日本企業は今後も NIES 企業に対して優位性を保持し、レベルアップを図っていくことが
求められる。
(2)パートナーとしてのメリット
一方で NIES 企業とアライアンスを組むインセンティブの低下を指摘する声もある。こ
うした指摘の背景にあるのは、日本企業が中国での経験やノウハウを蓄積し、単独でも事
業展開が可能になったことなどがある。また最近では、中国企業の急速な成長に伴い、中
国市場を攻めるには直接中国企業と組んだ方がスムーズな展開が可能ではとの見方も尐な
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くない。しかし、国際ビジネスの経験が尐なく、国際人材も不足する中小企業を始めとし
た多くの日本企業にとって、最初から中国企業と組むには経営理念やコンプライアンスに
対する考え方のギャップが大きすぎるという面も否定できない。
他方で、NIES 企業は中国企業に比べると日本的経営に対する理解があり、また知的財産
権に関わる技術流出面での懸念も相対的に低いといわれている。こうした面からも、日本
企業にとって NIES 企業と組むことは有力な選択肢の一つとなり得る。
また、中国における協力関係を生かし、将来的な第3国・地域での展開も見据える場合
には、中国企業に比べ、NIES 企業は国際ビジネスの経験が豊富であることが多い点も着目
すべきである。
(3)国・地域別のアライアンスのメリット
①台 企業
日本企業にとって台湾企業をパートナーとする時、他の NIES 企業とのアライアンスに
はない要素がある。それは、中国と日本の双方に対する理解が深いという点である。台湾
企業は、歴史的に日本企業とのビジネス交流も長く、日本的経営に対する理解があるとの
声は多い。この相互理解の深さからビジネスがスムーズに進みやすいというメリットがあ
る。長年台湾で培ってきた協力関係を利用して、中国における事業展開でも共同で取り組
むケースも尐なくない。台湾人は中国語を話し、中国独特の商習慣も理解していることか
ら人材活用のメリットもある。
また、台湾人は、親日的で日本の製品やサービスに対する受容度も高いといわれている。
同時に、華人として共通する嗜好を持つ部分もある。こうしたことから、台湾企業とのア
ライアンスでまずは台湾市場で展開し、それを生かす形で中国展開を図るといったように、
台湾をテストマーケティング市場として活用できるメリットがある。
このほか、中国全土へ販路を有する有力な台湾流通企業や食品企業の販路・調達ネット
ワークを活用できるというメリットがある。台湾には統一グループや頂新グループなど中
国でブランドを確立し、広範なネットワークを持つ企業がある。さらに、内陸部おける販
路・調達ネットワークも活用メリットがある。日本企業は東部沿海地域の市場でのビジネ
スが大半であるが、台湾企業は内陸部へのビジネス展開も進んでいる。例えば、湖北省武
漢市では日系企業約 80 社に対し、台湾系企業は約 1,000 社進出しているという。内陸部の
市場としての魅力の高まりに注目が集まる中、こうした台湾企業のネットワークを活用で
きる点も魅力的である。
なお、中国における所得向上による中間層の拡大に伴い、日本企業の中にもミドルエン
ド市場の開拓を模索する企業は尐なくない。台湾企業は低コストによる価格優位性で同市
場を開拓しているとされる。こうした台湾企業とアライアンスを組むことで、ミドルエン
ド市場向けのノウハウを活用することができる。ある企業では、台湾企業とのアライアン
スによって、中国向けのミドルエンド製品の製造を台湾企業が台湾で、ハイエンド製品は
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日本企業が日本でそれぞれ担うことで、ダブルブランドで事業展開が可能になったという。
さらに特筆すべきは、近年、中台関係の改善・緊密化に伴い、経済面でも投資規制緩和な
どの動きがみられることである。2010 年9月には、中台間の自由貿易協定(FTA)に相当
する、海峡両岸経済協力枠組協定(ECFA)も発効し、アーリーハーベストによる投資優遇
や関税引き下げ措置が開始している。
こうした一連の中台関係緊密化の流れの中で、中台間のヒト・モノ・カネの動きは今後
ますます活発化していくことが予想される。台湾企業とのアライアンスによって共同で中
国市場を攻める際には、プラスに働く面もあると考えられる。
②
企業
香港企業とのアライアンスのメリットは台湾企業と共通する面も多いものの、そこに尐
し違った要素も加わっている。第1に、人材活用のメリットであり、中国語と広東語を話
し(広東省などの地域では広東語も使用されており香港と共通)
、中国独特の商習慣を理解
していることから、中国でビジネスを展開する上で、現地政府および企業との交流・関係
構築、中国市場の開拓、従業員の管理などさまざまな側面での優位性がある。その一方で、
英語を理解し、西洋社会の法・社会システムへの理解も深く、日本企業の状況も比較的理
解され易い。
第2に、香港企業は中国で長年のビジネス経験を有しており、ビジネスを展開する上で
の有形・無形の資産を中国に数多く保有している。香港企業とアライアンスを組むことで
その販売・仕入ネットワーク、物流網、ノウハウ、各種人脈等を利用できる。そして、中
国市場をターゲットとした場合、いかに優良な商業物件に入居するかが成功の大きなカギ
を握ることになるが、そこに香港企業とのアライアンスが生きるケースもある。中国にお
ける有力商業施設は香港コングロマリット・ディベロッパーのサンフンカイ(新鴻基不動
産)やハンルン(恒隆地産)などが運営しているケースが多い。香港においてアライアン
スのパートナーからいち早く関連情報を入手したり、香港パートナーを絡めて、ディベロ
ッパーと連携することなどで、ビジネスチャンス拡大をすることも期待できる。
第3に、中国では特に華南を中心に、香港における流行が追随される傾向にある。例え
ば、広東省は地理的に近く香港を多くの人が訪れること、同じ広東語圏で香港のケーブル
テレビが家庭で見られていることなどから、香港の流行を追随する向きが強いとされてい
る。香港が中国に対するショーウィンドウとなっている形だ。この傾向を昨今の中国旅行
実増が後押ししている。アライアンスにより香港企業の持つブランドを活用し、中国展開
することも可能であるし、まずは香港企業とともに香港でブランドを確立し、その後中国
市場で展開という方法も考えられる。
この他、中国進出香港企業との供給や調達面でのビジネス拡大に有利に働くというメリ
ットもある。
137
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③シンガポール企業
シンガポール企業とのアライアンスのメリットでは、自国での経験を踏まえて積極的に
中国でもビジネスを展開するシンガポール企業のネットワーク・ノウハウを活用できる点
が特筆される。
NIES の中で最も国土面積が小さく、経済・人口規模も限られるシンガポールは、政府为
導で強みを発揮できる分野に特化した産業振興を行ってきた。その最も代表的なのはイン
フラ開発である。シンガポールには、政府系投資会社であるテマセク・ホールディングス
を核に、その傘下に豊富な資金力とプロジェクト实績を有する政府系インフラ関連企業が
多数存在する。こうした企業は、電力、港湾、通信、鉄道輸送、水処理、不動産などの幅
広い分野で中国のみならず ASEAN 地域、インド、中東などにおいて大規模なインフラ開
発プロジェクトに参入している15。中国でも、政府系コングロマリット「Keppel」を中心と
した企業連合の天津エコシティーにおける中国・シンガポール政府による共同開発などが
ある。ある企業は「シンガポール企業は中国の政府や政府機関などに深く入り込んだビジ
ネスを展開している」と指摘する。
とりわけ社会インフラ開発といった分野では、
「現地性が強く日本企業単独では参入障壁
が高い」との声もある中、こうしたビジネスを展開するシンガポール企業とアライアンス
を組むことで日本企業にとっても得られるメリットは大きい。既に、水処理などの分野で
はシンガポール企業とのアライアンス事例もみられる。
また、シンガポール企業は、新興国でのインフラプロジェクトの入札で1つの鍵となる
オペレーション(管理・運営)能力にも長けており、こうしたシンガポール企業と組むこ
とで日本企業の技術・品質面の強みとの相互補完関係が成り立つ。
④
国企業
韓国企業とのアライアンスでは、他のアライアンスと同様の狙いもあるものの、傾向と
して、中国に進出している韓国企業とのビジネス拡大の意図が強い。電気・電子分野では
サムソン電子や LG エレクトロニクス、自動車分野では現代自動車が中国で積極的に製品を
展開しており、販売も好調と伝えられている。これらのメーカーのサプライチェーンは中
国でも形成されており、多くの韓国の関連部品メーカーが進出している。こうした企業と
のビジネス開拓のため、韓国企業とのアライアンスを活用する形である。
韓国企業の中国への直接投資は約8割が製造業であるが、中国市場開拓を狙ったサービ
ス業の進出もあり、ビジネスチャンスは広がりつつある。韓国政府各官庁が共同で 09 年 12
月に発表した「韓国経済再跳躍のための対外経済政策推進戦略」では、10~12 年までの戦
略として、
「中国内需市場開拓のための物流ネットワーク拡充や完成品輸出の拡大」、
「政府
間協議を通じた中国進出韓国企業の隘路事項解消」などが盛り込まれており、政府として
15
日本貿易振興機構海外調査部(2010 年7月)
「世界経済危機後のアジア生産ネットワーク~東アジア新
興市場開拓に向けて~」107 ページ
138
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も中国市場を狙った韓国企業のビジネスは各分野で拡大させたい意向だ。
その他、韓国企業の持つ技術、中国におけるマーケットシェアや販路、資金の活用とい
ったメリットもある。
(4)アライアンス実施の注意点
NIES 企業とのアライアンスはメリットもあり、成功している企業もある反面、否定的な
見方が存在しているのも事实である。ある日本企業担当者は「アライアンスブームといわ
れるが、成功率は1割だと思う。うまく合うところがみつかればよいが」と、实際にアラ
イアンスを实施した経験からその難しさを指摘する。また、ある日本企業担当者は「NIES
とのアライアンスはない。文化の差を埋めるのが難しく、積極的にアライアンスを組んで
プラスに展開していくことは難しい」と語る。その根底にあるのは、NIES 企業といえども、
外国企業であることに変わりは無く、日本企業との間にはビジネスの進め方、商習慣など
やはり隔たりがあるという事实である。
具体的に指摘されることが多い点としては、NIES 企業は中小企業の割合が高く、オーナ
ー企業が多いため、そのオーナーつまりトップの考え方の影響を受けることが多い点であ
る。日本企業からは「台湾企業はトップダウンの傾向が強いため、トップの意思にそぐわ
ない事項については、なかなか話が進まなくなってしまう」、「総論は上で決まり、各論を
下から上げることになるがなかなか上がらない。下から上がる速度は日本企業よりも遅い」
との声が挙がっている。また、企業運営が属人的なことから、トップが交替することによ
り、よいパートナーでなくなるというリスクの存在も指摘されている。
この他、日本企業の経営感覚から見ると、事業運営に慎重さが欠けると感じてしまう点
もある。
「せっかちであり、勝手に事業を進めてしまったりする。臨機応変すぎる」、
「投資
決定に慎重さを欠き、中長期的視点がない」、「中国企業と同様に目先の利益を求める」な
どのコメントが聞かれた。
これらの点については、日本企業同士のアライアンスでも、相互の認識の違いで挙げら
れる点でもあろうが、外国企業であるため、その側面が強いという認識は、アライアンス
を検討する企業はしっかりと持っておくべきである。
最後に、忘れてはならないことは、アライアンスの最終目標は中国市場を開拓し利益を
上げていくことであり、アライアンスを組むこと自身が目標ではないということである。
アライアンス締結自体が「目標化」にならないよう留意することが必要である。
(中国北アジア課 宗金 建志、小林 伶)
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(図表3)日本企業と NIES 企業のアライアンス事例
<台 >
日本側企業
NIES側企業
2003年5月
実施日
ADEKA
(化学(
長春石油化学
'石化(
2004年4月
ファミリーマート
'コンビニ(
頂新'開曼島(控
股
'食品・流通(
全家便利商店'台
湾ファミリーマー
ト(
'コンビニ(
2006年9月
ダスキン
'食品・その他
サービス(
三井物産
'商社(
統一超商'流通・ ダスキンと三井物産が共同で出 台湾において10年間に渡り共同 ダスキンの日本や台湾で蓄
小売(
資したダスキン香港が85%、ダ 出資パートナーとして同サービス 積したクリーンサービス事業
スキンと統一超商の台湾での合 を展開してきた統一超商の資本 のノウハウを活用。
弁会社である楽清服務が15% 参加により、中国の国情に合う
出資し、中国でクリーンサービス ビジネスモデルの構築を図る。
事業を展開することで合意。
2006年3月
積水化学工業
'化学(
三登実業
'バルブ(
積水化学工業が、樹脂バルブ・
管材メーカーの三登実業の発行
済み株式のうち60%を譲受し同
社の経営権を取得。
2008年9月
キッコーマン
'食品(
統一企業
'食品(
石家荘珍極醸造集団'中国(と 北京・天津市場への本格参入に キッコーマンのしょうゆ醸造技
の合弁会社の持分の一部を、統 あたり、統一企業の中国におけ 術活用。
一企業の100%子会社であるケ る事業経験の活用。
イマンプレジデントへ譲渡。持株
比率はキッコーマン'45%(、ケ
イマンプレジデント'45%(、石家
荘珍極醸造集団'10%(。
キッコーマンと統一企業は1990年
に台湾で合弁会社を設立。2000年
には折半出資で中国昆山市にしょ
うゆ製造工場を設立している。
2008年12月
ダスキン
'食品・その他
サービス(
統一超商
'流通・小売(
ダスキンが運営するミスタードー 統一超商の中国における外食事 ダスキンの商品、ブランド力
ナツの中国事業拡大を目的とし 業の展開ノウハウを活用。
'ミスタードーナツ(を活用。
た合弁契約に合意。統一超商が
ダスキンの株式を50%取得。
ミスタードーナツは2005年から上
海に進出。合弁契約によりさらなる
事業の拡大を図る。
2009年8月
川崎重工業
'輸送機器(
光陽工業
'輸送機器(
江蘇省常州市に汎用ガソリンエ 光陽工業の中国地方政府との
ンジンの生産・販売を行う合弁会 折衝能力および労務管理能力
社設立の契約を締結。
の活用。
川崎重工業の開発・設計・生
産技術と販路・ブランドの活
用。
2010年2月
モスフードサービ
ス
'食品(
安心食品服務
'食品(
シンガポールに合計7社で合弁 安心食品服務の中国人顧客対
会社を設立、この合弁会社の中 応ノウハウの活用。
国子会社をエリアフランチャイ
ジーとして、福建省など6省・1市
に出店予定。1号店はアモイ。
モスフードサービスのフラン
チャイズパッケージの利用。
安心食品服務はモスフードサービ
スの台湾における関連会社'台湾
で162店舗を展開(。
2010年4月
ケンコーマヨネー
ズ'食品(
味全食品工業
'食品(
ケンコーマヨネーズの海外子会 台湾頂新グループ内の関連需要 ケンコーマヨネーズのサラダ
社である健可食品'香港(の増 の活用。海外事業の展開速度と 事業のノウハウを活用。
資を、台湾の味全食品工業'頂 規模の拡大加速に期待。
新国際集団の傘下(と同社が引
き受け、出資比率各50%の合弁
会社を香港に設立。
味全食品工業は頂新国際集団傘
下の企業。
2010年9月
アサヒビール
'食品・飲料(
2010年10月
ユニー
'小売(
2010年11月
2011年3月
アライアンス内容
日本企業のメリット
NIES企業のメリット
双方50%の比率にて、合弁会社 別途長春石油化学の出資する ADEKAの技術力を活用。
を設立し、酸化防止剤などを生 長春化工'江蘇(より土地、建物
産。
をレンタル。長春化工'江蘇(の
総務・管理部門を活用。
5社でファミリーマート事業を展開
するため、新会社「上海福満家
便利有限公司」の設立申請し、
批准を受けた。
頂新'ケイマン( 頂新'ケイマン(ホールディング
ホールディングス の第三者割当増資の引き受け
'食品・流通(
により、同社の約6.54%の株式
取得について合意。
備考
ADEKAは台湾においても長春グ
ループとの合弁会社がある。
頂新'開曼島(控股の中国の物 ファミリーマートのフランチャイ 伊藤忠商事、中国企業である中信
流網を含めたインフラ・ノウハウ・ ズパッケージの利用。
信託投資有限責任公司を含めた5
人材を活用。ファミリーマートの
社が出資。同様のスキームで広州
台湾で成功したエリアフランチャ
に2006年9月、蘇州に2007年7月
イズ運営ノウハウの活用。
会社を設立。
三登実業の販路の活用、また中
国向けの低コスト品は台湾、高
品質品は日本で製造というダブ
ルブランドでの事業展開が可能
に。
積水化学工業の技術力およ 2007年に株式買取りにより積水化
び資金力を活用し、顧客ニー 学の株式持分は90%に増加
ズに応えた品種・サイズ拡大
ならびに製品供給力を早期向
上できる。
頂新グループが展開する広範な アサヒビールの製造技術・品 実際はアサヒビール子会社と伊藤
食品事業分野における連携。
質管理・商品開発などのノウ 忠商事の共同新会社を通じて株式
ハウ、アサヒグループ商品の を保有。
販売や高付加価値素材の活
用。
頂新'ケイマン( ユニー70%、頂新30%出資の合 頂新グループの中国におけるハ
ホールディングス 弁会社を設立し、中国での事業 イパーマーケット事業の経験を
'食品・流通(
展開に合意。2012年末に1号店 活用。
出店予定。
成熟しつつある中国都市部で
のマーケットに、ユニーが日本
で培ってきた小売のノウハウ
を活用。
ブリヂストン
デルタ電子
次世代電子ペーパーデバイスの デルタ電子の高度なIT技術を活 ブリヂストンが独自に開発した
'タイヤ・ゴム製 '電子部品・デバイ 開発から市場開拓まで幅広い分 用。
電子ペーパー技術を活用。
品(
ス(
野での協力に基本合意。
日本テレビ
'通信・放送(
中天電視
'通信・放送(
番組共同制作・配給およびその
他の新規事業開発を実施するた
め、折半出資による合弁会社設
立の契約に調印・締結。台湾の
みならず中国に向けての番組制
作や事業開発も行う。
中天電視がこれまで中国でビジ
ネスを行ってきた経験や認知度
を活用。中天電視のニュースや
番組は、中国でもネットや提携
先テレビ局で放送され、高い人
気を博してきた。
140
