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(effective August 7, 2014) on Investment in Myanmar

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(effective August 7, 2014) on Investment in Myanmar
外立総合法律事務所
HASHIDATE LAW OFFICE
August, 2014
HASHIDATE
LAW OFFICE
Vol. 02
NEWS LETTER
TOPIC
日・ミャンマー投資協定(2014 年 8 月 7 日発効)
によるミャンマー投資への影響
第1
をテコにした経済成長がまさに加速している最中といえま
はじめに
す。当事務所でも、ミャンマーが民主化される以前から、
国内市場の成熟化に伴い、日本企業による海外市場での
15年来、日本企業のミャンマーへの進出(ジョイント
事業展開の活発化の動きは、いまなお堅調な推移を示して
ベンチャー組成・現地法人の設立等)に携わり、豊富な
おり、
特に日本企業が海外へと進出するアウトバウンドM
&
A
経験・実績を積み重ね、現地法律事務所との緊密な協力
は、M
&
A取引総額(国内企業同士の M
&
A
、インバウンド M
&
A、
関係を築いてまいりましたが、近年のミャンマーに対する
及びアウトバウンド M
&
Aの取引総額)のうち、6割程度の
投資熱の高まりは、実際に、インフラ整備、ホテル・工場
割合を占めています。
建設等、数多くの日本企業によるミャンマーへの投資案
こうした中、日本企業による海外進出先として、チャイ
件に関与することにより、切に感じるところです。
ナ・プラスワンとしての A
S
E
A
N諸国へのシフト傾向は特に
そこで本稿では、まず、ミャンマーの外資参入規制を踏
顕著です。中でも近年民主化を果たしたミャンマー連邦共
まえたミャンマーへの進出方法を概観し、その上で、ミャ
和国(以下、
「ミャンマー」といいます。
)は、その低廉で
ンマーの外資参入規制を緩和する内容を含む、本年8月7
良質な労働力(人口6000万人超という数字は、C
L
M諸
日に発効した「投資の自由化、促進及び保護に関する日本
国として同じく注目を集めているカンボジア(人口152
国政府とミャンマー連邦共和国政府との間の協定」
(以下、
5万人)
、ラオス(人口668万人)と比較しても、圧倒的
「本投資協定」といいます。
)が、かかる外資参入規制に与
な規模を誇ります。
)
、豊富な天然資源、及び中国・インド
える影響について検討します。
という将来的な大消費地に囲まれた地理的優位性を背景に、
近年、強い関心が向けられ、2014年4月末時点での日
第2
本からの進出企業数は160社1を超えています。世界的に
ミャンマーにおける外資参入規制の
概要
見ても、2013年度における外国からミャンマーへの直
接投資2額は、前年度比約3倍の約41億ドルに達し3、外資
日本企業によるミャンマーへの直接投資の方法(投資形
C
○
1
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態)は、ミャンマーに存する法律上・事実上の外資参入規
れ(憲法37条 a項)
、土地の使用を希望する者は、政府機
制の態様に応じて選択されるべきであり、適切な投資形態
関から許可を受けて、又は政府機関との間で賃貸借契約を
を選択するためには、かかる外資参入規制の把握が不可欠
締結して、土地を使用することになります(かかる土地利
となります。そこでまず、ミャンマーにおける法律上・事
用権は「L
a
n
dG
r
a
n
t
」と通称されます。
)
。
実上の外資参入規制について概観します。
これに加えて、外国会社については、不動産移転制限法
3条により、不動産の取得及び1年を超える不動産の賃借
1.国営企業法
が禁止されています。従って、土地の長期利用を必要とす
一部の農林水産業やインフラ関連分野の12事業につい
る外国の事業者は、後述する外国投資法上の許可に付随す
て、国営企業法は、国営企業単独または国営企業と民間事
る長期の土地利用権の付与を受ける必要があります。
業の合弁会社のみが当該事業を行うことができるものと定
めており、民間企業単独で当該事業を行うことは禁じられ
4.事実上の外資参入規制
ています。
日本企業がミャンマーに直接投資を行う場合、その進出
形態(現地子会社または合弁の設立5・支店の設置・駐在員
2.外国投資法
事務所の設置等)を問わず、外国会社として、会社法上の
外国投資法4条は、11事業(国内の文化、生態系、公
営業許可証の取得が必要となります(会社法2条(2A
)
・
(2
衆衛生を害するおそれのある事業等)につき、外国投資家
B
)
、会社法27A条1項・3項)
。
による投資が原則として禁止又は制限される旨規定してい
しかし、外国会社がトレーディング業務(以下「T
