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欧州の新単一効特許及び 統一特許裁判所制度の ご案内

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欧州の新単一効特許及び 統一特許裁判所制度の ご案内
欧州の新単一効特許及び
統一特許裁判所制度の
ご案内
2
© Bristows LLP 2015年10月
欧州の新単一特許及び統一特許裁判所制度のご案内
1
目次
© Bristows LLP 2015年10月
はじめに
2
なぜ変更するのか? 経緯の概要
2
新制度の法的枠組み
2
制度の概要
3
単一効特許の詳細
機構
言語
司法スタッフ
裁判管轄地
移行期間
3
4
5
5
6
6
統一特許裁判所の組織に関する実務的帰結 – 裁判管轄地選択
7
まとめ
7
Bristowsの顧客サービス
8
当事務所の統一特許裁判所の専門家
9
2
はじめに
この案内は、欧州で特許を取得し権利行使するための現
行制度の変更について紹介することを目的としています。
尚、変更は早ければ2017年1月に実施される見込みです。
変更後は、EUの大部分に及ぶ唯一の「単一」特許が現行の
欧州特許制度の利用者に使用され、全ての特許所有者の
既在及び将来の欧州特許は原則として、新統一特許裁判所
(「UPC」)の管轄下に置かれることになります。
ここからの
ページでは、UPCの歴史と今日ここに至るまでの経緯を探
っていきます。
また、新制度が開始した際にUPCがどのよう
に機能し利用者が何を期待できるかについて、いくつかの
有益な洞察を提供するために、制度に関する法的枠組み
と概要にも触れていきます。
なぜ変更するのか? 経緯の概要
特許の付与と権利行使の両方を網羅する汎欧州特許制度
を構築することはEUの初期からの政治的目的でした。
その
目的の達成は困難なままでしたが、1973年の欧州特許条
約(以下「EPC」)の署名により大きな前進を果たしました。
これにより、1978年以来、集中的な出願プロセスを通じ欧
州特許を付与しているミュンヘンの欧州特許庁が設立さ
れることになったのです。
新制度の姿は、
とりわ
け理論的で最適なも
のというわけではない
ものの、政治的及び法
的発展の結果なので
す…
但し、一旦付与されると、特許権者は欧州特許が有効に認
められる国を選択しなければならず、それゆえ1つの欧州
特許出願が原則的に国内特許の「束」
となります。
もし異
議申立訴訟が特許付与後の9か月以内に提起された場合
は、束の全ては中央の(そして厳しい非難の的である)異議
申立手続きに従うままである一方、その権利行使は常に国
内裁判所の管轄事項であったのです。
この主な理由は、EC
規則1215/2012*1で具体化されたブリュッセル条約にお
いては、有効性は国内裁判所の専属事項とされていたか
らです。
*1
これはEC規則44/2001としてより良く知られているものの改定版である。
© Bristows LLP 2015年10月
特許の付与は集中的に行うものの国ごとの権利行使が求
められるこの制度を変更しようという政治的切望は、40年
以上前にEPCが署名されて以降、
ずっと続いています。共
同体特許条約を通じた試みは失敗に終わりました。1997
年、EPCに関する選択的な訴訟手続きがパリで話し合わ
れ、新たな取り組みが始まりましたが、数年後やはり失敗に
終わりました。
その途中の2000年に、欧州委員会は共同体
特許の創設も提案しました。
様々な出だしの失敗を経て、委
員会の構想は今日では単一的効力を有する欧州特許(より
一般的には単純に
「単一効特許(単一特許)
」
と呼ばれる)
と
して知られるものに姿を変えました。
また相前後して、今日
ではUPCとして知られる、
これらの特許と既存の欧州特許
の権利行使のための新たな集中的な裁判所の創設が合意
されました。
以下で簡潔に説明する新制度の姿は、
とりわけ理論的で最
適なものというわけではないものの2009年から2012年に
渡る政治的及び法的発展の結果であり、特に2つの事項に
ついては重要です。
まず、2011年3月の決定により、CJEUは
