...

PDF ファイル(4.7MB) - 三橋規宏のオフィシャルページ

by user

on
Category: Documents
2

views

Report

Comments

Transcript

PDF ファイル(4.7MB) - 三橋規宏のオフィシャルページ
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
環境を考える経済人の会 21
2005 年度第8回朝食会
「脱化石燃料社会の構想」
槌屋治紀氏(株式会社システム技術研究所長)2006.2.20
三橋規宏
おはようございます。今日のゲスト、槌屋治紀さんは株式会社システム技術
研究所所長です。これはご自身でおつくりになった研究所で、それをやりながらエネル
ギー問題についての専門家として、一貫して脱化石燃料社会へのアプローチ手順を積極
的に研究され、具体的な提案をされています。
槌屋さんは、30 年ほど前になりますが、エイモリー・ロビンス(Amory B. Lovins)
の「ソフト・エネルギー・パス~永続的な平和への道」
(時事通信社、79 年)を翻訳さ
れて以来、エイモリー・ロビンスとの交流を深められて、アメリカのエネルギー事情に
ついても非常に詳しい方です。
著書としては、
「エネルギー耕作型文明」「技術の分析と創造」と、一貫してエネルギ
ー問題に対してさまざまな提案をしてきています。特に私が興味を持っているのは、
WWF(世界自然保護基金日本委員会)が提案のフレームワークを槌屋さんに頼んでき
て、槌屋さんがそのためのシナリオを書くというようなこともされています。私も槌屋
さんの分析は非常に具体的で説得力があるということで、非常に評価しているエネルギ
ーの専門家です。それでは早速、槌屋さんのお話を伺いたいと思います。
地球温暖化問題の解決にはエネルギー利用効率の向上、
再生可能エネルギーの開発が必要
槌屋治紀
システム技術研究所の槌屋です。今日は環境を考える経済人の会 21 の皆さ
んにお話が出来るので非常に光栄に思っています。普段はエネルギー分析の仕事をして
おりますが、ここ数年は地球温暖化や途上国のエネルギー消費の増大など、いろいろな
問題が重なり合って、将来のエネルギーはどのようになるだろうかということを、より
深く考えざるを得ないというようになってきていると思います。
今日は、脱化石燃料社会ということで、先ほどお話がありましたように、長い間考え
続けているテーマですが、ここ 10 年でさまざまな技術が実用化され、普及していると
いうことを踏まえて、これから先のことを考えてみましたのでそのことをお話したいと
思います。
内容としては、皆さんよくご存知だと思いますが、地球温暖化、低炭素社会の研究、
エネルギー利用効率の向上、再生可能太陽エネルギーの開発、燃料電池車と水素のエコ
ノミー、2050 年の低炭素社会のシナリオということをお話して、最後にさまざまな技
術の現状、そして将来についての構想をご紹介したいと思います。
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
1
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
最初に、地球温暖化がなぜ起こるかということですが、皆さんご存知のように、太陽
から入る光が地球を温めて、地球から出て行く赤外線の一部が大気中に吸収されるとい
うことから生じるのが地球温暖化です。
チャールズ・キーリング(Charles David Keeling)が 1958 年からハワイのマウナ
ロアで二酸化炭素の測定を開始しました。そのレポートを読むと、初期の頃さまざまな
議論があり、100 年程前からアウレニウスが、二酸化炭素が将来問題になると言ってき
たにもかかわらず、誰も測定していなかったのです。キーリングが二酸化炭素濃度の測
定を始めました。二酸化炭素濃度は1年間に7~8ppm の季節変動がありながら徐々
に増大していることを計測したわけです。キーリングは昨年(2005 年)6月 20 日に心
臓発作で亡くなりましたが、このような仕事をされた先人の研究が今大きな話題になっ
ているわけです。
この地球温暖化問題は、カーター大統領の指示で作られた「2000 年の地球レポート」
にすでに表れていますが、そのレポートを苦労してつくられた方々が IPCC や地球サミ
ットのような組織を作っていったわけです。一番影響の大きかったものとしては 1988
年にアメリカの上院エネルギー委員会で J・ハンセン博士(NASA ゴダード宇宙センタ
ー)が「私は 99%の確率で地球温暖化が起きていると思う」という証言をしました。
これはテレビの中継で放映されました。この日は非常に暑い日で、実際に過去に最高気
温が記録された日で、ティモシー・ワースという上院議員がこの日を選んだと言われて
います。昼の2時頃、地球温暖化が起きていると、科学者が言うのをテレビで見た人た
ちは、その時、暑いのは地球温暖化が原因であると思われて、この話題が広がったと言
われています。
IPCC(気候変動に関する政府間委員会)が 1988 年に組織されて、1995 年からCOP
(締約国会議)が始まり、1997 年には京都で開かれたCOP3で京都議定書が決まり、
6種類の温室効果ガスを 1990 年レベルから 2010 年に日本は6%減らす、ヨーロッパ
は8%、アメリカは7%減らすことになりました。ゴア副大統領が参加して決まったこ
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
2
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
とですが、結局、2001 年にはブッシュ・ジュニア大統領が京都議定書から離脱すると
いうことが起きています。ロシアが参加したので京都議定書は規定を満たして確定しま
した。実際に温室効果ガスを減らすという活動が、2008 年から 2012 年に平均値で日
本は 1990 年をベースに6%減らさなければいけないということになっています。6種
類のガス(二酸化炭素、メタン、N2O、HFC、PFC、SF6)はCO2以外にもいろいろとあ
りますが、CO2がほぼ 90%以上を占めていて、このカッコの中には温暖化係数という、
1kg出た場合にCO2の何倍の温室効果があるかという係数の数字が書いてありますが、
CO2以外のガスの排出量そのものは小さいのですが、温室効果係数が大きいことがわか
ります。
京都議定書は 2005 年2月に発効して、日本は本格的にこれをしなければならなくな
りました。温室効果ガスは 1990 レベルから、8%も実際には増えているので約 14%の
削減が必要になっています。京都議定書以後、いろいろな細かいルールが議論されてい
て、また 2010 年の目標年が終わったならば、次は 2020 年が目標年になるだろう、そ
れをどうやって決めるのか、中国やインドのような開発途上国にどうやって参加しても
らうのかということが、現在、大きな問題になっています。
日本では、地球温暖化対策推進本部が内閣府につくられて、実際にCO2や代替フロン
(HFC、PFC)や、メタンガスなどをどのくらい減らすかという目標が決定されてい
ます。森林の吸収でマイナス 3.9%、CDM(クリーン開発メカニズム)ということで開
発途上国に資金を提供してCO2を減らせば、その削減量が日本のものにできるわけです。
国内でのCO2排出削減に関しては、産業部門にわりあい厳しい8%削減となっています。
輸送部門や業務部門はすでに増えていますので、目標として 15%程度は増えても仕方
