...

博士論文 空気圧制御による鉄道車両の乗り心地向上

by user

on
Category: Documents
71

views

Report

Comments

Transcript

博士論文 空気圧制御による鉄道車両の乗り心地向上
博士論文
空気圧制御による鉄道車両の乗り心地向上
Improvement of ride comfort of railway vehicle
with pneumatic control
横浜国立大学大学院 工学府
システム統合工学専攻
08SB103 風戸 昭人
主査
眞田 一志 教授
2011 年 3 月
<>
目
第1章
次
序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
1.1
研究の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
1.2
本研究の目的と意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
1.3
乗り心地の定義と評価法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
1.3.1
本論文で扱う乗り心地の定義・・・・・・・・・・・・・ 6
1.3.2
振動乗り心地・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
(1)新幹線車両の上下振動と評価法・・・・・・・・・・・ 6
(2)在来線特急車両(振子車両)の左右振動と評価法・・ 7
(3)乗り心地レベル(LT) ・・・・・・・・・・・・・ 8
1.3.3
乗り物酔い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
1.3.4
曲線走行時の乗り心地・・・・・・・・・・・・・・・・12
1.4
既往の研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
1.4.1
鉄道車両の振動制御に関する研究・・・・・・・・・・・12
(1)左右系振動に関するもの・・・・・・・・・・・・・・12
(2)上下系振動に関するもの・・・・・・・・・・・・・・13
1.4.2
車体傾斜(振子)車両に関する研究・・・・・・・・・・14
(1)自然振子方式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
(2)強制振子方式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
1.5
本研究の方針・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
1.6
本論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
第2章
空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減・・・・・・・・・・・・・25
2.1
緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
2.1.1
空気ばねの構成と既往の研究・・・・・・・・・・・・・・26
2.1.2
記号・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
2.2
絞り制御弁内蔵型空気ばね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
2.2.1
絞り制御弁・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
2.2.2
空気ばねの振動伝達特性・・・・・・・・・・・・・・・・31
i
2.3
制御則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
2.3.1
減衰係数の同定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
2.3.2
制御則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
2.4
シミュレーションによる検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
2.4.1
シミュレーションモデルの構築・・・・・・・・・・・・・36
2.4.2
シミュレーション結果・・・・・・・・・・・・・・・・・37
2.5
実験による検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
2.6
結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
第3章
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減・・・・・・・・・・・・・51
3.1
緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52
3.1.1
対象とする振子車両の構成・・・・・・・・・・・・・・・52
3.1.2
記号・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
3.2
振子制御用空気圧サーボシステムの詳細モデル構築・・・・・・・・54
3.2.1
システム構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54
(1)現状システム構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・54
(2)新たに提案するシステム構成・・・・・・・・・・・・・55
3.2.2
振子角目標値(振子パターン)・・・・・・・・・・・・・56
(1)従来システムの振子角目標値(CA モード)・・・・・・56
(2)提案するシステムの振子角目標値(JTM パターン)・・・57
3.2.3
モデル作成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60
(1)サーボ弁のモデル化・・・・・・・・・・・・・・・・・60
(2)シリンダ発生力の導出・・・・・・・・・・・・・・・・62
3.3
サーボシステムモデルの妥当性検証・・・・・・・・・・・・・・・63
3.3.1
検証に用いる振子車両断面モデル・・・・・・・・・・・・63
3.3.2
シミュレーション結果と実験結果との比較・・・・・・・・66
(1)圧力制御弁の場合・・・・・・・・・・・・・・・・・・66
(2)流量制御弁の場合・・・・・・・・・・・・・・・・・・66
3.4
一車両モデルによるシミュレーション・・・・・・・・・・・・・・69
3.4.1
ii
車両モデル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69
3.4.2
振子制御用サーボシステムモデル・・・・・・・・・・・・71
3.4.3
模擬走行条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71
3.4.4
振子角目標値(振子パターン)・・・・・・・・・・・・・71
3.4.5
制御条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72
3.4.6
シミュレーション結果・・・・・・・・・・・・・・・・・73
(1)シリンダの挙動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73
(2)乗り心地の比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・76
3.5
第4章
結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78
結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・79
4.1
本研究の結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・80
4.2
今後の課題と展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83
付録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・88
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・90
iii
<>
第1章
序
論
1.1
研究の背景
第二次大戦後,日本の鉄道旅客輸送の特質は,大量・低コスト輸送であった.その後,
一般大衆の旅行についての概念は,それが業務であれ観光であれ,いかに早く,快適に
目的地へ到達するかということによって,輸送手段を評価する時代となっていった.こ
のような要求に対して,国鉄は鉄道の特性である高速機能を活用した全国高速輸送ネッ
トワークの構築を目指すようになった.具体的には,国土を縦貫する新幹線を軸とし,
これに在来線の高速化によるネットワークを組み合わせるものである.
1964 年に東海道新幹線が最高速度 210km/h で営業を開始して以降,1992 年には JR 東
海・西日本 300 系車両が 240km/h,1997 年には JR 西日本 500 系車両において 300km/h
での営業運転がなされるようになった.さらに 2013 年には,JR 東日本 E5 系車両が
320km/h での営業運転を開始予定である.このように,車両技術は高速化とともに発展
を続けてきた.車両の高速化には,第一に走行安全性の確保が求められるのは当然であ
るが,同時に,乗客に快適な乗り心地を提供することも重要な使命である.本研究は,
鉄道車両の高速化を背景とした乗り心地の向上に寄与するものである.
一般に,乗り心地とは車内環境が旅客に与える心理的,生理的反応として,“乗り物に
乗ったときの感じ”や“乗り具合”とされ,日常生活においても,よく用いられる言葉であ
る.通常は,振動,騒音,椅子の座り心地のほか,温度,質感,におい,照明,気圧変
動,室内デザインなどを含めた幅広い要因によって影響を受けるものであるが,本研究
では,振動や動揺の低減を主眼とする.よって,本論文においては,乗り心地という言
葉は,振動乗り心地のことを指すこととする.
新幹線車両の乗り心地について変遷を見てみよう.高速化に伴い,まず課題になった
のは,左右方向の振動増大であった.これは,主にトンネル内での空気流による強制加
振 (1)によるものであり,編成の後部ほど振動が増大する傾向にあった.この振動に対処
するため,車体~台車間の左右方向の緩衝装置として,減衰力を制御できるセミアクテ
ィブダンパ (2)が開発された.これが 500 系以後の新幹線車両に採用され,左右方向の乗
り心地確保に大きな貢献を果たした.その後,JR 東日本 E2 系,E3 系車両の一部に空気
圧式のフルアクティブサスペンション (3)が採用され,より一層の振動低減を果たした.
このように,左右方向の振動に対しては,一定の乗り心地を確保できるようになった.
左右方向の振動が低減されるにつれ,今度は上下方向の振動が知覚されやすくなった.
2
第1章
序
論
上下方向の振動のうち,車両で大きく観測されるものは,車体の曲げ振動による 8~10Hz
付近の振動と,車体のピッチングモード,および上下並進モードのような 1~2Hz 程度
の剛体振動である.これまで,上下振動低減の研究は多くなされてきたが,制御技術を
用いたものは実用化されていない.
次に,在来線の高速化について振り返ってみる.山岳,海岸地形が多い日本の在来線
において,速度向上の大きな課題となったのが曲線通過速度の向上であった.曲線を高
速で走る際に乗り心地上問題となるのは,乗客に作用する遠心加速度である.曲線走行
時に乗客が許容できる遠心加速度の目安値は 0.08G とされている(4).遠心加速度を緩和
するには,2 つの方法がある.1 つは軌道のカント量を大きくする方法,もう 1 つは,車
体を曲線内側に傾斜させることである.前者のような軌道を改修する方法は,一般に多
大なコストがかかるだけでなく,大きなカントがついた曲線上に車両が停止したときに
安全上の不都合がある.そのため,後者の方法がとられている.曲線で車体を傾ける技
術,すなわち車体傾斜技術の研究は古くから行われ,初めて実車で走行試験が実施され
たのは 1962 年の小田急 CI 試験車 (5)であった.その後,国鉄の 591 系試験電車(6)での成
果を踏まえ,1972 年に日本で初めての振子車両,381 系特急電車(7)がデビューした.381
系電車は曲線で車体に作用する遠心加速度のみを利用して車体を傾斜させる“自然振子
方式”の車両であったため,曲線の出入口で振子の遅れが生じ,このことが主因となって
生じる動揺によって,乗り物酔いの症状が指摘されるようになった.その後,この遅れ
を解消するように,空気圧アクチュエータで自然振子動作のアシストをする形の“制御付
き振子車両 (8)”が開発され,1989 年に JR 四国 2000 系(9)でデビューした.その後,現在に
至るまで全国の JR,民鉄において制御付き振子車両は活躍している.制御付き振子車両
によって,乗り心地は大きく改善されたのだが,それでも敏感な乗客には,酔いの感覚
を与えてしまうことがあり,依然として乗り物酔いの課題は解決していない.
鈴木らは,振子車両を用いた大規模な乗り心地アンケート調査を実施し,乗り物酔い
の主因がごく低周波の左右方向振動であることを示した (10).このことに着目して,鉄道
総研は,乗り物酔いの低減に着目した,
“次世代振子制御システム”の開発に取り組んで
いる (11),
(12)
.次世代振子制御システムは,既存の制御付き振子車両と同じ台車構造を踏
襲しつつ,GPS や軌道の線形情報データベース等を用いて自車の走行位置を精度良く検
出し,その地点の軌道線形と走行速度をもとに,人間工学的な乗り心地評価関数を最適
にする振子角目標値(振子パターン)を逐次演算して,応答性の高いアクチュエータで
3
車体を傾斜させるものである.アクチュエータには,それまでの空気圧式に換えて,電
動油圧式が採用された.電動油圧式アクチュエータ (13)は,応答性,最大発生力に優れ,
走行試験においても良好な低周波左右振動低減効果を発揮した.一方で,電動油圧式ア
クチュエータは,コスト面で不利であり,また,その位置決め剛性の高さから,比較的
高周波の振動を台車から車体へ伝達しやすいという課題が明らかになった.そこで,従
来から制御付き振子車両に用いられている空気圧サーボシステムを改良して,より応答
性が高く,上記の理想的な振子角目標値に追従可能なシステムを構成し,乗り心地の向
上を図れないか検討することにした.
また,鉄道と空気圧の関わりについて述べる.鉄道車両において空気圧システムは,
ブレーキシステム,車体支持装置である空気ばね,引き戸装置など多岐にわたって使用
されている (14), (15).一方で,油圧については新幹線電車などのディスクブレーキ装置や,
ダンパ類以外には使用されておらず,油圧源も持ち合わせていない.このように鉄道車
両で空気圧システムが広く使われてきた理由としては,圧縮空気は数両ごとに搭載した
空気圧縮機で作るためコストが低く,また,油に比べて取り扱いが容易なことなどが挙
げられ,鉄道車両が当初から空気圧によるブレーキシステムを発達させてきたこととも
関係し,容易に動力源として利用できる状況にあったことによる.乗り心地との関係を
見てみると,鉄道車両の乗り心地を飛躍的に向上させた空気圧装置は,空気ばねであろ
う.空気ばねは台車から車体に伝達する高周波振動を絶縁し,快適な乗り心地を提供す
る.また,先述の制御付き振子車両においても空気圧サーボシステムが用いられている.
油圧を使った乗り心地改善技術の研究も多くなされてきたが,ダンパのような油圧源を
必要としないシステム以外のものは実用化されていない.このように,空気圧は鉄道車
両と親和性が高く,乗り心地改善のためのパワーデバイスとして最適であると言える.
1.2
本研究の目的と意義
本研究の目的は,鉄道車両の高速化に伴って増大する車体の振動を低減し,乗客に快
適な乗り心地を提供することである.研究の対象とする車両は,新幹線車両と,在来線
優等列車に広く用いられている制御付き振子車両とする.
新幹線車両については,上下振動の低減による乗り心地向上に取り組む.具体的には,
空気ばね内部の絞りで発生する減衰力を,車体の振動状態に応じて制御し,1~2Hz 付近
4
第1章
序
論
の車体の剛体モードの振動低減を図る.
振子車両については,乗り物酔いの主因とされているごく低周波の左右振動低減に取
り組む.具体的には,既存の振子制御用空気圧サーボシステムをもとに,その仕様変更
によって応答性向上を図る.そして,人間工学的な乗り心地評価指標を考慮して生成さ
れる振子角目標値(振子パターン)に追従でき,乗り物酔いの評価指標(乗り物酔い暴
露量値(MSDVy))を低減できることを示す.
本研究を行うことには,次のような意義がある.
(1) 鉄道車両の高速化に貢献する
本研究で提案する手法によって振動低減を実現すると,鉄道車両のさらなる高速
化に貢献できる.
(2) 乗客へのサービス向上につながる
最近の交通機関には,一層の快適性が求められており,乗り心地についてもさら
なる向上が望まれている.本研究によって実用的で制振性能の高い振動低減手法が
得られれば,これを実用化することによって車両の乗り心地を向上でき,乗客の疲
労軽減に貢献できる.
(3) 空気ばねの減衰制御による振動低減の可能性および性能が明らかになる.
2 次ばね系の振動制御に関する研究は多数存在するが,多くは 2 次ばねと並列に取
り付けた油圧式アクチュエータ等の発生力を制御するものである.この場合,車両
を構成する部品が増えてしまいメンテナンス性やコストに難があり,実用化には至
っていない.空気ばねの減衰制御に取り組んだ研究も存在するが,装置が大型のた
め,実車に搭載可能なものではない.本研究で用いる空気ばねは,実車に搭載可能
なものとした.この空気ばねの特性を,シミュレーション,および定置試験により
明らかにすることによって,振動低減の可能性と性能が明らかになる.
(4) 空気圧を用いたより応答性の高い振子制御の可能性が明らかになる.
一般に空気圧システムは,油圧システムに比べて剛性が小さく,応答性,制御性
がよくないと言われている (16).一方で,コンプライアンスの高さを生かした良好な
高周波振動絶縁性能を有していたり,低コストであったり,耐環境性に優れるなど,
多くの長所も持っている.本研究では,提案する空気圧サーボシステムの詳細モデ
ルによって,空気圧アクチュエータの性能を明らかにする.さらにこのモデルを組
み込んだ振子車両の一車両モデルシミュレーションによって,実際の走行条件に近
5
い振動環境下での,乗り心地改善効果が明らかになる.
1.3
乗り心地の定義と評価法
1.3.1
本論文で扱う乗り心地の定義
鉄道車両の乗り心地は,振動,音,温熱,照明,座席の質感等の多くの要因に影響さ
れるものであり,広義には乗務員の接客態度や車窓からの眺望などの要因も無視できな
い.鈴木ら (17)は,鉄道利用者の快適性に関するそれまでの研究を,その対象別に整理し,
乗り心地に影響する要因別に最広義から狭義までの定義付けを表 1.1 のように行った.
表 1.1
要因別の鉄道車両の乗り心地の定義 (16)
車内環境のうち官能的な要因まで含む
最広義の乗り心地
広義の乗り心地
[車内デザイン,車窓眺望,車内設備の使い易さなど]
車内環境のうち物理的属性が明確なものまで含む
[騒音,圧力変動,温湿度,空気清浄度など]
軌道状態,線形,車両の走行性能に起因するもの
狭義の乗り心地
[直線振動,回転振動,定常加速度など]
乗り心地に影響する要因として,研究が最も深度化しているのは振動要因であり,鉄
道分野の研究者が単に乗り心地という場合には,“列車の走行に伴って生じる振動や加速
度に起因する感覚や評価”を指すのが一般的であり (18),これを特に区別する必要がある
場合には“振動乗り心地”,もしくは“狭義の乗り心地”などと呼ぶ.本論文で扱う乗り心
地は,この振動乗り心地のことを指す.
1.3.2
振動乗り心地
本論文では,新幹線車両の上下振動,および在来線特急車両(振子車両)の左右振動
について取り扱う.これらの振動の特徴と,その評価方法について説明する.
(1)新幹線車両の上下振動と評価法
図 1.1 に新幹線車両の車体床面上下振動加速度のパワースペクトル密度(PSD)波形例
を示す.これらから,振動の大きな周波数帯は,1~2Hz 付近と 8Hz 前後ということが
6
第1章
序
論
分かる.1~2Hz 付近の振動は,車体の上下並進モード,およびピッチングモードの固有
振動によるものである.在来線車両の場合も,この帯域に同モードの固有振動を持つこ
とが多い.また,8Hz 前後の著大な振動は,車体の 1 次曲げ振動モードによるものであ
る.近年の車体は,以前に比べて軽量化が進み,剛性が低下する傾向にある.そのため
に顕著となる振動モードである.
(a)車体中央
図 1.1
(b)台車直上
新幹線車両の車体床面上下振動加速度のパワースペクトル密度(PSD)波形例
振動乗り心地の評価方法については,国内外で多くの研究がなされてきたが,現在,
国内の鉄道事業者が新幹線車両の振動乗り心地評価に標準的に用いているものに,“乗り
心地レベル(Ride quality level, LT)(19), (20)”がある.
