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交通ノイズを利用した地震波干渉法による S 波探査 その2
交通ノイズを利用した地震波干渉法による S 波探査 -Deconvolution Interferometry の適用- その2 木村俊則*,相澤隆生,伊東俊一郎(サンコーコンサルタント) S-wave survey by seismic interferometry using traffic noise Part 2 -Application of Deconvolution InterferometryToshinori Kimura*, Takao Aizawa, Shunichiro Ito (Suncoh Consultants Co., Ltd.), Abstract: Seismic interferometry allows for synthesis of data recorded at any two receivers into waves that propagate between these receivers as if one of them behaves as a source. This is accomplished typically by crosscorrelation. However, Interferometry using crosscorrelation can not separate their impulse responses and source functions. Convolved source functions cause indistinct pseudo-shot gathers and stacked sections after processing. Interferometry using deconvolution has been offered to solve this problem. The source function is canceled by deconvolution. For examining the effectiveness of deconvolution interferometry, Continuous record including train noise using horizontal geophones were processed by crosscorrelation and deconvolution. We compared each pseudo shot gather and stacked section generated by the two methods. 1. はじめに 地震波干渉法(Seismic Interferometry)は同時に測定さ れた 2 つの受振点における受振記録から、一方を仮想 震源とした擬似反射波記録を得る手法である(例えば 従来の地震波干渉法では、まず、受振点 A と受振点 B における同時測定データの相互相関処理を行う(式(2))。 Wapenaar, and Fokkema, 2006)。これまで、擬似反射 波記録を得るための方法としては相互相関処理が一般 的に用いられてきた。しかしながら、相互相関処理で は受振記録にコンボリューションされている震源関数 の影響が除去できず、2 つの受振点間のインパルスレ スポンスを十分に再現できない可能性がある。 この問題を解決するために、近年デコンボリューシ ョンを用いた地震波干渉法処理が検討されており、フ ィールドデータへ適用した例も報告されている(Vasconcelos and Snieder, 2008a; Vasconcelos and Snieder, 20 08b)。デコンボリューション処理を用いることで震源 関数の影響は除去され、2 つの受振点間のインパルス レスポンスを精度よく再現することができる。本研究 では、デコンボリューション処理を水平動受振器で測 定した列車振動記録に適用し、相互相関処理を適用し た結果との比較からその有効性を検討する。 ここで*は複素共役を示す記号である。 式(2)右辺には 震源関数のパワースペクトルが掛け算された状態であ る。最終的にこれを全ての震源について積分すること で 2 点間のグリーン関数が得られる(式(3))。 2. Deconvolution Interferometry 震源 s による受振点 A の受振記録 u は周波数領域で は式(1)で表現できる。ここで、W は震源関数、G は 2 点間のグリーン関数である。 (1) (2) (3) 右辺は 2 点間のグリーン関数の causal 部と anticausal 部の和に震源関数のパワースペクトルの平均値が作用 している。震源関数が震源の場所によらず一定である と仮定すると、相互相関処理による地震波干渉法によ り得られる擬似反射波記録には、2 点間のインパルス レスポンスに震源関数の自己相関関数がコンボリュー ションされたものであるといえる。従来、この震源関 数の影響を除去するために、相互相関処理後の擬似反 射波記録にデコンボリューション処理を施すことが一 般的であった(例えば Wapenaar et al., 2004)。しかし、実 際の現場記録では震源関数が未知の場合がほとんどで、 相互相関処理後の擬似反射波記録へのデコンボリュー ション処理の適用は十分に満足する結果を得られない ことが多い。 そこで、震源関数の影響を除去するためにデコンボ リューション処理による地震波干渉法が提案された (Vasconcelos and Snieder, 2008a)(式(4))。 (4 ) 式(4)では震源関数 W は分子と分母でキャンセルさ れ存在しない。相互相関処理の場合と同様に全ての震 源について積分すると 2 点間のグリーン関数に対応す る擬似反射波記録が得られる。デコンボリューション の実際の計算には式(5)を用いることで計算の安定化を 図った。 本測線を取り囲むように、西側(終点側)と南側に JR 埼京線と東北・上越新幹線、東側(始点側)に JR 東北本 線が全て高架線路として存在している。測線付近は終 日途切れることなくいずれかの路線で列車が走行して いる非常にノイズの多い場所であり、図 2 に示す測定 記録例にも列車振動による波形記録がはっきりと確認 できる。また、図 3 には図 2 の波形記録について、列 車振動波形を多く含んでいると考えられる 119ch のス ペクトルを示す。図 3 より、列車振動は数 Hz∼120Hz 程度までの幅広い周波数成分を持つが、パワースペク トルは平坦ではなく、いくつかのピークを持っている ことが推測できる。しかし、図 3 のスペクトルには列 車振動以外のノイズも混入しており、実際の列車振動 の周波数成分を完全に再現しているものではない。 (5) 3. Deconvolution Interferometry の現場データへ の適用 デコンボリューション処理による地震波干渉法の有 効性を検討するために、本手法の現場記録への適用を 行った。 解析に用いたデータは木村ほか(2008)で使用し たものと同じものである。表 1 に測定パラメータ、図 1 に測線図を示す。S 波を対象とするため、測定は全て 10Hz 型水平動ジオフォンを用いて行い、DSS-12 によ る連続測定を実施した。 