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日本産アカエイ属魚類1種に
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE Title 日本産アカエイ属魚類1種に対する新和名の提唱 Author(s) 古満, 啓介; 山口, 敦子 Citation 長崎大学水産学部研究報告, 91, pp.61-63; 2010 Issue Date 2010-03 URL http://hdl.handle.net/10069/23785 Right This document is downloaded at: 2017-03-30T05:23:21Z http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp 長崎大学水産学部研究報告 第91号 (2010) 61 日本産アカエイ属魚類1種に対する新和名の提唱 古満 啓介,山口 敦子 Proposal of a new Japanese name for a~ëó~íáë sp. Keisuke FURUMITSU and Atsuko YAMAGUCHI The genus a~ëó~íáë includes approximately 36 species around the world, and at least 8 species of which are distributed around Japan. In Ariake Bay, a total of 5 species of a~ëó~íáë were identified based on our periodic studies to clarify the elasmobranch fauna since 2001. In addition, an undescribed species of a~ëó~íáë was identified which is characterized by a unique combination of morphological characters. We also collected specimens of a~ëó~íáë sp. from western coastal areas of Kyushu. In this paper, we propose a new Japanese name “Ariake-akaei” for a~ëó~íáë sp. to avoid taxonomic confusion. Key Words:アリアケアカエイ(新称)Ariake-akaei (new Japanese name),板鰓類 Elasmobranch, アカエイ属 a~ëó~íáë,有明海 Ariake Bay,東シナ海 East China Sea アカエイ属(a~ëó~íáë)は,世界から約36種が報告されて おり, 1, 2) 2, 3) る。 があること,尾部にのこぎり歯状の尾棘を備えることなどの 日本沿岸域にはそのうち少なくとも8種が分布す 特徴でアカエイ属a~ëó~íáë Rafinesque, 1810に帰属する。12) アカエイ属魚類については分類形質が極めて少なく, 本種の最大の特徴は,体盤腹面の第五鰓孔間後方に溝がある 体色や小棘の有無などが分類形質に使われているが,Nishida ことで,他に体盤背面肩帯部に一列の小棘(thorn)がある and Nakaya, 1990で指摘されるように,アカエイの分類形質 こと,尾棘前方に小棘(enlarged thorn)がないこと,尾部 には個体変異や成長変異が見られることから,しばしば混乱 腹面の皮褶は黒色で白色の縁取りがあることなどの特徴で, を引き起こしてきた。4)有明海からは,これまでにアカエイ 他の日本産アカエイ属魚類と区別できる。 a~ëó~íáë= ~â~àÉá Müller and Henle, 1841とズグエイaK= òìÖÉá 本種の外部形態は,成魚ではアカエイと,体盤幅150mm以 (Müller and Henle, 1841)の2種のアカエイ属が報告されて 下の小型個体では体盤背面の小棘などが明瞭に現れていない いた。5, 6)しかし,著者らの最近の研究により,有明海からさ ことから,アカエイ,シロエイおよびイズヒメエイと区別が らにイズヒメエイaK=áòìÉåëáë=Nishida and Nakaya, 1988,ヤ つかないほど酷似しており,これらの種と長い間混同されて ジリエイaK=~Åìíáêçëíê~ Nishida and Nakaya, 1988およびシロ きたものと思われる。しかし,本種は,同所的に生息し外部 エイaK= ä~ÉîáÖ~í~ Chu, 1960の3種が確認され,有明海には合 形態が極めて類似するアカエイ,シロエイおよびイズヒメエ 7-10) こ イとは異なる繁殖期を持ち,本報告に先立って行った分子系 の研究の過程で,これらに加えて,未記載種である可能性の 統学的解析によっても,これら3種とは遺伝的に十分分化し 高いアカエイ属の1種(a~ëó~íáë sp.)