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子どもの生活習慣病対策推進セミナー
■セミナー報告■ 日 時:2008年3月14日(金)15:00∼18:00 場 所:ルポール麹町「マーブル」 主 催:社団法人 全国国民健康保険診療施設協議会(略称:国診協) 子どもの生活習慣病対策推進セミナー 社団法人 全国国民健康保険診療施設協議会(略称:国診協)では、2007年度、独立行政法人 福祉医療機 構の助成を受け、「地域における子どもの生活習慣病対策ネットワーク事業」を実施しました。当セミナー は、本事業の一環として、子どもの生活習慣病や肥満、食育等に関する地域での取組みの現状や、医療機関 の関わり方、地域資源のネットワーク化への課題・問題点等の情報を共有し、より実効性の高い生活習慣病 対策の普及推進を図ることを目的として開催されたものです。 自治体チャンネル+ 平成 16 年 月号 20 5 プロ グ ラ ム 基調講演 パネルディスカッション(事例紹介) 小児における生活習慣病の実態と予防対策 子ども生活習慣病対策 ネットワーク構築の取組み 桃井 真里子 氏 (自治医科大学小児科学 教授) ◆コーディネーター 調査事業結果報告 ◆パネリスト ○岡山県新見市哲西町(哲西町診療所) 松浦 尊麿 「子どもの生活習慣病対策ネットワーク事業」 調査報告 辻 一郎 氏 (東北大学大学院医学系研究科 教授) [国診協 地域における子どもの生活習慣病対策 ネットワークのあり方検討委員会 委員長] 所 長 氏(甲南女子大学 教授) 佐藤 勝 氏 ○青森県深浦町(深浦町地域包括ケアセンター) 保健師 阿部 丈亮 氏 ○島根県浜田市(地域医療対策課) 医療専門監 齊藤 稔哲 氏 基調講演 小児における 生活習慣病の実態と予防対策 桃井 真里子 氏 自治医科大学小児科学 教授 近年、子どもの肥満の増加を背景に、世界的 に子どもの健康や疾病に関するコホート研究が 行われている。その中で、小児のメタボリック シンドロームは重要なテーマとなっており、国 桃井 真里子氏(自治医科大学小児科学 教授) 内外の研究成果として、食習慣、睡眠、胎内環 クが高いという報告がされた。それ以前にも、 境との関係が指摘されている。 妊娠中に栄養状態が非常に悪くなると、生まれ まず、食習慣については、子どもの肥満と関 た子どもは若年に肥満になるという仮説が出さ れている。妊娠状況をよくすることの重要性が、 フード、②清涼飲料水、③テレビ・ゲームによ 認められる。 自治体チャンネル+ 連すると推定される因子として、①ファースト 他国ではみられない日本の傾向として、1980 移動、⑦食べろ食べろという祖父母・家族、⑧ 年代以降、低出生体重児の増加が著しく、平均 睡眠時間の減少があげられる。食事に関しては、 出生体重も20年間で200g減っていることがあ 親は子どもにきちんと食事をさせようとしてい げられる。これらの問題は、妊娠女性の体重減 17 ても、ご飯を食べないのであれば、せめてお菓 少傾向と関係しており、さらに、その背景には、 20 子だけでも食べさせようとする祖父母の行動が 若い女性のやせ願望や妊娠中もスタイルを追求 5 問題である。しかし、この祖父母の行動を親が することによる低体重女性の増加や、妊娠合併 止めることは難しく、医療・保健従事者の関与 症予防のための行き過ぎた体重管理がある。地 が必要である。その他、朝食抜きや乳児期の人 域で子ども達の健康を守るためには、妊娠可能 工乳栄養・混合栄養、テレビを観ながらの夕食 な女性の健康も守る必要がある。 海外の研究で明らかにされている。 もう一つは、妊娠中の女性の喫煙が増えてい るという問題がある。喫煙する妊娠女性は、低 次に、睡眠と子どもの肥満との関係について 出生体重児の発生率が高いというデータが出て は、カナダ・ケベックの小児に関する調査で、 いる。