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Ⅷ EU・メルコスール間の自由貿易協定交渉の状況
Ⅷ EU・メルコスール間の自由貿易協定交渉の状況 −SPS措置を視野に入れて− (中嶋委員) 1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 113 2.メルコスール設立の経緯 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 113 3.EUとメルコスールの交渉過程 1) 地域内枠組み協定 2) 政治協議 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 114 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 114 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 115 4.EUのメルコスールに対する支援と経済協力 1) 技術支援・経済協力 2) 水平的プログラム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 116 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117 5.EUとメルコスールの経済関係 1) EU・メルコスールの貿易 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 119 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 119 2) EU・メルコスール間の農業貿易の現状 6.衛生・検疫対策等に関する事項 1) SPS措置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 121 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 122 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 122 2) 規制・技術的規範・適合性評価 7.おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 116 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 123 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 124 −111− Ⅷ EU・メルコスール間の自由貿易協定交渉の状況 −SPS措置を視野に入れて− 1.はじめに EUとメルコスール(MERCOSUR:El Mercado común del sur、南米南部共同市場)との 自由貿易協定は、将来のアジア市場の需要の低下や中東欧市場での低い需要が予想される 中、メルコスール地域の市場規模(人口 2 億 1,700 万人、1 人当たり年間 GDP2,799 ユーロ、 2002 年)と将来の経済成長を見込んで対応が進められてきた1。ただし一方で、EU側はメ ルコスール地域からの農産物の輸出増加を懸念している。 以下では、現時点での EU とメルコスールの結びつき、EU からの支援、そして食品衛生・ 植物防疫措置(SPS)等の準備状況について説明していく。 2.メルコスール設立の経緯 メルコスールは、1986 年以来のアルゼンチン=ブラジル間のいくつかの経済協力をベー スに、1991 年に締結されたアスンシオン条約によって、ブラジル、アルゼンチン、ウルグ アイ、パラグアイから構成されている地域共同体である。この条約は、共同市場と関税同 盟の創設という意欲的な目標をかかげている。その後、オウロ・プレト議定書を 1994 年 12 月に締結して、2006 年までに共通市場の創設をさらに強力に進めることになった。 1995 年 1 月から域内関税は原則として撤廃したが、ただし、各国毎に保護品目が認めら れた。なおその時に全品目の約 85%にあたる品目(約 9,000 品目)につき対外共通関税率 (0∼20%)を適用している。域内貿易においてメルコスール原産とみなされれば関税ゼロ となるが、域内原産と認められるための現地調達率は原則 60%に設定された2。 1996 年にメルコスールはチリおよびボリビアと自由貿易協定を締結した。これはそれぞ れ「4+1」式の交渉をベースにしている3。