が,有明海に広く生息す ていたことから,生殖的に隔離された独立した種であること 計5種のアカエイ属が分布することが明らかとなった。 11) ることがわかってきた。 このa~ëó~íáë sp.は,有明海以外に を確認している。11, 13) も五島灘,天草灘および鹿児島県笠沙沖からも採集できたこ 本種と同様に,体盤腹面の第五鰓孔間後方に溝がある種と とから,九州西岸に広く分布すると考えられる。本報告では, し て , 日 本 産 ア カ エ イ 属 魚 類 以 外 で は 世 界 に 3 種 ( aK= a~ëó~íáë sp.と日本産の既知種との相違が明確であるにもかか ÄêÉîáÅ~ìÇ~í~ (Hutton, 1875) , aK= ÜóéçëíáÖã~ Santos and わらず,本種に適用すべき標準和名がないことから,これ以 Carvalho, 2004およびaK=ãìäíáëéáåçë~ (Tokarev, 1959))が知ら 上の分類学的混乱を避けるために,分類に必要な最低限の形 れている。14-16)しかし,溝の形状が異なることから,本種と 質について述べるとともに,新和名の提唱を行うことにした。 明確に区別することが可能である。 a~ëó~íáë sp.(Fig. 1)は,体盤がひし形,尾は鞭状で背面 本種には,Fig.1に示したNSMT-P 96558を基準とし,有 に隆起線があり,腹面に中庸の高さの尾端まで達しない皮褶 明海では優占種となっているのにもかかわらず,アカエイと 古満,山口:日本産アカエイ属魚類1種に対する新和名の提唱 62 氏,久米元氏(長崎大学)に対し謹んで感謝の意を表します。 標 本 a~ëó~íáë sp.:NSMT-P 96558,体盤幅(DW)452mm,雌, 長崎県島原,2009年7月17日;NSMT-P 93295,500mm DW, 雌,鹿児島県笠沙,2007年6月8日;NSMT-P 93296,220mm DW,雄,長崎県島原,2007年12月20日;NSMT-P 93297, 320 mm DW,雌,熊本県牛深,2007年1月17日;NSMT-P 96559,134.5mm DW,雄,長崎県野母崎,2006年6月20日. 比較標本 アカエイ:NSMT-P 91838,396mm DW,雌,京都府舞鶴, 2008年1月20日;NSMT-P 91845,395mm DW,雄,鹿児島 県笠沙,2007年6月8日;NSMT-P 91853,420mm DW,雌, 佐賀県大浦,2008年9月11日.イズヒメエイ:NSMT-P 91831, 403mm DW,雄,鹿児島県笠沙,2007年6月8日;NSMT-P 91832,396mm DW,雄,徳島県東由岐,2000年9月19日. シロエイ:NSMT-P 91821,226mm DW,雄,佐賀県東与賀, 2006年5月12日,NSMT-P 93294 DW,321mm,雌,長崎県 島原,2002年4月23日.ズグエイ:FFNU-P 00001,228mm DW, 雌,長崎県島原,2005年11月16日;FFNU-P 00002,236mm DW, 雄,長崎県島原,2005年11月16日.ホシエイ:NSMT-P 91827, 493mm DW,雄,京都府舞鶴,2008年1月20日;NSMT-P 91828,486mm DW,雄,京都府舞鶴,2008年1月28日.ヤ ジリエイ:FFNU-P 00003,286mm DW,雄,長崎県島原, 2006年3月25日;FFNU-P 00004,335mm DW,雌,佐賀県 東与賀,2006年7月28日. Fig. 1. Ariake-akaei a~ëó~íáë sp., NSMT-P 96558, female, 452 mm DW, off Shimabara, Ariake Bay. A: dorsal view, B: ventral view, C: furrow of the posterior to the fifth gill slits, D: dorsal tail fold and ventral tail fold 引用文献 1)Compagno, L. J. V. (2005) : Checklist of living chondrichthyes. pp. 503-548, få Hamlett, W. C. [ed.], Reproductive biology and phylogeny of Chondrichthyes: 長い間混同されてきたこと,また初めて採集された個体が有 明海であったことにちなみ,新和名「アリアケアカエイ」を sharks, batoids and chimaeras. Enfield (NH), USA, Science Publishers, Inc. 提唱する。