また、山梨県での 5 歳の子を持つ母子の BMI(身長からみた体重の割合を示す体格指数。 コホート研究では、喫煙している母親は妊娠の 肥満度を示す) 、腹囲、体重、身長、朝食摂取、 届出が遅いという結果があり、女性の喫煙は、 親の収入、睡眠時間が肥満と関連するが、独立 子どもの健康に大きく影響しているといえる。 して相関が認められたのは睡眠時間の短さと腹 以上から、子どものメタボリックシンドロー 囲という結果が出ている。また、オーストラリ ム対策としては、まず、子ども達に対し、食生 ア・メルボルンの 7 歳児対象の調査でも、睡眠 活や睡眠時間、テレビ・ゲームなどの生活の改 時間が 9 時間未満だと肥満との関連が認められ 善を図るとともに、若い女性や祖父母の世代の ている。 生活習慣の改善に向けた取組みが重要である。 最後に、胎内環境と子どもの肥満との関係は、 ただ、子どもの生活習慣病や肥満の予防・対策 10年以上も前から医学的に明らかにされてい は、親のニーズや危機感が感じられないことか る。低出生体重児は、将来、高血圧になるリス ら、難しい課題となっている。 年 月号 などが、子どもの肥満と関係していることが、 平成 る運動量の減少、④冷蔵庫、⑤外食、⑥車での 調査事業結果報告 「子ども生活習慣病対策ネットワーク事業」 調査報告 辻 一郎 氏 東北大学大学院医学系研究科 教授 国診協では、2007年度、独立行政法人 福祉 医療機構の助成を受け、 「地域における子ども の生活習慣病対策ネットワーク事業」を実施し た。本事業は、健康な生活習慣を若いうちに確 立することは重要で、地域ぐるみの活動で子ど もの健康を確保する必要があるという考えが背 景にある。国保直診(国民健康保険診療施設) の子どもの健康づくり対策の取組みの実態を把 自治体チャンネル+ 平成 18 年 月号 20 5 握し、さらに、取組みがある場合には、地域に おけるネットワーク構築の経緯や工夫点、課題・ 問題点を把握・検討し、地域ぐるみの取組みモ 辻 一郎氏(東北大学大学院医学系研究科 教授) パネルディスカッション(事例紹介) 子ども生活習慣病対策 ネットワーク構築の取組み 【事例1】岡山県新見市哲西町 佐藤 勝 氏 (岡山県・哲西町診療所 所長) デルの構築を目的に行われた。調査内容として 新見市哲西町は、岡山県の県北に位置し、人 は、全国の国保直診910施設を対象としたアン 口3,200人、高齢化率37%という状況にある。 ケートをもとに、取組みのある施設等へのアン 無医町の時期もあったが、2005年 5 月より医師 ケートや、先進事例ヒアリング等を実施した。 2 名体制となっている。地域の公的医療機関で 以上の調査結果から、地域における子どもの ある哲西町診療所では、 「日常診療だけの診療 生活習慣病対策ネットワーク構築に向けた取組 所」というイメージを覆すべく、地域包括ケア みモデルは、 3 つのステップに整理された。第 (保健・医療・福祉[介護]の一体的提供。国診 1 ステップは、地域の関係機関との問題意識の 協の設立趣旨)の中核として、住民の健全な生 共有化である。きっかけはさまざまであるが、 活を支えるという方針の下に運営を進めている。 地域の公的医療機関である国保直診では学校 地域包括ケアでは、高齢者施策に重点が置か 医・学校歯科医としての関わりを活かし、教育 れがちであるが、哲西町では、全世代的という 現場から連携すると同時に、保護者とも地域医 ことで、小児期にも目を向けた取組みが今後は 療の場で連携を図る。第 2 ステップは、事業の 必要と考えている。今回の「子どもの健康づくり 企画から実施までで、各地域のニーズや資源に ネットワーク事業における生活習慣病予防活動 応じて、通常の授業時間や学校行事を活用する の評価」事業は、町内の小・中学生とその保護者 など、さまざまな事業の可能性が考えられる。 