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日本テレビがこれまで日本で
蓄積してきたコンテンツ制作
力や放送関連事業の開発ノ
ウハウを活用。
2010年3月に日本テレビは中天電
視とその親会社である旺旺集団と
の間で包括的協力協定を締結し、
相互の事業面における協力関係
強化を検討してきた。
<
>
実施日
2010年11月
2010年11月
日本側企業
NIES側企業
豊田通商
'商社(
A-1 China
Investment
Company Limited
'事業投資(
Baker Limited
'食品(
アライアンス内容
日本企業のメリット
NIES企業のメリット
備考
ベーカリー会社である豊王楽食 香港の流行にも深セン市の消費 日本の製法や味へのこだわり
品'深セン(を設立、深セン市に 者が敏感なため、香港企業のノ を活用。
おいて高級ベーカリーチェーン
ウハウを活用。
「Bakerz180」を3店舗展開。
サマンサタバサ HOUSE OF FAME 中国本土および香港での店舗網 HOUSE OF FAME LIMITEDの代 日本発世界ブランドを活用。
ジャパンリミテッド
LIMITED
拡大とマネジメントを目的とした 表者が中国国内でカジュアル
'雑貨(
'投資事業(
合弁会社を香港に設立。
ウェアおよびスポーツウェア販売
店を営む会社を運営しており、
ファッション業界に精通。
2010年11月
ロイヤルホール
ディングス
'外食(
統一超商香港
'流通・小売(
中国での外食チェーン展開を目 中国での事業経験が豊富な統
的とし、ロイヤルホールディング 一超商のノウハウを活用。
ス49%、統一超商香港51%出
資の合弁会社を上海に設立。
日本国内で総合飲食事業を 統一超商香港は統一超商'台湾(
展開してきたロイヤルホール の100%出資子会社。
ディングスのノウハウを活用。
2011年1月
キリンホールディ
ングス
'食品・飲料(
華潤創業
'食品・飲料(
キリンホールディングスが40%、 華潤創業が有する物流・販売
華潤創業が60%出資する合弁 ネットワークなどの強固な事業基
会社の設立について合意。
盤を融合することでシナジーを創
出。
キリンホールディングスの強 華潤創業は華潤集団傘下の企
みである商品開発力、技術力 業。
やリサーチ・マーケティング力
を活用。
2011年2月
全日本空輸
'運輸(
ファーストイースタ
ン・インベストメン
トグループ
'不動産など(
2011年2月
三菱地所
'不動産(
関西国際空港を拠点としたLCC ANAブランドとは異なる低価格の 観光立国推進に取り組む日
'ローコストキャリア(に関する共 航空会社による、新規需要創造 本を訪れる中国人旅行者数
同会社設立に関し、株主間協定 が可能に。
の拡大に着眼し、全日本空輸
を締結。新会社は航空運送事業
と共同で航空や観光分野の
許可の申請等、就航に向けた具
事業開発が可能に。
体的な準備を行う。
シンフォニーホー 合弁会社を通じて、遼寧省瀋陽 シンフォニーホールディングスの 三菱地所の卓越したブランドと
ルディングス
市に旗艦高級ブランドアウトレッ 中国における豊富な業務経験、 アウトレットモール開発および
'卸売・小売(
トモールを開発し、運営すること 幅広いネットワークの活用。
経営の専門知識を活用。
に合意。
<シンガポール>
実施日
日本側企業
NIES側企業
アライアンス内容
日本企業のメリット
NIES企業のメリット
備考
2008年6月
凸版印刷
'印刷業(
2009年12月
日揮
'建設(
ハイフラックス
'建設(
折半出資による持株会社を設立 ハイフラックスの膜に関する高い 日揮の造水事業のノウハウを 両社は中国のみならず中東、北ア
し、天津市で開発中の海水淡水 技術力、水処理設備の設計・建 活用'海水淡水化造水事業は フリカなどにおける海水淡水化事
化事業'30年間のBOT(に関し、 設・運営管理のノウハウを活用。 本件で4件目(。
業にも積極的に取り組む方針。
共同で事業運営することで合
意。
2010年8月
三井物産
'商社(
ハイフラックス
'建設(
中国での水事業の展開を目的に ハイフラックスの高い技術開発
合弁契約に調印。折半出資によ 力、豊富な水事業の運用実績を
る共同事業会社ギャラクシースプ 活用。
リングを設立。
<
SNP Corporation 中国、シンガポール、タイに事業 SNPと連携することで、海外にお 凸版印刷の信用力および技
Limited
を展開するSNPの株式を、公開 ける地位を一気に確立。また、海 術力をバックにアジア市場に
'印刷業(
買付けにより取得することを決 外におけるSNPの製造・販売網 おけるビジネスをより一層拡
定。
を融合。
大。パッケージ系を中心とする
リソースと高度な技術力を活
用。
三井物産の顧客ネットワー
ク、グローバルなインフラ事業
実績、ビジネス開発・運営能
力を活用。
ギャラクシースプリングは中国でハ
イフラックスが保有する4つの水事
業資産とハイフラックス・ウォー
ター・トラストが保有する18の水事
業資産を買収。
NIES企業のメリット
備考
国>
実施日
日本側企業
NIES側企業
アライアンス内容
2010年8月
伊藤忠商事
'商社(
ロッテグループ
'食品(
韓国ロッテグループとSPCを設立
し、中国テレビ通販大手ラッキー
パイ社の株式を取得。初年度に
SPCとして発行済み株式の
63.2%を取得し、その後4年間で
両社で100%の取得を目指す。
韓国テレビ通販業界大手のロッ 伊藤忠商事の持つ中国での
テホームショッピングを傘下に持 商品調達力や物流などのネッ
つ韓国ロッテグループのテレビ通 トワークなどを活用。
販のノウハウや小売業における
強みを活用。
日本企業のメリット
2010年12月
住友電気工業
'非鉄金属・金属
製品(
暁星
'ゴム(
暁星の100%子会社である暁星
鋼簾線'单京(有限公司の持分
30%を取得し、住友電気工業の
合弁会社として運営することで合
意。
テキスタイルコードでトップシェア 住友電気工業の省力化技術
を有する暁星の、世界のタイヤ '自動化、高速化(の技術習
メーカーへの強い営業力、販路 得。
を活用。
(出所)各社プレスリリース、新聞報道、ヒアリング等により作成
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Ⅳ.チャイナ・プラス・ワン戦略と FTA 戦略
1.生産拠点分散型のチャイナ・プラス・ワン戦略
中国一極集中リスクを分散するため、アジアの他国・地域に生産拠点を確保するという
いわゆる「チャイナ・プラス・ワン戦略」。今般のヒアリング調査で同戦略に対する取り組
みについても聞いてみたが、
「中国一辺倒によるチャイナリスクを懸念して、ベトナムに現
地法人を設立した」といった企業はあったものの、生産拠点のリスク分散を意識した事業
展開を図っているところは比較的尐なかった。
また、中国では労働争議の頻発や賃金上昇など投資環境が悪化しつつあるものの、「生産
拠点を ASEAN やインド、バングラデシュなどに移転すべき」といった意見もほとんど聞
かれなかった。ある日本企業は「最悪の事態を考えれば、チャイナ・プラス・ワン戦略の
手は打たなければならないと考えている。しかし現場の声を聞くと今すぐに他国・地域へ
移転するわけにはいかない」と現状を語った。
これらの背景には、日本企業が中国にすでに相当の資本投下を行い生産面での相互補完
関係を構築していることがある。また、中国市場は世界各国の多国籍企業が相次いで参入
しており、競争環境は極めて厳しい。こうした中で、日本企業が勝ち抜くためには、市場
に適合した製品を低コストで生産することが不可欠であり、物流コストなどを勘案すれば、
マーケットに近い地域での生産は基本戦略となることから、ASEAN などが代替することは
難しいこともある。
加えて、チャイナ・プラス・ワンの候補となる国・地域の投資環境が中国と比較して务
後することもある。
図表1は、アジア・オセアニア国・地域の賃金比較である。一般的にチャイナ・プラス・
ワン候補として挙げられるベトナムやカンボジア、バングラデシュ、ミャンマーなどは圧
倒的に賃金が安い。製造業・作業員の賃金は中国に比較してベトナムやカンボジアが約3
分の1、バングラデシュが約6分の1、ミャンマーが約7分の1という水準である。しか
し、賃金は確かに安いものの、法律やインフラの未整備、治安問題を始め投資環境とリス
クは明らかに中国に比べ务後しており、進出を検討しても結局は断念するところも尐なく
ないのが現状だ。
とはいえ、中国では 03 年4月の SARS(新型肺炋)
、05 年4月の反日デモ、10 年9月の
レアアースの輸出規制など、突発的に予想外のリスクが発生する可能性は否定できない。
ある日系メーカーからは「モノづくりの基本は最適地生産だが、仮に1ヵ所しか生産拠点
がない場合、何か問題があった時にどう対応するか、供給責任問題としての事業継続計画
(BCP)を考える必要がある」との指摘もあった。
別の日系メーカーは「中国国内であれば、複数の生産拠点があり、どこかで問題が起こ
っても他の工場でカバーできる」と中国国内でのリスクヘッジは可能との見方を示したが、
他方では、
「賃金の上昇に対しては内陸部への移転など、中国国内で回避できる要素もある
142
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が、突然の法改正など根本的なリスク回避は中国依存でなく、補完として別拠点を持つこ
とも必要であり、相互補完的に地域分散的な考えも必要」との意見もあった。
(図表1)アジア・オセアニア諸国・地域の賃金水準(基本給・月額)
製造業・作業員
非製造業・スタッフ
卖位: 米ドル
オーストラリア(25)
ニュージーランド(17)
香港(11)
シンガポール(49)
韓国(36)
台湾(57)
中国(441)
マレーシア(182)
インド(62)
タイ(467)
フィリピン(81)
インドネシア(84)
パキスタン(9)
スリランカ(12)
ベトナム(92)
カンボジア(4)
バングラデシュ(11)
ミャンマー(7)
卖位: 米ドル
3,690
2,306
1,522
1,252
1,220
939
303
298
269
263
212
182
174
120
107
101
54
41
0
カッコ内は回答企業数
1,000
2,000
3,000
オーストラリア(83)
ニュージーランド(50)
香港(56)
シンガポール(142)
韓国(29)
台湾(51)
マレーシア(123)
中国(248)
タイ(268)
インド(82)
フィリピン(47)
ベトナム(37)
バングラデシュ(5)
インドネシア(29)
パキスタン(3)
スリランカ(9)
カンボジア(7)
ミャンマー(14)
4,000
3,992
1,988
1,942
1,759
3,432
1,205
872
675
576
542
390
371
351
302
292
292
225
179
0
カッコ内は回答企業数
2,000
4,000
(出所)ジェトロ「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査」(2010 年 10 月)
日本企業の海外展開においては、カントリーリスクも含めた総合的な投資環境とリスク
ヘッジを考慮した国際分業体制の構築が喫緊の課題になっている。中国経済の活力を活か
しつつも、東アジア全体を見据え、中国一極集中によるリスクをいかにヘッジするかは依
然重要な検討課題といえる。
2.市場開拓型のチャイナ・プラス・ワン戦略
最近の日本企業の対中投資の新たな動向として注目されるのが、第3国・地域での事業
展開を視野に入れた進出である。1980~90 年代の日本企業の対中投資は、中国において低
コストで生産した製品を日本へ持ち帰る、あるいは欧米向けに輸出するための進出だった。
それが、2000 年代には、中国で生産した製品を中国で売るという市場開拓型の進出が増加
した。現在、各社が模索しているのは、中国に進出することで、新興国向けのビジネスモ
デルを確立し、それを他の新興国に転用・応用する、あるいは中国で量産した低価格製品
を他の新興国に輸出するという戦略である。また、新興国にもパイプを持つ有力な中国企
業と戦略的なビジネスアライアンスを締結し、パートナーシップを確立した上で、中東や
アフリカなどに連携して進出することを目指す企業もある。
対中投資においては、進出後に得たノウハウや人脈などを徹底的に活用し、第3国・地
域での事業展開も視野に入れるなど、将来を見据えた中長期的な戦略を持つことも日本企
業には求められている。
143
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従来のチャイナ・プラス・ワン戦略は、中国の活力を活かしつつも、リスク分散のため
にもう一国・地域に拠点を確保するという、生産拠点のリスクヘッジを目的としたもので
あった。今後は、中国を活用してアジア内需や新興国の市場を取り込むという市場開拓型
の新しい「チャイナ・プラス・ワン戦略」も検討していく必要があろう。
とりわけ中国は近年、価格競争力を背景に、対外工事請負契約額が急速に増加しており、
2009 年の契約額は 1,262 億ドルと、5年前の 04 年に比較して、5.3 倍に達している。ただ
し、中国企業は低コストでの建設工事力には優れるものの、技術力や工程管理力は相対的
には务るといわれており、日本企業がこういった点を補完することで、日中企業のアライ
アンスによる受注獲得を図ることも可能になる。
(図表2)中国の対外工事請負契約額の推移および地域別シェア(2009 年)
'億ドル(
1,400
欧州
3.5%
1,200
北米
中单米 1.1%
10.4%
オセアニア
1.2%
その他
0.0%
1,000
アジア'中東
を含む(
49.2%
800
600
400
200
アフリカ
34.6%
0
89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09
(出所)中国商務年鑑各年版より作成
例えば、三菱重工業と双日は 10 年 11 月、中国国務院直轄の建設・エンジニアリング大
手、中国化学工程集団公司と共同で、ロシア連邦タタルスタン共和国の合資会社 Ammoni
社から、アンモニア・メタノール併産の尿素肥料プラント建設プロジェクトを総額 10 億ド
ル強で受注した。今回の受注は、ロシアでは異例の EPC(設備一括請負)契約で、三菱重
工業はコンソーシアムのリーダーとして基本・詳細設計、機器調達、据付・試運転指導員
派遣を手掛け、双日はロシアでのビジネス实績を生かして関係者間の調整や輸送業務、中
国化学工程集団公司は建設工事を担当するというプロジェクトになっている。
3.中国での FTA 活用は限定的
中国も含めた東アジア地域全体をみると、貿易・投資とも地域内での循環が拡大するな
ど、事实上の経済統合が進展している。加えて、自由貿易協定(FTA)も進展しており、
東アジア地域における経済の一体化が加速している。こうした中で、中国も FTA に積極的
な姿勢を示すようになっており、FTA を締結した、あるいは現在政府間交渉を实施、もし
くは合意した国・地域は、11 年2月末現在、32 ヵ国・地域に達している。
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(図表3)中国の FTA 交渉の進捗状況(2011 年2月末現在)
対象国・地域
香港
進捗状況
2003年6月、CEPAを締結。06年1月より、香港原産のすべての品目について関税
を撤廃。また、10年5月時点で7回にわたる補充協議によりサービス分野の開放
も進展。
マカオ
2003年10月、CEPAを締結。内容は、香港とのCEPAと基本的には同様。
ASEAN
2004年11月、「包括的経済協力枠組協定における商品貿易協定」を調印。ノーマ
ルトラックでは05年7月から関税を段階的に引き下げ、10年1月'ASEAN新規加盟
4カ国は15年1月(より関税を撤廃。07年1月、サービス貿易協定を締結。07年7月
よりサービス分野の参入に関わる規制緩和を実施。09年8月、投資協定を締結。
チリ
2005年11月、FTAを締結。06年10月より商品貿易の関税引き下げを開始。08年4
月、サービス貿易協定を締結。09年1月、投資協定に関する交渉を開始。10年2
月までに6回にわたる交渉を実施。
パキスタン
2006年11月、FTAを締結。07年7月より2段階に分けて商品貿易の関税引き下げ
を開始。09年2月、サービス貿易協定を締結。
締結済
2008年4月、FTAを締結。08年10月より発効。ニュージーランド側は2015年末まで
ニュージーランド に中国からの輸入品の関税を撤廃。中国側は18年末までにニュージーランドから
の輸入品のうち97.2%の関税を撤廃。
シンガポール
2008年10月、FTAを締結。シンガポールは09年1月、中国からの輸入品の関税を
撤廃。中国側は12年1月までに、シンガポールからの輸入品のうち97.1%の関税
を撤廃。
ペルー
2009年4月、FTAを締結。10年3月より発効。
コスタリカ
2010年4月、FTAを締結。
单部アフリカ関
2004年6月、FTA交渉開始で合意。
税同盟'SACU(
交渉中
湾岸協力会議
'GCC(
2004年7月、FTA交渉開始で合意。05年4月より交渉開始。09年6月までに5回に
わたる交渉を実施。
オーストラリア
2005年4月、FTA交渉開始で合意。05年5月より交渉開始。10年2月までに14回
にわたる交渉を実施。
アイスランド
2006年12月、FTA交渉開始で合意。07年4月より交渉開始。08年4月までに4回
にわたる交渉を実施。
ノルウェー
2008年9月、FTA交渉開始。10年9月までに8回にわたる交渉を実施。
スイス
2010年8月、FTA共同研究を終了。11年1月より交渉開始。
インド
2005年4月、RTAの可能性に関する共同研究開始で合意。07年10月までに6回
にわたる共同研究を実施して終了。
韓国
2006年11月、FTA官産学共同研究開始で合意。07年3月より共同研究開始。08
年6月までに5回にわたる共同研究を実施。10年5月に共同研究を終了。
日本、韓国
2009年10月の日中韓経済貿易大臣会合'タイ・ホアヒン(において、10年上半期
中に日中韓FTA産官学共同研究の第1回会合を開催することで合意。2010年5月
に第1回会合を韓国'ソウル(、10年9月に第2回会合を日本'東京(、10年12月に
第3回会合を中国'威海(で開催。
共同研究
(出所)商務部資料等を基にジェトロ作成
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今般のヒアリング調査では中国が締結している FTA の活用状況についても聞いてみたが、
「FTA を活用し、ASEAN から半製品を輸入して組み立てている」といったオペレーショ
ンを行っているところも一部にはあったが、現状では活用していない企業がほとんどであ