新制度確立のために提案された取り決めが、非EUのEPC諸
国を含めると合法ではないと判断しました。
これにより、1つ
の裁判所が単独で、
スイスなどの非EU諸国の欧州特許に
関する国内指定の裁決も行う可能性が除外されました。
次
に、数か国、後には25のEU諸国にまで拡大したグループに
よる
(おそらく不当にスペインやイタリアのせいにされてい
る)言語の問題に関する行き詰まりを終わらせる決定によ
り、単一特許を創設する
「強化された協力」
のプロセスが始
まりました。
新制度の法的枠組み
上記で述べた政治的及び法的制約に伴い、新制度は別々
でありながらお互い絡み合う3つの法律文書を通じて創設
されました。最初の2つはEU規則1257/12と1260/12で、
一般的にそれぞれ単一特許規則と言語規則と呼ばれてい
ます。
これらは両方とも施行されていますが、3つ目の法律
文書であるUPC協定が発効して初めて効力を発生します。
この協定は25のEU諸国間の条約であり
(但し厳密にはEU
とは無関係)
、単一特許と従来型の欧州特許の訴訟のため
の共通の裁判所を設立するものです。
2013年2月19日に署名されたものの、協定が効力を発する
には、英国、
フランス、
ドイツに加え他10か国の加盟国によ
る批准が必要です。
とりわけ新裁判所設立のために必然的
に要する膨大な時間と相まって、
この批准プロセスがある
ために、開始日が遅延し未定となっています。
欧州の新単一特許及び統一特許裁判所制度のご案内
制度の概要
新たな取り決めでは、2007年3月1日*2以降に出願され、
新制度が効力を発する日において未完了となっている全
ての特許出願を含む(出願者には重要)欧州特許の出願
者は、関連する参加国の国内指定を受けずに単一的効力
を有する特許を要求することができます。但し彼らは、従
来の方法で他の不参加国(スペイン、
スイス等)
を追加的
に指定することもできます。単一特許はバリデーション手
数料は必要なく
(6〜12年の移行期間のみ)翻訳も1回に
なります。
UPCは多くの国にある部を伴った、権利侵害訴訟や取消
訴訟(通常は両方の請求が同時になされる)
を扱う唯一の
裁判所であり、
どの部で訴訟が提起されたかに関わらず、
全ての関連する国々において有効な判決を下し命令を出
すことができます。UPCは、単一特許及び(複雑な移行期
間に従うことになりますが)既存の欧州特許やそれらの補
完的保護証明書(以下「SPC」)
を含む、欧州特許にも専属
管轄権を有します。
それゆえ、制度は著しい遡及効果を有
し、UPCが効力を発生する時点で存在するあらゆる欧州特
許に影響が及びます。
単一特許の詳細
単一特許は2007年3月1日にさかのぼって、従来型の欧州
特許の出願に付与されます。正式な期限はありませんが、
マルタが2007年にEPCに加入したので、それ以前になさ
れた欧州特許の出願にはマルタが含まれていませんでし
た。
そのような出願はマルタを含んでおらず、且つマルタは
UPC協定を批准しているので、2007年3月以前の出願は
単一的効力に不適格となります。
クロアチアは未加入です
が、加入するとなればクロアチアがEPCに加盟した2008年
1月に期限が繰り上がることになります。
特許審査のプロセスは影響を受けませんが、付与される
と、付与後1か月以内に単一的効力を要求する新たなオプ
ションが発生します。EPOはEUからの委譲を受け、
このプ
ロセスを定める一連の新ルールや単一特許の事務に関す
るその他の実務を取り扱うことになります。注目すべきこと
に、
ここには更新手数料の水準設定も含まれています。
単一特許についての一般的な誤解として、単一特許と言語
規則へ加盟し、UPC協定への署名を行った全ての国々
(現
在のところ、EU全体からスペイン、ポーランド、
イタリア、
ク
ロアチアを除いた24か国)に対して効果を有する、
という
ものがあります。
*2
マルタのEPCへの加盟日
3
しかしながら、正確な範囲は、対象となっている欧州特許
出願について特許付与がされた時点におけるUPC協定の
批准国の数によります。対象国は最大の24か国ではなく
