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PDF版 - 日本機械学会
ISSN 2185-372X 日本機械学会熱工学部門 JSME Thermal Engineering Division THERMAL ENGINEERING TED Newsletter on the WEB 日本機械学会熱工学部門ニュースレター TED Newsletter No.73 September 2014 目 次 1. TED Plaza 科学教室教材「風力発電機」の科学 中別府 修 (明治大学) 2. 行事案内 部門企画行事案内 部門関連行事案内 国際会議案内 3. 第 92 期部門組織 4. その他 編集後記 -1- JSME TED Newsletter, No.73, 2014 TED Plaza 科学教室教材「風力発電機」の科学 中別府 修 明治大学 教授 理工学部機械工学科 [email protected] 1.はじめに 技術立国を標榜する日本では,理科や科学・技術教育が重要であり,近年,大学や学会,科学 館,自治体等で様々な科学教室が催されるようになってきた(1)-(3).明治大学理工学部においても, 1995 年より,小・中・高校生を対象とした夏休み科学教室を開催し,教員が知恵を絞って考案し たオリジナル教材を使い,科学技術への興味や関心を高める教育活動を行っている.著者はこの 活動で, 市販の小型直流モーターと LED が点滅するおもちゃを利用した手作り風力発電機(図 1) を考案し,小学校 4 ~ 6 年生を対象として科学教室を実施した.試行錯誤の末,教材の風力発電機 は家庭用扇風機の風で LED を点滅できるものとなり,参加した生徒の喜ぶ顔を見ることができた. 全国の科学教室を企画・実施する教員や技術者も,同様に,子供たちへ科学・技術の面白さを 伝えることを目的とし,各自の経験やインターネット等の情報から,教室の内容を企画し,教材 を製作していると思われる.ここで,手作り教材の構成や仕組みを明確にし,その特性を定量的 に評価し,信頼できる情報として発表することは,理科教育活動の促進に貢献すると共に,大学 等の高等教育でも活用できる教材とすることができると考えるに至った. 本稿では,同様の科学教室を実施する場合に参考となり,高等教育にも活用できる教材情報の 提供を目的に,考案した風力発電機の詳細と実測した特性を報告するものである. Fig. 1 Photo of wind power generator for summer science school in Meiji University. -2- JSME TED Newsletter, No.73, 2014 2. 風力発電機教材 風力発電は,再生可能エネルギーを利用した環境負荷の小さなエネルギー装置として,小中学 生の科学への意識や興味を高めるのに適した題材である.また,手製の風車で模型用の小型モー ターを回し発電する基本構成は容易に着想される.教材の条件として,1~2 時間で製作可能なこ と,発電を実感し興味を引けること,工夫の余地があり「すごい」 「楽しい」と感じる要素がある こと,を考慮して教材を製作した. 考案した風力発電機(図 2)では,厚紙で作った多翼型(アメリカ型)風車の回転をプーリー で 2.8 倍に増速し,小型 DC モーターへ伝えることで発電する.発生した電気は昇圧回路を通り, おもちゃの発光器内の LED を点滅させる.風車,モーター,昇圧回路,発光器は角材のボディに 取り付け,後端に尾翼を取り付けたボディは支柱に回転自由に取り付けられる.風が吹くと,風 車は横風のモーメントにより風上を向き,風車の回転に伴い LED が点滅する.風車の回転数に応 じて LED の発光強度が変化し,風の強さを視覚的に感じられる.部品のねじ止め,電気配線,風 車や尾翼の工作を含む作業時間は,小学校高学年の生徒で 2 時間程度である.表 1 に使用した部 品の仕様,参考市価を示す. 教材開発過程では,各種の市販小型直流モーターを入手し,大きさの異なる風車を接続し,家 庭用扇風機の風で LED や豆電球が発光する発電量が得られえるか否かを実験的に調べた.結果と して,低電圧・小電力で回転するソーラーモーター(4)(タミヤ,RF-500TB)が本用途に適してい ることが分かった. また,直径 20cm の厚紙円板から作る風車をモーターに直接接続した場合,回転数が低く,得 られる電力は,小電力,低電圧であり,電球や LED を直接点灯させるのは難しいことが問題であ った.発電を電圧計等の計測器で確認するのも,教材としてコストがかかり,楽しむ要素も減っ てしまう.解決策として,少ない部品点数で構成され,1V 以下の直流電圧を LED が点灯する 1.6~3.5V 以上の電圧へ昇圧するブロッキング昇圧回路を採用することで,発電した電力で LED の 点灯が可能なことが分かった. 発光器は,当初,発振回路による LED の点滅を考えたが,ワンコインショップでカラフルに LED が点滅するおもちゃ(ピカピカ棒,㈱日本パール加工)を見つけ,これを利用することとし た.さらに,風車の軸受には,当初,鉄板に穴をあけた模型用軸受けを用いていたが,摩擦が大 きすぎる問題があった.