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「オープンデータ化の推進と活用について」研究報告書 研究生 今井浩一
「オープンデータ化の推進と活用について」研究報告書 研究生 Ⅰ 今井浩一 文化芸術エンタテイメントライター/エディター 鄭あきひと 伊那谷ソーシャルメディア研究会 田村茂樹 登山ガイド/小谷村地域おこし協力隊 宮島弘之 企業局川中島水道管理事務所/デジタルアーキビスト オープンデータ化を研究するに至った経過 当グループの研究は、平成 25 年度における「SNS(ソーシャルネット・ワーク・サービス)の県政 への活用」研究の継続研究としてスタートしました。 平成 25 年度から引き続きの研究生は県職員一名のみで、残りの 3 名は平成 26 年度からのいずれも民 間からの参加です。みなそれぞれの分野でのエキスパートであり、それぞれの専門分野を活かして研究 が行われました。 「SNSの県政への活用」についてはひとまず平成 25 年度において研究が完了しており、本年度の研 究は、SNSに代表される携帯端末の活用をベースとしながらもそれのみにはこだわらず、継続研究6 グループへ知事から指示された「信州を南北軸でつなぐ交流圏の構築」についての検討から研究を開始 することとしました。 当グループがまず着目したのは、 「地図」です。長野県を始め各地方公共団体でも数種の地図を作成し ているところですが、なかなか思うような地図が見つかりません。かといって、自分の都合の良い地図 は、自分にとっては都合がよくても、他の人にとって、必ずしも良い地図であるとは限りません。 そのような中で、基本的な地図データを無償で提供されれば、それを利用者がカスタマイズして使用 することができる、そんな仕組みを考えました。 さらに、長野県が発出する各種情報における地理情報の問題があります。長野県民であれば長野県を 中信、南信、北信、東信と区分し、 「中信では○○」としても通じる情報がありますが、全国的には文字 を見ただけでは区域を特定することができません。これは、災害等の情報を発信する場合には大きな被 害を引き起こす恐れがあります。また、長野県内の市町村の所在地を文字情報で発信しても、必ずしも その位置がすべての人に伝わりません。このような場合、地図を添付して、視覚的に目に見える形での 情報発信が有効となります。 次に着目したのは携帯端末のアプリケーション(以下「アプリ」という。)です。代表的なSNSであ るLINEがもともとスマートフォン(以下「スマホ」という。)アプリとして開発されたように、SN Sの受発信はスマホから行われています。また、スマホはパソコンと異なり、殆どの端末にGIS機能、 カメラ機能が備わっており、現地での状況を画像、地理空間情報を添えて発信する上で、優れた手段と なっています。更に、SNSの活用にあたっては、その膨大なメンバーの一員となって情報を発信する 手法とともに、SNSと連携する別のアプリを運用することにより、アプリ利用者が関連する情報を発 信するよう誘導する手法があります。 まず我々は地図を活用したスマホアプリの状況について確認をすることとしました。 1 携帯端末の利用を念頭に行われている事業の評価 (1) スマホアプリ「さわやか信州観光AR with アルクマ」に関する評価 信州・長野県観光協会が提供する AR(拡張現実)技術を用いたアプリケーションです。 長野県全域の観光スポットやイベント情報をはじめ、グルメ・ショッピング情報などを、最新のナ ビゲーションシステムでご提供します。 信州・長野県にお越しいただき、その場、その時、あなたにピッタリの情報を長野県観光PRキャ ラクター「アルクマ」がご案内します。 【AR機能による観光情報の表示】 カメラモードにより映し出される街並みに8種類の観光情報タグが浮き上がります。タグをタッ チすると更なる詳細情報や画像を見ることができます。 【GPS機能による地図モードナビゲーション】 地図モードへの切り替えもワンタッチ。GPS機能を使って現在地が表示され、目的地へのルー トが確認できます。 (iTunes における紹介文より抜粋。) このアプリは、信州長野県観光協会がスマートフォン用に提供している観光情報アプリです。特徴 の一つは AR(拡張現実)機能で、スマートフォンに内蔵されたGPS機能と内蔵カメラを活用し、カ メラが画面に映し出す映像に重ねて、その映像に関連する様々な情報を提供するものです。また、G ISの活用により、現在地から目的地までの移動ルートを地図上に表示することができます。 (地図の 中心にはアルクマが表示されます。 ) このアプリについて検討した結果は次のとおりです。 項目 評価 備考 操作性 × メモリーを大量に消費するため、画面に情報がうまく表示されない。 情報 △ 一般的情報のみが掲載されており、アプリを使うほどのことはない。 