12か国*3ほどに限定される可能性があります。
また、
より多
くの国々が批准しても、個別の単一特許によって取得され
た適用範囲が増えることはありません。
というより地理的な
適用範囲は、特許付与の時点で確定するのです*4。但し既
に確定しているのは、単一特許は3つの最も重要な特許管
轄地、すなわちドイツ、英国、
フランス
(これら3国は必須の
UPC署名国)に加えて既にUPC協定の批准と批准書の預
託の両方を実施した他の国々を対象とすることです。
新制度は別々でありな
がらお互い絡み合う3
つの法律文書を通じて
創設されました。
上記で短く述べた通り、特許付与に際してバリデーション
手数料はかからず、制度発足後の最初の6〜12年間は1
つの翻訳版の提出が必要です。翻訳の提出が求められる
のは言語に係るあらゆる問題を克服するためです。歴史的
に、そして多くの国々で現地語に翻訳する必要性を未然に
防ぐロンドン協定の成立にもかかわらず、特許が自国民に
とって外国語である言語によってのみ付与されるべきでは
ないという懸念を表明する国々もあります。
それゆえ言語
規則における言語制度は、全ての単一特許が少なくとも英
語で利用できるようにしています。
そのため、
(全体の25%を占める)
フランス語又はドイツ語
でEPOに出願された特許を英語に翻訳するよう要求し、実
現しています。英語で出願された単一特許を別のEU公用
語に翻訳することを求める相互条項もあります。
これはどの
言語の可能性もあるため、現在のところ将来スペインに単
一特許が及ぶ可能性はないにもかかわらず、
スペイン語も
含まれます。又はフィンランド語やオランダ語のような、そ
れほど普及していない言語に翻訳されることもあります。
更新手数料の水準は単一特許の対応に際して重要な要素
です。出願者にとって単一特許を魅力あるものにすること
と、特許付与機関としてEPOの帳簿上の収支を保つことに
折り合いをつける微妙なバランスがあります。2015年6月
に、更新手数料を「真のトップ4か国」の基準で設定する仮
合意が成立しました。
これは大まかに言って、
ドイツ、英国、
*3
UPCが効力を発するには13か国が批准しなければならないが、残る1つ
は現在のところ単一特許制度に参加しないイタリアになる可能性がある。
*4
多大な注意がこのような特許の適用範囲の設定に要求されるので、単一
特許に関する調査を自由に行う際に著しい混乱を招く可能性もある。
4
フランス、及びオランダで欧州特許を更新することに相当
します。
この手数料水準がどれくらい魅力的なものになる
かはまだ未定です。
現在国内での更新の際に支払っているよりも多くを支払い
たいと願う出願者はほとんどいないでしょう。結局は、
(もし
あったとしても)ほとんどの企業は、緊縮財政や、中国、
シン
ガポール、マレーシアやその他の新興市場といった以前は
それほど重要でなかった極東の国々で保護を受けるため
の圧力が増している時に、更新手数料の予算を引き上げ
たりしないでしょう。
それゆえ、殆どの特許権者は単純に計
算してより安いオプションを選ぶ可能性があります。
既に確定しているのは、
単一特許は3つの最も重
要な特許管轄地、すなわ
ちドイツ、英国、
フランス
を対象とするということ
です。
現行制度においては、出願者は6つまたは7つのバリデー
ションから着手するかもしれませんが、1年後には3つから
2つあるいは1つに減らすかもしれません。単一特許におい
ては、
もちろんこれは可能ではありません。全ての国々で保
護を受けるか全く受けないかのどちらかです。
そして、全て
の国々で特許を放棄するという選択肢は現実的ではなく、
おそらく代わりにスペインやスイスで保護を保っておくと
いう選択肢で満足するでしょう。
それゆえ、バリデーション
における短期的な節約と長期的費用での更新手数料に惹
かれる特許権者もいるかもしれません。
機構
UPCは登記部を持ち二審制の特許登録と2つの審理機能
を併せ持つ唯一の裁判所です。登記部及び控訴裁判所は
ルクセンブルクに拠点を置いていますが、CJEUとは何も関
係がありません。
この裁判所は、第一審判決(終局的なも
のと手続的なものの両方)からの控訴を取り扱います。但
