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梁慧星中国民法典草案建議稿第三草案・契約編(上)1)

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梁慧星中国民法典草案建議稿第三草案・契約編(上)1)
資 料
梁慧星中国民法典草案建議稿第三草案・契約編(上)
1)
市川 英一 訳 第 4 編 契 約
<もくじ>
第 27 章 通則
第 28 章 契約の締結
第 1 節 一般規定
第 2 節 申込み及び承諾
第 3 節 フォーム約款
第 4 節 契約締結上の過失責任
第 29 章 契約の効力
1)‌前回に引き続き、梁慧星中国民法典草案建議稿第三草案を紹介する。今回は、契約編中
契約総則部分を紹介する。本草案の全般的な説明については、前号の拙稿冒頭の〔前注・
解説〕を参照されたい。本編の翻訳は、梁慧星主編『中国民法典草案建議稿附理由・合
同編(上冊)
』
〔法律出版社、2013 年〕に拠った。
‌ なお、出典では改行されているのみで項目番号は付されていないものの拙訳では便宜
上項目番号を付した点、各条の直後にカッコ書きされている表題は出典のそれを参照し
つつ極力わが国の民法典のスタイルに合わせた点、
拙訳中原文のママ表記した「人民法院」
は中国の裁判所を意味する点、前号の拙訳同様である。
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横浜法学第 24 巻第 2・3 号(2016 年 3 月)
第 30 章 契約の履行
第 31 章 契約の解除及び終了
第 1 節 契約の解除
第 2 節 契約の終了
第 32 章 違約責任
第 1 節 一般規定
第 2 節 履行の継続及び救済措置
第 3 節 代金減額
第 4 節 損害賠償
第 5 節 違約金
第 6 章 手付(以上本号)
第 33 章 売買契約(以下次号)
第 1 節 通則
第 2 節 特殊な売買
第 34 章 電気・水・ガス・熱エネルギー供給契約
第 1 節 電気供給契約
第 2 節 水・ガス・熱エネルギー供給契約
第 35 章 贈与契約
第 36 章 賃貸借契約
第 37 章 ファイナンスリース契約
第 38 章 預金契約
第 39 章 金銭消費貸借契約
第 1 節 一般規定
第 2 節 特殊な金銭消費貸借
第 3 節 自然人の間の金銭消費貸借についての特則
第 40 章 使用貸借契約
第 41 章 雇用契約
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梁慧星中国民法典草案建議稿第三草案・契約編(上)
第 42 章 請負契約
第 43 章 建設プロジェクト契約
第 44 章 プロジェクト建設運営契約
第 45 章 運送契約
第 1 節 一般規定
第 2 節 旅客運送契約
第 3 節 貨物運送契約
第 27 章 通則
第 864 条(契約の定義)
契約とは、自然人、法人又は権利能力の無い社団(原文:非法人団体)の間
で創設され、変更され又は消滅する財産的性質を有する民事権利義務関係につ
いての合意をいう。
第 865 条(契約自由の原則)
当事者は、法律の強行規定(原文:禁止性規定)に反しない範囲内で、契約
を自由に締結し、且つその内容及び方式を決定することができ、行政機関その
他の者の干渉を受けない。
第 866 条(公平の原則)
当事者は、公平の原則に従い、各当事者の権利及び義務を定めなければなら
ない。
第 867 条(契約の効力)
1 法の定めるところに従い成立した契約は、当事者に対し法的拘束力を有し、
当事者の協議にもとづく合意又は法律の認める事由に拠らない限り、これを変
更し又は解除することはできない。
2 法の定めるところに従い成立した契約は、法律に特段の規定がある場合に
限り、第三者に対し効力を生ずる。
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横浜法学第 24 巻第 2・3 号(2016 年 3 月)
第 28 章 契約の締結
第 1 節 一般規定
第 868 条(契約成立の要件)
1 当事者双方の意思表示が一致した場合に、契約は、成立する。
2 当該意思表示は、一般に、申込み及び承諾の方式による。但し、合意内容
を充分に明らかにすることができる他の方式を用いることもできる。
第 869 条(契約の方式)
1 契約の締結は、書面、口頭その他の方式に拠ることができる。但し、特定
の方式に拠るべきことを法律若しくは行政法規が規定する場合又は当事者が要
求する場合は、この限りではない。
2 書面方式とは、契約書、書簡及びデジタル文(電報、テレックス、ファクス、
電子データ交換及び電子メールを含む)等、記載内容につき有形の形態で複製
をすることができるいずれかの通信方式をいう。
第 870 条(契約の方式違反の効果)
1 法律の規範目的にもとづき、方式が契約の必要要件である場合には、法定
の方式に反して当事者が締結した契約は、成立しない。但し、当事者が契約の
主要義務をすでに履行した場合又は方式の欠缺がすでに治癒された場合は、こ
の限りではない。
2 約定の方式に反した場合には、契約は、成立しない。但し、当事者が契約
上の主要義務をすでに履行した場合又は当事者双方の意思若しくは他の行為に
より方式の要求がすでに放棄されたと認められる場合は、この限りではない。
第 871 条(契約の内容)
1 契約の内容は、当事者がこれを約定する。一般には、次の各号に掲げる条
項を含む。
(1)当事者の名称又は氏名及び住所
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梁慧星中国民法典草案建議稿第三草案・契約編(上)
(2)目的物
(3)数量
(4)品質
(5)代金又は報酬
(6)履行期、履行地及び履行方法
(7)違約責任
(8)紛争解決方法
2 当事者は、各種モデル契約フォームを参照して、契約を締結することがで
きる。
第 2 節 申込み及び承諾
第 872 条(申込みの意義)
申込みとは、他の者と契約を締結することを望む意思表示をいう。当該意思
表示は、次の各号に掲げる規定に適合しなければならない。