r
a
d
i
n
g
」
4
ます。また、外国投資法の下位規範 も、事業分野に応じた
といいます。なお、いかなる行為が T
r
a
d
i
n
gに該当するか
参入規制を定めています。
は、政府の運用に委ねられており明確でありませんが、一
具体的には、①外国資本による投資が禁止される21事
般に小売業、卸売業、貿易業等自ら製造を行わない商品の
業(安全保障・環境保護の観点から投資が禁止される事業
販売等が T
r
a
d
i
n
gに含まれると考えられています6。
)を営
等)
、②合弁による参入形態が強制される42事業(菓子
もうとする場合、事実上営業許可が発行されない実務が確
類・飲料類などの製造販売、プラスチック・ゴム製品の製
立しているため、留意が必要です。
造業、インフラ関連事業、不動産関連事業等)
、③個別に規
定される特定の条件の下で参入が認められる事業((
i
)
特定
第3
の官庁の推薦があった場合のみ認められる115事業、
対ミャンマー直接投資に際しての
4つのルート
(
i
i
)
その他の条件を遵守する必要がある27事業、及び
(
i
i
i
)
環境アセスメントを必要とする32事業)がそれぞれ
以上の外資参入規制を前提として、日本企業がミャンマ
規定されています。
ーに直接投資を行う方法としては、①国営企業法により規
かかる規制により、基礎的な製品のための木材加工業、
制される事業について、国営企業との合弁事業など特殊な
多額の投資を伴う高度な技術をもって行う木材加工業、及
条件を満たした上で事業を行う方法、②会社法に基づく営
びミャンマー語以外の言語で記載された専門誌の発行事業
業許可のみに基づき事業を行う方法、③会社法に基づく営
については、外国企業によるマジョリティー出資が禁止さ
業許可に加え、外国投資法に基づく許可を受けて事業を行
れています。
う方法、及び④2014年に改正された特別経済地域法
(S
p
e
c
i
a
lE
c
o
n
o
m
i
cZ
o
n
eL
a
w
.以下、
「改正 S
E
Z法」とい
3.不動産移転制限法
います。
)に基づく管理委員会の投資許可を受けて事業を行
ミャンマーにおいては、憲法上、全ての土地は国有とさ
う方法、の4つが挙げられます。
C
○
2
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以下では、上記4つの方法の中でも中心的な進出方法で
3.改正 S
E
Z法に基づく管理委員会の許可に基づき事業を
ある②及び③の方法、並びに近年の改正を受けて活用が期
行う場合(④)
改正 S
E
Z法は、特別経済地域9
(以下、
「S
E
Z
」といいます。)
待される④の方法について詳述します。
のみに適用され、その最大の特長は、上述した外国投資規
1.会社法に基づく営業許可のみに基づき事業を行う方法
制等を含む各種法令に、改正 S
E
Z法が優先して適用される
(②)
点にあります(改正 S
E
Z法89条)
。進出企業は、改正 S
E
Z
会社法に基づく営業許可のみに基づき事業を行う場合、
法に基づいて組織された管理委員会(M
a
n
a
g
e
m
e
n
t
以下で述べる外国投資法上の許可に付随する各種優遇措置
C
o
m
m
i
t
t
e
e
)の許可を得ることで、種々の優遇措置(輸入税
を受けることが出来ません。このため、前述した不動産移
に関する優遇、所得税の優遇、不動産の長期利用等)を受
転法に基づく不動産賃貸借の期間制限(1年)の下でも事
けることが可能となります。
業活動を行うことが出来るサービス業や、駐在員事務所が、
もっとも、改正 S
E
Z法は未だ規則(R
u
l
e
s
)が制定されて
この形態による進出を果たしている実例が多くなっていま
おらず、また制定されてから日も浅いため、今後制定され
す。
るであろう規則の内容や改正 S
E
Z法の運用面を含めて、今
なお、日本企業が現地法人を設立する場合、かかる会社
後の動向を注視する必要があります。
は外国会社とされ、国家計画・経済開発省投資・企業管理
局(M
i
n
i
s
t
r
yo
fN
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t
i
o
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l
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第4
D
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,D
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n
dC
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a
n
y
本投資協定が外資参入規制に与える
インパクト
A
d
m
i
n
i
s
t
r
a
t
i
o
n
.
