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広告再生における示唆的ブランド・ネームの有効性 - C
2008 年度東京学芸大学教育学部 久保知一研究室第 2 期卒業論文 広告再生における示唆的ブランド・ネームの有効性 谷澤 渓介 <要旨> 今日、市場で販売されているほぼ全ての製品やサービスにつけられているブランド・ネームには、 その有意味性によって製品やサービスのベネフィットや特徴を伝達するものと、そうでないものが 存在する。「示唆的ブランド・ネーム」と呼ばれる前者と「非示唆的ブランド・ネーム」と呼ばれ る後者は、市場に混在しているものの、どのような場合に示唆的ブランド・ネームの選択が有効で あるのか、という問いに対する理論的説明はなされていない。本論は、ブランド・ネームの示唆性 が広告再生に与える影響に着目し、消費者データを用いて実証分析を行うことによって、この問い に答えようとするものである。認知心理学からのアプローチによる理論的検討の結果、示唆的ブラ ンド・ネームは、新規属性よりも既存属性、経験属性よりも探索属性、高関与な製品よりも低関与 な製品の場合に、より広告再生を改善しうることが仮説化される。また、架空の製品広告を用いた 広告再生実験によって得られたデータを用いた実証分析の結果、新規属性よりも既存属性、高関与 な製品よりも低関与な製品の場合において、示唆的ブランド・ネームが広告再生を高める効果があ ること、経験属性と探索属性の違いは、ブランド・ネームの示唆性と何ら交互作用を持たないこと が知見として論じられる。 <キーワード> ブランド、示唆的ブランド・ネーム、非示唆的ブランド・ネーム、広告再生、新規属性、既存属 性、経験属性、探索属性、関与、処理水準モデル、検索手がかり 1.イントロダクション 現在、市場で販売されているほぼ全ての製品やサービスにはブランド・ネームが付けられている。「ブ ランド」とは、米国マーケティング協会によれば、 「ひとつあるいは複数の売手の財・サービスを同定化 し、競争相手のそれから差異化する、名前・用語・記号・象徴、またそれらが統合されたものである」 (American Marketing Association, 2007) と定義されている。このように「ブランド」という概念はもともと、 1 製品あるいはサービスを同定化し、他の製品と区別する製品名、あるいは製品識別要素そのものを示す記 号であるに過ぎない。しかし、世の中に存在するブランド・ネームの中には、製品の識別記号であるにと どまらず、ブランド・ネームの有意味性によってその製品やサービスの特徴やベネフィットを伝達してい るブランドが多数存在する1。このようなブランド・ネームは「示唆的ブランド・ネーム」と呼ばれる。 示唆的ブランド・ネームとは、「特定の製品内容に関連した属性情報やベネフィット情報を伝達するブラ ンド・ネーム」と定義される (Keller, Heckler & Houston, 1998)。その一方で、 「非示唆的ブランド・ネーム」 と呼ばれる、ブランド・ネーム自体は何ら意味を有せず、その製品の特徴やベネフィットを伝達している わけではないブランドも同様に多数存在している2。さらに興味深いことは、示唆的ブランド・ネームと 非示唆的ブランド・ネームは、同一の製品カテゴリーにも混在しているということである3。しかしなが ら過去のマーケティング研究においては、示唆的ブランド・ネームは製品の性質やマーケティング環境に おいて、どのような場合に有効であるのかといった理論的説明はなされていない。それゆえ、示唆的ブラ ンド・ネームの有効性を解明しようとする本研究の意義は大きいと考えられる。 新製品投入時、もし企業が消費者に対して広告宣伝活動などのコミュニケーションを行わなければ、消 費者は企業が意図した製品ポジショニング (属性や属性水準の組み合わせ) を正しく知覚するとは限らな い。消費者の知覚を企業の意図するポジショニングへと近づけ、市場においてベネフィカルなポジショニ ングを獲得するために、企業はプロモーションなどのマーケティング活動に多くのコストを費やしている。 これまでにも述べた通り、示唆的ブランド・ネームはその有意味性によって、製品の特徴やベネフィッ トを消費者にある程度伝達することが可能である。したがって示唆的ブランド・ネームは、消費者が企業 による広告などのプロモーションに接触した際に、ブランド・ネームと意味的関連性のある属性の知覚を 促進し、企業が意図するポジショニング獲得のためのマーケティング活動を助ける特徴があると言い換え ることができよう。Walker & Gonten (1989) は、広告の有効なリーチを確認するためには、再生想起の内 容を確かめることが必要であり、特に、再生された内容とブランドとが正しい組み合わせになっているか どうかの確認が重要である、と述べている。よって本研究では、示唆的ブランド・ネームの有効性につい て広告再生の観点からアプローチしていく。 本研究は以下のように構成される。まず、第 2 節において、先行研究のレビューを試みる。具体的には、 ブランド・エクイティの概念に触れた後で、これまでに行われたブランド・ネームの選択基準や有効性に 1 例えば、日経 TRENDY 2008 年ヒット商品の中では、 「麒麟 ZERO」(キリンビール)、 「スープ de おこげ」 (ハウス食品)、「めぐリズム 蒸気でホットアイマスク」(花王) などが挙げられる。 2 例えば、日経 TRENDY 2008 年ヒット商品の中では、 「Eee PC 4G-X」(アスース・ジャパン)、 「iPhone 3G」 (アップル) などが挙げられる。 3 例えば、ボディソープという製品カテゴリーにおいて、示唆的ブランド・ネームである「植物物語」 (植 物原料使用) と、非示唆的ブランド・ネームである「ビオレ」が存在し、食器洗剤という製品カテゴリー においても、示唆的ブランド・ネームである「キュキュット」(汚れをキュキュっと落とす) と、非示唆的 ブランド・ネームである「ジョイ」が存在している。 2 関する研究をレビューし、既存研究の問題点を抽出する。