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オンライン自助コミュニティ における社会的相互作用

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オンライン自助コミュニティ における社会的相互作用
オンライン自助コミュニティ
における社会的相互作用
●パニック障害掲示板の分析
2005 年 4 月
川浦康至
松田光恵
坂田正樹
0
1
まえがき
インターネット空間はよくも悪くも、わたしたちに「社会的マイノリティ」と出会う機会を一気に増や
した。
「悪くも」の事例は、この二、三年社会問題化した「ネット自殺」だろう。自殺志願者をリアルワー
ルドで探すのはきわめてむずかしい。しかし、インターネット上であれば、サーチエンジンでキーワード
さえ指定すれば、自殺関連の掲示板やサイトは容易に見つかり、そこへ行けば、志向を共有する人たちと
一定のコミュニケーションを図ることができる。こうした場で、自殺否定者は相対的に少ないと考えられ、
肯定者ばかりが集まることで「集団成極化」原理がはたらく可能性も高い。確たる信念がないまま、当事
者同士の議論はエスカレートし、なりゆきで実行に移す人が出てきてもおかしくない。もちろん、インタ
ーネットのおかげで自殺せずにすんだケースも存在しよう。しかし、その性格上、未遂は顕在化しにくく、
数字として把握するのはむずかしい。結果として自殺に至ったケースばかりが報じられることとなる。
かたや、難病患者やその家族、単身赴任者というマイノリティにとって、ネット上のコミュニティはソ
ーシャルサポート、相互交流の場として機能している。こちらは、もちろん「よくも」の例である。かれ
らにとって、ネットコミュニティは当事者の気持ちや経験を共有する貴重な場となっている。
こうしたネットコミュニティのポジティブ性を高める要因を研究したいと思っているとき、授業で知り
合った大学院生がパニック障害であることを開示し、その「病気」と向かい合うために(
「付き合うために」
かもしれない)
、インターネットを活用したいと申し出てきた。きっかけは拙論「メディアと自己表現」だ
とも教えてくれた(カミングアウトの効用(とリスク)にふれられている)。ならば、ということで、一緒
に勉強してきたもう一人の院生もまじえ、3 人の研究プロジェクトを立ち上げることになった。関連論文
を読み、研究法やデータ解析も学びながら、
「体験」兼「研究」の日々が始まった。
本報告書は、その二人の大学院生(成城大学)
、すなわち坂田正樹さんと松田光恵さんとの、ちょっと風
変わりな共同研究の成果である。なお本報告書の一部は、日本社会心理学会第 45 回大会(北星学園大学)、
および「成城コミュニケーション学研究」第 5 号で発表されている。
今回の研究で用いた Yahoo!掲示板の発言ログは、YBCollection(フリーウェア)を用いてファイル化
された。このソフトがなければ、今回の研究はもっと時間がかかっていた。この場を借りて、作者の村井
あきらさんに感謝したい。
2004 年 8 月
付記
報告書の本文はほぼできあがっていたのだが、その後、川浦の多忙により、仕上げの作業が遅れに
遅れ、上記「はしがき」の執筆からほぼ半年たった 4 月、ようやく完成にこぎつけた。ご高評を仰ぐ次第
である。
2005 年4月
研究メンバーを代表して
川浦康至
1
もくじ
まえがき
第1章
……………………………………………………………………………………………
オンライン自助コミュニティにおけるコミュニケーション
1
…………………………
3
…………………………………………………………………………
7
問題
先行研究
方法
第2章
掲示板の内容分析
問題
方法
結果と考察
第3章
ネットコミュニティにおける「オフ会」の役割
………………………………………
12
……………………………………………………
16
問題
方法
結果と考察
第4章
ネットコミュニティのセラピー効果
はじめに
カミングアウトの効果
先行研究に見るネットコミュニティへの期待
パニック障害の定義と実情
パニック障害の歴史
新聞記事に見るパニック障害
ネットコミュニティの紹介
第5章
掲示板アクティブユーザーへのインタビュー
…………………………………………
25
…………………………………………………………
32
……………………………………………………………………………
42
はじめに
インタビュー記録
考察
付録 1
体験的ネットコミュニティ論
付録 2
YBCollection
2
第1章
オンライン自助コミュニティにおける
コミュニケーション
川浦康至・松田光恵
1. 問題
インターネット上にはメーリングリストや掲示板によるコミュニティがいくつも形成されている。そこ
では共通の趣味や関心を媒介にさまざまな相互作用が図られている。そうしたコミュニティの中に自助コ
ミュニティも多数含まれ、実質的にピアサポートの場となっている。
こうしたオンライン自助グループには、White and Madara (2000)によれば、オンライン自助グループ
活動にはつぎのようなメリットがあるという。
