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ネクスト・フロンティアとして関心高まるミャンマー

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ネクスト・フロンティアとして関心高まるミャンマー
Economic Research(Singapore)
BTMU ASEAN TOPICS
(No.2011-17)
Aki Fukuchi 福地 亜希
[email protected]
Dec. 27, 2011
ネクスト・フロンティアとして関心高まるミャンマー情勢
~民主化・改革の推進が鍵~
日系企業の新たな投資先として、ミャンマーへの関心が高まっている。2011 年 3 月の
民政移管後、欧米諸国を含む各国政府高官の来訪が相次いでいるほか、経済制裁緩和・
解除を睨んだ企業・団体の投資視察の動きが活発化している。中国やベトナム、タイな
ど周辺アジア諸国の賃金上昇が懸念される中、人口約 6,000 万人という豊富で安価な労
働力は、「ポスト・ベトナム」として最有力候補の一つと考えられる。
本稿では、足元のミャンマー政治・経済の動向や投資環境を踏まえた上で、今後の展
望と課題などについて纏めてみたい。
1.22 年 6 カ月ぶりの民政復帰後、自由化を加速
ミャンマーでは、2010 年 11 月に実施された 20 年ぶりの総選挙を経て、今年 3 月にテ
イン・セイン大統領率いる新政権が発足、1988 年の国軍による政権掌握以来 22 年 6 カ
月振りに民政移管が実現した。
2010 年の総選挙については、最大の民主主義勢力でアウンサン・スー・チー女史が率
いる国民民主連盟(NLD)がボイコットしたこともあり1、国軍寄りの連邦団結発展党
(USDP)が圧勝、新内閣の大半が現役および退役軍人など国軍関係者によって構成され
るなど、民主化という点では多くの課題を残す結果となった。しかし、民政移管により、
これまで国軍に集中していた政治権力が大統領と国軍司令官とに分断され、権力構造が
大きく変化したことは事実である。テイン・セイン大統領は、旧軍政・国家平和発展評
議会(SPDC)のナンバー4 だが、クリーンなイメージが強く、改革派とみられ、国軍に
ついても、タン・シュエ元 SPDC 議長の引退をはじめ世代交代が進んだ。
さらに、連邦議会の質疑応答の内容が新聞やテレビで公開されるようになったほか、
外国メディアに対する報道規制の緩和や政治犯の部分釈放、民間金融機関に対する両替
業務の認可など、新政権が矢継ぎ早に自由化措置を打ち出していることなどから、民主
1
2008 年に軍政が制定した新憲法では、議会における国軍議席枠(連邦議会および 14 の地域・州議会のそれぞれ 4 分の 1 相当数が
国軍に割り当てられる)、国軍に有利な大統領および重要閣僚(国防相、内務相、国境相)の選出方法、憲法改正に対する実質的な
国軍の拒否権(憲法改正には連邦議会議員の 4 分の 3 を超える賛成が必要)など、国軍の国政への関与を制度化する条項が数多く盛
り込まれていることなどから、国民民主連盟(NLD)は非民主的として改正を求め、選挙をボイコットした。
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Economic Research (Singapore)
化および経済自由化に向けた方向性については、概ね前向きに評価する見方が多い。
こうした中、外交関係にも変化の兆しが見られる。欧米諸国は、1988 年以来、軍政の
独裁および民主化弾圧などを理由に経済制裁を実施、2003 年 5 月のスー・チー女史拘束
や 2007 年 8 月のデモ参加者に対するミャンマー当局の実力行使などを受け、経済制裁措
置の強化を行った。先進諸国との関係が薄れるのとは対照的に、石油・ガス、電力など
資源関連の大型投資をきっかけに、タイや中国、インドなど近隣アジア諸国との経済関
係が強まり、特に近年は、中国との関係緊密化が目立っていた。
しかし、2011 年 3 月の新政権発足を受け、欧米諸国をはじめ主要国政府要人のミャン
マー訪問が相次ぐ一方、9 月にテイン・セイン大統領は、中国と国内企業との合弁で推
進していたミッソン水力発電ダムの建設凍結を表明するなど、これまでの中国一辺倒か
らの修正の動きが見られる。また、2013 年には東南アジア諸国連合(ASEAN)の競技大
会「SEA ゲーム」の開催、2014 年には ASEAN 議長国就任が予定されており、国際社会
への復帰を目指している。
第 1 表:政治年表
時期
主な出来事
1998年 9月 民主化要求デモにより26年間続いた社会主義政権が崩壊。しかし、国軍がデモを鎮圧し政権を掌握