(1)少なくとも契約の性質上要求され且つ一方当事者が要求する必要事項を包
含し、成立を欲する契約内容を具体的に確定し又は確定し得るものにしなけれ
ばならないこと。
(2)申込者が、申込受領者が承諾した場合には当該意思表示に拘束される旨、
表明していること。
第 873 条(申込みの誘引)
1 申込みの誘引とは、他の者が自己に対し申込みをすることを望む意思表示
をいう。郵送された価格表、競売公告、入札募集公告、株式目論見書、商業広
告等は、申込みの誘引とする。
2 但し、サプライヤーが公開された広告若しくは価格表又は特定の商品展示
方式によりする場合には、特定の価格で商品を供給し又は役務を提供する意思
表示は、その在庫商品が完売され又は役務提供能力が消滅するまで、これを申
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横浜法学第 24 巻第 2・3 号(2016 年 3 月)
込みと推定する。
第 874 条(申込みの発効時期)
1 申込みは、申込受領者に到達した時に、効力を生ずる。
2 デジタル電文方式により契約が締結される場合において、当事者が到達時期
を確定する基準をすでに約定しているときは、その約定に従う。当該約定が無い
場合において、受領者が特定のシステムによるデジタル電文の受領を指定したと
きは、当該デジタル電文が当該特定のシステムに入った日時をもって、到達時期
とみなす。特定のシステムが指定されなかった場合には、当該デジタル電文が受
領者のいずれかのシステムに最初に入った日時をもって、到達時期とみなす。
第 875 条(申込みの撤回)
申込みは、これを撤回することができる。申込撤回通知は、申込みがその受
領者に到達する前又はそれと同時に、申込受領者に到達しなければならない。
第 876 条(申込みの取消)
1 申込みは、これを取り消すことができる。申込取消通知は、申込受領者が
承諾通知を発する前に申込受領者に到達しなければならない。承諾が行為によ
りすることができる場合には、申込取消通知は、行為が完了するまでに、申込
受領者に到達しなければならない。
2 次の各号に掲げる事由がある場合には、申込みの取消は、効力を生じない。
(1)申込者が承諾期限を定めている場合又は他の方式により申込みが取消不能
であることを明示しているとき。
(2)申込受領者が、申込みが取消不能であると信ずる理由があり、且つ申込み
に対する信頼にもとづき契約を履行するための準備行為にすでに着手している
とき。
第 877 条(申込みの失効)
次の各号に掲げる事由がある場合には、申込みは、効力を喪失し、申込受領
者は、承諾をする資格を失う。
(1)申込拒絶通知が申込者に到達したとき。
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梁慧星中国民法典草案建議稿第三草案・契約編(上)
(2)申込者が法の定めるところに従い申込みを取り消したとき。
(3)承諾期間が満了したとき。
(4)申込者又は申込受領者が死亡したとき。
第 878 条(承諾の定義)
承諾とは、申込受領者が申込みに同意する旨の意思表示をいう。
第 879 条(承諾の方式)
承諾は、通知によりこれをしなければならない。但し、申込みにおいてあら
かじめ別段の表明をしている場合、又は取引慣行若しくは事象の性質により、
申込受領者が行為により承諾をすることができる場合は、この限りではない。
第 880 条(承諾時期)
1 承諾は、申込みに定める期間内に、申込者に到達しなければならない。
2 申込みに承諾期間の定めが無い場合には、承諾は、次の各号に掲げる規定
に従い、到達しなければならない。
(1)申込みが対話方式でなされる場合には、直ちに承諾をしなければならない。
(2)申込みが対話以外の方式でなされる場合には、承諾は、合理的な期間内に、
到達しなければならない。
第 881 条(承諾期間の起算時期)
1 書簡又は電報によりなされる申込み中に承諾期間の定めがある場合には、
当該期間は、書簡中に記載された日時又は電報が発信された日より起算する。
書簡に日時の記載が無い場合には、当該書簡上に押印された消印の日時より起
算する。
2 ファクス等高速通信方式によりなされた申込み中に承諾期間の定めがある
場合には、当該期間は、申込みが申込受領者に到達した時より起算する。
第 882 条(承諾の発効時期)
1 承諾は、承諾通知が申込者に到達した時に、効力を生ずる。
2 デジタル電文方式により契約が締結された場合の承諾到達時期は、本草案
第 874 条第 2 項の規定を準用する。
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3 承諾が通知を要しない場合には、取引慣行、事象の性質又は申込みの特段の
要求にもとづき、承諾と認めることができる事実があった時に、効力を生ずる。
第 883 条(契約成立時期)
承諾が発効した時、契約は、成立する。但し、法律に別段の規定又は当事者
に別段の約定がある場合は、この限りではない。
第 884 条(契約書による契約締結の場合の成立時期)
当事者が契約書により契約を締結した場合には、当事者双方が契約書に署名
し又は押印した時に、契約は、成立する。但し、契約の履行の着手がすでにあっ
た場合、又は契約書が証拠目的のための使用等非形式要件の意思を備えるにす
ぎないことを証明できる場合には、前条の規定を適用する。
第 885 条(承諾の撤回)
承諾は、撤回することができる。承諾撤回通知は、承諾通知が申込者に到達
する前又はこれと同時に、申込者に到達しなければならない。
第 886 条(承諾期限経過後の承諾)
1 承諾期限経過後の承諾は、新たな申込みとみなす。
2 申込者は、通常の場合であれば当該承諾は期間内に到達しうることを知る
ことができる場合には、申込受領者に対し、速やかに、承諾が期間内に到達し
なかった旨を通知しなければならない。速やかに通知することを怠った場合に
は、当該承諾は、期間内に到達したものとみなす。
第 887 条(申込みの内容に対し実質的な変更を加えた承諾)
1 承諾の内容は、申込みの内容と一致しなければならない。