続く第 3 節においては、理論仮説の提唱を行う。 具体的には、まず広告の情報処理過程について認知心理学の側面から考察を行い、その考察に基づいて、 ブランド・ネームの示唆性とともに広告再生に影響を与える 3 つの規定要因――すなわち新規属性/既存 属性、経験属性/探索属性、関与の高低による分類――を挙げ、それらの規定要因が広告再生に影響する メカニズムについての理論仮説の提唱を試みる。第 4 節においては、前節の仮説の経験的妥当性をテスト するために、大学生サンプルを用いて広告再生実験を行う。第 5 節において、前節の実験によって得られ たデータを用いて、示唆的/非示唆的ブランド・ネームを一つ目の分類変数、3 つの規定要因をそれぞれ 二つ目の分類変数として、二元配置の分散分析を行い、それぞれの分類変数の主効果と、両変数の交互作 用を分析する。最後に第 6 説において、実証分析によって得られた知見のまとめと考察を行い、研究の限 界と今後の課題について述べる。 2.先行研究のレビュー Aaker (1991) が「同種の製品であっても、そのブランド・ネームがついていることによって価値に差異 が生じる」と指摘したように、ブランドは、製品の単なる識別記号を超えて、競合財から差異化するとい う機能をもつことが注目されている。Allison (1964) はビールの試飲実験によって、ブランド名を隠して 試飲したときにはほとんど識別できなかったビールの味を、ブランド名が提示されると識別できるように なることを示している。また、Sullivan (1998) は、中古車を対象に、製品属性が同種の中古車であっても、 ブランドの違いによって価格に差が出ることを明らかにしている。これらの結果が示すものは、イメージ や経験をまとったブランド・ネームは、その製品に対するマーケティング効果に影響を与えているという ことである。このようなブランド・ネームによる付加価値はブランド・エクイティ4と呼ばれ、多くのマ ーケティング研究者によって盛んに研究が行われている。ブランド・エクイティの構築は、重要なブラン ド戦略であるが、もうひとつの重要なブランド戦略として、新製品投入時のブランド・ネームの選択を挙 げることができる。 新製品投入時におけるブランド・ネームの選択は、新製品のブランド認知や、ポジショニング、ブラン ド・イメージの形成に影響を与える為、重要な戦略であり、かつブランド・ネームは売り手企業の意思に よって自由に決定できるものである。過去の研究においては、「海」、「蛙」 、「植物」、「紙」などの「イメ ージしやすい」名称は、 「歴史」、「事実」 、「時間」、「記憶」などの「イメージしにくい」名称に比べ、い 4 ブランド・エクイティに関する定義や見解はさまざまであるが、Keller (1998, p.78) は「あるブランドの マーケティングに費やされた過去の投資の結果として製品に付与される『付加価値』 」という基本的な考 えを指摘している。 3 かなる再生 5 や再認 6 の尺度においても極めて覚えやすいことが明らかになっている (cf. Keller, 1998; Robertson, 1987)。Robertson (1989) は、記憶に関する特性 (簡素、独特、有意味性など)、ブランド・イメ ージの形成に関する特性 (韻、リズム、形態素など) による “良い” ブランド・ネームの選択基準を解説 的に論じている。さらに伊藤 (1999) は、ネーミング7や CM 表現とブランド再認知名率との関係を調査し、 あまりにも短いネーミング (4 音節以内) や長すぎるネーミング (8 音節以上) 、アルファベットのみで表 記されたネーミングは覚えにくく、商品カテゴリー名がネーミングに含まれるもの8は知名率が上がりや すくなることを明らかにしている。また、Bao, Shao, & Rivers (2008) はブランド名9と製品カテゴリーとの 関連性 (ブランド名によって当該ブランドの製品カテゴリーが表現されている程度)、コノテーション (ブ ランド名が製品イメージを消費者に示す程度)、ブランド名の発音の簡易さの 3 変数が、ブランド選好を 高めることを示している。このように先行研究においても、これまでにさまざまなブランド・ネームの選 択基準や有効性が論じられてきた。 本論における筆者の関心は、ブランド・ネームにおける「示唆性」という概念である。Keller, et al. (1998) は、被験者に対して架空の製品広告を提示し、後に製品カテゴリーとブランド・ネームを手がかりとして ベネフィット主張を再生させる広告再生実験によって、示唆的ブランド・ネーム (示唆性の高いブラン ド・ネーム) は、非示唆的ブランド・ネーム (示唆性の低いブランド・ネーム) に比べて、ブランド・ネ ームと意味的関連性の高い製品ベネフィットの再生を高めることを明らかにしている。彼らの研究は、示 唆的ブランド・ネームが強いブランド連想を生み出すという一般的効果を明らかにしているが、耐久財一 般について述べるにとどまっており、どのような性質を持った財の場合に示唆的ブランド・ネームが有効 に機能するのかについては明らかにされていない。現実世界に照らしても、示唆的なブランド・ネームと 非示唆的なブランド・ネームの双方が存在し、かつ同一の製品カテゴリーにおいても双方が混在している。 したがって、どのような場合に示唆的ブランド・ネームが効果的であるかを検証することには価値がある。 第 1 節でも述べたとおり、示唆的ブランド・ネームは広告時における消費者のベネフィット認知を助け ると考えられる。よって広告再生の観点から「示唆的ブランド・ネームはどのような製品や環境の場合に 有効であるのか」という問いに対するアプローチを行う。 広告再生に関する情報処理過程は、広告内容の「記憶」と「検索」の 2 つの過程に分けて考えることが できる。広告内容の「記憶」の過程とはすなわち、消費者が広告に接触し、広告の情報を記銘する過程で ある。一方で広告内容の「検索」の過程とは、広告について記銘された記憶内の情報を、検索して再生す 5 再生とは、過去に経験した刺激事象を、口頭ないしは筆記により、どの程度思い起こすことができるか を測定する課題である。 