がないとなっています。この辺の事情は皆さんよくご存知だと思います。
現状の 20~30%のCO2排出削減を目標にしたLow Carbon Society
さて、この数年ヨーロッパでLow Carbon Society、「低炭素社会」という表現が使わ
れるようになりました。大気温度は産業革命以来すでに 0.6℃気温上昇していて、この
上昇を2℃以内で抑えることを目標にして、21 世紀の半ばから終わりにかけて、CO2の
排出を現状の 20~30%以下に削減しようというものです。同時に、中国、インドなど
の途上国の経済成長や、石油、天然ガスの需要増大と枯渇の可能性という問題が表れて
きています。これを同時に考えなければならないわけです。
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
3
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
では、どのような方法が問題の解決になるでしょうか、これには、私は三つのキーに
なることがあると思います。第一番には、エネルギー利用効率を向上させること。これ
が一番安上がりで、コスト性能比が大で効果が早い。ですから、問題の半分以上、7割
か8割はエネルギー利用効率を向上させるということが有効ではないかと思います。そ
の可能性はたくさんあります。よく、「日本はエネルギー利用効率が高いので、もう、
この”乾いた雑巾”を絞ってもだめだ」ということをおっしゃる方がいますが、実際の企
業の現場に行って見てみると、1990 年代にはどちらかというと設備が過大になってし
まって、生産量が落ちているにもかかわらずエネルギー消費量は増えている場合がたく
さんあります。そして、効率を上げるさまざまな方法があるにもかかわらず、エネルギ
ー価格が安いから実施していないという現実があります。
二番目は、再生可能エネルギーへ転換していくことです。長期的に考えると太陽エネル
ギーの上手な利用に積極的に取り組むべきで、特に日本はエレクトロニクス産業が、太
陽光発電という非常に有効な技術を持っているので、これを普及させていくことが重要
だと思います。
第三番目には、再生可能エネルギーへの移行期には発熱量当たりCO2が少ない天然ガス
を効率良く利用するということではないかと考えています。
さて効率を上げる方法、CO2を減らす方法はたくさんあります。効率の高い技術として
は、建物の断熱化、電球型蛍光灯、発光ダイオードなどがあります。そして社会システ
ムの効率を向上させるということで、公共交通を充実したり、建築の断熱基準を上げた
り、自動車の税制を調整するというようなことがあります。さらに、ライフスタイルを
変えていくということでは、小型自動車に乗る、エコドライブなどがあります。そして、
最後に自然エネルギー、太陽光発電などを利用することがあると思います。
デンマーク工科大学のノルガー教授は、EU のエネルギー政策の顧問をされている方
ですが、以下のような面白い公式を書いて議論をします。
彼によれば、エネルギー利用効率というのは、エネルギー機器の効率と、社会システ
ムの効率と、ライフスタイルの効率の三つを掛けたもので決まると言うのです(上図)
。
機器効率の例はエンジンの動力変換効率、社会システム効率というのは建築規制や税
制などで、ライフスタイル効率は人々の暮らし方であり、それぞれをもし2倍に出来れ
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
4
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
ばエネルギー利用効率を8倍に出来るというのが彼の主張です。ライフスタイル効率が
2倍に出来るかどうか、私にはわかりませんが、人間が使う機器は使い方によって非常
に違います。例えば、自動車は運転の仕方で燃費を2~3割変えるということは十分出
来ます。以上のように、利用効率を総合的にこのように考えることが重要だと思います。
今日はこの機器効率と、少しライフスタイル効率のお話が出来ると思います。それぞ
れの効率にはどのようなものがあるかをお話したいと思います。
下の円グラフは最終エネルギー消費構成で、日本の場合には産業部門が半分、交通部
門が 25%、残りを家庭と業務で利用していますが、それぞれにさまざまに効率を上げ
る技術があります。
例えば、電気冷蔵庫の効率がこのところ非常に良くなってきています(上右のグラフ)。
これは縦軸に累積のCO2排出量、横軸に買ってから何年目ということを示していますが、
10 年前の冷蔵庫は1年当たり 660kWh使っていたのですが、2004 年のトップランナー
は1年当たり 180kWhというように、非常に効率が良くなり、CO2の排出量が非常に小
さくなりました。電気冷蔵庫を買い換えるだけでもかなりCO2の排出量は減るというこ
とになってきています。
交通信号を電球から LED にして電力消費を 4 分の 1 に
照明技術として発光ダイオードというものがあります。発光ダイオードの交通信号の
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
5
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
ライフサイクルコストをアメリカで分析した例がありますが(上左グラフ)、電球のコ
ストは高いのですが、電気料金が非常に小さくなりますので、発光ダイオードはおそら
く3分の1から4分の1のライフサイクルコストではないかと思います。他にも照明技
術としては、同じ明るさの電球型蛍光灯が白熱灯に比べてエネルギー消費が小さいこと
はよく知られています。上右グラフのように横軸に時間をとって、縦軸に生涯費用をと
ると、約 1,000 時間で白熱灯より電球型蛍光灯のほうがかかる費用が小さくなります。
例えば家庭ではかなり電球型蛍光灯が普及しているのですが、商業施設やホテル、レス
トランなどに行くとまだまだ白熱灯がたくさん使われています。電球型蛍光灯は、初期
の頃には、スイッチを入れてから約 30 秒明るくならないとか、色合いがよくないとい
うことがあったのですが、今ではスイッチを入れると数秒で明るくなりますし、演色性
能も非常に向上してオレンジ色の光を出すようになっていますし、点滅寿命も、昔は1
万回と言われたのですが、今は2万回というように非常に良くなっているので、広汎に
利用可能です。これを付け替えるだけでも電力消費は約4分の1になります。このよう
なものがまだまだ使われていないということが言えます。
発光ダイオードはいろいろなところで使われ始めました。
銀座4丁目の交差点でも使われていますが、今のところ蛍光灯と同じくらいの効率で
すが、たくさんのところに使われそうです。道路の交通信号は全国に約 100 万個あり、
それぞれ 80W の電球が付いているのですが、これを LED(発光ダイオード)にすると、
20W で済みます。産業用には工場内の画像処理用に発光ダイオードが急激に需要を増
やしています。なぜそれが使われるのかというと、電球が切れないので生産工程が止ま
らずにすむということが大きな理由です。そして、自動車用のランプに使われつつあり、
電力消費が小さいということは自動車にとって非常に良いのです。また、一般用照明に
も LED 製品が使えます、まだ1個数万円と高いのですが、実用化されつつありますの
で、5年くらいの内に、まず自動車用に LED ランプが使われ、コストが格段に下がっ
てくるはずですので、一般照明用にも使われてゆき、照明技術が大きく変わる可能性が
