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IS S N 1 3 4 6 -0 8 1 1 20 12 年 10 月 発 行 海と地球の情報誌 隔 月 年 6回 発 行 Blue Eartn 119 Japan Agency for Marine-Earth Science 第 2 4巻 第 3号 (通 巻 1 1 9 号 ) and Technology 来るべき南海トラフの 巨大地震に備える 一ノ目潟の湖底から気候変動を追う マントルまで掘ろう! 急変する北極海を解析する メタンハイドレート (青白色部分) 119 1 2 18 Close Up Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology Close Up 粘土質マトリックス (青色部分) 「ちきゅう」用 ハイブリッド保圧コアシステムの 開発に成功 特集 来るべき南海トラフの 巨大地震に備える Aquarium Gallery 男鹿水族館GAO れき (灰色部分) 荒れ狂う海を舞う──ハタハタ 20 私が海を目指す理由 急変する北極海を解析する 伊東素代 「ちきゅう」用 ハイブリッド保圧コアシステムの 開発に成功 地球深部探査船「ちきゅう」は、海底下を掘削し、地層の試 によって知られている。また、二酸化炭素から酢酸を生成する 料を採取する。この円柱状の地層試料は「コア」と呼ばれ、地 微生物生態系が存在している可能性もある。 質だけでなく、気候変動や地殻変動の歴史、地下生命の活動な 「ちきゅう」は、第5泥火山の山頂部を掘削し、ハイブリッド どを読み解くためのさまざまな情報が詰まっている。 保圧コアシステムを用いて海底下60mからコアを採取。コアを 「ちきゅう」は世界最高の掘削能力を誇り、最大水深2,500m 格納した保圧チャンバーが船上に回収されると、すぐにX線CT の海底からさらに7,000mの深さまで掘削し、コアを採取する スキャンでコアを撮影。コアが約200気圧という現場の圧力を ことができる。しかし、現在のコア採取システムには問題があ 保持した状態で採取されていること、また、海底泥火山のれき る。海底下は、深くなるほど圧力が高くなる。圧力の高い海底 を含む粘土質のマトリックス中にメタンハイドレートが脈状に 下深部からコアを引き上げてくるとき、圧力の低下に伴ってコ 分布していることが確認できた。海底泥火山からメタンハイド アに含まれていたガスや液体などが抜けてしまうのだ。貴重な レートを含む保圧コア試料が採取されたのは世界で初めてであ 情報が失われるだけではない。掘削孔の周りに流れ出たガスや る。このコアはJAMSTECの高知コア研究所に保管され、地球 液体が、地層の化学的組成や、地質学的な構造、微生物の生息 化学や微生物学などの研究に活用される予定だ。 環境などを変えてしまうという問題もある。 ハイブリッド保圧コアシステムは、最大345気圧までのコア 掘削孔周辺の地層を汚染することなく、海底下深部の情報を を、圧力を保持した状態で採取することが可能だ。採取可能な すべて手にしたい̶̶そのためには、現場の圧力を保持した状 コアは、直径5cm、長さ3.5mである。このシステムの登場に 態 で コ ア を 採 取 す る 技 術 が 必 要 だ。 海 洋 研 究 開 発 機 構 よって、海底下のガスハイドレートや深部ガスなどの実態解明 (JAMSTEC)では、メタンハイドレート資源開発の研究調査 地球環境変動領域 北半球寒冷圏研究プログラム 北極海総合研究チーム 技術研究主任 や、地層中の物質循環に関する研究、海底下の生命活動などに に使用されてきた保圧コア採取システムを「ちきゅう」の掘削 関する研究が進展すると期待される。 システムに適合するように改良した「ハイブリッド保圧コアシ 取材協力: ステム」を開発。2012年6月26日から28日にかけて、南海トラ 24 研究の現場から 一ノ目潟の湖底から気候変動を追う 稲垣史生 高知コア研究所 地下生命圏研究グループ グループリーダー フ熊野灘の第5泥火山にて動作試験を実施した。第5泥火山の内 飯島耕一 海底資源研究プロジェクト 調査研究推進グループ 技術主任 部にはメタンハイドレートが存在することが、これまでの調査 原田尚美 地球環境変動領域 物質循環研究プログラム 古海洋環境研究チーム チームリーダー 長島佳菜 地球環境変動領域 物質循環研究プログラム 古海洋環境研究チーム 研究員 山田和芳 早稲田大学 人間科学学術院 人間環境学科 助教 Marine Science Seminar メタンハイドレート (白色部分) 紀伊半島 34ºN 裏表紙 Blue Earth をめぐる 縞のなかに 秋田県一ノ目潟 -2000m " 第6泥火山 " " 掘削地点 " $"" $"" " $"" " " %""" 編集後記 『Blue Earth』定期購読のご案内 JAMSTECメールマガジンのご案内 % """ % % """ " %"" """ %""" " " %""" %""" BE Room 南海トラフ熊野灘 $"" " "" #" ハ イ ブ リ ッド 保 圧 コ ア シ ス テ ム に よって南海トラフ熊野灘第 5 泥火山 の山頂から採取されたコアの X 線 CT 画像。 「ちきゅう」の船上にて、アル ミニウム製の保圧チャンバー内のコ アを撮影。約 200 気圧という現場の 圧力を保持している。海底泥火山の れき(灰色)を含む粘土質のマトリッ クス(青)の中に、メタンハイドレー ト(白や青白)が脈状に分布してい ることが分かる $""" 33ºN $""" !""" 33º41′ !""" !""" !""" !""" -200 0m !""" !""" 掘削サイト C9004 !""" !""" !""" !""" 南海トラフ熊野灘第5泥火山 " 32ºN 135ºE 南海トラフ熊野灘第 5 泥火 山は、紀 伊 半 島 の 沖 合 約 80km、水深約 1,900m に 位置する。第 5 泥火山の山 頂部を掘削し、海底表層と 深さ 60m 地点の保圧コア 試料の採取に成功するとと もに、深さ 200m までの通 常のコアを採取した " " 地球内部ダイナミクス領域 地球内部物質循環研究プログラム モホールチーム 技術研究主任 32 33º42′ " " 21世紀モホール計画 阿部なつ江 35ºN %"" マントルまで掘ろう! #"" " 28 !"" 136ºE 137ºE 138ºE 33º40′ 136º33′ 136º34′ 136º35′ 南海トラフでは、100~150年間隔で巨大地震が発生している。最近の研究から、東海地震、東南海地震、 南海地震に加え、日向灘の地震も連動する可能性があることが分かってきた。4つの地震が連動すると、マ グニチュードは9.1となり、最大30mを超える津波が沿岸を襲うと予測されている。最新の被害想定によれ 来るべき南海トラフの 巨大地震に備える ば、最悪のケースで死者は32万人に上るという。 大きな被害をもたらす南海トラフの巨大地震と巨大津波に備えることは、日本の災害対策における最重要課 題の1つである。海洋研究開発機構(JAMSTEC)では、 「地震・津波観測監視システム(DONET) 」を東 南海地震の震源域に展開し、リアルタイム観測を行っている。DONETによって何が可能になるのか。南海 トラフの巨大地震と巨大津波による被害の軽減を目指したJAMSTECの取り組みを紹介する。 取材協力 地震津波・防災研究プロジェクト プロジェクトリーダー 金田義行 34˚20' N 34˚00' N −2 00 0 −2000 33˚40' N −500 −1000 −1 50 0 33˚20' N −5 33˚00' N 0 00 −200 −1000 −450 0 −2500 00 −15 DONET −40 00 −35 00 32˚40' N −3 00 0 −4 00 0 DONET2 南海トラフは、東海から紀伊半島、四国、九州の沖に伸びている。 海溝のうち浅いものをトラフと呼ぶ。南海トラフでは近い将来、 東海、東南海、南海地震の震源域に加え、日向灘も連動して巨大 地震が発生する可能性がある 32˚20' N −4500 km 0 32˚00' N 134˚00' E 2 134˚20' E Blue Earth 119 134˚40' E 135˚00' E 135˚20' E 135˚40' E 136˚00' E 136˚20' E 20 40 1:2200000 136˚40' E 60 137˚00' E DONETは、地震計(写真手前)と津波計(写真奥)を 設置した観測点をケーブルでつなぎ、リアルタイム観 測を行う。現在、紀伊半島沖の東南海地震震源域に設 置した20観測点が稼働中。また、四国沖の南海地震震 源域にDONET2を設置する準備を進めている Blue Earth 119 3 南海トラフ巨大地震の想定震源域は従来の2 倍に。M9.1、死者は最悪32万人。 南海トラフ巨大地震の 新たな想定震源域と被 害想定 従来は、東海、東南海、南 海地震の震源域を合わせた 領域が想定震源域とされて いた(黄) 。想定震源域の 面 積 は 約6万1000km2で あった。新たな想定震源域 では、陸側の深い領域、津 波を引き起こすトラフ軸側 の浅い領域(紫) 、さらに 日向 灘 地 震 の 震 源 域 が 加 わった(赤) 。面積は、従 来の2倍以上の約14万km2 となり、想定される地震の 規模は従来のM8.7から9.1 となった 南海トラフ巨大地震、最悪のケースで死者32万 域とトラフ軸側の浅い領域を加え、さらに日向灘ま 積もられた。死者は2003年の想定では2万4700人 人——2012年8月、そのような見出しが新聞各紙に で拡大。すべて連動した場合、M9.1になると予測 であったから、10倍以上になっている。浸水面積は、 載った。 されている。東北地方太平洋沖地震のM9.0を超え 東北地方太平洋沖地震の約2倍に相当する。 内閣府が、南海トラフを震源とする巨大地震によ る。Mが0.1大きいと、地震のエネルギーは1.4倍だ。 経済的被害については今後取りまとめていく計画 る新たな被害想定を発表したのだ。南海トラフの巨 太平洋沿岸の広い地域で震度7や6強といった非 だが、2003年の被害想定で出された81兆円を大き 大地震については2003年に中央防災会議から被害 常に強いゆれとなる。地震に伴って津波が発生し、 く上回る見込みだ。 想定が出されているが、2011年3月11日に発生した その高さは最大30mを超えると予測されている。 東北地方太平洋沖地震を受け、見直しが行われた。 地震や津波による被害は、震源や発生時間、季節、 前回との大きな違いは、想定震源域だ。これまで 風向・風速などで変わるため、東海、近畿、四国、 本の最重要課題の1つです」と地震津波・防災研究 南海トラフの巨大地震は、東海、東南海、南海の3 九州の各地方それぞれが大きな被害を受けるケース プロジェクトの金田義行プロジェクトリーダー(PL) つの震源域を想定し、すべてが連動した場合、地震 ごとに想定された。最悪の場合、死者は32万3000 はいう。 「そのためには、過去に南海トラフでどのよ の規模を表すマグニチュード(M)は8.7と想定さ 人、負傷者62万人、全壊・焼失建物は238万6000 うな地震が起きたのかを学ぶことも不可欠です」 れていた。今回、従来の想定震源域に陸側の深い領 棟、そして1,015km が津波によって浸水すると見 「大きな被害をもたらす南海トラフの巨大地震と巨 震源域の見直し 東北地方太平洋沖地震は、三陸沖中部、宮城県沖、三陸沖南部海溝寄り、福島県沖、茨城県沖、 さらに海溝寄りという、6つの想定震源域が連動して地震が発生した。このような大規模な連 動は想定されていなかった。それを受け、南海トラフの震源域についても見直しが行われた 海 深 部 低 周 部 型 波 大津波に対して備えることは、災害対策における日 2 浅 溝 地 震 震 源 域 低 震源域の拡大 周 波 微 動 微 動 プレートの 沈み込み プレートの 沈み込み 新しい 考え方 従来の 考え方 複数の想定震源域が連動するととも に、深部低周波微動と浅部低周波微動 が起きている領域も一緒にすべる可能 性がある 海溝型地震は、深部低周波微動が起き ている深さ約30kmと、浅部低周波微 動が起きている深さ約5kmの間の領 域で発生する (内閣府の資料をもとに作成) 深部低周波微動が発生しているプレート境 界面深さ30kmの位置を修正し、内陸側の さらに深い方に拡大 震源分布から見てプレートの形状が 明瞭でなくなる領域も対象とする 東海地震震源域 東南海地震震源域 富士川河口断層帯の領域 も対象とする 南海地震震源域 プレート境界面深さ約10kmからトラフ軸ま での領域に津波地震を引き起こす領域を追加 日向灘北部から南西方向に拡大 被 害 想 定 ※地震動に対して堤防・水門が正常に機能したケース 中央防災会議による2003年の想定震源域 44 Blue Blue Earth Earth 118 119 九州地方で大きく被災するケース 四国地方で大きく被災するケース 近畿地方で大きく被災するケース 東海地方で大きく被災するケース 死者 22万9000人 死者 22万6000人 死者 27万5000人 死者 32万3000人 全壊・焼失棟数 238万6000棟 全壊・焼失棟数 236万4000棟 全壊・焼失棟数 237万1000棟 全壊・焼失棟数 238万2000棟 Blue Earth 118 Blue Earth 119 5 5 南海トラフでは100~150年間隔で、さまざまなパ ターンで巨大地震が繰り返し起きている。 