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ITU全権委員会議(PP-10)の結果について - ITU-AJ

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ITU全権委員会議(PP-10)の結果について - ITU-AJ
トピックス
ITU全権委員会議(PP-10)の結果について
総務省 情報通信国際戦略局国際政策課
表4.無線通信局長選挙(ITU-R)
1.はじめに
本年10月4日から22日にかけて、メキシコ合衆国グアダラ
ハラ市において、ITU全権委員会議が開催されました。ITU
全権委員会議は、4年に1度開催されるITUの最高意思決定
岡総務副大臣、小野在メキシコ大使をはじめ、総務省、
KDDI、日本ITU協会などから合計45名が出席しました。会
議では2012年から4年間の活動方針(戦略計画)
、予算の大
Dr Veena
RAWAT
ブラジル
カナダ
有効
票数
出身国
選挙結果
当選
2回目
90
67
棄権
157
0
0
79
1回目
72
48
36
156
0
0
79
氏名
Mr Brahima
Sanou
Mr Héctor
OLAVARRÍA
Mr Sami S. ALBASHEER
メキシコ
サウジアラビア
有効
票数
機関であり、今回の会議にはITU全構成国192か国のうち、
167か国から、約1,900名が出席しました。我が国からは、平
Mr Fabio LEITE
Mr François
RANCY
フランス
氏名
無効
最低当選
白票数
票数
票数
表5.電気通信開発局長選挙(ITU-D)
出身国
ブルキナファソ
選挙結果
当選
3回目
81
47
29
158
0
1
80
2回目
65
49
43
157
0
0
79
1回目
53
50
53
156
0
0
79
枠(財政計画)等に関する審議が行われ、ITU憲章・条約
無効
最低当選
白票数
票数
票数
表6.無線通信規則委員会(RRB)委員選挙
を改正する文書が採択されました。
また、2011年から4年間の新執行部が選出されました。
2.選挙の結果について
A地域
南北アメリカ(2名)
票数
B地域
西ヨーロッパ(2名)
票数
Mr Ricardo Luis
TERÁN
(アルゼンチン)
当 154 Dr Alfredo MAGENTA 当 98
選
選
(イタリア)
Dr Julie NAPIER
ZOLLER
(米国)
当
選 145
既に昨年11月号でも報じられているとおり、我が国からは
無線通信規則委員会(RRB)委員候補として擁立した、株
式会社KDDI研究所の伊藤泰彦会長が、我が国が属するE地
Mr Mindaugas
ZILINSKAS
(リトアニア)
C地域
東ヨーロッパ(2名)
D地域
票数
アフリカ(3名)
票数
Mr Stanley Kaige KIBE 当
Dr Victor STRELETS 当
102
142
選
選
(ケニア)
(ロシア)
E地域
アジア太平洋(3名)
票数
Dr Yasuhiko ITO
(日本)
当 120
選
Mr Baiysh NURMATOV 当
当
選 89
選 71
(キルギス)
Mr Mustapha BESSI 当
選 124
(モロッコ)
Mr Ali R. EBADI
(マレーシア)
当
選 93
Dr Peter MAJOR
(ハンガリー)
81
Mr Momcilo SIMIC
(セルビア)
70
Mr Simon KOFFI 当
119
(コートジボワール) 選
Mr P. K. GARG
(インド)
当
選 78
Dr Vassilios G.