「D
I
C
A
」と通称されます。
)によって指定
1.投資協定の意義と活用法
された最低資本金7の要件を満たさなければならない点に
も留意が必要です。
そもそも投資協定とは、投資協定締約国(以下、
「締約国」
といいます。
)間における投資の促進を目的として、外資参
2.会社法に基づく営業許可及び外国投資法上の許可に基
入や実際に締結国に投下された財産の保護等について、締
づき事業を行う場合(③)
約国間での義務を取り決めるものです。
会社法上の営業許可に加えて、外国投資法上の、ミャン
本稿が取り扱うような外資参入の場面においては、投資
マー投資委員会(M
y
a
n
m
a
rI
n
v
e
s
t
m
e
n
tC
o
m
m
i
s
s
i
o
n
.以下、
活動に影響を与えている投資受入国の参入規制について、
「M
I
C
」といいます。
)の許可に基づいて事業を行う方法で
同国が投資協定上負っている義務に違反することを理由に、
す。M
I
Cによる許可(以下、
「M
I
CP
e
r
m
i
t
」といいます。
)
規制措置の是正を求める(規制措置の撤廃・緩和を求める)
を得た会社は、(
i
)
税制上の優遇措置(所得税が5年間免除
方法が、投資協定の中心的な活用法となります。
されるほか、M
I
Cの判断により、輸出入にかかる税金の免
以下では、外資参入の場面における投資協定の中心的な
除等が認められます(外国投資法27条)
。
)
、(
i
i
)
不動産の
活用法に焦点を当て、ミャンマー国が、締約国として本投
長期利用権の付与(最長50年間 L
a
n
dG
r
a
n
tが付与され、
資協定上負う義務を明確にすることを通じて、本投資協定
更に2度にわたり各10年の期間延長が認められます(外
が上述の外資参入規制に与える影響について検討します。
国投資法第14章)
。
)
、及び(
i
i
i
)
外国送金に関する権利の
保障(外国投資法39条)等の各種優遇措置が受けられま
2.本投資協定の内容
す。
本投資協定は、以下の表に記載するとおり、日本からの
製造業をはじめとする、長期の土地使用を必要とする会
投資の促進及びミャンマーに投下された財産の保護のため
社にとっては、この方法による進出が適切と考えられます8。
の基本的な規律を定めるものです。
C
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タイトル
条文
内国民待遇
2条
最恵国待遇
3条
投資の待遇
4条
内容
各締約国は、自国の区域内における投資活動に関し、他方の締約国の投資家及びその投資財産に対し、同様の状況に
おいて自国の投資家及びその投資財産に与える待遇よりも不利でない待遇を与える。
各締約国は、自国の区域内における投資活動に関し、他方の締約国の投資家及びその投資財産に対し、同様の状況に
おいて第三国の投資家及びその投資財産に与える待遇よりも不利でない待遇を与える。
各締約国は、自国の区域内における他方の締約国の投資家の投資財産に対し、国際法上要求される公正かつ衡平な待
遇を与える。
特定措置の履行要
6条
いずれの締約国も、自国の区域内における投資活動に関して、一定の水準又は割合の現地調達を達成する等、一定の
求の禁止
要求をすることを禁止する。
収用及び補償
13条
各締約国は、原則として、自国の区域内にある他方の締約国の投資家の投資財産の収用若しくは国有化又はこれと同
等の措置を実施してはならない。
資金の移転
16条
各締約国は、自国への又は自国からの、他方の締約国の投資家の投資財産に関連する全ての資金の移転が、遅滞なく、
かつ、自由に行われることを確保する。
(表1
本投資協定が規定する投資の促進及び投下された財産の保護のための基本的な規律事項一覧)
もっとも、本投資協定は、自由化型協定 であり、外資参
います。
入を規制する投資受入国の権利を制約するものであること
