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1.エネルギー・原子力事情

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1.エネルギー・原子力事情
リトアニア
1.エネルギー・原子力事情
<概要と背景>
リトアニア(リトアニア共和国)は、ヨーロッ
パ北東部に位置するバルト三国の一つで、ビリニ
ュスが首都、面積は 6.5 万 km2、人口は 291.6 万
人(2015 年)である1。
ソビエト連邦崩壊後に独立を回復したリトアニ
アは、旧ソ連依存の体制からの脱却を目指し、ヨ
ーロッパ諸国との協力関係を重視している。2004
年には、北大西洋条約機構(NATO)とヨーロッ
パ連合(EU)に加盟した。
2013 年の GDP は 464 億ドル、
一人あたり GDP
は 1 万 5,694 ドル、
経済成長率は 3.3%であった 1。
<一次エネルギー需給>
2014年の一次エネルギー総供給量は、540万石油換算
トンであった2。また、2013年の一次エネルギー自給率は
約23%であった3。
リトアニアでは、若干量の石油が産出し、かつて石油
精製工場マジェイケイ・ナフタを有していたが、現在は
外国資本の手に渡っている。
エネルギー源は輸入に依存しており、特に国内で唯一
の原子力発電所を閉鎖してからは、ロシアから輸入され
た化石燃料が支配的なシェアを占めるようになっている。
1
2
3
外務省ウェブサイト
BP, BP Statistical Review of World Energy June 2015
OECD/IEA, Energy Balances of Non-OECD Countries 2015 Edition
42-1
リトアニア
<電力需要>
2013 年の総発電量は 42 億 1,400 万 kWh であった 3。かつては原子力による発電がリトアニ
アの電力供給で大きな割合を占めていた(2009 年時点で総発電量の 70%)
。しかし、ロシアか
ら引き継いだ国内唯一の原子力発電所であるイグナリナ原子力発電所(150 万 kWe×2 基)は、
チェルノブイリ原子力発電所と同型の RBMK 型炉であるため、欧州連合(EU)から運転を停
止するよう強く求められ、1 号機を 2004 年末、2 号機を 2009 年末に停止した。その結果、電
力供給は逼迫した状態が続いている。現在、国内で主力となっているのは火力発電所であるが、
発電効率が悪く、現在は電力需要の半分以上を輸入に依存している。
欧州電力系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)に加盟しており、2014 年は 85 億 7,300 万
kWh の電力を受電し、8 億 9,700 万 kWh の電力を送電した4。
<原子力発電所の建設・運転状況>
(1)計画中の原子炉
2009 年末にイグナリナ原子力発電所の 2 号機が停止したので、国内で運転中の原子炉はな
い。このため、停止した原子力発電所に代わる新しい原子力発電所(ヴィサギナス原子力発電
所)建設に向けて、準備が進められている。
ヴィサギナス原子力発電所は、イグナリナ原子力発電所から数 km 離れた場所に建設を想定
している。国際入札の結果、2011 年 7 月 14 日に GE 日立が第一交渉権を勝ち取り、同年 12
月 23 日には原子炉建設に関する仮契約が GE 日立とリトアニア政府の間で締結された。2012
年 3 月 30 日に、両者はヴィサギナス原子力発電所建設の事前準備と土木工事を進めるための、
最初の事業権付与契約に署名した。同年 6 月 21 日には、リトアニア議会が、原子力発電所に
関する建設計画の最終契約に向けての作業を進める政府計画案を、賛成多数で可決・承認した。
しかしながら、2012 年 10 月 14 日に実施された国民投票では、投票者の 6 割が原子力発電所
の新設に反対した。この投票結果を鑑み、政府は 2013 年 5 月 15 日までに、新たにエネルギー
自立戦略を策定するとし、その時点で原子力発電所を建設するかどうかが決定されることとな
4
ENTSO-E Yearly Statistics & Adequacy Retrospect 2014
42-2
リトアニア
った。
2013 年 10 月 21 日、リトアニアのエネルギー会社グループであるリトヴォス・エネルギア
(LE)*は、日立製作所とリトアニアにおけるエネルギーベストミックス実現のための原子力
分野以外での協業の可能性を図ることで合意した。また、報道によると、2013 年 11 月に LE
は、原子力発電所の建設に関しては経済性に対する懸念が多いことから、ラトビア、エストニ
アおよび第一優先権を取得している日立製作所と共同でヴィサギナス原子力発電所の採算性に
ついてまとめた共同文書を作成する方針を示したという。2014 年 4 月、リトアニアの 7 つの
政党は政党間協定に署名し、同原子力発電所の建設計画を実行していくことを強調した。
*リトヴォス・エネルギア(LE:Lietuvos Energija group):リトアニアの発電・配電、熱供給、天
然ガスおよびその輸出入を扱う国の管理の下に置かれたグループで、電力部門のメンテナンスや開
発も担当している。なお、2013 年 8 月 30 日までは、UAB Visagino Atominė Elektrinė という名称
が使われていた。
2014 年 7 月 30 日、エネルギー省と日立製作所は、原子力発電所建設のための事業会社(プ
ロジェクト会社)設立について協議を始めることに合意した。これによると、建設にはエスト
ニアとラトビアの参加が予定されている。2014 年 10 月 30 日、
国家原子力安全検査局(VATESI)
は、サイトの安全性評価報告書を承認した。
プラント名
形式
VISAGINAS
ABWR
(ヴィサギナス)
電気出力(万 kW)
ネット
グロス
状況
所在地
計画中
ヴィサギナス
135.0
138.4
着工/運開
(予定)
2018 年/
2023~2025 年
(2)閉鎖した原子炉
イグナリナ原子力発電所 1、2 号機は、設計上の寿命はそれぞれ 2013 年と 2017 年であった
が、チェルノブイリ事故を起こした原子炉と同型の RBMK であることから、EU 加盟の条件と
して閉鎖することが要請され、それぞれ 2004 年末と 2009 年末に停止された。
リトアニアはデコミッショニングについて、EU から資金援助を受けるとともに、IAEA か
らの協力をも得ている。デコミッショニング作業にかかる時間については、順調に進めば 2029
年までに終了すると見られている。
デコミッショニング費用の総額は 25 億ユーロ以上と見積もられている。デコミッショニン
グによって発生する使用済み燃料などの放射性廃棄物は、全て発電所サイト内に建設中の中間
貯蔵施設に搬入される。また、発生した低・中レベル放射性廃棄物の最終処分場がアレバ社に
よって建設されており、2017 年に完成予定である。
No.
1
2
プラント名
IGNALINA-1
(イグナリナ)
IGNALINA-2
(イグナリナ)
電気出力(万 kW)
閉鎖日
形式
状況
所在地
RBMK-1500
閉鎖
ヴィサギナス
150.0
2004.12.31
RBMK-1500
閉鎖
ヴィサギナス
150.0
2009.12.31
42-3
グロス
リトアニア
リトアニアの原子力発電所所在地
2.エネルギー・原子力政策動向
<エネルギー政策と原子力の位置づけ>
国家エネルギー政策(National Energy Independence Strategy)は、①エネルギーの独立、
②市場競争力の導入、③持続可能エネルギーの確立、を根幹としている。
2020 年までに電力エネルギー分野では、以下の戦略的プロジェクトに取り組むことに焦点を
当てている。
・EU エネルギーシステムとの同期
・十分な競争性のあるローカル発電容量の確立
・第 3 次 EU 電力自由化指令(the 3rd EU Energy Package)の実施
また、2050 年までに持続可能な二酸化炭素排出の少ない経済へ移行し、2050 年には電力需
要の全てを原子力及び再生可能エネルギー源の利用により充足することを見込んでいる。
近隣諸国との電力システムに関して
リトアニアが原子力発電所建設と同様に優先事項として進めているエネルギー対策としては、
近隣諸国との電力市場の統合と送電網の整備が挙げられる。リトアニアを初めとするバルト諸
国(エストニア、ラトビア)は、ロシア依存のエネルギー体制を脱却したいとしながらも、依
然としてロシア頼みの状態が続いている。バルト諸国と EU を結ぶ送電網は、エストニアとフ
ィンランドを結ぶエストリンク 1 のみで、リトアニア自身は EU との直接の送電経路を持って
いない。その他はすべて UPS/IPS(旧ソ連・東欧圏をカバーする連携線)である。
この現状を打開するため、リトアニアは、スウェーデンとの送電網ノルドバルド(70 万 kW)
と、ポーランドとの送電網リットポールリンク(50 万 kW×2)の建設を進めている。ノルド
バルドとリットポールリンクが開通すれば、総計 170 万 kW の送電容量をバルト諸国-欧州間
で融通できるようになる。2014 年 5 月 5 日、送電網リットポールリンクの起工式が行われた。
42-4
リトアニア
3.原子力行政・規制体制
<原子力規制体制図>
<行政・規制機関の役割>
原子力安全の監督を行う規制組織は、国家原子力安全検査局(VATESI)である。他省庁か
らは独立した機関として設置されており、VATESI の局長は首相が任命し、政府に直接報告を
行う。VATESI の役割は、原子力施設の安全と管理、核物質の監視である。VATESI には原子
力安全部、放射線防護部があり、放射線防護部は放射性廃棄物管理課、廃止措置課、輸送・放
射線防護課の 3 課に分けられる。また、局長直属の核物質管理・防護課も設置されている。
リトアニアでは経済省が中心となって、他の省庁と協力しながら原子力政策を推進している。
経済省では、原子力に関連するインフラの整備、事故防止対策、原子力分野における二国間・
多国間協力、研究開発の支援などを行っている。
ヴィサギナス原子力発電所建設計画に伴って、その開発会社として 2008 年 8 月、リトアニ
ア電力内にヴィサギナス原子力発電会社(VAE)が設立された。サイト準備やファイナンス、
経済性、安全、規制など原子力発電所建設に関する幅広い役割を担っている。
2009 年 9 月 VAE の監督機関としてエネルギー省の下に、新規原子力発電所実施管理委員会
が発足した。
イグナリナ発電所を運営してきたイグナリナ原子力発電会社は、2009 年 12 月 31 日を最後
に発電は行っておらず、デコミッショニング専業となっている。ただし、施設のメンテナンス
業務は継続している。また、エネルギー省にはイグナリナデコミッショニング部門がある。放
射性廃棄物の管理と最終処分を行う機関としては、2001 年に放射性廃棄物管理機関(RATA)
が設立されている。
保健省傘下の放射線防護センター(RSC)は、研究や医学利用、原子力発電利用などにおけ
る、放射線防護対策を規制している。また研究や医学、工業利用で発生する放射性廃棄物の規
制も行っている。
42-5
リトアニア
4.原子力研究開発動向
<核燃料サイクル・革新炉・バックエンド・核融合の研究開発動向>
放射性廃棄物処分管理
2015 年 6 月 12 日、イグナリナ原子力発電会社は、低・中レベル放射性廃棄物の地上貯蔵施
設の建設と操業に関する許認可申請書を国家原子力安全検査局(VATESI)に提出した。この
プロジェクトは B25 プロジェクトと呼ばれており、2021 年にプロジェクトの第 1 フェーズが
開始される予定である。
またこれとは別に、イグナリナ原子力発電会社は 2015 年 12 月 23 日、同発電所が申請して
いた極低レベル放射性廃棄物処分場の建設と運転について、VATESI が許認可を発行したと発
表した。処分場は埋め立て式(landfill-type)の施設であり、同発電所の近くに建設されるも
ので、発電所の運転やデコミッショニングに由来する極低レベル放射性廃棄物が処分される予
定である。この処分場は 3 つのモジュールからなり、それぞれ最大 2 万 m3 の極低レベル放射
性廃棄物を処分することができるという。同社は、2016 年中頃までに建設を開始し、2018 年
末には操業を開始する予定であるとしている。なおこのプロジェクトは、B19-2 プロジェクト
と呼ばれている。
5.国際協力
<二国間原子力協力協定>
協定
日付
スウェーデン
相手国
原子力安全分野における協力の枠組み合意
ドイツ
災害または重大事故発生時の相互支援協定
日本
フランス
原子力開発協力に関する覚書
原子力平和利用の協力に関する議定書
米国
原子力安全問題についての技術情報交換と
協力に関する取決め
原子力事故の早期通報及び原子力安全また
放射線防護分野における協力協定
イグナリナ原子力発電所、リトアニア経
済省とスウェーデン国際原子力安全プ
ロジェクト(SIP)が2000年1月27日に
締結
1994年3月15日署名、ドイツでは1996
年9月1日に発効
2016年3月2日署名
リトアニア経済省とフランス原子力庁
(CEA)が1997年5月21日に署名し、
同日に発効
2005年9月28日署名、同日発効
ポーランド
42-6
1995年6月2日署名
リトアニア
<国際条約など>
協力全般
・IAEA:1993 年 11 月 18 日加盟
核不拡散
・核兵器不拡散条約(NPT):1991年9月23日発効
・包括的核実験禁止条約(CTBT):2000年2月7日発効
核物質防護
・核物質防護条約:1994年1月6日発効
原子力安全
・原子力事故の早期通報に関する条約:1994年12月17日発効
・原子力事故援助条約:2000年10月22日発効
・原子力安全条約:1996年10月24日発効
・ウィーン条約:1992年12月15日発効
・ウィーン条約改正議定書:1997年9月30日署名
・共同議定書:1993年12月20日発効
・放射性廃棄物等安全条約:1997年9月30日署名
・原子力損害の補完的補償に関する条約:1997年9月30日発効
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エストニア
1.エネルギー・原子力事情
<概要・背景>
エストニア(エストニア共和国)は、面積
4.5 万 km2、人口約 131 万人(2015 年)のヨ
ーロッパ北東部に位置する共和制国家で、バ
ルト海東岸にあるバルト三国の一つである。
1991 年のソ連崩壊に伴い独立を回復した
後は、西欧諸国との経済的、政治的な結びつ
きを強固にしていった結果、2004 年に NATO
と EU に加盟、2007 年にシェンゲン領域に
参加するとともに、2011 年にはユーロを導入
した。
主要産業は、木工加工、繊維、加工食品、軽機械などの製造業であり、近年は不動産、運輸・
通信、卸・小売、金融業などを中心に経済拡大を行い、バルト三国の中で最も安定した経済状
態を保っている。独立後に落ち込んだ経済は 1995 年にプラスに転じて以降成長を続け、1998
年のロシア危機で再び落ち込んだものの、2000 年の段階的税制改革などの政策により成長を回
復し、2004 年には GDP 成長率 6.2%を記録した。経済成長率は内需主導で好調な状態が続き
2006 年には 10%に達したが、世界的な経済危機の影響により 2009 年には-14.1%を記録した。
しかしその後急回復し、2011 年には 9.6%の経済成長を遂げ、2012 年も 3.9%を維持している。
2014 年の名目 GDP は 194 億ユーロ、実質経済成長率は 2.5%であった1。