し、UPCの第一審裁判所の機構は非常に複雑です。基本的
なコンセプトは、権利侵害訴訟は権利侵害が起こった地域
もしくは被告側が所在する地域に持ち込まれる一方、特許
取消及び非侵害確認訴訟は中央部に持ち込まれるという
ことです。
しかしながら、中央部は権利侵害訴訟を審理す
る専属管轄権も有しており、地域部及び地方部は取消反
訴を審理することができます。
中央部の権利侵害訴訟管轄に関しては、地域部や地方部
から移管された訴訟を審理するだけでなく
(滅多にないケ
ースですが)
、重要なことに、
もしある国内に係る地域部ま
たは地方部が設けられていたら、それらの部に持ち込まれ
る訴訟も取り扱うということです。すなわち、対象国が自国
内に部を持たないことを選択する場合は、中央部が代わり
に裁判管轄権を有するのです。
現状では、参加国の少なくとも3分の1*5は地方部及び地
域部を有することになる予定です。
それゆえ、現在分かって
いる限りにおいては、多くの東欧や南欧諸国において被告
が所在し、或いは侵害行為が行われた訴訟は中央部に持
ち込まれるでしょう。
政治的理由により裁判管轄権がパリ、
ロンドン、
ミュンヘン
の3か所に分かれているので、中央部の組織でさえも単純
明快なものではありません
(ミュンヘンについては、EPOと
の関係は何もないはずです)。中央部は訴訟の対象によ
って分かれています。簡潔に言うと、化学及び製薬関連の
訴訟はロンドンで取り扱われ、機械工学関連の訴訟はミュ
ンヘンで審理され、それ以外は(中央部の公式本部でもあ
る)パリに持ち込まれます。過去10年におけるEPO異議申
立の割合に基づくと、訴訟の48%はパリで審理され、42%
がロンドン、そして9%がミュンヘンということになります。
中央部の業務の詳細な内訳については、当事務
所のUPC専用マイクロサイトbristowsupc.comの
Legislation and Documentセクションをご覧ください。
訴訟が審理される場所は手続言語と無関係であることに
注意が必要です。中央部の訴訟においては、訴訟の言語は
特許出願で用いられた特許の言語になります。
よって
(おお
よそですが)言語については75%が英語、20%がドイツ語、
そして5%がフランス語になります。
非中央部には2種類あります。1つ目が地方部で2つ目が地
域部です。地方部は個々の国によって設けられ、現状の予
想では地方部は以下の国々に設けられる予定です。
ドイツ
英国
フランス
オランダ
ベルギー
アイルランド
デンマーク フィンランド
オーストリア イタリア
*5
現状では、25のUPC署名国の内14、
または、おそらく17か国は、地域部ま
たは地方部を設けることが予想されている。
© Bristows LLP 2015年10月
欧州の新単一特許及び統一特許裁判所制度のご案内
地域部は数カ国(隣接していなくても良い)のグループによ
って設けられ、現状の予想では以下の国々によって共有さ
れた地域部が一つだけ設定される予定です。
スウェーデン
リトアニア
エストニア
ラトビア
他のいくつかの国々も協議中であると伝えられています
が、現状、他の地域部は以下の国々の間で形成されること
になりそうです。
チェコ共和国とスロバキア
ハンガリー、
クロアチア、
スロベニア
但し、
これらの協議はまだ実を結んでおらず、いずれの国々
もUPC協定をいまだに批准していません
(クロアチアに至
っては署名すらしていません)。
国が地方部と地域部の両方を有することに関して制限は
なく、
イタリアは南欧部を設けようとしていると噂されてい
ます。
既に述べた通り、
ある国が地方部を設けず地域部にも加わ
らない場合は、中央部が既定の地方部として機能します。
言語
既に中央部における手続言語、すなわち特許の言語につ
いて触れました。
しかし地方部や地域部においては、訴訟
の言語は異なるかもしれませんし、対象となる部によって
変わるかもしれません。加盟国は自身の部が使用する単一
もしくは複数の言語を指定することができます。当然のこと
ながら、
この件についての見解をこれまで示してきたほと
んどの地方部及び地域部が、
自身の単一もしくは複数の現