SNSとの連携 × 当アプリからSNSへの投稿機能はない。 その他 × 当アプリは iOS6 及び iOS8 では作動しない。そのため iPhone 利用者の 7 割以上は当アプリを使えない状況である。 ※ 2014 年 7 月、iPhone5S(iOS7)で利用した結果。なお、2015 年 1 月に再度検証を試みたが、 iPhone5S が iOS8 にアップデートされたため、当アプリを使用ことができなかった。 iOS8 という新しい OS を使用した端末(iPhone)が発売されて 4 月を経過しその市場シェアが 70% を超えた今でも、4 月前からの不具合が解消されず利用ができないというのは問題外の話ですが、それ 以外の項目についても芳しい結果となりませんでした。 今回このアプリを導入する際に、どの程度のリサーチを実施したのかは不明ですが、初期段階で利 用者の想定があったのかどうか疑問が残ります。 ただし、たとえ担当者が専門的知識を有し、ひろく専門家の意見を確認したうえで最良と判断する アプリを採用したとしても、採用したアプリが、必ずしもよい評価を得る保証はありません。 当グループでは次のように考えました。 ① 特定のアプリのみを開発し、運用していくことは、出来上がりの不具合が見極めにくく、リ スクが大きい。 ② リスクを回避するために、数人の県職員が狭い知識の範囲でアプリを検討することはやめ、 ひろくアイデアをコンペティション等により、民間から募集したらどうか。 ③ データは当該アプリへの専用のものとせず、誰でも利用可能な形で公開し、第三者がデータ を活用して、別途役に立つアプリを開発できるようにしたらどうか なお、従来の紙ベースでの観光案内においては、印刷を一回かけたら修正がきかないのですが、ア プリ等は適宜修正が可能という利点があります。 「さわやか信州観光AR with アルクマ」についても、 現状を放置せず、利用者や専門家の意見を参考に、早期に修正することが望まれます。 (2) スマホアプリ「高遠ぶらり」に関する評価 高遠ぶらりでは、長野県伊那市高遠地区や伊那谷の古地図の上に現在地を表示し、標準地図と切り 替えてみることができます。 【概要】 晴れた朝、地図を手にして見知らぬ街を散策する。 その地図が、古びた宝の地図であったり、古地図であったら...。そんなワクワクする夢を、 iphone/ipad 上で実現する「ちずぶらりシリーズ」の長野県高遠版です ■「高遠ぶらり」特徴 高遠ぶらりは、長野県高遠町や伊那谷の以下の地図を掲載しています。 【掲載地図】 ◎高遠ぶらり ・池上秀畝作 ・高遠城下町絵図[元禄 10 年 ・高藩探勝 [明治 27 年(1894)] 旧高遠城之眞景 (1697)] 絵巻(西高遠部分) [寛保 3 年(1743)] ・高遠城再現絵図 其の壱:西から高遠城城郭を望む ・高遠城再現絵図 其の弐:高遠城本丸御殿 ・高遠城再現絵図 其の参:東から高遠城城郭を望む ・花の高遠案内 [昭和 10 年(1935)] ・観光イラストマップ ・多町・相生新設 町割り図 ・多町・相生新設 地割図 ・多町・相生新設 町割り図 [文久 2 年(1862)] [文久 2 年(1862)] [明治 2 年(1869)] ・お散歩気分で学ぶ町-不折を知って高遠を歩こう- [平成 24 年(2012) ◎伊那谷ぶらり ・伊那電氣鐵道沿線案内 [大正 12 年(1923)] ・観光の伊那(伊那観光協会_昭和初期) ・伊那街市街地図 [昭和 18 年(1943)] ・人と暮らしの伊那谷遺産デジタルガイドマップ [平成 26 年(2014)] ・高遠石工 石仏マップ:木曾助郷絵図 〔文政年間〕 ・井月句碑&「ほかいびと」ロケ地をめぐる旅 [平成 23 年(2011)] ・駒ヶ根高原砂防フィールドミュージアム エリアマップ [平成 24 年(2012)] ◎ジオパーク/エコパークぶらり ・大日本帝国土性図 [明治 23 年(1890)] 信濃国 ◎内藤新宿ぶらり ・内藤新宿 ・内藤新宿四ツ谷絵図 ・内藤新宿千駄ヶ谷絵図 (iTunes における紹介文より抜粋。) このアプリは、伊那市立図書館・ 「高遠ぶらり制作委員会」が事業主体となってスマホ用に提供する アプリです。特徴は、過去から現在に至る数多くの地図を搭載するとともに、地図上に現在地を正確 に示すことにより、利用者があたかも利用中の地図の年代にいるかのような時代感覚を与えることに 成功しています。 また、「デジタル古地図『高遠ぶらり』アプリケー ション製作・活用事業」として、平成 24、25 年度の 地域発元気づくり支援金を活用しており、同事業は優 良事例として上伊那地方事務所長表彰を受賞してい ます。 当グループでは 2014 年 7 月 4 日に伊那市を訪れ、 スマホ(iPhone)及びタブレット端末(iPad)で状況 を確認するとともに、伊那市立図書館・「高遠ぶらり 制作委員会」代表を務める伊那市立図書館長の平賀氏、 伊那市立高遠町図書館の諸田氏のお話をお聞きしま した。