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愛知 農 総 試 研 報 34: 79-84(2002)
Res.Bull.Aichi Agric.Res.Ctr.34: 79-84(2002)
赤黄色土露地野菜地帯における河川及び
地下水の硝酸性窒素動態
山田良三 *・白井一則 **・今川正弘 ***
摘要:赤黄色土が広く分布する東三河の露地野菜地帯において、小河川及び地下水の硝酸性窒素濃
度を2001年に1年間にわたって調査した。当地域は畜産業も盛んであり、汚染の原因を、農耕地か
らの窒素負荷量のみからは説明できなかった。調査地域での土地利用連鎖と畜産団地からの窒素排
出負荷量を考慮して河川の窒素汚染を解析する方法が有効であった。すなわち、窒素流達率には集
水域における水田の占める割合が大きく関与し、畑地からの流出水が水田を通過する割合が大きく、
かつ水田域での滞留時間が長くなるほど窒素の河川への流達を妨げていることが示唆された。
キーワード:露地野菜地帯、地下水、硝酸性窒素、家畜ふん、窒素流達率
Behavior of Nitrate Nitrogen of Small Rivers and Groundwater
in the Surrounding Field Cultivation Areas at Red-Yellow Soil
YAMADA Ryozou, SIRAI Kazunori and IMAGAWA Masahiro
Abstract: Monitoring of nitrate nitrogen concentration was carried out throughout the year in
2001 to learn the characteristics and the seasonal changes in small rivers and groundwater in
field cultivation area at Red-yellow soil. There are very large number of stock farm in this
surrounding area. We could not explain the pollution source from only fertilizer application. It
was recognized an effective analysis of water pollution by vegetable and paddy field system and
consideration of nitrogen load from animal manure. Coefficient of nitrogen runoff was concerned
with rate of paddy field in catchment area. We estimated the coefficient of nitrogen runoff was
disturbed as the ratio of pass through paddy field from upland field and the stay time at paddy
field area increase.
Key Words: Field cultivation area, Groundwater, Nitrate, Animal manure, Nitrogen Runoff
coefficient
本報告の一部は日本土壌肥料学会名古屋大会(2002年4月)において発表した。
*
豊橋農業技術センター、
(現園芸研究所)
**
豊橋農業技術センター(現林業センター)、
***
豊橋農業技術センター
(2002.7.1
受理)
山田・白井・今川:赤黄色土露地野菜地帯における河川及び地下水の硝酸性窒素動態
緒
言
80
やした。流量の測定方法は流速、深さがなるべく均一な