模型用ボールベアリングを樹脂製ケーブル固定具でボディに取り付ける ことで,スムーズな回転が得られ,家庭用扇風機の風で LED を点滅できる風力発電機が構成でき ることが確認された. 教材の材料費は表 1 に示すように 2007 年時点の市価で 2500 円程度である.モーター,ベアリ ングがウエイトを占めるが,発光器や支柱などワンコインショップを利用したことで経費は低く 押えられている. Fig. 2 Wind power generator for Summer Science School in Meiji University. -3- JSME TED Newsletter, No.73, 2014 Table 1 Parts list for the wind power generator Parts Rotor, Tale fin Generator Shaft Pulley Bearing Boost circuit LED Light stick Body Mast Small parts Specifications Cardboard, thickness 0.5mm, A4 type Solar Motor(MABUCHI RF-500TB,Tamiya) Shaft, 3mm×100mm, M3 thread at both end. 30 mm×1, 20 mm×1, 11 mm×2, (Tamiya Pulley Set S) Miniature ball bearing (O.D.9mm, I.D.5mm)×2, (Tamiya No. 15344), Cable holder (9 mm size)×2 Blocking circuit (Handmaid) Pikapika bou, Nihon Peal Kakou Hinoki timber, 6mm×11mm×450mm Steel Paul, 11mm×400mm Screws, wire cable, clip, Cable ties Total Market Price ¥ 100 ¥ 900 ¥ 50 ¥ 150 ¥ 400 ¥ 300 ¥ 100 ¥ 100 ¥ 100 ¥ 300 ¥ 2500 3. 風力発電機の諸特性 3・1 風車 風車は,厚紙に図 3 の型紙を張付け,実線を切り,破線を谷折にすることで作成する.材料の 入手し易さから,A4 版,厚さ 0.5mm の厚紙で作れるよう,直径を 20cm とした.羽根は直線的に 折るよりも紙面に対して徐々に傾きが増加するよう反り上げるように折ると良く回る風車となる. 風車の性能評価には図 3(a)(b)(c)の 3 種を試みた.風力エネルギーから回転の運動エネルギーを 抽出する効率rotor(=パワー係数)は羽根の折方で大きく変化し,3 種の中では羽根に隙間を持た せた(c)が,高い効率を示した.風車の評価には,伝達系やモーター部分の特性評価を必要とした ため,結果は 3・6 節で示す.教材としては,風車には改良の余地が多分にあり,生徒に様々な工 夫を試す機会を提供できる部分である. Fig. 3 Rotor patterns. (a) 16 full blades type, (b) 8 full blades type, (c) 8 half blades type. 3・2 伝達系 伝達系は風車の回転をモーターへ伝える機構である.風車は直径 3mm の模型用シャフトにロー レットナットで固定され,シャフトはボディの角材へボールベアリング 2 個を介して保持される. 風車の回転は,輪ゴムをかけた模型用プーリーで 2.8 倍に増速されてモーターへ伝えられる. 風車が捉えたエネルギーをモーターへ伝達するまでには,シャフトを支えるベアリングの摩擦, 回転を伝える輪ゴムの内部摩擦,周囲の大気の摩擦等による損失が生じる.伝達系の摩擦特性を 調べるため,シャフトまたはモーターに金属円盤(慣性モーメント Ip = 3.57×10-5 kg/m2)を取り 付け,ベアリング部,モーター単体,そしてシャフトとモーターをプーリーで連結した伝達系と モーターを含む伝達系・モーターの回転の自由減衰特性を調べ図 4 を得た.モーターは電気的に 無負荷の状態である.回転数 n [Hz]はモーターの起電力の脈動あるいはシャフトに小型の遮光板 を付けフォトインタラプタを用いて計測した.いずれの場合も,回転数 n は時間 t に対しほぼ直 -4- JSME TED Newsletter, No.73, 2014 線的に減少すると見なせ,(1)式より,平均摩擦モーメント Mf を導出した.結果として,Mf はベ アリング部では 50 Nm 程度,モーター単体では 250 Nm 程度,伝達系・モーターでは 700 Nm 程度の値が算出された. Ip d M f dt (1) ここで,=2n[rad/s] は角速度である.摩擦を厳密に定量することは難しいが,風車のトルクを モーターへ伝える伝達系では 450 Nm の摩擦モーメントを常に持つとして,3・6 節の全体評価の 中で摩擦によるエネルギー損失を評価する. Fig. 4 Free rotational dumping characteristics of the drive train system and motor. 3・3 DC モーターの発電特性 永久磁石とコイルを用いた直流モーターは,外部からトルクを与え回転させると誘導起電力が 生じ,脈動電流を外部へ取り出せる.3 極のソーラーモーターでは,図 5 の挿入図に示す 1 回転 で 6 回の変動を持つ脈動電圧を発生する.