2003 年にメルコスールをめぐって政治的変化 があった。アルゼンチンのキルチネル新大統領、ブラジルのルラ・ダシルバ新大統領が共 にメルコスールを最優先政治課題に掲げたことによる。 紛争処理手続きについては、ブラジリア議定書(91 年 12 月調印)が基本的枠組みを設け、 オウロ・プレット議定書が紛争処理も含めた関税同盟全体の実施・運営機関である貿易委 員会(CCM)の創設と役割を規定した。2004 年 1 月には、オリーボス議定書が発効して、 1 “European Union interests in Mercosur & Chile” http://europa.eu.int/comm/external_relations/mercosur/bacground_doc/report_nov99.htm 2 パラグアイについては、2008 年まで 40%、2014 年までは 50%、それ以降は 60%とされた。 3 1998 年に政治協議に関する共同機構を創設して、ボリビアとチリを含めて政治的メルコスール (Political MERCOSUR)化している。なお 2003 年 12 月にペルーを準加盟国に承認した。 −113− それにより同年 8 月、常設仲介裁判所がアスンシオンに設置されることとなった。 3.EUとメルコスールの交渉過程 1) 地域内枠組み協定 1992 年 5 月に制度間協力協定(Interinstitutional Cooperation Agreement between the Mercosur Council and the European Commission)を締結して、技術的・制度的支援を開始した。 1995 年 12 月にはマドリードで開催された欧州理事会で、EU・メルコスール間での地域 間枠組み協定(the Interregional Framework Agreement)に基づく関税同盟間の協定が合意さ れることになった。目的は、①財・サービスの貿易自由化、②WTOルールの適合、③協 力発展、④政治対話の強化を踏まえた地域間連合協定のための交渉準備である。 暫定的に 1996 年から適用された後、貿易関連の 20 以上の研究、3 つの合同作業部会、4 回の交渉ラウンド、1997 年 11 月のプンタ・デル・エステでのマラソン交渉、多くの重要な 研究・分析を経て、欧州委員会は 1998 年 7 月に交渉を開始するための提案をした。 これを受けて、1999 年 6 月にリオデジャネイロでのEU=メルコスール首脳会合で正式 に地域間連合協定を締結して、財とサービスすべての貿易の自由化、協調強化、政治対話 の緊密化を対象とした連合交渉の開始を決定した。1999 年 9 月に閣僚理事会で交渉指令が 正式に承認された。同協定により、①定期的政策協議、②将来の自由化に備えた高度な貿 易協力、③互恵的経済協力、④域内統合における協力、⑤その他の幅広い分野の協力が進 められている。 地域間連合交渉は、WTO(世界貿易機関)規則に準拠した財・サービスの貿易自由化 による両地域間での貿易圏の創設を目的としている。この協定は、政府調達、投資、知的 所有権、競争政策、SPS(食品衛生・植物防疫)措置、TBT(貿易の技術的障壁)関 連事項、ワイン・酒、ビジネス円滑化、セーフガード、紛争解決に関する市場アクセス/ 規則を包括的検討の対象としている。 その中で非関税要素の交渉をすぐに開始すること、2001 年 7 月 1 日に関税とサービスに 関する交渉を開始すること、ただしWTO交渉を考慮してしばらくの間は関税とサービス と農業等に関する対話はしないこととした4。交渉の場は、BNC(EU-Mercosur Biregional Negotiation Committee)、SCC(Subcommitte on Cooperation) 、3 つのサブグループ、3 つの 技術部会で行うこととされた。 2000 年 4 月から 2004 年 4 月までに 13 回の交渉ラウンドが開催された5。以下は関連する 4 “Interregional Framework Cooperation Agreement between the European Community and its Member States, of the one part, and the Southern Common Market and its Party States, of the other part”, OJ L069, 19/03/1996 p.0004-0022 - L112 29/04/1999 p.0066. 