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Microsurgery による再建 -軟部組織再建―

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Microsurgery による再建 -軟部組織再建―
Microsurgery による再建
-軟部組織再建―
担当
土田芳彦
●軟部組織損傷再建の階段(遊離皮弁前のはなし)
整形外科医が四肢の外傷を取り扱うのであれば、軟部組織損傷の修復が骨筋神経組織損傷
修復と同様に重要であることは当然の認識である。しかるにこの損傷に対する治療の遅れは、整
形外科医が育成されてきた背景に形成外科的技術習得の欠如が存在することに拠る。骨折治療
の目的は骨を癒合させることではないという逆説的にも聞こえる命題が真実を語っている。合併症
を起こさない四肢機能再建が四肢損傷の最大の目的であるから、全ての整形外科医、そして外
傷医に軟部組織修復の重要性を認識して欲しい。それではまず、軟部組織修復のアルゴリズムを
示す。
第 1 の選択⇒直接縫合
第 2 の選択⇒局所皮弁
第 3 の選択⇒植皮術
第 4 の選択⇒区域皮弁
第 5 の選択⇒遊離皮弁、(遠隔皮弁)
創のデブリドマンの後に皮膚に余裕のあるものは直接縫合されるであろう。これには異論をはさ
む余地がない。問題は皮膚縫合に関して緊張が強い場合である。第 2 以降の選択は骨接合に疲
れた外傷医にはあまりにも垣根が高すぎるかもしれない。皮下組織を剥離して何とか寄らないもの
だろうかと思案し、きつい緊張のままで縫合術を施行する。結果的に難を逃れる場合も多いが、危
険なサインを認識しておかないと不幸な結果となる。その一つは下部組織の状態が悪い場合であ
ろう。Parathenon が損傷された腱、骨折部、筋縫合部などを被覆する皮膚が壊死した場合は、感
染をはじめとした重大な合併症を引き起こす。またもう一つは、もともと皮膚軟部組織の余裕がなく
機能が複雑となる前腕手部と下腿足部の損傷である。こういった危険なサインを有する場合は例
え一次縫合して手術を終えたとしても、2 次手術をためらわない柔軟な姿勢が望まれる。
直接縫合が不適当と判断される場合に次に選択する方法は局所皮弁である。局所皮弁は血行
のある皮弁による被覆であるので、下部組織の状態が悪い場合にも用いることが出来、また美容
的にも良い。しかし、局所皮弁は欠損の範囲と周囲の緊張度合いにより適応が限られる。形成外
科教科書には多くの局所皮弁が記載されているが、最も汎用されている bipedicle flap と rhomboid
flap について図示しておく。
bipedicle flap
⇒
rhomboid flap
局所皮弁が不適当な場合には植皮術が可能かどうかを判断するが、植皮術適応の最大の鍵は
下部組織の状態が良好であることである。不良な場合は植皮術を強行してはいけない。失敗に終
わるばかりか、貴重な自家皮膚を失い、醜い瘢痕を残すだけとなる。
この第 3 の選択までを考えて不適当な場合は人工皮膚で被覆するか wet dressing で一旦手術
を終了する。そして第 4,5 の選択である各種皮弁術につき検討し 2 次手術に望む。遊離皮弁選
択の前に、まず第 4 の選択である区域皮弁を選択する。実に様々な種類の区域皮弁が存在する
が、その具体的選択については後で大まかに既述する。
遊離皮弁は最後の選択である。基本的なマイクロサージャリー技術を身に付ければ決して困難
ではなく、また手をつけるのであれば 95%以上の成功率がなければ犯罪行為である。それでは最
も汎用される遊離皮弁について独断過ぎるきらいはあるが記述する。しかしながら遊離皮弁の選
択というものは、そもそも術者の技量と経験に基づく部分が多いのが事実ではある。
下肢における皮弁選択の実際
下肢開放骨折の中でも脛骨開放骨折は重度広範囲軟部組織欠損が生じやすい。膝関節部お
よび下腿近位レベルの欠損には、腓腹筋のrotational flapが有用である。腓腹筋はMathes and
Nahaiのtype 1、one vascular pedicle flapであり、血行は極めて安定しているので、筋弁が壊死する
危険性が少ない。しかし、下腿の損傷が重度で腓腹筋に損傷が及んでいる場合があり、その際に
は筋弁挙上によりflap failureが起こりうるので注意を要する。また、腓腹筋の支配神経を切離して
おかないと術後の筋収縮の為疼痛が生じることがある。
下腿中央部の再建にはヒラメ筋弁を用いる。ただし、腓腹筋弁に比較して血行がやや不安定で、
下腿開放骨折で筋の挫滅が存在する場合は挙上の際に部分壊死の危険性がある。
下腿遠位や足関節レベルではrotational flapによる再建は困難となる。損傷の重症度と汚染度
が比較的軽度であれば逆行性の腓腹動脈皮弁やlateral supra malleolar flapが有用である。しかし、
より広範囲で重度の軟部組織欠損は遊離皮弁に拠らなければならない。皮弁の選択は様々であ
るが、広背筋皮弁、腹直筋皮弁、大腿筋膜脹筋皮弁、肩甲皮弁などは応用範囲の高い皮弁であ
る。
上肢における皮弁選択の実際
上腕部および前腕近位部は豊富な筋組織に覆われている為、一次縫合や植皮術ができない
ほどの軟部組織が欠損する症例に遭遇する場合は少ないと言える。しかし、もし広範な軟部組織
