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科学技術振興調整費 第Ⅱ期成果報告書

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科学技術振興調整費 第Ⅱ期成果報告書
科学技術振興調整費
第Ⅱ期成果報告書
知的基盤整備
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内
ペプチドの多角的データベース化に関する研究
研究期間:平成 11 年度~
平成 16 年 6 月
厚生労働省
南野 直人
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
研究計画の概要
p.1
研究成果の概要
p.5
研究成果の詳細報告
1. 生体内ペプチドの分離、精製、構造決定法に関する研究
1.1. 抽出、分離、精製、構造決定法に関する研究
p.12
1.2. 質量分析法による生体内ペプチドの超微量構造解析に関する研究
p.30
2.生体内ペプチドの生物活性、受容体と立体構造に関する研究項目名
2.1. 培養細胞とオーファン受容体を活用した生物活性と機能検索に関する研究
p.40
2.2. 機能蛋白質発現系と分化発生系を用いた生物活性と機能検索に関する研究
p.56
2.3. 受容体に対するリガンド検索系の確立と新規生理活性ペプチドの同定
p.68
2.4. 分子設計を用いた受容体との相互作用、立体構造に関する研究
p.82
3. 機能的データベース構築に関する研究
3.1. 生体内ペプチドのデータベース構築に関する研究
3.1.1. 多様な生体内ペプチド情報の効率的収納法とデータベース構築に関する研究
3.1.2. 発見的検索が可能な生体内ペプチド・ファクトデータベースの構築に関する研究
3.2. 他のデータベースとの連携に関する研究
p.93
p.103
p.108
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
研究計画の概要
■ 研究の趣旨
科学技術基本計画において、科学技術に関するデータベースの整備、研究資源テータベース化の重要性が指摘される
とともに、ライフサイエンス研究開発基本計画においても、「知的情報交流の拡大とデータベースの整備」が強調されている。
さらに「広義のライフサイエンス分野における基盤的知識・技術を生み出す領域」の重点化が提唱され、わが国の科学技術
立国のために知的財産確保の重要性が明示されている。
特にライフサイエンス分野では「ゲノム科学に関する研究開発についての長期的考え方」に示されているように、配列構
造が発表されたヒトゲノム研究成果を活用するためには、その実像であるペプチドや蛋白質の情報を包括的に収録する知
的基盤の整備が必要不可欠である。蛋白質については欧米を中心に「プロテオーム計画」としてデータベース化が開始さ
れている。これに対し、ペプチドはホルモン、循環調節因子、神経伝達因子等として情報伝達や制御に重要であるが、存
在量が少ない上に処理過程で容易に分解されるなどの問題から、データベース化は困難と考えられてきた。過去20年余り
にわたるペプチド研究から、抽出や精製段階における分解を抑制すれば、生体内ペプチドの実態を正確に把握できること
が分かってきた。また、ペプチド機能の理解には一次構造の比較だけでは不十分で、むしろ機能分子として疎水性、電荷、
分子量などの物性を基準に整理し、構造、活性、存在量などの情報を付加することにより、多様な比較や検索が可能なデ
ータベースを構築できる可能性を見出した。一方、バソプレシンの発見以来50年が過ぎようとしているが、各動物で構造決
定されたペプチドは数百に過ぎず、数万を越えるペプチドの同定は、ペプチド研究に新局面を開くものと考えられる。
これらの情報に基づき、ペプチドを生体に内在する形で取り出し、規格化された方法により分離、同定し、分離過程で得
られる物性を基準に登録し、化学構造、生物活性、存在量、立体構造、受容体などの情報を包括的に収納し、多様なニー
ズに答える利用価値の高いファクト・データベースの構築を計画、開始した。「ペプチドーム」と名付けた本データベースの
構築は、生体をペプチドという視点から検証するものとなり、ペプチドの情報伝達、制御機構の解明はそのまま創薬、診断・
治療法などの開発を目指す医学、薬学、生物学研究の強力な知的情報基盤となるもので、ゲノム情報を活用しそれを実際
の研究、さらに産業に応用していくためにも実施せねばならない課題である。
本目的を達成するため、第Ⅰ期で実施した生体内ペプチドの抽出、分離、構造決定法の開発や高感度化、高感度で多
種類の生物活性測定法の開発、データの効率的収納法、検索法を更に高度で機能的なものとし、第Ⅱ期終了時までに、
1) 20,000 のペプチドを諸物性により系統的に分離、データベース化し、
2) 1,000 のペプチドの構造を決定する。
この目標を達成し、「ペプチドーム」データベースがペプチドに関する標準データベースとして世界の研究者に幅広く使
用されることを目標に、第Ⅱ期においては以下の研究開発を行う。
①生体内ペプチドの抽出、分離、構造決定方法を高度化し、物性、構造情報の測定、解析を標準化、自動化する方法
やペプチド混合物の超高感度構造解析法を研究開発する、
②生体内ペプチドの生物活性、受容体との結合活性などを高感度、高効率に測定する方法や、受容体との相互作用や
立体構造の予測法を研究開発する、
③研究者が自由にデータを登録、利用でき、生体内ペプチドの情報を研究者の多様なニーズに合わせて効率的に閲
覧、検索できる機能的データベースの構築法を研究開発する。
1
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
■ 研究の概要
サブテーマ 1:生体内ペプチドの分離、精製、構造決定に関する研究
生体内よりペプチドを内在する形で取り出し、分離する方法を確立、普遍化し、物性(分子量、疎水性、電荷等)、構造、
存在量、プロセシング等を系統的に解析し、それらを入力したファクトデータベースを構築するため、国立循環器病センタ
ー研究所の南野班員は、ペプチドの分離、精製法を確立すると共に、ペプチドの物性情報や構造情報の測定、解析法の
標準化、物性情報の数値化、分離・解析法の自動化の研究開発を行い、データベース構築に必要な高度な情報を省力化
して収集可能とする。大阪大学蛋白質研究所の高尾班員は、微量ペプチドの構造解析と構造情報収集を効率的、網羅的
に実施可能とするため、混合物状態のペプチドの質量分析法による超微量構造解析法の開発を行うとともに、多量の構造
情報の収集、蓄積と解析が自動的かつ確実に行えるシステムを開発する。
サブテーマ 2:生体内ペプチドの生物活性、受容体と立体構造に関する研究
生体内ペプチドの生物活性や機能、受容体などの情報を高感度に測定、収集する方法を研究開発するために、国立循
環器病センター研究所の寒川班員は、培養細胞を用いた活性測定法の高感度化と多試料処理化を進め、生体内ペプチ
ドの生物活性を効率的かつ系統的に検索できる方法論を開発する。また、G蛋白質共役型オーファン受容体発現系と活
性測定法を組み合わせたリガンド検索系を開発し、これらの情報をデータベースに登録とする。産業技術総合研究所の久
保班員は、受容体等の機能蛋白質の特異的発現細胞を用いた活性検出系、細胞に対する分化発生誘導活性の検出系
などを作成し、生体内ペプチドの高感度活性検出システムを開発する。哺乳類だけでなく爬虫類や節足動物などでも遺伝
子情報も含めてペプチドを検索し、情報を収集する。学習院大学の芳賀班員は、生体内に存在するペプチド受容体を同
定し、これらのG蛋白質共役受容体に対する普遍的で高速なリガンド検索システムを開発し、生体内のペプチド画分を網
羅的に検索しG蛋白質共役型オーファン受容体の内在性リガンドを同定する共に、その情報をデータベースに登録する。
サントリー生物有機科学研究所の石黒班員は、ペプチドの立体構造、ペプチド受容体の立体構造、受容体結合構造など
の情報を収集してデータベース化し、さらに生体内ペプチドの一次構造より溶液中での立体構造、受容体との結合構造な
どを予測する方法を研究開発する。これらを活用し、構造が判明した機能未知ペプチドの受容体結合構造の推定法やそ
れを発展させた新しい創薬方法などを開発する。
サブテーマ 3:機能的データベース構築に関する研究
ペプチドーム・データベースに収集される生体内ペプチドの多様な情報を効率的に収納可能とするとともに、ユーザに
優しく、既存のデータベースと一体化して利用可能で、ニーズに応じた知的検索や発見などが可能となるデータベース構
築法、検索法を研究開発する。そのため、蛋白質研究奨励会の磯山班員は、生体内ペプチドを分子量、疎水性、電荷な
どの物性により登録し、質量スペクトル、構造情報、存在量、プロセシング、生物活性、受容体などの多様な情報と共に的
確かつ効率的に収納し、一般研究者が研究成果を容易に登録できるデータベースを開発する。また、修飾構造などペプ
チド固有の構造や性質の普遍的表記法、文献データベースなどからの効率的な情報収録法も研究開発する。国立循環器
病センター研究所の花井班員は、幅広く検索、活用可能なデータベースを構築するため、多岐にわたる生体内ペプチドの
属性データを整理、体系化してリレーショナル・ファクトデータベース化し、収載データの分析、比較による機能予測や欠落
データの類推などの発見的活用やマイニングが可能な手法を開発する。さらに将来の拡張性も確保しつつこれらを統合し、
生体内ペプチド研究に適合した機能的データベースの構築方法を研究する。国立がんセンター研究所の水島班員は、本
研究で収集される生体内ペプチドのファクトデータの特徴を生かしつつ、既存データベースと幅広く連携する方法、入出力
データの表現方法、情報の提供方法などを研究し、国際的データベースと連携した活用が可能で、ペプチドの世界標準と
なるようなデータベースの構築法を研究開発する。また、ペプチド構造表現法の実感化についても研究開発する。
2
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
■ 実施体制
研 究 項 目
担当機関等
研究担当者
1.生体内ペプチドの分離、精製、構造決定法に関する
研究
(1)抽出、分離、精製、構造決定法に関する研究
厚生労働省国立循環器病センター
南野直人(部長)◎
研究所
(2)質量分析法による生体内ペプチドの超微量構造解
大阪大学蛋白質研究所
高尾敏文(教授)
厚生労働省国立循環器病センター
寒川賢治(部長)
析に関する研究
2.生体内ペプチドの生物活性、受容体と立体構造に関
する研究
(1)培養細胞とオーファン受容体を活用した生物活性と
機能検索に関する研究
(2)機能蛋白発現系と分化発生系を用いた生物活性と
研究所
独立行政法人産業技術総合研究所
(グループ長)
機能検索に関する研究
(3)G蛋白質共役型受容体を用いた生物活性と機能検
久保 泰
学習院大学理学部
芳賀達也(教授)
財団法人サントリー生物有機科学研
石黒正路(部長)
索に関する研究
(4)分子設計を用いた受容体との相互作用、立体構造
に関する研究
究所
3.機能的データベースの構築に関する研究
(1)生体内ペプチドのデータベース構築に関する研究
①多様な生体内ペプチド情報の効率的収納法とデータ
財団法人蛋白質研究奨励会
磯山正治(室長)
厚生労働省国立循環器病センター
花井荘太郎(室長)
ベース構築に関する研究
②発見的検索が可能な生体内ペプチド・ファクトデーベ
ースの構築に関する研究
(2)他のテータベースとの連携に関する研究
研究所
厚生労働省国立がんセンター研究
所
(注:◎は代表者。サブテーマ責任者は置いていない。)
3
水島 洋(室長)
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
■ 運営委員会
氏
名
所
属
外部有識者
松尾壽之◎
宮崎医科大学・前学長
大石 武
明治薬科大学・前学長
広瀬茂久
東京工業大学大学院生命理工学研究科生体システム専攻・教授
岡村高幸
科学技術振興事業団大阪科学技術センター・特許主任調査員
研究班員
南野直人○
厚生労働省国立循環器病センター研究所薬理部・部長
寒川賢治
厚生労働省国立循環器病センター研究所生化学部・部長
花井荘太郎
厚生労働省国立循環器病センター研究所脈管生理部・室長
(運営部調査課・高度情報専門官(併任))
水島 洋
厚生労働省国立がんセンター研究所疾病ゲノムセンター・室長
久保 泰
独立行政法人産業技術総合研究所脳神経情報研究部門・グループ長
芳賀達也
学習院大学理学部生命分子科学研究所・教授
高尾敏文
大阪大学蛋白質研究所附属プロテオミクス総合研究センター・教授
磯山正治
財団法人蛋白質研究奨励会情報室・室長
石黒正路
財団法人サントリー生物有機科学研究所・部長
◎ 運営委員長
○研究代表者
4
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
研究成果の概要
■総 括
ゲノム情報を活用し創薬や生物研究を実施するための知的情報基盤となる生体内ペプチドのファクト・データベース、
「ペプチドーム」の構築に向けて、第Ⅰ期に実施したペプチドの抽出、分離、構造決定法の開発、高感度ペプチド活性測
定法の開発、データ収納法や検索法の研究開発を行った。これらの成果を元に、第Ⅱ期では精製、構造決定の高感度化
や自動化、物性情報の標準化と数値化、生物活性情報収集法や受容体リガンド検索法の高感度化、多様化と多検体処
理化、効率的データ収集が可能な実験室情報管理システムや自由に閲覧、検索できる機能的データベース構築法などの
研究開発を進めた。第Ⅱ期終了時までに、20,000 ペプチドの基本情報を収集、1,000 ペプチドの構造決定を行いデータベ
ースに登録することを目標としたが、開発した分離・解析方法、機器、ソフトウエアなどを用いて第Ⅱ期終了の平成 15 年度
末までに、ブタおよびマウス脳において 21,846 ペプチドを検出し、その内 725 ペプチドの構造を決定した。また、ヒト尿や細
胞上清よりも 2,058 ペプチドを検出し 652 ペプチドの構造を決定してデータベースに登録し、最終的にその目標をほぼ達
成することができた。
各サブテーマ、研究班員間での協力により、カルシトニン受容体刺激ペプチドをブタ脳より発見し、これが長年不明であっ
た中枢性カルシトニン受容体の内在性リガンドであること、ニューロメジンUのオーファン受容体 GRP66 の内在性リガンドであ
ること、オクタン酸修飾を持つグレリンの多様な内在性分子型の同定を行い、これらの機能解析に向けた研究を大きく進展で
きた。また、ペプチドーム解析より得られた多くのペプチド構造とゲノムや EST データベース情報との比較より、従来想定され
ていなかった蛋白質が内在性ペプチドの前駆体となる可能性や、新しいペプチド生成に向けたプロセシングシステムの存在
などの可能性が示唆された。これらの研究成果は、ほぼ当初の研究計画や目標に沿った内容、数値であると考えられる。
■ サブテーマ毎、個別課題毎の概要
サブテーマ 1:生体内ペプチドの分離、精製、構造決定に関する研究
生体内ペプチドの抽出法やペプチド画分調製法、2 次元 HPLC による分離と物性情報の入手法、質量分析法を中心と
した高感度の検出、構造解析システムを開発し、自動化2次元 HPLC や実験情報管理システムの開発と連携により、自動
化を進めた。質量分析法による構造解析において、質量分析とデータ処理の両方におけるソフトウエア開発、デバイス開
発を通じて検出、解析効率を上昇させ、100 fmol 以下のペプチドでも構造解析が可能となった。最終的にブタ脳で 17,788
ペプチドの検出と 230 ペプチドの構造決定、マウス脳で 4,058 ペプチドの検出と 495 ペプチドの構造決定を実施した。ヒト
尿や細胞培養上清でも 2,058 ペプチドの検出と 652 ペプチドの構造決定を行い、情報をデータベースに収録した。当初の
数値目標をほぼ達成すると共に、その解析結果より従来とは異なる形のプロセシングや新しいペプチド前駆蛋白質候補の
存在などが推定できた。
サブテーマ 2:生体内ペプチドの生物活性、受容体と立体構造に関する研究
細胞内カルシウムイオンや cAMP 濃度、細胞外微小 pH や細胞膜電位を指標とする高感度活性評価システムを作成し、
培養細胞と組み合わせ多数の生物活性測定系を作成した。G蛋白質共役型オーファン受容体遺伝子を 70 種以上収集し、
培養細胞での発現系、受容体-Gα融合蛋白質の作成により高感度な検索を可能とした。また、イオンチャネルや細胞分
化等の活性評価系も作成し、哺乳類の脳や末梢組織のペプチド、非哺乳類の cDNA より調製したペプチドに適用し生物
活性を測定した。サブテーマ1の2次元 HPLC で調製した試料については、培養細胞を用いた生物活性測定を行いデータ
ベースに収録した。
開発した生物活性測定法を用いてカルシトニン受容体刺激ペプチドをブタ脳より発見し、不明であった中枢性カルシト
ニン受容体リガンドであることを示した。この際、規格化した2次元 HPLC 上における既知ペプチドの溶出位置情報が有用
であった。ニューロメジンU受容体がオーファン受容体 GRP66 であることを同定し、行動や摂食における機能を明らかにし
5
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
た。グレリンの多様な内在性分子を同定し、機能解析研究を進展できた。受容体-Gα融合蛋白質発現系のリガンド検索に
おける有効性をノシセプチン受容体を用いて検証し、非哺乳類ペプチドの cDNA 配列との相同性の検討や発現ペプチド
の生物活性解析も、新しい種類の活性ペプチド検索には有効であることを示した。G蛋白質共役型受容体などを対象に活
性化された受容体構造モデルを作成可能とし、ペプチドの受容体結合構造と NMR や分子動力学計算から得られる立体
構造データの関連を明らかにすることにより、ペプチドと受容体の相互作用を推定し、創薬などに利用可能とした。
サブテーマ 3:機能的データベース構築に関する研究
ペプチドーム・データベースは生体内ペプチドに関する実験データ、2次データを格納する必要があるため、抽出、精製、
物性の測定、構造決定、生物活性の測定、活性ペプチドの発見に至るプロセスや機能解明研究から得られるファクトデー
タを収集し、閲覧、表示する実験情報管理システム(LIMS)を開発した。実験室では個人の PC で Internet Explorer より、あ
るいは携帯端末より情報収集、データ管理を実施できる。それらを情報を提供するため、基本的な検索ソフトウエア、物性
などを実感できる可視化ソフトウエアなどを情報公開 Web システムとして開発、実用化した。これらの XML 化により将来の
拡張性と可用性を確保し、WEB ベースのインターフェースの使用で、ユーザーの使用しやすい環境を整備した。
ペプチドは各種の修飾等を含むため従来のアミノ酸表示では不十分で、新たに拡張アミノ酸テーブルを作成してこれら
を表記可能とし、質量分析により修飾構造なども含めた構造解析が可能な情報基盤を作成した。登録データが増加につ
れ検索は困難になるため、ファクトデータ及び概念辞書の拡充を図ることで、物性や一次構造と関連情報も含めた発見的
検索法の開発が可能であることを示した。また、バーチャルリアリティによりペプチドと蛋白質の相互作用を触覚として実感
できるシステムを構築した。
■ 波及効果、発展方向、改善点等
従来のペプチド研究では、各研究室、個々の研究で研究情報は独立し、それらを有機的に連携し利用するシステムが
なかった。本研究によりペプチドを規格化、標準化した方法で抽出、濃縮、分離、解析することにより、収録情報は研究グ
ループ単位で有効利用できると共に、ホームページ上で公開、共有化することにより、ペプチド研究を推進できることが確
認された。実際、5年間の研究でカルシトニン受容体刺激ペプチドを発見すると共に、約 100 種の既知ペプチドと関連ペプ
チドを同定できた。各種生物活性情報を収録しより高度な物とすることにより、新規ペプチド発見のチャンスを増加でき、ペ
プチド・ファクトデータと知識情報を有効に利用できる情報基盤となることが明らかとなった。
これまでの解析結果から各種蛋白質に由来するペプチドが生体内に存在する可能性が示唆された。特に興味深いことは、
ペプチドホルモン前駆体と想定されていない蛋白質からペプチド生成の可能性が示されたことである。例えば、通常の蛋白
質がホルモン前駆体と同様にプロホルモンコンバーターゼで切断されたと考えられるペプチドが生体内に存在することである。
最近、サリューシンという活性ペプチドが発見され膜蛋白質に由来することが示されているが、今後同様のペプチドが見いだ
せれば、ペプチドホルモン前駆体の概念変更に迫れる可能性がある。また、プロホルモンコンバーターゼ以外での切断例も
観測され、多面的検証により2次的分解でない可能性が高い物については内在性や活性を確認し、活性ペプチドの概念を
広げたい。ただ、ペプチド結合によっては弱酸性条件でも加水分解を受けることが分かり、精製、保存時の加水分解を極小
化すると共に、これらを排除することが必要である。また、微量ペプチドについては、精製構造決定や生物活性測定時に吸
着で失われる例が増加してきた。自動化システムでの損失防止や容器への吸着防止も今後の課題である。
分離、解析システムは十分な能力を有しているがデータベース登録数が伸びなかった原因は、解析に適した 2 次元
HPLC 等の自動微量化システムと、データ収集・解析ソフトウエア作製に時間を要したためである。一貫したシステムの構築
よりデータ収集量は増加できるので、今後情報収集システム全体をさらに改良する必要がある。
データベースには基本的な情報しか収録できず、プロトタイプができた段階で本研究は終了した。研究者にとり利用価値の
あるデータベースに発展させるためには、今後も継続して生体内ペプチド解析を実施して情報を増加することが不可欠である。
一方、ペプチドデータセット間での比較を行うにはペプチド間の対応付けが必要であるため、比較対応付けソフトウエアを開発
する必要があり、これにより疾患マーカー発見などに本データベースの有効利用法をさらに広げることが可能である。
6
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドデータの多角的データベース化に関する研究
中核研究機関:厚生労働省国立循環器病センター
2次元HPLCによる分離
60
分子量
新規
ペプチド
発見
40
ホームページでの公開、検索
www.peptidome.org
情報収集
20
0
0
20
40
質量分析
Relative abundance (%)
100
検索
60
LIMS
1222.6
80
1795.1
60
40
1623.3
1298.8
20
0
.
1000
1500
2000
m/z
既知ペプチドの溶出位置
疎水性
電荷
生物活性情報の収集
オーファン受容体発現系
受容体結合構造の推定
文献情報
修飾情報
遺伝子情報
生物活性情報
公的データベース
との連携
Substance P
Met-Enk
公的データベース、蛋白質研
究奨励会からの情報収集
7
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
■ 所要経費
(単位:千円)
研 究 項 目
担当機関等
所要経費
研 究
担当者
11
12
13
14
15
年度
年度
年度
年度
年度
合計
1.生体内ペプチドの分
107,239
98,749
127,741
105,468
75,557
514,754
南野直人
89,460
76,821
86,963
83,911
58,487
395,642
高尾敏文
17,779
21,928
40,778
21,557
17,070
119,112
59,981
85,155
67,075
67,424
79,685
359,320
寒川賢治
24,518
49,424
29,169
26,769
34,424
164,304
久保 泰
10,913
12,018
13,497
13,603
15,360
65,391
芳賀達也
14,924
15,884
12,586
13,229
16,471
73,094
石黒正路
9,626
7,829
11,823
13,823
13,430
56,531
離、精製、構造決定法に
関する研究
1.1.抽出、分離、精製、
厚生労働省国
構造決定法に関する研
立循環器病セ
究
ンター研究所
1.2 質量分析法による生
大阪大学蛋白
体内ペプチドの超微量構
質研究所
造解析に関する研究
2.生体内ペプチドの生
物活性、受容体と立体構
造に関する研究
2.1 培養細胞オーファン
厚生労働省国
受容体を活用した生物活
立循環器病セ
性と機能検索に関する研
ンター研究所
究
2.2 機能蛋白発現系と分
独立行政法人
化発生系を用いた生物
産業技術総合
活性と機能検索に関する
研究所
研究
2.3 G 蛋白質共役型受容
学習院大学理
体を用いた生物活性と機
学部
能検索に関する研究
2.4 分子設計を用いた受
財団法人サント
容体との相互作用、立体
リー生物有機
構造に関する研究
科学研究所
8
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
(単位:千円)
研 究 項 目
担当機関等
所要経費
研 究
11
12
13
14
15
年度
年度
年度
年度
年度
32,949
41,728
45,729
68,189
74,512
263,107
25,803
27,380
37,985
55,416
62,332
208,916
17,113
20,657
19,443
31,251
33,829
122,293
花井荘太郎
8,690
6,723
18,542
24,165
28,503
86,623
水島 洋
7,146
14,348
7,744
12,773
12,180
54,191
270
271
1,037
713
7,049
9340
200,439
225,903
241,582
241,794
236,803
1,146,521
担当者
3.機能的データベース
合計
構築に関する研究
3.1.生体内ペプチドの
データベース構築に関す
る研究
3.1.1.多様な生体内ペ
財団法人蛋白
プチド情報の効率的収納
質研究奨励会
磯山正治
法とデータベース構築に
関する研究
3.1.2.発見的検索が可
厚生労働省国
能な生体内ペプチド・フ
立循環器病セ
ァクトデータベースの構
ンター研究所
築に関する研究
3.2.他のテータベースと
厚生労働省国
の連携に関する研究
立がんセンター
研究所
厚生労働省国
4.研究運営
立循環器病セ
ンター研究所
所 要 経 費
(合 計)
9
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
■ 研究成果の発表状況
(1) 研究発表件数
国 内
国 際
合 計
原著論文による発表
左記以外の誌上発表
口頭発表
合
計
第Ⅰ期 1 件
第Ⅰ期 33 件
第Ⅰ期 61 件
第Ⅰ期 95 件
第Ⅱ期 0 件
第Ⅱ期 37 件
第Ⅱ期 76 件
第Ⅱ期 113 件
第Ⅰ期 26 件
第Ⅰ期 2 件
第Ⅰ期 18 件
第Ⅰ期 46 件
第Ⅱ期 44 件
第Ⅱ期 0 件
第Ⅱ期 25 件
第Ⅱ期 69 件
第Ⅰ期 27 件
第Ⅰ期 35 件
第Ⅰ期 79 件
第Ⅰ期 141 件
第Ⅱ期 44 件
第Ⅱ期 37 件
第Ⅱ期 101 件
第Ⅱ期 182 件
(2) 特許等出願件数
第Ⅰ期
4 件 (うち国内 4 件、国外 0 件)
第Ⅱ期
7 件 (うち国内 6 件、国外 1 件)
合計
11 件 (うち国内 10 件、国外 1 件)
(3) 受賞等
第Ⅰ期 0 件 (うち国内 0 件、国外 0 件)
第Ⅱ期 2 件 (うち国内 2 件、国外 0 件)
1.
寒川賢治:岡本国際賞,成人血管病研究振興財団,2002 年 10 月
2.
片渕剛:「腎上皮細胞の細胞内 cAMP を上昇させる新規生理活性ペプチドの単離」,日本心血管内分泌代謝
学会若手奨励賞,2002 年 11 月 23 日
(4) 主な原著論文による発表の内訳
1.
Hosoda, H., Kojima, M., Matsuo, H. and Kangawa, K.: Purification and characterization of rat.
des-Gln14-Ghrelin, a second endogenous ligand for the growth hormone secretagogue receptor. J. Biol. Chem.,
275, 21995-22000, (2000)
2.
Fernandez-de-Cossio, J., Gonzalez, J., Satomi, Y., Shima, T., Okumura, N., Besada, V., Betancourt, L.,
Padron, G., Nagai, K., Shimonishi, Y., Takao, T.: Automated Interpretation of Low-energy Collision-induced
Dissociation Spectra by “SeqMS”, a Software Aid for De Novo Sequencing by Tandem Mass Spectrometry.
Electrophoresis, 21, 1694-1699 (2000)
3.
Katafuchi, T., Kikumoto, K., Hamano, K., Kangawa, K., Matsuo, H. and Minamino, N.: Calcitonin
receptor-stimulating peptide, a new member of the calcitonin gene-related peptide family: Its isolation from
porcine brain, structure, tissue distribution and biological activity, J. Biol. Chem., 278, 12046-12054, (2003)
4.
Minamino, N., Tanaka, J., Kuwahara, H., Kihara, T., Satomi, Y., Matsubae, M. and Takao, T.: Determination of
endogenous peptides in the porcine brain: Possible construction of Peptidome, a fact database for endogenous
peptides, J. Chromatogr. B, 792, 33-48, (2003)
5.
Takeda, S., Okada, T., Okamura, M., Haga, T., Isoyama-Tanaka, J., Kuwahara, H., Minamino, N.: The
Receptor- Gα fusion protein as a tool for ligand screening: a model study using a nociceptin receptor-Gi2
fusion protein, J. Biochem., 135, 597-604, (2004)
6.
Fernandez-de-Cossio, J., Gonzalez, J., Satomi, Y., Betancourt, L., Ramos, Y., Huerta, V., Amaro, A., Besada,
V., Padron, G., Minamino, N., Takao, T.: ISOTOPICA: a Tool for the Calculation and Viewing of Complex
Isotopic Envelopes. Nucleic Acid Research, 32, W674-W678, (2004)
10
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
(5)主要雑誌への研究成果発表
Journal
Impact
サブテーマ 1
Factor
サブテーマ 2
サブテーマ 3
合計
Am. J. Physiol. Gastr. Liver Physiol.
3.346
1
1
Arch. Biochem. Biophys.
2.606
1
1
Biochem. Biophys. Res. Commun.
2.935
4
6
Bioinformatics
4.615
Biomed. Res.
0.469
1
1
Bioorg. Med. Chem. Lett.
2.051
1
1
Cardiovasc. Drug. Rev.
0.600
1
1
Cell
27.254
Chembiochem
3.233
2
2
Comp. Biochem. Phys. B.
1.195
1
1
Diabetes
8.256
1
1
Electrophoresis
4.325
Endocrinology
5.095
2
2
Eur. J. Biochem.
2.999
1
1
Eur. J. Pharmacol.
2.342
1
1
FEBS Lett.
3.912
1
1
Genomics
3.483
1
1
Int. J. Med. Inform.
1.000
1
1
Internal. Med.
0.575
1
1
J. Am. Chem. Soc.
6.201
J. Am. Soc. Mass Spectrom.
3.022
J. Biochem.
1.878
J. Biol. Chem.
6.696
1
J. Chromatogr. B.
1.913
2
J. Endocrinol.
2.897
1
1
J. Med. Chem.
4.566
2
2
J. Neuro. Sci.
2.080
2
2
J. Physiol. Pharmacol.
1.406
1
1
Jpn. J. Clin. Oncol.
0.691
Jpn. J. Pharmacol.
1.230
2
2
Life Sci.
1.824
6
6
Mol. Pharmacol.
5.480
1
1
Neurochem. Res.
2.902
1
1
Neuroreport
2.265
1
1
Neurosci. Lett.
2.100
1
1
Neurosci. Res.
1.812
1
1
Neuroscience
3.457
1
1
Nucleic Acids Res.
7.051
Photochem. Photobiol.
1.290
Rapid Commun. Mass Spectrom.
2.372
Toxicon
2.003
2
2
Zool. Sci.
