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燃焼分解―イオンクロマトグラフィーによる固体試料中の硫黄および
AR045-0140 200609 燃焼分解―イオンクロマトグラフィーによる固体試料中の硫黄およびハロゲンの分析 【はじめに】 各種材料(固体)中のハロゲンや硫黄分は直接イオンクロマト グラフで測定できないため、何らかの方法で水溶液化する必要 燃焼前の形態 燃焼後の形態 があります。この目的のために良く用いられる方法として燃焼分 解−吸収法があります。しかし、従来の燃焼分解法では、ポリマ S → SO2、SO3 ーや有機溶剤など可燃性の試料の場合、異常燃焼が起こりや → SO42− → X− すく、燃焼ガスの吸収方法によっては満足できる値が得られな X(F,Cl,Br,I) → HX、X2 いなどの問題がありました。 C → CO2 H → H2O N → NO、NO2 (水に難溶) P → P2O5 (不揮発性) M(金属) → MO(金属酸化物) (不揮発性) 自動試料燃焼装置 AQF-100(ダイアインスツルメンツ社製) は、燃焼分解後、ハロゲンまたは硫黄分を吸収液に吸収させ、 直接イオンクロマトグラフに導入することができます。本装置を 用いることにより、これまで困難であった有機物や無機物など各 種の材料中の ppm レベルの微量フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、 硫黄の分析が迅速かつ容易におこなうことが可能となりました ので紹介いたします。 【燃焼分解 - イオンクロマトグラフィーとは】 ますが、吸収液にはほとんど吸収されません。金属成分は酸化 試料中の硫黄およびハロゲンは燃焼分解により、硫黄酸化物 物となり、試料ボート上に残留するため、クロマトの妨害とはなり およびハロゲン化水素あるいはハロゲンガスとなります。これら ません。有機化合物は燃焼により炭酸ガスに分解され、陰イオ を吸収液に吸収させ、硫酸イオンまたはハロゲン化物イオンと ン分析ではほとんどの場合において、ハロゲン化合物イオンと して捕集します。吸収液には過酸化水素水を添加し、亜硫酸イ 硫酸イオンが検出されます。つまり、非常に妨害の少ない状態 オンの酸化およびハロゲンガス(Cl2、Br2、I2)の還元をおこな でイオンクロマトグラフの測定が可能となります。 います。吸収液に捕集された硫酸イオンおよびハロゲン化物イ オンをイオンクロマトグラフで測定し、試料中の含有量を求めま す。 試料に含まれる窒素化合物は燃焼により窒素酸化物となり 図1 AQF-100 およびイオンクロマトグラフ 【自動燃焼装置 AQF-100 について】 自動燃焼装置AQF-100 の概略図を図2 に示します。装置は 燃焼分解ユニットとガス吸収ユニットから構成されています。石 B. 分析操作 1) イオンクロマトグラフおよび燃焼装置の立ち上げをおこない ます。 英製試料ボートに試料を秤り取り、燃焼分解ユニットにセットしま す。ボートコントローラが試料ボートを燃焼ユニットに送り込み、 2) 試料ボートにサンプルを数mg∼100 mgの範囲で採取しま 燃焼ユニット内の加熱炉で燃焼がおこなわれます。発生した燃 す。液体試料の場合には、ボートをセットした後にマイクロ 焼ガスは、吸収ユニット内の吸収液に捕集され、燃焼が終わる シリンジでボートに注入します。 と吸収液をイオンクロマトグラフに注入し、同時にデータ処理を 3) 試料ボートを燃焼分解ユニットにセットして燃焼を開始する 開始します。吸収管の洗浄や吸収液の準備などはすべて自動 と、自動で試料ボートが移動し、燃焼、吸収、イオンクロマト でおこなわれます。水蒸気を導入しながら燃焼をおこなうため、 グラフでの測定がおこなわれ、測定後に試料中の濃度は自 フッ素の分析精度も良好です。 動的に出力されます。 専用の液体または固体サンプラを接続することにより、作業の 自動化、省力化がはかれると同時にコンタミネーションの少な C. 分析条件例 い精度の良い測定結果が得られます。 1) 燃焼装置:AQF-100(ダイアインスツルメンツ製) 電気炉温度:Inlet 900 ℃ Outlet1000 ℃ 【測定方法】 200 mL/min ガス流量:アルゴン A. 試料のサンプリング 400 mL/min 酸素 加湿用アルゴン 150 mL/min 試料が均一な場合には、その一部を直接サンプリングして分 析することができます。 廃材や複合材など不均一な場合には凍結粉砕機などにより 2) イオンクロマトグラフ: ICS-1500(ダイオネクス製) 粉砕をおこない、なるべく均一化した後にサンプリングをおこな カラム: IonPac AG12A/ IonPac AS12A います。 サプレッサ: ASRS-ULTRAⅡ 溶離液: 2.7 mmol/L Na2CO3, 0.3 mmol/L NaHCO3 溶離液流量: 1.5 mL/min 3) 吸収液 過酸化水素 30 ppm 1 ppm リン酸を 5 mL(内部標準として) 燃焼分解ユニット 燃焼分解ユニット 吸収ユニット 吸収ユニット 洗浄水 試料ボート 注入バルブ O2 IC 加熱炉 サンプリング 排水 吸収液注入ポンプ 図2 AQF-100 の概略図 ボートコントローラ ボートコントローラー ボートコントローラー Ar/O2 4.00 【実試料の分析】 3.50 1)プラスチックス標準試料の分析 3.00 BCR-681)を測定した例を図 3 に示します。 