その結果は次のとおりです。 項目 評価 備考 操作性 〇 地図の表示にもさほど時間を要しない。 情報 ◎ 美しい地図画像が表示される。また、様々な地点での詳細な情報を 取得することができる。 SNSとの連携 ◎ 代表的な SNS である Facebook と Twitter への投稿が可能である。 地理空間情報の共有が容易である。 その他 ◎ 頻繁に情報が更新されている。 通常の地図アプリでは、最新の地図と最新の航空写真地図が表示されるだけなのですが、このアプ リでは詳細にスキャンされ細部まで読み取り可能な古地図が表示され、その地図上に正確に現在地が 示されました。各地点の情報は、観光ブックの見出し的なものより、よりその地域に密着した深い情 報が表示されます。 当アプリの優れたところは、先述のアルクマアプリのような人任せの委託しっ放しではなく、ワー クショップを開催するなど、常に地元の人々の手で更新、機能追加が行われているところです。 また、古地図に記された文字、絵画、記号などは、現代地図にどのように注意書きを追加しても得 られない密度の濃い情報を視覚的に与えるものであることに気づかされました。 高遠ぶらり 所蔵する地図がインデックス 表示され、クリックすることで 地図を選択し、呼び出すことが できます。 地図上には各地点にピンが表 示されており、それをクリック すことで、詳細な情報が表示さ れます。 伊那市立図書館・ 「高遠ぶらり制作委員会」代表を務める平賀伊那市立図書館長にお話をお伺いした ところでは、このアプリについて県として評価宣伝し、各地で民間を含めたアプリ製作の取組みを県 として支援したらどうかとのことでした。 特に、古地図 1 枚を精密にスキャンするためには 1 枚 20 万円程度の費用が必要であり、県がスキャ ナーを整備する等して、その部分の負担を軽くすることが望ましいとの意見をいただきました。また、 県は地図データを多く保有しているはずだがどのような地図があるか不明であり、県として地図デー タをデジタルアーカイブして、活用できるよう公開されたいとのことでした。 2 長野県デジタルアーカイブ推進事業「信州デジくら」に関する評価 県で保有する地図のデジタルデータ化(デジタルアーカイブ)の状況について検討しました。 県では市町村に比べてより多くの地図を保有し、その多くはデジタルアーカイブされており、デジ タルデータとして活用できるはずです。そのポータルサイトである「信州デジくら」を利用してみま した。 「長野県デジタルアーカイブ推進事業」の愛称です。長野県の歴史・文化・自然等の貴重な社会的 資産をデジタル化して保存する蔵。大切に守り伝えられてきたものや暮らしそのものを、生きた形 で次世代へ伝えていくという意味も込められています。 そうした継承の中でめざすのは、「地域アイデンティティの再認識と地域づくり」です。地域づく りは、地域の資源を見直すことから始まります。ところが、世代交代とともに、伝統文化の継承が、 危機的な状態となっているものもあります。伝統は、時代の流れの中で形を変えて伝わる場合もあ るかもしれません。しかしながら、風土の中で培われた生き方、地域に伝わるいわば文化的遺伝子 とも言えるものを未来へ伝えていく責務が、現代を生きる私たちにはあるのではないでしょうか。 長野県では、地域の今、そして歴史を記録、収集するとともに、県が所蔵している各種資料のデジ タル化を進めています。県立歴史館、県立長野図書館、信濃美術館・東山魁夷館を中心とした所蔵 データを順次公開していきます。今後、さらに連携機関を増やしながら情報集積をしていく予定で す。 地域の文化を見直し、県民の共有財産としてデータを蓄積・保存・公開することを通じて、過去へ の感謝の基に確かな未来を築いていくお手伝いをしたいと考えています。 (信州デジくらHPから抜粋。https://digikura.pref.nagano.lg.jp/guide/overview.html) デジタルアーカイブとは、博物館・美術館・公文書館や図書館の 収蔵品を始め有形・無形の文化資 源等をデジタル化して保存するとともに、そのデジタルデータの公開、ネットワーク等を通じた活用 を図ることをいいます。その資料の原本は大切に保管され、デジタルアーカイブされたデータですべ ての用途に対応することが基本となります。 ところが「信州デジくら」に保存・公開されたデジタルデータでは解像度が低く、そこに何が記載 されているか不明で、改めて原本を見直さなければわからないようなデータが多くみられます。この 際原本は少なからず劣化するわけで、「信州デジくら」は「原本の保管」「デジタルデータの活用」の いずれの目的も果たしておらず、専門家から見て、デジタルアーカイブと呼ぶのは厳しい状況でした。 項目 操作性 評価 × 備考 検索ページから必要な情報を検索することが困難である。 