場所を選択して、一定距離を流れる速さと川幅、深さか
露地野菜畑では、作物の生産性を維持・向上するため
ら求めた。なお、川幅が大きい地点については横断面の
に化学肥料及び堆きゅう肥等の有機物資材の多量施用が
測定か所を増やして精度を上げるよう工夫した。各河川
普通に行われている。特に赤黄色土が広く分布する東三
の年間流水量は平常流量の月毎の平均値から求めた。ま
河の露地野菜地帯では、保肥力や腐植含量などの土壌生
た、降雨時は増水期間中の水位の上昇、流速を測定して
産力が小さいため、家畜ふん堆肥等の有機物資材を多量
その期間の流水量を求めて月毎の平均値に組み入れた。
施用する傾向にある。当地域では家畜飼養頭羽数も多く、 窒素濃度についても同様に求め、その値と流量から月ご
排出される畜ふん堆肥等の地域内循環利用も盛んである
との窒素流出量を積算した。
ことから、それに起因する硝酸性窒素等の環境への負荷
3 地下水の水質実態
が懸念されている。近年、公共水域への水質環境基準4)
精進川下流域の集落に散在する農業用井戸を深さ別に
が設定され、農業場面からの環境汚染につながる負荷物
10か所選んで採水し、硝酸性窒素等を測定した。また、
質の系外への排出はできるだけ低減していくことが求め
この地域に分布する黄色土、灰色低地土、グライ土水田
られており、河川や地下水における環境汚染物質の流出
のうち、それぞれ1か所を選定し、直径45 mm の塩ビ製
負荷に関する研究が多く報告6-9,13)されるようになって
パイプを地表から1 m 及び2 m の深さまで打ち込んで
きている。
地下水を2週間間隔で採水した。
そこで、本研究では窒素施用量の多い露地野菜を周年
4 窒素定同位体自然存在比の測定
栽培している地域を源流とする小河川の硝酸性窒素等の
河川水、水田浅層地下水、井戸水についてあらかじめ
水質実態を調査するとともに、調査対象地区の集落内に
全窒素濃度を微量窒素測定装置(三菱化学TN−100)
点在する井戸水の硝酸性窒素等の濃度を定期的に測定す
で定量した。採取した試料を窒素濃度が1 mL 当たり
ることにより、この地域の肥培管理と周辺河川の水質と
2,000 μg になるようロータリーエバポレーターで濃縮
の関係を解析し、野菜畑からの窒素流出負荷量を明らか
した後、質量分析計(日立RMI-2)で窒素定同位体自然
にしようとした。本研究は委託試験「地形連鎖系におけ
存在比(δ15 N)を測定した。
る自然循環機能の解明と向上技術の開発」の中で実施し
5 肥培管理状況
たものである。
調査地域内に分布する農耕地の作付け状況を地目別に
面積及び肥培管理状況等を調査した。作付け面積は実測
並びに土地利用図1)や地域の作物部会別の作付け面積等
調査地域及び方法
を参考にした。肥培管理や堆肥施用量は農家からの聞き
1 調査地域の概況
取りやアンケートを行った。また、施肥量等が不明な作
調査対象地域は豊橋市南西部の梅田川流域の一部約
物については、施肥基準及び専門部会情報を参考にして
2,000 ha で、北部山地と南部遠州灘に挟まれた標高50
算出した。
∼60 m の洪積丘陵地である。丘陵中の比較的幅の広い
調査地域の土地利用並びに採水地点は図1に示したと
侵食低地を精進川、炭焼川、落合川などの小河川が南北
おりである。
から梅田川に流れ込んでおり梅田川本流は西流して渥美
湾に注いでいる。北部山地斜面にはミカン園が100 ha 、
試験結果
丘陵頂部と緩傾斜面全体には一部茶園と野菜畑が合計
641 ha 広がっている。低地平坦部は地目上は水田にな
1 河川の窒素濃度及び流量
っているが、水田面積345 ha のうち約半分は休耕ある
各河川の硝酸性窒素濃度の推移を図2に示した。小河
いは転作畑で、ハウス等も一部点在する。農耕地以外の
川では秋作の作付けが始まる9月ごろからしだいに高濃
1,000 ha は、山林、集落、湿地、工場及び一部市街地
度になる傾向の認められる川と、季節に関係なく高濃度
となっている。また、各小河川流域の上流部には畜産団