挫滅を再建しようとすれば、有茎の広背筋皮弁による再建が最も安全確実な方法である。広背筋
により肩関節の周辺から肘関節の遠位までの範囲の軟部組織再建は十分に可能である。
前腕遠位部は被覆する軟部組織に比較的乏しい為、皮膚欠損が生じやすい。また屈筋腱、伸
筋腱、神経血管束の開放は重大な機能障害をもたらす。腹壁皮弁、鼠茎皮弁などの遠隔皮弁は
技術的に容易であるが、早期リハビリテーションが行いがたく、患者の苦痛も大きい。遊離皮弁に
よる再建がより優れている。遊離皮弁としては、広背筋皮弁、肩甲皮弁、鼠茎皮弁、腹直筋皮弁、
腓骨皮弁など様々な皮弁が使用可能であるが、より広範囲で重症度の高い場合は広背筋皮弁が
用いやすく、仰臥位での手術の側面からは腹直筋皮弁が用いやすい。
手部における皮弁選択については、「手の皮弁手術の実際」を参考にされたい。
遊離皮弁術
血管茎つき組織移植術は、free flap あるいは free tissue transfer とも呼ばれているが、固体の
ある部分からある部分へ構築的・機能的に保持するために移植されるものである。移植組織は1
対の血管茎を有しているが、これをレシピエント側の血管茎と吻合されることにより再血行化される。
基本的に自家移植である。
free flap の適応はさまざまであるが、複合した組織の欠損を再建するときであり、腫瘍切除後や
先天性疾患、そして外傷後が主な原因である。
ドナー組織を選択する際に reconstructive microsurgeon により用意周到に計画が練られなけ
ればならない。考慮すべき要因とは次のようなものである。
① 再建する部位の大きさと性質
皮膚が必要か、筋肉か、骨か、腱か、それともその複合体か?
柔らかい組織が必要か、強さか、固着性か?
例えば、
乳房再建には柔らかく、瘢痕の少ない組織が必要。
手背には薄い組織が必要で、かつ骨あるいは腱が必要かもしれない。
母指再建には第 1 足指の移植が最適。
骨髄炎のような感染組織はデブリドマンと筋肉移植が最適。
筋肉は神経つきで、機能移植とすることもできる。
② 再建する場所、胸部? 上肢? 下肢? 頭部? 頚部?
③ 必要とされる血管茎の長さは? 近傍にレシピエント血管が存在する? 基本的には静脈
移植などせずにレシピエント血管と吻合できるのが望ましい。
④ 知覚皮弁とする必要性は?
⑤ 個々人特有のドナー側犠牲を考える。女性における美容的観点(下腿、前腕から採取しな
い)。運動選手からは筋肉を採取せず、筋膜皮弁とするなど。
さまざまな皮弁用語
用語は混乱しているが、主には以下のようである。
①皮膚弁、②筋膜弁、③筋膜皮膚弁、④筋肉弁、⑤筋肉皮弁、⑥複合組織移植
上図は組織移植の略図である。静脈は簡略化のために除いてある。神経は動脈に沿って走行
している。血管茎はそれぞれ必要な組織と一緒に分離することができる。それは以下にそれぞれ
示す。
これは皮膚弁である。
これは筋肉弁である。
これは筋肉皮弁である。
これは複合組織弁であるが、骨・筋・皮膚弁である。
よく使用される Flap について
主に用いることのできる flap は上図にあげたが、33 以上の移植がある。皮膚弁は黄色、筋
弁は赤、骨は青で示してある。
皮膚弁と筋皮弁
DIEP(deep inferior epigastric perforator)flap
深下腹壁動静脈を血管茎とする。筋肉を含めない。
Radial forearm flap
とう骨動静脈を血管茎とする前腕屈側の皮弁、皮弁採取部には植皮術が必要。
Scapular, parascapular flap
肩甲回旋動静脈を血管茎とする皮弁。皮膚および皮下組織は厚い。
Dorsalis pedis flap
足背の第一背側中足動静脈を茎とする皮弁。皮弁は非常に薄い。ドナー側の障害が強い。
Lateral arm flap
有用な皮弁であり、採取部もあまり目立たない。上腕深動静脈を血管茎とする。
Groin flap
最近はあまり使われなくなってきているが、歴史のある皮弁である。浅腸骨回旋動静脈を血管茎とす
る。
Superior gluteal flap
上殿動静脈の枝を血管茎とする。
筋弁
Rectus flap
血管茎も長くしっかりしており、採取も容易な皮弁である。
Latissimus flap
最大の皮弁、採取が容易、肩甲下-胸背動静脈系である。
Serratus flap
肩甲下-胸背動静脈系である。長い血管茎とあらゆるサイズに対応、わりと小範囲の欠
損に有用。
Gracillis. flap
薄筋への枝は内側大腿回旋動脈から分岐する。採取部が目立たないのが特徴。血管は細いが質は良い。
骨弁
Great Toe
第1背側中足動脈を茎とする。母指再建に用いる。
Second Toe
手指再建に良い適応。
Fibula
Iliac crest
深腸骨回旋動静脈が茎
Scapula
しばしば前鋸筋あるいは広背筋と一緒に採取する。肩甲回旋動静脈を茎。
静脈皮弁
Venous flaps can be designed from different donor areas but are most common from the:
· Forearm
· Wrist
· Dorsum of the Foot
Venous flaps are excellent choices for small defects requiring thin coverage, especially in the hand
and fingers.