(2)在来線特急車両(振子車両)の左右振動と評価法
図 1.2 に,在来線特急車両の車体床面左右振動加速度(台車直上)の PSD 波形例を示
す.非振子車両と自然振子車両(制御なし)とを比較すると,その違いが一目瞭然であ
る.自然振子車両の場合には,1Hz 以下の低周波領域での振動増加が顕著である.これ
は振子車両の左右振動の特徴であり,後述する乗り物酔いに大きく関係するものである.
一方,1Hz 以上の領域では,その関係が反転し,振子車両の振動は減少している.これ
は,振子車両の場合,台車枠と車体の間に振子はりが存在するため,非振子車両よりも
ロール運動の自由度が 1 つ多く,この自由度で比較的高周波の振動が絶縁されるためで
ある.
7
車体左右振動加速度PSD [(m/s2)2/Hz]
10
0
10
-1
10
-2
10
-3
10
-4
自然振子車両(制御なし)
10
図 1.2
非振子車両
-1
0
10
周波数 [Hz]
10
1
在来線特急車両の車体床面左右振動加速度(台車直上)の PSD 波形例
振子車両の乗り心地評価には,乗り心地レベル(LT)の他,最近では乗り物酔い暴露
量値(MSDVy)という指標が用いられることが多い.MSDVy については,1.3.3 項にて詳述
する.
(3)乗り心地レベル(LT)
乗り心地レベル(LT)とは,国際標準化機構(ISO)が 1972 年に「全身振動暴露に関
する評価指標(ISO-2631)」を提案した (21)ことを受け,これをもとに当時の国鉄の「乗
心地管理基準に関する研究委員会」が提案した評価法である.車両の上下,左右振動加
速度を人間の振動感覚特性を表すフィルタにより感覚補正して一定時間の実効値を求め,
基準振動加速度との比を対数表示する.評価対象とする時間は 3±2 分を基準とすること
から,比較的長い区間の乗り心地評価に適している.
乗り心地レベル(LT)は,式(1.1)のように定義される(19).
LT = 20 log10
α W (t )
α ref
1 T α W (t ) 2
= 10 log10 ∫
dt
2
T 0 α ref
8
(1.1)
第1章
序
論
ここに,αref は基準加速度,T は観測時間であり,それぞれ αref=10-5m/s2,T=3±2min
と定められている.αW(t)は,観測された加速度 α(t)が乗り心地フィルタ WLT によって重
み付けされた感覚補正加速度である.
乗り心地フィルタ WLT は,振動に対する人間の感覚(感じやすさ)を表すフィルタで
ある.図 1.3 に,上下方向と左右方向のフィルタ特性を示す.
1
10
左右
0
10
重 み
上下
-1
10
-2
10
0
1
10
10
2
10
周波数 [Hz]
図 1.3
乗り心地フィルタの周波数特性
Pα を α(t)のパワースペクトル密度(PSD)とし,αref が定数であることを考慮した上で,
式(1.1)にパーセバルの定理を用いると,式(1.2)を得る.
LT = 10 log10
1 1 T
α W (t ) 2 dt
2
T ∫0
α ref
= 10 log10
1
α ref
∫
f2
f1
WLT2 ( f ) Pα ( f )df
(1.2)
WLT は 0.5~80Hz の範囲外では 0 であるため,f1=0.5Hz,f2=80Hz とする.
LT は値が小さいほど乗り心地が良いことを示し,表 1.2 に従って 5 段階に区分される.
なお,高速列車の場合では,乗り心地レベルは(2)の範囲の数値以下であることが望まし
いとされている(22).
9
表 1.2
Ranks
1.3.3
乗り心地レベル(LT)の区分
Ride quality lebel (LT)
(1)
LT < 83dB
(2)
83dB < LT < 88dB
(3)
88dB < LT < 93dB
(4)
93dB < LT < 98dB
(5)
98dB < LT
Evaluation
Good
↑
↓
Poor
乗り物酔い
乗り物酔い(23)は,乗り物に乗ることによって引き起こされる一過性の自律神経失調状
態の総称であり,正式には動揺病と呼ばれる.その症状は,頭痛,冷や汗,めまい,嘔
吐など多様であるが,その発生メカニズムはいまだ十分に解明されていない.また,酔
いに対する感受性は,個人差が非常に大きい.ただし,酔いを生じやすいのはどのよう
な振動条件であるかについては多くの知見が得られている.乗り物酔いは種々の乗り物
で発生するが,代表的なものは船酔いであろう.船酔いの発症に影響の大きい振動は,
0.16Hz 程度の上下振動であることが実験的に明らかにされており(24),これら低周波振動
の累積値で酔いの発生を評価する指標が開発されている.中でも,ISO2631-1 規格(25)に
示される MSDV 指標(Motion Sickness Dose Value,乗り物酔い暴露量値)が広く知られ
ている(26).算出式は式(1.3)の通りである(25).
T
2
MSDVz = ⎛⎜ ∫ a w (t )dt ⎞⎟
⎝ 0
⎠
1/ 2
(1.3)
この指標を算出するには,図 1.4 の Wf 曲線と呼ばれるフィルタで振動データを予め周
波数補正する必要がある.aw(t)は補正済みの振動加速度瞬時値を,T は暴露時間の総時
間(s)を,添字 z は上下方向(z 軸)の振動評価であることを表している.Wf 曲線は低周
波の上下振動が酔いに及ぼす影響を検討した一連の研究成果をもとに開発されたもので,
酔いやすい周波数ほど,評価時のウェイトが高くなるように補正することを目的として
いる.最もウェイトが高いのは,0.167 (1/6)Hz である.MSDV は現在のところ,国際的
に広く認められた唯一の評価指標である.
10
第1章
図 1.4
序
論
船酔い評価に用いられる Wf 曲線 (25)
鉄道は比較的酔いにくい乗り物とされているが,振子車両などにおける酔いが,国内
のみならず海外においても時に話題となる.ここでは鉄道車両乗車時の酔いのことを,
“列車酔い”と呼ぶことにする.先述の MSDV の考え方を列車酔い評価に適用すべく,欧
州各国の鉄道が基礎的検討を進めている(27),
(28)
.しかし,MSDV の主対象は船舶で生じ
るような低周波上下振動のみであることから,列車酔いの評価への適用に際しては,次
のようなことを考慮する必要がある(26).
・波高に起因する数 m もの低周波上下振動を対象に開発された船酔い指標が,振動条件
が相当異なる列車酔いの評価に適用可能であるかどうかの検証
・特に,Wf フィルタで規定される周波数特性の適用可能性の検証
・上下振動以外に,左右振動やローリングの影響を考える際の,各振動の周波数特性の
規定の仕方
このような観点から,鈴木らは,振子車両を用いた大規模な乗り心地アンケート調査
を行った(10).その結果,列車酔いは,左右振動との相関が最も高く,特に 0.25~0.315Hz
付近に相関のピークがあることが分かった.また,上下振動との相関は全般に低かった.
この結果をもとに,列車酔いの評価に用いる左右振動評価フィルタ(図 1.5)が示され
た.従来の Wf フィルタと区別するため,このフィルタを Wf-Y フィルタと呼び,Wf-Y フィ
ルタを用いて算出した左右振動の積分値を MSDVy とした.算出式は式(1.4)の通りである.
T
2
MSDVy = ⎛⎜ ∫ a w (t )dt ⎞⎟
⎝ 0
⎠
1/ 2
(1.4)
11
図 1.5
列車酔い評価用の左右振動補正フィルタ(太線)(10)
(細線は図 1.4 の Wf フィルタ)
振子車両について,不安定なローリング振動が酔いに影響しているのではないかとし
ばしば指摘されるが,ローリング単独では酔いを生じにくいという報告も少なくない(28),
(29)
.鈴木らも,列車酔いとローリングの関係について調査を行っている (10).その結果,
ローリング単独では影響が少ないものの,左右方向の低周波振動と組み合わさった場合
には,酔いの発生を促進する可能性があることが報告されている.
1.3.4
曲線走行時の乗り心地
車両を高速化する場合,曲線走行中に乗客に作用する左右方向の定常的な遠心加速度
(左右定常加速度と呼ぶ)の増大が避けられない.国鉄列車速度調査委員会は,曲線走
行時に生じる左右定常加速度の許容値をもって曲線走行時の乗り心地の基準値とすべく,
1961 年と 1962 年に在来線車両を用いた乗り心地調査試験を実施した (4).その結果,5%
の乗客が許容できないとする左右定常加速度の目安値は立位で 0.08G(0.78m/s2)とされ
た.また,左右加速度の変化率の目安値は 0.03G/s(0.29m/s3)とされた.これらの値が
今日まで遵守されている.
1.4
既往の研究
1.4.1
鉄道車両の振動制御に関する研究
(1)左右系振動に関するもの
車両の高速化に伴い,まず問題視されるようになったのは,車体の左右振動であった.
12
第1章
序
論
特に新幹線車両のような高速車両がトンネル内を走行するときの,空気力による左右振
動増大の解決が課題となった.
①
セミアクティブサスペンション
佐々木らは,台車と車体間の左右方向の減衰要素である“左右動ダンパ”に適用
できる可変減衰ダンパを開発し,これにスカイフック制御則を適用して,良好な振
動低減効果を得た (2).鉄道車両の振動制御装置としては世界初の実用化を果たし,
1997 年に営業を開始した JR 西日本 500 系新幹線車両に採用された.その後の新幹
線車両にも広く使用されている.当初は,左右動ダンパの絞りを複数段に切り換え
る減衰力切替式であったが,比例電磁リリーフ弁を用いて直接ダンパ内の圧力を無
段階で制御する減衰力調整式へと進化している(30).
②
アクティブサスペンション
左右系を対象とした本格的なアクティブサスペンションの開発は,1990 年頃から
行われた.アクチュエータの作動媒体には,空気圧,および油圧を用いた実車試験
が実施され,最終的には,信頼性,メンテナンス,コスト等でメリットの大きい空
気圧システムが,2001 年より JR 東日本 E2 系,E3 系新幹線車両に採用された (3).
アクティブサスペンションは,セミアクティブサスペンションよりも制御効果が大
きい分,エネルギー消費も大きい.そのため,E2 系,E3 系車両においては,空気
力による振動の影響を受けやすい編成両端の車両と,付加価値を高める必要のある
グリーン車にアクティブサスペンションが搭載され,その他の車両にはセミアクテ
ィブサスペンションが搭載されている.
空気圧によるアクティブサスペンションの性能が実証されたことから,さらなる
性能向上を目指して,電磁直動式アクチュエータ (31),
(32)
と,ローラねじ式電動アク
チュエータが,JR 東日本 FASTECH360 新幹線試験車両で試験された (33).この試験
の結果は,JR 東日本 E5 系新幹線車両に反映され,ローラねじ式電動アクチュエー
タが採用された(34).
(2)上下系振動に関するもの
車両の上下系振動制御で実用化されたものはまだないが,多数の研究例がある.1.3.2
項で述べたように,車両の上下振動で大きなものは,1~2Hz 付近の剛体モードの振動と,
8Hz 付近の車体の1次曲げ振動モードである.剛体モードの低減に対しては,2 次ばね
13
系の振動制御の研究が多数報告されている.1 次曲げ弾性振動モードの低減に対しても,
パッシブ系,制御によるもの多数の報告がある.その代表的なものとしては,菅原らが
1 次ばね系の減衰制御によって,良好な弾性振動低減効果が得られることを実車試験で
示した(35).本研究は主として剛体モードの振動低減を取り扱うため,ここでは剛体モー
ドの振動低減に関する既往の研究について述べる.
①
新幹線車両における振動制御
上林らは,JR 東海 300X 新幹線試験電車を用いて,アクティブ振動制御の実車試
験を行った (36).油圧アクチュエータを空気ばねと並列に上下方向に取付け,車体に
設置した 2 個の加速度センサ検出値を用いて,車体の上下並進モード,ピッチング
モードの振動低減を図った.その結果,剛体モードの固有振動数である 1Hz 付近の
振動のみならず,8Hz 付近の 1 次曲げ弾性振動モードの振動も低減した.しかしな
がら,3~5Hz の帯域では振動を増大させた.
②
在来線における振動制御
牧野らは,JR 東日本 TRY-Z 高速化試験電車を用いて,在来線におけるアクティ
ブ振動制御の実車試験を行った(37).上林らと同様に,油圧アクチュエータを空気ば
ねと並列に上下方向に取付け,車体の上下並進モード,ピッチングモードの振動低
減を図った.その結果,1~4Hz にかけての車体ピッチングモードの振動を低減し
た.
菅原らは,在来線試験車両を用いて,空気ばねと並列に取り付けた油圧ダンパの
減衰制御による振動制御の実車試験を実施した(38).その結果,軌道不整の大きい線
区で,特に大きな剛体モードの振動低減効果が得られることを示した.また,駅構
内の分岐器等を通過する際に生じるロール振動の低減にも有効であることを示した.
1.4.2
車体傾斜(振子)車両に関する研究
20 世紀の初期,曲線通過速度向上に関する問題は,世界の鉄道の共通課題であった.
世界の曲線高速走行車両の第一号は,1942 年に登場したスペインの Talgo 車両であると
言われている(39).スペイン国鉄の軌間は 1667mm と広いため,曲線走行時の転覆に対す
る危険性は低かったのだが,主要幹線にも半径 300m 程度の急曲線が多数存在しており,
高速化のための研究が行われていたのである.Talgo は連接構造であり,車体の重心は
極めて低く,長いリンクによって振子支持されていた.Talgo はその考案が優れていた
14
第1章
序
論
ために,改良を加えたのち,各国で採用された.以後,フランス(40)や西ドイツでも車体
傾斜車両の研究が行われ,日本では 591 系振子試験電車 (6)の成果を踏まえ,1973 年に 381
系振子特急電車が実用化されるに至った.ここでは主に,その後の車体傾斜車両の研究
動向について,遠心加速度を積極的に利用して車体を傾斜させる“自然振子方式”と,遠
心加速度に頼らず強制外力により車体を傾斜させる“強制振子方式”とに分けて説明する.
(1) 自然振子方式
① 自然振子方式の傾斜機構
自然振子方式の車両は,車体の重心を振子の回転中心よりも低い位置に設定し,曲線
走行時に作用する遠心加速度を利用して車体を傾斜させる機構を持つ.先述の Talgo も
この方式である(図 1.6).日本の 591 系試験電車(6)もこの思想に基づき,台車枠上のコ
ロと,円弧状のガイドを持った振子はりによって,最大傾斜角 5°の自然振子動作を実現
した.ところが,同じ方式の 381 系振子特急電車(7)が営業を開始すると,乗り物酔いの
症状が指摘されるようになった.その原因は,制御機構を持たない方式であるため,曲
線出入口において振り遅れが生じ,不安定なロール動揺が生じるためという指摘や,体
感される遠心加速度と視覚される風景の傾きとの感覚のずれが影響しているという指摘
(41)
などがある.
回転中心
空気ばね
図 1.6
Talgo の自然振子機構
② 制御付き振子車両
酔いの原因となっていると考えられる,曲線出入り口での振り遅れを解消するため,
15
381 系の自然振子機構を踏襲しつつ,台車枠と振子はりの間にアクチュエータを設け,
曲線に合わせて車体を傾ける“制御付き振子車両”(図 1.7)が開発された(8).図 1.8 に台
車の外観を示す.この制御は,あくまでも自然振子動作のアシストの位置づけであり,
さほど大きな発生力や応答性を要求しなかったため,最大発生力 5kN 程度の空気圧アク
チュエータが用いられた.制御付き振子車両は,JR 四国 2000 系車両(9)で初めて実用化
され,急曲線が多数存在する土讃線の高速化に貢献した.その後,全ての JR 旅客会社,
一部の民鉄会社,さらにはオーストラリア,台湾でも採用され,現在に至っている.
車体
車体重心
振子はり
ころ
台車枠
振子アクチュエータ
図 1.7
図 1.8
16
制御付き振子車両の車両断面図
制御付き振子車両の台車外観
第1章
序
論
③ 次世代振子制御システム
制御付き振子車両の誕生により,純粋な自然振子車両に比べて乗り心地は大幅に改善
されたが,それでも感受性の高い乗客には,酔いの感覚を与えてしまうことがある.1.3.3
項で述べたとおり,多形式の振子車両による大規模なアンケート調査の結果から,鉄道
の乗り物酔いの主因となる振動は,0.25~0.315Hz の左右振動であることが分かった(10).
榎本ら,畠田らは,このごく低周波の左右振動低減に着目した,
“次世代振子制御システ
ム”を開発した(11), (12).図 1.9 にシステムの構成図を示す.次世代振子制御システムは,
GPS や軌道の線形情報データベース等を用いて自車の走行位置を精度良く検出し,その
地点の軌道線形(曲率,カント)と走行速度をもとに,乗り心地評価関数を最適にする
振子角目標値を逐次演算して,応答性の高いアクチュエータで車体を傾斜させるもので
ある.