CASSAPOGLOU
(ギリシャ)
35
Mr Aurelian Sorinel
CALINCIUC
(ルーマニア)
61
Mr Haroun Mahamat
BADAOUY
(チャド)
Mr Nasser BIN
HAMMAD
(UAE)
69
Mr Alireza DARVISHI
(イラン)
49
Mr Mian Muhammad
JAVED
(パキスタン)
44
Mr Nader Shah ARIAN
(アフガニスタン)
8
60
域において、激戦の結果(定数3に7名が立候補)
、2位に30
票近い差をつけてトップ当選を果たしました。また、理事国
の選挙についても、我が国はE地域においてトップと僅差(2
票)の3位で、1959年以来連続10回目の当選を果たしまし
た。
表7.理事国選挙
その他の選挙結果の詳細は表1∼表7のとおりです。
A地域
南北アメリカ(席数9)
メキシコ
ブラジル
カナダ
表1.事務総局長選挙
氏名
出身国
選挙結果
1回目
アルゼンチン
キューバ
Dr Hamadoun I. Touré
マリ
当選
151
有効
票数
無効
票数
157
白票数
0
6
最低当選
票数
ベネズエラ
米国
79
コスタリカ
表2.事務総局次長選挙
氏名
Mr Houlin ZHAO
出身国
中国
選挙結果
当選
155
1回目
有効
票数
157
パラグアイ
無効
票数
白票数
0
2
最低当選
票数
79
票数
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
B地域
西ヨーロッパ(席数8)
143
スイス
135
スペイン
135
イタリア
131
フランス
125
ドイツ
119
スウェーデン
114
トルコ
93
ギリシャ
91
ポルトガル
票数
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
C地域
東ヨーロッパ(席数5)
票数
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
D地域
アフリカ(席数13)
123
エジプト
116
ケニア
114
アルジェリア
107
モロッコ
93
ガーナ
ウクライナ
91
チュニジア
アゼルバイジャン
76
南アフリカ
141
ロシア
138
ブルガリア
136
ルーマニア
135
ポーランド
130
チェコ
126
125
氏名
出身国
選挙結果
1回目
6
Mr Malcolm JOHNSON
英国
当選
152
有効
票数
156
無効
票数
1
ITUジャーナル Vol. 41 No. 1(2011, 1)
白票数
3
最低当選
票数
79
E地域
アジア太平洋(席数13)
票数
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
135
122
インドネシア
119
中国
114
日本
114
マレーシア
112
韓国
111
バングラデシュ
105
タイ
101
オーストラリア
97
インドネシア
95
UAE
93
クウェート
93
サウジアラビア
83
フィリピン
ウガンダ
79
パキスタン
93
モーリシャス
タンザニア
コートジボワール
スーダン
マラウィ
チャド
78
76
71
57
41
28
スリランカ
79
レバノン
75
シリア
63
109
マリ
102
ブルキナファソ
コロンビア
89
ナイジェリア
エクアドル
75
ルワンダ
セネガル
カメルーン
表3.電気通信標準化局長選挙(ITU-T)
票数
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
当
選
134
133
127
125
123
121
119
119
114
108
105
97
なお、作業部会は、すべての構成国が参加可能な形で開
3.会議の構成について
催することで合意しました。
会議は全体会合(議長フィゲロア氏(メキシコ)
)の下に、
政策及び法的事項に関する提案等を審議する第五委員会
②ITUの組織の見直し
(議長リール氏(スイス)
)
、管理及び運営に関する提案等を
前回2006年の全権委員会議において決議147「連合の管
審議する第六委員会(議長グレーシー氏(カナダ)
)
、インタ
理及び任務に関する研究」が採択され、選挙職の役割及び