(国家法秩序回復評議会(SLORC)→97年に国家平和開発評議会(SPDC)に改組)。
1990年 5月 第1回総選挙実施。アウン・サン・スー・チー女史率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝。政府は堅固な
憲法の制定を民政移管の前提とし政権移譲を行わず。
1993年 1月 憲法制定のための国民会議開催。
2007年 9月 全国的な僧侶のデモが発生。治安当局が制圧。
2008年 5月 国民投票で新憲法承認(賛成票92.4%、投票率99%)。
2010年11月 第2回総選挙実施。
2011年 1月 国会召集。
2月 国会で正副大統領を選出。
3月 テインセイン大統領率いる新政府発足、国家平和開発評議会(SPDC)が政権委譲。
(資料)外務省資料などより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
2.経済概況~ASEAN 最貧国ながらも、足元は資源輸出の拡大が成長の支え
(1)経済の特徴~人口、資源大国
ミャンマー経済は人口が約 6,000 万人と、タイやベトナムに次ぐ人口大国であるほか、
石油や天然ガス、ひすいなどの鉱物のほか水源や森林資源も豊富であることなどから、
「ポスト・ベトナム」として比較されるラオス、カンボジアなど他のアジア新興国の中
でも高い潜在成長性が見込まれている。
しかし、1962 年から 26 年間続いた閉鎖的な社会主義体制2や民主化の遅れによる欧米
諸国の経済制裁、国際支援や民間投資の低迷などを背景に発展が遅れ、2010 年時点(IMF
推計)の名目 GDP は 454 億ドルとベトナム(1,036 億ドル)の半分以下、1 人当たり GDP
も 742 ドルと ASEAN 諸国の中で最貧国の水準にとどまっている(第 2 表、第 1 図)。
2
「ビルマ式社会主義」と称される社会主義体制下では、農業を除く主要産業の国有化や外国資本の排斥など、統制的かつ閉鎖的
な経済運営が行われ、外貨が枯渇、生活物資が不足するなど、経済的困難が増大した。
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Economic Research (Singapore)
第 2 表:アジア主要国の経済規模
第 1 図:1 人当たり GDP の推移
名目GDP 1人当たり
人口
(100万人) (10億ドル) GDP(ドル)
(ドル)
1,400
1,200
0.4
12.4
29,675
ブルネイ
237.6
706.8
2,974
インドネシア
28.3
238.0
8,423
マレーシア
94.0
199.6
2,123
フィリピン
5.2
222.7
43,117
シンガポール
63.9
318.9
4,992
タイ
88.3
103.6
1,174
ベトナム
61.2
45.4
742
ミャンマー
14.3
11.6
814
カンボジア
6.4
6.5
1,004
ラオス
1,341.4
5,878.3
4,382
中国
1,190.5
1,632.0
1,371
インド
(注)2010年時点。
(資料)IMFより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
1,000
ベトナム
ラオス
800
カンボジア
600
ミャンマー
400
200
2010
2008
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
0
(年)
(注)ミャンマーは2007 年以降、ベトナムは2008年以降、カンボジアは2009年以降、
ラオスは2010年以降予測。
(資料)IMFデータより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(2)景気動向~資源輸出、大型投資を追い風に高めの成長
ミャンマーでは、閉鎖的な社会主義体制の下、1962 年から 88 年までの実質 GDP 成長
率は前年比平均 3.1%と低迷したが、1988 年の市場経済転換後は、規制緩和に伴う海外
からの投資拡大などを支えに、90 年代は概ね 5%超の堅調な成長が続いた。2000 年代に
は農作物や資源・エネルギー生産・輸出の拡大などを追い風に、前年比 10%超と中国を
凌ぐ高成長を見せた。もっとも、IMF など国際機関の推計によると、2008 年度(2008
年 4 月~2009 年 3 月)については、グローバル金融危機と大型サイクロン被害などによ
り同 3.6%程度に急減速したとされるなど、政府統計との間に大幅な乖離が生じている。