第1は、本投資協定上の義務に適合しない現行の措置で、
から、投資受入国の政策的な観点から、一定の規制措置が
将来、現行の措置よりも厳しい措置を採用することはでき
「留保事項」として本投資協定上の義務の適用除外とされ
ない事項(現在留保)
、第2は、本投資協定上の義務に適合
ています(本投資協定第7条)
。そのため、本投資協定第7
しない措置で、将来、より厳しい措置を採用することも可
条の規定する留保事項の内容を理解しなければ、ある特定
能な事項(将来留保)です。
の事案に本投資協定上の各義務が適用されるか否か判断で
以下、本投資協定の付属書 Iとして表形式で纏められた
きないため、留保事項の理解が極めて重要となります。
現在留保事項、及び本投資協定の付属書 I
Iとして表形式で
纏められた将来留保事項を簡略化した表を示します。
(なお、
3.個別留保(本投資協定からの適用除外事項)10
下記の表2及び表3は、本投資協定の附属書 I
・I
Iのうち、
(1)現在留保と将来留保
「ミャンマー連邦共和国の表」を、読者の便宜のため大幅
本投資協定は、その附属書において、①内国民待遇、②
に簡略化したものですので、実際の検討に当たっては、必
最恵国待遇、及び③特定措置の履行要求の禁止といった義
ず原文をご参照下さい。
)
務が適用されない個別留保事項を2種類に分けて規定して
分野
現在留保の内容
1
飲料の製造
ミャンマー市民との合弁の強制。
2
清涼飲料並びに炭酸及び非炭酸飲料の製造
20%以上の国内の原材料使用義務。工場完成後3年後は、60%以上の国内で収穫
3
たばこ製品の製造
①製品の90%の輸出義務、かつ②一定割合の国内原材料使用義務
4
パルプ、紙及び板紙の製造
ミャンマー市民との合弁の強制。
5
医薬品の製造
ミャンマー市民との合弁の強制。
6
精製石油の製造
エネルギー省の推薦が投資の条件とされる。
7
新聞発行
情報省の推薦が投資の条件とされる。
8
堅材の生産及び自然林からの堅材採取
環境保護・林業省による推薦が投資の条件とされる。
9
漁業
漁業局長による免許が必要。
された原材料の使用義務。
C
○
4
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10
天然ガスの探査及び採掘
11
天然ガス、石油の探査及び採掘に関連するサービ
ミャンマー政府又はミャンマー市民との合弁の強制。
ス
エネルギー省との生産物分与契約により課される条件(7人の取締役会構成員のうち
エネルギー省との生産物分与契約により課される条件(7人の取締役会のうち4人を
ミャンマー側から選出する。
)を満たす必要あり。
4人をミャンマー側から選出する等。
)を満たす必要あり。
12
国内航空運輸サービス及び
運輸省の承認が投資の条件とされる。
国際航空運輸サービス
ミャンマー空港又はミャンマー市民との合弁の強制。
13
水上旅客・水上貨物運輸業
運輸省の承認が投資の条件とされる。
14
銀行、証券業及び保険業
各業法の関連規制の順守。
15
郵便及び電気通信サービス
通信・情報技術省の承認が必要。
16
道路運送業
鉄道省の同意が必要。
ミャンマー市民との合弁の強制。
ミャンマー政府又はミャンマー市民との合弁の強制。
17
木材の輸出
原木の輸出は、2014年4月1日から禁止。
18
国際貿易業
外国人には認められない。但し、製造業を行う場合、ミャンマー会社法27条 A 第1
19
全ての分野(国際貿易業を除く。)
項に従い、当該製造業に必要な限度で国際貿易業を営むことが認められる。
全ての外国会社及びその支店又は代表事務所は、事業活動を行うための許可を得なけ
ればならない。
当該許可は、国家計画・経済開発省による更なる審査が必要である場合を除いて、許
可要件を満たすのであれば、申請の提出から24時間以内に、登録証明書とともに付
与される。当該許可は、5年毎に更新される必要がある。
A(表2
現在留保事項についての概要)
分野
1
