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2014.04.30文部科学省大学間連携共同教育推進事業 主体的な学びの

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2014.04.30文部科学省大学間連携共同教育推進事業 主体的な学びの
文部科学省大学間連携共同教育推進事業
主体的な学びのための
教学マネジメントシステムの構築
研究成果報告書
(中間)
平成26年4月
有本
章
編
くらしき作陽大学・作陽音楽大学
KSU 高等教育研究センター所長/事業推進責任者
目
次
はしがき
第1章 大学間連携共同教育推進事業の概要―本学の取組― ·························
有本
第2章
3
章(所長、事業推進責任者)
教学マネジメントの構築 ···························································· 30
田村周一(前専任研究員、教学マネジメント部門担当)
第3章
ルーブリックに基づく評価票の開発と試行 ··································· 37
芝崎良典(併任研究員、ルーブリック開発部門担当)
松田光恵(ルーブリック開発部門担当)
第4章
教室外プログラム報告書 ···························································· 46
宮里智恵(併任研究員、アクティブ・ラーニング教室外開発部門担当)
第5章
アセンブリー・アワーにおけるルーブリックの導入事例 ················· 63
加藤充美(アクティブ・ラーニング教室内開発部門担当)
第6章
関西国際大学への出向研修報告 ···················································· 74
田崎慎治(専任研究員、教学マネジメント部門担当)
第7章
有本
概括と課題················································································ 77
章(所長、事業推進責任者)
1
はしがき
文部科学省大学間連携共同教育推進事業は平成24年10月にその選定プログラムを
開始し、分野連携の領域において全国の大学から24件が選定される運びになった。その
中に関西国際大学「拠点大学」、淑徳大学、北陸学院、くらしき作陽大学の四大学共同プ
ログラム「主体的学びのための教学マネジメントシステムの構築」が採択された。
くらしき作陽大学は、その後現在に至るまでの約一年間半にわたり主題に関する取組み
を鋭意持続してきた。平成24年度、学長が本学代表者としてプログラムに着手、KSU
高等教育研究センターを中心に大学間連携共同教育推進事業プロジェクトチームを編成
し、主題「主体的学びのための教学マネジメントシステムの構築」の遂行と関わって、ア
クティブ・ラーニング開発部門、ルーブリック開発部門(教室内、教室外)、教学マネジ
メント部門、の各部門を設置して具体的な取組みの活動を展開した。さらに平成25年度
からは学長交代により代表者(松田学長)、代表者代行(有本学長顧問、KSU高等教育
研究センター所長)の新体制を敷いて、引き続き前年度からの活動を踏襲することによっ
て、プログラムの所期の目的を遂行するべく活動を推進してきた。
その間、KSU高等教育研究センターやプロジェクトチームを中心に全学教職員の方々
の熱心なご協力を得て事業への各種取組を行ってきたところである。本プログラムは、大
学教育において従来の到達点を超えるべく先端的な主題への取組を行うものであり、新し
い改革の試みであることもあって、何かと試行錯誤的になって進捗はかばかしくないきら
いもあるが、この度上記の各部門を中心に展開された活動成果を集成して中間報告として
まとめることにした次第である。
ご多忙中にもかかわらず、執筆等にご協力いただいた各位に厚く御礼申し上げます。ま
た、全学の皆様には引き続きご協力とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
平成26年4月
KSU高等教育研究センター所長
有本
2
章
第 1 章 大学間連携教育推進事業の概要 ―本学の取組-
有本
章 (KSU 高等教育研究センター所長、事業推進責任者)
くらしき作陽大学における文部科学省平成 24 年度「大学間連携教育推進事業」選定取組
の概要について、選定状況、取組の要点、取組の特色を中心に述べることにする。
1.1
1.1.1
選定状況
選定プログラムの先端性
平成24年度[大学間連携共同教育推進事業]選定状況は、下記のとおりである。申請区
分の地域連携25件、分野連携24件が選定された。後者の中での参加大学数の内訳は、
大学84であり、その内で国立大学31件(36.9%)、公立大学5件(10.4%)、私立大学
は48件(57.1%)である。全体的には私立大学が多いが、国立大学86、公立大学92、
私立大学605(2012 年現在)を母集団の数値とすれば、占有率は国立大学(36.0%)、
公立大学(5.4%)、私立大学(7.9%)、となり、圧倒的に国立優位の状態になっているこ
とが分かる。また、全大学数を783で計算すると、国公私の全大学の中で選定された大
学の出現率はわずかに 10.7%に過ぎない。その意味からすると選定されることは難関であ
る。
3
選定されたプログラムの取組名称と申請大学等の一覧表を参照すると、この中で本学は
整理番号18「主体的学びのための教学マネジメントシステムの構築」に属する。申請大
学等は、淑徳大学、北陸学院、関西国際大学、くらしき作陽大学、の4大学であり、拠点
大学は関西国際大学である。選定された22件のプロジェクトを一瞥した場合に分かるよ
うに、「学生の主体的学び」を基軸に据えたプロジェクトは数少ない。タイトルだけから
判断せざるを得ないが、それによると、(1)「教学評価体制(IR ネットワーク)による学士
4
課程教育の質保証」、(10)「多価値尊重社会の実現に寄与する学生を養成する教育共同
体の構築」
、
(11)
「学士力要請のための共通基盤システムを活用した主体的学びの促進」、
(12)
「データに基づく課題解決型人材育成に資する統計教育質保証」、
(15)
「実践力
と創造力を持つ高信頼スマート組込みシステム技術者の育成」、(16)「産学協働教育に
よる主体的学修の確立と中核的・中堅職業人の育成」、
(17)
「<考え、表現し、発信する
力>を培うライティング/キャリア支援」、
(22)
「分野別到達目標に対するラーニングア
ウトカム評価による質保証」の8件は学生の「主体的学び」に大なり小なり関連している
と推察できるだろう。特に近似しているのは(11)
(16)の2件であると言えよう。
「教
学マネジメント構築」を基軸に据えてみると、(1)(10)(11)(16)(22)の5
件に近似性があると言えよう。したがって、「主体的学び」と「教学マネジメント構築」
の二つのコンセプトに近似している他のプロジェクトは(11)(16)の2件が該当す
るとみなされる。
これはタイトルを判断材料にした観点からいわば直観的かつ印象的に観察した結果で
あるから、内容的に見当はずれになっている可能性はなしとしないが、その範囲内で全体
的に見れば、本学が選定された「主体的学び」と「教学マネジメント構築」を基軸とした
プログラムは全体の22件の中では先端性、ユニーク性を示すと言えるであろう。
以上、採択された本学関係のプログラムは、第 1 に全大学の中で選抜度が高いこと、第
2 に今後の発展が期待されるアクティブ・ラーニングを主体としたユニークな内容である
こと、などの特徴があると解される。第2に関しては、中央教育審議会の答申(2012 年)
によって提唱された概念を主題とする以上、その主題とかかわる改革推進の先導的役割を
果たす意味が付与されていると解されるであろう。
1.1.2
アクティブ・ラーニングの概念
アクティブ・ラーニングは日本の大学教育においては斬新性、先端性、ユニーク性を擁
しているとの観測が可能であるが、その概念的かつ政策的な唱道者は中教審である。ちな
みに答申は次のように述べている。
「生涯にわたって学び続ける力、主体的に考える力を持った人材は、学生からみて
受動的な教育の場では育成することができない。従来のような知識の伝達・注入を中
心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相
互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見
いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である。すなわ
ち個々の学生の認知的、倫理的、社会的能力を引き出し、それを鍛えるディスカッシ
ョンやディベートといった双方向の講義、演習、実験、実習や実技等を中心とした授
業への転換によって、学生の主体的な学修を促す質の高い学士課程教育を進めること
が求められる。学生は主体的な学修の体験を重ねてこそ、生涯学び続ける力を修得で
きるのである。」
(中央教育審議会、2012 年、9 頁)
1.1.3
アクティブ・ラーニングの効果性
アクティブ・ラーニングは、日本では新しい概念であるが、元を糺せば米国のリベラル・
5
アーツ・エデュケーション=教養教育に
淵源する概念であり、長年の彫琢によ
って今日の概念まで発展した歴史があ
ることは留意する必要がある。日本に
移植するには、その効果にみるべきも
のがあるからに他ならないと想像する
のは吝かではない。実際、これまでに
その効果が高いことは指摘されてきた。
例えば、記憶をする上でアクティブ・
ラーニングの効果が高い事実は米国の
ナショナル・トレーニング・ラバラトリ=NTL(National Training Laboratories)が調査し
た平均学習定着率(Average Leaning Retention Rates)によって、授業から半年後の内容の
記憶度を学習形式別に比較した結果がある。それによると学習形式別に、講義(5%)、
読書(10%)、視聴覚(20%)、デモンストレーション(30%)、グループ討議(5
0%)、自ら体験する(75%)、他の人に教える(90%)などとなる(河合塾編著「ア
クティブラーニングでなぜ学生は成長するのか」参照)。
この概念の発祥は、すでに70年近く前と古く、もともとは米国オハイオ州立大学教育
学教授エドガー・デール(Edgar Dale)がその著書『学習指導における聴視覚的方法』
(Audio-Visual method in teaching1946) で提唱した学習経験の分類図=「経験の円錐」
(Dale's Cone of Experience)が最初であるとされる。彼は「学習」は「経験」の一般化に
あると定義して、直接的で具体的な経験からさまざまな抽象化の段階を経て、最後に概念
化に至ることを説いた。
この結果を踏まえると、伝統的な授業形態の講義は、学生の学習定着には効果が乏しく
視聴覚、デモンストレーション、グループ討議などさまざま授業形態を混合することが望
ましい。特に自ら体験する場を取り入れること、とりわけ他人に教える場の取り入れは効
果が高いとされ、学生同士が相互に話し合い教え合う場を設ければ学生の学習は促進され
る。受け身的な授業ほど内容が身につかない。その点、次の事例は参考になる。
「2012 年からスタンフォード大学メディカルスクールではいわゆる「講義」のみ
の授業を廃止した。ノーベル賞受賞の教授が行う講義を受けた同校の物理の平均点が
41 点であったのに対し、大学院生と一緒に問題を解くというアクティブな学びに切り
替えた結果は平均点 71 点という大幅な上昇を示した。」
(友野伸一郎「「深い学び」に
つながる「アクティブ・ラーニング」とは『キャリアガイダンス No.45、別冊』。
1.2
取組の要点
次に取組の要点は何か。この点に関しては申請書の中の事項「2.連携取組について」
に記述されている通りであるので、以下に要点部分を抜粋して説明することにしたい。
1.2.1
大学間連携の戦略と連携取組の趣旨・目的
「・・・高等教育のユニバーサル化により、学生の多様化は、学修目的、学修意欲、学
修習慣、学力の各側面で進行している。多くの大学、とりわけ小規模の私立大学において
6
は、さまざま学生を受け入れつつ、限られた資源の中で、学士課程教育の質保証の実現を
可能にする‘仕組み’をいかにして確立するかが問われている。この課題解決のためには
個々の教員任せではなく、教育目標やマネジメントの手法を共有するというように、教員
集団の意識を転換させ、組織的教育の実施が可能となる教学マネジメントを確立していく
必要がある。本取組でいう教学マネジメントとは、各大学が自らの使命や教育理念に基づ
いて掲げたディプロマポリシー(学修到達目標)の達成に向けて、体系的な教育課程を構築
し、教育方法を改善し、教員間の連携、科目間の連携を図り(以上カリキュラムポリシー関
係)、学修成果の測定方法を開発して可視化し、組織的な教育を実現することである。」
この説明にみられるように、教育目標やマネジメントの手法を共有して組織的教育が可
能となるような教学マネジメントの確立が必要であるとすることに主眼がある。そして具
体的には、「本取組では、①学修の質を向上させる上で教育効果が高いといわれる体験活
動を通した HIP(High-Impact Practices)による教育方法を充実させること、②成績評価の可
視化、③教員の教育力の向上をはかることを通じて、組織的教育を可能にする教学マネジ
メントの確立をめざす。」としている。
1.2.1.1
連携取組の達成目標・成果
①HIP による教育方法の充実
HIP とは、日本で開発された概念ではなく、米国の AAC&U(Association of American
Colleges and Universities)が提唱しているものである。その特徴としては「アクティブ・ラ
ーニング(能動的学修)や教室外体験学習プログラムなどを構造化し、学生に強いインパク
トを与えるよう工夫した教育プログラムの総称である。また、入学後できるだけ早期の段
階で、強い経験を与えることにより、学生の大学生活への適応を早まるという効果もある。」
とされている。この教育方法を充実させて、本プログラム終了時には所期の目標を達成す
ることを標榜する。すなわち、1つは、アクティブ・ラーニングを導入する授業数を初年
度から5年間で50%増加させること、2つには、教室外体験学習プログラムへの学生参
加率を初年度から5年間で50%増加させること、である。外国産の概念を定着させるに
は相応の努力が欠かせないと予想される中で5年間に50%以上の増加を達成するのは
かなりハードルが高いかもしれない。
②学修成果の測定
HIP による教育方法の充実や教学マネジメントの確立は実際には学生の学修成果に具
現することが期待される。まずはそれを確認するための評価体制づくりが必要である。し
たがって、学修成果の量的な測定にはルーブリックと到達テストを用いることが基本的な
構想である。申請書は次のように述べている。
「ルーブリックは定性的な評価に向いているといわれている。課題と同時にルーブ
リックを学生に提示することにより、学生が到達目標を意識することができる。また、
評価後のルーブリックを学生に返却することにより、自分が現在どのレベルにあるか
を、学生自身で認識することが可能である。・・・教室外体験プログラムや共通教養
教育のルーブリックを連携校で協働して開発し、実際に活用する。」
このように、学修成果を測定するためにはルーブリックを種々の授業へ使用するべく開
発することが期待されることが分かる。さらに知識等の習得状況の測定には大学入試セン
7
ターと協力した到達テストの開発が期待される。
「一方、到達テストは設定された範囲における知識等の習得状況の測定に向いてお
り、学部学科で求められる専門基礎知識の習得度や日本語や英語などの運用能力の程
度を測定するのに有用である。さらに、テスト結果を学生に返却することにより、学
生の振り返りの材料にすることができる。独立行政法人大学入試センター(以下、「大
学入試センター」)では、現在、日本語運用能力及び聴解に関するテストを開発中であ
る。連携校がこれらのテストのモニターとなって改善を具申することにより、テスト
の制度がより高められる。」
この場合の到達目標としては、原則として、本連携取組の対象となるすべての教室外体
験学習プログラムにルーブリックを導入することになる。
③教学マネジメントの確立
上記したように、HIP による教育方法の充実と学修成果の評価方法の開発が主たる柱と
なる。
「本連携取組における教学マネジメントの確立とは、HIP による教育方法の充実と、
学修成果の評価方法の開発を柱として、教員一人ひとりの教授スキルの向上に加え、
教員の個性を活かしながら、体系的な教育課程にもとづいて、教員間の連携、科目間
の連携を図り、組織的な教育を実現させることである。また、教授スキルだけでなく、
シラバスの充実、授業外学修時間の確保、厳格な評価など授業全体のデザイン力を向
上させ、授業の進行管理を行えることが重要な要素である。」「・・・教員個々人が個
別に授業デザインを行うのではなく、授業を受ける学生の視点に立って、相互に関連
付けられた内容に構築していくことが必要なのである。そのためには、科目間連携や
教員間連携が有効となる。」
達成目標としては、学生の授業外学修時間が全体的に、初年度から 5 年間で 20%以上伸
びことが設定されている。
1.3
取組の内容
取組の内容については、申請書の(4)連携取組の内容に述べられているので、以下に
は要点部分を抜粋しながら説明したい。
連携取組の目標を達成するために、以下の①~③の取組を行う。
1.3.1
HIP による教育方法の充実
第 1 に、アクティブ・ラーニングを取り入れた授業を展開していく。
第 2 に、個々の科目において授業外学修を明確に設定することにより、授業外学修時間
を増加させ、学生自身でディスカッションやプレゼンテーションの訓練ができるような機
会を充実させる。
第 3 に、国内外の教室外体験学習プログラムの充実を図る。本取組で扱うプログラムを
主体的な学びにつなげるために、①調整型プログラム、②インターンシップ、③サービス
ラーニングの 3 種類を対象にする。
8
1.3.2
学修成果の測定
学修成果の開発として、上記のとおり第1にルーブリックの開発、第2に到達テストの
開発を行う。
1.3.3
教学マネジメントの確立
「第1に、各種連携校内で、
「学位授与」及び「教育課程の編成・実施]の方針を見
直すとともに、カリキュラムの点検を行う。本連携取組が進展し、アクティブ・ラー
ニングの浸透、教室外体験学習プログラムの充実、科目間連携の実質化にともない、
カリキュラムの変更を行っていく。
第2に、アクティブ・ラーニングを浸透させるため、各連携校の FD で授業の事例
を取り上げ、より効果的な従業デザインへの改善に関するワークショップを行う。ま
た、連携校間でテレビ会議システムによる連携 FD を実施して、授業デザインの改善
方法に関する研修会を合同で行う。さらに授業運営や授業デザインに対する評価や助
言ができる教員アドバイザーの育成も行う。
第3に、連携する科目や内容、課題等を検討し、実施、評価、改善のサイクルを確
立し、効果的な科目間連携のケースを増やしていく。また、教室な学修と教室外体験
学習プログラムを往還することによって学習効果を高めるなど、連携校においてカリ
キュラムの汎用的な体系化を目指していく。また、教育方法の改善や科目間連携の事
例をデーターベースに蓄積し、FD 研修等にも科目間連携に関するテーマを取り上げ
る。
教学マネジメントに関しては、連携機関として全国高等教育研究所等協議会と意見
交換を行う。
」
以上、所期の目的や内容などについて、連携事業「主体的な学びのための教学マネジメ
ントシステムの構築」の申請書を踏まえて概略的に説明した。
1.4
選定審査の結果
申請書に基づく選定審査の結果、選定理由と選定委員からの意見が提示された。すなわ
ち、選定委員の申請書及びヒアリングを対象に行われた審査結果では、優れた点と改善点
とが指摘されたので、それを以下に記してみよう。
「中教審の審議のまとめに示された提言を具体的に教学マネジメントシステムに落
とし込み、達成目標と評価の方法を明確にして取り組まれる先進的な提案である。
・教育方法、学修成果の測定、教学マネジメントの確立と、取組が体系的な点や、
達成目標3点について、具体的な数値目標が掲げられ、指標と基準が明快である点が
評価できる。
・この成果は広く、他の大学にも参考になると思われる。
・しかし、不十分な点も見られることから、事業実施に当たり以下の点について対
応することが求められる。①関西国際大学が中心となり取組を推進する印象を受ける
ため、他の3大学が強みを活かして担当する事項を明らかにすること」
9
最後の注文は重要である。連携事業は複数の大学が共同で取組む関係上、とかく拠点大
学が中心になって他大学との足並みが揃わないことが生じる。その理由としては、1つに
は、拠点大学は各種の先行実績を持つ場合が多く、その実績を強調することによって連携
事業が採択される段階に到達できる場合が少なくない。2つには、連携事業ではヒト、モ
ノ、カネなどの要因が取組の成果を左右するためにかかる要因は実質的に重要な条件とな
りがちであるが、その意味で大学間に等質の条件が必ずしも存在するとは限らない。むし
ろ、大学間の条件は不揃いとなる場合が普通であることに鑑みれば、所期の目標達成がそ
のまま同等の水準にまで実現できうるとは限らないだろう。3つには、これらの条件を考
慮すると、温度差を見究めて条件の乏しい大学には予算配分を手厚くして、条件を補完す
るなどそれなりの手当てを行わなければ、温度差は縮小するどころかむしろ拡大を帰結し
かねないと危惧される。そのような危惧が想定されることを踏まえて、選定委員の指摘が
審査結果に盛り込まれたのではないかと推察されるところである。
本学の対応としては、申請者側の一人として筆者が文部科学省によるヒアリング会議で
具申した内容と符合するが、4 大学のなかでも本学のユニークな個性を発揮することが望
まれる。すなわち、4申請大学は、本学を含め地方の中小規模大学であるから、その特性
を生かすと同時に本学の特性を発揮して主題へ取組むことが必要である。本学の場合は、
①建学の精神、②小規模大学(入学定員、学部編成など)、③私立地方大学、④学生多様
化、⑤ユニークな専門分野(音楽、食文化、子ども教育、音楽短大)、等の特性があると解
される。大乗仏教を基盤にした建学の精神を中心に地域社会に根差した私立小規模大学の
専門分野を生かした主題への取組が焦点になると考えられる。主題に対して拠点大学の主
導的な取組に単純に追随するのではなく、本学の特性を踏まえた主題の深化を創造的に追
求することが主眼となると言わなければならない。
1.5
取組みの概要
世界的に大学の歴史を回顧すると理解できるように、近代社会以前では社会変化が緩慢
であることに起因して知識伝達型の教育が主流を占めた。中世大学の授業では暗唱や復唱
が主であったから、学生が専ら知識を詰め込むことに授業の力点を置いたとしても不思議
ではないし、印刷術が発明されるまでは羊皮紙に書かれるものは希少価値があって、学生
には手が届かなかった。このような近代社会以前に発展した「教育―学習過程」の伝統は
今日の知識社会にはもはや通用しないのは道理である。換言すれば、知識伝達型の教育で
は通用しなくなったポスト近代社会の現代社会では、主体的に学び考え行動できる力を持
ち、予測困難な時代に主体的かつ創造的に対応できる人材の育成が求められことになった。
その時代的要請に対応すべき大学では、教育主体である教員が教育力を備えるのは固より、
学習主体というよりもむしろ学修主体である学生が学修力を備えなければならないこと
は必至になったというほかない。かくして大学は学士課程教育の質的転換を図らなければ
ならない時点を迎えることになった。本事業の主題はこの種の時代的課題と関わる側面が
大きいと言えよう。すなわち、今日の時代的課題を実践的に遂行し、学生の主体的な学び
を実現するために取組むべき方法を 3 点提示しているのである。
「第1に、アクティブ・ラーニング(能動的学修)及びインパクトのある教室外体
験学習プログラムなど、学生が主体的に学ぶ教育方法を充実する。また、授業外学修
10
時間を確保した授業デザインを向上させる。
ディプロマポリシーの達成
第2に、学修成果を可視化するため、ルーブリ
ック及び到達テストの開発を行う。
第3に、全学的な教学マネジメントのもと、
「学
位授与」及び「教育課程編成・実施」の方針に即し
教育課程の構築
教育方法の改善
学修成果の測定
てカリキュラムを見直す。また、教員の個性を活か
しながら、科目間・教員間連携を充実して組織的教
ユニバーサル化
育を確立する。
さらに、学生支援型IRを用いて学生パネルデー
タを蓄積し、本取組の評価・改善を行い、連携校以
学生の多様化
外の大学でも適用できるよう汎用化する。」
1.6 本取組の特色
さて、本取組の特色としては、上で説明したことにも
学士課程教育の
質保証
課題解決
示されているが、それも含めて、①連携校教員の代表校
への出向、②教学マネジメント、③到達テストの開発、
教学マネジメントの確立
などが指摘できる。
1.6.1
連携校教員の代表校への出向
この取組は本プログラムにおいてきわめてユニー
クな試みとして注目に値するが、主として次の2点を
柱にしている。
到達テスト
「①各連携校における教学マネジメントを推
進する教員が、代表校(関西国際大学)に出向し、
協働して教学マネジメントに携わる。
②出向中の連携校の教員がルーブリック等の
評価方法の開発や、教学マネジメントの構築に実
際に参画し、そこでの成果を各連携校に持ち帰る。
帰学後は、代表校や他の連携校と情報交換をしつ
つ自大学での開発及びFD推進の中核教員とな
・知識等の習得状
況の測定
(専門基礎知識、
日本語や英語の運
用能力など)
・学生のふりかえり
の材料
る。そして、連携校間の事業の継続にあたっては
以下の3つのポイントにより点検・改善を行う。」
点検・改善の3つのポイント
「①連携校において教育方法を継続的かつ定
期的に点検し、各連携校に合った教育方法へと改
大学入試センターによる
テスト開発
(言語運用能力、聴解)
善を行う。
②学修成果の測定については、ルーブリックの
内容について継続的に点検を行い、評価可視化と
連携校による専門基礎
知識の到達テストの開発
教員間の共有方法について改善を行う。
③教学マネジメントでは、連携校間でFD研修・交流を継続して開催し、組織的教
11
育に関する意見交換を行う。」
以上の中で本学からの出向に関しては、2013年5月から本学代表者(田崎助教)が出
向した。約1年間の研修を終えて2014年4月から本学に帰学し、その後は出向中の研
修結果を踏まえて本取組の主題に関わる本学の課題の推進に向けて主導性を発揮するこ
とが期待されている。KSU高等教育研究センターでは、関連したFD研修会を開催する
などして、出向研修の成果の具体的な実現を期す計画である。そして、出向者にとっての
実際の課題は、上記の点検・改善の3つのポイントを達成するために具体的な方法を提示
することであると同時に、上でも述べたように、拠点大学への単なる追随に終始するので
はなく、本学の特性に基づいたユニークさをいかに形成的に実現するかに主導性を発揮す
ることであると考えられる。
1.6.2
教学マネジメント
教学マネジメントは本プログラムの中枢に位置する概念であり、取組であるから、必然
的に重要度が高い。次の説明にあるように、全学的なレベルにおいて設定したディプロ
マ・ポリシーの達成のために、教育課程の構築、教育方法の改善、学修成果の測定などを
行う。懸案の学生のアクティブ・ラーニングの推進を基盤に据えた学士課程教育の質保証
を追求することによって、組織的教育の実施を可能とする教学マネジメントの確立が欠か
せないと考えられる。