GPSアンテナ
振子中央制御装置
振子車両制御装置
ヨーレートセンサ
EHA
EHA
台車枠左右振動
加速度センサ
速度検出器
EHA: Electric Hydraulic Actuator
(電動油圧式アクチュエータ)
図 1.9
次世代振子制御システムのシステム構成(11)
本研究は,この次世代振子制御システムへの空気圧アクチュエータの適用を検討した
ものである.ここで次世代振子制御システムについて詳細な説明を行う.
a) 地点検出システム
曲線形状に併せた正確な振子制御を行うには,自車の走行地点を精度良く検知す
る必要がある.そこで真木らは,GPS,軌道の曲率照合,および速発累積距離の 3
つの方法を組み合わせたシステムを開発した (42).曲率照合とは,予め車上で保有す
る軌道の曲率情報と,自車で測定された曲率(車体で観測されるヨー角速度を走行
速度で除したもの)とを比較照合し,走行地点を検出する方法である.これらによ
17
って,±4m の地点検出精度を実現した.
b) 振子角目標値(振子パターン)
a)で検出された走行地点における,軌道の曲率,カント,および走行速度を用いて,
人間工学的な乗り心地評価基準が最良となる振子パターン(JT パターン,JTM パタ
ーンと呼ばれる)を演算するものである.c)のような応答性の高いアクチュエータの
使用を前提としている.3.2.2 項で詳細に説明する.
c) 電動油圧式アクチュエータ
電動油圧式アクチュエータ(43)(図 1.10)は,油圧シリンダに電動モータやポンプ
などを一体化した構造であるため,外部との油圧配管がなく,取り扱いが容易であ
る.指令値に対する応答性,および最大発生力に優れ,上記の振子パターンをほぼ
正確に実現できる.制御フェール時には,油圧回路(図 1.11)を切り換え,振子ダ
ンパ相当の減衰力を持つ油圧ダンパとして動作する.
図 1.10
18
試験車両に搭載された電動油圧式アクチュエータ
第1章
序
論
振子ダンパ回路
絞り
弁
油圧シリンダ
弁
振子制御回路
弁
モータ
M
ポンプ
図 1.11
電動油圧式アクチュエータの油圧回路(43)
(2) 強制振子方式
曲線での遠心加速度を積極的に車体傾斜に利用する自然振子方式に対して,遠心加速
度を利用せず,油圧式や電動などの発生力の大きなアクチュエータで車体を傾ける方式
を,強制振子方式と呼ぶ.強制振子方式は,欧州で広く用いられている.また近年,日
本の新幹線や一部の在来線において,空気ばねを伸縮させることで車体を傾ける“空気ば
ね車体傾斜”の採用例が増えているが,これも強制振子方式である.
①
小田急 CI 試験車
1962 年に小田急電鉄は,鉄道技術研究所の指導のもと,東芝の協力を得て,日本
で初めての振子車両の走行試験を実施した (5).振子用アクチュエータには油圧式を
用い,これを台車と車体間の上下方向に装着した.車体床面で観測される左右加速
度(定常加速度)を検知し,これを常に零に保つように制御を行っていた.走行試
験の結果,R360, R400 の急曲線走行時の超過遠心加速度は,均衡速度を 50km/h 超
えてもほぼ零に保つことができた.しかしながら,油圧源を車両に搭載することの
困難さとコスト上の問題により,実用化には至らなかった.
②
リンク式振子車両
図 1.12 に,リンク式振子車両の一例として,ドイツで運行されている VT612 車
両の振子機構を示す(44).欧州の振子車両は,振子の回転中心を車体床面付近に設定
しているため,超過遠心加速度は振子動作に対しては逆方向の力となる.リンク機
19
構は,台車枠と傾斜はりの間を左右一対のリンクで連結する方式で,1 台車あたり 4
本のリンクで車体が支持されている.リンク式の場合,傾斜角度によって振子の回
転中心が上下に移動するため,車体重心の上下移動量が大きく,車体傾斜のために
は大きな力が必要になる.そのため,非常に大きな油圧式や電動式のアクチュエー
タが使われている.
日本でも,JR 東日本 TRY-Z 在来線試験車両において,リンク式振子の試験が行
われた(45).これは,振子中心位置を自然振子車両の場合よりも低い位置に設定する
ことで,輪重変動を抑制することを主目的としていた.
図 1.12
③
リンク式振子車両のリンク機構
空気ばね車体傾斜
空気ばね車体傾斜は,図 1.13 に示すように,外軌側の空気ばねを伸長させて車体を
傾斜させるものである.1970 年に小田急電鉄と住友金属工業は,空気ばねによる強制車
体傾斜の試験車(ORPT 車)を製作し,走行試験を行った(46).この車両には,5°以上の
傾斜角を実現するため,90~100mm の変位を許容できるロングストローク空気ばねが用
いられた.走行試験の結果,R400 の曲線を,現行速度+25km/h の 100km/h で走行できる
ことが分かった.
2000 年に,初めての実用化車両となる JR 北海道 261 系気動車(47)が運行を開始した.
傾斜角度は最大 2°である.また,2005 年に名古屋鉄道と小田急電鉄でも採用された.そ
の後,2007 年には,初めて新幹線車両(JR 東海・西日本 N700 系)(48)にも導入され,2011
年 3 月には JR 東日本 E5 系でも使用を開始する予定である.また,JR 北海道,川崎重工,
20
第1章
序
論
および鉄道総研は,先述の次世代振子制御システムに,空気ばね車体傾斜を組み合わせ
た複合振子システムを提案している(49).振子はりで 6°,空気ばねで 2°の合計 8°の協
調車体傾斜を目指すものである.
空気ばね車体傾斜は,既存の台車構造のまま,比較的簡易に搭載できるため,近年,
日本国内にて採用例が増えている.ただし,空気ばねの伸縮量には限界があり,今のと
ころ実用化されているのは最大傾斜角 2°である.これ以上の角度が必要とされる場合に
は,先述の振子はりを用いた方式が必要となる.また,空気ばねは車体を直接支える 2
次ばねであり,走行安全性確保の観点でも慎重な検討が必要とされている.
車体
空気ばね
(外軌側)
台車枠
図 1.13
1.5
空気ばねによる車体傾斜動作
本研究の方針
本研究を実施するにあたり,以下の方針を打ち立てた.
(1)空気ばねの減衰制御に関する車体上下振動低減
z
研究対象とする空気ばねは,実用化を念頭に置き,実際の新幹線車両に取付可能な
構成とすること.
z
低減を図る振動は上下方向振動とし,1~2Hz 付近の周波数を主な対象とする.
z
可変減衰空気ばねの振動特性を表現できる,非線形なシミュレーションモデルを構
築すること.
z
構築するシミュレーションモデルを用いて,可変減衰空気ばねの振動伝達特性と,
減衰制御による振動低減効果を確認すること.
21
z
可変減衰空気ばね単体を用いた定置加振試験を行い,振動伝達特性と,減衰制御に
よる振動低減効果を確認すること.さらに,構築するシミュレーションモデルの妥
当性を検証すること.
(2)空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
z
研究対象とする振子車両は,現在国内で広く運用されている自然振子方式の“制御付
き振子車両”とすること.
z
車体傾斜動作を行うアクチュエータは,既存車両への適用の容易さ,およびコスト
面を考慮して,空気圧式とすること.
z
次世代振子制御システムの振子パターンである“JTM パターン”に追従できることを
目標とすること.
z
低減を図る振動は,乗り物酔いに影響の大きい 0.3Hz 付近の左右方向振動とする.
その際,他の周波数帯の振動を増加させないこと.
z
振子制御用空気圧サーボシステムの特性を表現できる,非線形なシミュレーション
モデルを構築すること.
z
構築するシミュレーションモデルを用いて,応答性に優れたサーボシステムを提案
すること.
z
構築するシミュレーションモデルの妥当性,および提案するサーボシステムの有効
性を検証するため,振子車両の断面モデルを用いた定置振子試験を行うこと.
z
実車での乗り心地を確認するため,振子車両の一車両モデルを用いた実軌道走行シ
ミュレーションを行い,振動低減効果を確認すること.
1.6
本論文の構成
本論文は次の 4 章から成る.
第1章
序論
緒論であり,本論文の研究背景と目的,および本論文で対象とする乗り心地の定義と
評価量について述べる.
22
第1章
第2章
序
論
空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減
はじめに,外部からの指令信号によって減衰制御を可能にする“絞り制御弁内蔵型空気
ばね”を説明する.次に,スカイフック制御則を用いた減衰制御アルゴリズムについて述
べる.この空気ばねの振動伝達特性と減衰制御による振動低減効果を確認するため,空
気ばねの振幅依存性を表現できる非線形シミュレーションモデルを構築する.シミュレ
ーションによる振動低減効果の確認の後,その実証のため,空気ばね単体による加振実
験を行い,これらの結果から,空気ばねの減衰制御によって,車体の 1~2Hz 付近の振
動低減が可能であることを示す.
第3章
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
まず既存の制御付き振子車両の振子機構,および空気圧サーボシステムの構成を説明
する.そしてサーボ弁の仕様変更,および振子角目標値の変更を中心とした新しいシス
テムを提案する.提案するシステムの有効性を確認するため,サーボ弁のスプール部分
の仕様変更を表現できる,空気圧サーボシステムの詳細シミュレーションモデルを構築
する.このモデルの妥当性を,実物大の振子車両の断面モデルを用いた実験とシミュレ
ーション結果を対比することにより示す.さらに,このサーボシステムモデルを振子車
両の一車両モデルに組み込み,走行シミュレーションを行った結果を示す.その結果,
提案するシステムは車体の低周波左右振動を低減でき,乗り物酔い暴露量値(MSDVy)
を低減できることを示す.
第4章
結論
本研究で得られた知見を総括し,今後の課題と展望について述べる.
23
24
第2章
空気ばねの減衰制御による
車体上下振動低減
2.1
緒言
本章では,車体の上下振動のうち,特に 1~2Hz 付近の剛体モードの振動低減に寄与す
る可変減衰空気ばねを提案し,その振動伝達特性と制御による振動低減効果を,非線形
モデルによるシミュレーションと,定置加振実験によって示す(50).なお,ここで扱う可
変減衰空気ばねの名称は,以後,“絞り制御弁内蔵型空気ばね”と呼ぶことにする.
2.1.1
空気ばねの構成と既往の研究
昭和 30 年代以前,鉄道車両の車体支持系である 2 次ばね(一般に“枕ばね”と呼ばれる)
には,板ばねやコイルばねが用いられるのが普通であった.一方で,車両の上下方向の
振動乗り心地を良くするには,できるだけ枕ばねの剛性を小さくすることが望まれる.
ところが,鉄道車両は乗客の人数によって車体質量が大きく変化するため,あまりばね
剛性を小さくしてしまうと,駅ホームと車体間,または隣接する車体間で高低差が生じ
てしまうなどの問題が発生することになる.この課題を解決したのが,空気ばねであっ
た(51).空気ばねは,自動高さ調整弁を併用することにより,車体質量に合わせて空気ば
ねの内圧を調整して,車体高さを一定に保つことができる.このような空気ばねは,機
械的にも音響的にも高周波振動の絶縁性に優れており,近年の日本の車両では標準的に
使用されるようになった.また,ボルスタレス台車の普及にも大きく貢献している.
鉄道車両に使用される空気ばねを図 2.1,図 2.2 に示す.空気ばねは,ゴムベローズ
で構成される空気ばね本体,および補助空気室(台車枠の内部に設けられることが多い
が,車体に設けられる場合もある)で構成される.両者を結ぶ空気通路には絞りが設け
られ,ここを通る空気の圧力損失によって減衰力を発生させている.このような 2 室型
空気ばねの基礎的な特性は小田らによって研究され(52),空気ばねを 4 要素の線形モデル
として表す手法は現在でも広く用いられている(53).
26
第2章
空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減
上面板
ゴムベローズ
積層ゴム
図 2.1
鉄道車両用空気ばね(本体)概観
車体
ゴムベローズ
積層ゴム
絞り
補助空気室
図 2.2
鉄道車両用空気ばねの構成
鉄道車両の空気ばねに関する研究としては,小柳らが行った絞り弁の流量特性の線形
化手法がある(54).これは,絞りとして用いられるオリフィスが有する非線形な流量-圧
力特性を線形化し,設計時の取り扱いを容易にすることを目的としたものである.流量
特性が線形化された絞り弁は,板弁式絞り弁ないし可変絞りなどと呼ばれ,絞り弁に機
械的な圧力フィードバック機構を持たせることで流量特性を線形化した.ただし,この
手法は一時期の車両に採用されていたが,最近ではほとんど使用されていない.
空気ばねの減衰制御の例として,Tang による研究がある(55).これは,本研究による手
法と同様に,空気ばねの絞りの開口面積を制御して車体の振動を低減するものである.
絞りの可変機構には,ステッピングモータでバラフライ弁を駆動する方法を用い,制御
則には最適制御が用いられている.Tang は 1/4 スケールの模擬車両を製作し,振動低減
効果が得られることを示しているが,この方式では装置の小型化が難しく,実際の車両
に実装することは困難である.
27
本研究で扱う空気ばねシステムは,実用化を念頭に置き,実際の新幹線車両に取付可
能なシステムとした.
2.1.2
記号
本章で使用する記号を以下の通りに定義する.
2.2
a
空気ばね絞りの開口面積[m2]
Ai
空気ばね有効受圧面積[m2]
cA
空気ばね絞りの減衰係数[N/(m/s)]
d
空気ばね絞りの直径[m]
G
絞りを通る空気の質量流量[kg/s]
M
ばね上質量[kg]
Patm
大気圧(絶対圧)[Pa, abs.]
Pi
空気圧力(絶対圧)[Pa, abs.]
R
空気の気体定数[J/(kg・K)]
Ti
空気温度[K]
Vi
空気室容積[m3]
VV
絞り制御弁電流ドライバへの指令電圧[V]
Wi
空気質量[kg]
zA
空気ばね相対変位[m]
zB
ばね上変位[m]
zT
ばね下変位[m]
κ
空気の比熱比
i
0:初期状態,1:空気ばね本体室,2:補助空気室
絞り制御弁内蔵型空気ばね
絞り制御弁内蔵型空気ばねは,空気ばね内部に設置した絞りの開口面積を外部からの
指令に従って変化させて空気ばねの減衰力を制御できるようにしたものである.菅原ら
は,この空気ばねのプロトタイプシステムを用いた車両試験台試験で制振性能を確認し
た(56).本研究では,プロトタイプに対して性能を向上した弁,およびこの弁を内蔵した
28
第2章
空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減
空気ばねを用いた.図 2.3 に本空気ばねの断面図を,図 2.4 に空気ばね内部の様子を示
す.固定絞りの代わりに絞り制御弁が取り付けられていること以外は通常の新幹線用空
気ばねと同じ構造である.絞り制御弁は空気ばね内部の底板に固定され,弁の駆動電流
は,空気ばね底面に設けた気密コネクタを介して供給する.また,最近の新幹線電車で
は空気ばねの左右剛性に非線形性を持たせるため,積層ゴムの変位制限ストッパを設け
ることが多い.通常の新幹線用空気ばねでは制限ストッパは円錐形であるが,本空気ば
ねは絞り制御弁をまたぐ必要があるので門型とした.なお,絞り制御弁および制限スト
ッパは,急曲線通過時であっても積層ゴム内面と干渉しないように配置した.
Rubber bellows
Stopper
Sensor stay
Laminated rubber
Base plate
Flow control valve
Airtight connector
with variable orifice
To auxiliary
air chamber
図 2.3
絞り制御弁内蔵型空気ばねの断面図
Flow control valve
Laminated rubber
図 2.4
Stopper
Sensor stay
絞り制御弁内蔵型空気ばね内部の様子
29
2.2.1
絞り制御弁
図 2.5 に開発した絞り制御弁とその構成を示す.絞り制御弁は比較的大きなスプール
を持つ直動型流量制御弁であり,外部からの電流指令によって絞りに相当する弁の開口
面積を変化させることができる.空気ばね内部に設置された絞り制御弁内部の空気の流
れを図 2.6 に示す.一般に,減衰制御を行う際には最小減衰力をより小さくとれること
が振動絶縁性能上好ましい.そのため,今回開発した絞り制御弁は特に弁の開度を大き
く確保できる必要があった.スプールストロークはそれほど大きくとれないため,スプ
ール径を極力大きく,また空気ばね本体室に通じるポートを 2 箇所に設けることや,空
気通路の形状を適切化するなどの工夫を施した.またフェールセーフ性を考慮して,シ
ステム電源断時には従来の固定絞りと同等の特性となるようにスプールの中立位置を調
整できるようにした.
絞り制御弁電流ドライバへの指令電圧 VV からスプール変位までのボード線図を図 2.7
に示す.減衰制御の対象となる概ね 10Hz 以下の周波数領域において,フラットなゲイ
ン特性であり,遅れも小さいことが分かる.なお,高周波数域でゲインが増加している
のは,スプール質量とスプールを中立に保持するばねの固有振動数が 100Hz 付近に存在
するためである.