画像表示窓が小さく、内容を視認することが困難である。 。 情報 × 画像の解像度が低く、たとえば地図に記された情報が読み取れない。 デジタルデータでは活用できず、結局原本で確認をする必要がある。 その他 × データの追加更新はこの 1 年間行われていない。 信州デジくらのような、担当者が専門知識を持っていない事業を実施する際は、県の内部の狭い範 囲で事業の内容を決定するのではなく、広く意見を聴取し専門家の意見を聞いたうえで実施するとと もに、定期的に検証を行うことが必要と考えます。 また、 「信州デジくら」に掲載された地図データをスマホアプリとして活用するには、解像度が低い ため、今後活用を図るためには改めて原本から精細なスキャンを行い、高解像度のデータとして提供 する必要があることがわかりました。 3 地図データの活用について どのような地図を県として保有しているのかどのようにすれば詳細なデジタルアーカイブが可能か を確認するため、県立歴史館を訪れました。また、地図をデジタルアーカイブするにあたって意見を 聞くため、総務省ICT地域マネージャーである高橋徹氏を招いて意見を伺いました。 県立歴史館には所蔵する史料目録があり、容易に必要な史料を検索することが可能でした。数枚の 地図を実際に広げて確認しましたが、地図上に描かれた図や文字ひとつひとつに意味があり、歴史を 現在に視覚的に繋げる情報として、デジタルアーカイブし、スマホ等で活用する意義のあるものであ るとの認識を持ちました。 高橋氏に、当グループが検討している「地図のデジタルアーカイブとスマホアプリへの活用」につ いて意見を伺ったところ、当グループが目指しているものは「オープンデータ化」ではないかとの指 摘を受けました。 当グループがこれまでの研究から目指すのは、まず地図データのデジタル化であり、このデータを だれでもがスマホアプリとして活用することですが、まさにこれは地図データのオープンデータ化に あたります。また、信州・長野県観光協会によるスマホアプリ「さわやか信州観光AR with アルクマ」 で検討したなかで結論付けた「情報を特定のアプリ専用のものとせずひろく公開し、第三者による活 用を図ったらどうか。」との点でも合致するものでした。 県の業務に関してまずオープンデータ化による民間の参加を検討することにより、民間の優れたス キルにより、役に立たないアプリ等を開発運用するリスクを抑え、より少ない費用で、より役に立つ 利用法、アプリが開発される。 当グループの研究は「地図のオープンデータ化」を軸とすることとしました。 Ⅱ オープンデータについて 1 オープンデータ(Open Data)とは何か 政府はオープンデータについて、次のように定義づけています。 国、自治体、独立行政法人、公益事業者等が保有する公共データのうち ①「機械判読に適したデータ形式で、二次利用が可能な利用ルールで公開されたデータ」 であり、 ②「人手を多くかけずにデータの二次利用を可能とするもの」 インターネットの普及等により、行政以外の企業や個人が大量のデータを容易に扱うことができる 環境が整っています。それを受けて国、自治体、独立行政法人、公益事業者等が保有する公共データ をビジネスに活用したい等の期待が高まってきました。それを受けて政府はオープンデータ推進の取 組みを始めました。 定義①では、オープンデータはインターネットを通じて提供されたものが機械(コンピュータ)に 取り込まれ、二次利用されることを念頭に置いた上で公開された電子データであることを示し②では、 機械が自動的に活用できるデータ形式であることが望ましい旨を示しています。 従来からインターネットを介してホームページ等で情報の開示は行われてきたところですが、上記 定義に沿ったものではありませんでした。ホームページで発信される情報は基本的に文章であり、そ のままでは機械的な判読ができません。また、PDF形式のように、あえてデータの二次利用ができ ないような形で処理されたデータが発信され、二次利用可能な形式のデータは一部統計資料等ごく少 数となっています。 オープンデータではこれを改め、CSV形式など、そのまま機械が読み取り可能な形式で発信され、 さらにそれが二次利用されるようなルール化を図ることとしています。 (1) 機械判読に適したデータ形式 コンピュータが自動的にデータを再利用するためには、コンピュータが、当該データの論理 的な構造を識別(判読)でき、構造中の値(表の中に入っている数値、テキスト等)が処理で きるようになっていることが必要となります。機械判読が容易なデータ形式には、いくつかの 段階がありますが、画像ファイルや PDF 等の形式ですと、コンピュータプログラムがその中の データを識別することは困難となり、二次利用をするためには、人手による再入力が必要とな ります。