5 2003 年 5 月に関税率に関する交渉に大きな進展がみられた。メルコスールの提案はEUからメルコスー ルへの輸出の 83.5%をカバー、EUの提案はメルコスールからEUへの輸出の 91%をカバーするものであ った。サービスと投資に関する当初の提案は、この 2003 年 5 月に交換されて、両者は同時期に各関税率提 −114− 交渉会議の一覧である。 第 1 回ラウンド 2000 年 4 月 ブエノスアイレス 第 2 回ラウンド 2000 年 6 月 ブラッセル 第 3 回ラウンド 2000 年 11 月 ブラジリア 第 4 回ラウンド 2001 年 3 月 ブラッセル 第 5 回ラウンド 2001 年 7 月 モンテビデオ 第 6 回ラウンド 2001 年 10 月 ブラッセル 第 7 回ラウンド 2002 年 4 月 ブエノスアイレス 閣僚級会合 2002 年 7 月 リオ 第 8 回ラウンド 2002 年 11 月 ブラジリア 第 9 回ラウンド 2003 年 3 月 ブラッセル 第 10 回ラウンド 2003 年 6 月 アスンシオン 第 5 回メルコスール・EUビジネスフォーラム 第 11 回ラウンド 2003 年 12 月 ブラッセル 第 12 回ラウンド 2004 年 3 月 ブエノスアイレス 第 13 回ラウンド 2004 年 5 月 ブラッセル 閣僚級会合 2003 年 11 月 ブラジリア 2004 年 10 月 リスボン 2003 年 11 月 12 日の閣僚級交渉では、交渉の最終段階における意欲的な行程表に合意し た。2004 年には、この計画にしたがって 2004 年内の連合交渉妥結に向け、4 つの交渉ラウ ンドと 2 つの閣僚級貿易交渉人会合(5 月のEU−LACサミット、10 月のブラッセル) が開かれる。 2) 政治協議 95 年の枠組み協定以降、これまでの非公式協議が、首脳級、閣僚級、政府高官級の各レ ベルで公式化・制度化された。 1996 年以来、7回の合同閣僚級会合が開催された(1996 年 ルクセンブルグ、1997 年ノールトヴェイク、1998 年パナマシティ、2000 年ビラモウラ、2001 年サンチャゴ、2002 年マドリッド、2003 年アテネ)。1996 年以来、国連総会の際に閣僚級 会合が開かれている。 1999 年 11 月にブラッセルでEU=メルコスール協力協議会の第1回閣僚級会合が開催さ れた。第 2 回会合は 2001 年 6 月にルクセンブルグで開催された。 案と改善に向けた要求事項を交換した。バイオエタノール、トウモロコシ、低品質小麦を含むセンシティ ブ農産品について 2 段階輸入関税割当を提案し、オリーブオイルと小麦を含めて 10 年以内に関税撤廃を予 定している。ただし確定はしていない。EUはほとんどの農産物の輸入関税を撤廃すると申し入れたが、 しかし一方で数多くのセンシティブ品目(バイオエタノール、トウモロコシ、牛肉、鶏肉を含む)につい て関税割当を拡大しようとしている。EU側は関税割当の緩和について 2 段階のプロセスを予定していて、 第 1 は 2 国間協定が調印されたとき、第 2 はWTO交渉が終了した時である。 −115− 2002 年 5 月にマドリッドのEU=メルコスールサミットで行動計画が採択された。最近の アテネ閣僚級会合で取り上げられた議題は、以下の通りである。 ・EU=メルコスール地域統合過程の発展 ・EU=メルコスール交渉の状況に関する評価 ・国際ファーラムにおけるEU=メルコスール政治協力の強化 ・国際的状況:新たな挑戦 4.EUのメルコスールに対する支援と経済協力 1) 技術支援・経済協力 EUは、メルコスールの統合を 1991 年当初から支援してきた。EU=メルコスール間の 協力・技術支援は 1992 年制度間協力協定をベースに始まっている。1995 年にはそれが強化 された。EUは、2000∼2006 年の間に地域間・二国間協力でおよそ 2 億 5,000 万ユーロの 援助を行うことになっている。内訳は、メルコスール全体に対して 4,800 万ユーロ、アルゼ ンチンに対して 6,570 万ユーロ、ブラジルに対して 6,400 万ユーロ、パラグアイに対して 5,170 万ユーロ、ウルグアイに対して 1,860 万ユーロである。 2001 年 6 月に、EUとメルコスール間で 2006 年を目途とした二国間・地域間覚書MOU がかわされた。そこで財政的・技術的支援と経済協力のガイドラインが示された。それら は、①制度事項(1,250 万ユーロ)、②域内市場(2,100 万ユーロ)、③市民社会(1,450 万ユ ーロ)からなる。