<一次エネルギー需給>
2014 年(予測)の一次エネルギー総供給量は 609
万石油換算トンである。また、2013 年の一次エネル
ギー自給率は 92%であった2。
エネルギー供給の面で主要な役割を果たしている
のは、北東部にあるナルヴァ石油プラントで、オイ
ルシェールから液体燃料と蒸溜ガスを生産している
(オイルシェールは統計上、石炭として扱っている)。
1
2
外務省ウェブサイト
OECD/IEA, Energy Balances of Non-OECD Countries 2015 Edition
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エストニア
<電力需要>
2014 年(予測)の総発電量は 124 億 4,400 万 kWh であった。主要な発電手段は、自国で産
出するオイルシェールによる火力発電である。エストニアは、世界でも珍しく発電の大半をオ
イルシェールから発電している。しかし、オイルシェールは発熱量が低いため、単位エネルギ
ー当たりの二酸化炭素発生量が高く、エストニアの二酸化炭素全発生量の 80%以上が発電所か
ら排出されている。欧州電力系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)に加盟して周辺諸国と電
力取引を行っており、2014 年には 65 億 3,000 万 kWh を送電し、37 億 1,200 万 kWh を受電
した3。
北欧諸国との送電網の構築
バルト諸国では、電力の安定供給を目指して北欧諸国と電力輸送ができるように、高圧直流
送電(HVCD)の海底送電網整備が進められている。フィンランドとの間では、2006 年から
エストリンク(Estlink)1 が操業している(総延長 105km、容量 35 万 kW。エストニアの
Harku とフィンランドの Espoo を繋いでいる)。また 2014 年 2 月には、エストリンク 2(総
延長約 170km、容量 65 万 kW。エストニアの Püssi とフィンランドの Anttila を繋ぐ)の運
用が開始された。
2.エネルギー・原子力政策動向
<エネルギー政策と原子力の位置づけ>
エストニアのエネルギー政策は、2009 年 2 月にエストニア政府が承認したエネルギー経済
開発計画(National Development Plan of the Energy Sector until 2030)と電力経済開発計
画(Development Plan of the Estonian Electricity Sector until 2018)に則って進められてい
る。
エネルギー経済開発計画では、エストニアのエネルギーポートフォリオの中で炭素排出量の
多いオイルシェールの消費割合を 60%から 30%へ減少させる見通しが立てられ、その代替発電
3
ENTSO-E, Yearly Statistics & Adequacy Retrospect 2014
43-2
エストニア
容量として 100 万 kW の原子力発電所を稼働させるとしていた。
<原子力開発>
元々、エストニアには国内に原子力発電所を建設する計画は無く、リトアニアで建設が予定
されているヴィサギナス(Visaginas)原子力発電所への参加を予定していた。しかし、ヴィサ
ギナスでの計画の実現可能性が不明確であるため、2008 年に、政府は自国での原子力発電所建
設の可能性についてサイト調査を開始した。2009 年には、国営電力会社 Esti Energia が、33.5
万 kW 級の IRIS 原子炉をウェスチングハウス社から 2 基導入すると発表した。国内 6 か所の
調査を行った結果、発電所サイトとしてパクリ半島のパルディスキ島(Pakri Island, Paldiski)
が候補地として有力となっている。
エストニアはヴィサギナス原子力発電所の建設計画に対して興味を示しているが、リトアニ
アにおいて財政面での問題等から政治問題化し、2012 年 10 月に行われた国民投票において投
票者の 6 割が新設に反対し、エストニアとしては成り行きを注視する状況であった。2014 年 7
月に、リトアニアのエネルギー省と日立製作所が原子力発電所建設のための事業会社を設立す
る協議を始めることに合意しているが、その際に建設計画にはエストニアも参加することが言
及されている。
3.国際協力
<国際的取組への参加状況>
協力全般
・IAEA:1992 年 1 月 31 日加盟
核不拡散
・核兵器不拡散条約(NPT):1992 年 1 月加盟
・包括的核実験禁止条約(CTBT):1999 年 8 月 13 日発効
核物質防護
・核物質防護条約:1994 年 6 月 8 日発効
原子力安全
・原子力早期通知条約:1994 年 6 月 9 日発効
・原子力事故援助条約:1994 年 6 月 9 日発効
・原子力安全条約:2006 年 5 月 4 日発効
・ウィーン条約:1994 年 8 月 9 日発効
・共同議定書:1994 年 8 月 9 日発効
・放射性廃棄物等安全条約:2006 年 5 月 4 日発効
43-3
ラトビア
1.エネルギー・原子力事情
<概要・背景>
ラトビア(ラトビア共和国)は、面
積が 6.5 万 km2、人口 215 万人(2015
年)1で、バルト海に面する北東ヨー
ロッパの共和制国家である。バルト三
国の一つで、首都はリガである。
ソビエト連邦崩壊後の 1991 年に独
立を回復し、独立後は欧州連合(EU)
と北大西洋条約機構(NATO)加盟に
向けて欧州寄りの政策を採った。その成果が稔り 2004 年 3 月に NATO 加盟、5 月に EU 加盟
を果たした。
ソ連時代は重工業が盛んであったが、独立後は木材関係品や繊維製品の製造が主産業である。
また、その他に漁業、加工食品、金属加工業などの産業もある。いずれの産業も国際的に競争
力のある産業とは言えないものの、2005~2007 年には 2 桁の経済成長を達成している。2013
年 5 月には OECD 加盟手続の開始が決定され、2014 年 1 月 1 日にはユーロが導入された。2014
年の名目 GDP は 320 億ドル、一人あたりの GDP は 1 万 5,729 ドルであった 1。
<一次エネルギー需給>
2013 年における一次エネルギー総供給量は 434
万 6,000 石油換算トンであった2。また一次エネルギ
ー自給率は 49%程度であった 2。
石油・石炭などの天然資源は採れず、2014 年には
天然ガスを 9 億 5,400 万 m3 輸入した3。
石油や天然ガスはパイプラインを通じて主にロシ
アやリトアニアから、石炭はポーランドなどから輸
入している。
1
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外務省ウェブサイト
OECD/IEA, Energy Balances of Non-OECD Countries 2015 Edition
OPEC Annual Statistical Bulletin 2015
44-1
ラトビア
<電力需要>
2013 年の国内総発電量は 62 億 900 万 kWh で、消費量は 70 億 kWh であった 2。
ラトビアでは、水力発電が国内発電量の半分以上を占めている。国の中央部を流れるダウガ
ヴァ川を利用して水力発電を行っており、1960 年代に建設された国内で最大の発電容量を持つ
プリャヴィニュ水力発電所の果たす役割が大きい。その他では、輸入した天然ガスや石油を首
都リガにある熱電併供給施設(CHP)で発電している。この CHP は、TEC-1 と TEC-2 とし
て知られている。しかし、国内の発電電力量は電力需要に対して絶対的に不足しており、不足
分の電力をエストニア、リトアニアなどの隣国から輸入している。
2.エネルギー・原子力政策動向
<エネルギー政策と原子力の位置づけ>
1997 年に承認された「2020 年までの国家エネルギー計画」では、原子力は将来性のあるエ
ネルギー源として位置づけられていた。しかし、ラトビアには原子力発電所を建設する確固と
した計画はない。その代わりに、リトアニアに建設が予定されているヴィサギナス原子力発電
所の計画に投資参加する意向を示している。
エネルギー政策における主なアプローチは、一次エネルギー源の供給の多様化を促進するこ
とにより国のエネルギー供給セキュリティーを増加させること、電力の自給を増加させる状況
を作り出すこと、また地域の電力市場からの剥離を防ぐことに向けられている。
内閣は 2006 年 6 月 27 日に、
「2007 年から 2016 年のエネルギー開発指針(the Energy
Development Guidelines for 2007-2016)」を承認した。指針には、エネルギー分野における中
長期の政府方針及び開発目標また優先事項が示されている。また、政策優先事項及びラトビア
経済の著しい変化を考慮して、
「長期エネルギー戦略 2030 – 社会のための競争力のあるエネル
ギー」
(Long-term Energy Strategy 2030-competitive energy for society)が作成され、2013
年 5 月 28 日に内閣で承認された。なお、長期エネルギー戦略 2030 には、遠回しの表現でヴィ
サギナス原子力発電所の計画に対する直接的なサポートは控えることとすると記載されている。
44-2
ラトビア
<原子力研究機関>
原子力研究は、物理学研究所から分離して 1992 年に Salaspils に設立された原子力研究セン
ター(The Nuclear Research Centre)で行われている。主な実験の土台としては 1961 年から
稼動を開始した実験炉(出力 5,000kW、ガンマ線の強度:10~40Gy/s)が存在していたが、
1998 年に停止され、現在国内に稼働中の研究炉はない。2007 年、ラトビア政府とロシアは、
解体された実験炉の使用済み燃料をロシアに移送することで合意した。
3.国際協力
<国際的取組への参加状況>
協力全般
・IAEA:1997 年 4 月 10 日加盟
核不拡散
・核兵器不拡散条約(NPT):1992 年 1 月 31 日締結
・包括的核実験禁止条約(CTBT):1996 年 9 月 24 日署名
核物質防護
・核物質防護条約:2002 年 12 月 6 日発効
原子力安全
・原子力早期通知条約:1993 年 1 月 28 日発効
・原子力事故援助条約:1993 年 1 月 28 日発効
・原子力安全条約:1997 年 1 月 23 日発効
・ウィーン条約:1995 年 3 月 15 日加入、1995 年 6 月 15 日発効
・共同議定書:1995 年 6 月 15 日発効
・放射性廃棄物等安全条約:2001 年 6 月 18 日発効
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スイス
1.エネルギー・原子力事情
<概要と背景>
スイス(スイス連邦)は、面積 4.1 万 km2、
人口は 824 万人(2014 年)であり1、世界でも
数少ない永世中立国の一つである。ヨーロッパ
大陸内陸部に位置し、26 の州(カントン)によ
り構成される連邦共和制国家で、国際連合をは
じめとする様々な国際機関の本部がスイス国内
に置かれている。
国土の 7 割を占めるアルプス山脈と、その
山々から生み出される豊かな水源は、スイスの
重要な観光資源であるとともにエネルギー資源
でもある。
スイス銀行などの金融業も盛んで、その収益はスイスの実質生産高の 11%以上を占めている。
主な産業は、観光業、精密機械工業(時計、光学器械)、化学薬品工業、金融業(銀行、保険)
である。
2013 年の GDP 総額は 6,359 億スイスフランで、2014 年の GDP 成長率は、2.0%であった 1。
<一次エネルギー需給>
2014年の一次エネルギー総供給量は、2,870万石油換算トンであった2。また、一次エネルギ
ー自給率は約48%程度である3。スイスでは、アルプスから得られる水資源が豊富であるものの、
石油や天然ガスなどの化石資源はない。水力資源の開発利用は進んでおり、一次エネルギーの
約3割を賄っている。これに原子力の2割を加えると、一次エネルギーの約5割を賄っているこ
とになる。石油と天然ガスに関しては、輸入に頼る所が大きい。
1
2
3
外務省ウェブサイト
BP, BP Statistical Review of World Energy June 2015
OECD/IEA, Energy Balances of OECD Countries 2015 Edition
45-1
スイス
<電力需要>
2014年(予測)の総発電量は、698億2,400万kWhであった。
スイスの電力は水力発電が5割を超え、準国産エネルギーとも呼べる原子力発電と併せると、
総発電量の95%近くを賄っている。永世中立国という歴史的・国際政治的な位置付けから、エ
ネルギーにおいても自立意識が高く、電力に関して極力国内で供給する政策が採られているた
め、原子力発電についても準国産とみなし、福島事故が起こるまでは積極的に推進してきた。
スイスの発電量は、通年では国内の需要を満たしているが、水力発電への依存度が大きいた
めに季節変動が大きい。冬季はダム湖の凍結によって水量が減少することに伴い発電量が減少
する。また、スイスの水力発電は、半数近くが(ダムを必要としない)流水式水力発電の方式
を採用しているが、このタイプの発電所の発電量は河川の水量に直接的に依存するため、冬季
の発電は大きく縮小あるいは停止されることもある。冬季の電力不足分については、周辺国の
フランスやドイツから輸入している(フランスに対しては、2つの原子力発電所について200万
kWeの使用権限を有している)。一方、水量が増加する夏季は輸出超過になるのが通例である
(余剰電力の輸出先は主にイタリアである)。
スイスは欧州電力系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)に加盟しており、周辺国との電力
取引を行っている。2014年は、324億3,900万kWhの電力を送電し、281億1,600万kWhを受電
した4。
<原子力発電所の建設・運転状況>
(1)既設炉
2016年3月現在、5基の原子炉が運
転中である。内陸国であるため、原
子力発電所は河川を冷却水に使用し
ており、全ての原子力発電所がライ
ン川の支流アーレ川沿いに位置して
いる。
4
ENTSO-E, Yearly Statistics & Adequacy Retrospect 2014
45-2
スイス
(2)計画中・建設中の原子炉
既設炉の置き換えとして、既設発電所敷地内、または近郊に新規原子炉を建設することが計
画されていた。しかし、2011 年 6 月 8 日の国民議会(下院)と同年 9 月 28 日の全州会議(上
院)で、2034 年までに段階的に脱原子力を実施することを決定した。このため現在、計画中・
建設中の原子炉はない。
2016 年 3 月 2 日、スイス下院(国民議会)は、同国の原子力発電所について運転寿命に上
限を設ける法案を否決した*。これにより、スイス国内の原子力発電所は技術的限界まで運転
を行うことが可能となった。なお、高経年の原子炉について、原子力発電所の事業者に対して
長期安全計画(廃止措置に係る計画をも含む)の提出を求めたスイス連邦原子力安全検査局
(ENSI)の勧告については、否決された。
*
2015 年 9 月、全州会議(上院)は、原子力発電所の運転寿命に上限を設けないことを決定してい
る。また国民議会(下院)のエネルギー委員会は、2016 年 1 月、新規原子炉の建設禁止法案を覆
す決定を行うとともに、ベツナウ原子力発電所に対して運転寿命を設定する案を否決している。
No.