った。
その理由は、①FTA で関税が減免されても、そもそも現地調達・現地販売なので必要な
い、②中国での現地調達の方が速く安く調達できるので、他・地域国から FTA を通じて調
達する必要がない、③物流インフラが悪く、物流コストと納期を考慮するとメリットがな
い、④FTA の手続きが煩雑で手間がかかるため活用しにくい、などであった。
日本企業各社による中国の FTA 活用は、現状では限定的である。ただし、ヒアリング先
の中には「FTA により事業環境が変わっていくことを注視することが必要であり、関税が
ゼロになった時のオペレーションは考えないといけない。FTA は予めタイムスケジュール
が決まっているので、それに基づいて事前に準備していくことが必要」、「人民元高が加速
する中で、ものによっては中国域外で製造したものを輸入することも考えている。その際、
FTA の枠組みを活用することも検討している」といったコメントもあり、FTA の戦略的な
活用が今後は進展していくことも考えられる。
他方、留意しなければならないのは、他企業の FTA 活用の動向である。ある日系メーカ
ーは「中国と韓国が FTA を締結し、韓国製の部品が無関税で中国に輸出されたり、中国製
の部品が無関税で韓国に輸出されることになれば、韓国企業のコスト競争力が向上するこ
とになり、当社にとって不利となる」との見解を示している。中国の FTA 政策の動向とそ
れが自社に与える影響については、引き続き注視していくことが必要であろう。
(中国北アジア課長 真家 陽一)
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(チャイナ・プラス・ワン戦略の事例)丸久
従業員数 160 名の中小企業ながら、チャイナ・プラス・ワン戦略による生産拠点のリス
ク分散を図りつつ、同時に中国市場の開拓にも挑み始めた日本の子供服メーカーがある。
徳島県鳴門市に本社がある「丸久」だ。
同社は円高や日本国内での生産コストの高まりを背景に、1990 年にはタイのアユタヤ市
に「MARUHISA INTERNATIONAL CO.,LTD」
、94 年には中国の山東省青島市に「丸久
(青島)時装有限公司」を設立し、生産拠点の海外展開を進めてきた。しかし、その後と
りわけ中国では、経済の高成長に伴い、人件費の上昇や労働力不足などの問題が顕在化し
てきた。
こうした中、同社は 09 年、3ヵ所目の海外現地法人となる「MARUHISA PACIFIC
CO.,LTD」をバングラデシュのアダムジーEPZ(輸出加工区)に設立。翌 10 年6月より操
業を開始した。バングラデシュは、人件費の安さや若年労働力の豊富さもあって、最近注
目されている繊維製品の生産国であるが、現状では日本の求める品質基準を満たせないと
いう問題も抱えている。これに対し丸久は、タイや中国で培ったノウハウを活用すること
により、問題を改善し、日本市場に適合した商品を生産していく意向を示している。
同社は今後、中国では変化が速く、シッピング期間が短期(1~2日)の低価格商品を
中心にしつつ、生産比率を現在の 70%から 45%まで落としていく方針だ。しかし、生産拠
点としての中国の魅力は依然高く、中国国内販売向けも増加させていくことから、生産キ
ャパシティ自体は縮小せず維持していく予定だ。
また、タイはエジプト綿やオーガニックコットンなどの高級素材が豊富で、編み立て職
人がそろっていることもあり、シッピング期間が中期(10 日程度)の商品を中心に、日本
で生産していた高級品を生産し、現在の生産比率 25%を維持する。
これに対しバングラデシュは、シッピング期間が長期(3~4週間)のカジュアル定番
商品を中心に展開し、生産比率を 30%に高めていく計画だ。また、欧米の为要アパレルメ
ーカーがバングラデシュに生産拠点を持つことから、丸久は今後、同国を拠点に欧米向け
の営業も強化していく方針だ。
他方、日本の生産比率は現在5%程度に過ぎないが、生産拠点のグローバル化が進展す
る中で、国内生産は今後縮小せざるを得ないため、デザインやマーケティングなどの機能
に特化していく方向にある。
中国一極集中からの脱却を目指したバングラデシュでの工場操業に先立つ 10 年4月、丸
久はイトーヨーカ堂の北京市および四川省成都市の店舗に子供服の直営店を出店し、中国
での内販事業に初めて参入。日本国内で幅広く子供服事業を展開しているナルミヤ・イン
ターナショナルとライセンス契約を締結し、同社の有名ブランド「MINI-K」を使った子供
服の中国での販売を開始した。中国人の個人所得や生活水準が向上する中で、中国での国
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内販売を模索していた丸久と、日本ブランド製品の販売
比率を高めたいイトーヨーカ堂の要望が合致した結果
でもあった。
中国市場参入から1年余りが経過した現在、北京市の
直営店は、北京市民がファッション性より機能性を重視
する傾向が強いことや、来店実の消費レベルの問題もあ
って、売上目標の達成はやや厳しい状況だ。他方、成都
市の直営店は、同市が地方都市の中では百貨店が多く、
ファッション性も高いことから、ブランドもある程度認
<写真:丸久の北京直営店>
知されつつあり、売上は比較的好調だという。
今後、丸久としては追加投資を避けるべく、直営店でなくフランチャイズ化による店舗
拡大を狙っている。ただし、フランチャイズ化を考えた場合、多くのバイヤーが商品視察
のため全国各地から上海市を訪れており、店舗が広告塔ともなり得ることから、同社はブ
ランド認知度の向上を図るべく、上海市への出店も視野に入れている。
現在、バングラデシュの工場では、11 年 10 月の稼動を目指し、第二期の増設工事が着工
している。完成すれば衣料品の一貫生産体制が機能することになり、生産力は大幅に向上
することになる。他方、中国での販売は2年目に入るが、どの顧実にどの商品がマッチし
ているのかというポジショニングも把握しつつあり、今後は販売員、商品力、ブランドで
競争力を高め、フランチャイズも含めて売上増加を図る方針だ。
(図表4)丸久の海外事業展開
社名:丸久株式会社
本社:徳島県鳴門市
資本金:4,500万円
売上高46億円'2010年3月期(
従業員数:160名
<中国>
1994年、山東省青島市に海外子会社設立
1995年、海外子会社操業開始、山東省青島市に合
弁会社設立
1996年、合弁会社操業開始
2010年、イトーヨーカ堂'成都、北京(に直営店を出店
<今後の戦略>
中国に直営小売店を出店し市場開拓を推進
短サイクルの低価格商品を生産
地域別生産比率'現在⇒今後(
日本
5.0%
タイ
25.0%
<タイ>
<バングラデシュ>
2009年、バングラデシュに海外
子会社設立
2010年、海外子会社操業開始
1987年、バンコクで海外生産開始。
1990年、アユタヤに海外子会社設立、操業
開始
1993年、工場増設
中国
70.0%
<今後の戦略>
これまで日本で生産していた高級品を生産
タイ
25.0%
<今後の戦略>
中国
45.0%
カジュアルの定番商品を生産
バングラ
デシュ
30.0%
'出所(同社ウェブサイト、プレスリリース、新聞報道等を基に作成
(中国北アジア課長 真家 陽一)
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Ⅴ.専門家インタビューから中国ビジネス戦略を探る
(インタビュー1)大地法律事務所
中国において多くの進出日系企業を顧実に抱え、契約書作成・各種相談・トラブル対応
などの支援を行い、中国の法令および進出日系企業の实態に明るい大地法律事務所の熊琳
弁護士に、日系企業の直面する問題、中国ビジネスにおいて存在するリスクなどについて
聞いた。
問1:進出日系企業が現在直面することが多い問題は何か?
答1:
日系企業が直面している为な問題を列挙すると以下の通りとなる。
第1に、売掛金回収問題がある。日系企業の重点が輸出から国内販売に移りつつあるこ
とに伴い、売掛金回収問題が増加している。
第2に商業賄賂や自己取引の問題がある。中国人の購買責任者などが私利私欲を満たす
ケースが中心であるが、最近では、日本人が関与するケースもみられるようになっている。
第3に高級管理職の会社資産の横領問題も増えている。また、中国国内販売の増加によ
り、日本の本社から切り離して、現地で別会社を設立して独立するケースもある。
第4に依然として、知的財産権問題、模倣品問題がある。
第5に労務問題がある。契約期間が到来して、本来は期間満了を迎えて契約終了で済む
はずであるのに、理由をつけて労働者が労働争議に持ち込むケース、労務派遣を受けてい
るケースで、無期限労働契約を余儀なくされ、ようやく労働者を派遣会社に戻せないとい
うことに管理者が気付いてもめるケースなどがある。また、駐在員の交替時に蓄積された
知識がうまく引き継がれていないケースが多く、注意が必要である。2008 年に施行された
「労働契約法」では、固定期間のある労働契約を2回締結した場合、3回目の契約更新時
に無期限労働契約に突入するということを、新しく赴任した駐在員が把握していなかった
り、労務派遣会社の外企人力資源服務有限公司(FESCO)とは何ですかと質問するケース
もある。
特に無期限労働契約に関しては、北京においては2回目の契約更新を経ると、2回目の
契約満了時に労働者が固定期限のない労働契約締結を申し出た場合は、使用者は拒否でき
ないという解釈が为流であり、テストが行われている上海以外(3回目で無期限労働契約)
では、全国的にはこの理解が正しいと思う。無期限になる契約タイミングについて、労働
仲裁のケースを見ると、判断が完全には一致していないが、大多数は2回目で無期限に滑
り込みの形になっているようだ。従って、私は第1回目の契約が終わる時点で、勤務態度
や業績が芳しくない職員については、解雇するようにアドバイスしている。
日系企業において、労働契約法については理解していながらも、当社は大丈夫という考
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えで、就業規則を整備していないところもあり、そのこと自体も問題にしていないところ
もある。会社の運営状況がよいときは問題ないが、後でトラブルが発生する可能性がある
ので注意が必要である。
このほか、最近の傾向として、
「日本人 vs. 現地法人、駐在員事務所」というトラブル
も増えている。現地で採用された日本人との間でトラブルとなるケースである。
第6に合弁パートナーとの問題がある。中国企業との合弁においては従来から指摘され
てきた土地問題や、相互の意思決定の際の不一致などに加えて、中国以外の企業との合弁
においても、問題になるケースはある。一例を挙げると日本企業と台湾企業の合弁企業設
立のケースがあり、一方的に台湾企業に有利な定款を使われてしまった事例があった。
第7に中国の商習慣の理解が不足しているため、問題が起こるケースもある。
第8に税務問題があり、企業所得税、個人所得税、移転価格などに絡む問題である。
問2:進出日系企業のビジネス展開におけるリスク、今後より注視すべき問題としてはど
のようなものがあるか。
答2:
リスクについては数多いが幾つかを挙げると、①企業文化の相違による労務管理リスク、
②商習慣の違いによる販売リスク、③取引決裁方式のリスク、④法令無視によるコンプラ
イアンスリスクなどがある。④について日本企業担当者は「当社はスタッフとの関係が良
好なので問題はない」とすることがある。その際、企業内における会社印の管理状況を聞
くと、誰でも押せるようになっていたりする。非常に危険である。
進出日系企業の日本人管理者で危機管理意識が弱いケースも見受けられ、火災や労災問
題発生時の対応、役所や労働組合(工会)との付き合い方、日本人のビザ更新や社会保険
手続など各種事項にどう対応するかが良く分かっていない。その背景には、日本本社や顧
実から納期、品質に対するプレッシャーが強く、そこに対応することに長けている人材が
派遣されているケースも多く、また、そこに力を入れざるを得ない状況がある。それ以外
の管理面にも、もっと力を入れるようにするべきである。
今後の注意点としては、労働者との団体交渉があり、今後法整備が進んでいくと思われ
る。第 12 次五カ年規画でも、政府は労働者の処遇を良くしていきたい方向だ。また、政府
は団体交渉の实行により、企業におけるストライキの発生を減らしていきたいという思い
がある。企業が労働組合を組織し、そこと団体交渉を行っているならば、ストライキが発
生したとしても、政府がフォローしてくれる可能性がある。
労働組合については、第 12 次5カ年規画の5年間の期間でも、各地の総工会に組織率上
昇のノルマ達成が課され、組織率を上げていく方向となるだろう。進出日本企業でも労働
組合の機能を活用して、ストライキを未然に防ぐという意図もあり、組織したところもあ
る。社会保険法も 2011 年7月から施行され、賃金条例も現在策定中であり、労務関連法の
整備はより一層進むであろう。
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進出日系企業の企業運営においては、なにより現地人材が最も重要である。日本語がで
きるということのみでなく、各方面から評価して人材を獲得すべきである。そして、コン
プライアンス意識を高めてもらうことも重要である。一方で、会社としてそうした人材の
モチベーションを上げるために、人事評価をしっかり行い、キャリアパスも明確に示すな
どの努力が必要である。
この他、環境規制も厳しくなっていることや、消費者意識の高まりを受けた PL 問題など
日系企業の注意すべき分野が多くなっている。
(中国北アジア課 宗金 建志)
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(インタビュー2)デロイト・トウシュ・トーマツ北京(徳勤華永会計師事務所有限公司
北京分所)
中国において多くの進出日系企業を顧実に抱え、監査・税務相談・移転価格対応などの
支援を行い、中国の税務・会計の現状および進出日系企業の实態に明るいデロイト・トウ
シュ・トーマツ北京の日系企業サービス中国地域共同リーダー三浦智志氏に、日系企業の
直面する問題などについて聞いた。
問1:進出日系企業が現在注目している税務・会計面での問題は何か?
答1:
税務面においては、現地駐在員の給与の親会社立替分を、税務局からの免税証明が発行
されないために送金できない問題が続いていた。ただ、最近になってようやくいくつかの
現地法人では日本への送金が可能となり、北京市では解決に向かいつつある。但し、山東
省、大連市等で、その立替送金に対して PE(恒久的施設)課税されるリスクとともに依然
として送金できない問題が存在している。上海は従来より問題となっておらず、实際に北
京のある会社では送金が厳しい状況下、上海経由で送金する日系企業も存在した。
立替金の送金問題については、未払金の決済という形で一応許されているものの、地方
の税務局によっては、駐在員が親会社のために中国現地法人に対して役務を提供し、その
対価を送金しているとみなすようになり、送金が困難になる局面を迎えた。一方で、1件
当たり3万ドル相当額を超える外貨送金の場合は、税務局での税務証明が必要となり、銀
行送金に支障をきたすことになる(上海市は尐額外貨送金の下限を 10 万ドルまで引き上げ
た)
。駐在員の給与部分については、中国を源泉とする日本の給与部分の所得も含めて、個
人所得税を納付しており、現地法人のために勤務している限り再度課税を受けることは不
合理である。
送金できない地域における対策は、3万ドル以下の小額範囲の送金にする方法もあるが、
大手企業では实際その範囲内に収めることは難しい。送金問題を克服するために、日本で
の給与支給比率を引き下げ、人民元支給の給与比率を引き上げる方法や、従業員の個人口
座を通じて日本本社に送金することによって、会社間の役務提供とみなして課税する PE 課
税を回避しようという手法もある。しかし、これらは根本的な解決策とはなっていない。
この他、日本の技術者が中国現地に出張して技術指導を行う際、中国に日本企業の PE が
存在していると見なされ、課税を要求される従来型の PE 課税問題についても、華南を中心
に今でも問題となっている。
会計面では、中国国内においてどのタイミングで新会計準則が強制適用されるか注目さ
れている。IFRS(国際財務報告基準)への移行に対して、中国は完全に IFRS を導入する
のではなく、中国の会計基準をこれに同質化させるコンバージェンスという方法を採用し
ている。新会計準則は、既に中国上場企業では強制適用されている。また、地域によって
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は全ての外資企業に強制適用となっている。具体的には、深圳市では既に強制適用されて
いる。2011 年に入り上海市、福建省にも強制的に導入されていくとも噂されており、中国
進出日系企業としても注意が必要である。
また、連結財務諸表を作成する際に、日本の会計基準ではこれまで3カ月までの決算期
差異を認めているが、IFRS では親子会社間の決算期差異を認めていないため、現地法人と
しては親会社決算期(3月)に合わせてもう一度決算を行う必要性が生じる。中国では 12
月末以外の決算は認めず硬直的であるため、
日本本社の決算を 12 月に変更した实例もある。
問2:駐在員事務所に対する課税強化の状況は?
答2:
駐在員事務所への課税については、2010 年2月2日に公布された「外国企業常駐代表機
構税収管理暫定弁法」(国税発[2010]18 号)により、在中国駐在員事務所に対する課税
強化の方向が打ち出された。
当該弁法では企業所得税の免税申請を受理せず、帳簿を整備し、事实に基づいて記帳を
行っていくことが求められている。しかしながら、今回の通達は従来の制度に基づいて収
入ゼロとして申告していた駐在員事務所に対して今後一律に経費課税を求めるものではな
い。北京市においても今まで通りに、ゼロ申告を認めている。但し、今後税務当局が強引
に経費課税に移行させようという動きが出て来ないかを懸念している。
今後日本企業が中国に駐在員事務所を開設する場合には、本当に本社との連絡業務のみ
を行うことが目的か或いは实際には日本本社のマーケティングの役割を担うかなどを事前
にしっかり考えるべきである。マーケティングの役割を担っていれば課税対象事務所にな
ってしまう。その場合は現地法人の形としたほうが、コンプライアンスの問題が解決でき
るとともに、契約の締結、従業員の直接雇用、輸出入外貨送金もできるなどのメリットを
有する。
現在、月に数件の頻度で駐在員事務所を現地法人に組織変更或いは駐在員事務所を閉鎖
したいという相談が持ち込まれている。但し、駐在員事務所の閉鎖は、手続きに時間を要
するので留意が必要である。
問3:移転価格税制を巡る動向は?