2 申込受領者が申込みの内容に対し拡大、限定又は付加等の方法により実質
的な変更を加えた場合には、原申込みは拒絶され新たな申込みがなされたもの
とみなす。
3 契約の目的物、数量、品質、代金又は報酬、履行期及び 履行地、違約責任、
並びに紛争解決方法等に関する変更が加えられた場合において、その変更の程度
が重要ではないとはいえないときは、申込みの内容に対する実質的な変更とする。
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梁慧星中国民法典草案建議稿第三草案・契約編(上)
第 888 条(申込みの内容に対し実質的ではない変更を加えた承諾)
承諾が申込みの内容に対し実質的ではない変更を加えるものであったときに
は、申込者が速やかに反対の意思を表示した場合、又は申込み中で申込みの内
容に対しいかなる変更も加えることができない旨を表明している場合を除き、
当該承諾は有効とし、契約の内容は、承諾の内容に準拠する。
第 3 節 フォーム約款
第 889 条(フォーム約款と非フォーム約款)
1 フォーム約款(原文:格式条款)とは、提供者が不特定多数の相手方と契
約を締結するためあらかじめ制定するものであって、且つ契約締結時に相手方
と具体的な協議をしない条項をいう。
2 非フォーム約款とは、当事者双方が具体的な協議を経て合意を達成する条
項をいう。
3 フォーム約款と非フォーム約款との間に齟齬が生じている場合には、非
フォーム約款に準拠する。
第 890 条(フォーム約款の契約書への組入れ)
1 フォーム約款が契約書又は契約書付属書類等これに準ずる様式で示されて
いない場合には、提供者は相手方に対し、その内容を明示しなければならない。
明示を怠った場合には、相手方は、当該条項が契約の内容を構成しない旨を主
張することができる。
2 フォーム約款が字体、印刷、その他の異常な事情のため、通常の場合であ
れば、相手方が当該条項の内容の存在に注意を払うことが困難であり、これを
認識し又は受け入れることが困難である場合には、相手方は、当該条項が契約
の内容を構成しない旨を主張することができる。
第 891 条(フォーム約款の解釈)
フォーム約款は、客観的に通常の理解にもとづきこれを解釈しなければなら
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ず、提供者の特殊な状況を考慮しない。相手方に不利な約款につき疑義が生じ
た場合には、これを限定的に解釈しなければならない。多様な解釈が成り立つ
不明確な約款については、提供者に不利な解釈を選択しなければならない。
第 892 条(フォーム約款の内容の規制)
契約の性質、目的、約款全体の内容、約款の制定方法、当事者双方の利益関係、
取引慣行その他の事情にもとづき、フォーム約款が明らかに公平を失し、信義
誠実原則(原文:誠実信用原則)に反している場合には、相手方は、当該約款
を取り消す権利を有する。
第 893 条(契約に組入不能な又は取り消された約款の効力)
フォーム約款の全部又は一部が契約の一部を構成することができない場合又
は取り消された場合において、当該部分を除いても契約が成立するときは、他
の部分は、なお有効とする。但し、他の部分が当事者の一方にとって明らかに
公平を失する場合には、当該契約の全部を無効とする。
第 894 条(フォーム約款の抵触)
当事者双方がいずれも各自のフォーム約款を使用する場合において、フォー
ム約款以外の他の条項につき双方が合意を達成したときは、契約は、すでに合
意を達成した条項及び実質的に内容が同一のフォーム約款にもとづき、成立す
る。但し、一方当事者が、この種の契約の拘束を受けないことをあらかじめ明
確に表示した場合、又は事後に速やかにこれを相手方に通知した場合には、契
約は、成立しない。
第 895 条(公益訴訟)2)
1 適法に設立された消費者協会又は労働組合組織(原文:工会組織)は、自
己の名義でフォーム約款の使用者を相手取り訴訟を提起して、人民法院に対し、
2)公益訴訟については、2013 年に制定公布された改正中華人民共和国消費者権利利益保護
法で明文化された〔第 47 条〕
(拙稿「
〔資料〕改正中華人民共和国消費者権利利益保護法」
本誌第 23 巻第 1 号(2014 年)211 頁参照。
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消費者又は労働者の利益に損害を及ぼす被告が使用するフォーム約款の無効を
宣告し、且つ当該使用者が当該フォーム約款を引き続き使用することを禁ずる
判決を下すよう請求することができる。
2 人民法院によるフォーム約款無効宣告及びその継続使用禁止判決は、被告
以外の当該フォーム約款の他の使用者に対しても、同等の拘束力を有する。
3 本条第 1 項に規定する訴訟は、被告の所在地を管轄する高級人民法院(訳
注:わが国の高裁に相当する)の管轄とする。
第 4 節 契約締結上の過失責任
第 896 条(契約締結上の過失責任[原文:締約過失責任]
)
1 一方当事者は、次の各号に掲げる事由があるため、契約が成立しない場合
には、過失無く契約の成立を信頼して損害を受けた他方当事者に対し、損害賠
償責任を負わなければならない。
(1)契約締結と重要な関係を有する事実につき、相手方当事者の質問に対し、
悪意をもって事実を隠し、又は不実の告知をしたとき。
(2)相手方の営業秘密を保有し又は知得し、相手方が秘密に保つべき旨を明示
したにもかかわらず、当該営業秘密を不正に使用し、又は故意若しくは重大な
過失によりこれを漏洩したとき。
(3)契約締結の名目で、悪意をもって協議をしたとき。
(4)信義誠実原則に反することが明らかな他の行為を故意にしたとき。
2 人民法院は、前項に規定する契約締結上の過失責任の認定にあたり、正常
な商業リスク及び取引慣行を考慮しなければならない。
第 897 条(賠償範囲)
契約締結上の過失の責任方式は、損害賠償とする。その範囲は、当事者の一
方が契約の成立を信頼したものの相手方の故意・過失により成立に至らなかっ
たため被った損害とし、契約締結のために支出した必要費及び別段の契約締結