ーネットや一般的課題を含む公共政策関連の提案等を審議
任期、選挙規定、調整委員会及び諮問委員会の役割等につ
する全体会合作業部会(議長ジョロゲ氏(ケニア)
)が設置
いて、今回の会議までに検討を行うことが決定されました。
され、各委員会及び作業部会を中心に議論が行われました。
審議において、APTからは、上記について、現在の規定を
また、会議期間中には、APT(アジア・太平洋電気通信
維持すべきとの共同提案が提出されました。一方、アラブ地
共同体)加盟国の調整会合が合計9回開催され、APTが提
域からは、局長の名称変更の提案、アラブ地域及び米国か
出した共同提案の採択に向け、各提案の担当国の決定、議
らは、電気通信標準化諮問委員会(TSAG)の位置付けに
論の経過報告、他地域提案との調整等が行われました。我
関する提案、米国からは、理事会に対する事務総局長の責
が国は、無線通信の定義の現状維持や、途上国セクターメ
任を明確にする提案等が提出されましたが、多くの構成国は
ンバーのITU-T及びRへの活動参加の財政負担軽減をはじめ
現在の規定及び組織形態をあえて変更する必要性はないと
とする合計8本の共同提案の担当国となり、会合での採択に
の立場であったことから、結果として、変更を加えないこと
努めました。
となりました。
さらに、全体会合では、各国代表によるポリシーステート
メントが実施され、平岡総務副大臣が我が国のICT分野の成
③憲章・条約で用いられる用語の定義
長戦略を紹介するとともに、ICTが持続的経済成長の牽引
前回2006年の全権委員会議での審議結果を踏まえ、憲
力であること、世界的な情報社会の実現に向けたITUの活動
章・条約で用いられる「電気通信」の用語の定義について、
に我が国が引き続き貢献すること等をアピールする政策演説
また「ICT」及び「ICTアプリケーション」の用語を憲章・
を行いました。
条約へ追加することについて、理事会作業部会において審議
が行われてきました。今回の会議では、理事会作業部会から
提案された二つのオプション(①「ICT」及び「ICTアプリ
4.ITUの組織の在り方関係
①ITU憲章・条約の安定化に向けた検討
ケーション」の定義を憲章・条約に盛り込む、②必要に応
じて決議等で対応)について議論がなされました。審議にお
ITU憲章・条約は、全権委員会議ごとに改正が行われて
いては、電気通信環境の変化に柔軟に対応する必要がある
おり、これに伴う構成国の国内作業が複雑かつ長期にわたる
ことから憲章・条約にICTを定義する必要はないとする米
こと等が原因となり、改正文書の締約国数が毎回減少して
国、ニュージーランド、英国、ブラジルなどと、ITUの活動
きているという現状があります。この問題について、今回の
は拡大していることから定義の見直しは不可欠であるとする
会議では、APTをはじめ、アラブ、アフリカ、独立国家共同
アフリカ地域、ロシアなどとの間で意見の対立はありました
体(CIS)のそれぞれの地域会合から、ITU憲章及び条約の
が、結果として、今回の会議では、憲章・条約は必要最小
各条文を恒久的な性質のものとそうでないものとに再配置す
限の改正以外行わないことが第五委員会で合意されたことを
ることが提案されました。
受け、改正をしないとの結論に至りました。
審議は、APT共同提案に基づいて、その具体的な検討方
法を中心に進められましたが、今回の会議においては通常ど
④理事会の構成
おり憲章・条約の修正について審議を行うとともに、今後4
前回2006年の全権委員会議で採択された決議134「理事
年間で憲章・条約の条項再配置の検討を行い、より安定的
国の数」に基づき、2008年及び2010年理事会の審議におい
な文書の策定を目指すことで合意し、理事会の下に本件を
て既に合意されているA地域(米州地域)への理事国数の割
検討するための作業部会を設置し、そこで2014年全権委員会
当て(8席→9席へと1席増)
、及びこれに伴う一般規則207の
議に向けた議論を行うことを決定しました(決議COM5/1)
。
修正、理事国の割当ての方法論に関する新決議案(文書40)
ITUジャーナル Vol. 41 No. 1(2011, 1)
7
トピックス
が特段の反対なく承認されました。また、本年東ティモール
行われましたが、現在のICANN(The Internet Corporation