6 再認とは、過去に経験した刺激事象に再び出合ったときに、口頭ないしは筆記により、どの程度その事 象を正しく識別することができるかを測定する課題である。 7 ここでは、「ブランド・ネーム」と同義として扱う。 8 例えば「のほほん茶」、「こくまろカレー」などである。 9 ここでは、「ブランド・ネーム」と同義として扱う。 4 る過程である。以下では、この「記憶」と「検索」という二つの過程について、それぞれ認知心理学の側 面から考察を行う。 ○記憶の理論 広告内容の記憶の研究として挙げられるのは、認知心理学における処理水準モデル (Craik & Lockhart, 1972) である。処理水準モデルとは、人間は情報を形態的処理のような「浅い水準の処理」から、意味的 処理のような「深い水準の処理」に至る水準の処理を連続的に行っていく、という記憶のメカニズムであ る。処理水準モデルにおいては、より深い水準での処理こそが記憶の忘却を防ぐと主張されている。消費 者が広告に接した際の情報処理の深さは、広告された製品の性質の違いや、製品に対する個人の嗜好の違 い、広告に接触した個人の属性の違いなどによって大きく異なるため、広告再生に影響を及ぼすものと考 えられる。 ○検索の理論 広告内容の再生について考察すべきは、検索手がかりの効果である。われわれは日常生活の中で、思い 出すことができず、忘却されたと思われる記憶が、時として手がかりを与えることで思い出されることが ある10。これは情報の利用可能性 (availability) と情報のアクセス可能性 (accessibility) が区別されるから である。Tulving & Pearlstone (1966) は、鳥、野菜などのカテゴリーに含まれる単語を被験者に記銘させ、 自由再生と手がかり再生 (カテゴリー名を手がかりとして与えられる) によって再生される単語数を比較 し、手がかり再生のほうが、自由再生よりも再生単語数が多いことを明らかにしている。つまりある情報 は、記憶内において利用可能ではあるが自由再生条件下ではアクセスできない。しかし、検索手がかりを 与えることによってアクセスできるようになる場合があるということである。広告再生においても同じこ とが言える。つまり、広告内容を再生する際に手がかりとなるものの存在が、記憶内の広告内容へのアク セスを高め、広告再生を高めると考えられるのである。 ここで着目すべき点は、示唆的ブランド・ネームは、検索手がかりとして働くと考えられることである。 過去のブランド・ネーム研究においても、有意味で視覚的に表現されたブランド・ネームは、広告によっ て伝達されたブランド情報の記憶を促進するものと指摘されてきた (cf. Childers & Houston, 1984; Lutz & Lutz, 1977)。さらに Keller (1987, 1991a, b) は、非示唆的なブランド・ネームが、記憶に保持されたコミュ ニケーションに対し、貧弱なリマインダーとしてしか作用しないことが多いことを指摘している。これら を踏まえ、Keller et al. (1998) は、示唆的ブランド・ネームは非示唆的ブランド・ネームに比べ、意味的関 10 例えば知識を問われるクイズ問題を出題され、答えることができない回答者に、選択肢やヒントなど の手がかりを与えることで、記憶が甦り、正解する光景を目にするであろう。 5 連性がある広告上のベネフィット主張を再生させやすいことを広告再生実験によって明らかにしている のである。 3.理論仮説の提唱 これより、広告接触時における情報処理の深さに影響を及ぼしうる 3 つの製品の分類変数について触れ、 それぞれの分類によって、広告再生時に示唆的ブランド・ネームがどの程度、検索手がかりとして働くの かという仮説の提唱を試みる。 ○新規属性/既存属性 広告接触時における情報処理の深さに影響を及ぼすと考えられる分類変数の一つ目は、広告されたベネ フィットが新規属性であるのか、または既存属性であるのか、という分類である。新規属性とは、――例 えば技術的な要因によって――これまで市場に存在しなかった (あるいは存在していても一般的でない) 属性のことである。また既存属性とは、これまでも市場に存在し、かつ世間一般に浸透している属性のこ とである。 広告されたベネフィットが新規属性であれば、広告に接触した消費者にインパクトを与え、その分広告 接触時の情報処理水準は深くなるであろう。広告されたベネフィットが新規属性ではなく、既存属性であ るならば、消費者は他の製品の広告においても同一のベネフィット主張を見慣れており、新規属性の場合 に比べて情報処理水準はそれほど深くならないはずである。以上から、広告再生の際にブランド・ネーム が検索手がかりとして働かない非示唆的ブランド・ネームの場合において、次の仮説を導くことができる。 仮説 1-1 非示唆的ブランド・ネームの場合、広告されたベネフィットが新規属性であるほうが、新規 属性でないときよりも広告再生が高まる。 では示唆的ブランド・ネームの場合には広告再生はどのように変化するだろうか。示唆的ブランド・ネ ームは広告再生時に検索手がかりとして働く。したがって新規属性であっても既存属性であっても、広告 再生は非示唆的ブランド・ネームの場合よりも高くなるであろう。既存属性の場合においては、広告接触 時の処理水準が浅く、ブランド・ネームとベネフィットの結びつきが弱いため、広告再生時の検索手がか りが有効に機能すると思われる。それに対して新規属性の場合には、既に深い処理水準によってブラン ド・ネームとベネフィットが結びついていると考えられるので、示唆的ブランド・ネームが手がかりとし て働く効果はそれほど大きくないと考えられる。以上から、次の仮説を導くことができる。 6 仮説 1-2 示唆的ブランド・ネームによって広告再生が高まる効果は、広告されたベネフィットが既存属 性であるほうが、新規属性であるときよりも大きい。 仮説 1-1 および 1-2 は、図表 1 のように表わされる。仮説 1-1 は、a0>b0 であることを意味している。 一方、仮説 1-2 は a0-a1 よりも b0-b1 のほうが傾きが急になることを意味している。