0.901
1
1
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
5
5
5
6
2
1
1
1
1
1
3
11
1
1
3
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
1. 生体内ペプチドの分離、精製、構造決定法に関する研究
1.1. 抽出、分離、精製、構造決定法に関する研究
厚生労働省国立循環器病センター研究所
南野 直人、片渕 剛
■要 約
生体内ペプチドのデータベース構築の基盤となる方法論を確立するため、分解を防止したペプチドの抽出法、簡便か
つ再現的で効率的なペプチド画分の調製法を開発した。残存する蛋白質を除去した後、ペプチド画分を大まかに分子量
3,000 以下、3,000-6,000 に分離し、それぞれを規格化された 2 次元クロマトグラフィー(1 次元目イオン交換、2 次元目逆
相)で 5,000 画分に分離した。各画分についてペプチドの分子量測定、構造解析を行い、分離過程で得られた物性情報と
共にデータベース構築に必要となるペプチド情報を収集するシステムを構築した。この方法を実際にブタおよびマウス脳に
適用してペプチド情報を収集しデータベースを構築すると共に、自動化した情報収集システムの構築を行った。
■目 的
生体内には多種多様なペプチドが存在し、ホルモン、循環調節因子、神経伝達因子として細胞、組織間の情報伝達や
制御に重要な機能を発揮しているが、存在量が極めて少ない上に容易に分解されるため、生体内ペプチドのデータベー
ス化は困難と考えられてきた。しかし、これまでのペプチド研究より、抽出や精製段階における分解を抑制すれば生体内ペ
プチドの実像を反映するデータベース構築が可能であることが分かってきた。また、ペプチド研究に役立つデータベースを
構築するには、アミノ酸配列や名前のみの情報では不十分で、物性(分子量、疎水性、電荷等)に基づきペプチドを整理、
登録し、存在量、生物活性、前駆体構造などの関連情報も含めて包括的に収録することが必要と考えられた。このようなペ
プチドデータベース(ペプチドーム・データベース)を構築するため、必要となる基盤技術や方法を開発し、自動化など研
究者の負担を軽減した形での情報収集を可能とすることが本研究の目的である。
具体的には、ペプチドを生体内で存在する形で取り出す抽出法の開発、粗抽出物からのペプチド画分の効率的濃縮法
の確立、物性(疎水性、電荷等)に基づく再現的な分離法を確立するとともに、その過程でペプチドの物性情報を数値情
報として収集するシステムの開発、さらに高感度化した分子量測定法の確立と効率的な構造解析法、構造情報収集システ
ムの開発、存在量や修飾、切断部位等をはじめとする多様なペプチド情報の収集が必要である。実際にはブタ脳を対象と
して抽出法の確立、ペプチド画分の抽出液からの効率的かつ簡便で再現的な調製法の確立、ペプチド分離用の2次元高
速液体クロマトグラフィー(HPLC)条件の設定と標準化した物性情報の入手法の確立、質量分析法を中心とした高感度な
ペプチド検出と分子量測定、構造解析と情報の入手システムの開発などを行う。このようにして開発した方法を用いて、ブ
タ脳ペプチドやマウス脳ペプチドについて解析を行い、データベース構築のために必要なペプチド情報の収集を行う。さら
にヒトを対象としては、細胞培養上清および血液試料について検討を行い、ペプチドや蛋白質の 2 次的分解の評価法の確
立も目指す。また、班員が共通試料を対象に構造情報、生物活性情報などを入手するため、ブタ脳ペプチドの分画物を多
量に調製し、班員に供給可能とする。
■ 研究方法
1. 生体内ペプチドの抽出法およびペプチド画分の調製法の確立
生体内ペプチドをできる限り内在分子型で損失なく抽出するため、ブタ脳を対象に内在性プロテアーゼの失活法や
12
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
分離法、ペプチド画分の効率的抽出法や濃縮法などを、逆相 HPLC での分離と質量分析機による解析結果より評価す
る。特に初期の処理法、抽出法、蛋白質や塩類の除去法などついて検討する。また、対象組織量などに合致したペプ
チド画分の抽出、濃縮法も検討する。
2. ペプチドの分離方法と物性情報収集法の確立
データベース情報収集を目指したペプチドの分離・解析において、ペプチドの一括処理、分割処理の適否を検討す
る。次にイオン交換、逆相 HPLC を組み合わせた 2 次元 HPLC によるペプチド画分の分離方法、条件、再現性を検討
し、ペプチドーム・データベース構築に至適なシステムを設定する。また、分離過程で疎水性、電荷などの物性情報を
数値化して入手するため、標準物質を選択、作製し、物性を標準化した数値して収録可能とする方法を作成する。
3. ペプチドの質量分析法による検出法、構造解析法の確立
質量分析計(Micromass 社:Q-Tof-2、Applied Biosystems 社:Voyager DE-Pro, Proteomics Analyzer 4700, 日本電
子:Accu-Tof)を使用した微量ペプチドの検出と分子量の測定法を、合成ペプチドや脳ペプチド混合物を対象に検討
し、多様で量的に異なる生体内ペプチドを数多く検出可能とする。また、高尾班員との共同でタンデム質量分析機によ
る構造決定の高感度化や効率化を進める。また、エドマン法シーケンサー(Applied Biosystems 社)についても、質量分
析法データと組み合わせ、収集データ量の増加を図り、ペプチドの量的評価についても検討を加える。
4. データベース情報の収集システムと関連ソフトウエアの開発
磯山班員、花井班員と共同して、実験室で行われるペプチドの抽出・調製、HPLC などにより発生する分離データ、
分離により多量に発生する試料、質量分析計による分析などのデータを、コンピュータ上で実験ノートの作成と同時に
関連づけて収集、保存できる実験情報管理システム(LabodataMaster)を開発する。並行して実験情報、分離・解析結
果を表示、閲覧できるソフトウエアも開発する。質量分析データについては、高尾班員と情報の収集・管理、表示システ
ムなどを開発する。また、データベース構築時に必要情報をまとめて取得、移行させるシステム、得られたペプチド情報
に基づき研究者がペプチドの物性や分子量などを実感できる表示や表現法、多様な情報より知的な検索や発見が可
能な方法などについても検討する。
5. ペプチドの分離、情報解析における自動化システムの開発
研究者の負担を軽減し、分析の高感度化を図るため、ペプチド画分の 2 次元 HPLC について、段階的 HPLC と無段
階 HPLC の 2 つのシステムの開発を行う。また、異なる HPLC 機器や質量分析計より排出されるデータの統一した情報
収集や質量分析データに基づく構造、配列の自動検索システムの構築を検討する。
6. データベース情報の収集、解析
ブタ脳ペプチドについて規格化した 2 次元 HPLC で分離し、得られた 5,000 画分についてペプチドの検出、構造解
析を行い、データベースに収録する情報を収集する。マウス脳については、少量の試料の分離形式に従い処理してペ
プチド画分を調製し、ブタ脳と同様に規格化した 2 次元 HPLC で分離し、各画分中ペプチドの情報の収集を行う。得ら
れたペプチド構造解析結果をまとめ、その特徴を比較、解析し、構造的な特徴を有するペプチドについては合成ペプ
チドや抗体などを調製し、内在性の確認、機能など検討する。
7. ペプチド試料供給体制の作製、解析などの共同研究
多量に調製したブタ脳ペプチドについて、ゲル濾過までは共通して分離した後、スケールアップしたイオン交換、逆
相 HPLC を行い、生物活性測定用に各班員に供給する。また、寒川班員とは各種ラット組織、ブタ末梢組織について
共同してペプチド抽出や精製を行い、ペプチド探索などに使用する。
8. その他
抽出、構造決定したペプチドの内在性を確認するため、ペプチドや蛋白質の 2 次的な分解評価系の作成について
高尾班員と共同で検討を行う。本研究の方法論を拡大するため、組織以外にも培養細胞上清、血漿などについてもペ
プチドの回収法、分離、解析などの検討を行う。
13
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
■ 研究成果
1. 生体内ペプチドの抽出法およびペプチド画分の調製法の確立
ブタ脳を対象として検討を行った結果、死亡直後に脱血処理を行ない、組織を採取後は速やかに抽出することにより
最も良い結果が得られた。一時保存も凍結保存は避け、血管等をできる限り除去、洗浄することが望ましい。ペプチドの
分解を抑制、防止するために、蛋白分解酵素の失活あるいはペプチドとの分離が不可欠であるが、脳組織では 95℃以
上 5 分間以上の加熱処理が簡便で、蛋白質沈殿条件による抽出や抽出液の限外濾過膜による分離も、数百グラム以上
の組織抽出には適さなかった。ペプチドの抽出は酢酸酸条件下でのホモジナイズが最も安定しており、強い酸性、弱酸
性、中性、弱アルカリ性条件では、回収率、混入蛋白質量、分解などの点で劣った。
抽出液中には蛋白質、塩類、低分子有機化合物などが多量に存在するため、ペプチドを回収しこれらを排除しなけ
ればならない。除蛋白については限外濾過法と蛋白沈殿法を検討した結果、前者が安定した結果が得られた。脱塩や
低分子有機化合物の排除では限外濾過法と逆相系C18 樹脂カラムとも短所があった。これらを総合し、多量の抽出液
の処理には限外濾過(分子量 3 万と 1000)で実効分子量 500-10,000 の物質を回収後、逆相系C18 樹脂カラム処理
(10%アセトニトリル洗浄後 60%アセトニトリル溶出)を行うことで、夾雑物の大部分が除去された。ペプチドは酸性条件下
で通常正電荷を持つため、次に酸性条件下でSPセファデックスにて吸着、回収し、粗ペプチド画分を調製した(図 1)。
調製された粗ペプチド画分には蛋白質や非ペプチド性物質も混入するが、再現的に大部分のペプチドを回収できるこ
とが、逆相 HPLC と質量分析の結果より明らかとなった。
組織や細胞
抽出法の確立
ホモジナイズ
逆相C18樹脂、SP樹脂
ペプチド画分
調製法の確立
プロテアーゼを不活性化
or 蛋白質との迅速分離
酸性条件下の抽出
疎水性、電荷による粗い分離
粗ペプチド画分
分子量に基づく分画
ゲル濾過
1次元・イオン交換HPLC
ペプチドーム
物性情報
の入手
2次元・逆相HPLC
分子量<3K、3K~6Kに分画
電荷
疎水性
質量分析機、シーケンサー 分子量、構造
図1. ペプチド画分の抽出・調製法とペプチドの分離、解析の手順
詳細な分離前に粗ペプチド画分含まれる蛋白質をゲル濾過にて除去した(図 2A)。親水性多糖類のセファデックス
G-50 が担体として最適で、粗ペプチド画分より蛋白質を除去すると、分子量 6,000 以下の解析対象ペプチドの乾燥重
量は再現的に組織重量の 0.1%以下であった。また、この画分を逆相 HPLC と質量分析した結果、主要ペプチドは再現
的に回収された。組織量が少量の場合(数十 g 以下)についても検討を行い、蛋白質量が増加するが限外濾過を省略
した手順でペプチドを回収し、ゲル濾過段階で蛋白質との完全分離を行うことにより解析に適したペプチド画分を調製
できた。
これらの結果に基づき、抽出法、粗ペプチド画分調製法、分析対象ペプチド調製法などについてのガイドラインを設
定し、本データベース化研究で解析対象とするペプチドの性質を明確にした。
2. ペプチドの分離方法と物性情報の収集法の確立
ゲル濾過において分析対象となる分子量 6,000 以下のペプチドは画分 36-50 に溶出した(図 2A)。脳に含まれる
CNP-53 と CNP-22 を内部標準としてペプチドを分子量 3,000 以下、分子量 3,000-6,000 の画分に分け解析を実施する
14
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
ことにしたが、解析全体に数倍の時間を要するため、解析対象ペプチドの分割の意義を再検討した。その結果、ペプチ
ドを一括して分離・解析すると、ペプチド全体の検出感度や効率が低下し、特に量の少ない分子量 3,000 以下のペプチ
ドで顕著であることが確認された。また、分割の境界についても分子量 2,500-3,000 付近で分けることに意味のあること
が判明した。そのためは、可能な限り分子量 3,000 以下、分子量 3,000-6,000 の 2 画分に解析対象ペプチドを分割する
ことにした。
分子量 3,000 以下、分子量 3,000-6,000 に分離したペプチドは、イオン交換 HPLC と逆相 HPLC を組み合わせた 2
次元 HPLC で分離した。カラム、溶出バッファーの pH や組成、電荷や疎水性との相関性等を検討した結果、イオン交換
HPLC には東ソー社の SP-2SW カラム、10%アセトニトリル含有ギ酸アンモニウムバッファー(pH3.8)で良好で再現的な分
離が得られた。図 2B に分子量 3,000 以下のペプチド画分の分離結果を示すが、分子量 3,000-6,000 のペプチドで全
体に幅広く分離されるよう条件を設定した。ペプチドの電荷を数値化すると共に、装置や溶媒などのクロマト条件を補正、
規格化するために 6 種類の標準ペプチドを合成し、これらの塩濃度に相関した直線的な溶出直線を基準としてペプチド
電荷の数値化を行った(図 2D)。
A
B
SP-20
C
D
0.35
0.3
0.3
吸光度(210
nm)
OD210nm
0.25
0.2
0.2
0.15
0.1
0.1
0.05
00
-0.05
00
5
10
15 20
20 25
30 35
40
40
45
50
55 60
60 65 70
75
Retention time (min)
保持時間(分)
図2. ブタ脳ペプチドのゲル濾過、イオン交換 HPLC による分離
A:CNP 免疫活性を基準に分子量 3,000 以下、3,000-6,000 の画分に分離し、蛋白質を除去した。
B:分子量 3,000 以下のペプチドのイオン交換 HPLC による分離。C:イオン交換 HPLC 画分 20 の
逆相 HPLC による分離。D:標準ペプチドの構造とイオン交換 HPLC 上における溶出位置。この標準
曲線に基づき電荷値の補正、標準化を行った。
逆相 HPLC(図2C)には、汎用されるアセトニトリル-トリフルオロ酢酸系を使用し、細孔径の大きく残存シラノール基の
ない C18 樹脂カラムを選択した。これは、高分子量のペプチドの回収率を低下させないためである。ペプチドは逆相
HPLC 系で高度な分離が得られるため条件選定は容易であったが、報告されているペプチドの疎水性指標は溶出時間と
必ずしも一致せず、分子量の疎水性に対する影響も大きいため、標準ペプチドは作成は困難と判断した。また、市販カ
ラムの種類が非常に多くペプチドの溶出位置は微妙に異なるため、溶出アセトニトリル濃度を基準に疎水性を数値化す
ることが適切と判断し、これによる数値化基準を設定した。
15
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
イオン交換 HPLC でブタおよびマウス脳の分子量 3,000 以下のペプチドを 70 画分に分離し、各画分を逆相 HPLC で
75 画分に分離し、観測された 210nm の吸光度を 2 次元 HPLC 上で表示したのが図 3 である。吸光度はペプチド量にほ
ぼ相関し、分子量の小さいペプチド画分では、電荷、疎水性の低い部分に多くのペプチドが観測された。2 次元 HPLC
により約 5,000 画分に分離された各画分のペプチドの一部は MALDI-TOF 型質量分析計での分析し、ペプチドの検出
と質量の測定を行ったところ(図4右上)、7つの明確なペプチドピークと共に小さいピークが数多く観測された。質量分
析計で観測される m/z 値と電荷(大部分は+1、図 4 右下)より分子量情報が算出される。2 次元 HPLC システムの標準
化により、図 3 や図 4 の溶出画分より当該ペプチドの電荷と疎水性が数値化して得られ、さらに質量分析計により得られ
た質量数を合わせることで、データベース登録に必要なペプチド基本情報が入手できる。図 5 にブタ脳の分子量 3,000
以下、分子量 3,000-6,000 のペプチドを 2 次元 HPLC で分離した結果を示した。分子量の異なる 2 つの画分で溶出す
るペプチドのプロファイルが大きく異なり、含まれるペプチドの性質に大きな違いのあることが分かる。
A
B
図3. ブタ脳、マウス脳の分子量 3,000 以下のペプチドの2次元 HPLC による分離
A:ブタ脳ペプチド、B:マウス脳ペプチド。図中の色変化は右のカラムに示す 210nm の
吸光度(ペプチド量と相関)を表わす。
16
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
図4. 2次元 HPLC を起点とするペプチド情報収集、構造解析システムの手順
分子量3,000以下 分子量3,000-6,000
min
140
電荷 (Ion exchange HPLC)
電荷 (Ion exchange HPLC)
min
140
120
100
80
60
40
20
0
0
10
20
30
40
50
60
120
100
80
60
40
20
0
70 min
0
10
20
30
40
50
60
70 min
疎水性 (Reverse phase HPLC)
疎水性 (Reverse phase HPLC)
図5. ブタ脳ペプチド(A:分子量 3,000 以下、B:分子量 3,000-6,000)の2次元 HPLC 上による分離
図中の濃淡は 210nm における吸光度(ペプチド量と相関)を示す。
17
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
3. ペプチド構造解析法の高感度化と構造情報入手法の確立
検出されたペプチドについては、タンデム質量分析計による構造解析や再精製後のエドマン法シーケンサーによる構造
解析を実施した(図 4 左下)。得られた構造情報や関連情報をデータベースに追加、登録することにより、各種データベース
とリンクさせ広範な情報収集が可能となる。構造情報はペプチドーム・データベース中で最も有用であるため、第Ⅰ期ではエ
ドマン法シーケンサーによる構造解析法の高感度化を進めると共に、高尾班員より指導を受け質量分析計、タンデム質量分
析計によるペプチドの検出と高感度の構造解析を可能とした。しかし、導入した機器による構造解析は、分析試料数に限界
があった。第Ⅱ期においては 2 種の質量分析機を導入し、各機器の情報収集量と多検体処理の可否、イオン化法や解析モ
ードによる特性により、解析方法や手順を検討した。その結果、ペプチドの検出と質量数の測定には、MALDI イオン化法に
よるリニアーモード測定を行うこととし、実際に多くの解析と情報収集を迅速に実施できた。しかし、MALDI イオン化法では共
存する物質の種類や分子量、イオン化効率などにより、標的ペプチドのイオン強度が大きく異なる。この問題点を克服するた
め、ESI イオン化法を併用して検出数を増加させると共に、イオン強度の測定においてダイナミックレンジが広く、量的な因子
を反映できる質量分析計を導入し最終的なシステムを構築した(図 13 参照)。システムを稼働させ始めたばかりで実質的な
データ収集に至っていないが、自動化にともない検出ペプチド数も増加するため、今後の解析に有効と考えられる。
4 00
3 50
3 00
ペプチド数
40 0
35 0
30 0
25 0
20 0
2 50
2 00
1 50
1 00
15 0
50
10 0
0
50
1
6
11
0
1
6
11
16
21
26
16
51
56
61
イオン交換HPLCの分画番号
36
41
46
51
56
61
21
26
31
36
66
71
31
41
46
66
71
図6. マウス脳ペプチド(分子量 3,000 以下)で検出されたペプチド数とイオン強度の結果
2次元 HPLC で分離後、検出されたペプチド数とイオン強度をイオン交換 HPLC の画分ごとに集計した。
質量分析機によるペプチド検出効率を上昇させるために、ペプチドの検出における前処理法の改良、ターゲットプレ
ートの改良などを高尾班員と共同で実施し、検出ペプチド数を増加させることができた。また、タンデム質量分析法によ
るペプチド構造解析において、通常のデータベース検索エンジンはトリプシン消化ペプチドのようにC末端アミノ酸が指
定できる場合には構造推定確率が高いが、生体内ペプチドのようにランダムに切断されている場合は構造推定率が低
かった。そこで、合成ペプチドや脳ペプチド混合物の質量分析スペクトルを解析し、生体内ペプチドに適した配列デー
タベース検索ソフトウエアや、推定した配列による質量分析スペクトルの検証ソフトウエアなどを開発し、タンデム質量分
析法による構造情報量の増加、効率化を可能とした。また、第Ⅱ期に導入した MALDI タンデム質流分析計においては、
機器のフラグメント化特性を考慮した構造解析ソフトウエアも開発し、構造情報の収集を進めた。マウス脳の分子量
3,000 以下のペプチドについて、検出されたペプチド数をイオン交換 HPLC の画分ごとに整理した結果を図 6 に示す。
イオン強度の低いピークが圧倒的に多いが、解析の結果、約 26%の検出ペプチドについて構造を推定できた。つまりイ
オン強度の高いペプチドの大部分は構造決定できたことになり、これは第Ⅰ期に比して大きな進歩であった。
第Ⅰ期で高感度化したエドマン法シーケンサーでも、分析検体数は少ないが着実に解析を実施した。特定画分に
つきシーケンサーによる部分配列データと質量分析データとを組み合わせることにより、ペプチド同定率を上昇できるこ
とが分かり、これらの方法の連携についても検討した。シーケンサーによる構造解析の結果、質量分析法で構造情報が
得られなかったペプチドの構造情報もある程度集まったので、質量分析計による構造解析の問題点克服の基盤情報と
して検討を進めている。
18
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
Fr.30
Fr.31
Fr.32
Fr.33
Fr.34
2000
4000
6000
m/z
図7. ブタ脳ペプチドを逆相 HPLC で分離後、質量分析機で解析した結果の2次元表示
ブタ脳の分子量 3,000-6,000 のペプチドをイオン交換 HPLC で分離し、得られた 30-34 画分について、
逆相 HPLC で分離し、全ての画分について質量分析を行った。得られたペプチド情報は、質量(横軸)、
疎水性(縦軸)、イオン強度 (濃淡)で表示し、各バンドが個々のペプチドを示す。
19
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
図8.解析により得られたペプチド情報の3次元仮想空間(電荷、疎水性、分子量)での表示
本プロジェクトで開発した Viewer を使用。回転、ズームアップ・ダウン、指定断面の表示、点の指定などが可能である。
A
B
分子量
電荷
疎水性
図9. 提案書で記載したペプチドデータベースのイメージ(A)と実際に収集したマウス脳ペプチド
(分子量 3,000 以下)の3次元仮想空間での表示と詳細情報の表示例(B)
4. データベース情報の収集システムと関連ソフトウエアの開発
日々多量のデータが発生する生体内ペプチドの解析においては、情報を包括的に収集、管理するソフトウエアの開
発が不可欠である。磯山班員、花井班員と共同し、実験情報管理システム(LabodataMaster)をインフォコム社と開発し
た。このソフトウエアにより、各機器より得られた情報は XY データとしてヘディングを付けてサーバーに収録される。研究
者は個人のコンピュータ(PC)より LAN を経てサーバーにアクセスし、実験室で行われるペプチドの抽出・調製、各種
20
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
HPLC などによる分離、質量分析計による分析などの方法、条件などを、PC 上で実験ノートに作成する。機器などより得
られた情報(ファイル)を実験ノートに登録しておくと、自動的に実験方法、条件と測定、分析データが関連づけて収集、
保存できる。これに関連して、各種機器より XY データを収集するデバイス、HPLC などの機器を操作、モニターしたり、
簡便な情報を記入できる携帯端末機などの開発も行った。また、多量に発生する分離した画分や試料についても、2次
元バーコードを利用した暗号化ソフトウエアと実験ノートを組み合わせて、保管、管理することが可能となった。これらを
総合する実験情報管理システムにより、データ収集が容易に実施可能となった。
並行して、研究者が HPLC や質量分析の分離・解析結果を閲覧するソフトウエア(Viewer)の開発も行った。これらの
情報は個別に見るだけでなく、データセットとして 2 次元クロマトグラムに表示できる(図 3、図 5)。また、質量分析スペクト
ルと組み合わせ、図 7 のように逆相 HPLC と質量分析スペクトルの測定結果を 2 次元表示させることも可能である。図中
の小さいバンドがペプチドを、その濃淡がイオン数を示す。さらに、逆相 HPLC の各画分における質量分析スペクトルの
2 次元図をイオン交換 HPLC の画分数集め、電荷、疎水性、分子量を基準とする仮想的な 3 次元空間に表示したのが
図 8 である。この図は任意に回転、ズームアップ・ダウン、任意の断面での切断などが可能であり、各ペプチドの物性や
質量、イオン強度(存在量と大まかに相関)などを体感しつつ、ペプチドを検索することが可能となる。
また、実験情報管理システムに蓄積された情報をデータベースに登録する際には、サーバーより必要情報をまとめて
データベースに移行させるシステムを作成した。得られたペプチド情報を検索する際の表示法や表現なども、上記2次
元、3 次元表示を経て検索、指定できるシステムを開発した。図 9 はマウス脳の分子量 3,000 以下のペプチドをペプチド
ームの手法で解析し 3 次元表示した結果を示すが、点を指定することにより当該ペプチドの情報を閲覧することが可能
で、これを起点に各種データベース情報を入手できる。(詳細は、磯山班員、花井班員の報告書参照)。
5. ペプチドの分離、情報解析における自動化システムの開発
本研究におけるペプチド分離の大部分は既存の HPLC 装置を組み合わせて実施したが、自動分析により研究者の
負担を減少させると共に、少量の組織から得られた微量ペプチドを効率よく分析できなければならない。特に微量ペプ
チドでは途中で取り出すと吸着による損失や夾雑物の混入を招くため、連続して最後まで分離し質量分析機に導入す
ることが必要である。本目的のために自動 2 次元微量 HPLC の試作を行ったが、第Ⅰ期で開発を依頼した企業は途中
で断念したため、先ず1次元目のイオン交換 HPLC を 6-8 種の緩衝液で段階的に溶出後逆相 HPLC で分離し、MALDI
質量分析計で解析するシステムを作成した。このシステムをブタ脳の分子量 3,000 以下のペプチドに適用したところ、約
800 のペプチドを検出し、約 200 のペプチドの構造を同定できた(条件が異なるため、データベースには収録せず)。
次に、島津社が開発していた 2 次元 HPLC を大幅に改変し、ペプチドーム・データベース情報の収集に至適化したシ
ステムを開発した。1 次元目のイオン交換 HPLC は直線グラジエント溶出が可能で、長時間の連続分離によりペプチドー
ム解析に必要な 70 画分までの分画を可能とした。溶出液はトラップカラムに吸着後、直径 300μの逆相 HPLC で分離し、
最終的にターゲットプレート上にスポットする(図 10)。このシステムでもトラップカラムへの吸着で疎水性の弱いペプチド
の損失が多かったため、カラムや溶媒の選択により使用可能なシステムを最終的に完成できた。この装置を中心に、検
出ペプチド数の増加とペプチド定量性の増加を目指し構築した総合的解析システムを図 11 に模式的に示した。このシ
ステムと情報収集システムを結合することにより、ペプチドーム・データベース情報が自動収集・収録可能となった。
一方、質量分析データの大量収集については、MALDI 型タンデム質量分析機における自動測定と高尾班員が改良
した構造情報の検索ソフトウエアでの一括解析、さらに上記の質量分析機の特性を考慮したソフトウエアやパラメータの
設定、標的データベースの変更などを行った。その結果短時間で効率的に構造推定情報が入手可能となった。しかし、
検索ソフトウエアは候補ペプチド配列を示すだけであるため、最終的にペプチド構造を決定するためには、検証ソフトウ
エアの使用を含め研究者の介入が必要である。
21
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
分子 量・組織含有 量
mi n
一次 配列・構 造情 報
電 荷・疎 水性
LIMS
図10.ペプチドーム情報収集システムに至適化した自動2次元
HPLC システム 。1次元目のイオン交換 HPLC も直線濃度勾配
溶出で行い、最大 70 画分までに分画可能である。並行して逆相
HPLC で分離し、溶出液は自動的に MALDI 質量分析計のターゲ
ットプレートにマトリックスと共にスポットされる。
図11. 自動2次元 HPLC と2台の質量分析器を組み合わせたペ
プチド自動解析・情報収集システム
6. データベース情報の収集と解析
上記 で確立した抽出法、分離法に 従い ブタ 脳よ りペプ チド画 分 を調製し、 ゲルロ 過後分子量 3,000 以下 、
3,000-6,000 の 2 画分にペプチドに分離した。それぞれを規格化した 2 次元 HPLC で約 5000 画分に分離した結果が図
5 である。全画分の一部について質量分析を行い、図 4 に示した(M+H)+値とイオン数を入手した。イオン交換 HPLC の
各画分を逆相 HPLC で分離し、溶出する全画分を質量分析計で解析すると、図 4 右上のスペクトルが得られ、それをイ
オン交換の画分ごとに2次元表示すると、図7の各図が得られた。出発組織量 2g 相当分を使用して、S/N 比 10 以上、イ
オン数 1,000 以上を基準として判定した結果、ブタ脳の分子量 3,000 以下のペプチド画分については、6,573 のペプチ
ドが観測され、分子量 3,000-6,000 の画分では 10,215 ペプチドが観測された。これらの結果は、物性値も含めてデータ
ベースのコアテーブルに収録した。これは第Ⅰ期に推定した 20,000 ペプチドにほぼ相当する結果であった。ペプチド構
造解析はタンデム質量分析計とエドマン法シーケンサーで実施し、両者での重複もあるため合計で 230 ペプチドの構造
決定に止まった。
Substance P
IEX: 57.0 min
RP: 28.9 min
Met-Enkephalin
IEX: 17.0 min
RP: 20.7 min
図12. 既知の生理活性ペプチド67種の標準化された2次元 HPLC 上での溶出位置
22
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
Peptides
Peptide-related
Secretory
Cytosolic
Membrane
Mitochodoria
Signal Transd.
Nuclear
Brain/Neuron
Others
図13. 構造決定されたペプチドの前駆蛋白質の分類
マウス脳分子量 3,000 以下のペプチド解析から得られた結果に基づく。
マウス脳ペプチドは、300 匹の脳(約 100g)より抽出し、限外濾過を省いた少量試料の分離方法に従い調製した。セフ
ァデックス G-50 ゲル濾過により分子量 3,000 以下、3,000-6,000 の 2 画分に分離し、ブタ脳ペプチドと同様に規格化し
た 2 次元 HPLC で分離し、情報収集を行った(図 3B)。出発組織量 0.8g 相当分を使用して、ブタ脳ペプチドと同様の基
準で判定した結果、分子量 3,000 以下の画分で 4,058 ペプチドを検出した。分子量 3,000-6,000 の画分は解析中であ
るが、合計で 10,000 以上のペプチドの検出が可能と推定している。マウス脳ペプチドの構造解析は主にタンデム質量分
析計で行い、現在までに 495 ペプチドの構造を決定し、物性と分子量情報とを合わせてデータベースに収録した。
規格化した 2 次元 HPLC を有効利用するため、既知の生体内ペプチドの 2 次元クロマト上における溶出位置を測定
し、データベース上で生体内ペプチド情報や生物活性情報と共有できることが必要である。113 種の合成ペプチドにつ
いて 2 次元 HPLC 上での溶出位置を3回ずつ測定し、その中心点を 2 次元 HPLC 上での 5,000 画分に帰着させ、デー
タベースに収録した。サブスタンスPと Met-エンケファリンを例として合計 67 ペプチドの溶出位置データを図 12 に示し
た。特に寒川班員との共同研究における新規活性ペプチド探索において、この溶出位置情報は非常に有用であった。
マウス脳の分子量 3,000 以下のペプチドの構造解析結果に基づき、ペプチドの由来する蛋白質を図 13 に示した。ペ
プチドおよび前駆体蛋白質より由来するペプチドは約 8%で、クロモグラニンなど分泌顆粒に含まれる蛋白質に由来す
るペプチド関連蛋白質由来ペプチドは約 7%であった。また、通常の分泌蛋白質に由来するペプチドが約 7%観測され、
これらを総合すると細胞外に分泌されペプチドとして存在する可能性があるものが 20%強といえる。その他のペプチドは、
細胞質、核、ミトコンドリア、細胞内情報伝達、細胞膜などに存在する細胞内蛋白質由来であり、ペプチドを生成すると
は考えにくい蛋白質である。細胞内には蛋白質代謝的分解による生成したペプチドが多く存在すると考えられるため、
組織抽出物を対象としたこの結果は妥当なものと考えられる。ただ、切断部位の解析より、酢酸酸性などの弱い酸性条
件下でも加水分解するペプチド結合がかなり有り、これらにより生ずる蛋白質のN末端ペプチド、C末端ペプチドが 20%
以上存在し、その判定除去によりペプチドの整理が行えると考えられた(後述、図 15 参照)。
図 14 に構造決定されたペプチドと前駆体蛋白質の例を示した。ペプチドホルモン前駆体に由来するペプチドでは、
大部分の切断部位はプロホルモンコンバターゼ(prohormone convertse)で切断されるアリギニンやリジンが連続した配
列で、プロエンケファリン A では典型的なプロセシング様式が観測された。しかし、プロコレシストキニンでは、典型的切
断は一箇所で、後は単一アルギニンでの切断と酸加水分解が観測された。他の例でも、単一アルギニンでの切断が比
較的多く観測されている。興味深い結果は、既知の蛋白質がプロホルモンコンバターゼなどのプロセシング酵素により
切断、修飾を受けて生成したと考えられるペプチド断片が存在することである。別の例では既知の活性ペプチドに類似
したペプチド断片が、ペプチドホルモン前駆体とは考えられない蛋白質より生成し、ある画分で最も強い質量ピークを形
成していた(図 14 の 6-7)。これらのペプチドは生体に内在する可能性が高いが、実際に脳内に存在するかどうか、現在
抗体などを用いて確認を行っている。内在性が確認され機能が見いだせれば、本ペプチドーム解析による方法論の有
用性が証明されることになるであろう。
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創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
1.Proenkephalin A由来ペプチド
1
BAM-25P
RR
KR
Met-E
KR
KR
107-133
KR
KR
KR
188-195
197-209
269
Met-E
KR
219-229
263-269
Met-Enk-RSL
Met-enk-RF
2.Protachykinin-1由来ペプチド
1
130
Substance P
RR
Neurokinin A
GKR
58-68
KR
GKR
72-95
3.Proopiomelanocortin由来ペプチド
1
KKR
KR
141-162
4.CART由来ペプチド
235
β-Endorphin
ACTH
KR
KK
Corticotropin-like intermediate peptide
(CLIP)
129
1
C A R T
LR
KR
60-79
5.Procholecyctokinin由来ペプチド
115
1
CCK-8
DP
PR R
PR
RK
DP
46-59
46-60
46-62
46-63
48-59
48-60
48-62
48-63
31-44
R
GRR
77-87
72-87
72-94
6.既知蛋白質由来ペプチド
Signal PT
KR
KR
GRR
NH2
KK
C-terminally amidated
Signal PT
KR
p
KR
N-terminally pyrogluamylated
7.既知蛋白質由来ペプチド
未知の切断部位
既知の活性ペプチドに類似
その画分で最大のイオン強度
図14. 構造決定されたペプチドと前駆蛋白質との関係
マウス脳分子量 3,000 以下のペプチド解析から得られた結果に基づく。
7. ペプチド試料供給体制の確立と活性ペプチドの検索
本研究の班員が共通した試料により研究を実施可能とするため、最終的にブタ脳 20kg よりペプチド画分を調製した。
これを分割しゲルロ過にて分離した後、分子量 3,000 以下、3,000-6,000 の2画分に分割した。この試料や 2 次元 HPLC
システムで分離した試料を供給し、構造解析研究や生物活性測定試料として使用した。また、寒川班員や芳賀班員とは
各種ラット組織、ブタ末梢組織について共同してペプチド抽出を行った。
芳賀班員の確立したオーファン受容体リガンド検索システムに上記ペプチド画分を提供することにより、モデル実験と
してオーファン ORL 受容体のリガンド検索を行い、リガンドのノシセプチンを同定できた。検索システムの選択性の高さと
共にペプチドデータベースの分離、解析方法の有効性を示すものである(芳賀班員の報告書参照)。寒川班員との共同
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創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
で、腎上皮細胞株の cAMP 産生刺激作用を指標としてブタ脳ペプチドの検索を行った結果、38 アミノ酸からなり分子内
SS結合、C末端アミド構造を有するカルシトニン受容体刺激ペプチド(CRSP)を発見できた(寒川班員の報告書参照)。
本ペプチドに続いて、ブタ脳には第 2,第 3 の CRSP の存在を証明でき、国内特許および PCT 出願を行った。久保班員
の作成した生物活性測定システムにおいても活性ペプチド検索を行ったが、ペプチド同定には至っていない。
8. その他
抽出法の妥当性、分離精製過程での分解の評価、構造決定したペプチドの内在性を確認するため、ペプチドや蛋白
質の 2 次的分解評価系の作成を行った。高尾班員と共同して、ホモジナイズ以降の抽出、精製段階で起こるペプチドや
蛋白質の 2 次的分解を質量分析計と安定同位体を使用して測定する方法を開発し、当該ペプチドが組織や細胞内に
存在したか否かを判断することが可能となった。また、組織をホモジナイズ後 10 分放置すると、分解ペプチドが多量に生
成することも確認された。さらに、操作しやすい培養細胞系なども利用して分解評価系の適用について検討した。
また、確立した方法論を組織以外にも拡大するため、細胞培養細胞上清、血液などについて、ペプチドの回収法、分
離、解析などの検討を高尾班員と行った。特にヒト培養細胞上清を使用した際には抽出操作が不要で、蛋白質画分との
迅速な分離により蛋白分質分解酵素の除去が可能で、HPLC により高度な分離が得られた。遺伝子や cDNA データベ
ースも完備しているため、ペプチドの構造解析を予備的に進めた結果、高効率に構造同定が可能で、これまでに 350 ペ
プチドの構造を決定できた。今後の解析対象として重要な血液には、多量の凝固線溶系や補体系の蛋白分解酵素が
存在するため、血漿を対象にカルシウムキレータを添加して検討した。しかし、採血条件、保存、処理方法などによりペ
プチドは大きく変化し、特に補体系の活性化により多くの断片ペプチドが生成することが分かった。血液に関しては、蛋
白質分解酵素の活性化を排除した採血法、ペプチド濃縮法の確立が不可欠である。
■考 察
本分担研究は、生体内ペプチドのデータベース構築に必要な技術的問題を解決し、方法論を確立することを目的とした。
第Ⅰ期の研究により抽出法やペプチド画分調製法、2 次元 HPLC による分離と物性情報の入手法、質量分析法を中心とし
た検出、構造解析法などの基本的システムを開発した。第Ⅱ期の研究では、ペプチドのプロファイリング方法として使用す
る 2 次元 HPLC による分離系を規格化、標準化し、物性情報を収集する方法を確立できた。また、分離した 5,000 画分中
のペプチドは質量分析法により高感度に検出され分子量が決定されると共に、ある閾値以上のピークについては、タンデ
ム質量分析計により高確率で構造情報を入手することが可能となった。この方法を用いて、ブタ脳組織 2g から得られるペ
プチドの解析し、17,788 ペプチドを検出できた。この内、ペプチドの構造を最終決定できたものは少数に止まった。一方、
マウス脳ペプチドについても 0.8g 組織分を解析した結果、分子量 3,000 以下のペプチド画分で 4,058 ペプチドを検出し、
495 ペプチドを構造決定できた。分子量 3,000-6,000 画分の解析が完了していないが、両画分を合わせ 10,000 ペプチド
以上が検出される見込みである。これらの情報はデータベースに登録を行ない、当初目標のペプチド解析数をほぼ達成
することができた。また、組織以外でもペプチドの調製、解析と情報の収集の検討を行い、細胞培養上清では有効に機能
することが確認され 350 ペプチドを構造決定できたが、血液ではペプチド画分の調製に大きな課題のあることが分かった。
個々の分離システム、解析システムは十分な力を有しているものの、データベース登録ペプチド数が伸びなかった第 1
の原因は、2 次元 HPLC を自動化、微量化し、ペプチドーム解析に完全に合致した分離システムの作製に時間を要した点
ある。第Ⅰ期途中で試作会社が開発を断念したため、段階的 2 次元 HPLC システムを作製したが、この系でも約 800 ペプ
チドの検出と約 200 ペプチドの構造解析が可能であった。最終年度の終わりに漸く完全なペプチドーム解析用分離システ
ムを開発、導入することができた。第2はペプチドーム解析用ソフトウエア開発を 3 年次から開始した点である。ペプチド試
料の分離、解析により多量のデータが発生するが、これを自動的に関連づけて収集、保管する実験室情報管理システムの
開発が遅れ、データ収集の大半を手動で行った。また、質量分析データの形式は各社で異なり、これらを統一的に収録し
て閲覧、表示すること、ピークの解析結果、構造解析結果などを収集、保管し、データベース作成時に適切に出力すること
が不可欠であるが、機器製作会社からの協力が得られず、これらの問題点を十分に解決できていない。ソフトウエア開発は
初年度から開始し、上記問題点の早期解決を図る必要があった。
25
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
データ収集の大部分は機器とソフトウエアの開発で自動化できたが、要となる部分でまだまだ人的関与が必要である。
最終的に構築できたシステムはかなり自動化できたので、従来に比して情報収集速度を 10-20 倍には増加させることがで
きると推定される。また、生体内ペプチドを3次元仮想空間で視覚的に実感できる表示ソフトウエアや、それを利用した検索
システムなどは開発できたが、データベース間の情報比較、特に対応するペプチド同定や関連づけなどに関するソフトウエ
ア開発を含めていなかったため、今後のデータベース利用の上で課題として残された。
一方、寒川班員らと共同して行った生理活性情報の収集と新規ペプチドの探索においては、ペプチドーム解析の分離
法や情報収集の成果を適用し、有効に研究を進めることができた。特にブタ脳より新規活性ペプチド、CRSP を発見できた
ことは、この研究の方法論とデータベース構築の上で大きな意義がある。また、オーファン受容体の内在性リガンドの検索
において惜しくも新規ペプチド同定を逸したが、既知ペプチドとその数%も存在しない微量の部分分解ペプチドを合計で
約 100 種同定したことは、ペプチドーム・データベース構築の方法論を活用することにより、新しいペプチド発見に向けた道
筋が拓かれたことを示すと考えられる。
真の生体内ペプチドの姿
図15. 現在得られているペプチド情報像と真の生体内ペプチド像との対比
本研究で収集したペプチド情報は抽出時以降の分解や変化などを含むため、データの
整理、基礎実験データの集積より抽出、精製、保存時の分解などに由来するペプチドを
排除し、真の生体内ペプチドのみを収録するシステムへと純化させる必要がある。
新たな技術的問題として、ペプチド構造解析結果より弱酸性条件下において特定のペプチド結合が加水分解され易い
ことが明らかとなった。これまでの解析で蛋白質のN、C末端ペプチドが数多く検出され、この大部分が酸加水分解により
生成したものと考えられる。ペプチドの精製、保存は溶解度などの点から酸性条件で行うことが多いが、今後解決しなけれ
ばならない大きな問題である。また、微量試料の保存や濃縮中に、メチオニン側鎖の酸化が高頻度に進み多くのピークに
分散する点も、データベース情報収集や解析の点から解決の必要な課題である(図 15)。
我々が 1997 年に生体内ペプチドのデータベース、ペプチドームの概念を提案し、1999 年に研究を開始した時点で、生
体内ペプチドのファクトデータベース構築の試みは世界で開始されていなかった[1]。2001 年になりドイツのベンチャー企
業の BioVisioN 社が、血液、尿、涙などの体液中のペプチドや低分子量蛋白質の網羅的な解析と、疾患マーカーの発見を目
指した研究を行っていることを発表した[2]。対象が体液中のペプチドであり、企業の性質からデータベースの内容は公開さ
れないと考えられるが、方法論などには多くの共通点が認められる。また、昨年になり、ペプチド解析技術を駆使して組織中
のペプチドの網羅的解析から新規活性ペプチドを見いだそうとする動きが世界で開始された[3,4]。これを情報データベース
化する動きはまだ限られているが、このような流れに対抗するためにも、規格化された 2 次元 HPLC を共通プラットフォームと
するペプチドーム・データベースの方法論をより高精度、高感度化し、生物活性情報収集システム、データベース構築・検索
システムを使用してできるだけ多くの情報を収集、公開し、本データベースの有用性、優秀性を確立して行きたい。
26
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
■ 引用文献
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南野直人:「ペプチドーム:生体内ペプチドのファクトデータベース化」, 蛋白質核酸酵素, 増刊「新世紀における蛋白
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原著論文による発表
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2.
Minamino, N., Tanaka, J., Kuwahara, H., Kihara, T., Satomi, Y., Matsubae, M., and Takao, T.:
「Determination of endogenous peptides in the porcine brain: Possible construction of Peptidome, a fact
database for endogenous peptides」, J. Chromatogr. B, 792, 33-48, (2003)
3.
Katafuchi, T., Hamano, K., Kikumoto, K., and Minamino, N.: 「Identification of second and third calcitonin
receptor-stimulating peptides in porcine brain」, Biochem. Biophys. Res. Commun., 308, 445-451, (2003)
4.
Katafuchi, T., Hamano, K., and Minamino, N.: 「Identification, structural determination, and biological
activity of bovine and canine calcitonin receptor-stimulating peptides」, Biochem. Biophys. Res. Commun.,
313, 74-79, (2004)
5.
Takeda, S., Okada, T., Okamura, M., Haga, T., Isoyama-Tanaka, J., Kuwahara, H., Minamino, N.: 「The
Receptor-Gα fusion protein as a tool for ligand screening: a model study using a nociceptin receptor-Gi2
fusion protein」, J. Biochem., 135, 597-604, (2004)
原著論文以外による発表
国内誌
1.
南野直人:「Peptidome:生体内ペプチドのファクトデータベース化」, Peptide News Letter Japan, 特集「21 世
紀のペプチド科学の展望」,39,3-4,(2000)
2.
南野直人:「ペプチドーム:生体内ペプチドのファクトデータベース化」, 蛋白質核酸酵素,増刊「新世紀にお
ける蛋白質科学の進展」,46,1510-1517,(2001)
3.
Kuwahara, H., Tanaka, J., Kihara, T., Matsubae, M., Takao, T., Minamino, N.:「Peptidome Project: Its
Purpose and Methods」, Peptide Science 2001, Ed. H. Aoyagi, p.369-370, (Japanese Peptide Society, 2002)
4.
桑原大幹,木原孝洋,田中純子,南野直人:「ペプチドームプロジェクト-生体内ペプチドのファクトデータベ
ースの構築-」,生物物理,42,122-126,(2002)
5.
木原孝洋,田中純子,桑原大幹,南野直人:「ペプチドーム解析」, プロテオミクス-方法とその病態解析へ
の応用-, 鈴木紘一監修,平野久,鮎沢一編,東京化学同人,pp.59-62,(2002)
6.
Kuwahara, H., Tanaka, J., Kihara, T., Matsubae, M., Matsui, Y., Takao, T., Isoyama, M., and Minamino, N.:
「Construction of peptidome database for endogenous peptides in mouse brain」, Peptide Science 2002, Ed. T.
27
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
Yamada, pp. 427-428, (The Japan Peptide Society, 2003)
7.
桑原大幹,木原孝洋,田中純子,南野直人:「ペプチドーム解析」, ポストゲノム・マススペクトロメトリー(生化
学者のための生体高分子解析)」, 丹羽利充編,化学同人,pp191-200,(2003)
8.
南野直人:「ペプチドーム」,医学のあゆみ,206,924-925,(2003)
9.
磯山(田中)純子,桑原大幹,木原孝洋,南野直人:「生体内ペプチドのファクトデータベース「ペプチドーム」
と蛋白質代謝のメタボローム」,炎症と免疫,11,657-664,(2003)
10.
南野直人,木原孝洋,磯山-田中純子,桑原大幹:「ペプチドーム,生体内ペプチドのファクトデータベース:
その解析法と応用」,循環器病研究の進歩,24,50-58,(2003)
11.
南野直人:「ペプチドーム解析」,ファルマシア,39,1157-1162,(2003)
12.
Kuwahara, H., Tanaka-isoyama, J., Kihara, T., Matsubae, M., Matsui, Y., Takao, T., Isoyama, M., and
Minamino, N.: 「Efficient data acquisition system for the Peptidome Database」, Ed. M. Ueki, Peptide Science
2003, pp. 427-428, (The Japan Peptide Society, 2004)
13.
南野直人,桑原大幹,松井泰子,木原孝洋,磯山-田中純子:「ペプチドーム研究の最前線」,化学と生物,
42, 162-169,(2004)
口頭発表
招待講演
1.
南野直人:「Peptidome:生体内ペプチドの網羅的ファクトデータベース化-ほ乳類脳を対象として」,三島,
国立遺伝学研究所研究会「ペプチド分子機能の多様性」,2001 年 3 月
2.
南野直人:「Peptidome、生体内ペプチドのファクトデータベース化の目指すもの」,長崎,生化学会九州支部
会シンポジウム「ペプチド研究の最前線」,2001 年 4 月
3.
Minamino, N., Takao, T., and Isoyama, M.:「Peptidome: Comprehensive fact-database for endogenous
peptides」, Seoul, Plenary lecture, The Fifth Korean Peptide Symposium, 2001 年 12 月
4.
南野直人,桑原大幹,田中純子,木原孝洋,松八重雅美,磯山正治,高尾敏文:「生体内ペプチドのファク
ト・データベース、ペプチドームの構築と利用」,久留米,第 27 回日本医用マススペクトル学会,2002 年 9 月
5.
南野直人:「身体にあるペプチドを知る・見る」,神戸,第 39 回日本ペプチド討論会市民フォーラム,2002 年
10 月
6.
南野直人,桑原大幹,木原孝洋,田中純子:「ペプチドーム・データベースと生体内ペプチド解析」,大阪,大
阪大学たんぱく質研究所セミナー「プロテオーム・ペプチドーム最前線-解析法の実際と応用-」,2003 年 2
月
7.
南野直人:「生体内ペプチドのファクトデータベース、ペプチドームの構築と応用」,東京,2003 年情報計算化
学生物学会,2003 年 9 月
8.
南野直人:ペプチドーム:「生体内ペプチドファクトデータベースの構築と創薬への応用」,富山,フォーラム富
山「創薬」,2003 年 9 月
9.
南野直人:「生体内ペプチドの網羅的データベース(ペプチドーム)を活用した創薬、診断・治療法の開発」,
大阪,第 14 回日本臨床化学会近畿支部会,2003 年 12 月
10.
南野直人:「生体内ペプチドのファクトデータベース、ペプチドームと創薬」,大阪,日本薬学会第 124 年会,
第 2 回創薬ビジョンフォーラム-創薬プロテオミックス・シンポジウム,2004 年 3 月
11.
Katafuchi, T., Minamino, N.: Complexity in the CGRP superfamily: 「Identification and biological activity of
calcitonin receptor-stimulating peptides」, Zurich, Joint International Symposium on Calcitonin Gene-Related
Peptide, Amylin and Calcitonin, 4th Symposium on Adrenomedullin and Proadrenomedullin N-20 Peptide,
2004 年 3 月
28
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
応募・主催講演等
1.
南野直人:「Peptidome:生体内ペプチドの多角的データベース化」,東京,蛋白合同年会・東京 2000,2000
年6月
2.
南野直人,田中純子,桑原大幹,木原孝洋,松八重雅美,高尾敏文:「ペプチドーム計画:生体内ペプチドの
ファクトデータベース化を目指して」,大阪,第1回日本蛋白質科学会,2001 年 6 月
3.
桑原大幹,田中純子,木原孝洋,松八重雅美,高尾敏文,南野直人:「Peptidome 計画の目的と方法」,長崎,
第 38 回ペプチド討論会,2001 年 10 月
4.
田中純子,桑原大幹,木原孝洋,南野直人:「ブタ及びマウス脳を対象としたペプチドーム・ファクトデータベ
ースの構築」,京都,第 49 回日本生化学会近畿支部会,2002 年 5 月
5.
南野直人,田中純子,桑原大幹,木原孝洋,松八重雅美,高尾敏文:「ペプチドーム(Peptodome):生体内ペ
プチドのファクトデータベース化」,大阪,第 75 回日本内分泌学会,2002 年 6 月
6.