「本取組でいう教学マネジメントとは、各大学が自らの使命や教育理念に基づいて掲
げたディプロマ・ポリシー(教育目標)の達成に向けて、体系的な教育課程の構築、教
育方法の改善、学修成果の測定を連係させ、組織的に推進していくことである。

高等教育のユニバーサル化により、学生の多様化は学習目的、学習意欲、学習習慣、
学力の各側面で進行している。多くの大学、とりわけ小規模の私立大学においては
様々な学生を受け入れつつ、限られた資源の中で学士課程教育の質保証の実現を可能
にする“仕組み”をいかにして確立するかが問われている。

課題解決のためには、教育目標やマネジメントの手法を共有し、個々の教員の連携に
よる組織的教育の実施が可能となる教学マネジメントを確立していくことが必要で
ある。
」
1.6.3
到達テストの開発
アクティブ・ラーニングを推進するための具体的な方法としては、ルーブリックの活用
と到達テストの開発が主たる柱を構成する。このうち到達テストは、学生の知識の習得状
況を測定することと学生の振り返りの材料として活用することを主眼として本プログラ
ムと協働活動を行うステークホルダーのひとつである大学入試センターによって開発さ
れるものである。

「到達テストは設定された範囲における知識等の習得状況の測定に向いており、学部
学科で求められる専門基礎知識の習得度や日本語や英語などの運用能力の程度を測
定するため有用となる。

さらに、テスト結果を学生に返却することにより、学生のふりかえりの材料にするこ
12
とができる。

独立行政法人大学入試センター(以下、大学入試センター)では、現在、言語運用能
力及び聴解に関するテストを開発中である。連携校がこれらのテストのモニターとな
って改善を具申することにより、テストの制度がより高められる。

さらに、大学入試センターからの助言により連携校が協働して専門基礎知識の到達テ
ストの開発を進めて行く。」
1.7 教学マネジメント構築の見取図
教学マネジメント構築に関わる実際の見取り図は、以下に示すように、連関図によって
説明することができる。教学マネジメントの確立には、これまで述べてきた事柄を踏まえ
て、具体的には 3 点の内容がある。すわわち、①DP・CPに即したカリキュラムの充実、
②科目間・教員間の連携のマネジメント、③連携FD、連携校間授業の公開、などである。
この中、①について敷衍すれば、大学教育、とりわけ授業において比重の高いカリキュラ
ムをいかに充実するかが問われる。具体的には、学士課程教育の到達点である学士力のア
ウトカムを DP によって設定し、それを基にして CP を樹立することが問われる。しかも、
連関図には割愛されているが、この DP と CP の関係が実際に整合性をもって遂行されて
いるか否かは CA によって査定されなければならない。②については、①における全学的
なマネジメントが構築されるとともに、科目間での連携が欠かせないし、同時に科目を担
当する教員間の連携が欠かせない、という点を指摘している。①を達成して、②へと移行
するという調整が必要であるが、ともすると、全学のコンセンサスが欠如する場合には、
②から①への展開が主となり、科目間、教員間の連携が取れず、しかも DP や CP の構築
ができない、という混乱が起きかねない。③については、これらの観点を FD の学内研修
や連携校間研修で調整し、合意を得ることが必要である。
このような教学マネジメントの構築を前提にして、学修主体である学生をして受動的な
学びから主体的な学びに高めるには、学士課程教育の質的転換が要請されることになる。
そのためには、①学生一人ひとりの状況観測(成績、活動、意識・態度等)、②プログラム
改善への提言、などを含めた学生支援型IRの活用が必要である。
現在の大学では、学生の多様化が進行しているから、入学生の中には、すぐ大学へ適応
できる学生も、訓練すれば適応できる学生も、訓練しても適応が困難な学生もいて、千差
万別である。そうした多様化あるいは超多様化した学生を卒業するまでにアクティブ・ラ
ーニングに誘い主体的に学ぶ学生に育成しなければならない。入学生が成功するには基礎
学力や技術の醸成は欠かせないし、少なくとも学習技能とキャンパスでの社会性の獲得は
必須である(佐藤浩章『大学教員のための授業方法とデザイン』参照)。
高いスタディ・スキルと高いソーシャル・スキルを兼備した学生はそれほど多くなく、
多くはどちらかが欠如するか、両方欠如する学生である。両方とも欠如する学生は孤立し
やすいし、ソーシャル・スキルが高いが、スタディ・スキルの低い学生は、脱落する可能
性が高い。基礎基本としては、スタディ・スキルの獲得が課題である。それがアクティブ・
ラーニングで求める学修力の基礎基本を担うものであると言ってよかろう。
そのことを可能にするには、一方では、HIP(ハイ・インパクト・プラクティス)の
充実が必要である。すなわち、①アクティブ・ラーニングを利用した授業運営、②インパ
13
クトある教室外学習プログラム、③授業外学修を実質化した授業デザイン、などを充実さ
せることが必要である。①については、ディベート、グループワーク、ルーブリック、な
どを活用した授業を創意工夫することが欠かせない。②については、地域を連携したフィ
ールドスタディ、インターンシップ、スタディアブロードなどの教室外学習を創意工夫し
て導入することが欠かせない。③については、シラバスに授業外の学修を課すための予習、
復習を指示するなど、授業デザインの考案が欠かせない。
他方では、学修成果の評価方法の開発によって成果の可視化を可能にすることが必要で
ある。そのためには、①共通教養教育、教室外体験学習プログラムのルーブリックの開発、
②到達テストの開発、などが必要である。
こうした取り組みは、本事業の共同に取組む 4 大学が共通課題として標榜するのはもと
よりであるが、上で述べたように各大学によって個性があるはずであるし、個性を発揮す
ることを求められている以上、その創意工夫が必要である。本学においては、個性を発揮
し、オンリーワンを追求することは留意すべき視点であるとしても、それを一般化して汎
用化することが、他大学への通用性や共通性をもたらすために必要条件になることも看過
できない重要な視点である。
1.7.1
連関図
14
1.7.2
取組の視点
取組に際しては、種々の問題点や課題が予想されるのであるが、それを問答法によって
示したものが、文部科学省によって 2013 年に広報された以下の縦書きの文面である。
「連
携取組で育てたい人材とは」「そのような人材を必要とする背景には、どのような課題が
あるのでしょうか」など 7 点の質疑が掲載されている。本プロジェクトにステークホルダ
ーとして協力する、大学教育学会、独立行政法人大学入試センター、全国高等教育研究所
等協議会、のうち最後の協議会を代表して筆者がメッセージを寄せている。
文部科学省、2013.2
1.8 取組の状況と課題
取組の状況については、①取組チーム編成、
担当者、②作業スケジュール、の各側面が
ある。また、課題については、①アクティ
ブ・ラーニング開発、②ルーブリック開発、
③教学マネジメントの構築、の各側面があ
る。したがって、以下においては、これら
の各側面について説明をすることにしたい。
1.8.1
学長からの教職員への協力要請
15
取組の状況と課題
•
•
•
•
•
取組チーム編成、担当者
作業スケジュール
アクティブラーニング開発
ルーブリック開発
教学マネジメントの構築
状況
課題
平成24年11月1日
くらしき作陽大学・作陽音楽短期大学
教職員各位
文部科学省大学教育改革支援事業の採択と取組推進について
くらしき作陽大学・作陽音楽短期大学
学長からの最初
のお願い
学長 有本 章
平素より、本学の教育研究の発展にご尽力を賜り、誠にありがとうございます。
このたび、下記のとおり、文部科学省による大学教育改革支援事業に採択されましたのでご報告いたします。
文部科学省では、各大学における大学改革の取組みの促進を目的として、グローバルCOEプログラムやGP事業をはじめ
として、多くの支援事業を実施しております。これらの支援事業は国公私立大学を通じた競争的環境の下で選定されるもの
であり、今日においては、大学の教育研究の充実に欠かせないものの一つとなっております。
このたびの事業取組への採択を契機として、本学における教育研究のより一層の充実を進めてまいりたいと存じますので
、ご協力方よろしくお願い申し上げます。
記
○産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業
取組名称:「産業界等との連携による中国・四国地域人材育成事業」
幹事校名:島根大学
連携校名:徳島大学、香川大学、愛媛大学、島根県立大学、岡山県立大学、尾道市立大学、県立広島大学、岡山理科大学
、倉敷芸術科学大学、くらしき作陽大学、ノートルダム清心女子大学、広島修道大学、福山大学、安田女子大学、山口東京
理科大学、四国大学、鈴峯女子短期大学
○大学間連携共同教育推進事業
取組名称:「主体的な学びのための教学マネジメントシステムの構築」
連携種別:分野連携
代表校名:関西国際大学
連携校名:淑徳大学、北陸学院大学、くらしき作陽大学
以上
参考)文部科学省 国公私立大学を通じた大学教育改革の支援
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/index.htm
本プログラムが採択後に活動を開始したのは2012年(平成24年)10月からであ
ったが、本学における学長(有本)からの教職員への最初の協力要請は、2012年11月
1日に文書によって行われた。本学が採択されて取組を開始した「産業界との連携による
中国・四国地区人材育成事業」と合わせた2つのプログラムについて文書を発送した。そ
の内容は次のとおりである。
1.8.2
取組チームの編成
チーム編成は、第1回目が2012年10月に行われ、事業推進代表有本学長以下の編
成とし、アクティブ・ラーニング開発部門、ルーブリック開発部門、教学マネジメント部
門から構成する3つの部門を設置した。第2回目は2013年4月に行われ、学長交代に
伴い事業推進代表者松田学長、事業推進代表者代行有本章所長以下の編成となり、さらに
2013年8月に再編成を行って、現在に至っている(担当者構成を参照)。
現時点(2014年4月以後)における編成は、次の通りである。
事業推進代表者(松田学長)、同代表者代行・事業推進責任者(有本学長顧問、所長)、主
担(芝崎准教授)、副担(田崎助教)、①アクティブ・ラーニング開発部門=教室内(加藤
教授[班長]、竹内教授、樋口講師、田崎助教、深川事務職員):教室外(宮里教授[班長]、
新名准教授、松本講師、山本事務職員)、②ルーブリック開発部門=教室内(芝崎准教授[班
長]、松田准教授、富田事務職員)
:教室外(河村准教授、黒田准教授)、③教学マネジメン
ト部門=(田崎助教[班長]、竹内教授、樋口講師、深川事務職員)。事務局(菅原事務局長)。
16
担当者構成
2012年10月現在
事業推進代表者
有本章(学長)
事業推進責任者
事業推進担当者
渡邊照美(子ども教育学部准教授)
2013年4月現在
2013年8月現在
松田英毅 (学長)
同左
有本章 (学長顧問、高教研センター所長・教授)
同左
主担: 柴崎良典(子ども教育学部准教授)
同左
副担: 田村周一(高教研究センター助教)
事務局
菅原良二
同左
同左
アクティブ
ラーニング
開発部門
新名俊樹(音楽学部准教授)
木村万里子(食文化学部准教授)
黒田政広(音楽学部准教授)
加藤充美 (音楽学部教授)
○宮里知恵 (子ども教育学部教授)
新名俊樹 (音楽学部准教授)
松本隆行 (食文化学部講師)
山本真也 (事務局)
(教室外アクティブラーニング開発)
同左(加藤除く)
ルーブリッ
ク開発部門
宮里知恵(子ども教育学部教授)
柴崎良典(子ども教育学部准教授)
樋口智之(食文化学部講師)
渡邊照美(子ども教育学部准教授)
河村敦 (食文化学部准教授)
黒田政広 (音楽学部准教授)
○柴崎良典 (子ども教育学部准教授)
松田光恵 (子ども教育学部准教授)
富田延宏 (事務局)
(教室外ルーブリック開発)
河村
黒田
竹内京子 (音楽学部教授)
樋口智之 (食文化学部講師)
○田村周一 (高教研究センター助教)
深川淳一 (事務局)
同左
教学マネジ
メント部門
1.8.3
田村周一(高教研究センター助教)
(教室内アクティブラーニング開発)
○加藤
竹内
樋口
田村
深川
(教室内ルーブリック開発)
○柴崎
松田
富田
全体のスケジュール表(平成25年度)―拠点大学(関西国際大学)作成
取組の実施計画については、基本的には拠点校によって作成されたスケジュール表に従
っている。2013年度については、次の表の通りである。内容的には、主な行事、教学
マネジメント、HIP、学修成果の測定、運営関連、などとなっていて、本プログラムの3
本柱を中心に作成されている。
1.9
アクティブ・ラーニング開発の課題
本学では、現在(2014 年度当初)は理論的検討に加えて、種々の調査や試行的実践を行っ
ている段階である。主として、授業の実態把握、授業に関する各種の単位や装置の現状分
析などに重点をおいた取組を展開してきた。以下はその概要である。

授業(教授―学修過程)の実態把握(学修時間の確保、シラバスの改善など)。

授業を直接間接に構成する種々の単位や装置(大道具、小道具等)の棚卸し的な現状
分析(ルーブリック、ティーチング・ポートフォリオ、ラーニング・ポートフォリオ、
17
シラバス、GPA、CAP、単位制、科目番号制、予習・復習、オフィスアワー、厳格な
評価、学生による授業評価など)。

これらの実態把握と種々の単位や装置の分析に基づく改善については、2012年度
から着手して、そのかなりの成果は機関別認証評価の受審時(2013年9月)にお
い一定の評価を得た。また、第 1 回外部評価委員会(2014年3月3日に関西国際
大学で実施)において、これまでの取組の状態に関して良好であるとの評価を得た。
この中、授業(教授―学修過程)の実態把握については、アクティブ・ラーニングの中枢
に位置する授業を対象に学修時間の確保、予習や復習の実質化などに焦点を置き、とりわ
けシラバスの改善を行った。この試みによって、学生の主体的な学びを測るバロメーター
としての学習力から学修力への転換はある程度進行したと解されるが、一層の努力が必要
な段階にあることは否めない。次に、アクティブ・ラーニング開発の観点を留意して種々
の単位や装置の分析と現状の見直しを試みた。
2012年度(平成24年度)の開始年度から2013年度(平成25年度)までの取
組に基づく成果と課題については、拠点大学で開催された全体会議:第1回外部評価委員
18
会(2014年3月3日)において「本学の教学マネジメントの経緯」と題して所長より
報告した。以下では報告の骨子を踏まえ若干補筆を行った(9.1、9.2、9.3 参照)。
本学における現時点までの取組の経緯と成果を整理すると、(1)本学のアクティブ・ラ
ーニングに関する長所と短所を把握して開発の方向性を探求すること、ならびに(2)ル
ーブリック開発の課題、(3)教学マネジメント構築の課題、をそれぞれ追求することと
いう3点に集約することができる。
1.9.1
本学のアクティブ・ラーニングに関する長所と短所を把握して開発の方向性を探
求

「大学生活および学習時間に関する調査」
(特に学生の予習・復習調査に焦点)
(20
12年度実施、KSU 高等教育研究紀要第2号に報告[田村論文「学士課程教育の質的
転換と大学生の学修状況」、2013年、参照])。全国平均に比較して、学生の授業
参加時間が多く(1日平均 3.5 科目と履修科目が多いため)、他方、授業以外学修時
間は、1日1時間未満が65%前後と全国平均並みとなっていることが判明したが、
授業時間と授業外学修時間の割合を改善して、主体的に学ぶために必要とされる自主
的な学修時間をいかに確保するかが課題。

アクティブ・ラーニングに関する教員意識調査(平成25年度に実施された第1回調
査「教育改革の取り組み状況に関する調査」)では、各学部学科等において、いまだ
試行錯誤的な取組の段階にとどまるものの、アクティブ・ラーニングに対する取組が
予想以上に良好な状態にあることが判明。

到達テスト実施(平成25年度に実施された第1回大学入試センターの言語運用能力
及び聴解に関するテスト)では、4 大学間の比較分析はなされていないが、本学の実
情を把握した。

教養基礎科目の到達目標と実態の分析(必修化した国語、英語の事例など)を行った。

教室内、教室外のアクティブ・ラーニング開発事例の収集及び実践を行った(アクテ
ィブ・ラーニングの教室内実践としては、本報告に掲載している加藤論文、同じく教
室外実践としては宮里論文など参照)。

モニター授業実施。

ASB(Active Study Base=能動的学修拠点)開設(2013年度末 6 号館 302 室に開
設)し、モニター授業を含め授業を開始した。

アクティブ・ラーニング、ルーブリック開発、教学マネジメントなどの総論的な理論
的・実証的な研究を発表(有本論文[2013、2014 など]参照)。
1.9.2

ルーブリック開発の課題
総じて、実践レベルの取組を着手した段階であり、いくつかのパイロットスタディを
実施した結果を踏まえて今後の具体的な展開が課題となった(具体的には、本報告で
掲載している芝崎・松田論文、さらにはアクティブ・ラーニングの中でルーブリック
を援用している宮里論文、加藤論文など参照)。教員調査(2014 年2月実施)では、
ルーブリックの使用、開発、共有などは前年度に比較してかなり進展した。

学生は入学から卒業までの学士課程教育を通してルーブリックの方法に次第に習熟
19
し、その趣旨に見合う学修活動を遂行できるようになるが、従来は組織的な実践が欠
如していたので見るべき成果が乏しい段階であり、現在の試行的な取組を発展させる
などその克服が課題。