その後は、資源開発や輸出の拡大に加え、新首都ネーピードー開発や同市とマンダレー
間を結ぶ高速道路建設など公共投資の活発化などを背景に持ち直しに転じたとみられる
(第 2 図)。
第 2 図:実質 GDP 成長率の推移
(前年比、%)
16
14
政府公式統計
12
IMF推計
10
8
6
4
2
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
-
(年度)
(資料)中央統計局、IMFより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
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Economic Research (Singapore)
(3)物価~足元、インフレは概ね沈静化
物価は、2005 年以降 2007 年にかけて上昇ペースが加速した(第 3 図)。インフレの
要因としては、燃料配給価格の大幅引き上げ(2005 年 11 月)や公務員給与の引き上げ
(2006 年 4 月)、電力料金の引き上げ(同 10 月)、燃料配給価格の再引き上げ(2007
年 8 月)などが挙げられる。2007 年度の消費者物価上昇率は前年比 32.9%に達し、デモ
を誘発するなど、国内経済に混乱をもたらした。2008 年度後半以降は、グローバル金融
危機後の世界的な資源価格の下落などを背景にインフレ率は低下、足元は、一次産品価
格の下落などを背景に総じて低水準を維持している(6 月:同 3.3%)。
第 3 図:消費者物価上昇率
(前年比、%)
35
(前年比、%)
12
30
10
25
8
6
20
4
15
2
10
-
5
-2
CPI
-4
食品
燃料・光熱費
(資料)IMFデータより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
0
(年)
-6
09
10
11
(年)
(資料)CEIC より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(4)為替相場~為替レート一本化に向けた動きが始動
ミャンマーでは多重為替相場制が採られており、中央銀行が定める「公定レート」や
一般に取引される「実勢レート」や「外貨兌換券(Foreign Exchange Certificate: FEC)レ
ート」3のほかに、主に輸入品価格の査定や輸入関税・商業税の算定で使用される「公認
市場レート」が存在する。ミャンマー通貨チャットの公定レートは、IMF の特別引出権
(Special Drawing Rights: SDR)に対して固定(1SDR=8.50847 チャット)されており、概
ね 1 ドル=5~6 チャットで推移する一方、実勢レートは、足元 1 ドル=793 チャット(2011
年 12 月 22 日時点)と 140 倍以上の乖離が生じている。
2000 年代前半は、政府が国有企業の赤字補填やインフラ整備の目的などで通貨供給量
を増やす一方、厳しい貿易管理などを背景に外貨流通量が細り、2007 年半ばにかけて
1300 チャット台まで下落基調を辿ったが、2008 年後半以降、グローバル金融危機後の米
ドル安や政府の資産売却による市中からのチャット吸い上げなどが上昇圧力となり、
2011 年 6 月には 700 チャット台まで上昇した(第 4 図)。輸出企業のチャット高懸念に
3
政府は 1993 年から国内でのみ通用する外貨兌換券(Foreign Exchange Certificate: FEC)を導入、ミャンマー人は米ドル現金の保有
が原則禁止され、持ち込まれた外貨を国内で使用するには、FEC に交換する必要がある。
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Economic Research (Singapore)
配慮し、政府は半年間の時限措置として、輸出税に対する減免措置を打ち出した4。
なお、新政権は、海外からの投資や貿易の円滑化に向け、2011 年 8 月半ばに 36 年ぶ
りに IMF の協力を得ながら為替制度を見直す方針を表明、9 月末には国内の民間銀行 6
行に対し実勢レートでの外貨両替を認可、10 月 1 日から政府公認の外貨両替所が業務を
開始した5。実際には、公定レートでの取引は公的部門に限られ、大半の取引が実勢レー
トで行われており、為替レート一本化に伴う経済へのインパクトは限定的とされるもの
の、これまで公定レートと実勢レートの差額分の利益を得ていたとみられる公的部門(国
営企業、国軍関連組織など)への経済・政治的影響をいかに調整するかがポイントとな