あります。
これがその明るさですが、1W あたり光源の明るさをルーメンという単位で示して
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
6
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
います。今 LED の明るさは白熱灯と電球型蛍光灯の間にありますが、もっと効率が上
がる可能性があると言われています。青色発光ダイオードの特許裁判が話題を呼びまし
たが、青色発光ダイオードを使って白色の LED をつくることが出来ます。他の方法で
ももちろんつくれますが、この技術が急激に普及していく可能性があります。
先ほども少しお話しましたが、1990 年代の需要低迷、そして今後の人口の減少予想
などから、企業では生産設備が過大のままになっている場合が多く、エネルギー効率が
低下しています。いろいろな方法がありますが、大型のモーターを中型のモーターに、
あるいは中型のモーターを小型のモーターに替えていくということをして、ちょうど負
荷に合ったようなモーターを設置することで、エネルギー効率を上げる可能性がたくさ
んあります。
効率のよい技術として、モーターのインバーター制御があります。ポンプや、ファン
やブロアのような回転機械に流す電流を負荷に合わせて制御するという技術があり、部
分負荷時の効率が高く、一般に従来方法に対して 30~50%の効率向上になることがわ
かっています。日立製作所はこの HDRIVE というビジネスモデルをつくり、モーター
とインバーター制御の装置を、売るのではなく貸し付ける、そして省エネした分をもら
いましょうというビジネスモデルを開発していますが、まだうまくいっていないようで
す。日立製作所の方に聞くと、モーターのインバーター制御というのは家電製品に使わ
れているような小さいものはたくさん浸透しているのですが、産業用の 100kW、500kW
というような高電圧のモーターの分野ではまだ適用されていないので、電力消費の減少
という点から見ると、この分野が最もビジネスの可能性が高いそうです。これも技術と
しては、経済性がどのくらいあるかということが問題ですが、エネルギー価格が高くな
ってくれば、普及してくると考えられます。
これがそのインバーター制御と従来方式のエネルギー消費の違いですが、横軸に部分
負荷の割合をとっています。既存の方法に比べて電力消費を半分程度に出来ることがわ
かります。
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
7
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
ハイブリッドカーを普及して燃料消費を半分に
さて、他にもエネルギー利用効率の高い技術がたくさんあり、その一つがエンジンと
モーターの長所を組み合わせたハイブリッドカーです。トヨタのプリウスの 10-15 モ
ードの公称燃費は 35.5km/L です。実際に私は約2年この車に乗っていますが、実際に
運転してみると、20km/L 程度です。それでも普通のこの大きさの車に比べるとエネル
ギー利用効率は約2倍です。45L の燃料タンクがあり、これを満タンにして走ると計算
では 900km の走行が可能で、800km 走ると本当にまだガソリンが残っているのだろう
かと不安になるくらい不思議な車です。2005 年 10 月までに全世界で 41 万台販売され、
今機種を増やしてエスティマや他の車種にハイブリッドの技術が乗ってきています。
先ほど三橋さんがお話してくださったように、1997 年の京都会議の時に、私は WWF
のためにシナリオレポートを書いたのですが、ちょうど 1997 年7月にプリウスをトヨ
タが発表して、私はそのハイブリッドカーを 2010 年までに多くの自動車に普及させる
という計算をしました。そうすると自動車用のエネルギー消費を非常に小さく出来ると
いう計算をして皆さんに見てもらったことがあります。まだその頃はハイブリッドカー
に一体どのくらい価値があるのか半信半疑のようで、皆さんあまり信じてくれなかった
のですが、もうこの技術は世界中が認めるようになりましたので、長期的には自動車の
燃料消費を半分に出来る可能性があるわけです
今日お話します水素を利用した燃料電池車の場合には、水素を充電するスタンドをつ
くらなければいけないという問題があります。このハイブリッドカーの場合にはそのよ
うな問題はありません。ただ、石油に依存しており、少しバイオエタノールを混入する
ことも考えられますが、石油に依存するということが残ります。石油は液体燃料という
ことで、自動車用に最も適していますので、最も長くこの分野には使われる可能性があ
ります。燃料電池自動車の大きな問題は、水素のようなガスを車に搭載して安全だろう
かということですので、この効率2倍のハイブリッドカーは長期に渡って燃料電池車の
ライバルということで、両方が競い合ってCO2の排出量を減らしてくれるということに
なればいいと思っています。
建築界でも大きなテーマとなったサスティナブル・ビルディング
さて、再生可能エネルギーですが、いろいろなものがあります。太陽熱、ソーラーハ
ウス等がまずありますが、太陽熱温水器は約 450 万台普及しましたが停滞していて、
生産量が下がってきています。家庭用の温水需要の 40~60%は供給出来るのですが、
聞いてみると屋根の上に載せたかたちがあまり格好良くないということで、ほとんど
1980 年代初期に設置されたものがリピートで何年か経って買い換えるという需要につ
ながっていないようです。
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
8
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
そして、パッシブ・ソーラーハウスというものがあり、屋根に設置した空気集熱コレ
クタで太陽熱を捕獲して、これをブロアで地下に送って畜熱して暖房するという技術で
す。日本中ですでに約3万戸建設されているようですが、これがその絵です。空気集熱
にしたお陰で水漏れの心配等がありませんので、安全な技術ということで普及すると思
われます。パッシブ・ソーラーハウスの設計を建築家が始めると、今までほとんど注意
を払っていなかった環境に良い住宅ということで、サスティナブル・ビルディングとい
うことが建築の世界でも非常に大きなテーマになってきていて、住宅に関わるエネルギ
ー需要を減らす、そして太陽のエネルギーを上手に使うということに関心が集まってい
ます。この絵にありますように暖かい空気をブロアで地下に運んで、地下からジワジワ
と噴出していく。地下にはコンクリートで畜熱体があります。夏は屋根の上で集めた熱
を熱交換して温水をつくるというようなかたちで使っています。このような技術があり、
住宅の設計が少しずつ変わってきています。
次は、太陽電池ですが、太陽電池は 1979 年につくられた時は非常に高い値段でした
が、この赤い線がシステムの価格で、今は kW あたり約 60 万円になりました。生産量
は年間 60 万~80 万 kW というように大きくなって、急激にブルーのカーブにあるよう
に伸びています。太陽電池ビジネスは年間 5,000 億円以上の規模になっていて、昨年は
本田技研が太陽電池工場をつくりましたし、今年は三菱重工が太陽電池の工場をつくる
というように、電機メーカー以外も参入してきているということが起こっています。効
率も、初期の頃は約 10%だったのですが、今では約 15%のものが製品化されて、将来