の調査から、宝永地震では日向灘地震も連動したの 本を載せた北米プレートの下に沈み込む日本海溝で発 ではないかと考えられている。また、宝永地震を超え 生した。海溝では、沈み込む海洋プレートが陸側のプ る規模の地震がかつて起きていた可能性を示唆する レートも引きずり込んでいき、ひずみがたまっていく。 調査結果もある。そうした背景から新しい想定震源域 耐え切れなくなると、プレート境界が一気に壊れてす に日向灘が加えられたのだが、日向灘地震が連動する べる。これが地震である。このとき陸側のプレートが かどうかで、発生パターンはさらに増える。 跳ね返り、海水を持ち上げることで、津波が発生する。 南海トラフで発生した前回の地震から60年以上た このような地震を海溝型地震と呼び、海溝やトラフで ち、次の地震が近づいていると考えられている。しか は巨大地震が繰り返し発生している。 し、金田PLはこういう。 「新しい被害想定は東海から 南海トラフは、フィリピン海プレートが西日本を載せ 日向灘までの震源域が連動する最悪のケースに基づ たユーラシアプレートの下に沈み込んでいる場所であ いています。けれども実は、次の南海トラフの巨大地 り、繰り返し海溝型地震が発生している。最近では 震がどのパターンで起きるのか分からないのです」 1944年と1946年の昭和地震、その前は1854年の 事前に、いつごろ、どの発生パターンで地震が起き 安政地震、1707年の宝永地震がある。 「南海トラフで る可能性があるかを知ることができたら……。多くの は100年から150年間隔で巨大地震が起きているので 人がそう思っているだろう。研究者も思いは同じだ。 す。しかも、その起こり方には、いろいろなパターン 金田PLは、東南海地震の震源域に注目した。 「宝永、 があります」と金田PL。 安政、昭和はパターンは違いますが、地震の破壊は 宝永地震は、東海・東南海・南海地震が同時に起 東南海の震源域、しかも紀伊半島沖から始まっていま きた。M8.6で、東北地方太平洋沖地震が発生する す。どうも、紀伊半島沖が南海トラフの巨大地震の まで日本最大の地震といわれていた。安政地震は東 キーとなっているようです。そこでJAMSTECでは、 海地震と東南海地震が同時に発生し、30時間後に南 紀伊半島沖の東南海地震の震源域に地震・津波観測 海地震が発生している。昭和地震では、東南海地震 監視システム(DONET)を構築し、リアルタイム観 が発生し、2年後に南海地震が発生している。 測を始めています」 1707年 宝永地震 東海・東南海・南海地震が同時に発生。日向 灘地震も連動したらしい 南海+東南海+東海 147年後 日向灘 東北地方太平洋沖地震は、太平洋プレートが東日 1854年 安政地震 東海・東南海地震が同時に発生し、30時間後に 南海地震に発生した 東南海+東海 JAMSTECなどが行った日向灘の地下構造や沿岸 90年後 北米プレート 日本列島の周辺の プレート 海溝型地震の発生 メカニズム ① ユー ラシ 岩板で覆われ、日本列島 周辺は4つのプレートがひ 日 本 海 リピン海プレートが西日 南 ラ 日本を載せたユーラシ ト ー プレ アプレートの下に沈み 込んでいる レートの下に沈み込んで いるところが、南海トラフ である ② ②フィリピン海プレー トの沈み込みに伴い 1944年 / 1946年 昭和地震 東南海地震が発生し、2年後に南海地震が発生した ユーラシアプレートが 引きずられ、ひずみが たまる 太平洋プレート ト ト 30時間後 トが南海トラフで、西 本を載せたユーラシアプ 溝 海 レー 海 ピン リ ィ フ しめき合っている。フィ ユーラシアプレート アプ ①フィリピン海プレー 南海トラフ 地球の表面は十数枚のプ レートと呼ばれるかたい 南海 フ 東南海 フィリピン海プレート ③ ③ひずみに耐え切れな くなったプレート境界 60年以上経過 南海 が壊れ、一気にすべっ て巨大地震が発生す る。ユーラシアプレー 2年後 トが跳ね返って海水を 持ち上げ、巨大津波が 6 Blue Earth 119 発生する Blue Earth 119 7 DONETが東南海地震の震源域の地震・津波を リアルタイムで監視中 DONETは紀伊半島沖の東南海地震の震源域に展 「DONETにはいくつもの新しい試みがあります。 のを設置したり、新たに開発された観測装置を追加 削調査を行っており、掘削孔に温度計や傾斜計、地 開している地震と津波の観測網である。 「DONET その1つがノードです」と金田PL。ノードとは分岐 することもできる。 「DONETは、冗長性と拡張性を 震計、ひずみ計などの観測機器を設置してある。そ には2つの大きな目的があります。地震を病気に例 装置である。三重県尾鷲市古江町の地上局から基幹 備えているのです」 れをDONETに接続することも計画している。 「これ えると分かりやすいでしょう」と金田PL。 「病気に ケーブルをループ状に敷設し、その途中にノードが 各観測点には、複数の地震計と水圧計が設置さ は、いわば内視鏡ですね。地震活動をより詳しく監 なるとき、少し前から具合が悪かったりしませんか。 5個設置され、1個のノードに4個ずつ、合計20の観 れている。地震計はとても感度が高いため、海底に 視することができます」と金田PL。掘削孔に設置し 健康診断を受けていれば、病気が発症する前にその 測点が接続されている。基幹ケーブルの総延長は 置いておくと海水の流れなどのノイズも捉えてしま た観測機器との接続は、2012年度中に実施する計 徴候を捉えることができます。これがDONETの1 約250km、ノードと観測点をつなぐケーブルは約 う。そこで、地震計は海底に孔を掘って設置し、上 画だ。 つ目の目的です。つまり、震源域の地震活動を監視 10km、陸から最も遠い観測点は沖合約125kmに から砂で覆ってある。 「DONETは、いわば聴診器で DONETは、2010年3月 か ら 一 部 運 用 を 開 始 することで巨大地震の徴候を捉えようとしているの 設置されている。 す。これまでは陸に設置した地震計で海で起きる地 し、2011年8月から20点すべてでの観測を開始。 です。また、病気の発症をいち早く知ることで、悪 基幹ケーブルはループ状になっているため、途中 震を観測していました。それは、おなかが痛いのに ケーブルを通じて地上局に届いた観測データは、 化する前に治療を始めることができます。同じよう でケーブルが切断されても、逆方向から電力を供給 頭に聴診器を当てているようなもの。DONETでよ EarthLANという回線を使ってリアルタイムで気象 に、地震が発生したらいち早く捉えて皆さんに伝え し、観測データを送ることができる。1個のノード うやく、おなかに聴診器を当てることができるよう 庁、防災科学技術研究所などに送られている。 ることで、被害を軽減することができるでしょう。 には8個の観測装置をつなぐことができるので、4 になったのです」 これが、2つ目の目的です」 個分余っている。観測装置が故障したら代わりのも 南海トラフでは地球深部探査船「ちきゅう」が掘 ハイパードルフィンによる DONET構築作業の様子 ノードと観測装置の設置、ノー ドと観測装置を結ぶケーブルの 敷設は、無人探査機「ハイパー ドルフィン」によって行われた。 ハイパードルフィンは、3,000m までしか潜航できなかったが、 DONETの構築のために4,500m までの潜航が可能なように改 造。2010年3月に作業を開始し、 2011年7月に20観測点の設置を 完了。ハイパードルフィンの潜 ①ノードの設置 ノードを、ハイパードルフィンによって海底に設置する。地上局とノードを結 ぶ基幹ケーブルは、ケーブル敷設船によって敷設 ②埋設孔の整備 ケーシングパイプを設置し、なかの泥を吸い取って取り除く 航は81回であった ③観測装置の設置 地震動システムを埋設孔に、圧力センサーシステムを海底に設置する 地震・津波観測監視シス テム(DONET) 紀伊半島沖の東南海地震の震 源域に、ループ状の基幹ケー ブルを敷設して5つのノードを 設置。各ノードから4個の観測 点をつなぎ、合計20点の観測 点を設置してある。観測点は 水深1,900~4,300m 8 Blue Earth 119 ④ケーブルの展張 ノードから観測点までケーブルを敷設する。ケーブルの長さは約10kmで、人が歩くほど のスピードでゆっくり展張していく ⑤設置完了 圧力センサーシステム以外の装置を砂で覆う。 地震動システムのノイズを低減させる Blue Earth 119 9 地震と津波の発生をいち早く捉え、伝え、被害 を軽減する。 「DONETで地震を予知することはできません。しか だろうか。2011年1月18日、熊野灘の深さ約50kmで 組みである。地震計が震源の近くにあるほどP波を早 なっている。 「津波の高さの増幅率は、津波が入って し、地震や津波を早期に検知することで、被害の軽 発生したM3.8の地震を例に見てみよう。地震波には、 く捉えることができ、その分、緊急地震速報を早く出 くる方向や震源からの距離、地域によって異なります。 減に貢献することはできます」と金田PL。 伝わる速度が速くゆれが小さいP波と、伝わる速度が遅 せるので、S波の到達までの時間が長くなる。その間 観測データを積み重ねてシミュレーションを行うことで、 海で起きる地震を調べたいならば、地震計を海に くゆれが大きいS波がある。震源に一番近いDONET に、身の安全を図ることができる。 津波をいち早く検知し、沿岸での高さを正確に予測す 設置するべきである——この当たり前のことが、実は の地震計は、地震発生の9秒後にP波を捉えた。陸上 津波については、どうだろうか。東北地方太平洋沖 ることができるようになるでしょう。これは、被害の軽 できていなかった。日本の陸上には、気象庁や大学、 の地震計が最初にP波を捉えたのは地震発生の17秒後 地震で発生した津波を例に見てみよう。地震発生の 減に大きく貢献します」 研究機関などが設置した地震の観測点が約4,500点 だ。S波について見ると、DONETは地震発生15秒後、 75分後、DONETの水圧計が津波を検知した。その DONETによって、従来より15分ほど早く津波の情 ある。しかし、DONETが運用を始める前、日本周辺 陸上の地震計は29秒後である。 「震源の位置にもより 20分後に三重県尾鷲の沖のGPS波浪計が、さらに20 報を発信できるようになった。しかし、地震によって電 の海底に観測点は28しかなかった。 「地震計を海に設 ますが、DONETは陸上の地震計より5~10秒早く地震 分後に尾鷲の港にある検潮器が津波を検知した。やは 源が落ちたり、陸上のケーブルが破損してしまい、情 置すれば、陸で観測するより早く、そして小さい地震 波の到達を捉えることができます。この観測データを緊 り震源に近いほど、早く津波を検知できている。 報を発信できない可能性もある。陸上局には非常用電 も捉えることができます。海底にも陸上と同等の高密 急地震速報に活かすことで、被害を軽減できます」 津波の高さは、水深が浅くなるほど、つまり沿岸 源を準備するとともに、衛星通信を使用して情報を確 度で高精度な観測網が絶対に必要だ。そういう強い 緊急地震速報とは、震源に近い地震計が捉えたP に近づくほど高くなる。東北地方太平洋沖地震の津 実に発信できるシステムを準備中である。 「いち早く検 思いでつくったのが、DONETです」 波を素早く解析し、最大震度が5弱以上と予測された 波でも、尾鷲の港の検潮器が捉えた津波の高さは、 知するだけでなく、その情報を確実に伝え、命を守る。 DONETは実際、どのくらい早く地震を検知できるの 場合、S波が到達する予想時刻や震度を知らせる仕 DONETの水圧計が捉えた津波の高さの約3.5倍に それがDONETの役割です」 P波 1.41e−02 KMB06 EHZ 2.50e−02 KMB08 EHZ 7.93e−03 KME18 EHZ 2.86e−03 KME17 EHZ 3.80e−03 KMA03 EHZ 1.15e−03 KMA04 EHZ 2.74e−03 1.23e−03 KMA02 EHZ 地震の早期検知の例 地震計ほど地震波を早く捉 えている。