Port
(Inside air spring)
Solenoid motor
Port
(To auxiliary
air chamber)
Spool
図 2.5
30
絞り制御弁
第2章
空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減
Inside of
air spring
Proportional
Solenoid
Spool
To auxiliary
air chamber
Phase [deg]
Gain
(VV[V] to spool stroke [mm])
図 2.6
10
0
10
-1
10
-2
10
0
10
0
絞り制御弁内部の空気の流れ
1
10
Frequency Hz
0
-50
-100
-150
1
10
Frequency Hz
図 2.7
2.2.2
絞り制御弁指令電圧 VV からスプール変位までのボード線図
空気ばねの振動伝達特性
絞り制御弁内蔵型空気ばね単体の振動伝達特性を調査するため,ばね上に約 7000kg
(1/4 車体質量相当)の荷重を積載して加振試験を実施した.ばね下からの加振波形は
振幅 1~5mm,周波数 0.5~5Hz の単一正弦波を用い,絞り制御弁電流ドライバへの指令
電圧 VV を数通りに設定して加振を行い,ばね下変位に対するばね上変位の応答倍率を調
31
査した.なお絞りの開口面積は, VV = +8V で最大となり,VV = -8V で最小となる.結果
の一例(加振振幅 2.5mm)を図 2.8 に示す.VV を大きくすると,制御弁の開度が大きく
なり,空気ばねの減衰が減少する.その結果,固有振動数である 1Hz 付近の応答倍率が
増大し,逆に 1.5Hz 以上の周波数帯では応答倍率が減少する.一方,VV を小さくすると
絞り制御弁の開度が小さくなり,空気ばねの減衰が増大して 1Hz 付近の応答倍率が小さ
くなる.しかし,ある程度以上絞り制御弁を閉じると補助空気室と空気ばねの間が閉じ
きられる効果が大きくなり,その結果,補助空気室を持たない空気ばねの特性に近くな
り,1.9Hz 付近に大きな応答倍率を持つ特性となる.
10
VV
+8.0V
Gain |zB|/|zT|
8
6
○
+4.0V
+
+0.0V
☆
-3.0V
×
-8.0V
◇
Normal
Orifice
(φ13mm)
4
2
0.5
図 2.8
1
2
Frequency [Hz]
3
4
5
絞り制御弁内蔵型空気ばねのばね下変位 zT からばね上変位 zB
までの振動伝達特性(加振振幅 2.5mm)
2.3
制御則
制御に用いる空気ばねの力学モデルを図 2.9 に示す.これは 3 個のばね要素と 1 個の
減衰要素からなる線形 4 要素モデル(53)で,空気ばねの運動解析に広く用いられている.
なお k1 は空気ばね本体室による剛性,k2 は有効受圧面積変化による剛性,N は空気ばね
と補助空気室の容積比であり Nk1 は補助空気室による剛性を示す.また cA は絞りによる
減衰係数である.本システムでは絞りの開度を可変とすることにより,減衰要素 cA で発
生する減衰力を制御する.
32
第2章
空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減
zB
¼ Body
zA
zT
図 2.9
2.3.1
k1
k2
cA
N・k1
制御に用いる空気ばねの線形 4 要素モデル
減衰係数の同定
減衰を制御するためには,絞り制御弁電流ドライバへの指令電圧と減衰係数との関係
が必要になる.そこで図 2.9 に示した空気ばねモデルを用いて減衰係数 cA の同定を行っ
た (56).結果を図 2.10 に示す.この結果より,制御弁ドライバへの指令電圧と空気ばね
の減衰係数の関係を概ね表すことができる近似式として式(2.1)を得た.
V=
(1 (c A + α1 ) − α 3 ) α 2
(c
(cA + β 2 ) β3 − β1
(c
A
A
< cp )
≥ cp )
(2.1)
ここに,αi (i=1, 2, 3),βi (i=1, 2, 3)は,各加振振幅ごとに定める実定数である.cp は,
各加振振幅ごとに定める実定数である.この近似式による指令電圧-減衰係数の関係を
図 2.10 に実線で示す.制御の際には,この関係を用いて目標とする減衰係数を指令電
圧に変換して絞り制御弁ドライバへ電圧指令値を出力する.
33
Damping coefficient cA [N/(m/s)]
6
5
Amplitude Identification Approximate
value
function
1.0mm
◆
2.5mm
5.0mm
4
3
2
1
0
図 2.10
2.3.2
× 10 5
-8
-6
-4
-2
0
2
4
Command voltage VV [V]
6
8
絞り制御弁指令電圧値 VV に対する減衰係数 cA の同定結果
制御則
空気ばね単体試験時の制御ブロック図を図 2.11 に示す.空気ばね上下変位 zA はレー
ザ変位計を,車体上下加速度 &z&B はサーボ式加速度計を用いて測定する.
空気ばねの減衰制御測としては,最適制御や H∞制御など様々な制御則が考えられる
が,本稿では調整が容易なスカイフック制御則 (57)を用いた.以下,図 2.11 を参照して
制御則の適用法を示す.まず,ばね上で観測される車体上下加速度をフィルタによって
積分して車体上下速度を算出する.すると,スカイフック力 fs は,スカイフックゲイン
を cs として,
(2.2)
f s = −c s z& B
と表される.スカイフック制御を行うためには,fs を空気ばねの減衰 cA で発生させれば
よい.ただし,cA は減衰要素であるので,スカイフック力 fs と z& A の符号が等しい場合は
fs と同符号の力を cA によって発生することはできない.そのため,式(2.3)に示すように
カルノップ近似を適用し,スカイフック力 fs の向きに力を発生できない(57)場合には減衰
力を最小にする制御を行う.
cA =
34
z& B
cs
z& A
(c A min ≤
z& B
cs ≤ c A max )
z& A
c A max
(c A max <
z& B
cs )
z& A
c A min
(
z& B
cs < c A min )
z& A
(2.3)
第2章
空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減
ここに,cAmax,cAmin は,絞り制御弁の最大,最小減衰係数である.
Vertical
acceleration
sensor
z& B
&z&B
¼ Carbody
Skyhook force
fs
-CS
1/s
Skyhook gain
Air spring
Stroke
sensor
z& A
zA
s
Auxiary
air chamber
Translation
from
coefficient to
voltage
Calculation of
desired
damping
coefficient
VV
Current
driver
Flow control valve
図 2.11
2.4
Karnopp
approximation
空気ばね単体試験時の制御ブロック図
シミュレーションによる検証
減衰制御による上下振動絶縁性能を確認するため,シミュレーションによる検証を行
う.空気ばね系のモデルは非線形性を考慮するため,線形 4 要素モデルではなく,空気
の状態方程式を考慮した図 2.12 に示すモデルとした.本節では,モデルの導出を行い,
空気ばね下から鉛直方向に加振を行ったときのばね上の応答を時刻歴シミュレーション
で確認する.
Mass of ¼ body
zB
M
A1
P1 V1 T1
zA
G
Orifice
zT
Rubber
bellows
Auxiliary
P2 V2 T2
図 2.12
air chamber
シミュレーションモデル
35
2.4.1
シミュレーションモデルの構築
空気ばね相対変位 zA が変化すると,ゴムベローズで構成される空気ばね本体室が鉛直
方向に伸縮する.このとき,空気ばね本体室と補助空気室の間に空気の行き来が起こり,
絞りを通過する空気の圧力損失によって減衰作用が得られる.各室内の圧力変化につい
ては以下のように扱う.ここで添字 i は,1:空気ばね本体室,2:補助空気室を表す.
理想気体の状態方程式,
PiVi = Wi RTi
(2.4)
の両辺を時間微分し,dWi/dt=Gi であることを考慮すると,圧力変化は式(2.5)で表せる(58).
dPi
P dVi Wi R dTi RTi
Gi
=− i
+
+
dt
Vi dt
Vi dt
Vi
(2.5)
右辺第一項は体積変化,第二項は温度変化,第三項は質量変化,すなわち流量による
圧力変化を示す.空気の圧力変化はこれら 3 つの項の和によって表示される.
空気ばね本体室から補助空気室へ流入する空気の質量流量 G の符号を正とすると,式
(2.5)は式(2.6),式(2.7)のように表すことができる.
dP1
P dV W R dT1 RT1
=− 1 1 + 1
−
G
dt
V1 dt
V1 dt
V1
(2.6)
dP2 W2 R dT2 RT2
=
+
G
dt
V2 dt
V2
(2.7)
補助空気室は容積不変のため式(2.5)の第一項に相当する項は省かれる.空気ばね本体
室の容積は,空気ばね中立高さでの容積を V0,有効受圧面積を A0 として式(2.8)で表す.
V1 = V0 + A0 ⋅ z A
(2.8)
温度変化については断熱変化を仮定して,断熱変化の圧力と温度の関係式(2.9)を用い
る(59).ここで添字 0 は初期状態を表す.
⎛P ⎞
T1 = T0 ⎜⎜ 1 ⎟⎟
⎝ P0 ⎠
κ −1
κ
,
⎛P
T2 = T0 ⎜⎜ 2
⎝ P0
⎞
⎟⎟
⎠
κ −1
κ
(2.9)
絞り前後の圧力と質量流量の関係式は,絞りを先細ノズルとして扱うことができるも
のと仮定すると,絞り前後の圧力比によって式(2.10), 式(2.11)のように表せる(60).ここ
で添字 u は絞りの上流側,d は絞りの下流側を表す.
36
第2章
空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減
Pd Pu ≥ 0.528 のとき,
P
2κ
⋅ u
G = Cd ⋅ a
R(κ − 1) T u
⎛ Pd
⎜⎜
⎝ Pu
⎞
⎟⎟
⎠
2κ
⎛P
− ⎜⎜ d
⎝ Pu
⎞
⎟⎟
⎠
( κ +1 ) κ
(2.10)
Pd Pu < 0.528 のとき,
κ +1
κ ⎛ 2 ⎞ κ −1 Pu
G = Cd ⋅ a
⎜
⎟ ⋅
R ⎝ κ + 1⎠
Tu
(2.11)
ただしここでは絞りの幾何学的な開口面積 a に対して,絞り形状の影響による流量係
数を Cd として乗じた.Cd は,実験結果と計算結果を比較することにより決定した.ま
ずシミュレーションにより,Cd =1 として,ばね下から一定周波数,一定振幅で加振を
行ったときの加振周波数とばね下変位に対するばね上変位の応答倍率の関係を求めた.
さらに同様の条件の実験を行い,応答倍率の比較を行ったところ,絞り径が大きいほど
計算結果と実験結果の乖離は大きくなった.これは,今回実験に用いた固定絞りが絞り
径によらず厚さ 10mm で一定であることにより,絞り径 d が大きくなるほど相対的に絞
り厚さ l が小さくなり,縮流の度合いが強まって縮流係数が大きくなったためと考えら
れる(61).そこで絞り径が大きいほど Cd の値を小さくとることにより,計算結果と実験
結果の対応をとることとした.今回用いた絞り径と厚さの比 d/l と,流量係数 Cd の関係
を式(2.12)に示す.なおこの関係は加振振幅 2.5mm の結果を用いて決定した.
C d = −0.135d / l + 1.12
(C d max
= 1 .0 )
(2.12)
ばね上質量を M としたときの運動方程式は,式(2.13)で表す.一般に空気ばねの有効
受圧面積 A1 は,空気ばね相対変位 zA に応じて変化する.本シミュレーションにおいて
もこの影響を考慮するため,空気ばね相対変位 zA に対する有効受圧面積 A1 の関係を実
測に基づいて求め,この関係を用いてシミュレーションを行うこととした.
M
d 2 zb
= A1 (P1 − Patm ) − Mg
dt 2
2.4.2
(2.13)
シミュレーション結果
上記の空気ばね単体モデルを用いて,ばね下から加振を行ったときのばね上の応答を
時刻歴シミュレーションによって計算した.シミュレーションに用いた主なパラメータ
37
を表 2.1 に示す.単一正弦波加振を行ったときの,ばね下変位に対するばね上変位の応
答倍率の計算結果,および実験結果を図 2.13( 加振振幅 1mm),図 2.14( 加振振幅 2.5mm)
に示す.このときのばね上質量は 8000kg である.絞り径が大きいときには 1Hz 付近に,
小さいときには 1.9Hz 付近にピークを持つ特性となり,1.3Hz 付近に不動点を持つ.計
算結果は,ピーク周波数,応答倍率の絶対値,不動点周波数のいずれについても実験結
果と概ね一致した.また,図 2.15 に絞り径を φ13mm 固定としたときの加振振幅の違
いによる応答倍率を示す.空気ばねの非線形性の特徴である振幅依存性を表現できてい
ることが分かる.以上により,本シミュレーションモデルは妥当であると考える.
表 2.1
シミュレーションに用いた空気ばね諸元
Parameter
A0
P0
R
T0
V0
V2
κ
Value
2
0.196 m
451 kPa,abs. (M =7000kg)
501 kPa,abs. (M =8000kg)
287 m2/(s2・K)
293 K
2.5×10-2 m3
7.0×10-2 m3
1.4
次に減衰制御の効果をシミュレーションにより確認する.実機の場合には,2.3.1 項で
示した絞り制御弁電流ドライバへの指令電圧 VV と減衰係数 cA の関係を用いて減衰制御
を行うが,シミュレーションにおいては絞り径 d と cA の関係を用いて制御を行うことと
した.d と cA の関係は,図 2.14 に示す単一正弦派加振計算結果のばね下変位に対する
ばね上変位の応答倍率を用いて,2.3.1 項と同様の方法で同定により求めた.図 2.16 に
φ13mm 固定絞りの場合と,絞り制御を行った場合での単一正弦波加振に対する応答倍率
計算結果を示す.制御を行うことによって,概ね 2Hz 以下の周波数領域で振動低減効果
が得られた.また図 2.17 に,実際の新幹線車両の走行試験で取得した台車枠上下振動
加速度のうち,0.45Hz~30Hz の振動成分を主に再現して加振したときの,ばね上上下振
動加速度パワースペクトル密度(PSD)を示す.加振時間は 120 秒間,走行速度 300km/h
で走行距離は 10km に相当する.この実軌道走行模擬加振波形には,図 2.16 の正弦波加
振に比べて大きい加振振幅(最大 30mm 程度)が含まれている.実軌道走行模擬加振時
においても,2Hz 付近以下の振動を低減できた.
38
第2章
空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減
以上のシミュレーション結果から,絞りの開口面積制御による振動低減手法は有効で
あると考えられる.
39
10
Exp.
Gain |zB|/|zT|
8
Calc.
φ25mm
○
φ25mm
φ20mm
+
φ16mm
△
φ13mm
☆
φ 8mm
×
φ20mm
6
φ16mm
Calc.
4
φ13mm
φ3mm
φ11mm
φ5mm
φ6mm
2
φ8mm
0.5
図 2.13
1
5
Frequency [Hz]
ばね下変位 zT に対するばね上変位 zB の応答倍率
(加振振幅 1.0mm)
10
Exp.
Gain |zB|/|zT|
8
6
4
Calc.
φ25mm
φ20mm
φ16mm
○
φ20mm
+
φ16mm
△
φ13mm
☆
φ 8mm
×
Calc.
φ3mm
φ13mm
φ6mm
φ11mm
φ8mm
2
0.5
φ25mm
1
5
Frequency [Hz]
図 2.14
ばね下変位 zT に対するばね上変位 zB の応答倍率
(加振振幅 2.5mm)
40
第2章
空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減
6
Amplitude
1.0mm
2.5mm
5.0mm
Gain |zB|/|zT|
5
4
Calc. Exp.
○
+
△
7.5mm
3
×
2
1
0
0.5
1
図 2.15
5
Frequency [Hz]
ばね下変位 zT に対するばね上変位 zB の応答倍率
(加振振幅の違いによる計算結果,実験結果)
6
Amplitude
5
Calculation
(Passive) (Control)
Gain |zB|/|zT|
φ13mm
4
1.0mm
3
2.5mm
5.0mm
7.5mm
2
1
0
0.5
図 2.16
1
Frequency [Hz]
5
ばね下変位 zT に対するばね上変位 zB の応答倍率
(絞り制御の有無による計算結果)
41
Acceleration PSD [(m/s2)2/Hz]
10-1
Calc.
Passive
(φ13mm)
Control
10-2
10-3
10-4
0.5
1
5
10
Frequency [Hz]
図 2.17
絞り制御の有無によるばね上振動加速度のパワースペクトル密度(PSD)
(実軌道走行模擬加振のときの絞り制御の有無による計算結果)
2.5
実験による検証
シミュレーションでの制御による制振効果を実証するため,2.3.1 項の減衰係数同定の
ための実験と同様に,空気ばね単体での加振試験を行った.試験装置の構成は図 2.11
と同様である.加速度計測にはサーボ式加速度センサを,空気ばね変位計測にはレーザ
変位計を用いた.ばね上には 7000kg の質量を積載し,ばね下から上下加振を行ったとき
のばね上の応答を確認する.制御については 2.3.2 項に示した制御則を,DSP を搭載し
たパソコンに実装して試験を実施した.制御周期は 1ms であり,コントローラは連続系
で設計した後に離散化して実装した.
図 2.18 に正弦波加振を行った場合の固定絞り(φ13mm)使用時,および絞り制御弁制
御時のばね下変位に対するばね上変位の応答倍率の計算値,実験値を示す.なお,この
ときの制御パラメータは,固有振動数付近の振動低減に重点を置いたもので,タイプ 1
とする.加振振幅によらず,制御によって 1Hz 前後の応答倍率を低減でき,特に 1.1Hz
付近の応答倍率ピーク値は 50%程度低減できた.また,2Hz 以上の周波数域においては
42
第2章
空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減
制御によって応答倍率を増加することはほとんどなかった.
次に,2.4.2 項と同様の実軌道走行模擬加振に対する振動低減効果を確認する.図 2.19
に,実験結果の時刻歴波形を示す.制御パラメータはタイプ 1 である.この波形は,実
軌道走行模擬加振のうちの 6 秒間を抜き出したもので,ばね下変位,ばね上変位,空気
ばね変位,ばね上加速度,絞り制御弁への指令電圧,空気ばね内圧,および補助空気室
内圧である.ばね上加速度に応じて,絞り制御弁への指令電圧が頻繁に変化しているこ
とが分かる.