的には 25%程度までいくのではないでしょうか。ソーラーカーには 20%程度の効率の
ものが使われるようになっています。
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
9
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
太陽電池の累積生産量が増えて価格は 3 分の 1 になる可能性
コストがどのくらい下がるかですが、私はこれを学習曲線というものを使って分析し
ました。学習曲線というのは、累積生産量が2倍になるとコストがどのくらい下がるか
ということを計算するものです。例えば、半導体などでは累積生産量が2倍になるとコ
ストが7割程度に下がります。機械製品はあまり下がらず、累積生産量が2倍になって
もコストは 90%、95%程度にしか下がりません。下がり方は製品の種類によって違い
ます。太陽電池の場合の図には、横軸方向に 10 万 kW、20 万 kW、40 万 kW という2
倍ずつにとっています。縦軸にその時の過去のコストをプロットすると、2004 年の時
に累積生産量で 160 万 kW を越えるようになってきていて、おそらく 2010 年を過ぎる
頃にはこの 320 万 kW とか、640 万 kW などという累積生産量になりますので、コス
トが現在の半分程度まで下がっていくのではないかと思います。どこまで下がり続ける
のかが問題ですが、工業製品というのは単位重量あたりいくらくらいになるかというこ
とが自動車産業でわかっていますので、それを参考にすると 1,000 円/kg まで量産コス
トは下がっていきます。そこまで下がらないにしても、太陽電池は 20 万円/kW 程度、
つまり今の3分の1程度には十分なるのではないかと思います。
そして、
風力発電があります。風力発電の規模は世界では 4,000 万 kW を超えていて、
日本でも約 100 万 kW を超えています。風力発電も、特にヨーロッパ、大西洋からの
西風がよく当たるデンマークやドイツで非常に増えていて、今ドイツが世界一になりま
した。
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
10
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
これが日本の風力発電の設備の容量です。赤い縦軸が何万 kW、ブルーの折れ線が何
基あるかを示していますが、90 万 kW を超えるようになってきました。日本の経済産
業省は、太陽電池には延々と毎年約 90 億円の研究開発費をつけたのですが、風力発電
にはほとんど支援しませんでした。聞いてみると、太陽電池の場合にはシリコン材料を
開発することが、集積回路などエレクトロニクス産業の研究開発と関連性があるという
ことがあったようです。そのため風力発電には支援をしませんでした。お陰で日本にあ
る風力発電の設備の 90%以上がヨーロッパ製です。これから風力発電は機械技術の分
野であり、日本の企業が得意な領域ですので進展するのではないかと思います。
次は、先ほど少しお話しましたライフスタイルの問題です。ライフスタイルの問題と
いうのは非常に面倒なものです。全く同じ建物に住む同じ家族構成の住人のエネルギー
消費が2倍も異なっていたという有名なレポートが、プリンストン大学から出ています。
つまり、人によってエネルギー消費が違う。特に、家族の場合には親がどうするかによ
って家族全体のエネルギー消費が増減すると言われています。そして、ミネソタ大学の
教授が何のためにエネルギーを使うのかという行動科学的な調査をしたレポートを読
んでみると非常に面白く、アメリカでは「忙しいから時間を節約するためにエネルギー
を使う」という答えが多いそうです。結局、人々はエネルギーで時間を買っていると言
えると思います。
過剰な暮らしからシンプルな暮らしへ
こういったことをどのように考えるかという問題があります。ライフスタイルは人々
の価値観の問題ですので、他人や政府が干渉出来ない難しい面を持っています。そうは
言っても、いろいろなかたちで人々にマスコミを通じて、あるいは教育を通じて影響が
出来る分野ですので、いろいろな方法があるかと思います。例えば、効率の高い電気製
品を選んで無駄なく使う。あるいはブラウン管より液晶ディスプレイを使う。過剰な暮
らしからシンプルな暮らしへということが言えると思います。
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
11
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
例えば、その例として自動車です。これは保有台数構成ですが、横軸に年をとって、
縦軸に自動車の種類が書いてあります。一番下のブルーの部分が普通自動車の棒グラフ
です。普通自動車というのは 2,000cc を超える車です。660cc から 2,000cc までを小型
車と言います。1990 年頃から普通乗用車(3ナンバー)が急激に増えて、1,000 万台
を超えているという状態になっています。これは 1980 年代末の大型車優遇税制が原因
であると言われていますので、社会システム効率と関係します。
これは自動車工業界が出している燃費と重量の関係ですが、横軸に重量をとって、重
量が大きくなると1リッターあたりの走行距離がこのように減っていきます。1,500cc
程度の車であれば重量は 1,200~1,300kg ですので、3ナンバーの車は燃費が半分程度
しかないということになります。自動車に何人くらいの人間が乗っているかということ
は、統計データがあります。平均乗車人数は 1.2~1.3 人しかないので、このあたりも
自動車の燃費を考える上で重要な問題を提示していると思います。
そこで、自動車については小型車を選ぶということが重要だということだけではなく、
運転方法が燃料消費に影響します。人間のつくった機械は、人間の使い方によって燃料
消費が非常に変わるということは何にでも言えることです。スイスではエコドライブ講
習会を実施して、燃費が向上するということを実際に報告しています。一番効くのは、
加減速をスムーズに行うことです。急速な加速をすると非常にエネルギー消費が大きく
なります。そして、エンジンブレーキを利かす。アイドリングをしない。トランクに無
駄な荷物をなくす。ギア比を高いところを使う。これはオートマチックトランスミッシ
ョンでは出来ませんが、マニュアルの場合にはなるべく早く高いところへシフトする。
そして、タイヤの適正な空気圧を1ヵ月に1回程度見るということが重要です。
非常に興味深かったのは、大林組の環境報告書に「運転方法の改善によって、トラッ
クの燃費を 30%向上した」というレポートが出ていて、大林組の環境室長に「30%な
んて本当でしょうか」と聞きましたら、本当だということでした。
「どうするのですか」
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
12
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
と聞きましたら、「エンジンブレーキだ」ということでした。エンジンブレーキという
のはそのようなブレーキがあるわけではなく、惰行するということです。一番良いのは、
向こうの方に赤信号が見えたら絶対に加速しないようにするのだそうです。それで
30%向上したということが大林組のトラックに関して報告されています。最近はこのこ
とに輸送などをされている企業の方は非常に興味を持って、社内でエコドライブ講習を