発電用モーターの特性を調べるため,電気駆動時のエ ネルギーバランスより摩擦特性を,また,外部より機械的に回転させ発電特性を調べた. 発電用モーターを機械的無負荷状態で直流駆動した場合,投入電力 PMe ,in (=駆動電圧 VM,in×駆 動電流 IM,in)は内部抵抗 RM [Ω]による発熱,摩擦仕事との和に等しく次式が成立する. PMe ,in VM ,in I M ,in RM VM2 ,in M M f , M (2) ここで,はモーターの角速度,Mf,M はモーター内の摩擦モーメントである.投入電力と回転数 の関係,内部抵抗(RM = 3.7 Ω)を実測し,Mf,M は角速度依存性を持つ次式として求められた. M f ,M 181 0.346M [μNm] (3) モーター回転数 10 ~ 30 Hz の範囲では, 平均摩擦モーメントとして Mf,M ~ 224 Nm と評価できる. 前節で機械的に調べた摩擦モーメントは 250 Nm であり近い結果である.発電特性の評価には, 角速度依存性を含んだ(3)式を利用する. 発電特性は,発電用モーターに駆動用直流モーターを樹脂チューブで連結し,回転数と負荷抵 抗 RLoad を変化させて調べた.RLoad = 0.5~1 kΩ に設定し,モーターの回転周波数が 10,20,30, 40 Hz における発電量を取得し,図 6 を得た.いずれの回転数でも RLoad =5 ~ 6 Ω で最大出力が得 られ,負荷の大きな領域では出力が負荷抵抗に反比例することが示されている.この特性は内部 抵抗を持つ一定起電力の電源に外部抵抗を接続した系の特性であり,磁束の変化量に誘導起電圧 が比例することを反映し,回転数が一定ならば起電力も一定であること,内部抵抗と外部抵抗の マッチングが電力を取り出す上で重要なことを示している. -5- JSME TED Newsletter, No.73, 2014 発電用モーターへ与えられる機械的パワー PMm,in は,摩擦による機械的損失(=Mf,M),出力 電流 IM と内部抵抗 RM によるジュール熱損失(=RMIM2),出力電力 PMe ,out (=RLoadIM2)の和として 次式で算出される. 2 2 PMm,in M M f ,M RM I M RLoad I M (4) 図 6 には,実験データを内挿し,一定の機械的パワー( PMm,in =70mW)を発電用モーターへ与え た場合の,電気出力,ジュール熱損失,摩擦損失の内訳を負荷抵抗に対して積み上げて示したも のである.負荷抵抗に応じて変化する回転数も示している.負荷抵抗 3Ω 以下の領域は,他の入 力パワーのデータの傾向に倣い,推定して描かれている. Fig. 5 Power generation characteristics of solar motor for given revolution speed and electric load. Insertion shows typical ripple of generated voltage. Fig. 6 Energy conversion of solar motor in case of 70 mW mechanical input power. Table 2 Mechanical to electrical power conversion performance of solar motor at 20 load Mechanical input power 30mW 50mW 70mW 100mW 200mW Electrical output power 13 mW 27 mW 40mW 59 mW 127mW 47 % 54 % 57 % 59 % 64 % Efficiency -6- JSME TED Newsletter, No.73, 2014 出力とジュール発熱を合わせた電力と機械的損失の配分を見ると,負荷の増加に対し電力への 配分が減り,回転数の増加と共に機械的損失割合が増加することが分かる.負荷が 100 Ω 以上と 大きい場合,機械的損失が支配的になる.電力内の配分を見ると,負荷が 5 Ω 以下と小さい場合, 内部の発熱損失が大きく支配的になり,10 ~ 20 Ω の負荷で外部へ取り出せる電気出力が最大とな る.この条件では,機械的入力 PMm,in の約 57%が電力として出力できることが分かる.また,機械 的損失も含めたエネルギー解析では,電気出力が最大となる電気的負荷は,回転数一定条件で得 た図 6 の結果と異なり,総合的な設計が必要なことを教えてくれる. 同様の解析で得た機械的入力 PMm,in =30~200mW,負荷抵抗 20に対する電気出力,発電効率を表 2 にまとめる.選択したモーターが小さな入力に対しても比較的高い発電効率を持つこと,入力 仕事率が大きくなるほど発電効率が高くなることが現れている. 3・4 昇圧回路特性 小電力,低電圧の電気を昇圧するブロッキング回路(5),(6)を図 7 に示す.電源の正極はトロイダ ルコアに銅線を 40 巻き程度逆向きに巻いた 2 つのコイルを通じトランジスタのベースとコレクタ へ連結されている.