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試練の先で飛躍するために - Nomura Research Institute

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試練の先で飛躍するために - Nomura Research Institute
特集
2015年の住宅業界 試練の先の崩壊・衰退・飛躍
試練の先で飛躍するために
榊原 渉
試練のただ中にある住宅業界
心理の冷え込みによって、注文住宅(戸建)
国内の住宅業界は今、まさに「試練」のた
も不振に陥っていることから、住宅メーカー
だ中にある。特に2008年は、全国のマンショ
やパワービルダー(年間1000棟以上の施工販
ン発売戸数が16年ぶりに10万戸を割り込み、
売を手がける住宅会社)の業績にも悪影響を
過去最多を記録した1994年の約半分にまで落
及ぼしている。
ち込んだ。
実は、マンション市況の悪化は、2007年ご
乗り切るための特効薬は限定的
ろから始まっていた。土地の値上がりや資材
ところが、今直面している試練を乗り切る
高騰による建設費の値上がりで原価が急騰
ための「特効薬」は限定的である。マンショ
し、販売価格と消費者の需要とにずれが生
ンにしろ戸建住宅にしろ、販売不振の直接的
じ、完成在庫が積み上がっていたのである。
な要因は消費者心理の冷え込みによる「買い
そこに、サブプライムローン(米国の信用
控え」であると考えられるので、消費者心理
度の低い低所得者向け住宅ローン)問題を機
が回復してくるまでの間、資金繰りを維持で
に、日本の不動産投資市場に流入していたグ
きれば「崩壊」を免れることはできるだろ
ローバルマネーの動きが鈍り、金融庁も不動
う。こういう状況下では、企業規模はもちろ
産向け融資の監督を強化したことで、新興・
ん、それ以外に、不動産賃貸事業など、事業
中堅デベロッパーの資金繰りが急速に悪化し
ポートフォリオの分散が図られている企業が
た。ここ数年、中小規模の不動産流動化事業
強い。
によって急成長してきた新興・中堅デベロッ
また、連鎖破綻に巻き込まれないよう、取
パーにとって、資金繰りの悪化は、「即」致
引先の与信管理(債権管理)を従来以上にし
命傷になった。「崩壊」までのスピードは予
っかりしておく必要もある。近時の連鎖破綻
想以上に速く、建設業界をも巻き込みながら
の構造を見ていると、直接の取引先のみなら
連鎖破綻を引き起こしている。
ず、その先の取引にまで目を配る必要に迫ら
建売住宅(戸建)もマンション同様、2006
れているようである。取引関係が複雑にから
年ごろから低調に推移しているうえ、消費者
み合う建設・不動産業界において、その構造
知的資産創造/2009年 4 月号
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています。
CopyrightⒸ2009 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
を把握することは決して簡単なことではない
者心理の冷え込みによる「買い控え」ではな
が、できるかぎりの情報収集をしておくべき
いかと考えるのである。とはいうものの、
だろう。
2015年に向けて、ベースとなる世帯数の伸び
がさらに鈍化すれば、新設住宅着工戸数はジ
乗り切るだけでは衰退するのみ
しかしながら、たとえ今の「試練」を乗り
リジリと減少するであろうことには変わりは
ない。
切ることができたとしても、1990年代のバブ
「試練」を乗り切るだけで、中長期的な視野
ル崩壊後のように、不動産市況の大幅な改善
に立った打ち手を講じることができなけれ
を期待することは難しい。なぜなら、2015年
ば、市場の縮小によって、徐々に「衰退」し
ごろには日本は大きな転換期を迎えると見込
ていく危険も否めない。
まれるからである。
総務省の「国勢調査」によれば、日本の人
試練の先の飛躍に向けて
口は、2005年をピークにすでに減少が始まっ
実は、「住宅業界」といっても、その定義
ている。一方、世帯数に着目してみると、1
は難しい。不動産業としてのマンション分譲
世帯当たりの人員数が縮小しているため、
会社や、建設業としての住宅メーカーやパワ
2015年までは世帯数は増加すると予測されて
ービルダー、広義には製造業としての住宅設
いる(国立社会保障・人口問題研究所の推計
備メーカーや建材メーカーも含まれる。今回
による)。つまり、現在の日本は、人口は減
の特集では、主としてマンション分譲会社、
少しているものの、世帯数は増加していると
住宅メーカー、パワービルダーを中心に、今
いう、少々特異な状態にある。
の「試練」を乗り越えた後に、「飛躍」する
しかし、2015年以降、世帯数までもが減少
ための打ち手について整理を試みた。
し始めると、住宅をはじめとした耐久消費財
具体的には各論考を読んでいただきたい
など、世帯単位の消費には大きな影響が出て
が、全体に共通していることは、「今の『試
くる。特に、世帯数が減少する影響が直撃す
練』をひたすら我慢するだけでは、乗り切っ
るのは住宅業界であろう。1970年代以降の国
たとしても『衰退』するだけである。中長期
内の新設住宅着工戸数は、長期的に見れば、
的な視点に立って『挑戦』していかなけれ
総世帯数の増(減)数と相関がある。毎年の
ば、『飛躍』することはできない」というこ
新設住宅着工戸数は、その時々の景気動向や
とである。「試練」の時だからこそ、「挑戦」
政策動向、阪神・淡路大震災のような自然災
の姿勢が問われるだろう。
害の影響を受けるものの、5年ごとの推移を
見ると、総世帯数の増加数に応じて新設住宅
着工戸数も増加してきた。
それゆえに、総世帯数の伸びが鈍化してい
るとはいえ、それ以上の落ち込みを見せてい
著 者
榊原 渉(さかきばらわたる)
事業戦略コンサルティング一部上級コンサルタント
専門は建設・不動産・住宅などの事業戦略立案・実
行支援
るマンションや戸建住宅の販売不振は、消費
試練の先で飛躍するために
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