での変動が大きい川に区分された。窒素濃度が高い炭焼
地が集まっている。精進川では牛、炭焼川は豚と牛、落
川が流入する落合川では5月∼8月の間はやや低下する
合川では豚と鶏の団地が多く分布している。特に、炭焼
ものの約10 mg L-1 、本流の梅田川では年間を通して約
川では流域全体に団地数、家畜飼養頭羽数とも多い。
5 mg L-1 前後で推移した。
各小河川の年間における硝酸性窒素流出量の推移を図
2 河川の窒素濃度及び流量
調査採水地点は各小河川が落合川及び梅田川本流に流
3に示した。また、これら小河川からの流入を含めた梅
入する地点及び落合川と梅田川が合流する地点並びに各
田川と落合川の窒素流出量を図4に示した。精進川、境
河川の中間地点を選択した。梅田川には上流から本調査
川などを支川とする梅田川の窒素流出量は年間(2001
地域以外からの流入があるため、その流入地点でも同様
年)で132t、炭焼川を支川とする落合川の窒素流出量
に調査した。採水は2週間間隔で行い、実験室に持ち帰
は94tであった。なお、梅田川については本調査地域外
った後直ちにpH、EC、硝酸性窒素等を測定した。流量も
からの窒素流入量が47tあるので、その分を差し引くと
採水地点と同一地点で2週間間隔で測定したが、降雨量
85tになり、調査地域における両河川の年間窒素流出量
の多い5月∼7月と9月∼11月は必要に応じて回数を増
の合計は179tであった。
81
愛 知 県 農 業 総 合 試 験 場 研 究 報 告 第 34号
表1に河川水の窒素濃度並びに窒素安定同位体自然存
在比(以後δ15N)を示した。主に野菜畑周辺を流れる
精進川の窒素濃度は9.5 mg L-1 で、δ 15N値は10.3‰で
あるのに対して、流域周辺に畜産団地が多く分布してい
る炭焼川の窒素濃度は12.0 mg L-1 で、δ 15N値は17.9
‰であった。そして、これら支川が流れ込む梅田川では
窒素濃度が3.1 mg L-1 に低下しており、δ 15N値は15.5
‰と両河川のほぼ平均値であった。
図1
2
地下水の水質実態
地下水の硝酸性窒素濃度は井戸の深さにより3区分さ
れた(図5)。深さ5.0∼8.0 m までの浅井戸の硝酸性
窒素濃度は平均値で36∼60 mg L-1 と高濃度であった。
年間の窒素濃度の変動は深さ10 m 内では大きく、特に
野菜畑に隣接しているS3井戸では3月と9月に10 mg
L-1程度にまで上昇した。深さ26∼30 m の地下水の硝酸
性窒素濃度は5.0∼6.0 mg L -1 の範囲で推移しており、
土地利用区分及び採水地点
82
窒素濃度(mg L-1)
山田・白井・今川:赤黄色土露地野菜地帯における河川及び地下水の硝酸性窒素動態
40
35
30
25
20
15
10
5
0
源流B
精進川左
梅田川
炭焼川下流
精進川右
小川
炭焼川上流
落合川
2001年1月 2001年3月 2001年5月 2001年7月 2001年9月 2001年11月
図2 小中河川の硝酸性窒素濃度の推移
小川
精進川右
精進川左
8.0
源流B
炭焼き川上流
炭焼き川下流
6.0
4.0
2.0
0.0
落合川
15
10
5
36951
37012
37073
37135
37196
S3
SN
KM
MW
2001年4月
2001年7月
2001年10月
図4 梅田川及び落合川の硝酸性窒素流出量
(支川を含む)
IG
0.60
梅田川
0.50
80
0.40
流達率
-1 )
NO3-N(mg L
20
2001年1月
36892
NT
SS
100
梅田川
0
図3 小河川の硝酸性窒素流出量
120
25
窒素量(t)
窒素量(t)
10.0
60
小川
0.30
0.20
40
y = -2.5103x + 0.7655
落合川下流
精進川
0.10
20
R2
= 0.7133
0.05
0.10
炭焼川
0.00
0
2000/3/29 2000/8/2
2000/12/5 2001/3/28 2001/7/16 2001/11/13