ここで始めて「市民社会」を目標にした支援が開始されることになった。 MOUで示された域内および各加盟国における課題は次の通りである。 ・メルコスール:メルコスールの制度化、域内市場の完成、市民社会参画の強化 ・アルゼンチン:制度改革、貿易・経済振興、情報社会、投資促進、消費者政策 ・ブラジル:経済改革、行政機構、社会開発、科学・技術、環境 ・パラグアイ:国家機構近代化、貿易・投資振興、持続的開発、貧困対策 ・ウルグアイ:経済改革、国家機構近代化、地域統合、社会開発、環境、科学・技術 続いて欧州委員会は、2002 年 9 月に「メルコスール地域戦略ペーパー6」を採択したが、 そこで改めてEUは次の 3 分野への協力に焦点をあてることを明示した。 ①メルコスール共同市場化 −メルコスール域内市場の改善 −メルコスール外国貿易統計の改善 −メルコスール域内の中小企業への支援 −国境面での支援 −動物衛生・植物衛生基準の改善 6 European Commission External Relations DG “Mercosur - European Community Regional Strategy Paper 2002-2006 (CSP)” 10 September 2002 −116− −技術的規制の協調 −科学技術への支援 ②メルコスール機構化 −行政事務局SAM(Secretaria Administrativa de Mercosur) −議会委員会CPC(Comision Parlamentaria) −関税同盟 −通貨研究所の創設 −マクロ経済政策の協調政策 −情報技術を利用した都市環境管理計画「Mercociudades (the Mercosur Cities Network)」 −調停制度 −部門政策の調和 −統計統合機関の実行、持続的統合地域統計システムの創設 −環境に関する共通市場グループ SGT6 ③メルコスールにおける民主化 −教育、文化、視聴覚部門、情報社会など市民社会の機能 −社会的決定 メルコスール機関への制度的・財政的支援としては、 すでに以下の通り実施されている。 −行政事務局SAM(90 万ユーロ) −合同議会委員会CPC(91 万 7,175 ユーロ) −経済・社会諮問フォーラム( 95 万ユーロ) −常設仲介裁判所(31 万ユーロ) −関税統合フェーズⅡ(530 万ユーロ) −動物衛生・植物検疫規則( 600 万ユーロ) −技術的基準・規格( 395 万ユーロ) −統計統一(413.5 万ユーロ) −マクロ経済政策統合(710 万ユーロ) 2) 水平的プログラム EUはメルコスールだけでなく、ラテンアメリカ、カリブ海諸国への戦略的パートナー シップを築くために水平的な協力援助を続けている。1998 年に、EUおよびラテンアメリ カ・カリブ海諸国のサミット会合が、リオデジャネイロで開催された。そこでは、政治的、 経済的、文化的な交流をより強固なものにしていくことが狙いであった。2002 年には、マ ドリッドで 2 度目のサミットが開催された。ラテンアメリカ、カリブ諸国からは 33 カ国が −117− 参加した7。 水平的プログラムごとの援助内容は以下の通りである。 【高等教育・研究】 −ALßAN:2002 年 5 月に開始した。ラテンアメリカのポスドク学生がEU内で研究できる ようにするための奨学金制度である。初年度は 251 名の採用があった。そのうち 193 名が 研究の場としてスペインとイギリスを選択した8。 −ALFA(Latin American academic training) :高等教育研究所間協力の促進プログラムである。 2000 年∼2005 年が第 2 フェーズであった(ALFAⅡという)。4,200 万ユーロの予算が認め られている。 −OREAL(Observatorio de las Relaciones UE-AL) :2003 年 9 月に認められた。2 地域間のパ ートナーシップの特定と発展をめざす。地域・部門問題の良好な理解を促進するために両 地域の研究所のネットワークを活用する。 【経済協力】 −AL-INVEST:欧州からラテンアメリカの技術近代化や経営への投資を促進させる 1993 年 に発足したプログラムである。これまで 3 万件以上、2 億ユーロ以上の投資・取引合意の 成果をあげている。フェーズⅢは 2004 年∼2007 年の期間で実施され、4,200 万ユーロの 予算が組まれている9。 【情報社会】 −@LIS(Alliance for the Information Society):情報・コミュニケーション技術の利用を促進 することで、デジタル・デバイドを解消することを目的にしている。