ここでは a1 と b1 の広告再生の大小について述べていないことに留意されたい。 図表 1: 仮説 1 群 広告再生 a1 a0 b1 新規属性 既存属性 b0 NBN SBN NBN: 非示唆的ブランド・ネーム (Non-Suggestiveness Brand Name) SBN: 示唆的ブランド・ネーム (Suggestiveness Brand Name) ○経験属性/探索属性 広告接触時における情報処理の深さに影響を及ぼすと考えられる分類変数の二つ目は、広告されたベネ フィットが、経験属性であるのか、探索属性であるのか、という分類である。探索属性とは、購入前にそ の商品の品質が判定できるような属性のことである。それに対して経験属性とは、購入前には商品の品質 が判定しにくいが、購入した (使用した) 後に品質が判定できる属性のことである。広告されたベネフィ ットが探索属性である場合、消費者はその製品を購入する以前に品質が判断できるため、広告接触時の品 質についての認知反応 (注意・注目、解釈意味づけ) は、経験属性である場合に比べて起こりにくいと考 えられる。したがって、広告接触時の情報の処理水準は、経験属性のほうが探索属性に比べて深くなるで あろう。以上から、広告再生の際にブランド・ネームが検索手がかりとして働かない非示唆的ブランド・ ネームの場合において、次の仮説を導くことができる。 仮説 2-1 非示唆的ブランド・ネームの場合、広告されたベネフィットが経験属性であるほうが、探索属 性であるときよりも広告再生が高まる。 7 このとき、示唆的ブランド・ネームは検索手がかりとしてどのように働くのだろうか。示唆的ブランド・ ネームが検索手がかりとなるために、広告されたベネフィットが経験属性、探索属性の場合ともに非示唆 的ブランド・ネームに比べ、広告再生は高まるであろう。探索属性の場合においては、広告接触時の情報 処理水準が浅く、ブランド・ネームとベネフィットの結びつきが弱いため、広告再生時の検索手がかりが 有効に機能すると思われる。それに対して経験属性の場合には、既に深い処理水準によってブランド・ネ ームとベネフィットが結びついていると考えられるので、示唆的ブランド・ネームが手がかりとして働く 効果はそれほど大きくないと考えられる。以上から、次の仮説を導くことができる。 仮説 2-2 示唆的ブランド・ネームによって広告再生が高まる効果は、広告されたベネフィットが探索属 性であるほうが、経験属性であるときよりも大きい。 仮説 2-1 および 2-2 は、図表 2 のように表わされる。仮説 2-1 は、c0>d0 であることを意味している。 一方、仮説 2-2 は c0-c1 よりも d0-d1 のほうが傾きが急になることを意味している。ここでは c1 と d1 の広告再生の大小について述べていないことに留意されたい。 図表 2: 仮説 2 群 広告再生 c1 c0 d1 経験属性 探索属性 d0 NBN SBN ○関与の高低 広告接触時における情報処理の深さに影響を及ぼすと考えられる分類変数の三つ目は、広告された製品 が、個々の消費者にとって高関与であるのか、低関与であるのか、という分類である。マーケティング論 における関与の定義は多岐に渡り、既存研究における関与概念も多様を極めるが、こと本論中における関 与とは、 「購買関与」を示している。 「購買関与」とは、購買意思決定に先駆けて行われる情報取得活動を 動機づけられた心理状態を意味する (小野、1999)11。すなわち、広告された製品が消費者にとって高関与 11 小野 (1999, p.30) は、“ある消費者の「購買関与」とは、その消費者の、情報取得コストによる予算減 少分を考慮した情報取得活動後の期待効用水準と、情報取得活動前の期待効用水準の差である” と定義し ている。 8 な財であれば、消費者は広告された情報の取得活動に積極的になるであろう。したがって、広告接触時の 情報の処理水準は、高関与な製品のほうが低関与な製品に比べて深くなると考えられる。以上から、広告 再生の際にブランド・ネームが検索手がかりとして働かない非示唆的ブランド・ネームの場合において、 次の仮説を導くことができる。 仮説 3-1 非示唆的ブランド・ネームの場合、広告された製品が個々の消費者にとって高関与であるほう が、低関与であるときよりも広告再生が高まる。 ではこのとき、製品が示唆的ブランド・ネームを冠した場合、広告再生はどのように変化するだろうか。 広告再生時の検索手がかりとして働く示唆的ブランド・ネームの効果によって、高関与の場合、低関与の 場合共に広告再生は高まると考えられる。広告された製品が消費者にとって低関与な場合においては、広 告接触時の情報処理水準が浅く、ブランド・ネームとベネフィットの結びつきが弱いため、広告再生時の 検索手がかりが有効に機能すると思われる。それに対して消費者にとって高関与な場合には、既に深い処 理水準によってブランド・ネームとベネフィットが結びついていると考えられるので、示唆的ブランド・ ネームが手がかりとして働く効果はそれほど大きくないと考えられる。以上から、次の仮説を導くことが できる。 仮説 3-2 示唆的ブランド・ネームによって広告再生が高まる効果は、広告された製品が個々の消費者に よって低関与であるほうが、高関与であるときよりも大きい。 仮説 3-1 および 3-2 は、図表 3 のように表わされる。仮説 3-1 は、e0>f0 であることを意味している。 一方、仮説 3-2 は e0-e1 よりも f0-f1 のほうが傾きが急になることを意味している。ここでは e1 と f1 の広告再生の大小について述べていないことに留意されたい。 図表 3: 仮説 3 群 広告再生 e1 e0 f1 f0 NBN SBN 9 高関与 低関与 4.実験方法 ○実験手順 「広告と製品カテゴリーに関する調査」という名目で、ある都内国立大学を中心に 64 人の大学生が実 験に参加した。実験に際して被験者には、広告再生テストであることは告げられず、スライドで広告を見 ながらいくつかの質問に回答する調査である、とだけ伝えられた。 