ろう。
第 4 図:為替相場の推移
(MMK/USD)
10
(MMK/USD)
9
1600
1400
8
1200
7
6
1000
5
800
4
3
600
2
公定レート
1
実勢レート(右目盛)
400
200
0
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
(年)
(資料)CEIC より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(5)貿易収支~タイ向けの天然ガス輸出を中心に黒字基調
貿易収支は、輸出で得た外貨の範囲内でのみ輸入を認める「輸出第一主義(Export First
Policy)」に加え、2000 年頃からタイ向けに天然ガス輸出を開始したこともあり、2002
年以降、黒字基調で推移、経常黒字も拡大基調にある(第 5 図、第 6 図)。一方、資本
収支は、欧米諸国による経済制裁や資本取引に関わる規制などの制約がある中、対内直
接投資や中国などからの国際援助などを中心に黒字基調を維持している。
主要輸出品目は、全体の約 3 割を占める天然ガスのほか、豆類、ゴマ、コメ、木材な
どの一次産品が中心である。2000 年時点では全体の 3 割を占めていた縫製品については、
欧米市場での不買運動に加え 2003 年の米国の対ミャンマー禁輸措置発動、2008 年の EU
の経済制裁強化などを受け伸び悩み、2010 年度のシェアは 4%程度まで低下した。
仕向地別では、天然ガスのほぼ全量の輸出先であるタイが全体の 3 割強を占める最大
4
2011 年 7 月には輸出税が従来の 10%から 7%に引き下げられたほか、8 月には、半年間の時限措置として、コメ、豆類など主要産
品 7 品目に対する輸出税が 2%に引き下げられた。
5
取り扱い通貨はドル、FEC、ユーロ、シンガポール・ドルの 4 種類。
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の輸出相手国であるほか、香港、中国、インドなどアジア周辺国が中心となっている。
一方、輸入は、精油や一般・輸送機械などが合わせて全体の約 4 割を占める。精油に
ついては主にシンガポール、ネーピードー開発をはじめとする大型の公共工事のほか、
パイプライン敷設工事などに向けた資本財や建設資材などについては中国やタイなどか
ら輸入している。
第 5 図:輸出の推移
第 6 図:経常収支
(10億チャット)
(10億ドル)
4
60
50
40
30
経常移転収支
3
その他
縫製品
ガス
木材
農産物
輸出
サービス・所得収支
2
貿易収支
経常収支
1
20
-1
10
-2
08
09
(資料)中央統計局資料より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
10
(年度)
(資料)ADBデータより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
2009
07
2007
06
2005
05
2003
04
2001
03
1999
02
1997
01
1995
00
1993
-3
95
(年)
3.対内直接投資~資源開発を中心に急拡大、ただし脆弱なインフラが課題
(1)概況~資源関連を中心に急拡大
ミャンマーの対内直接投資(FDI)は、足元、資源関連を中心に急拡大している。2010
年の FDI 流入額は、タイや韓国などからの天然ガス開発案件のほか、中国の水力発電な
どの大型案件が相次ぎ、7.6 億ドルの過去最高を記録した(第 7 図)。
FDI 累計額(2009 年 3 月末時点)でみると、最大の投資国であるタイ(74 億ドル)に
対し、日本(2 億ドル)は 10 位と低水準にとどまっている(第 8 図)。脆弱なインフラ
に加え、1997-98 年のアジア通貨危機後、貿易や外貨送金に関わる規制の強化や欧米諸国
の制裁などが背景となっているが、2010 年は 6 年ぶりに縫製業の拡張投資が行われた。
製造業の場合、原材料の輸入免税などが受けられる委託加工(Cutting, Making and
Packing: CMP)の形態をとるケースが多い。特に縫製業では、近年の中国などでの人件
費高騰やワーカー不足などを背景に、生産あるいは受注のシフトが増えており、日本や
韓国企業などの間で委託先の獲得競争が激化している。日本企業によるミャンマーへの
縫製品の委託加工を背景に、日本のミャンマーからの縫製品の輸入は、増加傾向を辿っ
ており、2010 年のミャンマーからの衣類輸入額は、男性用スーツやシャツ、作業服など