なお,本種に適用する学名については現在調査中 2)Last, P. R. and Stevens, J. D. (2009):Sharks and rays であるが,未記載種である可能性が極めて高く,詳細な記載 of Australia: second edition. pp. 429-462. Melbourne, については今後論文として発表する予定である。なお,本研 究で観察した個体は国立科学博物館(NSMT-P),または長 崎大学水産学部(FFNU-P)に登録した。 Australia, CSIRO Publishing. 3)青沼佳方・吉野哲夫(2000):アカエイ科 Dasyatidae. 177-182頁.中坊徹次(編),日本産魚類検索 全種の同定 (第二版).東京,東海大学出版会。 謝 辞 4)K. Nishida and K. Nakaya:Taxonomy of the genus a~ëó~íáë (Elasmobranchii, Dasyatididae) from the North 標本の採集にご協力いただいた吉田清之介氏(島原漁業協 同組合),小林義孝氏(有明海漁業協同組合大浦支所),陣川 武彦氏(有明海漁業協同組合芦刈支所),吉田幸男氏(有明海 漁業協同組合東与賀町支所),中尾雄作氏(笠沙町漁業協同組 合),標本の登録にご協力いただいた篠原現人氏(国立科学博 物館) ,本研究に多大なご協力とご助言をくださった柳下直己 Pacific. kl^^=qÉÅÜK=oÉéK=kjcp, 90, 327–346(1990). 5)内田恵太郎・塚原博:有明海の魚類相について.日本生 物地理学会会報,16-19, 292-302(1955). 6)鷲尾真佐人・有吉敏和・野口敏春:有明海湾奥部の魚類 相.佐賀県有明水産振興センター研究報告, 17, 7-10(1996). 7)古満啓介・山口敦子:有明海で採集されたイズヒメエイ. 長崎大学水産学部研究報告 板鰓類研究会報,40, 41-43(2004). 8)山口敦子:有明海のエイ類について-二枚貝の食害に関 連して-.月刊海洋,35, 241-245(2003). 第91号 (2010) 63 Molecular evidence for the taxonomic status of an undescribed species of a~ëó~íáë (Chondrichthyes: Dasyatidae) from Japan. péÉÅK=aáîÉêë., 14, 157-164(2009). 9)古 満 啓 介 ・ 山 口 敦 子 ・ 西 田 清 徳 : シ ロ エ イa~ëó~íáë= 14)E. R. Waite: Scientific results of the New Zealand ä~ÉîáÖ~í~の分類と生物的特徴について. 月刊海洋, 号外45, government trawling expedition, 1907. oÉÅK=`~åíK=jìë. 32-36(2006). 10)山口敦子・古満啓介・田北徹(2009):有明海の魚類相. 15-32頁.田北徹・山口敦子(編),干潟の海に生きる魚た ち 有明海の豊かさと危機.神奈川,東海大学出版会。 11)古満啓介(2009):東アジア産アカエイ属魚類の分類お よび生活史に関する研究.長崎大学大学院生産科学研究科 博士論文,190 pp. 1 (2), 45-156, pls. 1-23.(1909). 15)H. R. S. Santos and M. R. Carvalho:Description of a new species southwestern of whiptailed Atlantic stingray Ocean from the (Chondrichthyes, Myliobatiformes, Dasyatidae). _çäK=jìëK=k~ÅKI=kKpKI=wççä, 516, 1-24(2004). 16)G. J. Lindberg and M. I. Legeza:Fishes of the Sea of 12)Rafinesque, C. S. (1810):Caratteri di alcuni nuovi Japan and the adjacent areas of the Sea of Okhotsk and generi e nuove specie di animali e piante della Sicilia, con the Yellow Sea. Part 1 : Amphioxi, Petromyzones, varie osservazioni sopra i medesimi, Parts 1-3. Palermo, Myxini, 105pp. rKpKpKoK 68, 1-207(1959). 13)N. Yagishita, K. Furumitsu and A. Yamaguchi : Elasmobranchii, Holocephali. ^â~ÇK= k~ìâ=