土地所有権
将来留保の内容
内国民待遇は、土地所有権及び土地に関連する天然資源に影響を及ぼす措置について
は適用されない。但し、MIC の承認に従い、政府が所有する土地、政府の各省庁又は
政府機関が所有する土地並びにミャンマー市民が所有する私有地については、事業及
び産業の種類並びにその規模により、最長で50年間賃貸することが認められ、連続
して2回、10年の期間を延長することが出来る。
2
ミャンマー人雇用義務
外国投資家は、一定割合のミャンマー人雇用義務を負う。
3
自然林の管理及び維持、伝統的医薬品の製造、原油
左記のサービスは、ミャンマー市民のみに許可される。
採掘、中小規模の鉱業生産等
4
病院、薬草原料の取引、医薬品の研究、救急運送、
左記のサービスは、ミャンマー市民のみに許可される。
高齢者保護センター設立、鉄道に係るサービス、小
規模代理店、10メガワット以下の発電、一定の定
期刊行物の発行及び配布等
5
農業
外国投資が、国内の農産品の生産者に対し経済的な悪影響を生じさせ得る限りにおい
て、外国投資家に対する制限を設けることが出来る。
6
畜産業
外国投資が、国内の農産品の生産者に対し経済的な悪影響を生じさせ得る限りにおい
て、外国投資家に対する制限を設けることが出来る。
7
(表3
漁業
ミャンマー市民に対してのみ許可される。
将来留保事項についての概要)
C
○
5
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(2)附属書の読み方
P
e
r
m
i
tを申請する場合、たとえ外国投資法上は、かかる事
現在、既に外資参入規制が行われている分野が、個別留
業について内資との合弁が強制される旨の規定が存在する
保または将来留保(適用除外)の対象とされていない場合
としても、かかる外資参入規制が本投資協定の附属書に留
には、本投資協定に基づきミャンマー国内の投資家と同様
保事項として記載されていなければ、本投資協定に基づい
の待遇が受けられる以上(内国民待遇)
、既存の外資参入規
て外資100%
での進出を主張すること(内資との合弁な
制が撤廃されたものとみなして、規制措置の是正を求める
く)も可能となります。
(規制措置の撤廃・緩和を求める)ことが可能です。
(3)出資比率規制の撤廃
他方、現在留保事項については、将来、現行の措置より
また、外国投資法上、外国企業による出資はマイノリテ
も厳しい措置を採用することが出来ないという意味で(規
ィーにとどまることが強制されていた、基礎的な製品のた
制の最大値を示したものとして)
、参考になりえます。
めの木材加工業、多額の投資を伴う高度な技術をもって行
以上を前提に、本投資協定が、ミャンマーの外資参入規
う木材加工業、及びミャンマー語以外の言語で記載された
制に対して与えるインパクトについて、検討します。
専門誌の発行事業については、本投資協定上、留保事項が
特段記載されていないことから、外国企業によるマジョリ
4.本件投資協定のインパクト及び留意点
ティー出資が許容されうることとなります。
(1)T
r
a
d
i
ngの解禁
(4)土地所有権
ミャンマーに進出する外国会社は、会社法27条 A第1
土地所有権は、将来留保事項とされていることから、将
項に基づき営業許可の取得が強制されており、
かつT
r
a
d
i
n
g
来的に、現行の措置よりも、より制限的な措置が施される
については、営業許可が発行されない実務的運用が行われ
可能性があります。また、事業のために一定期間の継続的
てきたことは、前述のとおりです。
な土地の使用を必要とする事業者にとっては、引き続き、
もっとも、①現在留保事項19番は、当該許可が原則と
M
I
CP
e
r
m
i
tに基づく継続的な土地使用権の獲得が必要とな
して24時間以内に付与される旨規定していること、及び
る点には、留意が必要です。
②現在留保事項18番において、営業許可の制限として、