地域社会からのニー ズへの対応、政策・規制に関する対話の促進、両地域における研究集団間での相互接続能 力の向上が目的である。19 のプロジェクトが、ローカルガバナンス、教育・文化多様性、 公衆衛生、社会参加の面で成果を上げている。212 組織(103 が欧州、109 がラテンアメ リカ)が参加している10。 【エネルギー】 −ALURE: (官民さまざまな形態での)供給主体による最適で合理的なエネルギー利用を促 進するものである。このプログラムは 2002 年に終了した。1996 年から 2001 年までに、 ガス・電力部門で 100 社の関与した 25 のプロジェクトが実行された11。 【都市開発】 −URB-AL:このプログラムは、都市政策領域における「最適規範(best practices)」の普及、 7 マドリッドサミットは、EUとチリとの政治対話、協力、段階的な自由貿易地域の導入についての協定 について協議する場でもあった。 8 http://www.europa.eu.int/comm/euro-peaid/projects/alban/index_fr.htm 9 http://www.europa.eu.int/comm/euro-peaid/projects/al-invest/index_fr.htm 10 http://www.europa.eu.int/comm/euro-peaid/projects/alis/index_en.htm 11 http://www.europa.eu.int/comm/euro-peaid/projects/alure/index_en.htm −118− 習得、適用によって、両地域間の直接的で強固な連携を確立しようとするものである。7 年間に、1 万 2,000 以上の地方自治体で 2,000 事例の参加があった。1996 年∼2000 年の第 1 フェーズの予算額は、1,400 万ユーロであった。現在は、2001 年∼2006 年の第 2 フェー ズで、5,000 万ユーロの予算が組まれており、新たな以下の 5 つのテーマが設定された。 地方財政・参加型予算、都市貧困の克服、地方意思決定機関における女性の役割の振興、 街・情報社会、市民の安全である 12 。 【社会的結束】 新しいプログラム“The Social Initiative”が創設された。貧困の根絶と社会的平等の追求が 2002 年マドリッドサミットで主要な目標として言及された。 5.EUとメルコスールの経済関係 1) EU・メルコスールの貿易 メルコスール地域の貿易(輸入+輸出)は活発であり、対 GDP 比率は 26.75%にのぼっ ている。2002 年のメルコスールの輸入金額は 680 億ユーロ(世界全体の 1.29%)、輸出金額 は 940 億ユーロ(世界全体の 1.91%)であった。 EUはメルコスールの主要な貿易相手先であり、そして最大の海外投資元である。EU は、メルコスールの輸入相手先として第1位(33%)であり、また輸出先としても第 1 位 (39%)である。一方、メルコスールはEUの輸入額の 2.44%、輸出額の 1.83%の割合を しめている。メルコスールはEUの輸入先として第 2 位、輸出先として第 5 位である。 総計 農産物 水産物 工業製品 表 1 メルコスールとEUの貿易関係 EU15 輸入 EU15 輸出 年平 (メルコスールから) (メルコスールへ) 均成 長率 1995 2003 1995 2003 百万 百万 百万 百万 % % % % % ユーロ ユーロ ユーロ ユーロ 15,033 100 24,659 100 6.4 16,872 100 15,275 100 7,507 50 12,279 50 6.3 1,219 7 633 4 260 2 802 3 15.1 27 0 14 0 7,266 48 11,577 47 6.0 15,626 93 14,628 96 年平 均成 長率 % -1.2 -7.9 -8.0 -0.8 出典:欧州委員会ホームページ 資料: Eurostat COMEXT 14 May 2004 (Statistical regime 4) 表 1 によれば、メルコスールからEUへの貿易額は、1995 年から 2003 年の 8 年間に年率 6.4%で成長している。他方、EUからメルコスールへの貿易額は年率マイナス 1.2%で減少 している。