を対象に、小児期・壮年期の健康問題を把握し、 国保直診では、医師が健診や健康教室などで専 生活習慣病の予防や改善を図ること、各機関と 門的に関与することができる。第 3 ステップは、 の連携を図り、地域で一体となって健康づくり 事業の効果の評価である。各地の先進事例をみ に取り組むことを目的に実施した。具体的には、 ると、効果は十分にあると思われるが、それを 保護者への事業説明会及び健康づくり講演会、 数値化して測定し、提示しているものは少ない。 健康づくり学習会、尿・血液検査及び食事調査 継続的にデータを分析して傾向を把握・評価し、 を行った。本事業のまとめとして、健康実態を 学校・地域へフィードバックする必要がある。 明らかにすることにより、児童生徒に対しては 自分に気づく機会を与え、保護者 に対しては家族の健康やライフス タイルを再考・改善する契機につ ながるという効果が認められた。 【事例2】青森県深浦町 阿部 丈亮 氏 (青森県・深浦町地域包括ケアセンター 保健師) 深浦町は、2005年 3 月に岩崎村 と合併した。人口10,641人、高齢 化率35.8%、子どもをめぐる環境と しては、町内に小学校は 5 校(うち 2 校は2007年度で閉校) 、小学生 478名、中学校は 3 校で中学生は 左より、齊藤氏、阿部氏、佐藤氏 周辺 4 町が合併してできた。人口62,000人、高 も達は外でゲームをして遊ぶという状況にある。 齢化率40%、面積の 9 割は中山間地域が占める。 自治体チャンネル+ 286名となっている。自然豊かな環境だが、子ど 浜田市では、食育は知育、徳育及び体育の基 に地域全体で性教育に取り組んだことに始ま 礎で、食育活動は生活習慣病を予防し、子ども る。その後、2002年度に「こどもの時からの健 達の生活の基礎をつくり、子どもと保護者や地 19 康づくり推進協議会」が設置され、2004年度か 域社会の絆を深めると考えている。 20 合併前の旧金城町の「小児期からの生活習慣 定期的に行われている。近年は、国民総合保健 病予防事業」を紹介すると、教育委員会の下に 施設 深浦町地域包括ケアセンターを拠点に、 小中学校、教護教諭や学校栄養士等をメンバー 各学校でのカラーテストや口腔写真撮影等の歯 とする推進委員会、行政保健担当課、検査会社、 科保健活動、朝食欠食予防事業、小学校 4 年生・ さらに学校医、保健所と、町内関係機関が連携 中学校 1 年生を対象とした喫煙予防、超音波式 した体制で、乳幼児健診や保育園での栄養指導、 骨密度測定装置による骨密度測定とその結果に 子ども・親子クッキング、食生活改善推進協議 もとづく事後指導、小児生活習慣病予防健診等 会活動との協力、食生活調査・健診にもとづく の活動を展開している。 個別指導、学校栄養相談や出前栄養・医療教育、 4 4 4 子どもの健康を守る活動の課題としては、 「プ 保護者向けたよりの発行、家族スポーツ教室の ロダクトアウト」から「マーケットイン」へ、さ 開催、食の学習ノートの活用等の活動を行った。 らに「コンセプトアウト・デマンドイン」への それらの活動を通じ、子どもの生活改善に向 方針の転換と、医療・保健間のダイアローグの けた取組みでは、関係機関や関係者が活動の目 充実、予防医療の観点から地域の公的医療機関 線を合わせることが重要であり、集団指導と個 である国保直診診療所との連携があげられる。 別指導それぞれの利点を活かし、個別の関与は 生活実態を把握した上で行うこと、また、対象 【事例3】島根県浜田市 齊藤 稔哲 氏 (島根県・浜田市地域医療対策課 医療専門監) 現在の浜田市は、2005年10月に旧浜田市と の拡大とともに関係者を増員し、活動の負担が 集中しないようにすることが望まれる。 ※次年度継続事業により、2008年度も同セミナーを 開催予定である。 年 月号 ら「養護教諭との定期的な情報交換」が年 3 回、 平成 子どもの健康を守る活動は、基盤は1983年度 5