民主共和国が新たにITUに加入(2010年8月24日付け)した
for Assigned Names and Numbers)を中心とする現行体
ことを踏まえ、APTから提出されていた、理事国数を更に1
制に批判的なシリア、南ア、サウジアラビア等と、ICANN、
席増やし、これをE地域(アジア・太平洋地域)に割り当て
IETF(The Internet Engineering Task Force)等の関連機
る(12席→13席)提案についても、特段の異論なく原案ど
関と連携・協力をしながら取組を進めるべきとする米国、欧
おりに承認されました。
州などとの間の対立が激しく、最終的には全体会合でも長時
間にわたっての審議が必要となりました。各提案については、
⑤2012-2015戦略・財政計画
それぞれドラフティンググループが設置され、我が国は米国、
これまで理事会及び理事会作業部会において検討が行わ
欧州などに歩調を合わせる形で、全体会合などで適宜発言
れてきた、次会期(2012-2015年)の戦略・財政計画案が審
を行いました。最終的に、双方で妥協案が作成され、これを
議・承認されました。構成国が負担する分担金1単位当たり
基にICANN、IETF等の関連団体とITUとの間で更なる協
の金額の上限は、これまでと同じく318,000スイスフランに設
調・協力を検討する旨が各決議(IPv4からIPv6への移行促
定することが決定されました(全権決定5)
。
進(決議WGPL/8)
、決議101、102及び133)に盛り込まれ
また、分担等級については、40単位から2単位までは1単位
ることとなりました。
刻みで設定できることとし、2単位以下は今までどおり1/2単
位ずつとすること、また、引き下げの場合の限度額(最大引
②セキュリティの定義
き下げ幅)については、15%を超えて引き下げてはならない
憲章・条約で用いられる用語の定義と同様に、サイバー
ことで合意に至りました。この点については、憲章・条約の
セキュリティに関する定義と用語法に関しても、理事会作業
該当部分(憲章第28条第165号及び条約第33条第468号)
部会で審議が行われてきました。
を改正することとなりました。
理事会作業部会から提案された二つのオプション(①憲
なお、セクターメンバーの分担金に関連する新決議(決議
章又は条約に用語を導入し、その附属書で定義、②次回の
COM6/3)が採択され、現在、電気通信開発部門において
全権委員会議で定義に関する決議を採択)を踏まえて、各
のみ適用されている、開発途上国のセクターメンバーに対す
国からの提案について議論が行われたところ、オーストラリ
る分担金負担軽減の措置が、電気通信標準化部門及び無線
ア、ドイツ、日本、カナダ等多くの国から憲章・条約ではな
通信部門でも適用されることとなりました(条約第33条第
く決議で定義すべきとの意見が出され、さらに米国からは、
468B号関連)
。
当該定義は新たに議論するのではなく、理事会での合意に基
さらに、学術団体、大学及び関連研究機関のITU活動へ
づき、既存のサイバーセキュリティの定義「ITU-T勧告
の参加について議論が行われました。分担金の負担について、
X.1205」をそのまま用いるべきとの意見が出されました。最
APTは、1/32単位の負担とすることを提案していましたが、
終的には、全体の合意を得て、
「ITU-T勧告X.1205」のサイ
審議の結果、次回全権委員会議までを試行期間として、
バーセキュリティの定義をそのまま盛り込んだ新決議(決議
1/16単位の負担(開発途上国の学術団体等は1/32単位の負
WGPL/9)が採択されました。
担)で、各セクターの活動に参加することを認める新決議が
採択されました。
5.インターネット関係
①インターネットガバナンス
今回の会議には、インターネット関連(IPv4からIPv6への
移行促進、インターネットプロトコルベースのネットワーク
等)の提案が各地域から多数提出されました。インターネッ
ト関連の議題については、全体会合作業部会とその下に設
置されたアドホックグループで長時間にわたる調整・議論が
8
ITUジャーナル Vol. 41 No. 1(2011, 1)
写真1.全体会合の様子
(WCIT-12)を開催し、現行のITRを見直すことが、前回
6.