直流入力に対し,コイルとトランジスタにより発振が起こり,コレクタ電流 の急激な減少に伴い,コイルの誘導起電圧(=コレクタ電圧)が急上昇し,この昇圧された電気 がショットキーダイオードで整流され,平滑コンデンサーを介して負荷へ供給される. 負荷抵抗を変え,直流入力に対する回路性能を測定した.図 8 に負荷抵抗 900 Ω 時の出力電圧 Vb,out,出力電力 Pb,out,入力電力に対する出力電力の割合として定義した効率boost を示す.入力電 圧 Vb,in が 0.6 V を超えると昇圧動作が始まり,入力 1 V で出力 2.5V,入力 2 V で出力 4.5 V と入力 電圧が 0.6 ~ 3 V の範囲では,2 倍以上の電圧上昇率がある.電力は,昇圧動作が始まると取り出 すことが可能になり,入力 1 V で 10 mW,2 V で 35 mW 程度となっている.効率boost は,昇圧動 作下で 55 % ~ 40 %程度,入力電圧が高くなると若干低下する傾向を示した. また,昇圧回路は,Vb,in = 0.77 V の条件で RLoad = 2~10 kまで変化させたところ,(5)式のように, 出力電圧 Vb,out は負荷抵抗の 0.52 乗に比例することが実測され,負荷の変化に対し出力電力 Pb,out はほぼ一定であることも確認された. 0.52 Vb,out 0.095RLoad [V] (@Vb,in 0.77V) Fig. 7 Fig. 8 (5) Blocking circuit for boosting voltage. Boosting performance of the Blocking Circuit. -7- JSME TED Newsletter, No.73, 2014 3・5 LED 発光器の特性 LED 発光器は,本来,ボタン電池(1.5V)3 個で 4 個の LED を 7 種のパターンで点滅させる玩 具である.外観は長さ 20 cm,直径 17 mm の透明な棒状(図 9)であり,プッシュボタンスイッ チを押す毎に点滅パターンが変化する.LED は赤色,白色,青色など単色 4 個の製品と,赤色, 青色,緑色など多色 4 個の製品がある.この特性試験では多色の製品を用いた.連続点灯モード では 4 個の LED が 200 Hz 程度の周期で点滅し肉眼では連続点灯しているように見える.一斉点 滅モードでは 4 個の LED が同時に点滅し,リレー点滅モードでは LED が順に 1 個ずつ点滅する. 供給電圧により,発光強度と消費電力が異なり,概ね供給電圧 2 V 以上で赤色 LED の発光が始ま り,供給電圧 3 V 以上で緑色,青色 LED も発光する.表 3 に直流を供給したときの消費電力の実 測値を示す.連続点灯,一斉点滅モードはリレー点滅モードより 3~4 倍の電力を消費すること, 供給電圧が増加すると指数関数的に消費電力が増えることが分かる. なお,風力発電機へ発光器を組込むには,電池を取り除き,ケースに穴を開け,電池フォルダ ーの端子と昇圧回路の出力端子をケーブルで接続する.さらに,プッシュボタンスイッチの電極 と風車ボディに取り付けたクリップ製スイッチをケーブルでつなぎ,風でゆれる短冊の動きでス イッチの接触が生じ,起動,発光パターンの変化が自動的に生じるよう加工した. Table 3 Power consumption of LED light stick Supply voltage 2.5 V 3V 4V Continuous Light 15 mW 44 mW 160 mW Whole Blink 16 mW 44 mW 160 mW Relay Blink 4 mW 13 mW 48 mW Only red LED. Dark. All LED. Rather bright. All LED. Bright. Mode Emission State Fig. 9 LED light stick. 3・6 総合特性 送風ファンの風で風力発電機を動作させ,各部の電力・効率を評価した(表 4).風車は図 3 の多翼型 3 種類,風速 uw は回転風速計(カスタム社 AHLT-100)で計測し,家庭用扇風機で得ら れる 2 ~ 4 m/s 程度とした. 発光器は一斉点滅モードとした.風力パワーPw は表 4 脚注に示すよう, 風車の走過面積 A を通過する総運動エネルギーから算出した. 各部のエネルギーフローを特定するには,まず,モーターの回転数,発電電圧,電力量を計測 し,3・3 節の手法・特性から発電モーターへの機械的入力仕事率 PMm,in (=PDT)が算定される.次 に,3・2 節の伝達系の摩擦特性と回転数から伝達系での摩擦損失が評価され,それらの合算とし て風車が抽出したパワーProtor が算出される.昇圧回路は,3・5 節同様に電気計測により入出力パ ワーが評価される. エネルギーフローに沿って結果を見ると,風車が抽出したパワーProtor は,40 ~ 130 mW であり, 風力パワーPw との比として定義された効率rotor(=パワー係数)は 8.6 ~ 28 %である.効率は,風 速の低いときに高い傾向を示し,多翼型風車の特徴が現れている.翼幅の狭い風車では回転数が 高く,高い効率を示した.