図 2.20 には,ばね上変位と空気ばね内圧について,制御有り無しでの
比較を示す.制御を行うことによって,ばね上変位の振幅が小さくなっていることが分
かる.空気ばね内圧については,制御を行うと,その変動が小さくなる傾向を見て取る
ことができる.
図 2.21 に,実軌道走行模擬加振に対するばね上の上下振動加速度 PSD 計算結果,お
よび実験結果を示す.制御パラメータはタイプ 1 である.計算値よりも振動低減効果は
若干小さいものの,制御によって 1Hz 前後の振動を低減できた.特に 1.2Hz の振動加速
度 PSD ピーク値を約 60%低減できた.実際の車両では,1Hz 付近に車体の上下並進モー
ドの固有振動が,2Hz 付近に車体のピッチングモードの固有振動が存在することが多い
ため,この周波数帯の振動を低減することにより乗り心地向上効果が得られると考えら
れる.また,正弦波加振の場合と同様に,2Hz 以上の周波領域において振動を増加させ
ることはほとんどなかった.
また、図 2.22 には、制御を行ったときのばね上変位とばね上加速度について、実験
結果と計算結果の時刻歴波形を示す。時刻歴波形においても、計算結果は実験結果をよ
く表現できていることが分かる。
実際の車両では,8~10Hz 付近に車体の一次曲げ振動の固有振動数が存在することが
多く,乗り心地を向上するためには,この周波数領域の振動低減が必要とされることが
多い.この帯域の振動絶縁性を向上するため,空気ばねの固定絞り径を拡大することが
考えられるが,その結果,1Hz 付近の振動が増大する.この比較的高周波の振動を絞り
制御のパラメータ変更によって低減できないか試みた.このときの制御パラメータをタ
イプ 2 とする.計算結果と実験結果を図 2.23 に示す.図 2.21 の 1~2Hz 付近の振動低
減重視の制御に比べて,1Hz 付近の振動低減効果は小さくなるものの,2~10Hz 程度の
周波数領域において振動加速度 PSD を 10%~最大 40%程度低減できた.このように本空
気ばねは,制御パラメータの選定の仕方によって,固有振動数付近の振動低減を重視し
43
た制御だけでなく,固有振動数付近の振動低減効果を若干犠牲にして,それより高い周
波数領域にまで振動低減効果が及ぶようにすることも可能である.
Gain |zB|/|zT|
5
Calc.
4
Exp.
Passive
(φ13mm)
3
Control
2
1
0
0.5
1
5
Frequency [Hz]
(a) Amplitude=1.0mm
Gain |zB|/|zT|
5
Exp.
Passive
(φ13mm)
3
Control
2
1
0
0.5
5
Gain |zB|/|zT|
Calc.
4
1
5
Frequency [Hz]
(b) Amplitude=2.5mm
Calc.
4
Exp.
Passive
(φ13mm)
3
Control
2
1
0
0.5
1
Frequency [Hz]
5
(c) Amplitude=5.0mm
図 2.18
φ13mm 固定絞りの場合と,絞り制御を行った場合での
正弦波加振に対する応答倍率
44
Vertical disp.
[mm]
第2章
20
Sprung mass
0
Unsprung mass
-20
Disp. of air spring
[mm]
0
Accel. of sprung
mass [m/s2]
2
3
4
5
6
1
2
3
4
5
6
1
2
3
4
5
6
1
2
3
4
5
6
3
4
5
6
0
1
0
-1
0
Command
Voltage
to valve [V]
1
10
-10
0
10
0
-10
0
Internal pressure
[kPa]
空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減
400
Rubber bellows
350
Auxiliary air chamber
300
0
1
2
Time [s]
図 2.19
実軌道走行模擬加振における実験結果の時刻歴波形
(制御パラメータ:タイプ 1)
45
Vertical disp.
of sprung mass [mm]
Internal pressure of
rubber bellows [kPa]
40
Passive
Control
20
0
-20
-40
0
5
10
15
20
5
10
Time [s]
15
20
420
400
380
360
340
320
0
図 2.20
絞り制御の有無による,ばね上変位と空気ばね内圧の比較
(制御パラメータ:タイプ 1),(実軌道走行模擬加振による実験結果)
46
Acceleration PSD [(m/s2)2/Hz]
第2章
空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減
10-1
Calc.
Exp.
Passive
(φ13mm)
Control
10-2
10-3
10-4
0.5
図 2.21
1
5
Frequency [Hz]
10
絞り制御の有無によるばね上振動加速度のパワースペクトル密度
Vertical accel.
of sprung mass [mm]
Vertical disp.
of sprung mass [mm]
(制御パラメータ:タイプ 1),(実軌道走行模擬加振による計算結果,実験結果)
図 2.22
40
Calc.
Exp.
20
0
-20
-40
0
5
10
15
20
5
10
Time [s]
15
20
1
0
-1
0
絞り制御時のばね上変位・速度の時刻歴波形(制御パラメータ:タイプ 1)
(実軌道走行模擬加振による計算結果、実験結果)
47
Acceleration PSD [(m/s2)2/Hz]
10-1
Calc.
Exp.
Passive
(φ13mm)
Control
10-2
10-3
10-4
0.5
図 2.23
1
5
Frequency [Hz]
10
絞り制御の有無によるばね上振動加速度のパワースペクトル密度
(制御パラメータ:タイプ 2),(実軌道走行模擬加振による計算結果,実験結果)
2.6
結言
外部からの指令信号によって,絞りの開口面積の大きさを可変にする絞り制御弁を内
蔵した“絞り制御弁内蔵型空気ばね”を開発し,空気ばねが発生する減衰力を制御する
ことで,車体の剛体モードの固有振動数に相当する 1~2Hz 付近の振動を低減する手法
を提案した.シミュレーション,および開発品を用いた定置単体加振試験により,以下
の成果が得られた.
z
提案する空気ばねモデルを用いたシミュレーションにより,非線形空気ばねの特徴
である振幅依存性を表現でき,また,絞り制御の効果も精度良く確認できることを
示した.
z
48
絞りの開口面積を制御することにより,空気ばね系の固有振動数である 1~2Hz 付近
第2章
空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減
のばね上の上下振動を大きく低減できた.特に実軌道走行模擬加振に対しては,
1.2Hz の振動加速度 PSD ピーク値を約 60%低減できた.
z
絞り制御の制御パラメータを適切に設定することにより,固有振動数より高い周波
数領域(2~10Hz 程度)のばね上の上下振動を増加させることなく,空気ばね系の
固有振動を低減することができた.
z
絞り制御のパラメータ選定の仕方により,固有振動数付近だけでなく,広い周波数
領域の振動を低減できることを示した.特に実軌道走行模擬加振に対しては,
2~10Hz 程度の領域において振動加速度 PSD を 10%~最大 40%程度低減できた.
49
50
第3章
空気圧制御式振子車両の
低周波左右振動低減
3.1
緒言
本章では,空気圧式の制御付き振子車両に対して,サーボ弁の仕様変更,および振子
角目標値の変更を中心とした新しいシステムを提案する (62).このシステムの有効性を確
認するため,サーボ弁のスプール部分の仕様変更を表現できる,空気圧サーボシステム
の詳細シミュレーションモデルを構築する.このモデルの妥当性を,実物大の振子車両
の断面モデルを用いた実験とシミュレーション結果を対比することにより示す.さらに,
このサーボシステムモデルを振子車両の一車両モデルに組み込み,走行シミュレーショ
ンを行った結果を示す.その結果,提案するシステムは車体の低周波左右振動を低減で
き,乗り物酔い暴露量値(MSDVy)を低減できることを示す.
3.1.1
対象とする振子車両の構成
図 3.1 に,本章で対象とする制御付き振子車両の台車構成を示す.振子機構は,台車
枠の上に載荷された振子はりを中心に構成されている.振子はりの下面は,円弧状の案
内面を持っており,台車枠に対して,ロール方向に回転運動を行うことができる.この
回転運動の中心,すなわち振子中心は,車体重心よりも高い位置に設定される.そのた
め,車両が曲線を高速で走行すると,遠心力のため,車体は振子中心を中心に回転する.
このことを自然振子動作と言う.振子はりと台車枠の間には,空気圧式の振子アクチュ
エータ(図 3.2)が設けられており,曲線の形状と走行速度に合わせて出力される振子
角目標値(“振子パターン”と呼ぶ)に従って,自然振子動作のアシストを行う.この他,
振子動作に減衰を与える目的で,並列に振子ダンパが装備されている.
52
第3章
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
Tilt damper
(for passive tilting)
Air spring
Tilting bolster
Tilt actuator
(Pneumatic)
Bearing guide
Bogie frame
Wheel set
図 3.1
対象とする制御付き振子車両の台車構成
図 3.2
3.1.2
振子制御用空気圧アクチュエータ(62)
記号
本章で使用する記号を以下の通りに定義する.
ai
サーボ弁のスプール開口面積[m2]
Ai
シリンダの受圧面積[m2]
Asp
スプールの圧力フィードバック力受圧面積[m2]
b
臨界圧力比
53
Ci
スプール開口部の音速コンダクタンス[m3/(s・Pa)]
Cv
定積比熱[m2/(s2・K)]
Gi
スプールを通過する空気の質量流量[kg/s]
hi
シリンダ内空気と内壁面との熱伝達率[W/(m2・K)]
Pe
大気圧(絶対圧)[Pa, abs.]
Pi
シリンダ内空気圧力(絶対圧)[Pa, abs.]
Ps
空気源圧力(絶対圧)[Pa, abs.]
Qi
シリンダ内壁面からシリンダ内空気への伝達熱量[J]
R
空気の気体定数[J/(kg・K)]
Shi
シリンダ内壁面積[m2]
Ta
シリンダ内壁面温度[K]
Ti
シリンダ内空気温度[K]
Vi
シリンダ空気室容積[m3]
Wi
シリンダ内空気質量[kg]
xp
シリンダ変位[m]
αsp
スプールの流量係数
κ
空気の比熱比
i
0:初期状態,1:シリンダ室 1,2:シリンダ室 2
3.2
振子制御用空気圧サーボシステムの詳細モデル構築
3.2.1
システム構成
(1)現状システム構成
振子制御用空気圧サーボシステムの現状システム構成を図 3.3 に示す.振子制御装置
で生成されるシリンダ変位目標値と,変位センサで計測されるシリンダ実変位との偏差
に応じて出力される電圧指令値は,電流ドライバへ送られ,比例ソレノイドに駆動電流
を供給する.サーボ弁は直動型の圧力比例制御弁であり,シリンダ内圧がスプール背面
にフィードバックされている.圧縮空気源から供給された高圧空気は,スプール位置に
応じて一方のシリンダ室へ供給されると同時に,もう一方のシリンダ室の空気は大気へ
54
第3章
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
排出され,シリンダが変位する.なお,シリンダの制御則は,シリンダ変位の偏差に対
する単純な比例制御である.
Pressure
source (Ps)
(601.3kPa, abs)
Atmospheric
pressure (Pe)
Current
driver
Command voltage
Pe
Proportional
Solenoid
Pressure
control P1
valve
G2
(Mode CA)
Driving
current
P2
G1
Tilt
controller
Spool
Cylinder
P1
P2
Stroke sensor
図 3.3
Cylinder stroke
現状の振子制御用空気圧サーボシステム(圧力制御弁を使用)
振子制御装置から出力される,サーボ弁の電流ドライバへの指令値である振子角目標
値(振子パターン)は,応答性に劣る現状システムに合わせて開発された CA モード(8)
が用いられている.
(2)新たに提案するシステム構成
サーボシステムの応答性向上には,サーボ弁の流量特性の向上が必須であると考える.
現在のシステムに用いられている圧力制御弁は,圧力フィードバックによってポートの
開度が制限されるため,制御安定性は高いものの,目標値に対する応答性,および最大
発生力が不足する傾向にあった.そこで図 3.4 に示すように,サーボ弁を,圧力フィー
ドバックを持たない流量制御弁に置き換えることで,流量特性を向上する.併せて,振
子パターンには,応答性のよいアクチュエータを前提に開発された JTM パターン(12)を
用いることで,乗り物酔いの低減を図る.
55
Pressure
source (Ps)
(601.3kPa, abs)
Atmospheric
pressure (Pe)
Current
driver
Command voltage
Pe
Proportional
Solenoid
Flow
control
valve
Pe
Pe
G1
Tilt
controller
(JTM pattern)
Driving
current
Spool
G2
Cylinder
P1
P2
Stroke sensor
図 3.4
Cylinder stroke
新たに提案する振子制御用空気圧サーボシステム(流量制御弁を適用)
3.2.2
振子角目標値(振子パターン)
(1)従来システムの振子角目標値(CA モード(8))
従来の制御付き振子車両に用いられている振子パターンは,CA モードと呼ばれてい
る.この名称は,開発当時に試験された 3 種類のモード(A, B, C)のうち最も性能のよ
かった C モード(傾斜角目標値制御)をベースに,ステップ状の A モード(制御力目標
値制御)の考え方を付加したことに由来する.CA モードの指令形状は,図 3.5 に示す
ように,段差のある形状をしている.
入口側緩和曲線における早め時間 t0 とステップゲイン S は,空気圧式振子アクチュエ
ータの応答遅れを補償するために設けられている.実際の車両では,早め時間は 0.5~
1.0 秒,ステップゲインは円曲線における目標振子角の 30%となっている.見かけ緩和
曲線長の延伸は,乗り心地の観点から定められている.曲線を高速で走行したとき,実
際の緩和曲線長に対応して車体が傾くと,車体のロール角速度が大きくなり過ぎて乗り
心地を損なうことがある.そこで,これを抑えるため,速度に応じて実際より長め(最
大 2 倍)の緩和曲線長を想定する.また,振子によって相殺する左右の遠心加速度,つ
56
第3章
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
まり補償加速度は,超過遠心加速度の関数として与えられている.超過遠心加速度
0.4m/s2 までは,100%を補償し,0.4~1.2m/s2 では徐々に補償割合を低減している.これ
は,多少の左右定常加速度を残して曲線であることを認知させた方が良いという考え方
や,急激に車体が傾くことによって車体が振子ストッパに辺り,衝撃が生じることを緩
振子パターン
(CAモード)
曲率,カント
和する目的から決められたと言われている.
入口側
緩和曲線
直線
BTC
出口側
緩和曲線
円曲線
BCC
ECC
直線
ETC
距離
早め時間
t0
t0
S
S
見かけ緩和
曲線長の延伸
距離
L0
L0
図 3.5
CA モードの指令形状
(2)提案するシステムの振子角目標値(JTM パターン)(11), (12)
鉄道総研による次世代振子制御システムの開発においては,十分な発生力および応答
性を持つアクチュエータを使って車体傾斜を行うことを前提とした.そこで,車両が走
行している軌道の形状(曲率,カント),および走行速度をもとに,人間工学的な乗り心
地評価指標が最良となるパターンを算出し,これに沿った車体傾斜を実現することを考
えた.このパターンを,JT ( Judgment function with TCT )パターン,JTM ( Judgment function
with TCT and MSDVy )パターンと呼ぶ.まず,これらのパターン算出に用いる乗り心地評
価指標 TCT について説明する.
① 緩和曲線における乗り心地総合評価指標(TCT)(64)
パターン生成に用いる乗り心地評価指標として,緩和曲線における乗り心地評価用に
提案されている総合評価指標(TCT)を用いる.この指標は,式(3.1)および式(3.2)に示す
57
緩和曲線走行時における 4 種の車体振動特性の重み付け合成値で表される.JT パターン
の算出には,このうち立位の重み付け係数を用いる.
立位: TC T − R = 0.6Y p + 0.3Y j + 0.03Θ p + 0.12Θ j + 0.5
(3.1)
座位: TC T − Z = 0.4Y p + 0.4Y j + 0.02Θ p + 0.04Θ j + 0.8
(3.2)
Yp:車体左右振動加速度最大値,Yj:車体左右ジャーク最大値
Θp:車体ロール角速度最大値,Θj:ロール角加速度最大値
② TCT に基づく振子パターン(JT パターン)の算出(11), (43)
JT パターンは事前に計測した 1m 刻みの曲率,カントのデータと車両の現在走行速度
をパラメータとして,現在走行地点以降の線区を走行するときに想定される車両動揺の
各状態量(yp,yj,θp,θj)を予測し,それに基づく TCT を近似的に最小にするような振
子角を算定したものである.式(3.3)に時刻 T0~T1 における目標振子角 φ(t)の計算式を示
す.yp,yj,θp,θj に関してそれぞれの最大値に重みを掛けた線形和の最小値を与える φ(t)
が JT パターンとなる.