DONETの地震 計は、地上の地震計より5 ~10秒早く検知できている 地震動システム 強震計と広帯域地震 計から成る。海底に 孔を掘って埋設する。 強震計は、重力加速 度 の4 倍 の 強 い ゆ れ も記録することがで :陸上 Hi-net 2011年1月18日、熊野灘の 地震(震源の深さ約50km、 M3.8)の例。震源に近い N.NKTH.U(acc) 2.61e−04 N.KHOH.U(acc) 2.25e−04 N.OWSH.U(acc) 3.15e−04 ことができない小さ な地震や、地殻変動 0 20 40 60 sec. 地震発生からの時間(秒) 80 100 120 10 Blue Earth 119 浦神 100 串本 0 -100 100 波高(m) 津波の早期検知の例 浦神 増幅率:約3.2倍 串本 増幅率:約2.5倍 2011年3月11日、東北地方 太平 洋 沖地 震の津 波の例。 DONETの水圧計(青)は、 沿岸のGPS波浪計(緑)や 0 検潮器(赤)より早く津波 を捉えている。DONETの観 測データと沿岸の観測デー -100 タから津波の高さの増幅率 を求めることで、津波予測 0 30 60 90 120 150 180 210 0 30 60 90 120 150 180 210 の精度向上に貢献できる 地震の早期検知能 力の向上 圧力センサーシス テム (14ページ参照)の設 水晶水圧計、微差圧 DONET と DONET2 計、ハイドロフォン、 (14ページ参照)の設 温度計が設置されて 置により、沿岸の検潮 DONET と DONET2 置により、陸上観測点 より地震波を早く捉え ることができる 津波の早期検知能 力の向上 いる。水晶水圧計は 器より早く津波を捉え 水深が1cm変動して ることができる も検知することがで DONET観測点 陸上観測点 き る。 微 差 圧 計 は、 さ ら に 感 度 が 高 い。 温度計は、東北地方 太平洋沖地震の津波 のようなゆっくりし た動きを検知できる 熊野 増幅率:約2.75倍 6.99e−04 N.SMAH.U(acc) きる。広帯域地震計 は、人体では感じる 尾鷲 増幅率:約3.5倍 ︶ cm 震央 KMD16 EHZ ︶・波高︵ hPa DONET観測点 熊野 水圧︵ :海底 DONET Hi-net観測点 尾鷲 S波 時間(秒) DONET観測点 の通過を検知した 時間(分) Blue Earth 119 11 次の地震発生は近い?遠い?浅部低周波微動や地殻変動を捉え、地震の発生を予測する。 向けてどのような段階にあるのかを把握できるので 計は精度が高いので、その変動を捉えることが可 す」 能です。沈降の変化が緩くなり隆起に転じたら、次 南海トラフの巨大地震は、100∼150年間隔で起 低周波微動は、プレー卜境界がゆっくりすべると きている。では、次の巨大地震はいつか。多くの人 きに観測される。低周波微動には深さ30kmくらい が知りたいのは、その点だろう。「現在の科学では、 で起きる深部低周波微動もある。浅部低周波微動 水圧計の観測データも地震の発生予測に役立つ 地震が何年何月何日に起きるか、予知することはで は深さ5kmくらいで起きるものをいう。沈み込む という。水圧計は津波を検知するのだが、これは きません。しかし、DONETによって、次の地震は プレートと陸側のプレートが強く固着しているとき 上に載っている水の重さ、つまり水深を計測してい こうした地震前後の地殻変動についてのシミュ の地震発生に向けて危険水域に入ったと考えられま す」 近いのか当分起きないのかという地震発生の切迫 は、浅部での低周波微動は不活発である。プレー るのである。プレートの沈み込みに伴って陸側のプ レーション研究が進んでいる。シミュレーションに 度を精度よく予測できるようになると期待されてい トの沈み込みに従って固着域にひずみがたまってい レートも引きずり込まれるため、水深が少しずつ深 DONETの観測データを入れる「データ同化」とい ます」と金田PLはいう。 き、耐え切れなくなると、固着域の一部がゆっくり くなっていく。次第にプレー卜境界の固着域にひず う解析手法を使うことで、より現実に近い予測がで DONETは、いままで陸では捉えることができな すべって少しずつはがれていく。すると、浅部での みがたまっていき、耐え切れなくなると、ゆっくり きるようになると期待されている。「天気予報の降 かった小さな地震まで観測できる。しかも20の観 低周波微動が増える。さらにひずみがたまると、固 すべり始める。すると、陸側のプレートが少しずつ 水確率のように、地震発生の切迫度を発表できる 測点で面的に捉えるため、震源の位置を正確に求 着域が一気にすべって地震が発生する。 もとに戻るため、水深も少しずつ浅くなっていく。 ようにしたいと思っています。しかし、いきなり数 めることが可能になる。「地震活動を詳細に調べる 「浅部低周波微動が不活発であれば次の地震まで さらにひずみがたまると、一気にすべって地震が発 値だけを発表したのでは混乱を招きます。情報を正 ことで、東南海地震の震源域で何が起きているの 時間がある、活発になってきたら地震の発生が近 生する。陸側のプレートは一気に戻り、水深が急に しく防災・減災に役立ててもらうために、その数値 かを知ることができます。私たちは、特に浅部低周 い、と予測できます。DONETで浅部低周波微動を 浅くなる。「プレートの沈み込みに伴う地殻変動は が出た背景や数値のあいまいさをきちんと伝えるこ 波微動に注目しています」 長期間にわたって観測することで、次の地震発生に 年に数mmとわずかです。しかし、DONETの水圧 とも、私たちの役割です」 ①陸側のプレートの下 に海側のプレートが沈 み込んでいく DONETが捉えた微小地震 DONETの4観測点が地震波を 捉えた(赤)。しかし、隣接す る4観測点では地震波は観測さ れていない(青)。陸上の観測 点でも地震波は観測されていな い(黒)。これは、この地震が 局所的な非常に微小な地震だか らである。このような地震まで 観測することで、地下の様子を 知ることができる ②プレートの沈み込み に伴って陸側のプレー トも引きずり込まれ、 観測点の水深が少しず つ深くなっていく ③ひずみに耐え切れな くなると、陸側のプ レートがゆっくりすべ りながら、少しずつ戻 るため、観測点の水深 も少しずつ浅くなって いく。 浅部低周波微動と地震サ イクル プレー卜境界が強く固着してい るとき、浅部低周波微動は不活 発である。これは、地震の発生 まで時間がある状態である。プ レートの沈み込みに伴ってひず みがたまっていき、耐え切れな くなると固着域が少しずつはが れ始める。すると、浅部低周波 微動が活発になる。これは地震 発生直前の状態である 地殻変動と地震サイクル プレートの沈み込みに伴って陸側のプレートも引きずり込まれ、水深が 少しずつ深くなっていく。やがて沈降の変化が緩やかになる。プレー卜 境界がゆっくりすべり始めると、陸側のプレートが少しずつもとに戻り、 水深も少しずつ浅くなっていく。その後、一気にすべって地震が発生す る。陸側のプレートは一気に戻り、水深が急に浅くなる ④プレー卜境界が一気 にすべって地震が発生 する。陸側のプレート は一気に戻り、観測点 の水深が急に浅くな る。 南海地震の震源域でもリアルタイム観測を! 「南海トラフの巨大地震に備えるためには、東南 が西側に広がり、南海地震が発生しているらしい。 海地震の震源域を監視するだけでは不十分です。私 その様子は、過去の南海トラフの地震サイクルの発 たちは、南海地震の震源域にDONET2を構築する 生パターンを再現した地震発生サイクルシミュレー 計画を2010年度から開始しています」と金田PL。 ションでも分かる。 昭和地震では東南海地震の2年後に南海地震が発 「東南海地震が先に起きた場合、南海地震の震源 生し、安政地震では東海・東南海地震の30時間後 域の地殻変動を監視することで、安政のように30時 に南海地震が発生した。いずれも東南海地震が発生 間後なのか、昭和のように2年後なのか、南海地震 した後の、余効すべりと呼ばれるゆっくりしたずれ が発生するまでの時間を評価することができると期 DONET2構築開始 待されています。南海地震の発生が数十時間後なの DONET2の 完 成 に よ っ て、 地 震 や 津 波 を い か数年後なのかで、取るべき対応が変わってきます」 ち早く捉えることができる範囲が大きく広がる。 DONET2では、潮岬沖から室戸岬沖の南海地 DONET2の先は?「ゆくゆくは、DONET2にも『ち 震の震源域に29観測点を設置し、紀伊半島沖の きゅう』の掘削孔に設置した観測装置をつなぎたい DONETに2観測点を追加する。陸上局は、徳島県 ですね。また、南海トラフ全域をカバーすることを 海陽町まぜのおかと高知県室戸市の室戸東中学校に 目指して、日向灘にDONET3を展開できればと考 建設する。2014年から一部稼働、2015年完成の予 えています」 定だ。 東南海地震と南海地震の発生時間差の評価 東南海地震発生後から 南海地震発生に至るまで 20' N 地震発生サイクルシミュレーションの結果に実 測データのノイズを加えた模擬データである。 南海トラフ地震発生サイクルシミュレーション ●和歌山市 徳島市● 00' N DONETとDONET2では、このようなデータが 過去700年にわたって南海トラフで起きた地震を再現している。 どこから、どのように、すべりが広がっていったかが分かる 観測されると期待される。地殻変動の振る舞いか ら、東南海地震が発生してから南海地震が発生す るまでの時間を評価することを目指す 尾鷲市 古江陸上局★ 観測点A 観測点B −2 00 0 −2000 地震 8 40' N 0 −50 4 −1000 −1 2 すべり速度 6 50 0 観測点B 室戸市 ● 20' N 0 観測点A 固着 -2 南海地震が5.1日後に起こる場合 −5 00' N −20 −100 0 −4 00 0 −3 50 0 −3 00 0 − 0 40 0 DONET2 0 10 20 30 40 50 60 70 80 東南海地震からの日数 −4500 南海地震の震源域の地殻変動 km 0 00' N DONET2 20 40 1:2200000 60 東南海地震後のゆっくりしたずれが西側に広が り、プレートの沈み込みによって沈降が加速し、 やがてプレート境界が一気にすべって南海地震が 発生する ★ 観測点A 観測点B 5cm 5cm 20' N 南海地震 地殻変動の鉛直変位 0 DONET ★ ★ 地殻変動の鉛直変位 − 40' N −450 −2500 0 150 南海地震 東南海地震 00 00 東南海地震の余効すべりが速やかに西側に広が り、南海地震の震源域が沈降する ★ 0 10 東南海地震 20 30 40 50 60 70 80 東南海地震からの日数 東南海地震の震源域の地殻変動 東南海地震の発生後、余効すべりによって陸 側はゆっくり隆起していく 南海地震が249.8日後に起こる場合 東南海地震の余効すべりが、時間をかけて西側に 広がる。先に東南海地震の震源域が隆起し、後 から南海地震の震源域が隆起する 潮岬沖から室戸岬沖の南海地震の震源域に7個のノードと29観測点を設置し、紀伊半島沖のDONETに2観測点を追加する。観測点の設置 134˚00' E 14 134˚20' E Blue Earth 119 海域の水深は1,000~3,500m。基幹ケーブルは約350kmである。徳島県海陽町まぜのおかと高知県室戸市に陸上局を設置する 134˚40' E 135˚00' E 135˚20' E 135˚40' E 136˚00' E 136˚20' E 136˚40' E 137˚00' E Blue Earth 119 15 DONETの観測データを被害の予測・軽減へつなぎ、 命を守る。 「JAMSTEC地震津波・防災研究プロジェクトが 以外にも多くの災害が、広域にわたって発生する。 名古屋、紀州の各研究会・分科会があり、2012年 津波はどこまで到達するのか、建物の倒壊が多いの 発足したのは2009年。いまでは、DONETが設置 地盤沈降、液状化、建物の倒壊、漂流物、津波火 から九州地域研究会も発足した。地震・津波に対し はどこかなどを事前に知っていれば、早く安全に避 されリアルタイム観測による地震・津波の早期検知 災……。これまでの被害予測は、ゆれによる建物の てどのような防災対策が必要かは、地域によって異 難できるだろう。 が実現し、精度の高い地震発生予測に向けた研究 倒壊、津波による浸水など、原因ごとに個別に作成 なる。