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の機会を失ったことにより被った損害を含む。
第 898 条(訴訟時効)
前条に規定する損害賠償請求権の訴訟時効は、一般の訴訟時効期間に関する
規定を適用する。訴訟時効期間は、
契約締結上の過失責任の成立時より起算する。
第 29 章 契約の効力
第 899 条(契約の発効時期)
契約は、成立した時より効力を生ずる。但し、法律に別段の規定又は当事者
に別段の約定がある場合は、この限りではない。
第 900 条(契約の無効)
次の各号に掲げる事由がある場合には、契約は、無効とする。
(1)法律の強行規定に反したとき。但し、その規定が当該行為を無効としない
場合は、この限りではない。
(2)公共の秩序又は善良の風俗に反したとき。
第 901 条(免責条項)
契約中の次の各号に掲げる免責条項は、無効とする。
(1)人身傷害責任をあらかじめ免除し又は制限する条項
(2)故意又は重大な過失により相手方に及ぼした財産損害責任をあらかじめ免
除し又は制限する条項
第 902 条(契約の無効又は取消の効果)
無効な契約又は取り消された契約は、当事者が当該契約を通じて期待した法
的効果を生じない。契約の無効が確認され又は取り消された場合には、契約に
より取得した財産は、返還しなければならない。返還できない場合又は返還す
る必要が無い場合には、金銭に換算しこれを補償しなければならない。故意・
過失がある一方は、相手方がこれにより被った損害を賠償しなければならない。
双方いずれも故意・過失がある場合には、各自相応する責任を負わなければな
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らない。
第 903 条(除籍期間及び訴訟時効)
1 契約の無効確認を請求する権利が契約の履行日から二年以内に行使されな
かった場合には、当該権利は、消滅する。
2 契約が無効となり又は取り消された場合の財産返還・損害賠償請求権の訴
訟時効期間は、契約の無効が確認され又は取り消された日より起算する。
第 904 条(紛争解決方法条項の分離可能性)
契約が無効となり又は取り消された場合においても、契約中独立して存在す
る紛争解決方法に関する条項の効力は、影響を受けない。
第 30 章 契約の履行
第 905 条(完全履行)
契約が効力を生じた後、当事者は、契約の内容にもとづき、各自の義務を全
面的に履行しなければならない。
第 906 条(付随義務)
契約履行過程において、当事者は、信義誠実原則に従い、且つ、契約の性質、
目的及び取引慣行にもとづき、通知・協力・秘密保持等の義務を履行しなけれ
ばならない。
第 907 条(事情変更)
1 契約が成立した後、当事者の責めに帰すことができない事由により、契約
の基礎となる客観的事情に、当事者が契約締結時に予見することができず且つ
影響を受ける当事者にその危険を負担させるべきではない異常な変化が生じ、
契約の既存の効果を引き続き維持することは明らかに公平を失する場合には、
不利な影響を受ける一方当事者は、相手方との再協議を請求することができる。
協議が不調に終わった場合には、人民法院又は仲裁機関に対し、契約の変更又
は解除を請求することができる。
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2 前項の規定による契約の変更又は解除の請求訴訟は、中級人民法院(訳注:
わが国の地裁に相当する)の管轄とする。
第 908 条(条項が不明確な契約の履行)
1 契約が効力を生じた後、当事者は、目的物の品質、代金又は報酬、履行地
等の内容につき約定が無く又は約定が不明確な場合には、補充合意をすること
ができる。補充合意を達成することができなかった場合には、契約の関係条項、
契約の性質及び目的、又は取引慣行にもとづき、これを確定する。
2 関係契約の内容につき当事者に約定が無く又は約定が不明確な場合におい
て、前項の規定によってもなお確定することができない場合には、法律の各種
典型契約(原文:有名合同)に関する規定を適用する。法律の典型契約に関す
る規定によってもなお確定することができない場合には、次の各号に掲げる規
定を適用する。
(1)目的物の品質要求が不明確な場合には、国家基準又は業界基準に従い履行
する。国家基準及び業界基準が無い場合には、履行地の通常の基準又は契約の
目的に適合する特定の基準に従い履行する。
(2)代金又は報酬が不明確な場合には、契約締結時の履行地における市場の中
等の価格により履行する。市場価格が無い場合には、同種の商品又は役務の相
応する価格を参照して履行する。政府の定価又は指導価格を執行しなければな
らない旨を法律が規定する場合には、法律の規定に従い履行する。
(3)履行地が不明確な場合において、通貨を給付するときは、通貨を受領する
一方の所在地で履行する。不動産を引き渡す場合には、不動産の所在地で履行
する。他の目的物については、義務を履行する一方の所在地で履行する。
(4)履行期が不明確な場合には、債務者は、随時、履行することができ、債権
者も、随時、履行を請求することができる。但し、一方は相手方に対し、必要
な準備時間を与えなければならない。
(5)履行方式が不明確な場合には、契約目的実現に有利な方式であって且つ経
済合理性原則に従い履行する。契約に分割履行について約定されていない場合
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梁慧星中国民法典草案建議稿第三草案・契約編(上)
には、債務者は、一括して履行しなければならない。
(6)履行費用の負担が不明確な場合には、義務を履行する一方の負担とする。
但し、債権者の責めに帰すべき事由により増加した履行費用は、債権者の負担
とする。
第 909 条(第三者の利益のための契約)
1 当事者が契約をもって債務者が第三者に対し債務を履行する旨を約定した
場合には、債権者は、債務者に対し、第三者に履行するよう請求することがで
き、第三者も、当該約定に従い、債務者に対し履行を請求する権利を得ること
ができる。
2 第三者の請求権は、当該第三者が債務者に対し当該権利を享受する旨を明