プラント名
型式
状況
設備容量(万 kW)
ネット
グロス
1
BEZNAU-1(ベツナウ)
PWR
運転中
36.5
38.0
2
BEZNAU-2(ベツナウ)
PWR
運転中
36.5
38.0
3
GÖSGEN(ゲスゲン)
PWR
運転中
101.0
106.0
4
LEIBSTADT(ライプシュタット)
BWR
運転中
122.0
127.5
5
MÜHLEBERG(ミューレベルク)
BWR
運転中
37.3
39.0
営業運転
開始日
1969.12
1972.03
1979.11.01
1984.12.15
1972.11
2.エネルギー・原子力政策動向
<エネルギー政策と原子力の位置づけ>
連邦内閣は、2004 年から気候変動対策と新規原子力発電所建設を含む長期エネルギー政策の
検討に着手し、2007 年 2 月に長期エネルギー見通しに基づく「エネルギー基本政策」を発表
した。骨子は、①エネルギー効率の改善、②再生可能エネルギーの利用拡大、③既設の大規模
発電所の更新と新規プラントの建設、④電力供給保障を確保するための海外エネルギー政策(ヨ
ーロッパ送電網との連携強化等)
、であった。この政策実施に向けて、「エネルギー効率と再生
可能エネルギーに関する行動計画」が 2008 年 2 月 20 日に連邦内閣によって承認された。政策
の中では、炭素排出量を削減しエネルギーの独立性を高めていく手段として原子力は重要であ
るとされ、2034 年までに運転寿命を迎える 5 基の原子力発電所に対する対応策の検討が行わ
れていた。
福島事故以降、スイスは脱原子力へと方針転換した。2011 年 5 月 25 日、内閣は 2011 年 2
月の国民投票で承認されていた既設原子炉の建て替えを行わないことを決定した。その後、内
閣が提出した新規原子力発電プラントの建設を全面的に禁止する「新エネルギー戦略」は、同
年 6 月に下院を通過し上院に提出された。2011 年 9 月 7 日に行われた議会上院のエネルギー
45-3
スイス
環境委員会では、原子炉建設全面禁止ではなく現在運転されているような炉型の建設のみを禁
じ、最新型のプラントの建設は禁止しないという条項が付け加えられた。
最終的にその条項は取り除かれ、下院に再提出され承認された後、2011 年 9 月 28 日に再び
上院で投票が行われた。結果、賛成多数(3 対 1)で可決され、2034 年までにスイス国内全て
の原子力発電所を段階的に廃止し、再生可能エネルギーの支援を強化することが決定された。
現在稼働中の原子炉は、運転寿命まで使い切った後に閉鎖する予定である。一方、原子力研究
の全面禁止案に対しては、国民党や急進党など産業界寄りの右派から強い反対が出たため差し
戻された。その後、みどりの党は法制化を目指して活動を行い、2012 年 11 月には国民投票の
実施に必要な署名数を獲得したと発表している。
2050 年までの新エネルギー政策を発表
2012 年 9 月 28 日、長期エネルギー計画である「エネルギー戦略 2050」の第 1 草案が公表
された。戦略では、一人当たりのエネルギー消費量と電力消費量を減少させること、化石燃料
の割合を減少させること、原子力をエネルギー効率の改善と再生可能エネルギーによって置き
換えることなどが目標として設定された。しかし、目標達成のためには、暫定的な対策として、
エネルギーと電力の輸入依存度を高め、化石燃料を用いた熱併給発電とガスタービン複合発電
の割合を増加させる必要がある。目標の中で最優先課題とされたのは、エネルギーと電力の消
費量減少で、2035 年までに 2000 年のレベルより 35%下げることを目標としている。
また、2035
年までに水力による発電量を 374 億 kWh/年まで、再生可能エネルギーによる発電量を 119 億
4,000 万 kWh/年にまで引き上げる。家庭の電力料金は、再生可能エネルギーの生産コストや新
しい電力システムへの投資などを反映して上昇する見込みである。一方で、大口顧客への電力
料金に関しては、経済活動保護のため免税とする予定である。この戦略は、2013 年 1 月 31 日
まで開かれる公聴会のために公表されたものであり、2013 年 9 月にスイス政府は戦略の内容
を承認した。その後 1 年近い議論を経て、2014 年 10 月 20 日に、
「エネルギー戦略 2050」の
法令案が国民議会(下院)の「環境・国土計画・エネルギー委員会」で承認された。
<原子力政策に関する背景情報>
スイスの原子力開発は、第二次世界大戦終了の翌年 1946 年に始まっている。連邦議会が原
子力推進の決議を承認し、原子力平和利用に向けた研究開発が始まった。1957 年には憲法に原
子力利用を規定する条文が明記され、1959 年 12 月 23 日に連邦内閣が原子力法を承認し、商
業用原子力発電の導入体制が整った。
研究開発では、1957 年に最初の研究炉(出力 1 万 kWt)が稼働し、1960 年には 2 基目の研
究炉(出力 3 万 kWt)が稼働、1962 年には電気出力 7,000kWe の実験炉が稼働した。
1960 年代に入り、電力需要の長期見通しの検討が行われた結果、豊富にあると考えられてい
た水力発電の供給能力だけでは増加する需要を賄えないことが判明し、電力会社は石炭火力発
電所と石油火力発電所を建設することを提案した。しかし、それまで水力発電によるクリーン
エネルギーが損なわれるとして環境団体等が反対したため、化石燃料の大規模導入はできず、
45-4
スイス
炭素排出量の少ない原子力発電に目が向けられることとなった。
1969 年、ベツナウ 1 号機(ウェスチングハウス(WH)社製 PWR)が、スイス国内初の商
業用原子炉として稼働を開始した。続いて、ベツナウ 2 号機(WH 社製 PWR)が 1972 年に、
ミューレベルク 1 号機(GE 製 BWR)が 1972 年、ゲスゲン 1 号機(シーメンス製 PWR)が
1979 年、ライプシュタット 1 号機(GE 製 BWR)が 1984 年にそれぞれ商業運転を開始した。
スイスでは、原子炉の運転寿命を 50 年とし*、2007 年の「エネルギー政策」が発表された
後、原子力産業界は、この政策に従って既設の原子炉を新しい原子炉によって置き換えるため
の準備を開始した。
*
現実には「寿命 50 年」と定めた法律は存在せず、もし(原発の安全や核廃棄物の保存・安全を監
視する)連邦原子力安全検査局(ENSI)が安全だと判断した場合は、その後も運行できる。
2008 年 6 月 9 日、ゲスゲン原子力発電所の 40%の資本を所有する Atel AG の子会社である
Kernkraftwerk Niederamt AG 社が、スイス連邦エネルギー庁(BEF)に対し、出力 110 万~
160 万 kW の原子力発電所建設に関する概要許可申請を行った。建設サイトは、ゲスゲン原子
力発電所の近くのゾロトゥルン州ニーダーアムト(Niederamt)であった。
続いて 2008 年 12 月 4 日、ベツナウ原子力発電所を所有する Axpo AG の子会社
Kernkraftwerk Beznau AG とミューレベルク原子力発電所を所有する BKW FMB Energie
AG の子会社 Kernkraftwerk Mühleberg AG が、BEF に対してそれぞれ出力 110 万~160 万
kW の原子力発電所 1 基ずつの建設に関する概要許可申請を行った。建設サイトはともに既設
の原子力発電所サイト内である。
以上の 3 つの許可申請に対して、2010 年 11 月 15 日、スイス連邦原子力安全検査局(ENSI)
は、3 つの新規原子力発電所の安全性は計画を進めるのに十分であり、建設サイト選定のため
の国際基準を技術的に完全に満足しているとの報告書を発表した。
2011 年 2 月 13 日に、ベルン州でミューレベルク原子力発電所の置き換えとなる新規原子力
発電所の建設を巡る住民投票が実施され、投票者の 51%が建設を支持し小差ではあったが賛成
票が上回る結果となった。
しかし、福島事故後に政府が脱原子力の決定を行ったため、今後の原子炉建設は全て凍結さ
れ、稼働している 5 基の原子炉に関しては、ベツナウ 1 号機が 2019 年、ベツナウ 2 号機が 2021
年、ゲスゲンが 2029 年、ライプシュタットが 2034 年と順次、運転寿命を迎えた時点で停止さ
れることとなった。
ミューレベルクは当初 2022 年に停止予定であったが、2012 年 3 月 1 日に連邦行政裁判所
(FAC)が 2013 年 6 月 28 日まで停止するよう判決した。3 月 13 日、ミューレベルクの所有
者であるベルン州電力(BKW)は、最高裁判所へ上告し、それに伴い 12 月 19 日、BKW は
2013 年に予定していた同発電所の改修工事の延期を決定した。2013 年 3 月 6 日、ベルン州政
府は、反対派州民が直ちに閉鎖するよう要求している同発電所について「可能な限り速やかに、
但し 2022 年までに閉鎖する」との対案を提示した。3 月 28 日に最高裁判所は FAC の判決を
破棄し、ミューレベルク原子力発電所に無期限の稼働許可を認め、これを受けて BKW は同原
子力発電所を 2026 年までには稼働させる予定であった。しかし、2013 年 10 月 30 日に BKW
45-5
スイス
は、今後の経済や規制、政治などの情勢の不確実性を考慮した結果、ミューレベルク原子力
発電所を 2019 年に閉鎖すると発表した。なお、市民グループが同発電所の即時閉鎖を要求し
たため 2014 年 5 月に住民投票が行われたが、投票者の 3 分の 2 近くが即時閉鎖に反対したた
め、予定通り 2019 年まで運転されることとなった。2016 年 3 月 2 日、BKW は、ミューレベ
ルク原子力発電所を 2019 年 12 月 20 日に恒久停止すると発表した。同発電所の廃止措置は、
2020 年 9 月の開始を予定しているという。
<核燃料サイクル>
ベツナウとゲスゲン原子力発電所は、再処理事業者との契約により、再処理プロセスを経て製
造されたMOX 燃料を使用している。特に、ゲスゲン原子力発電所は全炉心がMOX燃料である。
再処理で得られたウランの一部はロシアに送られ、解体された核兵器のウランと混合されて燃料
が製造されている。燃料加工はドイツで実施されている。ミューレベルク原子力発電所は、再処
理して取り出したプルトニウムをMOX 燃料として使用している。再処理ウランについては、米
DOEとの話し合いにより、米国に送り新しいウランを入手している。
使用済み燃料の再処理については、各発電会社が個別にフランスや英国と委託契約を締結して
いたが、原子力法が改正され、2006年7月以降10年間にわたり新規再処理契約はできないことと
された。再処理しない使用済み燃料については最終処分することとなっているが、現在は中間貯
蔵されている。
(1)放射性廃棄物管理、貯蔵と処分
放射性廃棄物の取り扱いは、1959 年の連邦原子力法の法的枠組みに基づき 1991 年に制定さ
れた放射線防護法、及び、1994 年に制定された関連命令に従って実施されている。
(2)放射性廃棄物の貯蔵
放射性廃棄物は、アールガウ州のポールシェーレ研究所に併設されているヴュレンリンゲン
中間貯蔵施設(ZZL、ZWILAG が運営)に貯蔵されている。中間貯蔵施設は 1996 年に建設が
許可され、2001 年から運転を開始した。同施設には、低・中レベル、高レベルの両方の放射性
廃棄物が貯蔵されている。高レベル放射性廃棄物は、最低でも 40 年間貯蔵されることになっ
ている。
また、スイスの各原子力発電所には、使用済み燃料用の貯蔵施設が設置されており、使用済
み燃料はそれらの施設に貯蔵されている。
(3)放射性廃棄物処分の方針
スイスでは、最終処分の方法として、低・中レベル放射性廃棄物および高レベル放射性廃棄物
どちらも「自国内で地層処分を行う」方針としているが、国際共同処分場への参加は否定してい
ない。処分場の立地や建設に関しては、電力会社などの放射性廃棄物発生者によって設立された
スイス放射性廃棄物管理協同組合(NAGRA)が担当している。
低中レベル放射性廃棄物については、1993年にNAGRA が、調査結果に基づき「深層処分地
点として、ニトバルデン州ベレンベルクが適当である」と提案した。しかし、ベレンベルクで行
45-6
スイス
われた1995年と2002年の住民投票で、2回とも否決され計画は頓挫している。
(4)専門家グループの設置
環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)は、高レベル放射性廃棄物処分計画が順調に進
展しないことから、技術と社会の両面から問題を検討することとし、1999 年に放射性廃棄物の
処分概念に関する専門家グループ(EKRA)を設置した。EKRA は、1 年間の議論をまとめて
2000 年に“監視付き長期地層処分”という概念を提案した。また、概念を提案すると共に、処
分を実現するために次のような勧告を示した。
・一般市民が放射性廃棄物の管理に関する議論をするように奨励すること
・全ての放射性廃棄物の処分概念として地層処分を採用し、それを原子力法で規定するこ
と。処分事業の実施者に“監視付き長期地層処分”概念の具体化を要求すること
・放射性廃棄物管理は、発電事業者から財政的に独立して行われるようにすること
・オパリナス粘土は、“監視付き長期地層処分”にも適していること
・国際共同処分は、スイス自身で処分の問題を解決するための選択肢とはならないこと
・処分プロジェクトのスケジュールを設定し、定期的にチェックすること
(5)処分候補地の選定
高レベル放射性廃棄物の地層処分地として、NAGRAは、結晶質岩とオパリナス粘土層の2種
類の地質の母岩に対してフィージビリティスタディを実施した。調査の結果、どちらの地層も安
定しており均質で透水係数は小さく(水の浸入が少なく)、かつ100m以上の厚みを有している
ことが確認され、処分は実現可能であるとされた。
これを受け、2008 年 10 月にチュルヒャー・ヴァインラント(チューリッヒ北東部)、北部