高知市は津波とその後の地盤沈下による長期 「被害予測は地震が起きてしまったら役に立たな も進んでいます。しかし、まだ不十分です」と金田 されていた。 「京」を使うことによって、初めて広 浸水、紀州では津波、大阪市は地震動、名古屋市は いのではないか、という指摘がありますが、それは 「DONETが検知したり発生予測したり PLはいう。 域の複合災害の予測が可能になる。目指すのは、建 複合災害と、それぞれの地域で必要な防災・減災に 誤解です」と金田PLはいう。 「被害予測は救援活動 した地震や津波によってどのような被害が出るかを 物の骨材やボルトの強度まで再現し、個々の建物、 ついての情報交換や研究を行っている。 や復旧作業にも役立ちます。また、地震が発生し 具体的に予測し、それを国や自治体に伝えて防災・ そして都市全体について、地震・津波が引き起こす 金田PLは、防災教育の重要性も強調する。 「地震 たら、事前に作成してある複合災害予測シミュレー 減災の対策を施す。そこまでやらなければ、皆さん さまざまな影響を取り入れた災害予測の実現であ や津波を怖がるだけでなく、地震発生予測などの情 ションに観測データを取り入れ、リアルタイムで予 の命を守ることはできません」 る。 「そうした現実に即した高精度な複合災害予測 報を正しく理解し、正しく行動できるように、知識 測。その情報をスマートフォンなどの端末で受信 現在、超高速計算が可能なスーパーコンピュー シミュレーションによって、防災・減災のために本 を高めてほしいのです。覚えるだけの防災教育では し、現在位置に応じて避難経路が示される。近い将 タ「京」を用いた研究を進めている。国は「HPCI 当にしなければならないことが見えてきます。そし 駄目。その場で判断できるようになる防災教育でな 来、そのようなことも実現するでしょう」 戦略プログラム」として5つの分野を設定しており、 て、その対策を実施するには、地方自治体など防災 ければ。そのためにはどのような情報発信や普及広 金田PLは、最後にこう語った。 「残念ながら、私 金田PLは、分野3「防災・減災に資する地球変動予 機関との連携が不可欠です」 報が必要か、現在検討しているところです」 。まず たちは地震の発生を止めることはできません。しか 測」の地震・津波に関する研究開発課題責任者を JAMSTEC地震津波・防災研究プロジェクトで は、複合災害予測シミュレーションを多くの人に見 し、事前に対策を取ることで、被害を最小限にとど 務める。 は、地方自治体防災担当者やライフライン事業者が ていただけるようにする計画だ。シミュレーション めることは可能です。地震によって悲しむ人がいな 地震が発生すると、ゆれや津波の直接的な被害 参加する地域研究会を組織している。大阪、高知、 は一目瞭然である。自分の住んでいる街について、 くなるまで、私たちは努力を続けていきます」 BE 地震・津波による複合災害の予測 原因 ・データ同化の手法を用いた地震の発生シナリオの予測 ・高精度・高分解能の日本列島下地震波速度構造モデルの構築 地震 広域複合被害予測 多様な構造物の被害 予測に向けて、地震 動をシミュレーショ ・都市全構造物の被害予測 ・地震被害が社会・経済に及ぼす影響の予測 ・避難シミュレーションの実施 ン 画像提供:東京大学 古村孝志教授 画像提供:東京大学 古村孝志教授 津波 リアルタイム観測データとの融合による津波予測の高精度・高速化 画像提供:東京大学 堀宗朗 16 Blue Earth 119 Blue Earth 119 17 海岸に打ち上げられたハタハ 男鹿水族館 GAO タの卵 「ブリコ」 。一塊が 1,000 荒れ狂う海を舞う──ハタハタ 個ほどの卵から成る。その大 きさはゴルフボールほど。ハ タハタはこれを藻に植え付け る。色がなぜ異なるのか、餌 の せ い だ と い う 説 も あ る が、 その原因は明らかではない 11∼12月、雷とどろき、吹雪舞う日本海。秋田の沿岸へと 水槽のなかを舞うように泳ぎ、砂のなかにじっとうずくまっ 押し寄せる魚がいる。ハタハタ、別名カミナリウオ。その名 ている。安定した展示が何とかできるようになった。 は波が多いと書いて波多波多とも、時化の海にうなる激しい 3年目の初夏、人工授精で生まれた子どもの1匹が水槽内で 雷を「はたた神」と呼ぶことに由来するともいわれる。 卵を産む。神経質なハタハタが水槽で産卵したのだ。さらに ハタハタは水深200∼300m付近を回遊する深海魚。日本 1ヵ月後、水槽内で産卵ピークがやって来た。その年、100匹 付近では回遊ルートからいくつかの群れが知られ、秋田沿岸 が次々と産卵を行った。 にやって来るハタハタは日本海北系群と呼ばれる、青森県か 実のところ、ハタハタが何をきっかけにして集団で産卵・ ら石川県までを回遊する系群だ。ほかに大きな系群として日 繁殖を行うのか、よくわかっていない。本来は冬に産卵期を 本海西系群があり、この群れは島根県から石川県、朝鮮半島 迎えるはずなのに、水槽では夏だった。時期がずれるほど、 東岸まで回遊している。漁獲高も実は秋田が1位ではない。で 受精率は下がった。何を引き金にして自然界のハタハタは生 は、なぜ秋田の名物なのだろう。 活史を合わせ、雷とどろく冬に一斉に産卵期を迎えるのか。 男鹿半島周辺が日本海北系群の産卵場となっているためだ。 本来の生態を再現したい。ハタハタは秋田の県魚であり、男 ハタハタが回遊を行う200∼300mの等深線から岩館、男鹿、 鹿の市魚でもある。豊漁のハタハタに港は沸き、ハタハタを 金浦、北浦の浜までの距離は、他県の浜に比べて近い。産卵 原料とするしょっつる(魚醤)やハタハタを入れたしょっつる 期に秋田で捕れるハタハタは他県のものと異なり、おなかは 鍋と、秋田の食文化に深い根を張る。まさにふるさとそのも 卵でいっぱいだ。ぶりぶりとした独特の食感を持つ卵「ブリ のだ。だからこそ、本当の息吹を展示したい。卓越したハタ コ」と、大きく成長したハタハタは、秋田のふるさとの味。 ハタの展示を続けていくために。 男鹿水族館GAOはこの「ふるさと」をテーマに2012年4月、 取材協力:宇井賢二郎/男鹿水族館GAO・学芸員 し け ハタハタは胸びれを広げ、羽ばたくように優雅に水槽を泳ぐ。うろこは持たない。 海の表層温が 13℃以下にならないと、深海魚のハタハタは沿岸に近づけない。冬 に海が時化始めると海表面が冷たい空気にさらされ、一気に温度を下げる。その ときを見計らって、ハタハタたちは産卵のために群れとなって浅瀬の藻場へと押 し寄せる(写真提供:男鹿水族館 GAO) 館内のハタハタ博物館を全面リニューアルした。 ハタハタの展示を男鹿水族館GAOで始めたのは2004年の ことだ。最初の年、力を入れて20トンという大きめの水槽に 入れたにもかかわらず、2,000匹のハタハタは半年でわずか1 割にまで激減してしまった。ハタハタはとても神経質な魚で、 周囲の明るさに頻繁にパニックを起こし死んでしまう。解決 策が見つからず、2年目にはもっと小さな水槽で展示したいと 考えたほどだった。 しかし、ハタハタはふるさとの魚だ。それは許されない。 格闘が始まった。 2年後、人工授精を試みた。すると、人工授精で生まれた 子どもたちは、親世代よりずっと落ち着いて水槽で過ごすこ とができた。彼らは、海を知らない。そのせいなのだろうか。 ハタハタは、普通は砂に埋まった状態で生活しているようだ。 身体をくねらせて器用に砂のなかに埋もれていき、目だけを 出していたりする。かつては安く手に入る大衆魚だったが、 乱獲や環境変化で漁獲量が激減、1992 年には 3 年間の禁漁に 踏み切った歴史がある(撮影:藤牧徹也) 18 Blue Earth 119 ■ Information: 男鹿水族館 GAO 〒010-0673 秋田県男鹿市戸賀塩浜 TEL 0185-32-2221 URL http://www.gao-aqua.jp/ Blue Earth 119 19 わ け 私が海を目指す理由 急変する 北極海を解析する 海氷下の水温や塩分を観測する伊東技術研究主任 2007年、北極海の海氷域を進むカナダ砕氷船。海氷が融けて海面が現れ、白と青のコントラストを見せている 氷ができる海 変わりゆく北極海へ ̶̶その北極海の海氷が激減しています。 ̶̶子どものころ、どんなことに興味が ̶̶北極海を初めて訪れたのはいつですか。 伊東:北極域は地球のなかで地球温暖化 ありましたか。 伊東:JAMSTECに入った2002年の夏で による気温上昇が最も大きい場所です。 地球温暖化がいち早く進行している北極海では、夏季の海氷面積が 10 年前と比べて 3 分の 2 に縮小するなど、環境が急変している。伊東素代 技術研究主任は、 10 年前から北極海の観測を始めた。蓄積したデータを解析することで、 北極海で何が起きているのかを知り、変化のメカニズムを解明する研究を続けている。 1997年 9月15日 2012年 9月15日 海氷最小期 9月中旬の北極海 NSIDC海氷データを使用 伊東素代 地球環境変動領域 北半球寒冷圏研究プログラム 北極海総合研究チーム 技術研究主任 伊東素代(いとう・もとよ) 北海道生まれ。博士(地球環境科学) 。 北海道大学大学院地球環境科学研究 科博士課程修了。北海道大学低温科 学研究所 特別研究員を経て、2002 年、海洋科学技術センター(現・海洋 研究開発機構:JAMSTEC)科学技 術特別研究員。2011 年より現職。 2003年、カナダ砕氷船の船 20 Blue Earth 119 首にて。厚い氷を割りながら 進むので、赤いペンキが剝げ ている。氷の上には水たまり ができている 伊東:生き物が好きで、空き地で昆虫採 す。JAMSTEC北極海総合研究チームで また、今後も温暖化がほかの地域よりも 集をしたり川で魚を捕まえて家で飼った は、海洋地球研究船「みらい」や、アメ 速く進行していくことが予測されていま りしました。星も好きで、夜空をよく見 リカやカナダの砕氷船で、北極海での観 す。海氷は1990年代からすでに減少傾 上げていました。中学生になると授業で 測を続けています。ただし、1年のうち 向にありました。しかし、私が初めて北 習った天気に興味を持ち、ラジオの気象 北極海に船で行って観測できるのは、海 極海を訪れた2002年ごろ、現在のよう 通報を聴いて天気図を描きました。やが 氷が減り、天候も穏やかな7∼10月に限 な速いスピードで海氷が激減するとは、 て、気象を学びたい、と北海道大学理学 られます。砕氷船でも厚い海氷に覆われ 誰も予想していなかったと思います。海 部の地球物理学科へ進みました。 る冬に航行することは難しいからです。 氷面積は、2007年夏に大幅に減少して 観測史上最小を記録し、注目を集めまし ̶̶海へ興味を持つようになったのは? 私たちは、太平洋からの海流が北極海へ 伊東:大学では、気象以外にも、海洋や 入ってくる通り道のいくつかの地点に観 たが、今年は5年ぶりにその記録を更新 火山、地震などの授業を受けました。そ 測装置を係留して、年間を通じた観測も しました。最近の夏季の海氷面積を10年 のなかで、海は分かっていないことがと 行っています。 前と比べると、3分の2にまで縮小してい ても多いことを知りました。その分かっ ̶̶北極海はどのようなところですか。 ます。 ていないことだらけの海を理解したい、 伊 東:7∼8月はほぼ白夜 で す。1日中、 海氷の広がりは人工衛星で観測するこ と思うようになったのです。特に氷がで 太陽光が降り注いでいるため、日平均の とができますが、海氷はその名前の通り きる海に興味を持ち、学部の卒業研究、 日射量は沖縄と同じくらいだそうです。 海の水が凍ってできるものなので、その 大学院の修士論文、博士論文の研究海域 気温も0∼3℃の日が多く、それほど寒い 下の海の状態を知ることもとても重要で は、いずれもオホーツク海でした。 わけではありません。 す。しかし氷の下の海の様子は人工衛星 ̶̶どのような現象に注目したのですか。 ただし北極の夏はとても短く、8月末に などでは分からないので、実際に現場で 伊東:海水が約−2℃になると、海氷が なると日が短くなり始めます。太陽が沈 観測する必要があります。私は、水温や でき始めます。このとき、ほぼ真水の成 むと、夜空にオーロラが輝くことがありま 塩分、化学成分などを観測してデータを 分が氷になり、塩分は排出されます。そ す。また、一航海中に1∼2回は、ホッキ 解析することで、北極海でいま何が起き のため冷たく塩分の濃い重い海水ができ ョクグマに出会うチャンスがあります。 ているのかを知り、変化のメカニズムを ます。オホーツク海ではその重い海水が 海氷面積が最小になるのは9月です。 解明する研究を進めています。 水深200∼1,000mほどの中層へ沈み込 10月になると、気温が下がり、海氷がど ̶̶観測現場でも変化を実感しますか。 んで、広がります。