確に表示した時に、発生する。第三者が享受の意思表示をするまでは、契約当
事者は、当該約定の変更又は取消を協議することができる。
第 910 条(債務者の第三者に対する抗弁)
債務者は、前条に規定する契約にもとづき債権者に対し主張することができ
る抗弁の一切を、第三者に対し主張することができる。
第 911 条(第三者による権利享受の拒絶)
第三者が債務者又は債権者に対し、債務者と債権者が契約中で当該第三者の
ために約定した権利を享受することを拒む意思表示をした場合には、契約中当
該第三者のために約定した権利は、始めより取得されなかったものとみなす。
この場合には、債権者は債務者に対し、自己に履行するよう請求することがで
きる。但し、当事者に別段の約定がある場合は、この限りではない。
第 912 条(第三者による債務履行)
契約当事者は、第三者が債権者に対し債務を履行する旨を約定することがで
きる。但し、当該約定は、第三者に対し拘束力を有しない。第三者が債務を履
行することを怠った場合には、債務者は、債務を履行し又は損害賠償責任を負
わなければならない。
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第 913 条(同時履行の抗弁権)
1 双務契約の当事者は、相互に債務を負っており、履行の前後の順序が無い
場合には、同時に履行しなければならない。一方当事者は、相手方が履行する
まで、その履行請求を拒む権利を有する。一方当事者は、相手方が債務を適切
に履行することを怠った場合には、信義誠実原則に従い、且つ取引状況を考慮
して、その全部又は一部の履行請求を拒む権利を有する。
2 相手方が違約した場合における当事者の一方による同時履行の抗弁権の行
使は、違約当事者に対し違約責任を負うよう請求する自己の権利に影響を及ぼ
さない。
第 914 条(先履行抗弁権)
1 双務契約の当事者が相互に債務を負っており、履行の前後の順序がある場
合において、先に履行すべき一方が履行を怠ったときは、後に履行すべき一方
は、その履行請求を拒む権利を有する。先に履行すべき一方が履行を適切にす
ることを怠った場合には、後に履行すべき一方は、信義誠実の原則に従い且つ
取引状況を考慮して、その履行請求の全部又は一部を拒む権利を有する。
2 後に履行すべき一方による先履行抗弁権の行使は、先に履行すべき一方に
対し違約責任を負うよう請求する自己の権利に影響を及ぼさない。
第 915 条(不安の抗弁権)
1 双務契約の当事者が相互に債務を負っており、履行の前後の順序がある場
合において、先に履行すべき一方に、契約の成立後相手方に次の各号に掲げる
事由が発生したため、反対給付を受けることが困難になるおそれがあることを
証する確実な証拠を有するときは、自己の債務の履行を拒むことができる。
(1)経営状況が著しく悪化したとき。
(2)財産を移転し又は資金を持ち逃げして、債務を回避しようとしたとき。
(3)商業上の信用を喪失したとき。
(4)債務履行能力を喪失し又は喪失するおそれがあるその他の事由
2 先に履行すべき一方は、履行を拒む場合には、速やかに、その旨を相手方
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梁慧星中国民法典草案建議稿第三草案・契約編(上)
に通知しなければならない。相手方が反対給付を履行し又は相当な担保を提供
した場合には、先に履行すべき一方は、履行を回復しなければならない。相手
方が通知を受領した後合理的な期間内に反対給付の履行又は相当な担保の提供
を怠り、且ついまだ債務履行能力を回復していない場合には、先に履行すべき
一方は、契約を解除し且つ損害賠償を請求することができる。
3 先に履行すべき一方は、前二項の規定に反してみだりに履行を拒み又は契
約を解除した場合には、違約責任を負わなければならない。後に履行すべき一
方に違約があった場合には、先に履行すべき一方は、後に履行すべき一方に対
し、違約責任を負うよう請求する権利を有する。
第 31 章 契約の解除及び終了
第 1 節 契約の解除
第 916 条(約定解除権)
当事者は、契約中で一方又は双方のために解除権を留保することができる。
約定された条件を満たした場合には、解除権者は、契約を解除することができる。
第 917 条(法定解除権①─履行不能)
契約の履行不能により契約の目的を実現することができなくなった場合に
は、当事者は、契約を解除することができる。
第 918 条(法定解除権②─非定期行為の履行遅滞)
当事者の一方が主たる債務の履行を遅滞した場合には、相手方は、相当の期
間を定めて、その履行を催告することができる。当該期間が満了した後も履行
がされなかった場合には、契約を解除することができる。
第 919 条(法定解除権③─定期行為の履行遅滞)
契約の性質又は当事者の意思表示により、一定期間履行されないと契約の目
的を実現できない場合において、当事者の一方が履行を遅滞したときは、相手
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方当事者は、前条に規定する催告無しに、直接契約を解除する権利を有する。
第 920 条(法定解除権④─不完全履行)
1 債務者が完全に履行する意思をもって契約を履行したものの、その履行が
契約の目的に適合していない場合の債権者の契約解除権については、次の各号
に掲げる規定を適用する。
(1)債務者が瑕疵を治癒した後になお契約目的を実現することができる場合に
は、債権者は、相当の期間を定めて、債務者に対し瑕疵を治癒するよう催告す
ることができる。当該期間満了後も瑕疵が治癒されなかった場合には、契約を
解除することができる。
(2)債務者が瑕疵を治癒することができず、
治癒することを拒み又は治癒によっ
ても契約目的を実現することができない場合には、債権者は、催告無しに直接
契約を解除する権利を有する。
2 債務者が債務の一部の履行を怠り、他の部分の債務の履行によっては債権
者にとってもはや利益とならない場合には、債権者は、債務の全部の不履行に
準じて、契約を解除することができる。他の部分の債務の履行が債権者にとっ
てなお利益となる場合には、債権者は、不履行部分についてのみ、契約を解除