授業を担保し、予習・復習を通してアクティブ・ラーニングを遂行し、能動的に考え、
創造性を発揮し、課題解決を行う類の能力を実現するには、個々の教員レベルの取組
だけでなく、全学レベルの体系的、汎用的な取組が必要であるが、現在はその緒につ
いた段階。

全学年を通じてルーブリックの方法を採用し遂行することが、教員と学生の双方にル
ーブリックに対する習熟を深めるために必要であり、徐々に試行的取組を行っている
段階。

学士課程教育において全学の教学マネジメントを構築する視点のもとに、教室内及び
教室外の個々の教授-学修(学習)過程ごとにルーブリックの方法(例えば、下記の「ル
ーブリック使用によるアクティブ・ラーニングの実現」のような事例を使用)を導入
して、教員(教職員)と学生の双方がそれに習熟することが第1歩の課題であり、現
在は第1歩から第2歩への助走期に該当。

ルーブリックを全学的に活用するには、ルーブリックの試行的段階を経由して、順次
制度化を達成することが課題であるため、上述の課題を克服すべき現段階では試行計
画に基づいて実践を開始した段階。
ルーブリックの方法に基づくアクティブ・ラーニングの実現
3
2
1
0
課題に対する記述
課題に対する解答が書 課題に対する解答を部分 課題に対する解答を書 課題と関係ない内容
かれている。
的に書いている。
こうとしているが論点に を書いている。
20点
15点
ズレがあり、テーマに対 0点
する解答として十分では
ない。
10点
結論に至るまでの論理 結論に至るまでのプロセ 結論に至るまでのプロセ 結論に至るまでのプ
論理的構成
的なプロセスをたどるこ スはたどれる。前後関係 スが整理しきれていない。 ロセスを示していない。
とができる
の構成に工夫が必要であ 10点
0点
20点
る。
15点
レファレンス資料(着想を得たも レファレンス資料を適切 レファレンス資料を示そう レファレンス資料を参照 レ フ ァ レ ン ス 資 料 を
のや自分の考えを支持するため に示して、引用や注を としている。引用・参照方 していることがうかがえ 使っていない。
の 教 科 書 の 内 容 ( 先 行 研 究 、 つけている。
法に改善が必要である。 るが、示していない。
0点
データ)、授業の内容
20点
15点
10点
文章の体裁
①段落が適切に作られている。 文章の体裁の項目に配
②句読点の付け方が適切である。 慮できている。
③主部と述部の対応にねじれが 20点
ない。
④文体が統一されている。
表現の推敲
①同じ言葉の繰り返しや多用が 表現の推敲ができてい
ない。
る。
②誤字・脱字がない。
20点
③仮名使い・送り仮名の誤りが
ない。
④専門用語を正しく用いている
文章の体裁の項目のいく 文章の体裁に配慮しよう 文章の体裁が整えら
つかは配慮できている。 としているが、不十分で れておらず、読み進
15点
ある。
めることができない。
10点
0点
表現の推敲のいくつかは 表現の推敲をしようとし 表現に間違いが多く、
できている。
ているが、不十分である。 推敲が不十分である。
15点
10点
0点
31
(注)まず最初に、与えられた課題をしっかりと認識してください。また、教科書の内容や授業の内容を予習・復習によってよく学修することがレポート(答案)を書く必要
条件です。これらの学修をしていないとレポートは評価されません。
20
1.9.2.1

米国の教養教育においてルーブリックを活用して涵養される統合学習
本学における各論的な取組については、以上のような状態である。ところで、ルーブ
リックに関する総論的な取組については、日米比較による文化や風土の相違を考慮し
て、日本へ移植する場合の問題点や課題を掘り下げる視点を吟味することも必要であ
る。その点、拠点大学で開催された合同会議(2013 年 6 月 28 日)において、米国の
テレル・ローズ教授(Terrel Rhodes、 全米大学協会AAC&U副理事長・一般教育学
会会長)による講演とワークショップ「アメリカの高等教育における教養教育の展開
とルーブリックを活用した評価」が行われた。筆者は出席して得た成果報告を KSU
高等教育センターのHPに収載した(有本章「アクティブ・ラーニングにおけるルー
ブリックとは何か―4 大学プロジェクト講演・ワークショップの報告(正)
(続)」[2013]
参照)。ここでの論点に参考となるので、その一部である米国の教養教育における統
合学習とは何かを以下に引用した。
「講演は各論的には「ルーブリックを活用した教育開発と学習へのインパクト」のタイ
トルで行われたが、統合学習の概念が中枢に位置する。
「統合学習(Integrative learning)は、
学生がカリキュラムを通して学んだ知識を、実際の経験と結びつけ、さらにそれを統合し、
今度は学外の全く新しい、しかもより複雑な状況において適応することができるような学
びを言う。」アクティブ・ラーニングによって開発される主体的な学びが学修力へと醸成
される過程は、実質的には教養教育の精神を体得したかかる総合学習の醸成を意味してい
ることが分かる。統合とは何かと問えば、次の定義がなされている。
「学生の経験における「統合」の位置づけ。環境と時間を横断した学習経験を統合
するような学習能力を育成する。つまり、統合的な能力を育成する学習が重要である
のは、プライベートな生活、職業生活、市民生活の実践において、学生が知的判断を
下せるように準備するからである。かかる学習こそは、教養教育の核心である。」
また、ルーブリックによって開発される統合学習とは何かと問えば、次の定義がなされ
ている。
「学生が教室内・教室外において、種々のアイディアや経験を単純に関連づけるこ
とから、学習を大学内外の新しく複雑な状況に総合し転移させることまでを含めた理
解と性質。そのために、次のような基本的な学修成果を獲得することが期待される。
①
人類の文化、物質界そして自然界の知識(科学、数学、社会科学、人文学、
歴史、言語学、芸術における学習を通じて同時代および恒久の大きな課題に
取組むことに焦点を当てる。)
②
知的かつ実践的スキル(探求と分析力、批判的・創造的思考力、文章力とオ
ーラルコミュニケーション、量的分析リテラシー、情報リテラシー、チーム
ワークと問題か亜解決力、などを含む。より挑戦的な問題、プロジェクト、
パーフォーマンスの基準といった文脈において、授業科目を横断して積極的
に実践される。)
③
個人的、社会的責任感(市民としての知識と従事―ローカル及びグローバル
レベル、異文化に関する知識と能力、倫理的思考力と行動力、生涯学習に対
する基盤と能力、などを含む。多様なコミュニティへの積極的な参画と実世
21
界での挑戦を通じて固定される。)
④
統合学習(教養教育や専門教育の総合化と高度な達成、を含む。知識の応用、
スキル、新たな環境や複雑な問題に対する責任などを通じて示される。)」
1.9.2.2
報告の結論部分
筆者の報告の結論部分は以下に引用したとおりである。
「以上、第 1 から第 6 まで、当日の講演で行われた説明を基にしながら、敷衍的
に述べてきた。そのことと前回報告したことを含めて、最後に若干の印象を述べてま
とめに代えたいと思う。
第 1 に、ルーブリックは、講師のテレル・ローズ氏の反復的な言説を待つまでも
なく、学生による「統合的な学習」に重点が置かれているとみなされる。それは、規
準とレベルの組み合わせによって、学生が主体的に学習(学修)を深めて、低次のベ
ンチマークの段階からマイルストーンの段階を経由して高次のキャップストーンの
段階へと到達する過程を具体的に構造化している視座である。
第 2 に、このようなルーブリックの視座を導入して学生のアクティブ・ラーニン
グ(能動的学習)を実現すべく授業を改善することは、個々の教員(教職員)の課題で
あると同時に教員(教職員)集団全体の課題であるとみなされる。ローズ氏が指摘し
たように、アメリカのルーブリックの実践は、レベル 6 から 4 に次第に縮小統合さ
れたように、全国の教員集団が実践を通して試行錯誤しながらこのレベルへと達成し
てきた経緯がある。一朝一夕に今日の成果とその水準が実現したのではなく、全国の
様々な活動を通して長期間にわたって成就した所産である。他方、日本では今回の 4
大学プロジェクト自体が先端的な取組みの一つである。実践の経験がいまだ十分蓄積
されておらず、今後の発展が期待される段階に留まっていることは否定できない。日
米の落差はかなり大きい。
第 3 に、講演でも指摘されたように、ルーブリックの原状は完成の域にあるので
はなく、依然として発展途上にあるとの認識は重要な視点であるばかりか、重要な問
題意識であろう。4000 近いアメリカの個々の大学において、100 万人以上の大学教
職員において、不断に新たな模索が行われて、所期の目的であるアクティブ・ラーニ
ングの実現と学力の質保証に向けて絶え間なく改革が行われている事実は注目に値
する。今回の事例で紹介された学生は、特に顕著な活躍をしている大学の事例とは限
らないであろうが、学生の織り成すパーフォーマンスの事例からも瞥見できるように、
1 年生とはいえ学生の取組みが熱心に映るのではあるまいか。このことは学生のみの
熱心さに由来しないはずである。当然ながら、その背景には大学や教職員の取組みが
あってこそ、その種の学生による持続的なコミットメントがなされていると推察され
るのであり、教育改革の実践の裾野の大きな拡がりが示唆される。
第 4 に、アメリカモデルのルーブリックの実践が日本にそのまま通用するか否か
は、吟味が必要である。アメリカでの成功が日本へ必ずしも通用するとは限らない。
単位制、CAP 制、GPA、シラバス、科目の番号制など戦後における日本の大学教育改
革の大道具・小道具類の多くは、アメリカモデルの移植を画策しながら、今日まで必
ずしも成功したとは言えないし、多くは失敗し挫折してきた。その原因は、少なくと
22
も日本社会をはじめ大学の文化や風土の相違に因ることが少なくないはずである。今
回のルーブリック観ならびにアクティブ・ラーニングを結合する重要な概念は「統合
的な学び」であり、それは学生の教室と日常生活での経験と学習(学修)の統合的な往
復作用を含め、人生への不断のかかわりを強調している。統合的な学びは学習者の内
的な変化を引き起こし、生涯学習者へと成長させることに主眼があるとみなされる。
このことに注目すれば、学生のアクティブ・ラーニングを課題として、ルーブリック
というその方法の彫琢を試みる以上、学生、教員、カリキュラム、教育環境、教学マ
ネジメントなどの構成要素の相互関係に十分なメスを入れて読解しない限り、所期の
成果を期待できないことを改めて考えざるを得ない。
第 5 に、第 4 と関連するが、ルーブリックを教養教育との関係で推進するという、
今回の講演やワークショップの趣旨には、大学 4 年間の学士課程教育を基本的には
教養教育とみなすアメリカの大学観と制度を下敷きにして、アクティブ・ラーニング
を推進する方法としてのルーブリックの開発の問題が横たわっているし、その観点を
踏襲して講演がなされたと解される。その点、ルーブリックは教養教育と切り離せな
い概念であり方法なのであって、そこには専門教育の強い日本の学士課程教育と同じ
文化、風土、力学が働くとは言えない。日米の異質性へ上でも若干言及したが、教養
教育が概して形骸化している日本の学士課程教育の文化や風土にアメリカモデルが
果たして通用するかを問う視点がここにも横たわると言って過言ではあるまい。した
がって今回の講演には、日米の共通テーマと方法を扱うとしても、似て非なるものを
扱う側面も含まれていることを考えれば、日米比較の観点から日本の大学改革が直面
している本質的な問題を考える鍵やヒントが少なからず含まれていたと言えるであ
ろう。(2013.7.9 記)」
1.9.3

教学マネジメント構築の課題
学部主義の教学マネジメントではなく、学士課程教育全体の観点に立脚した教学マネ
ジメントを確立することが重要。

本学における学士課程教育の構想では、学生=学習者(学修者)が卒業時の目的である
「菩薩道を歩むプロ」をめざして、教養教育によるジェネラリストの形成、専門教育
によるスペシャリストの形成、キャリア教育による就業力の形成を通して、豊かな人
間性の形成を実現することが課題(図表「学士課程教育の構想」および図「学士課程
教育の構想:枠組み」参照)。

他方、教員=教育者は同様の目的をめざして、教養教育、専門教育、キャリア教育を
媒介にして、1年次の導入期、2年次の展開期、3年次の応用期、4年次の評価期な
どの教育を順次展開して、学生の豊かな人間性の形成を導くことが課題(同上参照)。

授業を中心に、建学の精神を踏まえて、教職員と学生がルーブリックを軸にティーチ
ング・ポートフォリオやラーニング・ポートフォリオなどを活用して、学生のアクテ
ィブ・ラーニングの構築を実現することによって、人間力、あるいは不確実性社会や
生涯学習社会に対応できる生きる力や考える力を涵養することが課題。

全学レベルで、DP(ディブロマ・ポリシー)→
CP(カリキュラム・ポリシー)→
AP(アドミッション・ポリシー)の有機的な統合を模索し、CA(カリキュラム・ア
23
セスメント)を実施して、体系的な教学マネジメントを確立することが課題(下記の
図表「大学教育改革と教学マネジメントシステムの構築」参照)。

具体的には、本学の建学の精神(菩薩道の探究)を追求する中で、教養教育による教養
力、専門教育による専門力、キャリア教育による就業力を醸成しつつ、人間力の醸成
を実現すること。そのためには、授業を媒介にアクティブ・ラーニング(能動的学修
→学修力)とアクティブ・ティーチング(能動的教育→教育力)の往復作用を行うこ
とが不可欠の課題。

教員(教職員)の教育力と学生の学習力(学修力)の往復作用を高めるためには、R
TSネクサス(研究・教育・学修の統合)の実現が課題。この点は、世界的に困難の
図表 学士課程教育の構想
図 学士課程教育の構想:枠組
1年次
導入
期
=
学
生
学
修
者
教
養
教
育
2年次
展開
期
共通教
育
社会人
基礎力
専
門
教
育
食文化
学部
4年次
統合
期
人
間
力
の
形
成
建学の
精神
キ
ャ
リ
ア
教
育
3年次
応用
期
就
業
力
の
形
成
音楽学
部
専
門
力
の
形
成
子ども教
育学部
24
豊
か
な
人
間
性
と
確
か
な
専
門
性
の
形
成
菩
薩
道
を
歩
む
プ
ロ
状態に直面しているので、簡単に解決ができるとは言えないが、不確実性社会が進行
する中でユニバーサル化の進行に拍車をかける 21 世紀の大学には課題となるとみな
される(Arimoto、 2013; Shin、 Arimoto、 Cummings、 and Teichler、2014 など参照)。