①ソーシャルサポート源ないしコミュニティ(Social support or Community):参加者は互いの経験を共
有することで、孤立感が軽減し、仲間がいる(ひとりぼっちではない)という感じをいだく。
②実用情報の入手(Practical information):24 時間いつでも必要な情報を得られる可能性がある。
③経験の共有(Shared experiences):自らの経験や精神力、望みを共有し、問題への対処方法が得られ
る。
④参考となる役割モデルの取得(Positive role models):問題や障害を克服した人に出会え、そこから合
理的なノウハウが学べる。
⑤ヘルパーセラピー(Helper therapy):他者をサポートすることによって、自尊心や自己評価が高まり、
本人の問題解決にもつながる。
⑥励み(Empowerment):健康管理や回復のための方法がわかり、本人の健康に対する意識が高まる。
⑦専門的サポート(Professional support):手助けし、現場を学びたがっている専門家がしばしば参加し
てくるので、専門的なサポートが得られる可能性も高い。
⑧コミュニティグループとのつながり(Links with community groups):地域や他のセルフサポートグル
ープ、会合に参加する機会が得られる。
⑨支持的な取り組み(Advocacy efforts):単独では解決不可能な問題にもかかわれる機会をもたらす(社
会運動へのつながり)。
オンラインサポートそのものによる多様な効果はもとより、実社会(ネット外の生活空間)への波及効
果も期待されていて、両者が組み合わさることで、オンライン上の相互作用も一層の効果を発揮する。
2. 先行研究
ピアサポートを明確に意図しない場、すなわち一般のニュースグループや掲示板でも、結果として、こ
3
れらのメリットを提供している可能性がある。以下では、それも考慮しながら、電子コミュニティにおけ
る発言行動に注目した研究例をみてみよう。
Winzelberg(1997)は、摂食障害者のニュースグループを調査し、投稿内容の分析を行った(投稿者の内
訳は女性 68 名、男性 2 名)。かれは、3 か月間にわたる 306 発言をつぎのような 7 カテゴリーで分類した
(百分率の数字はそれぞれ出現比率をあらわす)
。
①サポートの要求(e.g. I need help , Do you feel the way I do? )5%
②サポートの提供(e.g. You re great as you are )16%
③情報の要求(e.g. Do you know the effects of the chronic use of Epson salt as a laxative )7%
④情報の提供(e.g. Laxatives use can lead to dehydration )23%
⑤自己開示(e.g. I have been bulimic for two years )31%
⑥自己開示の要求(e.g. What type of therapy are you getting )4%
⑦その他(e.g. I m really busy tonight but I promise I ll write you tomorrow )15%
自己開示が最も多く見られ、以下、情報提供、サポートの提供となっている。これらの 3 カテゴリーは
いずれも「提供」行為であり(自己開示は個人情報の提供とみなせる)
、サポート要求や情報要求といった
「要求」行為は限られている。
実際の内容は、
「家族や友人などの外的プレッシャーの処理の仕方」
「回復期間の体重増加の処理の仕方」
など、6 つのカテゴリーに大別された。多くの参加者は、従来の支援施設が開いていない夜間に利用して
いた。またネット上のサポートグループのメンバーは、対面式サポートグループのメンバーが行うのと同
様の援助方法を利用している。これらネット上のサポートグループは、自立するための支援サービスを低
コストで利用できる革新的な場として機能している。
メディカル・サポート・グループ(掲示板)を扱った Preese(1999)によれば、500 件の発言は以下のよ
うな比率に分かれたという。
①共感 44.8%
②非共感 0%
③質問・回答 17.4%
④個人的語り 32.0%
⑤その他 5.8%
「共感」と「個人的語り」の2カテゴリーで、発言の 3/4 強が占められている。上記の Winzelberg(1997)
同様、「与える」行為が圧倒的に多く、「非共感」は皆無だった。メディカルサポートグループにとって、
掲示板コミュニティは他者とコンタクトをとるための手段となっている。
抑うつに関するニュースグループと糖尿病に関するニュースグループの内容を比較した研究がある。分
析に用いられたカテゴリーは、
「情報」
「自尊心」
「道具的サポート」
「交際」
「その他」の 5 つである(Muncer,
Loader, Burrows, Please, and Nettelton, 2000)。Muncer らによれば、糖尿病 NG は抑うつ NG にくら
べ、情報(的サポート)が多く、交際と自尊心が少なかった。抑うつ NG は「情報」ではなく「交際」を
