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エコノミック・アウトルック93 (2013年5月) 概要 (PDF形式
OECD エコノミック・アウトルック 93 号の概要 (内閣府作成・仮訳) ※引用に当たっては本文を参照下さい。 平 成 25 年 5 月 29 日 政策統括官(経済財政運営担当)付 参事官(国際経済担当) I. 概観 ○ 悪い出来事が起こらなければ、現在行われている緩和的な金融政策による 下支え、金融市場の改善、コンフィデンスの漸進的な改善によって、先進国 の成長は支えられ、2013 年の年央から 2014 年にかけて徐々に強まるはずで ある。 上向きの動きは各国間で異なっており、米国は他の OECD 加盟国(大国) よりも早いペースで成長する可能性が高いが、ユーロ圏地域では、危機の影 ○ 響が長引き、財政緊縮による悪影響(drag)と信用市場の弱さが続いている ことにより、成長は抑制された状況のままである。日本の成長パターンが不 規則(irregular)なものとなっていることについては、様々な政策が影響を 与えている。新興国における成長は全般的には抑制気味かつ緩やかな加速傾 向にあるが一様ではなく、中国がリードする中、構造要因によって制約を受 けている国や、スタグフレーションの傾向を示している国もいくつかある。 ○ 労働市場は、米国と日本においてはしっかりと落ち着いたものになるだろ う。しかし、ユーロ圏の失業率は更に上昇を続ける可能性が高く、2014 年に なってようやく、非常に高い水準で安定化するだろう。構造改革は循環的な 失業が構造的な失業に変わることを防ぐために必要である。 ○ インフレ率は、米国においては現在の低い水準から上昇していく(drift up) 可能性が高い。また、日本においては、大胆な金融緩和によって基調的なイ ンフレ率がデフレから適度なプラスに変わっていくのを目にすることができ る可能性がある。対照的に、ユーロ圏におけるインフレ率は非常に低い水準 のままである可能性がある。新興国(大国)におけるインフレ率は国によっ て異なるものになる可能性が高い。 1 ○ 金融政策は、米国においては、異例に緩和的な状況を継続する必要がある。 しかし、追加的な資産購入によって更なる緩和を行うペースについては徐々 に低下させる必要があるかもしれない。ユーロ圏においては、金利を可能な 限り低下させ、ユーロ圏の特性に合わせた手段で資産を購入するといった追 加的な金融緩和が必要である。日本における最近の量的・質的緩和は大規模 (overdue)なものであり、新しいインフレ率の目標を達成する助けとなるは ずである。 ○ 各国は、自動安定化装置を十分に機能させる一方、構造ベースでの財政健 全化のコミットメントを前進させるべきである。米国においては、一律の自 動的歳出削減は成長に対する悪影響がより小さくなるように実施されるべき であり、信頼できる長期の財政健全化計画が導入されることが必要である。 日本においては、2014 年の財政健全化を予定どおり開始すべきであり、公的 債務の課題に直面する中で市場の信頼を維持するために確実な中期の財政健 全化計画が必要である。ユーロ圏においては、構造ベースでの財政健全化は、 予定されているようなより緩やかなペースで進められるべきであり、また 2014 年までには、域内全体及び大部分の加盟国において、債務比率の長期的 な低下につながるような水準に達しているべきである。 ○ 見通しに対する下方リスクは、たとえユーロ圏の金融当局の行動や、米国 の財政の崖の解決によって縮小したとしても、依然としてリスクの大半を占 めている。 ○ ユーロ圏の下方リスクは引き続き残っており、何か(events)が起きれば 依然として自己資本の弱い銀行、財政、実体経済及び離脱リスクの間の負の 相互作用の引き金となりかねない。そうしたリスクを減少させるために、銀 行同盟の完成の加速を含む更なる政策対応と制度構築が必要である。ユーロ 圏中核国と周縁国の間の根底にある経済不均衡に対処するための構造改革は 引き続き重要であるが、進捗は周縁国においてみられている。 ○ 非伝統的金融政策からの出口に向けた今後の動きに先立つ潜在的な債券市 場の不安定性もまた下方リスクである。米国債利回りの急速な上昇が起きれ ば、世界経済に深刻な影響を与えるかもしれない。 ○ 財政政策上のリスクも残っている。それは、米国の一律歳出削減 2 (sequestration)の影響及び日本の財政が持続不可能となった場合について の不確実性に関連している。 ○ OECD 加盟国と新興国に共通するリスクは、世界危機の発生以降、潜在成 長率がより不安定なものになってきていることである。 Ⅱ.国別分析部分の概要 日本経済 財政政策と金融政策による景気刺激策に牽引されて、2012 年の景気後退から 日本は力強く回復してきている。2013 年初めに策定された財政政策のパッケー ジと、インフレ率2%の目標を達成するという金融政策の枠組みは、円安の進 行を伴って、GDP(output)とコンフィデンスを押し上げつつある。