Other Less Common Flaps
·
Fascial flaps are less common, the most popular is the temperoparietal fascial flap based on
the superficial temporal vessels.
· Jejunum can be transplanted for esophageal reconstruction as can large bowel and ileum.
· Omentum was one of the first microvascular transplants ever performed. It can be used to
cover large defects, but the main disadvantage of the omentum is the requirement for a
laparotomy.
骨髄炎治療のおける flap 治療
骨髄炎は主に下腿骨における骨の感染症であり、だいたいは重度開放骨折に続いて生じる。
骨髄炎近隣の軟部組織は骨と同時に損傷を受け、瘢痕様の血行に乏しい組織となっている。単
純なデブリドマンと抗生剤投与では治癒せず、結果的に他数回の非効果的手術を受け、複合細
菌感染症となっている。
慢性骨髄炎の有効な治療とは次の手順を踏むものである。①効果的なデブリドマン(通常は広
範囲デブリドマン)、②抗生剤治療、③血行のよい健常組織の移植(筋肉弁が望ましい)。また頻
繁に偽関節あるいは骨欠損となっているので、骨の安定化、再建は必須である。
術前評価
詳細な病歴と身体所見は適切な治療の始まりである。重要な点は以下である。
○ 神経学的所見;足底部の無知覚は神経損傷を意味し、切断すべき状態である。
○ 骨状態;骨再建が必要な場合は、flap の種類と施行時期に影響を与える。
○ 血管の状態;足部への血管の損傷は、flap の種類に影響を与える。
臨床例
この例は 20 年来罹患している左下腿骨髄炎である。他数回の手術加療と抗生剤治療を受けた
が、下腿遠位にろうこうを有し排膿は続いていた。ろうこう部の周囲組織は腫脹しており、慢性感染
症の兆候と他数回の手術瘢痕が認められている。
また X 線画像は、けい骨の慢性骨髄炎を示しており、レントゲン透過性の部位は病巣を意味し
ている。骨は癒合し安定化しているが、デブリドマンの後に骨の脆弱性が起きることは十分に予想
される。
周囲の炎症性軟部組織と感染した骨の大部分をデブリドマンした。写真には軟部組織の欠損と
骨面が見える。骨の安定性は温存できた。ある程度の瘢痕は残しておき欠損が過大とならないよ
うにする。そして flap 施行時に瘢痕は広範囲に切除した。通常は 2 段階手術とし、デブリドマンの
後数日後に flap を行う。
遊離広背筋移植術にて骨欠損部、皮膚欠損部を被覆した。広背筋は血管茎を長く取ることが
でき、レシピエント血管である前けい骨動静脈損傷部の近位部で吻合できた。
患者は術後 8 ヵ月後に南アリゾナの Baboquivari peak の登頂に成功した。術後 4 年骨髄炎
の再発なく疼痛もない。
開放骨折における flap 治療
下腿遠位 1/3 の開放骨折は組織欠損となりやすく、感染も併発しやすいため flap surgey が必
要となる。この場合、筋膜弁より血行豊富な遊離筋弁が望ましい。
術前評価
病歴と理学所見が重要なことは骨髄炎と同様であり、注意すべき点も同様である。
臨床例
この患者は軟部組織欠損を伴った下腿遠位開放骨折である。脛骨遠位が露出しているのがわ
かる。前医では初期治療において創外固定を装着し、さらに plate と screw によって内固定され
ていた。
単純 X 線画像では、脛骨遠位部の骨折は固定されておらず創外固定による安定化が必要な
状態である。
下腿開放骨折で flap を予定する場合、術前の血管造影をしておくことが望ましい。なぜなら、し
ばしば主要な血管が損傷を受けているからである。
血行不良な組織および骨をデブリドマンした後に、右側胸部から採取した前鋸筋弁にて被覆し
た。前鋸筋弁は下方のみ採取し、上方は温存し肩甲骨の安定化を保持した。前鋸筋弁の血管茎
は後脛骨動静脈と吻合した。また新しい創外固定を装着した。
患者は 6 週間後に骨移植した。9 ヵ月後移植した筋弁は周囲とマッチングし、また骨癒合が得ら
れ独歩可能となった。
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