実験は 2 つのセッションからなり、約 40 分にわたり行われた。第 1 セッションでは、被験者は、スラ イド画面に 30 秒ずつ映し出された 32 枚の静止画の広告物を見るとともに、それぞれ仮説 3 の実証に用い る関与を測るため――すなわち高関与と低関与への分類変数を作成するため――に用意された 3 つの質問 に回答した。 その後、被験者の情報処理能力を測る名目で 30 秒間のディストラクター課題 (計算作業) を行い、5 分 間の休憩を取ったのち、第 2 セッションに移行した。第 2 セッションでは、スライド画面上に、第 1 セッ ションで広告された広告のうち、製品カテゴリーと製品名が表示され、被験者は広告されたベネフィット 主張がどんなものであったかを自由再生した。 ○刺激について 示唆的/非示唆的ブランド・ネーム、新規属性/既存属性、経験属性/探索属性によって 6 つの広告グ ループ (グループ A~F・図表 4 参照) を作成し、それぞれ 4 つの架空の製品、計 24 個とその広告物を同 一フォーマットによって制作した。24 枚の広告は 12 製品カテゴリー × 2 製品となるようにし、2 製品は それぞれ示唆的ブランド・ネーム、非示唆的ブランド・ネームの対とした。広告物には、製品カテゴリー、 製品名、写真、特長 (主張ベネフィットを一言で表したもの)、3~4 行のベネフィットを記述した商品説 明文を掲載した。商品説明文中でブランド・ネームに一回触れるようにした (付属資料 4 参照)。 示唆的ブランド・ネームは、例えば USB メモリー「データプロテクト」といった具合に、広告される 製品ベネフィットをネームの中に明確に取り込むように作成した。非示唆的ブランド・ネームは、例えば USB メモリー「フェイカ」といった具合に、製品の意味を含まないように作成した。製品カテゴリー、 ブランド・ネーム、主張ベネフィットの組み合わせは図表 5 の通りである。 第 1 セッションにおいては、24 枚の広告をランダムに提示するとともに、初頭性効果 (primacy effect)12 ならびに親近性効果 (recency effect)13を統制するため、24 枚の広告の前後にそれぞれ分析には使用しない 12 初頭効果とは、 「系列学習において、系列の頭に近い項目の方が、中間の項目よりも思い出しやすい傾 向」である (藤永・仲、2005)。 13 親近性効果とは、 「系列学習において、学習された一連の項目の終わりの項目に対して記憶が良くなる こと」である (藤永・仲、2005)。 10 4 つずつのダミー広告を作成するとともに、セッション 1 の直後にディストラクター課題14として 30 秒間 の計算作業を課した (付属資料 2 参照)。ダミー広告についても同一のフォーマットに基づき制作された。 第 2 セッションにおいては、第 1 セッションとは異なるランダム順序で被験者に課題が提示された。 図表 4: 広告グループ グループ C1 C2 C3 SBN/NBN 新規/既存属性 経験/探索属性 A SBN 新規属性 経験属性 B SBN 既存属性 経験属性 C NBN 新規属性 経験属性 D NBN 既存属性 経験属性 E SBN 既存属性 探索属性 F NBN 既存属性 探索属性 図表 5: ブランド・ネーム-主張ベネフィット一覧 グループ A B C D E F X (ダミー) 1 A1 ワイシャツ 「エリケア」 /首周りや袖口が黒ずまない B1 電動自転車 「サカアシスト」 /坂道がラクに上れる C1 ワイシャツ 「アムルタート」 /透けない D1 電動自転車 「エスパシオ」 /豊富なカラーバリエーション E1 ティッシュペーパー 「あつがみ」 /ふんわりした厚み F1 ティッシュペーパー 「レーテン」 /肌にやさしい X1 スポーツドリンク 「クリプス」 /アミノ酸が豊富 X5 ミキサー 「トレービス」 /簡単に洗える 2 A2 デジタルカメラ 「ダイバー」 /水中撮影可能 B2 栄養ドリンク 「覚醒」 /眠気すっきり C2 デジタルカメラ 「サリート」 /無線 LAN で写真を送れる D2 栄養ドリンク 「フション」 /肌あれに効く E2 USB メモリー 「データプロテクト」 /セキュリティが高い F2 USB メモリー 「フェイカ」 /大容量 X2 スポーツドリンク 「ビタミン X」 /ビタミンが豊富 X6 ミキサー 「コールドシェイカー」 /保冷ができる 14 3 A3 ビール 「おやすみビア」 /心地よい眠気を誘う B3 冷蔵庫 「鮮蔵」 /野菜の鮮度を保つ C3 ビール 「タンタロス」 /二日酔いになりにくい D3 冷蔵庫 「フリゴリー」 /エコロジー E3 ボールペン 「ロングライフ」 /インクが長持ち F3 ボールペン 「ベーダ」 /極細 X3 スーツケース 「ハイドビー」 /耐久性に優れる X7 スタンドライト 「フィクサ」 /LED ライト 4 A4 ベッド 「温眠ベッド」 /冷たい布団を暖める B4 衣料洗剤 「パワフルイン」 /ガンコ汚れを落とす C4 ベッド 「シングロール」 /目覚まし機能つき D4 衣料洗剤 「ベリータ」 /香りが長続き E4 手帳 「ポケットイン」 /コンパクト F4 手帳 「ノールドミレ」 /路線図つき X4 スーツケース 「フットワーク」 /軽い X8 スタンドライト 「オートライト」 /明るさ自動調整 広告番号 製品カテゴリー 「ブランド・ネーム」 /主張ベネフィット Glanzer & Cunitz (1966) は、30 秒間の計算作業によって、親近性効果が統制されることを明らかにして いる。 11 ○従属変数 本研究における従属変数はベネフィット主張の助成想起率である。仮説 1 および仮説 2 については、示 唆的/非示唆的ブランド・ネーム、新規属性/既存属性、経験属性/探索属性によって分類した 6 つの広 告グループの中で、いくつの製品についてそのベネフィット主張を正しく想起できたのか、その正解数を 従属変数とした。仮説 3 については、セッション 1 において観測された関与の分類変数によって、被験者 ごとに高関与な製品と低関与な製品とに分類し、その中でのベネフィット想起の正解率を従属変数とした。 