レゲレン、ベツベルク(ジュラ東部)の 3 つの候補サイト地域が提案され、サイト選定作業が
開始された。現在は、NAGRA によって詳細な検討が行われており、2019 年頃に概要承認が発
給されて処分サイトが確定され、2050 年頃に処分場の操業が開始される予定である。
なお、低・中レベル放射性廃棄物の地層処分地としては、上記の 3 か所以外に、ジュラ・ジ
ュートフス、ジュートランデン、ヴェレンベルグの 3 か所を加えた 6 つが選定されている。
2015 年 1 月 30 日、NAGRA は、サイト選定の第 3 段階における調査対象地域を提案した。
安全性の観点で比較した結果として、サイト選定の第 1 段階において選定されている 6 つのサ
イトのうち、ジュラ東部とチューリッヒ北東部が提案されている*。第 3 段階におけるサイト
選定作業のために、NAGRA は、低・中レベル、高レベル放射性廃棄物のそれぞれについて複
数の候補地域を提示する必要があったが、今回選定された 2 つのサイトは、低中レベル、高レ
ベル放射性廃棄物のいずれの安全要件をも満たすサイトであるとのことである。
* NAGRA は、この時点で選定されなかった残りのサイト(ジュートランデン、北部レゲレン、ジュ
ラ・ジュートフス、ヴェレンベルグ)について、今後の比較検討の結果によっては候補となる可能
性も残っているとしていた。
その後 2016 年 2 月 8 日に NAGRA は、北部レゲレンもサイト候補とすべきとの意見が安全
専門家グループによって表明されたことを明らかにした。
45-7
スイス
3.原子力行政・規制体制
<規制体制図>
<行政・規制機関の役割>
1959年に制定された原子力法が、原子力に関する立法の根拠となっている(1978年と2003
年に改定されている)。2003年の改定では、原子炉の延長稼働の制限と使用済み燃料の再処理
の禁止に関する項目が廃止され、2005年に発効した。
現在、スイスの原子力安全規制の中心を担っているのが、連邦原子力安全検査局(ENSI)
である。ENSIは、ENSI評議会、組織運営部門、監査部門からなり、連邦評議会により選任さ
れた専門家5~6名の評議員によって構成されている。
かつては1982年に設立されたBFE傘下の原子力施設安全本部(HSK:Swiss Federal Nuclear
Safety Inspectorate)が原子力施設における安全防護と放射線防護の監督、規制を行っていた。
しかし、スイスの原子力法が、原子力部門の監督・規制機関の独立を規定しているのに対し、
HSKは組織上、許認可発給機関である環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)が所轄する
連邦エネルギー庁(BFE)の一部であり、推進部門からの独立性が保たれていなかったため、
独立した機関とするための立法制定に向けて検討が進められた。
2007年6月22日、HSKをENSIに改組することを目的とした「連邦原子力安全検査局(ENSI)
に関する連邦政府の法律」
(ENSI法)の法案が、連邦議会で可決され、HSKは連邦原子力安全
検査局(ENSI)に改組された。HSKからの移行は2008年1月に開始、2009年1月1日に完了し
た。
建設、操業許可はUVEKにより発給される。これら原子力施設の許認可手続全般の管理や原
子力関連法規の準備等にあたるのがUVEKの下部組織でエネルギー政策を担当するBFEであ
る。同庁は、使用済み燃料、放射性廃棄物の輸送許可の発給も行っている。また、BFEの水力・
廃棄物法務サービス部(RWE)内の放射性廃棄物処分課(EA)は都市計画法上の特別計画「深
地層処分場」の実施にあたり、放射性廃棄物の地層処分場選定プロセスを主導している。地層
処分の施設立地の選定や建設は、電力会社などの放射性廃棄物発生者によって設立されたスイ
45-8
スイス
ス放射性廃棄物管理協同組合(NAGRA)が行っている。
この他、政府の諮問機関として原子力安全委員会(KNS)やUVEK傘下の放射性廃棄物管理
委員会(KNE)、政府の放射性廃棄物管理プロジェクト調整機関である放射性廃棄物管理ワー
キンググループ(AGNEB)などがあり、それぞれ専門家による意見の提出や助言を行ってい
る。
<各行政・規制機関の役割>
機 関
主な役割・権限・活動等
連邦評議会(内閣)
・原子力施設を新設する際の概要承認(計画全体の大枠に対する承認)を発給
連邦環境・運輸・エネル ・エネルギー問題を扱う連邦機関・原子力施設の建設・運転許認可を発給
ギー・通信省(UVEK)
連邦エネルギー庁(BFE) ・UVEK の下部官庁(エネルギー行政を所轄)
・使用済み燃料・放射性廃棄物輸送の許可を発給
・原子力施設の一連の許認可手続を管理
・原子力関連法規の制定準備
・特別計画「深地層処分場」に則った放射性廃棄物処分場選定手続の実施
・核物質の管理、インベントリ作成など
連邦原子力安全検査局
・原子力施設の安全管理、規制・監督の実施・原子力施設の許認可手続におい
(ENSI)
て連邦評議会に専門的な意見書や評価報告書を提出
原子力安全委員会(KNS) ・原子力安全に関するあらゆる問題について、連邦評議会および UVEK に助
言する諮問機関
・2008 年 1 月 1 日に旧連邦原子力施設安全委員会(KSA)を改組、規模縮小
して発足
放射性廃棄物管理委員会 ・UVEK の議会外常設委員会、連邦地質学専門委員会(EGK)の中の小委員
(KNE)
会
・放射性廃棄物管理の地質学的問題について連邦政府に助言
放射性廃棄物管理ワーキ ・放射性廃棄物管理プロジェクトの調整機関
・連邦政府と電気事業者のバックエンド活動のモニタリング・放射性廃棄物問
ンググループ
題に関する連邦評議会の決定の準備
(AGNEB)
4.原子力研究開発動向
<研究機関一覧・主な研究内容>
ポール・シェラー研究所(PSI: Paul-Scherrer Institute)
https://www.psi.ch/
研究内容:
・原子炉運転、放射性廃棄物管理、エネルギーシステム分析、ホットラボ など
プロジェクト:
・STARS プロジェクト
コンピュータコードによる通常運転での解析と過渡事象解析を行う研究
・SACRE プロジェクト
過酷事故時における熱水力学的な分析、実験
・AFC Advanced Fuel Cycles プロジェクト
軽水炉における材料の劣化等の変化についての研究
・EDEN プロジェクト
材料の腐食、微細構造変化、燃料棒の破損分析等についての研究
・INTEGER プロジェクト
45-9
スイス
コンポーネントの寿命予測、寿命の延長手法の開発等による、原子炉の安全運転をサポートする
研究
ポール・シェラー研究所(PSI)は、スイスの原子力研究開発において重要な役割を果たし
ている研究機関であり、物質構造、人間健康、エネルギー環境の 3 つの分野について高度な研
究が行われている。なお SI は、未来の国立大型施設である SwissFEL(X 線自由電子レーザー
施設)について重点的に取り組んでいる。
<核燃料サイクル・革新炉・バックエンド・核融合の研究開発動向>
PSI では、第 3・第 4 世代の受動的安全性を有する軽水炉の開発が行われており、「ALPHA
プロジェクト」と呼ばれている。これは、米国の安全規制当局から依頼を受けて研究をしてい
るもので、PANDA と呼ばれる長期崩壊熱除去のための実験施設を用いて実施されており、そ
の成果は、新型炉コンセプトの実証に用いられている。
5.国際協力
<二国間原子力協力協定>
相手国
イタリア
協定
放射線緊急事態での情報交換に関する協定
オーストラリア
カナダ
原子力平和利用に関する協力協定
原子力平和利用に関する協力協定
スウェーデン
ユーラトム核融合プロジェクトでの利用にカ
ナダから直接・間接にスイスヘ移転されるトリ
チウムとトリチウム関連機器、及びそうした装
置で生産され、または保持されるトリチウムに
適用される保障措置についての合意
原子力平和利用に関する協力協定第 V1 条の
濃縮・再処理に関する規定履行を促進するプロ
セスを設置するための書簡交換
原子力平和利用に関する協力協定
中国
ドイツ
1968 年の原子力平和利用に関する協力協定の
追加議定書
原子力平和利用に関する協力協定
緊急時の放射線防護に関する協定
国境地域の原子力施設に関する情報交換協定
災害または重大事故発生時の相互支援協定
緊急時の放射線防護に関する 1978 年の協定
を完成・改定するための交換覚書
45-10
日付
1989 年 12 月 15 日署名、1997 年 5
月 13 日発効
1988 年 7 月 27 日発効
1987 年 12 月 22 日署名、1989 年 6
月 13 日発効
1995 年 3 月 8 日付の交換書簡に署
名、同日発効。
1987 年 12 月 22 日署名、1989 年 6
月 13 日発効
1968 年 11 月 30 日に合意、1990 年
4 月 25 日に追加議定書に署名し同日
発効
1990 年 4 月 25 日署名、同日付の書
簡交換により発効
1986 年 11 月 12 日署名
1978 年 5 月 31 日署名
1979 年 1 月 10 日発効
1982 年 8 月 10 日署名
1983 年 9 月 19 日発効
1984 年 11 月 28 日署名
1988 年 12 月 1 日発効
1986 年 7 月 25 日締結
1988 年 3 月 25 日発効
スイス
原子力分野での第三者賠償責任に関する協定
フランス
原子力平和利用に関する協力協定
北ライン地域国境での隣国問題に関する三国
委員会
放射線緊急時の情報交換に関する協定
災害および重大事故時の相互支援に関する協
定
プルトニウム返還に関する協定
米国
放射線影響をもたらす事象・事故発生時の情報
交換に関する協定
原子力規制問題に関する協力協定
米国 NRC 配管健全性研究グループヘの参加
に関する合意
原子力平和利用に関する協力協定
ロシア
原子力安全間題についての技術情報交換と協
力に関する取決め
原子力平和利用に関する協力協定
1986 年 10 月 22 日署名
1988 年 9 月 21 日発効
1970 年 5 月 14 日署名、1971 年 9
月 27 日に批准書を交換。期限は 10
年。
1970 年 5 月 14 日の旧協定に代わる
ものとして、両国政府が 1988 年 12
月 5 日に署名し、1990 年 12 月 1 日
に発効。
ドイツと共に 1975 年 10 月 22 日に
締結。環境、エネルギー、産業立地
問題、緊急時相互支援を扱う。
1979 年 10 月 18 日署名、1979 年 12
月 13 日発効。
1987 年 1 月 14 日署名
1988 年 12 月 5 日付の交換書簡で締
結、同日発効
1989 年 11 月 30 日締結
米国原子力委員会(AEC、当時)と
スイス政府が 1974 年 12 月 9 日に署
名。期限は 5 年で、双方の合意で延
長される。
1987 年 2 月 3 日と 3 月 3 日に署名し、
3 月 3 日に発効。
1997 年 10 月 31 日署名、1998 年 6
月 23 日発効。
2002 年 9 月 18 日署名、同日発効。
1990 年 4 月 6 日署名(ソ連時代)
<国際的取組への参加状況>
協力全般
・IAEA:1957 年 4 月 5 日加盟
核不拡散
・核兵器不拡散条約(NPT):1969 年 11 月 27 日署名
・包括的核実験禁止条約(CTBT):1999 年 10 月 1 日批准
核物質防護
・核物質防護条約:1987 年 1 月 9 日署名、1987 年 2 月 8 日発効
原子力安全
・原子力早期通知条約:1988 年 5 月 31 日年批准、1988 年 7 月 1 日発効
・原子力事故援助条約:1988 年 5 月 31 日年批准、1988 年 7 月 1 日発効
・共同議定書:1988 年 9 月 21 日署名
・原子力安全条約:1996 年 12 月 11 日批准、発効
・放射性廃棄物等安全条約:2000 年 4 月 5 日批准、2001 年 6 月 18 日発効
45-11
チェコ
1.エネルギー・原子力事情
<概要と背景>
チェコ(チェコ共和国)は、プラハを首
都とし、面積は 7 万 8,866km2、人口は 1,054
万人(2014 年)である1。
1989 年の民主革命後、市場経済への移
行を目指した経済改革が推進され、1994
年には経済成長率がプラスに転じた。
OECD/NEA への加盟(1995 年)と北大西
洋条約機構(NATO)への加盟(1999 年)
を果たし、さらに 2004 年には欧州連合
(EU)加盟も実現した。
チェコ政府は、財政赤字削減のため、緊縮財政政策路線を堅持している。2013 年の国内総生
産(GDP)は 1,984.5 億ドル、一人当たり GDP は1万 8,871 ドルであり、経済成長率は-0.9%
であった 1。
<一次エネルギー需給>
2014 年の一次エネルギー総供給量は、4,090 万石油
換算トンであった2。また、2013 年の一次エネルギー
自給率は 71%であった3。石炭資源は比較的豊富(2014
年末時点の確認埋蔵量 10 億 5,200 万トン、R/P は 22
年)だが 2、それ以外の天然資源には恵まれておらずエ
ネルギーの多くを輸入に依存している。2014 年の石炭
生産量は 4,690 万トンであった 2。品位の低い褐炭は、
北ボヘミア、西ボヘミアおよび南モラビアで採掘され
ており、効率的で経済的な露天掘りはボ
ヘミアで行われている。一方、モラビア
のオストラバ・カルビーナに比較的高品
位の石炭が埋蔵されている。しかし、ほ
ぼ全てが坑内掘りであるため、長期的な
競争力は期待できない。近年では、チェ
コ全国に散存する小規模な炭坑だけで
1
2
3
外務省ウェブサイト
BP, BP Statistical Review of World Energy June 2015
OECD/IEA, Energy Balances of OECD Countries 2015 Edition