桑原大幹,田中純子,木原孝洋,松八重雅美,松井泰子,高尾敏文,磯山正治,南野直人:「ブタ及びマウス
脳を対象としたペプチドーム情報データベースの構築」,神戸,第 39 回日本ペプチド討論会,2002 年 10 月
7.
木原孝洋,桑原大幹,田中純子,南野直人:「ペプチドデーターベース・ペプチドーム解析と生物活性情報の
収集について」,京都,第 75 回日本生化学会,2002 年 10 月
8.
片渕 剛,菊本克郎,濱野一將,寒川賢治,松尾壽之,南野直人:「腎上皮細胞の cAMP 産生を上昇させる
生理活性ペプチドの精製」,大阪,第 7 回日本心血管内分泌代謝学会,2002 年 11 月
9.
南野直人,田中純子,桑原大幹,木原孝洋,松八重雅美,高尾敏文,磯山正治:「生体内ペプチドのファク
ト・データベース、ペプチドームの構築と応用」,つくば,第 1 回日本ヒトプロテオーム学会,2003 年 2 月
10.
Minamino, N., Tanaka, J., Kuwahara, H., Kihara, T., Matsui, Y., Katafuchi, T.: 「Analysis of peptides in pig
and mouse brain for the Peptidome database」, 横浜, 第 76 回日本生化学会, 2003 年 10 月
11. 桑原大幹,田中純子,木原孝洋,松八重雅美,松井泰子,高尾敏文,磯山正治,南野直人:「ペプチドーム
データベースの効率的な構築について」,千葉,第 40 回日本ペプチド討論会,2003 年 10 月
12. 片渕 剛,濱野一將,菊本克郎,南野直人:「カルシトニン受容体活性化ペプチド・ファミリーの発見:ブタ脳に
おける2種の新規カルシトニン受容体活性化ペプチドの同定」,札幌,第 8 回日本心血管内分泌代謝学会,
2003 年 11 月
13. Minamino, N., Isoyama-Tanaka, J., Kihara, T., Matsui, Y., Kuwahara, H.: Peptidome project: Analysis of
peptides in pig and mouse brain for the Peptidome database, 大阪, 国立循環器病センター知的基盤研究国
際シンポジウム, 2004 年 1 月
14. Katafuchi, T., Minamino, N.: Calcitonin receptor-stimulating peptides: New members of the CGRP family with
unique biological activity, 大阪, 国立循環器病センター知的基盤研究国際シンポジウム, 2004 年 1 月
特許出願等
1.
2002 年 6 月 4 日,「cAMP の産生活性を有する新規ペプチド」,南野直人,片渕 剛,特願 2002-16277
2.
2003 年 5 月 28 日,「cAMP の産生活性を有する新規ペプチド」,南野直人,片渕 剛,PCT/JP03/06641
1.
片渕 剛:「腎上皮細胞の細胞内 cAMP を上昇させる新規生理活性ペプチドの単離」,日本心血管内分泌代
受賞等
謝学会若手奨励賞,2002 年 11 月 23 日
29
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
1. 生体内ペプチドの分離、精製、構造決定法に関する研究
1.2. 質量分析法による生体内ペプチドの超微量構造解析に関する研究
大阪大学・蛋白質研究所附属プロテオミクス総合研究センター機能・発現プロテオミクス研究系
高尾 敏文
■ 要 約
本研究では、質量分析法を用いた生体内ペプチドの構造解析をピコモルからフェムトモルレベルという微量で行うため
の方法論を開発し、また、質量分析データの解析を効率よく、確実に行うための解析支援ソフトウェア及び検索エンジンの
試作を行い、実際に、尿、血漿、細胞培養上清、ブタおよびマウス脳由来ペプチドの同定、構造決定に応用した。(図1)
■ 目 的
フェムトモルレベルの微量生体ペプチド(複雑な混合物として得られる)をそのままの形で網羅的に比較、構造解析できる
方法の確立を目指し、期間前半ではピコモルレベル、後半ではフェムトモルレベルの試料に対して、質量分析による超微
量構造解析法(アミノ酸配列及び翻訳後修飾)を従来法(1 ピコモル程度が限界)に代わって確立することを目的とする。これ
を実施するために、質量分析の超高感度化とそれに伴い必要不可欠となる微量試料の前処理及び分離法の開発を行っ
た。さらに、実スペクトルから構造解析が短時間かつ確実に行えるソフトウェア-を開発するとともに、得られる質量スペクトル
デ-タ-を最大限に活用することを目的に、スペクトルデ-タ-の比較、検索法の開発を行った。
具体的な研究項目としては、1)ピコモルからフェムトモルレベルの試料に対して微量試料前処理及び分離法を確立、2)質量分
析で得られる構造情報の精査、3) マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)高エネルギー衝突活性化開裂法(MS/MS)に
よる構造解析、4)MS/MS スペクトルをもとに配列データベースを検索できるソフトウェアの試作、5)安定同位体標識による分解物の
同定、6)気相エドマン分解法と質量分析によるペプチドのアミノ末端配列解析とデータベース検索法、7)血漿、尿から効率的にペ
プチドを単離する方法、8)ナノ LC/MALDI-MS/MS によるペプチドの自動測定と同定のハイスループット化、9)ナノ ESI によるミリ
マス測定法、10)MS 及び MS/MS スペクトルを検証するためのソフトウェアーについて検討し、以下の成果を得た。
生体ペプチド
気相エドマン分解
ブタ脳、尿、血漿、細胞培養上清
微量試料前処理、分離
サブピコモル~フェムト
モルレベル
高感度ESI-MS/MS、
MALDI-MS/MS
サブピコモル~フェムト
モルレベル
MS/MSスペクトル
検索エンジン
“PepMatch”
可視化ソフトウェア
m/z
検証用ソフトウェアー
“Isotopica"
MS/MS解析用ソフトウェアー
“MSEQ”
配列データーベース
アミノ酸配列及び修飾情報
ペプチドデータ蓄積法
図1.質量分析法による生体内ペプチドの超微量構造解析に関する研究
30
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
■ 研究方法
タンデム質量分析計(ESI-MS/MS, MALDI-MS/MS)、及び、MALDI-MS を用いてブタ及びマウス脳可溶抽出画分、培養細胞上清、
尿、血液から抽出、単離したペプチドの測定を行なった。質量分析における検出効率を改善する目的で、種々の分離用樹脂担体によ
る試料の前処理法について検討し、MALDI 法では、サンプルプレートに試料を塗布する直前に C18 担体による脱塩処理を行う方法
を、ESI 法では試料をインジェクトするための試料ループ内に逆相担体を充填することで脱塩と濃縮を効率よく行う方法を用いた。また、
ペプチド画分(~10kDa)を単離、精製する過程で生成してくる分解物を同定する目的で安定同位体による標識を行った。
ナノ LC を用いてピコモル以下のペプチド混合物の分離、精製を行った。単離されたサブピコモルレベルのペプチドに対
して、On-line ESI-MS/MS、及び、MALDI-MS/MS を行い、同定および配列決定を行った。スペクトルの解析には、本研究
で改良した一次構造解析支援ソフトウェア“MSEQ”を、データベース検索による同定には、市販の検索エンジンの”
MASCOT”、及び、本研究で試作の検索エンジン”PepMatch”を用いた。
MS/MS で観測された断片イオンをもとに、修飾アミノ酸(メチオニンスルフォキシドやリン酸化アミノ酸等)を含むペプチド
に対して特異的に観測されるシグナルを系統的に調べた。
また、気相化学反応装置を用いて、試料プレート上に塗布した複数のペプチド(サブピコモル~フェムトモル)に対して、
エドマン分解(5%トリエチルアミン水溶液、20%イソチオシアン酸メチル/ヘプタン(カップリング反応)、トリフルオロ酢酸(切
断反応))を連続して3サイクル行った。反応産物を MALDI-MS により測定を行い、観測されたシグナル間の質量差をもと
に N 末端アミノ酸配列を決定し、データベース検索に供した。
■ 研究結果
1.分析の直前に逆相樹脂担体(C18)を充填したカラム(Φ0.3 × 1 mm)を装着し試料を保持させ、0.2%ギ酸、5%アセト
ニトリルを含む水溶液で脱塩、洗浄の後、0.2%ギ酸、80%アセトニトリル水溶液(流速 200~300nL/min)で樹脂に吸着
したペプチドを溶出し、直接 ESI イオン源へ導入した(図2左上)。1mM の Tris-HCl 緩衝液を含むβカゼインのトリプシン
消化物(100fmol/μL)をそのまま ESI-MS により測定すると Tris-HCl のクラスターイオンのみが観測され、ペプチド由来
のシグナルは得られなかった(図2右上)。同じ試料溶液を用いて上記方法により脱塩、濃縮を行った後のスペクトル(3
分間積算し、約 1μL の試料溶液を消費)では、Tris-HCl は除かれ、カゼインのトリプシンペプチド由来の多価イオンシグ
ナルのみが観測された(図2下)。さらに、シグナル/ノイズ比が大幅に向上することで、サブピコモルレベルのペプチド
に対して MS/MS 測定が可能となった。
逆相樹脂担体
100 fmol/uL (1 mM Tris)
図 2 β-カゼインのリシルエンドペプチターゼ消化物(1mM Tris-HC 緩衝液中)の
図2 b-カゼインのリシルエンドペプチダーゼ消化物(1
mM Tris-HCl緩衝液中)の
逆相樹脂担体処理前後の ESI-MS
逆相樹脂担体処理前後のESI-MS
31
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
2.修飾アミノ酸(リン酸化アミノ酸、メチオニンスルホキシド)を含むペプチドの MS 及び MS/MS を行ない、修飾アミノ酸特異
的に観測される断片イオンを同定し、生成機構を考察した。特に、上記 2 種の修飾基は、イオン化の直後に導入される
フライトチューブでの比較的長い滞空時間内で、単分子開裂により容易に脱離する傾向がある。Ser、Thr のリン酸基は
β脱離によりはずれて前駆イオンよりも 98Da 質量の小さいイオンが観測されることが知られているが、ここでは、特に、
MALDI 法で一般的に利用されているリニアーモードとリフレクターモードで上記イオンの挙動を調べ、リン酸化 Tyr との
区別が可能であることを証明した。メチオニンスルホキシド(Met(O))は、しばしば部分酸化により生成するが、MALDI 及
び ESI-MS では、リン酸化ペプチドと同様に、スルホキシドを含む側鎖から、単分子開裂により容易にメタンスルフェン酸
が遊離し、64Da 質量の小さいフラグメントイオンが観測される。ここでは、特に、MALDI におけるレーザー強度とフラグメ
ントイオンの生成率との関係、及び、リフレクターモードでのイオンの挙動について明らかにした(文献7)。また、配列決
定の際には、Met(O)(147.035)と Phe(147.068)は通常の測定では判別は困難であるが、MS/MS において、Met(O)を含
む断片イオンは全て-64Da にシグナルが現れ、Phe との区別は容易に行える(図3)。また、上記 2 種の断片イオンは、
データベース検索による同定の際に有効に利用できる。また、ペプチド中に存在するα-、β-Asp 残基(構造異性体で
残基質量は同じ)の MS/MS で観測される断片イオンを種々の合成ペプチドや蛋白質由来ペプチドを用いて調べ、それ
ぞれに特異的なイオンを同定し、2つが判別が可能であることを示した(文献5)。
CH3
O=S
CH2
−CH3SOH (64 Da)
(CH2)2
CH
CH
CH
Met (O)
b-series
h-oh
Tyr
Leu
y”-series
Gly Gly
Gly
Arg
Phe
Met(O)
Met(O)
Phe
Arg
Gly
Gly Gly
Leu
Tyr
y"7
a1 Tyr
-oh
h-
−64
Met-Enkephalin-Arg-Gly-Leu
b2
−64
Phe
0
a2
y"2b-172
200
b3
y"3
z3
−64
y"4
b4
a4
−64 y"5
z4
400
z5
600
図3 Met(O)含有ペプチドの 低エネルギーCIDによるESI-MS/MS
32
y"6
M+H+
916.5
b7
800
m/z
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
3.配列決定に有効な開裂様式(a, a-17, b, b-17, b+18, y″, z イオン系列)を精査し、MS/MS スペクトルから直接アミノ酸配
列 を 構 築 で き る ソ フ ト ウ ェ ア “ MSEQ ” に 組 み 込 み 、 応 用 し た 。 図 4 A は BSA 由 来 ペ プ チ ド
(Leu-Gly-Glu-Tyr-Gly-Phe-Gln-Asn-Ala-Leu-Ile-Val-Arg)の MALDI- MS/MS スペクトルを“MSEQ”を用いて解析した
結果で、上記の主鎖開裂イオンに加え、側鎖由来断片イオンが観測されていることが容易にわかる。スペクトル中に観
測されている wa3 と wb3 イオンにより、C 末端から 3 番目のアミノ酸は Leu ではなく Ile であると判別できる。
( A)
( B)
図 4 BSA 由来トリプシンペプチドの MALDI-MS/MS スペクトルの“MSEQ”による(A)、
SwissProt 配列データベースを用いての“PepMatch”による検索結果(B)
4.タンデム質量分析、特に、MALDI- MS/MS で観測される断片イオン(主鎖に加えて側鎖由来の断片イオン)の質量値を
もとに、蛋白質配列データベースを WEB 上で効率よく検索できるアルゴリズム“PepMatch”を試作した。図4B では、
BSA 由来トリプシンペプチドの”SwissProt”データベースを用いた検索結果(上段)と最も確からしい候補配列(rank 1)に
対する帰属結果(下段)を示している。
33
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
5.質量スペクトルや LC プロファイルを可視化、比較できるソフトウェアを試作した(図5下段)。また、質量スペクトルから質
量値と強度データを簡単にコピー・ペーストできる機能も備えており、データベース検索の際に有効である。LC プロファ
イル(2 波長)を紫外吸光計のアナログ出力から簡単に取り込み、LAN 経由でサーバーに自動転送する装置(アナログ
信号取込装置)を試作した(図5上段)。
LAN
記憶カード(CF)
データファイル
時間
Ch1
Ch2
マーカー
クロマトグラム
フラクション
時間
図5 アナログ信号取込装置とクロマトグラム/スペクトル可視化
ソフトウェア”SpecInsight”による出力例
6.生組織からペプチドを抽出、精製する際に、副次的に生成してくる分解物はペプチドの網羅的解析によるデータベース
構築に大きな支障をきたす。分解物の中で加水分解により生成するものを特異的に判別、除外する目的で、安定同位
体標識を利用する新しい方法を確立した。これにより、生理的に存在するペプチドの同定をより的確に行えるものと考え
られ、血液試料や細胞培養上清に応用し有用性を見出した。
34
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
7.生体内ペプチドをハイスループットで同定することを目的として、多検体試料気相化学反応装置によるエドマン分解と
MS による方法について検討した。気相化学反応装置では、MALDI-MS 用の試料プレ-ト上に塗布した多数(~500
検体)の異なる試料に対して複数の化学反応を連続して行うことができ、フェムトモルレベルのペプチドに対し、3残基ま
での配列を MALDI 質量分析により同定可能であることを示した(図6)。これらの情報を合わせてデータベース検索に供
することにより、ペプチドの同定確度は飛躍的に向上するものと考えられる。
10
Pro
y"
810.3
Pro
Arg
Relative Abundance
8
713.0
y"
6
4
907.4
y"
1063.8
y"
2
0
44____02.PRN
700
Relative Abundance
6
800
900
1000
M L ys
969.6 y"
Pro
1100
m /z
Arg
1170.9
y"
4
991.7
1193.0
2
1268.1
y"
1425.6
y"
864.0
z
0
54____01.PRN
Relative Abundance
1000
1200
G ly
6
G ly
1400
m/z
Tyr
1534.2
y"
1478.0
4
1591.3
y"
y"
1754.6
y"
2
0 49____01.PRN
1400
1500
1600
1700
1800
m /z
図 6 ペ プ チ ドの エ ドマ ン 分 解 3サ イ ク ル 後 の 反 応 産 物 の M ALD I-M S。
そ れ ぞ れ の N末 端 か ら 3残 基 の 配 列 が 読 め る 。
8.血漿、尿から効率的にペプチドを抽出する方法について検討した。血漿では逆相担体による濃縮、ゲルろ過を、尿では
イオン交換あるいは透析後、逆相担体による濃縮、ゲルろ過による分画(ペプチド、タンパク質画分)を順次行い、最終
的に逆相ナノ LC により分離、分画する方法を確立した(図7)。
35
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
1.9
AU
1.4
0.9
0.4
-0.1
0
10
20
30
40
50
60
70
40
50
60
70
40
50
60
70
min
1.9
AU
1.4
0.9
0.4
-0.1
0
10
20
30
min
1.9
AU
1.4
0.9
0.4
-0.1
0
10
20
30
min
図7.ヒト尿ペプチド(3種の逆相担体による前処理)のnanoLC
9.8.で分離されたペプチドを直接 MALDI-MS/MS 用試料プレートに直接ブロット、引き続き MALDI-MS/MS による自動
測定とペプチドの同定をハイスループットで行える一連の方法を確立した。上記方法を尿、血漿、細胞培養上清由来の
ペプチドに応用し、尿については正常人尿について詳細な検討を行った結果、1708 個のペプチドが検出され、302 個
のペプチドついて構造を決定することができた。また、尿ペプチドについては日内及び日間変動等も調べた。
10.ナノ ESI 法においてサブピコモル量の微量ペプチドのミリマス測定(MS/MS)を可能にする新規方法を考案した。これ
により、MS/MS において帰属できない断片イオンや翻訳後修飾の帰属が容易に行える。
11.ペプチドの MS 及び MS/MS スペクトルとデータベース検索等で得られた候補配列や理論値を照合するソフトウェアー
の開発を行った。
36
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
■ 考 察
微量試料前処理、及び、分離法の開発については、新規方法論(安定同位体標識による分解物の同定法)も含めて、当
初の目標にないものが達成できた。サブピコモル~フェムトモルレベルのペプチドに対して、MS/MS、あるいは、気相エド
マン分解/MALDI-MS により構造同定及び決定が可能であることを示すことができた。
MS/MS データをもとに配列データベースを検索するソフトウェアでは、ペプチド主鎖に加えて側鎖由来の断片イオンを
考慮して検索できるものを試作できた。本機能は、市販のものも含めて現存する検索エンジンにはない機能である。これに
より、検索確度は向上するものと予想される。現在、プリカーサー蛋白質から非特異的切断などによって生成するペプチド
のインデックスについては、ヒト(SwissProt)のみの構築に留まっており、他の生物種については必要なものから構築予定。
ペプチド混合物のエドマン分解反応後の MS スペクトルは一般に複雑になるため、エドマン分解/MALDI-MS をもとに個々
のペプチドから効率よくアミノ末端配列情報を抽出、配列データベースに対し検索できるソフトウェアを開発する必要がある
と考えられる。
実質量スペクトルのデータベース化については、スペクトルデータが個々の質量分析計やデータ解析ソウフトウェアーに
依存するところが大きく、データフォーマットの統一は困難であり、それぞれの分析計独自のデータベースを一次データとし
て構築することとした。
■ 引用文献
なし
■ 成果の発表
原著論文による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
なし
国外誌
1.
Fernandez-de-Cossio, J., Gonzalez, J., Satomi, Y., Betancourt, L., Ramos, Y., Huerta, V., Amaro, A.,
Besada, V., Padron, G., Minamino, N., Takao, T.: ISOTOPICA: a Tool for the Calculation and Viewing of
Complex Isotopic Envelopes. Nucleic Acid Research, 32, W674-W678, (2004)
2.
Konishi, A., Shimizu, S., Hirota, J., Takao, T., Fan, Y., Matsuoka, Y., Zhang, L., Yoneda, Y., Fujii, Y.,
Skoultchi, A.I., Tsujimoto, Y.: Involvement of Histone H1.2 in Apoptosis Induced by DNA Double-Strand
Breaks. Cell, 114, 673–688, (2003)
3.
Hirota, J., Satomi, Y., Yoshikawa, K., Takao, T.: ε-N,N,N-Trimethyllysine-specific ions in matrix-assisted
laser desorption/ionization-tandem mass spectrometry. Rapid Commun. Mass Spectrom., 17, 371-376,
(2003)
4.
Minamino, N., Tanaka, J., Kuwahara, H., Kihara, T., Satomi, Y., Matsubae, M., Takao, T.: Determination of
endogenous peptides in the porcine brain: possible construction of Peptidome, a fact database for
endogenous peptides. Journal of Chromatography B., 792, 33-48, (2003)
5.
Fernandez-de-Cossio, J., Gonzalez, J., Satomi, Y., Shima, T., Okumura, N., Besada, V., Betancourt, L.,
Padron, G., Nagai, K., Shimonishi, Y., Takao, T.: Automated Interpretation of Low-energy
Collision-induced Dissociation Spectra by “SeqMS”, a Software Aid for De Novo Sequencing by Tandem
Mass Spectrometry. Electrophoresis, 21, 1694-1699, (2000)
6.
Gonzalez, J., Shimizu, T., Satomi, T., Shirasawa, T., Betancourt, L., Besada, V., Padron, G., Orlando, R.,
37
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
Shimonishi, Y., & Takao, T.: Differentiaing α- and β-Aspartic Acids by Low-Energy Electrospray Ionization
Mass Spectrometry. Rapid Commun. Mass Spectrom., 14, 2092-2102, (2000)
7.
Fang, S., Takao, T., Satomi, Y., Mo, W., Shimonishi, Y.: Novel Rearranged Ions Observed for Protonated
Peptides via Metastable Decomposition in Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization Time-of-Flight
Mass Spectrometry. J. Am. Soc. Mass Spectrom., 11, 345-351, (2000)
8.
Betancourt, L., Takao, T., Gonzalez, J., Reyes, O., Besada, V., Padron, G., Shimonishi, Y.: Metastable
Decomposition of a Peptide Containing an Oxidized Methionine(s) in Matrix-Assisted Laser Desorption
Ionization Time-of-Flight Mass Spectrometry. Rapid Commun. Mass Spectrom., 13, 1075-1076, (1999)
原著論文以外による発表(レビュー等)
国内誌(国内英文誌を含む)
1.
里見佳典,高尾敏文:翻訳後修飾解析,ゲノミクス・プロテオミクスの新展開,エヌ・ティー・エス,p493-498,
(2004)
2.
里見佳典,高尾敏文:スポット同定のための質量分析法-MALDI-TOF/PMF 法・de novo sequencing 法,「プ
ロテオーム解析マニュアル」,羊土社,p44-51,(2004)
3.
高尾敏文:MALDI によるプロテオミクス,レーザー研究,31 巻,13-10m,(2003)
4.
高尾敏文:質量分析による蛋白質の配列分析,「プロテオミクスの基礎」,臨床検査,医学書院,47 巻,p
1253-1257, (2003)
5.
高尾敏文:質量分析とプロテオミクス研究,学術の動向,日本学術協力財団,p60-61,(2003)
6.
高尾敏文:プロテオミクス研究に向けて,生産と技術,生産技術振興協会,55 巻,p59-60,(2003)
7.
高尾敏文:「プロテオームデータ解析法(質量分析),プロテオミクス‐方法とその病態解析への応用‐」,現代
化学増刊, 42,70-73,(2002)
8.
廣田淳子,高尾敏文:「ヒストンコード‐ヒストン翻訳後就職のダイナミズムと生理的意義‐」,化学,Vol.57,No.7,
56-57,(2002)
9.
高尾敏文:「プロテオミクス研究の新しい展開」,医学のあゆみ,医歯薬出版,202 巻,291,(2002)
10.
高尾敏文:「プロテオミクスに向けた質量分析法」,Chromatography,22,93-94,(2001)
11.
高尾敏文,松八重雅美,奥村宣明,永井克也:「プロテオーム(分析法)」 蛋白質・核酸・酵素,共立出版,
46 巻, 1504-1509,(2001)
12.
高尾敏文:蛋白質の質量分析(1) 磁場型質量分析装置とその応用. 蛋白質・核酸・酵素,共立出版,45 巻,
735-740,(2000)
13.
高尾敏文,里見佳典:質量分析,基礎生化学実験法,東京化学同人,3巻,(タンパク質,I.検出・構造解析
法), 153-167,(2000)
14.
大須賀潤一,里見佳典,高尾敏文:「De novo sequencing のための解析ソフトウェア "プロテオ-ム解析法
"」,実験医学別冊,羊土社,137-142,(2000)
国外誌
なし
口頭発表
招待講演
1.
Takao, T.: Analysis of Protein Modifications by Mass Spectrometry, Seoul, Third KIAS Conference on
Protein Structure and Function: Folding Mechanism, Proteomics, and Bioinformatics, 2003
2.
Takao, T.: Analysis of Post-translational Modifications in Proteomics, Seoul, The 1st Functional Proteomics
38
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
Symposium: Proteome Analysis by Mass Spectrometry, 2003
3.
高尾敏文:プロテオミクス研究と質量分析,吹田,第 50 回日生化学会近畿支部例会,2003 年
4.
高尾敏文:質量分析とプロテオミクス研究,大阪,第2回日本分析化学会近畿支部講演会,2003 年
5.
高尾敏文:プロテオ-ム解析と質量分析,神戸,日本化学会第79春季年会,特別企画,2001 年
応募・主催講演等
1.
Satomi, Y., Matsubae, M., Fernandez-de-Cossio, J., Takao, T.:
Mass Spectrometry for Peptidomic
Analysis,横浜,第 76 回日本生化学会大会,(2003)
2.
里見佳典,藤田哲史,田村義典,高尾敏文:第51回質量分析総合討論会,要旨集 p. 66-67,2003 年
3.
高尾敏文:プロテオーム解析における質量分析の現状と課題,横浜,第25回日本分子生物学会,2002 年
4.
高尾敏文:プロテオミクスに向けた質量分析とデータ解析,吹田,阪大蛋白研・東大医科研合同セミナー“プ
ロテオミクス研究の推進に向けて”,2002 年
5.
高尾敏文:プロテオミクス研究における質量分析法,日本質量分析学会創立 50 周年記念若手講演会,東京,
2002 年
6.
Takao, T.: Mass Spectrometric Methods for High-Sensitivity and High-Throughput Analysis of Proteins,
Suita, “Perspective of Proteomics in Protein Science and Genome Science” COE international IPR seminar,
2001
7.
高尾敏文,藤田哲史,田村義典,南野直人:ペプチドーム解析に向けた質量分析法,京都,第 74回日本生
化学会大会,2001 年
8.
高尾敏文:ポストゲノム時代の蛋白質の質量分析,第 99 回関西 MS 談話会,2001 年
9.
高尾敏文:プロテオミクスに向けた質量分析法,八王子,第 8 回クロマトグラフィーシンポジウム,2001 年
特許出願等
なし
受賞等
なし
39
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
2.生体内ペプチドの生物活性、受容体と立体構造に関する研究
2.1. 培養細胞とオーファン受容体を活用した生物活性と機能検索に関する研究
厚生労働省国立循環器病センター研究所
寒川 賢治
■要 約
生体内ペプチドの生物活性情報を網羅的に収集し、かつ新規活性ペプチドの発見を可能とするため、細胞内Caイオン
や cAMP 濃度、細胞膜電位や細胞外pHなどを指標とする活性評価法を確立し、多数の培養細胞と組み合わせることによ
り高感度、多検体処理可能な生物活性測定系を作製した。また、オーファン受容体を培養細胞に発現させ、上記活性評
価法と組み合わせた生物活性測定系も作製した。これらを脳抽出物に適用した結果、ニューロテンシンなどの既知のペプ
チド以外に、新規活性ペプチド、カルシトニン受容体刺激ペプチドを同定できた。同時に、標準化された2次元クロマト上で
生物活性情報収集を行うと共に、グレリンやニューロメジンUなどの内在分子型や受容体について検討を行った。
■目 的
生体内に存在するペプチドの網羅的ファクトデータベース構築し、その情報を医学、生物学系研究をはじめとする多様
な目的に利用可能とするには、ペプチドの物性や構造などの情報以外に、分離されてくる多数の画分やペプチドについて
生物活性などの情報を広範に収集、収録することが不可欠である。本研究では、先ずペプチドが細胞に作用した際に共通
して認められる細胞反応(細胞内カルシウムイオン濃度や cAMP 濃度、細胞膜電位や細胞外pHなどの変動)を指標とする
高感度の生物活性評価系を作製する。次に、これらの活性評価系と種々の組織や動物種由来の培養細胞とを組み合わ
せ、各種細胞の特性を活用することにより、生体内ペプチドの生物活性を高感度に測定し、かつ多試料処理可能なシステ
ムを開発する。また、リガンドが未知のオーファン受容体発現系も作製し、活性評価法を組み合わせたリガンド検索系を開
発する。これらの生物活性測定系やリガンド検索系を、データベース構築過程で生ずるペプチド画分に適用して生物活性
を評価し、得られた情報をデータベースに登録する。さらに、生物活性測定系やリガンド検索系などを多量処理した脳抽出
物に適用して新規の生理活性ペプチドの発見を目指し、関連するペプチド情報も収集する。
具体的には、
1.
種々の動物、組織に由来する細胞株を広範囲に収集するとともに、各種初代培養細胞の調製法を確立する。
2.
生体内ペプチドの生物活性を広範に測定可能とするため、細胞内セカンドメッセンジャーの変動、細胞外微小
pH 変動などの生理活性ペプチドが細胞に共通して誘起する反応に注目した評価法を確立し、活性評価法の高
感度化と多検体処理化を図る。
3.
各種細胞と活性評価法を組合せ、高感度、効率的な生物活性測定系を構築する。
4.
ゲノム構造から推定されるG蛋白質共役型オーファン受容体について cDNA を収集し、発現系を構築する。オーフ
ァン受容体を培養細胞に発現させ、高感度活性評価系と組み合わせ、効率的なリガンド検索システムを構築する。
5.
上記について粗精製ペプチド画分にも適用可能とし、新規活性ペプチドの検索に使用可能する。
6.
分離されてくる各精製段階の画分、2次元クロマトの全分画や精製されたペプチドを対象に、生物活性やオーフ
ァン受容体に対する親和性などの情報を収集し、データベースに収録するシステムを開発する。
7.
開発した生物活性測定系を脳抽出物に適用して、新規活性ペプチドの発見を目指す。
8.