図5 地下水(井戸)の硝酸性窒素濃度
-1
10 mg L を超えることはなかった。また、最も深い80
mの地下水の硝酸性窒素濃度は平均0.2 mg L-1 で、最高
でも04 mg L-1 であった。表2に農業用井戸水並び水田
浅層地下水の窒素濃度及びδ15N値を示した。深さ8 m
以内の浅層水の窒素濃度は33∼67 mg L-1 と高濃度で、
δ15N値は6.1∼19.5‰の範囲にあった。δ15N値の大き
い井戸NTとS3は野菜畑に隣接しており、他の井戸は
屋敷内に設置されている。26∼30 m にまで深くなると
窒素濃度は4.4∼5.0 mg L-1 に低下し、δ15N値は15.3∼
20.4‰と高い値を示した。両井戸とも野菜畑に隣接して
いる。最も深い80 m の井戸は屋敷内に設置されており、
窒素濃度は0.2 mg L-1 と極めて低濃度で、δ15N値は20,
000培まで濃縮しても測定できなかった。
一方、水田の浅層地下水は水田1の水稲、キャベツ輪
作田では2 m 深の窒素濃度は35.5mg/Lと高く、δ15N値
は4.8‰と低かった。他の水田は水稲のみの単作田で、
窒素濃度は2.0 mg L-1 以下で、δ15N値については12.1
∼32.6‰の高い範囲にあった。
3 肥培管理状況
表3に示すように本地域の全作付け面積は975.6 ha
0.00
0.15
f1×f2
0.20
0.25
0.30
図6 各河川の窒素流達率
で、うち野菜畑が683 ha を占める。主な作物はキャベ
ツであるが、他にハクサイ、タマネギ、タバコなど多種
の作物が栽培されている。これらの農耕地に投入される
窒素は化学肥料として248tで、うち野菜畑には191tが
投入されている。野菜1作当たりの化学肥料由来の窒素
投入量は10 a 当たり28 kg と計算される。また、化学
肥料のほかに家畜ふん堆肥の投入が野菜畑を中心に行わ
れている。堆肥施用面積は水田、ミカン園を除いて737
ha で、堆肥施用量を平均で10 a 当たり1.5tとすると
窒素成分として約170tの窒素がこの地域に負荷されて
いる(表4)。したがって、地域全体では976 ha に対
して418t、すなわち10 a 当たりでは43 kg の窒素負荷
が存在することになる。
考
察
調査地域内の約1,000 ha の農耕地における窒素収支
を試算すると化学肥料からは248t、堆肥からは170tで
合計418tになる。この量から収穫物吸収量75.9tを引
いた342tが1年間に対象地域に負荷されたことになる。
83
愛 知 県 農 業 総 合 試 験 場 研 究 報 告 第 34号
表1 河川水の窒素濃度並びに窒素安定同位体自然存在比
試 料
窒素濃度
mg L-1
精進川左
9.5
炭焼川下流
12.0
梅田川
3.1
注)2001年11月30日採取
δ15N
備 考
‰
10.3
17.9
15.5
上流は主に野菜畑
上流に畜産団地
落合川合流前地点
表2 井戸水並び水田浅層地下水の窒素濃度
及び窒素安定同位体自然存在比 試 料
窒素濃度
井戸NT
井戸SN
井戸S3
井戸KM
井戸SS
井戸IG
井戸MW
水田1(1m深)
水田1(2m深)
水田2(1m深)
水田2(2m深)
水田3(1m深)
水田3(2m深)
δ15N
備 考
mg L-1
‰
m
45.4
15.7
6.5
32.8
6.1
7.5
66.7
19.5
8.0
41.1
11.8
8.0
5.0
15.3
26.0
4.4
20.4
30.0
0.2
測定できず
80.0
水稲、キャベツの輪作田
1.7
7.9
同上
35.5
4.8
2.0
31.9
灰色低地土水田
0.5
12.1
同上
グライ土水田
1.4
32.6
同上
採水できず
-
表3 調査地域の作付け面積及び施肥窒素量
並びに収穫物窒素吸収量
作付け面積
窒素施肥量
収穫物窒素吸収量
作 物
ha
t
t
水稲
150.0
12.6
6.2
麦・大豆
2.0
0.2
0.0
茶
27.6
16.6
2.6