「ITUテレコム」
2006年の全権委員会議で決定しました。その後、電気通信
今後の「テレコム」の在り方については、2008年理事会に
標準化部門の専門家会合や理事会作業部会が開催され、
おいて我が国がイベント(展示及びフォーラム)の見直し、
WCIT-12において、何を審議すべきかの議題設定について議
及び「世界テレコム」と「地域テレコム」の統合を提案した
論が行われました。今回の会議では、WCITの開催を機に、
ことに基づき、2010年4月の理事会でも全権決議11「世界及
サイバーセキュリティ等の新規の緊急課題を盛り込むことを
び地域の電気通信/情報通信技術の展示会とフォーラム」の
主張する途上国と、これに反対する先進国とが対立し、決
修正について検討が行われました。
議案に付属する議題案にこの点を含めるか否かで議論が紛糾
今回の会議では、APT、欧州郵便電気通信主管庁会議
しました。審議の結果、
「サイバーセキュリティ」等の具体的
(CEPT)及びブラジルから、
「地域テレコム」と「世界テレ
な課題については言及しない(その是非の議論は継続)こと
コム」とを統合し、世界的なイベントとして位置付け、また、
で合意し、現行のITRを見直すための理事会作業部会を継続
イベントの中心を展示ではなくフォーラムとし、さらに世界
する内容を含めた新決議(決議COM5/3)が採択されまし
電気通信政策フォーラム(WTPF)等と統合させ、定期的
た。
な開催とする等の提案が提出されました。第六委員会の下に
全権決議11修正のためのドラフティンググループが設置され、
9.今後の会議・会合日程
審議が進められましたが、ジュネーブを固定的な開催地とす
るか否か等幾つかの論点で議論が紛糾しました。最終的には
2011年から2014年の期間における会議・会合の日程につ
「ジュネーブ」という名称には言及せず、オープンで透明な入
いて、以下のとおり決定され、決議77修正が採択されまし
札手続で開催場所を選定の上、毎年イベントを開催するこ
た。また、次回の全権委員会議について、韓国から招請の意
と及び「テレコム」イベントの収益力強化を図る内容を盛り
向が表明されました。
込んだ全権決議11の修正が採択されました。
無線通信総会(RA)2012年1月16日∼20日
世界無線通信会議(WRC)2012年1月23日∼2月17日
7.ITU基本文書の無料化
2009年1月から試行期間として無料オンラインアクセスが
可能となっているITU-R勧告等について、今回の会議では、
世界電気通信標準化総会(WTSA)2012年11月
世界国際電気通信会議(WCIT)2012年11月
世界電気通信開発会議(WTDC)2014年3月∼4月
APT、ブラジル及び米州電気通信会議(CITEL)から、正
式にITU-R勧告の無料化を決定する提案等が提出されまし
10.おわりに
た。また、ITUの基本文書についても無料化を提案するイス
ラエル提案、さらに、憲章・条約を補足する業務規則につ
今回の会議では、地域単位の活動(調整会合等)が活発
いても無料化を提案するCIS提案、慎重に更なる研究を行う
に行われ、特に新興国(UAE、エジプト、ブラジル等)から
べきとするアフリカ提案等も提出されました。
の参加者が各種アドホックグループの議長役を果たし、それ
審議の結果、ITU-R勧告・報告、ITU基本文書(憲章・
ぞれりゅうちょうな英語とリーダーシップで会議を引っ張り、
条約及び一般規則)
、全権委員会議の最終文書(final acts)
各国から賞賛されて、非常に大きなプレゼンスを示していま
の無料化を決定する新たな決定(決定COM6/1)が採択さ
した。
れ、業務規則については、今後研究を行うこととされました。
また、今回の会議で選出された新執行部は、本年1月1日
からそれぞれの職に就任しています。今後も本年開催される
世界テレコム2011をはじめ、2012年にはWCIT、RA、WRC、
8.国際電気通信規則(ITR)
WTSAと重要な会議が数多く予定されています。これからも
国際電気通信の料金計算原則等について定めた業務規則
我が国が重要な役割を果たしていけるよう、理事会などの機