新規活性ペプチドや関連ペプチド、グレリンやニューロメジンUなどの詳細不明な活性ペプチドについて、内在
性分子型、受容体などの情報を収集する。
40
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
■ 研究方法
1. 培養細胞の収集と初代培養細胞調製法
ATCC、JCBB、HSRRB,理研(RCB)などの各種細胞バンクなどより、培養条件、利用例、反応性、由来組織や動
物種などを参考に細胞入手し、増殖後保管した。初代培養細胞については、血管、心臓、脳、下垂体、皮膚を
はじめとする組織より、既報の調製法に基づき本研究に至適で利用可能な方法を作製した。
2. 生物活性測定法の開発
2.1. 細胞外微小 pH 変動を指標とした生物活性測定法
細胞の代謝活動変化により生じる微小な細胞外の酸性化(pH 低下)をサイトセンサー(Molecular Devise
社)を使用し高感度に検出した。ペプチドが作用して細胞内活動が増加すると代謝も亢進し、細胞外への代謝
酸排出の増加により細胞外の pH が低下する原理を利用する。
2.2. 細胞内カルシウムイオン濃度上昇を指標とした生物活性測定法
カルシウムイオン濃度の変動により蛍光変化を引き起こす Fluo-3、Fluo-4 などの試薬を細胞内に取り込ま
せ、96 穴プレート上でペプチド添加による蛍光の変動を FLIPR (Molecular Devise 社)で観測した。ペプチ
ドが細胞に作用した際、高い割合で細胞内器官、細胞外からカルシウムイオンが細胞質に流入し、細胞質の
カルシウムイオン濃度が上昇することを利用する。この方法は、オーファン受容体のリガンド検索系にも多
数利用した。
2.3. 細胞膜電位の変動を指標とした生物活性測定法
細胞膜の膜電位の変動を鋭敏に反映する蛍光試薬(Molecular Devises 社等)を使用し、96 穴プレート上で
蛍光の変動を FLIPR で観測した。ペプチドが細胞に作用した際、細胞内の情報伝達系が活性化された結果生
ずるチャネルを経た細胞内外へのイオンの移動に伴う膜電位の変化を利用する。
2.4. 細胞内 cAMP 濃度の変動を指標とした生物活性測定法
細胞内のアデニル酸シクラーゼ活性の変動を、細胞内あるいは細胞外へ漏出した cAMP 濃度の変動として観測し
た。先ず、従来のラジオイムノアッセイ(RIA)法についても改良を行い、高効率に実施可能とした。新規には、アルファ
スクリーン(Packard 社)による蛍光エネルギー移動により標的物質を定量化する方法を導入し、迅速に多検体の cAMP
濃度測定を可能とした。また、ルシフェラーゼに cAMP 依存性のプロモータを付けたレポーター遺伝子コンストラクトを
調製し、これを細胞内に導入することにより、刺激により生成するルシフェラーゼ活性量の増加を化学発光を用いて高
感度に測定する方法を開発した。G蛋白質共役型受容体の内、Gs 蛋白質と共役するものは cAMP 濃度を上昇し、Gi
蛋白質と共役するものは cAMP 濃度を減少させ、オーファン受容体のリガンド検索系にも利用した。
3. オーファン GPCR 発現系の作製
オーファン G タンパク質共役型受容体(GPCR)の cDNA を調製してこれを発現ベクターに組み込み、細胞に一時的に
発現させるシステム、安定的に発現するシステムを多数作製した。ペプチドなどの未知リガンドによる作用を、2項の生物
活性測定法の内、細胞内カルシウムイオン濃度や cAMP 産生濃度の変動として測定した。
4. 生物活性情報の収集、生理活性ペプチドの検索に適したシステムの選択
1 で収集、作製した培養細胞を 2 で確立した生物活性評価法に適用し、その組み合わせが生物活性測定系として機
能するシステムの選択を行った。先ず既知の活性ペプチド投与時に観測される活性量の変動を感度、特異性、再現性
などの点より評価した。次に、生体組織抽出物を投与した際の感度、再現性と粗精製物による非特異的反応の有無など
を考慮し、さらに高感度化、多検体処理化なども含めて使用する生物活性測定系を選択した。
5. 生物活性情報の収集システムの確立と情報の収集
本研究で南野、磯山、花井班員らの作製している実験情報管理システムへ、上記方法で測定した生物活性情報を収
集する際の形式や方法を設定した。測定機器により排出する情報形式が異なるため、それらの調整を行った。
ブタ脳抽出物中のペプチドの内、ゲル濾過により調製した分子量 3,000 以下のペプチドを対象に規格化した2次元ク
ロマト(1次元目イオン交換高速液体クロマト(HPLC)、2次元目逆相 HPLC)を実施し、得られた画分について 2-4 で作製
した生物活性測定法を用いて生物活性を測定した。
41
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
6. 活性ペプチドやオーファン受容体リガンドの検索と精製 構造決定
南野班員らとの共同で調製したブタ、ラットなどの脳抽出物を中心に、末梢組織抽出物中のペプチドなども対象として活
性ペプチドの検索を実施した。ゲル濾過およびイオン交換クロマトと逆相クロマトよりなる2次元クロマトの段階で詳細な検討
を行い、既知の生理活性ペプチドの溶出位置に関する情報などを織り込みながら精製を行った。明確な生物活性を示す画
分については、逆相 HPLC などを繰り返して精製し、構造を質量分析計、エドマン法シーケンサーなどを用いて決定した。
7. 関連ペプチドの探索、修飾構造の決定、内在性分子型、受容体、産生細胞などの情報収集
グレリンや新規活性ペプチドに関連するペプチド、内在するペプチドの構造を、生物活性評価系や抗体などを用いて
詳細に検討した。また、ニューロメジンUなどの受容体が不明な活性ペプチドについて、受容体遺伝子発現系を作製し
リガンド−受容体の関係を明らかにした。
■ 研究成果
1. 培養細胞の収集と初代培養細胞の調製
活性評価系に使用可能な線維芽細胞、上皮細胞、グリア細胞、神経芽腫細胞、下垂体腫瘍細胞など約 40 種の細胞
株を収集し、これらを増殖、保管した。また、初代培養やそれに近い培養細胞が利用可能な心臓(心筋細胞、心臓線維
芽細胞)、血管(内皮細胞、平滑筋細胞)、各種組織の線維芽細胞、下垂体前葉細胞、グリア細胞(アストロサイトなど)
10 種以上の細胞につき、本目的に合致した調製法を確立できた。
2. 生物活性測定法の確立と生理活性ペプチドの検索
2.1. 細胞外微小 pH 変化を指標とした生物活性測定法
線維芽細胞、アストロサイト、血管壁細胞、下垂体前葉細胞(初代培養)などが利用可能で、既知ペプチドで明確
な細胞外 pH 低下が観測された。単位時間当たりの処理検体数は少ないが、幅広くペプチドの生物活性を観測でき
る点が特徴である。ラット下垂体前葉細胞を標的としてラット脳ペプチドの活性評価を行ない、ゲルロ過、イオン交換
HPLC で分離した活性画分を逆相 HPLC で分離、再精製した結果、サブスタンスPや他のタキキニン系ペプチドが精
製された。この活性測定法により、最終的に十数種のペプチドを精製したが、全て既知の活性ペプチドであった。
2.2. 細胞内カルシウムイオン濃度上昇を指標とした生物活性測定法
既知の生理活性ペプチドによる細胞内カルシウムイオン濃度の変動は、収集した細胞の多くで観測されたが、反
応強度、濃度依存性は細胞により大きく異なっていた。例えばある細胞株ではブラジキニン、サブスタンスPは低濃度
でも強い反応を起こすが、オキシトシンでは1μM近い濃度が必要であった。一方、ニューロメジンUやニューロテン
シンは全く反応しない。しかし、他の細胞ではニューロテンシンが極めて強い活性を示した。これらの細胞毎の特性を
組み合わせ多様なペプチドの生物活性が測定できるシステムを構築した。
42
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
Final HPLC
イオン交換HPLCで分離後の逆相HPLC
fraction 49
Final HPLC
Orexin-B
Neuropeptide-γ
下垂体前葉細胞
アストロサイト
図1.細胞内カルシウム濃度を生物活性指標( FLIPR 法)とするペプチド精製例
下垂体前葉細胞とアストロサイトを使用し、最終的にニューロペプチドγとオレキシン B が精製された。
ラット脳ペプチドをゲルロ過、イオン交換 HPLC で分離し、更に逆相 HPLC で分離した画分を下垂体前葉細胞、ア
ストロサイトに投与したところ、2つの画分に細胞内カルシウムイオン濃度上昇活性が観測された。主要な活性画分を
再度精製した結果、にタキキニン系のニューロペプチドγが同定された(図1左)。他の活性画分からはオレキシンB
が精製された(図1右)。神経芽腫細胞株を用いたカルシウムイオン濃度測定により、ブタ脳よりタキキニン系ペプチド、
ニューロテンシン系ペプチドが精製された。この活性測定法により、最終的に約 50 種のペプチドを精製したが、全て
既知ペプチドとその部分分解ペプチド、酸化ペプチドなどであった。
2.3. 細胞膜電位の変動を指標とした生物活性測定法
約 10 種の細胞で既知ペプチドに鋭敏な反応を示し、細胞膜電位変動も活性評価に利用可能であることが確認で
きた。しかし、細胞内カルシウムイオン測定に比して安定性に欠け、定量性、再現性などでやや劣ることが明らかとな
った。3種の細胞についてはデータベース用の生物活性情報収集を含めて検討を行ったが、精製段階の低い試料
では非特異的反応も観測され、ペプチド探索においては改良が必要であった。
2.4. 細胞内 cAMP 濃度の変動を指標とした生物活性測定法
2.4.1. RIA 法: cAMP 濃度の測定は、安定した再現性の良い生物活性測定法である。RIA 法を用いる測定法においても抗
体の改良と高感度化を進め、安定した高感度活性評価系とできた。この評価系とブタ腎尿細管上皮細胞由来の
LLC-PK1 細胞を組み合わせた生物活性測定系は非常に鋭敏かつダイナミックな反応性を示し、ブタ脳抽出物と組合
せて新規活性ペプチドの探索を進めた結果、後述のようにカルシトニン受容体刺激ペプチド(CRSP)の発見できた。
2.4.2. アルファスクリーン法: RIA 法では多検体処理に限界があるため、微細ビーズ間の距離の違いによる蛍光強度変動
を利用するアルファスクリーン法による cAMP 測定を実施した。本評価系における標準曲線の中点は約 230
fmol/well で、刺激による cAMP 産生増加だけでなく、予めフォルスコリン刺激した細胞に Gi 共役型受容体(ノシセ
プチンやソマトスタチン受容体など)を発現することにより、cAMP 産生の抑制効果も観測することができた。実際に
ラット脳強塩基性ペプチド画分のゲル濾過画分を用いて HEK293 細胞の cAMP 産生刺激活性を検索した結果、広
範囲に cAMP 上昇活性が認められた。活性画分の一つを逆相 HPLC で分離した結果、図2に示すように分画番号
19,20 に強い cAMP 上昇活性が検出され、最終的に VIP が精製された。本法はカルシウムイオン濃度測定法より 10
倍高感度で 96 穴や 384 穴プレートで実施でき、かつ半日でデータ収集が可能であるため、生物活性測定法として
有用と考えられた。この方法により、7 種のペプチドを精製したが、全て既知ペプチドとその関連ペプチドであった。
43
60
800
600
CH3CN
cAMP (fmol/well)
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
cAMP
CH 3 CN
400
10
200
0
1
10
20
30
分画番号 (分/分画)
40
図2.HEK293 細胞の cAMP 濃度を生物活性指標(アルファスクリーン法)とするペプチド精製例
ラット脳ペプチドの逆相 HPLC による分離結果を示し、最終的に VIP が精製された。
2.4.3. レポーター遺伝子導入法: さらに高感度な cAMP 濃度変動の検出法として、ルシフェラーゼ遺伝子に cAMP 依存
性プロモータを付けたレポーター遺伝子を作製して細胞内に導入し、細胞内 cAMP 濃度の増加によるルシフェラー
ゼ遺伝子の発現、発現した酵素の活性を利用した化学発光物質の生成とその高感度測定による新規方法を開発
した(図3)。本法は、HEK293 または CHO 細胞にレポーター遺伝子単独、あるいは GPCR のオーファン受容体と共
に発現させると、弱い刺激であっても cAMP 濃度変動を極めて高感度に検出可能であった。また、アルファスクリー
ン法と同様に予めフォルスコリン刺激した細胞に対する抑制効果も測定可能である。この方法を HEK293 または
CHO 細胞に適用した際の手順を図4に示した。ペプチド試料の添加から測定までは6時間以内で完了でき、かつ
96 穴や 384 穴プレートの使用により多検体処理が可能である。また、化学発光法のためシグナルは強く安定し、ア
ルファスクリーン法より高感度で、cAMP 測定における新しい生物活性測定法となりうると考えられた。オーファン受
容体としてノシセプチン受容体(ORL-1 受容体)を発現させた HEK293 細胞におけるノシセプチンの作用を図5に示
した。10 pM(絶対量として 1 fmol/well)程度からノシセプチンによる cAMP 産生抑制効果が観測できた。この方法と
オーファン受容体発現系を組み合わせて、高感度、効率的な検索システムを構築できた。
GPCR
リガンド
Gs
adenylate
cyclase
cAMP
細胞外
CREB
(inactive)
A-キナーゼ
P
CREB
CRE
細胞質
核
転写
(active)
reporter gene
(luciferase)
CRE: cyclic-AMP responsive element
CREB: CRE-binding protein
図3. Gs共役型オーファン受容体リガンドの高感度発現クローニングシステム
受容体遺伝子と cAMP 依存性に発現されるレポーター酵素遺伝子を導入し、その酵素活性を測定した。
44
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
HEK293 or CHO cell (1×106cell/10cm dish)
37℃, CO2 incubator O/N
transfection (orphan receptor cDNA+luciferase reporter gene)
37℃, CO2 incubator 36hr
96-well plateに細胞を3×104cell/wellでplating
37℃, CO2 incubator O/N
medium 吸引後、100 mlのassay bufferに溶解したsampleを添加
(assay buffer: DMEM/1μM forskolin/0.1% BSA/10mM HEPES(pH 7.4))
37℃, CO2 incubator 3~4hr
luciferase assay
Relative luciferase activity (%)
図4. レポーター遺伝子導入法を用いた Gi共役型オーファン受容体リガンド検索法の手順
100
75
50
25
0
-13
-12
-11
-10
-9
-8
-7
Log [Nociceptin] (M)
図5. レポーター遺伝子導入法を用いて作成したORL-1受容体(Gi共役型)検出系における
リガンド(Nociceptin)の用量-反応曲線
3.カルシトニン受容体刺激ペプチド(CRSP)の発見
南野班員らと共同して作製したブタ脳(20kg)の抽出物より、先ず塩基性ペプチドを濃縮し、このゲル濾過画分を対象
に各種細胞に対する cAMP 産生刺激活性を測定したところ、ブタ腎尿細管上皮細胞由来の LLC-PK1 細胞において最
も強力な cAMP 産生刺激活性が観測された。ゲル濾過では広い範囲に活性が認められ、強力な活性が分子量 3,000〜
6,000 の画分に観測された。この画分を陽イオン交換クロマトグラフィーで分離後、さらに逆相 HPLC で分離し、各画分の
cAMP 産生活性を RIA 法により測定した。その結果を総合して2次元クロマト上に表示したのが図6である。大きく3つの
部分に cAMP 産生刺激活性が観測され、下側の部分はカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)に相当し、ここから
CGRP とその部分分解ペプチドが精製された。上側2つの活性は、既知ペプチドでは該当する活性が認められず、新規
ペプチドである可能性が高いと考えられた。最も上側の画分より逆相 HPLC による精製を繰り返した結果、cAMP 産生刺
激活性を有するペプチドを単一な状態に精製することができた(図7)。
45
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
電荷 (Ion exchange HPLC)
70
min
60
CRSP
50
未知ペプチド
40
30
CGRPと関連ペプチド
20
10
0
: 実測画分
: 推定画分
000
10
20
30
40
50
60
70 min
疎水性 (Reverse phase HPLC)
図6. ブタ脳ペプチド(分子量 3,000-6,000)の2次元クロマトグラフィーと cAMP 産生活性。
cAMP 産生活性はブタ腎尿細管上皮細胞株(LLC-PK1)を使用して測定した。標準化した2次元
クロマト条件を使用していないため、図13に示すような他のデータとの比較はできない。
図7. ブタ CRSP の逆相 HPLC による最終精製
cAMP 産生活性は矢印の単一吸収ピークに一致して観測され、精製が完了した。
エドマン法および質量分析法による構造解析の結果、このペプチドは 38 アミノ酸よりなり、N末端部に分子内ジスルフ
ィド結合による環状構造、C末端部にアミド化構造を有することが分かった(図8)。さらに、ヒト、ブタ、ウシの CGRP と極め
て類似したアミノ酸配列を有し、他の CGRP スーパーファミリーに属するアミリン、カルシトニン、アドレノメデュリン(AM)と
は構造的に異なっていた。しかし、このペプチドは CGRP 受容体や AM 受容体に全く作用せず、構造的に異なるカルシ
トニン受容体をカルシトニン自身よりも数百倍強く刺激することが明らかとなった(図9)。このため本ペプチドをカルシトニ
ン受容体刺激ペプチド(CRSP)と命名した。この事実は、カルシトニン受容体が CRSP の受容体であり、長い間探し求め
られていた中枢性カルシトニンの本体が CRSP である可能性を示すものである。また、カルシトニン自身には特異的な他
の受容体の存在する可能性が示唆された。本ペプチドの薬理、生理作用、分布等を含めた機能解析は、現在南野班員
らが中心となり実施している。
46
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
pCRSP
eCGRPI
pCGRP
eCGRPII
hhαCGRP
? CGRP
hhβCGRP
? CGRP
hAmyIin
hAmylin
pCT
hAM
SCNTATCMTHRLVGLLSRSGSMVRSNLLPTKMGFKVFG-NH2
SCNTASCLTHRLAGLLSSAGSMANSNLLPTEMGFKVS-NH2
SCNTATCVTHRLAGLLSRSGGMVKSNFVPTDVGSEAF-NH2
SCNTATCVTHRLAGLLSRSGGVVKSNFVPTDVGSEAF-NH2
ACDTATCVTHRLAGLLSRSGGVVKNNFVPTNVGSKAF-NH2
ACNTATCVTHRLAGLLSRSGGMVKSNFVPTNVGSKAF-NH2
KCNTATCATQRLANFLVHSSNNFGAILSSTNVGSNTY-NH2
CSNLSTCVLSAYWRNLNNFHRFSGMGFGPETP-NH2
GCRFGTCTVQKLAHQIYQFTDKDKDNVAPRSKISPQGY-NH2
YRQSMNNFQGLRSF
図8. ブタ CRSP および関連ペプチド(CGRP、アミリン、カルシトニン、アドレノメデュリン)のアミノ酸配列の比較
図9. ブタカルシトニン受容体発現系(COS7 細胞)における CRSP と関連ペプチドの cAMP 産生活性
CRSP はカルシトニン受容体をカルシトニンより数百倍強く活性化する。
4. オーファン GPCR 発現系の作製とペプチドの検索・同定
4.1. GPCR 発現系の作製: RT-PCR 法により報告されている各種オーファン受容体(GPCR)の cDNA をクーローニングし、
哺乳類細胞発現用ベクターpcDNA3.1 へ組み込み、発現用プラスミドを構築した。オーファン GPCR については定期
的に検索し、本研究期間で約 50 種について発現系を構築し、実際に細胞に導入して一過性発現が可能であることを
確認している。GPCR の選択においては、新規ペプチド探索に使用するため心臓・血管系細胞や脳神経系細胞など
に発現すること、既知ペプチド受容体 GPCR と相同性を示すオーファン受容体であることなどを基準とした。さらにこれ
らを CHO 細胞や HEK293 細胞へ導入後、G418 選択を行い、オーファン GPCR 安定発現細胞株を約 20 種樹立した。
一過性の遺伝子導入細胞、安定発現細胞における活性検出法としては、上記の細胞内セカンドメッセンジャーである
カルシウムイオン濃度や cAMP 濃度の測定法を使用した。
4.2. ペプチド受容体リガンドの検索・同定
4.2.1. 成長ホルモン放出促進因子レセプター(GHS-R)のリガンド探索
GHS-R 安定発現系を作製し、FLIPR を用いて細胞内カルシウムイオン濃度の変化を指標として、各種組織中の
ペプチドについて探索を行った結果、グレリン(ghrelin)をラット胃より精製・構造決定した。グレリンは強力な成長ホ
ルモン分泌促進活性を有し、3番目のセリン残基が脂肪酸(n-オクタン酸)で修飾された特異な構造を有し、この構
47
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
造が活性発現に必須であった。グレリンは胃粘膜下層の機能不明の内分泌細胞、X/A-like cell で産生され、血中
を経てホルモンとして下垂体に作用すると推定された。また、胃以外の消化管、中枢神経系などでもグレリンは産
生され機能していることが明らかとなった。グレリン精製の副画分を GHS-R 発現系を用いて検索した結果、14 番目
の Gln 残基が欠除した des-Gln14-ghrelin を単離、同定した。このペプチドは胃にグレリンの 25%程度存在し活性強
度も同等であるが、遺伝子構造解析の結果、遺伝子のスプライシングの相違により生成することが判明した。
グレリンの活性発現には脂肪酸修飾が必須であるが、胃や血漿中におけるグレリンの内在性分子型は不明であ
った。グレリン特異的な RIA 法と GHS-R 発現細胞を用いたカルシウムイオン濃度測定法を組み合わせ、ヒト胃組織
よりグレリン及び関連分子の探索を行った。その結果、胃組織中には主要分子型である 28 残基のオクタノイル化さ
れたグレリン(octanoyl ghrelin, C8:0)以外に、グレリンと同等の活性を有し脂肪酸修飾の異なる decanoyl
ghrelin(C10:0), decenoyl ghrelin(C10:1)、C-末端の Arg の欠落した 27 残基の octanoyl ghrelin[1-27], decanoyl
ghrelin[1-27]が存在すること、また、非活性型である des-acyl ghrelin 及び des-acyl ghrelin[1-27] が存在し、血漿
中にもこれらが存在することが明らかになった。しかし、des-Gln14-ghrelin はヒトでは見出されなかった。
4.2.2. オーファン受容体 GPR66 のリガンド探索
オーファン受容体 GPR66 はニューロテンシンなどのペプチド受容体に類似した構造を有していた。そこで安定
発現細胞系を樹立し、細胞内カルシウムイオン濃度上昇を指標とした活性測定法を組み合わせてリガンド探索を
行った。ラット脳抽出物の分離、精製画分の解析より、GPR66 の内因性リガンドが最終的にニューロメジン U である
ことを突き止めた。ニューロメジン U は我々が約 20 年前に、ブタ脊髄から平滑筋収縮活性ペプチドとして発見して
いたが、受容体は不明で生理作用の研究も進展していなかった。受容体、ペプチドなどの分布に基づき、ニューロ
メジン U が中枢性の摂食抑制作用をはじめ多様な機能を示すペプチドであることが明らかとなった。
4.2.3. オーファン受容体 GPR7 のリガンド探索
各種オーファン GPCR の内、細胞内カルシウム濃度を変動させる Gq 共役型受容体については研究が進んでい
るので、Gi 共役型受容体に注目して探索を行った。一方 cAMP 濃度の変動については、高感度のルシフェラー
ゼ・レポーター遺伝子導入法よる cAMP 測定法を確立できたので、これらを組み合わせて検索を行った。ラット脳
について、ペプチドームの分離法に従いペプチド画分を濃縮し、ゲル濾過で分離後イオン交換 HPLC と逆相
HPLC により分画し、ペプチドライブラリーを作製した。それらの画分の一部分を各種オーファン GPCR 安定発現細
胞株に反応させ、cAMP 産生抑制活性を検討した結果、オーファン GPCR(GPR7)に対する新規活性が検出され
た。ゲル濾過段階における GPR7 発現細胞の cAMP 産生活性を図10に示した。フォルスコリン刺激下、無刺激下
での cAMP 濃度変動活性を評価しているが、明確な産生抑制作用に見られた画分 46-50 について精製を進めた。
イオン交換 HPLC において、極めて強い塩基性ペプチド画分に cAMP 産生抑制活性が観測された(図11)。引き
続き精製を試みたが、含量が少なく実験器具への吸着などのため最終精製に至らず、構造決定できなかった。
GPR7 はオピオイドペプチド受容体に類似しており、今回作製したレポーター遺伝子導入法が有効に機能したと考
えられる。GPR7 の内在性リガンドはその後 Neuropeptide W として武田薬品工業により同定され、摂食調節などの
生理活性を有することが明らかになっている。
48
0.3
0.2
0.1
0
GPR7 / CHO
50
0
-50
Mock / CHO
50
0
-50
1
20
40
60
Change in luciferase activity (%)
吸光度 (280nm)
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
80
分画番号
吸光度 (280nm)
0.2
1.0
0.6
0.1
0.01
HCOONH4 (M)
(pH 6.5)
図10. ラット脳由来塩基性ペプチドを対象とした GPR7 受容体(Gi共役型オーファン受容体)リガンド
の検索。レポーター遺伝子導入法を用いて生物活性を評価した。赤棒はフォルスコリン存在下、
黒棒は非存在下における活性測定結果。
0
0
40
80
120
保持時間 (min)
図11. ラット脳塩基性ペプチド画分を対象とした GRP7受容体(Gi共役型オーファン受容体)リガンドの検索
図10の 46-50 画分を陽イオン交換 HPLC で分離し活性を測定した。赤棒は活性画分を示す。
5. データベース用生物活性情報の収集
上述のような各種生物活性測定法が、高感度に多検体に適用可能となったため、新しいペプチド検索と並行して、デ
ータベース用生物活性情報の収集に使用した。データベース情報の収集対象としては、サブテーマ1で南野班員が調
製したブタ脳のペプチド画分の内、分子量 3000 以下の画分を使用した。これは素材が豊富に利用でき、かつ分離や回
収、構造決定などが安定して実施できるためである。生物活性測定法としては、多検体処理が容易で測定ごとのバラツ
キが少ない蛍光法による細胞内カルシウムイオン濃度の測定を、FLIPR を用いて行った。評価系に使用する細胞種とし
ては、多くの神経ペプチドに反応する神経芽腫細胞と、末梢組織などに由来し反応性の良い3種の細胞株を選定した。
49
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
ブタ脳のペプチド画分は南野班員より提供を受け、ゲル濾過の段階まではペプチド構造・物性情報データベースに
収録するものと同一処理を行ったペプチド混合物を使用した。ゲル濾過段階における神経芽腫細胞の細胞内カルシウ
ムイオン濃度の上昇活性の大部分は、図12A に示すように分子量 3000 以下の画分に認められ、分子量 10,000 以上の
画分の活性は非特異的な活性であることが確認されている。南野班員が行った分子量 3,000 以下のペプチド画分の2
次元 HPLC による分離結果を図13A に示すが、生物活性測定用には同じペプチド画分について分離量を増加してイオ
ン交換 HPLC、逆相 HPLC を行った。分子量 3,000 以下のペプチド画分を規格化した陽イオン交換 HPLC で分離した
のが図12B である。細胞内カルシウムイオン濃度上昇活性はイオン交換クロマト上で4つのピークに分かれ、活性を示
す各画分をそれぞれ逆相 HPLC で分離したのが図12C である。これらの活性画分は更に精製を進め、最終的にはサブ
スタンスPとそのメチオニン酸化物、ニューロテンシンとそのN末端部が部分的に分解したペプチドの5種が構造決定さ
れた。これらの生物活性情報を2次元 HPLC の標準化されたプラットフォーム上に表示したのが図13B であり、精製され
た5種のペプチドの溶出位置が明確に理解できる。同じ標準化された2次元 HPLC 上で、既知の生理活性ペプチドの溶
出位置は、南野班員らにより測定されているので(南野班員の報告参照)、ニューロテンシンやサブスタンスPについて
は溶出画分の比較・検討より、容易に既知の活性ペプチドと推定できる。
図12と同様にブタ脳由来の分子量 3,000 以下のペプチド画分について2次元 HPLC で分離を行い、得られる 5,000
画分について生物活性の評価を行い、観測された細胞内カルシウムイオン濃度上昇強度を記載したのが図13の C から
E である。細胞 C、D、E でそれぞれ活性発現画分の分布が異なり、共通して観測される画分もあれば、個々に異なる画
分もある。全体として細胞 C はカルシウムイオン濃度上昇活性を示す画分が比較的少なく、細胞 D、E では多くなり、特
に細胞 E では特異的な画分に活性が観測されることが分かった。これらの活性画分のうち、既知の活性ペプチドの溶出
位置に相当しない画分より、順次精製と生物活性の評価を行っている。
上記のように標準化された2次元 HPLC 上で生物活性情報を系統的に測定、収集し、既知の生理活性ペプチドの溶
出位置に関する情報、各画分に含まれる生体内ペプチドの情報を統合、集積することにより、新規活性ペプチド発見の
機会が増加すると期待される。ラット脳抽出物中のペプチドについても、図2や図10に示すように系統だった分離を行う
と同時に情報収集に向けたシステムを検討中である。最終的に収集された生物活性情報については図13に近い形で
データベース上に表示、公開される見込みである。
50
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
図12.細胞内カルシウム濃度(FLIPR)と神経芽腫細胞株を用いた生物活性情報の収集
A)ブタ脳粗ペプチド画分のゲル濾過と細胞内カルシウム濃度上昇活性、B)分子量 3,000 以下の画分
SP-イオン交換 HPLC による分離、C)活性画分の逆相 HPLC による分離
(Bのピーク 1, 2, 3, 4 の分離結果を C-1, C-2, C-3, C-4 に示す。各活性画分からは図下に示したペプチドが
精製、構造決定された。最終的に得られた情報は、図13B に 2 次元表示で示した。)
51
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
イオン交換HPLC (画分)
A
B
60
60
40
40
20
20
0
0
0
C
20
40
60
逆相HPLC(画分)
75
0
20
40
60
逆相HPLC(画分)
D
75
E
図13. 規格化された2次元 HPLC 上における生物活性情報の収集
A)ブタ脳ペプチド画分(分子量 3,000 以下)の2次元 HPLC の結果(吸光度)、B-E)2 次元 HPLC 上の
ブタ脳ペプチド画分を各種細胞に投与した際に観測される細胞内カルシウム濃度上昇活性(B:神経芽
腫由来細胞、C-E:各種組織由来細胞株)
■考 察
本研究以前より新規生理活性ペプチドの検索、発見を目指した研究を実施してきたが、その研究基盤を利用して研究を
推進した結果、細胞株、初代培養細胞系を含め 50 種程度の細胞を活性評価系に使用することが可能となった。また、細
胞内カルシウムイオン濃度や cAMP 濃度、細胞外微小 pH、細胞膜電位などの変動を指標とした生物活性の評価系を確立
することができた。これらの培養細胞と活性評価系とを組合せて高感度に反応し、安定性や再現性に優れ、多検体の効率
的な処理が可能なシステムを数多く作り出すことができた。しかし、実際の組織抽出物中の未精製のペプチドに適用した場
合、あるいはクロマトより得られる連続画分に適用した場合、非特異的反応が少なく安定した活性情報が得られる生物活性
測定系は比較的限られていた。また、特定のペプチドに対しては鋭敏な反応を示すものの、その反応スペクトルが非常に
限定的であり、活性ペプチドの検索には不向きなシステムもあった。このような検討を経て最終的に新規生理活性ペプチド
探索に適するシステムを選択、構築することができた。今回設定した細胞内カルシウムイオン濃度、細胞外微小 pH、cAMP
濃度変動などを指標とする活性測定法を下垂体前葉細胞、神経系細胞などに適用し脳内のペプチドの探索を実施した結
果、タキキニン系ペプチド、ニューロテンシン系ペプチド、オレキシンB、VIPなどのペプチドが単離された。同時にこれらの
部分的な分解ペプチドで活性を保持するペプチドも多数単離、構造決定された。
52
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
腎上皮細胞株の cAMP 濃度上昇活性を指標としてブタ脳ペプチドの系統的な検索を実施した結果、分子量 3,000〜
6,000 の塩基性で疎水性のやや高いペプチド画分に、明確な cAMP 産生刺激活性が認められ、この活性は既知の活性ペ
プチドには該当しなかった。この画分より最終的に CRSP を精製することができた。本ペプチドは CGRP に近い構造を有す
るが CGRP 受容体を活性化せず、カルシトニン受容体をカルシトニンより 100 倍以上強力に刺激する新しいペプチドであっ
た。精製に向けた本研究の方法論が有効に働いた例と考えられる。
一方、オーファン受容体の発現系も 50 種以上作製することができ、各種の高感度、多検体処理可能な活性評価系と組
み合わせることにより、効率的な内因性リガンド検索システムを構築することができた。オーファン受容体 GHS-R の内因性リ
ガンドとしてグレリンを発見していたが、本研究により内在性のグレリンに多様な分子型が存在すること、修飾構造である脂
肪酸エステルにも多様性があること、Gln14 の欠失した活性ペプチドの存在することなどを明らかにできた。また、オーファン
受容体 GPR66 の内在性リガンドがニューロメジンUであること同定した。活性評価系として cAMP 濃度の変動に対する高感
度測定系を開発できたので、これをオーファン受容体発現系と組み合わせてリガンド検索を積極的に行った。しかしながら、
GPR7 のリガンド検索においては惜しくも成功を逸した。
ブタ脳のペプチドを対象として、南野班員が調製した分子量 3,000 以下のペプチド混合物を規格化した2次元 HPLC に
より 5,000 画分に、その試料につき上記の細胞内カルシウム濃度変動などの生物活性測定法を適用して本データベース
へ登録する情報収集を収集した。図13に示した2次元 HPLC 上で観測される活性の多くは、既知の生理活性ペプチドとそ
の分解ペプチドに由来すると考えられるが、既知ペプチドの溶出位置、生体内ペプチドの情報、各種生物活性情報を同じ
規格化されたプラットフォーム上に収録することにより、有効な情報基盤を形成できると考えられた。
今回の研究では、全く新規のペプチドとしては CRSP が発見できただけであるが、ニューロメジンU受容体の同
定、生体内グレリンの多様な分子構造も明らかにすることができた。これら以外に、100 種に近い既知の生理活性
ペプチド、その部分的な分解ペプチドや酸化ペプチドを精製、構造決定した。これらのことは、ペプチドームで
形成されるデータベース情報と各研究者の情報と組み合わせることにより、研究の推進が可能であることを如実
に示すものである。高感度な活性評価系、ハイスループットな測定機器と本研究で開発した情報収集システムを
統合し、データベースにより多くの生物活性情報を収集することにより、本データベースはペプチド研究者にと
り非常に有効な情報基盤と成長すると期待される。
■ 引用文献
なし
■ 成果の発表
原著論文による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
なし
国外誌
1.
Hosoda, H., Kojima, M., Matsuo, H. and Kangawa, K.: Purification and characterization of rat.
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Purification and identification of neuromedin U as an endogenous ligand for an orphan receptor GPR66 (FM3).
Biochem. Biophys. Res. Commun., 276, 435-438, (2000)
3.
Hosoda, H., Kojima, M., Matsuo, H. and Kangawa, K.: Ghrelin and des-acyl ghrelin: two major forms of rat
53
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
ghrelin peptide in gastrointestinal tissue. Biochem. Biophys. Res. Commun., 279, 909-913, (2000)
4.
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secretagogues. Biochem. Biophys. Res. Commun., 284, 655-659, (2001)
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rats and stimulates insulin secretion. Diabetes, 51, 124-129, (2002)
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11.
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14.
Kaiya, H., Kojima, M., Hosoda, H., Moriyama, S., Takahashi, A., Kawauchi, H. and Kangawa, K.: Peptide
purification, complementary deoxyribonucleic acid (DNA) and genomic DNA cloning, and functional
characterization of ghrelin in rainbow trout. Endocrinology, 144, 5215-5226, (2003)
原著論文以外による発表(レビュー等)
国内誌(国内英文誌を含む)
なし
国外誌
なし
54
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
口頭発表
招待講演
1.
児島将康,寒川賢治:オーファン GPCR リガンド探索—グレリンとニューロメジン U(NMU),東京,GPCR リガン
ドの探索と機能解析シンポジウム,2002 年 5 月
2.
土居健太郎,細田洋司,児島将康,寒川賢治:新たなグレリン・アイソフォームの構造決定,東京,GPCR リガ
ンドの探索と機能解析シンポジウム,2002 年 5 月,
3.
寒川賢治:新規ペプチド探索をめざしたペプチド生物活性情報収集システム,大阪,大阪大学たんぱく質研
究所セミナー,2003 年 2 月,
4.
Kangawa, K., Discovery of ghrelin: its structure and functions, 箱根, The 6th International Symposium on
VIP, PACAP and Related Peptides, 2003 年 9 月
応募・主催講演等
1.
片渕剛,菊本克郎,濱野一將,寒川賢治,松尾壽之,南野直人:腎上皮細胞の cAMP 産生を上昇させる生
理活性ペプチドの精製,京都,第 75 回日本生化学会,2002 年 10 月
2.
片渕剛,菊本克郎,濱野一將,寒川賢治,松尾壽之,南野直人:新規生理活性ペプチド・カルシトニン受容
体活性化ペプチドの生理機能の解析,横浜,第 76 回日本内分泌学会,2003 年 5 月
3.
Katafuchi, T., Kikumoto, K., Hamano, K.. Kangawa, K., Matsuo, H. and Minamino, N.: Calcitonin
Receptor-Stimulating Peptide: Its Isolation, Structural Determination, and Biological Activity, フィラデルフィ
ア, 第 85 回アメリカ内分泌学会, 2003 年 6 月
4.
片渕剛,濱野一將,菊本克郎,松尾壽之,寒川賢治,南野直人:カルシトニン受容体刺激ペプチドの精製,
構造決定とその生物活性,千葉,第 40 回日本ペプチド討論会,2003 年 10 月
5.
Kangawa, K., Hosoda, H. and Kojima, M.: Ghrelin, a new regulator in the endocrine, central nervous and
cardiovascular system. Frontiers in Peptidome Reserch: Methods for Analysis and Applications, Jan. 2004,
Osaka
6.
Nakazato, M., Date, Y., Minamino, N. and Kangawa, K.: Feeding regulation by recently discovered peptides.
Frontiers in Peptidome Reserch: Methods for Analysis and Applications, Jan. 2004, Osaka
特許等出願等
なし
受賞等
1.
寒川賢治:岡本国際賞,成人血管病研究振興財団, 2002 年 10 月
55
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
2.生体内ペプチドの生物活性、受容体と立体構造に関する研究
2.2. 機能蛋白質発現系と分化発生系を用いた生物活性と機能検索に関する研究
独立行政法人産業技術総合研究所脳神経情報研究部門脳機能調節因子研究グループ
久保 泰、稲垣 英利、仲島 由佳、小林 寿珠子
■要 約
本研究では、生体機能において重要な役割を果す機能蛋白質に対して特異的に作用し、その機能調節に関与する生
体内ペプチドの探索を行った。中でも特に、脳神経情報伝達に重要なイオンチャネルや受容体の発現系及び分化発生系
に作用する生体ペプチドを標的として探索を行った。生体内ペプチドの調製は、組織からの抽出法以外に cDNA からペプ
チドを発現させる分子生物学的手法を導入した探索の技術開発を行った。その結果、分泌腺組織の cDNA ライブラリーか
らは、イオンチャネルや受容体のブロッカー、アンタゴニスト、酵素阻害剤、抗菌性ペプチド等と相同性のある新規ペプチド
を同定するとともに、それらの特性の一部を明らかにした。
■目 的
細胞にはさまざまの役割を担う機能タンパク質が存在する。それは例えば外部から情報を受取り細胞内にシグナルを伝
える受容体であったり、細胞の興奮性をコントロールするイオンチャネルやトランスポーターである。また記憶の成立過程や
神経系の発生過程に関与する機能素子として転写因子や成長因子などである。これらの機能素子を介して行なわれる神
経細胞間の統制された情報伝達は、生体の恒常性維持だけでなく、学習や記憶、情動といった高次の脳神経活動を生み
出すために必須である。そのためこれらの現象の分子的基盤を理解することは、我々の生命活動の基盤を理解する上で
必要である。近年のバイオ技術及び計測技術の目覚しい発達により、細胞機能素子の分子基盤が大きく展開する一方で、
従来の生化学的手法では見ることの難しかったサブタイプ、サブファミリーなど機能素子の分子多様性や多機能性が新た
に明らかになってきた。これらの各々の分子種を特異的に認識しその活動を調節する因子を見つけることは、多数の機能
素子が連携して発現する生体機能を理解するために重要である。本研究では、遺伝子工学的手法による機能調節因子の
探索技術の開発を行い、その結果得られた新規ペプチドの構造及び生理特性を解析する。さらにその情報が生物科学な
らびに産業における知的基盤として有効に利用されるために、生体内ペプチドの機能的データベースを構築しているサブ
グループに情報を供給する。
■ 研究方法
1.脳神経系機能蛋白質を特異的に発現する発現系の樹立
検索する生物活性により特定の受容体、イオンチャネル、酵素等の機能蛋白質を選び、それらの cDNA を PCR 法等によ
り調製する。この cDNA を動物細胞発現ベクターに組込み、機能蛋白質を特異的に発現する培養細胞系の作製を行う。ま
た機能蛋白質の種類により、アフリカツメガエル卵母細胞を用いた発現系でもアッセイできるように、機能蛋白質 cRNA 合
成のためのプラスミド DNA を構築する。
1.1.機能蛋白質 cDNA の取得と発現用プラスミドの構築
セロトニン受容体 2A(ヒト)、2B(ヒト)、2C(ヒト)、3(マウス)、4(ヒト)、7(ヒト);ニコチン性アセチルコリン受容体α7(ラット)、α3/
β4(ラット)、α2βδε(マウス);ムスカリン性アセチルコリン受容体 m1-m4(ブタ);Ca2+チャネル(ラット);K+チャネル RCK1(ラ
56
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
ット)、RCK4(ラット);Na+チャネル NaChII(ラット)、NaChIII(ラット)をコードする cDNA は、それぞれの塩基配列データベースに
基づきデザインした各機能蛋白質特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いて、各生物種の脳 cDNA ライブラリー、first
strand cDNA あるいはクローン化された cDNA を鋳型にして PCR を行った(ハエ Kv1-Kv4 及び NaChII、NaChIII cDNA は、
L. Salkoff Washington Univ. 教授及び野田昌晴基礎生物学研究所教授からの恵与による)。予定サイズの PCR 産物は、
cRNA 合成の目的では SP6 プロモーター配列と Xenopus β-globin の配列の一部を擁するベクターpSD64 [1]へ、動物培
養細胞への transfection を行う場合は pcDNA3 (Invitrogen)あるいは pKCR [2]に連結し、大腸菌への transformation、プラ
スミド DNA 取得の後、塩基配列の確認を行った。その他の機能蛋白質として、リガンド未知の G 蛋白質共役型受容体
(GPCR)を後述する機能蛋白質濃縮技術により取得し、これについても pSD64 及び pcDNA3 への構築を行った(表-1)。
1.2.機能蛋白質の発現と機能アッセイ
pSD64 ベクターに連結した機能蛋白質 cDNA は、MEGA script kit (SP6 RNA polymerase, Ambion)により cap analogue
及びポリAテールを付加した cRNA を合成し、Xenopus oocyte への微量注入によりこれらの機能蛋白質を発現させた。2 本
電極の膜電位固定法によりリガンド(受容体)、あるいはコマンドパルス(イオンチャネル)により誘導される電流変化を記録し
た。また CHO あるいは COS-7 細胞において受容体を安定して発現させるために培養細胞の株化を行った。受容体機能
は、Fura2-AM をロードした細胞にそれぞれのリガンドを投与し、受容体-G 蛋白質と共役して起こる細胞内カルシウム濃度
の変化を Fura2 の蛍光強度変化により測定した(FDSS, Hamamatsu Photonics)。
表-1. 機能蛋白質発現系
機能蛋白質名
GPCR
セロトニン受容体 (ヒト)
vector
5HT2A
CHO, NIH3T3, HEK293, COS-7
5HT2B
pSD64
Xenopus oocyte
pcDNA3
NIH3T3, HEK293
5HT2C
pSD64
Xenopus oocyte
pcDNA3
NIH3T3, HEK293, COS-7
5HT4
pSD64
Xenopus oocyte
pcDNA3
COS-7
pSD64
Xenopus oocyte
pcDNA3
COS-7
オーファン GPCR (マウス)
pSD64
Xenopus oocyte
pcDNA3
CHO
pSD64
Xenopus oocyte
ムスカリン性アセチルコリン受容体(ブタ)
m1-m4
pKCR
NG108-15
Ca2+ チャネル (ラット)
Cav3
pSD64
Xenopus oocyte
pcDNA3
CHO, HEK293
K+ チャネル
Kv1
pSD64
Xenopus oocyte
(ハエ、アメフラシ)
Kv2
pSD64
Xenopus oocyte
(ハエ、アメフラシ)
Kv3
pSD64
Xenopus oocyte
(ハエ、アメフラシ)
Kv4
pSD64
Xenopus oocyte
(アメフラシ)
Kv5
pSD64
Xenopus oocyte
(アメフラシ)
Kv6
pSD64
Xenopus oocyte
NaCh II
pSD64
Xenopus oocyte
NaCh III
pSD64
Xenopus oocyte
α2βδε
pSD64
Xenopus oocyte
(ラット)
α7
pSD64
Xenopus oocyte
(ラット)
α3/β4
pSD64
Xenopus oocyte
5HT3
pSD64
Xenopus oocyte
(ラット、ハエ、アメフラシ)
Na+ チャネル(ラット)
Ligand-gated
Xenopus oocyte
pcDNA3
5HT7
Ion channel
pSD64
host cells
ニコチン性アセチルコリン受容体(マウス)
ion channel
セロトニン受容体 (マウス)
57
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
2.発現スクリーニング cDNA ライブラリーの調製と生理活性ペプチドの同定
種々の cDNA ライブラリーを調製し、それより in vitro で合成したペプチド分画から生理活性を示すペプチド cDNA を単
離・同定する。
2.1.poly(A)+RNA の平均化と cDNA ライブラリーの構築
Sasaki らの方法[3]に従い poly(A)+RNA の平均化操作を行った(図 1)。200μg の poly(A)+RNA をもとに 25 mg 相当の
OligoTex dT30 (Takara)粒子上に逆転写酵素で first strand cDNA を合成する。20μg の poly(A)+RNA を用いて 1 回目の
mRNA-1st strand cDNA のアニーリングを行い含量の多い RNA 種を排除する。アニーリングしない RNA を含む上澄を用い
て 2 回目のアニーリングを行う。以下、同様の操作を繰り返し 4 回目の上澄みに含まれる poly(A)+RNA を用いて cDNA ライ
ブラリーの構築を行う。合成した cDNA は必要に応じてサイズ分画する。cDNA 合成とプライマー/アダプターの付加は方向
性をつけ、pSD64 ベクターのマルチクローニングサイトへ SP6 プロモーターに対して順方向になるように cDNA を挿入する。
毒腺や皮膚分泌腺の cDNA ライブラリー構築については、poly(A)+RNA の平均化操作は行っていない。
poly(A) + RNA
cDNA-Oligotex complex
poly(A) + RNA
AAAAAAA
TTTTTTTTT
Oligotex-dT30
annealing
cfg
first strand cDNA synthesis
3'
TTTTTTTTT
Supernatant ( S1 )
(less abundant RNA)
Pellet
(abundant RNA::cDNA
-Oligotex complex)
[cDNA-Oligotex complex]
regeneration
cDNA-Oligotex complex
annealing
cfg
Supernatant ( S2 )
(less abundant RNA)
Pellet
(abundant RNA::cDNA
-Oligotex complex)
(S3 )
(S4 )
図-1. 固相法による mRNA の平均化操作(Sasaki らの方法[3])
2.2.ペプチドライブラリーの調製
cDNA の鎖長で分画した各プールから MEGA script kit (SP6 RNA polymerase, Ambion)を用いて cRNA を合成する。こ
の cRNA には、cap analog とポリAテールが付加する。この cRNA プールを Xenopus oocyte へ微量注入すると蛋白質/ペプ
チドを発現させ、oocyte の培養液中にプロセッシングされたペプチドが分泌される。あるいは、reticulocyte lysate の発現系
(PROTEINscript, Ambion)を用い cDNA から蛋白質の合成を行う。
3.組換え蛋白質発現
3.1.大腸菌発現系
mature form のペプチド cDNA を pBAD/TOPO ThioFusion ベクター (Invitrogen)に挿入し、thioredoxin との融合蛋白質
として大腸菌に発現させる。封入体に取り込まれる蛋白質については、Refolding kit (Novagen)を用いて可溶化及び
refolding 操作を行った。
3.2.酵母発現系
酵母αファクターのシグナルペプチドを含む前駆体との融合蛋白質として発現させるために、mature form のペプチド
cDNA を pMETαベクター (Invitrogen)に挿入する。メタノール添加により融合蛋白質の発現が誘導され、酵母αファクター
58
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
のシグナルペプチドを介して mature なペプチドの分泌が促進される。目的のペプチドはゲル濾過、イオン交換カラム等に
より精製した。
3.3.Xenopus oocyte 発現系
ペプチド前駆体 cDNA を pSD64 ベクターに組込み、MEGA script kit により cap analog 及びポリAテールを付加した cRNA
を合成する。この cRNA を Xenopus oocyte への微量注入することにより蛋白質/ペプチドを発現させ、oocyte 培養液中に分
泌ペプチドとして回収する。目的のペプチドはゲル濾過、イオン交換カラム等により精製した。
■ 研究成果
1.機能蛋白質発現系の構築
主に脳神経系に局在する機能蛋白質の発現系として、受容体では、セロトニン受容体 (5HTR; 2A,2B,2C,4,7)、オーファ
ンG蛋白質共役型受容体、ムスカリン性アセチルコリン受容体 (mAChR; m1-m4)、イオンチャネルでは、Ca2+チャネル、K+
チャネル (RCK1, RCK4)、Na+チャネル (NaChII,NaChIII)、ligand-gated ion channel としてニコチン性アセチルコリン受容体
(nAChR: 神経タイプ;α3,α7,β4、筋肉タイプ;α 2 βδε)、セロトニン受容体 5HTR3 について、培養細胞あるいは
Xenopus oocyte での機能発現系を確立した(表 1)。
生体組織抽出液からペプチド成分を分画し、その中から目的の生理活性を示すものを探し出す従来法に加え、本研究で
は cDNA から転写・翻訳の手順によりペプチドを無細胞系で合成し、その中から生物活性に基づいて効率よく目的とするペ
プチドを単離する新たなペプチド探索法を開発した。cDNA ライブラリーは、マウス(全脳)、ブタ(大脳皮質、視床・視床下部)、
南米産サンゴヘビ(毒腺)、サソリ(毒腺)、アメフラシ(神経系)、ヒキガエル(皮膚分泌腺)、アリからライブラリーを調製した。
2.サンゴヘビからの生理活性物質の探索と特性解析
南米に生息するサンゴヘビ(Micrurus corallinus)は疫学的に、強力な神経毒をはじめとして心筋、血球、筋肉に作用す
る毒を持つことが知られていたが、毒成分の実体はほとんどわかっていなかった。そこでわれわれは、ブラジルの Butantan
研究所においてサンゴヘビ毒腺から cDNA ライブラリーを調製し、新規な神経毒様ペプチドをコードする cDNA を 11 種類
P01391
P01389
P25670
α-BTx
Long 〈 -neurotoxins
kappa BTx
A
CTx 7
P81783
P15818
Bungarus homologues
CTx 2
Q9YGI1
P29180
P29179
P01410
P17696
TXM2
TXM1
TXM3
CTx 11
CTx 3
CTx 4
Synergic toxins
Muscarinic toxins
mLy-6Ab
mLynx1
P81782
Lynx family
Bucandin
P24778
Cardiotoxins
CTx 5
CTx 6
CTx 1
CTx 9
CTx
8
P01443
B
Weak neurotoxins
CTx 10
erabutoxin A
P80548
P01427
P80958
P01414
P01413
P01403
265.2
250
200
150
100
Nucleotide Substitutions (x100)
50
Short
〈 -neurotoxins
short α
-neurotoxins
L-typeCa 2+ channel blocker
Platelet inhibitor
0
図-2. “Three Finger Structure”の例としてのα-ブンガトロキシン(αBTx)の立体構造モデル(A)
及び同じ構造モチーフを持つサンゴヘビ由来ペプチド CTx1-11 の分子系統樹(B)
59
2+
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
単離することに成功した。解析の結果、神経毒に共通する構造を持つペプチド(CTx1-CTx11)で、いずれも 21 アミノ酸残
基のシグナルペプチドに続いて mature peptide では 8 個の cysteine(CTx2 では 10 個)が存在する。これらの cysteine 残
基の配置を基にした Cys/loop framework は、α-bungarotoxin と極めてよく一致し、所謂、“Three Finger Structure”(図 2A)
をとることが予想される。cysteine 残基以外のループ部分の配列は非常に多様で、CTx1-CTx11 のターゲットに対する特
異性の違いを生ずる部分と考えられる。図 2B は、CTx1-CTx11 を既知の Three Finger Structure タイプの神経毒ペプチ
ドのアミノ酸配列比較から構築した分子系統樹である。short 及び long neurotoxin、muscarinic toxin、cardiotoxin など、既
知のペプチドではそれぞれ標的となる機能蛋白質が異なり、幅広い多様性が認められる。CTx10 は erabutoxin と 95%の高
い相同性を示し、特にループ 2 のアミノ酸残基の内、点変異導入実験でアセチルコリン受容体との結合に必須といわれる
アミノ酸残基が 8 個中 7 個まで保存されている。
CTx の生理特性を調べるために、CTxの各クローンを用いて大腸菌で融合タンパク質を発現させた。CTx10 を除くすべ
てのペプチドについて可溶性タンパク質として回収した。我々は先ず、CTxのαニューロトキシンとしての特性を確認した。
αニューロトキシの標的となるニコチン性アセチルコリン受容体との相互作用は、電気生理学的及び物理的な計測により評
価した。
アセチルコリン結合蛋白質(acetylcholine binding protein; ABP)は、神経系 nAChR の N 末端の約 210 アミノ酸残基と高
い相同性のある蛋白質で、最近その生理機能及び結晶構造解析の結果が発表された[4,5]。グリア細胞からシナプス間隙
に分泌されて、アセチルコリンと結合することによりコリン作動性神経シナプスの活動を調節していることが示された。我々
は、これとは独立に ABP のクローニングに成功し特性の解析を行っていた[Kubo and Kaang, 投稿準備中]。この ABP は、
可溶性でしかも比較的低分子量蛋白質であるためコリン作動性神経に関する機能蛋白質を解析する上で有用なツールと
なる。我々は、ABP を金基板に固定し CTx との会合・解離過程を表面プラズモン共鳴により測定した。その結果、各 CTx と
ABP の会合初期速度は、CTx8>CTx3>(CTx1, CTx2, CTx4, CTx5, CTx6, CTx9, CTx11)となることが明らかになった(図
3A)[Kubo and Kobayashi, 投稿準備中]。CTxのニコチン性アセチルコリン受容体に対する阻害活性は、アフリカツメガエ
ル卵母細胞に発現した nAChR は筋肉タイプ(α2βδε)のみならず、神経系 nAChRα7のアセチルコリン応答をも効率よ
くブロックした(図 3B)。
A
B
Initial binding rate (RU/sec)
3.0
ACh
Ligand: ABP-Trx
Analyte: rCTxn
+ CTx3
2.0
1.0
1μA
500ms
0
control
CTx1 CTx2 CTx3 CTx4 CTx5CTx6 CTx8 CTx9 CTx11
図-3. CTx ペプチドの特性解析:表面プラズモン共鳴によるアセチルコリン結合蛋白質(ABP)との会合初期速度解析(A)
神経系ニコチン性アセチルコリン受容体α7のアセチルコリン(ACh)応答に対する CTx3 の阻害効果(B)
60
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
A
Target protein
8 Cys type
MgTx 2
CSE-V(C. sculpturatus Ewing)
Ts_IV_alpha(T. serrulatus)
MgTx 5
CN1(C. noxius Hoffmann)
MgTx 9
MgTx 6
Na Ch
MgTx 4
+
BOT-IT5(B. occitanus tunetanus)
K Ch
SCXL_ANDAU(A. australis hector) K + Ch
MgTx 3
76.8
70
60
50
40
30
20
10
0
B
TSK4(T . serrulatus)
MgTx(C. margaritatus)
TX1(B. martensii)
Maurotoxin(S. maurus)
Cobatoxin(C. noxius)
MgTx7
BmP02P(B. martensii)
BmP03(B. martensii)
BmP01(B. martensii)
MgTx8
6 Cys type
89.1
80
Ch
+
70
60
50
40
30
20
10
+
K Ch
+
K Ch
0
図-4. ホンジュランイエロースコーピオンの神経毒様ペプチド MgTx2-9 の分子系統樹.