本学を含め連携校の教学マネジメントが全国の大学の同様な取組と比較してどの程
度の進捗状態を示しているかは確認する必要がある。現在までその種の全国調査は見
当たらない。申請書に従って、KSU 高等教育研究センターは「教学マネジメントに
関する全国調査」を2014年度に実施する計画である。
上記の中で、
「学士課程教育の構想」については下記の記述に詳述している通りである。
「総論的に言えば、この構想は、大乗仏教を基盤に豊かな人間性を涵養するという
建学の精神を踏まえ、学生が主体的に学び自分の頭で考える学士力を育成すべく、教
養教育、専門教育、キャリア教育の有機的な統合による教育を各学部学科等が遂行す
ることを基本的な理念・目的としている。
具体的には、入学から卒業までの縦軸には 4 年間を通しての人間形成の過程が存在
する。他方、それとクロスさせる横軸は、建学の精神、教養教育、専門教育(3 学部:
音楽学部、食文化学部、子ども教育学部から構成)、キャリア教育から構成されてい
る。これら縦軸と横軸をクロスさせて、各年度毎の人間形成の教育と学修の課題を展
開する。こうして、大学に入学した学生が建学の精神を基盤にして、教養教育、専門
教育、キャリア教育によって教育を受け、学修を展開して、4 年間に豊かな人間性に
裏付けられた学士力を形成し、就業力を形成し、建学の精神を体した「菩薩道のプロ」
を極める水準に到達する。学生側では、主体的に学びを育成するために、独自の学修
を行うが、各年度に履修する授業単位を計画し、履修単位登録を行い、実際に必修や
選択の授業科目に対応した授業を受けて、単位を修得する。ラーニング・ポートフォ
リオに基づいて、授業内容を咀嚼し、予習や復習を行い、授業科目の水準を極める学
修活動を行う。
その結果は教員が授業科目の到達水準と学生の学力を勘案して評価が行われ、単位
を修得するが、学生は授業を中心に自己の描く人間像に向けて主体的に思考力、創造
力、想像力、問題解決力などを醸成する営みを行う。学生は自らの人間形成を追跡し、
アイデンティティを形成する営みを持続するのであって、それは教員との往復作用に
よって行われるのであるから、教員側では学生の人間形成過程を様々な方法(例えば、
ティーチング・ポートフォリオ、シラバス、オフィスアワー、予習、復習、グループ
討議、GPA、CAP 制、インターンシップ、フィールドサービス、スタディアブロード
など)によって追跡し把握する営みを持続する。」
(有本章「学生課程教育の質保証―
総論」
)
1.10 まとめ
本稿においては、本報告書の総論的な視点から、本学のプロジェクトに関する取組の経
緯と進捗状態を考察することを試みた。
1.選定状況に関しては、採択された本学関係のプログラムは、全国の大学の中での選
抜度が高いこと、今後の発展が期待されるアクティブ・ラーニングを主体としたユニーク
な内容であること、などの特徴があると解される。後者に関しては、中央教育審議会の答
25
申(2012年)による提唱概念を主題として大学教育改革推進の先導的役割を果たす意
味が付与されている。それにつけても、米国ではアクティブ・ラーニングの概念に発展す
る元々の概念が70年近く前に提唱されていた事実、概念が1900年前後から本腰を入
れ出した教養教育を通して彫琢されたことなどを勘案すると、そうした概念を移植して漸
く今日になって開始された日本でのアクティブ・ラーニングを基軸とした大学教育改革が
立ち遅れたことは否めない。文化や風土の異なる日本での今後の展開は注目に値する。
2.取組の要点に関しては(1)大学間連携の戦略と連携取組の趣旨・目的、(2)連
携取組の達成目標・成果、を申請書に基づいて概略したが、特に(2)の内容としては、
①HIP による教育方法の充実、②学修成果の測定、③教学マネジメントの確立、の取組が
柱となることを述べた。取組の内容に関しては、取組の柱であり、3 点セットともみなさ
れる①②③をやはり申請書の基づいて具体的に説明した。
3.選定審査の結果に関しては、審査委員会からの提唱された注意事項に含意されてい
る問題点を多少吟味した結果、本プロジェクトには4大学相互の協力関係のあり方を含め
大きな期待がかけられていることが判明した。本学の場合は、①建学の精神、②小規模大
学(入学定員、学部編成など)
、③私立地方大学、④学生多様化、⑤ユニークな専門分野(音
楽、食文化、子ども教育、音楽短大)、等の特性があると解される。特に、予算、人員、便
宜などが拠点校に遍在する中で、一方的にそれに追随するのではなく、本学の特性を踏ま
えた主題の創造的な追求が課題となるに違いない。
4.取組の概要に関しては、上記の2で述べた取組の要点や内容をいかに実践的に取組
大学教育改革と社会変化
大学教育改革
急激な社会変化と超多様化する学生へ対峙
する時代の大学教育改革
教学マネジメントの構築
AP←CP←DP
Cアセスメント
建学の精神(菩薩道)
教養教育
教養力
専門教育
専門力
キャリア
教育
大学の社会的条件
人
間
力
就業力
授業
(教授-学修過程)
教室内・教室外
アクティブティーチング
(能動的教育)→教育力
入
学
大学の社会的機能
1年生→2年生→3年生→4年生
アクティブラーニング
(能動的学修)→学修力
短期大学学士・学士・修士課程
卒
業
教職員の
教育力
ルーブリック、
ティーチング
ポートフォリ
オ、シラバス、
GPA、CAP、
単位制、科
目番号制、
厳格な評価、
学生による
授業評価、
教
育
の
パ
ラ
ド
ッ
ク
ス
学生の
学修力
R
T
S
予習・復習、
ラーニング
ポートフォリ
オ、フィー
ルドワーク、
ネ
ク
サ
ス
26
社会変化
グローバル化
知識社会化
市場化
少子高齢化
不確実性社会
就職難
研
究
力
教
育
力
学
修
力
結婚難
人生90年
時代
生涯学習社会
考える力
生きる力
・6割が
未婚
(18~
39歳)
・300万
円の壁
生命・
生活・
生涯の
統合
性?
大学教
育の真
価が問
われる
み推進するかに焦点を合わせて、申請書等を参考にしながら述べた。
5.本取組の特色に関しては、①連携校教員の代表校への出向、②教学マネジメント、
③到達テストの開発、等がある。この中で①については、帰学後のファシリテータとして
の期待が極めて大きい。教育方法を点検し、本学に合った教育方法の改善を行うこと、ル
ーブリックの内容を対象に評価の可視化と教員間の共有方法について改善を行うこと、教
学マネジメントでは、連携校間でFD研修・交流を継続して開催すること、などの 3 ポイ
ントの課題がある。この点を考慮して、KSU高等教育研究センターでは、FD研修会開
催によって出向研修成果の具体的な実現を期す計画である。出向者は上記の点検・改善の
3ポイントを達成するために具体的な方法を提示すること、同時に上述のように、拠点大
学への単なる追随に終始するのではなく、本学の特性に基づいたユニークさをいかに発掘
し形成的に実現するかに腐心し主導性を発揮することが求められよう。
6.教学マネジメント構築の見取図に関しては、上記の種々の取組の内容を図解するこ
と、とりわけ上記の5で示した特色を敷衍すること、さらには本プロジェクトに関わる具
体的な質問に回答して視点を明確にすること、などを主眼にして、(1)連関図、
(2)取
組の視点を示して、若干の解説を行った。
7.取組の状況と課題に関しては、状況と課題に関わる論点がある。すなわち、取組の
状況では、①取組チーム編成、担当者、②作業スケジュール、の各側面があるし、課題で
は、①アクティブ・ラーニング開発、②ルーブリック開発、③教学マネジメントの構築、
の各側面がある。したがって、各側面について現状と進捗状態を具体的に検討した。
8.アクティブ・ラーニング開発の課題に関しては、現在の課題を検討した。本学では、
現在(2014年度当初)は理論的検討に加えて、種々の調査や試行的実践を遂行しつつ
ある段階である。その間、主として授業の実態把握、授業に関する各種の単位や装置の現
状分析などに重点をおいた取組を展開してきたところである。第1回外部評価委員会(2
014年3月3日関西国際大学で実施)において上記のとおり「本学の教学マネジメント
の経緯」と題して、所長より従来の取組を総合的に報告した。その結果、委員会からはこ
れまでの取組の状態に関して概ね良好との評価を得た。
所長報告の骨子に従って取組の経緯と成果を整理すると、(1)本学のアクティブ・ラー
ニングに関する長所と短所を把握して開発の方向性を探求、ならびに(2)ルーブリック
開発の課題、(3)教学マネジメント構築の課題、という3点に集約できる。俎上にのせ
た各種課題への取組が今後必要である。
9.最後に、本事業の主題と関わって総論的にアクティブ・ラーニングの制度化につい
て考えることが必要であると思われる。本事業の中心を占める概念である、学生の主体的
学び、アクティブ・ラーニング、ルーブリック、教学マネジメント、等はワンセットとし
て考えれば、移植元の米国の概念との整合性が問われる。米国では、これらは教養教育を
中心に展開される学士課程教育の中に有機的に位置付けられ、長い歳月をかけて全国的に
開発されてきた概念であり、相互に連関し合ったセットである。これを文化や風土の異な
る日本へ直接移植し、定着を図るのは容易ではなく困難な点が少なくない。アクティブ・
ラーニングの方法である HIP やルーブリック自体が大きな見直しを必要とするからである。
米国化はかなり困難であると想定される以上、日本独自の方法を創造することによって、
学生の主体的学びを育成し、学士課程教育の質保証において効果的なアウトプットを可能
27
にする方途を問わなければなるまい。そもそもルーブリックは教養教育と切り離せない概
念であり、方法なのであって、そこには専門教育の強い日本の学士課程教育と同じ文化、
風土、力学が働くとは必ずしも言えない。上でも若干言及したが、教養教育が概して形骸
化している日本の学士課程教育の文化や風土に米国モデルがそのまま通用する保証はな
いのではないか。
10.保証はないとしても、本事業に乗り出した以上、主題通り所期の目的を達成しなけ
ればならない。本学に引き付けて具体的に考えると、アセンブリーアワーがカリキュラム
的に教養教育に近似する性格を擁すると考えられるから、アクティブ・ラーニングの導入
にとっては最も可能性が高いのではないかと予想さる。それに対して、専門教育が主体の
3 学部や短大はアクティブ・ラーニングの導入にはかなり困難が横たわるかもしれない。
しかし専門教育の比重が高い文化や風土では、専門教育の領域でこそアクティブ・ラーニ
ングの取組の必要性は高い。第 4 章のアクティブ・ラーニングの教室外の事例で報告され
ているように、音楽学部や子ども教育学部での実践は徐々に前向きに進行しつつある。米
国の事例を見ても、第 1 章で引用したスタンフォード大学は理系専門分野でありながら成
功を収めている。また、MIT の TEAL(Technology Enabled Active Learning)は電磁気学の
領域で 1990 年代後半から開始され成果をあげているという報告がある。それは、①教科
書や Web サイトで予習→②講義とクイズ→③デスクトップ実験とデータ分析→④発表と
ディスカッション→⑤シミュレーション実験(協調学習)、というサイクルをとる授業形
態である。伝統的な講義方式を放棄して改革に乗り出しているのである。
「授業の特徴としては、事前に教科書は Web で予習をし、電磁気学について勉強
してくる。それに対して教員が 15~30 分くらい講義をする。それを受けて問題が与
えられ、それについて考えていく。あとはグループで簡単な実験とデータ分析をして、
最後にやったことをプレゼンテーションする。そして実際に確かめるためにシミュレ
ーションを行う。このような1つのサイクルとしてモジュール化している授業である。
そういう授業が必修で行われる。・・・同じことを講義型の授業で教えたものと、ア
クティブ・ラーニングの形式で教えたものを比較すると、授業後の理解度の伸び率に
ついて、ハイパーフォーマンスがかなり伸びている点に特徴がある。アクティブ・ラ
ーニングは下の人を救うという特徴があるが、高いレベルの人たちも伸びていること
が実験的に検証され、教育効果がある程度実証できる形になったので、世界的に広が
っている。
」(林一雄、河合塾編著、237-239 頁)。
このような事例があるので、教養教育系でなくても、実践的に創意工夫を凝らして効果
を発揮することが可能であろうし、その着実な実現が問われるのである。
参考文献:
有本章「学士課程教育の質保証―総論」『KSU 高等教育研究紀要』第 2 号、1-19 頁、2013
年 3 月。
有本章「アクティブ・ラーニングにおけるルーブリックとは何か―4 大学プロジェクト講
演・ワークショップの報告」KSU高等教育研究センターHP、2013 年 7 月 3 日。
有本章「アクティブ・ラーニングにおけるルーブリックとは何か―4 大学プロジェクト講
28
演・ワークショップの報告(続)」KSU高等教育研究センターHP、2013 年 7 月 9
日。
有本章「アクティブ・ラーニングの制度化と大学教育改革の可能性」『KSU高等教育研
究紀要』第 3 号、2014 年 3 月。
Arimoto、 Akira「Higher Education Reforms and the Academic Profession from a Comparative
Perspective」Educational Studies in Japan: International Yearbook、 No. 8、 March、 2014.
pp. 5-18.
Shin、 JC、 Arimoto、 A.、 Cummings、
and
Research
in
Contemporary
W.K.、 and Teichler、
Higher
Education;
U.
Systems、
eds.、
Teaching
Activities
and
Rewards、 Springer. 2014.
中央教育審議会『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて―生涯学び続け、
主体的に考える力を育成する大学―』(答申)、2012 年。
河合塾編著『アクティブラーニングでなぜ学生は成長するのか』東信堂、2011 年。
佐藤浩章編『大学教員のための授業方法とデザイン』玉川大学出版部、2010 年。
申請書「大学間連携共同教育推進事業」(平成 24 年度)、2012 年。
田村周一「学士課程教育の質的転換と大学生の学修状況」
『KSU高等教育研究紀要』第 2
号、47-60 頁、2013 年 3 月。
友野伸一郎「「深い学び」につながる「アクティブラーニング」とは」キャリアガイダン
ス No.45、別冊、リクルート進学総研、2013 年 2 月。
林一雄「世界のアクティブ・ラーニングと東京大学 KALS の取り組み」河合塾編著前掲書、
231-250 頁、東信堂、2011 年。
29
第2章
教学マネジメントの構築
田村周一(KSU高等教育研究センター前専任研究員、教学マネジメント部門担当)
2.1 教学マネジメントの構築について
2.1.1 本取組の概要、および高等教育の動向
文部科学省大学間連携共同教育推進事業「主体的な学びのための教学マネジメントシス
テムの構築」においては、連携取組内容の中核部分として、とくに以下三つを掲げている。
第一が、学生が主体的に学ぶ教育方法の充実である。これは、とくに教室内授業において
のアクティブラーニング(学生による能動的学修)、また教室外での体験学習プログラム
など、学生にとってインパクトのある教育方法を開発することを目指すものである。あわ
せて授業外学修時間を適正に確保した授業デザインの向上も企図される。
第二が、学修成果を可視化するための評価方法、とりわけルーブリックおよび到達テス
トの開発である。
そして第三が、上記の教育方法・評価法を実効的に運用するための教学マネジメントの
構築である。これは学生の主体的な学びを促進するためには、教室内外のハイインパクト
な教育方法やルーブリックを活用した評価方法を個別に活用するのではなく、全学的な教
学マネジメントのもと、大学の学位授与の方針や教育課程編成方針といったポリシーに即
したカリキュラムのなかで活用することが必要となるという立場に立脚している。各教員
の個性・特性を活かしながらも、科目間・教員間連携をさらに充実させ、組織的教育体制
を確立することが、ここでの大きな目的であると言える。
2012 年 8 月にまとめられた中央教育審議会「新たな未来を築くための大学教育の質的転
換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」においても、
全学的な教学マネジメントの構築の重要性について、同様の指摘がなされている。社会の
変化が激しく将来の予測が困難な今日において大学等に求められるのは、学生が生涯にわ
たって学び、主体的に考える力を涵養することである。これは、これまでの専門知識の伝
達と修得を主眼とした「教授・学習」から、あらゆる立場・環境において「答えのない問
題」に最善解を導くことができるような汎用的な能力を育成する「主体的な学修」へと「質
的な転換」を伴うことを意味する。
あわせて高等教育の置かれている現状として、ユニバーサル段階に至り、学生の多様化
が進行している。進学への目的意識・意欲、学習習慣、学力といった点で、さまざまな学
生が混在しており、多様化傾向はよりいっそう強まっていくものと考えられる。そうした
なかで主体的な学びを促す教育を実現するには、各教員あるいは各科目における個別的な
対応では限界がある。限られた資源のなかで、大学教育の質的転換・質保証という課題達
成をするためには、組織的教育を実現するための仕組みを確立する必要がある。そしてそ
うした仕組みをつくりあげ、教育の目的と手法を共有していくためには、全学的な教学マ
ネジメントの構築が欠かせないということになる。
2.1.2
本取組における教学マネジメント
30
以上のような社会および高等教育政策の動向を踏まえたうえで、ここで本取組の主旨に
したがい、教学マネジメントの考え方についてまとめておく。
本取組でいう教学マネジメントとは以下のとおりである。「教学マネジメントとは、各
大学が自らの使命や教育理念に基づいて掲げたディプロマポリシー(学修到達目標)の達
成に向けて、体系的な教育課程を構築し、教育方法を改善し、教員間の連携、科目間の連
携を図り(以上カリキュラム・ポリシー関係)、学修成果の測定方法を開発して可視化し、
組織的な教育を実現すること」
(事業申請書より)である。
そのうえで、つぎに、いかにして教学マネジメントを確立するのかという方法論の議論
になる。本取組においては、ハイインパクトな教育方法の充実、およびルーブリックに代
表される学修成果の評価方法の開発、この二つを柱として組織的な教育の実現を可能にす
る教学マネジメントの確立を企図する。そうした試みのなかで、教員の教授スキルの向上、
教員の個性を活かしながら体系的な教育課程・カリキュラムの構築、教員間・科目間の連
携が図られるのである。
ここで教学マネジメントについての一般的な概念射程もあわせて確認しておくと、濱名
篤 は 教 学 マ ネ ジ メ ン ト を 次 の よ う に 定 義 し て い る 。「 教 学 マ ネ ジ メ ン ト は 英 語 で は
Management of teaching and learning というが、教員からみた“教育 teaching”と学生からみ
た“学習 learning”について、カリキュラムだけではなく教育や学習の支援体制も含めた
マネジメントを行うことである。定義するならば、教育目標を達成するために教育課程を
編成し、その実現のための教育指導の実践・結果・評価の有機的な展開に向け、内部組織
を整備し、全体を運営すること、であろう。言い換えれば、ディプロマ・ポリシー、カリ
キュラム・ポリシー、アセスメント・ポリシー、そしてアドミッション・ポリシーを結合
し、教育力の向上に対する組織的な取組をすることであり、教職員の能力開発ならびに協
働関係の構築なども含め、これらすべてを総合的にとらえた『マネジメント』を指す」
(濱
名 2013)。
教学マネジメントの対象領域は多岐にわたり、それを確立するための具体策も各大学の
置かれている状況特色により異なってくることに注意を払わなければならない。また、と
りわけ日本では、たとえばアメリカの大学において明確に区別されているガバナンス(と
くに理事会が担う監督機能)と教学マネジメント(大学執行部が日常的に担う執行機能)
とが混同されているという問題もあり、いまだ適切に理解されていない場合も多い。
定義に関連して記しておくと、「教学ガバナンス」という言葉もある。山田礼子の解説に
よれば、教学ガバナンスは「教育改善を機関として定着させ、恒常的に教育の質保証を実
質化していくための仕組みを構築し、それを管理・運営し、責任を持って実質化していく
ことを意味する。大学の経営、運営という広い概念と比べると教学面における管理、運営
というより狭い領域が対象となる」
(山田 2012)となる。これは経営と教学とを区別した
うえで、とくに教学面を指し示すものという点では、さきの「教学マネジメント」の意味
内容と重なるものとなっている。
ひとまずここで確認しておくべきは、たしかに教学マネジメントは多義的で、その具体
的あり方も多様ではあるけれども、そこに共通するのは、全学のディプロマ・ポリシー、
カリキュラム・ポリシー、アセスメント・ポリシー、およびアドミッション・ポリシーに
よって表現される教育目標を基盤とするということである。
31
2.2
教育目標等の見直し
前節では、本取組における教学マネジメントの位置づけと概要について述べた。そこで
確認したのは、まず大学教育の質的転換にむけた組織的教育を実現するためには、全学的
な教学マネジメントの構築は不可欠であるということ。つぎに、各大学の状況に応じた適
切な教学マネジメントを確立するためには、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリ
シー、アセスメント・ポリシー、およびアドミッション・ポリシーが明確にされなければ
ならないということであった。
本取組でも、所期の年次計画にもとづき、平成 25 年度までのところで、各連携大学に
おける教育目標、学位授与の方針、および教育課程編成方針の見直しを行うこととなった。
以下では、とくに「第 2 回大学間連携共同教育推進事業全体会」(2013 年 10 月 12 日、関
西国際大学尼崎キャンパス)での報告内容および資料をもとに、本学の DP・CP の見直し
に関する取組みについて記述する。
2.2.1
教育目標の基盤に関する事柄:建学の精神、大学の基本理念、使命・目的
大学等のそれぞれの教育目標において、もっとも基盤となるのは建学の精神、学是、使
命目的である。本学においては以下のとおり定められている。
○建学の精神:
「大乗仏教に基づく宗教的情操教育により豊かな人間性を涵養する」
○大学の理念(学是):
「念願は人格を決定す
継続は力なり」
○使命・目的:「本学は教育基本法および学校教育法の定めるところに従い、高等学校教
育の基礎の上に 4 年の音楽、食文化又は子ども教育に関する大学教育を施し、良き社会人
を育成することを目的とし、宗教的情操教育を施して信念と道義心とを涵養し、以て大学
教育の普及と地方文化の向上を図ることを使命とする。」(学則
第 1 章総則第 2 条)
○「菩薩道を歩むプロの養成」
上記の使命・目的を簡潔かつ分かりやすく表現したものとして、さまざまな場面で用いて
おり、寄付行為にも明文化している。「菩薩道を歩むプロ」とは、学是を具現化した姿で
あり、自己の人格を磨き、他者への思いやり、献身、布施ができる「心豊かにいきいきと
生きる職業人」を意味する。
