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豚サルモネラ症の保留検査におけるLAMP法の利用H23[PDF
豚サルモネラ症の保留検査における LAMP 法の利用 長崎県諫早食肉衛生検査所 ○早瀬 長崎県川棚食肉衛生検査所 嶋田 理恵 圭一、樋渡 佐知子 はじめに 分子生物学的手法の向上により、現在様々な疾病の診断に遺伝子検査が利用されている。 PCR 法は最も広く普及している遺伝子検査法であり、当県においても、豚サルモネラ症の 検査日数の短縮化を目的として PCR 法の利用を検討している。しかし、その反応には高 額な機械が必要であり、結果の確認には電気泳動を行わなければならない。このため、す べての食肉衛生検査所では実施できないのが現状である。 近年、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法という新たな遺伝子増幅 法が開発された。LAMP 法は、恒温装置があれば反応が可能であり、結果を白色沈殿とし て確認できるため、PCR 法に代わる簡易・迅速な遺伝子増幅法として注目されている( 1 )。 そこで今回、PCR 法を実施できない検査所での検査日数短縮化を目的として、豚サルモ ネラ症の保留検査における LAMP 法の有用性について検討した。 材料及び方法 1.市販キットを用いた LAMP 法によるサルモネラ属菌検出法の検討 当検査所で分離した Salmonella Choleraesuis( S . C)について、Loopampサルモネラ 検出試薬キット(栄研)によるサルモネラ属菌検出法を検討した。 (1)LAMP反応液の作製 試薬コストを削減するために、説明書で指示されている量の半分量で LAMP法を実施し た。すなわち、1検体あたりマスターミックス10.5 μl に対し、DNA抽出液2.5 μlを添加 し、LAMP反応液とした。また、反応液の蒸発防止を目的として、ミネラルオイル50 μl を重層した。 (2)LAMP反応 ウォーターバスにて、65℃、1時間の条件で反応させた。 (3)LAMP増幅産物の検出、判定 目視による判定を容易に行うため、反応チューブ内の白色沈殿量を増加させるポリエチ レンイミン(PEI)の効果について検討した ( 2 )。LAMP反応後、PEIを0.1 μmol添加し、 チューブ内の白色沈殿量について、PEIを添加しない場合と比較した。 2.特異性の検証 サルモネラ属菌 2 株( Salmonella Typhimurium( S . T)、Salmonella Enteritidis( S . E)) 及びサルモネラ属菌以外の 8 株( Streptococcus suis 、 Escherichia coli 、 Erysipelothrix rhusiopathiae 、 Arcanobacterium pyogenes 、 Brachyspira hyodysenteriae 、 Campylobacter coli 、 C. jejuni 、 Micrococcus luteus )を用いて、LAMP 法によるサルモ ネラ属菌検出の特異性を検証した。 3.検出限界の検証 S . C を 8×10 0 ~8×10 8 CFU/g となるように添加した豚肝臓及び脾臓 1 g に緩衝ペプト ン水(BPW)9 ml を加えて、37℃、一晩培養を行った。培養前及び培養後の BPW より、 アルカリボイル法にて DNA を 抽出し、LAMP 法を実施した。 成績 1.市販キットを用いた LAMP 法によるサル モネラ属菌検出法の検討 S . C について LAMP 法を行った結果、PEI 添加の有無に関わらず白色沈殿が認められた。 しかし、PEI 無添加のチューブでは白色沈殿 量が少なく、目視判定が困難であった。一方、 PEI を添加したチューブでは、PEI 無添加の チューブより多量の白色沈殿を認めた(図 1)。 従って、以下の実験では、LAMP 反応 後に P EI を添加し実施した。 2.特異性の検証 サル モネラ属菌 2 株及びサルモネラ 属菌以外の 8 株を用 いて、LAMP 法を 行った結果、サルモネラ属菌のみで白 色沈殿が認められた。 3.検出限界の検証 サ ル モ ネ ラ 属 菌 が 検 出 さ れ た S. C の検出下限値は、培養 前では、肝臓で 8×10 3 CFU/g、脾臓で 8×10 4 CFU/g であった。培養後では、すべての接種 菌量でサルモネラ属菌が検出された (図 2)。 考察 今回、LAMP 反応後に PEI を添加した結果、チューブ内の白色沈殿が明瞭に可視化され、 目視での判定が容易となった。従来、この市販キットは、結果の誤判定を避けるため、専 用の濁度測定装置の使用を推奨している。しかし、今回検討した方法により、測定機器を 使用せずに結果判定を行うことが可能であると考えられる。 また、 S . C を添加した肝臓及び脾臓を検体として LAMP 法 を実施したところ、培養前 で は、検出限界は 8×10 3 ~8×10 4 CFU/g であった。以前、我々が検討した PCR 法におけ る検出限界は 8×10 5 CFU/g であり、また Real-Time PCR 法では 8×10 3 CFU/g であった 。従っ て、LAMP 法の検出感度は、PCR 法より高感度であり、Real-Time PCR 法 と同 (3) 程度であることが示唆された。 また、我々は、一晩培養した BPW を用いて LAMP 法を行うことにより、初期菌量 8× 10 0 CFU/g の臓器からサルモネラ属菌検出が可能であることを示した。この方法により、 保留の翌日にサルモネラ感染の有無を目視で判定できるため、PCR 法を利用できない検査 所においても、合格判定までの日数を短縮することができる。今後は、今回の結果を豚サ ルモネラ症の検査マニュアルの作成に活かし、すべての検査所で遺伝子検査を利用できる 体制を整備したい。 引用文献 ( 1)牛久保 宏:LAMP 法の原理、ウイルス、54、107-112(2004) (2)Yasuyoshi Mori et al.:Sequence specific visual detection of LA MP reaction by addition of cationic polymers,BMC Biotechnology(2006) (3)樋渡 佐知子:PCR 法および Real-Time PCR 法による豚 サルモネラ症の迅速診断 法の検討、第 30 回全国食肉衛生検査所協議会微生物部会研修会(2010)