成熟ペプチドにシステイン残基が 8 個あるタイプ(A)と 6 個あるタイプ(B)
3.ホンジュランスコーピオンからの生理活性物質の探索
現在までにサソリ毒は、Na+,K+,Ca2+チャネルなどイオンチャネルを標的とするものが知られている。我々は、既知のペプ
チド配列のアラインメントから、特異的な構造モチーフに着目し、サソリ毒腺 cDNA ライブラリーから縮重プライマーPCR 法
によるスクリーニングを行った。その結果、シグナルペプチド配列に続いて 64-73 アミノ酸のペプチド(MgTx2-6,MgTx9)
をコードする cDNA を同定した。これらの MgTx は、既知の Na+チャネルブロッカー CSE-V と 30-77%の相同性を示し、
相同な位置に 8 個の cysteine 残基を配する(図 4A)。さらに、別のタイプの 2 種類のイオンチャネルブロッカー様ペプチド
(MgTx7,MgTx8)を同定した。これらは、31、35 アミノ酸残基と比較的短く、既知の K+ チャネルブロッカー BmP03 や
cobatoxin と相同な位置に 6 個の cysteine 残基を持つ(図 4B)。
4.バンクスキバハアリからの生理活性ペプチドの同定と特性解析
ハチと祖先を同じくするアリの多くは、腹部に毒腺を持ち狩りをする。このためハチで同定されている生理活性ペプチドと
相同なものがアリにも存在すると考えられている。オーストラリア原産のバンクスキバハアリの近縁種から、ヒトに対するアレ
ルギーの原因ペプチドとしてピロスリン 1 及びピロスリン 2 の 2 種類が同定されている[6, 7]。我々は、これらのシグナルペプ
チドのアミノ酸配列に対応するオリゴヌクレオチドをプライマーとして、バンクスキバハアリ(Myrmecia)より調製した cDNA ラ
イブラリーから PCR 法によるスクリーニングを行った。その結果、ピロスリン 1 及び 2 の他に、シグナルペプチド配列を含め
て 74 及び 84 アミノ酸をコードする生理活性ペプチド様の cDNA を同定した。その予想される成熟体ペプチド、ピロスリン 3
(24 アミノ酸残基)及びピロスリン 4(36 アミノ酸残基)、のアミノ酸配列は、既知のピロスリンとは約 30%以下の低い相同性し
か示さないが、成熟体を除いた前駆体のアミノ酸配列では 84%以上の高い相同性を示す。次にこれらのペプチドを化学合
成しそれらの生理活性を解析した。ピロスリン 3 と 4 は数種類のバクテリアに対して顕著な抗菌活性を示した(図 5)。また、
ヒト赤血球に対して溶血活性を示さない(図 6A)。ピロスリン 3 と 4 は、ラット肥満細胞に対してヒスタミン遊離活性を示すが
(図 6B)、細胞膜破壊の指標となる乳酸脱水素酵素(LDH)の漏出は起こらない。以上の結果から、ピロスリン 3 及び 4 は、
細胞破壊を伴うヒスタミン遊離活性を示すハチ毒のメリチンとは異なり、肥満細胞の細胞内情報伝達系に作用してヒスタミン
放出を引き起こすことが予想される[Inagaki et al, 印刷中]。
61
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
0.5
A
0.6
B
E. coli
S. aureus
0.5
0.4
pilosulin 3
pilosulin 4
melittin
magainin
0.4
A600
A600
0.3
0.3
0.2
0.2
0.1
0.1
0.0
0.0
0
C
5
10
15
Peptide Concentration(µM)
0
D
1.2
B. subtilis
1.0
5
10
Peptide Concentration(µM)
15
P. aeruginosa
0.3
A600
A600
0.8
0.6
0.2
0.4
0.1
0.2
0.0
0
10
20
30
40
50
60
Peptide Concentration(µM)
0.0
0
10
20
30
40
50
Peptide Concentration(µM)
60
図-5. ピロスリン3及び4の抗菌活性: 大腸菌(A)、黄色ブドウ球菌(B)、枯草菌(C)、緑膿菌(D)
A
B
A 541
0.2
pilosulin
pilosulin
3
melittin
4
0.1
0.0
0
10
20
30
40
50
60
Peptide Concentration(µM)
図-6. ピロスリン3及び4の赤血球溶血活性(A)、ヒスタミン遊離活性(B)
5.分化発生系を用いた生体内ペプチドの探索
生物個体は、一個の細胞、受精卵、から始まって細胞内での時間・空間的な綿密なコントロールにより、正常な細胞分化
さらには個体発生へと進んでいく。これには多数の液性因子のカスケードが考えられるが、未だにその因子やそれぞれの
作用機序については不明な部分が多い。我々はアフリカツメガエル受精卵の初期胚において、分化過程の特定細胞が外
的因子により、神経、表皮、骨細胞へと分化することを見出した。その細胞を単離し、種々の条件下で培養を試みた結果、
90%以上の確率で神経系もしくは表皮へと区別した分化させる技術を確立した。現在この技術と発現 cDNA ライブラリーを
組み合わせることにより、表皮化因子の探索を進めている。
62
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
Mature Protein
Tx-23.7
SP
DI
DII’
Tx-1.23
SP
DV
DVI
Tx-1.24
SP
DVII
DVIII
Tx-23.45
SP
DIX
DII
DIII
DIV
48 aa
図-7. ヒキガエル由来の蛋白質加水分解酵素阻害作用ペプチド(4 種類)のドメイン構造:
シグナルペプチド(SP)に続き、約 50 アミノ酸残基のドメインが1個、2 個、5 個連なる構造を示す.
6.その他
アズマヒキガエルの cDNA ライブラリーから、機能未知でペプチド様配列を含む cDNA を数種類単離した。これらの新規
ペプチド/タンパク質を大腸菌での融合タンパク質発現系で発現する事に成功し、蛋白質加水分解酵素に対する特異的
阻害活性があることを明らかにした(図 7)[Yang and Kubo, 投稿準備中]。
機能蛋白質発現系を構築する際に G 蛋白質共役型受容体(GPCR)を濃縮した cDNA ライブラリーを構築した(図 8、H13
特許技術)。現在解析中のオーファン受容体は、このライブラリーの評価過程で単離された GPCR であり、安定発現培養細
胞と卵母細胞でのアッセイ系を確立した。アミノ酸配列の相同性からは neuromedin、tachykinin や opioid などのペプチドを
リガンドとする GPCR と相同性が高い。そのため、中核研究グループ(国立循環器病センター 南野ら)から供給されるブタ
大脳部分精製ペプチド分画を用いて内在性リガンドの探索を行っている。
normalized poly (A) + RNA
5-HT2 Receptor cDNA
AAAA
B
AAAAA
AAAAA
3'
5'
SP6 promt.
GPCR ID Primer
A
Primer Extension by
Reverse Transcriptase
(A) 20
pSD64TF
Second Strand Synthesis
B
B
A
Chimeric Receptor cDNA
N
I
II
III IV
V
VI
SP6 promt.
VII
A
(A) 20
pSD64TF
C
[5HT2cR]
図-8. GPCR 濃縮 cDNA ライブラリー構築フロー図:赤い領域は GPCR ID プライマーから伸張した GPCR 関連蛋白質の N-末端側
配列、緑の領域は既知 GPCR の一例としてのセロトニン受容体 2c の C-末端側配列を示す.キメラ体 GPCR として発現する.
63
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
■考 察
我々は、RNA の中から重複する RNA 種をできるだけ排除し、その結果稀有な RNA 種の相対含量の上がった poly(A)+
RNA を元にして cDNA を合成しライブラリーを作製している。この cDNA ライブラリーの作製方法は、有限の生物資源に対
して、それらの遺伝情報や生体物質を再生できるかたちで遺伝子・cDNA ライブラリーを作製し維持しておくことは、生物遺
伝子資源の恒久的保存と有効利用のために重要である。cDNA のカタログ化も有効である。さらに我々は、このようにして
作製した cDNA ライブラリーから蛋白質を合成して、それを連続的に生理活性測定の系に供することにより、種々の機能素
子に対する調節因子、生理活性ペプチドの検索に適用している。従来の蛋白質化学的手法では含量が少ないために同
定・単離できなかった生理活性物質についても検出する可能性が高まり、汎用性の高い技術となるものである。
受容体やイオンチャネルの構造、機能に関する研究は、それらと特異的に結合する神経毒の発見により飛躍的に進歩
し て き た [8] 。 例 え ば 、 ニ コ チ ン 性 ア セ チ ル コ リ ン 受 容 体 に 対 す る α -bungarotoxin( 神 経 筋 接 合 部 位 タ イ プ ) や κ
-bungarotoxin(神経系タイプ)、Na+チャネル(筋肉タイプ)に対するμ-conotoxin、Ca++チャネル(神経系、分泌系)に対する
ω-conotoxin、電位依存性 K+チャネルに対する dendrotoxin、Ca++ activated K+チャネルに対する apamin や charybdotoxin
などが挙げられる。これらのペプチド性神経毒は、ヘビ、クモ、サソリ、ハチ、イモガイなどから単離されたが、その他広範な
陸海動植物、微生物から多種多様な生理活性物質が単離・同定されている。これらの毒産生生物は、それぞれの獲物を
効果的に攻撃・補食する能力を、あるいは逆に天敵に対する忌避物質の排出の能力を長い進化の過程で獲得してきたと
言える。毒成分による骨格筋や心筋の硬直、痙攣、麻痺は獲物の動きを迅速に止める目的には極めて有効で、多くの場
合神経系のイオンチャネルや受容体が作用ターゲットとなる。また、心筋や血管平滑筋に作用して心拍数や血圧を下げる
効果、血液凝固阻害、細胞膜溶解などいずれの効果も、攻撃・補食という目的にかなった毒の生理作用といえる。多くの毒
産生生物はその毒液に作用の異なる複数の毒成分を含有するため、生理活性物質を探索する上で極めて有用な出発材
料である。
治療・診断薬としての毒の利用は、民間の伝承療法で使われるなど歴史は古いが、近代医療における利用としては、ブ
ラジルの Bothrops jararaca の毒成分から単離・同定したアンジオテンシン変換酵素阻害活性を持つペプチドの構造を参考
にして血圧降下剤カプトプリルが開発された。また新しいところでは、イモガイの毒成分中で NMDA 受容体 2B サブタイプに
特異的な毒を修飾したコナントキン R が運動神経に影響を与えない発作抑制剤として期待されている。
近年、ヒトをはじめとするいくつかの生物種の遺伝子の全核酸配列を明らかにするゲノムプロジェクトが目ざましい進展を
みせている。またポストゲノムプロジェクトの一環として生体機能を担うタンパク質やペプチドの構造や機能を総合的に解明
しようとするプロテオームやペプチドームが進行している。本研究は、ペプチドームの一環として生体機能調節因子の探索
技術の開発とその利用を目指したものである。本報告で示したように、現在哺乳類以外の生物から次々と新規ペプチドが
同定されてきており、ゲノムインフォマティックスを有効に活用することにより高等動物のこれらのカウンターパートが見つか
りつつある。ヘビ毒の“Three Finger Structure”(図 2A)と同様のシステイン骨格モチーフを有するペプチドとして、哺乳類
の免疫系における Ly-6[9]、神経系におけるlynx1[10]などがその例である。今後このアプローチは、ゲノムインフォマティ
ックスや構造解析等のポストゲノム解析と補完しながら、基礎科学及び産業応用にとって有用な知的基盤の構築に貢献す
ることが期待される。
■ 引用文献
1.
Zhao, B., Rassendren, F., Kaang, B.-K., Furukawa, Y., Kubo, T., Kandel, E.R.: “A new class of noninactivating K+
channels from Aplysia capable of contributing to the resting potential and firing patterns of neurons.”, Neuron, 13,
1205-1213, (1994)
2.
Mishina, M., Kurosaki, T., Tobimatsu, T., Morimoto, Y., Noda, M., Yamamoto, T., Terao, M., Lindstrom, J.,
Takahashi, T., Kuno, M., Numa, S.: “Expression and functional acetylcholine receptor from cloned cDNAs.”, Nature,
307, 604-608, (1984)
3.
Sasaki, Y.F., Ayusawa, D., Oishi, M.: “Construction of a normalized cDNA library by introduction of a semi-solid
64
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
mRNA-cDNA hybridization.”, Nuc. Acids Res., 22(6), 987-992, (1994)
4.
Smit, A.B. et al.: “A glia-derived acetylcholine-binding protein that modulates synaptic transmission.”, Nature, 411,
261-268, (2001)
5.
Brejc, K. et al.: “Crystal structure of an ACh-binding protein reveals the ligand-binding domain of nicotinic
receptors.”, Nature, 411, 269-276, (2001)
6.
Donovan, G.R., Baldo, B.A., Sutherland, S.: “Molecular cloning and characterization of a major allergen (Myr p I) from
the venom of the Australian jumper ant, Myrmecia pilosula.”, Biochem. Biophys. Acta., 1171, 272-280, (1993)
7.
Street, M.D., Donovan, G.R., Baldo, B.A.: “Molecular cloning and characterization of the major allergen Myr p II from
the venom of the jumper ant Myrmecia pilosula: Myr p I and Myr p II share a common protein leader sequence.”,
Biochem. Biophys. Acta., 1305, 87-7, (1996)
8.
Hille, B.: chapter 3 “The superfamily of voltage-gated channels”,In Ion Channels of Excitable Membranes, 3rd ed.,
Sinauer Associates, Inc., (2001)
9.
Gumley, T.P., MaKenzie, I.F.C., Sandrin, M.S.: “Tissue expression, structure and function of the murine Ly-6 family
of molecules.”, Immunol. Cell Biol., 73, 277-296, (1995)
10. Miwa, J.M., et al.: “lynx1, an endogenous toxin-like modulator of nicotinic acetylcholine receptors in the mammalian
CNS.”, Neuron, 23, 105-114, (1999)
■ 成果の発表
原著論文による発表
国外誌
1.
Kimura, T., Kubo, T.: “Functional identification of a cloned squid presynaptic voltage-dependent calcium
channel.”, NeuroReport, 13, 2389-2393, (2002)
2.
Kimura, T., Kubo, T.: “Cloning and functional characterization of squid voltage-dependent Ca2+ channel β
subunits: Involvement of N-terminal sequences in differential modulation of the current.”, Neurosci. Res., 46,
105-117, (2003)
3.
Baptista, G.-R., Kubo, T., Oguiura, N., Svartman, M., Almeida, T. M. B ., Batistic, R. F., Oliveira, E. B.,
Vianna-Morgante, A. M., Yamane, T.: “Structure and chromosomal localization of the gene for crotamine, a
toxin from the South American rattlesnake, Crotalus durissus terrificus.”, Toxicon, 42, 747-752, (2003)
4.
Arai, H., Kubo, T., Nagahama T.: “Modulation of a feeding neural circuit by microinjection of K+ channel
expression genes into a single identified neuron in Aplysia kurodai.”, Zool. Sci., 21, 369-373, (2004)
5.
Baptista, G.-R., Kubo, T., Oguiura, N., Prieto da Silva, A. R. B., Hayashi, M. A. F., Oliveira, E. B., Yamane,
T.: “Identification of crotasin, a crotamine-related gene of Crotalus durissus terrificus.”, Toxicon, in press
6.
Inagaki, H., Akagi, M., Imai, H.T., Taylor, R.W., Kubo, T.: “Molecular cloning and biological characterization
of novel antimicrobial peptides, pilosulin 3 and pilosulin 4, from a species of the Australian ant genus
Myrumecia.”, Arch. Biochem. Biophys, in press
原著論文以外による発表(レビュー等)
国内誌(国内英文誌を含む)
1.
久保泰:「脳神経機能解明のための分子プローブの探索と利用―生物遺伝子資源の保存と有効利用技術の
開発」,Science and Technology News Tsukuba,57,19-21,(2001)
2.
久保泰:「脳神経機能解明のための調節因子の探索と産業利用」,化学・バイオつくば財団ニュース,No.50,
4-6, (2002)
3.
久保泰:「目的の機能タンパク質・生理活性ペプチドを迅速に探すための cDNA ライブラリー調製技法」,つく
65
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
ばテクノロジー・ショーケース,14,(2002)
4.
久保泰,国分友邦:「神経伝達物質」,大森豊明監修「生体物理刺激と生体反応」,フジ・テクノシステム,
(2004)
口頭発表
招待講演
1.
久保泰:「機能タンパク質・生理活性ペプチドの探索技術と産業利用」,つくば,つくば講座,2002 年 7 月 25
日
2.
久保泰:「神経系生理活性ペプチドと受容体の探索技術」,つくば,平成 14 年度 NEDO 先端技術講座,2002
年 11 月 20 日
3.
久保泰,et al.: “Blocker, antagonist and inhibitor: Molecular and functional diversity of three-fingered toxins
isolated from South American coral snake.”,横浜,日本分子生物学会第 25 回年会,2002 年 12 月 11 日
4.
久保泰:「特定の生理機能タンパク質を濃縮した cDNA・タンパク質ライブラリーを調製する技術」,東京,第2
回 AIST・「産学官」交流フォーラム,2003 年 7 月 24 日
5.
稲垣英利,赤木正明,今井弘民,R.W. Taylor,久保 泰:「バンクスキバハリアリ由来新規生理活性ペプチド・
ピロスリン3,4の作用機構の解明」,広島,2004 年度日本農芸化学会大会,2004 年 3 月 29 日
応募・主催講演等
1.
久保泰,竹田摩美,木村忠史,浦野光:「マウス新規G蛋白質共役型受容体: cDNA の単離,構造,内在性リ
ガンド,機能 modulator 同定の試み」,大阪,第 22 回日本神経科学大会,1999 年
2.
Kubo, T., Takeda, M., Kimura, T. & Urano, H.:“Characterization of a novel orphan G protein-coupled
receptor M21: screening of endogenous ligands and modulators”,Miami, USA, Society for Neuroscience, 29th
annual meeting,(1999)
3.
Kubo, T. & Takeda, M.:“Modulators for muscarinic acetylcholine receptor activity and kallikrein activity from
Trimeresurus flavoviridis (Okinawa habu) venom”,Pattaya, Thailand, 5th Asia-Pacific Congress on Animal
Plant & Microbial Toxins,(1999)
4.
久保泰,Baptista, G.-R.,竹田摩美,浦野光,木村忠史,野崎真敏:「ニコチン性及びムスカリン性アセチルコ
リン受容体活性を修飾するペプチドの同定及び特性解析」,横浜,第 23 回日本神経科学大会,2000 年
5.
Kubo, T. et al.:“Identification of diverse family of neurotoxin-like peptides from the South American coral
snake Micrurus corallinus.”,Paris, France, XIIIth World Congress of the International Society of Toxinology,
(2000)
6.
Baptista, G.-R., et al.:“Structural organizationof crotamine gene encoding a myotoxin in the venom of South
American rattlesnake (Crotalus durissus terrificus) and identification of an intraspecific pseudogene”,Paris,
France,XIIIth World Congress of the International Society of Toxinology,(2000)
7.
久保泰,et al.:「南米産ガラガラヘビ毒成分クロタミンの遺伝子及びその関連遺伝子の構造解析」,神戸,第
23 回日本分子生物学会年会,2000 年
8.
浦野光,久保泰:「ホンジュランイエロースコーピオン (Centruroides margaritatus)毒腺 cDNA からの神経毒様
ペプチドの同定と構造・生理活性の解析」,横浜,第 74 回日本薬理学会年会,2001 年
9.
久保泰,et al.:「南米産サンゴヘビ由来神経毒様ペプチドの生理特性解析」,京都,第 24 回日本神経科学
会,2001 年
10.
Kubo, T. et al.: “Identification and characterization of diverse family of neurotoxin-like peptides from the
South American coral snake” , St. Moritz, Switzerland, XIth International Symposium on Cholinergic
Mechanisms-Function and Dysfunction,May. 6, (2002)
66
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
11.
Kubo, T. et al.: “Characterization of acetylcholine receptor toxins cloned from South American coral snakes
Micrurus corallinus.”, Orlando, USA, Society for Neuroscience 32nd Annual Meeting,.Nov. 3, (2002)
12.
稲垣英利,et al.:「バンクスキバアリ由来の新規抗菌性ペプチド遺伝子の単離と機能解明」,藤沢,2003 年度
日本農芸化学会大会,2003 年 4 月 22 日
13.
Kubo, T. et al.:“Functional characterization of diverse family of three-finger type acetylcholine receptor
toxins from South American coral snake”, Prague, Czech, 6th IBRO World Congress of Neuroscience,
July.12, (2003)
14.
Kubo, T. et al.:“GPCR catalogue: preparation of a cDNA or protein library which is enriched in and
represents GPCRs”, Hakone, 6th International Symposium on VIP, PACAP and Related Peptides,Sept.4,
(2003)
15.
小林寿珠子,Bong Kiun Kaang,久保泰:「Biacore J を用いたアセチルコリン結合タンパク質の精製とその利
用」,東京,Biacore Symposium Japan 2003,2003 年 9 月 12 日
16.
久保泰, et al.: “Screening and characterization of bioactive peptides from Japanese toad; toward a functional
peptidome analysis.”,横浜,第 76 回日本生化学会大会,2003 年 10 月 17 日
17.
小林寿珠子,et al.:「アセチルコリン結合タンパク質と種々の α 型ニューロトキシンとの相互作用」,神戸,第
26 回日本分子生物学会年会,2003 年 12 月 11 日
18.
Inagaki, H. et al.:“Novel Bioactive Peptides Identified from a Species of the Australian Ant Genus Myrmecia”,
San Francisco, USA, American Cell Biology, 43th Annual Meeting, Dec.17, (2003)
19.
Kubo, T. et al.:“Identification and functional characterization of bioactive peptides from amphibian and
reptile”, Osaka, Frontiers in Peptidome Research: Methods for Analysis and Application,. Jan.28, (2004)
特許等出願等
1.
1999 年 12 月 28 日,「機能性タンパク質のスクリーニング方法」,久保泰,特許願第 373989 号,出願
2.
2001 年 10 月 26 日,「機能性タンパク質のスクリーニング方法」,久保泰,特許第 3243531 号,登録
3.
2003 年 8 月 29 日,「無脊椎動物電位依存性カルシウムチャネル作用薬スクリーニング材料」,木村忠史,特
許願第 2003-307622 号,出願
受賞等
なし
67
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的デ−タベ−ス化に関する研究
2.生体内ペプチドの生物活性、受容体と立体構造に関する研究
2.3. G 蛋白質共役型受容体を用いた生物活性と機能検索に関する研究
学習院大学理学部生命分子科学研究所,群馬大学工学部生物化学工学科
芳賀 達也、武田 茂樹
■要 約
G タンパク質共役受容体(GPCR)の効率的なリガンド検索系を作り、新規ペプチド受容体を同定することを目標とした。既
知 GPCR と G タンパク質αサブユニットとの融合タンパク質を昆虫細胞や動物細胞に発現させ、膜標品の[35S]GTPγS 結合
増加あるいは細胞内 Ca2+イオン濃度増加を指標とするリガンド活性測定系を構築した。受容体・Gα融合タンパク質を発現さ
せたモデル実験で、ブタ脳内のノシセプチンを検出できることを示した。ヒトゲノム情報から GPCR 遺伝子を検索する方法を
工夫し、得られた新規 GPCR について受容体・Gα融合タンパク質を作成し、リガンド活性を示すペプチドなどを検索した。
■目 的
G タンパク質共役受容体(GPCR)は細胞膜上にあって、外部からの物理的・化学的信号の細胞センサーとして働く。そ
のリガンドは、ホルモン、神経伝達物質、オータコイド、フェロモン、匂い、味などである。現在の臨床薬の 30-60%の標的で
もある。リガンドの化学的種類は、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、アミン、脂質、ヌクレオシド、ヌクレオチド、イオン(H+, Ca2+
イオン)、と多岐に渡る。生理活性ペプチドの受容体はそのほとんどが GPCR である。多くの GPCR は、そのリガンドが未同
定で、オーファン受容体と呼ばれる。ペプチドは、オーファン GPCR のリガンドの最も有力な候補である。ヒトゲノム配列から
新規のオーファン GPCR を検索し、そのリガンドとなる内在性ペプチドを同定することを目的とした。そのために効率的なリ
ガンド検索系を構築し、ペプチド検索に使用可能であることを示すことを試みた。具体的には、良い検索系がない Gi 共役
受容体に特に着目し、受容体・Gα融合タンパク質を用いた簡便な検索系を確立することを目指した。
■ 研究方法
1. 昆虫細胞膜に発現させた GPCR-G・融合タンパク質を用いたリガンド検索
既知受容体としてムスカリン受容体 M1-M5 サブタイプ、β2 アドレナリン受容体、ノシセプチン受容体、ケモカイン受容体
(CX3CR1)、ウロテンシン II 受容体、G タンパク質として Gs、G11、Gi1、Gi2、G16 のαサブユニットを用いた。受容体の C 末
端と G タンパク質αサブユニットの N 末端を直接つないだ融合遺伝子を PCR 法により作成した。融合遺伝子をバキュロウ
イルスを用いて昆虫細胞 Sf9 に導入した [1]。
GPCR-Gα融合タンパク質を発現した Sf9 細胞膜を調製し、その懸濁液とリガンドおよび[35S]GTPγS を反応させた。ガラ
スフィルターろ紙を通して遊離の[35S]GTPγS を除去し、融合タンパク質に結合した[35S]GTPγS をフィルター上に回収し、
液体シンチレーションカウンターによって測定した。基本的な実験は、細胞内第3ループ中央部分を欠損させたムスカリン
M2 受容体変異体で行った。その結果、アゴニスト添加により融合タンパク質の GDP に対する親和性が低下するが、アンタ
ゴニスト添加では GDP への親和性は変化しないことが分かった。部分アゴニスト存在下では、GDP に対し中間の親和性を
示す。GTPγS への親和性はアゴニスト添加でも変化しない。この結果、一定濃度の GDP 存在下で[35S]GTPγS 結合活性
を測定することにより、簡便にフルアゴニスト、部分アゴニスト、アンタゴニストを区別出来ることが分かった。
68
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的デ−タベ−ス化に関する研究
2. モデル実験:ブタ脳内ノシセプチンの検出
ノシセプチン受容体-Gαi2 融合タンパク質を作成して、実際に脳抽出物中のノシセプチンの存在を検出できるかどうか
を検証した。この実験には循環器病センター南野研究室で調製されたブタ脳ペプチド画分を用いた。ペプチド画分は精製
の段階ごとに粗抽出画分、ゲル濾過クロマトグラフィー画分、イオン交換クロマトグラフィー画分、逆相クロマトグラフィー画
分の供与を受けた。ノシセプチン-Gαi2 融合タンパク質と、一定濃度の GDP 存在下での[35S]GTPγS との結合に対する、
各画分の効果を調べた。最初のブタ脳湿重量にして約 2 g を使用して、活性の検出ができた。
3. CHO 細胞に発現させた GPCR-Gα16 融合タンパク質を用いたリガンド検索
ムスカリン受容体 M1, M2 サブタイプ、ケモカイン受容体 (CX3CR1)、ウロテンシン II 受容体と Gα16 との融合遺伝子を
CHO 細胞に発現させた。前2者は一時的(transient)に、後2者は安定的に(stable)に発現させた。受容体のみの発現、受
容体と Gα16 の同時発現も行い、比較検討した。リガンド刺激による細胞内 Ca2+ イオン濃度の変化を、fura-2 と
fluorescence imaging plate reader(FDSS; 浜松フォトニックス)を用いて測定した。また、リガンド刺激による細胞内プロスタ
グランジン E2(PGE2)の増加を酵素免疫法で測定した。
4. ヒトゲノムからの新規 GPCR の検索とクローニング
主に2つの事実を利用して、ヒトゲノム配列から新規の GPCR 遺伝子を検索した。一つは GPCR が7回膜を貫通するとい
う共通構造を持つこと、二つ目は多くの GPCR が翻訳領域にイントロンを持たないという事実である [2]。イントロンを持たな
い GPCR だけを対象にすることとし、エキソン、イントロンの境界と無関係に、ゲノム情報をそのままアミノ酸配列に変換し、
そこから十分長い open reading frame (ORF) を抽出した。重複を含むヒトゲノムのドラフトシーケンス 4.5Gbase から、
200-1500 残基からなる ORF を約 33 万 5 千個抽出した。これらのアミノ酸配列について、膜貫通領域を予想するプログラ
ム SOSUI で解析し、膜貫通領域の数を調べた。この解析には SOSUI [3, 4] を開発した東京農工大学の美宅研究室の協
力を得た。GPCR の7回目の膜貫通領域は疎水性が低く、膜貫通領域であることが予想しにくいことや、GPCR がシグナル
ペプチドをもつ場合があることを考慮し、6-8 回膜貫通と予想される配列を取り出した。この結果約 3000 個の配列が得られ
た。そこから、DNA 上の繰返し配列に依存すると思われる異常なアミノ酸配列や、GPCR 以外の既知タンパク質と相同性を
持つ排列を除外し、最終的に 581 個のイントロンの無い GPCR 候補遺伝子を得た[5]。その中に、既知の GPCR と相同性を
持ち、その時点で新規であり、内在性リガンドの受容体と思われるものが 50 種類見いだされた。
5. 新規 GPCR のリガンドの検索
新規 GPCR 候補遺伝子を、ヒトゲノムを鋳型として PCR 法を用いてクローニングした。さらに Gαとの融合遺伝子を作製
した。これらの遺伝子をバキュロウイルスベクターや動物細胞発現ベクターに組み込み、昆虫細胞 Sf9 や CHO 細胞に発現
させた。融合タンパク質の発現は、Gα部分に対する抗体を用いて、ウエスタンブロッティングにより確認した。発現させた
GPCR-Gα融合タンパク質を用いて、新規 GPCR に対するアゴニストあるいはアンタゴニストを検索した。検索の対象とした
リガンドは、市販されている各種化合物約 950 種のライブラリー、国立遺伝学研究所の藤澤敏孝博士により供与されたヒド
ラ由来の生理活性ペプチド 15 種類、約 600 種類の既知ペプチドライブラリー、循環器病センター南野研究室から供与され
たブタ脳由来のペプチド画分、などである。検索は現在も続行中である。
■ 研究成果
1. 昆虫細胞膜に発現させた GPCR-Gα融合タンパク質を用いたリガンド検索
ムスカリン M2 受容体変異体とGタンパク質 Gαi1 との融合タンパク質を用いて、受容体とGタンパク質の相互作用の詳細
な解析を行った[6]。融合タンパク質の[35S]GTPγS 結合活性を指標として、ムスカリン性リガンドの GDP 結合に対する効果
を調べた。図1は、[35S]GTPγS 結合の GDP による阻害曲線を種々のリガンド存在下で調べたものである。フルアゴニスト
(アセチルコリン、カルバミルコリン)存在下で最も高い濃度の GDP を必要とし、アンタゴニスト(アトロピン)存在下あるいはリ
69
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的デ−タベ−ス化に関する研究
ガンドが無いときに最も低い濃度の GDP を必要とする。部分アゴニスト(ピロカルピン、McN-343)存在下では中間の GDP
濃度を必要とした。[35S]GTPγS 結合の GTPγS による阻害曲線はリガンドの影響を受けなかった(図省略)。この結果は、
アンタゴニスト、部分アゴニスト、フルアゴニスト存在下に、この順に GDP に対する親和性が低下することを示している。図2
は、[35S]GTPγS 結合の GDP による阻害曲線に対する Mg2+イオンの効果を示す。アゴニストにより GDP に対する親和性が
低下するためには Mg2+イオンの共存が必要なことを示している。図2の結果はまた、GDP と Mg2+イオンが拮抗的に結合する
可能性を示唆している。アンタゴニスト存在下では Mg2+イオン濃度に拘わらず GDP に対する親和性が高い(図省略)。図3
は、これらの結果を模式図にまとめたものである。ここでは、アゴニスト結合による受容体の構造変化、アゴニ
スト結合受容体と Gαの相互作用、Gαの構造変化による GDP と Mg2+イオンの拮抗とそれによる GDP の親和性低
下(遊離促進)、という一連の変化を仮定している。この図では、部分アゴニスト結合で中間の構造変化と中間の
Bound [ 35 S]GTP γS (%)
100
75
50
ALigand-Free
BAcetylcholine
CCarbamylcholine
DPilocarpine
35
Bound [ S]GTPγS (%)
GDP 親和性を仮定している。
25
EMcN-343
FAtropine
0
10
8
6
4
75
50
MgCl (mM)
2
G
10
25
A 1.0
B 0.1
0
10
2
Carbamylcholine
100
C0
8
6
4
2
-log[GDP] (M)
-log[GDP] (M)
図1:ムスカリン M2 受容体・Gαi1 融合タンパク質
GDP の親和性に対するリガンドの効果[6]
図2:ムスカリン M2 受容体・Gαi1 融合タンパク質
GDP の親和性に対する Mg2+イオンの効果[6]
図3:受容体・Gα融合タンパクでの受容体とGタンパク質の相互作用のモデル[6]