世界の貿 易の回復により、2013 年と 2014 年の経済成長率は1 1/2%程度と予測され、 それに支えられて物価上昇率はプラスの領域に押し上げられるだろう。 2012 年の公的粗債務残高対 GDP 比は 220%程度となり、日本の財政に対す る信頼を維持するためには、2020 年度までに基礎的財政収支を黒字化するとい う目標を達成するための詳細かつ確実な財政健全化計画が必要である。消費税 率は計画通り 2015 年までに 10%に引き上げられるべきである。日本銀行の新 しい「量的・質的金融緩和」は新しい2%の物価安定目標を継続的に達成し、 デフレからの脱却が完全なるものとなるまで継続すべきである。2013 年の年央 に公表される成長戦略は、潜在成長率を押し上げるための大胆な規制改革を含 むべきである。 米国経済 経済成長は、2013 年は緩やかなままであるが、労働市場の回復が勢いを得る につれ、2014 年には大幅に持ち直すと期待される。増税は今年、所得を大きく 減少させているが、株価や不動産価格の大幅な上昇は家計資産を押し上げ、個 人消費や住宅投資に対する支えとなるはずである。企業の潤沢なキャッシュフ ローと需要見通しの改善の下で、企業の設備投資は本見通しの期間中着実に加 速する可能性が高い。 財政健全化は、特に 2013 年に大きな悪影響を生じさせている。歳出削減につ いては一律削減ではなく、より注意深く選択されるべきである。また、財政の 3 安定性を回復するための中期的計画に対するコミットメントがなされるべきで ある。インフレ期待は引き続き安定していると考えられ、依然として高い失業 が賃金上昇圧力を抑制すると思われるため、緩和的な金融政策は長期間継続す ることが可能である。しかし、経済の見通しが強まるにつれて、更なる量的緩 和から得られる純利益は減少する可能性が高く、資産購入を段階的に減らすた めの計画については前もって明確に設定されるべきである。 ユーロ圏経済 現在続けられている財政健全化やコンフィデンスの弱さ、緊縮的な信用市場 の状況を反映して、特に周辺国において、経済活動が低下している。財政健全 化のペースが緩やかとなり、コンフィデンスの改善や金融市場の分断の後退を 背景に民需が強まるにつれて、2013 年の後半には、成長率はごく緩やかではあ るが持ち直していくと予測される。高い失業率と過剰設備は物価上昇圧力を抑 制するだろう。 基調となる財政健全化は、なお高水準にある公的債務残高を考慮すれば、予 定どおり続けるべきであるが、自動安定化装置については完全に働かせること を許容するべきである。ECB は中銀預金金利をゼロ以下に引き下げることで政 策金利の最近の引き下げを補完し、インフレ見通しに基づいたフォワード・ガ イダンス(forward guidance、現状の金融緩和姿勢をいつまで続けるかについ ての政策当局者による表明)を導入すべきである。金融政策の波及効果を改善 させるためには、更なる異例の(non-standard)措置が必要となるかも知れな い。特に追加の資産購入が考えられる。銀行のバランスシートを強化すること により、信用供与の拡大を促進し、また、銀行同盟は財政(sovereigns)と銀行 の間の負の循環を縮小させるために決定的に重要である。単一市場(Single Market)の完成を含め、労働市場及び製品市場における構造改革は成長と雇用 を押し上げるだろう。 中国経済 中国経済の成長は、2012 年後半に回復の兆しを見せた後、2013 年の第1四 半期に予想外に弱まった。この減速は、主に資本形成、特に在庫積増しから生 じている。インフレは低下してきているが、2013 年初めには安定した。信用供 与の力強い伸びと、景気をより下支えする財政政策の下で、経済成長率は 2013 年半ばまでにいくらか好転することが期待できる。それにも関わらず、2013 年 全体としての成長は、2 年連続で平均を下回る見込みである。2014 年には、世 4 界の貿易の加速も経済を押し上げ、成長率は 8.4%に達すると考えられる。輸出 市場のシェアの拡大がこれまでより限定されている状況下では、経常収支の黒 字は再び縮小するかもしれない。 低いインフレと実質的な景気後退の下、金融市場の安定性を保持するための 最近の望ましい措置を実施する一方、金融緩和を行う余地がある程度は存在す る可能性がある。適切なことであるが、財政政策は若干拡張的である。持続可 能で一層あまねく広がる(inclusive)成長を促進するには、構造改革の強化が 求められる。特に金利の規制緩和、人々の国内移動(internal migration)の障 壁を低減することによる労働市場の柔軟性の拡大、住宅用地の供給拡大といっ た分野で、改革を実行するための詳細な道筋(time path)が必要である。 