[
]
φ (t ) = arg min⎛⎜ ∫ 0.6 max y p (t ) + 0.3 max y j (t ) + 0.03maxθ p (t ) + 0.12 maxθ j (t ) dt ⎞⎟
T1
⎝
T0
⎠
(3.3)
このような目標値で振子動作を行えば,TCT を最良にする振子パターンが期待できる.
yp,yj,θp,θj の予測は,車両走行に伴う動的な挙動を予測することであり厳密な値を得
ることは難しいが,線路形状と車両速度を用いた式(3.4)~(3.7)の準静的な推定値を用い
て計算する.
yp =
V 2 ⎛ C(t )
⎞
−⎜
+ φ (t ) ⎟ g
R(t ) ⎝ G
⎠
y j = y& p = −
θp =
⎛ C& (t ) & ⎞
V2 &
⎜⎜
(
)
−
+ φ (t ) ⎟⎟ g
R
t
R(t ) 2
⎝ G
⎠
C& (t ) &
+ φ (t )
G
θ j = θ& p =
C&&(t ) &&
+ φ (t )
G
(3.4)
(3.5)
(3.6)
(3.7)
ただし,R は曲率,C はカント,V は走行速度(T0<t<T1 では一定と仮定),G は軌間,g
は重力加速度を表す.
58
第3章
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
このような計算を自車がこれから走行する区間を予見して逐次行い,求められたパタ
ーンに合わせて振子制御を行う.
③ TCT および MSDVy に基づく振子パターン(JTM パターン)の算出(12)
JT パターンに,乗り物酔いの評価式を加えて算出されるパターンが,JTM パターンで
ある.JT パターンの評価関数を式(3.8)のように振子角 φ(t)の関数 fJT(φ(t))で表すと,JTM
パターンの評価関数 f JTM (φ (t )) は, f JT (φ (t )) を用いて式(3.9)のように表される(12).
f JT (φ (t )) = 0.6 max y p (φ (t ))
T1
T0
+ 0.03 max θ p (φ (t ))
T1
T0
+ 0.3 max y j (φ (t ))
T1
T0
+ 0.12 max θ j (φ (t ))
f JTM (φ (t )) = (1 − α ) ⋅ f JT (φ (t )) + α max y f (φ (t ))
T1
T0
T1
T0
(3.8)
(3.9)
y f (φ (t )) : y p (φ (t )) に対して 0.3Hz 以下の左右振動加速度を強調する補正フィルタ
をかけたもの
α:TCT 評価値と MSDVy 評価値の割合係数
α=0 のときは, y f (φ (t )) に関する項が無効となり TCT 評価値単独による JT パターンと
なる.α=1 のときは, f JTM (φ (t )) に関する項が無効となり MSDVy 評価値のみによる振子
パターンが生成される.0<α<1 のときは,2 つの評価値が α および(1-α)の割合で配分さ
れた振子パターンが生成される.これが JTM パターンである.
JTM パターンは,JT パターンに比べて,軌道形状に合わせた小刻みな変化を伴うのが
特徴である.図 3.6 に出力波形例を示す.乗り物酔いに影響が大きい 0.3Hz 成分を積極
的に打ち消そうとするためこのような形状になる.
59
振子角[°]
5
JTパターン
0
JTMパターン
(α=0.95)
-5
0
500
1000
1500
距離[m]
図 3.6
3.2.3
JT パターン,および JTM パターンの出力波形例
モデル作成
振子制御用空気圧サーボシステムの詳細モデルを作成する.詳細モデルとしたのは,
サーボ弁内部等の構成要素の仕様変更をできるだけ忠実にモデルに反映させたいためで
ある.シミュレーションモデルの入力はシリンダ変位目標値とし,出力はシリンダ発生
力とする.
(1)サーボ弁のモデル化
はじめに,サーボ弁のモデル化を行う.圧力制御弁と流量制御弁は,スプールに作用
する力の関係で区別できる.圧力制御弁のスプールに作用する力の関係を図 3.7 に示す.
スプールには,電流ドライバからの指令電流により駆動されるソレノイド推力(電流ゲ
イン ks)と,これに対抗する戻しばね力(ばね定数 ksp),および圧力フィードバック力
が作用する.これらの力の釣り合いによって,スプール変位 xsp が決まり,ポートの開口
面積が決定される.次に,流量制御弁のスプールに作用する力の関係を図 3.8 に示す.
スプール背面にシリンダ内圧がフィードバックされないため,ソレノイド推力と戻しば
ね力のみの釣り合いとなる.
指令電流 i は,シリンダ変位目標値 xpc と実変位 xp の偏差に対する比例ゲインを K と
して,式(3.10)で表す.
i = K ( x pc − x p )
(3.10)
圧力制御弁のスプールに作用する,ソレノイド推力と圧力フィードバック力の合力 Fsp
は,式(3.11)で表せる.
Fsp = k s i − Asp (P1 − P2 )
60
(3.11)
第3章
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
流量制御弁のスプールに作用する力は,式(3.11)の圧力フィードバック項を零として,
式(3.12)で表せる.
Fsp = k s i
(3.12)
次にスプール変位 xsp は,Fsp をスプール戻しばねのばね定数 ksp で除して,式(3.13)で
表される.
x sp = Fsp k sp
(3.13)
するとポートの開口面積 ai は,ポートの円周長さを wp,オーバラップ量を ε として式
(3.14)で表すことができる.ここで添字 i は,1:シリンダ室 1,2:シリンダ室 2 を表す.
0, xsp ≤ ε
ai = w p xsp − ε , xsp > ε
(
)
(3.14)
なお,xsp が正のときはサーボ弁の供給ポートとシリンダ室 1 が通じ,シリンダ室 2 と
排気ポートが通じる.xsp が負のときは,供給ポートとシリンダ室 2 が通じ,シリンダ室
1 と排気ポートが通じる.
Ps
Spring force
-ksp×xsp
Pe
Solenoid force
ks×i
P1
P2
Pressure feedback
Pressure feedback
P1 P2
force -P1×Asp
force P2×Asp
From / To cylinder
図 3.7
圧力制御弁のスプールに作用する力の関係
Ps
Spring force
-ksp×xsp
Pe
Solenoid force
ks×i
Pe
Pe
P1 P2
From / To cylinder
図 3.8
流量制御弁のスプールに作用する力の関係
61
(2)シリンダ発生力の導出
ピストンに作用する力は,シリンダ内圧とピストン受圧面積の積となるので,シリン
ダ内圧の変化を正確に捉えることが重要となる.そこで,空気の状態方程式を考慮した
モデルを作成する.
理想気体の状態方程式は,式(3.15)で表せる.
PiV i = W i RT i
(3.15)
式(3.15)の両辺を時間微分し,圧力変化についてまとめると,式(3.16)を得る.
dPi
P dV W R dTi RTi
=− i i + i
+
Gi
dt
Vi dt
Vi dt
Vi
(3.16)
式(3.16)から分かるように,シリンダ内の圧力変化は,容積変化の項,温度変化の項,
及び質量変化(すなわち質量流量)の項の和で表せる.
シリンダ室の容積は,ピストン変位によって幾何学的に表せる.ピストン中立時の容
積を Vi0,受圧面積を Ai として式(3.17)で表す.また,容積の時間変化は,ピストン速度
によって式(3.18)で表す.
V i = V i 0 ± Ai x p
(3.17)
dx
dVi
= ± Ai p
dt
dt
(3.18)
シリンダ室内温度の時間変化については,シリンダ内の空気とシリンダ内壁面との間
での熱量の授受を考慮する.シリンダ内壁面からシリンダ内空気への伝達熱量 Qi は,シ
リンダ内壁面温度を Ta,シリンダ内壁面積を Shi,シリンダ内空気と内壁面との熱伝達率
を hi とすると,式(3.19)で表せる(65).
Qi = hShi (Ta − Ti )
(3.19)
Qi を用いると,シリンダ内の温度変化は,空気の流入,流出の場合に分けて式(3.20),
(3.21)で表せる(65).
シリンダに空気が流入するとき (Gi ≥ 0)
dTi
1
{GiCV (T a−Ti ) + RTaGi + Qi }
=
dt CV Wi
(3.20)
シリンダから空気が流出するとき (Gi < 0)
dTi
1
(RTaGi + Qi )
=
dt CV Wi
62
(3.21)
第3章
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
次に,シリンダに流入(流出)する空気の質量流量について考える.サーボ弁のスプ
ール開口部を絞りと考え,先細ノズルとして扱うことができるものと仮定すると,シリ
ンダ流出入流量 Gi は,スプール開口部の音速コンダクタンスを Ci として,絞り前後の
圧力比によって式(3.22),(3.23)で表せる(66).ここで,添字 u は絞りの上流側,d は下流
側を表す.また,ρN と TN は標準状態における空気の密度と温度であり,b は臨界圧力比
である.
Pd Pu ≤ b のとき,
Gi = Ci ρ N Pu
TN
Tu
(3.22)
Pd Pu > b のとき,
T
⎛ P P −b⎞
Gi = Ci ρ N Pu N 1 − ⎜ d u
⎟
Tu
⎝ 1− b ⎠
2
(3.23)
Gi の符号は,シリンダに給気されるときを正とし,シリンダから排気されるときを負
と定義する.
Ci は,流量係数を αsp として,式(3.24)で表す (66).
κ +1
α sp ai κ ⎛ 2 ⎞ 2(κ −1)
Ci =
⎜
⎟
ρ N RTN ⎝ κ + 1 ⎠
(3.24)
以上の式(3.17)~(3.24)を式(3.16)に代入し,時間積分を行うとシリンダ内圧 Pi が得ら
れ,シリンダ発生力 Fp は,式(3.25)で計算できる.
Fp = A1 P1 − A2 P2 − ( A1 − A2 )Pe
3.3
(3.25)
サーボシステムモデルの妥当性検証
3.3.1
検証に用いる振子車両断面モデル
図 3.9 に,空気圧サーボシステムモデルの妥当性検証に用いる実験装置を示す.この
実験装置は動揺負荷試験装置と呼ばれる,振子車両の断面を模擬した実物大の装置であ
り,空気ばね等による車体~台車間の自由度を考慮した条件で,振子用アクチュエータ
の動作試験を行うことができる.本装置による実験結果と,シミュレーション結果を比
較することで検証を行う.
63
シミュレーションにおける動揺負荷試験装置の力学モデルは図 3.10 のとおりであり,
汎用のマルチボディダイナミクス解析ソフトである SIMPACK AG 社製 SIMPACK(67)で作
成した.また,サーボシステムモデルは MATLAB/Simulink で作成した.SIMPACK 側か
らシリンダ変位を,Simulink によるサーボシステムモデルに渡し,そこで計算されたシ
リンダ発生力を SIMPACK へ返すことによる協調シミュレーションを行った.表 3.1 に
サーボシステムモデル,
表 3.2 に車両断面モデルの諸元値を示す.車両断面モデルの車体質量は 14t,シリン
ダ初期内圧 P0 は 401.3kPa, abs.とした.また,サーボ弁のスプール開口部の流量係数 αsp
は,実験結果との対比により 0.6 とした.
実験は,図 3.11 に示すように振子はりと台車枠間に振子シリンダを取付けて,これに
変位目標値を与えて動作させたときの実変位,内圧,サーボ弁通過流量等を測定した.
表 3.1
Value
Symbol
A1
1.227×10
A2
1.131×10
A sp
b
Cv
-2
m
-2
m
-4
m
0.63×10
0.5
717
Symbol
S h 10
2
Value
-2
m
-2
m
K
8.345×10
S h 20
2
T0
9.802×10
293.15
Ta
293.15
K
TN
293.15
K
-3
m
-3
m
-3
kg/dm
2
2
m /(s ・K)
2
V 10
1.841×10
2
13.66
W/(m ・K)
h2
25.67
V 20
P0
Pe
401.3
101.3
W/(m ・K)
kPa, abs.
kPa, abs.
α sp
κ
1.697×10
0.6
1.4
Ps
601.3
kPa, abs.
ρN
1.185×10
R
287
Symbol
c2
cd
cf
I bx
I fx
2
2
h1
表 3.2
64
空気圧サーボシステムモデルのシミュレーション諸元
2
2
3
3
3
2
m /(s ・K)
動揺負荷試験装置モデルのシミュレーション諸元
Value
50 kN・s/m
120 kN・s/m
20 kN・s/m
5000
215
2
kg・m
2
kg・m
Symbol
k2
k 2y
Mb
Mf
Value
20 kN/m
40 kN/m
14 t
500
kg
第3章
図 3.9
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
動揺負荷試験装置
Roll center of tilting bolster
Half carbody
Mb I
bx
k2
c2
2k2y
Ifx
cf
図 3.10
cd
Mf
Air spring
Tilting bolster
Tilt actuator
Tilt damper
動揺負荷試験装置のシミュレーションモデル
65
Body
Servo valve
Cylinder
Tilting bolster
Bogie frame
図 3.11
3.3.2
Tilt damper
動揺負荷試験装置への空気シリンダ等の取付状況
シミュレーション結果と実験結果との比較
(1)圧力制御弁の場合
図 3.12 に,従来から使用されている圧力制御弁を用いた場合の計算結果,および実
験結果を示す.シリンダ変位目標値は,周波数 0.1Hz,振幅 136mm(振子角 5°に相当)
の正弦波である.シリンダ実変位の計算値は,目標値に対する遅れ,最大変位量ともに
実験値とよく合っている.シリンダ発生力の絶対値も概ね合っている.実験値との間に
生じる誤差の主要因は,計算では考慮していない模擬車体とこれを支える転倒防止板と
の間の摺動摩擦力,およびシリンダ支持ピン部のガタに起因するものと考えられる.
(2)流量制御弁の場合
図 3.13 に,今回提案する流量制御弁を用いた場合の計算結果,および実験結果を示
す.シリンダ変位目標値は圧力制御弁の場合と同様の正弦波である.流量制御弁の場合
も,試験装置の摩擦力と支持ピン部のガタに起因するわずかな誤差はあるものの,計算
値と実験値は非常によく合っている.また,圧力制御弁の場合と比較して,目標値に対
する遅れは減少し,最大変位も大きくなっていることがわかる.これは,流量制御弁に
よってより大きな流量を実現でき,シリンダの差圧をより大きく確保することができた
ためである.
以上の結果から,3.2.3 項で提案した空気圧サーボシステムモデルは妥当であると考え
る.また,流量制御弁を用いることで,シリンダの応答性,最大発生力を向上できるこ
とが実験的,理論的に明らかになった.
66
Cylinder stroke
[mm]
第3章
100
Command
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
Exp.
Calc.
0
-100
Deviation of
cylinder stroke
[mm]
0
Driving current
of valve [A]
0
0
5
10
25
30
15
20
25
30
15
20
25
30
15
20
25
30
20
25
30
20
25
30
Exp.
-100
5
10
0.5
Mass flow rate
[kg/s]
-0.5
0
0.01
Exp.
Calc.
5
Exp.
G1
Calc.
G2
5
0
0
5
10
Calc.
P1
500
Force [kN]
10
0
-0.01
0
Pressure [kPa]
20
Calc.
100
0
15
P2
5
Exp.
10
Exp.
0
-5
0
15
Calc.
5
10
15
Time [s]
図 3.12
計算結果と実験結果との比較(圧力制御弁を用いた場合)
67
Cylinder stroke
[mm]
100
Command
Exp.
Calc.
0
-100
Deviation of
cylinder stroke
[mm]
0
Driving current
of valve [A]
0
0
5
10
15
20
25
30
15
20
25
30
15
20
25
30
15
20
25
30
20
25
30
20
25
30
100
Calc.
Exp.
-100
0
10
0.5
Mass flow rate
[kg/s]
-0.5
0
0.01
Calc.
Exp.
5
G1
Exp.
Calc.
G2
5
0
0
5
10
Calc.
P1
500
Force [kN]
10
0
-0.01
0
Pressure [kPa]
5
Exp.
P2
5
10
Exp.
0
-5
0
15
Calc.
5
10
15
Time [s]
図 3.13
68
計算結果と実験結果との比較(流量制御弁を用いた場合)
第3章
3.4
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
一車両モデルによるシミュレーション
3.4.1
車両モデル
3.3 節で流量制御弁を用いたシステムの有効性を車両断面モデルで確認したが,実際
の車両では,振子シリンダは前後の台車それぞれに配置され,2つのシリンダで1つの
車体の振子制御を協調して行うことになる.かつ,走行する軌道は,緩和曲線等でのカ
ントの変化により,前後の台車で大地に対するロール角が異なる状況が発生する.この
ような現実の複雑な走行環境下においても,流量制御弁を用いたシステムが,乗り心地
向上に寄与できるのかを把握するには,一車両モデルによる実軌道走行シミュレーショ
ンが不可欠である.
車両モデルを図 3.14 に示す.このモデルを SIMPACK で作成した.車両モデルの諸
元値は付録に示す.図 3.15 には,SIMPACK モデルの概要と自由度を示す.台車は,
輪軸,台車枠,振子はりで構成されるボルスタレス台車とし,空気ばねを介して 25.2t
の車体を載荷した.車両モデルの自由度は,車体および前後の台車枠ではそれぞれ前後
動,左右動,上下動,ロール,ピッチ,ヨーの 6 自由度の計 18 自由度とし,4 本の輪軸
でそれぞれ前後動,左右動,ピッチ(回転),ヨーの 4 自由度の計 16 自由度,前後の振
子はりで台車枠に対するロールの計 2 自由度が考慮され,合わせて 36 自由度である.
なお,空気ばねの上下系モデルは,図 3.14 に示すように,車両の運動解析に広く用い
られる線形 4 要素モデル(51)とした.