行うことによって燃料消費を減らすということを行っています。
平均的家庭の待機電力料金は約 1 万円
家庭内の待機電力の例
(省エネルギーセンター、2003 年)
年間電力
年間費用
(kWh)
割合(%) (円)
ビデオデッキ
96.6
24.3
2,415
ガス給湯器
49.4
12.4
1,235
オーディオコンポ
49.2
12.4
1,230
FAX付電話機
23.6
5.9
590
テレビ
21.1
5.3
528
留守番電話機
17.9
4.5
448
衛星放送チュナー
17.2
4.3
430
電子レンジ・オーブン
16.7
4.2
418
冷暖房エアコン
13.6
3.4
340
高機能便座
13.1
3.3
328
その他
79.7
20
1,993
合計
398.1
9,953
(費用は25円/kWhで計算した)
平均のW数=398.1/8760*1000=45.4W
ライフスタイルともう一つ関連しそうなものが待機電力(Stand by Electricity)で
す。家電製品では、一年中(8,760 時間)つきっ放しになっている電気製品があります。
調べてみると家庭内電力の 10~15%を待機電力が占めています。平均的な家庭が払う
電気料金は約 10 万円ですので、この待機電力の年間電気料金は約1万円になります。
ほとんど追加的な費用なしで家電製品について待機電力なしの設計が可能、あるいは待
機電力を非常に小さくする設計が可能ということで、多くの家電メーカーはそのことを
しています。しかし、家庭の中ではまだアラジンの不思議のランプのように、主人のリ
モコン指示を待っているような機器が非常に多いと言えます。
これは省エネルギーセンターがまとめた家庭内の待機電力消費の例です。ビデオデッ
キ、ガス給湯器、ファックス付き電話機、テレビなどの待機電力消費が大きい。25 円
/kWh で計算すると、9,900 円にもなります。家庭内の待機電力をワットメーターで計
ることができます。たとえばオーディオ機器は何ワット消費しているかを計ることが出
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
13
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
来ますが、もう少し誰にでも出来る方法がないものかと考えまして、私の研究所の所員
に計ってもらった例をご紹介します。各家庭に積算電力計というものが付いていますが、
ここにはアルミニウムの円板がグルグル回っていますが、これが1回転にかかる時間を
計ると、その時の電力消費を計算出来ます。機器を見ると、計器定数が書いてあり、回
転/kWh が書いてあるので、それから計算することが出来ます。例えば、日曜日の朝な
どの、ほとんど電力消費が少なく、電球などが点いていない時間を選んで、電気冷蔵庫
や保温洗浄便座などのコンセントを抜いてみて下さい。なぜ抜くかというと、これはい
つ電気がオンになったりオフになったりするかわからないので、それを抜いておくわけ
です。このアルミニウムの回転を、数分間ストップウォッチか腕時計で計ります。そう
するとその時何 W の電力が消費されているかがわかります。
私の研究所のメンバーの家庭で測定してもらいましたら、待機電力はここにありま
すように 14W から 109W でした。1ヵ月の電力消費は電力会社からの請求書を見る
とわかりますので、それから計算すると待機電力の割合は4~27%ということで、平
均 14%でした。その多かった理由を聞いてみると、パソコンが付けっぱなしであっ
たり、待機状態で使わなくてもいいエアコンがつながっているということでしたので、
そのようなものを切ることによって待機電力を節減出来ます。このようなことをお勧
めしているのですが、待機電力ということを知ってもらうだけでもいろいろな効果が
あるのではないかと思っています。
燃料電池車の大きな課題は水素供給などのインフラ整備
さて、次に燃料電池自動車のお話をしたいと思いますが、エネルギー需要の4分の1
が自動車用で、燃料電池車はガソリン車の 2.5~3倍程度の効率で走りそうです。この
技術は 1980 年代中頃に、ジェフリー・バラードという人が創立したバラードパワーシ
ステムという 25 人程度の会社が、カナダ政府の資金を得て、これまで宇宙開発用に使
われてはみたのですが、あまり性能が良くないということで見捨てられていた固体高分
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
14
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
子型燃料電池の小型化に成功しました。この話は非常に面白い話で、インサイドストー
リーが紹介されていますが、ほとんどの人が燃料電池で自動車を動かすことは体積が大
きすぎて不可能だと言っていました。1989 年には1リットルで 100W しか出なかった
ものが 1996 年には1リットルで 1.1kW、つまり 11 倍の小型化に成功しました。バラ
ードパワーシステムは 1990 年代初めにダイムラー・クライスラー社と提携して、今は
ダイムラー・クライスラー社の燃料電池をつくり、量産化を進めています。
もちろん日本でもトヨタやホンダが対抗する燃料電池を開発していますが、面白いこ
とは、バラードパワー社に一つだけ有効な特許があると言われています。水素や空気を
流す流路板(セパレーター)がありますが、一筆書きの流路板をつくって、今までは発
電した後にそこに水が溜まっていたのですが、その水を吹き飛ばすような構造にする。
それを 1989~1990 年頃に出願しています。特許というのは出されてから有効期限の
20 年ほど経って実用化するということが多いのですが、2010 年でちょうど 20 年経ち
ますので、特許はほとんど無効になってしまいます。パソコン用のマウスもそうですし、
IC カードもそうですが、発明されてから 20 年後に実用化されました。おそらく燃料電
池もそのようなことになるのではないかと思います。
これがバラードパワー社の燃料電池の構成ですが、中央部分を開いた図です。そこに
薄い 188 個のセルがあるのですが、中央にイオン交換膜があり、その両側に溝が掘っ
てあり、片側に水素を流し、反対側に空気を流すと、その両側に 0.8V の電圧が生じる。
これを直列に積層して、188 個のセルを積み重ねると両側から 150V の電圧が出てくる
のが固体高分子型の燃料電池です。バラードパワー社はすでに 100kg で 85kW という
ようなものを製品化していますが、これを載せることで大型自動車を水素で動かすとい
うことが出来そうです。
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
15
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
私は NEDO の関連の研究開発に少し協力させていただき、学習曲線を使って燃料電
池がどのくらいのコストになるかという計算をしました。燃料電池のスタックと呼ばれ
る部分を、イオン交換膜と電極とセパレータとに分けて、それぞれがどのくらいの学習
曲線に乗るかということをして合計を取りました。政府は 2010 年に燃料電池車が5万
台、2020 年に 500 万台普及するという目標を出しています。目標なので、私にはそれ
が本当に実現するかどうかはわかりませんが、5万台と 500 万台になるとき、どのく
らいのコストになるかという計算をしてみました。2000 年頃、2,000 ドル/kW 程度と