答3:
移転価格税制は、依然税務局の関心が高い問題であるが、税務局としても専門人員が限
られている状況にはある。進出日系企業としては、企業所得税の確定申告の際に、関連者
との取引状況を示す「年度関連者間取引報告表」を合わせて提出しなければならないもの
の、作成条件を満たさなければ、
「移転価格同期文書」を作成する必要はない。
一方で、条件を満たす企業は「移転価格同期文書」を作成することが義務付けられてい
る。但し、法的には一義的な提出義務はない。しかし、国家税務総局は 2010 年7月に各地
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の税務局に対して、
「移転価格同期文書」のサンプリング調査を实施し、さらにその検査結
果を報告するよう求めた。この通達を受け、北京ではおよそ 100 社に対して「移転価格同
期文書」を提出させた。
昨今の移転価格調査の特徴としては、調査時間の短縮化の動きがある。国家税務総局よ
り地方の税務局に対して、なるべく迅速に調査を終了するように指導が入っているようだ。
従来5年程度要したものが最近は2年程度で終了するようになっている。
日本企業へのアドバイスとしては、移転価格について現時点で移転価格同期文書の作成
義務がない企業については比較的リスクが尐ないと考えられる。移転価格調査は、対象企
業の規模もポイントとなるが、当地の税務局にとって最終的には国家税務局の承認を得て
調査をする以上、何も徴収できないということでは面子に関わることになる。
但し、移転価格調査は当該取引が発生した納税年度から長い場合には 10 年間遡及される
場合もあるため、もし調査で更正された場合には、すぐに億円単位の納税義務が発生して
しまう等、調査の更正インパクトは多額になるので注意が必要である。
問4:これから中国へ進出する企業に対してのアドバイスは?
答4:
総じていえば、現在は中国に関連する各種情報が入手しやすい状況にあるとともに、中
国側の各種ルールもグローバル化が進展している。豊富な外貨保有を背景に、外貨決済、
利益の国外配当送金も含め、カントリーリスクは以前に比べればかなり小さくなっている
と思われる。
また、最近の中国政府の傾向としては、どのような外国企業でも誘致をしていこうとい
う従来型の思考ではなく、ハイテク企業、環境関連企業など、中国に技術と恩恵をもたら
す特定の外国企業に来て欲しいという考えに変化している。これから進出する日系企業は
この点はしっかり認識しておく必要がある。
さらに、以前から言われている通り、事業の撤退には困難なことが多く注意が必要であ
る。具体的には、合弁会社等では董事会出席董事の全員一致が必要であること、会社清算
業務の過程においては税務当局が国税・地方税の未納部分がないかを時間をかけて調査し、
それが終了するまでは清算が認められない等、手続きが煩雑であるとともに時間を要する。
これ以外に、中国では増資は容易だが、減資は法的に可能でも实務的には非常に困難なた
め注意が必要である。
(中国北アジア課 宗金 建志)
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(インタビュー3)東京海上日動リスクコンサルティング
企業活動に関するさまざまなリスクに対応したコンサルティングを实施している東京海
上日動リスクコンサルティングの茂木寿 ERM 事業部長に「チャイナリスク」と「リスクマ
ネジメント」について聞いた。
問1:いわゆる「チャイナリスク」について、企業はどのように見ているのか?
答1:
「チャイナリスク」といったときに、対象企業によって運営事業の内容もバラバラであ
ることもあり、リスクそのものが見えにくくなっているという面がある。リスクは、製造
業か非製造業か、また立地によっても状況が変わってくる。大企業でも中小企業でもさま
ざまな問題を抱えている。いずれも苦労しているのが实態。お実様と話をする時には、海
外でのビジネスではリスクがあることが当たり前であり、過度にリスクを意識しすぎると
戦略が描けないし、日本と同じようにはいかないと話している。
むしろ、現地に進出した後もリスクがあることを理解した上で定期的に見直し、自社の
リスクというものを社内で啓蒙し理解していくことが重要である。特に、自社の存続が危
うくなるような大きなリスクについては優先的に手当を行うことが重要である。
2005 年に反日デモが続出し「チャイナリスク」という言葉が一般的に言われるようにな
ったが、もともと存在しているもので、急に現れてきたものではない。中国と縁の無かっ
た人や企業も、中国に進出するような時代になってきた。中国への進出に当たっては、納
入先や仕入先にも協力を依頼し、チャイナリスクに備えるべきだと説明しているが、なか
なか取引先などの関係先全体で対応するよう声がけすることは難しく、できていない实情
がある。
中国は大変大きなマーケットであるので投資先としては極めて魅力的である。リスクが
あるところにリターンがあるということもいえる。リスクがあるからといって、急に投資
が控えられるとは考えにくい。トレンドとしては、中国での事業を縮小することを考えて
いる企業はほとんど無く、既存の投資をさらに拡大しようという方向の企業が多い。
「チャイナリスク」については、大雑把に中国のリスクと見るよりも、拠点ごとに見る
ことが必要である。尐なくとも自分の会社にとっての中国のリスクを把握することが重要
である。实際の中国の状況が日本人に理解されないことが多い。中国を1つの国と見よう
とすると見誤る。
中国の一般人でも、日本は我々が教科書で習ったものとは異なるということがわかり始
めており、徐々に日本に対する認識が変わりつつあるようである。2005 年の反日デモの時
には、社内の従業員の雰囲気が悪くなり緊張したが、現在では逆に中国人の方が「中国政
府に対する不満を反日デモでぶつけるのはおかしい」という人も出てきたようである。
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問2:中国進出日系企業のリスクマネジメントの取り組みはどのようなものか?
答2:
製造業の場合、統括会社もしくは持株会社が通常のマネジメントや内部統制の中核とな
るべきであるがそうなっていない实情がある。大企業では、事業部制やカンパニー制にな
っており、それぞれに工場が付随している。統括会社が工場のリスクを見るべき権限が付
与されておらず、複数の工場を展開している大企業では、全体でのリスクマネジメントが
難しく、リスク管理のレベルや手法がバラバラの状態の企業が多い。または、グループ内
のルールとしては、統括会社がリスクを管理するのでそれぞれの工場は協力することにな
っているが、实態はそうなっていない企業が多い。本社側の体制整備と現地に適用すべき
基準が十分に確立できていないことや、現地に浸透していないことがリスクマネジメント
のネックになっている。
本社側の問題意識に対して、カンパニー制が障壁になっている企業が多い。各カンパニ
ーが独立採算になっていることもあり、リスク管理のために各工場は人員を割けない事情
があり、統一的に動けない。本社と海外現地法人がこのような緊張関係にある企業は尐な
くない。
社内リスク管理のためには、なるべくグローバルスタンダードを設け、ある程度決まっ
た人が現地担当者とコンタクトして情報を確認し、他の拠点とのバランスを図りながらベ
ンチマークを行っていくことがポイントである。複数の人が行くと基準がバラバラになっ
てしまう。いきなりすべてのリスクを管理する必要はなく、まず、リスクがあることを認
識することが重要である。
よく海外進出に当たって、経営会議で夢のような投資先として説明をされるがそんな良
い話があるわけがない。むしろ、経営の観点からリスクが高い場合が多い。
各企業のケースを見ていると本社と現地の意思疎通が途切れ、現地から悪い情報が本社
に伝わらないことが多い。進出時には、想定していなかった話が实際に現地に進出してみ
ると次々出てくることもある。
問3:日本の本社と現地法人の関係についてはどのように見ているか?
答3:
本社と現地法人間のコミュニケーションおよび意思疎通が大切。中国は飛行機ですぐに
行ける距離でもあるので、本社の人も現地に出張し、様子を見て、ローカルスタッフの話
を聞いてみることが重要である。多くの人が現場を見ないと正確な意思決定ができない。
日本でのマスコミの報道に関して、東京の本社はネガティブな情報を信じるが、現場は
平穏であることも尐なくない。現地の方が冷静に物事を見ており、本社が日本での報道を
鵜呑みにしていることが特に中国では多い。
一般的には、現地に対策本部を作るべきで、現場の判断を優先したほうが良い。現場の
方が冷静であるので方向性を出せる。反日デモが発生しているからといって、中国への出
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張を全面禁止などとしても現实的な対応ではない。
問4:リスクを減らす、またはリスクをコントロールする方法については、どのようなも
のが考えられるか?
答4:
地域社会と良好な関係を築き、よき企業市民となることに尽きるのではないか。
日本の会社も現地社会で社会貢献活動を行っているがなかなか表に出てこない。他の外
資系企業は、贈呈式などを派手にアレンジしているところも多い。日本の企業も是非現地
の人に分かるように地域社会に貢献していることを PR すべきである。
中国のマスコミは、日本企業の課題については、過剰に書き立てる傾向にありインター
ネット上にも転載される。その意味では、マスコミ対策をして風評被害を受けないように
管理することが重要である。中には、作為的に競合会社が流しているような情報もあるよ
うである。
公安や労働局など普段付き合いのないところとも付き合うべきである。広く関係を持つ
と対応が異なる。まずは、現地の事情を理解すべきである。地方政府との関係構築におい
ては、中国側のビジネスパートナーを通じて関係を作る方法もある。公安とはすぐに連絡
が取れるようにしておくことが重要である。
問5:中小企業のリスクマネジメントはどうあるべきか、また、
「チャイナリスク」は今後
どうなっていくのか?
答5:
中小企業は技術者を工場長として派遣するパターンが多く、マネジメントのできる人材
が送り込めていないことが尐なくない。他方、リスク管理ができる人材に関して人材不足
という点では、大企業も変わらない。現地においては、メンタル面から体調を害する人も
多く、健康管理にも留意が必要。ただ、中小企業に関しては、見極めが早いという点が強
みといえる。大企業は駄目だと思ってもいつかは良くなるであろうと、そのままの状況で
ビジネスを継続する傾向がある。
これから中国におけるリスクマネジメントは、製造物責任(PL)といった消費者問題に
関する部分が中心となってくるであろう。中国において消費者の権利意識は強まる傾向に
あり、日本企業は訴えられやすい。逆に代金回収の問題は、日本企業も随分経験を積んで
いるので最近はほとんど聞かない。
(中国北アジア課 矢内 雅章)
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(インタビュー4)コーチ・エィ
中国進出日系企業の「現地化」を人材開発面でサポートしているコーチ・エィの竹内雅
哲グローバル事業取締役に、中国進出日系企業の人事面での課題や現地化のポイントにつ
いて聞いた。
問1:最近、中国進出日系企業は人事面でどのような課題を抱えているケースが多いか?
答1:
意識が高い企業が抱える課題は、大きく「現地社員の育成」と「中国人の総経理育成」
の2点に関するものが多い。中国市場での日系企業のブランド確立は多くの企業でできて
いない。そうした中で、優秀な社員を採用するのは難しく、現在の人員をどのように教育
するか、がテーマとなっている。
よくある話としては、優秀な現地社員はいるものの、その社員を昇格させた時に、その
空いたポジションに充てるスタッフがいない。またその優秀な社員は部下教育への関心が
低い。それには、部下を教育することで将来的に自分の地位が脅かされるのではないかと
考える中国人特有の問題もあろう。それゆえに、結果的に中国人を昇格させられない「ガ
ラスの天井」になり、幹部層は日本人だけで占めてしまう形になる。もう1つは、次の総
経理を中国人にしたいがそのハードルが高いという課題である。
一方で、中国人社員の方では、日本人のリーダーよりも中国人のリーダーの方を高く評
価している傾向も否めない。それをどうするのかという課題もあるものの、そのことを認
識していない企業も尐なくない。
当社は、日本人駐在員のリーダーシップを高めることで組織全体に「育成の文化」を根
ざし、コミュニケーションのインフラを整えるシナリオを提案している。組織のトップが
変わると組織が変わっていくのは日本でも、中国でも基本的には同じである。
総経理としてどういう組織にしていきたいかは皆が悩んでいる問題である。さらに、3 年
後、10 年度に組織がどうなっているのがよいのかを見据えて、そのためにどういう取り組
みをすればよいのかという視点を持つことがポイントであろう。
大企業では、中国市場が伸びていることもあって、本社からのプレッシャーが強く、か
なり高めの数値目標を設定されている場合が多い。そのため、目前の売上を増やすことに
注力してしまい、本来企業の価値として重要なビジョンやミッションの浸透、ブランドの
確立などに費やせる時間がなくなっている实情がある。
こうした環境の中でも、長期的な視点で人と組織の問題を認識し、ビジョンやミッショ
ンを浸透するためのコミュニケーションインフラをいかに作るかが大事であろう。
問2:中国で成功する企業はどういう企業か、1つの考えとして、収益、シェア、ブラン
ドに集約されるのではないかという話もあるが?
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答2:
まずは、総経理のリーダーシップが必要であろう。また、社員との意思疎通なくしてブ
ランドの確立は難しい。さらに、日本人総経理は時には「中国人は、こうこうだから」と
言い訳してあきらめてしまう傾向もある。中国人はいわゆる「ガラスの天井」には敏感で
あり、日本人総経理が日本本社に伺いながら仕事をし、自分たちの話を聞いてくれないと
感じている。負のスパイラルを逆に展開することが必要である。
グローバル人材を育成すべく、さまざまな企業が人事制度作りに取り組んでおり、中に
は、将来の幹部候補生を選抜して教育している企業もある。また、日本では駐在候補人材
がどんどん減尐している中で、若手を海外に早めに派遣し、将来の駐在員の量を確保する
動きや、採用を海外で行い、海外で幹部候補生を直接採用してしまうという話などもある。
しかし、そうした新卒の候補生が幹部になるのは 20 年後のこと。こうした「長期的な視点」
でのアプローチも重要だが、まさに今、現場でマネジメントに四苦八苦しているリーダー
層のレベルアップも必要である。つまり、今をどうするのか、5年後、10 年後先を見据え
て、キーマンとなりそうな人材にリーダーシップをどう発揮させるのかという、個人への
アプローチが重要であろうと考えられる。
問3:いわゆる「勝ち組企業」になるためのポイントは何か?
答3:
基本的には、フィードバックのサイクルをどうつくるかが大事である。例えば、リーダ
ーが組織にあるビジネスプランを示したときに、ダイナミズムを生み出していくためにフ
ィードバックすることである。
頭で分かるのと行動を起こすことは全く違うものである。さまざまな切り口からフィー
ドバックされてきて、初めて現場の理解度に関する情報を得ることができる。
通常、リーダーは社員一人一人がどのように自分の発言を受け取っているのか知りたい
が知る手だてがない。例えば、トップが拠点を回って方針を説明し、次の日にアンケート
した時に、60%の社員が「この方針は成功しないと思う」と記載していたらその方針は上
手くいかないものである。しかし、そうした現場のフィードバックを早く知るためのシス
テムがあれば、先手先手で次の対策が打てるであろう。そのようなフィードバックのサイ
クルが早くなればなるほど組織が機能するようになるというのがポイントである。
また、人材育成でもポイントがある。組織としては「自分で考えて行動できる人材」が
多い方が良い。しかし、中国人は自分のノウハウを見せたがらず自分のことだけを考える
傾向もある。また組織よりも、人に対してロイヤリティを抱くという特徴がある。それを
否定することなく組織の一員としてどう教育していくのかが重要である。視点を変えさせ、
個人为義的な強みを活かして組織人として振舞う方法をインストールしていく訳である。
歴史的背景からなのか、中国人幹部に問いかけると、「なぜそのようなことを聞くのか」
というような反応が多いように思う。しかし、丹念に問いかけを繰り返すことで、考える
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習慣がつくと、しだいに組織全体のことを考えることも面白くなるようだ。こうした過程
で、人間関係構築が組織に影響を与えることや、組織の成長は自分の成長にもつながる、
ということを理解させていくことが大事である。
問4:ジョブホッピング、労働争議の問題にはいかに対応すべきか?
答4:
ジョブホッピングや労働争議が発生する背景には、日常の会話がなかったり、信頼関係
が構築できていない場合が多いのではないか。中国人は、本来ロイヤリティを持っていた
り、長い間、同じ組織に属して力を使いたいと思っている。残念ながらそういう環境が与
えられていないためにジョブホッピングしていくのであろう。
日本人のワーディングや、異文化コミュニケーションに左右される部分も多い。赴任後、
最初にどういうプレゼンスを示していくのか、どういうことを明確に伝えていくのか、赴
任前に確認しておくことも必要だ。
語学の問題については、
「できる・できない」のレベルはあるにせよ、語学以外のところ
でも対応できることはある。何を誰にどう伝えるか、そこに語学が一要素として加わって
いるだけである。
最近、顧実の中国事業部などから相談を受ける課題は、拠点長が変わることで今まで上
手くいっていた組織が上手くいかなくなる場合があるというものである。なかなか打つ手
はないが、リーダーシップをどう評価していくか、新しく着任する人のためにサポートが
可能なことはないかという視点で取り組んでいくことが肝要だろう。
問5:最大の課題といわれる人材の現地化であるが、そのポイントは何か?