2.2.2
教育目標(学位授与の方針)
全学のディプロマ・ポリシーは、以下のように定めてある。
(以下、平成 25 年度におけ
るものである。)
くらしき作陽大学のディプロマ・ポリシーは、学生が本学を卒業するにあたって、以下
の「学士力」を習得していることを保証するための目標です。
・建学の精神を体得し、確かな教養と豊かな人間性を身につけている。
・修得した専門性を活かして「自利利他」の精神で社会に貢献できる。
・目標を掲げて主体的に学び続け、生涯にわたって自己の成長を追求できる。
また各学部、研究科、短期大学の教育目標(学位授与の方針)については以下のとおり
である。
32
音楽学部のディプロマ・ポリシー
音楽学部は、次の学生の卒業を認め、学士(音楽)の学位を授与します。
・音楽に関する専門的知識・技能を活かして「自利利他」の精神で社会に貢献できる。
・音楽学部音楽学科の各コースが教育目標達成のために設定した教育課程の授業科目を
履修し、卒業に必要な所定の単位を修得している。
・本学が定める「学士力」及び各コースが定める学位授与要件を備えている。
音楽学部(音楽学科)の各コースの学位授与方針
モスクワ音楽院特別演奏コース
1.モスクワ音楽院の留学生受入れ基準に対応する知識・技能・語学力を備えている。
2.自らの専門とする音楽分野において高度で豊かな表現ができる。
3.演奏家として主体的に学び続け、生涯にわたって自己の成長を追求できる。
演奏芸術コース
1.音楽および演奏に関する確かな知識・技能・態度を備えている。
2.自らの専門とする音楽分野において高度で豊かな表現ができる。
3.演奏者として主体的に学び続け、生涯にわたって自己の成長を追求できる。
教育文化コース
1.音楽教育・音楽文化に関する確かな知識・技能・態度を備えている。
2.自らの専門とする音楽分野に関する理解力と表現力を備えている。
3.音楽について主体的に学び続け、生涯にわたって自己の成長を追求できる。
食文化学部のディプロマ・ポリシー
食文化学部は、次の学生の卒業を認め、学士(食物)の学位を授与します。
・食文化に関する専門的知識・技能を活かして「自利利他」の精神で社会に貢献できる。
・食文化学部の各学科・コースが教育目標達成のために設定した教育課程の授業科目を
履修し、卒業に必要な所定の単位を修得している。
・本学が定める「学士力」及び各学科・コースが定める学位授与要件を備えている。
食文化学部の各学科・コースの学位授与方針
栄養学科
1.管理栄養士としての専門的知識・技能を活かして栄養、健康指導ができる。
2.食を通して健全な社会を築くため、主体的に学び続け、生涯にわたって自己の成長を
追求できる。
現代食文化学科
食と健康コース
1.栄養士としての専門的知識・技能を活かして食と健康に関する指導ができる。
33
2.食を通して人々の幸せに貢献するため主体的に学び続け、生涯にわたって自己の成長
を追求できる。
フードコーディネートコース
1.フードコーディネーターとしての専門的知識・技能を活かして食文化に関する総合的
なコーディネートができる。
2.食を通して人々の幸せに貢献するため主体的に学び続け、生涯にわたって自己の成長
を追求できる。
子ども教育学部のディプロマ・ポリシー
子ども教育学部は、次の学生の卒業を認め、学士(子ども教育学)の学位を授与します。
•子どもの教育・保育に関する専門的知識・技能を活かして「自利利他」の精神で社会
に貢献できる。
•子ども教育学科の各コースが教育目標達成のために設定した教育課程の授業科目を履
修し、卒業に必要な所定の単位を修得している。
•本学が定める「学士力」及び各学科・コースが定める学位授与要件を備えている。
子ども教育学部(子ども教育学科)の各コースの学位授与方針
小学校・特別支援学校コース
1.教育科学や専門諸科学に関する知識と技術を幅広く習得し、教育活動に取り組むため
の基盤となる教育実践力を身につけている。
2.教師として主体的に学び続け、生涯にわたって自己の成長を追求できる。
保育園・幼稚園コース
1.保育科学や専門諸科学に関する知識と技術を幅広く習得し、保育活動に取り組むため
の基盤となる保育実践力を身につけている。
2.保育者として主体的に学び続け、生涯にわたって自己の成長を追求できる。
大学院
音楽研究科のディプロマ・ポリシー
大学院音楽研究科は、次の学生の修了と認め、修士(音楽)の学位を授与します。
•建学の精神を体得し、高度の音楽的知識・技能や研究能力と豊かな人間性を身につけ
ている。
•音楽に関する高度に専門的な知識・技能を活かして「自利利他」の精神で社会に貢献
できる。
•目標を掲げて主体的に学び続け、生涯にわたって自己の成長を追求できる。
•大学院が定める学位授与要件を備えている。
大学院音楽研究科の学位授与方針
1.音楽家・教育者等の高度専門職業人として、深い専門知識と豊かな独創性をもって学
術の進歩、社会の発展に貢献できる。
34
2.音楽を主体的に学び続け、生涯にわたって自己の成長を追求できる。
3.音楽研究科が教育目標達成のために設定した教育課程の授業科目を履修し、修了に必
要な所定の単位を修得している。
作陽短期大学 作陽音楽短期大学の学位授与の方針
作陽音楽短期大学のディプロマ・ポリシーは、学生が本学を卒業するにあたって、以下
の「短期大学士力」を習得していることを保証するための目標です。
•建学の精神を体得し、確かな教養と豊かな人間性を身につけている。
•修得した専門性を活かして「自利利他」の精神で社会に貢献できる。
•目標を掲げて主体的に学び続け、生涯にわたって自己の成長を追求できる。
短期大学音楽学科の学位授与方針
1.音楽に関して修得した専門的基礎力を自ら社会で活用できる。
2.音楽を主体的に学び続け、生涯にわたって自己の成長を追求できる。
3.音楽学科が教育目標達成のために設定した教育課程の授業科目を履修し、卒業に必要
な所定の単位を修得している。
2.3
教育目標等の見直しの実施・計画について
本節では、平成 24 年度から 25 年度にかけて行われた教育目標の見直しについて記述す
る。
本学における自己点検・評価の活動は、おもに全学委員会である「自己点検委員会」が
中心になって実施している。
とりわけ大学の教育目標(DP、CP、AP)の見直しについては、平成 24 年度から 25 年
度にかけて、改革会議、教授会、自己点検委員会等を中心にして行った。これは平成 25
年度に機関別認証評価を受審するにあたり、あらためて内容の見直し・点検を行い、明文
化の作業がなされた。同様に、各学部等の教育目標についても、上の大学の教育目標にも
とづきつつ、各学部等の特色を反映させ、見直しを行った。
さらに本年度には、全学的な学士課程教育の体系(教養教育、キャリア教育、専門教育(各
学部)のそれぞれについて、学年次ごとの学修内容を示したもの)を構築した。カリキュ
ラムの全体像として、建学の精神を基盤とした教育および学部共通教育を「教養教育」、
社会人基礎力を涵養するものとして「キャリア教育」、各学部における専門的地域伊予日
技能の修得を「専門教育」として整理し、それぞれの目的を「人間力形成」、
「就業力形成」、
「専門力形成」として定め、それら三つが総合されて「豊かな人間性と確かな専門性の形
成」に結実する。図 1(くらしき作陽大学「自己点検評価書」:26、図 2-2-1
体系的な学
士課程教育の構築)を参照。
今後の見直し計画および課題としては、学位授与の方針で示している力・資質および人
間像にくわえ、卒業までに修得すべき「より具体的な能力」等を示していくことが検討実
施されなければならない。またそれに付随して、そうした具体的な能力の修得のための達
成方法、達成を確認する指標(アセスメントポリシー)、評価方法・時期(アセスメント
プラン)の整備等の評価(アセスメント)について検討することが必要となる。
35
アセスメント・ポリシーというのは、アドミッション・ポリシー、カリキュラム・ポリ
シー、ディプロマ・ポリシーという三つのポリシーにくわえて、その必要性が指摘されて
いる者である。「学生の学修成果の評価(アセスメント)について、その目的、達成すべ
き質的水準及び具体的実施方法などについて定めた学内の方針」
(「新たな未来を築くため
の大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~
(答申)用語集」)のことでああり、大学 4 年間(あるいは短期大学 2 年間)の教育が、
学位を授与する課程(プログラム)としての「学士課程教育」として、所期の目標を達成
しているかを評価し、プログラムの改善につなげるためのものである。これは個々の学生
の学修成果の評価、あるいは各科目の授業評価にくわえて、学士課程というプログラムレ
ベルの評価が今後必要であることが示されているのである。
教学マネジメントを機能させるためには、ひとつの一貫したプログラムとしての学士課
程教育という概念を徹底すること、また評価については、学生個人あるいは科目といった
レベルでの評価にとどまれず、プログラムレベルでの評価という観点が求められるのであ
る。
参考文献
濱名篤、2013、「教学マネジメント」濱名篤他編『大学改革を成功に導くキーワード 30』
学事出版。
山田礼子、2012、『学びの質保証戦略』玉川大学出版部。
(平成 26 年 3 月作成)
図1
体系的な学士課程教育の構築
36
第3章
ルーブリックにもとづく評価票の開発と試行
芝崎良典(KSU 高等教育研究センター併任研究員、ルーブリック開発部門担当)
松田光恵(ルーブリック開発部門担当)
3.1
研究の背景
授業を受けてどの程度必要とされる知識を学生が身につけたか、これを調べることは容
易である。いわゆる客観式テストを用いることで、望まれる水準まで学生が到達している
のかを教員が把握することも容易であるし、学生自身にとっても試験の得点や各問の正誤
を確認しさえすれば自身の学修成果を知ることは容易である。客観式テストは単純な知識
習得の度合いを確認するだけではなく、作問者に技量があれば基礎知識をもとにした応用
力を測定することも可能であり、評価の行われる多くの場面で利用されている。
一方で客観式テストでは評価のむずかしい領域もあり、そのひとつが技能である。多く
の授業でレポートが課題として学生に課され、評価を行うということが行われている。作
文評価の研究については、1960 年代以降研究が行われているが、例えば、Coffman (1966)
は採点者の効果を報告している。同一の生徒の作文に対して、異なる教師が評価をした場
合、異なる教師間での評点の一致率はおおよそ相関係数 .25 から .30 であることがわか
っている。相関はやや認められる程度であり、誰が評価するかによって作文の評価が左右
されることを示す。
1990 年代からは、評価者がどのような評価方略を用いて作文を評価しているのかに着
目した研究が行われている (Cumming、 1990; Vaughan、 1991; Huot、 1993; Pula & Huot、
1993)。これらの研究からは、評価者が用いる評価方略には数種類あり、評価者ごとに異な
る方略で作文を評価していることがわかっている。ここで問題なのは、その評価者が用い
ている方略が学習者に明示されているのかという点である。どのような方法で自身の書い
たものが評価されるのかを知らないで作文を書く場合と十分に把握したうえで書く場合
とでは当然評価に大きなちがいをうむ。評点に対しても何がよくてよい評点となっている
のか、逆に何が悪くて低い氷点になっているのか、作文に対して与えられた評点から学習
者自身がわからなければならない。そうでないかぎり、自身の不足を改める資料として評
点を活用することができない。
ルーブリックに基づく評価方法では、評価のプロセスを明示し、どのような技能が求め
られているのかを具体的に学生に示すことができる。どのような観点で自身の活動や課題
が評価されるのか、評価を受けた際に自身のどの点が具体的に不十分であったのかを知る
ことができる。大学においては、知識習得のみを目的とした授業やプログラムは少なく、
多くは技能・態度等に関して何らかの向上を目的としているであろう。大学教育において
は、ルーブリックのような評価方法を用いることによって、学生の学ぶ目的を明晰なもの
とし、また自主的に学ぶための方向付けができると考えられよう。
3.2
目
的
本研究の目的は大きくわけて2つあり、ひとつは、(1) ルーブリックに基づく評価方法
37
の開発であり、もうひとつは (2) ルーブリックに基づく評価方法の試行である。ルーブリ
ックには一般的ルーブリックと特殊的ルーブリックがある。両者のちがいは適用範囲にあ
る。一般的ルーブリックは、大学で学び、社会にでて活躍するために必要な能力、態度等
に着目して開発されるものである。専門教育において各学部の専門性を高めて行くが、専
門性が高まるにつれ適用範囲は限定的なものとなる。こうした専門領域に関する諸能力を
ターゲットとして扱うのが特殊的ルーブリックである。本研究では、特に一般的ルーブリ
ックの開発を行った。
3.3
ルーブリックに基づく評価方法の開発
3.3.1 作文技法
手続き
一般的ルーブリックのうち、作文技法に関するルーブリックの開発を目的とし
た。文章を作成する力は、大学での教育に必要なだけではなく、社会にでてからも必要な
力である。基礎的な作文技法を大学在籍中に身につけていることは学生にとって有益であ
ると考えられる。
予備調査
作文技法に関して、現在の学生の力を調べるために予備調査を行った。表1
のとおり、到達目標を「原稿用紙を正しく使いながら、自分の考えを明確に伝えることが
できるとともに、それをわかりやすく伝えるための工夫を行っている」とおき、それに至
るための段階として4つの段階をそれぞれ設けた。評価票の説明を学生に行い、前述の目
的を意識して作文を作成するよう求めた。説明の際には、どのように記述すれば、各水準
が達成できるのかを具体例を示して説明を行った。例えば、段階1の「原稿用紙を正しく
使っている」については、禁則処理等の具体例を示して説明した。
結果と考察
回収した作文を評価した結果、4段階のうち、8 割程度の学生が2段階に
いることがわかった。多くの学生は3段階「自分の考えをわかりやすく伝えることができ
ている」に到達することができていなかったが、これは段落構成の基礎、具体的には段落
の最初には段落で書こうとしている内容のまとめを置くことができていないことが原因
であった。作文を書く前には具体的にどう書くべきか説明しているにもかかわらず、指導
にそった書き方ができない理由として、ふたつ考えられる。ひとつは評価票に望ましい例
などが明記されていないことが挙げられる。評価票をみながら自身の作文を推敲しなおせ
表1. 作文技法をターゲットにしたルーブリックによる評価票(試行版)
項目名
目標とする行動
4
3
文章作成
原稿用紙を正し
く使いながら、
自分の考えを明
確に伝えること
ができるととも
に、それをわか
りやすく伝える
ための工夫を行
っている。
自分の考えをわ
かりやすく伝え
るための工夫を
している。
自分の考えをわ
かりやすく伝え
ることができて
いる。
38
2
自分の考えを
明確に示して
いる。
1
原稿用紙を正
しく使ってい
る。
表2. 作文技法をターゲットにしたルーブリックによる評価票(修正版)
作文
3
正しい日本語を用い
ることができる。
正しい日本語を用い
ることができる。
2
1
正しい日本語をおおよ 正しい日本を用いる
そ用いることができ
ことができない。
る。
日本語
チェックポイント
原稿用紙を正しく用
いることができる。
□誤字・脱字がない。 □誤字・脱字があるが、 □誤字・脱字が多く、
読みやすさに影響は
読みやすさに影響
ない程度である。
している。
原稿用紙を正しく用
いることができる。
原稿用紙をおおよそ正 原稿用紙を正しく用
しく用いることができ いることができない。
る。
以下のチェック項目
のすべてが守られて
いる。
以下のチェック項目の
いくつかが守られてい
ないが、読みやすさに
は影響はない。
以下のチェック項目
のほとんどが守られ
ておらず、非常に読み
にくい。
□段落のはじまりに
全角の空欄を入れ
ている。
□禁則ができてる。
□複数の段落をわけ
ている。
□段落にふたつ以上
の文がある。
□段落のはじまりに全
角の空欄を入れてい
る。
□禁則ができている。
□複数の段落をわけて
いる。
□段落にふたつ以上の
文がある。
□段落のはじまりに全
角の空欄を入れて
いる。
□禁則ができている。
□複数の段落をわけて
いる。
□段落にふたつ以上の
文がある。
適切な表現を用いる
ことができる。
適切な表現をおおよそ 適切な表現を用いる
用いることができる。 ことができない。
□「とても」「たく
さん」などの日常
語をまったく用い
ていない。
□「とても」「たくさ □「とても」「たくさ
ん」などの日常語を
ん」などの日常語を
若干用いているが、
多く用いており、非
読みやすさには影響
常に読みにくい。
しない程度である。
明確で根拠のある主
張を述べることがで
きる。
明確な主張を述べるこ 主張を明確に述べる
とができる。
ことができない。
原稿用紙
チェックポイント
適切な表現を用いる
ことができる。
表現
チェックポイント
明確で根拠のある主
張を述べることがで
きる。
主張
チェックポイント
□明確な主張が書か
□明確な主張が書かれ □主張が書かれていな
れている。
ている。
い。
□主張の根拠(理由) □主張の根拠(理由)が
が書かれている。
書かれていない。
るよう、チェックポイントの欄を設け、具体例を挙げることにした(表2)。もうひとつ
は、各段階で求められている技能の質が異なっていることである。段階1は原稿用紙の使
い方に関するものであり、段階2は主張に関するものである。このように段階ごとで技能
の質が統一されていない。そこで項目を1つから4つ(「日本語」
「原稿用紙」「表現」「主
39
張」)に増やし、各項目3つの段階を設けることにし、表2のとおり作文に関する評価票
を開発した。
作文評価に関しては、テーマと評価者の効果が知られている。同一の学習者が作成した
作文であっても、テーマが異なると評点が異なること、評価者が異なれば評点も異なるこ
とが知られている。ルーブリックに基づく評価方法はこの問題に対するひとつの解決案と
考えることができる。ルーブリックに基づく評価表があれば、誰が採点しても学習者の能
力を安定的に評価できることが望ましい。実際はチューニングと呼ばれる作業を通じて、
学習者の答案例をもとにしながら、このような答案であれば評価表中の基準のこれを満た
すなどといった作業を複数の評価者で行い、評価基準の安定性を高めることが行われてい
る。しかしながら、個々のルーブリックごとにチューニングのような作業を行うのは現実
的でない。できるかぎりチューニングを行わないで安定した評価表を作成することが望ま
れる。表2に示した作文に関する評価票がどの程度の安定性をもっているのか、学生を対
象に調査を行った。手続きはひとりの作文を評価票に基づき評価するよう学生に求め、そ
の評価の一致度を検討するというものであった。結果、Kendall の一致度検定を用いて分
析したところ、おおよそ評定者間の評定は一致していることがわかった。しかしながら、
必ずしも完全な一致ではなかった。なぜ完全に一致しないのか。ひとつには評定者の問題、
すなわち課題要求を理解していないことがあげられる。もうひとつは、「以下のチェック
項目のいくつかが守られていないが、読みやすさには影響はない」など、定性的な評価を
求めているところに問題があると考えられる。「読みやすさ」の評価基準はひとによって
異なる。この種の定性的な表現を修正していくことが今後求められる。また、評価者が作
文以外の評価者の情報に左右されず評価を行うことが必要であるが、評価対象者の印象が
評価にどのような影響を与えるのかを検討した。評価票に関する詳細な評価については、
研究紀要で報告する予定である。
3.3.2
就業力
手続き
就業力を構成する態度として、計画力、志望動機、課外活動、自己分析の4つ
を設定した。就職活動をすすめるためには、志望する職種に就くために必要となることが
らについて把握するとともに、内定を得るための計画をたて実際に準備をすすめることが
できなければならない(計画力)。さらに、業界研究にもとづいた説得的な志望動機を述
べることができるとともに、自身の主張に説得性を持たせるために課外活動等に取組んで
いることが必要である(志望動機)。また、目的をもって課外活動を行うとともに、自身
の活動のふりかえりを記録に残し、自己理解を深めていることも必要であるし(課外活動)、
自身の志望する業界に適しており、かつ根拠のある長所を述べることができるとともに、
その長所をいかにして在学中に伸ばしてきたか述べることができなければならない(自己
理解)。これら4つの観点について、下記のとおり、到達目標と、到達目標まで過程とし
て4水準を設定し、学習者自身の現在の状態と何をこれから準備すべきなのかがわかる表
を作成した。ルーブリックに基づく評価表を学生に提示することによって、各活動で何を
学ぶことが求められているのか、学生と教員との間で共有することができる。学生はより
目的を意識をもって各活動に取り組むことが期待される。実際にルーブリックに基づく評
価表を授業に取り入れることで、学生の態度等に変化は生じるのであろうか。保育者を志
40
表3. 就業力をターゲットにしたルーブリックによる評価票
就業力
計画力
志望動機
課外活動
自己理解
到達目標
志望する職種に就く
ために必要となるこ
とがらについて把握
するとともに、内定
を得るための計画を
たて実際に準備をす
すめることができ
る。
業界研究にもとづい
た説得的な志望動機
を述べることができ
るとともに、自身の
主張に説得性を持た
せるために課外活動
等に取組んでいる。
目的をもって課外活
動を行うとともに、
自身の活動のふりか
えりを記録に残し、
自己理解を深めてい
る。
自身の志望する業界
に適しており、かつ
根拠のある長所を述
べることができると
ともに、その長所を
いかにして在学中に
伸ばしてきたか述べ
ることができる。
4
3
2
志望する職種に
就くために必要
となることがら
について把握す
るとともに、内定
を得るための計
画をたて実際に
準備をすすめる
ことができる。
志望する職種に
就くために必要
となることがら
について把握し
ており、内定を得
るための計画を
たてることがで
きる。
志望する職種に
就くために必要
となることがら
について述べる
ことができる。
志望する職種を
挙げることがで
きる。
業界研究にもと
づいた説得的な
志望動機を述べ
ることができる
とともに、自身の
主張に説得性を
持たせるために
課外活動等に取
組んでいる。
業界研究にもと
づいた説得的な
志望動機を述べ
ることができる。
業界研究にもと
づいた志望動機
を述べることが
できる。
志望動機を述べ
ることができる。
目的をもって課
外活動を行うと
ともに、自身の活
動のふりかえり
を記録に残し、自
己理解を深めて
いる。
目的をもって課
目的をもって課
外活動を行うと
外活動を行って
ともに、自身の活 いる。
動のふりかえり
を記録に残すこ
とができている。
課外活動を行っ
ている。
自身の志望する
業界に適してお
り、かつ根拠のあ
る長所を述べる
ことができると
ともに、その長所
をいかにして在
学中に伸ばして
きたか述べるこ
とができる。
自身の志望する
業界に適してお
り、かつ根拠のあ
る長所を述べる
ことができる。
自身の長所を述
べることができ
る。
自身の志望する
業界に適した長
所を述べること
ができる。
1
望する学生について考える場合、課外において保育現場で実際の保育を経験するという活
動は、学生の自己理解をうながし、志望動機を明確なものにすることが期待される。また、