ミカン
87.0
20.4
14.6
ナシ
26.0
7.8
1.1
(野菜)
683.0
190.9
51.4
タマネギ
70.0
14.6
6.8
スイカ
44.0
8.8
1.1
露地メロン
33.0
5.0
0.6
スイートコーン
20.0
5.8
0.4
牧草
10.0
1.2
2.5
その他
30.0
6.0
2.8
キャベツ
287.0
100.5
17.5
ハクサイ
73.0
24.1
5.3
ブロッコリー
22.0
6.6
4.5
タバコ
35.0
3.3
7.0
レタス
10.0
2.0
0.0
シソ
3.0
0.3
0.3
ダイコン
26.0
7.8
0.5
その他
20.0
5.0
2.2
合 計
975.6
248.2
75.9
注)井戸水は2001年10月29日採取、水田浅層水は同11月30日に採取
表4 堆肥からの肥料成分投入量
窒素
リン酸
加里
t
t
169.6
277.9
298.3
t
注)堆肥施用量1.5t/10a、施用面積736t
窒素成分:3.07%、リン酸:5.03%、
加里:5.4%、水分50%として計算
表5 調査地域の畜産飼養頭羽数(2001年度)
牛(16団地) 豚(11団地) 鶏(2団地) 鶉(3団地)
頭
頭
羽
羽
3,200
18,826
28,600
446,000
表6 野菜・畜産活動の活発な地帯を流れる河川流域の窒素流達率の解析
河 川
流域面積 窒素負荷量 窒素流出量 流達率
f1*f2
(f1)
k㎡
t
t
炭焼川
3.1
439
57.9
0.132
0.249
0.920
小川
0.8
17
4.9
0.294
0.169
0.660
落合川
4.4
144
36.2
0.252
0.235
0.690
精進川
3.1
136
29.1
0.213
0.180
0.534
梅田川
8.1
97
50.9
0.525
0.128
0.598
注)流達率=窒素流出量÷窒素負荷量
f1=畑、樹園地、草地からの流出水が水田等の湛水域を通過する比率
f2=同湛水域に流入する全水量(面積換算値)に対する同湛水域の面積比
梅田川及び落合川の窒素流出量は年間で179tであるか
ら見かけ上は窒素負荷量の52%が流出したことになる。
西尾は市町村別の地下水の硝酸性汚染リスク指標として、
作物別の非吸収窒素量を施肥窒素負荷原単位として、こ
れに栽培面積を乗じた値を市町村面積で除した値が有効
であると報告10,11)している。この方法にならって当調
査地域の地下水の硝酸性窒素濃度を試算すると水田も含
めた全農耕地では負荷量が342tに対して、年間降雨量
1,500∼1,700 mm のうち1,000 mm が地下浸透量したと
すると、地下水中の窒素濃度は35 mg L -1 と計算される。
また、流出負荷の少ないと考えられる水田を除いて計算
すると41 mg L-1 になる。ここでは河川への窒素流出量
を考慮していないため、この分を差し引くと、地下水中
の窒素濃度は17 mg L-1 となり当地域における深さ10 m
内の井戸水の窒素濃度が40 mg L-1 前後で推移している
ことと合わなくなる。単に施肥量及び堆肥由来窒素の負
荷量と作物非吸収量から当地域における地下水の窒素汚
染状況を説明することはできなかった。
(f2)
0.270
0.258
0.341
0.337
0.214
当地域には表5に示すように多数の畜産団地が分布し
ており飼養頭羽数も多い。畜産団地が多く分布する地域
を流れる炭焼川では窒素濃度が季節に関係なく高濃度で
変動すること、あるいはδ15N値が野菜畑と水田が多く
分布する地域を流れる精進川より大きいことからも、窒
素汚染源が化学肥料のみでなく畜産に起因する部分も大
きいと考えられ、当然そこからの窒素負荷も考慮する必
要があると判断した。これらの理由から、竹内12)に基づ
き、各支川流域ごとに農耕地に投入された窒素の河川へ
の流出特性を集水域の土地利用状況との関連で解析した。
各畜産団地からの窒素排出量3)は各支川の集水域ごとに
