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学 位 論 文 内 容 の 要 旨 森 大 輔
森 氏 名 大 輔 学 位 の 種 類 博 士(情報工学) 学 位 記 番 号 情工博甲第152号 学位授与の 日付 平成17年3月25日 学位授与の 要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 薬物経皮吸収の in silic o 予測法に関する研究 論 文 審 査 委 員 主 査 教 授 東 條 角 治 教 授 清 水 和 幸 教 授 米 谷 快男児 教 授 中 垣 通 彦 助教授 白 石 文 秀 学 位 論 文 内 容 の 要 旨 薬物送達システム(Drug De live ry System:DDS)の一つである経皮治療システム(Trans de rmal Therapeutic Sys tem:TTS)は、薬物を皮膚から吸収し、全身や皮下に送達する技術である。TT S は患者の QOL 向上に貢献できる投薬方法として期待されている。 TTS を最適設計するには、製剤からの薬物放出挙動、皮膚透過性、血中移行後の体内動態を正確に 把握しなければならない。薬物動態評価のための経皮吸収モデルは、拡散・分配を伴う皮膚透過モデ ルと体内動態コンパートメントモデルで構成される。さらに、皮膚結合、皮膚代謝、皮膚血流への吸 収、iontophoresis 適用の影響を考慮することで、より厳密な経皮吸収モデルを構築できる。 本論文では、実験的アプローチ( in vivo/in vitro )に計算機シミュレーション( in silico )を援用す ることによって TTS の最適製剤設計および処方設定の手段を確立することを検討した。すなわち、1 ) 経皮吸収に関する薬物動態評価が可能な数値シミュレータの開発、2 )数値シミュレータを利用した in vivo/in vitro/in silico 相関、薬物動態/薬力学(Pharmacok inetics /Pharmacodynamics:P K/PD) 解析、臨床あるいは in vivo 性能予測、3 )薬物分散マトリクス型製剤からの拡散放出解析プログラム の作成と影響因子の定量的評価、などが詳細に検討された。 経 皮 吸収 モ デル に 基づ い た数 値 計算 プ ログ ラ ムと と もに W indows 上 で 動作 可 能 な GUI (Graphical Use r In terface )を設計し、世界に先駆けて「経皮治療システム開発用薬物動態解析ソ フト: SKIN -CAD™」を開発した。 さらに、従来の皮膚透過モデル(1 層膜あるいは 2 層膜)に 1 層膜製剤内拡散モデルを追加するこ とにより,薬物溶解マトリクス型製剤適用時の経皮吸収シミュレーションが可能となった。アルツハ イマー病治療薬GTS-21 を基剤に溶解させたマトリクス型製剤をヘアレスラットに貼付した後の皮膚 透過量および血中濃度の時間変化を、in vitro 皮膚透過実験、静脈内投与試験、製剤作製条件などから 得た各種モデルパラメータを使って予測した。その結果は、 in vitro 実験での皮膚透過プロファイル、 -115- in vivo 実験での血中濃度プロファイルと良好に一致した。また,製剤貼付中の製剤内薬物量の減少に 伴う、皮膚透過速度と血中濃度の低下が理論的に説明できた。 TTS 適用時の薬効/副作用の強度および時間変化を評価するために、経皮吸収 PK モデルに薬力学 (PD)モデルを追加した。麻薬系鎮痛薬 fen tanyl の皮膚透過パラメータ、体内動態パラメータ、薬 力学パラメータを決定した後、製剤貼付時の血中濃度、疼痛緩和効果の評価値である pain score(薬 効)、呼吸抑制作用を評価するための呼吸数(副作用)の時間変化をシミュレートした。その結果、血 中濃度プロファイルに関するシミュレーション結果は臨床データとほぼ一致した。また pa in sc ore , 呼吸数についても臨床データとほぼ同程度であった。以上より、本モデルによって TTS 適用時の薬 効・副作用を予測できることが示唆された。 薬物分散マトリクス型製剤に関するモデル構築は実用的な観点から有用性が高い。この場合、製剤 内溶解薬物の単純拡散放出に加えて、溶解領域と分散領域との境界面が時間経過とともに移動するこ と(移動境界問題:m oving bounda ry p roblem)を考慮する必要がある。本研究では、経皮吸収モ デルとの統合の前段階として、薬物放出解析のための数値計算プログラム作成と影響因子の評価シミ ュレーションを行った。放出プロファイルについて数値解と解析解(Higuchi の式,厳密解(Paul an d McSpadden))を比較したところ、本法は、製剤内初期保存量 A がマトリクス内薬物溶解度 Cs より 十分大きい場合(A/Cs ≥ 10)に適用するのが妥当であった。また、その条件下で拡散境界層、レセ プター相の non -sink 条件が放出におよぼす影響を理論的に説明できた。 以上から、本研究で開発した経皮吸収シミュレータと in vivo/in vitro 相関,P K/PD 相関を含む in silico 予測法は、TT S の最適な製剤設計・処方設定に有用であることが示唆された。前臨床段階にお けるこのような in silico 臨床性能予測は、効率的な TTS 開発プロセスを実現するとともに、より優 れた TTS の早期実用化につながる重要な新しいアプローチである。 学 位 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 本論文は、従来 in vivo 及び in v itro 実験的アプローチに依存してきた経皮ドラッグデリバリー製 剤設計に、計算機シミュレーションを援用し、経皮治療システム(TTS)の最適製剤設計や臨床試験 を合理的かつ効率的に実施する手法を確立したものである。すなわち、1)経皮吸収に関する薬物動 態評価の数値シミュレータを開発し、2)このシミュレータを利用した血中動態と皮膚吸収の in vivo/in v itro/in silico 相関、及び、3) 薬物動態/薬物動力学相関と臨床性能評価、などを厳密で一 般的な数学モデルに基づいて評価にした。さらに、この数学モデルに入力すべき種々のモデルパラメ ータの合理的かつ信頼できる in v itro 実験法が同時に提案された。その結果、経皮吸収治療システム から放出した薬効成分が皮膚を透過し、毛細血管に吸収された後の血中動態までが予測可能となった。 本研究で開発された経皮吸収治療システムシミュレータと治療システム臨床性能 in silic o 予測法は、 TTS の最適製剤設計、臨床試験プロトコール設定あるいは製剤使用法の指導などに今後有効利用でき る。本研究は、医用工学や生物工学の分野(治療システム)に IT 技術(計算機シミュレーション)を合 体した情報工学の新しい研究分野を開拓した。 以上により、論文調査及び最終試験の結果に基づき、審査委員会において慎重に審査した結果、本 -116- 論文が、博士(情報工学)の学位に十分値するものであると判断した。 -117-