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作業する前に知っておきたい プラスチックの基礎知識
第 1 章 作業する前に知っておきたい プラスチックの基礎知識 射出成形作業というと、やはり製造現場、成形現場での作業になります。こ れは、体を動かす作業ですので、事務作業とは異なります。 現場作業と事務作業との間に最も大きな違いがあるとすれば、安全に関わる ことだと思います。これは、学習や訓練などをする場合に、机で行う学習と体 を使う学習や練習の違いにたとえられるかも知れません。 現場作業では、安全が第一なのです。安全性の重要性については、のちほど 説明しますが、何が安全か危険であるかを知らなければ、安全のためにどうす ればいいかもわからないでしょう。まずは、射出成形とはどのようなものなの かを知ることが大切です。射出成形は、プラスチックで製品を作るための方法 のひとつです。プラスチックの成形方法にもいろいろなものがあります。射出 成形とはどんなものかを知るためには、その他のこれらいろいろな成形方法を 知ることで、射出成形の位置付けもはっきりしてくるのではないかと思います。 私自身も始めはそうでしたが、射出成形現場で作業をしている人達は、その 他のプラスチック成形をあまり知らないことが多いのです。その他のプラスチ ック成形も知ることで、視野が大きく広がった経験があるので、そのあたりか ら始めて行きましょう。そのためには、まず材料であるプラスチックのことも 知る必要があるでしょう。 7 第 1 章 作業する前に知っておきたいプラスチックの基礎知識 1―1 プラスチックのいろいろ 酸素原子 1―1 プラスチックのいろいろ まず、材料であるプラスチックにもいろいろあることを知りましょう。その 材料の特徴によって、成形方法も異なってくるからです。 炭素原子 水素原子 水素原子 酸素原子 (1) プラスチックってなに? 酸素原子 プラスチックは、ポリ、合成樹脂とか人工高分子などと呼ばれることがあり 図 1.1 ② 二酸化炭素分子(CO2) 図 1.1 ① 水分子(H2O) ます。分子がつながって長くなった高分子なのです。二酸化炭素(CO2) 、水 (H2O)などと習ったことがあると思います。一つの炭素原子(C)と二つの酸 素原子(O)でできているものが二酸化炭素、二つの水素原子(H)と一つの 酸素原子(O)でできているものが水です。分子とは、このように原子がいく 水素原子 水素原子 炭素原子 つか組み合わさってできたものです。高分子というのは、多くの分子がつなが 炭素原子 って大きなひとつの塊(分子)になったものと考えればいいでしょう。原子は 水素原子 「手」を持っていて、その「手」が余らないようにつなぎ合っています。炭素 は手を 4 本持っており、酸素は 2 本持っています。水素は 1 本だけです。 ですから、図 1.1 のように、水は、酸素が 1 本ずつふたつの水素と手をつな 水素原子 図 1.2 エチレン分子(C2H4) いでおり、二酸化炭素は、炭素が手を 2 本ずつ、ふたつの酸素と手をつなぎ合 っていると考えてください。次に、図 1.2 は、エチレンという分子ですが、炭 素ふたつが両手でつながっており、残りの手は 4 つの水素と手がつながってい ます。まだ、この状態では普通の分子です。ところが、炭素同士が 1 本の手で つながって、もうひとつの手を放すと、図 1.3 のように、隣のエチレンと長く 拡大 つながることができます。これがどんどんとつながっていくと、ポリエチレン という高分子になります。通常、これらが 1 万以上つながったものを高分子と 呼んでいます。これを人工的に作るので人工高分子と呼びます。これがプラス チックのことです。ポリとは「たくさんの」という意味で、この最初のポリだ けを取って、ポリとも呼ばれているのです。松脂(松やに)なども高分子の一 種ですが、天然にできたものなので天然高分子と呼ばれます。松脂は樹木の樹 脂です。ですから高分子のことを樹脂とも呼んだりしています。分子にもいろ 図 1.3 ポリエチレン分子(C2H4)n 8 9 第 1 章 作業する前に知っておきたいプラスチックの基礎知識 表 1.1 原子と手の数 原子 記号 手の数 水素 H 1 炭素 C 4 酸素 O 2 窒素 N 3 フッ素 F 1 いろな癖があるので、単純に手を自由につなげるわけではありませんが、参考 として原子の手の数を表 1.1 に載せておきました。これらを組み合わせてでき 1―1 プラスチックのいろいろ H H C C H H H H C C H n CH3 H あるものは、炭素が 6 個に水素が 6 個付いた C6H6 のベンゼンと呼ばれるもの C C 分で、その余った手が他のものとつながっていることを示すものです。 ここでは、これ以上の説明は省略しますが、興味のある人は、 「絵とき『射 出成形』基礎のきそ」(横田明著、日刊工業新聞社刊)を参考にしてください。 H n COOCH ポリメタクリル酸メチル (PMMA) S n (2) プラスチックの種類 射出成形に従事している人達のほとんどは、プラスチックの原材料はペレッ C C ポリフェニレンスルファイド (PPS) トだと思っているかも知れません。しかし、実はプラスチックにもいろいろな H O n H H C C Cl F C C F F H N C O O C O C CH3 ポリカーボネート (PC) CH3 O n x H ポリオキシメチレン n CH3 四フッ化樹脂 (PTFE) H n CH3 ポリ塩化ビニル (PVC) F C H ポリスチレン (PS) H ポリプロピレン (PP) H H H ポリエチレン (PE) る高分子の形も参考として図 1.4 に紹介します。六角形の中に丸として書いて です。これに手がつながっている部分は、このうちのいくつかの水素が離れた n H 変性ポリフェニレンエーテル (m PPE) O H H C N C H O H N C C x n O C y H H x: :5 ポリアミド6 (PA6) x: :4 y:4 ポリアミド46 (PA46) x:11 ポリアミド12 (PA12) x:6 y:4 ポリアミド66 (PA66) x:6 y:8 ポリアミド610 (PA610) 図 1.4 高分子の形 ものがあります。射出成形で使用している材料のほとんどは、熱可塑性プラス チックと呼ばれているものなのです。 熱可塑性プラスチックとは、熱を加えると柔らかくなって粘土のようになり、 焦げる 分解する 溶ける 燃える 冷えると固まって形を保持するものをいいます。そのため、温度を高くして粘 土状にして、粘土状態から形を作って、そのまま冷やして固めます。その固ま 固い状態 柔らかい状態 温度が低い 温度が高い った形は、再び熱を加えると、また粘土のように柔らかくなります。図 1.5 の ように熱に対して可逆的な状況のものを熱可塑性と呼ぶのです。ですから、熱 可塑性プラスチックのランナーは細かく砕いて再生して使えます。 皆さんはプラスチックでできた灰皿を見たことがあると思います。これは、 10 n もっと温度を上げる 図 1.5 熱可塑性樹脂のイメージ 11