70
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的デ−タベ−ス化に関する研究
この結果は、受容体のフルアゴニスト、部分アゴニスト、アンタゴニストを単純なリガンド結合実験で識別可能であることを
示している。具体的には、一定濃度の GDP と[35S]GTPγS 及び 10mM MgCl2 存在下で、[35S]GTPγS の結合を促進する化
合物としてアゴニストを検索できる。アゴニストが見いだされれば、その作用に拮抗する化合物としてアンタゴニスト、100%の
活性を示さない化合物として部分アゴニストの検索が可能である。また、昆虫細胞で発現した系が使える点もメリットである。
大量の細胞膜を簡便に得られるので、多数のリガンドを検索するのには好都合だからである。
ただし、このような簡便なアッセイ系が全ての GPCR に適用可能か否かという問題がある。Milligan グループの仕事は、Gi
に共役する受容体ではこのアッセイ系が使えることを示している[7]。我々も、ムスカリン M4 受容体[1]や以下に述べるいく
つかの受容体で、この系が利用可能であることを示す結果を得ている。また、Strosberg [8]や Seifert [9]らの結果は、β2 ア
ドレナリン受容体と Gαs との融合タンパク質が、リガンドスクリーニング系に使用可能であることを示している。我々も、β2
アドレナリン受容体と Gαs の融合タンパク質を昆虫細胞に発現させ、それがフル、部分、インバースアゴニストの識別に使
い得ることを確認した(未発表)。
2. モデル実験:ブタ脳内ノシセプチンの検出
受容体・Gα融合タンパク質を用いて生体内のペプチドを検索可能か、というモデル実験を行った[10]。モデルとしては
ノシセプチン受容体を選択した。ノシセプチン受容体と Gαi2 との融合タンパク質を Sf9 細胞に発現させ、細胞膜標品を用
いて[35S]GTPγS 結合活性を調べた。図4に、[35S]GTPγS 結合の GDP による阻害曲線がノシセプチン存在下に右側にシ
フトすること、一定濃度の GDP 存在下でノシセプチン検索系として使えることを示している。10-9M程度のノシセプチンが検
出できる感度であった。
Fusion Protein of Nociceptin Receptor
and G protein Gi2α Subunit
6000
5000
1 µM GDP
4000
3000
10 µM GDP
2000
1000
100 µM GDP
0
13
11
9
7
5
3
-log[Nociceptin] (M)
6000
5000
1 µM Nociceptin
4000
3000
2000 Li gan d Fr ee
1000
0
8
7
6
5
4
3
2
-log[GDP] (M)
図4:ノシセプチン受容体-Gαi2 融合タンパク質による合成ノシセプチンの検出[10]
71
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的デ−タベ−ス化に関する研究
次にノシセプチン受容体-Gαi2 融合タンパク質を脳内のノシセプチンの検出に適用した。ブタ脳からペプチド含有画分
を抽出し、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーで分離後、各溶出画分をアッセ
イに使用した(図5)。期待通りノシセプチン受容体-Gαi2 融合タンパク質を利用して、脳抽出物のペプチド分画内に存在
するノシセプチンを感度よく確認することができた。多数のペプチドピークが存在するにもかかわらずノシセプチン標準品の
溶出位置以外には活性は検出されなかった。精製した活性ピーク部分を質量分析にかけたところ、ノシセプチン自身がそこ
に存在することを示した。この結果は、この受容体のアゴニストになりうる内在性リガンドはノシセプチン以外に無いことを示し
ている。脳湿重量約 2 g で活性が検出されたので、このアッセイ法は十分実用に供しうることが分かる。これらの結果は、ノシ
セプチン受容体・Gαi2 融合タンパク質を用いた生理活性ペプチドの検索が現実に可能であることを示している。
3. CHO 細胞に発現させた GPCR-G16 融合タンパク質を用いたリガンド検索
以上のように、Gi、Gs と共役した受容体では、細胞膜標品での[35S]GTPγS 結合活性の測定によるリガンド検索が可能
である。一方、Gq と共役する受容体については、融合タンパク質の報告が少ない。我々は、Gq と共役するムスカリン受容
体 M1, M3, M5 サブタイプと Gα11(Gq 型Gタンパク質)との融合タンパク質を Sf9 に発現させ、その膜標品を用いてアゴニ
ストの効果を調べた。アゴニスト存在下で GDP の親和性が減少する傾向はみられたが顕著ではなく、リガンド検索系として
は有効でないことが分かった[1]。また、オーファン GPCR は内在性リガンドが分からないと同時に、共役するGタンパク質も
一般に分からない。
Nociceptin
Neurotensin
Substance P
25000
0.03
15000
0.02
10000
0.01
25000
0.01
20000
15000
0.005
10000
5000
0
0
0
10
20
30
40
50
60
70
5000
0
Retention Time (min)
10
20
30
40
50
60
Retention Time (min)
図5:ノシセプチン受容体-Gαi2 融合タンパク質によるブタ脳抽出物中のノシセプチンの検出:
左はイオン交換カラム、右は C18 逆相カラム[10]
そこで、オーファン受容体とGタンパク質との融合タンパク質を使う際に、どのGタンパク質を使うべきかという問題が生ず
る。もし Gα16 と受容体との融合タンパク質が使えれば便利である。本来 Gi, Gs, Gq と共役している受容体いずれとも、G16
は共役することが知られているからである。そこで、Gi, Gq, Gs と共役する、ムスカリン M2 受容体、ムスカリン M1 受容体、
β2 アドレナリン受容体と Gα16 との融合タンパク質を作成し、昆虫細胞に発現させ、リガンドの効果を調べた。残念ながら、
アゴニストの効果は大きくなく、リガンド検索系としては有用なものとは考えられなかった[1]。
72
Bound [ 35 S]-GTP γS (cpm)
20000
Absorbance at 280 nm
0.04
0.015
Bound [ 35 S]-GTP γS (cpm)
Absorbance at 210 nm
0.05
Neurotensin
Substance P
Nociceptin
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的デ−タベ−ス化に関する研究
図6:CX3CR-Gαi1 融合タンパク質を発現した CHO 細胞での応答。
ところが、Gα16 との融合タンパク質を培養細胞に発現させるとリガンド検索系として有効であることが分かった[11]。本
来 Gi に共役する受容体であるケモカイン受容体 CX3CR を安定的に発現させた CHO (Chinese Hamster Ovary)細胞で、
アゴニスト(Fractalkine)刺激で細胞内 Ca2+イオン増加とプロスタグランジン E2 生成という応答を見た結果を、図6に示す。受
容体と Gα16 との融合タンパク質を発現させたときに、受容体単独、あるいは受容体と Gα16 を共発現したときに比べ、明
らかに大きな応答が見られた。
Gi に共役するムスカリン M2 受容体を一過性に CHO 細胞に発現させた場合でも、受容体・Gα16 融合タンパク質で感
度よく、大きな応答が見られた。また、本来 Gq と共役するウロテンシン II 受容体やムスカリン M1 受容体と Gα16 との融合
タンパク質を発現させた場合には、受容体単独発現発現の場合に比べそれほど大きな差はなかったが、応答が小さくなる
ことはなかった。オーファン受容体はどのGタンパク質と共役しているか分からないので、Gα16 との融合タンパク質が使え
ることのメリットは大きい。
4. ヒトゲノムからの新規 GPCR の検索とクローニング[5]
未知の生理活性ペプチドの受容体候補をえるために、ヒトゲノムからコンピューターを用いて網羅的に G タンパク質共役
受容体遺伝子を検索した。方法の稿で述べたように、翻訳領域にイントロンがないものを検索した。その結果、匂い受容体
322 個(既知のもの 41 個を含む)、味受容体 22 個(既知のもの 11 個を含む)、その他の受容体 178 個(既知のもの 128 個
を含む)を同定した [5]。これら以外に、既知の受容体とは相同性を持たないが、イントロンを含まない長い翻訳領域中に7
カ所の疎水性領域を持つという点で、G タンパク質共役受容体の可能性があるもの 59 個を同定した。
既知の受容体について、イントロンがないものの割合、SOSUI で 6-8 カ所膜貫通領域と推測できたものの割合、ヒトゲノム
配列中に GRCR が検出された割合を算出した。この比率を用いて、ヒトゲノム中の GPCR の総数を推測した。その結果、匂
い受容体の総数は 481、味受容体の総数は 28、内在性リガンドをもつ GPCR の総数は 330-439 と推測された。内在性リガ
ンドを持つ GPCR の推測数に幅があるのは、既知の GPCR と相同性がないものを含めるか否かの違いである。最近、ヒトゲ
ノムから GPCR を検索する結果が他のグループからも報告されている。匂い受容体として 339 個[12]、内在性リガンドを持つ
受容体として 367 個[13]あるいは 342 個[14]、という数が報告されている。我々の予測と大きく異なるものではない。偽遺伝
子の同定、既知 GPCR と相同性を持たない GPCR の同定などが、全体数の推測の差になっていると予測される。
5. 新規 GPCR のリガンドの検索[15,16]
ヒトゲノムから検索した新規 GPCR のうち、匂い受容体でも味受容体でもないもの約 30 種について、RT-PCR により発現
部位を決定し、Gαとの融合タンパク質を調製した。作成した GPCR−Gα融合遺伝子(Giαとの融合遺伝子 27 種類、Gsα
との融合遺伝子 10 種類)を昆虫細胞に発現させ、その膜画分をハイスループット活性測定に用いることができるよう、中規
73
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的デ−タベ−ス化に関する研究
模スケールで調製し冷凍保存した。これにより必要な時に解凍するだけで迅速に受容体の活性測定が行える環境が整備
された。これらの膜画分をウエスタンブロッティングで解析した結果、受容体ごとに発現量の違いはあるものの、いずれも十
分な量の発現を示していることが確認できた。
これらの融合タンパク質を発現している細胞膜標品に、国立遺伝学研究所の藤澤敏孝博士より供与された化学合成さ
れたヒドラ由来の生理活性ペプチド 15 種類を作用させた。何れの組み合わせについても、アゴニスト活性は検出できなか
った。また、既知のペプチド約 600 種類を含む市販のライブラリーについて、同様の検索を行った。各ペプチドの濃度は
0.1μMを使用した。現在のところ、特定のペプチドに応答する GPCR-Gαi 融合タンパク質1種類が得られている。このペ
プチドに対しては既知の GPCR が知られているが、今回反応が見られた GPCR とは相同性がない。この応答の意義につい
ては検討を継続している。ブタ脳由来のペプチド画分を、各 GPCR-Gα融合タンパク質を発現している細胞膜に作用させ
て、新規 GPCR に対する生体内生理活性ペプチドの検索を行った。数個の融合タンパク質について粗画分で活性が見ら
れた。現在2種類の受容体に絞り、粗画分の精製を検討している。また培養細胞液中に放出される成分でアゴニスト活性を
示すものが見いだされたので、そのものの特定を試みている。
11 種類の GPCR について Gα16 との融合タンパク質遺伝子を作成した。そのうち数種を CHO 細胞もしくは HEK293 細
胞に発現させ、リガンド刺激による Ca2+応答を調べた。1種類の受容体に関して、数種の既知ペプチドによる応答が見られ
た。塩基性アミノ酸の多いペプチドで応答が見られたことから、内在性リガンドが塩基性ペプチドである可能性が考えられる。
この受容体に対するブタ脳抽出物の作用を調べる予定である。
市販されている化合物約 950 種類からなる化学物質ライブラリーを各 GPCR-Gα融合タンパク質に作用させて、新規
GPCR に対するアゴニストの検索を行った。その結果 11 種類の化合物が、4種類の GPCR-Gαi1 と 1 種類の GPCR-Gαs
のアゴニストとして作用することが分かった。また 3 種類の融合タンパク質は構成的活性化状態にあると推測され、それらに
対するインバースアゴニスト活性を持つ化合物が同定された[15]。これらのリガンドは生体内にはないので、代替アゴニスト
(surrogate agonist)である。一つの新規 GPCR(hGPCR48)については5オキソテトラエノイン酸(5-oxo-tetraenoic acid:
5oxo-ETE)がアゴニスト活性を持つことが分かった[16]。5-oxo-ETE は、好中球や好酸球の走化性因子であることが分かっ
ている。実際、今回応答した hGPCR48 は好中球や好酸球を含む顆粒画分に存在することが分かった。5-oxo-ETE は
hGPCR48 の内在性リガンドと考えられる。
■考 察
各種受容体とそれが共役する G タンパク質との融合タンパク質を作成して解析した結果、Gi や Gs と共役する受容体と
Gi または Gs との融合タンパク質の場合は、細胞膜標品を用いたアゴニスト依存性[35S]GTPγS 結合の促進という簡便な方
法で、リガンド検索に適用できることが分かった。これに対し Gq と共役する受容体と G11 との融合タンパク質の場合は、ア
ゴニスト依存性の[35S]GTPγS 結合促進の効果が少なく、リガンド検索への適応が困難であった。G16 は共役する GPCR の
タイプを選ばないとされているので、まだ共役する受容体がわからないオーファン受容体に適用するのに便利である。しか
し、G16 を用いた融合タンパク質でも、その効果の程度は G11 を用いた場合と変わらなかった。一方、G16 との融合タンパ
ク質を細胞に発現させた実験では、アゴニスト依存性の細胞内 Ca2+イオンの増加とプロスタグランジン E2 の生成が明確に
観察された。その応答は、受容体単独あるいは、受容体と G16 を同時に発現したときより大きく、リガンド検索系として有用
と考えられる。
GPCR-Gα融合タンパク質以外にも、細胞内 Ca イオン濃度測定、メラノサイトーマの利用、刺激依存性遺伝子発現の
可視化など、効率の良いリガンド検索系について検討した。それぞれを比較し総合的に考慮した結果、これまでの方法が
比較的不得意としてきた Gi に共役した GPCR によく適用できること、細胞を培養し続ける必要がなく凍結保存可能な膜画
分を用いて in vitro で活性測定できること、半手動半自動で1日に 2000 試料以上が測定でき、十分にハイスループットであ
ることなどから、GPCR-Gαi 融合タンパク質による[35S]GTPγS 活性測定法が新規生理活性ペプチドの検索に有利である
と判断した。加えて、この方法の長所としては内在性 GPCR が反応する偽陽性反応がみられず、最大3倍以上という大きな
S/N 比をもつことがあげられる。一方短所としては最少検出感度が GPCR とリガンドの間の親和性で決まり、細胞内情報伝
74
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的デ−タベ−ス化に関する研究
達過程での情報の増幅が期待できないことがある [1]。また、オーファン受容体が共役するGタンパク質を予測できないこ
とから、Gαi 及び Gαs それぞれとの融合タンパク質を作る必要があること、Gq と共役した受容体ではその何れでも応答が
見られないこと、という欠点がある。一方、GPCR-Gα16 融合タンパク質を細胞に発現した系は、逆の長所と短所を持つ。
長所は、細胞内信号系の増幅による感度の良さと、共役するGタンパク質が異なる GPCR に適用可能であること、である。
短所は、細胞培養は結合実験ほど簡便ではない点、偽陽性反応が見られる点、である。両者の併用、あるいは適宜選択を
考える必要がある。
ヒトゲノム配列から順調に 50 個の新規Gタンパク質共役受容体を同定することができた [5]。この論文は、他の発表に先
行するものである。ホモロジー検索を主とする他の方法に比べ、イントロンがないことを利用した点がユニークである。既知
の GPCR と相同性がないものも見いだされているので、そのリガンドの同定がこれからの課題である。これらのほとんどは現
時点では公共のデータベースに登録されているが、先行した分だけ、我々だけではなく、他の研究者にとっても有用な情
報であったと考えている。
これらの GPCR と Gi1αとの融合タンパク質の作製およびリガンド検索の開始は予定より多少遅れたが、比較的順調に進
んだ。ノシセプチンに関するモデル実験は予定通り順調に遂行され、化学物質のライブラリーから 6 種類の新規 GPCR に
ついてそれぞれ複数のアゴニスト、アンタゴニストを同定できたことから、スクリーニング系の有用性、適切さを確認できた。
これらの化合物のほとんどは非生理的な高濃度でしか活性をもたず、新規 GPCR の機能解明に直接つながる結果ではな
かったが、同じ GPCR に対して活性が得られた化合物は相互に共通の炭素骨格をもつ場合が多く、生体内リガンドの構造
を推測する際の情報を多少なりとも得ることができた。たとえば、アポモルフィン骨格をもつ化合物が数種類得られた GPCR
については、モルヒネとオピオイドペプチドの関係と同様に、チロシン残基をもつペプチドをリガンドとする可能性が考えら
れる。これら 6 種類の新規 GPCR については、これまでゲノム情報からの遺伝子予想にすぎなかったが、この結果により昆
虫細胞での機能的な発現、GPCR と Gαとの共役の確認、スクリーニング系の有効性などが確認できた点が意義深い。
実際のペプチド画分でのスクリーニングが十分に行えていない点は今後改善していかなくてはいけない点ではあるが、
今後は活性測定系が整備できた新規 GPCR について、RT-PCR から予想される発現部位ごとにペプチド画分を調製し、リ
ガンドとなるべきペプチドの同定を行っていく予定である。
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原著論文による発表
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なし
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Pharmacol., 88, 282-289, (2002)
16.
Nakagawa, M., Orii, H., Yoshida, N., Jojima, E., Horie, T., Yoshida, R., Haga, T., and Tsuda, M. : Ascidian
arrestin, the origin of the visual and nonvisual arrestins of vertebrate. Eur. J. Biochem., 269, 5112-5118,
(2002)
17.
Zhang, Q., Okamura, M., Guo, Z.-D., Niwa, S., and Haga, T.: Effects of partial agonists and Mg2+ ions on the
interaction of M2 muscarinic acetylcholine receptor and G protein-Gαi1 subunit in the M2-Gαi1 fusion
protein. J. Biochem., 135, 589-596, (2004)
18.
Fujii, T., Okuda, T., Haga, T., Kawashima, K. : Detection of the high-affinity choline transporter in the
MOLT-3 human leukemic T-cell line. Life Sci, 72, 2131-2134, (2003)
19.
Takeda, S., Yamamoto, A., Okada, T., Matsuura, E., Nose, E., Kogure, K., Kojima, S.and Haga, T. :
Identification of surrogate ligands for orphan G protein-coupled receptors, Life Sci., 74, 367-377, (2003)
20.
Okuda, T., and Haga, T. : High-affinity choline transporter, Neurochem. Res., 28, 483-488, (2003)
21.
Takeda, S., Okada, T., Okamura, M., Haga, T., Isoyama-Tanaka, J., Kuwahara, H., Minamino, N.: The
Receptor- Gα fusion protein as a tool for ligand screening: a model study using a nociceptin receptor-G
i2
fusion protein, J. Biochem., 135, 597-604, (2004)
22.
Suga, H., Takeda, S., Haga, T., Okamura, M., Takano, K., and Tatemoto, K.: Stimulation of increases in
intracellular calcium and prostaglandin E2 generation in Chinese hamaster ovary cells expressing receptor-G
α16 fusion proteins, J. Biochem., 135, 605-613, (2004)
23.
Sugiura, H., Iwata, K., Matsuoka, M., Hayashi, H., Takemiya, T., Yasuda, S., Ichikawa, M., Yamauchi, T.,
Mehlen, P., Haga, T., and Yamagata, K.: Inhibitory role of endophilin 3 in
receptor-mediated endocytosis. J.
Biol. Chem. (in press), (2004)
原著論文以外による発表(レビュー等)
国内誌(国内英文誌を含む)
1.
芳賀達也:「伝達物質受容体の生化学」,吉田孝人,糸山泰人,錫村明生編,免疫学からみた神経系と神経
77
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的デ−タベ−ス化に関する研究
疾患,日本医学館,140-148,(1999)
2.
福崎厚,芳賀達也:「ムスカリン性アロステリックリガンド」,Brain Medical 11,59-66,(1999)
3.
吉田典弘,芳賀達也:「Gタンパク質共役受容体」,別冊・医学のあゆみ,7回膜貫通型受容体研究の新展開,
p4-8, (2001)
4.
芳賀達也:「Gタンパク質共役受容体:最近の進歩」,蛋白質・核酸・酵素,46,1764-1771,(2001)
5.
古川浩康,芳賀達也:「ムスカリン性アセチルコリン受容体 M2サブタイプの大腸菌での発現」,生物物理,41,
24-27,(2001)
6.
芳賀達也:「興奮の伝導と伝達の分子機構」,御子柴克彦,清水孝雄編,シリーズバイオサイエンスの新世紀,
第11巻 脳の発生・分化・可塑性,共立出版,145-154,(2002)
7.
武田茂樹、芳賀達也:「ヒトゲノムの全貌」,Molecular Medicine,#56247,中山書店
国外誌
1.
Haga, T. and Berstein, G. (Editors): G protein-coupled receptors, Boca Raton, London,
New York,
Washington D.C., CRC Press, (1999)
2.
Haga, T., Haga, K., Kameyama, K., Tsuga, H. and Yoshida, N.: Regulation of G protein-coupled receptor
kinase 2, Methods in Enzymol., 343, 559-577, (2001)
口頭発表
招待講演
1.
Haga, T., Zhang, Q., Okamura, M., Guo, Z .- D. and Takeda, S.: Receptor-G protein fusion proteins as a
tool for ligand screening., Yokohama, The third International Symposium on membrane receptors, signal
transduction and drug action, 2000
2.
芳賀達也,武田茂樹:「受容体・Gα融合タンパク質」,東京,第8回創薬薬理フォーラム,2000 年 9 月 18 日
-19 日
3.
芳賀達也:「Gタンパク質共役受容体の機能と機能調節」,大阪,大阪大学蛋白質研究所セミナー,2000 年
12 月 2 日
4.
武田茂樹:「ゲノム情報から新しい GPCR を検索する」,京都,第44回日本神経化学会大会,2001 年 9 月 26
日
5.
芳賀達也:「GPCR とリガンドの相互作用」,東京,文部省科研費特定領域研究「多元的情報公開」公開シン
ポジウム, 2001 年 2 月 13 日
6.
武田茂樹,芳賀達也:「新しい G タンパク質共役受容体とペプチドリガンドの検索」,京都,第74回日本生化
学会大会,2001 年 10 月 25 日-28 日
7.
芳賀達也,岩田健,吉田典弘,津賀浩史:「G タンパク質共役受容体のリン酸化と細胞内移行」,京都,第78
回日本生理学会,2001 年 3 月 29 日-31 日
8.
芳賀達也,武田茂樹,古川浩康:「受容体と G タンパク質の相互作用:受容体・Gα融合タンパク質を用いた
研究」,横浜,第24回日本分子生物学会年会,2001 年 12 月 9 日-12 日
9.
Haga, T., Takeda, S., Furukawa, H. Tanabe, H. and Niwa, S.: G protein-coupled receptors and
receptor-Galpha fusion proteins as chemical sensors, Fukuoka, The International Invitational Workshop on
Artificial Interface Device 、2002.3.12-13
10.
Yoshida, N., Haga, T.:受容体のリン酸化による機能制御,熊本,第75回日本薬理学会,2002 年3月 13 日
-15 日
11.
芳賀達也:「受容体・Gα融合タンパク質を用いたリガンドの識別」,熊本,第75回日本薬理学会,2002 年 3
月 13 日-15 日
78
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的デ−タベ−ス化に関する研究
12.
芳賀達也:「タンパク質共役受容体のリガンド検索と機能調節」,東京,JBIRC 特別セミナー「受容体構造と働
き」,2002 年 5 月 27 日
13.
芳賀達也:「G タンパク質共役受容体のリガンド検索」,お茶の水,molecular design,知識システムによる分子
設計研究会,2002 年 6 月 6 日
14.
芳賀達也:「G タンパク質共役受容体あれこれ:細胞内移行、創薬、脳での役割など」,京都,第75回日本生
化学会大会,2002 年 10 月 14 日-17 日
15.
芳賀達也:「コリン作動性神経の機能素子:ムスカリン受容体とコリントランスポーター」,東京,第15回産業神
経・行動学研究会(神経行動毒性研究会研究交流会),2003 年 7 月 11 日
応募・主催講演等
1.
Zhang, Q., Guo, Z.-D., Okamura, M., Takeda, S. and Haga, T. :Effects of partial agonists and Mg2+ on
interaction of M2 muscarinic receptor and G protein Gi1α subunit in M2-Gi1α fusion protein., Miami,
Society for Neuroscience, 29th Annual Meeting, October 23-28, 1999
2.
郭政東,張慶利,岡村理子,武田茂樹,芳賀達也:「ムスカリン受容体とGタンパク質αサブユニットの融合タ
ンパク質」,東京,日本薬理学会関東支部会,1999 年
3.
武田茂樹,岡村理子,張慶利,芳賀達也:「受容体とGタンパク質の融合タンパク質による新規リガンドスクリ
ーニング」,横浜,第72回日本生化学会,1999 年 10 月 6 日-9 日
4.
Takeda, S., Okada, T., Okamura, M., Haga, T. and Minamino, N.: Nociceptin receptor-Gi2α fusion protein
as a model system to screen endogenous and synthetic ligands., Boston, Drug Discovery 2000 , 2000
5.
武田茂樹,能瀬栄美,岡田知明,芳賀達也:「β2アドレナリン受容体とGsαサブユニットの融合タンパク質を
用いたリガンド・受容体相互作用の解析」,横浜,第73回日本生化学会,2000 年 10 月 11 日-14 日
6.
須賀比奈子,岡村理子,武田茂樹,芳賀達也,立元一彦:「CX3C ケモカイン受容体とG蛋白質との融合蛋白
質の機能解析」,横浜,第73回日本生化学会,2000 年 10 月 11 日-14 日
7.
武田茂樹,岡田知明,岡村理子,芳賀達也,南野直人:「ノシセプチン受容体と Gi2αサブユニットの融合タ
ンパク質をモデルとしたリガンドスクリーニング系の開発」,金沢,第43回日本神経化学会,2000 年 10 月 18
日-20 日
8.
須賀比奈子,岡村理子,武田茂樹,芳賀達也,立元一彦:「CX3C ケモカイン受容体とG蛋白質 G16a との融
合蛋白質の機能解析」,札幌,日本薬学会第 121 回年会,2001 年 3 月 28 日-30 日
9.
武田茂樹,門脇嗣郎,芳賀達也,高江洲宏智,美宅成樹:「ヒトゲノムデータベースを利用した G タンパク質共
役受容体の網羅的検索」,横浜,第74回日本薬理学会,2001 年 3 月 21 日-23 日
10.
武田茂樹,芳賀達也,高江洲宏智,美宅成樹:「ゲノムデータから予想された G タンパク質共役受容体候補
遺伝子の解析」,大阪,第 1 回日本蛋白質科学会年会,2001 年 6 月 1 日-3 日
11. 須賀比奈子,岡村理子,武田茂樹,高尾恭一,芳賀達也,立元一彦:
「G タンパク質共役受容体と G16
αとの融合タンパク質を用いたリガンド検索法の開発」,京都,第 74 回日本生化学会大会,2001 年
10 月 25 日-28 日
12. 武田茂樹,芳賀達也:
「受容体-Gα融合蛋白質を用いたリガンド探索」,大阪,第 39 回日本生物物理
学会年会,2001 年 10 月 6 日-8 日
13.
須賀比奈子,岡村理子,武田茂樹,芳賀達也,立元一彦: 「CX3C ケモカイン受容体と G タンパク質 G16αと
の融合タンパク質を用いたリガンド探索法の開発」,札幌,第 121 回日本薬学会年会,2001 年 3 月 28 日-30
日
14. 武田茂樹,門脇嗣郎,芳賀達也,高江洲宏智,美宅成樹:「ヒトゲノムデータベースを利用した G タ
ンパク質共役受容体の網羅的検索」,横浜,第74回日本薬理学会,2001 年 3 月 21-23 日
15. 須賀比奈子,岡村理子,武田茂樹,高尾恭一,芳賀達也,立元一彦:
「STIMULATION OF PROSTAGLANDIN
79
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的デ−タベ−ス化に関する研究
E2 GENERATION BY ACTIVATION OF A FUSION PROTEIN OF CX3C CHEMOKINE RECEPTOR WITH G PROTEIN
α SUBUNIT (G16α) EXPRESSED IN CHO CELLS」,東京,第7回血小板活性化因子(PAF)と脂質メディ
エーターに関する国際会議,2001 年 9 月 24-27 日
16. 奥田隆志,貝塚千奈,芳賀達也:「高親和性コリントランスポーター遺伝子の単一塩基多型」,京都,
第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同大会,2001 年 9 月 26 日-28 日
17. 小林靖,奥田隆志,藤岡保範,松村讓兒,西村ゆう,芳賀達也:「ヒトとニホンザルの脊髄における
高親和性コリントランスポーターの局在」,京都,第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神経化学合同
大会,2001 年 9 月 26 日-28 日
18. 武田茂樹:「ゲノム情報から新しい GPCR を検索する」
,京都,第 24 回日本神経科学・第 44 回日本神
経化学合同大会,2001 年 9 月 26 日-28 日
19. 笠井倫志,村越秀治,飯野亮太,藤原敬宏,中西華代,吉住玲,伊丹憲史,小林剛,芳賀達也,Prossnitz,
E.,楠見明弘:「G タンパク質共役型走行性受容体シグナルの局在化機構:G タンパク質活性化の1分
子可視化解析」,大阪,第 39 回日本生物物理学会年会,2001 年 10 月 6 日-8 日
20. 杉浦弘子,岩田健,松岡勝人,山内卓,芳賀達也,山形要人:「SH3タンパク質 endophilin3 による
受容体エンドサイト-シス調節の分子機構」,京都,第 74 回日本生化学会大,2001 年 10 月 25 日-28
日
21. Takeda, S., Kadowaki, S., Haga, T., Takaesu, T. and Mitaku, S. : Systematic search of G-protein
coupled receptor genes from human genome database., San Diego, Society for Neuroscience
2001
Annual Meeting, November 10-15, 2001
22. Okuda, T. and Haga, T.:A single nucleotide polymorphism affects the transport rate of the human
high-affinity choline transporter, San Diego, Society for Neuroscience 2001 Annual Meeting
November, 10-15, 2001
23.
Yoshida, N., Haga, K., Haga, T. and Tsuga, H. : Identification of sites of phosphorylation by G
protein-coupled receptor kinase 2 in β-tubulin , San Diego, Society for Neuroscience 2001 Annual Meeting,
November, 10-15, 2001
24.
杉浦弘子,岩田健,松岡勝人,車田正男,山内卓,市川真澄,芳賀達也,山形要人:「嗅球糸球体における
endophilin-3 によるドーパミン D2 受容体エンドサイト-シスの調節」,札幌,第45回日本神経化学会大会,
2002 年 7 月 17 日-19 日
25.
須賀比奈子,高尾恭一,武田茂樹,芳賀達也,立元一彦:「新規 G タン質共役型受容体 THTR の cDNA クロ
ーニングと組織発現解析」,京都,第75回日本生化学会大会,2002 年 10 月 14 日-17 日
26.
大澤千恵子,西山順之,奥田隆志,芳賀達也:高親和性コリントランスポーターの機能解析:「細胞膜貫通領
域の酸性アミノ酸と C 末の役割 」,京都,第75回日本生化学会大会,2002 年 10 月 14 日-17 日
27.
山本篤史,武田茂樹,芳賀達也 :「5-oxo-eicosatetraenoic acid に対する G タンパク質共役受容体の同定」,
京都,第75回日本生化学会大会,2002 年 10 月 14 日-17 日
28.
中川将司,堀江健生,城島依理,吉田典弘,織井秀文,芳賀達也,日下部岳広,津田基之:「Visual arrestin
とβ-arrestin の両特性をもつアレスチン」、名古屋、第40回日本生物物理学会、2002 年 11 月 2 日-4 日
29.
城島依里,吉田 典弘,芳賀 達也:「ムスカリン性アセチルコリン受容体のサブタイプ特異的細胞内移行とリ
サイクリン グ:細胞内第 3 ループの役割」,横浜,第 25 回日本分子生物学会年会,2002 年 12 月 11 日-14
日
30.
山田治彦,芳賀達也,岡村理子,奥田隆志,小林靖:「高親和性コリントランスポーター遺伝子のプロモータ
ー解析」,横浜,第 25 回日本分子生物学会年会,2002 年 12 月 11 日-14 日
31.
Suga, H., Takao, T., Takao, K., Takeda, S., Haga, T., Tatemoto, K.: Ligand screening of THTR G
protein-coupled receptors using receptor-G alpha 16 fusion proteins, 横浜,第76回日本生化学会大会,
80
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的デ−タベ−ス化に関する研究
2003 年 10 月 15 日-18 日
32.
Sugiura, H., Iwata, K., Yamauchi, T., Haga, T., and Yamagata, K.: Regulation of dopamine D2-receptor
mediated endocytocis by endophilin 3, 横浜,第76回日本生化学会大会,2003 年 10 月 15 日-18 日
33.
Saito, H., Jojima, E., Yoshida, N., and Haga, T.: Internalization and recycling of muscarine acetylcholine
receptor M2 and M4 subtypes: th role of the third intracellular loop (I3 loop), 大阪,日本薬理学会,2004 年
3 月8日-10 日
34.
Fujii, T., Okuda, T., Haga, T., and Kawashima, K.: Expression of high-affinity choline transporter CHT1 in
the human leukemic T cell line MOLT-3, 大阪,日本薬理学会年会,2004 年 3 月 8 日-10 日
特許等出願等
1.
1999 年 8 月 27 日,「高親和性コリントランスポーター」,芳賀達也,奥田隆志,科学技術振興事業団,特願平
11-368991
2.
2000 年 8 月 4 日,「新規 G 蛋白質共役受容体」,芳賀達也,武田茂樹、美宅成樹,科学技術振興事業団,
特願 2001-34434 号
3.
2000 月 8 月 22 日,「表面プラズモン共鳴角及び蛍光同時検出装置」,武田茂樹,芳賀達也,田中孝治,米
田英克,日本レーザ電子株式会社(代表者 米田勝實)(50%),科学技術振興事業団(代表者 川崎雅弘)
(50%),特願 2000-250424 号
4.
2002 年 2 月 25 日,「G タンパク質共役受容体と G16αとの融合タンパク質を用いたリガンド探索法」,芳賀達
也,須賀比奈子,立元一彦,科学技術振興事業団,特願 2002-48850
5.
2002 年 5 月 31 日,「5-oxo-ETE 受容体タンパク質及びその遺伝子」,芳賀達也,武田茂樹,山本篤史,科学
技術振興事業団,特願 2002-189777
6.