東日本大震災発生時には、行政の保有する避難所情報などの震災関連情報を地図デー タ等を利用して広く周知させようとしても、データの形式の問題で人手によって再入力しなけ ればならないなど、情報の集約や二次利用に多くの時間と手間が必要とされるケースが散見さ れました。また、機械判読が困難なデータ形式では、スマートフォンのアプリ等で自動処理す ることは非常に困難となり、民間による自発的な公共サービスの創造は期待しにくいものとな ります。 (2) 二次利用が可能な利用ルール 二次利用が可能な利用ルールについては、第三者がデータを一部改変して利用すること、す なわちデータの二次利用を、データ所有者が予め許諾していることを明示することが必要とな ります。例えば、著作物には著作権が発生しますが、二次利用を広く認めるには、その著作権 の不行使を予め宣言しておくことが求められます。他方、現在の各府省等のホームページの利 用条件の中には、無断での改変を禁じているものがあり、広く二次利用を認めるものとはなっ ていない場合があります。また、数値データ等、著作物に該当しないデータについて、著作権 の対象であるような包括的な表現となっている場合もあります。 (総務省HPhttp://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/opendata/opendata01.html#p1-2) 2 オープンデータの目的及び政府におけるオープンデータ戦略 2012 年 7 月にIT総合戦略本部が決定した「電子行政オープンデータ戦略」では、オープンデータ 化をすすめる意義と目的について、次の3点を定めています。 ① 透明性・信頼性の向上 ② 国民参加・官民協同の推進 ③ 経済の活性化・行政の効率化 オープンデータの必要性について(総務省) ① 透明性・信頼性の向上: 公共データが二次利用可能な形で提供されることにより、国民が自ら又は民間のサービスを 通じて、政府の政策等に関して十分な分析、判断を行うことが可能となる。それにより、行政 の透明性が高まり、行政への国民からの信頼を高めることができる。 ② 国民参加・官民協働の推進: 広範な主体による公共データの活用が進展し、官民の情報共有が図られることにより、官民 の協働による公共サービスの提供、さらには行政が提供した情報による民間サービスの創出が 促進される。これにより、創意工夫を活かした多様な公共サービスが迅速かつ効率的に提供さ れ、厳しい財政状況、諸活動におけるニーズや価値観の多様化、情報通信技術の高度化等我が 国を取り巻く諸状況にも適切に対応することができる。 ③ 経済の活性化・行政の効率化: 公共データを二次利用可能な形で提供することにより、市場における編集、加工、分析等の 各段階を通じて、様々な新ビジネスの創出や企業活動の効率化等が促され、我が国全体の経済 活性化が図られる。また、国や地方自治体においても、政策決定等において公共データを用い て分析等を行うことで、業務の効率化、高度化が図られる。 また、公共データの基本原則として次の 4 原則を定めました。 ① 政府自ら積極的に公共データを公開すること。 ② 機械判読可能で二次利用が容易な形式で公開すること。 ③ 営利目的、非営利目的を問わず活用を促進すること。 ④ 取組可能な公共データから速やかに公開等の具体的な取組に着手し、成果を着実に蓄積して いくこと。 2013 年 6 月には「世界最先端IT国家創造宣言」が閣議決定され、国・地方が一体となってオー プンデータの推進、およびビッグデータの利活用の推進への取組みがスタートするとともに、IT 総合戦略本部は「電子行政オープンデータ推進のためのロードマップ」を決定し、①二次利用を促 進する利用ルールの整備、②機械判読に適したデータ形式での公開の拡大、③データカタログ(ポ ータルサイト)の整備、④公開データの拡大、⑤普及・啓発、評価の5項目について、各府省によ る進め方をロードマップとして定め、平成 27 年度末において、他の先進国と同水準のオープンデー タの公開と利用を実現することとしました。 2013 年 12 月に立ち上がった政府のデータカタログサイト「DATA.GO.JP」では、2015 年 1 月 30 日 現在のデータセットの公開件数は 12,800 件と、当初掲げられた 2015 年度末までに 10,000 件とした 数値目標を既に上回っています。 http://data.go.jp 3 地方におけるオープンデータの状況 (1) 全体的な傾向 国においてはロードマップに基づいて着実にオープンデータ化が進んでいるようですが、総務省 の資料によれば、地方レベルでは殆ど進んでいないことが読み取れます。 上の地図・表は、2014 年 9 月にIT対策本部電子行政オープンデータ実務者会議第 2 回自治体普及 作業部会に提出された資料です。 (都道府県 CIO フォーラム 第 12 回年次総会・事前アンケート及び 内閣官房 IT 総合戦略室内調査(2014 年 8⽉実施)) オープンデータ公開済みの都道府県は 19 パーセント、市町村はわずか 2 パーセントとなっていま す。取り組み準備中または検討中を含めると都道府県は 62 パーセントで過半数を超えますが、市町 村では 12 パーセントと、オープンデータ化が進んでいない状況が明らかとなっています。 なお、長野県は「未検討または不明」に分類されています。 (2) 地方自治体においてオープンデータ化が進まない理由とその対策 地方自治体においてオープンデータ化が進まないことについて、同部会へはオープンデータを始 めるきっかけがない、オープンデータがもたらす効果が分からない等の理由が出されています。 オープンデータが進まない理由(作業部会へ提出された項目) A (1) 動機づけ ① オープンデータを始めるきっかけがない。 ② 現行のホームページでも十分といえない状況で新たに取り組むべきなのか。 (2) 情報部門の役割 〇 〇 B C ① 庁内で主体的にオープンデータに取り組もうとする声が上がってくること は、あまり期待できない (3) トップの理解 ① オープンデータの意義や必要性、将来性が理解されていない ② 組織全体の認識を高められない (4) オープンデータに取り組む意義や目的が分からない ① オープンデータがもたらす効果が分からない ② データの悪用や改ざんに不安がある ③ データの維持管理に係る負担が増えるのではないか ④ オープンデータと情報公開制度との違いが分からない ⑤ 公開を意識したデータ作りをしていない (5) 利用者への配慮 ① 職員のデータ加工のスキルが不足している ② 公開されたデータを分析することによって個人が特定できる可能性がある ③ 精度が低いと活用につながらない (6) オープンデータの基本的指針について ① どんな形式が適しているのか分からない ② どんな項目が必要なのか分からない (7) 管理責任 ① 公開したデータについて、どんな責任を持つのか分からない ② 二次利用に関する利用規約が無い ③ 著作権の表示について取決めが無い ④ データを保有している担当部署が分からない (8) 公開ポリシーについて ① 公開先が統一されていない ② 公開までのプロセスが統一されていない ③ 公開の可否判断を誰がするのか決まっていない ④ 現行法上、データを公開してもいいのかわからない (9) 更新ポリシーについて ① データが常に最新とは限らない ② 全て網羅されているとは限らない ③ 公開されたデータの維持を誰がやるのかが決まっていない (10) ニーズの把握について ① 利用者がどんなデータをもとめているのか分からない ② 明確な利用者のニーズを把握できていない (11) データの把握について ① どんなデータがあるのか分からない ② データの量が膨大なため、すぐに公開できない ③ 何から取り掛かったらいいのか分からない (12) 外部への取組み周知について ① 地方公共団体が取り組んでいることが知られていない ② どんなデータが利用できるのか知られていない (13) 利活用促進について ① データを使うアプリ開発、新ビジネス創出の支援が不足 ② 地域に技術者が不足している ③ 都市部と地方ではデジタル格差があり、地域住民の利活用が期待できない 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 ※本表A、B及びC欄は、下の「オープンデータ化を進めるにあたっての3つの対策」により 解決されるであろうと考えられる項目に当グループで〇を入れた。 これらの「できない」理由はいずれも行政の理由であり、まずやることが必要なのですが、実際 にどのような活用が見込まれるのか不明な中でやみくもに「オープンデータ化」を進めることは、 データ量の多さと職員のモチベーションの面から困難なのかもしれません。 これらの「できない」理由からは、地方自治体がオープンデータ化を進めるにあたっての次の3 つの対策が見えてきました。 A すべてのデータについて一律にオープンデータ化を進めるのではなく、利活用を含めた目標 を持って、戦略的選択的にオープンデータ化を進めること。 B わかりやすい形でデータを公表するとともに、利活用について、民間を誘導する工夫が必要 であること。 C オープンデータの範囲について、職員の理解を深めること。 これら3点に留意することで、オープンデータ化は大きく前進するものと考えます。 (3) 地方公共団体における活用例 長野県を含め、地方公共団体全体としてはオープンデータ化が進まない状況ですが、一部都道 府県、市町村においては既に先進的にオープンデータ化を推進し、民間等によって活用されてい ます。 経済産業省が 2013 年 10 月にまとめた地方自治体におけるオープンデータ推進例は次の表のと おりです。 掲載産業省 HP より。 