5.分析結果 第 3 節において提唱された仮説の検証のために、SPSS○R 15.0J を用いて「ベネフィット主張の助成想起 率」を従属変数、示唆的/非示唆的ブランド・ネームを一つ目の分類変数、3 つの規定要因――すなわち 新規属性/既存属性、経験属性/探索属性、関与の高低による分類――をそれぞれ二つ目の分類変数とし て、二元配置の分散分析を行った。 第 2 セッションにおける再生テストでは、製品カテゴリーと製品名が表示され、被験者は広告されたベ ネフィット主張がどんなものであったかを自由再生した。自由再生された回答は、ベネフィット主張と同 一または同義の再生がなされているものを正解、そうでないものまたは無回答のものを不正解と判定した。 また、商品説明文に記載されたベネフィット主張についてのより詳細な説明を再生した回答も正解として 扱った。その後、6 つに分けられた広告群 (上記参照) の中で、ベネフィット主張が正しく再生された製 品の数を従属変数である「ベネフィット主張の助成想起率」として算出した。 なお、仮説 3 群に関してのみ、関与の高低による分類を被験者への質問項目15により作成した後、従属 変数である「ベネフィット主張の助成想起率」を以下の分母・分子から算出した。 分母 : 示唆的 (あるいは非示唆的) ブランド・ネームであり、高関与 (あるいは低関与) と判断された製品 の数。 分子 : 分母に含まれる製品のうち、再生テストによってそのベネフィット主張が正しく再生された製品の数。 算出を行う際、関与の高低の判断に偏りのあるサンプル――すなわち上記の分母が 4 未満であったもの ――については、分析の対象から除外した。 示唆的/非示唆的ブランド・ネームを一つ目の分類変数、新規属性/既存属性を二つ目の分類変数、ベ 15 関与を分類するにあたって、被験者に 3 つの質問が課せられたが (付属資料 1 参照)、分析に際しては、 最も当てはまりの良かった質問「この製品 (『製品名』) についてもっと知りたいと思った」を用いて関 与の分類変数を作成した。 12 ネフィット主張の助成想起率を従属変数として二元配置の分散分析を行い、仮説 1 群の検証を行った。被 験者 1 人につき 2 変数によって分類された 4 つの想起率を測定できるため、サンプル数は 256 である。 図表 6: 分散分析表 (1) 従属変数: 助成想起率 ソース タイプⅢ平方和 自由度 平均平方 F値 有意確率 2435.557 4 608.889 832.942 .000 149.512 1 149.512 204.528 .000 新規属性/既存属性 35.447 1 35.447 48.490 .000 (SBN/NBN)* (新規属性/既存属性) 12.398 1 12.398 16.959 .000 175.443 2611.000 240 244 .731 モデル SBN/NBN 誤差 総和 仮説 1-1 の通り、非示唆的ブランド・ネームの場合には、既存属性であるよりも新規属性であるほうが 想起率は高く、統計的にも有意差が確認された16 (新規属性= 2.85, 既存属性= 1.64, F= 10.189, p < 0.01)。ま た、図表 7 を見ると仮説 1-2 の通り、示唆的ブランド・ネームによって広告再生が高まる効果は、広告さ れたベネフィット主張が既存属性であるほうが、新規属性であるときよりも大きく、統計的にも有意な交 互作用が確認された (F= 16.959, p < 0.01)。 図表 7: 交互作用(1)―(SBN/NBN)*(新規属性/既存属性)― 次に、示唆的/非示唆的ブランド・ネームを一つ目の分類変数、経験属性/探索属性を二つ目の分類変 数、ベネフィット主張の助成想起率を従属変数として二元配置の分散分析を行い、仮説 2 群の検証を行っ た。被験者 1 人につき 2 変数によって分類された 4 つの想起率を測定できるため、サンプル数は 256 で 16 非示唆的ブランド・ネームにおける新規属性と既存属性の平均値の差の検定を行うために、一つ目の 分類変数が非示唆的ブランド・ネームであるサンプルのみを用いて、補助的に一元配置の分散分析が行な われた。なお、この分析結果は図表 6 には含まれていない。 13 ある。 図表 8: 分散分析表 (2) 従属変数: 助成想起率 ソース タイプⅢ平方和 自由度 平均平方 F値 有意確率 2083.180 4 520.795 648.226 .000 187.689 1 187.689 233.613 .000 経験属性/探索属性 .410 1 .410 .510 .476 (SBN/NBN)* (経験属性/探索属性) .000 1 .000 .000 1.000 192.820 2276.000 240 244 .803 モデル SBN/NBN 誤差 総和 示唆的/非示唆的ブランド・ネームの分類については、有意な主効果が認められたものの (SBN= 3.66, NBN= 1.91, F= 233.613, p < 0.01)、非示唆的ブランド・ネームの場合、経験属性であるか探索属性であるか による想起率の有意な差は確認されなかった17 (経験属性= 1.95, 探索属性= 1.87, F= 0.187, p > 0.10)。よっ て仮説 2-1 は棄却された。また、図表 9 を見ると、両変数の有意な交互作用は確認されず (F= 0.00, p > 0.10)、 「示唆的ブランド・ネームによって広告再生が高まる効果は、広告されたベネフィット主張が探索属性で あるほうが、経験属性であるときよりも大きい」という仮説 2-2 も棄却された。 図表 9: 交互作用(2)―(SBN/NBN)*(経験属性/探索属性)― 次に、示唆的/非示唆的ブランド・ネームを一つ目の分類変数、高関与/低関与を二つ目の分類変数、 ベネフィット主張の助成想起率を従属変数として二元配置の分散分析を行い、仮説 3 群の検証を行った。 関与の高低の判断に偏りのあるサンプルを除外し、被験者 1 人につき 2 変数によって分類された 4 つの想 17 非示唆的ブランド・ネームにおける経験属性と探索属性の平均値の差の検定を行うために、一つ目の 分類変数が非示唆的ブランド・ネームであるサンプルのみを用いて、補助的に一元配置の分散分析が行な われた。