5 【参考1】見通し総括表 国・地域 日本 項目 2012年 2013年 2014年 実質GDP成長率(%) 2.0 1.6 1.4 インフレ率(%, CPI総合) 0.0 ▲ 0.1 1.8 失業率(%) 4.3 4.2 4.1 ▲ 9.9 ▲ 10.3 ▲ 8.0 一般政府財政収支(%, GDP比) 米国 経常収支(%, GDP比) 1.0 1.0 1.9 実質GDP成長率(%) 2.2 1.9 2.8 インフレ率(%, CPI総合) 2.1 1.6 1.9 失業率(%) 8.1 7.5 7.0 一般政府財政収支(%, GDP比) ▲ 8.7 ▲ 5.4 ▲ 5.3 経常収支(%, GDP比) ▲ 3.0 ▲ 3.1 ▲ 3.3 実質GDP成長率(%) ▲ 0.5 ▲ 0.6 1.1 インフレ率(HICP, %) 2.5 1.5 1.2 11.2 12.1 12.3 ▲ 3.7 ▲ 3.0 ▲ 2.5 経常収支(%, GDP比) 1.9 2.5 2.8 実質GDP成長率(%) 7.8 7.8 8.4 2.6 2.5 2.6 ▲ 0.4 ▲ 1.4 ▲ 1.5 経常収支(%, GDP比) 2.4 2.3 1.4 実質GDP成長率(%) 1.4 1.2 2.3 インフレ率(消費デフレータ, %) 2.1 1.5 1.9 失業率(%) 8.0 8.1 8.0 実質GDP成長率(%) 3.0 3.1 4.0 実質貿易の伸び率(%) 2.7 3.6 5.8 ユーロ圏 失業率(%) 一般政府財政収支(%, GDP比) (参考) インフレ率(%, CPI総合) 中国 財政収支(%, GDP比) OECD 世界 (※)日本のCPIは、季節調整した四半期系列から計算。 【参考2】前回との比較 日本の実質GDP成長率(%) 2012年 2013年 2014年 今回のアウトルック 2.0 1.6 1.4 前回(2012年11月)のアウトルック 1.6 0.7 0.8 6 仮訳につき、引用の際は本文を参照のこと。 OECD 事務局作成 日 本 日本は、財政及び金融刺激策に導かれ、2012 年の不況から力強く回復している。2013 年初 に導入された財政対策、そして円の減価に伴われている 2%のインフレ目標の実現を目的とする 新しい金融政策の枠組みは、生産とコンフィデンスを押し上げている。世界貿易の回復を追い 風とし、経済成長は 2013 年及び 2014 年に 1½パーセント近くと見込まれており、インフレ率を プラスの領域へと押し上げることを助ける。 グロスの公的債務残高が 2012 年に 220%程度(GDP 比)と見込まれる中、2020 年度までに 基礎的財政収支の黒字といった目標を実現するための詳細かつ信認のおける財政健全化計画は、 日本の財政状況に関するコンフィデンスを維持するために必要不可欠となっている。計画され るとおり、2015 年までに消費税率は 10%に引き上げられるべきである。日本銀行による新しい 「量的・質的金融緩和」は、デフレからの明確な脱却を保証するために、新しい 2%のインフレ 目標が持続的に実現されるまで続けるべきである。2013 年央に発表される成長戦略は、潜在成 長を押し上げることを助けるために大胆な規制改革策を含むべきである。 2013 年初に始まる景気 回復は… 輸出は世界経済の減速や中国との緊張関係を背景にした 2012 年 後半の著しい落ち込みの後安定し、成長は 2013 年初に持ち直した。 景気の好転は、新政権による日本を再生するといった「三本の矢」か らなる戦略の発表により加速され、家計と企業のコンフィデンスの改 善を促している。加えて、2013 年 5 月中旬までに、株価は 2012 年 11 月の水準からほぼ 60%程度上昇し、円は貿易ウエイト・ベースで 20% 程度減価した。それにもかかわらず、デフレは続いている。 Japan 1. 2. 3. 4. 5. Data are three-month moving averages of seasonally-adjusted industrial production and exports. A survey of workers, such as taxi drivers and shop clerks, whose jobs are sensitive to economic conditions. The index ranges from 100 (better) to 0 (worse), with 50 indicating no change. Diffusion index of ''favourable'' minus ''unfavourable'' conditions. Large enterprises are capitalised at a billion yen or more and small enterprises at between 20 million yen and a hundred million yen. Except for economy watchers index where there are no projections, numbers for the second quarter are companies' projections made in March 2013. Source: Ministry of Economy, Trade and Industry; Bank of Japan; and Cabinet Office. 