私はその重い海水が んどん成長するようになります。気温が 伊東:砕氷船で厚さ2∼3mの海氷を割る できる量や広がりを、観測データから解 −10∼−20℃まで下がる日には、朝は とき、かなりの衝撃が走ります。10年前 析する研究を行いました。 薄い氷だったのに、夕方にはかなり厚い は、1回の衝突では氷を割れず、2度3度 ̶̶観測航海にも参加したのですか。 氷に成長していることもあります。大学 と前進、後退を繰り返してぶつかり、氷 伊東:北海道沖の流氷海域をパトロール 院生のときに真冬2月の北海道沿岸のオ を砕きながら進んでいた海域も多かった する海上保安庁の船に乗せてもらって海 ホーツク海観測に参加したことがありま のですが、現在は厚い氷がほとんどな 氷の下の海を観測したり、ロシア船によ すが、まだ初秋10月の北極海の方が海 く、スムーズに航行できる海域が増えま るオホーツク海の観測航海に参加したり 氷の成長するスピードがずっと速く、驚 した。氷の厚さも人工衛星ではよく分か しました。 きました。 りません。特に夏は、氷の表面が融けて、 Blue Earth 119 21 8.0 7.5 7.0 6.5 6.0 5.5 5.0 4.5 4.0 3.5 3.0 海氷面積︵ 100 km ︶2 「メルトポンド」と呼ばれる水たまりがで きるので、衛星画像では海氷がないよう に見える場所でも、実際にはメルトポン ドができた海氷の場合があります。やは 万 り現場での観測が重要になります。 私たちは、砕氷船で、どれくらいの厚 さの海氷がその海域の何割を占めている のか、目視やビデオによる観測も行って 10 います。海氷の目視観察をしていると、 水温︵℃︶ いですね。でき始めの海氷は、波や風で 氷が集まり、角が取れて薄く丸いかたち はす は になります。それを「蓮葉氷」と呼びます。 比較的薄い氷は「一年氷」と呼ばれます。 1985 1990 1995 2000 2005 2010年 太平洋から北極海への海流の流路上での水温 6 4 2 0 やがて、蓮葉氷がたくさん集まって大き な氷盤へと成長します。前の冬にできた 1980 8 海域ごとに氷の表情が異なり、とても面白 海氷上にたたずむホッキョクグマ 北極海の夏季の海氷面積 -2 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008年 2003年、海氷上での氷上ブイの設置作業。このブイの下には、海氷の厚さや温度 1990年代後半から急激に海氷面積が減少するとともに(上)、水温にも上 を測るセンサーが付いている 昇傾向が見られる(下) 一方、夏も融け切らずに残り、何年もか けて成長したものは「多年氷」と呼ばれ、 「みらい」の上空を舞うオーロラ。2010年10月、伊東技術研究主任が首席研究者として統括した北極海の 研究航海にて 写真提供:佐藤弘康(㈱マリン・ワーク・ジャパン) 厚くて表面がごつごつしています。 は続いていました。今年、海氷面積が最 を続けるとともに、海洋化学、生物の研 ばよいのか、簡単には分からないケース 私が初めて北極海を訪れた10年前は、 小記録を更新した原因としては、北極海 究者と連携していきたいと思います。北 がほとんどです。 多年氷の海域が多かったのですが、最近 に厚い氷が少なくなっていたことに加え 極海における環境の急変は、生態系に データ解析では、解析手法などを自分 は一年氷の海域が増えました。 て、8月の強い低気圧が海氷の融解を促 も大きな影響を及ぼしていることが分か で試行錯誤しなくてはいけない部分が、 進した、との速報がすでに出されており、 りつつあります。たとえば、中層水は沿 たくさんあります。その苦労のなかで、 北極海の未来は? 今後も詳細な原因の解明が進んでいくと 岸域の栄養分を沖へと運ぶ役割もあるの 北極海で何が起きているのか、見えてく ̶̶北極海の海氷が減ることにより、地 思います。 で、その量は生物生産を左右すると考え ることがあります。それが研究をしてい 球環境にどのような影響が及びますか。 一方、真冬になると、北極海はほぼ全 られています、しかし、まだ詳しいこと て一番楽しく、面白い瞬間です。私たち 伊東:白い海氷があると光を反射するの 面が海氷に覆われます。しかし、陸から は分かっていませんので、これから解明 が観測しているのは現象の一部分にすぎ で、氷の下の海は太陽光の10∼20%し 沖へと吹く強風によって海氷が沖へ流さ していきたいと思います。 ません。そこから現象の全体像や、その か吸収しません。ところが海氷が融けて れ、海氷がない開水域(ポリニヤ)がで また、私たちが北極海に設置している 現象が起きている原因が見えてくること 青い海が現れると、太陽光の90%以上を きる海域もあります。そこでは約−20∼ 係留系には、音を出して海中の粒子に反 があるのです。それは、教科書や論文を 吸収するようになります。 −30℃の大気と海が直接接するため、海 射して戻ってきた反射波を捉え、海流の 読んで得た既存の知識ではなく、世界で 海氷が減る夏に、海へ熱がどんどん蓄 氷形成が活発に起きます。 流速を調べるADCPという装置がありま 誰も知らないことを自分で見いだした瞬 積されます。10月ごろになって気温が下 前にも紹介したように、海氷ができる す。その反射波の強度は動物プランクト 間です。 がってくると、今度は海は大気に冷やさ とき、塩分が排出されて冷たく塩分の濃 ンの量を反映していることが分かってき ̶̶現在の北極海の研究は、従来とは意 れ、凍り始めます。そのとき、大気は海の い重い水ができます。この水は、北極海 ました。これまで夏のデータしかなかっ 味合いが異なりますね。 熱で暖められます。実際に、北極海で気 の中層へ沈み込んで広がる中層水となり たプランクトン量の季節変化を調べるこ 伊東:北極海はいままさに急変している 温の上昇傾向が最も大きいのは10月です。 ます。私はその中層水の量に注目した観 とができそうです。 時期です。ほかのどの海域よりも変化が 海氷面積が縮小し、北極海がたくさん 測研究も行っています。北極海の深層 の太陽光を吸収することで、地球全体の には、大西洋から流れ込んだ暖かい海 観測データを解析して、 まうかもしれません。そもそも、夏しか観 熱のバランスにも影響を与えると考えら 水があります。その上へ冷たい中層水が 誰も知らないことを見いだす 測に行くことのできない北極海は、分か れています。また、北極域の変化が日本 広がることにより、暖かい深層と表層を ̶̶研究していて最も面白いのは、観測 らないことの多い海域でした。さらにい を含むアジアの冬の気候に影響を及ぼす 隔てるバリアのような役目をしています。 しているときですか、データ解析をして ま、急激な変化が起きているので、従来 との研究も報告されています。 その中層水の形成量が減れば、北極海の いるときですか。 の北極研究による知見が当てはまらない ̶̶北極海の夏の海氷面積はこれからも 表層水温はさらに上昇して海氷ができに 伊東:それは、データを解析していると ことも多くなっています。その分、新しい 急速に縮小していくのでしょうか。 くくなる可能性があります。 きですね。1年のうち観測に出掛けるのは 切り口で研究を進め、誰も知らないこと 2ヵ月ほど。研究の大半は、観測データを を発見できるチャンスも広がっています。 伊東:2007年以降、海氷面積の縮小ス 沿岸域にできた蓮葉氷。たくさんの蓮葉氷が集まり厚い海氷に成長していく 22 Blue Earth 119 速く、今後数年で別の様相に変わってし ピードは少し鈍っていましたが、それが 海洋生態系へのインパクト 解析して、その意味を解釈する仕事です。 そして、そのような研究により、北極 なぜなのか分かっていませんでした。し ̶̶これから、どのように研究を進めて 観測データは事実そのものです。ただ 海で何が起きているのかを知り、変化の かし、海氷面積の年々の増減がある一方 いこうと考えていますか。 し、長期的な傾向を知りたいと思っても、 メカニズムを解明することは、地球全体 で、氷の下の海は熱を蓄積し続けていて、 伊東:北極海の環境変化を知る基礎とな 観測データには日々の変動や観測誤差な の将来の環境を予測する上でも重要にな 海が暖まり、海氷ができにくくなる傾向 る、水温や塩分などの物理データの観測 どのノイズが多く、どのように読み取れ ってくると思います。 BE Blue Earth 119 23 ら 研究の現場か 取材協力 原田尚美 地球環境変動領域 物質循環研究プログラム 長島佳菜 地球環境変動領域 物質循環研究プログラム 調査用ボートが浮かぶ一 ノ 目 潟。 直 径 約600m、 古海洋環境研究チーム チームリーダー・技術研究主幹 水深約45m。水蒸気爆発 によってできたマール湖 古海洋環境研究チーム 研究員 一ノ目潟 男鹿半島 秋田県 という珍しいタイプの湖 山田和芳 早稲田大学 人間科学学術院 人間環境学科 助教 で、2007年 に は 国 の 天 然記念物に指定された 一ノ目潟の湖底から気候変動を追う 秋田県男鹿半島にある一ノ目潟は世界的にも注目を集め ている場所だ。一ノ目潟の湖底堆積物は驚くほどはっき りとした縞模様を有し、現在から連続した少なくとも3 万年間の記録を保持するからだ。1年ごとに記録を追え る、これほどの分解能を持った堆積物は、世界的にも珍 しいという。地球温暖化について、日本周辺での研究は ほとんどなされていない。日本ではこれまでにいったい どのような変化が起き、そしてこれから何が始まろうと しているのか? 一ノ目潟の湖底堆積物に残された手掛 が外れて底面のふたが閉じる。これで湖底の円柱状試料(コ ア)はサンプラー内に閉じ込められる仕掛けになっている。 約10kgのサンプラーをボートから降ろす。同時にサンプ ラーに取り付けられた回収用のロープが、ボートからするす ると滑り降りていく。40mを示す黒いテープのところで、 いっ たんサンプラーの降下を中断し、サンプラーが湖面に対して 安定するのを待つ。ここから再び一気にサンプラーを落とす。 かりから、気候変動をはじめとするさまざまな地球環境 ロープの動きが止まったところで、思い切って引くと、ボー の変遷が読み解かれようとしている。一ノ目潟での掘削 トがやや傾いた。十分にコアが採れている手応えだ。ボート プロジェクトに密着した。 に引き上げ、くりぬいたサンプルコアの層が乱れないように 撮影:藤牧徹也 垂直に保ちながら、ゴムボートで岸辺まで慎重に運ぶ。 8月7日火曜日、朝5時。日はすでに昇っているが、曇天の 湖岸で待ち構えていた研究者が、首尾よくサンプラーを受 半島の国定公園内にある一ノ目潟での掘削作業の始まりだ。 け取る。アルミ容器の側面に取り付けられた留め具をカチャ いつの間にかでき上がった各自の役割を、テンポよく研究者 リと開錠すると、内側に仕込まれたアクリルの円筒内には、 た ち が こ な す。 そ の 数、 延 べ15人。 海 洋 研 究 開 発 機 構 湖底の泥が30cmほどの高さでくりぬかれていた。上面はか (JAMSTEC)と全国の大学・研究機関からのさまざまな専門 なりふわふわし、この状態でもコアが黒い層とオリーブ色の 分野の研究者たちが混成チームをつくり、一ノ目潟の掘削プ 層が交互に重なっていることが肉眼で分かる。まさにしまし ロジェクトに参加している。 まだ。コアの上部に残っている湖水をスポイトで丁寧に吸い JAMSTECからは、観測研究責任者として原田尚美チーム 出す。その後、コアの入った内側のアクリルの円筒だけをス リーダー(TL)と長島佳菜研究員が参加した。共同研究者の ポンジの上に移し、ドライアイスの詰まった金属の細い円筒 早稲田大学・山田和芳助教らは2006年、2011年と同じ場所 形の棒をコアの中心部に挿入する。ドライアイスでコアを凍 で掘削を行ってきた。彼らは、湖底堆積物調査を専門とし、 らせるのだ。 ペルーなど国内外で豊富な経験と実績を持つ。 砕いたドライアイスを金属の棒に次々と補充していく。30 1 グラビティ・コア・サン 2 引き上げたサンプラーを 3 ドライアイスの詰まった金 4 凍り付いていないところ 5 凍っている部分だけを掘り プラーをセットし、湖へ 開けて、堆積物上の湖水 属の棒を指す。コアが凍 を、へらでざっくり切り 出して水洗いすると、より 落とす をスポイトで吸い出す るまで30分ほどドライア 落とす はっきりとした縞模様を確 イスを追加しながら待つ 認できる 分ほどドライアイスを補充し続けると、コアが中心部から凍 そして、この縞模様に、一ノ目潟での掘削で知りたいこと 降下してくる粘土がオリーブ色の堆積層を構成する。これほ ■ 直径600mほどの一ノ目潟は限りなく円に近い り付く。ここでドライアイスの棒を引くと……、コアがその のすべてが凝集されている。 どはっきりと縞模様が現れる湖沼年縞は一ノ目潟のものだけ 波のほとんどない静かな湖面に降ろされたゴムボートに数 まま抜けてくる。