牛及び豚の飼養数からふん尿排泄量を求めた。次に堆肥
化過程でのアンモニア揮散分15)を差し引いたものを畜ふ
ん尿からの窒素負荷量とした。なお、鶏及び鶉ふんにつ
いては地域外への流通量が多いとして計量しなかった。
各支川の集水域面積は1:25,000地形図を利用して、等高
線を目安に区分して求め、各集水域の農耕地面積は土壌
図1)等を参考にした。表6に各河川流域ごとの窒素負荷
山田・白井・今川:赤黄色土露地野菜地帯における河川及び地下水の硝酸性窒素動態
量とその流達率の解析結果を示す。この表から窒素流達
率には集水域におけるf1×f2が大きいほど、窒素流達率
が小さい。つまり畑地排水の水田への配分が大きく、か
つそれを受け入れる水田面積が広く十分な滞留時間をと
れることが、窒素の河川への流達を妨げていることがわ
かる。窒素流達率とf1×f2の関連を示したのが図6であ
る。炭焼川では畑地排水の多くが水田を通過し、水田域
での滞留時間が長くなることによって浄化が進む結果、
窒素流達率が小さくなり、梅田川では水田を通過する畑
地排水の比率が小さいため窒素流達率が大きくなること
を示している。
農業用井戸水については浅井戸ほど硝酸性窒素濃度濃
度が高く、堆肥施用の多い野菜畑に隣接する井戸はδ15
N値が高い傾向が認められた。このことから浅井戸の窒
素負荷源として家畜ふん堆肥に由来するものが大きいと
判断した。深さ26∼30 m の井戸では窒素濃度は低下し、
δ15N値は15∼20‰と高い値を示した。当地区の地盤14)
は表層3 m までは赤黄色粘土でその下約16 m 深までは
粘土と砂利の混層が続き、25 m 深までは還元が発達し
た砂利、粘土層となっている。ち密な粘土層により窒素
の下降浸透が抑えられると同時に、還元層の存在による
脱窒の可能性が示唆された。最も深い80 m の井戸は年
間を通じて窒素濃度は0.0∼0.2 mg L-1 程度と低い。58
m 以深は岩盤となるこの深さまでは窒素汚染が及ばな
いものと考えられる。
地上から地下水に至る経路で窒素が除去される要因に
は水田での脱窒の可能性が大きいことを糟谷ら5)が報告
している。
本調査地域は標高50∼60 m の洪積丘陵地に露地野菜
を主体にして一部茶園が広がり、畑地から流出した硝酸
性窒素等の負荷物質は、その下の低地に広がる水田を経
由してから河川に流れ込むという土地利用の地形連鎖が
みられる。そこで、水田による窒素除去が期待できると
考え、水田の深さ1 m と2 m で採水した試料の窒素濃
度及びδ15N値を測定したところ、水稲・野菜の輪作田
で、透水性が極めて良好なため還元層が発達していない
水田1では窒素濃度は高く、δ15N値は低い現象が見ら
れた。一方、還元層の発達している水田2、3では窒素
濃度は低く、δ15N値は高い現象が認められた。当地域
に分布する水田は大部分が還元層の発達した灰色低地土、
グライ土壌からなり、上述したような地形連鎖がみられ
ることから、畑地からの排出水は水田での脱窒による窒
素浄化2)を受けてから河川に到達する部分が相当量ある
ものと示唆された。しかし、当地域を流れる河川、地下
水の硝酸性窒素濃度は全国的にみて非常に高濃度である。
施肥と堆肥投入に際しては施用許容量の範囲に留め、農
耕地からの窒素流出負荷量をできる限り少なくする土壌
管理技術の開発が緊急に必要である。
謝辞:試験遂行に当たり、東三河農業改良普及センター
(現東三河農林水産事務所農業改良普及課)の野菜・果
樹作物並びに畜産担当の方々には、現地における栽培の
概要や畜産に関する貴重なデータ等をいただいた。また、
84
取りまとめに当たって独立行政法人農業環境技術研究所
化学環境部水質保全ユニット竹内誠室長には水質解析に
ついて、養分動態研究ユニット井上恒久室長には堆肥等
が環境負荷に及ぼす影響の考え方について御教示頂いた。
記して感謝致します。
引用文献
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