いう燃料電池が 2020 年には 40 ドル/kW 程度になる。これが自動車の内燃機関エンジ
ンと競合出来るコストなのですが、そのように計算してみると実現の可能性があるとい
うことがわかります。
これからの開発にも関わっていると思いますが、燃料電池車の一つ大きな問題は、水
素を供給するようなインフラをつくらなければいけないということで、どうやってそれ
を実現するかということです。(財)石油産業活性化センターがレポートを出していま
す。鉄鋼業や化学工業で生じる副生水素がありますが、これを使うだけで 500 万台の
燃料電池車の走行が可能だというレポートで、2020 年までは水素の心配はしなくても
よさそうだということです。他にも天然ガスを改質したり、電力を使って電解水素を供
給する、あるいは太陽光発電や風力発電から将来は水素を供給するということが可能で
はないかと思います。
NEDO の研究開発で行った計算の例ですが、これは 2010 年、2020 年、2030 年に水
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
16
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
素ステーション、燃料電池車、水素需要がどのくらいになるかの計算をしたものがあり
ます(上左)。日本にはガソリンスタンドが約4万ありますが、水素ステーションの数
は 2030 年で約 8,000 という計算になります。この時に、日本における水素エコノミー
の規模を計算してみました(上右)
。
1990 年代初期は水素エコノミーというと、みんな笑って誰も相手にしなかったので
すが、最近では水素エコノミーということを普通に言ってもいいですし、マクロ経済モ
デルを使って将来のエネルギー需給を計算している人たちも、水素エコノミーの規模が
どのくらいになるのかということに興味を持津用になってきました。自動車用の水素の
供給量を考えると、2030 年頃は水素経済が GDP に占める割合が1%程度、一次エネ
ルギーに占める割合が 0.8%ということを計算することが出来ます。これは自動車用だ
けですが、家庭用にも定置型燃料電池コージェネレーションということで、発電をしな
がら同時にお湯を使ってお風呂やキッチンにお湯を供給しようという燃料電池のコー
ジェネレーションが進展していて、すでに(財)新エネルギー財団を通じて日本中に約
400 ヵ所で実験が開始されています。
さて、私はさらに少し考えを進めてみました。将来は自動車の屋根の上に太陽電池を
載せてソーラーカーとまではいきませんが、ソーラーアシスト・カーというものを考え
ています。燃料電池車、電気自動車、ガソリンハイブリッド車に太陽電池を搭載すると
利用可能です。燃料電池車の場合には、太陽電池で発電した電力をバッテリーに貯蔵す
るだけではなく、水を電解して小さなサブタンクに水素を貯蔵することが考えられます。
計算してみると、年間の太陽依存率を 20~30%に出来そうです。日本の太陽輻射のエ
ネルギー量を1分ごとに測定したデータがありますので、それを利用してダイナミック
シミュレーションをしてみると1年間の太陽依存率が計算出来ます。この場合自動車の
屋根の上には3m2の太陽電池を置いて、例えば効率 20%ですと 600W程度の太陽電池
を使います。
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
17
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
世界の太陽光発電量の半分を生産している日本
さて、最後になりましたが、日本の低炭素社会シナリオを考えてみると、エネルギー
需要はこれからそれほどは増えない。その場合に効率を2倍にして需要を2分の1にす
る。低減したエネルギー需要の半分を太陽や風力等で供給する。ただし、問題がいくつ
かあります。たとえば鉄鋼業だけは再生可能エネルギーで動かせそうもないので、そこ
のところは仕方がないので石炭を使うとしても、CO2排出量を現状の4分の1程度に出
来るのではないかと思います。
その時の水素の役割ですが、水素は太陽エネルギーなどの間欠的なエネルギーを貯蔵
するのに有効です。現状でも石油の備蓄量というのは国家備蓄プラス民間備蓄で 163
日分、合計約 9,000 万 KL あるのですが、将来は石油備蓄の代わりに水素貯蔵が行われ
て、季節変動等に対応することになると思います。
例えば、2050 年の再生可能エネルギーはどのくらいあるか。水力発電や、風力発電
はもちろんありますが、太陽光発電に私は一番期待しています。日本でどのくらい出来
るかということはいろいろな説があります。例えば、これは6億 kW 程度の太陽光発電
が出来るというものです。そんなことを言うとみんなビックリするのですが、実はこの
数字は、私のような過激なエネルギー分析者ではない方が書いた数字です。誰かという
と、三洋電機の社長をされていた桑野氏が「住宅用太陽電池」という本を書いていて、
その中の数字を少し変えてここに出しているのですが、桑野氏は、数億 kW は十分可能
だという計算をしています。日本においては太陽光発電が一番環境への影響が小さい。
そしてどこででも出来る。おそらく将来土地が空いていれば、ここで有機農業をしよう
か、駐車場にしようか、それとも太陽光発電にしようかとみんなが考えるくらい日本は
太陽に恵まれています。しかもこの技術は日本のエレクトロニクス産業が世界で一番進
んでいます。世界の太陽光発電の生産量の半分は日本でつくられていますので、こうす
ると日本の今発電している電力量とそう違わないような量を太陽光発電で得るという
ことが計算できます。
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
18
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
これは桑野氏が計算した住宅、集合住宅、工場、空き地等にこの程度出来るという数
字の例です。
そうすると、将来のエネルギーシナリオとして描いてみると、例えば、この黄色い部
分はエネルギー需要を効率を向上させることで減らしていく、残りの部分を、石油がだ
んだんなくなってくるので、水力、太陽、風力等、そして天然ガスと石炭を使って供給
するということが考えられます(上図)。
石油が使用可能なうちに次のエネルギー供給源にシフトすることが必要
このような考え方の背景にあるいくつかの理念をご紹介すると、サステナブル・デベ
ロップメント(持続可能な発展)について、ハーマン・デリーという人は三つの基準を
提案しています。再生可能な資源の消費速度は、再生可能な資源の再生速度よりも小さ
くなければいけない。枯渇性資源の消費速度は、再生可能な資源開発速度よりも小さく
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
19
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
なければいけない。つまり、石油消費は太陽光発電を開発する速度よりも小さくなけれ
ばいけないというようなことを言い、「サステナブルの条件を表す不等式」という有名
な式を書いていますが、このような方向にもっていければと思います。
そして、ソフト・エネルギーパス(Soft Energy Paths)という考え方があり、1976 年
にエイモリー・ロビンス(Amory B. Lovins:ロッキーマウンテン研究所<Rocky Mountain