きれいに引き抜かれたコアは、巨大なアイ 名が乗り込み、手のひらサイズのGPSと水深計を使って掘削 スキャンディーのようだ。 場所に向かう。一ノ目潟の湖底地形は鍋のように岸から急に だ。なぜ一ノ目潟ではこうした縞模様が現れるのだろうか。 ■ 縞模様ができる理由 ねんこう 一ノ目潟はいまから7万∼6万年前に火山の水蒸気爆発に 採取した直径9cmのコアの周囲を、へらを使って切り落と 縞模様は、専門的な用語で「湖沼年縞」と呼ばれる。一ノ よってできたと考えられている。地学用語では「マール湖」 深くなり、湖底はどこも水深45m前後でおおむね平らだ。 し、余分な部分はそぎ落とす。コアはたちまち細くなり、凍 目潟では黒い層とオリーブ色の層の1セットで1年を示してい と呼ばれる。火山活動によってマグマが地下の帯水層と接す 目的地を特定し、船に積まれた重力式サンプラー(採泥器) 結した中心部が現れた。水をかけると、それはまるで漆細工 る。春から夏にかけてケイ藻というプランクトンが大繁殖し、 ると大爆発が起こる。爆発によって周囲が吹き飛ばされ、大 をセットする。このサンプラーは、湖底の泥を円筒形に切り の模様が浮かび上がるようだ。凍結したコアを素早くラップ 主にその死骸に含まれる有機物が酸化分解される際に湖底付 地に開いた円形の爆裂火口をマール地形といい、そこに地下 出すことができる。原理は至って簡単だ。アルミ容器のなか でくるみ、採取した地点を記録してアイスボックスに詰め込 近の酸素を消費し尽くす。やがて嫌気性の硫酸還元細菌の繁 水がたまるとマール湖となる。周辺にはほかに二ノ目潟、三 には、透明なアクリルの筒がセットされている。アルミ容器 まれる。 殖により硫酸の酸素も使う。硫酸は還元され、その結果、硫 ノ目潟というマール湖があり、3つ合わせて男鹿目潟マール の底面にはふたが付いており、沈める前にフックに掛けてふ この作業は、この日1日で11回ほど繰り返された。水がか 化物イオンが発生し湖水中の鉄や銅などの金属と反応して黒 群と呼ばれる。名前は古い順になっており、一番新しい三ノ たが開いた状態で湖底に到達させると、サンプラーは自分の けられ、縞模様が浮かび上がる瞬間は感動的だ。とても自然 い沈殿物となり、黒い層をつくると考えられる。逆に生物活動 目潟は2万4000∼2万年前に形成された。 重さでそのまま湖底に沈み込んでいく。沈み込みが止まった にできたとは思えないほど、はっきりした縞模様をコアは記 が抑えられる冬から春にかけては上記のような反応が起きる マール湖の水は一般的に川からの流入ではなく、地下水で 録していた。 ほど有機物の生産がないため、周囲の土壌や大気を経由して 補給され、外部からの流入物は比較的少ない。また湖の直径 ところで、今度は少しのコツをもって引き上げると、フック 24 ■ 美しい縞模様を持つコアが姿を現す せいか8月にしては冷涼な風が駆け抜けていく。秋田県男鹿 Blue Earth 119 Blue Earth 119 25 ・171.4 左が大阪市立大学・原口強 ・160.2 准 教 授、 右 はJAMSTECの ・149.0 ・137.8 原 田 尚 美TL。 原 田TLが 手 ・126.6 にしている黄色い水深計で ・115.4 ・104.2 深さを測り、GPSで位置も ・ 93.0 確認して掘削場所を決める ・ 81.8 ・ 70.6 撮影:藤牧徹也 ・ 59.4 ・ 48.2 ・ 37.0 ・ 25.8 ・ 14.6 10m ・ 20m 30m 40m 3.4 標高(m) 100m 下は処理後のコア。幅の広い模様の層はタービダイトと呼ばれる。1983年に ベーリング海東部陸棚域における過去70年間の海底堆積物の 解析から、1970年代後半を境にして円石藻という植物プラン クトンの発生が増えてきていることを突き止め、2012年6月 に発表した。これは温暖化によって食物網の底辺を支える生 の環境を明らかにする有力な手掛かりとなる。原田TLの事前 左の 印は今回サンプリング 調査から、この円石藻が合成するものとまったく同じ有機化 を行った場所 合物を一ノ目潟の年縞堆積物からも検出している。 温暖化の影響は、地域差、たとえば降雨量といったパラメー さまざまな大学・研究機関の ターの強弱のコントラストがはっきり出ると考えられている。 混成チーム 「だからこそ、日本で調べることに大きな意味がある」と原田 年分のコアのなかに7回、3万年分のなかに269回現れるタービダイトは、ほ 1983年5月26日 日本海中部地震(M7.7) によるタービダイト層 1981年 秋∼冬 1981年 春∼夏 1982年 エルニーニョ 1964年 新潟地震(M7.5) によるタービダイト層 1949年 春∼夏 1977年 PDOが大きくシフト 撮影:藤牧徹也 化と太平洋10年規模振動(PDO)の関係だ。PDOは、太平 洋の東西でシーソーのように、暖かくなったり寒くなったり ベーリング海は水温上昇に加えて低塩化していた。 「水温の を20 ∼ 30年周期で繰り返す自然な状態の気候変動。PDOの 上昇と低塩化によるベーリング海表層の成層構造の発達を、 駆動力となるアリューシャン低気圧の西側にあたるのが日本 円石藻の大増殖から見ることができます。PDO自体は自然変 だ。冬のベーリング海に君臨するアリューシャン低気圧が勢 動ですが、1970年代後半に起きた円石藻の大発生は人為的 力を増すと、その低気圧が反時計回りにぐるぐると回転する な温暖化の影響と考えられます」と原田TLはいう。 「一ノ目 ことで北からの寒波が西側の日本に吹き付けることになる。 潟の今回の掘削では過去数十年分の記録が得られるはずで 逆に東側にあたるアラスカやベーリング海東部には南からの す。そこから水温の指標となる有機化合物の分析によって過 暖かい太平洋水の流入が活発になり、温暖になる。 去の水温や気温を読み解き、東側のベーリング海との比較か PDOの作用として1970年代後半に西側でちょうど温暖化 ら環太平洋における人的な温暖化の影響をより深く見極めた から寒冷化へのシフトが起きたときに、温暖になった東側の い」 。原田TLはそう語った。 ベーリング海では円石藻が大繁殖していた。ところが、1930 また原田TLと同じ研究チームの長島佳菜研究員は風成塵に じん が比較的小さいにもかかわらず、水深が深い。この特徴が年 准教授の3人が中心となって、そのときの掘削は行われた。 ∼ 40年代の同様の環境のときには大繁殖のないことが、原田 注目している。風成塵とは、強風により巻き上げられた微細 縞の保存に非常に大切なのだと山田助教はいう。 「嵐のような 湖にやぐらを建て、機械でコアを採取した。調査で得られた TLの研究から明らかになった。円石藻の大繁殖は基本的には な土ぼこりで、アジアでは一般的に黄砂と呼ばれる。コアに 強い風が吹いても、直径のわりに水深が深いため、湖底まで コアには過去3万年分の年縞が含まれていた。しかし、この 1970年代後半からの、ごく最近のできごとに限られたこと 含まれる風成塵を分析すると、中国やモンゴルのどこの砂漠 水がかき回されることがありません。湖底はいつも酸素がな 一度きりでは、本当に1年に決まった数の層ができるかどう だったのだ。円石藻は、低栄養で海があまりかき回されない 由来かが判明する。風成塵の由来を知ることで、風成塵の発 い還元的な状態になることで、年縞が保存されるんです」 。 か、はっきりしない。そこで2011年3月に再び掘削を行った。 (鉛直混合の弱い) 穏やかな環境を好む。ここ20年間を見ると、 生・運搬に関わる偏西風の経路や、さらには偏西風ジェット 還元的な状況は、湖底で生物の生息を許さない。そのため、 このときに得られたコアとの比較から、一ノ目潟は1年に黒い の位置に関連したアジアモンスーンの降雨分布が分かるとい ひとたびたまった層が生物によって崩されずに済む。さらに、 層とオリーブ色の層が1セットで堆積することが突き止めら う。温暖化の傾向が強く出た年に、アジアモンスーンの降雨 年縞ができるためには、その地域に季節があり、季節ごとに れた。さらに、1962∼63年に行われたアメリカの水爆実験 域はどのように変化するのか、日本にはどのような影響が出 堆積物が変化する必要がある。季節性については、日本はほ によって放出されたセシウム137も検出された。今回採取し るのか。それを一ノ目潟のデータを使って明らかにする計画 とんどの湖がクリアできるが、堆積した層が乱されないとい たコアには、おそらく2011年に起きた福島第一原子力発電所 だ。 「温暖化傾向が強くなると、アジアモンスーンがどのよう う条件を満たす湖は数少ない。現在、山田助教が確認してい の事故の記録が残されているだろう。こうした歴史が、年縞 な振る舞いをするのか、シミュレーションにはばらつきがあ るだけでも7 ヵ所しかないという。そのなかでも、マール湖 の正しさの証明となっていく。 ります」と長島研究員は語る。全体として雨が増えるといっ である一ノ目潟の年縞は特に厚く、その美しさは際立つ。 1年の単位で分析できる分解能があり、なおかつ私たちが たことではなく、この場所ではモンスーンによる降雨量が増 いま、生きているこの環境から連続して3万年前までの環境 え、別の場所では減るといったように空間的なばらつきをもっ ■ 一ノ目潟に世界の注目が集まっている 変動、古環境を知り得るというポテンシャルを持つ一ノ目潟 て、 温暖化の影響が現れる可能性が高い。日本で質の高いデー 男鹿半島の3つのマール湖のなかでも一ノ目潟は最も古い に、世界的にも注目が集まっている。 タをそろえることが未来を知るための最も近道となる。 歴史を刻んでいる。さらに、過去に大きな崩落が起きていな い。大きな崩落は、湖底の層が壊れる原因となる。3つの湖 26 早稲田大学・山田和芳助教 TLはいう。特に原田TLが注目しているのは、人為的な温暖 とんどが地震の発生年と一致する 1998年 20世紀最大のエルニーニョ て、温暖化の影響を解析するつもりだと語った。原田TLは、 物が影響を受けていることを示す初めての報告となった。し 一ノ目潟の湖底地形 JAMSTEC長島佳菜研究員 原田TLはこの精度の高い一ノ目潟の詳細なデータを用い かも、円石藻が合成する有機化合物は水温や気温など、過去 は日本海中部地震があったため、そのときの衝撃でできたと考えられる。100 2012年8月 の堆積物との比較においても、とても貴重な研究材料となる。 44m 線に沿って音波探査で測定し していることが分かる。 千葉商科大学・五反田克也准教授 なのだ。年単位で堆積物を検証できる一ノ目潟の年縞は、海 2006年に原口准教授が、赤い た地形。湖は鍋のような姿を N いう堆積環境では、コアから1年ごとの解析を行うのは不可能 「いま、地球46億年の歴史のなかで経験したことがないよう ■ 人為的な温暖化の影響を見極めたい のなかで最も原型をとどめているのが一ノ目潟だ。 実は1年という単位でデータを出せる堆積物は特別だ、と 一ノ目潟で掘削を始めたのは2006年のこと。山田助教、北 原田TLはいう。普段、海底の堆積物調査が専門の原田TLは、 海道大学・篠塚良嗣博士研究員、千葉商科大学・五反田克也 海底堆積物の分解能はよくて数十年オーダーだと語る。海と Blue Earth 119 なスピードで、環境は刻々と変化しているのです。いま、こ 円石藻 Emiliania huxeyi 。一ノ目潟にも近縁種がいることが、バイオマーカー (アルケノン)から確認されている。円石藻が合成するアルケノンは、海では 水温との相関が取られており、この物質を分析すれば水温との関係から気温を 割り出すことができる の時代を読み解かなくて、いつやるのだ、そういう時期に来 ていると思うのです」 。原田TLと長島研究員は別々のタイミ ングで同じことを口にしていた。 BE Blue Earth 119 27 図1 マントルと地殻の形成 中央海嶺 海溝 Marine S c i e n c e S e m i n a r 大陸地殻 安山岩質・ 花こう岩質 マグマ 上昇してきたマントルの一部 が溶けて玄武岩質マグマがで 「ちきゅう」 海洋地殻 モホロビチッチ 地殻 不連続面(モホ面) き、海底で冷やされ海洋地殻 マントル が形成される。海洋プレート プレートの 沈み込み が沈み込むとき脱水した水と 反応してマントルの一部が溶 マントル(かんらん岩質)が 部分融解 脱水 下部マントル (海洋地殻とマントル最上部) 玄武岩質マグマ 上部マントル 上部マントル 外核 けて安山岩質などのマグマが でき、大陸地殻が形成される。 内核 水や炭素は、表層からマント ル深部まで大循環をしている のではないかと考えられている 6,400km 水・炭素の循環 5,100km 下部マントル 図2 地球の内部構造 中心には核があり、内核は 2,900km 固体金属、外核は液体金属から 成る。