答5:
「現地化、現地化」と多くの企業はいうが、本当に現地化しようと思っているかがカギ
である。实はあきらめている場合や、駐在員である自分が日本に帰りたくないことが根底
にある場合もある。
ポイントは、組織を成長させ、リーダーシップを取れる人間をその組織の中で多く作る
ことにあり、次世代を担っていく中国人のリーダーを育てるのが日本人駐在員の本来の役
割とすることも必要である。
(中国北アジア課 矢内 雅章)
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第4章
地方経済活性化に向けた中国の活用
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第4章 地方経済活性化に向けた中国の活用
日本の尐子高齢化の進展に伴う人口減尐を背景に、国内市場のさらなる拡大に向けた取
り組みは難度を増している。特にこうした状況は地方においてより顕著となっている。こ
うした中、各地方自治体は経済活性化に向けて多種多様な取り組みを实施している。なか
でも、地方自治体の多くは、成長を続ける中国の活力を経済活性化に繋げるべく、取り組
みを強化している。
取り組みの内容をみると、従来から展開されていた中国に進出した各地域の企業に対す
る支援に加え、最近では、ほとんどの地方自治体が、中国市場の拡大を踏まえた、各地域
産品の中国市場への展開支援に取り組んでいる。さらには、中国人観光実の訪日ビザ発給
用件の緩和に伴い、観光実の誘致に積極的に取り組む地方自治体も増加している。
また、各地方自治体が中国との経済交流に向けた取り組みを多様化させる中で、重要な
「インフラ」となりうるのが、中国の地方政府との間の友好都市提携である。1973 年に神
戸市と天津市が友好都市提携を結んだのを皮切りに、現在 338 件の地方自治体と地方政府
等との提携が存在する。その交流内容をみると、かつては文化交流が为体であったが、最
近では経済交流にも取り組む地方自治体も増えている。長期にわたる友好都市関係を活用
し新たなビジネスチャンス創出につなげていこうとする取り組みだ。
本章では、上記に掲げた中国を活用した地域活性化政策への取り組みについて地方自治
体の取り組み事例を紹介しつつ、中国を活用した今後の地域活性化のあり方について提案
をしていきたい。
Ⅰ.観光誘致の取り組み
近年、地方経済活性化のための方策として、アジア新興国の観光需要を取り込もうとす
る動きが活発化している。
とりわけ中国は、2010 年7月の訪日ビザの発給条件緩和により、
今後さらなる観光実数の増加が見込まれる。实際、日本への中国人観光実数も 09 年の 101
万人から 10 年は前年比 39.6%増の 141 万人16へと順調に伸びている。加えて、中国人観光
実の一人当たりの消費金額は 12.8 万円17ともいわれており、観光実の増大による経済効果
も期待される。こうした中、全国の地方自治体では、中国人観光実の誘致による、地方経
済活性化の取り組みを始めたところも尐なくない。
1.映画・ドラマのロケ地誘致
中国人観光実の日本に対する観光需要は、東京-大阪間のルートを巡る「ゴールデンル
ート」が大半だ。北海道や沖縄など一部の地域を除けば、地方の観光地について中国人の
16
17
日本政府観光局「JNTO 訪日外実統計」
日本政府観光局「JNTO 訪日外実消費動向調査」
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知名度は低いのが現状である。各地方自治体はこうした状況を踏まえ、まずは認知度向上
のための PR 活動を实施している。具体的には、観光説明会、観光商談会の開催や、知事に
よるトップセールスなど、多種多様なツールを利用した観光プロモーションが实施されて
いる。
なかでも、北海道を舞台にした中国映画「非誠勿擾(狙った恋の落とし方)
」を通じ、中
国人の北海道に対する知名度が大きく上がり、観光実の増大にもつながった事例もあり、
各自治体においても海外メディアの誘致を盛んに行っている。映画の撮影舞台やテレビド
ラマのロケ地になることで宠伝効果が期待でき、ロケ地を巡る観光需要(スクリーンツー
リズム)の喚起も期待できる。静岡県が上海のテレビ局(上海メディアグループ:SMG)
を誘致し製作したテレビドラマ「杜拉拉昇職記(Go Lala Go!)
」は見事にヒットし、それ
により静岡県内のロケ地観光が中国人観光実の間で人気を集める結果となった。また、石
川県も北京の製作会社とともに県内を舞台とする映画を製作するなど、同様の取り組みは
秋田県、鳥取県、栃木県、山梨県など全国各地でみられる。しかし、投下した資本金に見
合った PR 効果は必ずしも得られるとはかぎらない。「映画のヒットを通じた知名度向上策
が、全てのケースにおいて成功するとは限らない」と見る向きも尐なくない。
2.産業面での強みも観光客には魅力
各種プロモーション活動に加え、独自に観光ツアーを開発し自県の魅力を売り込む自治
体も尐なくない。なかには観光ツアーのルート上に産業施設や医療施設を組み込むなど、
地域の特性を生かした観光ツアーをアレンジし、中国人観光実を呼び込んでいるところも
ある。
とりわけ注目されるのが、政府の「新成長戦略」にも盛り込まれた国際医療交流(メデ
ィカルツーリズム)だ。徳島県は糖尿病医療の先端技術を有するという強みを生かし、糖
尿病検診を組み込んだ観光ツアーの推進を施策としている。为にファミリー実をターゲッ
トとし、検査希望者が糖尿病検査を受診している時間を利用して、家族には観光旅行を楽
しんでもらう企画だ。阿波踊りやラフティングを体験できるオプショナルツアーも用意さ
れている。福島県でも、日中の病院間提携を通じ、陽電子放射断層撮影装置(PET)を用
いたがん検診の受診をコースに含めた観光ツアーの開発を支援している。こうしたメディ
カルツーリズムに向けた取り組みは現時点ではまだ試行段階であるが、長崎県、熊本県、
岡山県なども取り組みに意欲を見せている。今後は通訳の問題、診断結果についての日中
間の違いなど、实務面の問題解決も必要となる。
有力企業や有名施設を抱える自治体では、産業(企業)観光にも積極的に取り組んでい
る。アサヒビールの各工場では、無料でビールを試飲できる工場見学ツアーを用意してい
るが、同社の博多工場ではそれが外国人観光実の間でクチコミにより広まり、10 年は、韓
国と中国を合わせて 10 万人超に達した。アサヒビールは福岡県の産業観光の対象施設とし
て同県の観光振興に協力している。また、三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットでは、F1 グラン
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プリの観戦ツアーを組み合わせたスポーツ観光の可能性を模索している。
3.注目される格安航空会社(LCC)やクルーズ船の誘致
その他最近では、観光誘致の新たな手段として、格安航空会社(LCC)やクルーズ船と
いった、交通手段を含めた誘致も始まっている。航空機や実船という輸送手段は、観光実
の貴重な移動手段であることに加え、地方空港や地方港湾を抱える自治体にとっては、施
設の利用促進および施設使用料の収入増加にもつながる。
中国の LCC「春秋航空」
(本社:上海市)は、親会社である「春秋国際旅行社」が中国最
大の民間旅行会社であることが強みだ。団体ツアー実を中心に一定の観光実需要を確保す
ることで、安定した搭乗率の達成を見込むことができる。また、九州観光振興機構による
と、現在九州に寄港する「コスタクルーズ」
(本社:イタリアジェノバ市)については、ク
ルーズ船の乗実 1,000~2,000 名の9割以上は中国人観光実である。
このうち春秋航空は、初の日本便として 10 年
7月、茨城空港にチャーター便を就航させ、11
年3月からは高松空港とも定期的な運航を開始
することを決定した。これらの便は片道 3,000~
4,000 円という格安チケットで話題となったが、
これらの地方空港への就航は東京および大阪へ
のアクセスの良さが決め手となった。つまり、春
秋航空が期待するのは「ゴールデンルートの出入
<写真:茨城空 に就航する春秋航空>
口」としての役割であり、あくまで観光ツアーの
機
中心はゴールデンルートである。
「関東や四国地方全体の観光コースはまだ考えていない」
(春秋航空関係者)という現状では中国人観光実は県内を素通りすることになり、期待さ
れる経済効果は見込めないと見る向きも尐なくない。
春秋航空の就航を地方経済の活性化につなげるためには、中国人観光実に足を止めても
らうことが必要だ。そのためには関東地方や四国地方など広域の観光コースを設定し、地
域の観光資源を盛り込んだ魅力ある観光商品の開発が不可欠である。またこうした広域連
携は、資金や人材を集約化させることで、効率的なプロモーション活動が可能となる。現
在、茨城県や香川県では、周辺の地方自治体との連携の可能性を探っているが、その効果
が期待される。
また、九州に就航するクルーズ船については、ここ数年間順調に寄港回数を伸ばしてお
り、09 年の 103 回から 10 年は前年比 53.4%増の 158 回となった。しかし、観光実の滞在
時間を延ばすには、より魅力的な観光プランの開発と周辺地域の連携が欠かせない。現在
九州では、九州観光推進機構を中心に複数の県にまたがる観光プランを売り込むなど、7
県が一体となったクルーズ船誘致に向けた取り組みを行っている。
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4.地方自治体の広域連携でさらに効果的な誘致を
以上のように、各地方自治体では観光誘致に向けた様々な取り組みが展開されているが、
さらなる観光実の増加を図るには地域間の連携が不可欠だ。自治体どうしが連携すること
で、観光資源の厚みが増すほか、新たな観光需要の掘り起こしにつながる。また、輸送の
ための空港や港湾などの資源を補完することができる。さらに、統一的なプロモーション
活動の展開により、資金や人材面などのコスト削減も期待できる。
また「観光産業は総合産業である」
(茨城県関係者)ともいわれるが、安心安全な日本産
の食品を始めとした地場産品の販売戦略と観光戦略を密接に結びつけ、観光促進と輸出促
進を一体にしたプロモーション活動の展開も求められる。
今後は、リピーター実や個人観光実の増加に伴い、日本国内での観光需要は分散化・多
様化する傾向をたどるともいわれ、知名度の低い地域にとっても、観光実増加に向けた可
能性が生まれている。こうした中、各自治体に求められるのは、当該域内だけにはとらわ
れない広域的な視点であり、観光資源をフル活用しながら、より魅力的な観光商品をいか
に提案し売り込んでいくかがカギを握るのではないだろうか。観光産業の振興のためプロ
モーション活動を始めとする様々な手法を組み合わせることで中国人観光実の誘致に成功
し、地域経済活性化につながることを期待したい。
(中国北アジア課 籔根 浩司)
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Ⅱ.地場産品の輸出促進
日本では尐子高齢化を背景とした人口減尐により、国内の市場においてさらなる販路拡
大を図ることは今後一層難しくなるとみられる。このため、海外市場の開拓は喫緊の課題
となりつつあり、为に中国を始めとしたアジアへの輸出を進めていく企業は増加する傾向
にあり、各地方自治体も支援体制を強化している。
輸出促進の例として、各地方自治体は食品商談会や地域物産展を中国などで開催し、特
に障壁を設けることなく幅広い企業を対象に出展活動を支援している。地方自治体の担当
者は、
「商談会は食品の輸出を検討している企業の勉強の場であるため、出展にあたり行政
が必要以上の注文をつけることは尐ない。商談会や物産展の参加を通じて、各企業は今後
海外での販路拡大を实践するかを検討してもらえればよい」と述べる。
しかし、初めて食品商談会や地域物産展に出展する企業のほとんどが中小企業であり、
海外とのビジネス経験のある企業は尐ない。以下、地場産品の輸出先として多くの地方自
治体や企業が販路開拓に取り組む中国において、上海・香港市場を例に取り、地方自治体
の輸出促進に向けた具体例を踏まえつつ今後の課題を検討していく。
1.輸出促進に向けた課題
(1)上海市場における課題
各地方自治体が中国で食品商談会や地域物産展を实施するにあたり、上海を選ぶ地方自
治体は尐なくない。理由としては、中国の中でも特に富裕層が多い都市であり、上海人の
嗜好が他都市に比べて一歩進んでいることなどが挙げられる。また、日系高級スーパーも
多いことから、各地方自治体は中国マーケットへの足がかりをつかむ上で、上海でのプロ
モーション活動に力を入れている。
(図表1)2010 年度に都道府県が参加した上海の主な物産展一覧
自治体名
物産展名称
開催時期
会場
北海道
北海道物産観光展
10 年9月2~12 日
上海三越
福島県
福島県産品即売会
10 年8月 21~29 日
GL Japan Plaza
福島県ほか
日本特産ギフト合同食品物産展
11 年1月 26~27 日
上海花園飯店
新潟県
新潟物産展
10 年 10 月 13~19 日
久光百貨上海店
岐阜県
岐阜県観光物産展
10 年 10 月 21~27 日
上海梅龍鎮伊勢丹百貨
京都府
京都物産展
11 年1月 19~25 日
久光百貨上海店
鳥取県
鳥取県上海物産展・商談会
10 年8月 19~25 日
GL Japan Plaza
愛媛県ほか
日本総合物産展
10 年6月7~13 日
上海梅龍鎮伊勢丹百貨
福岡県ほか
九州・沖縄物産展
10 年9月 16~29 日
上海梅龍鎮伊勢丹百貨
佐賀県
日本佐賀産品店
10 年9月 30~10 月6日
上海梅龍鎮伊勢丹百貨
(出所)都道府県等公表資料及び報道資料に基づき作成
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しかし、日本の農産品の対中輸出においては、中国側の検疫上の規制により、米、なし、
りんごに限り解禁されている状況である。そのため、上海における食品プロモーション活
動において展開可能商品は加工食品や酒類が为体となる。
加えて、中国への輸出にあたっては、高額な関
税が賦課されることや、通関や検疫といった事務
手続きに膨大な手間と時間を要することが大きな
壁となっている。また、中国へ食品や農産品を輸
出した場合、現地での小売価格は日本の市場価格
の2~3倍となることから、日常的に購入する商
品としての販売は難しく、春節などのギフト商戦
時期に販売されることが尐なくない。しかし、地
場食品の輸出は自らの地方自治体をセールスする
うえで大きな機会となることから、参入障壁があ
っても取り組みたいと考えている地方自治体は尐
<写真:上海の日系スーパーで販売される
青森県産のりんご>
なくない。
また、地方の中小企業が生産し、中国へ輸出した加工食品と中国市場において知名度の
あるナショナルブランドの食品とを比較した場合、地場産品はブランド力、価格競争力の
両面で不利な状態に立たされる可能性も指摘される。地場産品を中国市場で売り出すにあ
たり、限られた規模の販売促進活動を通じ、知名度不足を克服することは難しいといった
課題もある。
現状では中国へ輸出ベースで地場産品を販売する場合は、富裕層を相手にマーケティン
グを地道に続け、
「高くても売れる」商品をアピールしていく必要があるといえる。企業と
しては継続的に現地でのテストマーケティングを重ね、現地の消費者の嗜好に合致した商
品を探っていく必要がある。日本で売れるものが必ずしも上海で売れるとは限らない。ま
た、地方の名物が必ずしも上海の市場にフィットするとも限らない。焼酎を例に取ると、
上海にあるスーパーの担当者は、
「中国には焼酎の文化がないため、焼酎の売れ行きは芳し
くない」と語る。
また、地方自治体は継続的なプロモーション活動を支援すると共に、現地で売れる商品
を発掘するためのマーケティング調査への対応も求められよう。具体的には、地方自治体
として売りたい商品のマーケティングではなく、現地嗜好に合わせた商品のマーケティン
グ、さらには現地嗜好にあった商品開発支援なども検討すべき課題であろう。
(2)
市場における課題
中国とは異なり、日本から香港への農産品の輸出は一部例外を除いて大きな規制はなく、
また関税もかからないことから、日本産の農産品や加工食品が香港のスーパーで幅広く販
売されている。また、ジェトロ「貿易統計データベース」によれば、日本の食料品、動植
167
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物生産品の輸出先として香港は首位をキープしている。10 年1~11 月の日本から香港への
輸出額は、前年同期比 31.6%増の9億 8,159 万ドルと 09 年累計額を上回っている。
(図表2)日本の食料品、動植物生産品の国・地域別輸出額の推移
単位:万ドル
120,000
100,000
80,000
米国
60,000
台
中国
40,000
国
20,000
0
2006
2007
2008
2009
2010
1-11月
(出所)ジェトロ「貿易統計データベース」
香港で販売される日本産の農産品の場合、中国産のものと比べて価格が4倍以上するも
のもあるが、日本の農産品が持つ「安全・安心・おいしい」というブランドイメージを比
較優位にして、香港の富裕層を中心に堅調に販売を拡大している。そのため、多くの地方
自治体や企業が海外への販路拡大の第一歩として香港のスーパーやバイヤーに対しプロモ
ーション活動を積極的に展開しており、上海同様、香港でも地方自治体が開催する食品商
談会や物産展が盛んに開催されている。その結果、香港市場では、いちごのように複数の
産地から輸出されている商品は、産地間競争が激化している。長年卸していたスーパーに
他の産地の商品が入ることで、そのスーパーからの撤退を余儀なくされた事例もある。
地方自治体としては、地場産品の販路拡大を進めるべく、競合商品であれ積極的に輸出
攻勢を強めているが、規模の限られた香港市場(10 年末現在、人口 710 万人)でシェアの
「食い合い」に陥るリスクがある。そのため、産地間競争を展開するだけではなく、ライ
バルとなる他産地商品との間でウィン・ウィンとなる環境をいかに作り出すかも重要な課
題であろう。
2.地方自治体による取り組み事例
(1)上海の事例
中小企業が自社の食品を初めて輸出する場合、信頼のおける輸入業者との接点や貿易に
関する知識・ノウハウを有しているケースが尐なく、輸出にあたっての手続き等が海外展
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開への最初の関門となる。福島県では、その関門克服のために 09 年度に福島県上海事務所