地語が指定されることになると表明してきました。
しかしな
がら、多く
(大部分)は現地語に加え英語も使用する予定で
あると述べており、実際にスウェーデン/バルト海地域部は
英語のみを使用することになると述べています。
地方部と地域部が選択を提供する場合の手続言語は、手
続規則の最終版の内容次第になります。18番目のドラフト
は、裁判所がいくつかの言語を組み合わせて運営すること
を認める一方で、特許権者に言語の選択を提供する
「英語
制限」
アプローチとして知られる取決めを採用しました*6。
現地語も使用できることが分かっているので、
これは特に
ドイツとフランスの地方部が英語をオプションとして提供
することを促すことになります。
*6
規則第14条を参照。
5
司法スタッフ
合議体の構成の規則は以下のようになっています。
中央部は2名の異なる国籍の法律裁判官と1名の技
術裁判官(国籍不問)から成ります。従って、例えばロ
ンドンに所在する中央部の裁判所では、英国出身の
裁判官を含める必要は必ずしもないことに注意が必
要です。
とはいえ英語で実施される裁判においては、
実用的な理由のためにこういったことが大いに起こ
り得るように思われます。
地域部は2名の現地の法律裁判官と1名の他国籍の
法律裁判官から成ります。加えて、有効性が問題とな
る訴訟においては、国籍を問わない4番目の技術裁
判官が加わることがあります。
既存の相当数の特許訴訟を取り扱ってきた国の地
方部は、地域部と同じ手配がなされます。そうでない
場合は、1名の現地の法律裁判官と2名の他の国(々)
の法律裁判官、更に国籍を問わない4番目の技術裁
判官の可能性から構成されます。特許訴訟の件数に
ついては、過去3年のいずれにおいても年間50件が
基準として示されています。但し
「訴訟」の定義は定
めれられていません。例えば、英国では1件として扱
われる訴訟がドイツでは複数の訴訟として扱われる
こともあるかもしれません。長期的な平均値として、
英国での1件の訴訟はドイツでの2.5件の訴訟に相
当すると計算されています。従って、
この目的のため
にどのような基準によって訴訟が勘定されるかはま
だ不透明ですし、
「訴訟」の件数というのが、特許の
件数、被告、及び権利侵害と有効性が両方とも問題
になっているかどうかということに関わらず、単純な
訴訟の数を意味するのであれば、オランダのように
特許訴訟の経験が豊富な一方で如何なる基準にお
いても50件の要件を満たさない国々にとっては、
こ
の問題は重要である可能性があります。
これらの数え方の要件が、地方部にとって別の意味で重
要になることにも注意すべきです。
というのも、訴訟が一度
100件を超えると次の100件ごとに新たな部の設置が認
められるので、例えば300件以上の訴訟を抱える国にとっ
ては最大4部まで設置できるという様に、
ある国が設置で
きる地方部の数もこれらの要件によって決定されるからで
す。
どのような基準によっても、恐らくドイツは4つの部を設
置する資格がありますが、英国は英国式の数え方だと1つ
の地方部しか設置できないことになり、
ドイツ式の数え方
をすれば3つ或いは4つ設置できます。
しかしながら、地方
部における合議体の追加に関する制限はありませんし、関
連する国内のどこに部を設置しても構わないため、
このこ
とが関係してくるかどうかについては引続き推移を見守る
必要があります。
6
裁判管轄権
UPCは全ての単一特許と既存及び将来の欧州特許につい
ての裁判管轄権を有します。裁判管轄権は純粋に国内の
特許庁で付与された国内特許までには及びませんし、他の
知的財産係争にも及びません。特許の所有権に係る訴訟も
しくはライセンシングに関する係争は、単一特許について
のものであってもUPCに提起することはできません。但し、
そのような問題は、特許の権利侵害又は有効性に関わる
訴訟の一部として決定される可能性があります*7。
単一特許の権利侵害及び有効性に関する裁判管轄権は
単純明快です。一旦特許が単一的効力と共に付与される
と、特許権所有者には取消不能な形でUPCにおいて権利
行使をすることになります。同様に取消や非侵害確認の訴
訟はUPCにのみ提起することが可能です。但し、EPOの異