布帛製衣類を中心に 159 億円と、中国の 100 分の 1 以下の規模ではあるものの、インド
ネシアに次ぐ第 9 位に位置するまでになっている。
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Economic Research (Singapore)
第 7 図:対内直接投資(FDI)の推移
第 8 図:国別 FDI 累計額(2009 年 3 月末時点)
(100 万ドル)
1000
タイ
英国
900
800
ミヤンマー
シンガポール
カンボジア
700
中国
ラオス
600
500
400
マレーシア
香港
米国
300
インドネシア
200
100
韓国
日本
0
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
0
10
(年)
電力
40%
鉱業
9%
製造業
10%
石油・ガス
21%
(資料)中央統計局資料より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
8,000
第 3 表:日本の衣類輸入上位 10 カ国
順
位
不動産
7%
6,000
(資料)中央統計局資料より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
第 9 図:対内 FDI 産業別内訳
(2009 年 3 月末時点、累計ベース)
その他
6%
4,000
(100万ドル)
(資料)UNCTADより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
ホテル・観光
7%
2,000
2007年
2008年
2009年
2010年
金額
シェア
(億円) (%)
18,743 83.3
1
中国
中国
中国
中国
1,043
4.6
2 イタリア
イタリア
ベトナム
ベトナム
582
2.6
3 ベトナム ベトナム
イタリア
イタリア
247
1.1
4
韓国
タイ
タイ
タイ
201
0.9
5
タイ
韓国
韓国
韓国
179
0.8
6
米国
インド
インド
インド
173
0.8
7 フランス
米国
インドネシア バングラデシュ
170
0.8
8
インド
フランス
米国
インドネシア
159
0.7
9 インドネシア インドネシア ミャンマー ミャンマー
135
0.6
10 ミャンマー ミャンマー バングラデシュ
米国
(資料)日本繊維輸入組合資料より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(2)投資環境~労働力に優位性だが、脆弱なインフラが課題
ミャンマーにおける投資の最大の魅力は、豊富で安価な労働コストである。ミャンマ
ーの最低賃金(月額)は 70 ドルと6、ベトナム(120~140 ドル)やカンボジア(90~100
ドル)に比べても圧倒的な優位性がある(第 10 図)。
また、年齢別の人口構成を見ると、24 歳以下が人口の 44%と若く、労働力人口(15
~64 歳)は 2030 年にかけて増加が見込まれている。さらに、識字率は 92%(2009 年時
点)と、インドネシアやマレーシアなど主要 ASEAN 諸国に引けをとらない高水準にあ
り(第 11 図)、英国の旧植民地という経緯もあり高い英語力など、コミュニケーション
の容易さという点では、カンボジアやラオスなど他の新興諸国を上回るとされる。
一方、電気、道路、通信などの基礎的インフラのほか、法制度の未整備、多重為替レ
ートや貿易および資本取引上の規制など、投資環境上の課題は多い。
6
足元、一部では 80~100 ドルまで上昇しているとの指摘もある。
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Page 7
Economic Research (Singapore)
特に深刻なのが電力不足である。電化率(総人口のうち電気を利用可能な割合)が 13%
(2009 年時点)と極めて低水準にあり、発電設備容量は、水力発電を中心に近年拡大傾
向を辿っているものの、2008 年時点で 184 万キロワットとベトナムの 1 割強程度にとど
まっている(第 4 表)。また、配電ロス率が 3 割前後と高水準にあるため、ネットの電
力は不足しており、頻発する停電や不安定な電圧に備え、自家発電設備が不可欠である。
加えて、通信関連のインフラは、全般的に質が低い上に高額である。電話架設料が約
1,500 ドル、携帯電話加入料が 1,500 ドル7、インターネット接続(ブロードバンドの場合)
初期費用が 1,500 ドル(ADSL 設置費 1,400 ドル+モデム 100 ドル)と多額の初期費用が