マントルはかんらん岩から成 5~30km 660km り、結晶構造の違いなどから上部マントルと 下部マントルに分かれる。表面を覆う地殻とマントルと の境界をモホロビチッチ不連続面(モホ面)と呼ぶ 外核 イラスト:吉原成行 ントル捕獲岩は世界中で産出していま マントルまで 掘ろう! 21世紀モホール計画 マントルは、地球の体積の80%以上を占めています。 そして、マントルは地球の表層にあるほぼすべての物質の源といっても 過言ではありません。しかし、人類はまだ 生のマントル を 手にしたことがありません。地殻とマントルの境界であるモホ面を貫き、 マントルの物質を採取したい̶̶50年以上前から人類が夢見てきた 「モホール計画」が、地球深部探査船「ちきゅう」によって 2012年2月18日 第140回地球情報館公開セミナーより 実現されようとしています。 す。日本では、秋田県の男鹿半島にある とう ご 一ノ目潟や、島根県の隠岐島 後などで見 つかっています。 マントルの大きな塊が地表に露出して いるところもあります。北海道の襟裳岬 ほろまん の近くにある幌満かんらん岩体は、世界 的にも有名です。岩石を構成する鉱物の 粒子の大きさや状態、化学組成から、岩 石が地下にあったときにどのような熱や 地球内部ダイナミクス領域 地球内部物質循環研究プログラム モホールチーム 技術研究主任 阿部なつ江 あべ・なつえ。1967年、神奈 川 県 生 ま れ。 博 士( 理 学 ) 。 1997年、金沢大学大学院自然 科学研究科地球環境科学専攻 修 了。オ ー ストラリア・マッ コーリー大学ポスドク研究員な どを経て、2003年、海洋科学 技術センター(現・海洋研究開 発 機 構 )深 海 研 究 部 研 究 員。 2012年より現職。IODP第305 次研究航海など4度の掘削航海 に参加。専門はマントル岩石学、 海洋底科学 28 Blue Earth 119 圧力を受けたかなど、岩石の生い立ちを マントルは地球表層物質の原材料 ルが上昇してくると、圧力が低くなるた 硫黄をはじめ、地球の表面にある物質は よって変化します。この性質を利用して、 知ることができます。マントルがどの程 マントルは、地球の表面を覆う地殻の下 め部分的に溶けます。マントルが溶けた ほぼすべて、もとをたどればマントルか 地球内部の構造を推定できるのです。 度溶けてマグマになって抜けたのかも分 。マントルの下には核が にあります(図2) ものがマグマで、上昇してくるマントル ら運ばれてきた物質から生まれました。 また、地球内部は深くなるほど圧力が かります。幌満かんらん岩体を調べるこ あります。マントルの厚さは約2,900km。 が溶けると玄武岩質マグマになります。 マントルは、物質とともに地球深部の熱 高くなります。岩石に高い圧力をかけて とで、マントルが溶けてマグマとして抜 地球の半径は約6,400kmですから、マン そして、玄武岩質マグマが地殻の裂け を表層に運んできます。マントルは、深 いき、鉱物の化学組成や結晶構造がどの けていく過程を知ることができます。 トルは地球の大きな割合を占めています。 目から海底に出てくると、海水で冷やさ 部から表層へ、表層から深部へ、熱やさ ように変わるかを調べることで、地球深 中東のオマーンには、長さ300kmにわ マントルの体積は地球全体の約83%、重 れて固まり、海洋地殻ができます。海洋 まざまな物質を輸送する重要な役割を担 部の物質を推定することができます。 たって、かんらん岩が露出している場所 量は約67%に上ると推定されています。 地殻とマントルの最上部を合わせた海洋 っているのです。 地表で手に入る岩石からも、マントル 。上から下へ、堆積物、 があります(図4) 「マントルは、どろどろに溶けたマグマ プレートはマントルの流れに乗って移動 私たちが立っている地面や私たちの体 について推定することができます。私は 玄武岩質マグマが急激に固まった枕状溶 のようなものですか?」という質問をよく し、日本海溝のような沈み込み帯でマン の原材料となるマントル物質とは、どの 学生時代から、この方法でマントルの研 岩、割れ目にマグマが陥入したシート状 受けます。マントルは固体です。マントル トルのなかに戻っていきます。このとき、 ようなものなのでしょうか。ぜひ知りたい。 究をしてきました。マントルが溶けてマ 岩脈群、マグマがゆっくり固まったはん のうち上部マントルは、主にかんらん岩と 沈み込んだ海洋プレートが脱水して出て それが、私の研究のモチベーションです。 グマになります。マグマが固まった岩石 れい岩、かんらん岩が層をつくっていま 呼ばれる岩石でできています。かんらん きた水がマントルと反応し、水を含んだ 岩の主成分はかんらん石で、それはペリ マントルの一部が溶けてマグマができま 地表に現れたマントル ドットと呼ばれる宝石にもなっています。 す。このマグマは安山岩で、さらに花こ は、地表で手に入ります。マントルとマ す。これは、かつて海の底にあった海洋 グマは親子のような関係ですから、マグ プレートが地上に現れたもので、 「オフィ 私たちが見ることができるのは、地殻 マの化学組成からマントルについて推定 オライト」と呼ばれています。玄武岩は 上部地殻、岩脈群は中部地殻、はんれい マントルは固体ですが、氷河や水あめ う岩もつくられ、それらが固まって大陸 の表面だけです。では、地球の内部構造 することができるのです。 。 のように、ゆっくり動いています(図1) 地殻や日本列島のような島弧地殻が形成 や、マントルの化学組成は、どのように また実は、地表でもマントルの物質そ 岩は下部地殻、そして、かんらん岩はマ 地球は中心ほど温度が高いので、地球の されます。 して分かったのでしょうか。 のものを手にすることができます。その1 ントルに対応すると考えられています。 深部で温められたマントルが上昇し、地 このように、海洋地殻や大陸地殻はも 地球のなかを見ることができる方法の1 。玄武 つが、マントル捕獲岩です(図3) オフィオライトはいわば海洋プレートの 球の表層近くで冷やされて下降していく、 ともとマントルから生まれたものなので つが、地震波トモグラフィーです。地震 岩質のマグマが周りにあったマントルを 化石で、それから海洋プレートの構造を という対流が起きているのです。マント す。私たちの体をつくる水や炭素、酸素、 波の伝わる速度は、物質の温度や状態に 取り込み、地表に運ばれてきました。マ 推定することができるのです。 Blue Earth 119 29 「ちきゅう」 このように、マントルについて地表で しかし私たちは、 “生のマントル”を手に ホール(MoHole)計画」と名付けられ で初めてマントル層に到達し、マントル したいのです。たとえば、薄く切られた ました。当時のケネディ大統領は「アメ 物質を直接採取することです。いま表層 刺し身や化石のような干物から、魚が生 リカは1960年代に月とマントルを目指 にある炭素や水の量は、地球の成り立ち きているときの姿を知ることができるで す」と宣言したそうです。アポロ計画と から見積もられる量と比べると、はるかに しょうか。本当の姿を知るには、海のな ともに、モホール計画が華々しくスター 少ないことが指摘されています。採取し かに行って泳いでいる魚を見る必要があ トしました。 たマントル物質の成分を直接調べること ります。同じように、私たちがマントル 1961年、メキシコ沖で初めての深海 で、大量の炭素や水が地球内部にあるの の本当の姿を知るためには、地球深部ま の科学掘削が実施されました。実は、そ か、大気から外に出ていってしまったの で堀ってマントル物質を採取して調べる れまでの科学掘削はすべて陸上で、深海 かを知る大きな手掛かりとなるでしょう。 マントルは月より遠い? 「マントルの物質を手に入れよう」と最 また、地球内部の温度を推定することは km して3ヵ所が候補に挙がっている。詳しくは、モホール計画の情報サイト (http://www.ipc.shizuoka.ac.jp/ s-moho/)を参照 0 堆積物 溶岩 岩脈 2 4 メキシコ ハワイ ココスプレート サイト1256 km 6 マントル ントルを目指すのです。 では行われたことがなかったのです。こ ホ面を貫き、マントルまで到達して試料を採取する。現在、掘削地点と 海 モホ面 かんらん岩 最大の目的は、モホ面を貫通して世界 はんれい岩 ントルまでの到達を目指すことから、 「モ 地殻 る必要はないと思われるかもしれません。 ︶ の目的は4つあります。 海底からの深さ︵ 面に孔(Hole)を開けてその下にあるマ 図5 21世紀モホール計画 「ちきゅう」によって深海を掘削し、海底地殻とマントルの境界であるモ ︶ も調べることができるのならば、掘削す ことが不可欠です。だから、私たちはマ のことからも、モホール計画がいかに大 非常に難しく、正確な温度を知るには、 きな挑戦だったかが分かるでしょう。メ その場で測る以外に手段はありません。 キシコ沖の掘削では、水深3,560mの海 2つ目の目的は、モホ面の上下がどの 底から177m掘削し、海洋地殻である玄 ような岩石でできているかを知ることで イヤモンドの炭素は生物起源であること 掘削地点の選定も進めています。水深 が4,500mより浅く、250℃以上にならな 水深(m) −6,500 −5,000 −4,250 −3,500 0 初に提案したのは、アメリカの地球科学 武岩の採取に成功しました。 す。地球は層構造をしており、モホ面は も分かりました。このダイヤモンドはど 者ウォルター・ムンクとハリー・ヘスで、 しかし当時の技術ではそれ以上掘り進 最も外側、つまり最も浅いところにある のようにしてできたのでしょうか。 い。さらに、 「ちきゅう」の掘削パイプは 1957年のことです。大陸地殻は30kmも めることは難しく、モホール計画は1966 境界面です。そこを調べることで、ほか 生物起源の炭素が海洋プレートととも 全長1万2000mが限界であるため、海底 の厚さがあり、それを堀り抜くのは不可 年に中止されてしまいました。アポロ計 の境界面について理解するための知見も に沈み込んでマントルの底まで運び込ま から7,000m以内でマントルまで到達で きる。これらの条件に合う場所として、 能だと思われていました。ところが、海 画では、38万km離れた月に人類を送り、 深まると考えられます。 れ、高圧によってダイヤモンドとなり、 洋地殻の厚さは6kmくらいだと分かり、 石を持ち帰ることに成功しました。一方、 3つ目は、海洋地殻の構造と形成過程 マントル対流に乗って上昇して海洋プレ 東太平洋海嶺近くのココスプレートのサ マントル由来のかんらん岩(緑色)が 海洋地殻を掘削すればマントルまで到達 わずか6km下にあるマントルには、50年 の解明です。地球上で1年間につくられ ートに取り込まれたのではないか、と考 イト1256と、メキシコ沖と、ハワイの北 含まれている できるかもしれないと考えたのです。 たったいまも手が届いていません。マン るマグマの60∼80%は中央海嶺と呼ばれ えられています。これは、炭素が地表か 。 の3地点が候補に挙がっています(図5) そして1959年、マントル物質の採取 トルは月より遠いのです。 る海底山脈の下でできて、それが冷えて らマントルの底まで大循環をしているこ 今後、地下構造探査など詳細な調査を行 海洋地殻が形成されます。中央海嶺は地 とを示唆しています。海洋プレートの下 って掘削地点を決定します。 球上最大のマグマ生産工場です。しかし、 のマントルからダイヤモンドを採取し、 図3 マントル捕獲岩 マグマ由来の玄武岩(黒)のなかに、 計画が正式に発表されました。この計画 は、地殻とマントルの境界であるモホロ ▼ ▼ 図4 オマーンのオフィオライト 枕状溶岩(上部地殻) シート岩脈(中部地殻) かつて海の底にあった海洋プレートが地上に現れたもので、 海洋プレートの構造を推定できる ▼ はんれい岩(下部地殻) モホ面 かんらん岩 (マントル) 写真提供:静岡大学理学部 道林克禎 准教授 Blue Earth 119 「21世紀モホール計画」 4つの目標 ▼ かんらん岩(マントル) 写真提供:静岡大学理学部 増田俊明 教授 かいれい 「ちきゅう」によるマントル到達は、 マントルからつくられるマグマの総量や その炭素の起源を調べ、炭素の循環を明 202X年を目指しています。私が生まれ る前に始まった計画が、世界で初めて日 本の船で実現します。マントル岩石学の 当初のモホール計画は中止になりまし 海洋地殻の形成過程は、よく分かってい らかにすることも、21世紀モホール計画 たが、深海の科学掘削は環境変動や地 ません。地殻を完全に貫いて掘削するこ の目的の1つです。 下構造を知るために重要であるとして継 とによって、それらが明らかになるでしょ 続されてきました。 