http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoujo/it_yugo_forum_data_wg/pdf/h25_01_03_00.pdf (4) 長野県内における取組み例 長野県内では、須坂市が 2014 年 5 月にオープンデータサイトを公開し、オープンデータとして 統計情報を提供しています。 2015 年 1 月 30 日現在、いくつかのアプリが紹介され、利用可能となっています。 (須坂市 HP http://opendata.city.suzaka.nagano.jp/) Ⅲ オープンデータの選択と提示 1 オープンデータ化すべきデータ 前章で述べたとおり、オープンデータ化を着実に進めるにあたっては、最終的に何を達成したいの かを見定め、その目標達成のために必要なデータを優先的にオープンデータ化するとともに、民間が そのデータを利用しやすいような形で公表し、誘導することが必要です。 当グループでは、 「地理空間情報」と「地図」との融合による情報発信を目標として、オープンデー タの充実を図ることを提案します。 2 地図のオープンデータ化の必要性 地図データのオープンデータ化が必要な理由は次のとおりです。 (1) 企業のニーズがあること 次の表は、平成 26 年度版情報通信白書に示されたオープンデータに関する地方公共団体・企業ア ンケートの集計結果です。 図表 オープンデータとして提供中または提供を検討中の公共データ(地方公共団体アンケート)/ 図表 オープンデータのニーズが高い公共データ(企業アンケート) 地方公共団体が提供している地図・地形・地質情報の割合は高くないのに対して、企業では圧倒 尾的に地図・地下情報を求めていることがわかります。 企業が求め、早期の活用が見込まれる地図データこそ、まず優先して公表すべきデータです。 (2) 地域の要望が現に存在すること 地図データの整備については、当グループがスマホアプリについて検証を進めた中で、最も重要 な要素と位置付けたものです。地図により人々は視覚的に多くの情報を得ることができます。しか しながら、過去に作成された地図の多くは県立歴史館等の倉庫に眠り、どのような地図があるのか さえ一般には示されておらず、活用の機会がない状況にあります。現に地図を活用し、地域の活性 化につなげている例がある中で、その動きを全県に広げる手段として、地図データのオープンデー タ化が必要と考えます。地域で要望のあるデータこそ、優先して公表すべきデータです。 (3) 最新の地図ではわからないことがみえること いまインターネットで一般に利用されているグーグルマップは、常に最新の情報を反映させたも のとなっていますが、最新であるがゆえに、地図から過去の情報が失われてゆきます。 一例を挙げれば、数年前には長野電鉄屋代線があったわけですが、現在の地図ではその情報は失 われています。ところが、長野電鉄の廃止前のデータと廃止後のデータを地図をふまえて比較検討 する場合、現在の地図のみでは「長野電鉄があった」という大きな要素が失われてしまいます。 過去と現在を地図上で比較するときに、過去を表わす地図データは必須と考えます。 以上3つの理由により、地図データのオープンデータ化を重点的に進めることが必要と考えます。 3 地理空間情報の効果的付与 (1) 地理空間情報は、行政情報の基本的構成要素であること 情報は「いつ」「どこで」「誰が」「なにを」 「どうする」に分解が可能であり、それぞれの要素を 分割してデータ化することにより、それぞれの項目ごとに分類・集計することが可能となります。 「どこで」という地理空間情報は、オープンデータ化された地図の上に重ね表示することが可能 であり、相乗効果が生まれます。このことから、オープンデータ化する情報には、あまねく地理空 間情報を記録することが有効と考えます。 (2) SNSとの連携 Facebook、Twitter 等、多くのSNSでは、発信する情報へ地理空間情報を付与することが可能で す。さらに、Fouesquare など、地理空間情報をベースとして情報を交換するSNSも存在します。 これらのSNSと連携して情報を発信する上で、地理空間情報は不可欠なものとなりつつありま す。 (3) 統合型GISとのデータ共有 長野県で進める統合型GISにおいても、地理空間情報を持つ行政情報の存在が必須です。統合 型GISのために加工した情報を県庁内のみで使用するのではなく、オープンデータとして公表す ることで、民間における新たな利用方法の発見と活用につながります。 4 長野県の発信する情報のオープンデータ化と規則化 いま長野県が発信する情報の殆どはPDF化された文章となっています。このままでは機械で読 み取ることが困難です。 オープンデータ化することにより、民間での情報の利用を促進するためには、文章となっている 情報を規則的に「いつ」 「どこで」「何がある」に分割し、CSV等の形式で公開することが必要と なります。 