国際貿易業(I
n
t
e
r
n
a
t
i
o
n
a
lT
r
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d
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u
s
i
n
e
s
s
)のみが記載
本投資協定は、今まで参入が禁止されていた T
r
a
d
i
n
gを
されていることからすれば、本投資協定は、T
r
a
d
i
n
gにつ
解禁する等、外資参入規制を大きく緩和する内容を含んで
いて行われてきた、会社法上要求される営業許可の不発行
おり、今後のミャンマー進出を検討する日本企業にとって、
の運用を廃止し、外国会社による T
r
a
d
i
n
gを解禁する趣旨
本投資協定を活用することが望まれます。もっとも、本投
の規定であると解釈することが出来ます11。
資協定は、ミャンマー政府が今まで行ってきた運用につき、
これにより、今まで営業許可の不発行によりミャンマー
大きな変更を求めるものであり、また、発効から日が浅い
進出が出来なかった企業(小売業・卸売業等)の進出が原
ためにその具体的運用事例の集積もまだありません。その
則的に可能になるものと考えられます。
ため、本投資協定を活用してミャンマー進出を行うに際し
(2)外資100%での進出可能性
ては、最新のミャンマーにおける外資参入規制や法実務に
附属書に記載されていない分野、又は附属書に記載され
精通した専門家を起用した上で、関係省庁等との緊密なや
ていたとしてもミャンマー市民との合弁を強制されていな
り取りの上で交渉を行う必要がある点には、十分に留意す
い分野については、本投資協定に基づきミャンマー国内の
る必要があります。
投資家と同様の待遇が受けられる結果、外資100%
での進
出が可能となります。
5.諸外国との間の同種協定の締結状況
例えば土地の長期利用を希望する日本の企業が、M
I
C
ミャンマーは、諸外国(中国・インド・クウェート・ラ
C
○
6
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オス・フィリピン・タイ・ベトナム)との間で保護型の投
ミャンマー投資委員会告示2013年第1号)
資協定を締結しています12が、外資参入規制について締約国
5
が一定の義務を負う形の自由化型協定としては、本投資協
ミャンマー国民が株式の100%を保有する内資会社の株式を、外国
人に対して譲渡することは原則として禁じられています。
定が先駆けとなるものです。
そのため、内資会社に日本企業が投資を行うためには、原則として
その意味でも、本投資協定は日本企業に対し、諸外国に
当該内資会社の事業を新たに設立した外国会社に事業譲渡して、当該
先んじてミャンマー投資への道を開くものと評価でき、日
外国会社に出資するなどのスキームを採らざるを得ません。
本企業による本投資協定の積極的な活用が望まれます。
6
犬島伸能・伴真範「外資規制対策 外資企業の進出動向と問題解決の
手引き 直面する問題について現在とりうる対応策とは」ザ・ローヤー
第5
最後に
ズ2013年8月号48頁 アイ・エル・エス出版
7
M
I
Cは、本投資協定の締結を受けて、8月26日までに、
資本金が外貨建ての場合、製造業(並びに建設業及びホテル業)につ
いては、150,000米ドル、サービス業の場合には、50,00
新たな M
I
C通達を発表し、従来の約200事業分野につい
0米ドルとする運用が行われています(森・濱田松本法律事務所「平
ての外資規制を、約100事業分野にまで半減しました13。
成25年度ミャンマー連邦共和国法制度調査報告書」9頁)。
これにより、小売業・卸売業、外食などのフランチャイズ
8
事業が規制対象から外されたり、観光業や倉庫業について
外国投資法に基づき事業を行う場合の会社設立時の最低資本金は、一