議申立プロセスには何の効果も及ぼしませんので、相手方
が申し立てることは引続き可能です。
7年間(契約国が更に合意することによって14年まで延長
される可能性あり)
の移行期間終了後に出願される従来型
(
「古典的」
とも呼ばれる)の欧州特許についての裁判管轄
権もまた単純明快で、特許権者には同じく取消不能な形で
UPCにおいて権利行使することになります。同様に取消や
非侵害確認の訴訟はUPCにのみ提起することが可能です。
この適用除外は移行期間中*8にUPCに登録される必要が
ありますが、提案されている
「サンライズ」期間中に、恐らく
UPCの暫定機関*9(この目的においては、英国IPO)にて登
録しても構いません。欧州特許がそのように適用除外を受
けた場合は、権利侵害訴訟であろうと取消訴訟であろうと
非侵害確認訴訟であろうと、国内訴訟のみが可能となりま
す。但し、その途中で国内訴訟が全くなければ、いつでも適
用除外を撤回することは可能です。適用除外とその撤回は
それぞれ一度だけ認められます。全ての所有権者*10が適
用除外プロセスに同意する必要があり、
ライセンシー(独
占的であっても)は適用除外を登録することはできません。
それゆえ、高く評価されているように、欧州特許が適用除
外を受けた場合、UPCの裁判管轄権は除外されるので状
況は明快です。
この解釈においてはまた、特許権者は引続
き既存の特許出願戦略を用い、単一の保護を求めるより
は国内で有効にさせて、適用除外を受け、既存の国内制度
の特許の有効期間中の利用を確保するということが可能
であるということが明らかになっています。
全ての国々で保護を
受けるか全く受けな
いかということです。
但し、既に存在している欧州特許や移行期間中に出願され
る欧州特許については、下記で説明する通り状況は複雑
で、
ある程度不透明になっています。
移行期間
まず、多くの批評家たちが移行に関する条項の「明快な」意
味についての意見を表明していることを強調する必要があ
ります。私たちはそのような明快さの主張について、失礼な
がら反対せざるを得ません。UPC協定が署名されて以降、
以下に述べるような移行期間の意味や実務についての従
来的な意見が次々と出されてきました。
しかしながら、結局
は裁判所(UPCだけでなく国内裁判所やおそらくCJEUも
含めて)のみが意味についての決定を下すことができるの
で、他の意味が正しいということは証明されないだろうと言
うことはできないのです。更に、発生した従来的な意見は、
以下で説明するある特定の質問に答えていません。繰り返
しますが、明快さが取得される前に裁判所の決定が必要
なのです。
移行に関する条項についてはUPCA第83条に含まれてい
ます。主な条項は第83条1項と3項です。
これらの条項につ
いての従来的な意見は、第83条3項が、特許権者が欧州(
単一ではない)特許と特許出願をこれらの特許(及びそれ
らから生じる全てのSPC)の有効期間にわたってUPCから
抜け出す可能性(適用除外)
を提供するというものです。
*7
まだ明白ではではないものの、可能性のある見解。
© Bristows LLP 2015年10月
第83条1項の従来的な意見は、適用除外を受けず文字通
りUPC制度内に置かれる欧州特許(繰り返しますが単一特
許ではありません)は、それにもかかわらず国内訴訟に従
うというものです。
これには少なくとも権利侵害訴訟と取消
訴訟が含まれます。第83条1項には明確に述べられていな
いため、従来的な意見によると非侵害確認訴訟については
不透明です。但し、
これは起稿上の明らかな誤りでそのよう
な確認訴訟は国内で提起され得ると示唆しているという意
見もあります。主に差止命令といった暫定的救済措置の申
請についても同様の疑問があります。恐らくそのような全て
の訴訟はまず国内で提起することが可能でしょう。
従来的な意見に関連するより深刻な問題は、適用除外を
受けなかった場合、同様の欧州特許について
(もしあれば)
どの程度国内訴訟とUPC訴訟の両方が可能かというもの
です。第一の疑問は、UPCもしくは国内裁判所のどちらかで
の訴訟は、残りの一方での訴訟の可能性を除外するのか?