2002 年 1 月 31 日,「高親和性コリントランスポーターCHT1」,芳賀達也,奥田隆志,科学技術振興事業団,
PCT/JP00/05545,A001-05US(アメリカ),A011-05CA(カナダ),A011-05EP(イギリス,ドイツ,フランス,イタリ
ア,スイス,スウェーデン)
受賞等
なし
81
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
2.生体内ペプチドの生物活性、受容体と立体構造に関する研究
2.4. 分子設計を用いた受容体との相互作用、立体構造に関する研究
財団法人サントリー生物有機科学研究所
石黒 正路
■要 約
生理活性ペプチドのレセプター結合構造について、分子動力学法による水溶液中での構造シミュレーション、ペプチド
レセプターの立体構造のモデリングと複合体構造モデルシミュレーション、そしてNMRによる(水)溶液中での構造解析と
その構造にもとづく分子動力学計算による構造シミュレーションなどを用いて解析し、レセプターに結合するペプチドの重
要な構造を明らかにする方法を確立することが可能となった。ペプチドレセプターの立体構造のモデリングには典型的な
GPCR であるロドプシンの立体構造と構造変化についてのモデルを作成し、活性型のレセプター構造を推測した。さらにこ
れをもとにペプチドのレセプターの立体構造モデルを作成してペプチドとの複合体構造モデルをシミュレートして、ペプチ
ドとレセプターの認識機構を推定した。その結果、GPCR に結合するペプチドの構造には共通したモチーフが存在すること
が推定された。また、miniANP を中心にレセプター結合構造を NMR と分子動力学法の組み合わせにより解析し、さらにア
ナログのデザインと合成により推定されたレセプター結合構造を確認し、この方法がレセプター結合構造の解析に有効で
あることを示した。
■目 的
生理活性ペプチドは多様な活性が知られており、医薬品開発の面からペプチドまたはペプチドの活性をミミックするペプ
チドアナログまたは非ペプチド性低分子化合物のデザインが望まれている。このようなデザインを可能にするには、ペプチ
ドのレセプター結合構造の解析やペプチドレセプターの立体構造と機能の解析が必要である。そこでレセプターの構造と
機能、およびリガンドペプチドのレセプター結合構造そしてリガンド・レセプター相互作用様式に関するデータを整備するこ
とにより、より効率的なデザインが可能となるデータベースを作成する。
本研究では、活性ペプチドの受容体構造、受容体結合構造などのモデリングと解析を行いデータベース化を行うと共に、
これを用いた一次構造から溶液構造、受容体結合構造などの推定方法を確立することを目的とした。また、これらを活用し
機能未知のレセプター(オーファンレセプター)に対する内在性ペプチドリガンドの配列予測や機能未知のペプチドの受容
体結合構造や活性の推定方法の開発、そしてこれらのデータを基にした新しい創薬方法などの開発を目的とした。
■ 研究方法
1.アミノ酸配列から立体構造の発生と構造データベース化
アミノ酸数 30 個以下のほ乳類のペプチド配列を収集し、既知の蛋白質の立体構造を用いてその配列とペプチドの配列
の相同性からペプチドの立体構造を発生する方法およびアミノ酸配列から立体構造を分子動力学法により真空中および
水溶液中でのシミュレーションにより、安定構造をサンプリングし、クラスター解析を行う。
2.ペプチド受容体の立体構造モデルの作成
ペプチドレセプターと相同性のあるロドプシンの活性化構造モデルを作成する。特に、クロモフォアであるレチナールの
光異性化機構を分子動力学法により詳細に検討したうえで、蛋白質の構造変化を検討する。さらに、構造変化したモデル
82
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
が有効なものであるかどうか G 蛋白質結合型レセプターの中でも最も研究が多く行われているアドレナリンやドーパミンなど
のニューロトランスミッターアミンのレセプターについてミュータントの結合実験を含めた実験データにうまく合致するかどう
かを確認する。また、リガンド・レセプター認識機構について明らかにする。
次いでロドプシの活性化立体構造モデルを用いてペプチドレセプターの活性化構造モデルを作成し、ペプチドをレセプ
ター構造にドッキングして複合体構造モデルを作成する。この際、ニューロトランスミッターアミンレセプターにおけるリガンド・
レセプター認識機構をペプチドレセプターモデルに適用してペプチドの受容体結合構造が推測可能かどうか確認する。これ
らの解析の結果をもとにペプチドのレセプター結合構造を推測するとともに、それらに共通した構造的要因を解析する。
3.ペプチドの溶液構造の解析
ペプチドの溶液構造を NMR を用いて解析し、得られる立体構造モデルとレセプター結合構造との相関について、得ら
れる立体構造に基づくアナログのデザインからの解析と複合体構造モデリングを用いて解析する。
■ 研究成果
1. アミノ酸配列から立体構造の発生と構造データベース化
数種のペプチドの水溶液中での分子動力学計算を行い、レセプター結合構造の推定に良好な結果が得られた。水溶
液中としてふたつの条件を用いて行った。そのうち水分子を explicit に取り扱って、水分子のプールの中にペプチドを入れ
て水分子とペプチドをともに計算条件に組み込んだ方法による計算では、大量の時間を必要とし、多数のペプチドのコン
フォメーション解析と、コンフォメーション検索には課題が残った。
一方、水分子を explicit に取り扱わず模擬的な水溶液中での分子動力学計算では計算時間を有効に使用できることか
ら、ひとつのペプチドについてペプチド結合数-1の数の初期構造を用いて計算を行った。ひとつの初期構造について
1ns の計算を行い、10ps 毎に 100 個のコンフォメーションをサンプリングした。これらのコンフォメーションについてレセプタ
ー複合体から得られる構造モチーフに対応した構造がサンプリングすることが可能となっている。
2. ペプチドレセプターの立体構造モデルの作成とレセプター結合構造
アンジオテンシン II、オピオイドペプチド、タヒキニンなどの多様な生理活性ペプチド類をリガンドとするレセプターは G 蛋
白質結合型レセプター(GPCR)と呼ばれる7回の膜貫通ドメインからなるシグナル伝達機能を持つ膜蛋白質で、ドーパミン
やセロトニンなどの生体アミン、プロスタグランジンなどの脂質誘導体、アデノシンなどの核酸、GABA などのアミノ酸など多
様なリガンドのレセプターファミリーを形成している。さらに、GPCR は光、味覚、臭覚に関連する生体外情報伝達物質のレ
セプターともなっており、情報伝達の中核を担う重要な膜蛋白質である。ヒトゲノム配列から GPCR と推測されるオーファン
レセプター配列も多く見出されており、それらに対応する内在性リガンドの発見によって、医薬品開発の標的となってゆくも
のと期待されている。GPCR に結合するリガンドは、大別するとアゴニスト(作働薬)とアンタゴニスト(拮抗薬)になるが、最近
の薬理学的分類からするとアゴニストはフルアゴニストとパーシャルアゴニストに、そしてアンタゴニストはインバースアゴニス
トとアンタゴニストに分けられる。これらのリガンドの結合によって GPCR の構造が変化することが示唆されており、リガンド結
合とレセプターの構造変化は GPCR における情報伝達様式と深く関わっているものと推測される。このなかで生理活性ペ
プチドはフルアゴニストに分類され、レセプター構造もこれに対応した構造をもつものと考えれる。
GPCR は膜を7回貫通するドメインを有することで共通しており、そのアミノ酸配列の相同性からいくつかのファミリーに分
類される。なかでも光受容膜蛋白質であるロドプシンと高い相同性を有する GPCR では、それぞれの膜貫通ドメインにおい
て保存度の高いアミノ酸残基が存在し、これらのアミノ酸残基は GPCR の機能に重要な関与をしていると推測される。
最近 X 線結晶構造解析によるロドプシンの詳細な立体構造が明らかにされた。この構造から GPCR において良く保存さ
れたアミノ酸残基が果たす役割についていくつかの部分について推測が可能となった。特に TM6 に存在する保存度の高
い Pro 残基はこのヘリックスに特徴的な折れ曲がり(キンク)構造をもたらしており、最近の研究から TM6 がレセプターの活
性化に伴ってヘリックスの軸を中心に回転することが示され、このような構造と GPCR の機能との関わりを解明することは本
83
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
研究の重要な課題となった。GPCR の構造変化および機能に関する研究においてはロドプシンについて最も詳細な研究
が行われており、ロドプシンの研究結果に基づいてまず光照射によって変化する蛋白質の構造変化についてそれぞれの
中間体構造のモデルを作成することにした。
ロドプシンは蛋白質であるオプシンの Lys296 に11-シスレチナールが共有結合で結合してシッフ塩基を形成した膜蛋
白質である。クロモフォアの UV 吸収(λmax)は 498nm という長波長領域にシフトしており、ロドプシンに光照射すると、さら
に長波長シフトした UV 吸収を示すきわめて不安定なバソロドプシン(Batho)となり、11-シスが11-トランスに変化したオ
ールトランス型のクロモフォアとなる。この高エネルギーで不安定な Batho はクロモフォアとオプシンの熱的な構造変化を伴
って、順次ルミロドプシン(Lumi)、メタロドプシン I(Meta—I)、メタロドプシン Ib(Meta—Ib)そしてメタロドプシン II(Meta—II)と
呼ばれる中間体へと変化する。一方、より生理的条件下では Lumi はメタロドプシン I380(Meta—I380)と呼ばれる中間体を経て
Meta—II に変化することなどが知られている。G 蛋白質の活性化は Meta—II において生じるため、ロドプシンに結合した11
-シスレチナールはインバースアゴニストであり、Meta—II に結合したオールトランスレチナールはフルアゴニストになる。こ
のようにロドプシンにおいては光照射によって同じクロモフォアがインバースアゴニストからフルアゴニストに変化するため、
スペクトル変化により構造変化を観測することができる。しかし、実際にどのように異性化が生じさらに蛋白質の構造変化が
誘導されるかと言う立体構造情報は全くなく、このような構造変化についてコンピュータを用いたシミュレーションを行った。
その結果、構造変化についての重要な知見を得て、構造変化中間体の立体構造モデルを作成することができた。
ロドプシンから Batho への変化は速く、200fs 以内で生じる。このような条件のもとレチナールの異性化について分子動力
学法によりシミュレートすると、異性化した二重結合にひずみが生じ約30度にねじれた構造となることが示された。この不安
定なバソロドプシンの構造のひずみを解消するには、TM3 および TM4 の構造が変化することが必要であることが示された。
クロモフォアであるレチナールはオプシンの構造変化に伴いβ-イオノン部が6番目のヘリックスから4番目のヘリックスへ
と向きを変えることが示されており、このような構造変化に対応した構造がえられた。
さらに、Meta—II へはそれぞれ、数 ms の時間で構造的変化する。これは蛋白質の二次構造の空間的な動きを伴う大きな構
造変化に十分な時間である。Khorana と Hubell らは6番目の膜貫通ヘリックス全体が大きく回転し膜蛋白質の構造が相当大きく
変化することを示した。このような構造変化はレチナールの異性化に伴って生じる TM3 と TM4 の外向きの動きに従って、TM6
が TM3 の方向に(内向きに)動くということから理解できる。この際 TM6 に存在するキンクしたヘリックスが立体的な障害を避け
るために回転が必要になると説明される。このようにして、現
図ー1 4種のレセプター構造
在までに観測されているロドプシンの構造変化情報に合致し
た活性化構造(Meta-II)モデルを作成した。このモデルはロ
ドプシンの構造変化を説明するばかりでなく、G 蛋白質との相
互作用や活性化の機構についても新しい視点をもたらした。
Metarhodopsin
Partially Active
また、活性化状態の生成に必須な TM6 の回転はレセプター
I380
のリガンド認識に重要な構造的特異性を与える。すなわち、
TM6 の回転の前後ではリガンド結合部位における TM6 が関
Metarhodopsin
Fully Inactive
与するアミノ酸残基が異なり、フルアゴニストとアンタゴニスト
I
Metarhodopsin Ib
Physiologically Inactive
図ー2 プロプラノロールの複合体モデル
Metarhodopsin
を認識するアミノ酸残基が異なることが示された。
Fully Active
ロドプシンの光活性化中間体の構造モデルは GPCR が
TM4
TM3
とる多様な構造に対応していると考えられることから、それ
V114
V117 D113
ぞれの中間体の構造を基にしてレセプターの立体構造モ
S207
S203
デルを組み立てると、それぞれのリガンドの結合の特異性
TM5
が検討できる。ロドプシンの結晶構造と Meta—II 構造モデル
F208
S204
を比較すると、保存度の非常に高い TM6 の Trp 残基の位
EL2
置などを比較することによってアゴニストとアンタゴニストを
N312
W286
F290
N293
E188
TM6
認識するアミノ酸残基が異なる大きな変化が生じていること
が示唆された。
84
TM7
II
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
ロドプシンでは、リガンド(レチナール)がインバースアゴニストからフルアゴニストに急速に変化するため途中の中間体の活
性化についての詳細な情報が得られない。しかし、他の GPCR ではインバースアゴニスト、アンタゴニスト、パーシャルアゴニ
スト、そしてフルアゴニストがそれぞれ異なる化合物として存在するため、それぞれが結合するレセプター構造の活性化の程
度が推測できる。図-1にはこれら4種のレセプター構造に対応するロドプシンの活性化中間体の構造モデルを示した。
アドレナリンβ2-レセプターのインバースアゴニストであるプロプラノロールはレセプターを完全に不活性化する。ロドプ
シンが吸収する光エネルギーがほとんど Meta—I の生成に費やされることを考えると、β2-レセプターのインバースアゴニ
ストが結合する構造は Meta—I に近い構造をとっているものと考えられる。図-2はプロプラノロ-ルとレセプターの複合体
の構造モデルを示した。リガンドのアミンは TM3 上で保存された Asp 残基と相互作用する。一方、ナフチル基は TM5 およ
び 6 の芳香族アミノ酸残基と芳香環クラスターを形成する。この相互作用はレセプターの不活性構造を安定化する。
フルアゴニストである(R)-イソプロテレノールの複合体では、アミンが同様に TM3 上で保存された Asp 残基と相互作用
する一方、カテコール基は TM5 上の二つの Ser 基と相互作用して完全に活性化された Meta—II に近い構造を安定化する
モデルとなる(図-3)。
フルアゴニストによる Meta—II 様構造の安定化は、ムスカリン性アセチルコリンレセプター複合体において典型的な例を
示すことができる(図-4)。アセチルコリンのカチオン部はやはり TM3 上で保存された Asp 残基と相互作用する。一方、複
合体モデルからは TM6 上の Tyr403残基とリガンドのアセチル基との相互作用が示される。この Tyr403残基を部位特異
的に変異させるとアセチルコリンの結合活性が下がることが示されている。一方、この変異はアンタゴニストなどの結合には
全く影響しない。これは Meta—I 様の不活性構造モデルでは Tyr403残基がアセチル基と相互作用できず、完全活性構造
モデルの場合のみに相互作用が可能な位置に存在することに良く対応する。すなわち、この相互作用は TM6 が構造変化
した完全活性構造の安定化に寄与するものと考えられる。このようなリガンドの機能とレセプターの立体構造の対応はその
他のリガンドにおいても見られ、インバースアゴニスト、アンタゴニスト、パーシャルアゴニスト、そしてフルアゴニストが結合
する構造とレセプターの活性化状態について図-5に示す関係にあると考えることができる。また、上の例で示されるように、
インバースアゴニストとフルアゴニストではレセプターの不活性構造または完全活性化構造を安定化するグループを複合
体構造モデルから特定できる(図-6)。
図ー3 イソプロテレノールの複合体モデル
図ー4 アセチルコリンの複合体モデル
TM4
TM3
TM5
D103
S107
TM3
V114
V117
S203
S207
D113
T190
S204
TM5
N293
Y403
TM7
C285
L284
P288
N404
TM7
TM6
TM6
図ー6 レセプターの構造変化とリガンド認識様式
図ー5 4種のレセプター機能構造とG蛋白質の活性化
Partial Agonist-bound
Active
Inactive
Antagonist Binding
G protein bound
Inverse Agonist-bound
Inactive
Agonist Binding
Antagonist-bound
Active
4
Inactive
G protein unbound
3
G protein bound
Agonist-bound
Active
5
Inactive
85
3
1
7
6
G protein bound
4
2
5
6
2
7
1
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
このようにして得られたリガンドとレセプターの相互作用の様式から約 20 種のペプチド受容体の立体構造について、ロド
プシンの活性化構造モデルから作成し、ペプチドとそのレセプターの複合体モデルを作成した。まず、リガンドペプチドとし
て最も研究されているサブスタンスPとそのレセプターについて検討し、ペプチドを受容体のリガンド結合部位にドッキング
させた複合体モデルを作成した。
サブスタンスPは 11 個のアミノ酸からなるペプチドで特にC-末側の 6 個のアミノ酸残基が活性に重要であり、C-末端
のアミドは活性発現に必須であることが知られている。これはまた、C-末端 6 個の残基がレセプターの膜貫通部位で構成
されるリガンド結合部位に結合するものと考えられる。ペプチドは低分子リガンドに比べてフレキシブルでかつ大きいため結
合部位に結合する初期構造を発生させるにはその結合部位の大きさをあらかじめ考慮する必要があるが、ここでは Insight
II にインストールされたモジュール Active-site Search を用いて結合空間を計算しその構造に合うペプチドのコンフォメー
ションを発生させた。この初期複合体構造を energy-minimize し、さらに分子動力学計算により structure-optimize した。
このようにして得られた構造について、レセプターの site-directed mutation によって得られたスブスタンスPとの結合情報
との対応を見た。その結果、C-末端アミド基が相互作用するとされる TM1 および 2 の Asn 残基および His 残基との位置
関係を確認することができた。また、TM7 の Met 残基の Cys 異性体がサブスタンスPのC-端の Leu10または Met11を Cys
としたアナログがジスルフィド結合を形成するという結果に対応して Leu10および Met11が TM7 の Met に近接した位置に存
在することも確認して、複合体モデルが実験データと矛盾しない構造となっていることを示すことができた。
同様にして、オピオイドペプチドの複合体モデルでは、N-端末のアミノ基が TM3 の Asp 残基と TM6 の主鎖のアミドカ
ルボニルに近接した構造が得られる。オピオイドペプチドではエンケファリンが 5 個のアミノ酸残基からなり、C-末端がカ
ルボキシレートでありレセプターではδサブタイプに選択的である一方、エンドルフィンなどの 10 個以上のアミノ酸残基から
なるオピオイドペプチドではκサブタイプ選択的であることが知られる。このサブタイプ選択性はふたつのレセプターの複
合体モデルにおけるペプチドとレセプターの相互作用の違いから見ることが可能であった。特にエンケファリンのC-末端
のカルボキシレートが相互作用するδレセプターの残基が EL2 の Arg であるが、κレセプターでは Glu であることからC-
末端のカルボキシレートは相互作用は不利であり、さらに
図ー7 ノシセプチンの複合体モデル
ペプチド結合が伸びたエンドルフィンのアミド結合が有利
な相互作用をするものと推測される。このような相互作用
はオピオイドレセプターに類似したレセプターであるノシセ
Thr
プチンレセプターでも同様にペプチド結合に対応したアミ
EL2
Glu
ノ酸残基となっている(図-7)。
ノシセプチンレセプターに対して高親和性を示す人工
合成によるペプチドアナログはノシセプチンとは全く異なる
TM5
配列を持ち、かつ親和性もノシセプチンより高いことが示さ
TM6
れている。しかし、その活性化能はノシセプチンより低く、
FGGF TSA---
パーシャルアゴニストであると考えられる。事実、ノシセプ
チンが結合するフルアゴニスト結合レセプターモデルには
図ー8 合成ペプチドのノシセプチンレセプター複合体
全く結合ができないが、パーシャルアゴニスト結合レセプ
ターモデルには非常によくフィットした複合体モデルが作
K6
成できる(図-8)。この結果は、内在性ペプチドはフルア
W5
ゴニスト結合レセプター構造に結合するが、合成ペプチド
R4
などにおいてはパーシャルアゴニストやアンタゴニスト結合
Y3
レセプター構造に結合する場合があり、複合体構造モデ
Y2
ルの作成を通じてそれらペプチドの機能を予測できる可
R1
能性が示されている。
アンジオテンシン II は 8 個のアミノ酸残基からなるペプチ
Ac- RYYRWK-NH 2
ドで、C-末端のカルボキシレートが TM4 の Lys と結合した
86
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
複合体モデルが作成できる。この C-末端のカルボキシレート以外にふたつの Aromatic 基が重要な役割をはたしているとされ
るが、これらの残基はレセプターの芳香族残基と aromatic cluster を形成することが示される(図-9)。一方、アンジオテンシン
II のアンタゴニストとして知られるロサルタンはアンタゴニスト結合型レセプター構造モデルとの複合体構造が有効に作成でき、
フルアゴニストとアンタゴニストが結合するレセプター構造が異なることを考慮したモデルが重要であることが示された。
図ー9 アンジオテンシンIIとレセプターの芳香環クラスター
図ー10 ペプチドのレセプター結合構造モチーフ
Tyr4
K199
Phe8
上に示したように内在性生理活性ペプチドはフルアゴニストとして活性型レセプター構造に結合すると考えられる。そこ
で、約 20 種の内在性生理活性ペプチドについてそのレセプターとの複合体構造モデルを作成すると、図-10に示すよう
な共通した構造モチーフが存在することが示唆された。このモチーフは今後ペプチドの共通モチーフとしてレセプター結
合複合体構造作成に有効に用いることができる。また、分子動力学計算によって得られた大量のコンフォメーションから、
構造モチーフを含む構造を抽出することが可能となり、レセプター構造が不明なペプチドについてレセプターが GPCR で
あると仮定した場合にレセプター結合構造を予測することが可能になったものと考えられる。
3. ペプチドの溶液構造の解析とレセプター結合構造
miniANP(MCHFGGRMDRISCYR-NH2)は、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の約半分の大きさで、ANP と同等の
活性を有する合成ペプチドである。その配列は、アラニンスキャンとファージディスプレイによって最適化されている。1 回膜
貫通型レセプター(NPR-A)と結合するとセカンドメッセンジャーの cGMP を産生し、Na 利尿作用、血管拡張作用、レニン
-アンジオテンシン-アルドステロン系の抑制作用などの生理作用を引き起こす。
miniANP は、そのサイズの小ささから構造と活性に強い相関があると考えられる。これまでに、疎水性残基の Phe4, Met8,
Ile11 が活性に重要であることが明らかにされているが、それ以上の構造と活性の相関は得られていない。そこで、NMR と分
子動力学計算による構造解析に基づいてアナログペプチドをデザインし、その構造と活性から miniANP のレセプター結合
型構造の検討を行った。
3.1 miniANPの溶液構造
レセプタ ーの結合部位 の環境が明らかでないため、水中 と
DMSO 中において構造解析を行ったところ水中と DMSO 中の両者
に、Gly6-Arg7-Met8-Asp9 のターン様構造が見出だされた。こ
のターン構造は溶媒効果の異なる 2 つの溶液において共通な構
造であるため、この構造はレセプター結合型構造でも保持されて
いるものと仮定した。一方で、Phe4 と Ile11 の配置は、水中と DMSO
中とで大きく異なる(図-11)。水中では大きく離れているのに対し
て、DMSO 中では近接した配置となっている。Phe4 と Ile11 が活性に
重要であることと、これまでに発表されている ANP 関連ペプチドの
溶液構造において、Phe4 と Ile11 の対応する残基が近い位置にある
ことから、Phe4-Ile11 の近接配置が活性に重要であると推測した。
87
図ー11 miniANPの溶液構造
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
3.2 分子動力学計算
まず、真空中高温での分子動力学計算では、miniANP の構造探索を行うために、上述の溶液構造の特徴に基づく拘束
条件(Gly6-Arg7-Met8-Asp9 のターン構造と、Phe4-Ile11 の近接配置)を用いることによって、Gly5 と Gly6 の二面角φの
分布を中心に調べた。拘束条件がない場合と拘束条件下の場合のそれぞれについて構造探索した。その結果、Gly5 にお
いて、拘束が無い場合は、二面角φが正である構造の数と負である構造の数は、ほぼ同数存在するのに対して、拘束条
件下では、正に偏ることが分かった。Gly6 の場合も同様の傾向が見られることから、Gly6-Arg7-Met8-Asp9 のターン構造と、
Phe4-Ile11 の近接配置が miniANP のレセプター結合型構造と推定していることから、Gly5—Gly6 の二面角φが正であること
もレセプター結合型構造の特徴であると推測される。通常、二面角φはグリシンを除く天然のアミノ酸では負の値で、正で
あるのは D-アミノ酸に典型的な特徴である。このことから miniANP の Gly5, Gly6 は、ファージディスプレイにおいて D-アミ
ノ酸の代わりに選択されたと推測される。
3.3 アナログペプチド
上述の miniANP のレセプター結合構造の推定構造に基づいて、5および6位に D-アミノ酸を導入したアナログペプチド、
[D-Ala5]miniANP, [D-Ala6]miniANP, [D-Ala5,D-Ala6]miniANP を合成し、NPR-A を発現した CHO 細胞における
cGMP の産生活性を測定した結果、miniANP(EC50=458±11pmol)に対する相対活性(EC50analog/EC50miniANP)は、上記
の順で 0.38, 8.2, 2.9 となった。これから D-Ala5 は活性を強めるが、D-Ala6 は活性を弱めることが分かった。
構造と活性の相関をより詳細に検討するために、合成し
図ー12 miniANPアナログペプチドの溶液構造
たアナログペプチドの溶液構造の解析を行った。[D-
Ala5]minANP は水中においてもターン様構造と Phe4-Ile11
の近接配置が見られ(図-12)、Phe4-Ile11 の近接配置は
水中の miniANP では見られなかった特徴である。[D-
Ala5]minANP は、DMSO 中でも同様な構造であった。一方、
[D-Ala6]miniANP では、ターン様構造も Phe4-Ile11 の近接
配置も見られなかった。また、[D-Ala5,D-Ala6]miniANP
では、Phe4 と Ile11 は近いが、ターン様構造は 1 残基ずれた
構造であった。したがって、D-Ala5 は Phe4 と Ile11 を近づけるはたらきをし、これがレセプター結合型構造により近いために
活性が上昇したものと結論づけられる。一方、D-Ala6 は、活性に重要なターンを壊すために、活性が低下したと考えられ
る。Gly6 はファージディスプレイにより最適な残基として選択されているので、D-Ala6 置換体の結果を併せると、Gly のコン
パクトなサイズがレセプター結合構造の形成に必要であると示唆される。
NMR と分子動力学計算を組み合わせた構造解析に基づいてアナログペプチドをデザインし、その構造と活性を比較す
ることよって、レセプター結合型構造の特徴を明らかにすることができ、Phe4-Ile11 の近接配置、Gly6-Arg7-Met8-Asp9
のターン様構造、Gly5 の二面角φが正の値(D-アミノ酸型)であることが明らかになった。
miniANP の活性発現には上記の構造的特徴とともに Arg7 が重要な役割を果たすことが知られている。この Arg7 は丁度タ
ーン様構造に含まれる。この位置およびその周辺の残基を Pro 残基に変異させたアナログでは 7 位の Pro アナログのみが
ある程度の活性を保持していることから、ターン構造が支持され Arg7 の側鎖が付加された Pro-Arg-fused 残基を導入し
た Arg7 の 4 種の立体異性を含む4種のペプチドをデザインした。このアナログで L-体に対応するふたつのアナログは
miniANP と同様の活性を示したことから、ふたつの側鎖の共通したコンフォメーションを検索でき、Arg7 のレセプター結合構
造におけるコンフォメーションを決めることができた。
以上のように、NMR による溶液構造の決定と分子動力学法を組み合わせたペプチドのレセプター結合構造が推定でき、
さらにそれにもとづくアナログペプチドのデザインと合成からレセプター結合構造に類似の構造を持つペプチドが得られる
ことが示された。NPR-A の細胞外領域の結晶構造が決定され、さらに NPR-C の結晶構造および CNP が結合した複合
体の結晶構造が解明され、今後は、この構造と照らし合わせることによって、レセプターとの相互作用の詳細がさらに明ら
かとなり、非ペプチドのデザインが可能となると期待される。
88
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
■考 察
ペプチドは一般に多様な立体構造を持つため、その配
図ー13 レセプターとリガンドのバーチャルスクリーニング
列のみからはレセプターに結合した立体構造を特定する
ことは非常に難しいことが知られている。レセプター結合
GPCR sequences
Gene sequences
構造を明らかにするためにはレセプターの立体構造から
Structure Modeling
それに結合する構造をシミュレートする必要がある。多くの
生理活性ペプチドのレセプターは GPCR に属しており、内
Functional GPCR
Structural Data Base
在性生理活性ペプチドはアゴニストであることから、レセプ
Functional
Templates
Virtual Docking
ターの構造も活性化された構造である必要がある。最近の
Compound Data Base:
ACD (2D), CSD (3D),
In-House DB (2D/3D)
ロドプシンの立体構造の解析や構造変化の解析から、活
性化状態にあるロドプシン(Metarhodopsin II)の立体構造
Candidate Receptors
and Ligand Templates
モデルを作成することは非常に重要な課題であった。本
プロジェクトにおいてこの課題を解決する構造モデルを作
成することができ、さらに GPCR において高い保存性を示す残基の役割を明らかにすることによって、ペプチドレセプター
の活性化構造モデルを作成することが可能となった。その結果、ペプチドの複合体モデルからペプチドのレセプター結合
構造には共通したモチーフがあることが推定された。このモチーフを指標にすると、分子動力学計算から得られる種々の立
体構造データからレセプター結合構造に対応する構造を抽出することが可能となるものと期待できる。実際、ペプチドにつ
いて水溶液中での条件下での分子動力学計算から得られる立体構造データをデータベースとして作成し、その中から構
造モチーフを検索すると、対応したコンフォメーションが見出されることが示された。
さらに、GPCR の構造にはそれぞれ機能的な4種の立体構造が存在することが示唆されたことは、これらの構造モデルを
もとに、機能的な低分子化合物を構造データベースなどを用いてスクリーニングでき、一方、既に合成され化合物ライブラリ
ーとして保有する低分子構造を用いて、GPCR の機能的な構造をスクリーニングすることも可能となる。図—13はこのような
創薬のためのスキームを示したものである。
一方、GPCR 以外のレセプターに結合するペプチドの例として miniANP のレセプター結合構造を NMR による溶液構造の
解析とその構造にもとづく分子動力学計算により解析した結果、この方法が有効であるあることが示された。また、この構造
からいくつかのアミノ酸アナログを含むペプチドアナログをデザインして合成し、推定された構造がレセプター結合構造に
非常に近いものであることが示されたことから、NMR と分子動力学計算を組み合わせた方法がレセプター結合を推定する
のに有効であることが示された。
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創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
■ 成果の発表
原著論文による発表
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なし
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12.
Sugase, K., Horikawa, M., Sugiyama, M., Ishiguro, M.: Restriction of a Peptide Turn Conformation and
Conformational Analysis of Guanidino Group using Arginine-Proline Fused Amino Acids: Application to Mini
Atrial Natriuretic Peptide on Binding to the Receptor, J. Med. Chem., 47, 489-492, (2004)
13.
Ishiguro, M., Oyama, M., and Hirano, T.: Structural Models of the Photointermediates in the Rhodopsin
Photocascade, Lumirhodopsin, Metarhodopsin I, and Metarhodopsin II, ChemBioChem, 5, 298-310,(2004)
90
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
原著論文以外による発表(レビュー等)
国内誌(国内英文誌を含む)
1.
石黒正路:「最先端創薬4・戦略的アプローチと先端的医薬品・薬物分子設計」,蛋白質・核酸・酵素,45,880
-886,(2000)
2.
石黒正路:「GPCR のリガンド認識と創薬デザイン」,ゲノム創薬 - 創薬のパラダイムシフト,中山書店,古谷、
増保、辻本編集,pp151-162,(2001)
3.
石黒正路:「構造生物学で医薬品の設計は可能か?」,現代化学,11 月号,pp31-36,(2001)
4.
石黒正路:「GPCR におけるリガンド認識様式」,ファルマシア,37,291-295,(2001)
5.
石黒正路:「構造生物学をもとにした創薬プロテオミックス」,蛋白質・核酸・酵素,6 月号増刊「構造プロテオミ
ックス」47,960-966,(2002)
6.
石黒正路:「構造ゲノミックス、プロテオミックス、SNP」,ファルマシア,38,125-129,(2002)
7.
石黒正路:「分子モデリングを利用した7回膜貫通型レセプターを標的とする構造にもとづくドラッグデザイン」,
バイオベンチャー,2, 56-60,(2002)
8.
石黒正路:「標的タンパク質の構造変化と創薬」,学術月報,57,48-53,(2004)
国外誌
なし
口頭発表
1.
Sugase, K., Oyama, Y., Kitano, K., Iwashita, T., Fujiwara, T., Akutsu, H., and Ishiguro, M.: Characterization
of a Receptor-Bound Conformation of Mini Atrial Natriuretic Peptide, Birmingham, GB, 8th International
Congress of Biochemistry and Molecular Biology, July. 16-20, (2000)
2.
Ishiguro, M., and Hirano, T.: A Structural Origin of the Flip of the Chromospheres in the Rhodopsin
Photocascade, Seattle, USA, 10th International Conference on Retinal Proteins, Aug. 20-24, (2002)
3.
Hirano, T., Lim, I. T., Kim, D. M., Zhen, X.-G., Yoshihara, K., Tanaka, R., Imai, H., Shichida, Y. and
Ishiguro, M.: Photochemical and Structural Properties of the Ring Fused Isorhhodopsin Analogs, Seattle, USA,
10th International Conference on Retinal Proteins, Aug. 20-24, (2002)
4.
Horikawa, M., Sugase, K., and Ishiguro, M.: Synthetic Studies of Conformationally Restricted Amino Acids
Based on Substituted Pyrrolidine Framework, Nimes, France, 16th French-Japanese Symposium on Medicinal
and Fine Chemistry, Sept. 29-Oct. 2, (2002)
5.
Sugase, K., Horikawa, M., and Ishiguro, M.: Receptor-bound Characteristics of miniANP Analyzed by NMR,
and the use of Unnatural Amino Acids, Boston, USA, 18th American Peptide Symposium, July 19-23, (2003)
招待講演
1.
石黒正路,大貫敏男,長友孝文:Structure modeling of adrenergic receptors and the binding mode of ligands,
横浜,日本薬理学会総会シンポジウム,2000 年 3 月 23 日-25 日
2.
石黒正路:分子モデリングによるG蛋白質結合型レセプターのリガンド認識機構の解析,熊本,日本薬学会
九州支部シンポジウム,2000 年 9 月 30 日
3.
石黒正路:Gタンパク共役型受容体の構造と創薬,大阪大学産業科学研究所,産研テクノサロン,2000 年 11
月 16 日
4.
石黒正路:構造ゲノミックス、プロテオミックスと SNPs,札幌,日本薬学会年会シンポジウム“ファーマインフォ
ーマティックスに基づいたポストゲノム創薬戦略”,2001 年 3 月 28 日-30 日
5.
石黒正路:ゲノム時代の GPCR 研究,大阪,生物物理学会年会シンポジウム“ゲノム時代の GPCR 研究”,
91
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
2001 年 10 月 7 日
6.
Ishiguro, M., and Sugase, K.: A receptor-bound Conformation of Mini Atrial Natriuretic Peptide. Dalian,
China, The Sixth China-Japan Joint Symposium on Drug Design and Development, Oct. 4-7, (2001)
7.
石黒正路:GPCR のリガンド認識と構造変化,東京,ゲノム創薬フォーラム第四回シンポジウム,2001 年 11 月
21 日
8.
石黒正路:GPCR のリガンド認識と創薬デザイン,西宮,武庫川女子大学・バイオサイエンス研究所セミナー,
2001 年 11 月 24 日
9.
Ishiguro, M.: Structural Models of the Photo-activated Intermediates in the Rhodopsin Photocascade, Tokyo,
The Nakanishi Symposium on Natural Products and Bioorganic Chemistry, Mar. 26, (2002)
10.
Ishiguro, M.: Photoisomerization of Retinal and its Analogs, Nimes, France, 16th French-Japanese Sympojium
on Medicinal and Fine chemistry, Sept. 29-Oct. 2, (2002)
11.
石黒正路:リード化合物の決定、至適化/in silico 予測への期待,千葉,日本薬学会第 122 年会シンポジウ
ム"創薬サイエンス:最前線/未来",2002 年 3 月 26 日-28 日
12.
石黒正路:ナノタンパク構造と創薬,大阪,大阪大学ナノテクノロジーセンター発足記念シンポジウム,2001 年
7月3日
13.
石黒正路:レセプター・リガンド複合体モデルとドラッグデザイン,京都,第75回日本生化学会大会・シンポジ
ウム"バイオプローブと創薬標的研究の潮流",2002 年 10 月 14 日−17 日
14.
石黒正路:ポストゲノム時代への構造活性相関研究の貢献,東京,日本薬学会構造活性相関部会設立記念
シンポジウム,2003 年 6 月 19 日
15.
石黒正路:GPCRのリガンド認識と創薬デザイン,札幌,第三回日本蛋白質科学会年会ワークショップ “ファ
ルマコプロテオミックスープロテオーム解析から創薬標的分子のデザイン”, 2003 年 6 月 23 日-25 日
16.
石黒正路:GPCRの創薬プロテオミックス,かずさ,第6回ヒューマンサイエンス総合研究ワークショップ“次世
代ゲノム創薬における分子標的”,2003 年 11 月 11 日-12 日
17.
石黒正路:GPCRを標的とした創薬,横浜,よこはま NMR 構造生物学研究会・第22回ワークショップ“合理的
薬物設計”, 2003 年 12 月 24 日
応募・主催講演等
なし
特許等出願等
なし
受賞等
なし
92
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
3. 機能的データベース構築に関する研究
3.1. 生体内ペプチドのデータベース構築に関する研究
3.1.1. 多様な生体内ペプチド情報の効率的収納法とデータベース構築に関する研究
財団法人蛋白質研究奨励会情報室
磯山 正治
■要 約
ペプチドのデータベース化に必要な構造、機能情報のデータベースを作成し、文献情報よりデータ導入法を検討し、デ
ータ導入ならびに公開を開始した。
ペプチド構造を的確に表現するため拡張アミノ酸テーブルを作成し、修飾情報を表現した配列データベースを作成する
ソフトウェアを開発した。修飾情報データベース(MODDB)も構築し、蛋白質研究奨励会データベースより情報導入を行っ
た。研究者がインターネットを介して研究成果を PRF/MODDB へ登録が出来る機構の開発を開始した。これらのデータベ
ースを利用・検索する仕組みを構築した。研究成果を公開するためのホームページを構築し、データベースの公開を開始
した。あわせてデータ登録を簡略化するためのシステムを構築した。
■目 的
本研究を中心に収集される生体内ペプチドの多様な情報をデータベースに効率的に収納し、研究者のニーズに応じて
検索できる方法を開発した。さらに、既存のデータベースと一体化して利用可能で、ライフサイエンス全体の研究情報基盤
となるデータベースの構築法を研究した。
ペプチドの存在量、プロセシングや修飾様式、生物活性、受容体、立体構造など多岐にわたる情報を的確に収納・検索
できるデータベースを開発した。特に、発表文献・文献データベースなどから効率的にデータベースを構築する手段を開
発した。スケーラブルなネットワーク利用を考慮して、WEB-Based のユーザーインターフェースを設計することにより、研究
者が自らの成果を登録できるデータベースを構築した。ペプチドのもつ特性のひとつである多彩な修飾を的確に表現し、
また検索・表示の効率化のためにアミノ酸コード表を修飾アミノ酸にまで拡大し、あわせてアミノ酸の物性テーブルを構築し、
拡張を継続する。
データベース公開のためのホームページを構築し、ペプチドームプロジェクトのホームページからリンクし、データの利用
が容易になるようにした。また、他の有用なデータベースの相互利用のためのシステムともリンクを作ることで対応する。
■ 研究方法
現在構築されているデータベースのうち世界的に利用できるデータベースは、数多いがその収録対象はゲノムおよびそ
れから派生するデータを収録しているものが大半である(参考資料 1)。本データベースの収録対象であるペプチドは、「量
が少ない」「分解されやすい」などのペプチドのもつ性質のためそれ自体を扱うことが困難である。
しかしながら、ペプチドは生体内において多様な作用をもち、多くの観点から重要な物質である。日本は世界的にもペプ
チド科学が進んだ国であり、ペプチド自体を扱うデータベースを構築するうえで好適な環境を整えやすい。
ペプチドも遺伝子によりコードされているが、実際に作用する物質としてペプチドを考えるとその一次構造だけでは、属性
を表現することはできない。ペプチドのもつ多様な性質を的確にかつ網羅的にデータベースに格納し、利用するシステム
の構築が必要となる。
93
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
生体内ペプチドを研究していくうえで、データを再利用・再検討する過程は重要なものである。この目的を達成するため
には実験結果をそのまま格納・利用することができるデータベースを構築する必要がある。また、データの共通フォーマット
作成が必要となる。ペプチドのもつ諸性質を的確に表現するためには、ゲノム情報とはことなり、配列すなわちテキスト情報
のみでは、データの表現が困難となると予想された。この目的を達成するためにイメージデータをも含むことができるデータ
ベース構築をめざす。
ペプチドは多様な形状・活性をもち、いずれの属性もペプチド研究においては欠くことのできないものである。したがって、
本データベースには可能な限り網羅的にデータを格納しておくことが求められる。一方、この目的を達成するにはデータベ
ースに対して柔軟でかつ多様なデータ形式を扱える構造をもつことが要求される。
現在、一般に販売あるいは提供されているデータベースでは、この目的を達成することは困難であり、データ構造と格
納・利用システムを切り離した3階層モデルでデータベースを構築する必要がある。この構造モデルを用いることで、柔軟な
格納・利用形態とデータベース格納の効率化の両立が実現できる。さらに、分散処理が可能となるため、各処理の内容に
応じて最適なコンピュータを用いることが容易となる。
また、ペプチドームデータベースの構築においては、生体内ペプチドの研究の進展に応じて時間的にはなれてデータ
が格納されてくることが予想される。このようにすべての属性が決定されていない状態でも利用可能なデータから順次格納
し、ユーザーが利用できるようにすることが求められる。このデータベースの性格は、従来のゲノム計画のデータベースとは
大きく異なる点である。
さらに、本データベースに対するデータの格納には、テキストデータ・数値データ・イメージデータなど多様な形式が利用
できることが要求される。これらのデータ形式を可能な限り統一的なユーザーインターフェースで取扱い、データ格納に際
して余計な負担を強いることがないようなデータ格納システムの開発を行う。また、データ登録に使用されるクライアントコン
ピュータとしてもマッキントッシュ・ウィンドウズ・UNIXワークステーションなど多様なものが予想される。これらの差異を可能
な限り吸収し、自由に端末を用いてデータ登録ができるようにする必要がある。
データベース利用に際しても、実際のペプチドの研究者にとって不要な負担を強いることのない「エンドユーザー指向」
の利用システムを考案しなくてはならない。現在、爆発的に拡大しているインターネットからの利用は、本データベースの有
効利用を考えるうえで欠くことのできない要素である。一方、データおよびデータ利用システムユーザーサイドに独自に構
築することができるようにすることも重要である。これらの一見、相反するように思える特徴をもつデータベース構築・利用シ
ステムを開発する必要がある。現在利用可能な DBMS(Database Management System)を利用してデータベースの基本構造
を構成する。この際、将来的な構造の変更・関連づけの変更に柔軟に対応できるようにする。この観点から、最初に採用す
るデータベースモデルはリレーショナル型とする。このモデルを用いることによりペプチドのもつ多様な属性を効率的に格
納できる。ペプチドームデータベース全体の構造を図1に示す。
図1 ペプチドームデータベースの全体構造
94
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
データの利用形態が固定化されてしまうとデータベースの価値は減じてしまう。将来的には、より柔軟な利用システムの
構築を考えていくためにウェブサービスに対応する必要がある。現在の時点においてはペプチドームデータベースのデー
タ公開システムは CGI ベースであるが、データ格納、検索システムに大きな変更を加えることなく、ウェブサービスに対応す
るためのシステム開発を継続して行く必要がある。この目的のためにオブジェクト指向データベース(XML-Based Database
System)の研究を継続する。
■ 研究成果
財団法人蛋白質研究奨励会では、長年にわたってペプチドおよび蛋白質に関するデータベース(PRF/LITDB)およびア
ミノ酸配列データベース(PRF/SEQDB)の構築を行ってきている。これらのデータベースを構築する過程で本プロジェクトの
データベースに登録すべき内容を抽出して「文献からのデータ導入システム」を開発し,ペプチドームデータベースへの継
続的なデータ導入を開始している。データ導入の流れを図2に示す。
図2 文献からのデータ導入
文献からの情報導入においては、ペプチドのもつ特徴のひとつである修飾情報の抽出が可能である。また、データソー
スが文献であることから、文献の抄録、書誌事項ならびに文献自体の参照も容易にできるように工夫した。
データテーブルの設計について
1.ペプチドの物性データのテーブル
!
未知ペプチドの同定に用いることができる
!
比較的、容易に得られる物性データの組み合わせとする
!
未知ペプチドの分離・精製の手順に従って、実験者が容易に利用できる物性値を選択する必要がある。
!
文献に記載されている値、もしくは記載されている情報から理論的に求めることができる値を用いる。
!
文献に記載されている値(実験値)と理論値を併記する。
" 生物学的データテーブル
!
同定手順としてペプチドの起源となった生物種、組織、生理学的・病理学的状態を記載する。
!
コアテーブルに対する関連テーブルとして設計する。
95
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
各テーブルの項目の関連を図3に示す。
図3 データベースの構造
上記のテーブルは今後の研究の発展によって変更する必要がある。従って、当初は構造の変更が容易で扱いやすい
データベース形式として dBASE (DBF)形式を採用した。また、データ互換の観点から、XML 形式のデータ(参考資料 2)も
用意した。データの一般公開のためには、パフォーマンスを考慮して SQL サーバーを用いた。DBF形式で導入されたデ
ータおよびエクセル形式のデータをXML形式に変換しSQLサーバーへ格納する自動変換システムを作成した。
2.ペプチド構造の表現について
一般的なタンパク質とは異なりペプチドは多くのプロセッシングを受けて生成する。そのため、種々の修飾を受けているこ
とが多い。また、近年質量分析の技術が大変進歩してきている。ペプチド構造の決定においても質量分析は有効な手段で
ある。しかしながら、従来のデータベースでは質量分析のデータから直接修飾構造を検索することは困難である。
ペプチドームデータベースでは修飾情報を独立したアノテーションテーブルに格納するとともに、直接、配列として検索
できるようにするために「拡張アミノ酸テーブル」を作成した。このテーブルでは、アミノ酸残基を 64 進法3桁で表現し、あわ
せて環状化、結合情報などの2次構造をも同時に表現できるようにした。拡張アミノ酸テーブルとして177件のデータを導
入した。また、拡張アミノ酸テーブルを用いたペプチド構造の表現例を図4に示す。
図4 ペプチド構造の表現
96
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
3.ペプチド構造データ(コアテーブル)の導入
ペプチドームデータベースにおいては文献からのデータのみならず、研究者自らデータを導入し、利用するシステムを
構築する必要がある。この際、研究者が用いているコンピュータシステムによらないデータ導入のシステムを構築する必要
がある。また、導入が容易となるよう必要なデータを適宜に導入できるように配慮せねばならない。このことから、データ導入
ユーザーインターフェースには WWW システムを採用した。データ導入の画面表示例を図5、6に示す。文献情報からコア
テーブルに対して約 10,000 件のデータを導入した。
図 5 WWW をもちいた修飾データ導入
図 6 WWW をもちいたペプチド構造データの導入
97
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
4.データベースの公開について
ペプチドームプロジェクトのホームページ(http://www.peptidome.org)において本プロジェクトで直接作成されたデータ
ベースを公開している。(図7)一方、本プロジェクトによってえられた知見に基づき、財団独自で作成したデータベースに
ついては、財団法人蛋白質研究奨励会のホームページ(http://www.prf.or.jp)でも公開している。また、データベースを構
築・利用する各種のシステム群についても同様に公開している。
図7PEPTIDOME ホームページ(http://www.peptidome.org/)
ペプチドーム自体を検索対象としたデータベース利用のために画像ベースのデータ検索のシステムも開発した。
(図8、9、10)
図8 ペプチドームデータ公開サーバー
図9 ペプチドームデータ公開サーバー
98
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
一方、公開データサーバーにデータを登録するときも、複数の拠点からデータのメンテナンスができることとデータ登録
作業の簡便化のためにウェブシステムを採用した。(図11)
図10 データベース公開サーバー
図11データ登録画面(例)
また、データの信頼性を保つために、データは「ペプチドームデータベース作成委員会」の審査ののちに登録する形をと
っている。そのためにデータ登録権限やデータ修正権限の確認システムを組み込んだ。個々のデータの重要性を考慮し
て、データ登録システムのバックアップシステムもサーバー上に準備した。データバックアップのために地理的に離れたサ
ーバーにインターネットを通じて自動的にバックアップを作成するシステムを準備した。
■考 察
ペプチドームデータベースは生体内のペプチドの全体像を表現するデータベースである。ペプチドには多くの修飾残基
が含まれており、また、SS 結合や特殊な環化なども多くみられる。これらを一元的に表現するためには、従来から用いられ
てきたアミノ酸テーブルでは不十分であるため、アミノ酸テーブルの拡張を行った。このテーブルをもちいることにより、直接
ペプチド構造を検索することが可能となり、特に、近年発達がめざましい質量分析による同定に適したデータベースを構築
することができる。
一方、ペプチドームデータベースは、2次データのみならず、ファクトデータをも格納利用することをめざしている。ファクト
データは実験データ(Raw Data)から直接得られるデータであり、従来、これらのデータにアクセス可能なデータベースは構
築されていない。この目的のためにデータの自動収集および実験過程・サンプルの管理が必要となる。研究者の負担を減
らすためには、LIMS の導入が不可欠であるが、本来的に不定形な実験操作をデータベース化するために網目構造をもっ
た関係を要素に分解して表現し、リレーショナルモデルに適合するようにした。
XML によるデータ導入・利用のシステムを開発することで拡張性と可用性を高めることができた。したがって、将来、あら
たな研究成果が発表されても柔軟にデータベースにとりこむことができる。一方、データベース構築サイトとデータ発生サイ
トを独立することが可能となり、また、データベース間の相互利用やエージェント・知的検索などの新技術にも柔軟な対応が
可能である。
さらに WEB-Based のユーザーインターフェースをもちいることでクライアントコンピュータ・OS・データベースエンジンの差
異を吸収し、ユーザーが使いやすいデータベースを構築することができる。
99
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
■ 参考資料
1.
インターネットで利用可能なデータベース(抜粋)
データベースのデータベース
Dbcat(http://www.infobiogen.fr/services/dbcat )
高次構造のデータベース
PDB(http://www.rcsb.org/pdb/)
MMDB(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Entrez/)
HSSP Database(http://www.embl-ebi.ac.uk/dali/)
CATH Database(http://www.biochem.ucl.ac.uk/bsm/cath)
SCOP(http://scop.mrc-lmb.cam.ac.uk/scop/)
配列データベース(蛋白質)
PIR(http://www-nbrf.georgetown.edu/pir/)
SWISS-PROT(http://www.expasy.ch/sprot)
SBASE(http://www.icgeb.trieste.it/sbase)
PRF/SEQDB(http://www.prf.or.jp/)
配列データベース(ゲノム・一次情報)
GenBank(http://www.ncbi.nih.gov/)
EMBL(http://www.ebi.ac.uk/embl.html)
DDBJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp)
PROSITE(http://www.expasy.ch/)
HUGE(http://www.kazusa.or.jp/huge)
GSDB(http://www.ncgr.org/gsdb)
生化学的情報(シグナリング、メタボリズム、発現など)
KEGG(http://www.genome.ad.jp/kegg/)
PhosphoBase(http://www.cbs.dtu.dk/databases/PhosphoBase )
ProTherm(http://www.rfc.riken.go.jp/protherm.html)
Protein Mutant Database(http://pmd.ddbj.nig.ac.jp)
AAindex(http://www.genome.ad.jp/dbget/
O-GLYCBASE(http://www.cbs.dtu.dk/databases/OGLYCBASE)
RESID(http://www-nbrf.georgetown.edu/pir/seqrchdb.html)
プロテオーム関連
YPD(http://www.proteome.com/YPDhome.html)
2.