また,羽根の折り曲げ方によって効率は変化し,羽根形状を試行錯誤 してパワー係数が比較的高い状態でこのデータを取得している. -8- JSME TED Newsletter, No.73, 2014 伝達系のエネルギー伝達効率DT は,風車の抽出したパワーProtor に対する発電用モーターへ伝 えられたパワーPDT の比として算出した.DT = 36 ~ 53 %と,約半分以上のエネルギーが摩擦で失 われており,潤滑性能が重要なことが分かる. 発電効率gen は,モーターへの機械的入力 PMm,in (=PDT)に対する発電量 Pgen の比である.gen = 18 ~ 54 %となり,風速が低く回転数も低い場合には効率が低く,回転数が高いと効率が高い傾向 にある.効率は,高い条件でも,3.3 節で調べた最大発電効率の 8 割程度となっている.昇圧回路 の変換効率boost は 34 ~ 54 %と,直流入力に対し調べた特性と同程度の結果を示した. 最終的に LED の発光に供された電力 PLED は 1.1 mW~17 mW,風力パワーPw に対する総括効率 overall は,0.57 % ~ 1.5 %と非常に小さいことが判明した. 表 5 に,各部の大雑把な効率を,商用風力発電機(WKA-60,ローター直径 60 m,出力 1200 kW) の効率(7)と共に示す.比較すると,教材の性能向上には風車の効率を改善に加え,伝達系や発電 機の摩擦を大幅に減らす工夫,電気系の効率改善と各部に課題があることが分かる.逆に,商用 機では,風車の高効率化,摩擦や電気系の損失を大幅に低減するシステム的な工夫により,電力 を効率良く取り出していると言える.なお,風力エネルギーの内,風車で連続して取り出せる利 用可能なエネルギーは最大 59.4 %(ベッツの限界)(8),(9)であり,商用機では,利用可能エネルギ ーの 74%を風車が取り出していることとなる. Table 4 Overall characteristics of the wind power generator Wind Velocity Wind Power uw Pw * Rotor: 16 blades type, Drive Train Rotor rotor Protor Generator Booster LED Overall DT PDT gen Pgen boost PLED overall LED: Whole blink mode 2.1 m/s 169 mW 23 % 40 mW 36% 14 mW 18 % 2.6 mW 43 % 1.1 mW 0.66 % 3.2 m/s 589 mW 12 % 73 mW 42% 30 mW 32 % 9.7 mW 35 % 3.4 mW 0.57 % 4.0 m/s 1160 mW 8.6 % 99 mW 46% 46 mW 41 % 19 mW 37 % 6.9 mW 0.60 % Rotor: 8 wide blades type, LED: Whole blink mode 2.1 m/s 169 mW 24 % 41 mW 37% 15 mW 23 % 3.4 mW 37 % 1.3 mW 0.75 % 3.2 m/s 589 mW 14 % 85 mW 44% 37 mW 36 % 14 mW 34 % 4.7 mW 0.79 % 4.0 m/s 1160 mW 11 % 130 mW 53% 69 mW 51 % 35 mW 40 % 14 mW 1.2 % Rotor: 8 narrow blades type LED: Whole blink mode 2.1 m/s 169 mW 28 % 47 mW 37% 17 mW 42 % 4.1 mW 42 % 1.7 mW 1.0 % 3.2 m/s 589 mW 17 % 102 mW 47% 48 mW 45 % 20 mW 45 % 9 mW 1.5 % 1160 mW 11 % 129 mW 51% 66 mW 54 % 1 * Pw Awuw3 ,(A: Swept area of rotor, w : Density of air) 2 32 mW 54 % 17 mW 1.5 % 4.0 m/s Table 5 Efficiency of wind power generation systems Rotor Mechanical Drive Train Education material 20 % 40 % Commercial system 44 % 97 % -9- Generator, Inverter, Transformer 16 % (40%×40%) 90 % Overall 1.3 % 38 % JSME TED Newsletter, No.73, 2014 また,図 10,11 に,本教材と上記商用機のエネルギーフロー図を示す.視覚化により改めて, 本教材の各部の効率が低く,改善の余地があること,エネルギー損失は摩擦熱やジュール熱 として環境へ排出されていること,一方,商用機は各部の効率を高める改善により,実用化 が果たされていることが分かる. 本教材は,各部の特性,全体特性を明らかにしたことで,高等教育の場でも活用できるよ うになった.