というものです。
もしそうであれば、一つないし複数の国内
裁判所において取消(そして場合によっては非侵害確認訴
厳密には、適用除外は7年間の期間終了の1か月前までに登録される必要
がある。
また、7年の期間は契約国の合意によって、更にもう7年間延長され
る可能性がある。
*9
2015年10月1日付で署名された議定書による。
*10
「所有権者」は現状、手続規則のR.8.4にEPO登録上の人(々)
として定義さ
れているが、
この規則は変更になる可能性がある。
*8
欧州の新単一特許及び統一特許裁判所制度のご案内
訟)
を求めることで、UPCにおける汎欧州での権利行使を
妨げるために潜在的な被告による
「UPC魚雷(torpedo)」が
発射されることになります。
更に、国内訴訟もしくはUPC訴訟が特許権者を一つの制
度に
「閉じ込め」
た場合、何が訴訟を構成するのか?という
ことに関する更に多くの細かい質問が沸き上がってきま
す。取消、非侵害確認訴訟、或いは権利侵害の「本案訴訟」
に限定されるのか、それとも訴訟前開示(差押)又は差止
(UPCまたは国内のどちらでも)
といった暫定的救済のた
めの訴訟前申請が訴訟を構成するのでしょうか?潜在的
な被告の側においては、繰り返しますがUPCに提出されよ
うが国内で提出されようが、保護を求める書簡の提出だけ
で、特許権者をその制度に
「閉じ込め」
てしまうことができ
るのでしょうか?英国に関する限りでは、有効な特許につ
いての権利侵害の行為があるので、通常の抗弁では脅威
が正当化されるということを念頭に、UPC制度には類似の
ものがない特許の権利侵害の不当な脅威についての訴訟
は、訴訟を構成するのでしょうか?そのような訴訟において
は、特許権者はUPCで権利侵害訴訟を起こすと、英国訴訟
において有効な特許についての権利侵害を主張すること
ができなくなるのでしょうか?
これら全ての問題に関して、制度が開始される前に準備委
員会が明快な解釈を出してくれることが望まれています。
明確にすることに関する最近の進展としては、準備員会の
ウェブサイトに一連のQ&A集が追加されたことです。
これ
らは2015年6月に追加され移行期間の取決めについて詳
細に述べています。歓迎すべきことである一方、
これらの
Q&A集の法的位置付けはQ&A集の範囲同様、非常に限ら
れています。
7
部の方がドイツの部よりも開示を命令する可能性が高いと
考えられることです。
一旦特許が単一的効力
と共に付与されると、特
許権者には取消不能な
形でUPCにおいて権利
行使をすることになり
ます。
同様に、係争を迅速に解決させるためだけでなく、中央部
で権利侵害を反訴すべきか、それとも他の部で権利侵害
訴訟を起こすべきかという難問を特許権者に突き付ける
ために、訴訟当事者(潜在的な権利侵害訴訟における被告
が考えられる)が中央部*11において先制措置を取ろうとす
る可能性もあります。
まとめ
2017年1月スタートの可能性があるUPCはあっと言う間に
始まることになります。特許権者や弁護士は一様に制度の
詳細が明らかになること及び残る疑問に対する回答を待
ちわびていますが、全ての当事者が今準備に取り掛からな
ければならないというのが現実です。
潜在的な利用者にとって、考慮すべき質問が数多くありま
す。
統一特許裁判所の機構の実務的結論
・単一特許を申請すべきか、適用除外を受けるべきか?
先に述べた通り、本制度の意図は、被告側が現地で司法へ
のアクセスができるように、権利侵害が現地の部(地方部も
しくは地域部)
で判断されるべきだというものです。
・2007年に遡って単一特許が付与されるとなると、現状の
特許ポートフォリオへの影響はどうなるのか?
現実は異なったものになりそうですが、それは多くの国々
で地方部や地域部が設置されないという理由だけではあ
りません。多くの場合、権利侵害は広く分散しています。
そ
れゆえ特許権者は、通常、被告の集団の中から被告を選択
する、
または権利侵害が発生する場所を選択することにな
るのです。従って、特許権者は被告にとっての地理的便利さ
(或いは不便さ)
を考慮するだけでなく、訴訟で用いようと
する言語又は訴訟において有利になるような手続き命令
に対する
(実際の又は認識上の)好みといった、何らかの要
因が潜在的に訴訟において有利となるのかどうかも考慮し
ます。明らかな一例として、方法特許の訴訟において開示
が容易に命ぜられる可能性のあること、そして
(例えば)合
議体の構成やそれぞれの法的慣習を考慮すると、英国の
・関連費用は何か、
また予算にどう影響するのか?