46-1
チェコ
なく、主力であるオストラバ・カルビーナ炭田でも炭坑の閉鎖が始まっている。そのため、生
産量は徐々に減少している。
<電力需要>
2014 年(予測)の総発電量は、851 億 kWh であった 3。チェコでは、石炭による火力発電
が主力であるが、国土が狭く資源が少ないことから、早い時期から原子力発電に力を入れてい
る。現在、原子力発電は火力発電に次ぐ発電手段として大きな役割を果たしている。
欧州電力系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)に加盟して周辺国と電力の送受電を行って
おり、2014 年は 281 億 3,800 万 kWh を送電し、118 億 3,200 万 kWh を受電した4。
<原子力発電所の建設・運転状況>
(1)既設炉
2016 年 3 月現在、6 基の原子炉が運転しており、運転・管理は ČEZ(チェコ電力)が行っ
ている。
ドコバニ原子力発電所の原子炉は、旧ソ連設計の第 2 世代の VVER で、テメリン発電所の原
子炉は、第 3 世代の VVER である。
(2)計画中の原子炉
テメリン原子力発電所に、2 基の建設
(3・4 号機)が計画されていた。2025
年の運開を目指しており、2 基の運開に
よって 240 万 kWe の設備容量増加とな
る見込みであった。
入札は 2011 年 10 月 31 日から始まり、
2012 年 7 月の期限までにウェスチング
ハウス(WH)社(AP-1000 を提案)、
アレバ社(EPR を提案)、ロシア-チェ
4
ENTSO-E, Yearly Statistics & Adequacy Retrospect 2014
46-2
チェコ
コ連合(MIR-1200 を提案)の 3 社が入札した。
2012 年 10 月、ČEZ は、アレバ社については契約要件を満たしていない*として候補から除
外した。アレバ社は異議を申し立てたが、2013 年 1 月 25 日、チェコの独占禁止当局はアレバ
社の訴えを却下した。2013 年 9 月 19 日にアレバ社は提訴したが、2014 年 4 月 10 日に、テメ
リン原子力発電所を運転している ČEZ が、EU による長期的なエネルギー政策が不透明である
ことを理由に 3・4 号機の新規建設に係る入札を取り止めたため、4 月 17 日にアレバ社は提訴
を取り下げた。
*
ČEZ は、アレバ社を不適格として選考対象から外した理由として、アレバ社がチェコの公共調達
に関する法令を満たしていないこと及び極めて重要な基準を満足していないことを挙げていた。
2015 年 5 月 23 日、B. ソボトカ首相は、ドコバニ原子力発電所に原子炉 1 基を追加建設す
る計画に関して、入札は 2016 年末までに公表されると述べた。これに関しては、ウェスチン
グハウス社、ロスアトム社、アレバ社、KHNP に加えて、中国企業が応札するものとみられて
いる。着工は 2025 年、運転開始は 2032 年を予定している。
2015 年 5 月、産業貿易大臣は、ドコバニ 1 号機が 2035 年以降に廃炉になる見通しであるこ
とから、「ドコバニ 5 号機の建設の方がテメリン原子力発電所での新規原子炉増設よりも優先
順位が高い」との見解を示したと報じられた。
1
2
3
4
5
6
プラント名
型式
状況
所在地
DUKOVANY-1(ドコバニ)
DUKOVANY-2(ドコバニ)
DUKOVANY-3(ドコバニ)
DUKOVANY-4(ドコバニ)
TEMELIN-1(テメリン)
TEMELIN-2(テメリン)
VVER
VVER
VVER
VVER
VVER
VVER
運転中
運転中
運転中
運転中
運転中
運転中
South Moravia
South Moravia
South Moravia
South Moravia
South Bohemia
South Bohemia
設備容量(万 kW)
ネット
グロス
50.0
51.0
50.0
51.0
50.0
51.0
50.0
51.0
96.5
101.3
96.5
101.3
営業運転
開始日
1985.05.3
1986.03
1986.12
1987.10
2004.10.11
2004.10.11
2.エネルギー・原子力政策動向
<エネルギー政策と原子力の位置づけ>
チェコのエネルギー政策は、2010 年に政府から承認を得た「新国家エネルギー構想」に則っ
て実施されている。
独立エネルギー専門委員会が作成した、チェコの「エネルギーに関する最終レポート(2009
年 1 月発行)
」を基に、通産省がエネルギー構想のドラフトを 2009 年に発行したものが、逐次
アップデートされている。
また、エネルギー構想とは別に、環境省が 2009 年に発表した「気候防衛政策(CPP)」も政
策に影響を与えている。
新国家エネルギー構想では、チェコの 2050 年までのエネルギー市場を予測し、その予測に
基づき、短期間目標の設定と勧告を行っている。構想では、エネルギー供給のセキュリティの
46-3
チェコ
必要性と、チェコが電力輸出国として存続していくことに焦点が当てられており、石炭やウラ
ン、再生可能資源、バイオマスなどの国内資源を最大活用し、エネルギー資源を多様化するこ
とが必要であるとしている。特に、原子力エネルギーは将来のエネルギー源として重要視され
ており、2050 年には全発電量の約半分を原子力で発電する計画である。
2012 年 11 月 9 日にネチャス首相が発表した「新長期エネルギー計画」によると、チェコは
石炭依存を減少させ、エネルギー需要の半分を供給するよう原子力の増加に努力するものとし
ている。またこの政策では、電力の 80%を自国で発電してエネルギーセキュリティを達成する
ことを目標としている。
2015 年 5 月、産業貿易省は、長期エネルギー計画(2015 年版)*を承認した。この計画に
よると、2040 年までに優先する計画として、老朽化した原子炉の建て替えとしてドコバニ原子
力発電所に 1 基建設し、その他既存の 2 つのサイトにおいて 1~2 基の新規原子炉を建設する
としている。しかしながら、新規原子炉の建設は 2025 年までは承認しない見通しを示してい
る。なお発電電源に占める原子力発電の割合については、現在の約 35%から 2040 年までに 46
~58%にすることを見込んでいる。
同年 6 月には、チェコ内閣が新規原子炉を建設する原子力エネルギーに関する行動計画
(National Action Plan for the Development of Nuclear Energy)を承認した。この計画は、
産業貿易省が 5 月に発表した長期エネルギー計画を足場として、産業貿易省と財務省が協力し
て作成したものである。
<原子力政策に関する背景情報>
チェコにおける原子力導入の検討は、戦争や政治的混乱から抜け出して 1945 年にチェコス
ロバキア共和国が復活してまもない 1950 年代に始まっており、1958 年にボフニチェ(現スロ
バキア)にガス冷却重水炉(ボフニチェ A-1、14.4 万 kWe)の建設が着工した。1972 年に完
成して運転を開始したが 1977 年に燃料溶融事故が起こり 1979 年に閉鎖した。初号機に続き
1974 年と 1976 年に、同じくボフニチェで VVER-440 型炉の建設が 2 基ずつ着工し、1979~
1985 年にかけて商業運転を開始した。しかし、以上 5 基の原子炉は 1993 年にチェコスロバキ
アが分離した際、スロバキア側に組み入れられた。
一方、チェコの領土内では、1977 年にドコバニに原子力発電所を建設することが決まり、4
基の VVER-440(V-213 モデル)が 1985~1987 年に商業運転を開始している。
また、1983 年にテメリン 1・2 号機 VVER-1000(V-320 モデル)が着工し、ビロード革命
(1989 年)後の新政府の決定により、建設は一時中断したが、1993 年に再開され、それぞれ
2000 年と 2002 年に臨界に達し、2004 年に商業運転を開始した。
また、計画段階であったテメリン 3・4 号機は凍結されたが、2008 年に改めて建設の再開が
決定された。環境省は、2008 年半ばから政府の要請に応じてサイト予定地の環境影響評価(EIA)
を開始し、2010 年 5 月に政府に報告書を提出した。
ČEZ は 2012 年 11 月 30 日に、テメリン 3・4 号機の建設許可申請を原子力安全局(SUJB)
46-4
チェコ
に提出した。建設される原子炉の入札に関しては、2011 年 10 月 31 日に入札受付を開始し、
2012 年 7 月の期限までに、WH 社、ロスアトム社が率いるロシア-チェコ連合、アレバ社の 3
社が入札に参加した。2012 年 10 月、ČEZ は選定中の 3 社からアレバ社を除外すると発表した。
これを不服としてアレバ社はチェコ独占禁止当局(UHOS)に異議を申し立てたが、2013 年 1
月 25 日、UHOS はアレバ社の申立を棄却した。UHOS による棄却に対してアレバ社は、2013
年 9 月 19 日にブルーノ地方裁判所(Regional Court of Brno)へ ČEZ を提訴した。2014 年 4
月 10 日、EU による長期的なエネルギー政策の不透明さのために電力市場の成り行きが不透明
であるとして、ČEZ は入札の取り止めを発表した。これを受けて 4 月 17 日に、ČEZ を提訴し
ていたアレバ社は訴えを取り下げた。
燃料サイクル
チェコは、かつて年間 2,500 トンのウランを生産していたが、1990 年頃から急激に生産量が
減り、1994 年には年間 600 トンまでに減少、2010 年にはわずか 254 トンしか採掘できなくな
った。
原子力発電に使用するウランの多くは国内で生産し、濃縮や燃料加工はロシアで行っている。
かつては、ドコバニ原子力発電所の燃料は TVEL 社が、テメリン原子力発電所の燃料は WH
社が供給していたが、2006 年に TVEL 社は、2010 年から 10 年間にわたりテメリンの燃料を
供給する契約を得たため、現在は全ての燃料供給を TVEL 社が行っている。
2016 年 2 月 29 日、ウェスチングハウス社は、
テメリン原子力発電所におけるロシア製 VVER
炉用の先行試験集合体(LTA:lead test assembly)について、6 体の納入契約をチェコ電力(ČEZ)
との間で締結したことを明らかにした。世界中のロシア製原子炉は燃料の 100%をロシアに依
存している状況であるため、今回の ČEZ による決断は、ウェスチングハウス社にとっても重
要なものとなるという。
放射性廃棄物管理
チェコ国内では、クローズドサイクルを目指しておらず、使用済み燃料の再処理を実施する
予定はない。原子炉から出た使用済み燃料は、
(再処理をせず)廃棄物であると宣言された場合
に廃棄物として扱われることとなり、放射性廃棄物処分機構(RAWRA:Radioactive Waste
Repository Authority)に引き渡される。それまでは、それぞれの発電所サイトで貯蔵・管理
される。なお RAWRA は、国際機関等の資料ではチェコ語の SURAO(Správa úložišť
radioaktivních odpadů)として表記されることも多い。
研究炉から出た使用済み燃料は、Řež 原子力研究所にある中間貯蔵施設で貯蔵されている
(Rez 原子力研究所は、ČEZ、スロバキア電力(SE)及びシュコダ社が所有者となっている)
。
高レベル放射性廃棄物処分施設は、RAWRA が先頭に立って建設計画を進めている。サイト
の決定は 2025 年で、2050 年から建設が始まり、2065 年の完成を予定している。候補として
南モラヴィア地方にあるスカルカが挙がっている。
更に、最終処分施設の選定も RAWRA が中心機関となっている。候補地は、南ボヘミア地方
のクラヴィホラと北部のブラジシチェで、両地域とも地下の最終処分施設建設についての合意
46-5
チェコ
が成立している。クラヴィホラでは地層調査の実施が計画されていたが、2014 年 1 月に、環
境大臣が地元および環境団体の意見書を受けて「地質調査は実施しない」と発言した。
しかしながら 2014 年 10 月 23 日、チェコ環境省は RAWRA に対して、高レベル放射性廃棄
物の最終処分場候補地となっている 7 か所について、初期段階の地質調査開始を承認した。今
回の承認に基づき、地表および浅地中での測量、岩盤測量、データ収集、岩盤サンプルの収集
などについて初期段階の地質調査を行うとされた。
3.原子力行政・規制体制
<規制体制図>
<行政・規制機関の役割>
チェコでは、原子力安全局(SÚJB:State Office for Nuclear Safety)が原子力安全や放射
線防護、核物質防護、緊急時対策準備、廃止措置、放射性物質輸送、原子力導入の技術的保全
などを行っている。SÚJB は政府直属の独立した機関で、1993 年にチェコスロバキア原子力委
員会から規制機関としての役割を引き継いだ。
また、放射性廃棄物貯蔵機構(RAWRA)は、放射性廃棄物の処分に関連する業務を担当し
ている。原子力法(法令 18/1997、原子力と放射線の平和利用、26 条)に従って、1997 年 6
月に設立された組織であるが、2000 年からは法令 219/2000、51 条に従って、完全に国営化さ
れた。
全ての原子力関連問題は、1997 年に公布された原子力法(2002 年に EU の規制と同調させ
46-6
チェコ
るために修正)を適用して処理されることとなっている。
2016 年 1 月、チェコ政府は、首相直轄の新たな委員会を設置した。この委員会は同国にお
ける原子力開発の調整を行うことを目的としており、原子力発電所の新規建設、機器類のサプ
ライチェーン、廃棄物、原子力に関連した法整備等に責任を持つことになる。
4.原子力研究開発動向
<研究機関一覧・所在地>
研究機関名
原子力研究所(ÚJV Řež a. s.)