具体的には,風力発電システムが風のエネルギーを抽出する風車,風車の回転 エネルギーを発電機へ伝達する伝達系,機械的エネルギーを電気的エネルギーへ変換する発 電機,発電された電気を負荷に応じて変換する電気設備が調和して構成されていること,ま た,風車の効率を上げる流体力学的検討や摩擦を低減したエネルギー伝達方法,効率の高い 発電・変電方法など重要な課題が各部に見出せ,これらの課題解決に対する科学技術の寄与 が社会を支えていること,さらに,便利に利用している電気エネルギーは高度なエネルギー 変換過程を経て得られる大切なものであることを学ぶ材料とすることができる. Fig. 10 Energy flow diagram of the present education material wind power generator. Fig. 11 Energy flow diagram of a commercial wind turbine system (WKA-60). 4.まとめ 本稿は,小中学生向け科学教室用に考案した風力発電機教材を,その定量的評価と共に報告す ることで,理科,科学技術教育に貢献し,高等教育にも活用できる教材を提供するものである. 考案した教材は,厚紙製風車,直流モーター,昇圧回路,LED 発光器を用いた風力発電機であ り,小学校高学年の児童が 2 時間程度で製作できる.教材は,家庭用扇風機の風で LED が点滅す ることで風力発電を実感できる.風車の形状を工夫することで,性能を改善できる余地があり, 科学技術を楽しむ要素も備えている. 教材に対し,伝達系の摩擦特性,小型モーターの摩擦特性,発電特性,昇圧回路の特性をそれ ぞれ実験的に調べ,さらに,全体の動作特性を調べることで,各部および全体のエネルギー効率 を明らかにした.風力エネルギーの約 1%が LED の発光に使われる低い全体効率が示された.ま た,本教材は,教材の定量的な評価に加え,商用機との比較により,風力発電システムや科学技 術の有用さを学べ,高等教育の場でも活用できるものとなった. 謝 辞 風力発電機教材の開発,科学教室の実施には,明治大学理工学部機械工学科教員有志,並びに, 明治大学ミクロ熱工学研究室学生一同の多大な協力を頂いた.ここに記し,謝意を表する. 参考文献 (1) Ohshima, M., Science and Technology Education for Junior and Senior High School Students Through Research, Journal of JSME, Vol. 110 No.1064(2007), pp. 509-510 (2) White Paper on Manufacturing Infrastructure 2007 (in Japanese), (2007), pp.283-286, Ministry of Economy, Trade and Industry, http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/ - 10 - JSME TED Newsletter, No.73, 2014 (3) White paper on Science and Technology 2006, (in Japanese), (2006) Section 3-3, Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology, http://www.mext.go.jp/ (4) Mabuchi Motor Web catalog, RF-500TB, http://www.mabuchi-motor.co.jp/ja_JP/cat_files/rf_500tb.pdf, Mabuchi Motor Co. (5) Giacoletto L. J., Electronics Designers’ Handbook 2nd Ed. (1977) pp.19・32-19・37, McGraw-Hill, Inc. (6) Fink D. G., Christiansen D., Electronics Engineers’ Handbook 3rd Ed. (1989) pp.16・45-16・47, McGraw- Hill, Inc. (7) Hau E., Wind Turbines - Fundamentals, Technologies, Application, Economics - 2nd Ed., (2006), pp.485-532, Springer (8) Hau E., Wind Turbines - Fundamentals, Technologies, Application, Economics - 2nd Ed., (2006), pp.81-89, Springer (9) Ushiyama I., Introduction to Wind Turbine Engineering (in Japanese), (2002), pp. 48-54, Morikita Publishing Co. - 11 - JSME TED Newsletter, No.73, 2014 行事案内 部門企画行事案内 -2015 年度- ●The First Pacific Rim Thermal Engineering Conference (PRTEC2016) 開催日: 2016 年 3 月 13 日(日)~17 日(木) 場 所: Waikoloa Beach Marriott Resort & Spa, Hawaii, USA 