であるITRについては、2012年に世界国際電気通信会議
会を利用して働きかけをしてきたいと考えています。
ITUジャーナル Vol. 41 No. 1(2011, 1)
9
トピックス
RRB委員就任へ向けて
い とう
株式会社 KDDI研究所 会長
やすひこ
伊藤 泰彦
RRB(Radio Regulation Board)は、ITUの無線セクター
に話しをした米国の友人の言葉が決め手だった。彼はこう言
に属する組織で、世界中から12人の委員が選挙で選ばれる。
った。
「選挙を簡単に考えたらだめだ。人気投票ではないの
通常、無線通信規則委員会と呼ばれている。主な仕事は、
だから。相手は現職だ。今回は結構難しい。出ると決めた
国際間の無線システム同士の電波干渉問題を審議し解決策
ら、すべての地域会合で多くの人と握手をしなければならな
を相談することだ。同時に、ITUで扱う無線通信規則やその
い。だが、私は君をサポートするよ」
。これで決まった。
運用に関して正確な判断を提供し、不備の修正にあたる。
日本が属するE地域(アジア+アラブ)からは、3人の委員が
1.火事は最初の3分間
選挙で選ばれる。
立候補が決まり、当時の総務大臣に御あいさつに伺った
昨年暮れに、総務省からRRBの委員に立候補しないかと
時に最初に言われた言葉がこれだ。
「伊藤さん。火事は最初
の持ちかけがあった。日本はITUに対する最大の出資国であ
の3分間、選挙は最後の3分間ですからね」
。なるほど、うま
り、今後ますます重要になる周波数の利用に関して発言力の
いことを言うもんだと感心したが、まさかこれが現実になろ
ある役職を得ることが重要だ。民間からこの職に就くのは初
うとは!
めてということだが、KDDI本体からのバックアップをいただ
直ちに社内外での支援の方々が指名され、選挙キャンペ
き、立候補が決定されたのは昨年の1月後半、ここから選挙
ーンの日程が作成された。4月(ジュネーブでの理事会)
、5
運動が始まった。私の立候補時で候補者数は私を入れて5
月(インドでの世界電気通信開発会議)
、6月(オーストラリ
名。最終的にはこの数が7名となった。この状況から、当選
アでのAPT会合)
、8月(ワシントンでの南北米大陸会合)
、9
の可能性を読むに、かなり厳しい戦いになることが予想され
月(リトアニアでの欧州会合)
、9月(コンゴでのアフリカ連
た。つまり、現職の2名は非常に強いため、実質、残された
合総会)
、10月(メキシコにおけるITU最終会合)と毎月の
一つを5名で争うことになるのだ。
ここまでくる間に私自身はかなり考えることがあった。つ
まり、私に何ができるのだろうか、当選の可能性はあるのか、
ように出張が予定されることとなった。インドでのWTDC出
席、アフリカでのATU出席は、忘れることのできない貴重な
経験となった。
などなど悩ましい問題だった。ITU関連の仕事から離れて7年
間、直ちに復帰するのは難しいのではないか、ほかにもやる
ことがあるではないかとも考えた。しかし、様子を聞くため
2.選挙は最後の3分間
さて、最後の3分間はメキシコの古都グアダラハラで経験
することとなった。会合はITU全権会議(Plenipotential会
合)と呼ばれ、4年に一度開催される。ここでRRBも含めた
選挙が同時に行われる。今回は、約180か国、3000人の参加
者が登録された。このうち、選挙権のある国は160か国。
RRB選挙はE地域(アジア)では、3名の連記であるから合
計160×3=480票、これを7名で取り合い、一人当たりの最
大得票数は160票、平均では69票と計算される。当選を確実
とするのは100票が必要との読みであった。
最初の3日間は、国連の会議の形式どおり、各国代表のス
テートメントが発表される。我々チームの仕事はすべての休
写真1.PP会議場風景
10
ITUジャーナル Vol. 41 No. 1(2011, 1)
憩時間、昼休み、夕刻に開催される各国のレセプションを利
タの不備に起因して実際に発生する干渉問題も後を絶たな
い。RRBはBR(Radiocommunications Bureau)と共に、