重視し、相互作用も活発である。ネットワーク分析の結果でも、抑うつ NG は相互の結びつきが強い。他
方、糖尿病 NG は「情報」交換で支えられているため、やりとりする相手が限られている。こうした違い
は抑うつ(精神疾患)と糖尿病(器質疾患)という疾患の一次的性格上の差異を反映している。
つぎに、メディカルサポートの発言状況を相対化するため、Galegher らが行った研究を見てみよう
(Galegher, Sproull, and Kiesler, 1998)。かれらはサポート掲示板(関節炎、注意欠陥、うつ)と、趣味
の掲示板(料理、犬、キルト)を取り上げ、特定フレーズ(私だけじゃないんだ)の出現頻度を比較した。
4
その結果、このフレーズに言及したのはサポート掲示板では 39 名だったのに対し、趣味掲示板では3名に
とどまった。
本研究では、これらの研究で用いられた内容分析の枠組みを参考に、分類カテゴリーを構成することに
したい。
3. 方法
手続き
Yahoo! Japan 内の掲示板から、パニック障害を主なテーマとする掲示板を 2 種類抽出し、そこでの発
言を内容分析する。掲示板を複数選んだのは主テーマが共通であっても、実際のコミュニケーション過程
は異なることが予想されたからである。実際、パニック障害関連の掲示板は疾病以外のカテゴリーでも開
設されていて、その位置づけの差は参加者間の相互作用にも反映されると考えられる。
発言ログの取得に当たっては、YBCollection(付録 2 参照)を用いた。詳しい手続きについては第 2 章、
第3章の「方法」を参照されたい。
分析対象
分析対象とした掲示板の概要を以下にかかげる。
①パニック障害者の憩いの場(仮名、以下 A 掲示板と省略する)
掲示板の中の、「出会い」という大カテゴリー内の中カテゴリー「地域別」内の「A 県」内に位置する。
開設時期は 2003 年 1 月で、2003 年 12 月 8 日現在、1530 の発言が登録されている。
②パニック障害について話しましょう(仮名、以下 B 掲示板と省略する)
「健康と医学」内の「病気、療法と看護」カテゴリー、
「病気、症状」という中カテゴリー内にある「全般」
内に置かれている。2003 年 9 月に開設、12 月 8 日までに 364 件の発言がなされている。
両掲示板からそれぞれ最初の 100 発言を分析対象として抽出し、全般的な特徴を分析する際の対象とし
た(第 2 章)。また、オフ会の影響を検証するため、B 掲示板から、オフ会開催日を中心にその前後 12 週
分の発言(620 件)を抽出した(第 3 章)
。
発言のデータ化に当たっては、発言番号、発言者、タイムスタンプ(発言日時)、題名、コメント先発言
番号、コメント先発言者、発言本文を取得し、さらに発言本文の文字数もカウントした。
文献
Galegher, J., Sproull, L., and Kiesler, S.
1998
Legitimacy, authority, and community in electronic
support groups. Written Communication, 15, 493-530.
McKenna, K.Y.A. and Bargh, J. A.
1998
Coming out in the age of the Internet: Identity
"Demarginalization" through virtual group participation. Journal of Personality and Social
Psychology, 75, 681-694.
Muncer, S., Loader, B., Burrows, R., Pleace, N., and Nettleton, S.
2000
Form and structure of
newsgroups giving social support: a network approach. Cyberpsychology and Behavior, 3,
1017-1029.
村井あきら
Preese, J.
YBCollecion [Online] http://www.edit.ne.jp/ akira/soft/s_ybcollect.html
1999
Empathic communities: balancing emotional and factual communication
5
Interacting with Computers, 12, 63-78.
White, B. J. and Madara, E.
resources.
Winzelberg, A.
2000
Online mutual support groups: Identifying & tapping new I&R
Alliance of Information and Referral Systems, 22, 63-82.
1997
The analysis of an electronic support group for individuals with eating
disorders. Computers in Human Behavior, 13, 393-407.