ただし別の資料によれば、1980 年から 2002 年までにメルコスールからのEUへ 12 http://www.europa.eu.int/comm/euro-peaid/projects/urbal/index_en.htm −119− の貿易額は年率 5.32%で増加、EUからメルコスールへの貿易額は 5.22%で増加していた。 90 年代後半になってEUからメルコスールへの輸出が減少に転じた。 なおメルコスールからEUへの輸出品は圧倒的に農産物が多い。工業製品の割合は、輸 送機械、一般機械、化学製品がそれぞれ 4∼7%程度であり、その他様々な製品が輸入され ている。一方、EUからの輸出品は、一般機械、輸送機械、化学製品が中心で、それぞれ 20∼30%の割合である。 ところでEU・メルコスール間の海外直接投資であるが、圧倒的にEUからの資金流入 が多い。新規ベースでは、EU→メルコスールは、2000 年が 265 億ユーロ、2001 年が 165 億ユーロ、2002 年が 56 億ユーロと減少してきている。そしてメルコスール→EUでは、2000 年が 6 億ユーロ、2001 年が 5 億ユーロ、2002 年が 7 億ユーロでほぼ一定である。なお残高 ベースでは、EU→メルコスールは、2000 年が 1,180 億ユーロ、2001 年が 1,273 億ユーロ、 2002 年が 1,329 億ユーロで少しずつ増加している。逆にメルコスール→EUでは、2000 年 が 36 億ユーロ、2001 年が 30 億ユーロ、2002 年が 37 億ユーロであった。 −120− 2)EU・メルコスール間の農業貿易の現状 農産物計 原料農産物 穀物 油糧種子 うちオリーブ 畜産物 酪農品 青果物,綿花, タバコ うち青果物 うち綿花 砂糖 うちさとうきび, ビート 熱帯農産物 その他 加工農産物 ワイン, ベルモット酒 その他酒 うちビール うち蒸留酒 清涼飲料, ジュース 調理食品 タバコ 非特定品 表2 メルコスールとEUの農業貿易関係 年平 EU15 輸入 EU15 輸出 均成 (メルコスールから) (メルコスールへ) 長率 1995 2003 1995 2003 百万 百万 百万 百万 % % % % % ユーロ ユーロ ユーロ ユーロ 7,507 100 12,279 100 6.3 1,219 100 633 100 6,829 91 11,455 93 6.7 644 53 391 62 77 1 444 4 24.5 115 9 121 19 3,353 45 6,533 53 8.7 48 4 53 8 0 0 3 0 23.4 44 4 46 7 1,049 14 1,682 14 6.1 60 5 29 5 41 1 139 1 16.4 229 19 18 3 831 11 1,271 10 5.4 92 8 45 7 381 5 825 7 10.1 63 5 32 5 108 0 25 0 -16.6 1 0 6 1 38 1 30 0 -2.6 1 0 4 1 37 0 25 0 -4.7 0 0 0 0 1,077 14 1,009 8 -0.8 29 2 26 4 363 5 347 3 -0.5 69 6 95 15 676 9 813 7 2.3 569 47 234 37 29 0 76 1 12.5 62 5 49 8 28 0 28 0 -0.2 236 19 88 14 0 0 1 0 17.6 26 2 1 0 6 0 13 0 11.4 183 15 86 14 601 8 680 6 1.6 7 1 8 1 17 0 29 0 6.7 261 21 83 13 0 0 0 0 4.3 2 0 6 1 2 0 12 0 25.6 6 1 8 1 年平 均成 長率 % -7.9 -6.1 0.6 1.3 0.7 -8.7 -27.3 -8.5 -8.1 27.1 14.5 -33.0 -1.4 4.0 -10.5 -3.0 -11.7 -30.3 -9.0 1.6 -13.3 15.7 3.9 出典:欧州委員会ホームページ 資料: Eurostat COMEXT 14 May 2004 (Statistical regime 4) 表 2 で示されるように、農産物貿易に関してEUはメルコスールに対し、2003 年には 116 億ユーロの大幅な輸入超過状態にある。EUのメルコスールからの農産物輸入額は、75 億 700 万ユーロ(1995 年)から 122 億 7,900 万ユーロ(2003 年)に伸びている(年率 6.3%)。 一方、なお参考までにEUのアメリカからの農産物輸入は、約 70 億ユーロ、NAFTA から は約 86 億ユーロであった。メルコスールはEUにとって最大の輸入相手国である。