することができる。
第 921 条(法定解除権⑤─履行期前の違約)
1 履行期間満了に先立ち、当事者の一方が主たる債務の履行をしない意思を
明確に表示した場合には、相手方当事者は、契約を解除することができる。
2 履行期間満了に先立ち、当事者の一方が自己の行為をもって主たる債務を
履行しない旨を表明した場合において、相手方の催告を経た後合理的な期間内
に履行能力を回復せず又は相当な担保を提供することを怠ったときは、相手方
は、契約を解除することができる。
第 922 条(解除不能事由)
次の各号に掲げる場合には、当事者は、契約を解除することができない。
(1)違約の程度が軽微なとき。
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梁慧星中国民法典草案建議稿第三草案・契約編(上)
(2)付随義務に反したとき。但し、契約目的が実現できなくなった場合は、こ
の限りではない。
(3)債権者が違約につき全部若しくは主たる責任を負わなければならないとき、
又は違約行為が債権者の受領遅滞期間中に発生し且つ債務者に帰責事由が無い
とき。
第 923 条(解除権の行使)
1 当事者は、解除権を行使する場合には、その旨を相手方に通知しなければ
ならない。契約は、通知が相手方に到達した時に、解除される。相手方は、異
議がある場合には、人民法院又は仲裁機関に対し、解除の効力の確認を請求す
ることができる。
2 契約の一方当事者が数名ある場合には、前項の通知は、その全当事者が又
は全当事者に対し、これをしなければならない。契約解除の通知は、取り消す
ことができない。
3 契約解除には認可(原文:批准)
・登記等の手続きをとらなければならない
ことを法律が規定する場合には、その規定に従う。
第 924 条(契約解除の効力①─原状回復)
契約が解除された場合には、当事者双方は、相互に原状回復義務を負う。法
律に別段の規定又は当事者に別段の約定がある場合を除き、次の各号に掲げる
規定に従わなければならない。
(1)他方より受領した目的物は、原物を返還しなければならない。
(2)受領した目的物が金銭である場合には、同額の金銭を返還し且つ受領時か
らの利息を付加しなければならない。
(3)受領した目的物が役務又は物の使用である場合には、金銭に換算して償還
しなければならない。
(4)受領した目的物に利息が生じている場合には、これを一括して返還しなけ
ればならない。
(5)返還すべき物につきすでに必要費又は有益費を支出している場合には、相手
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横浜法学第 24 巻第 2・3 号(2016 年 3 月)
方が返還を受けた時に取得した利益の限度内で、償還を請求する権利を有する。
(6)返還すべき物が毀損、滅失その他の事由により返還することができない場
合には、金銭に換算して償還しなければならない。契約中に反対給付について
約定されている場合には、当該反対給付をもって金銭換算による償還に代替し
なければならない。
第 925 条(契約解除の効力②─損害賠償)
契約の解除は、当事者による契約解除により被った損害賠償請求に影響を及
ぼさない。但し、債務者に約定された又は法定の免責事由がある場合は、この
限りではない。
第 926 条(契約解除により生じた義務の同時履行)
1 契約解除により当事者双方に生じた義務は、これを同時に履行しなければ
ならない。
2 前項の場合には、同時履行の抗弁権に関する規定を準用する。
第 927 条(清算条項)
契約が解除された後、契約中の清算条項の効力は、影響を受けない。
第 928 条(解除権の消滅)
1 当事者が解除権の行使期間を約定した場合において、当該期間が満了する
までに当事者がこれを行使することを怠ったときは、解除権は、消滅する。
2 当事者が解除権の行使期間を約定しなかった場合において、解除事由の発
生後一年以内に行使することを怠ったときは、解除権は、消滅する。
第 2 節 契約の終了
第 929 条(契約を終了する権利)
当事者の一方は、継続的契約において、契約の約定又は法律の規定により、
契約を終了する権利を有する場合には、契約を終了することができる。契約を
終了する権利の発生事由及びその行使については、契約解除に関する規定を準
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梁慧星中国民法典草案建議稿第三草案・契約編(上)
用する。
第 930 条(期間の定めのない契約の終了)
契約に継続的義務について約定されているものの存続期間についての定めが
無い場合には、双方当事者はいずれも、随時、契約を終了することができる。
但し、相手方当事者に対し、あらかじめ代替手段を求める合理的な期間を与え
なければならない。
第 931 条(終了の効力)
1 契約が終了した場合には、契約の効力は、将来に向かって消滅する。
2 契約終了後の損害賠償については、契約解除に関する規定を準用する。
第 32 章 違約責任
第 1 節 一般規定
第 932 条(違約の定義)
違約とは、一方当事者がその契約上の義務の履行を怠ることをいい、履行の
拒絶、瑕疵ある履行および履行遅滞を含む。
第 933 条(通則)
当事者の一方が契約上の義務の履行を怠った場合には、他方当事者は、履行
の継続、救済措置を講ずることおよび損害賠償等の違約責任を負うよう請求す
る権利を有する。
第 934 条(履行期前の違約責任)
当事者の一方が契約上の義務を履行しないことを明確に表示しまたはその行
為をもって表明した場合には、相手方当事者は、履行期間満了に先立ち、当該
一方に対し、違約責任を負うよう請求することができる。
第 935 条(第三者のための責任負担)
当事者の一方は、第三者の責めに帰すべき事由により違約した場合には、相
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手方に対し、違約責任を負わなければならない。当事者の一方と第三者との間
の紛争は、法律の規定又は約定に従い、これを解決する。
第 936 条(不可抗力)