「いつ」「どこで」という項目により、時間軸、空間軸での情報整理が可能となります。 Ⅳ 地域・民間によるオープンデータ活用の促進 オープンデータの利用促進を図るには、オープンデータの質の充実はもちろんですが、より多く の人々がオープンデータサイトを訪れ、活用しようという動機づけを行うことが必要です。 そのために次の3点を提案します。 1 県がオープンデータの活用例を提示すること。 民間によるオープンデータの活用を促す場合、単にデータのみを提示するばかりでなく、県とし て具体的にオープンデータの活用例を提示することが有効と考えます。 たとえば地図を重点的にオープンデータ化する場合は、スマホアプリ「高遠ぶらり」に準じた形 で各地図を表示させ、山岳等のデータと連携させることなどが有効と考えられます。 2 知恵だし会の開催 第2章で示したとおり、横浜市やビッグデータ・オープンデータ活用推進協議会(武雄市、千葉 市、奈良市、福岡市)では、ハッカソン、アイデアソンといった、専門家によるオープンデータの 活用についての検討会を開催しています。 長野県においても、オープンデータに関する要望を伺うとともに、県で活用いただきたいオープ ンデータを示し、活用を促す手段として、県内各地で「知恵だし会」の開催を提案します。 3 役に立つサービス開発コンペの開催 県が公開するオープンデータの活用についてコンペを開催し、アイデアを募集することにより、 積極的な公共の利益に立ったオープンデータの活用を推進することを提案します。 Ⅴ オープンデータ化から始まる物語の創造 これまで行政情報のオープンデータ化について述べましたが、我々はパソコン画面上でのデータのや り取りに留まることを望みません。オープンデータの活用が、現実世界と結びついて、人々が外に出て、 交流する、新たな物語の創造が最終的な目標になるものと考えています。 地理空間情報とその他行政情報のオープンデータ化により実現可能な「物語の創造」を次のとおり提 案します。 1 シルク・ドゥ・シルク(Cirque de Silk) フランス語のシルク(Cirque=サーカス)と英語のシルク(Silk=絹)を合わせた造語です。 信州の近代文化を彩った絹文化を、信州を南北軸につなげる共通項として地図上でとらえ、県内各 地の文化に根差した芸術活動(大道芸)を、シルクロードさながらに街道を巡り開催する企画です。 【オープンデータと芸術活動との連携】 各地で行われる芸術活動が、地理空間情報により、地図データ上で表示され、各地での活動が地図 上では連携した動きとして鳥瞰することができます。 芸術活動が行われる場所についても、各地の音楽堂、芸術館、博物館とともに表示することで、芸 術を行う場所を一体として地図上に表示します。 各地での催し一つ一つは数日で終了するとしても、地図上では、どこかで芸術活動が行われている ことが示され、芸術県「信州」をアピールすることができます。催しを地域間で連携して行うことに より、地図上を生き物のように移動するかのごとく表示することも可能です。 いつ信州へ行ってもどこかで生き物のように芸術活動が行われている! 「芸術よ、外へ出よう」 芸術の都「パリ」を確立したのはこの一言でした。 大道芸という、屋外で行われる芸術活動を、地図情報とオープンデータの連携によりアピールする ことにより、芸術県「信州」を実現させることを目指します。 2 塩街道はジオ街道 かつて信州まで南北に結び、塩(シオ)を運んだ街道について、歴史、地形的、文化的特徴を、地 図と現地で学び、再確認する催しの企画です。 【オープンデータと芸術活動との連携】 塩を南北から運ぶ道筋が、ジオである地図上で表示されます。オープンデータ化された文化が地理 空間情報を活用して古地図や現代地図の上に標されます。 スマホ上に示されるこれらの情報とともに街道を移動することにより、現在地と街道の歴史につい て認識を深めることが期待されます。 3 山岳県「信州」 ふるくから山と親しみ山とともに生きてきた人々の営みを、美しい地図アプリで世界に発信しま す。また、信州に関するあらゆる気象データを地理空間情報を活用して地図上に表示します。 2014 年 9 月 27 日に木曾御嶽山が噴火し、多くの方が犠牲となられました。周辺では火山性微動 が観測されていましたが、多くの人はこの情報にふれることはありませんでした。当時の気象庁の 発する噴火警戒レベルは「1」であり、このレベルが「3」に改められたのは、噴火後 40 分以上経 過した後のことでした。 (11 時 52 分噴火。12 時 36 分、気象庁地震火山部により御嶽山の噴火発表。 噴火警戒レベル 3) 長野県として、登山者が自ら判断材料としうる山に関するあらゆるデータを地理空間情報を備え たオープンデータとしてアクセスしやすく公表することにより、多くの人が独自に早期に危険を察 知することを支援することが重要であると考えます。