チェコ技術大学
原子力科学・物理工学研究所
研究炉
LVR-15(1 万 kWe)
LR-0(5kWe)
VR-1 Sparrow(5kWe)
所在地
Husinec-Řež, Hlavní. 130,250 68
Czech Republic
Břehová 7, 115 19 Praha 1
5.国際協力
<二国間原子力協力協定>
相手国
インド
ウクライナ
カナダ
協定
原子力平和利用に関する協力協定
原子力および原子力産業の分野での協
力協定
原子力平和利用における協力及び核物
質の移転に関する協定
原子力平和利用に関する協力協定
韓国
原子力協力に関する意図表明文書
オーストラリア
原子力平和利用に関する協力協定
スロバキア
ドイツ
フランス
原子力設備管理と核物質管理分野に関
する協力協定
原子力安全と放射線防護の分野での共
通の関心事項の規定に関する協定
科学技術協力協定
災害または重大事故発生時の相互支援
協定
原子力エネルギー分野での親密な協力
の合意
ブルガリア
原子力平和利用に関する協力協定
米国
原子力安全問題についての技術情報交
換と協力に関する取決め
(原子力平和利用に関する協力協定)
46-7
日付
1966 年 11 月 9 日署名
1997 年 6 月 30 日署名
2001 年 7 月 27 日署名
2002 年 5 月 17 日発効
1995 年 2 月 22 日署名、同日発効。
10 年の協定期限は片方が解除を決定しない
限り、更に 5 年毎に更新される。
1995 年 3 月 5 日締結
2001 年 3 月 16 日署名、同年 6 月 1 日発効。
有効期間は 10 年間で、以降 5 年毎の更新が
可能。
2002 年 6 月 28 日署名、同年 11 月 14 日発
効
1990 年 5 月 30 日署名
同年 8 月 2 日発効
1990 年 11 月 2 日署名、同日発効
2000 年 9 月 19 日署名
2003 年 1 月 1 日発効
2011 年 5 月 18 日、チェコの M. コチュー
レク通商産業大臣とフランスの E. ベッソ
ン大臣が署名
1970 年 6 月 12 日署名、同日発効
チェコスロバキアとの間で締結された 1989
年 4 月 14 日付の取決めは、チェコ共和国と
の間での取決め(1994 年 11 月 10 日署名・
発効)により更新された。 2002 年 9 月 22
日に再更新
米国とチェコスロバキアの間で 1991 年 6
チェコ
ポーランド
モンゴル
ロシア
Rez の原子力研究所(NRD)の研究炉
からロシア連邦への管理・貯蔵を目的
とした核燃料と使用済燃料の移転に関
する合意
核物質・原子力技術の不拡散の分野に
おける協力協定
原子力事故の早期通報及び原子力の平
和利用に関する情報交換、原子力安全
及び放射線防護に関する協定
原子力技術とウラン鉱床に関する覚書
(MOU)
原子力分野での協力協定
原子力分野の協力協定の補足
月 13 日に署名され、1992 年 2 月 13 日に発
効。協定期間は 30 年で更新も可能とされた
が、1992 年にチェコスロバキアが消滅して
チェコとスロバキアに分離したので、米国
政府は既存の協定について見直し中である
2006 年 12 月 8 日と 15 日に署名、12 月 15
日に発効
2007 年 9 月 22 日署名、同日発効
2005 年 9 月 27 日署名
NEA がチェコ産業貿易省と 2012 年 12 月
19 日に署名
1994 年 12 月 4 日署名、1995 年 4 月 4 日に
発効。10 年の期限は片方が解除を通知しな
い限り、更に 2 年毎に更新される
1994 年 12 月 4 日に署名した協定について、
両国政府が 99 年 4 月 15 日に署名し、同日
に発効
<国際条約など>
協力全般
・IAEA:1993年9月27日加盟
核不拡散
・核兵器不拡散条約(NPT):1993年1月1日発効
・IAEA保障措置協定:2009年10月1日発効
・IAEA保障措置追加議定書:2009年10月1日署名
・包括的核実験禁止条約(CTBT):1997年9月11日批准
核物質防護
・核物質防護条約:1987年2月8日発効
原子力安全
・原子力事故の早期通報に関する条約:1993年1月1日発効
・原子力事故援助条約:1993年1月1日発効
・原子力安全条約:1996年10月24日発効
・使用済燃料と放射性廃棄物の安全管理に関する条約:2001年6月18日発効
・原子力損害の民事責任に関するウィーン条約:1997年11月12日発効
その他協力
・ユーラトムの原子力供給グループ:2004年4月加盟
46-8
スロバキア
1.エネルギー・原子力事情
<概要と背景>
スロバキア(スロバキア共和国)は、ブ
ラチスラバを首都とし、面積は 4.9 万 km2、
人口は 541.7 万人(2014 年)である1。
かつては、チェコと共にチェコスロバキ
ア共和国を構成していたが、1992 年の連
邦議会でチェコとスロバキアは連邦制を
解消することが決まり、現在のスロバキア
共和国が誕生した。
工業が発展していたチェコに比べ、スロ
バキアは農業地帯であった。独立後に同国
の経済は一時的に落ち込んだものの、1994年には積極的な民営化と緊縮財政政策を進め、経済
成長率は上向きに転じた。2000年12月にOECD、2004年3月にNATO、同年5月にEUへの加盟
を果たしている。
2013 年の GDP は 958 億ドルで、一人当たり GDP は 1 万 7,706 ドル、経済成長率は 0.9%
であった 1。
<一次エネルギー需給>
2014 年の一次エネルギー総供給量は、1,500 万石油
換算トンであった 2 。2013 年のエネルギー自給率は
38%であった3。
石炭資源があるが、品位の低い褐炭が多い上に、近
い将来に枯渇することが懸念されている状況で、生産
量は年々減少している。そのため、エネルギー資源は
輸入に頼るところが大きく、特に石油と天然ガスは、
その大部分をロシアから輸入している。2014 年は 43
億 m3 の天然ガスを、パイプラインを通してロシア等
から輸入した 2。
1
2
3
外務省ウェブサイト
BP, BP Statistical Review of World Energy June 2015
OECD/IEA, Energy Balances of OECD Countries 2015 Edition
47-1
スロバキア
<電力需要>
2014 年(予測)の総発電量は、265 億 1,500 万 kWh であった 3。
資源が少ないスロバキアでは、化石燃料の輸入を抑えるよう、原子力発電や水力発電、およ
び国内資源の石炭を用いて発電している。
欧州電力系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)に加盟しており、送電網を通じて周辺国と
電力の送受電を行っている。2014 年は、合計 118 億 6,100 万 kWh の電力を送電し、129 億万
kWh を受電した4。
<原子力発電所の建設・運転状況>
(1)既設炉
2016 年 3 月現在、4 基の原子
炉が稼働している。ボフニチェ原
子力発電所 3、4 号機(VVER-440、
約 50 万 kWe)は、1976 年に着
工し 1984 年、1985 年に営業運転
を開始している。モホフチェ原子
力発電所 1、2 号機(VVER-440、
47 万 kWe)は、1981 年に着工後、
建設の一時凍結を経て、それぞれ 1998 年、2000 年に運転を開始した。両原子力発電所は、ス
ロバキア電力(SE)が所有している。
(2)建設中・計画中の原子炉
モホフチェ 3、4 号機(VVER-440、44 万 kWe)の建設は着工後の 1987 年に凍結されてい
たが、2007 年にスロバキア電力が再開を発表し、2009 年に再開された(詳細後述)。
(3)閉鎖された原子炉
これまで、初号機であるボフニチェ A-1 およびボフニチェ 1、2 号機の 3 基の原子炉が恒久
4
ENTSO-E, Yearly Statistics & Adequacy Retrospect 2014
47-2
スロバキア
停止されている。3 基とも、度重なる事故が原因で閉鎖された。
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
プラント名
型式
状況
所在地
設備容量(万 kW) 営業運転
開始日
ネット
グロス
47.1
50.5
1984.11
VVER
運転中 WEST
BOHUNICE-3
SLOVAKIA
(ボフニチェ)*
VVER
運転中 WEST
47.1
50.5
1985.09
BOHUNICE-4
SLOVAKIA
(ボフニチェ)*
MOCHOVCE-1
VVER
運転中 SOUTH
43.5
47.0
1998.10.29
(モホフチェ)
SLOVAKIA
MOCHOVCE-2
VVER
運転中 SOUTH
43.5
47.0
2000.04.11
(モホフチェ)
SLOVAKIA
MOCHOVCE-3
VVER
建設中 WEST
43.6
47.1
(モホフチェ)
SLOVAKIA
MOCHOVCE-4
VVER
建設中 WEST
43.6
47.1
(モホフチェ)
SLOVAKIA
BOHUNICE A-1
HWGCR
恒久
WEST
11.0
14.4
1972.12.25
(ボフニチェ)
停止
SLOVAKIA
BOHUNICE V-1
VVER
恒久
WEST
40.8
44.0
1979.04
(ボフニチェ)
停止
SLOVAKIA
BOHUNICE V-2
VVER
恒久
WEST
40.8
44.0
1980.05
(ボフニチェ)
停止
SLOVAKIA
*ボフニチェ 3・4 号機は 2010 年 11 月に出力増強工事が終了し、50 万 kWe となった。
2.エネルギー・原子力政策動向
<エネルギー政策と原子力の位置づけ>
スロバキアのエネルギー政策は、2014 年 11 月に政府が承認した長期エネルギー計画に基づ
いている。この計画では、より多くの原子力と再生可能エネルギーの利用を目指し、その一方
で石炭の使用を削減することを目的としている。
<原子力政策に関する背景情報>
既設炉
2016 年 3 月現在、4 基の原子炉が稼働している。最も古いボフニチェ 3 号機は、1976 年に
4 号機と共に、シュコダ社によって建設が始められた。設計はロシアのアトムエネルゴプロエ
クト社が担当した。1984 年に 3 号機は運転を開始し、4 号機は翌 1985 年に稼働した。両機は
2005 年から 2008 年にかけて、運転寿命を 40 年延長するために耐震性や冷却システムや計装
制御システムの改修工事が行われた。また、2010 年 11 月には出力増強工事が行われ、容量が
44 万 kWe から 50 万 kWe に増加された。
一方、モホフチェ 1、2 号機の建設は 1981 年 6 月にシュコダ社によって開始されたが、1991
年から資金難により、建設は一時凍結された。1996 年に建設凍結が解除され、それぞれ 1998
年 10 月、2000 年 4 月に営業運転を開始した。
47-3
スロバキア
建設中・計画中の原子炉
・モホフチェ原子力発電所 3、4 号機
モホフチェ 3、4 号機(VVER-440、44 万 kWe)は、1987 年に着工後しばらく建設が凍結
されていたが、2007 年 2 月にスロバキア電力(SE)が建設を再開すると発表し、2008 年 7
月に EC の承認を得た。建設のための活動は、EC 承認直後の 2008 年 11 月に開始されたが、
実際の建設作業が始まったのはロシアのアトムストロイエクスポルト社等との契約(2009 年 6
月)後であった。建設は、EU ストレステストにより一時中断していたため、完成は予定より
1 年遅れてそれぞれ 2013 年末と 2014 年が予定されており、運転開始後は 2016 年までに 6.2
万 kWe の出力増強工事が予定されていた。SE の株式を 66%保有している ENEL 社は、2012
年 12 月、当初の見積りである 28 億ユーロの見積りに加えて 8 億ユーロの追加融資と、22 か
月間の建設期間の延長を要請した。2013 年 8 月に、スロバキア政府と同社は、2 億 6,000 万ユ
ーロの追加拠出で合意に至った。
しかし 2013 年 8 月 22 日にスロバキア最高裁判所は、3、4 号機の建設完了のために必要な
許認可を無効にした。2009 年にスロバキア原子力規制委員会(UJDSR)は、同発電所の建設
完了に必要な許認可を延長していたが、この最高裁判決により、今後 UJDSR は、許認可の更
新を行う前にその計画に関して環境保護団体であるグリーンピース・スロバキアと協議を行う
ことが必要となった。
2014 年 4 月、スロバキア政府と建設業者は、3、4 号機の建設予算について 4 億ユーロ増額
した 38 億ユーロとすることに合意した。さらに同年 11 月にスロバキア政府は、8 億ユーロ増
額した 46 億ユーロとすることに合意した。3 号機の商業運転開始は 2016 年 11 月、4 号機の
商業運転開始は 2017 年 11 月とされている。
・ボフニチェ原子力発電所 5 号機
2009 年に発表されたボフニチェ原子力発電所に 5 号機を新設する計画では、2017 年に建設
を開始し 2023 年に稼働を開始する予定として、2010 年には立地や経済性、資金などに関する
調査を終えていた。しかし、2011 年 5 月 3 日、原子力規制委員会は、建設が 5 年以上延期さ
れたため、2025 年以前に稼働させることはできないと発表した。延期の原因として、EU がセ
キュリティの強化を求めたこと、フィージビリティスタディや環境影響評価(EIA)が遅延し
ていることなどが挙げられた。
2013 年 9 月 27 日、英国のアメック社は、同原子力発電所 5 号機の建設に関連した環境影響