69
Roll center of tilting bolster
Carbody
k3
Mb I
bx
k2
c2
Nk2
Ifx
Mt
k1
Air spring
Tilting bolster
Bogie frame
Mf
Itx
Mw
Tilt actuator
c1
Axle box
Wheel set
Cross section
BC/2
Air spring k
2y Tilting bolster
c0
kwy, cwy
2b1
2b0
k2x
Tilt actuator
Mw
kL
Iwz
Mf
cf
Iwy
kwx, cwx
Tilt damper
Wheelset
Mb
Iby , Ibz
Bogie frame
Carbody
Yaw damper
2WB
Top view
図 3.14
70
振子車両(一車両)のシミュレーションモデル
第3章
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
x
x, y, z
φ ,θ ,ψ
φ
Carbody
φ
ψ
y
θ
z
Tilting bolster
x, y, z
φ ,θ ,ψ
Bogie frame
x, y
θ ,ψ
Wheel set
図 3.15
3.4.2
DOF
一車両モデルの SIMPACK モデルと自由度
振子制御用サーボシステムモデル
3.3 節の振子車両断面モデルの場合と同様に,振子制御用空気圧サーボシステムモデ
ルは,MATLAB/ Simulink で作成した.振子シリンダは,前後の台車それぞれに配置さ
れ,軌道の曲率,カントおよび走行速度から演算される振子角目標値に従って制御され
る.
3.4.3
模擬走行条件
模擬走行を行った軌道線形は,半径 300m の急曲線が 7 つ連続する実在の 4km 区間で
あり,1m ごとの曲率(通り),カント(水準)の実測データをもとに再現した.これに
は軌道不整も含まれる.車両の走行速度は 80km/h 一定とした.
3.4.4
振子角目標値(振子パターン)
シミュレーションに用いた振子角目標値は,従来から制御付き振子車両に用いられて
いる CA モードと,次世代振子制御システム用に開発された JTM パターンである.
71
3.4.5
制御条件
表 3.3 に制御条件を示す.既存の制御付き振子車両の条件を“従来システム”とし,今
回提案するシステムを“改良システム”とする.改良システムは,流量制御弁を用いたサ
ーボシステムによって,JTM パターン(α=0.95 とする)を振子角目標値とした制御を行
うものである.なお,流量制御弁を用いても,目標値に対する定常的な遅れを零にする
ことはできないので,JTM パターンを実際の走行位置よりも 1 秒早めて生成することと
した.
なお,CA モード,JTM パターンのいずれもオフラインで算出しておき,シミュレー
ション時にロードしてサーボシステムモデルに入力した.また,制御を行わない自然振
子の条件についても計算を行った.
表 3.3
72
制御条件
Servo valve
Target tilt angle
Without control
(Passive tilting)
-
-
Current system
Pressure control valve
Mode CA
Proposed system
Flow control valve
JTM pattern
第3章
3.4.6
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
シミュレーション結果
(1)シリンダの挙動
図 3.16 に,従来システムにおけるシリンダ挙動の計算結果を示す.シリンダ変位を
見ると,目標値が変化している箇所,すなわち緩和曲線において,目標値に対して大き
な遅れが見られる.これは,CA モードが,サーボシステムの応答性の悪さを補償する
ように,相当の早め時間とステップ状の指令をもって生成されたものであることによる.
この結果から,圧力制御弁を用いた従来のサーボシステムでは,JTM パターンに追従で
きないことが明らかである.
次に,図 3.17 に改良システムのシリンダの挙動を示す.シリンダ変位を見ると,目
標値が変化している箇所で 1 秒ほどの定常的な遅れは見られるものの,全体として JTM
パターンをよくトレースできている.図 3.16 と図 3.17 を比較すると,サーボ弁を通過
する空気の質量流量が改良システムで向上しており,このことがシリンダ内圧の増減を
促進し,シリンダ発生力を大きくして,応答性を向上させたことが分かる.
73
Cylinder stroke
[mm]
Deviation of
cylinder stroke
[mm]
0
Driving current
of valve [A]
100
0
-100
0
0
Command
Real
(Mode CA)
20
40
60
80
100
120
140
160
20
40
60
80
100
120
140
160
20
40
60
80
100
120
140
160
60
80
100
120
140
160
100
-100
0
0.5
5
-3
x 10
G1
0
-5
0
G2
20
40
P1
500
Force [kN]
Pressure [kPa]
Mass flow rate
[kg/s]
-0.5
0
0
0
P2
20
40
60
80
100
120
140
160
20
40
60
80
100
120
140
160
5
0
-5
0
Time [s]
図 3.16
74
一車両モデルのシミュレーション結果(従来システムのシリンダ挙動)
Cylinder stroke
[mm]
第3章
Deviation of
cylinder stroke
[mm]
0
Driving current
of valve [A]
100 Command
(JTM
0
Pattern)
-100
0
20
0
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
Real
40
60
80
100
120
140
160
20
40
60
80
100
120
140
160
20
40
60
80
100
120
140
160
60
80
100
120
140
160
100
-100
0
0.5
-0.5
0
Mass flow rate
[kg/s]
Pressure [kPa]
x 10
-5
0
0
0
5
-3
G1
0
G2
20
40
Force [kN]
500
P2
P1
20
40
60
80
100
120
140
160
20
40
60
80
100
120
140
160
5
0
-5
0
Time [s]
図 3.17
一車両モデルのシミュレーション結果(改良システムのシリンダ挙動)
75
(2)乗り心地の比較
①乗り物酔いに影響を与える低周波左右振動について
従来システムと改良システムで乗り心地,および乗り物酔いの比較を行う.振子車両
の課題である乗り物酔いの改善効果は,乗り物酔い暴露量値 MSDVy により確認する.
図 3.18 に,車体床面の左右振動加速度から算出した MSDVy を示す.理想的には極力
長い時間の累積値とすることが望ましいが,シミュレーション負荷の関係から,160 秒
間の累積値を 30 分間相当に換算した値とした.比較対象は,制御を行わない自然振子の
場合と,従来システムおよび改良システムによる制御の場合である.制御による MSDVy
の低減効果は顕著である.特に,自然振子時に MSDVy の大きい車体前方ほど低減効果が
大きく,前側台車直上においては,自然振子に対して,従来システムで約 70%,改良シ
ステムで約 50%(従来システム比では約 75%)となった.
どのような軌道条件の箇所で MSDVy が大きいのかを把握するため,20 秒の時間幅で
MSDVy を計算し,これを 30 分間相当に換算した値を連続的にプロットすることとした.
これを短時間 MSDVy と呼ぶことにし,進行前側台車直上の値を図 3.19 に示す.乗り物
酔いに影響の大きい低周波左右振動,および短時間 MSDVy が大きいのは,緩和曲線走行
時であることが分かる.また,改良システムによる振動低減効果は,緩和曲線走行時に
大きいことが分かる.これは,サーボシステムの応答性向上により,曲線に対する傾斜
遅れが低減したこと,および乗り心地改善を積極的に考慮した JTM パターンへの追従性
が向上したためと考えられる.
3.5
MSDVy [m/s 1.5]
3
2.5
■ Tilt without control
□ Tilt with current system
■ Tilt with proposed system
2
1.5
1
0.5
0
図 3.18
76
Above rear
Above front
of carbody
Above front bogie Center
Carbody
center Above rear bogie
bogie center
bogie center
制御条件の違いによる乗り物酔い暴露量値(MSDVy)の比較
Lateral acceleration
(Bandpass filtered
from 0.1 to 0.4Hz) Curvature of track
[1/m]
[m/s2]
第3章
-3
5
x 10
0
-5
0
0.5
20
40
60
80
100
120
140
160
20
40
60
80
100
120
140
160
0
Short-term
MSDVy
[m/s1.5]
-0.5
0
5
0
0
100
Short-term LT
[dB]
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
Tilt without control
Tilt with current system
Tilt with
proposed system
20
40
60
80
100
120
140
160
20
40
60
80
100
120
140
160
90
80
70
0
Time [s]
図 3.19
制御条件の違いによる乗り心地の時間変化の比較
②比較的高周波の振動に対する乗り心地について
制御によって振子の位置決め精度が向上すると,低周波の振動は低減する一方で,比
較的高周波の振動増大が問題となることがある (12),
(68)
.そこで,乗り心地レベル(LT)
による比較を行った.
図 3.20 に,車体床面の左右振動加速度から算出した LT 値を示す.改良システムによ
る制御では,従来システムによる制御に比べて,わずかに増大傾向となるものの,その
差は 1dB にも満たない.また,図 3.19 に,進行前側台車直上の車体床面における 20 秒
刻みの LT 値(短時間 LT 値と呼ぶ)を示す.いずれの軌道条件,制御条件の場合にも,
短時間 LT 値に大きな差違は見られなかった.
また,振子パターンへの応答性が向上すると,車体ロール角速度が大きくなる懸念が
あるが,いずれの制御条件の場合にも,乗り心地上の目安とされている 5°/s を超えるこ
とはなかった.
77
94
92
LT [dB]
90
■ Tilt without control
□ Tilt with current system
■ Tilt with proposed system
88
86
84
82
80
78
図 3.20
3.5
Above front
Above rear
of carbody
Above front bogieCenter
Carbody
center Above rear bogie
bogie center
bogie center
制御条件の違いによる乗り心地レベル(LT)の比較
結言
国内外で広く使用されている空気圧制御式振子車両の乗り物酔い改善を主目的として,
振子制御用空気圧サーボシステムの仕様を変更することで,車体の低周波左右振動を低
減する手法を提案した.シミュレーション,および定置試験により,以下の成果が得ら
れた.
z
提案する振子制御用空気圧サーボシステムのシミュレーションモデルは,振子アク
チュエータの挙動を精度良く推定できることを実験との比較により示した.
z
サーボ弁を流量制御弁とした改良システムは,圧力制御弁を用いた現状システムに
対して,目標値に対する追従性を向上し,最大変位量も大きくとれることを,シミ
ュレーション及び実験により確認した.
z
振子車両の一車両モデルで走行シミュレーションを行った結果,流量制御弁を用い
た改良システムは,JTM パターンに追従でき,乗り物酔い暴露量値 MSDVy を低減
した.低減量はもともと振動の大きい車体前方ほど大きく,自然振子比で約 50%,
従来システム比で約 75%となった.特に緩和曲線において低減量が大きかった.
z
低周波振動の低減を実現した改良システムは,乗り心地レベル LT に影響を与える,
比較的高周波の振動を,ほとんど増大させなかった.
78
第4章
結
論
4.1
本研究の結論
本論文では,空気圧制御を用いて鉄道車両の乗り心地を向上する新たな手法について
述べた.本研究の結論を簡潔に以下に示す.
(1)空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減
外部からの指令信号によって,絞りの開口面積を可変にする絞り制御弁を内蔵した“絞
り制御弁内蔵型空気ばね”を開発し,空気ばねが発生する減衰力を制御することで,車
体の剛体モードの固有振動数に相当する 1~2Hz 付近の振動を低減する手法を提案した.
提案する空気ばねモデルを用いたシミュレーションにより,非線形空気ばねの特徴で
ある振幅依存性を表現でき,絞り制御の効果も精度良く確認できることを示した.絞り
の開口面積を制御することで,1~2Hz 付近のばね上の上下振動を大きく低減できるこ
とを,空気ばね単体を対象としたシミュレーションおよび実験により明らかにした.そ
の際,上下方向の乗り心地評価に影響の大きい 2Hz 付近以上,10Hz 付近程度までの振
動を悪化させることはなかった.また,絞り制御のパラメータ選定の仕方によっては,
1~2Hz の固有振動数付近だけでなく,10Hz 付近までの広い周波数領域で振動を低減で
きることを示した.
(2)空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
空気圧制御式振子車両の乗り物酔い改善を主目的として,振子制御用空気圧サーボシ
ステムの仕様を変更することで,車体の低周波左右振動を低減する手法を提案した.
サーボ弁を流量制御弁とすることで,流量特性を向上でき,目標値に対するアクチュ
エータの応答性を向上できることを,提案する空気圧サーボシステムモデルによるシミ
ュレーションと実験により確認した.さらに,流量制御弁を適用したシステムに対して,
人間工学的な乗り心地評価基準をもとに生成される JTM パターンを振子角の目標値と
することで,乗り物酔い暴露量値 MSDVy を低減できることを,一車両モデルによる走
行シミュレーションの結果から示した.その際,乗り心地レベル(LT)に影響を与える,
比較的高周波の振動はほとんど増大させなかった.
80
第4章
4.2
結
論
今後の課題と展望
(1)空気ばねの減衰制御による車体上下振動低減
今後は,絞り制御弁内蔵型空気ばねを車両モデルに適用した場合の制振効果について,
シミュレーション,定置試験,および走行試験によって検証する必要がある.また,在
来線車両への適用についても検討を行いたい.在来線用の空気ばねは,新幹線用に比べ
て空気ばね内部の空間が狭いため,絞り制御弁の小型化が求められる.
本空気ばねは,既存の空気ばねと外形寸法が同等であり,既存車両への適用が比較的
容易であると考えている.この利点と,制振性能を明らかにすることで,既存車両,新
製車両への適用,実用化を図っていきたい.
(2)空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減
本研究により,流量制御弁を適用することでサーボシステムの応答性を向上できるこ
とが分かったので,より高度な制御則の適用や,サーボ弁以外の諸元変更などにより,
さらなる振動低減を目指す.この検討に,本論文で提案したサーボシステムモデルを活
用したい.
また,次世代振子制御システムで開発した電動油圧アクチュエータがそうであったよ
うに,制御フェール時など,振子制御を行わないときには空気シリンダが振子ダンパと
して機能できれば,既存の油圧式の振子ダンパが不要となり,部品点数の削減につなが
る.振子ダンパの減衰特性を実現するための,絞り諸元等の検討を行いたい.そして,
アクチュエータとダンパの 2 つの機能を有するシステムを開発したいと考える.
最終的には実車走行試験で性能を確認し,既存の振子車両,新製車両への適用を図り
たい.
81
82
参考文献
(1) 鈴木昌弘:トンネル内走行時の車両に加わる空気力, 鉄道総研報告, Vol.14, No.9,
pp.37-42, 2000-09.
(2) 佐々木君章, 鴨下庄吾, 下村隆行 : 鉄道車両用セミアクティブサスペンション, 鉄
道総研報告, Vol.10, No.5, pp. 25–30, 1996-05.
(3) 遠藤知幸, 小泉智志 : JR 東日本 E2 系・E3 系フルアクティブサスペンションの概要,
R&m, Vol.11, No.2, pp.18-21, 2003-02.
(4) 卜部舜一, 小山正直, 岩瀬雄治 : 列車の曲線および分岐器通過時乗り心地の評定,
鉄道技術研究報告, No. 468, 1965.
(5) 山本利三郎:小田急 CI 車について,運転協会誌,Vol.4,No.9,pp.380-382,1962.
(6) Takashi SHIMA:Running Tests of Pendulum Electric Railcar (KU-MO-HA 591 Series),
Japanese Railway Engineering, Vol.11, No.2, 1970-06.
(7) Koji TERADO:Series 381 Limited Express D.C. Electric Railcar Train, Japanese Railway
Engineering, Vol.14, No.3/4, pp.14-17, 1973-09.
(8) 湯川靖司, 岡本勲, 小柳志郎, 藤森聡二, 笠井健次郎, 寺田勝之:振り子式電車の車
体傾斜制御, 日本機械学会論文集(C 編), Vol.53, No.496, pp.2588-2596, 1987-12.
(9) 若生寛治:制御付振り子気動車 2000 系の誕生-JR四国-, Railway Research Review,
Vol.46, No.6, pp.32-37, 1989-06.
(10) 鈴木浩明, 白戸宏明, 手塚和彦 : 低周波振動が列車酔いに及ぼす影響, 鉄道総研報
告, Vol.18, No.2, pp.9-14, 2004.
(11) 榎本衛, 鴨下庄吾, 神山雅子, 佐々木君章, 濱田寿弘,風戸昭人:電動油圧アクチュエ
ー タ を 用 い た 振 子 制 御 シ ス テ ム の 開 発 , 鉄 道 総 研 報 告 , Vol.19, No.4, pp.29-34,
2005-04.
(12) 畠田憲司, 鴨下庄吾, 真木康隆, 風戸昭人:乗り物酔いに着目した振子制御システム
の開発, 鉄道技術連合シンポジウム(J-Rail2007)講演論文集, pp.283-286, 2007.
(13) 鴨下庄吾:振子車両の車体傾斜用電動油圧アクチュエータ, 油空圧技術, Vol.44,
No.10, pp.28-33, 2005-10.
(14) 長谷川泉, 佐々木君章, 榎本衛:鉄道車両における油空圧アクチュエータの活用例,
機械設計, Vol.43, No.6, pp.80-90, 1999-05.
83
(15) 風戸昭人:鉄道車両と空気圧, 油空圧技術(増刊号), Vol.49, No.11, pp.84-88, 2010-10.
(16) John F. Blackburn, Gerhard Reethof, J. Lowen Shearer:Fluid Power Control, The MIT Press,
1960.
(17) 鈴木浩明, 白戸宏明, 大野央人, 藤浪浩平:鉄道車両の乗り心地を評価する, Railway
Research Review (Railway Research Review), No.52, Vol.2, pp.6-13, 1996.
(18) 鈴木浩明:人間科学的に見た乗り心地評価研究の現状と今後の課題, 鉄道総研報告,
No.9, Vol.10, pp.1-6.