1 不可抗力により契約を履行することができない場合には、不可抗力の影響
に応じて、責任の全部又は一部を免除する。但し、法律に別段の規定がある場
合は、この限りではない。当事者が履行を遅滞した後に不可抗力が発生した場
合には、責任を免除することができない。但し、履行を遅滞しなかったとして
も当該損害が生じたことを証明した場合は、この限りではない。
2 本草案にいう不可抗力とは、予見することができず、回避することができず、
且つ克服することができない客観的状況をいう。
3 当事者の一方は、不可抗力により契約を履行することができない場合には、
速やかに、これを相手方に通知して、相手方に生ずるおそれがある損害を軽減
し、且つ合理的な期間内に証明書を提出しなければならない。
第 937 条(違約当事者の救済)
1 当事者の一方が契約上の義務の履行を怠った場合において、履行期間がい
まだ満了していないとき又はその遅滞がいまだ本質的な違約を構成するに至っ
ていないときは、当該当事者は、自己の費用負担で、あらためて要求を満たし
た給付をすることができる。
2 違約当事者は、前項の規定によりその違約を治癒する場合には、次の各号
に掲げる条件を同時に満たさなければならない。
(1)違約当事者が、その予定治癒方法及び時期につき、いささかも遅滞するこ
となく、これを相手方当事者に通知すること。
(2)当該治癒が当時の状況に照らしてふさわしいものであること。
(3)相手方当事者に治癒を拒絶する適法な利益が無いこと。
(4)治癒が直ちに実施されること。
第 938 条(違約当事者による治癒の法的効果)
1 有効な治癒通知を受領した後、相手方当事者が有する違約当事者による治
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梁慧星中国民法典草案建議稿第三草案・契約編(上)
癒行為に抵触する権利は、治癒期間が満了するまで、これを停止しなければな
らない。
2 相手方当事者は、治癒期間中、自己の反対給付を拒む権利を有する。
3 治癒が実施されたにもかかわらず、損害を被った当事者は、履行遅滞によ
る及び治癒により生じた又は治癒によっても阻止できなかった損害につき、な
お損害賠償を請求する権利を留保する。
第 2 節 履行の継続及び救済措置
第 939 条(金銭債務の場合の履行不能の不発生)
当事者の一方は、代金、報酬、賃料若しくは利息の支払いを怠り、又は他
の金銭債務の履行を怠った場合には、履行不能をもって抗弁とすることがで
きない。
第 940 条(非金銭債務の場合の現実履行の強制)
当事者の一方が金銭以外の債務の履行を怠った場合には、相手方は、人民法
院に対し、現実履行の強制を請求することができる。但し、次の各号に掲げる
場合は、この限りではない。
(1)法律上又は事実上履行することができないとき。
(2)債務の目的物が強制履行に適さず又は履行費用が過大なとき。
(3)相手方当事者が合理的に他の手段により履行を受けることができるとき。
(4)相手方当事者が合理的な期間内に履行の請求を怠ったとき。
第 941 条(瑕疵ある履行の救済請求権)
当事者の一方は、契約上の義務の履行が約定に適合しなかった場合には、契
約の約定に従い、違約責任を負わなければならない。契約に違約責任について
の約定が無く又は約定が不明確な場合において、本草案第 908 条第 1 項の規定
によってもなお確定することができないときは、損害を被った当事者は、目的
物の性質及び損害の多寡に応じて、違約当事者に対し、修理、交換又は再製作
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横浜法学第 24 巻第 2・3 号(2016 年 3 月)
を合理的に選択して請求することができる。
第 942 条(損害賠償に対する不影響)
当事者の一方は、契約上の義務の履行を怠った場合において、本草案第 939
条の規定により義務の履行を強制され、又は前条の規定により救済措置を講じ
た後、相手方になお他の損害が生じたときは、損害を賠償しなければならない。
第 943 条(救済手段の変更)
1 債権者は、違約当事者に対し金銭以外の債務の履行を請求した場合におい
て、所定の期間内又は当該期間が無い場合には一定の合理的な期間内に履行を
得られなかったときは、他の救済手段を講ずることができる。
2 非金銭債務履行判決が執行されなかった場合には、債権者は、他の救済手
段を講ずることができる。
第 3 節 代金減額
第 944 条(代金減額請求権)
1 当事者の一方による契約上の義務の履行が約定に適合していない場合には、
相手方当事者は、代金又は報酬の減額を主張する権利を有する。減額される代
金又は報酬の額は、履行提供時における要求に適合した履行に満たない価額に
相当するものでなければならない。
2 相手方当事者は、前項の規定により代金又は報酬の減額を主張する場合に
おいて、違約当事者が履行した現実の価額を超える代金又は報酬をすでに支
払ったときは、違約当事者に対し、超過部分の代金又は報酬の返還を請求する
権利を有する。
3 相手方当事者は、代金減額請求権を行使した後は、履行価額の不足につき、
もはや損害賠償を請求することはできない。但し、自己が被った他の損害につ
き、なお賠償を請求する権利を有する。
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梁慧星中国民法典草案建議稿第三草案・契約編(上)
第 4 節 損害賠償
第 945 条(損害賠償請求権)
1 当事者の一方が違約し相手方に損害を及ぼした場合には、相手方は、賠償
を請求する権利を有する。但し、当事者の約定又は法律の規定により免責可能
である場合は、この限りではない。
2 賠償を得ることが可能な損害は、現実の財産損害のほか、次の各号に掲げ
るものを包含することができる。
(1)非財産的損害
(2)合理的に発生が見込まれる将来の損害
第 946 条(完全賠償)
違約にもとづく賠償は、損害を被った当事者を契約が正常に履行された場合
に置かれる状態に置くことを標準とし、損害賠償の額は、違約により生じた損
害に相当するものでなければならず、契約履行後の得べかりし利益を含む。