7 仮訳につき、引用の際は本文を参照のこと。 …財政刺激策により支 えられた… 新しい戦略の 1 つの柱 – 機動的な財政政策 – は、10.3 兆円 (GDP の 2.2%)におよび、そのおよそ半分が公共事業費である 2013 年 1 月の財政刺激策の中で反映された。対策は政府の借入を 1%程度 (GDP 比)増加させることになる。加えて、政府は 2013 年度予算の中 で復興支出を追加的に 4.4 兆円増やすことを決定し、2011-15 年度に おける合計額は、当初の 5 ヵ年計画の 19 兆円から 23.5 兆円(GDP の およそ 5%)へと引き上がっている。 Japan 1. Trade-weighted, vis-à-vis 48 trading partners. 2. Deflated based on consumer price indices. 3. The Nikkei stock price index averages the price of 225 individual stocks listed on the Tokyo Stock Exchange. 4. Corresponds to the OECD measure of core inflation, which excludes food and energy. 5. Corresponds to the Japan measure of core inflation, which excludes only fresh food. Source: Bank of Japan; and OECD Economic Outlook 93 database. 8 仮訳につき、引用の際は本文を参照のこと。 ...それは 2015 年度の赤 字目標を達成すること をより難しくした しかしながら、財政対策は、国・地方の基礎的財政収支赤字を 2013 年度において推計される 7%(GDP 比)から 3.2%(GDP 比)に削減 するといった 2015 年度における目標の達成に必要となる財政の引き 締めの程度を増加させている。OECD によると、経済状況の好転を条件 として計画される 8%への消費税の引き上げを反映し 2014 年に 6½パー セント程度(GDP 比)に低下する前、2013 年の基礎的財政収支赤字は 9%程度(GDP 比、一時要因を除く一般政府ベース)と見込まれてい る。2013 年央に発表される政府による中期財政健全化戦略は、急速な 人口高齢化による公的社会支出の増加といった状況の中、2020 年度の 基礎的財政収支黒字といった目標を維持する。基礎的財政収支黒字は 債務残高比率を安定化させるのに十分に大きくあるべきである。 9 仮訳につき、引用の際は本文を参照のこと。 日本銀行は新しい政策 枠組みを開始している 新政権の戦略のもう1つの柱は、2013 年 4 月に日本銀行により発 表された、「できるだけ早期」に新しい 2%のインフレ目標を実現する ことを目的とした新しい金融政策の枠組みであった。日本銀行は、2 年程度の期間のうちに目標を実現することを見込んでいる。新しい枠 組みは、主に国債の買入れの拡大を通じて、2012 年末における 138 兆円(GDP の 30%近く)から 2014 年末に 270 兆円への倍増を見込む マネタリーベースの規模に焦点を当てている。民間金融資産の買入れ もまたリスクプレミアムを減らすことを目的として拡大される。加え て、イールド・カーブ全体にわたって金利を引き下げるために、国債 の買入れは残存期間のより長いものへと拡大される。日本銀行は、イ ンフレ率が目標の水準で「安定的に」実現するために必要な時点まで 新しい政策を維持することを約束している。 景気拡大は 2014 年を通 して継続すると見込ま れている… 経済は、公的復興支出からの寄与が弱まり、また 2014 年に見込 まれる財政健全化にも関わらず、2013 年及び 2014 年の両年に 1½パー セント近くで成長すると見込まれている。景気拡大は、円安や世界貿 易の回復を背景とした輸出の伸びの持ち直しによって支えられる。 GDP ギャップが解消されると予期される中、インフレ率は 2013 年の 間にプラスの領域へと移行することが見込まれている。より長期の成 長見込みは、2013 年央に発表される政府の経済プログラムの 3 つ目の 柱である新しい成長戦略に依存している。 …国内外における多く 「量的・質的金融緩和」が導入される中、財政健全化を遅らせる いかなる決定も、金融部門、財政の持続可能性、そして成長へのリス クを伴い、長期金利の急騰に繋がるかもしれない。48 基の原子力発 電所(計 50 基のうち)が運転を停止しており、日本の将来のエネル ギー供給もまた依然として不確かとなっている。国外要因について は、日本の最大の貿易相手である中国における動向と、円の強さに影 響を与えているユーロ地域における動向に不確実性がある。 のリスクがあるけれど も 10