問い合わせ先: JSME 側組織委員長 高田保之,幹事 店橋護 -2014 年度- ●熱工学コンファレンス 2014 開催日: 2014 年 11 月 8 日(土),9 日(日) 場 所: 芝浦工業大学 豊洲キャンパス ●No.14-121 熱工学コンファレンス 2014 プレコンファレンスワークショップ 開催日: 2014 年 11 月 7 日(金),8 日(土) 場 所: ホテルシーサイド江戸川(葛西臨海公園内) 問い合わせ先: 講習会幹事 植村豪(東京工業大学) ●日本機械学会 2014 年度年次大会 開催日: 2014 年 9 月 7 日(日)~10 日(水) 場 所: 東京電機大学 東京千住キャンパス ●No. 14-75 講習会 『伝熱工学資料(改訂第 5 版) 』の内容を教材にした熱設計の基礎と応用 開催日: 2014 年 9 月 4 日(木),5 日(金) 会 場: 東京理科大学 森戸記念館第一フォーラム(東京都新宿区神楽坂 4-2-2) 問い合わせ先: 日本機械学会熱工学部門(担当職員:大通千晴) 電話(03)5360-3500 部門関連行事案内 -2014 年度- ●第 52 回燃焼シンポジウム 開催日: 2014 年 12 月 3 日(水)~6 日(金) 場 所: 岡山コンベンションセンター,岡山県岡山市 主 催: 日本燃焼学会 ●第 25 回内燃機関シンポジウム 開催日: 2014 年 11 月 26 日(水)~28 日(金) 場 所: (独)産業技術総合研究所つくば中央第 1 共用講堂,茨城県つくば市 主 催: 日本機械学会 ●第 35 回日本熱物性シンポジウム 開催日: 2014 年 11 月 22 日(土)~24 日(月) 場 所: 東京工業大学 大岡山キャンパス西 9 号館,東京都目黒区 主 催: 日本熱物性学会 ●混相流シンポジウム 2014 開催日: 2014 年 7 月 28 日(月)~30 日(水) 場 所: 道民センター「かでる2・7」 ,北海道札幌市 主 催: 日本混相流学会 ●第 42 回可視化情報シンポジウム 開催日: 2014 年 7 月 21 日(月)~22 日(火) 場 所: 工学院大学 新宿キャンパス,東京都新宿区 主 催: 可視化情報学会 - 12 - JSME TED Newsletter, No.73, 2014 ●日本冷凍空調学会 年次大会 開催日: 2014 年 9 月 10 日(水)~13 日(土) 場 所: 佐賀大学 本庄キャンパス,佐賀県佐賀市 主 催: 日本冷凍空調学会 ●第 51 回日本伝熱シンポジウム 開催日: 2014 年 5 月 21 日(水)~23 日(金) 場 所: アクトシティ浜松・コングレスセンター,静岡県浜松市 主 催: 日本伝熱学会 ●第 48 回空気調和・冷凍連合講演会 開催日: 2014 年 4 月 16 日(水)~18 日(金) 場 所: 東京海洋大学海洋工学部 85 周年記念会館,東京都江東区 主 催: 日本機械学会,空気調和・衛生工学会(幹事学会) ,日本冷凍空調学会 国際会議案内 -2016 年度- ●The 11th Asian Thermophysical Properties Conference(ATPC2016) 開催日:2016 年 10 月 2 日(日)~6 日(木) 開催地:Pacifico YOKOHAMA Annex Hall, Yokohama, JAPAN -2015 年度- ●The 8th International Symposium on Turbulence, Heat and Mass Transfer (THMT'15) 開催日:2015 年 9 月 15 日(火)~18 日(金) 開催地:Sarajevo, Bosnia and Herzegovina ●The 9th International Symposium on Turbulence and Shear Flow Phenomena (TSFP-9) 開催日:2015 年 6 月 30 日(火)~7 月 3 日(金) 開催地:The University of Melbourne, Australia ●The 5th Asian Symposium on Computational Heat Transfer and Fluid Flow (ASCHT2015) 開催日:2015 年 6 月 21 日(日)~24 日(水) 開催地:BEXCO, Busan, Republic of Korea -2014 年度- ●The 25th International Symposium on Transport Phenomena (ISTP-25) 開催日:2014 年 11 月 5 日(水)~7 日(金) 開催地:Aonang Villa Resort, Krabi, Thailand ●The 15th International Heat Transfer Conference (IHTC-15) 開催日:2014 年 8 月 10 日(日)~15 日(金) 開催地:Kyoto International Conference Center, Kyoto, Japan ●ASME 2014 Fluids Engineering Summer Meeting (FEDSM2014) and the 12th International Conference on