自己理解の深まりは、就業に向けた具体的な計画の必要性を学生に意識させることも期待
できる。
調査
学生の保育現場での経験が、就業力を構成する4つの要因とどのように関連する
のかを検討した。学生が主体的に保育現場に足を向けるよう活動の名称を自主実習とし、
41
授業外で自身で園側と交渉し、実習を行うよう求めた。
結果と考察
自主実習は総計で 198 回参加していた。学生ひとりあたりでは 2.3 回で
程度であった。現在、分析の途中のため、自主実習後のルーブリックにもとづく評価表の
自己評点と自主実習の参加回数との相関分析のみを報告する。自主実習の参加回数と就業
力を構成する4要因のそれぞれにとの間の相関関係を検討することを目的に kendall の
順位相関係数を算出した。課外活動との間では .29 であり、両変数間の相関は有意であっ
た (z =3.2、 p =.0001)。これは自主実習をすればするほど、目的をもって活動に取組む傾
向のあることを意味する。また、自主実習の経験数と計画力との間で相関係数 Tau は -.30
であり、ふたつの変数の間の相関は有意であった (z = -3.38、 p < .0007)。これは自主実習
をすればするほど、就職活動に向けて具体的に計画をすることができていないと学生が感
じることを意味している。これは、現場で実際の保育にふれることによってより自身に足
りない部分、これから学び習得していかなければならない部分を理解することによって、
自身の計画の甘さに気づくためであると考えられる。
3.3.3
発表技法等
一般的ルーブリックの開発としてグループ活動に着目して発表技法等(表4、5、6)
をターゲットにしたルーブリックを開発した。開発したルーブリックはアセンブリアワー
委員会の求めに応じ、アセンブリアワーで試行を行った。
3.4
ルーブリックにもとづく評価方法の試行
ルーブリックのもとづく評価方法の試行として、論文、研究発表等を行ったものを以下
のとおり述べる。
(論文)
3.4.1
自己意識が対人関係能力の向上に及ぼす影響(共著)2014.1 くらしき作陽大学・
作陽音楽短期大学「研究紀要」第 46 巻 第 2 号。
概要
本研究では、学生が能動的に学習に参加し、自らのプロセスを振り返り、他者か
らフィードバックを受けることで「これまで気づいていなかった自分に気づく」過程を重
視し、アクティブ・ラーニング(以下 AL)の効果を検討した。また公的自己意識が高い
者は他者からの評価に対し、敏感に反応することが予測でき、AL 場面において他者評価
が学習者の内的変化(気づき)を促し、自己意識の高い者において意欲的な学習への参加・
態度をおさめ、結果的に学習効果を上げる、と仮説を立てた。自己意識尺度、他者評価・
自己評価に関する項目において質問紙調査をおこなった。その結果、AL 経験後に学習効
果がでることが示唆された。また他者に見られることの特徴としては非言語的コミュニケ
ーションを重視していること、公的自己意識の高い者は内面を表すことに、私的自己意識
の高い者は具体的な話の分かりやすさに注目していることが明らかになった。また、公的
自己意識の高い者は他者からの評価に敏感であるがゆえに、単に見えやすい表面的な行動
そのものに影響を与えるのではなく、内面的な表現に影響を与えていることが示唆された。
いずれにせよ他者評価のフィードバックが AL 活動には不可欠な要素であることが明らか
になった。松田の分担は、資料収集、データ分析、主たる執筆である。(共同研究者:松
42
田 光恵、芝崎 良典)
(学会発表)
3.4.2
自己意識が対人関係能力の向上に及ぼす影響について(共著)
(2013 年 11 月)日
本社会心理学会第 54 回大会
概要
ポスター発表、発表論文集、 pp. 355.
公的自己意識が高い者は他者からの評価に対し、敏感に反応することが予測でき
る。自己意識の高い者はアクティブ・ラーニング(以下 AL)場面で意欲的な学習への参
加をおさめ、結果的に学習効果を上げる、との調査仮説に基づいて検討を行った。その結
果として、 AL 効果について学習効果が出ることが認められた。また、他者評価の効果と
して、他者から評価され他者のまなざしを感じることで自己の内面的な表現に配慮し、外
的側面でもより、対人関係をより意識することが明らかになった。松田の分担は、資料収
集、先行研究の整理、データ収集・分析、主たる執筆である(共同研究者:松田 光恵、
芝崎 良典)。
表4. 発表技法をターゲットとしたルーブリック
到達目標
目
的
設
定
4
3
2
1
設定されたテー
マのもとで明確
な目的を仮説と
ともにたてるこ
とができる。
設定されたテー
マのもとで明確
な目的を仮説と
ともにたてるこ
とができる。
設定されたテ
ーマのもとで
明確な目的を
たてることが
できる。
設定されたテ
ーマのもとで
目的をたてる
ことができる。
目的をたてる
ことができる。
チェックポイン
ト
【例】
私が通学に利用
する最寄り駅で
は乗車マナーが
悪い。しかし、都
市部に近づくに
つれ、乗車マナー
がよくなる印象
がある。乗客数が
増えるに従い、乗
車マナーは向上
するのではない
か。そのような仮
説が適当かどう
か検討したい。
【例】
私が通学に利
用する最寄り
駅では乗車マ
ナーが悪い。し
かし、都市部に
近づくにつれ、
乗車マナーが
よくなる印象
がある。乗客数
と乗車マナー
との間にはな
んらかの関係
があるのでは
ないか。
【例】
自分の住んで
いる地域をよ
くしたいとい
う思いから、乗
車マナーにつ
いて調べたい。
【例】
乗車マナーに
ついて調べた
い。
【コメント】
仮説を設けてお
り、何を調べよう
としているのか、
明確に理解でき
ます。
【コメント】
何をしらべよ
うとしている
のかがはっき
りと理解でき
ます。
【コメント】
与えられたテ
ーマの枠内で
目的をたてる
ことができて
います。
【コメント】
目的は理解で
きますが、何を
しらべようと
しているのか
がはっきりし
ていません。
43
表5. 分析をターゲットとしたルーブリック
到
分析
達
目
標
4
3
調べた内容をま
とめて、にてい
る事柄、なんら
かのパターンな
どについてデー
タをもとに示す
ことができる。
調べた内容をまと
めて、にている事
柄、なんらかのパ
ターンなどについ
てデータをもとに
示すことができ
る。
調べた内容をま
とめて、にてい
る事柄、なんら
かのパターンな
どについて検討
することができ
る。
調べた内容を
まとめること
ができる。
調べた内容
を挙げるこ
とができる。
チェックポイン
ト
【例】
各駅の乗客数を縦
軸に、乗車行動の
良さの程度を横軸
にグラフをつくっ
てみると、乗客数
がふえると乗車行
動がよくなる傾向
がみられた。
【例】
各駅の乗客数
と、乗車行動に
ついて、都市部
と農村部にわけ
て報告するとと
もに、都市部と
農村部での乗車
行動にちがいあ
ると述べてい
る。
【例】
各駅の乗客数
と、乗車行動に
ついて、都市部
と農村部にわ
けて、報告して
いる。
【例】
各駅の乗客
数と、乗車行
動について、
駅ごとに調
べた内容を
列挙してい
る。
【コメント】
調べた内容を単純
に列挙するのでは
なく、なんらかの
パターンがみられ
かデータをもとに
して検討しており
たいへん評価でき
ます。
【コメント】
調べた内容を単
純に列挙するの
ではなく、なん
らかのパターン
がみられか検討
している点は評
価できます。し
かし、データを
もとにして都市
部と農村部のち
がいを明確にで
きていません。
【コメント】
単純に列挙す
るのではなく、
都市部と農村
部という分類
をしている点
がよい点です。
【コメント】
調査した内
容を挙げて
いますが、そ
れが何を意
味するのか
分かりにく
いという問
題がありま
す。
44
2
1
表6. 共感性をターゲットとしたルーブリック
共感性
4
3
2
1
他者の意見から、他
者の立場を理解す
るとともに、それを
明確化するようつ
とめている。
他者の意見か
ら、他者の立場
を理解するとと
もに、それを明
確化することが
できる。
他者の意見か
ら、他者の立場
などを理解する
ことができる。
他者の意見に対
して共感をあら
わすことができ
る。
他者の意見を
適切に聴く姿
勢をとること
ができる。
チェックポイント
他者がもつ意見
をより明確なも
のにしようとし
ている。明確に
するために質問
をしたり、自身
が理解した内容
を繰り返すなど
している。
他者の意見に対
して適切に応答
している。他者
の意見をメモし
たり、他者の意
見をもとにした
発言をしている
などしている。
他者の意見に対
してうなずくな
ど、あなたの意
見を聞いていま
すよというメッ
セージを身体で
示している
身体・視線が
話者のほうを
向いている。
共
感
性
45
第4章
教室外プログラム報告
宮里智恵(KSU 高等教育研究センター併任研究員、
アクティブラーニング教室外開発部門担当)
4.1
4.1.1
教室外プログラムの構造
アクティブラーニングにおける教室外プログラムの位置づけ
現代社会では主体的に考え行動できる力を持ち、予測困難な時代に対応できる人材の育
成が求められている。大学においても学士課程教育の質的転換を図る必要があり、本事業
「主体的な学びのための教学マネジメントシステムの構築」はこうした背景から設定され
た取り組みである。
アクティブラーニング(能動的学修)は「教師による一方的な講義形式の教育とは異な
り、学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、
経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習な
どが含まれるが、教室内でのグループ学習・ディスカッション、ディベート、グループ・
ワーク等によっても取り入れられる」と定義されており、アクティブラーニングを取り入
れた学修は主体的な学びの能力育成につながると期待されている。
アクティブラーニング教室外プログラムは、教室内で行われるアクティブラーニング以
外のプログラムとして、大学間連携共同教育推進事業において次のような「要件」が確認
された(2014 年 1 月 9 日付)。
学生の主体的な活動と学修成果の獲得を意図した教室外プログラムの要件
本事業では、学生の主体的な活動と大学等の教育目標の達成に向けた教室外プログラム
の要件を示す。
学習目標と目標達成に向けた学習活動、それら取り組みの成果を測定する評価方法が、
三位一体となって明確に設定されている必要がある。プログラムには、教員が関与する多
様な経験や体験を通した学術的な学びと現実世界を往還させる仕組みがあり、ルーブリッ
ク等の客観的な評価規準を活用し、教員と学生との質の高いインタラクションによって展
開されるものである。
学生の主体的な学びを引き出すには次の要件が必要である。
≪学習目標≫
1. 学習目標として、大学や学部学科の教育目標に合致した、汎用的あるいは専門的な知識
及び技能等の修得を設定していること。
≪学習活動≫
2. 学習目標が達成できる活動であること。
3. 学生の意欲がかき立てられ、取り組みがいのある活動であること。
46
4. 学生が自ら活動に参画できるよう設計されており、また、教員が関与して仕向けている
こと。
(学生任せになっていないこと)
5. 多様な経験や体験を通して学術的な学びと現実世界を往還させる仕組みがあること。
6. 学習目標が達成されたことに気づくために、ふりかえりの機会が活動の途中および活動
後に設定されていること。
(機会例:日々の活動記録や活動日誌といった個人の振り返りだけでなく、グループやク
ラスでの発表・意見交換による共有も含めることが望ましい)
7. 学生同士やステークホルダー(学外活動の受け入れ先である団体や組織の担当者や関係
者等)とのコミュニケーションの機会が設定されていること。
(設定された学習目標によっては、学生同士やステークホルダーと議論する機会の設定が
必要)
≪評価活動≫
8. ステークホルダーからの評価が組み込まれていること。
9. 形成的評価が取り入れられ、教員による迅速で効果的なフィードバックがあること。
(フィードバック例:全体への説明、グループへの説明、個々の学生への説明)
10. 総括的評価に用いる成果物には、多様な表現方法が取り入れられていること。
(成果物の例:ビデオ、プレゼンテーション、ニュースレター、レポート等)
4.1.2
本学での取組の理念・目的・目標
音楽学部、食文化学部、子ども教育学部の 3 学部を擁する本学においては、建学の精神
「念願は人格を決定す、継続は力なり」にもとづき、各学部の特色や使命をふまえた取り
組みを行う。学生をより社会に必要とされる人材として成長させることを目的に、教室外
における主体的学修を体験させる。そのためには、この活動の目的や意義、方法、評価等
を相互に連関させることが重要である。本年度の目標は次の通りであった。
2013 年度の目標:
①教室外活動のモデルプログラムの設定と実施
②教室外活動の評価基準の明示化
③教育方法調査に関する検討
2013 年度の計画:
月
行事
6月
7月
活動内容
・学外体験型プログラムに求
められる要件の整理
・モデルプログラムの設定
・教育方法調査に関する検討(1)
47
学内の動き
・教授会報告・依頼
・教室外活動を評価に含
めている授業の抽出
・評価方法の検討開始
8月
9月
KUIS FD
(関西国際大学)
運営会議
(全体会)
・モデルプログラムの実施(音楽学部)
・評価方法の検討
・モデルプログラムの計画立案
(食文化学部)
・教授会報告(教室外活
動の評価方法につい
て)
10
月
・モデルプログラムの実施
(子ども教育学部)
11
月
外部評価
授業外学修時間
調査
12
月
1月
2月
・外部評価
・授業外学修時間調査
・教育方法調査に関する検討(2)
KUIS FD
・モデルプログラムの実施(音楽学部)
3月
4.2
・評価の実施(後期授業)
・教授会依頼(授業外学
修時間調査について)
・外部評価準備
・教授会報告(授業外学
修時間調査について)
・評価方法の評価
・教授会報告(評価)
・評価方法の評価
・報告書作成
教室外プログラムの実施
4.2.1
4.2.1.1
実施内容の概要
「音楽科教育演習」(音楽学部)
【Ⅰ】学習目標
初等科(小学校)から中等科(中学校・高等学校)までの音楽教育の一貫性を高める
ために、合唱及び器楽合奏の様々な演奏形態を体験的に学び、その創意工夫により系統
教育のあり方を研究する。また、協働作業による音楽の楽しさや感動体験を通して、音
楽科教師としての資質能力を養う。
【Ⅱ】授業内容(活動内容)
(1)授業展開
次の(1)~(4)の内容について A~C を選択し、毎時の条件に合わせて組み立てる。
(1)導入 10 分(全体集合)
A 出席確認
B 連絡事項
C 練習計画
48
(2)展開①40 分(グループ単位)集合
A 打ち合せ
B 練習
C グループ・ミーティング
(3)展開②30 分(全体集合)
A 全体練習
B グループ発表
C グループ組み合わせ練習
(4)まとめ 10 分(全体集合)
A 伝達・報告(各係・グループ・リーダーなど)
B 連絡等(担当教員)
C まとめ(リーダー)
(2)年間行事(研究発表等)
研究発表(学校訪問演奏・授業支援・教育交流・演奏会等)を年間6~8回企画。各々の
趣旨に合わせてプログラムを構成し、授業内容を決定する。
平成 25 年度
行事計画
○ 6 月 23 日(日)総社市立昭和中学校吹奏楽部教育交流会
○ 7 月 21 日(土)
「作陽 JWA こども吹奏楽団第4回定期演奏会」ゲスト出演
○ 9 月 11 日(木)船穂小学校コンサート
○ 9 月 21 日(土)サマー・キッズ・キャンパス
○10 月 12 日(土)大学祭
○ 1 月 17 日(金)倉敷市立長尾小学校コンサート
○ 2 月 18 日(火)倉敷市立富田小学校コンサート
○ 2 月 25 日(火)倉敷市立上成小学校コンサート
(3)授業運営
運営委員及び係を設定して、一人一役を担うことを基本とする。
運営委員:リーダー(1 名)
各
サブリーダー(2 名)
係:楽器係・楽譜係・編曲係・演出係・楽譜備品管理係
など
授業は、出席点呼など教務に関する内容を含め、リーダー及びサブリーダーによって運
営する。
教員は、その全てを観察し、全体評価(感想)を終礼時に伝える。
※参考資料
平成 24 年度
題材
各種アンサンブルへの挑戦(編曲と演奏)
(1)リコーダー・アンサンブル
(6)リコーダー+鍵盤ハーモニカ+電子楽
(2)アコーディオン・アンサンブル
器
(3)リコーダー+ギター
(7)リコーダー+鍵盤ハーモニカ+電子楽器+吹奏
(4)リコーダー+ギター+吹奏楽器
楽器
49
(5)鍵盤ハーモニカ+電子楽器
(8)合唱+リコーダー
(6)リコーダー+鍵盤ハーモニカ+電子楽器
(9)合唱+鍵盤楽器
(7)リコーダー+鍵盤ハーモニカ+電子楽器+
(10)合唱+鍵盤楽器+リコーダー
吹奏楽器
(11)合唱+吹奏楽器
(12)合唱+リコーダー+鍵盤楽器+吹奏
楽器
(4)事前準備
学生による授業運営を展開するには、充分な準備が必要である。本時は、火曜日 6 時限
に行なわれるので、同日 3 時限に運営委員による「準備会議」を開催する。そこでは、年
間行事計画(研究発表等)に則り、毎時の授業内容を決定する。
(5)授業外での学修
各係の任務遂行のため、また演奏(発表)のために、各種の会合を持つことを推奨する。
(6)ふりかえりの方法
年度ごとに、ルーブリックにより自己評価と第三者評価を対比する。
(7)評価方法
①能力評価⇒ 観点別評価規準に則した第三者評価の平均値。(第三者=上級生)
②成績評価⇒ 教員評価:能力評価=60%:40%とする。
※教員評価は、参加率(45%)+能動性(5%)+観点別評価(10%)とする。
(8)課題発見型学習
小学校・中学校の訪問により、教育現場の現実に課題を発見し、それに対応できる「音
楽科教師の資質能力」とは何かを学ぶ機会を設ける。演奏会を企画・実行することも、課
題発見の機会となる。
【Ⅲ】取り組みの実際
本プログラム「音楽科教育演習」は、本年度の入学生を対象とした科目である。合同
授業として行う 2・3・4 年生は「学外実習」単位取得のための履修であり、1年生 15 名、
2年生 8 名、3年生 4 名、4年生 10 名、計 37 名の構成である。
本来、この授業は音楽科教育専修生を対象に発足したが、現在は他専修からの参加者(本
年度は 6 名)が含まれているため、時間割の調整が難しい。そこで、集中講義という形態
をとり、6時限目を設けている。さらに、「音教リコーラス・アンサンブル」と称するサ
ークル活動に参加することを履修条件としているために、授業に継いでそれにリンクする。
これは、楽器・備品の準備や片付けなどで、90 分ではとても消化できないからである。
(1)
授業展開
導入→展開 1→展開 2→まとめ
について、各選択肢からの構成で展開。毎時、運営
委員による準備会議で決定して授業を進めた。
《結果》充分な時間をかけて準備したので、概ね良好な展開であった。ただ、練習内
容が計画通りに行かないことも多々あり、時間配分の即決対応能力が求められるとこ
ろである。
(2)
年間行事(研究発表等)
計画された 8 つの行事を全て実施した。
50
《結果》定例化している学校からは、レベルの向上に対する評価を受け、新しい現場
からは活動に対する賞賛を得た。
(3)
授業運営
運営委員(若干名)を選出し、授業運営にあたった。出欠点呼等の教務内容を含め、
模擬授業の形態で行った。また、楽器係・楽譜係・編曲係・演出係・楽譜備品管理係
など一人一役を原則として、全員が積極的に運営に参加できる機会を設けた。
《結果》存在感は活動の原動力である。係活動から存在感が生まれる。そこではリー
ダーシップやメンバーシップは自然発生する。どの係も任務遂行のために努力し、円
滑な授業運営ができた。
(4)
事前準備
学生が授業運営を展開させるためには充分な準備が必要であることから、授業日(火
曜日 6 時限)の 3 時限に運営委員による準備会を催した。
《結果》運営委員会では、各行事のプログラムを設定することを任務とし、それに基
づき毎時の題材を決定する。プログラム設定には現場との渉外が欠かせないため、社
会体験学習ともなった。
(5)
授業外での学修
グループでの研究(練習)発表のため、また各係の任務遂行のため、主体的に集合し
て取り組んだ。
《結果》授業外で随時不定期に各種の会合が行われている。その様は、正にアクティ
ブラーニングである。
(6)
ふりかえり
平成 25 年度は、2 月末日までに 1 年生に様式1のコピーを返却し、自己評価と第三
者評価の差異について考えさせ、感想を提出させる。
(7)
評価方法
「アクティブラーニング」として、能動的態度(積極性)を重んじることを基調に、
評価については出来る限りの客観性を持たせ、且つ「評価する」ことを体験させた。
《結果》評価の難しさを体験し、平素から「評価に関する視点」の置き方がいかに大
切であるかを学んだ。
(8)
課題発見型学習
教育現場訪問により、生徒児童の実態を体験的に学び、「それに対応できる資質能力
とは何か」を学んだ。また、演奏会を企画・実行することからも、多くの学ぶべきこ
とがあった。
《結果》演奏を通して児童生徒と接することに多くの学ぶものがある。音楽への興味
度・傾向・年齢差など、机上では学べないものがある。
【Ⅳ】ルーブリックを活用した客観的評価のシステム化
(1)目的
ルーブリック評価は「①学生の能動的な学習の指標」及び「②行動を客観的に評価する
ための基準」を目的とする。
①
学生の能動的な学習の指標
51
年度当初に「観点別評価規準(資料❶)」により「学習の指標」を示す。年度末直前
に自己評価を行い、
「評価表〈様式1〉
(資料❷)」の「自己評価欄」に記入する。
「第
三者評価欄」には、第三者評価の平均点が示される。ここで「自己評価」と「第三者
評価」の差異について考えさせ、「学習の指標」の意識高揚を図る。
②
行動を客観的に評価するための基準
教員の評価だけではなく、学生(第三者)の評価を反映させる。成績評価は「教員評
価:第三者評価=6:4」とする。教員評価は、参加点(45%)・積極的態度(5%)観点
別評価(10%)とし、第三者評価は、その平均点(40%)とする。ここに出来る限り、主観
を避ける狙いがある。
(2)評価の方法
「観点別評価規準(資料❶)
」に基づき、次の順で行なう。
①
「評価表〈様式1〉(資料❷)」の自己評価欄に評価点を記入する。(全ての項目に記
入すること)
②
「第三者評価表〈様式2〉
(資料❸)」は、第三者(上級生)が被評価者別に評価点を
記入する。(判断できない時は、空欄にしておく。但し、全て空欄の項目が3つ以上
ある場合は、当該披評価者への評価は全て無効扱いとする。
③
「第三者評価表〈様式3-A〉
(資料❹)」は、披評価者の個人別に第三者を併記する。
これにより、評価者から披評価者への関心度を伺うことが出来る。また、披評価者の
能動性(積極度)を知ることが出来る。
④
「第三者評価表〈様式3-B〉(資料❺)」は、「第三者評価表〈様式3-A〉(資料❹)」
における無効評価者を除いたものである。評価の数が5人以上の場合に平均点を算出
し、「平均」欄に記入する。さらに縦軸にその平均を求める。
⑤
「評価表〈様式1〉
(資料❷)
」の「第三者評価」欄に、「第三者評価表〈様式3-B〉
(資料❺)」の「平均欄」を転記する。
【Ⅴ】自己評価・第三者評価対照表
平成 25 年度
氏名
自己評価
第三者評価
1
A
2.5
2.2
2
B
2.7
2.5
3
C
4
D
2.2
2.4
5
E
2.8
2.3
6
F
2.8
2.8
7
G
2
2.3
8
H
2.4
2.3
9
I
2.4
2.5
10
J
1.3
2.4
11
K
1.7