般にサービス業300,000米ドル、製造業500,000米ドル
も100%外資による進出が可能になる等、本投資協定の
とされています(犬島・伴 前掲書53頁)。
内容に沿った改正が行われ、日本企業にとって、ミャンマ
9
ー進出へのハードルは大きく下がったといえます。
現在、チャウピュー経済特区、ティラワ経済特区、及びダウェイ経済
特区が経済特区として指定されています。
ミャンマー法制、政府の方針・運用等については未だ不
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明瞭・不確実な点が多いため、新たな M
I
C通達を含め、今
分野を特定せず、措置の法的根拠や概要を特定しない留保(包括留
保)も、本投資協定には存します。例として、①ミャンマー中央政府、
..
州、地方又は連邦直轄地以外の地方政府により維持される現行の措置、
後の運用を注視する必要がありますが、ミャンマーへの進
出を現に検討している又は将来ミャンマーへの進出を視野
②TR
IPS協定(貿易関連知的所有権協定)上、内国民待遇及び最恵国待
に入れている方々にとって、本稿がミャンマー進出の一助
遇の例外とされている事項、及び③締約国が政府調達に関して採用し、
となれば幸いです。
又は維持する措置については、内国民待遇、最恵国待遇、及び特定措
置履行要求禁止の対象とされません(本投資協定7条1項(b)、6項、
1
JETRO「ミャンマー基本情報・統計」
7項)
。また、租税に係る課税措置については、上記各義務にとどまら
http://www.jetro.go.jp/world/asia/mm/ (2014年8月15日アクセ
ない広範な留保が設けられています(本投資協定23条)
。
ス)
11
2
直接投資とは、一般に外国において直接事業活動その他の企業活動を
しているとのことです(武川丈士「日・ミャンマー投資協定を企業は
行うために資本投資を行うことを指し、本稿でもこの用例に従います。
いかに活用すべきか―ミャンマー外国投資法制を踏まえた検討」NBL
3
The Myanmar Times 2014年4月28日
“FDI tops US$4
2014年7月号54頁 株式会社商事法務)
。
PwC Japan「ミャンマー投資ガイド」9 頁
http://www.pwc.com/jp/ja/japan-knowledge/archive/assets/pdf/myan
mar-business-guide.pdf (2014年8月15日アクセス)
13日本経済新聞2014年8月29日朝刊 「ミャンマー、外資規制半
減 小売り自由化を発表」
12
billion on manufacturing boost”
http://www.mmtimes.com/index.php/business/10190-fdi-tops-us-4-bi
llion-on-manufacturing-boost.html(2014年8月15日アクセス)
4
本投資協定の交渉に参加した政府関係者も、本稿と同様の意見を有
外国投資規則(Foreign Investment Rule. 国家計画・経済開発省告
示2013年第11号)4条及び5条並びに禁止事業等に係るミャン
マー投資委員会告示(Classification of Types of Economic Activities.
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執筆担当者
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近年は、ミャンマーに、投資先として強い関心が集まっていることを背景に、日本企業によるインフラ整備、ホテル・工場建設等、数多
くの投資案件を成功に導いております。
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