かかり、国際通話料金(日本向け 3 分)も 8.1 ドルと極めて高い。
第 10 図:最低賃金(2011 年)
第 11 図:識字率
クアラルンプール
ニューデリー
バンコク
大連
マニラ
上海
深セン
チェナイ
ジャカルタ
ホーチミン
ハノイ
プノンペン
ヤンゴン
フィリピン(08)
95.4
タイ(05)
93.5
ベトナム(09)
92.8
マレーシア(09)
92.5
インドネシア(08)
92.2
ミャンマー(09)
92.0
カンボジア(08)
77.6
72.7
ラオス(05)
インド(06)
0
100
200
300
400
(ドル/月)
62.8
0
(注)2011年1月時点、ホーチミン、ハノイは2011年10 月時点。
バンコク斜線部分は最低賃金が40%上昇した場合。
(資料)JETRO資料などより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
20
40
60
80
100
(%)
(注)国名横の括弧は計測年。
(資料)世銀データより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
第 4 表:アジア各国のインフラ比較
電化率
(%)
発電設備容量
(100万kW)
インターネット利用者
(100人当たり、人)
携帯電話契約者
(100人当たり、人)
道路密度
(km/1000㎢)
舗装率
(%)
2009年
2008年
2009年
2010年
インドネシア
64.5
27.80
8.7
91.7
229.8 (2008)
59.1 (2008)
マレーシア
99.4
22.97
55.9
121.3
299.4 (2004)
82.8 (2006)
フィリピン
89.7
15.68
9.0
85.7
666.8 (2003)
9.9 (2003)
タイ
99.3
40.67
20.1
100.8
350.9 (2006)
98.5 (2000)
ベトナム
97.6
13.85
26.8
177.1
483.3 (2007)
47.6 (2007)
ミャンマー
13.0
1.84
0.2
1.2
39.9 (2005)
11.9 (2005)
ラオス
55.0
0.72
6.0
64.6
147.8 (2008)
13.5 (2008)
カンボジア
24.0
0.39
0.5
57.7
211.3 (2004)
6.3 (2004)
中国
99.4
797.08
29.0
64.2
388.6 (2008)
53.5 (2008)
インド
66.3
177.38
5.4
64.2
1288.7 (2008)
49.3 (2008)
(資料)世界銀行、ADB、EIA資料より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
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ミャンマー郵便通信公社で契約手続きする場合。ただし、実際には在庫がなく、公社からの購入は困難であり、市場相場は 1619
ドル前後とされる。
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また、ミャンマーにおいて 20 カ所以上あるとされる民間企業向けに開発された工業団
地のうち、電力や給水に加え排水処理施設まで完備し、実際に外資系企業が進出可能な
工業団地は、ミンガラドン工業団地 1 カ所というのが現状である。当工業団地では、外
国人による土地の保有や売買が唯一認められている。もっとも、当工業団地は、2011 年
12 月時点で全 41 区画のうち約半分が既に入居済み(9 社)あるいは仮割当(11~12 社)
が決定しており、残る 20~21 区画も 2012 年には完売が見込まれている。
(3)外資系企業誘致に向けた環境整備に本腰
こうした中、ミャンマー政府は、外資導入に向けた環境整備に取り組む姿勢を示して
いる。法制面では、旧軍政が 2011 年 1 月に「ミャンマー経済特区(SEZ)法」を制定、
SEZ 内での投資家の資産保護(非国有化)や土地使用権、税制上の優遇措置などが規定
された。さらに、新政権は「外国投資法」(1988 年制定)の改訂作業を進めている。
もっとも、現時点では、SEZ 法が適用される SEZ が存在しない。今後の SEZ 候補地と
しては、6 月に SEZ に認定された南部のダウェー工業団地のほか、ヤンゴン近郊のティ
ラワ、西部シットウェー南の島チャオピューなど、いずれも深海港を中心とした開発地
域が有力視されている。
特に、ダウェー工業団地は、タイ建設大手のイタリアンタイ・デベロップメント(ITD)