2
(空欄あり)
2.3
52
12
L
2.2
2.6
13
M
2.1
2.8
14
N
2.3
2.8
15
O
2.5
2.5
【Ⅵ】実施上の問題点
①
被評価者が 1 年生ため、1年間の活動では「観点別評価規準(資料❶)」に沿って評
価することが難しく空欄が目立った。
②
「第三者評価表〈様式3-A〉
(資料❹)」で、評価者が多いというのは、積極的に活
動して他者の認識度が高いことを意味しているが、それをどのように評価すれば良い
のか、それが今後の課題である。
シラバスの学習目標に示すように、本科目は「音楽科教師としての資質能力を養う」た
めのものであり、その「能力」を観点別に分析し、客観的に評価するシステムを形成す
る。
(1)観点別評価規準(ルーブリック)(資料❶)
観点を「Ⅰ.教科指導に関する観点」と「Ⅱ.部活指導に関する観点」に大別し、前者を
「演奏力」
・
「歌唱力」
・
「音楽理解力」
・
「読譜力」の4項目に分類、後者を「吹奏楽指導力」・
「合唱指導力」の2項目に分類した。それをさらに(Ⅰ)の4項目を3つの観点で、
(Ⅱ)
の2項目を4つの観点で、各5段階で評価規準を設けた。
各項目の「到達目標」は、「現場の教師に求められる基本条件」と位置づけ、そこに至
るまでの過程を5段階で評価するものである。
(2)各種評価表の記入方法とねらい
①
様式1
音楽科教育演習Ⅰ~Ⅳ
評価表(資料❷)
〈記入方法〉
・ 自己評価欄に、観点別に自己評価を記入する。
(第三者評価欄には、平均値を算出後に入力)
・評価が「1」より下位の場合は「0」を記入する。
〈ねらい〉自己評価と第三者を対比させ、その差異について考える。
②
様式2
音楽科教育演習
第三者評価表(資料❸)
〈記入方法〉
・評価の対象(根拠)がない場合は、空欄にしておく。
・全て空欄の項目が3項目以上ある場合は、該当者への評価はすべて無
効とし、合計欄に「外」と記入する。
〈ねらい〉第三者が、平素の活動の中で仲間たちをどのように捉えているか、観点
別に評価することにより、自己のコミュニケーション能力を問う機会を
与える。
③
様式3A
音楽科教育演習
第三者評価判定表(資料❹)
〈記入方法〉
・第三者の評価を披評価者別にデータを入力する。
・全て空欄の項目が3項目以上ある場合は、該当者への評価はすべて無
効とし、合計欄に「外」と記入する。
53
〈ねらい〉第三者を併記することにより、披評価者との対人関係や視点が見える。
④
様式3B
音楽科教育演習
第三者評価判定表(資料❺)
〈記入方法〉
・様式3Aで無効の第三者(「外」と記入されたもの)を削除する。
(有効第三者=評価者)
・観点ごとに、「点数の合計」と「評価した評価者の人数」を記入。
・「評価した評価者が5人以上の場合、平均点を記入。
(※5人に満たない場合は、空欄とする。)
〈ねらい〉評価者による評価の平均値を求める。
⑤
様式4
成績採点表(資料❻)
〈記入方法〉
・( )内の率に合わせて、別資料より転記する。
〈ねらい〉
「アクティブラーニング」を柱とする本科目では、能動性(積極性)を成
績評価の 50%とした。 これは、学習目標「音楽科教師の資質能力を養
う」の「資質」を評価するものである。観点別評価点は、教員評価 10%、
評価者評価 40%とした。
【成果発表の様子:9 月 21 日(土)サマー・キッズ・キャンパス】
54
資料❶
55
資料❷
56
資料❸
57
資料❹
様式3-A. 「 音楽科 教育演習Ⅰ」 第三者評価判定表
学籍番号( ) 氏名 A 第三者氏名
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
評 価 項 目
判
定
ア
イ
ウ
エ
オ
カ
キ
ク
ケ
コ
サ
シ
ス
セ
【1】音楽科 教師の教科 指導に関する観点別評価
能力
到達目 標
観点
(1)
教科 書のピアノ伴奏は、どの曲 1.ピアノ演奏
演
でも演奏ができ、リコーダー及
奏
びそれ以外の楽器(1つ以上) 2.リコーダー
力
を演奏することができる。
3.リコーダーや吹奏楽の
15
楽器以外の楽器(1つ以上)
4
(2)
豊かな声量と表現で歌うことが 1.声量と表現
歌
でき、「弾き歌い」の能力を備
唱
えている。また、知 識が豊か 2.弾き歌い
力
で、分り易く説明することがで
きる。
3.知 識
15
(3)
音
楽
理
解
力
15
2
音楽理論や音楽の歴史的 背景に 1.音楽理論
基づいた楽曲分析ができ、幅広
く音楽を理解することができ 2.歴史的 理解
る。
1
5
5
5
5
3
3
3
2
1
2
2
2
4
2
2
2
2
2
1
2
1
1
1
4
0
4
0
2
2
1
3.楽曲分析
(4)
確 かなソルフェージュ力で、楽 1.ソルフェージュ力
読
譜の中に作曲者の意図を読み取
譜
ることができる。また、移調に 2.意図・表現の分析
力
関する知 識や技術が高く、スコ
アリーディングができる。
3.移調に関する知 識と技術
15
1
3
1
1
1
3
3
4
4
4
2
3
3
4
2
1
2
3
2
1
1
1
2
3
4
3
3
2
2
3
2
4
1
1
1
1
0
2
2
4
【2】音楽科 教師の部活動指導に関する観点別評価
(1)
吹
奏
楽
指
導
力
20
1.吹奏楽の楽器演奏(1つ
吹奏楽の楽器が演奏でき、編曲 以上)
ができる。また、豊かな知 識・
情報で、分り易い吹奏楽の指導 2.吹奏楽の編曲
と指揮ができる。
3.知 識・情報
2
1
4
1
1
4.指導・指揮
2
1
(2)
合
唱
指
導
力
模範を示 せる歌唱力があり、編 1.歌唱力
曲ができる。また、豊かな知
識・情報で、分り易い合唱の指 2.合唱の編曲
導と指揮ができる。
2
3.知 識・情報
1
20
4.指導・指揮
1
1
2
1
Total
外
10
外
外
外
1
2
4
1
2
2
3
2
3
2
3
22
1
3
2
44
1
58
1
1
1
1
外
8
25
21
外
21
Average
※「観点別評価規準」(別表)により、5段階で評価
58
資料❺
様式3-B. 「 音楽科教育演習Ⅰ」 第三者評価判定表
学籍番号( ) 氏名 A 評価者
1
2
3
4
5
6
7
8
評 価 項 目
イ
カ
キ
ク
コ
合
人
平
計
数
均
サ
シ
セ
5
5
5
24
5
4.8
2
1
2
14
6
2.3
10
5
2
12
8
1.5
8
2
【1】音楽科 教師の教科 指導に関する観点別評価
能力
到達目標
観点
(1)
教科書のピアノ伴奏は、どの曲 1.ピアノ演奏
演
でも演奏ができ、リコーダー及
奏
びそれ以外の楽器(1つ以上) 2.リコーダー
力
を演奏することができる。
3.リコーダーや吹奏楽の楽
15
器以外の楽器(1つ以上)
(2)
豊かな声量と表現で歌うことが 1.声量と表現
歌
でき、「弾き歌い」の能力を備
唱
えている。また、知識が豊か
2.弾き歌い
力
で、分り易く説明することがで
きる。
3.知識
15
(3)
音
楽
理
解
力
15
4
2
5
3
3
3
2
4
2
2
2
2
1
2
4
2
音楽理論や音楽の歴史的 背景に 1.音楽理論
基づいた楽曲分析ができ、幅広
く音楽を理解することができ
2.歴史的 理解
る。
(4)
確かなソルフェージュ力で、楽 1.ソルフェージュ力
読
譜の中に作曲者の意図を読み取
譜
ることができる。また、移調に 2.意図・表現の分析
力
関する知 識や技術が高く、スコ
アリーディングができる。
3.移調に関する知 識と技術
15
1
1
4
3
1
1
1
10
6
1.7
3
3
4
4
4
9
6
1.5
3
3
4
2
2
14
5
2.8
1
2
3
2
1
1
10
6
1.7
1
2
3
4
3
3
2
18
7
2.6
2
3
2
4
1
1
1
16
8
2
7
3
1
6
3
2
3
2
9
5
1
3.楽曲分析
1
2
2
2
4
1
【2】音楽科 教師の部活動指導に関する観点別評価
(1)
吹
奏
楽
指
導
力
20
1.吹奏楽の楽器演奏(1つ
吹奏楽の楽器が演奏でき、編曲 以上)
ができる。また、豊かな知 識・
情報で、分り易い吹奏楽の指導 2.吹奏楽の編曲
と指揮ができる。
3.知識・情報
1
4
1
1
4.指導・指揮
2
1
(2)
合
唱
指
導
力
模範を示 せる歌唱力があり、編 1.歌唱力
曲ができる。また、豊かな知
識・情報で、分り易い合唱の指 2.合唱の編曲
導と指揮ができる。
2
3.知識・情報
1
20
4.指導・指揮
Total
10
Average
2
4
1
2
2
3
2
3
2
3
2
3
44
1
22
58
1
4
3
10
5
5
2
1
8
5
1
6
3
203
95
1
1
8
25
21
21
10.2
1.8
2
1.6
28.3
2.2
※「観点別評価規準」(別表)により、5段階で評価
59
資料❻
60
4.2.1.2
「自主実習」
(子ども教育学部)
①目的
就業力を構成する要因として本取組では、計画力、志望動機、課外活動、自己理解の4
つを考えた。このうちの特に課外活動を本取組では就業力の基礎をなす要因としてとらえ
ている。本取組では保育者を志望する学生を対象としているが、課外において保育現場で
実際の保育を経験するという活動は、学生の自己理解をうながし、志望動機を明確なもの
にすることが期待されるからである。また、自己理解の深まりは、就業に向けた具体的な
計画の必要性を学生に意識させることになるためである。
本取組では、学生の保育現場での経験が、就業力を構成する4つの要因とどのように関
連するのかを検討した。なお、本取組では学生が主体的に保育現場に足を向けるよう活動
の名称を「自主実習」とし、授業外で自身で園側と交渉し、実習を行うよう求めた。
②方法
対象者:将来保育者を志望する83名。
時
期:平成25年12月から平成26年1月。
場
所:くらしき作陽大学附属幼稚園
手続き:ルーブリックにもとづいた評価表を作成し、自主実習の前後で自主実習の意
義を説明する資料として用いた。また学生には自己評価を求めた。
③結果と考察
自主実習は総計で 198 回参加していた。学生ひとりあたりでは 2.3 回で程度であった。
現在、分析の途中のため、自主実習後のルーブリックにもとづく評価表の自己評点と自主
実習の参加回数との相関分析のみを報告する。自主実習の参加回数と就業力を構成する4
要因のそれぞれにとの間の相関関係を検討することを目的に kendall の順位相関係数を
算出した。
課外活動との間では .29 であり、両変数間の相関は有意であった (z =3.2、 p =.0001)。
これは自主実習をすればするほど、目的をもって活動に取組む傾向のあることを意味する。
また、自主実習の経験数と計画力との間で相関係数 Tau は -.30 であり、ふたつの変数の
間の相関は有意であった (z = -3.38、 p < .0007)。これは自主実習をすればするほど、就職
活動に向けて具体的に計画をすることができていないと学生が感じることを意味してい
る。これは、現場で実際の保育にふれることによってより自身に足りない部分、これから
学び習得していかなければならない部分を理解することによって、自身の計画の甘さに気
づくためであると考えられる。
4.3 成果と課題
【成果】
①音楽学部、子ども教育学部において教室外プログラムが実施できた。
②教室外プログラムの実施と共に、ルーブリックを開発し評価まで行うことができた。
③評価に関し、画一的な評価には難しさがあることが明らかになった。
③については、例えば、「音楽科教育演習」の評価を考えた時、音楽的要素に注目する
のか教育的要素に注目するのかによって、多くの場合、学生個々人の評価は異なる結果と
なる。音楽的要素と教育的要素を切り分ける必要があること、どこまでをその科目の到達
61
目標としてルーブリックに落とし込んでいくかを明確にすべきであることが明らかにな
ったことは成果である。
【課題】
①年度当初に予定したプログラムは時間割の関係で時期がずれたり、実施できなかったり
した部分があった。次年度は確実に実施できるように計画的に取り組む必要がある。
②主体的学修の効果を学生の変容からつかむため、次年度も今年度のプログラムを継続し、
評価のあり方をより明確にしていく必要がある。特に上記【成果】③で示した点は課題
としても捉えることができる。プログラムの実施前の段階から目的との整合性を持たせ
た評価の指標を作成しておくことが必要である。
③対象とするプログラムを広げるとともに、各学部からそれぞれ 1 つ以上のプログラムが
実施できるような方向で進めていく。
(2014 年 2 月 28 日記)
62
第5章
アセンブリー・アワーにおけるルーブリックの導入事例
加藤充美(アクティブ・ラーニング教室内開発部門担当)
本プロジェクトにおいてひとつのポイントは効果的なルーブリックの導入によってア
クティブ・ラーニングを促進することである。本学では 1 年生全員と多数の教員が参加す
るアセンブリー・アワーという授業があり、この授業にルーブリックを導入することは、
この授業の教育効果の改善が期待できるとともに本学にルーブリックを広める上で効果
的である。このような観点からアセンブリー・アワーにルーブリックを導入した事例を紹
介する。
5.1 アセンブリー・アワーについて
アセンブリー・アワーという授業は、本学独特のものである。この授業の狙いは、
①建学の精神の教育
②初年次教育
③就業力の育成
④生活指導
⑤全学の一体感の醸成
の五項目である。これらの目的のために次の四種類の内容を実施している。
1)月例集会(全体)
2)ホームルーム(学科別)
3)ふるさと集会(クラス別)
4)各種講座・行事(全体)
これらは相補って五項目の目的を達成している。
本学は「大乗仏教に基づく人間性の涵養」を建学の精神としている。1)は月一回学長
の法話を中心とし、セレモニーや教員や学生感を実施している。学生には法話を聞いての
レポートを課しており。レポートはアドバイザーの教員が添削した後学生に見直しを行わ
せ、最終的に学長が目を通している。このことは学生の文章力を高める効果もある。2)
は生活指導や学科に応じた指導内容をおこない、また先ほどのレポートの指導もここで行
っている。3)は出身地ごとに 20 人から 30 人の 18 クラス編成を行い、小集団活動を行
っている。出身地にちなんだテーマをについて討議、情報収集、分析、まとめを行い、最
後に全体で発表会を行っている。学科を越えたクラス編成を行うことによって学部学科を
越えた交流を図るとともに、小集団活動でコミュニケーション能力や企画力、分析力など
を高めることが期待できる。1 クラスあたり 2 名から 3 名の教員が担当し、適宜アドバイ
スを与えている。4)は健康講座やカルト講座、人権講座などである。
この科目の担当は 1 年生の担当のアドバイザー約 40 名が当たっている。授業の運営の
中心はアセンブリー・アワー運営委員会で行っている。この委員会は年間のスケジュール、
講座の担当講師の手配、成績の管理などを行う。このように多くの教員が関与しているた
め、この授業の改善は波及効果が期待される。
63
5.2
ルーブリックの導入の目的と経緯
アセンブリー・アワーは1.で説明したように多くの教員が関与する科目である。特に
ふるさと集会は二人乃至三人の教員が学生を直接的に、学生に主体的に議論するように指
導する必要がある。また、全体でほぼ同じ方向性を持って指導することも求められる。2
4年度まではアセンブリー・アワー運営委員会で作成した指導案という形で各教員に提示
していたが、どこに重きを置いて指導するかの狙いの徹底はできていなかった。また、各
クラスの授業を進めた結果の把握ができていなかった。そこで指導方法の共通化や結果の
評価、フィードバックができるように共通の評価指標としてのルーブリックの導入を行っ
た。
5.3 使用したルーブリック
ふるさと集会にルーブリックを導入するにあたり留意した点は
・学生がどのようなことを求められているかを明らかにすること
・学生の自己評価ができること
・教員がどのような観点に重点を置いて指導すればよいか明らかにすること
・教員が学生の活動を評価できるようにすること
である。これらに鑑み評価項目は、討議の段階では「目的設定」、
「分析」を教師用に、コ
ミュニケーションの能力を現すものとして「共感性」を学生用に選んだ。発表については
数名の教師が、「プレゼンテーション」、「分析」の二項目で評価を行った。ただし、この
授業は発表会を除くと四回しか担当できず、教員が学生一人ひとりを明確に区別できない
ため、グループ全体での評価を行うこととした。
これらの項目のルーブリックは、毎回の授業のために教員用と学生用、プレゼンテーシ
ョンを評価するための教員用を作成した。使用に当たっては、全体の行ったオリエンテー
ションで記入の仕方の説明を行い、また用紙に記入例も含めた説明をつけておいた。説明
用の資料を図1、図2、図3に示す。図1、図2は教員用、図3は学生用である。
次に、実際に使用したルーブリックを以下に説明する。
学生には、わかりやすいように例をつけた用紙を配布して毎回自己評価を行った。自分
の変化がわかるように同じ用紙に追記できるようになっている。この用紙は毎回配布しそ
の都度回収した。教員用には毎回クラスの全体的な評価をその都度行った。学生用のルー
ブリックを図4、教員用のルーブリックを図5に示す。
ふるさと集会では最終的に各クラスでまとめた結果を発表する機会を設けている。その
発表を 8 名の教員で評価した。内容と発表の仕方の2つの観点から評価できるようなルー
ブリックを作成した。それを図6に示す。
5.4 結果とそのフィードバック
個々の学生の自己評価の分析にはまだ手がついておらずフィードバックができなかっ
た。最終的な発表の評価については、8 名の評価結果を集計した。ルーブリック自体の数
字は距離尺度になっていないのでこのような集計をすることが必ずしも適切とは言えな
いが、結果を示す目安として用いた。その結果を各学科のホームルームで紹介した。評価
の結果を表1、表2に示す。
64
評価者の間には結構ばらつきがあり、事前の説明や練習が不十分であると思われる。今
後の課題である。
また図7に示すように、分析とプレゼンテーションにはやや相関がある。相関係数は 0.54
であり、この評価はクラスの活動の活発さを反映していると考えられる。指導のありかた
にフィードバックできるものと考えられる。
5.5
今後にむけて
今回は、アセンブリー・アワーの授業改善とルーブリックの導入の検討をかねて、アセ
ンブリー・アワーのふるさと集会でルーブリックの活用を行った。その結果、指導のあり
かたにフィードバックできるヒントが得られたが、一方評価のばらつきや、クラス全体へ
のフィードバックではなく個々の学生へのフィードバックの方法など課題も明確になっ
た。
以上に鑑み今後は、
・内容、表現の見直し
・評価の練習の充実
・フィードバック方法の確立
などを学生個人のデータの分析も交えて検討していく予定である。
65
66
図1.ふるさと集会で使用するルーブリックの説明資料(教員用)
67
図2.ふるさと集会で使用するルーブリックの説明資料(教員用)
68
図3.ふるさと集会で使用するルーブリックの説明資料(学生用)
69
図4.ふるさと集会で使用したルーブリック(学生用)
70
図5.ふるさと集会で使用したルーブリック(教員用)
71
図6.ふるさと集会の発表会で使用したルーブリック(教員用)
表1.ふるさと集会の発表会の評価結果 分析
表2.ふるさと集会の発表会の評価結果
プレゼンテーション
72
図7.ふるさと集会の発表の評価の観点の相関
73
第6章
関西国際大学への出向研修報告
田崎慎治(KSU高等教育研究センター専任研究員、
教学マネジメント部門担当)
6.1
はじめに
文部科学省大学間連携共同教育推進事業「主体的な学びのための教学マネジメントシス
テムの構築」
(以下、本事業とする)の平成 25 年度の取り組みの一つとして、各連携大学
の教員が 1 年間、代表校である関西国際大学へ出向した。各連携校の教員が代表校におい
て学生の主体的な学びにつながる事業に参画し取り組むことにより、代表校のさまざまな
ノウハウを共有し、翌年度からの各連携校での事業推進に資することがねらいである。本
学からは筆者が出向したので、以下のとおり、本事業の取り組みの 3 つの柱である、学修
成果の評価方法の開発、ハイ・インパクト・プラクティスの充実、そして教学マネジメン
トシステムの確立の観点に沿って報告をしたい。
6.2
関西国際大学への出向中の取り組みについて
学修成果の評価方法の開発
学修成果の評価方法の一つである、ルーブリックの開発を
行った。今年度開発したルーブリックは、多様性理解、チームワーク、学修成果の統合、
情報収集・活用力、関西国際大学の全学的な学修到達目標である KUIS 学修ベンチマーク
に関するルーブリックであった。並行して開発作業を進めるため、それぞれのルーブリッ
クについて分担して作業を行い、定期的に会議を持ち、それぞれを確認するという方法で
作業を進めた。会議には濱名篤関西国際大学学長(本事業取組代表者)にも同席いただき、
確認をいただいていた。筆者ら出向者は主にチームワークのルーブリックの開発を担当し
た。また、KUIS 学修ベンチマークのルーブリックについては、「自律できる人間になる」
「社会に貢献できる人間になる」など 5 つの大項目(到達目標)に対して、それぞれ「知
的好奇心」や「自律性」
「規範順守」といった 2 つあるいは 4 つの中項目が合わせて 12 個
ほどあり、これらを観点としたルーブリックを作成する必要があったため、関西国際大学
の担当者と出向者らで分担して作業を行い、他のルーブリックと同様に定期的に確認しつ
つ開発を行った。
チームワークのルーブリックについては、アメリカ大学協会(Association of American
Colleges and Universities (AAC&U))が開発した Value Rubrics の一つとしてすでに存在する
が、アメリカの学生向けに作成されたものをそのまま日本の学生に適用することは難しい
ため、これを参考にしつつ、日本人学生向けのルーブリックの開発を行った。開発に関わ
る会議は 20 回を超え(うち濱名関西国際大学学長同席の会議は 8 回)、チームワークのル
ーブリックは軽微なものも含めると 30 回以上もの修正を行いながら完成させた。
ハイ・インパクト・プラクティスの充実
関西国際大学では、様々な取り組みがすでに
行われており、それらの見学をさせていただいた。そのうちのいくつかを紹介する。
1)授業の見学
主に「学習技術」という授業を見学させていただいた、これは、初年次
向けの開講授業(前期15回)であり、ここでアカデミックな論文の書き方や資料の検索
74
方法など、大学の4年間で必要なスキルを学ぶ。すべての1年次生が学ぶため、いくつか
のクラスに分けて行われる。それぞれのクラス担当者が異なるが、内容は同じものになる
よう、いわゆる指導要領を作成し、各回の指導内容まで細かく設定されている。
2)教室外体験学習プログラム報告会
海外体験学習プログラム(グローバルスタディ)
の履修が必須(保健医療学部看護学科を除く)であり、その成果報告会が大学祭のイベン
トの一つとして開催されている。ただし、残念ながら報告会への参加者は多いとはいえな
い。また、報告内容についても十分に練られたものであるとは言い難いものであった。関
西国際大学では必修であるため、特に下級生にとっては、先輩が海外でどのような学修を
したのか、そしてどのようにそれらをまとめて、報告しているかを学ぶ絶好の機会である
と思われる。このようにして、先輩から後輩へと受け継がれていくような仕組みがあれば
よりよい報告会となるのではないかと思われるものであった。なお、関西国際大学ではす
でにこのことに対する問題意識を持たれており、改善に向けて検討がなされているようで