EUか らメルコスールへの農産物輸入額は、12 億 1,900 万ユーロ(1985 年)から 6 億 3,300 万ユ ーロ(2003 年)へ減少(年率マイナス 7.9%)している。 なお農産物貿易の内訳をみると、メルコスールからEUへ向けては、油糧種子・油脂が 53%、畜産物が 14%、熱帯農産物が 8%、青果物が 7%となっている。一方、EUからメル −121− コスールへ向けては、ワイン・酒が 23%、穀物が 19%、加工品が 14%、オリーブ油が 7%、 青果物が 5%となっている。品目に明らかな相違が見られる。 表3 農産物貿易の国別内訳 (単位:百万ユーロ) ブラジル アルゼンチン ウルグアイ パラグアイ EUへ輸出 1995 年 2003 年 4,522 7,828 2,682 3,935 183 281 120 235 EUから輸入 1995 年 2003 年 870 488 191 71 73 55 85 20 出典:欧州委員会ホームページ 資料: Eurostat COMEXT 14 May 2004 (Statistical regime 4) 表 3 に示すように最大の農産物貿易相手国はブラジル、次いでアルゼンチンであるが、 ウルグアイとパラグアイはわずかである。ただしパラグアイは、EUへの農業貿易依存率 が高い(輸出は 81%)。 今後、自由貿易協定によって、現在高い関税と国内税が課せられている分野でEUから の輸出が増加することが考えられる。EUにとって期待される分野として取り上げられて いるのは、ウイスキー(関税率 35%)、乳製品(関税率 31∼55%)、チョコレート・菓子類 (関税率 25%)、ワイン、ビスケット(関税率 35%)である13。 6.衛生・検疫対策等に関する事項 1) SPS措置 メルコスールとの協議における動物衛生・植物防疫(SPS)規則の課題は、次の通り である。 ・メルコスール国側がEUの基準にあわせる:食品安全と農業環境 ・相互情報システム、緊急警告システムの構築 ・トレーニング制度の組織化、技術的支援 ・メルコスールおよびチリへ二国間支援: 419 百万ユーロ(1994 年∼98 年) そしてSPS措置に関しては以下の 4 点を原則として導入が図られている。 ①メルコスールは農産物の純輸出国であり、食品衛生と植物防疫の域内独立性を保ってい る。一方で国際貿易上の競争優位性を構成することとして、最良な現在の食品衛生・植物 防疫状態を維持するための措置としてゾーン化と地域化の技術的・科学的原則を適用して いる。 13 “European Union interests in Mercosur & Chile” −122− ②加盟各国間での食品衛生・植物防疫状況について最良の水準を保ちつつ同等にする。 ③メルコスール諸国が第 3 国に適用する食品衛生・植物防疫措置は、WTO協定によって 定められた原則と規律および国際機関の基準に準拠することとする。 ④食品衛生・植物防疫の調和は、達成済みのものも調整中のものも、要求事項を各加盟国 における状況に応じたリスク分析に従って確立させつつ、第 3 国に対して差別的にならな いようにしながら、メルコスール域内貿易を促進させていくものとする。 1998 年ごろには、アルゼンチンとウルグアイはその時点でEUとの食品衛生・植物防疫 措置に関する協定プロジェクトの草稿を作成していた14。それは、関連措置の相互承認、両 地域に適用される動物衛生・植物防疫に関する同等な措置の受諾、疾病の地域化の理解を 確立するためのものである。この種の二国間協定によって、輸入品の国境検疫の軽減を認 めることが期待されていた。 しかしその後、衛生問題の交渉は遅れ気味である。第 10 回ラウンド(2003 年 6 月)での SPS関連の議論は、「定義」、「透明性」、「地域化」、「同等性」の 4 課題に焦点を当ててい たが、それは原則論の段階に止まった状態であった。またこの回にEU側は動物福祉問題 を提起している。第 11 回ラウンド(2003 年 12 月)では、この同等性、地域化、定義につ いて議論されたが、合意に至っていない。ただし第 12 回ラウンド(2004 年 3 月)になると SPS条項の交渉に進展があった15。以前の交渉ラウンドにおいて、SPS条項の進展は、 メルコスール側の「二地域間交渉アプローチ」に反対する態度によって、難しい状況にあ ったと言われている。このアプローチでは、メルコスール内 4 カ国が地域統合の最低限の 水準を満たしつつ、SPS条項を調和させることができるかどうかを、SPS条項に関す る交渉の前提条件としている。この交渉を進展させるうえで、地域化の定義や(特に動物 疾病の清浄地域を特定する)非汚染地域の確認方法が両地域間での輸出に大きな影響をも たらすことになる。