が開発を手掛け、大規模な工業団地(約 2 万 7,000 ヘクタール)のほか、大型タンカー
が着岸可能な深海港や道路、鉄道などのインフラを整備する大型プロジェクトである
(2015 年完成予定)。ダウェーは、タイのバンコクから西へ約 370km、「南部経済回廊」
(バンコク~プノンペン~ホーチミン)の最西端に位置するため、ダウェー港からイン
ド、中東・アフリカ方面の輸出が可能となれば、メコン地域を陸路で結ぶ一大物流ルー
トとなり、輸送日数の大幅短縮が期待される。このため、ITD が今年開始した工業団地
の用地予約販売で、予定を上回るペースでの契約が進展するなど、企業の関心が高い。
ただし、ダウェー港は最大都市ヤンゴンから約 500km 離れていることなどから、利便
性という点での課題が指摘される。この点でヤンゴン近郊のティワラ港の利用価値も高
いとみられ、日系総合商社や不動産開発会社などが関心を示している。ミャンマー政府
も、他の深海港開発のバランスを踏まえ、同港の開発については、日本資本の参加を期
待しているとみられる。
他方、チャオピューでは、中国石油天然ガス集団(CNPC)が深海港(2012 年完成予
定)および中国・雲南省まで約 800km に及ぶパイプラインを敷設し、中東・アフリカか
らの原油やベンガル湾の天然ガスなどを輸送する計画である。このほか、西部シットウ
ェーでは、インド大手財閥タタ・グループ(8 割)とミャンマー政府(2 割)が合弁でイ
ンド北東部への輸送路の開発を進めている(2013 年完成予定)。
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4.今後の展望と課題~民主化・改革の推進が鍵
ミャンマー経済は、近年、天然ガスの開発・輸出など資源セクターの好調が目立つ一
方、GDP の約 4 割(就業人口ベースでは約 6 割)を農業が占め、1 人当たり GDP は 742
ドルと ASEAN の中でも最貧国にとどまっている。今後、豊富な労働力の活用に向け、
雇用吸収力の高い製造業の育成が求められる。2015 年には、ASEAN 域内の関税率を撤
廃し、国内産業が本格的な競争に晒されることは避けられず、製造業の競争力強化と輸
出品の高付加価値化が喫緊の課題である。他方、2015 年までにはダウェー深海港を含む
SEZ とカンボジアの「ネアックルン橋」の完成により「南部経済回廊」を通じたメコン
地域の物流の大幅改善が見込まれる。ミャンマーにとって、ASEAN におけるサプライチ
ェーンの一角、かつインド洋の玄関口として、貿易や投資の拡大を通じて、これまでの
成長の遅れを取り戻し、一段の飛躍を目指すチャンスとも言える。
産業構造の多角化・高度化を目指す上で前提となる外資の本格導入や国際支援の拡大
にとって、民主化・改革路線の維持・推進による対外信任獲得、欧米諸国による経済制
裁の解除が鍵を握る。欧米諸国は、ミャンマーが過去に民主化の「揺り戻し」を経験し
た経緯を踏まえ、今後の民主化の進展を慎重に見極めたうえで判断する姿勢を崩してい
ない。12 月はじめに米国国務長官として 1955 年以来 57 年ぶりにミャンマーを訪問した
クリントン米国務長官は、新政権のこれまでの改革に向けた取り組みを評価し、現在は
臨時代理大使レベルの交換にとどまっている両国関係を大使レベルへの復帰を検討する
方針や、IMF および世銀による経済実勢調査団の派遣を支持する姿勢を示したものの、
焦点となる経済制裁解除の可能性については、残る政治犯の無条件釈放や北朝鮮への核
開発協力の停止などを条件に挙げ、「真に改革が進めば制裁解除を検討するが、まだそ
の段階にはない」と述べた。
2012 年初めに実施予定の上下両院補欠選挙(約 50 議席)には、スー・チー女史を含
め NLD メンバーが立候補の意向を表明している。スー・チー女史をはじめとする民主派
勢力の国政参加が実現すれば、内外の信任獲得にプラスとなることが期待される。一方、
NLD が、2015 年の次期総選挙で過半数を獲得し、旧軍政が制定した 2008 年憲法の改正
を目指す方針を打ち出していることや、経済制裁解除の条件の一つとされる政治犯の釈
放については、2015 年の次期総選挙で現政権の支持基盤である USDP の脅威となる可能
性があり、現政権の内部でも旧軍政下での既得権益を守ろうとする守旧派の根強い抵抗
があるとみられる。今後、テイン・セイン大統領を中心とする改革派が、どこまで踏み
込んだ民主化および改革を実現できるか、政治的手腕が試されると言えよう。
以
上
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