研究者としてその場に立ち会えることに、 う。地殻形成プロセスは、海嶺付近での 202X年、マントルへ ワクワクしています。人類が初めてマン トルの物質を手にする日を、皆さんも楽 そして2003年には、日本とアメリカ、 熱水循環の深さにも大きく影響します。 地球を深く掘っていくと、新たな発見 ヨーロッパなど26ヵ国が参加する「統合 4つ目は、その熱水循環に関連した地 があります。私たちは、より深くを目指 しみにしていてください。 国際深海掘削計画(IODP:Integrated 下のフロンティア探査です。生物が存在 してきました。しかし、これまでの深海 2011年3月11日の巨大地震は記憶に 」がスタート Ocean Drilling Program) できる温度は120℃が限界だといわれて 科学掘削で採取された試料のほとんどは 新しいと思います。その後も大きな余震 が相次ぎ、このまま揺れ続けて日本列島 しました。2005年には地球深部探査船 います。また、生物が存在するには、水 堆積層で、海洋地殻の試料は3%しかあ 「ちきゅう」が完成し、IODPの主力船と の循環が不可欠です。水循環の限界、 りませ ん。最 高 到 達 深 度 は、海 底 下 が沈没してしまうのではないかと不安に して活躍しています。IODPでは、地球 生命圏の限界はどこかを明らかにするこ 2,111mです。人類は、マントルどころ なったという話を耳にします。マントル 環境変動の解明、固体地球の解明、地 とを目指しています。 か下部地殻でさえ、ほんの少し触れた程 は、私たちが意識できるほど速く流動し 度なのです。 たりはしません。人類が生きている間に 世界最大の掘削能力を誇る「ちきゅう」 プレートがバキバキ割れてマントルのな 2004年にチベットのオフィオライトか でさえ、水深が2,500mを超える海底の かに沈んでしまうこともありません。どん 「新統合国際深海掘削 2013年からは、 らダイヤモンドが発見され、研究者たち 掘削はできません。また、深く掘るほど温 なに大きな地震が来ようと、日本列島が 計 画(IODP:International Ocean を驚かせました。ダイヤモンドは、海洋 度が高くなりますが、 「ちきゅう」が掘削 沈没するようなことはないので安心して ください。必ず逃げる場所はあります。 下生命圏の解明という3つの柱を掲げ、 はんれい岩 (下部地殻) 30 。そ 「21世紀モホール計画」です(図5) 水深︵ Marine S c i e n c e S e m i n a r ビチッチ不連続面、略してモホ(Moho) 4 数多くの深海掘削を実施し、大きな成果 マントルにダイヤモンドを探す を挙げてきました。 」が始まります。 Discovery Program) プレートとともに沈み込んだ炭素が大陸 できるのは160℃が限界です。これでは、 私たちは、新IODPでモホール計画を実 の下にたまり、高圧によってできると考 マントルまで到達することはできません。 自然の仕組みを理解し、正しく恐れ、災 現しようと、2012年4月に提案書を提出 えられていました。しかし、オフィオライ 現在、それらの課題を克服するための 害に備えるために、私たちの研究を皆さ しました。金沢大学の海野進教授を筆頭 トは沈み込む前の海洋プレートです。し 技術開発に取り組んでいます。水深は んに知っていただくことで少しでも役に かも、オフィオライトから発見されたダ 4,500m、耐熱は250℃が目標です。 立てれば、うれしく思います。 に、67人が名前を連ねています。いわば BE Blue Earth 119 31 BE Room 『Blue Earth』定期購読のご案内 編集後記 URL http://www.jamstec.go.jp/j/pr/publication/index.html 今回の特集「来るべき南海トラフの巨大地震に備える」は、いかがだっ たでしょうか。2011年の東北地方太平洋沖地震よりもはるかに大きな地 震が発生するという想定に驚かれた方も多かったのではないでしょうか。 先日、久しぶりに江ノ電に乗って鎌倉の長谷にある高徳院の大仏に会い に行きました。昔から見慣れているせいか、鎌倉の大仏が屋外にあるのは 当然だと思っていました。しかし実は、建造時には立派な大仏殿があった のですが、1498年の明応地震による大津波で破壊されたということです。 東北地方太平洋沖地震以前なら、海からはるかに離れた寺まで津波が到達 したというのは、にわかには信じ難いことでした。南海トラフの地震でも 鎌倉を含む湘南エリアも大きな被害が想定されており、十分な備えが必要 だということです。 折しも、2012年10月16日の産経新聞電子版に、「日本地震学会秋季大 会開催」のニュースが載っていました。記事によれば、地震予知研究の将 来像についてのシンポジウムが行われ、参加者の間では「前兆現象で地震 発生を事前に特定することは困難として、これまでの地震予知の在り方に 否定的な認識でほぼ一致する異例の事態となった」とあります。また、ほ 海と地球の情報誌 お申し込み後、振込案内をお送り致しますので、案内に従って当機構 発行人 鷲尾幸久 独立行政法人海洋研究開発機構 事業推進部 指定の銀行口座に振り込みをお願いします(振込手数料をご負担いた 編集人 満澤巨彦 独立行政法人海洋研究開発機構 事業推進部 広報課 だきます)。ご入金を確認次第、商品をお送り致します。 Blue Earth 編集委員会 平日10時~17時に限り、横浜研究所地球情報館受付にて、直接お支払 いいただくこともできます。なお、年末年始などの休館日は受け付け 制作・編集協力 有限会社フォトンクリエイト ておりません。詳細は下記までお問い合わせください。 TEL.045-778-5378 FAX.045-778-5498 Eメール [email protected] 取材・執筆・編集 立山 晃(p20-23)/鈴木志乃(p1-17、p28-31、裏表紙)/ 坂元志歩(p18-19、p24-27) デザイン 株式会社デザインコンビビア (AD 堀木一男/岡野祐三/飛鳥井羊右/山田純一ほか) http://www.jamstec.go.jp/ Eメールアドレス [email protected] ホームページ ホームページにも定期購読のご案内があります。上記URLをご覧くだ さい。 *定期購読は申込日以降に発行される号から年度最終号(124号)までとさ せていただきます。 バックナンバーの購読をご希望の方も上記までお問い合わせください。 *本誌掲載の文章・写真・イラストを無断で転載、複製することを禁じます。 *お預かりした個人情報は、 『Blue Earth』の発送や確認のご連絡などに利用 し、独立行政法人海洋研究開発機構個人情報保護管理規程に基づき安全か つ適正に取り扱います。 賛助会(寄付)会員名簿 平成24年10月31日現在 神戸ペイント株式会社 石油資源開発株式会社 広和株式会社 セコム株式会社 株式会社中村鐵工所 株式会社フジクラ 独立行政法人海洋研究開発機構の研究開発につきましては、次の賛助会員の皆さまから 会費、寄付を頂き、支援していただいております。(アイウエオ順) 国際気象海洋株式会社 セナーアンドバーンズ株式会社 西芝電機株式会社 富士ゼロックス株式会社 国際警備株式会社 株式会社損害保険ジャパン 西松建設株式会社 株式会社フジタ 国際石油開発帝石株式会社 第一設備工業株式会社 株式会社ニシヤマ 富士通株式会社 国際ビルサービス株式会社 大成建設株式会社 日油技研工業株式会社 富士電機株式会社 株式会社日産クリエイティブサービス 古河電気工業株式会社 株式会社 IHI 沖電気工業株式会社 五洋建設株式会社 大日本土木株式会社 トピー工業株式会社 株式会社アイ・エイチ・アイマリンユナイテッド 株式会社カイショー 株式会社コンポン研究所 ダイハツディーゼル株式会社 ニッスイマリン工業株式会社 古野電気株式会社 株式会社海洋総合研究所 相模運輸倉庫株式会社 大陽日酸株式会社 日本SGI 株式会社 松本徽章株式会社 株式会社アイケイエス 海洋電子株式会社 佐世保重工業株式会社 有限会社田浦中央食品 日本海洋株式会社 マリメックス・ジャパン株式会社 株式会社アイワエンタープライズ 株式会社化学分析コンサルタント 株式会社サノヤス・ヒシノ明昌 高砂熱学工業株式会社 日本海洋掘削株式会社 株式会社マリン・ワーク・ジャパン 株式会社アクト 鹿島建設株式会社 三建設備工業株式会社 株式会社竹中工務店 日本海洋計画株式会社 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株式会社日立製作所 有限会社エルシャンテ追浜 京浜急行電鉄株式会社 住友電気工業株式会社 東洋建設株式会社 日立造船株式会社 株式会社OCC 株式会社構造計画研究所 清進電設株式会社 株式会社東陽テクニカ 株式会社日立プラントテクノロジー 独立行政法人海洋研究開発機構の事業所 深田サルベージ建設株式会社 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 Blue Earth 119 Blue Earth 第24巻 第3号(通巻119号)2012年10月発行 ■ 支払い方法 地震の予知に対して否定的であるならば、できることは、地震の発生を 2015年 に 完 成 予 定 で す。 さ ら に、 南 海 ト ラ フ 全 域 を カ バ ー で き る DONET3計画が実現できるように『Blue Earth』読者の皆さまの応援を ぜひお願い致します。(T. T.) 32 ④ TEL・FAX・Eメールアドレス ⑤ Blue Earthの定期購読申し込み *購読には、1冊300円+送料が必要となります。 海洋研究開発機構 横浜研究所 事業推進部 広報課 システム(DONET)の重要性がますます大きくなったと思います。2010 日と25日(休日の場合はその次の平日)にお届けします。登録は無料 です。登録方法など詳細については上記URLをご覧ください。 ださい。 ① 郵便番号・住所 ② 氏名 ③ 所属機関名(学生の方は学年) 地震に備えるため、海底観測網の充実の必要性も指摘された」そうです。 年からは南海地震の震源域を観測するDONET2の構築も開始されました。 JAMSTECでは、ご登録いただいた方を対象に「JAMSTECメールマ ガジン」を配信しております。イベント情報や最新情報などを毎月10 ■ 申し込み方法 EメールかFAX、はがきに ① 〜 ⑤ を明記の上、下記までお申し込みく ■ お問い合わせ・申込先 〒236-0001 神奈川県横浜市金沢区昭和町3173-25 に食い止めることです。そのためにも、本特集にある地震・津波観測監視 URL http://www.jamstec.go.jp/j/pr/mailmagazine/ URL http://www.jamstec.go.jp/j/pr/publication/index.html 1年度あたり6号発行の『Blue Earth』を定期的にお届けします。 かのシンポジウムでは、「国が最大死者32万人と想定した南海トラフ巨大 できるだけ迅速に捉え避難の時間を稼ぐことにより、津波の被害を最小限 JAMSTEC メールマガジンのご案内 ■ バックナンバーのご紹介 横須賀本部 〒237-0061 神奈川県横須賀市夏島町2番地15 TEL. 046-866-3811(代表) 横浜研究所 〒236-0001 神奈川県横浜市金沢区昭和町3173番25 TEL. 045-778-3811(代表) むつ研究所 〒035-0022 青森県むつ市大字関根字北関根690番地 TEL. 0175-25-3811(代表) 高知コア研究所 〒783-8502 高知県南国市物部乙200 TEL. 088-864-6705(代表) 東京事務所 〒100-0011 東京都千代田区内幸町2丁目2番2号 富国生命ビル23階 TEL. 03-5157-3900(代表) 国際海洋環境情報センター 〒905-2172 沖縄県名護市字豊原224番地3 TEL. 0980-50-0111(代表) 新連載 Blue Earth をめぐる 縞のなかに──秋田県一ノ目潟 一ノ目潟の湖底から採取した堆積物には美しい縞模様が刻まれて いる。黒い層とオリーブ色の層のセットで1年分。それが連綿と積 み重なってできた縞模様だ。この縞のなかには、気候変動の歴史 を1年ごとに追うことができる情報が詰まっている。 男鹿半島 秋田県 (→24ページ「研究の現場から」) &&.号 '%&'年 &%月発行 隔月年+回発行 第')巻 第(号(通巻&&.号) 編集・発行 独立行政法人海洋研究開発機構 横浜研究所 事業推進部 広報課 〒(),#&&&'神奈川県横浜市金沢区昭和町)'-)#(+ 撮影:藤牧徹也 古紙パルプ配合率,%%再生紙を使用 定価(%%円(税込)