・ライセンス及び提携契約にどう影響するのか?
・全般的な特許戦略をどうするのか?事業戦略は?
利用者の皆様は興味深い時代を目前にしています。進行
状況の展開に伴って、皆様のお役に立てることを楽しみに
しております。
*11
訴訟当事者は地方部や地域部に先制措置を求めることはできず、中央部
においてのみ可能。
8
Bristowsの顧客サービス
BristowsはUPC開始に先立って顧客が今すべき
準備に関する助言を行うのに理想的な位置付け
にあります。
これには以下のものが含まれます。
•
適用除外等のあらゆるUPCの問題を考慮し
た、既存のライセンス
(ライセンスするものと
されるもの)や合弁契約の見直し。
•
UPCの問題を考慮したライセンス及び合弁
条項の標準フォームのアップデート。
•
所有もしくは許諾されている特許のどれか
についてUPCの適用除外を受けるべきかど
うかの検討。
•
UPCが近づく中での、潜在的な訴訟戦略(攻
撃的及び防衛的)の検討。
欧州の全ての弁護士が、全ての国々の全ての部
を含めて、UPCにおける訴訟を代表する権利を有
することになります。Bristowsは、
ロンドン地方部
であろうと他の如何なる部であろうと、顧客が訴
訟を起こす際の最善の選択肢についての助言を
顧客に行うことを約束します。
当事務所のUPCへのコミットメントの一環として、
当事務所ではリアルタイムで草稿段階の規則の
下での一連の模擬訴訟を行っています。
詳細については、当事務所の専用サイト
bristowsupc.comをご覧ください。
この文書に含まれる情報は、一般的な案内のみを目的とし
ています。本パンフレットに取り上げられた如何なる事項
に関する詳細な情報を希望される場合は、
アラン・ジョン
ソン([email protected])、
もしくは貴殿が通常
やり取りしているBristowsの弁護士宛てに、Eメールをお
送りください。又は、+ 44 (0) 20 7400 8000までお電話く
ださい。
© Bristows LLP 2015年10月
欧州の新単一特許及び統一特許裁判所制度のご案内
9
当事務所の統一特許裁判所の専門家
01
アラン・ジョンソン
パートナー
01
02
03
アランは30年以上に渡り知的財産権についての助言を行ってきま
した。彼の経験は全ての業界及び知的財産権に及びます。特に特
許分野において非常に経験豊富な訴訟弁護士です。
アランは10年
以上に渡って、今日では単一特許やUPCとして知られている創設の
提案をフォローしてきました。
ブリュッセルに拠点を置く在EU米国
商工会議所の知的財産委員長(2001年から2005年まで)
として、
米国産業界を代表して委員会の共同体特許に関する初の提案に
関するロビー活動に密接に関わってきました。AIPPIの単一特許及
びUPC委員会の委員長でもあります。
02
エドワード・ノッダー
パートナー
エドワードは35年以上に渡り、特に英国特許訴訟といった知的財
産分野を専門としてきました。著名な判決数件を含む、約100件の
特許訴訟案件を担当してきました。英国外では、エドワードは製薬
関連訴訟の国際的調整と単一特許及びUPCの発展を専門としてい
ます。エドワードはほぼ全てのテクノロジー分野に精通しており、現
在は生命科学分野に最も力を注いでいます。
03
フィオナ・ニコルソン パートナー
フィオナは、IT、
ソフトウェア、生命科学、エンジニアリング、消費者
製品、及び研究所といった数多くの業種に渡る幅広い分野の顧客
を担当してきた、長年の経験を持つ知的財産取引弁護士です。
フィ
オナは、提案されている新単一特許及び統一特許裁判所(UPC)に
強い関心を寄せおり、知的財産取引弁護士としてライセンスや提
携契約を含む、知的財産取引についての提案されている新しい制
度の実施に力を注いできました。
フィオナは、事業を営む顧客が確
実に新制度に対する準備ができるようにすることに強い意欲を示
しています。
100 Victoria Embankment London
EC4Y 0DH
電話+44(0)20 7400 8000
ファックス +44(0)20 7400 8050
bristows.com
bristowsupc.com
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