データのXML表現
XML(eXtensible Markup Language)は、近年の WEB システムの隆盛を支えた HTML の拡張として位置づけられる
言語である。HTML では、文書の体裁を記述することはできても文書の構造は記述できない。XML では、この欠点を
克服するためマーク(タグと表現される)をユーザーが記述することができるようになった(DTD: Document Type
Definition)。これは、任意のデータ構造あるいは処理を記述することが可能になったことを意味している。この拡張に
よって XML は単に WEB-Based User-Interface のみならず、システム間のデータ交換・インターフェースにも応用する
ことができるようになった。
DTD を参照することによりデータベースマネージメントシステム、ユーザーインターフェースの実装とは独立したか
たちでデータ構造やデータ交換の手順(プロトコル)を XML によって記述することができる。また、XML は公開された
技術であり多くのデータベースマネージメントシステムやインターフェースシステムが対応している。
100
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
「生体内ペプチドのデータベース構築」においては、広汎なデータを登録・利用するシステムを開発する必要があ
る。従来型のデータ交換システムではデータベース・構築系・利用系の3者が緊密に関係しすぎている。このため、初
期開発時において複数の開発工程を同時に進行させることに困難が伴い、それが開発工数の上昇をまねいていた。
XML をもちいて相互に DTD を交換することにより、各システムをあたかも独立した部品のように取り扱うことが可能とな
る。その結果、データベースシステム、ユーザーインターフェース、データ導入・構築系、検索エンジンの開発を並行
して行うことが可能となる。
さらには、一般的なテキスト表現でありながらデータを構造化することができるので、従来のデータ交換システムで
は非常に困難であったデータ構造の変更や利用形態の変更さらには他のデータベースシステムとの連関・データ交
換にも柔軟に対応することができる。これにより、コンピューティンググリッドシステムや知的検索など、他の研究分野
での成果の応用も容易になる。
■ 成果の発表
原著論文による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
なし
国外誌
なし
原著論文以外による発表(レビュー等)
国内誌(国内英文誌を含む)
1.
Kuwahara, H., Tanaka-Isoyama, J., Kihara, T., Matsubae, M., Matsui, Y., Takao, T., Isoyama, M., and
Minamino, N.: 「Efficient data acquisition system for the Peptidome Database」, in Peptide Science 2003, Ed.
M. Ueki (The Japan Peptide Society, Osaka, 2004) pp. 427-428.
2.
Kuwahara, H., Tanaka, J., Kihara, T., Matsubae, M., Matsui, Y., Takao, T., Isoyama, M., and Minamino, N.:
「Construction of Peptidome Database for Endogenous Peptides in mouse brain」, in Peptide Science 2002, Ed.
T. Yamada (The Japan Peptide Society, Osaka, 2003) pp. 427-428.
国外誌
なし
口頭発表
招待講演
なし
応募・主催講演等
1.
Minamino, N., Takao, T., and Isoyama, M.: 「Peptidome: Comprehensive fact-database for endogenous
peptides」,Plenary lecture,Seoul,The Fifth Korean Peptides Symposium,(2001)
2.
南野直人,桑原大幹,田中純子,木原孝洋,松八重雅美,磯山正治,高尾敏文:「生体内ペプチドのファクト
データベース、ペプチドームの構築と利用」,久留米,第 27 回日本医用マススペクトル学会年会,(2002)
3.
桑原大幹,田中純子,木原孝洋,松八重雅美,松井泰子,高尾敏文,磯山正治,南野直人:「ブタ及びマウ
ス脳を対象としたペプチドーム情報データベースの構築」,神戸,第 39 回日本ペプチド討論会,(2002)
101
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
4.
南野直人,田中純子,桑原大幹,木原孝洋,松八重雅美,高尾敏文,磯山正治:「生体内ペプチドのファクト
データベース,ペプチドームの構築と応用」,つくば,第 1 回日本ヒトプロテオーム学会,(2003)
5.
南野直人,田中純子,桑原大幹,木原孝洋,松八重雅美,高尾敏文,磯山正治:「ペプチドーム(Peptidome):
生体内ペプチドのファクトデータベース化(第3報)」,横浜,第 76 回日本内分泌学会学術総会,(2003)
6.
桑原大幹,田中純子,木原孝洋,松八重雅美,松井泰子,高尾敏文,磯山正治,南野直人:「ペプチドーム
データベースの効率的な構築について」,千葉,第 40 回日本ペプチド討論会,(2003)
7.
磯山正治:「ペプチドーム:データ収集、格納、検索」,横浜,生化学会シンポジウム「ペプチドーム-その解
析法と実際-」,(2003)
8.
Isoyama, M.:「 Peptidome: Data acquisition, storage and presentation」,大阪,Frontiers in Peptidome
Research: Methods for Analysis and Applications,(2004)
9.
Isoyama, M.:「Databases for Peptides: Data acquisition, storage and presentation」,大阪,International
Workshop: Integrated Databases and DataGrid for Structural Biology and Molecular Biology,(2004)
10.
Minamino, N., Kuwahara, H., Matsui, Y., Isoyama-Tanaka, J., Kihara, T., Matsubae, M., Takao, T., Isoyama,
M.:「Peptidome database construction for the pig and mouse brain peptides」,東京,第 2 回 J-HUPO,(2004)
11.
南野直人,桑原大幹,磯山-田中純子,木原孝洋,松八重雅美,高尾敏文,磯山正治:「ペプチドーム
(Peptidome): 生体内ペプチドのファクトデータベース化と応用」,京都,第 77 回日本内分泌学会学術総会,
(2004)
特許等出願等
なし
受賞等
なし
102
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
3. 機能的データベース構築に関する研究
3.1. 生体内ペプチドのデータベース構築に関する研究
3.1.2. 発見的検索が可能な生体内ペプチド・ファクトデータベースの構築に関する研究
国立循環器病センター研究所脈管生理部, 理化学研究所総合脳科学研究センター
花井 荘太郎、岩爪 道昭
■要 約
ペプチドに関する包括的なファクトデータを収集、蓄積、提供する統合システムの概念設計を行い、個別要素技術の検
証を行いながら、実用システムを構築した。この際、分析機器から出力されるデータから検索、活用されるデータとなるまで
のフローを分析し、データベースシステムへの適合性を考慮しながら、標準化可能なデータの表現形式を検討した。さらに、
データベースの多角的、対話的検索を実現するための、文献からの語彙・概念構築技法について検討し、実験システムに
よる検証を行った。
■目 的
生体内ペプチドの探索研究の効率化には、生体試料からぺプチドを抽出するプロセスを通じて得られる多岐にわたる分
解、精製産物の物性をはじめとする属性データを整理、属性間のリレーションを体系化したファクトデータベースの整備が
必要となる。研究途上にあっては、常に完備したデータセットが得られるわけではないことから、収載データの分析、比較に
よる未知機能の予測、欠落データの類推など、発見的活用の支援も重要となる。本研究では、種々の分析機器を統合する
LIMS(Laboratory Information Management System)からの素材データ収集、主データベースへの格納、公開情報化へ至る
データフローとシステムの仕組みを具体化し、併せて最新の知識ベース技法等を適用することにより、単なるファクトデータ
の集積だけに止まらない、生体内ペプチドの研究支援に適合した情報基盤となり得る統合システムと、機能的データベー
スを開発することを目的とする。
■ 研究方法
目的とする機能を実現するために、現在実現されているファクトデータベースの形式と利用可能な技術の調査を進め、フ
ァクトデータの収集、蓄積、公開に必要な個別機能の開発、試験、実証を順次達成し、統合環境を実現する。研究基盤とし
て広く活用され、将来の発展を容易にするためには、今後主流となり得るデータベース技術、およびそのネットワーク化の
ための手法を考慮して本研究で採用すべきシステム方式を検討する。一方、システムの設計は、データ形式にも依存する
ため、本システムが取り扱うデータの種類および表現書式も併せて検討する。
■ 研究成果
1. システムの概念設計
本システムに収載すべきファクトデータは、素材となる生物試料から、精製したペプチドにいたる中間産物を含む多様な
修飾タンパクの性質を表現する物理量とアミノ酸シーケンス情報が中心となる。しかしながら、本データベースの研究基盤
としての有用性を高めるには、データ再現を可能とするための抽出手順、条件等を表現するプロセス情報の他、関連する
文献情報や他データベースに収載されたDNAシーケンスとのリンク情報など、二次データも必要となる。そこで本システム
103
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
では、最終精製産物のMSスペクトルデー
タをファクトデータの原点として、スペクトル
のピークに対応する分子の質量、存在量
でキャンディデートペプチドを定義すること
とした。アミノ酸シーケンスや生理活性は
実験的に求め、既知の分子については他
のデータベースや文献からの引用も可能
とした(図 1)。
一方で、本基盤整備における情報作成
者、情報利用者との役割分担および情報
利用の形態もシステム設計の要件となる。
ペプチド情報基盤の創設時には、主とし
図 1. 本システムが取り扱うファクトデータと関連情報
て本研究班のメンバーが適切な情報項目
や表現方法を模索しつつデータの作成と
登録を行い、その結果を広く公開する。ま
た、登録者には一定期間その情報利用に
関する高いプライオリティを与えるというモ
デルが実現可能なシステムを考案した。
具体的には、データ生成を行う実験支援
システム、ファクトデータと二次データを統
合管理する主データベース、一般公開の
ためのインターフェースを粗結合し、それ
ぞれのレベルで目的と機能に応じたデー
タの再編成、および利用者の権利に応じ
たアクセス制御を可能にした。その一方、
各機能単位のデータに対する互換性を高
めるため、データ記述は XML を用いて標
図 2.システムの全体構成とデータフロー
準化し、プログラムによるデータの再編成
を可能とした(図 2)。
2. システムの実装
概念設計に基づいてシステムの実装を行った。LIMS 部分は実験室でのデータ生成時の利便性に配慮し、自由記述の
メモ、データのグラフ化など柔軟な実験支援機能を組み込んだ。しかしながら、データの取り扱いにおいては、極力標準化
されたデータとなるよう、また、データの取り違えが起きないようにユーザインタフェースを工夫した。このため、試料は本シ
ステムが発行する試料暗号で一元化し、バーコードによる管理を可能とした。分析機器からのアナログ出力をデジタル化す
るデバイスを開発し、LAN 経由で取り込むことが可能とした。これにより、サンプリングレート、電圧値が自動記録できるため、
アナログデータの精度管理と本プロジェクトにおける標準化が容易になった。
104
創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
図 3-B.測定データのグラフ表示
図 3-A.実験プロセス情報の階層表示
LIMS の機能は実験プロセス情報の記録と、収集されたデータの検索参照に大別した。プロセス情報は、テーマ、ノート、
ページ、メソッドの順に階層化される。これらは階層ごとに自由に記述できるが、テンプレート化して流用することもできる。
また、階層の相互関係はドラッグ・ドロップ式に組み替えることができ、その相互関係をフローチャートとして表示できる(図
3-A)。これらプロセス情報は、測定データの属性情報としてファクトデータベースへ移行する目的で、主としてマスター化さ
れた項目を選択することにより記載するが、自由書式でのメモの記載も可能となっており、データ作成と実験管理の双方に
配慮したものとなっている。分析機器等による測定データは、別途コンピュータ上にデジタル化して格納されているものと想
定し、LIMS へはアップロードする概念により統合する。この際、測定データは手動でメソッドと関連付けられるが、あらかじ
め分析機器名とメソッドと関連付けておけば、その測定データは自動的に階層構造に組み入れられる。
テーマ、ノート、ページ、メソッドで構造化された測定データのグループは、LIMS の機能により検索され、測定データの属
性により 2 次元あるいは 3 次元表示される(図 3-B)。図では、1つのデータのスペクトルを表す 1D 表示と、データグループ
の強度を濃淡で表す 2D 表示を例示したが、3つのパラメータに対する強度を表す3D 表示も可能であり、表示スケールの
変更も容易である。LIMS に蓄積された以上のプロセス情報、測定データは、相互の関連を維持したまま XML で出力するこ
とができ、その XML 出力をファクトデータベースに移行する。
3. ファクトデータベースおよび情報公開システム
LIMS から XML で出力されたデータは、ファクトデータベースシステムの管理機能を用いてファクトデータベースに登録さ
れる。LIMS に蓄積されたデータのうち、どれをファクトデータとして管理するかは運用によるが、現在のシステムでは、試料
情報として動物、器官、組織の名称と発生段階、ヒトにおいては性別、年齢、病態を、精製情報としてゲル濾過、イオン交
換、逆相クロマトグラフィーのチャートデータやフラクション情報を、質量分析情報については逆相フラクションに対する MS
チャートデータを登録することとしている。また、登録日や登録者、公開の可否などの管理情報も併せて登録する。その他、
生理活性情報の記載やアノーテーション情報へのリンクも可能としている。これらの情報は WEB テクノロジーを利用して、
登録者およびインターネットからの参照を可能としているが、一般利用者の情報検索は動物種、臓器におけるペプチドの
集合から、逐次詳細情報へ絞り込むことを想定し、まず電荷、疎水性をパラメータとした 2D プロファイル、次に電荷、疎水
性、分子量、存在量をパラメータとした 3D プロファイルが表示される(図 4-A)。これを起点として、対応するフラクションの質
量スペクトルチャートやクロマトチャートが参照できる(図 4-B)。
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創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
図 4-B.対応するフラクションの逆相クロマトチャート
図 4-A.試料に含まれるペプチドの 3D プロファイル
4. 発見的検索技法に関する基礎的検討
ファクトデータが物理量で記述される場合には、
その意味するところは明確であり、必要なデータに
たどり着くためのナビゲーションはそれほど重要で
はない。しかしながら、本データベースでは詳細情
報が不明のタンパク断片等もキャンディデートとし
て積極的に収載する方針をとる。また、生理活性
などの機能に関する記述、修飾等による構造変化
に関する記述には、定性的な情報記載が可能で
あることが望ましい。このような場合、明確な情報
検索の目標を定め難いため、定性的な目標により
図 5.知識ベースを応用した検索の概念
漸進的に対象群に到達する検索支援手段を確立
する必要がある(図 5)。あいまいな目標や推論に基づくナビゲーションには、知識ベースを活用したデータマイニング技法
が有用であると考えられるが、ゲノム情報、タンパク情報で用いられた例は無い。このため自然言語処理技術のサーベイを
行ない、その調査結果に基づき、ゲノム・タンパク関連の概念辞書(オントロジー)構築の可能性を検討した。ベースライン
法を用いて、Protein Research Foundation Literature Database の実データを対象に、概念辞書の語彙項目抽出実験を行
ない、その有効性を確認し、「プロジェクト内での用語共有」、「異種データベース間の統合」、「データベース収載項目の雛
型決定」、「機能的、多角的データ検索への利用」などへの応用可能性を示した。
■考 察
本研究では、ペプチドの精製、物性値の計測、一次構造の決定、生理活性の測定等、生理活性ペプチドの発見とその
意義の検証に必要な一連のプロセスから、どのようなファクトデータを抽出、記載するかを検討し、それらの情報をペプチド
研究の基盤情報として提供していくための実用化可能な情報システムの構築を行った。実験室でのペプチドの抽出、精製、
計測から、WEB による公開までの試料情報、プロセス情報、物性データを一元的に管理するための概念を確立し、実証シ
ステムは一応の完成をみた。今後は登録データを充実させることにより、研究基盤としての役割は十分発揮できるものと考
えられる。しかしながら、ゲノムデータベースにおける DNA シーケンスデータと比較すると、ペプチドの存在量や生理活性
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創薬及び生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
は本質的にアナログデータであり、抽出、精製、計測等の条件に影響を受けるため、再現性に問題がある。このため本研
究ではペプチドの質量を基本的なファクトデータとし、物性値のみならず、プロセス情報も併記することとした。プロセスの標
準化を推進し、再現可能な方法を確立していくことが、多くの研究者が本データベースの利用だけでなく、登録にも参加で
きるようにするための必須条件である。
登録データや関連データが充実するにつれ、目的とする情報への到達は次第に困難になる。本研究では、ファクトデー
タベース及び概念辞書の拡充を図ることで、発見的検索手法の実現可能性があることが明らかになった。電荷、疎水性、
分子量、存在量などの数値データに基づく予測に関しては、ペプチドの一次構造と物性値を関連づけるシステムの開発が
必要であり、それにより一次構造からの物性値の高精度な予測、予測値からの偏倚量の推定などが可能と考えられる。ま
た、修飾情報、切断情報が集積されれば、その推定も可能となり得る。さらに、MS/MS finger print の同一性、類似性評価
にも利用可能である。このような発見的検索技法、推論機能は現在のデータベースではそれほど有効でなく、また知識ベ
ースの開発に十分なデータが得られていない現状では、基礎的な検討にとどまったが、今後も引き続き研究開発が必要で
あると考えられる。
■ 引用文献
なし
■ 成果の発表
原著論文による発表
なし
原著論文以外による発表(レビュー等)
なし
口頭発表
なし
特許等出願等
なし
受賞等
なし
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創薬および生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
3. 機能的データベース構築に関する研究
3.2. 他のデータベースとの連携に関する研究
厚生労働省国立がんセンター研究所疾病ゲノムセンター
水島 洋
■要 約
生体内ペプチドデータベースの構築にあたって、その特徴を生かしつつ、入力データの表現方法、情報の提供方法、既存デ
ータベースとの連携方法などを検討し、他の国際的データベースと連携して活用可能なデータベースの構築法を研究した。 研
究当初はバイオデータベースがほとんどフラットファイルであったことから、フラットファイルによる管理システムである欧州 EMBL
で開発された SRS システムによる連携を検討して開発を行ったが、関連するデータの維持管理や形態を考慮して、SRS の代わり
にリンクデータベースを構築した。ペプチドデータベース本体とは管理を別にすることで、相互運用性を高めた。
なお、ペプチドの表現方法の検討のために、バーチャルリアリティ技術、特に力の制御が行えるデバイスを用いたシステ
ムを開発し、ペプチドと蛋白質の相互作用などが体感できるものができた。
■目 的
ペプチドデータベースは蛋白質一次配列データベースのみならず、その元になっている遺伝子の DNA 配列データベー
スをはじめ、蛋白質 3 次元立体構造、文献データベース、酵素データベースや疾患データベースなど、各種の他のデータ
ベースとの関連があり、これらのデータベースとの相互関係を維持した形でのデータベース構築、および、データ公開をす
ることが、知的基盤としてのデータベース構築においてその活用において大変重要な意味をもつ。そこで、既存の関連デ
ータベースの調査を行い、それらデータベース間の相互関係を解析することによってペプチドデータベースの効果的な管
理、公開方法を検討する。
また、ペプチドデータの表現においては、その生理活性を説明する為に、静電ポテンシャルや疎水結合などのエネルギ
ーの表現が効果的であるが、従来の 3 次構造表示では立体眼鏡や回転することによって 3 次元構造は表現できても、相互
作用の力の表現はできなかった。そこで、触覚デバイスを用いたバーチャルリアリティシステムによって、ペプチドのより高
度な表現方法の開発を試みる。
■ 研究方法
バイオ関連データベースに関しては相互に関連を持って構築されている(図1参照)。インターネット上に公開されている
ものを中心にその構造と他のデータベースとの関連性を調査する。また、各種バイオデータベースの相互関係を維持しな
がらデータベースを管理公開するためのソフトウェアに関しても調査を行う。
それらの結果にもとづき、試験研究を行うための実験サーバを導入し、ペプチドデータの公開準備が整うまではこれまで
私がデータを収集して研究を行ってきていた転写制御因子のデータベースを利用して、他のデータベースとの連携やデ
ータ管理の仕組みの検討を行う。 ペプチドデータの基本構造ができたところで、そのデータを利用した実際の連携データ
ベースを構築し、運用する。
一方、触覚デバイスを用いたバーチャルリアリティに関しては、これまでのシステムで不足していた計算能力を上げるた
め、新たに並列計算システムを導入し、リアルタイム計算を行う。また、高度な研究開発用システムのみならず、広く利用を
促進するために、学会などでも展示公開できるような可搬型簡便システムも検討する。
108
創薬および生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
図-1 ペプチドデータベースと各種バイオ関連データベースとの関連イメージ図
■ 研究成果
ペプチドデータベースについてはまだデータが整備されていないことから、当初は転写因子データベースをモデルに検
討を行った。 バイオ関連データの統合データベース管理システムとしては各種のリレーショナルデータベースなどがある
が、公開されているデータベースがフラットファイルであり、個々に更新されていくために効率的な管理は難しかった。調査
したところ、英国 EBI で開発されドイツ LION 社が提供している SRS(Sequence Retrieval System)が我々の目的に合致すると
思われたので、平成 12 年度にハードウェアとともに導入し、それをベースに自ら作成した転写因子のデータベースを他の
デ ー タ ベ ー ス と の 連 携 の も と に 設 定 し , 相 互 に 関 連 す る デ ー タ の 連 携 を 検 討 し た 。 ( 図 -2 ) こ れ ら の 成 果 は
http://srsx.ncc.go.jp/ にて試験公開を開始した。(がんセンターのセキュリティポリシーのため、現在は外部から接続不可。
代替接続法準備中)
インターネット上の公共データベースも整備が進み、これらとの連携の中で各種データの基礎となるゲノムをベースに考
えるため、ゲノムビューワーを導入した(図 3)。ゲノムビューワーは染色体上の物理的な遺伝子の位置を基本として各種情
報を貼り付けて行くものであり、ゲノム配列が明らかになってはじめて可能になったものである。これに様々なデータベース
の情報を統合することによって、アノテーションされている遺伝子に関しての相互連携が可能となった。疾患などの付加的
情報も活用できるように計画している。なお、ペプチドデータもその由来の蛋白質をコードする遺伝子にもどれははりつける
ことは可能であるが、使い勝手に関しては今後の検討が必要である。
109
創薬および生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
図-2 SRS サーバによる各種データベースのリンクと統合管理
図-3 各種情報のゲノムビューワへの関連付け
110
創薬および生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
ペプチドデータの他のデータベースとのリンクに関しては、ペプチドデータベースから他のデータベースへの外向きリン
クと、外部データベースからペプチドデータベースへの内向きリンクの両方を検討する必要がある。
外向きリンクに関しては、リンクすべきデータベースが多数あり、それぞれの管理独自に行われていることから、その管理
には相当な作業が必要になる。本来ペプチドデータベース本体内に組み込むのが簡便であるが、相当な負担になることが
考えられるので、リンク ID を決めてそれを指標にしてリンクサーバへ移動するのが良いと思われる。 そこで、各種データベ
ースからペプチド関連の情報をキーに集めたリンクデータベースを構築し、ペプチドデータベースからはそこに対して検索
要求を指し示す構造にした。 リンクデータベースに関しては上記サーバ同様、国立がんセンターのセキュリティポリシーの
ために公開できない状況にあるが、近日中に公開予定である。
一方、外部データベースからペプチドデータベースへのリンクであるが、Ensemble などでは関連するデータへのリンク情報がよく
管理されているものの、リンク情報を入れてもらうためにはペプチドームデータベースの認知度を上げる必要がある。Ensemble 担当
者との打ち合わせは行っており、ペプチドームデータベースの公開後にはリンクを依頼する予定である。一方、リンク情報を中心に
管理されているデータベースとして、Karolinska Institute の Boris Lenhard 氏によって管理されている GeneLynx というデータベース
がある(図 4)。遺伝子をキーに各種リンクを集めたデータベースであるが、ペプチドデータも遺伝子に対応させることによってここに
リンク可能であり、すでに打ち合わせを行ってあるのでペプチドームデータベース公開後にはリンクが可能である。
図-4 各種情報のゲノムビューワへの関連付け
ペプチド分子の感覚的表現のためのバーチャルリアルティシステムに関しては、Force Feed Back 技術を用いて、バー
チャルリアリティを用いて表示した画面のペプチドや蛋白質、化合物などを、ペン型のハプティックデバイスを用いて動かす
ものであるが、その際手に伝わる反作用を生じさせることができるので、その場に働く力場を計算して伝えるようにしたもの
である(図5)。これまで力場に関しては Pre-Calculation 法によって、そのプロトタイプとなるようなソフトウェアを開発してきた。
しかし、Pre-Calculation 法ではシミュレーションの前に大量の計算が必要になり、多くの分子を次々に検討することが難し
かったことから、並列化による高速化を図り、リアルタイムで計算ができるように改良した。(図 6)
111
創薬および生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
図-5 ハプティクデバイスで分子を触る
図-6 計算の高速化のための並列計算機
表現できる力の種類が、van der Waals 力、静電力、疎水力、ClogP などと限られているものの、これまで表現できなかっ
たような、分子模型を超えた体験が可能であることがわかった。並列計算機の導入によって、これまでむずかしかったリアル
タイムの計算が可能になり、その場で設定を変える事ができるようになった。タンパク質と阻害剤ばかりでなく、ペプチドとレ
セプター、DNA と転写因子など、様々な分子を用いて検討を行った。現在、タンパク質や薬剤の分子内ゆらぎを許すシス
テム開発を検討している。
本システムは高速な計算機とハプティックデバイスを必要とすることから、これまでは設置してある場所に来ないと体験で
きなかった。しかし、学会発表などでは触らないことには有用性を理解してもらえないので、可搬型のシステムが必要であっ
た。そこで、パソコンの性能も向上したことから、簡単な分子だけではあるが、リアルタイムで計算をするシステムを PC4 台で
構成することができた(図 7)。 実際、2004 年1月29日に開催されたペプチドームに関する国際シンポジウム会場におい
て初めてデモンストレーションを行うことが出来、体験参加者から様々な意見を伺うことが出来た。
図7 シンポジウム会場における可搬型バーチャルリアリティシステムの実演
112
創薬および生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
■考 察
ペプチド関連のデータベースは数多く存在し、そのデータ構造もこれまでのものはフラットファイルベースのものが多かっ
たものの、新しいものは XML などの方式を取り入れ始めている。研究当初はフラットファイルデータベース管理において圧
倒的な利便性を示した LION 社から提供されている SRS システムを導入して運用のための準備を行っていたものの、高度
なデータベースが多くなり、また SRS 自身の取り扱いも自動化するまでの ICARUS 言語による設定が煩雑であったこともあり、
新しくリンクデータベースを構築する方向に方針変換した。ただ、ペプチドデータベース本体の仕様の確定が遅れていた
為にそのシステムと関連した設計にする必要があることから、リンクデータベースの構築も遅れ気味となってしまった。しかし、
それまでは、自分でこれまで構築してきた転写因子に関するデータベースが同じバイオデータとして様々なデータベースと
関連をもつということで類似性があったため、これを用いて開発することができた。
サーバの構築はできて運用開始になったところで、インターネットにおける不正アクセスやウィルス事件が多発し、私の所
属する組織としては医療関連情報を扱うこともあって厳しいインターネット接続制限が敷かれ、外部との自由なデータ交換
や、外部への情報公開ができなくなってしまった。様々な解決法を検討した結果、組織としてのネットワーク接続とは別に、
独自なインターネット回線を用いて公開用のサーバを接続する方法で解決する方向になり、現在、別なネットワーク接続の
準備を行っているところであり、この接続が完了するまで、本研究プロジェクトで構築したシステムの公開はできない。
バーチャルリアリティによるペプチド分子の物理化学的性質の表現と、ペプチドと蛋白質レセプターの結合などのシミュ
レーションに関しては、実際に触ると言う触覚をもちいることがこれまで行えなかったこともあり、大変興味深いシステムが構
築できた。阻害剤を蛋白質の活性部位にはめ込むシミュレーションなどでも、電気的なポテンシャルを計算に入れると、引
き込まれるようにして分子が結合することが体験できる。また、はまったところで振動が起こることもあるが、これは実際の分
子でもある程度の自由度が有る場合には振動が起こっていることをあらわしているのではないかと推察する。
今回開発したバーチャルリアリティシステムでは、分子内の構造の自由度は無く、ゆがむことがないので、変形させないと
入らないような場合にはうまくいかない。変形の自由度とそのエネルギーを計算させることも可能であるが、計算力が必要で
あるので、うまく近似することによって、このような効果も取り入れていきたい。また、今回用いたハプティクデバイスは3つの
方向への力を表現できるものの、実際には分子に働くモーメントとしては6つの力を表現する必要がある。6つの力を出す
デバイスも開発されていることから、このようなものを用いたより高度なシステムも検討したい。
■ 引用文献
1.
Boris Lenhard:「GeneLynx」, http://www.genelynx.org/
■ 成果の発表
原著論文による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
1.
Mizushima, H.:「Cancer Information Network」, Internal Medicine, 38, 192-194, (1999)
国外誌
1.
Kaizawa, M., Watanabe, S., Nobukuni, T., Horikoshi, M., Handa, H., Kuchino, Y., Sekiya, T., Mizushima,
H. :「Maintenance of Transcription Factor Database TFDB.」, Genome Informatics 1999(Asai K. Miyano S.
Takagi T. Eds: ISSN:0919-9454) 269-271, (1999)
2.
Mizushima, H., Uchiyama, E., Nagata, H., Yamaguchi, N.: 「Telemedicine Comes of Age.」, Japanese Journal
of Clinical Oncology, 30, 3-6, (2000)
3.
Nagata, H., Tanaka, E., Hatsuta, M., Mizushima, H, Tanaka, H.: 「Molecular Virtual Reality System with
Force Feedback Device」, ICAT 2000, 161-166, (2000)
113
創薬および生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
4.
Chen, Y.Z., Hayashi, Y,, Wu, J.G., Takaoka, E., Maekawa, K., Watanabe, N., Inazawa, J., Hosoda, F., Arai,
Y., Ohki, M., Mizushima, H., Morohashi, A., Ohira, M., Nakagawara, A., Liu, S.Y., Hoshi, M., Horii. A.,
Soeda, E.:「A BAC-based STS-content map spanning a 35Mb region of human chromosome 1p35-36.」,
Genomics, 74, 55-70, (2001)
5.
Mizushima, H., Uchiyama, E., Nagata, H., Matsuno, Y., Sekiguchi, R., Ohmatsu, H., Hojo, F., Shimoda, T.,
Wakao, F., Shinkai, T., Yamaguchi, N., Moriyama, N., Kakizoe, T., Abe, K., Terada, M.:「Japanese
experience of telemedicine in oncology. 」, International Journal of Medical Informatics, 61, 207-215, (2001)
6.
Mizushima, H., Nagata, H., Tanaka, E., Hatsuta, M., Tanaka, H.:「Virtual Reality System using Force
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975-978, (2001)
7.
Nagata, H., Mizushima, H., Tanaka, H.:「Concept and prototype of protein-ligand docking simulator with
force feedback technology. 」, Bioinformatics, 18, 140-146, (2002)
8.
Mizushima, H., Ichikawa, H., Ohki, M.:「Analysys Tool For Finding Transcription Regulatory Elements ,
Using Transcription Factor Database (TFDB). 」, Proceedings of the Third International Conference on
Bioinformatics of Genome Regulation and Structure, 1, 37-39, (2002)
原著論文以外による発表(レビュー等)
国内誌(国内英文誌を含む)
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2.
水島 洋:MEDLINE,からだの科学,209,125,(1999)
3.
永田 宏,黒田 貴,小野和男,内山映子,水島 洋,山口直人:分散オブジェクト技術による医療情報システ
ムの拡張,インターネットコンファレンス 99 論文集,11-19,(1999)
4.
水島 洋:「ネットワークの現在・過去・未来」,医療とコンピュータ,11,18-22,(2000)
5.
永田 宏,水島 洋:「創薬を目指した分子 VR システム」,新医療,27 (2),78-81,(2000)
6.
新海 哲,若尾文彦,水島 洋,石川光一,山口直人,森山紀之,海老原敏,阿部 薫,寺田雅昭:「癌治療
と情報処理」,癌と化学療法,27 (4),505-515,(2000) [MEDLINE]
7.
水島 洋:「ファイアーウォール」,医薬品情報学(光源社),2 (2),15,(2000)
8.
永田 宏,田中恵理子,初田正彰,水島 洋:「分子衝突シミュレーターの開発」,ヒューマンインターフェース
シンポジウム 2000 論文集,2 (2),523-526,(2000)
9.
水島 洋:「医療情報とセキュリティ」,病理と臨床(文光堂),18 (8),785-787,(2000)
10.
水島 洋:「遺伝子解析・文献検索のインターネットサーチ」,臨床検査(医学書院),44 (8),893-906,(2000)
11.
水島 洋:「Medline と PubMed」,医薬品情報学(光源社),2 (4),15,(2000)
12.
水島 洋:「インターネット上のゲノム情報」,医薬品情報学(光源社),3 (1),21,(2001)
13.
水島 洋:「バイオインフォマティクスガイダンス」,ゲノム医学(メディカルレビュー社),1 (1),41-48,(2001)
14.
辰巳治之,明石浩史,宮司正道,青木文夫,水島 洋,田中 博:「新生 MDX プロジェクト:ITRC と MDX2 に
ついて」, 医療とコンピュータ,12 (9),2-14,(2001)
15.
水島 洋,崎山徳起:「疾病のゲノム情報学的解析」, 新医療,28 (11),56-59,(2001)
16.
水島 洋(監修) 水島 洋,明石 浩史,ま たぬき(訳):「実践バイオインフォマティクス」,オライリージャパン
社, (2002)
17.
水島 洋:「バイオインフォマティクスの創薬への応用」,ヒューマンサイエンス,13 (4),14-17,(2002)
18.
水島 洋:「医療情報ネットワーク構築と医療情報とゲノム情報の融合」,新医療,28 (8),133-135,(2002)
19.
水島 洋(監修) 水島 洋,明石 浩史,ま たぬき,小林 慎治(訳):「バイオインフォマティクスのための
Perl 入門」, オライリージャパン社,(2002)
114
創薬および生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
20.
水島 洋:「ゲノム情報と医療情報」,医療とコンピュータ,13 (12),6-10,(2002)
21.
水島 洋:「転写制御機構解析のためのバイオインフォマティクス」,ゲノム医学(メディカルレビュー社),3 (1),
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22.
水島 洋:「バイオインフォマティクス」,IT 医療白書 2003(エムイー振興協会),36-38,(2003)
23.
水島 洋 川原弘三,日本オラクルライフサイエンス推進部:「バイオ研究・開発のための Oracle 活用術」,(翔
泳社)(2004)
24.
水島 洋:「医療から見たバイオインフォマティクス」,蛋白質核酸酵素(共立出版),49 (6),(2004)
国外誌
なし
口頭発表
招待講演
1.
水島 洋:「マルチメディア情報ネットワークとデータベース」,東京,日本医学会総会,1999 年 4 月 4 日
2.
水島 洋:「遺伝子解析と分子設計の現状とその VR を用いた応用」,東京,1999 年/第 12 回多地点メディカ
ルカンファランス,1999 年 4 月 8 日
3.
Takahashi, T., Mizushima, H.:「The Current State of Telemedicine in Japan.」, Israel, The 4th International
Conference on the Medical Aspects of Telemedicine(Israel), 1999. 6. 9
4.
水島 洋:「DNA-チップの現状と展望-がん研究最前線からの期待」,東京,ゲノム解析自動化展,2000 年
2 月 23 日
5.
永田 宏,田中恵理子,初田正彰,水島 洋:「分子衝突シュミレーターの開発」,ヒューマンインターフェース
シンポジウム 2000,2000 年 6 月
6.
水島 洋:「遺伝子計算機科学の今と未来」,札幌,North シンポジウム 2001,2001 年 3 月 27 日
7.
水島 洋:「遺伝子研究のためのネットワーク最新情報」,福岡,ITRC 研究会,2001 年 5 月 31 日
8.
水島 洋:「転写因子データベースと VR を用いた分子設計」,東京,東京大学先端研究所セミナー,2001 年
7 月 12 日
9.
水島 洋:「ゲノム創薬のための転写因子データベースを用いた転写制御機構の解析」,東京,日本薬学会
関東支部会,2001 年 10 月 9 日
10.
水島 洋:「医療情報ネットワークと データベースの最新情報」,東京,第 16 回日本コンピュータサイエンス学
会,2001 年 10 月 28 日
11.
水島 洋:「ゲノム研究のための次世代ネットワーク」,東京,日本医療情報学連合大会,2001 年 11 月 28 日
12.
水島 洋:「転写因子データベース(TFDB)を用いた転写制御部位検索ツールの開発」,東京,第 3 回 CBI
学会大会,2002 年 9 月 18 日
13.
水島 洋:「バイオインフォマティクスによるゲノム情報の解析」,さいたま市,日本ヒト細胞学会,2003 年 8 月 29
日
14.
水島 洋,崎山徳起,吉田輝彦:「腫瘍ゲノム解析におけるバイオインフォマティクスの今後の動向」,名古屋,
日本癌学会,2003 年 9 月 27 日
15.
水島 洋:「医療情報とゲノム情報の統合に向けて」,千葉,日本医療情報ネットワーク協会講演会,2003 年
11 月 27 日
16.
水島 洋:「遠隔医療とゲノム研究のための高速ネットワークの利用」,Big Science and High Performance
Network Workshop,2003.11.27
17.
水島 洋:「医療情報とバイオ情報の統合」,東京,日本コンピュータサイエンス学会春季大会
18.
水島 洋:「がんの診療・研究のためのネットワーク構築と臨床ゲノム情報の活用,東京,電子情報通信学会,
115
創薬および生物研究情報基盤としての生体内ペプチドの多角的データベース化に関する研究
2004 年 3 月 23 日
19.
水島 洋 諸外国における医療ネットワークの動向と,ゲノム情報の健康・医療への利用」,東京,JAMINA シ
ンポジウム,2004 年 4 月 23 日
20.
Kaizawa, M., Watanabe, S., Nobukuni, T., Horikoshi, M., Handa, H., Kuchino, Y., Sekiya, T., Mizushima, H.:
「 Maintenance of Transcription Factor DataBase TDDB」. Tokyo, Genome Information Workshop 1999, 1999.
12. 14
21.
Mizushima, H.: 「Bioinformatics at National Cancer Center and Medical Genome Project.」Seoul/Korea,
Korea National Cancer Center Seminar, 2001. 12. 27
22.
Mizushima, H.: 「Analyzing Transcription Regulation Mechanisms by Genome Comparison with Transcription
Factor Database (TFDB).」, Taipei/Taiwan, MIST2002, 2002. 10. 5
23.
Mizushima, H., Tanaka, H., Hatsuta, M., Arai, D., Nagata, H.: Molecular Modeling using Virtual Reality with
Force Feed Back.」, Brisbane, 11th International Conference on Intelligent Systems for Molecular Biology
(ISMB 2003) , 2003. 7. 1
24.
Mizushima, H., Kawahara, K., Takatsu, M., Yoshida, T.:「Finding transcription regulatory elements, using
transcription factor data base and genome comparison.」, Brisbane/Australia, Inteligent Systems for Molecular
Biology Meeting, 2003. 7. 1
25.
Mizushima, H., Nagata, H., Tanaka, H.:「Integration of peptide database to multiple databases, and Touch
and feel system for peptide representations. 」 , Osaka, National Caradiovascular Center International
Symposium Frontiers in Peptidome Research: Methods for Analysis and Applications. 2004. 1. 29
応募・主催講演等
1.
Mizushima, H., Ichikawa, H., Ohki, M.:「Analysis tool for finding transcription regulatory elements, using
transcription factor data base (TFDB). 」 , Novosibirsk/Russia, Third International Conference on
Bioinformatics of Genome Regulation and Structure, 2002. 7. 15
2.
水島 洋,永田 宏,田中恵理子,若宮加奈子,初田正彰:「Force Feed Back を用いた,分子設計における
バーチャルリアリティシステムの開発」,山形,構造活性相関シンポジウム,1999 年 11 月 12 日
3.
水島 洋:「21 世紀の科学におけるデータベースの考え方」,東京,日本コンピュータサイエンス学会第 12 回
学術大会,1999 年 12 月 12 日
4.
永田 宏,黒田 貴,小野和男,内山映子,水島 洋,山口直人:「分散オブジェクト技術による医療情報シス
テムの拡張」,東京,インターネットコンファレンス 99,1999 年 12 月 15 日
5.
Nagata, H., Tanaka, E., Hatsuta, M., Mizushima, H., and Tanaka, H.: Molecular Virtual Reality System with
Force Feedback Device」, Taiwan, ICAT 2000, 2000. 10. 26
6.
Mizushima, H., Nagata, H., Tanaka, E., Hatsuta, M., Tanaka, H.:「Virtual Reality System using Force
Feedback Device for Molecular Modeling.」, London, MEDINFO2001, 2001. 9. 5
特許等出願等
なし
受賞等
なし
116
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