と上海伊藤忠商事有限公司が業務提携を締結し、福島県産品の販路開拓拡大に向けて、上
海伊藤忠商事が支援する体制を整えた。
具体的には、福島県内の企業が製造した商品を上海伊藤忠商事が買い取り、同社のネッ
トワークを通じて上海のスーパーや飲食業者等に販売していくというものである。また、
福島県の現地における物産展や商談会を共同で实施することで、地方自治体にはない商社
のノウハウを活用した展開が可能となる。このように、地方自治体と商社の提携は貿易ノ
ウハウを持ち合わせていない新規参入企業にとっては、現地への市場開拓に向けた一助と
なるといえよう。
(2)
の事例
栃木県では香港市場への農産品の輸出拡大に取り組んでおり、米やぶどう、いちごなど
を輸出している。また、10 年度からは香港へ「とちぎ和牛」の輸出を開始した。
まず、米については、新規需要米18としての「なすひかり」を香港輸出の为力としている。
日本穀物検定協会の「2010 年産米の食味ランキング」で特 A 認定された良食味の米であり
ながら、価格はコシヒカリより安価であることで、日本料理店や小売店で好調に販売を続
けている。同県では、米のおいしさを知ってもらうことが販売増加につながると考え、日
本産米(短粒種)に適した正しい米の炊き方の中国語繁体字で書いたリーフレットを作成
し、量販店店頭にて配布した。
次に、いちごについては、栃木県産のいちごの代名詞ともいえる「とちおとめ」の販促
活動を香港市場で積極的に展開している。しかし、とちおとめは他の品種と比べて果皮が
痛みやすいため、輸出に耐えうる専用のパッケージを用いて香港へ輸出している。このよ
うな創意工夫により、とちおとめの対香港輸出額は増加傾向にある。同県では、今後も継
続的にとちおとめを輸出し、販売量の増加を目指すため、包装等の改善や輸出経費の削減
に取り組んでいる。
18
農林水産省「米穀の需給調整实施要領」では、国内为食用米及び加工用米以外の米穀(稲を含む)と定
めている。用途としては、飼料用、米粉用(米以外の穀物代替となるパン・麺等の用途)
、稲発酵粗飼料用
稲、バイオエタノール用、輸出用、青刈り稲・わら専用稲、为食用以外の用途のための種子、その他その
用途が为食用米の需給に影響を及ぼさないものと定めている。当該米は原則、ほ場(水田)1枚を単位と
して作付けられ、国の生産数量目標の外数として取り扱われる。
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(図表3)
消費者向けのとちぎのお米紹介パンフレット
(出所)とちぎ農産物マーケティング協会
3.今後の取り組みにおける課題
地場産品の海外での販路拡大にあたり、最大の鍵となるのが企業自身の「継続性」であ
るといえる。多くの地方自治体担当者は、「商談会や物産展に1回だけ出展して満足してい
ては不十分。継続的に出展し、バイヤーとの関係を構築しなければ、商談成立にはつなが
らない」と語る。すでに中国や香港で販売ルートを有する中小企業も同様に継続性の大切
さを語る。
現在、地方自治体が企業支援として可能な部分は、販路拡大への機会の提供が中心とな
る。その機会を企業が活用し、継続的な取引につなげていくためには、まずは企業自身の
努力が必要となる。しかしながら、实際には商談会や物産展に出展するだけで終わってし
まう企業は尐なくない。企業が海外市場の難しさを痛感して海外進出を断念してしまうケ
ースもある。
また、商談会や物産展への出展常連企業も、むしろ現地バイヤーに飽きられてしまい、
新たな販路拡大に向けた壁にぶつかっているケースもある。こうした海外展開の難しさを
踏まえ、各地方自治体の支援活動においても、イベントの展開だけではなく、今後は企業
に対する市場ニーズの研究、提案を地方自治体も進める必要があるといえる。既存の枠に
とらわれず、企業との「二人三脚」の支援活動の展開がより一層求められてくるといえそ
うだ。
(中国北アジア課 渡邉 邦彦)
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Ⅲ.地場産業の海外進出支援
現在、製造業を中心に多くの中小企業が中国に進出している。地方自治体は为に地元の
中小企業を対象としたビジネスチャンスの創出に向け、地場産業を対象にしたビジネス・
マッチングやミッション派遣、展示会への出展支援など中小企業支援に取り組んでいる。
また、地方自治体の中には中国に加えて東南アジアへの企業進出支援に取り組んでいる
ところもあり、中国以外の第三国・地域への投資需要への対応も進めている。特に、製造
業が各地方における基幹産業の場合、製造業に対する継続的な支援が地方経済の活性化を
下支えしている意味から、地方自治体は特に海外でビジネスを展開する製造業への支援体
制を強化している。
1.地方自治体による中国進出支援事例
各地方自治体による海外進出企業の支援メニューは、大きく分けると①ビジネス・マッ
チング事業、②海外へのミッション団派遣または海外ミッション団の自治体による受入、
③各種展示会への出展支援、④個別案件に対する便宜供与が挙げられる。
海外進出企業支援に取り組んでいる地方自治体について、福島県、福岡県、福岡県北九
州市の事例を紹介する。福島県は県庁と同県上海事務所が中心となり、中国進出企業に対
して様々な支援メニューを用意している。具体的な企業支援メニューを挙げると、1つ目
として中国に進出している県内企業等で構成する「在中国福島県関連企業連絡協議会」の
会員企業に対して、ビジネス・マッチングなどの機会提供を行っている。この他、福島県
は 10 年9月にジェトロ福島が为催する「ものづくり上海ビジネス商談ミッション」を共催
し、現地企業などとの商談会を实施した。同年 12 月には広州市でジェトロが開催した「日
系自動車部品販売調達展示会」に福島県ブースを設置し県内企業の出展支援を行った。こ
れらの事業の实施のように、地方自治体は海外における地場産業のビジネスチャンスの拡
大機会を創出し、地域経済の活性化につなげていくよう努めている。
しかしながら、福島県の担当者は「製造業への支援については更なる検討が必要である
と思う」と語る。製造業が抱える案件が多種多様にわたる一方、案件によって担当部署が
異なることから、県としてワンストップ支援ができていないといった課題がある。これに
ついては福島県に限らず、他の地方自治体でも同様の課題を抱えていると思われる。課題
解決に向けては、地方自治体は企業からの相談窓口をワンストップ化することで、関連部
署で情報を共有して解決を図っていくことが求められよう。
また、
福岡県では 70 年代に公害を克服してきた経験を活かし、
環境分野の交流を通じて、
環境保全に関する国際貢献を行うとともに環境産業の振興を目指している。
同県は 10 年度、
友好提携先であるベトナムハノイ市、中国江蘇省それぞれと「環境協力協定」を締結した。
同県としては、アジアの環境保護に貢献することで、地場産業のさらなる振興を図ってい
く方針だ。
171
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この他、福岡県北九州市では市の基幹産業ともいえる鉄鋼業の中国市場への販路拡大を
目指している。鉄鋼業は裾野が広く、市内には関連の中小企業が多く存在する。09 年の北
九州港の中国への鉄鋼輸出額は 641 億円と同港の対中輸出の 29.6%を占めた。
同市としては、中国を「市内中小企業の最大の販路拡大先」として位置づけており、市
内中小企業の対中ビジネスを積極的に支援している。他方で、中国への生産拠点進出は、
特にオンリーワンの技術を持つ中小企業の中には知的財産が侵害され、それが流出する懸
念があることから、同市では対中ビジネス支援と平行して中国における知的財産保護に向
けた課題に取り組んでいる。
(図表1)2009 年の北九州
中国向け品目別輸出額および構成比
その他
486億円
22.4%
輸送用機器
73億円
3.4%
鉄鋼
641億円
29.6%
食料に適さ
ない原材料
162億円
7.5% 電気機器
一般機械
582億円
26.9%
223億円
10.3%
(出所)北九州貿易協会
2.地方自治体による中国以外の国・地域に対する支援事例
各地方自治体においては、中国進出に関する支援事業を中心に企業の海外展開を支援し
てきたが、企業の中国以外の国・地域への進出ニーズに応えるかたちで、近年では東南ア
ジア諸国進出を支援する地方自治体もあらわれている。
例えば、長野県では 10 年 10 月にマレーシア、11 月にタイで製造業を対象とした展示会
の出展支援を財団法人長野県テクノ財団と共同で实施した。具体的には、各展示会に長野
県コーナーを設け、各国での市場展開等を検討している優れた技術を有する県内企業を募
り、これら企業に対し出展スペースを提供することにより、企業の現地における事業拡大
を支援するというものである。
北九州市では、地域企業の声を受けて、09 年4月に製造拠点の進出や部材調達および販
路開拓先として関心が高まるベトナムのハイフォン市と友好協力協定を締結した。協定の
内容をみると、経済交流を明確化したものとなっており、両市企業の交流拡大につながる
内容となっている。協定に基づき、10 年度には北九州市長や市の幹部職員がハイフォン市
を訪問したほか、ハイフォン市の評議会議長が北九州市を訪問するなど、双方が活発に交
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流を行っている。
また、ハイフォン市の産業競争力の強化は北九州市内企業との交流や取引の拡大につな
がるという期待がある。そのため、北九州市ではハイフォン市の工場管理能力向上に向け
て、11 年4月から JICA の草の根支援事業(地域提案型)
「ハイフォン市製造業の工場管理
力向上プログラム」を北九州国際技術協力協会を通じて实施していく予定である。内容は、
为に「生産マネジメント人材育成」と「プラントエンジニアリング向上」から成り、ハイ
フォン市内の職業訓練校にてこれら支援メニューを实施していく。
ベトナムのほか、北九州市ではインドネシア市場にも関心を強めている。市の担当者は、
「インドネシアは産業の発展段階が北九州市内企業の技術をすぐにでも必要としている時
期にある」とインドネシアにおける販路開拓を支援する理由を述べている。すでに、10 年
12 月に九州経済産業局から補助金を受け、市内企業を連れてインドネシアの展示会に出展
した。今後も経済産業省からの補助金の交付などを受けながら、インドネシアの大手機械
企業に商談を仕掛けていく意向である。
3.今後の地方自治体による海外進出企業支援の展望
従来の地方自治体の海外進出企業支援は、为に中国に新たな拠点を設置したいという企
業ニーズに応えるかたちで、それらの企業のために地方自治体が中国の投資環境を調査し、
それを企業に還元する取り組みが为であった。今後は、新たに中国への拠点設置を検討し
ている企業の支援に加え、地場産業の中国市場開拓のための支援メニューを強化すること
が地方自治体に求められている。
地場産業の中国市場開拓の取り組みとして、愛知県では県内中小企業等の環境関連技
術・製品の中国市場での販路開拓やマーケット拡大のために「中国国際工業博覧会」の出
展支援を 06 年以来5年間継続して实施している。県の担当者は「県が出展支援を開始した
当初から募集枠を上回る出展があり、その後回数を重ねるごとに当該博覧会に対する企業
の認知度が向上し、リピーター企業が増えると共に新たに出展を希望する企業が増えてき
ている」と述べている。地方自治体の中には、新たな支援メニューを实施はするものの、
成果が上がらなければ1年で事業を取りやめてしまうところも尐なくないが、今後の中国
市場のニーズを把握した上で、企業の成長を持続的に支援するためには、長期的な視点で
の継続的な支援が望まれる。
地方の財政事情が厳しさを増す中で、地方自治体としては、地場産業の進出支援におい
て、早期に具体的な成果を求められるケースも尐なくない。一方で、海外経験の尐ない企
業が海外に進出してすぐに成果を出すことは難しいため、この相反する課題にどのように
対処するかが地方自治体にとって大きなテーマとなっている。成果達成のためには、地場
産業の強みを活かしつつ、継続的で粘り強い支援活動を展開することが求められている。
(中国北アジア課 渡邉 邦彦)
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Ⅳ.対日投資と地域活性化
地域経済の活性化策として、外資系企業の誘致に取り組んでいる地方自治体もある。企
業誘致にあたって、各地方自治体では基幹産業や交通・物流インフラ面の強みなどを外国
企業に PR している。また、地元企業に対してもセミナーなどの開催を通じ、企業誘致に関
する普及啓蒙・理解の促進に努めている。
地方自治体が取り組む企業誘致の例として、福岡県福岡市は、幅広い産業分野での企業
誘致に力を入れており、海外におけるシティセールスを強化するべく北米とシンガポール
にアドバイザーを設置し、外資系企業誘致をサポートしている。
实際に同市では、ホームセンターの卸売業を営む中国企業の誘致に成功した。当該企業
には日本のホームセンターで勤務経験のある人物がおり、日本におけるビジネスの手法に
も精通していることから、現在では行政のサポートがなくても順調に事業を展開している
という。
他方、中国企業による対日投資を通じ、日本の国内市場において新たな競争相手が登場
してしまうといった懸念もある。また、地理的、産業面での強みを PR することが難しい地
方自治体にとっては、対日投資のための企業誘致活動が進んでいないところも尐なくない。
現在、ジェトロがサポートした対日投資事例をみても、外資系企業進出先は東京、名古屋、
大阪などといった大都市が相対的には多い結果となっている。
しかし、海外からの企業誘致を進めていくことは、地域における雇用の創出や経済活動
の活発化による税収の増加にもつながることから、各地方自治体が外資系企業の誘致に取
り組む意義は小さくない。今後、外資系企業を地域に誘致する上で、地方自治体が取り組
むべき課題としては、継続的に進出候補企業に関する情報を提供し、当該候補企業のニー
ズと地域産業やインフラ等がマッチするかを不断に検証するとともに、地元で受け入れを
希望する企業がいるか、誘致成功に向けて当該企業に対する万全の支援体制をとることが
求められる。現状、大都市以外の外資系企業誘致の成功事例はまだ尐ないが、将来的に地
域経済が持続的に発展していくためのひとつの道として、外資系企業誘致を通じた経済の
活性化は今後地方自治体が中長期的な視点からも取り組むべき検討課題であるといえよう。
(中国北アジア課 渡邉 邦彦)
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Ⅴ.友好都市提携の活用
日中の地方政府レベルの交流は、1972 年の国交正常化後から開始された。自治体国際化
協会によると、締結された友好都市提携は、73 年の神戸市と天津市による提携を皮切りに、
11 年1月時点で合計 338 に及ぶ。
こうした地方政府どうしの交流は、初期においては地理的近接性や文化的類似性を契機
に開始されるケースが多かった。地理的近接性という点では、北海道・東北地方は中国東
北地域、中国・四国・九州地方は中西部および華南地域が为な対象となった。また、文化
的類似性という点では、文化、教育、行政、学術、芸術、スポーツなどを中心に幅広い友
好交流が行われてきた。しかし近年では、従来の友好交流中心の事業を一歩進め、相互に
利益のある経済的な施策を重視した、より实利ある交流を目指そうとする自治体が増えて
いる。
1.地方自治体による友好都市提携の活用事例
实利的な経済交流につなげようと、現在新たに友好都市提携の締結に取り組む自治体が
ある。例えば徳島県は、湖南省との間で現在正式な友好都市提携の締結に向けた準備を進
めている。両地域の交流は、徳島県鳴門市と湖南省張家界市との市レベルでの友好提携が
きっかけだが、中国人観光実の誘致に力を入れる徳島県が観光やビジネスのチャンスと捉
え、県レベルでも友好提携の準備に取りかかった。今後は交流事業の一環として、11 年か
ら湖南省長沙市からの定期チャーター便の就航開始で合意に至ったことを受け、同じく長
沙からのチャーター便が就航する静岡県と連携しながら、同省からの観光実誘致を推進し
ていく考えだ。すでに同省からの観光実を迎えている静岡県によると、同チャーター便の
搭乗率は常に 90%を超えており、県内のホテル・旅館業者への経済効果は大きいという。
また、友好都市提携を活用した企業進出支援の例としては、大分県大分市が挙げられる。
同市は 79 年、湖北省武漢市と友好提携を締結したが、当該提携を通じた両市間の交流はそ
の後ビジネス連携にも発展。武漢市から「九州乳業」(大分市)と「武漢開隆ハイテク農業
発展有限公司」
(武漢市)との合作契約が提案され、10 年6月には大分市、武漢市の行政の
手厚い支援が決め手となり、両社の間で合作企業が誕生した。
さらに、友好都市提携をきっかけとした県産品の販路拡大がある。この点注目される取
り組みが、福岡県北九州市だ。同市と大連市は「港を有する都市構造と、産業構造の類似
性」
(北九州市関係者)という共通点があったことから、79 年に大連市と友好提携を締結。
同市の初の友好都市となった。
北九州市は 70 年代の公害問題の経験により培った環境技術をもとに、大連市のエコタウ
ンづくりに協力している。まず、国家プロジェクトである「大連市環境モデル地区整備計
画事業」への協力事例では ODA を活用しながら環境改善のマスタープランを策定し、中国
で初めて国連環境計画(UNEP)の「グローバル 500」の受賞に貢献した。また、水ビジネ
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スの分野では、
10 年8月に民間企業 79 社と設立した「北九州市海外水ビジネス推進協議会」
を中心に、水質管理や浄水処理などの技術提供を行っている。こうした实績を環境ビジネ
スにつなげるため、
「中国国際環境保護博覧会」において現地企業との商談会を開催すると
ともに、09 年には常設のアンテナショップ(
「大連チャレンジショップ」)を開設。大連市
政府の協力を得ながら1年間で環境技術分野を含む 11 件の成約实績を挙げている。
また、自動車関連産業を中心に類似の産業構造を持つ愛知県と江蘇省の間でも、環境ビ
ジネスを足がかりに経済交流が進められている。同県も公害問題を克服した環境技術を強
みとしており、08 年には「アジア環境技術協力事業」として環境問題に苦慮する江蘇省か
らの要請に基づき技術者を派遣。さらに 09 年には環境保護についての技術協力を盛り込ん
だ「経済交流に関する同意書」を締結し、県内企業の環境ビジネス進出支援のためサポー