なお、この分析結果は図表 8 には含まれていない。 14 起率を測定できるため、サンプル数は 160 であった。 図表 10: 分散分析表 (3) 従属変数: 助成想起率 ソース タイプⅢ平方和 自由度 平均平方 F値 有意確率 100.223 4 25.056 745.610 .000 6.402 1 6.402 190.508 .000 高関与/低関与 .492 1 .492 14.651 .000 (SBN/NBN)* (高関与/低関与) .205 1 .205 6.092 .015 5.242 105.466 156 160 .034 モデル SBN/NBN 誤差 総和 仮説 3-1 の通り、非示唆的ブランド・ネームの場合には、低関与であるよりも高関与であるほうが想起 率は高く、統計的にも有意差が確認された18 (高関与= 0.654, 低関与= 0.472, F= 11.388, p < 0.01)。また、図 表 11 を見ると仮説 3-2 の通り、示唆的ブランド・ネームによって広告再生が高まる効果は、広告された ベネフィット主張が低関与であるほうが、高関与であるときよりも大きく、統計的にも有意な交互作用が 確認された (F= 6.092, p < 0.05)。 図表 11: 交互作用(3)―(SBN/NBN)*(高関与/低関与)― 6.本論の知見と課題 ○本論の知見 示唆的ブランド・ネームの有効性について本論では、 「示唆的ブランド・ネームはどのような製品の場 18 非示唆的ブランド・ネームにおける高関与と低関与の平均値の差の検定を行うために、一つ目の分類 変数が非示唆的ブランド・ネームであるサンプルのみを用いて、補助的に一元配置の分散分析が行なわれ た。なお、この分析結果は図表 10 には含まれていない。 15 合において広告再生を高めるのか」という観点から理論的・実証的検討を試みた。実証分析の結果は、示 唆的ブランド・ネームの採用に関するいくつかのインプリケーションを示している。本論における実証分 析において、仮説 1 群、仮説 3 群は支持された。すなわち非示唆的ブランド・ネームの場合、広告された ベネフィットが新規属性であったり、広告された製品が消費者にとって高関与であるほうが、既存属性や 低関与である場合よりもベネフィットは再生されやすい。そして示唆的ブランド・ネームによって広告再 生が高まる効果は、広告されたベネフィットが既存属性であったり、広告された製品が消費者にとって低 関与であるほうが大きい。言い換えると、既存属性や低関与の製品は、非示唆的ブランド・ネームの時に はベネフィットは再生されにくいが、示唆的ブランド・ネームを冠することによって大きく再生されやす くなる。この結果が示すところは、示唆的ブランド・ネームは、新規属性や高関与な製品よりも、既存属 性や低関与な製品の場合に、より有効に機能するであろうということである。 仮説 1 群、および 3 群が支持された一方で、仮説 2 群は棄却された。すなわち、今回の実証実験におい ては、広告された製品が経験属性か探索属性かという分類は、ブランド・ネームが示唆的、非示唆的に関 わらず、広告再生に影響を与えていなかった。しかし、同時に仮説 3 群は支持されていることから、次の インプリケーションを導きだすことができる。すなわち、新製品投入時における示唆的ブランド・ネーム の採用は、その製品の広告すべき主要な属性が経験性か、探索性かという製品カテゴリーによって検討さ れるべきではなく、その製品がターゲットとしている顧客が、その製品に関して低関与なのか高関与なの かで検討されるべきであると言える。 今回の実証研究では、非示唆的ブランド・ネームの場合に広告再生が低い製品であっても、示唆的ブラ ンド・ネームを与えることにより、広告再生は大きく高まるという一連の結果を得ている。このことに従 えば、広告予算の少ない製品の場合に、示唆的ブランド・ネームは有効に機能すると考えられる。一般的 に、消費者は広告に接触する頻度や時間が長いほど、広告された情報を再生しやすくなるであろう。した がって、広告予算が少ないために消費者の広告接触が少なく、非示唆的ブランド・ネームの場合において はベネフィットが再生されにくい製品の場合でも、示唆的ブランド・ネームを冠することによって広告再 生を大きく高められる可能性があると考えられる (図表 12 参照)。 広告再生 図表 12: 広告予算 広告予算多い 広告予算少ない NBN SBN 16 これら示唆的ブランド・ネームの採用に関する知見は、示唆的ブランド・ネームのいくつかの弊害を考 慮した上で議論されなければならない。Keller et al. (1998) は示唆的ブランド・ネームが意味的関連性のあ る製品ベネフィットの再生を高める一方で、記憶の順向抑制 (proactive inhibition)19 によって後から主張 されたベネフィット主張の再生を低めることを明らかにし、後に追加的なベネフィット主張を広告するこ とが必要となる場合には、非示唆的ブランド・ネームの採用が望ましいことを指摘している。さらに石井 (1999) は江崎グリコのロングセラー商品「ポッキー」を例に出し20、ヒット商品がロングセラー商品とな るためには、その商品に焦点を絞ってつぎつぎに新機軸を導入する試みが不可欠であるとしている。した がって、新たにベネフィット主張を追加することが困難である示唆的ブランド・ネームを冠した製品が、 ロングセラー商品となるのは難しいかもしれないのである。また、ブランド・ネームの意味性が高ければ 高いほど、翻訳上の問題があるため、他の文化圏に移転することは難しくなる (Keller 1998, p.177) ことも 指摘される。示唆的ブランド・ネームの有効性に加え、以上のような示唆的ブランド・ネームの弊害を理 解することが、マネジメント上の重要な課題であろう。 ○本研究の限界点と今後の課題 本研究の理論的・実証的検討には若干の限界点を考慮する必要がある。まず、本論の実証実験には小規 模かつ便宜的な学生サンプルが用いられた。