第 947 条(予見可能性)
契約に反した一方の損害賠償額は、契約締結時に予見し又は予見すべきで
あった、契約違反により生ずる可能性がある損害を超えることはできない。
第 948 条(損害軽減義務)
1 当事者の一方が違約した後、相手方は、適切な措置を講じて、損害の拡大
を防止しなければならない。適切な措置を講じなかったため損害が拡大した場
合には、拡大した損害につき賠償を請求することができない。
2 当事者が損害拡大防止により支出した合理的な費用は、違約当事者の負担
とする。
第 949 条(損益相殺)
当事者の一方は、同一の原因事実から損害を被り且つ利益を得た場合には、
その請求する賠償額から得た利益を控除しなければならない。
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横浜法学第 24 巻第 2・3 号(2016 年 3 月)
第 950 条(損害賠償の算定①─代替取引)
損害を被った当事者は、すでに契約を解除し、且つ合理的な期間内に合理的
な方法で代替取引をした場合には、原契約代金と代替取引代金との差額その他
の損害の賠償を請求することができる。
第 951 条(損害賠償の算定②─時価)
被害当事者がすでに契約を解除し且つ代替取引をしなかったものの、約定さ
れた履行に時価がある場合には、当該当事者は、契約解除時の契約代金と時価
との差額その他の損害の賠償を請求することができる。
第 952 条(金銭債務の遅延損害金)
1 一方当事者が履行期の到来した金銭債務の履行を怠った場合には、損害を
被った当事者は、当該債務の履行期到来時から支払い時までの利息の支払いを
請求する権利を有する。
2 当事者が有効に利率を約定した場合には、約定利率を適用する。約定利率
が無い場合には、支払地の銀行における短期貸出金利の平均値を適用する。
3 損害を被った当事者は、金銭債務の履行遅滞により他の損害を被った場合
には、賠償を請求する権利を有する。
第 5 節 違約金
第 953 条(損害賠償の予定、違約金及びその効力)
1 当事者は、一方が違約した場合に違約状況に応じて相手方に対し支払わな
ければならない一定額の違約金を約定することができ、違約により生じた損害
賠償の算定方法を約定することもできる。
2 違約金は、当事者に別段の約定がある場合を除き、違約により生じた損害
賠償の総額とみなす。債権者は、違約金の支払いを請求した後は、もはや債務
の履行を請求することができない。但し、債務者が適切な時期に債務を履行す
ることを怠り又は適切な方法で債務を履行することを怠った場合には違約金を
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梁慧星中国民法典草案建議稿第三草案・契約編(上)
支払わなければならない旨を約定した場合には、債権者は、違約金の支払いの
ほか、債務の履行を請求することができる。
第 954 条(一部履行の斟酌)
債務の一部がすでに履行されている場合には、人民法院又は仲裁機関は、債
権者が一部履行により得た利益を斟酌して、違約金を減額しなければならない。
第 955 条(違約金の額の調整)
約定された違約金が違約により生じた損害の額を過分に下回った場合には、
当事者は、人民法院又は仲裁機関に対し、増額を請求することができる。約定
された違約金が違約により生じた損害の額を過分に上回った場合には、違約当
事者は、人民法院又は仲裁機関に対し、適切な減額を請求することができる。
第 956 条(準違約金)
当事者が、一方が違約した場合には金銭以外の給付をしなければならないこ
とを約定した場合には、違約金に関する規定を準用する。
第 6 節 手 付
第 957 条(手付及びその成立)
1 当事者は、一方が相手方に対し手付を給付して債権の担保とすることを約
定することができる。
2 手付は、書面をもって、これを約定しなければならない。手付契約は、手
付が現実に支払われた時に成立する。現実に支払われた手付の額が約定された
金額より多い場合又は少ない場合には、手付契約は変更されたものとみなす。
一方が異議を唱え且つ手付金の受領を拒んだ場合には、手付契約は、成立しな
い。
第 958 条(手付受領の効力)
契約の一方当事者が他方当事者の交付した手付を受領した場合には、契約が
成立したものと推定する。
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横浜法学第 24 巻第 2・3 号(2016 年 3 月)
第 959 条(手付の効力)
手付には、次の各号に掲げる規定を適用する。但し、当事者に別段の約定が
ある場合は、この限りではない。
(1)契約が履行された場合には、手付は、これを返還し又は給付の一部としな
ければならない。
(2)手付を給付した一方当事者の責めに帰すべき事由により契約が履行されな
かった場合には、手付は、返還を請求することができない。一部が履行されな
かった場合には、未履行部分に相応する手付は、返還を請求することができな
い。
(3)手付を受領した一方当事者の責めに帰すべき事由により契約が履行されな
かった場合には、当該当事者は、手付を倍返ししなければならない。一部が履
行されなかった場合には、未履行部分に相応する手付を倍返ししなければなら
ない。
(4)契約が、双方の責めに帰すことができない事由により履行されなかった場
合には、手付は、返還しなければならない。
第 960 条(違約金と手付の適用)
当事者が違約金と共に手付を約定した場合において、一方が違約したときは、
相手方は、違約金又は手付条項を選択してこれを適用することができる。但し、
当事者に別段の約定がある場合は、この限りではない。
第 961 条(手付の額の調整)
約定された手付の額が違約により生じた損害の額を過分に下回った場合に
は、当事者は、人民法院又は仲裁機関に対し、増額を請求することができる。
約定された手付の額が違約により生じた損害の額を過分に上回った場合には、
違約当事者は、人民法院又は仲裁機関に対し、適切な減額を請求することがで
きる。
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