Institute>)がエネルギー利用効率の向上と再生可能エネルギーを中心とする路線を提
唱しました。
彼は 1976 年に、この図のようなアメリカの将来のエネルギー需要と供給を 50 年分
書きました。その頃エネルギー需要は 2025 年には倍になる、それを石炭と原子力で賄
うという主張が普通でしたが、これをハードエネルギーパスと呼びました。これに対し
て効率を上げ再生可能エネルギーを利用する路線をソフトエネルギーパスと呼びまし
た。実際の需要は 2000 年には下の図にあるように 100 クアド(1015)であまり大きく
なりませんでした。効率を上げるということがいかに有効に機能したか、彼の予想した
通りの需要になったと言えます。これから再生可能なエネルギーを開発するということ
がどれだけ進むかに関わってきていますが、今でもたくさんの人たちが彼の言っている
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
20
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
ことに関心を持っています。彼はコロラドにあるパッシブ・ソーラーハウスの大きな窓
を持った研究所の中で約 40 名のスタッフと研究をしていますが、一昨年(2004 年)
「Winning the Oil End Game」という本を著し、アメリカの石油を確保するのに、イ
ラクへ軍隊を派遣するコストが非常に大きくなっているので、そのようなことよりも自
動車の効率を上げるほうが資金はより少なくて済むという内容の本を書いています。こ
れはアメリカの国防省との共同研究でもあります。
キング・ホバートは 1962 年にエネルギー・ニードルという図を描きました。1000
年単位で横軸を取ると 2030 年頃は石油が枯渇し始めるという図でしたが、実際に 2010
年頃にはそうなるのではないかと言う人も増えてきて、石油が上手に使える間に次のエ
ネルギー供給源を開発してシフトしていくことが重要になっていくと思われます。特に
世界最大の石油企業の一つであるシェルは、このような内容のシナリオ研究を発表して
います。
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
21
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
最後に、私は人間が地球上で使っている資源をいろいろと計算してみました。水は大
量に使っていて、このグラフに載らないくらい多いのですが、炭酸ガスは年間 210 億
t、酸素 150 億t、化石燃料 70 億t、食糧 20 億t、人間も呼吸をすることによって
CO2を約 20 億t出していて、皆さんも1日1kg口からCO2を吐き出しています。これ
を 62 億の人間とすると 20 億tになり、ちょうど化石燃料を燃やして出しているCO2の
10 分の 1、つまり 10 倍のCO2を何か便利で豊かな生活をするために使っているという
ことがわかります。地球上の人類は 10 人の便利な化石燃料という奴隷を持っていると
いうことが二酸化炭素換算で言うことが出来ます。これは世界平均で、日本ではもっと
多くて1人あたり 25 人、アメリカでは 55 人の奴隷を持っているという計算になりま
す。そのようなことを考えると、もう少し効率良くエネルギーを利用して、このような
奴隷の数を小さくするというようなことが必要ではないかと思います。
三橋
どうも有難うございました。非常に具体的なお話をしていただいたわけですが、
脱化石燃料社会という今のお話についてご質問などがあればどうぞ。
谷口正次
一つ教えていただきたいのですが、燃料電池車のご説明がありましたが、
BMW は燃料電池車は難しい、戦略的にガソリン車の内燃機関に水素を吹き込んでとい
う戦略を取って、来年、再来年にはマーケットに出す。燃料電池車より早くコマーシャ
ライズされるということを強力に主張しています。これは液体水素ですが、この戦略と
燃料電池車の戦略と、どちらが強いとお思いでしょうか。
槌屋 基本的には内燃機関と燃料電池の比較ということになりますが、昨年まで経済産
業省資源エネルギー庁で「超長期エネルギー技術研究会」があり、2100 年までにどの
ようなエネルギー技術が開発されるかという議論がありました。そこにトヨタ自動車の
方が委員として出席されていて、同じような質問が出た時に、トヨタ自動車は水素内燃
機関を全く考えていないとおっしゃっていました。私も全く同感です。私は機械工学科
出身ですが、大学 4 年の時にエンジンの設計をしました。内燃機関ではピストンが上下
に動いて、壁面と摩擦を起こしながらクランクを回転させるという非常に効率の良くな
いもので、投入した燃料のうち動力としてとり出せるのは約 20%というものです。と
ころが、燃料電池は投入したエネルギーの内、現状でも約 35%を電気としてとり出せ
ますし、使い方によっては約 50%出せそうだということがわかっていて、効率が約2
倍以上違います。
水素内燃機関の開発は、私は、ほとんど意味がないと考えています。水素内燃機関で
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
22
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
は、高温燃焼で NOx は多く出ますし、わざわざ水素を使うという理由が考えられない
技術だと私は考えています。
アメリカの環境エネルギー戦略は民主党の基盤
三橋 私から伺いたいのですが、このエイモリー・ロビンスのさまざまな提案は非常に
魅力的だと思うのですが、アメリカ社会ではどのような評価をされているのでしょうか。
あるいは、今のブッシュ政権などのエネルギー戦略に対して影響を与えるようなことが
あるのでしょうか。
槌屋 アメリカでは、このような環境エネルギー戦略というのは民主党の基盤なのです。
ゴア元副大統領とは近いですし、ロビンスは、クリントンとはオックスフォードで同級
生だったということがあり、「共和党政権が変わらない限り、今のようなことは変わら
ないだろう。それはすぐに変わるだろう」というような答えが多いです。
三橋 民主党になってくるというのであれば、また登板していろいろなアイデアが採用
されてくる可能性はあります。今のところ、アメリカの場合でも民主党と共和党の勢力
は5分5分ですから、いつ代わってもおかしくないです。
槌屋 それから、いろいろな州政府が具体的な提案をしています。地球温暖化を防止し
ようという活動はアメリカでは州レベルで多く行われて、それがいろいろなところに影
響を持ってくるということが多いようです。
河野博之
個人的にはソフト・エネルギーパスのファンなのですが、やはり脱化石燃料
社会というテーマを掲げた場合、少なくとも中期的には原子力ときちんと向かっていか
なければ、これは実現が不可能ではないかという印象を持っています。
ちなみに、今、日本全体で 13 億t程度CO2が出ていますが、そのうち電力会社の発
電所が由来するものというのは約3億tです。ですから、日本の電力が全て原子力と置
き換わっても3億tしか減らない。ですから、そのような意味で今日は先生にたくさん
ご紹介いただきましたが、需要側の技術、エネルギーを効率的に利用していただく技術
が大変重要なことになってくると思いますが、その中で、今日はお話がなかったのです
が、ヒートポンプ、そして自然エネルギーをより有効に利用するための蓄電システム。
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