(19) 日本鉄道技術協会:乗心地管理基準に関する研究報告書, 1979, 1980, 1981.
(20) 日本鉄道技術協会:乗心地管理基準の充実に関する研究報告書, 1982, 1983.
(21) ISO2631, Guide for the evaluation of human exposure to whole-body vibration,
International Organization for Standardization, 1974.
(22) 運輸省鉄道局(監修), 鉄道総合技術研究所(編):在来鉄道運転速度向上試験マニ
ュアル・解説, 研友社, 1993.
(23) Money,K.E.:Motion sickness, Physiological Reviews, No.50, pp.1-39.
(24) McCauley, M.E., O'Hanlon, J.F., Royal, J.W., Mackie, R.R.:Motion sickness incidence:
Exploratory studies of habitaion, pitch and roll, and the refinement of a mathmatics model,
Human Factors Research Inc., Technical Report, No.17333, Vol.2, pp.1-61, 1976.
(25) ISO 2631/1, Mechanical vibration and shock – Evaluation of human exposure to
whole-body vibration, Part1: General requirements, International Organization for
Standardization, 1997.
(26) 鈴木浩明, 白戸宏明, 中川千鶴, 大野央人:乗り物酔いの評価に関する研究の現状と
課題, 鉄道総研報告, Vol.12,No.11, pp.1-6, 1998.
(27) Förstberg, J. & Ledin, T. : Discomfort caused by low-frequency motions. A literature survey
of hypotheses and possible causes of motion sickness, VTI Meddelande, No.802A, 1996.
(28) Quetin, F., Clement, P., Griffin, M.J. & Lobb, B. : Studies about motion sickness.
WCRR2001, Köln, 2001.
(29) Förstberg, J. : Ride comfort and motion sickness in tilting trains, TRITA-FKT Report
2000:28, Stockholm, 2000.
(30) 小川義博 : 鉄道車両向けセミアクティブサスペンションシステム, フルードパワー
システム, No.35, Vol.2, pp.120-124, 2004-03.
84
(31) 岩波健, 江戸義博, 河野行伸, 加賀谷博昭, 江崎秀明, 寺井淳一, 磯村一雄 : 電磁ア
クチュエータを用いた鉄道車両用アクティブサスペンションシステムの開発, 鉄道
技術連合シンポジウム(J-Rail)講演論文集, pp.523-524, 2006.
(32) 牧野和宏, 赤見裕介, 柴原和晶, 岩波健, 江戸義博 : 電動リニアアクチュエータを
用いた鉄道車両用動揺防止制御装置の開発, 鉄道技術連合シンポジウム(J-Rail)講
演論文集, pp.519-522, 2006.
(33) 押越啓介, 新井浩, 加藤博 : 高速化に向けた車両開発(台車), JR EAST Technical
Review, No.31, pp.22-26, 2010.
(34) 田島信一郎 : E5 系新幹線用台車, 鉄道車両と技術, No.15, Vol.6, 2009-09.
(35) 菅原能生, 風戸昭人, 富岡隆弘, 三平満司 : 鉄道車両の 1 次ばね系の減衰制御によ
る上下振動低減 : 新幹線電車による高速走行試験結果, 日本機械学会論文集(C 編),
No.74, Vol.741, pp.1222-1230, 2008.
(36) 上林賢治郎, 臼井俊一, 大塚智広, 松嶋博英, 段畑和哉 : 上下系アクティブ制振制
御装置の開発(300X 新幹線電車での走行試験結果), 第 5 回鉄道技術連合シンポジ
ウム(J-Rail98) 講演論文集, pp. 499–502, 1998.
(37) 牧野和宏, 檜垣博, 原邦芳, 佐々木浩一, 川上哲広 : 高速化試験電車 TRY-Z におけ
るアクティブ振動制御(中央東線曲線走行試験結果), 日本機械学会第 6 回交通・物
流部門大会講演論文集(部門大会編), pp.83-86, 1997.
(38) 菅原能生, 小島崇, 風戸昭人, 森下隼人 : 空気ばね並列油圧ダンパの減衰力制御に
よる車体上下振動低減, 鉄道総研報告, No.24, Vol.6, pp.17-22, 2010-06.
(39) 国枝正春 : 曲線高速走行車両に関する諸問題, 鉄道技術研究資料, No.28, Vol.5,
1971-05.
(40) 野村一城, 堂前文男, 副島広海:フランス国鉄の速度向上について, JREA, Vol.13,
No.7, pp.27-32, 1970-07.
(41) 大 野 央 人 : 乗 り 物 酔 い を 探 る , Railway Research Review, No.52, Vol.5, pp.10-13,
1995-05.
(42) 真木康隆, 榎本衛, 佐々木君章, 辻野昭道:GPS と線形情報を併用した地点検出シス
テム, 鉄道総研報告, Vol.17, No.4, pp.11-16, 2003-04.
(43) 鴨下庄吾:振子車両の車体傾斜用電動油圧アクチュエータ, 油空圧技術, No.44,
Vol.10, pp.28-33, 2005-10.
85
(44) 榎本衛:最近の振子システムの技術動向(上), 鉄道車両と技術, Vol.12, No.6, pp.15-20,
2006-09.
(45) 針山隆史, 島宗亮平, 川上哲広, 檜垣博, 掛豊, 瀬畑美智夫:高速化試験電車 TRY-Z
における傾斜制御-リンク式振子曲線高速走行試験結果-,鉄道における国際サイ
バネティクス利用国内シンポジウム論文集,pp.237-239,1997.
(46) 小室薫:ORPT 車の試験-小田急の強制車体傾斜電車,運転協会誌,Vol.13,No.1,
pp.12-15,1971.
(47) 佐藤頼光:空気ばね式車体傾斜システムの開発, R&m, Vol.9, No.5, pp.22-27, 2001-5.
(48) 臼井俊一, 木元憲宏:東海道・山陽新幹線直通用次世代車両 N700 系量産先行試作車
の概要(4)(走り装置関係), R&m, Vol. 13, No.9, pp.9-15, 2005-9.
(49) 鴨下庄吾, 佐々木君章, 柿沼博彦, 佐藤巌, 佐藤頼光, 中垣聡子:複合振子システム
における協調車体傾斜の制御手法, 鉄道総研報告, Vol.20, No.6, pp.11-16, 2006-06.
(50) 風戸昭人, 菅原能生, 小金井玲子, 眞田一志:絞り制御弁内蔵型空気ばねを用いた鉄
道車両の車体上下振動低減, 日本フルードパワーシステム学会論文集, Vol.40, No.6,
pp.103-110, 2009-11.
(51) 松平精:車両用空気ばねについて, 日本機械学会誌, Vol.60, No.464, pp.908–915,
1957-09.
(52) 小田尚輝, 西岡邦夫, 西村誠一:空気ばねオリフィスの制振効果について, 住友金属,
Vol.16, No.3, pp.41–49, 1964-07.
(53) 小田尚輝, 西村誠一:空気ばね懸架の振動特性とその設計, 日本機械学会論文集(第
1 部), Vol.35, No.273, pp.996–1002, 1969-05.
(54) 小柳志郎:空気ばね防振系の最適設計法, 日本機械学会論文集(C 編), Vol.49, No.439,
pp.410–415, 1983-03.
(55) J. S. Tang:Passive and semi-active airspring suspension for rail passenger vehicle –theory
and practice. Proceedings of the Institution of Mechanical Engineers, Part F:Journal of Rail
and Rapid Transit, Vol.210, No. F2, pp.103–117, 1996-04.
(56) 菅原能生, 瀧上唯夫, 風戸昭人:空気ばねの減衰制御による鉄道車両の車体上下振動
低減, 日本機械学会論文集(C 編), Vol.72, No.721, pp.2762-2769, 2006-09.
(57) D. Karnopp, et al.:Vibration Control Using Semi-Active Force Generators, Trans. of the
ASME, J. of Eng. I., Vol.96, No.2, pp.619-626, 1974.
86
(58) 香川利春:空気圧システム入門, 日本フルードパワーシステム学会, p.5, 2003.
(59) 蔡茂林 : 空気圧システム入門, 日本フルードパワーシステム学会, p.7, 2003.
(60) 竹内正顯 : 空気圧システム入門, 日本フルードパワーシステム学会, p.24, 2003.
(61) 平原裕行, 中野直広, 青木俊之, 松尾一泰:圧縮流れに対する厚いオリフィスの縮流
係数, 日本機械学会論文集(B 編), Vol.55, No. 515, pp.1785-1788, 1989.
(62) 風戸昭人, 鴨下庄吾, 眞田一志:空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減(厳密
モデルによるシミュレーション検討), 鉄道技術連合シンポジウム(J-Rail2009)講演
論文集, pp.159-162, 2009.
(63) 榎本衛:最近の振子システムの技術動向(下), 鉄道車両と技術, Vol.12, No.7, pp.29-34,
2006-10.
(64) 鈴木浩明, 白戸宏明, 田中綾乃, 手塚和彦, 仲川滋:車体傾斜車両の緩和曲線走行時
の乗り心地評価法, 鉄道総研報告, Vol.13, No.11, pp.33-38, 1999-11.
(65) 香川利春, 清水優史, 石井良和:空気圧シリンダのメータアウト制御特性に関する研
究--シリンダ内の空気温度変化の考慮, 油圧と空気圧, Vol.23, No.1, pp.93-99, 1992-01.
(66) 中野和夫:空気圧システムの基礎とシミュレーション(8)絞りの圧力・流量特性, 油
空圧技術, Vol.47, No.9, pp.41-46, 2008-09.
(67) Schupp, G., Netter, H., Mauer, L., Gretzschel, M. : Multibody System Simulation of
Railway vehicles with SIMPACK, Vehicle System Dynamics Supplement 31, pp.101-118,
1999.
(68) Kazato, A., Kamoshita, S.:Measures against high- frequency vibration for Next- Generation
Tilt Control System,Proceedings of 8th World Congress on Railway Research (CD-ROM),
2008.
87
付録
3.4 節のシミュレーションに用いた一車両モデルの諸元を以下に示す.
車体の質量
Mb=25.2t
振子はりの質量
Mf=450 kg
台車枠の質量
Mt=2250 kg
輪軸の質量
Mw=1200 kg
車体のロール慣性モーメント
Ibx=2.13×104 kg・m2
車体のピッチ慣性モーメント
Iby=3.15×105 kg・m2
車体のヨー慣性モーメント
Ibz=3.15×105 kg・m2
振子はりのロール慣性モーメント
Ifx=136 kg・m2
振子はりのピッチ慣性モーメント
Ify=10 kg・m2
振子はりのヨー慣性モーメント
Ifz=136 kg・m2
台車枠のロール慣性モーメント
Itx=690 kg・m2
台車枠のピッチ慣性モーメント
Ity=1100 kg・m2
台車枠のヨー慣性モーメント
Itz=1100 kg・m2
輪軸のピッチ慣性モーメント
Iwy=165 kg・m2
輪軸のヨー慣性モーメント
Iwz=360 kg・m2
軸箱の前後支持剛性
kwx=5000 kN/m
軸箱の左右支持剛性
kwy=1.05×104 kN/m
軸箱の上下支持剛性
kwz=2200 kN/m
軸箱の前後減衰係数
cwx=50 kN・s/m
軸箱の左右減衰係数
cwy=105 kN・s/m
軸箱の上下減衰係数
cwz=40 kN・s/m
空気ばねの本体容積による上下剛性 k2=1250 kN/m
空気ばねの有効受圧面積変化による上下剛性 k3=63kN/m
空気ばねの本体容積と補助空気室容積との比 N=0.625
88
空気ばねの上下減衰係数
c2=110 kN・s/m
空気ばねの左右剛性
k2y=600 kN/m
空気ばねの前後剛性
k2x=140kN/m
左右動ダンパの減衰係数
cd=60 kN・s/m
ヨーダンパの減衰係数
cy=450 kN・s/m
振子ダンパの減衰係数
cf=20 kN・s/m
牽引装置の前後剛性
kL=5000 kN/m
軸ばね左右取付間隔の 1/2
b1=0.82 m
空気ばね左右取付間隔の 1/2
b2=0.92 m
ヨーダンパ左右取付間隔の 1/2
b0=1.14 m
車体重心高さ(レール面から)
1.56 m
振子はり重心高さ(レール面から) 0.66 m
台車枠重心高さ(レール面から)
0.46 m
台車中心間距離
BC=14.4 m
車軸間距離の 1/2
WB=2.25 m
車輪直径
810mm
軌間
1067mm
89
謝
辞
本論文をまとめるにあたり,懇切丁寧なご指導をいただきました横浜国立大学大学院
工学研究院の眞田一志教授に謹んで感謝申し上げます.眞田教授に初めてお会いしたの
は,2004 年 11 月の油圧シミュレーション講習会でした.このときの大変わかりやすい
ご講義と,興味深い講義内容がきっかけとなり,指導を受けたい気持ちを強くしました.
在学中は研究に関するご指導のみならず,事務手続き等でも大変お世話になりました.
ありがとうございました.
本研究のサーボ機構に関して,貴重なご助言とご指摘を頂いた同大学院工学研究院の
田中裕久教授,および,空気圧システムに関して貴重なご助言とご指摘を頂いた東京工
業大学精密工学研究所の香川利春教授に厚く御礼申し上げます.
財団法人鉄道総合技術研究所の理事長をはじめ関係各位におかれましては,在職中の
ドクターコース入学を許可していただき,感謝申し上げます.特に,当時の走り装置研
究室・榎本衛室長には特段のご配慮をいただきました.さらに,現在の走り装置研究室・
石毛真室長をはじめ,研究室の各位には,幾度となく業務遂行上のご負担をおかけして
しまったことをお詫び申し上げ,あらためて感謝申し上げます.
私が学位取得に挑戦することを決意したのは 2007 年秋のことでした.鉄道総研では,
入社時の新人研修以降,
「自分の柱を持つように」と指導を受けます.学位論文こそ自分
の柱を具現化するものであると考え,それまでの研究を振り返ってみたところ,とりと
めもなくいろいろなことに取り組んできたつもりでしたが,東京理科大学の学部,修士
時代から鉄道総研入社後まで,継続的に空気圧に関する研究に取り組んできたことに気
がつきました.折しも,空気ばねの減衰制御に関する研究,及び,振子制御用空気圧ア
クチュエータの高性能化という大変おもしろいテーマに恵まれた時期でもあり,これら
をまとめることに決めました.
空気ばね減衰制御に関しては,鉄道総研・車両振動研究室の菅原能生主任研究員の厳
しくも温かいご指導なくしては到底なしえなかったものであります.特に研究に対する
貪欲なまでの追究姿勢,不屈の精神力はすさまじく,研究者として尊敬する人物の一人
です.また,同研究に関して,小金井玲子副主任研究員にもご尽力いただきました.併
せて感謝申し上げます.
空気圧制御式振子車両の低周波左右振動低減に関しては,車両振動研究室の鴨下庄吾
90
主任研究員の適切なご指導に厚く御礼申し上げます.振子アクチュエータの研究は,以
前から鴨下主研の下で取り組んできたテーマであり,人情味にあふれた,時に厳しく,
時に優しい指導方法,また,その粘り強い取り組み方からはたくさんのことを勉強させ
ていただきました.鴨下主研も同時期に学位取得に挑戦され,同じ境遇で努力されてい
る姿は大変心強く感じられました.また,佐々木君章部長,榎本衛課長,神山雅子主任
研究員,真木康隆主任研究員には幾度となく貴重なご助言をいただきました.実験の実
施に際しては,梅原康宏副主任研究員,山長雄亮研究員,小島崇研究員,石栗航太郎研
究員にもご尽力いただきました.さらに,振子アクチュエータの実験に用いた「動揺負
荷試験装置」の動作抵抗低減には,下村隆行課長,遠竹隆行副主任研究員のご尽力なく
しては,このような成果を得ることはできなかったと思います.重ねて感謝申し上げま
す.
空気ばね減衰制御に関して,東洋ゴム工業株式会社,日本ムーグ株式会社の関係各位,
振子制御に関して,ピー・エス・シー株式会社の関係各位には,多大なるご助力をいた
だきました.深く感謝申し上げます.
研究者としての礎を築いてくださいました,東京理科大学工学部の吉本成香教授には,
横浜国立大学在学中にも多くの励ましをいただきました.ありがとうございました.
最後になりましたが,ここまで育ててくれた両親と,いつも支えてくれた家族に感謝
します.特に,妻の聖子には大きな負担をかけつづけてしまいました.入学直後の引越
しから,1年次には第2子の出産,3年次には職場復帰という人生で最も忙しいであろ
う時にも関わらず,育児,家事のほとんどを押しつける結果になってしまいました.そ
のような状況でも私のわがままを聞き入れてくれ,激励し続けてくれました.本当に感
謝しています.長男の柚輝(5歳),次男の漣音(2歳)にはいつも大きなパワーと癒し
をもらいました.君たちの存在が私の生き甲斐であることは言うまでもありません.私
の影響か,二人とも既に理工系のことにかなり興味を持ちはじめています.将来を楽し
みにしています.今後は,自分の夢だけでなく,妻と子供達の夢の実現を後押ししてい
きたいと思います.
これからも,鉄道とフルードパワーに関する技術開発を中心として,広い視野を持っ
た,社会に貢献できる研究者となれるよう精進してまいります.
2011 年 3 月
91
Fly UP