こうした不備を是正するようプロセスの改善を提案すること
が求められている。
4.公正とは何か
Resolution 80に象徴される問題は、多かれ少なかれ、
「First Come, First Served」の問題との関連がある。この言
葉は、
「早い者勝ち」と和訳されている。結果としてはそれ
写真2.当選直後
で正しいが、私としては、
「先願主義」あるいは「先利用主
義」がより適切ではないかと考えている。先に利用した人に
用して代表との接触を試み、外交チャンネルを含めたこれま
第一の権利があり、それは保護される。この主張は正しいが、
での支持要請を確実にするというものだ。この段階になると、
次に同一の利用を申請した人はどのように扱うべきであろう
「無線の利用が今後の世界発展のかぎになる、そして、適切
か。利用できる周波数あるいは軌道位置が確保される限りは
な無線規則の運用が、健全な利用を促進する」という私の
良いのであるが、最近は資源も枯渇していることが問題だ。
主張を述べている暇はない。
その結果が、
「ペーパーシステム」や「隣国間干渉問題」
ライバルの動きを見るに、現職2名の動きは鈍く、某新人
の多発となっている。真の解決策が存在しない問題であるこ
ダークホースは非常に精力的に動き回っている。これが、投
とはだれもが理解している。基本的には、
「2国間の相互譲歩
票日10月11日の数日前から逆転した。つまり、新人は、こ
による解決」
、
「技術の進歩を考慮した解決」
、
「使用済み資源
れで十分と見、現職はこれからだと見ていることが感じられ
の返還」
、
「登録に際する課金」などが、目下のところ考えら
た。結果として、現職はさすがに強く、日本(120票)
、マレ
れる最善の解決策とされている。しかし現状は、正しいデー
ーシア(93票)
、インド(76票)の3名が当選した。正に「選
タを出すという基本ルールさえも守られないケースがあるの
挙は最後の3分間」を見る思いであった。
も事実だ。
RRBの役割は、こうしたことを少しでも改善し、皆が納得
できる最大限かつ柔軟な策を示すことだ。果たして、公正な
3.Resolution 80
さて、現時点におけるRRBの最大の関心事はResolution
解決策はあるのか。このようなことに貢献するのが私の役目
であると考えている。
80を巡る課題であろう。Resolution 80は、遅れに遅れる衛
星の登録作業と、その原因となる登録時のデータ不備に起因
5.追記
する事後の干渉事例の多発を回避するために合意された文書
だ。正式な名称は、
「Due diligence in applying the princi-
物事には必ず集中すべき瞬間がある。それが選挙では最後
ples embodied in the Constitution」
、すなわち、
「ITU憲章
の3分間であった。RRBの仕事においても、時間の長短は別
の原理に則った注意義務の励行」となっている。特に問題と
にして、最後の一瞬まで、解決策を模索することが、解決へ
なるのが、データの不備や提出期限を守らないことから生じ
の糸口であると認識している。また、これが私に求められて
る電波干渉を巡る衛星システム間あるいは地上システム間の
いる役割であろう。皆様の御期待に沿えるよう最大限の努力
問題だ。
をする所存です。
この問題はWRC-2000以来、何度も指摘されていることで
最後に、今回の選挙で、献身的に選挙運動を進めていた
はあるが、単なるデータの不備以外に、将来使うであろう軌
だいた皆様には本当に感謝いたします。一つの目標を共有す
道位置を確保するとの理由で、使う予定もない「ペーパーシ
る、連携力とエネルギーは、私も含めて今後の人生の大きな
ステム」が多くの軌道位置を占めている。これが実際に使わ
糧となると信じております。ありがとうございます。改めて
れるシステムとの間で架空の干渉を起こす。もちろん、デー
お礼申し上げます。
ITUジャーナル Vol. 41 No. 1(2011, 1)
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