23
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
この二つがこれからの高効率エネルギー社会をつくるための技術の、中期的には核にな
るのではないかという気がするのですが、先生はその辺りはどのように評価されていま
すか。
槌屋 ヒートポンプの重要性、そして蓄電技術の重要性には賛成です。先ほど紹介した
ソーラーアシスト・カーも、太陽光発電の電力を水素にする。それをまた燃料電池で発
電しようとすると、使えるエネルギーは約 40%になってしまうのですが、もしこれを
軽いバッテリーに蓄電出来れば、非常に効率良く倍程度の効率で約 85%使える。
ただ、バッテリーが重いのです。燃料電池車が出てくる理由はバッテリーが重いとい
うことだけです。今ある電気自動車はバッテリーを 250~300kg 積んで 200km しか走
れないという状態ですので、軽いバッテリーが出来ればということです。軽いバッテリ
ーが出来れば、水素エネルギーは吹っ飛んでしまうと思います。それが出来ないであろ
うというのは、長い間出来なかったからです。エジソンは電気自動車を開発しましたが、
出来なかったので水素が出てきたということですので、これは技術開発でひっくり返る
のかもしれません。ただ、一つだけ電気自動車の大きな問題は、バッテリーに電力を充
電する時間が長いので、これを短時間に、例えば今ガソリンスタンドでやっているよう
に5分でバッテリーに充電しようとすると、非常に大きなパイプを使わなければいけな
いことです。
電気というのは電流が流れる密度が関係してくるので、1,000kW、
1,500kW を5分間流してやらなければならないということになり、充電施設が非常に
大掛かりなものになる可能性があります。水素やガソリンは物質を介して渡していると
いうことで、非常に短時間に渡せることになっているということが言えます。
三橋 先ほどの原子力との関係で、槌屋さんの「エネルギーシナリオ、日本の可能性」
という図がありましたが、これですと原子力が 2035 年から 2040 年の間になくなって
きています。この辺の説明をして下さい。
槌屋 原子力は三つ問題を抱えています。まず、廃棄物の処理がきちんと出来ない。操
業時の安全性が問題。特に世界中で開発途上国をはじめ原子力発電所が増えてくると、
チェルノブイリやスリーマイル島で起こったようなことが起こる可能性があります。
もう一つは核拡散との関係で、たくさんの国が原子力技術を持つとどのようになるか
という問題があります。今、確かに原子力はCO2を出さないということで、「これがい
いのだ」というように言われていますが、これをやると第二のアスベスト問題になる。
アスベストもその時、問題はわかっていたのですが、結局大量に使ってしまったという
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
24
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
ことがあるので、アスベストの問題で起きたことをまたしてしまうのではないかと考え
ていますので、効率を上げるということと、再生可能エネルギーを上手に使うというこ
とのほうが重要であると考えています。
岡部敬一郎
一つは、先ほど世界資源利用量のところで炭酸ガスは 210 億tと言われ
ましたが、最近のデータでは 249 億tだったと記憶しています。もう一つ、16 ページ
でお話されていた、エネルギー需要の4分の1が自動車燃料用だということですが、こ
れは日本ですか。
槌屋 そうですね。
岡部
日本の一次エネルギーに占める石油は約 50%です。石油全体に占めるガソリン
は2割程度、軽油が1割なので、全体で換算すると3割×50%でエネルギー需要の 15%
程度が自動車燃料用という事になるのではないかという気がします。
もう一つ、原子力の問題。槌屋さんの「エネルギーシナリオ、日本の可能性」の中で
は、限りなくゼロに近づいていますが、現在の日本のエネルギー政策の中では化石燃料
を減らしていくためには原子力を長期的に増やしていかなければいけないという感じ
になっています。しかし、原子力については土屋さんが今おっしゃったような3点の課
題があるので、非常に難しい問題ではないかと私は思います。
最後に、水素電池自動車ですが、これは私どもでも現在2台動かしています。自動車
への水素供給は 350KG 気圧で圧入します。そのために流通サイドではその倍の 700 気
圧に耐えるだけの鋼材にしなければいけない。製造段階では4倍ということも聞いてお
り、まだまだ課題が多く、普及までにはまだまだ時間がかかる事が予想されます。私は
ハイブリッド中心の車社会にこれからなっていくのではないかと感じています。
槌屋 まず、CO2の排出量については、そのとおりです。これは私の図が古くて、1990
年代の世界資源量が書いてあります。
そして、エネルギー需要の4分の1が自動車用だと書いたのですが、これは間違いで
おっしゃる通りです。
原子力の問題に関しては、いろいろな利害関係があり、現状がそうなっているという
提案はわかるのですが、長期的に見ると今申し上げたような問題があり、アスベスト問
題で起きたようなことが起こるのではないかと私は考えているので、今、とくに日本は
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
25
環境を考える経済人の会 21 2005 年度第 8 回朝食会
http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/MORNING/
原子力を選択しなくても、例えば太陽光発電という技術をもっと広げて行くということ
で、そのような面倒な問題を引き受けないで済むのではないかと私は考えています。
岡部 アメリカも最近のエネルギー政策の中で、2012 年に向けて GDP 当たり 1990 年
比 18%削減していくと言っていますが、現在でもアメリカは 1990 年比ですでに 20%
を超えて増えています。これからどうするかという問題について、アメリカもエネルギ
ーのセキュリティも含めて考えていますし、先ほどもありましたように風力もドイツに
続いてアメリカは2位です。そのような面では姿勢としてはわかるのですが、現状の経
済規模とエネルギーの消費状況から考えて、そう簡単に京都議定書的な思考にはならな
いのではないかという感じがしています。
槌屋 確かにおっしゃる面はあります。日本では例えば地球温暖化がどのようなことを
引き起こすかということが普通の人にはほとんど伝わっていませんが、ヨーロッパでは
夏の暑さのために何万人もの人が亡くなるとか、洪水が各所で起こるというようなこと
が起こっていて、地球温暖化の被害が具体的に感じられるようになってきています。日
本ではそのようなことが少ないのですが、これから日本でも、あるいはアメリカでもそ
のようなことがいくつも現れてきていて、問題の捉え方がどんどん変わっていくのでは
ないかと私は見ています。
三橋 今日は槌屋さんに具体的な問題提起をしてもらいました。これを機会に、資料な
ども参考にしてこのエネルギー問題について、会社に戻ってもいろいろと議論してほし
いと思います。槌屋さん、今日はどうも有難うございました。
©B-LIFE21,2006. All rights reserved. 未許可での利用、複製の作成又は開示を禁じております。
お問合せ先:環境を考える経済人の会21 http://www.zeroemission.co.jp/B-LIFE/
26
Fly UP