ある。
3)SA/TA 研修
学業成績等、一定の水準を満たした学部生/大学院生がスチューデント・
アシスタント(SA)/ティーチング・アシスタント(TA)として授業の補助を行ってい
る。われわれ出向者は、SA/TA を行う学生に対する研修に参画させていただいた。TA は
多くの大学にあるが、SA についてはあまり例を見ない取り組みであると思われる。SA お
よび TA は自分が受講した授業で業務を行うため、受講生の学びを促進させるだけでなく、
SA/TA 自身の学びの深化の機能を果たしている。
4)各種研修会・ワークショップへの参加
ルーブリックに関する講演会およびワークシ
ョップ(T. Rhodes (AAC&U) )、IR に関する講演会(C. Blaich(Wabash 大学・Higher Education
Data Sharing Consortium (HEDS コンソーシアム))、アクティブラーニングに関するワークシ
ョップ(古庄高(神戸女学院大学))等の研修会が開催され、これらに参加した。
教学マネジメントシステムの確立
教学マネジメントに関しては、関西国際大学の FD
(基本的に全教員が参加して、年 3 回、5日間行われる)への参加や、DP・CP の見直し
に伴ったアセスメントポリシーおよびアセスメントプランの策定作業への参画、リフレク
ションデイ(学生が春学期(前期)、秋学期(後期)の成績を振り返り、次学期・次年度
への目標設定を行う)の見学、各種委員会・会議へのオブザーバとしての参加等、多くの
取り組みを見学させていただいた。特に FD に関しては、すべての日程で朝から夕方まで
行われる、非常に内容の濃いものであった。ルーブリックに関するワークショップ等も取
り入れられ、全学的に取り組みを推進しているということを非常に強く感じられた。
6.3
おわりに
この出向を通して、ルーブリック作成のノウハウやその背景の理解が深まり、また、紙
面の都合上、すべてのことを報告することはできなかったが、関西国際大学の学生支援体
制や教学マネジメントに関する取り組みを見学させていただいたことで数多くのことを
学ぶことができた。また、FD 等を通じて、全教職員が一丸となって教育改善に向けて先
進的な取り組みを推進していることを肌で感じることができ、われわれ出向者にとっても
非常にハイ・インパクトな経験をすることができた。連携事業の取り組みとはいえ、本来
ならば部外者が立ち入ることができない委員会等も見せていただくなど、何かと便宜を図
75
ってくださった濱名篤関西国際大学学長をはじめとする教員、職員の方々、そして学生の
みなさんに深く感謝申し上げたい。今後はこの出向で得たことを活かして、本学に貢献で
きるよう鋭意取り組んでいく。
【写真 1】出向者によるルーブリック開発作業の様子①(左から芹澤高斉先生(淑徳大学)、
筆者、富岡和久先生(北陸学院大学))
【写真 2】出向者によるルーブリック開発作業の様子②
76
第7章
概括と課題
有本
章 (KSU 高等教育研究センター所長、事業推進責任者)
本報告書は、大学間連携教育推進事業「学生の主体的な学びのための教学マネジメント
システムの構築」の研究成果に関わる中間報告である。くらしき作陽大学・作陽音楽短期
大学では、2012年(平成 24 年)10 月からプロジェクトを開始し、KSU高等教育研
究センターを中心にプロジェクトチームを編成し、今日まで活動を展開した。チームには、
プロジェクトの推進課題に沿って、アクティブ・ラーニング開発部門、ルーブリック開発
部門、教学マネジメント部門の 3 部門を編成した。本中間報告書は概ねこれらの部門の活
動内容を基軸に構成されている。以下では概括と課題を試みた。
7.1 概括
第 1 章は、本事業の特徴を概略し、さらに総論的な視点からプロジェクトに関する本学
の取組の経緯と進捗状態を考察している。本事業の選定状況から得られる特徴は、第 1 に
全大学の中での選抜度が高いこと、第 2 に今後の発展が期待されるアクティブ・ラーニン
グを主体としたユニークな内容であること、などにみられる。本事業の中心概念であるア
クティブ・ラーニングについては、「生涯にわたって学び続ける力、主体的に考える力を
持った人材は、学生からみて受動的な教育の場では育成することができない。」など中央
教育審議会答申に詳述されているところである(中央教育審議会、2012 年、9 頁)。
本事業が総じてかかる概念と関わり、HIPによる教育方法の充実、学修成果の測定、
教学マネジメントの確立などを全体的に追求する中で、本学はアクティブ・ラーニング開
発、ルーブリック開発、教学マネジメント構築、の各側面を基本的に追求する。具体的に
は、かかる観点から本学の現状を分析し、今後取り組む問題点や課題を明らかかにし、こ
れらの課題への取組を深めることが必要である。
その際、本事業の全体の主題を遂行することはもとより重要な視点であるが、同時に本
学の特性を発揮した主題の展開になるよう留意することが不可欠の課題である。本学の場
合は、①建学の精神、②小規模大学(入学定員、学部編成など)、③私立地方大学、④学
生の多様化、⑤ユニークな専門分野(音楽、食文化、子ども教育、音楽短大)、等の特性が
あるとみなされる。言ってみれば、大乗仏教を基盤にした建学の精神を中心に地域社会に
根差した私立小規模大学の専門分野を生かした主題への取組が焦点になると考えられる。
主題に対して拠点大学の主導的な取組に単純に追随するのではなく、何よりも本学の特性
を踏まえた主題の深化を創造的に追求することが主眼となると言わなければならない。
本学固有の学士課程教育の構想を踏まえ、学習者(学修者)が卒業時の目的である「菩薩
道を歩むプロ」をめざし、教養教育による人間力形成、専門教育による専門力形成、キャ
リア教育による就業力形成を通して、豊かな人間性と確かな専門性の形成を実現すること
が課題。全学レベルで、DP(ディブロマ・ポリシー)→
→
CP(カリキュラム・ポリシー)
AP(アドミッション・ポリシー)の有機的な統合を模索し、CA(カリキュラム・ア
セスメント)を実施して、体系的な教学マネジメントを確立することが問われる。
第 2 章は、教学マネジメントの取組む主題を分析している。本取組における教学マネジ
77
メントの位置づけと概要について述べ、大学教育の質的転換にむけた組織的教育を実現す
るためには、全学的な教学マネジメントの構築が不可欠であること、各大学の状況に応じ
た適切な教学マネジメントを確立するためには、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・
ポリシー、アセスメント・ポリシー、およびアドミッション・ポリシーが明確にされなけ
ればならないこと、などを考察している。2012年度から2013年度にかけて、改革
会議、教授会、自己点検委員会等を中心にして行われた本学の教育目標(DP、CP、A
P)の見直しを踏まえて、今後の課題としては、学位授与の方針で示している力・資質お
よび人間像にくわえ、卒業までに修得すべき「より具体的な能力」等を示していくことが
検討実施されなければならないこと、そうした具体的な能力の修得のための達成方法、達
成を確認する指標(アセスメント・ポリシー)、評価方法・時期(アセスメントプラン)
の整備等の評価(アセスメント)について検討することが必要となるのである。
第 3 章は、ルーブリックの実験的な研究を分析している。本研究の主たる目的は(1) ル
ーブリックに基づく評価方法の開発、(2) ルーブリックに基づく評価方法の試行、の 2 点
である。ルーブリックには一般的ルーブリックと特殊的ルーブリックがあるが、本研究で
は、一般的ルーブリックの開発を行う。(1)については、本学の授業に出席している学生を
対象に作文技法、就業力、発表技法等、を検証し、(2)については、論文と学会発表を報告
することに主眼を置いている。この中で、作文技法については、回収した作文を評価した
結果、4段階のうち、8 割程度の学生が2段階に留まっていて、多くの学生は3段階「自
分の考えをわかりやすく伝えることができている」に到達することができていないので、
この事実を踏まえて調査方法や評価方法の検討を行った。
就業力については、それを構成する態度として、計画力、志望動機、課外活動、自己分
析の4つを設定し、学生に調査を実施した結果、自主実習をすればするほど、目的をもっ
て活動に取組む傾向のあること、さらに自主実習をすればするほど、就職活動に向けて具
体的に計画をすることができていないと学生が感じること、などを検証した。最後に発表
技法等(発表技法、分析、共感性)については、グループ活動に着目してルーブリックを
開発しており、その結果はアセンブリーアワーで試行を行った。
第 4 章は、教室外のフィールドスタディを中心に実践結果を追跡している。アクティブ・
ラーニングを本学で取り組むには、建学の精神にもとづき、各学部の特色や使命をふまえ
て、学生をより社会に必要とされる人材として成長させることを目的に、教室外における
主体的学修を体験させることが欠かせない。そのためには、この活動の目的や意義、方法、
評価等を相互に連関させることを留意して、教室外プログラムの実施を行うことが必要で
ある。この観点から、実際に実践活動を行うことを試み、実践結果を音楽科教育演習」
(音
楽学部)ならびに「自主実習」
(子ども教育学部)に即して詳細に検討している。
前者(音楽科教育演習)の目的は「初等科(小学校)から中等科(中学校・高等学校)
までの音楽教育の一貫性を高めるために、合唱及び器楽合奏の様々な演奏形態を体験的に
学び、その創意工夫により系統教育のあり方を研究する。また、協働作業による音楽の楽
しさや感動体験を通して、音楽科教師としての資質能力を養う。」という内容である。授
業内容の中で課題発見型学習は「小学校・中学校の訪問により、教育現場の現実に課題を
発見し、それに対応できる「音楽科教師の資質能力」とは何かを学ぶ機会を設ける。演奏
会を企画・実行することも、課題発見の機会となる。」というものであり、アクティブ・
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ラーニングの活動として重要である。その評価結果としては、「教育現場訪問により、生
徒児童の実態を体験的に学び、「それに対応できる資質能力とは何か」を学んだ。また、
演奏会を企画・実行することからも、多くの学ぶべきことがあった。その《結果》として、
演奏を通して児童生徒と接することに多くの学ぶものがある。音楽への興味度・傾向・年
齢差など、机上では学べないものがある。」と総括している。
後者(自主実習)の目的は次のとおりである。「本取組では保育者を志望する学生を対
象としているが、課外において保育現場で実際の保育を経験するという活動は、学生の自
己理解をうながし、志望動機を明確なものにすることが期待されるからである。また、自
己理解の深まりは、就業に向けた具体的な計画の必要性を学生に意識させることになるた
めである。・・・なお、本取組では学生が主体的に保育現場に足を向けるよう活動の名称
を「自主実習」とし、授業外で自身で園側と交渉し、実習を行うよう求めた。」そして、
結果と考察の指摘は次のとおりである。「課外活動との間では .29 であり、両変数間の相
関は有意であった (z =3.2、 p =.0001)。これは自主実習をすればするほど、目的をもって
活動に取組む傾向のあることを意味する。また、自主実習の経験数と計画力との間で相関
係数 Tau は -.30 であり、ふたつの変数の間の相関は有意であった (z = -3.38、 p < .0007).
これは自主実習をすればするほど、就職活動に向けて具体的に計画をすることができてい
ないと学生が感じることを意味している。これは、現場で実際の保育にふれることによっ
てより自身に足りない部分、これから学び習得していかなければならない部分を理解する
ことによって、自身の計画の甘さに気づくためであると考えられる。」
全体を通して得られた成果としては、教室外プログラムが実施できたこと、ルーブリッ
クの開発と評価ができたことなどであり、他方、残された課題は、プログラムの計画性や
ルーブリックの評価のあり方の明確化などを見直す必要性である。
第 5 章は、教室内の授業をアセンブリーアワーに焦点を合わせて考察している。本学独
特の授業であるアセンブリー・アワーの狙い等は次のとおりである。「この授業の狙いは、
①建学の精神の教育、②初年次教育、③就業力の育成、④生活指導、⑤全学の一体感の醸
成の五項目である。これらの目的のために次の四種類の内容を実施している。月例集会(全
体)、ホームルーム(学科別)、ふるさと集会(クラス別)、各種講座・行事(全体)。これ
らは相補って五項目の目的を達成している。」
指導方法の共通化や結果の評価、フィードバックができるようにルーブリックを導入し、
共通の評価指標としている。ふるさと集会にルーブリックを導入した際の留意点は、「学
生がどのようなことを求められているかを明らかにすること、学生の自己評価ができるこ
と、教員がどのような観点に重点を置いて指導すればよいか明らかにすること、教員が学
生の活動を評価できるようにすること」である。実施の成果としては、指導のありかたに
フィードバックできるヒントが得られたことであり、これに対して課題としては、評価の
ばらつきの問題や、クラス全体へのフィードバックではなく個々の学生へのフィードバッ
クの方法のあり方の問題があることなどである。
第 6 章は、拠点大学(関西国際大学)への 1 年間の出向研修に基づいて得られた学修成
果について、評価方法の開発、ハイ・インパクト・プラクティスの充実、教学マネジメン
トシステムの確立などの観点から報告している。学修成果の評価方法の開発では、ルーブ
リックの開発を、多様性理解、チームワーク、学修成果の統合、情報収集・活用力、関西
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国際大学の全学的な学修到達目標である KUIS 学修ベンチマークに関するルーブリック、
など多岐にわたって行っている。各ルーブリック開発は分担して作業が行われ、定期的な
会議によって確認されている。この中、チームワークのルーブリックは、アメリカ大学協
会(Association of American Colleges and Universities (AAC&U))が開発した Value Rubrics の一
つとしてすでに存在するが、日本の学生に適用することは難しいため、それを参考にして
日本人学生向けのルーブリックの開発が実施され、その会議が 20 回を超えた。
ハイ・インパクト・プラクティスの充実では、①授業の見学(「学習技術」という初年
次向け授業、前期15回)、②教室外体験学習プログラム報告会(グローバルスタディの
成果報告会)、③SA/TA 研修(授業補助者の SA/TA 学生を対象とした研修)、④各種研修会・
ワークショップへの参加(ルーブリック、IR、アクティブ・ラーニングなどのワークシ
ョップや講演会)、等を通して関西国際大学の様々な取り組みを実地に研修した。
7.2 特徴と課題
以上、報告書の各章の内容を概括した結果、各報告は今回のプロジェクトの内容に照準
して、アクティブ・ラーニング、ルーブリック、教学マネジメントシステム構築などの重
点領域に前向きにアプローチしていることが理解できる。全体を通じて得られる特徴は、
次のような点に見出されるに違いない。
第 1 に、アクティブ・ラーニングの精神を掘り下げて実践を推進することは、大学教育
改革の最先端の問題に取り組むことにほかならず、このことに対して全学的に積極的にア
プローチしていることを指摘できる。第 1 章ならびに第 2 章において報告しているように、
アクティブ・ラーニングの理念と方法に基づいて、本学の実践課題を明らかにし、現在の
到達点と今後の到達目標について明らかにしている。とりわけ教学マネジメントシステム
の構築の構想に基づき、建学の精神を中心に、学生が入学から卒業までの各学年を通して、
学修力を磨き豊かな人間性を形成するプロセスと、他方、教職員が学生の豊かな人間性の
涵養に向けて豊かな教育力を展開するプロセスを開始している。換言すれば、現在は全学
的に教学マネジメントシステムの構想とその取組に着実し鋭意展開している段階にある。
第 2 に、アクティブ・ラーニングの構想を推進するために欠かせない方法の彫琢につい
ては、本学では試行錯誤的ではあるが、着実な取組を開始している。その点は第 3 章の報
告にあるとおり、ルーブリックの試行的かつ実験的な試みを行っていることが現段階での
実践の成果を典型的に示していると言えるだろう。概して部分的な試行や実験の域を出て
いない段階であるとはいえ、それでもプログラム開始以前に比して相応の成果が得られて
いることは確かである。すでに開発されたモデルの一部はアセンブリーアワーへ援用され、
効果を発揮している。今後、各学部学科等への拡大と応用を図る営みを通して、部分的な
試行や実験の域を超えて一般化する段階に展開し得るのであり、その意味からの漸進的な
発展が大いに期待される。
さらに、第 3 に、この漸進的発展に関しては、第4章の音楽学部や子ども教育学部のア
クティブ・ラーニングの教室外実践も同様のことが言える。アクティブ・ラーニング、と
りわけその方法としてもルーブリックの教室外での活用とその成果については、第4章に
成果報告を行っているように、現段階では全学の学部学科を網羅しているのではないが、
取組実践結果を音楽科教育演習」
(音楽学部)ならびに「自主実習」
(子ども教育学部)に
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即して詳細に検討していることは、重要な成果である。教室内のルーブリック活用につい
ては、上記のように実験的な試行やアセンブリー・アワーなどの授業での取組が開始され、
相応の成果を上げているのであるが、教室外においても現時点までに相応の成果を上げた
こと、同時に漸進的発展の潜在力と可能性を示した点は高く評価できるはずである。
また、本事業において本学の特色を極力全面に出すためには、一般的であると同時に特
殊的である問題を扱うところにユニークな着眼点があると思われるし、可視性を高める効
果が期待されるはずである。その点、第5章におけるアセンブリーアワーの分析は、他大
学には見られない本学独特の取組であるから、所期の目的と成果とが一致して、十分なア
ウトプットが上がる可能性が少なくない。現状は未だ試行錯誤の助走的な段階に留まるこ
とが報告にも具現していると解されるが、大規模授業へのHIの応用やルーブリックの活
用などを含め、これから実績を積むことによって次第に所期の成果を発揮できると期待で
きよう。すでに独自性や個性があると見做される取組が他大学へインパクトを与えるため
には、通用性、共通性など汎用性をいかにして明確にするかが問われるはずだし、その点
での創意工夫が課題となるに違いない。
第4に、本事業は大学教育改革の領域において最先端の問題を扱うだけに、それに取組
む本学は試行錯誤を余儀なくされることが多々あるのは止むを得ないとしても、本学の現
状を踏まえて到達点に至るには入口から出口までのトンネルを抜けなければならないと
いう課題がある。その点に鑑み、第 6 章は、アクティブ・ラーニングの先進大学で研修し
た結果の報告であるので、彼我の温度差を意識せざるを得ない側面があろう。すでに離陸
し飛行段階にある大学と、離陸模索中の段階にある大学とでは実績や経験に温度差が少な
くないはずであるし、研修報告にもその示唆が見られる。その差を短縮するためには、創
意工夫が必要であると言わなければなるまい。その点、本事業の申請書は次のように明記
している。「帰学後は、代表校や他の連携校と情報交換をしつつ自大学での開発及びFD
推進の中核教員となる。そして、連携校間の事業の継続にあたっては以下の3つのポイン
ト(省略、第 1 章参照)により点検・改善を行う。」
このように、出向者は帰学後に研修成果を踏まえて情報を十分提供し、牽引の労をとる
など、主導性を発揮することを期待される。しかも本学の個性を発揮するには、拠点大学
のモデルの追随ではなく本学の良さへの着眼とその伸長が問われる。KSU 高等教育研究セ
ンターでは、出向者へのかかる主導性発揮や役割期待を考慮して、プロジェクトチームと
連携した「FD 研修シリーズ」(仮称)の開催を計画している。
第5に、第4と関連することであるが、彼我の差をいかに短縮するかは本学の課題とな
らざるを得ないので、本事業の 3 つの柱に即した対応が欠かせない。総じてアクティブ・
ラーニングを主題として学生の主体的な学びを喚起し、「能動的学修」を深めることが目
的である以上、少しでも学生の学修力を媒介にした教養力、専門力、就業力などの学力に
具現したアウトプットに効果が出るように着実に実績を積むことが肝要であろう。
第 1 章や第2章で指摘しているように、総論的には教学マネジメントシステムの構築を
前提に、DP→CP→APの整合性とカリキュラム・アセスメントによるその検証を追求
することが欠かせない。さらに各論的には、授業(教授―学修過程)の実態把握(学修時間
の確保、シラバスの改善など)、授業を直接間接に構成する種々の単位や装置(大道具、小
道具等)の棚卸し的な現状分析(ルーブリック、ティーチング・ポートフォリオ、ラーニ
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ングポート・フォリオ、シラバス、GPA、CAP、単位制、科目番号制、予習・復習、オフ
ィスアワー、厳格な評価、学生による授業評価など)などを通して、的確な現状改革の推
進が欠かせない。この中には、今回は報告していないが、コモンズ(図書館設置)のほか
に、新設コモンズである ASB(Active Study Base、5号館 302 室設置)を中心に行われている
各種の授業の取組も含まれるのであり、時間経過とともに着実な実績を積むものと期待さ
れる。
こうした事業の主題の追究と関わって、アクティブ・ラーニングや教学マネジメントシ
ステム構築など所期の目的を実現するには、本学固有の学士課程教育の構想に沿って、学
士課程教育の質保証を遂行することが肝要である。その実現には第 1 章でも指摘したよう
に、①カリキュラムの体系化、②教育研究機能の高度化、③教務システムの高度化、④厳
密な成績評価、⑤就職支援体制の強化・充実、⑥PDCA サイクルによる持続的な自己点検
評価などが欠かせない。またその遂行には事業に直接関与している KSU 高等教育研究セ
ンターやプロジェクトチームの活動はもとよりであるが、改革会議、自己点検委員会、教
務委員会、学生委員会、FD/SD 委員会、などの全学的委員会の協力体制が不可欠であるこ
とから、
「大学間連携教育推進事業推進会議」
(仮称)を2014年3月19日に開催して、
各委員長等に趣旨説明と要望を行った。
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文部科学省大学間連携共同教育推進事業
主体的な学びのための教学マネジメントシステムの構築
研究成果報告書(中間)
平成 26 年 4 月 30 日発行
編集・発行
くらしき作陽大学・作陽音楽短期大学
KSU 高等教育研究センター
〒710-0292 岡山県倉敷市玉島長尾 3515
TEL 086-523-0888 FAX 086-523-0811
E-Mail : [email protected]
ホームページ:http://www.ksu.ac.jp/research_center/higher_education_center/
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