トデスクを開設している。
以上のように、環境技術は友好都市提携先地域とのビジネスに発展できる産業分野であ
り、そこに強みを有する自治体では、アンテナショップやサポートデスクの開設により、
現地市場のニーズを分析しながらビジネスチャンスにつなげている。
2.上海市以外の候補先とその役割
近年、地方経済活性化の手段として友好都市提携の活用が注目を浴びる背景には、まず
中国の経済成長がある。沿海部の都市だけでなく内陸部の都市においても所得向上に伴い
市場が拡大しており、友好都市提携先としての魅力が高まっているからだ。
また、上海に代表される沿海部の为要市場に参入する難しさがある。近年多くの地方自
治体が上海で開催される物産展や商談会などを利用しながら、上海周辺における地場産品
の販路拡大に尽力しているが、その難しさと限界も指摘されている。
「上海は世界中の企業
が進出し、熾烈な競争を繰り広げており、地方の中小企業が参入するのは難しい」という
声は尐なくない。そこで上海を避けて周辺地域に進出する場合に、候補先として注目され
るのが地方自治体の友好都市提携先だ。
沿海部の为要都市以外の地域に進出する場合、
「人脈もコネもなく進出するのは難しい」
、
「人脈などの取り掛かりがないと無理である」といった地方自治体関係者の指摘もあり、
友好都市提携が1つの足掛かりとなることも考えられる。实際、多くの地方自治体では展
示会や商談会を開始する際、友好都市提携先の地域が選ばれており、それを契機とした今
後の本格的なビジネス展開が期待される。
(中国北アジア課 籔根 浩司)
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Ⅵ.地方自治体と日本企業の連携事例
1.岩手県花巻市・デンロコーポレーション
最先端の環境調和型の工場視察と観光と連携させた「企業観光」の取り組みとしてデン
ロコーポレーションの事例がある。同社は 1946 年の創業以来培った高い技術を強みとした
鉄塔生産、鉄鋼製品生産用プラントの設計・製作や溶融亜鉛めっき加工などを取り扱う会
社だ。02 年に岩手県の花巻市にて溶融亜鉛めっき加工の最新鋭工場「東北ガルバセンター」
を操業開始した。同センターのコンセプトは「低環境負荷」と「自動化」である。
まず環境面では工場を完全密閉型に設計し、05 年には廃棄物のゼロエミッションを实現
した。具体的には①めっき加工の前処理段階を密閉式にすることで汚染された空気を工場
外に排出せず清潔な労働環境を維持、②廃棄物は清浄して外に排出(塩酸、硫酸などはア
ルカリ溶液に通すことで中和化させる、排気は水蒸気シャワーに通して洗浄後に排出など)
、
③作業場を清潔に保つことで安全で快適な労働環境を实現、などといった対策を講じてい
る。もちろん ISO14000 も取得。こうした技術の導入により、労働環境が「3K(きつい、
汚い、危険)
」の代表と言われた環境汚染型のめっき加工工場を、安全、安心な省エネ環境
保護型の事業に変えたことで、花巻市の緑豊かな山間での自然との共存が实現した。
また自動化においては、同社は同業他社に先駆けて自動化を推進してきた企業であり、
東北ガルバセンターは全国のめっき工場の中で最も自動化が進み先端技術が導入されてい
る。自動化の過程には多額の設備投資と長年の年月を要したが、現在では機械や産業ロボ
ットの導入により人件費の3~4割相当の削減を实現している。めっき加工は利益が上げ
づらい事業だが、自動化による人件費削減は同社のコスト競争力強化につながっている。
同社は精鋭技術を結集させた
同センターを積極的に対外的に
も広報している。毎年中国から
めっき業界、鉄塔業界の幹部や
視察団を受け入れ、こうした取
り組みを紹介。広報材料として
英語や中国語の DVD やパンフ
レットも充实させ、外国人向け
にもわかりやすく PR している。
またその際に花巻市役所とも
連携し、同市の観光産業とも結
びつけた広報を行っている。例
えば 07 年に北京で開催されため
っきの世界学会において、同社と
<写真:デンロコーポレーションの東北ガルバセンター
花巻市の広報ブースを併設し、企
(岩手県花巻市)>
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業紹介を行うと同時に花巻市の観光紹介も行った。また中国から来る視察団に対しては、
工場見学の延長として近隣に位置する花巻温泉施設や、岩手県名物のそばなど、観光もあ
わせたパッケージ型で案内している。
こうした取り組みは花巻市からも歓迎されており、同市も中国語の観光パンフレットを
作成し、中国人観光実の取り込みに意欲的に取り組んでいる。花巻市の大石満雄市長は
「個々の企業も重要な観光資源となりえる。
『企業観光』は観光誘致の促進に加え、日本の
ものづくりを中国に伝える良い機会でもある。行政としても支援していきたい分野」と「企
業観光」による地域活性化に高い期待を寄せている。
(中国北アジア課 黄 嘉妮)
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2.長野県上田市・サンクゼール
長野県上水内郡飯綱町に本社を置くサンクゼールは、为にワインやジャムの製造や販売、
レストランの営業を展開し、日本各地にも店舗展開している。同社はさらなる事業の拡大
を図るため、2010 年2月、現地法人「聖久世(寧波)商貿有限公司」を浙江省寧波市に設
立し、同年5月、
「世紀東方商業広場」に中国1号店をオープンさせ、中国進出を果たした。
多くの日本の食品メーカーが中国における最初の進出先として上海市場を狙う中、同社
は日本の食品が上海市場と比べて浸透していない寧波市場を進出先として選んだ。寧波市
場を選んだ理由として、聖久世(寧波)商貿有限公司の久世直樹総経理は「(サンクゼール
本社と同じ県内にある)上田市と寧波市が友好姉妹都市関係にあったたことが大きい。両
市は学生の交換留学を行っており、上田市にある大学にも寧波市からの留学生が来ていた。
その留学生を通じて形成された人脈を活用した」と語る。また、同社が寧波市のマーケッ
ト調査を实施した結果、商圏の人口の多さや所得水準の高さも進出先として選んだ決め手
になったという。
進出当初、寧波市場は上海市場と比べると食べ物の嗜好が保守的であることや日本企業
がワインやジャムを販売していることに対する理解が得られなかったため、売れ行きは必
ずしもよくなかった。
このため、自社製品の販売だけではなく、米や日本酒、他の地方の加工食品やナショナ
ルブランドの食品の販売に加えてジェラードなどの軽食を販売することで、集実力の向上
を目指した。その結果、売上は順調に推移したとのことで、
中国進出から1年余りで、同社は寧波市に3店舗、上海市の
シティ・スーパーに1店舗の合計4店舗を展開するまでに至
っている。
現在、寧波市の3店舗の商品展開は自社製品にこだわらず、
「Made in Japan」をコンセプトに幅広く日本の食品を取り
扱う店舗となっている。他方で、上海市の店舗では、上海市
の人は様々な食のジャンルを受け入れる土壌があることから、
自社製品のみの販売とし、売れ行きも好調とのことである。
また、同社では中国市場におけるビジネス展開だけではな
く、日本と中国の交流活動にも積極的に協力している。例え
ば、長野県の幹部が出席する中国への観光プロモーション活
動があるときは必ず同行するなど、同社は企業として成果を
収めるだけではなく、社会貢献活動を通じて日中の地方都市
間の交流促進に向けた取り組みを实践している。
<写真:サンクゼール寧波1号店>
(中国北アジア課 渡邉 邦彦)
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3.神奈川県横浜市・ファンケル
2010 年夏に中国人観光ビザの発給要件が緩和され、同年の訪日中国人は 141 万人と一挙
に前年比で 40 万人強増加した。しかし、個人旅行より団体旅行が一般的な中国人観光実の
ツアーは、東京-大阪間を移動する「ゴールデンルート」が为流であり、横浜への観光実
は中華街などの立ち寄りにとどまっているのが現状である。こうした状況を打開し、横浜
への観光実のさらなる呼び込みを図るべく、横浜観光コンベンション・ビューローは 11 年
1月3日~4月 28 日の期間で、美容、美食、美景など「美」をキーワードに中国人富裕層
などアジアの観光実をターゲットとした観光キャンペーン「美麗横浜(美の横浜)
」を实施
している。中国人女性に人気が高く、横浜に本社があるファンケルの協力を得て、「美の横
浜」というイメージを浸透させ、宿泊実を呼び込む狙いだ。市内の7つのホテルでファン
ケルの化粧水などが入ったアメニティセットを共通特典とする宿泊プランを企画した。
ファンケルと中国との関わりは、96 年から正規代理店を通じて香港での販売を開始した
ことにさかのぼる。その後 04 年から中国で販売を開始した。同社の事業は、無添加を特徴
とした化粧品事業と、化粧品との相乗効果により美肌を引き出す「内外美容」の考え方か
らスタートした栄養補助食品事業の2本柱であるが、無添加の意味、その良さ、機能等を
時間かけて徹底的に説明し、理解してもらうという地道な努力により、中国では日本に比
べて格段に高いブランドイメージが確立されている。日本では中国で販売していない商品
を購入できることもあり、同社商品は訪日中国人にとって大きな人気を呼んでいる。訪日
中国人実の増加とも相まって、中国人の訪日ツアーに組まれることが多い銀座の直営店「フ
ァンケル銀座スクエア」の 10 年3月期の売上高は前期比3割増に達した。中国人を中心と
する外国人実の購入単価は日本人実の平均単価の約3倍に達しており、外国人実は同店舗
の売上の5割超を担う重要な顧実層となっている。
中国で知名度の高いファンケルの協力を得て横浜に観光実を誘致する動きはまだ始まっ
たばかりであるが、横浜の本社1階にショップやカフェを併設したコミュニケーションス
ペース「ファンケルボイス」が 10 年 11 月にオープンし、銀座の直営店のように観光実が
立ち寄りやすい環境が横浜にも整備されつつある。中国で知名度の高い地元企業の協力を
得て、観光実誘致を図る試みとして、ファンケルとの連携を通じた観光促進事業の今後の
展開が注目される。
(中国北アジア課 日向 裕弥)
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4.京都府舞鶴市・日立造船
日立造船は 2010 年6月、大連泰達環保有限公司(遼寧省大連市)よりストーカ式ごみ焼
却炉の設備工事を受注したと発表した。本件は、大連市が計画したごみ発電事業の事業権
を、同事業の特定目的会社である大連泰達環保有限公司が受注したものであり、日立造船
がその設計業務や火格子等为要機器の供給・据付およびスーパーバイザー派遣等の技術サ
ービスを請け負うもの。発注为の大連泰達環保有限公司は、本プロジェクトを中国東北地
域のごみ焼却事業モデルプロジェクトと位置づけており、日立造船の技術と实績が評価さ
れ受注に至った。
本件の受注に際しては、日立造船が工場と研究施設を置く京都府舞鶴市と大連市の友好
都市関係も後押ししている。天然の良港を有する舞鶴市は旧海軍の街で、もともと同社舞
鶴工場は、1897 年に施行された海軍造船廠条例に基づき、1901 年に発足した舞鶴造船廠に
由来する。同造船廠は 1903 年、条例により海軍工廠となり、終戦後の 1946 年には飯野産
業舞鶴造船所として再スタート、その後の変遷を経て、1971 年に日立造船と合併し、同社
舞鶴工場として新発足し、現在に至ったという歴史がある。
舞鶴市は、積極的に地元企業の活動を支援しており、近年、日立造船は同市の協力によ
り舞鶴工場で製作するプラント製品の受注に成功している。また、水関連プラントの省エ
ネ型新機種開発など大連市の環境対策の推進、水不足対策などについて、舞鶴市と協働し
て意見交換を定期的に实施している。今回受注したごみ焼却炉は、大連市のごみ焼却発電
施設に付帯するもので、同市の環境改善に寄与する施設であり、舞鶴市の地元企業に対す
る輸出支援活動にとっても大きな成果となった。
日立造船は 2006 年2月、同社のごみ焼却炉事業としては初めての中国プロジェクトとし
て、四川省成都市向けストーカ式ごみ焼却施設を受注。同施設は 2009 年3月に完工し、現
在モデルプラントとして評価されている。こうした納入实績もあり、近年は相次いでごみ
焼却施設の受注を獲得しており、2011 年2月現在、累計8件と、日本企業ではトップクラ
スの实績を上げている。
(図表)日立造船の中国におけるごみ焼却施設受注実績
注文主
建設地
施設規模
納期
1 成都威斯特再生能源有限公司
四川省成都市龍泉駅区
ストーカ式焼却炉'1,200トン/日=400トン/日×3炉(
2 無錫雪浪輸送機械有限公司
福建省厦門市海倉区
ストーカ式焼却炉'600トン/日=300トン/日×2炉(
3 無錫錫東環保能源有限公司 江蘇省無錫市錫山区
ストーカ式焼却炉'2,000トン/日=500トン/日×4炉(
2011年3月
4 海口中電新能源環保電力有限公司 海单省澄邁県
ストーカ式焼却炉'1,200トン/日=600トン/日×2炉(
2011年7月
5 大連泰達環保有限公司
大連市甘井子区大連湾鎮
ストーカ式焼却炉'1,500トン/日=500トン/日×3炉(
2012年8月
6 上海老港固廃総合開発有限公司
上海市浦東新区单匯老港
ストーカ式焼却炉'3,000トン/日=750トン/日×4炉(
2013年6月
7 天津濱海環保産業発展有限公司
天津市塘沽区
ストーカ式焼却炉'1,000トン/日=500トン/日×2炉(
2012年11月
8 中航世新安装工程'北京(有限公司 四川省单充市嘉陵区李渡鎮 ストーカ式焼却炉'800トン/日=400トン/日×2炉(
2009年3月
2011年10月
2012年5月
(出所)日立造船資料により作成
(中国北アジア課長 真家 陽一)
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5.福岡県・アサヒビール
アサヒビールは全国9カ所の工場で見学者の受け入れを行っている。その1つである博
多工場では、海外向けの誘致活動は一切行っていないにもかかわらず、韓国と中国からの
見学者が増えている。2010 年は、韓国と中国を合わせて 10 万人超と急増した。
アサヒビールが韓国で販売を開始した 10 年前から、韓国の旅行代理店からの見学申し込
みが増加してきた。同工場では「無料で工場見学と韓国では高級ビールと位置づけられて
いるアサヒビールが試飲できる」という通訳ガイドのクチコミで広まったのではないかと
推測している。中国からは、クルーズ船の利用実が寄港時に来場するケースがほとんどだ。
初来場は 08 年であったが、来場回数は 09 年には 22 回、10 年には 41 回と増え、それに伴
い来場者も増加した。同工場の見学はクルーズ船のオプショナルツアーの1つになってお
り、日本の旅行代理店を通じて申し込みがある。
同工場では、これら外国からの見学者は、対応可能な限り受け入れている。日本語に加
えて英語・韓国語・中国語を併記した案内パネルを掲示したり、
「できるだけ短時間で回り
たいが試飲はしたい」との希望に応じ見学 70 分+試飲 20 分のコースを見学 30 分+試飲
20 分に調整する、といった対応も行い、満足度向上に努めている。他方、受け入れには通
訳者の同行を条件としており、来場者への協力も呼びかけている。また、中国からの見学
者向けに商品展示を拡大するなど、商品 PR の場としての活用にも積極的だ。
韓国では、売上が 08 年の 50 万ケースから 10 年には 100 万ケースと2年で倍増した。
同工場では、積極的な見学者受け入れと PR 活動が売り上げ増加の一因とみている。中国に
ついては、売り上げのデータはないとのことだが、まずはブランドイメージの定着・向上
を目的に見学を受け入れる方針である。
福岡県は、県内の为力産業である自動車・ロボットや、伝統産業、炭坑遺産などの産業
集積を観光に活用すべく、
「産業観光」としてこれら産業の関連施設に観光実を誘致してい
る。06 年に産業観光推進協議会を設立、10 年3月時点では 89 カ所の施設が産業観光実を
受け入れており、同工場も対象施設の1つとして、福岡県の産業観光振興に協力している。
<写真:中国語の工場内案内パネル>
<写真: 国人団体観光客の一団>
(中国北アジア課 松尾 修二)
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6.大分県大分市・九州乳業
日中間の友好提携都市関係を双方のビジネスにも有効に活用した事例として、大分市と
湖北省武漢市との提携事例がある。大分市は、日中国交正常化直後の 1974 年、中国に対す
る技術協力の一環で、同市にある新日本製鐵の工場が武漢鋼鉄に対し技術指導を实施した
のを契機として武漢市との交流を開始、79 年には友好都市提携を締結した。武漢市にとっ
て、大分市との提携関係は、海外の自治体と締結する初めての友好都市となった。
友好提携関係締結以降、両市では、行政が中心となり、文化・教育・医療面を中心に代
表団の相互派遣など頻繁な交流を続け、互いの人的ネットワークを深化させていった。
さらに大分市では、近年の国際的な経済連携の流れを見据え、06 年度から国際化推進計
画を实施、世界的に加速化する経済連携のメリットを享受するべく、体制作りを進めてい
る。その中で同市は、海外での提携相手先を選定する上では一番身近なパートナー・資源
を活用していくことが有効と考え、武漢市との関係を積極的に活用。武漢市との交流を实
際のビジネス交流にも広げていくことを念頭に 06 年5月、武漢市に大分市武漢事務所を設
立した。
大分市が武漢市との経済交流を積極的に推進している背景としては、上海など中国にお
ける大消費市場における競争の激化により、「オンリーワンでない場合、地方ブランドが、
上海、北京で戦っていても、著名ブランドに押されてしまう。地方の企業がアドバンテー
ジを持ってビジネスを行っていくには、上海、北京などの大都市以外でビジネスを展開し
ていく必要がある」
(大分市関係者)との問題意識がある。こうした認識に基づき、大分市
は、まずビジネス連携を通じた成功事例を作っていくべく、ここ数年、双方の企業間の連
携促進に向けた取り組みを強化してきた。そうした取り組みを通じて「成就」したビジネ
ス案件として、大分市に所在する九州乳業と、武漢市に所在する武漢開隆ハイテク農業発
展有限公司(以下、開隆)との提携案件がある。
07 年 10 月に武漢で開催された第4回中国武漢農業博覧会において、武漢市側から九州乳
業に対し、今後のビジネス提携について打診があったのがきっかけとなった。その後、同
年 12 月には、開隆の総経理が、武漢市畜産視察団の団長として来日したのを機に、九州乳