Nanochannels, Microchannels, and Minichannels (ICNMM2014) 開催日:2014 年 8 月 3 日(日)~7 日(木) 開催地:Hyatt Regency McCormick Place, Chicago, IL, USA ●The 16th International Symposium on Flow Visualization (ISFV16) 開催日:2014 年 6 月 24 日(火)~27 日(金) 開催地:Okinawa Convention Center, Okinawa, Japan - 13 - JSME TED Newsletter, No.73, 2014 第 92 期部門組織 熱工学部門運営委員会 ●部門長 中部 主敬 京都大学 ●副部門長 高松 洋 九州大学 ●幹事 保浦 知也 名古屋工業大学 ●部門運営委員 戸谷 剛 北海道大学 丸田 薫 東北大学 琵琶 哲志 東北大学 大塚 裕之 (株)IHI 斎藤 寛泰 芝浦工業大学 田口 良広 慶應義塾大学 中垣 隆雄 早稲田大学 堀内 敬介 (株)日立製作所 橋本 望 (一財)電力中央研究所 西 美奈 慶應義塾大学 下野園 均 カルソニックカンセイ(株) 渡部 弘達 東京工業大学 金子 暁子 筑波大学 高橋 周平 岐阜大学 鈴木 孝司 豊橋技術科学大学 佐藤 英明 佐藤 範和 南川 久人 金田 昌之 岩崎 英和 木下 進一 西田 耕介 吉廻 秀久 平澤 良男 高橋 厚史 瀬名波 出 有馬 博史 小林 秀昭 横森 剛 (株)デンソー (株)豊田中央研究所 滋賀県立大学 大阪府立大学 川崎重工業(株) 大阪府立大学 京都工芸繊維大学 バブコック日立(株) 富山大学 九州大学 琉球大学 佐賀大学 東北大学 慶應義塾大学 熱工学部門各種委員会 ●総務委員会 委員長 中部 主敬 幹事 横森 剛 委員 小林 秀昭 高松 洋 保浦 知也 壹岐 典彦 藤森 俊郎 中別府 修 村田 章 友田 晃利 大通 千晴 京都大学 慶應義塾大学 東北大学 九州大学 名古屋工業大学 (独)産業技術総合研究所 (株)IHI 明治大学 東京農工大学 トヨタ自動車(株) (一社)日本機械学会 ●広報委員会 委員長 中別府 修 幹事 朝原 誠 委員 赤松 正人 岡島 淳之介 大西 元 橋本 英樹 山田 俊輔 上野 藍 ●学会賞委員会 委員長 飛原 英治 幹事 村田 章 ●部門賞委員会 委員長 高松 洋 幹事 保浦 知也 委員 中部 主敬 小林 秀昭 横森 剛 九州大学 名古屋工業大学 京都大学 東北大学 慶應義塾大学 ●年次大会委員会 委員長 田部 豊 幹事 鈴木 研悟 北海道大学 北海道大学 明治大学 青山学院大学 山形大学 東北大学 金沢大学 九州大学 防衛大学校 東京大学 ●AJK 合同会議委員会 委員長 高田 保之 幹事 店橋 護 委員 中部 主敬 須賀 一彦 丸田 薫 鹿園 直毅 小原 拓 鈴木 雄二 野崎 智洋 九州大学 東京工業大学 京都大学 大阪府立大学 東北大学 東京大学 東北大学 東京大学 東京工業大学 東京大学 東京農工大学 ●KSME-JSME 合同会議委員会 委員長 丸田 薫 東北大学 幹事 中村 寿 東北大学 - 14 - JSME TED Newsletter, No.73, 2014 ●講習会委員会 委員長 西村 伸也 幹事 小田 豊 委員 植木 祥高 福島 直哉 深潟 康二 岩本 薫 大阪市立大学 関西大学 大阪大学 東京大学 慶應義塾大学 東京農工大学 ●JTST 委員会 委員長 門脇 幹事 山田 委員 浅野 北川 田川 西岡 花村 宮崎 長岡技術科学大学 長岡技術科学大学 神戸大学 九州大学 名古屋工業大学 筑波大学 東京工業大学 九州工業大学 敏 昇 等 敏明 正人 牧人 克悟 康次 ●年鑑委員会 委員長 廣田 幹事 中村 委員 板谷 高野 中村 宮良 瀬川 田上 真史 祐二 義紀 孝義 元 明男 大資 公俊 三重大学 豊橋技術科学大学 岐阜大学 豊田工業大学 防衛大学校 佐賀大学 大阪府立大学 大分大学 ●出版委員会 委員長 北川 幹事 下栗 委員 伊藤 濱本 藏田 敏明 大右 衡平 芳徳 耕作 九州大学 広島大学 九州大学 九州大学 九州大学 ●熱工学コンファレンス委員会 委員長 赤松 史光 大阪大学 幹事 中塚 記章 大阪大学 その他 編集後記 今回の TED Plaza 73 号では,理科離れ対策や科学技術への関心を高めてもらうための科学教室に関する大学で の取り組みを明治大学 中別府修先生にご紹介いただきました.考案された風力発電機に関する詳細な内容と実 測データは高等教育にも活用できる教材情報となっていますので,このような科学教室を実施しようとする場合 に大いに参考になると思います.お忙しい中今回の TED Plaza への執筆を快くお引き受けいただきました中別府 先生には厚く御礼申し上げます.読者の方には,本記事により科学技術教育の重要性を感じて頂ければ幸いです. (編集担当委員:赤松・大西) 第 92 期広報委員会 委員長: 中別府 修 幹 事: 朝原 誠 委 員: 赤松 正人 大西 元 岡島 淳之介 橋本 英樹 山田 俊輔 上野 藍 (明治大学) (青山学院大学) (山形大学) (金沢大学) (東北大学) (九州大学) (防衛大学校) (東京大学) ©著作権:2014 一般社団法人 - 15 - 日本機械学会 熱工学部門