Table.1 Acquisition parameters Receiver Number of Interval channels 2m 120 Survey line length Sample interval Record length 238m 1ms 3 hours Fig.2 Example of continuous record including train noise . Fig.3 The power spectrum of train noise. Fig.1 Location map of the S-wave seismic interferometry survey line. This survey line is surrounded by JR lines (Saikyo Line , Tohoku Line and Shinkansen Lines) . 測定記録に対してそれぞれ相互相関処理、デコンボ リューション処理を施した。本解析では、測定時間 3 時間の記録の内、航空機の飛行音、自転車、歩行者に よる振動などの局所的なノイズが顕著であった記録は 除いてデータ処理を行った。図 4 に各処理の結果得ら れた擬似反射波記録例を示す。 Correlation Deconvolution SP40 SP40 SP80 SP80 図 4 に示した擬似反射波記録は 5Hz-40Hz のバンド パスフィルタを適用し、最大振幅で正規化を行ったも のである。相互相関処理、デコンボリューション処理 双方の擬似反射波記録には、擬似ショット位置付近に S 波初動に対応する波形が明瞭に確認できる。また、 0.6 秒付近に反射面が確認できる。相互相関処理による 擬似反射波記録上には震源関数の影響によると思われ る多重反射に似たコヒーレントノイズが確認できるが、 デコンボリューション処理による擬似反射波記録には それは存在せず、反射面もより鮮明となった。擬似反 射波記録に対して、通常の反射法地震探査のデータ処 理を施した重合断面を図 5 に示す。 Correlation SP110 SP110 SP120 SP120 Fig.4 Pseudo shot gathers by correlation (left) and deconvolution (right). Triangles show pseudo source positions. Deconvolution Fig.5 Stacked time sections using pseudo shot gathers by correlation (top) and deconvolution (bottom). 4. 考察 相互相関処理による結果とデコンボリューション処 理による結果との比較では明らかな違いがいくつも認 められた。擬似反射波記録上においては、相互相関処 理による結果で問題となっていた水平方向に連続した コヒーレントノイズかデコンボリューション処理によ りほとんど除去された。これにより、これまで見えて いなかった反射面が擬似反射波記録上でも鮮明に確認 できるようになった。特に、SP120 においては、相互 相関処理による擬似反射波記録ではノイズに埋もれて 全く確認ができなかった 0.8 秒、1.1 秒付近の反射波が デコンボリューション処理による擬似反射波記録では 鮮明に確認できるなど擬似反射波記録のデータ品質が 大きく向上した。 重合断面上においても、相互相関処理による重合断 面上では確認できていた0.5 秒以浅と1.5 秒付近のいく つかの水平な反射面がデコンボリューション処理によ る重合断面では出現しなくなった。地表起振の本来の 反射波記録の結果と比較することが必要ではあるが、 擬似反射波記録の比較からも、これらの反射面はいず れも偽像である可能性が高く、これは震源関数の影響 を除去できたことによる精度の向上であると考えられ る。 5. まとめと今後の課題 本研究では、デコンボリューション処理による地震 波干渉法の処理を列車振動の連続記録に適用し、相互 相関処理による結果と比較することでデコンボリュー ション処理の有効性を検討した。検討の結果、デコン ボリューション処理は非常に有効な手法であることが 確認できた。筆者らは多くの現場データに対して地震 波干渉法の適用実験を実施してきたが(相澤ほか,2008)、 地震波干渉法により得られた擬似反射波記録、重合断 面は解像度が低く、人工震源を用いた反射法地震探査 と比較してようやく反射面が確認できることがほとん どであった。擬似反射波記録上で鮮明な反射面を確認 することができた本研究の結果は、地震波干渉法の新 たな可能性を示すものであるといえる。 しかし、デコンボリューション処理による地震波干 渉法にもいくつか問題点は存在する。問題点として、 まず、デコンボリューションは割り算であることから 計算が不安定になりやすいことが挙げられる。これは 式(5)のように分母に安定化のための項を追加すること や、ホワイトノイズを与えることである程度解決する と考えられるが、計算の安定している相互相関処理と 比較すると無視できない問題となる。また、計算時間 が増大することも長時間のデータを解析する際には大 きな問題となると考えられる。 今後の課題としては、まず、デコンボリューション 処理の有効性を数値実験により確かめることは必ず実 施しなければならないと考える。また、実際の人工震 源による起振記録との比較も必要である。データ処理 の方法については、例えば列車振動が強く現れている 部分の記録を除去したデータで解析を行うなどの処理 や、実際の振動源の位置を考慮に入れた処理などを検 討する必要がある。さらに、デコンボリューション処 理を今まで取得している他の連続記録データ、自然地 震データなどに適用することで、フィールドデータへ の適用に関する検討も行っていきたい。 謝辞 独立行政法人土木研究所の稲崎富士氏には測定フ ィールド及びジオフォンを提供していただいた。 ここに記して謝意を示します。なお、本研究の一 部は科学技術振興機構(JST)の革新技術開発研究 事業により実施した。 参考文献 相澤隆生・山中義彰・伊東俊一郎・木村俊則・尾西恭 介・松岡俊文(2008):フィールドでの観測実データを用 いた地震波干渉法の適用条件に関する検討, 物理探査, 61, no.2 121-132. 木村俊則・伊東俊一郎・相澤隆生・松岡俊文(2008): 交 通ノイズを利用した地震波干渉法による S 波探査,物 理探査学会第 119 回学術講演会講演論文集,79-80. Vasconcelos, I., and R. Snieder, (2008a) : Interferometry by deconvolution, Part1—Theory for acoustic waves and numerical examples, Geophysics, 73, no. 3, S115–S128. Vasconcelos, I., and R. Snieder, (2008b) : Interferometry by deconvolution Part2—Theory for elastic waves and application to drill-bit seismic imaging, Geophysics, 73, no. 3, S129–S141. Wapenaar, K., and Fokkema, J., (2006): Green’s function representations for seismic interferometry, Geophysics, 71, SI33-SI46 Wapenaar, K., J. Thorbecke, and D. Draganov, (2004) : Relations between reflection and transmission responses of three-dimensional inhomogeneous media, Geophysical J. Int., 156, 179–194.