実験に用いられた製品カテゴリーの中には、例えばベッドや 冷蔵庫といった主要顧客の年齢層にとっては高関与だが、学生にとっては必ずしも高関与であるとは限ら ない製品が含まれている。今回の実験においては、被験者個人に対する質問項目によって関与の高低を測 定したため、大学生というサンプルによって結果が歪むこと無かったと主張されうる。しかし、大学生以 外の顧客層も対象とした無作為抽出によってサンプリングすることは、分析における信頼性を高める上で 重要なことであっただろう。 さらに、仮説 1 群および仮説 2 群に関して、新規属性/既存属性、経験属性/探索属性という分類変数 は、一般的な価値観に基づいて筆者によって判断・作成されたが、それらは個人によって異なる可能性を 否定できない。例えば、一つのベネフィットが、ある人にとっては既存属性であるが、別のある人にとっ ては初めて目にした新規属性であるかもしれない。また、ある人にとっては経験属性であっても、他のあ る人にとっては探索属性と判断されうるかもしれないのである。被験者への質問によって変数を作成し、 実験を行うことも重要である。また、今後の研究課題として、研究対象の拡大が挙げられる。本論の実証 19 順向抑制とは、ある事柄についての記憶が、それ以前に経験した事柄の記憶によって干渉を受けるこ とである。 20 彼は「ポッキー」がロングセラーとなり得た要因として、1966 年の発売後もさまざまな商品バリエー ション (1972 年「アーモンドポッキー」、1976 年「いちごポッキー」、1985 年「ポッキービター」など、 詳しくは石井 (1999, p.19) を参照のこと) を展開したことを挙げている。 17 実験に使用した広告は、全て有形の製品であったが、示唆的ブランド・ネームは無形のサービスについて も利用可能である。現実世界においても、示唆的ブランド・ネームが用いられているサービス21は多く存 在するため、それらへの研究対象の拡大が望まれる。 また、佐藤 (2004) はブランド連想について、低関与下の意思決定においては、発散連想22よりも、集 束連想23が重要である、と述べている。それに加え、示唆的ブランド・ネームは、製品ベネフィットとの 意味的関連性から、集束連想を強化する可能性があると考えられる24。本研究における広告再生実験にお いては、ブランド・ネームを手がかりに、広告された特長を想起させたため、集束連想ではなく発散連想 の強度を測定したと言い換えることができよう。したがって、示唆的ブランド・ネームが発散連想に与え る効果だけでなく、集束連想に与える効果を測定してみる必要があるのである。 最後に、本研究から得られた示唆をより実務のマネジメントに役立てるためには、先に挙げた示唆的ブ ランド・ネームが引き起こすいくつかの弊害についても、その強度を調査することが課題として挙げられ る。とはいえ、示唆的ブランド・ネームに採用についての理論的説明がなされていない中で、本論は先駆 的な研究として意義あるものと主張できるであろう。 謝辞 本論を完成させるまでに、多くの時間を割いて指導していただいた久保知一先生、広告再生実験に関す る適切なアドバイスや、実験室の使用に多大な配慮をいただいた高籔学先生に心から感謝したい。また、 調査に協力してくださった方々にもこの場を借りて感謝の意を述べさせていただきたい。 21 例えば、アリコの保険商品「50、80、喜んで」や、NTT ドコモのサービス「おサイフケータイ」など がそうである。 22 製品名から、その製品が持つベネフィットや属性を連想することが発散連想である。例えば「アセロ ラドリンク」という製品名から「ビタミン C」というベネフィットを連想することがこれにあたる。 23 製品ベネフィットや属性から、製品名を連想することが集束連想である。例えば「ビタミン C」とい うベネフィットから「アセロラドリンク」という製品名を連想することがこれにあたる。 24 例えば、 「ビタミン C」というベネフィットから非示唆的ブランド・ネームである「アセロラドリンク」 は連想されにくく、 「アミノ酸」というベネフィットから示唆的ブランド・ネームである「アミノサプリ」 を連想することは、比較的容易かもしれないのである。 18 参考文献 Aaker, David A. 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49 = (5) 83 - 17 = (6) 33 × 9 = (7) 102 ÷ 17 = (8) 13 × 31 = (9) 75 × 54 = (10) 846 ÷ 18 = (11) 29 + 72 - 53 = (12) 12 - 55 + 64 = (13) 49 + 45 - 29 = (14) 87 - 19 - 55 = (15) 38 + 88 + 69 = (16) 31 × 5 - 26 = (17) 114 ÷ 19 + 16 = (18) 35 × 15 + 68 = (19) 448 ÷ 14 ÷ 7 = (20) 16 × 7 × 54 = 26 付属資料 3 回答者番号 Program3-1 特 サンプル 長 長 特 長 特 長 特 長 特 長 特 長 特 長 特 長 特 長 7 低反発 特 特 長 8 練習 A 特 長 9 練習 B 特 長 1 10 特 長 2 11 特 長 3 12 特 長 4 13 特 長 5 14 特 長 6 15 27 回答者番号 Program3-2 特 長 16 特 長 特 長 特 長 特 長 21 特 長 22 17 特 長 23 18 特 長 19 24 特 長 20 あなた自身についてお聞きします。 ① あなたの性別をお答えください。どちらかに○印をお付けください。 1、男 2、女 ② あなたの所属についてお答えください。当てはまるものに○印をお付けください。 1、大学(学部) 2、大学院 3、専門学校 ③ あなたは、この調査にお越しになる直前、何をしていましたか。(ex 食事、授業、寝起き…) ④ あなたは、食事を何時頃とりましたか。 調査は以上ですべて終了です。ご協力ありがとうございました! 28 付属資料 4 29 30 31 32