業とのビジネス提携に向けた交渉がスタートした。開隆は、乳牛の受精卵を赤牛の体内に
移植(胚胎移植)する技術で先進的な技術を有している企業であったが、牛乳の加工に関
する技術・ノウハウがなく、九州乳業との提携を通じ、当該ノウハウの獲得と九州乳業が
有する「みどり牛乳」ブランドの活用を希望していた。一方、九州乳業サイドは、国内の
乳製品市場のさらなる拡大が厳しさを増している状況を踏まえ、HACCP など自社が有する
高い技術力を活用して、ロングライフ牛乳(LL 牛乳)の中国における本格的な輸出販売に
向けて、同社のブランド認知度の向上と販路拡大を志向していた。
その後ビジネス提携の实現に向けては、両社に加え大分・武漢両市がサポートし、08 年
12 月には、合作企業「武漢九州乳業(中日合作)有限公司」が設立された。同社において
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は、開隆側が 75%を出資、九州乳業サイドは、資本を投入する代わりに、同社の技術と商
標の提供を 25%の出資分として位置付けることとなった。
同社は 10 年 12 月には新製品の生産を開始したほか、製品の武漢市内での販売を行って
いる。現状では武漢市場の特性(チルド牛乳の市場規模が小さいこと)を踏まえ、牛乳よ
りもヨーグルトやプリンなどをメインに生産・販売している。製品のパッケージには日本
九州乳業のロゴマークを適用し、デザイン、包装パッケージは現地のものを使用している。
提携パートナー選定に当たり、開隆側は当初、日本のほ
か、フランスやニュージーランドの企業との提携も模索し
たが、最終的には「武漢市、大分市のこれまでの友好関係、
双方行政の支援が決め手となり」
(大分市関係者)
、九州乳
業との提携が決まったという。また、今回設立された企業
の形態は、九州乳業の技術、商標使用権を資本に充当した
「合作企業」という特殊なケースでもあったが、武漢市の
関係当局の積極的な働きかけもあり、申請から認可までは
極めて短期間の手続きでプロセスを完了することができ
<写真:武漢九州乳業が生産販売を開始
た。
九州乳業としては、まずは長年の友好都市関係を通じ大
した牛乳プリン>
分市が他を圧倒するネットワークを有する武漢市において、現地生産の同社ブランド製品
の展開を足掛かりに、
「みどり牛乳」ブランドのイメージを高め、その後に武漢市への日本
からの LL 牛乳の本格輸出につなげていきたいと考えている。
他方、大分市としては、こうした成功案件の裾野をいかに広げていくかが課題となる。
同市関係者によれば、
「武漢市に関する説明会を大分市で实施すると、200 人ほどは集まる。
しかし、個別の案件になると、各企業の対応はまちまちとなる。後継者のいる企業は良い
が、今の状況が維持できればよいとの考え方をする企業が尐なくないのが現状」と指摘す
る。その一方で関係者は、
「大分市と武漢市とは人のつながりが資産。そうした人的つなが
りを行政が紹介することで、地場企業にも安心感が生まれる。市を通じて、大分の企業が、
武漢市政府などと渡りをつけることもできる」と友好都市関係によるビジネス面でのメリ
ットを強調する。
その上で関係者は、
「武漢市との経済交流においてホームランはないと思う。中小案件で
もよいので、1つでも2つでも塁に出て、埋めて行くことが大切。成功案件を地道に増や
していくしかない」とも語る。抽象論ではなく、具体的な成功事例を地道に作っていくこ
とが、大分市内企業の武漢市への関心をより高めることにもつながると考えるからだ。
09 年における武漢市の人口は 910 万人と大分市(47 万人)の 19.4 倍に達している。巨
大な人口を有する武漢市場の規模が年々拡大する中、大分市としては、友好都市関係をフ
ル活用して同市場におけるさらなる展開の拡大を目指している。
(中国北アジア課 中井 邦尚)
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7.沖縄県・全日本空輸(ANA)
沖縄県と全日本空輸(ANA)は 2009 年 10 月、官民共同プロジェクトとして「沖縄国際
航空物流ハブ事業」を開始した。同事業は、日本とアジアの各都市から集荷した貨物を、
夜中のうちに那覇空港で積み替えた上で、翌日午前中に配達するもので、ANA は沖縄県と
も連携しつつ事業運営体制を構築した。
アジアと日本の各为要都市のほぼ中心部に位置し、各地と4時間以内のフライトで結ば
れている沖縄県の地理的優位性、那覇空港に就航する国内旅実便の充实したネットワーク
を有している ANA の強みを生かし、本事業は「沖縄ハブ&スポーク方式」により、国内は
成田、羽田、関西、海外はソウル、上海、台北、香港、バンコクの8都市でスタート。24
時間運用が可能な那覇空港で貨物便の深夜運航を实施し、各出発地を 21~23 時頃に出発し
た貨物が、夜間の那覇空港での積み替えを経て、翌朝5~7時頃に目的地に到着するビジ
ネスモデルを確立した。同モデルの活用により、特定の2都市間だけでは十分な貨物需要
がなく、採算性の観点から直行の貨物便就航が難しい場合でも、各地から沖縄へ就航して
目的地別の積み替えを行うことにより、搭載効率や採算性の向上が可能となった。
沖縄県も新たな国際航空貨物ネットワークの構築は輸出拡大、産業集積、雇用拡大など
の経済効果が期待されることから、
ANA の国際物流事業を支援していく方針を示している。
同県は 10 年度の重点施策として国際物流ハブ機能を活用による国内外での販路拡大や臨空
型産業の創出推進を挙げている。沖縄国際航空物流ハブ事業の開始以降、那覇空港の貨物
取扱量は目覚ましい勢いで伸びており、10 年
は前年比約7倍の 14 万 8,164 トンに急増。今
後も更なる伸長が見込まれている。ANA は
11 年2月に公表した「2011~12 年度 ANA グ
ループ経営戦略」において、
「沖縄ハブ、エク
スプレス事業モデルの定着と深化」を掲げ、
高速輸送商品を拡充していく意向だ。
那覇空港の貨物取扱量の推移
'卖位(トン
積込量
取卸量
総取扱量
2006
22
1,038
1,060
2007
24
839
863
2008
18
917
935
2009
10,220
11,364
21,584
2010
71,349
76,815
148,164
'出所(沖縄地区税関那覇空港税関支署資料
この他、ANA は 11 年6月から中国内陸部としては初就航となる成田-成都線の開設を
予定している。これまで内陸部への移動においては、北京や上海での乗り継ぎが必要だっ
たが、直行便の運航により利便性の向上が期待される。
また、グループ会社の ANA セールスは、JR 東日本グループのびゅうトラベルサービス
と連携、業界初となる鉄道と飛行機を組み合わせた中国発の訪日旅行におけるパッケージ
商品を共同で開発した。第1弾として、東北新幹線や寝台列車「カシオペア」を往路、復
路に ANA 便を利用し、本州と北海道を巡り雪景色や温泉を体験してもらうコースの発売を
10 年 12 月より開始。今後も両社は「日本の四季」をテーマに、鉄道と飛行機の組み合わせ
によるパッケージ商品を開発し、訪日旅行の需要を創造していく方針を示している。
(中国北アジア課長 真家 陽一)
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むすび 今後の中国ビジネス戦略に対する8つの提言
(1) 日本企業は国内総生産(GDP)が日本を上回る世界第2位となった中国経済の活力
を取り込み、着实にチャンスを掴みながら成長戦略を描いていくことが求められて
いる。
(2) 競争の厳しい中国市場で勝ち抜くためには、国際競争力のさらなる強化を図るべき
である。そのためには、イコールパートナーとして、中国人スタッフの日本駐在を
通じた教育や幹部への登用など、現地化の推進による中国人人材のさらなる活用が
必要不可欠である。
(3) 経済に対する中国政府の関与が強いことを踏まえ、ビジネス展開に当たっては政府
の経済政策を綿密に研究することが重要である。また、市場開拓の推進においては、
製品開発やマーケティング、コスト競争力などをさらに強化することが必要となる。
(4) 他方、中国の動向が日本企業の経営に及ぼす影響度が高まることを考慮し、リスク
マネジメントのさらなる強化を図るべきである。国際競争力とリスクマネジメント
の強化は、中国ビジネス戦略における車の両輪である。实際、国際競争力のある企
業はリスクを顕在化させないためのマネジメントに優れている。
(5) リスクマネジメントの一環として中国から尊敬される企業、経営者となるべく、中
国の歴史や文化に対する理解を深め、異文化コミュニケーション能力を向上させる
とともに、グローバル市場における技術力や経営力をさらに高めていくべきである。
(6) また、国際競争力とリスクマネジメントの双方をサポートするツールの1つとして、
戦略的ビジネスアライアンスも検討すべきである。ただし、そのためにはウィン・
ウィンの関係が構築された信頼できるパートナーの存在が必要不可欠である。
(7) さらに、アジアあるいは世界における日本と中国の連携も展望すべきである。進出
後に得たノウハウや人脈などを徹底的に活用し、第3国・地域での事業展開も視野
に入れるなど、将来を見据えた戦略を持つことも日本企業には求められている。
(8) この他、中国の活力の取り込みを通じた地方経済の活性化も図るべきである。地域
の特性を活かし、観光誘致、輸出促進、進出企業支援、対日投資、友好都市提携な
どを複合的に推進するとともに、地方自治体と企業の連携も検討すべきである。
(中国ビジネス戦略研究会・ジェトロ中国北アジア課)
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(参考資料1)中国ビジネスに対するジェトロの支援事業
中国ビジネスを行う上でのジェトロの为な支援内容を以下にまとめました。ビジネスの
段階に応じてさまざまな支援を行っておりますので、まずはジェトロにご相談下さい。
1.現地情報を入手したい
(1)国・地域別情報(J-FILE)
世界各国・地域の政治動向、経済動向、制度情報、統計データ等をホームページ上
から入手できます。
(2)世界のビジネスニュース(通商弘報)
現地の政治・経済動向を毎日ホームページあるいはメールマガジンで入手できます。
(3)国内外におけるセミナーの開催
最新の現地経済動向や法制度情報を提供するセミナーを国内外で開催しています。
(4)海外ミニ調査サービス
名前の通り、ジェトロが簡単な調査を行います。日本で入手できない現地情報を、
現地駐在員が代わりにお調べします。
(5)ビジネスライブラリー(東京・大阪)
世界各国の統計、企業名簿、貿易投資制度など、専門書を配架しています。
(6)メールマガジン
中国の経済・産業動向等に関する最新情報をメールで配信しています。東京本部が
毎週配信する「チャイナモニター」のほか、中国各地の事務所が配信する地域別メー
ルマガジンもあります。
2.販路開拓を進めたい
(1)海外見本市出展
海外で開催される見本市にジェトロが日本ブースを設け、企業の出展を支援します。
(2)投資環境・市場開拓ミッション派遣
工業団地や既進出企業、小売店や現地各社工場等の視察ミッションを派遣します。
(3)国内における輸出商談会
現地の輸入業者や小売店を日本に招へいし、各地で個別商談会を開催します。
(4)輸出有望案件支援
各産業の専門家が、輸出戦略の策定から契約締結までを一貫支援するコンサルサー
ビスです。初めて輸出に取り組む中小企業様を支援します。
(5)引き合い案件データベース(TTPP)
ホームページ上のビジネスマッチングサイトです。
「○○を売りたい、○○を買いた
い」といった情報を掲載し、世界各国の企業と取引できます。
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3.リスクマネジメントを強化したい
(1)法制度・税務・労務面等のアドバイス
ジェトロ海外事務所駐在員のほか、中国や ASEAN 等の東アジアを中心に経験豊か
な民間企業(商社・メーカー・会計士等)出身のアドバイザーを配置し、現地の法制
度、税務、労務面等の企業経営上の情報提供やアドバイスを行っています。
(2)知的財産権保護
知的財産権の保護支援のため、セミナーの開催、相談の受付、模倣対策関連情報の
提供などを行っています。
4.貿易・投資全般に関する相談がしたい
(1)中国進出企業支援センター
知的財産保護、税制、労務管理など、中国進出後の様々なトラブルを解決すべく現
地で相談対応を行っています。
(2)貿易投資相談
日本各地の相談窓口にて、貿易投資全般に関する相談を受け付けております。東京
本部には「中国ビジネス相談デスク」を設置し、中国ビジネスの経験豊富なアドバイ
ザーが相談に対応しています。電話、メール、面談などお気軽にご連絡下さい。
(3)海外ブリーフィングサービス
ジェトロ海外事務所の駐在員やアドバイザーが、現地の最新動向を提供します。海
外出張の際にはジェトロ現地事務所にお立ち寄り下さい。
(4)貿易実務オンライン講座
インターネット上で貿易实務が学べる講座です。アニメーションを用いて分かり易
く解説していますので、貴社の新人研修などにご活用下さい。
5.地方を活性化したい
ジェトロは東京、
大阪の本部に加えて、国内に 38 ヵ所の貿易情報センターを設置し、
地方自治体とも連携しつつ、日本企業の海外ビジネス展開をサポートし、地方の活性
化につなげます。
6.その他
ジェトロメンバーズ会員
上記を含めた貿易・投資支援サービスを包括的に利用可能です。ぜひご入会下さい。
(中国北アジア課 米川 拓也)
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(参考資料2)調査にご協力いただいた企業・業界団体・地方自治体等(50 音順)
【企業・業界団体等】
旭硝子、アサヒビール、味の素、アステラス製薬、アルプス電気、井関農機、伊藤忠商事、
ウェルビー、ウッドワン、江崎グリコ、エヌエフ回路設計ブロック、
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ、王子製紙、オムロン、オリックス、花王、
鹿島建設、華鐘コンサルティング、亀印製菓、川崎重工業、川鶴酒造、
鬼怒川グランドホテル、きもと、キヤノン、キヤノングローバル戦略研究所、九州乳業、
共同ピーアール、キリンホールディングス、グリーン・グループ・メンバーズ(GGM)
、
グンゼ、ケンコーマヨネーズ、コーチ・エィ、コクヨ、コニカミノルタホールディングス、
小松製作所、笹の川酒造、サンクゼール、サンリオ、ジーエルサイエンス、
シギヤ精機製作所、シグマ、資生堂、シナノケンシ、島津製作所、
上海 TU(上海斉優商務諮詢有限公司)
、上海マート(上海世貿商城)
、衆智達汽車部件、
商工組合中央金庫、新川、新日本製鐵、スターテング工業、住友化学、住友商事、
住友電気工業、セイコーエプソン、セーラー万年筆、積水化学工業、セコム、
セブン&アイ・ホールディングス、全日本空輸、双日、双日プラネット、
損害保険ジャパン、ダイキョーニシカワ、大地法律事務所、タカセ、田島軽金属、
千代田インテグレ、デロイト・トウシュ・トーマツ、電子制御国際、デンソー、
天達律師事務所、電通国際情報サービス、デンロコーポレーション、
東京海上日動リスクコンサルティング、東京中小企業投資育成、東芝、東レ、
トステム、凸版印刷、トヨタ自動車、豊田通商、ナベヤ、西川ゴム工業、日油、日信工業、
日新精工、日総工産、日東電工、日本精工、日本タングステン、日本郵船、パイオニア、
博報堂、パソナ、八十二銀行、パナソニック、ビーエスピー、日立製作所、日立造船、
日立ハイテクノロジーズ、百十四銀行、ヒロテック、ファミリーマート、ファンケル、
富士ゼロックス、ブリヂストン、古河電気工業、フレックスジャパン、プレナス、ホワイ、
ホワイトフーズ、本田技研工業、本多通信工業、前川製作所、マツオカコーポレーション、
マブチモーター、丸久、丸紅、みずほ銀行、三井住友銀行、三井物産、三菱化学、
三菱自動車工業、三菱重工業、三菱商事、三菱東京 UFJ 銀行、モスフードサービス、
ヤクルト本社、安川電機、山﨑製パン、ヤマトロジスティクス、ヤマトプロテック、
リクルート、良品計画、ルネサスエレクトロニクス、ローソン、ロココ、
和趣(上海)貿易有限公司、ワッツ、
ADEKA、Ernst & Young、GL Japan Plaza(全洲超市(上海)有限公司)
、IDEC、
JFE スチール、JX 日鉱日石エネルギー、KLO 投資コンサルティング、NEC、TOTO、YKK
日本自動車工業会、日本ロボット工業会
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【地方自治体等】
愛知県、石川県、茨城県、愛媛県、大分県、香川県、徳島県、栃木県、長野県、福岡県、
福島県、北海道
大分市、北九州市、花巻市、福岡市
九州観光推進機構
香港特別行政区政府 駐東京経済貿易代表部、香港貿易発展局
以上 171 先
190
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中国ビジネス戦略研究会
委員
(外部委員)
服部 健治
(中央大学大学院 戦略経営研究科 教授)
(座長)
小山 雅久
(三菱商事株式会社 業務部 中国室長)
瀬口 清行
(一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)
長尾 英則
(株式会社日立ハイテクノロジーズ 経営戦略本部 執行役・本部長)
結城 隆
(株式会社デンロコーポレーション 常務執行役員)
(内部委員)
薮内 正樹
(日本貿易振興機構 海外調査部 上席主任調査研究員)
江原 規由
(日本貿易振興機構 海外調査部 主任調査研究員)
191
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執
筆
者
一
覧
(執筆順)
真家 陽一
(海外調査部 中国北アジア課 課長)
箱﨑 大
(北京センター 次長)
中井 邦尚
(海外調査部 中国北アジア課 課長代理)
清水 顕司
(北京センター)
日向 裕弥
(海外調査部 中国北アジア課)
小林 伶
(海外調査部 中国北アジア課)
黄
嘉妮
(海外調査部 中国北アジア課)
矢内 雅章
(海外調査部 中国北アジア課)
米川 拓也
(海外調査部 中国北アジア課)
宗金 建志
(海外調査部 中国北アジア課)
松尾 修二
(海外調査部 中国北アジア課 課長代理)
籔根 浩司
(海外調査部 中国北アジア課)
渡邉 邦彦
(海外調査部 中国北アジア課)
192
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