評価(EIA)を実施する 3 年間の契約を JESS 社(Nuclear Energy Company of Slovakia)と
締結した。これは、立地周辺の州から許認可を得るために不可欠な環境影響評価(EIA)を実
施するためのものである。
閉鎖された原子炉
これまで、3 基の原子炉が恒久停止されている。
最初に停止された原子炉は 1972 年に運転を開始したボフニチェ A-1 である。シュコダ社に
よって建設されたガス冷却加圧重水炉(HWGCR)は、ソ連の設計による天然ウラン炉であっ
47-4
スロバキア
たが、事故が続いて運転期間は実質 5 年であった。1976 年に実施された燃料交換時に燃料集
合体が炉心から露出したため、冷却材の炭酸ガスが放出されて作業員 2 名が酸欠で死亡すると
いう事故が発生し、翌 1977 年には、燃料集合体の中に放置されたシリカゲルの入った袋が冷
却材の流れを妨げたことにより燃料溶融事故が起こった。これらの事故が続いたために、同炉
は 1979 年に閉鎖された。破損燃料を除去し、廃液処理を行い、70 年間密封管理した後に解体
することとなっている。
また、アトムエネルゴエクスポルト社の協力を得てシュコダ社が建設したボフニチェ 1、2
号機は、それぞれ 1979 年 4 月、1980 年 5 月に営業運転を開始し出力増強も行われ、スロバキ
アの重要な電源としての役割を果たしていたが、何度も事故を起こしたため、西側諸国は安全
性に懸念を抱き IAEA に視察を要請した。IAEA は、同発電所を訪れて安全上の改善策を提案
していたが、西側諸国(特に隣国のオーストリア)がスロバキアの EU 加盟の条件としてボフ
ニチェ 1、2 号機の停止を挙げて強硬に停止を迫ったため、EU 加盟を目標とするスロバキアは
それを受け入れることとし、ボフニチェ 1 号機は 2006 年末、2 号機は 2008 年末に閉鎖された。
燃料サイクル
VVER で使用される全ての燃料は、ロシアで加工されている。燃料供給者は、ウランの転換
や濃縮を行った後の、完成された核燃料集合体を提供する。2003 年にスロバキア電力(SE)
は、ボフニチェ原子力発電所とモホフチェ原子力発電所の核燃料提供に関して新しい契約をロ
シアの TVEL 社と締結した。
2015 年 11 月 24 日、中国とスロバキアは、核燃料サイクルでの協力に関する了解覚書(MOU)
に署名した。両国は、民間原子力産業の燃料サイクルサプライチェーンにおいて協力をしてい
く。
放射性廃棄物管理
スロバキア電力(SE)は、1996 年初旬、原子力施設の廃止措置や、放射性廃棄物・使用済
み燃料管理のための子会社として VYZ 社を設立した。また、VYZ 社とは別に廃止措置に特化
した SE の子会社 Decom 社も設立されている。2006 年にイタリアの ENEL 社が SE の株式
66%を取得したことで、VYZ 社は JAVYS 社(国営)へと変更された。
ボフニチェにある低・中レベル放射性廃棄物の処理プラントは、現在、JAVYS 社によって管
理されている。モホフチェにある浅地中貯蔵施設は 2001 年に貯蔵を開始した。
ボフニチェで発生する使用済み燃料の中間湿式貯蔵施設は、原子炉の使用済み燃料プールを
補うためのもので、1,680 トンの容量を持っている(燃料集合体 1 万 4,000 体分)。1986 年か
ら貯蔵を開始している。以前は、使用済み燃料の一部が再処理のためにロシアへ輸出されてい
た。高レベル放射性廃棄物処分場のサイト選定が現在行われているが、政府は国際貯蔵施設計
画に参加するという選択肢も考慮に入れている。
廃止措置
2006 年末に閉鎖されたボフニチェ 1 号機と 2008 年末に閉鎖された 2 号機は、EU からの資
金援助を受けて 2025 年の終了を目指して廃止措置(デコミッショニング)作業が進められて
47-5
スロバキア
いる。廃止措置は JAVYS 社によって実施されている。
廃止措置費用を捻出するために、放射性廃棄物管理と廃止措置に関する国営の基金が 1995
年に設立された。SE 社が販売した電気代の 10%が、基金の運用資金に充てられている。また、
2001 年には欧州復興開発銀行(EBRD)の投資によって、ボフニチェ国際廃止措置支援基金も
設立されている。11 億ユーロ程度と見積もられる費用に対して調達できる見込みは 7.2 億ユー
ロで、資金不足が懸念されている。
2013 年 1 月 24 日、欧州議会の予算監督委員会は、ブルガリア、リトアニア、スロバキアの
3 国へのデコミ資金提供に関する決議案を採択した。なおその際に、これまで提供された資金
のうち 40%が不適切に使用されていることを指摘し、条件の遵守を要求した。同年 2 月 8 日に
欧州理事会は、2014~2020 年のデコミ予算として 8 億 6,000 万ユーロを承認した。さらに 11
月 19 日には、欧州議会は追加の支援予算として、2014~2020 年分のボフニチェ 1・2 号機の
デコミ予算として 2 億ユーロを承認した。
3.原子力行政・規制体制
<原子力体制図>
<行政・規制機関の役割>
1993 年 1 月 1 日に、法律 No.2/1993 に従って設立されたスロバキア原子力規制委員会
(UJDSR)が、独立した規制機関として国内の許認可、安全性、廃棄物管理、放射線防護、保
障措置に対して責任を有している。
47-6
スロバキア
その他、厚生省や経済省、環境省、内務省などは、原子力安全に関する活動を行っている。
・厚生省:原子力施設、及びサイト外の放射線防護対策の実施
・経済省:原子力発電計画の推進・開発など
・環境省:立地の環境影響評価
・内務省:放射線事故時の防護対策、放射線緊急時の支援
<法制度>
スロバキアの原子力関連法の中で最も重要とされているのは、原子力エネルギーの平和利用
について定めた法令の「541/2004 Collection of Laws」である。
4.原子力研究開発動向
<研究機関一覧>
スロバキアでの研究開発は、国家長期戦略計画に則って実施され、研究資金は、民間部門ま
たは EU 基金から国家予算として拠出される。資金の額は限られており、1 年間に 10 万ドルほ
どしかない。
企業の技術支援機関や大学が、スロバキアにおける研究開発の牽引者である。その研究内容
は、効果的で効率の良い核燃料開発や、原子力エネルギーを熱や電気に変える効率的な転換方
法、放射性廃棄物や使用済み燃料の扱い、緊急時対応対策、原子力施設の安全性を高めるため
の支援など、様々である。
機関名
VUJE, a.s Trnava
VÚEZ, a.s.
RELKO Ltd.
スロバキア工科大学
URL
http://www.vuje.sk/
http://www.vuez.sk/
http://www.relko.sk/
http://www.stuba.sk/english.html
5.国際協力
<二国間原子力協力協定>
相手国
カナダ
チェコ
ドイツ
フランス
米国
協定
原子力平和利用に関する協力協定
原子力設備管理と核物質管理分野に関する協
力協定
原子力安全と放射線防護の分野での共通の関
心事項の規定に関する協定
科学技術協力協定
原子力平和利用に関する協力協定
原子力安全問題の技術情報交換と協力に関す
る取決め
47-7
1996 年 10 月 22 日発効
2002 年 6 月 28 日署名、同年 11 月
14 日発効
1990 年 5 月 30 日署名
1990 年 8 月 2 日発効
1990 年 11 月 2 日署名、同日発効
2008 年 9 月 17 日署名
1994 年 11 月 10 日に署名した取決め
の更新について、米国 NRC とスロ
スロバキア
ポーランド
ルーマニア
ロシア
原子力事故時の早期通知と原子力安全、放射線
防護の分野に関する情報交換協定
原子力事故時の早期通報と原子力施設の情報
交換に関する協定
スロバキアのモホフチェ原子力発電所建設に
関する協力協定
バキア原子力規制委員会(UJDSR)
が 2000 年 9 月 21 日に署名し、同日
に発効。2005 年 9 月 26 日に延長。
1996 年 9 月 17 日署名
2002 年 5 月 14 日発効
1995 年 10 月 31 日署名
<国際的取組への参加状況>
協力全般
・IAEA:1993 年 9 月 27 日加盟
・欧州原子力共同体(Euratom):2004 年加盟
核不拡散
・核兵器不拡散条約(NPT):1993 年批准、追加プロトコル:1999 年署名
・包括的核実験禁止条約(CTBT):1998 年 3 月 3 日批准
・NSG グループ:2004 年加盟
核物質防護
・核物質防護条約:1993年2月10日発効
原子力安全
・原子力安全条約:1994 年 9 月 20 日署名
47-8
ハンガリー
1.エネルギー・原子力事情
<概要と背景>
ハンガリーは、首都をブダペストに置き、
面積は約 9.3 万 km2、人口は 990 万人
(2015
年)である1。国名は、2012 年 1 月に制定
された新憲法により「ハンガリー共和国」
から「ハンガリー」へと変更されたが、こ
れまでと同様に共和制の国であることに
変更はない。
1989 年の民主化後、ハンガリーは一貫
して「欧州への回帰」を最大の外交目標と
して掲げ、1999 年 3 月に NATO に、2004
年 5 月に EU に加盟した。経済面では、市場経済及び外資を積極的に導入し、1990 年代後半
から 2000 年代半ばにかけて高い経済成長を遂げた。世界金融危機の影響を受けて 2009 年の
GDP 成長率は-6.3%となったが、その後回復し、2012 年は EU の景気後退に伴いマイナス成
長を記録したものの、2013 年は農業の回復や EU 補助金
の活用により 1.5%のプラス成長を確保した。2014 年の
GDP は、1,348 億ドルであった 1。
<一次エネルギー需給>
2014 年の一次エネルギー総供給量は 2,000 万石油換算
トンであった2。また、2013 年のエネルギー自給率は 45%
程度であった3。
ハンガリーの石炭資源は比較的豊富であるが、品位は
低い。2014 年末時点で確認されている埋蔵量は 16 億
6,000 万 t で、可採年数は 174 年である 2。有
力な炭田は南東部ベーチ近郊、首都ブダペス
トの西方 50km に位置するタタバーニャ近郊
の 2 か所に広がっている。2014 年は 200 万
石油換算トンの石炭を生産した 2。
1960 年代には国内のエネルギーのほぼ全
てを自給していたが、年々天然資源の生産量
1
2
3
外務省ウェブサイト
BP, BP Statistical Review of World Energy June 2015
OECD/IEA, Energy Balances of OECD Countries 2015 Edition
48-1
ハンガリー
は減少し、海外からの輸入に頼る比率が多くなっている。
ハンガリー国内には、2013 年 1 月 1 日時点で、1kg 当たり 260 米ドル以下で採掘可能な発
見資源量が 1 万 3,500tU 確認されている4。ウラン鉱床としては、1958 年から採掘が開始され
たメチェック(Mecsek)鉱山があるが、1997 年に閉鎖された。
<電力需要>
2014 年(予測)の総発電量は 292 億 8,800 万 kWh であった。
かつて、ハンガリーでは石油火力や天然ガスによる火力発電が主流であったが、原子力発電
所の稼働が開始されると、原子力による発電量が石油火力に置き換わっていった。総発電量は
2008 年にピークを迎えており、以降は全体的に減少傾向にある。
欧州電力系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)に加盟しており、周辺国と電力の送電・受
電を行っている。2014 年には 56 億 8,300 万 kWh を送電し、190 億 8,300 万 kWh を受電した
5。
<原子力発電所の建設・運転状況>
(1)既設炉
2016 年 3 月現在、4 基の商業用原子炉(ロシア製 PWR、VVER-440)が稼働している。原
子炉のあるパクシュ原子力発電所は、首都ブタペストから南 114km に位置するドナウ川沿い
に 立 地 し て い る 。 発 電 所 の 運 営 管 理 は 、 ハ ン ガ リ ー 電 力 株 式 会 社 ( Hungarian Power
Companies Ltd)の子会社であるパクシュ原子力発電株式会社(Paks Nuclear Power Plant
Ltd)が行っている。
当初は 44 万 kW であったが、2006~2009 年にかけて毎年 1 基ずつ 47 万 kW へと出力を増
強する改造工事が実施された。パクシュ 1 号機は、2012 年 12 月 14 日に運転認可が 20 年延長
され、2 号機については、2014 年 11 月 25 日に 20 年間の運転延長(2034 年末まで)が承認
された。
国内には、2 基の研究炉もある。
4
5
Nuclear Energy Agency, Uranium 2014: Resources, Production and Demand
ENTSO-E, Yearly Statistics & Adequacy Retrospect 2014
48-2
ハンガリー
(2)計画中の原子炉
2014 年 2 月、N.ヴォルカ経済大臣が、ロシアから 100 億ユーロの借款を受けて新規原子炉
(パクシュ 5、6 号機)を建設することで合意したことを明らかにした(建設費の 80%がロシ
アからの借款による見通しであるという)。また、同月中には、J.アーデル(Janos Ader)大統
領がパクシュ 5、6 号機建設に関する法案へ署名を行った。2014 年 6 月 23 日には、ロシアか
らの融資についてハンガリー議会が承認している。
2015 年 5 月、ハンガリー政府は、ロスアトム社との建設契約を正式に承認した。2015 年 11
月にハンガリー政府高官は、建設開始が 2018 年になると述べている。
No.