第 12 回ラウンドでは、メルコスール側が、SPS条項に関して理解を 示すようになり、二地域間行政機構、通告地点、共通輸入条件の作業について合意した。 しかし依然として完全に合意できるまでには、多くの課題が残っているという。なお、ウ ルグアイおよびアルゼンチンは、豚コレラを理由にヨーロッパからの豚肉と豚肉製品の輸 入を禁止している。EUはこれに対して非汚染地域の定義について理解が異なっていると 避難している16。 2) 規制・技術的規範・適合性評価 欧州委員会とメルコスールは、それぞれの地域における技術的貿易障壁の引き下げに取 14 ”Joint Photography of Trade Relations between the European Community & Mercosur”(1998 年 4 月 27 日) http://europa.eu.int/comm/external_relations/mercosur/bacground_doc/photo_report.htm 15 “SPS-News” newsletter from the European Commission - DG Trade-C2-SPS&Biotechnology Team, 2nd Edition April 2004 16 “SPS-News” newsletter from the European Commission - DG Trade-C2-SPS&Biotechnology Team, 4th Edition September 2004 −123− り組んでいる。技術的規制は、健康、安全、環境保護、消費者保護を確保するために利用 されていて、規制文書(要求事項)と適合性評価手順がその中心的役割を果たす。欧州で の標準化プロセスでそうであったように、調和された技術的規制は、国内規制を優越する ことになる。 メルコスールでは、アスンシオン条約とオウロ・プレト議定書によって、財の域内自由 移動を保証する共通市場を設立するため、必要な法的原則を提供している。域内貿易に影 響する技術的規制は、メルコスール共通市場グループの特別作業部会(SGT-3)によって扱 われている。他にはテレコミュニケーションは SGT-1、農業は SGT-8 が担当している。共 通市場グループに承認された技術的規制は、少なくとも 180 日以内に国内規制に組み込ま れることになっている。 メルコスール標準化委員会(MCS)が、メルコスール内の規格を決定する責任をもっ ている。SGT-3 において 1991 年にその設立が提案されて、1993 年から標準化を開始した。 国際標準としてはISOとCEI、地域標準としてはヨーロッパのCOPANT、CEN、 CENELEに準拠している。MCSは 4 カ国の標準化機関から構成される。MCSでは、 16 の部門別委員会がある。適合性評価機能は、薬品、食品部門において、EUとメルコス ール両方で定期的に利用されている。薬品のような部門では、EUとメルコスールの両方 で、査察が定期的に実施されている。試験は、基本的に認定制度を通じた組織化がされる ように、メルコスールで準備が進められている。 EUでは、製造物責任および製品保障指令が、製品安全を保証している。そして市場サ ーベイランス機関が、国内機関の管理の下、市場内の製品の成果を査察している。EUの 部門ごとの水平的な規制が共通基準を設けている。これら制度の構築は、メルコスールに とってのTBT規則上の課題となっている。 7.おわりに EUはSPS措置を重視している。経済統合は、一般に①自由貿易地域、②関税同盟、 ③共同市場、④経済同盟、⑤完全な経済統合と区分されている17が、EUは共同市場の創設 時にSPS措置(輸入検疫の撤廃)の共通化に取り組んだ。これは非常に先進的な試みで あり、他の自由貿易地域においては必ずしも同じようには実現していないことに注意すべ きである。 EUとメルコスールとでは、経済統合の進展段階が異なる。これら 2 つの地域が自由貿 易協定締結を試みる上で、例えばSPS措置をめぐる交渉の難しさが、EU=メルコスー ルのケースからうかがうことができる。そこでは 2 段構えの交渉が必要になっている。E Uの要求水準が高いので、まずメルコスール内でのSPS措置の調和が行われなければ、 17 バラッサの経済統合の理論による。 −124− EU=メルコスール間の調和には進めない。もちろんEUはそのことを承知しており、協 定交渉に先駆けて数多くの支援・協力を行ってきているのである。 −125− −126−