ECD_1 Cl 2.00 サンプルを約 25 mg 採取し、測定しました。本試料では硫 1.50 黄は硫酸バリウムとして添加されており、これを完全に燃焼す 1.00 るために燃焼助剤として酸化タングステンを試料に混ぜまし 0.50 た。測定結果を表 1 に示します。 DATA #2 Br/塩化ビニル 2.50 市販されているポリエチレン標準試料(ヨーロッパ標準試料 1.70 DATA #6 PO4 Br -0.20 0.0 PE標準試料 681 1.3 2.5 3.8 5.0 SO4 6.3 7.5 8.8 10.0 11.3 12.5 14.0 図 5 塩化ビニル ECD_1 4.00 Cl DATA #4 Br/ABS樹脂 ECD_1 3.50 1.25 SO4 3.00 1.00 SO4 2.50 0.75 PO4 0.50 2.00 Br Br 1.50 0.25 1.00 NO2 PO4 0.50 -0.20 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 F 図 3 ポリエチレン標準試料(BCR-681) -0.20 0.0 2.5 1.3 Cl Br S N=2 N=3 90.4 95.6 70.5 89.2 95.2 66.2 88.8 94.0 68.7 14.0 12.5 11.3 10.0 8.8 7.5 6.3 5.0 3.8 図 6 ABS 樹脂 表 1 BCR-681 分析結果 N=1 NO3 Cl 平均値 (ppm) 89.4 94.9 68.5 RSD (%) 0.9 0.9 3.2 表示値 (ppm) 92.9±2.8 98±5 78±17 表 2 各種ポリマーに添加された臭素化合物の定量値 N=1 237 62 25 ポリエチレン ABS樹脂 塩化ビニル 各種ポリマー中の不純物を測定した結果を図 4、5、6 に示し N=2 229 66 27 N=3 235 65 25 平均(ppm) 234 64 26 ます。ABS 樹脂では多量の窒素を含みますがクロマト上には 亜硝酸イオンや硝酸イオンなどの窒素由来のイオンは非常に 2) 石炭の分析 小さく、測定の妨害とはなりません。塩化ビニルの燃焼では大き な塩化物イオンのピークが現れますが、臭素、硫黄の分析は可 石炭のテストサンプルを測定した結果を図7 に示します。石 能でした。表 2 に各種ポリマーに添加された臭素化合物を定量 炭中には多量の硫黄と微量のフッ素、塩素が含まれています。 した結果を示します。 これまではこれらの成分を同時に分析することができません でしたが、燃焼−イオンクロマトグラフィーにより精度よく分析 0.500 DATA #1 Br/ポリエチレン ECD_1 測定値と良く一致しました(表 3)。 PO4 Br 0.400 することができました。得られた結果は、従来法で測定された 0.300 4.00 DATA #3 石炭 ECD_1 SO4 0.200 3.00 Cl 0.100 NO3 NO2 F 0.000 SO4 F 2.00 -0.100 NO3 1.00 -0.200 0.0 1.3 2.5 3.8 5.0 6.3 7.5 8.8 10.0 11.3 12.5 PO4 14.0 Cl NO2 図 4 ポリエチレン -0.20 0.0 1.3 2.5 3.8 5.0 6.3 7.5 図 7 石炭 8.8 10.0 11.3 12.5 14.0 表 3 石炭分析結果(試料:CANSPEX2003-1) 従来法 燃焼法 N=1 燃焼法 N=2 F (ppm) 72 84 83 Cl (ppm) 20 21 17 【おわりに】 S (%) 0.80 0.81 0.80 試料自動燃焼装置 AQF-100 をイオンクロマトグラフと組み合わ せることにより、有機物や無機物中のハロゲンや硫黄の分析を 容易におこなうことが可能です。各種分野での応用が期待され ます。 3) ほたる石の分析 ほたる石中のフッ素を分析した例を図 8 に、分析結果を表 4 (応用例) に示します。ほたる石の主成分は酸化ケイ素とフッ化カルシウ ポリマー中の不純物、添加剤 ムです。無機試料の分析においては分解条件の最適化が重 廃材、廃液中のハロゲン、硫黄分析 要です。図9 に分解温度とフッ素分析値の関係を示します。分 電子材料中の塩素、臭素分析 解助剤として酸化タングステンを添加して測定を行いました。 合成試薬の組成確認 1100 ℃以上に加熱することで分解できることが確認されまし スラグ中のフッ素分析 た。 120 DATA #7 ほたる石 ECD_1 F 100 80 60 40 20 PO4 SO4 0 -20 0.0 2.0 4.0 12.0 10.0 8.0 6.0 15.0 図 8 ほたる石 表 4 ほたる石中のフッ素分析結果 F,% 36.8 36.8 37.8 35.8 36.8 2.22 N=1 N=2 N=3 N=4 平均 RSD% 40 F,% 30 20 10 0 900 1000 1100 1200 temperature,℃ 図 9 フッ素分析値に対する温度の影響 電子署名者 : Jun Kato DN: CN = Jun Kato, C = JP, L = Yodogawa-ku Osaka-city, S = Osaka, O = Nippon Dionex k. k. 理由 : この文書の承認者 場所 : 大阪市淀川区西中島6-3-14 日付 : 2007.08.25 12:27:22 +09'00'