プラント名
型式
状況
所在地
1
2
3
4
5
6
PAKS-1(パクシュ)
PAKS-2(パクシュ)
PAKS-3(パクシュ)
PAKS-4(パクシュ)
PAKS-5(パクシュ)
PAKS-6(パクシュ)
VVER
VVER
VVER
VVER
VVER
VVER
運転中
運転中
運転中
運転中
計画中
計画中
TOLNA MEGYE
TOLNA MEGYE
TOLNA MEGYE
TOLNA MEGYE
TOLNA MEGYE
TOLNA MEGYE
設備容量(万 kW)
ネット
グロス
47.0
50.0
47.3
50.0
47.3
50.0
47.3
50.0
120.0
120.0
営業運転
開始日
1983.08.10
1984.11.14
1986.12.01
1987.11.01
2.エネルギー・原子力政策動向
<エネルギー政策と原子力の位置づけ>
2008 年から 2020 年におけるハンガリーの新エネルギー政策は、2008 年 4 月に政府が承認
したものであり、同政策では「競争力があり維持可能なエネルギー供給を確保すること」を原
則としている。
2012 年 2 月、ハンガリーの国家開発省は、2030 年までの国家エネルギー戦略をまとめた「国
家エネルギー戦略 2030」
(National Energy Strategy 2030)を発行した。これによると、競争
力があり、持続可能で、安定的な電力供給を達成するためには次の 8 点が最も重要であるとし
48-3
ハンガリー
ている。
・省エネルギー化
・再生可能エネルギーや低炭素エネルギーの利用増加
・発電所設備の近代化
・地域暖房システム等の近代化
・交通における省エネルギー化・二酸化炭素排出削減
・農業における省エネルギー化
・バイオマスエネルギー等の利用
・国家の役割強化
またこのエネルギー戦略はエネルギーミックスについて複数のシナリオを比較する等してお
り、最も現実的なエネルギーミックスは「原子力、石炭、再生可能エネルギー」
(Nuclear-Coal-Green)を組み合わせたシナリオであるとしている。原子力については長期に
わたって発電能力を保持すること、石炭火力による発電については現在の水準を維持すること
を目標としている。
<原子力政策に関する背景情報>
ハンガリーで原子力発電所の建設が最初に決定されたのは、1966 年である。パクシュ原子力
発電所で、2 基の VVER-440(V230)の建設が 1968 年に始まった。しかし 1970 年代に、石
油火力発電の方が原子力発電より経済的に有利であるとされ建設は中止された。その後 1975
年のオイルショック後に、石油価格の高騰を受けて、再び原子力発電の有効性が見直され、原
子力開発が再開された。
既設炉
1966 年の計画では 2 基の VVER-440(V230)を建設する計画であったが、計画は見直され
て VVER-440(V213)が採用された。ソ連との国家間契約に従って、1974 年にアトムエネル
ゴエクスポルト社によってパクシュ 1、2 号機の建設が開始され、その後 1979 年にはパクシュ
3、4 号機の建設が開始された。
1983 年から順次稼働を開始した 4 基の原子炉の設計寿命は 30 年であったため、2012 年か
ら 2017 年の間に運転寿命を迎える予定であった。しかし、2000 年に、20 年間の運転延長の
ためのフィージビリティスタディが実施され、50 年間の運転をしても安全上の問題はないと結
論された。そこで、2005 年 11 月、ハンガリー議会は、運転寿命の 20 年間延長を認めること
とし、ハンガリー原子力庁(HAEA)は運転延長計画の申請を承認した。2012 年に寿命を迎え
る予定であった 1 号機の運転期間延長の許可申請は、2011 年末に HAEA に提出され、2012
年 12 月に承認された。稼働期間の延長に備えた、出力の増強や設備の改良なども行われてい
る。2 号機は 2014 年 11 月に 20 年間の運転延長が承認されており、3、4 号機についても延長
運転の許可申請が進められている。
48-4
ハンガリー
計画中の原子炉
政府は 2030 年までに新しく 600 万 kW の発電量を確保する必要があるとして、パクシュ原
子力発電所に 2 基(100 万~160 万 kW 級×2)の新設を計画している。この計画に対して、ハ
ンガリー議会は 2009 年 3 月に予備承認を行ったが、建設には海外からの投資が必要不可欠で
ある。政府としては、なるべく早く国際入札を行い 2013 年にも決定したい意向を示していた。
5、6 号機の候補の原子炉としては、アレバ社の EPR、アレバ社-三菱の ATMEA1、アトムス
トロイエクスポルト社の VVER-1000 あるいは 1200、ウェスチングハウス(WH)社の AP-1000
および韓国の APR-1400 が想定されていた。
ロシアは 2012 年 6 月に 124 億ドルの融資の提供を提案しており、2014 年 1 月には、ハンガ
リーとロシアが新規原子炉建設(VVER、2 基×120 万 kW)に関して合意したことが報じられ
た。なおハンガリー政府は 2015 年 5 月、ロスアトム社との建設契約を正式に承認している。
また 2015 年 11 月にハンガリー政府の高官は、2018 年の建設開始を予定していると述べてい
る。
なおこの建設計画に関連して欧州委員会(EC)は、2015 年 11 月、EU の国家補助規則に適
合するかどうかについて調査を開始すると発表した。また EC は、ハンガリーとロシアの建設
契約が入札無しに締結された点について、公的調達に関する EU の指令に準拠していないと指
摘している。
燃料サイクル
かつてハンガリーは、
メチェックでウラン鉱石を採掘し、エストニアで精錬を行っていたが、
1963 年に鉱床を閉鎖した。1997 年までは国内(メチェック)で精錬を行い、ソビエト連邦(途
中からはロシア)で濃縮、転換を行い燃料集合体へと加工していた。
2004 年 4 月に、ハンガリーとロシアの両政府は、パクシュ原子力発電所へのロシア製燃料
の供給およびその処理のための回収に関する文書に調印した。そのため、
現在はロシアの TVEL
社が全ての燃料供給を行っている。
なお 2015 年 4 月 20 日、欧州原子力共同体(Euratom)は、パクシュ 2 号機の拡張計画の
ために締結されたハンガリーとロシアとの間の燃料供給契約を承認した。
放射性廃棄物管理
放射性廃棄物管理と処分、および廃止措置は、放射性廃棄物管理株式会社(RHK Kft:Public
Limited Company for Radioactive Waste Management)(前 PURAM)が行っている。1997
年 6 月には、新原子力法の成立のもと、原子力施設の廃止措置と放射性廃棄物処分のための原
子力基金(Central Nuclear Financial Fund)が設立された。
かつては使用済み燃料の一部をロシアに返還し再処理をしていたが、現在では行っていない。
また、使用済み燃料の国内での再処理も行っておらず、今後行う計画もない。使用済み燃料は、
1995 年の政策に従い、パクシュの使用済み燃料プールに 5 年間貯蔵された後、同サイト内の
乾式中間貯蔵施設で 50 年間貯蔵される。
低 ・ 中 レ ベ ル 放 射 性 廃 棄 物 は 、 1977 年 に 貯 蔵 を 開 始 し た ピ ュ シ ュ ペ ク シ ラ ー ギ
48-5
ハンガリー
(Püspökszilágy)放射性廃棄物処分場(RWTDF)で処分されている。しかし、2005 年に容
量が満杯になったため、新しい処分場の設置に向けて PURAM(当時)は地質調査を行い、パ
クシュから 30km 離れたバタアパチ(Bátaapáti)を最終候補地とした。2005 年半ばにバタア
パチ住民による投票が行われた結果、処分場建設は可決され、住民投票の結果は議会で承認さ
れた。2008 年 10 月に 1 億 5,000 万ユーロをかけた地上施設が完成し、地下施設の工事が行わ
れていた。2012 年 12 月 5 日、バタアパチ放射性廃棄物処分場が完成し、落成式が行われた。
式典中には、最初の廃棄物容器が最初の処分チャンバー(処分空洞)に収納された。この処分
場には、パクシュ原子力発電所の運転及び廃炉から生じる低レベル放射性廃棄物と短半減期の
中レベル放射性廃棄物全てが処分される。小量の長寿命の中レベル放射性廃棄物と高レベル廃
棄物は、これとは別に管理される。最終的には、約 4,000m3 の放射性廃棄物の処分が認可され
る予定である。なお、この施設は、ハンガリーが新規発電炉の建設を決定した場合には拡張す
ることが可能なように、モジュール設計になっている。
また、国内では高レベル放射性廃棄物処分場を建設するために、メチェック鉱床の南西にあ
る粘土層地域を候補地として調査している。深地層処分場のための初期安全評価は完了してい
る。この施設は、2060 年以降の運転開始が予想されている。
3.原子力行政・規制体制
<規制体制図>
48-6
ハンガリー
<行政・規制機関の役割>
1996 年の原子力法により、ハンガリー原子力庁(HAEA:Hungarian Atomic Energy
Authority)が、原子力施設、放射性物質、核物質に関する規制・管理を行っている。HAEA
は政府の管理下にあり、首相に任命された省庁(現在は国家開発省)の大臣が、自身の属する
省庁の業務とは別に独立して HAEA を統括している。
4.原子力研究開発動向
<研究機関一覧・主な研究内容>
ハンガリー科学アカデミーエネルギー研究所は、アイソトープ研究所と KFKI 原子力研究所
(KFKI AEKI)の 2 つの機関を基礎にして、2012 年 1 月に設立された。同研究所は、核技術
の安全な使用及び採用を促進するための原子物理学および技術の分野の研究開発を行っており、
1959 年に稼動を開始した 1 万 kW のブタペスト研究炉(BRR:Budapest Research Reactor)
を保有している。また、ブタペスト工科経済大学(BME)では、100 kW の訓練用原子炉を保
有している。
研究機関
ハンガリー科学アカデミー
エネルギー研究所
http://www.energia.mta.hu/
ブダペスト工科経済大学
原子力技術機関(BME NTI)
http://www.reak.bme.hu/en/home.html
研究内容
・次世代原子炉
・燃料サイクル
・放射線の相互作用
・放射線化学
など
・原子炉物理額
・熱水理学
・放射線化学
・放射線防護
・核融合研究
・核燃料サイクル など
48-7
ハンガリー
5.国際協力
<二国間原子力協力協定>
相手国
オーストラリア
カナダ
協定
原子力平和利用における協力及び核物
質の移転に関する協定
原子力平和利用に関する協力協定
韓国
原子力平和利用の協力協定に関する実
施取決め
原子力平和利用に関する協力協定
サウジアラビア
原子力平和利用に関する協力協定
ドイツ
科学技術研究開発に関する協力協定
原子力安全及び放射線防護分野におけ
る協力協定
災害または重大事故発生時の相互支援
協定
原子力教育、研究、開発の協力に関する
了解覚書
原子力平和利用に関する協力協定
中国
フランス
米国
原子力安全問題についての技術情報交
換と協力に関する合意
原子力平和利用に関する協力協定
ルーマニア
ロシア
米国 NRC の過酷事故研究プログラムヘ
の参加に関する合意
確率論的リスク評価研究の分野におけ
る合意
KFKI エネルギー研究所におけるロシア
由来使用済核燃料のロシア連邦への移
転に関する合意
核物質及び原子力技術の不拡散対策に
関する協力協定
原子力事故時の早期通報に関する協定
パクシュ原子力発電所建設に関する協
力協定
パクシュ原子力発電所の照射済燃料の
ロシア連邦ヘの返還に関する議定書
日付
2002 年 6 月 15 日発効
1987 年 11 月 27 日署名、1988 年 1 月 12
日、30 年の期限で発効
1989 年 8 月 14 日締結
2013 年 10 月 19 日署名
同年 11 月 18 日発効
2015 年 10 月 19 日署名
1987 年 7 月 10 日署名、同日発効
1990 年 9 月 26 日署名
1991 年 2 月 7 日発効
1997 年 6 月 9 日署名
1998 年 9 月 11 日発効
2015 年 5 月 26 日署名
ハンガリー原子力委員会とフランス原子
力庁(CEA、当時)が 1991 年 5 月 28 日
に署名。
1990 年 9 月 24 日に署名し、同日に発効。
その後 2007 年 3 月 15 日、更新について
署名・発効。
1991 年 6 月 10 日署名
1992 年 2 月 13 日発効
1999 年 1 月 27 日と 2 月 2 日に署名し、2
月 2 日付で 1998 年 1 月 1 日に遡って発効。
2004 年 5 月 12 日と 28 日に署名し、同 28
日に発効。
2008 年 7 月 3 日及び 7 日に外交文書を交
換し、7 月 7 日に発効。
2008 年 7 月 8 日署名、同日発効。
1997 年 10 月 3 日発効
旧ソ連政府と旧ハンガリー人民共和国政
府が 1966 年 12 月 28 目に署名、1994 年
に追加議定書
2004 年 4 月 29 日署名
同年 7 月 7 日発効
<多国間原子力協力協定>
相手国
ロシア・
ウクライナ
協定
ウクライナの国土を経由してロシア-ハ
ンガリー間で核物質を輸送する際の協
力協定
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日付
1992 年 12 月 29 日締結
2012 年 10 月 17 日更新
ハンガリー
<国際的取組への参加状況>
協力全般
・IAEA:1957 年 8 月 8 日加盟
・原子力供給国グループ加盟
核不拡散
・核兵器不拡散条約(NPT):1969 年 5 月 24 日発効
・部分的核実験禁止条約:1963 年 8 月 5 日発効
・包括的核実験禁止条約(CTBT):1999 年 7 月 13 日批准
核物質防護
・核物質防護条約:1987 年 2 月 8 日発効
原子力安全
・原子力早期通知条約:1987 年 4 月 10 日発効
・原子力事故援助条約:1987 年 4 月 10 日発効
・ウィーン条約:1989 年 10 月 28 日発効
・共同議定書:1992 年 4 月 27 日発効
・原子力安全条約:1996 年 10 月 24 日発効
・放射性廃棄物等安全条約:2001 年 6 月 18 日発効
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