6
第2章
掲示板の内容分析
松田光恵
1. 問題
本研究は、ある特定の病理的悩みを抱えている人々が集うメンタルなテーマを扱った BBS(電子掲示板)
に焦点を当てる。それらコミュニティの参加者にとって、実生活ではためらわれるような会話ができ、見
つけにくい仲間を得られ、共感し、安心感やある種のサポートを得ることができる、という点において、
オンラインコミュニティの存在は非常に重要なものであると考えられる。彼らの相互作用である「語り」
は非常にダイナミックであり、相互作用の結果として、リアルライフでは得られないポジティブな効用を
得ているのではないだろうか。その影響は実生活にも及んでいることを考えると、これらオンラインコミ
ュニティの分析は、インターネットの持つ大きな可能性の一部を見いだすことに繋がる。
McKenna and Bargh(1998)は、インターネット上のマイノリティ集団に着目し、掲示板の内容分析
から「自己受容」
「社会からの疎外感」
「家族や友達へのカミングアウト」
「孤立感の減少」の 4 つの恩恵を
もたらさしていること、インターネットはマイノリティにとって身近では得られにくい仲間を与え、自己
受容を高め、疎外感や孤独感を減少させるという好ましい効果をもたらすことを示した。また Preese
(1999)は、メディカル・サポートグループ(BBS)の内容分析を行い、オンラインコミュニティとは「共
感」というメンタルな効果が得られる場とした。
本研究では、BBS 上のグループにおけるメディアを通じ人々は共感し、支え合い、そこからどのような
効用を得ているのかについて発言内容を分析する。また、ネット上では無縁とも思われる地域性という問
題も視野にいれ、BBS から発展したコミュニケーションがオフライン・ミーティング(オフ会)による対
面状況へと推移する過程を分析する。それらをつうじて「ソーシャルサポート」「情報」「自己開示」等に
関してオンラインコミュニティ上のセルフサポートの実態を分析する。オンラインコミュニティの中で共
感が生まれ、コミュニティ参加者らが助け合い、支えあう行為、そのようなネットワーク上での自助グル
ープの意味を明らかにしたい。
2. 方法
分析対象
Yahoo! Japan 内の掲示板(トピックないしトピとも言う)
、
「パニック障害者の場」と「パニック障害に
ついて話そう」(いずれも仮名)の書き込みについて内容分析を行う。Yahoo!掲示板の中から選んだのは
以下のような理由による。
①Yahoo!掲示板は一般的認知度も高く、アクセス数が多い。
②スレッドの形態がツリー状であり、発言の関係性や構造を把握しやすい。
③ある程度活発な掲示板である。
7
④研究者自身が参与観察しており、内容を熟知している。
なお、以下では「パニック障害者の場」を A 掲示板、
「パニック障害について話そう」を B 掲示板と表
記する。
手続き
上記 2 掲示板について、YBCollection(村井あきら作)を使用し、掲示板データをダウンロードした。
その際、取得したのは、発言番号、タイトル、発言者、コメント先の発言番号、コメント先の発言者、書
き込み日時、書き込み内容、の 7 項目である。分析対象は最初の 100 発言までとした。
内容のコーディング
Winzelberg(1997)を参考に、以下のような 8 カテゴリーを設け、掲示板の書き込みを分類した。
①サポートの要求:例「お返事下さい」「連絡待っています」「アドバイス下さい」
②サポートの提供:例「リラックスして」
「ここを避難場所として使って」「本心をはき出して下さい」
③情報要求:例「教えて下さい」
「聞かせて下さい」「○○なものってありますか」
④情報提供:例「○○に効き目があります」「○○にならないように注意して」「○○にはこんな薬が良
いそうです」
⑤自己開示:例「パニック障害になって○年目」「通院しています」
「○○の症状がでています」
⑥自己開示の要求:例「うち明けて下さい」
⑦非サポート(攻撃的発言等)
:例「ここはオアシスなんかじゃありません」
「アホが」
⑧メタ発言(返答、訂正等):例「○○気遣いありがとう」
「誤字があったので訂正します」
コーディング作業は(総数 200 件)研究者 3 名によって行われ、判断の一致を確認しながら進められた。
BBS の概要
A 掲示板は、Yahoo! Japan のホームページ 集まる:掲示板 内の、ホーム>出会い>地域別>A 県、に
位置している(トピック開設時期:2003/1/1、書き込み数(2004 年 4 月 25 日現在):2121 件)。B 掲示
板は、Yahoo!Japan のホームページ 集まる:掲示板 の中の、ホーム>健康と医学>病気、療法と看護>
病気、症状>全般、に位置している(トピック開設:2003/9/10、書き込み数(2004 年 4 月 25 日現在):
743 件)
。
対象とした掲示板は、どちらも「パニック障害」という共通のテーマを扱っているものの、掲示板が位
置するカテゴリは「出会い」と「健康と医学」という入り口の部分で大きく違っている。A 掲示板は「出
会い」を目的とし、ある一定の地域内に住む人たちがパニック障害について語る場であり、B 掲示板は「健
康と医学」中の病気や看護に関してパニック障害を語る場となっている。同じようなトピックであっても、
開設目的や参加者の志向によって掲示板上のコミュニケーションは異なると考えられる。
3. 結果と考察
2 掲示板における投稿番号 1∼100 までの利用状況は表 1 の通りである。A 掲示板は 1 日あたりの発言
数も 1.49 件と少なく、100 件に到達するまで 67 日経過しており、ゆるやかに推移している。B 掲示板は
1 日あたりの発言数 7.14 件、100 件に到達するまで 14 日で、前者に比べ活発である。発言者一人あたり
の発言数は、それぞれ 11.11 件、5.88 件となった。また、発言回数の多い者の割合をみると、A 掲示板で
の 1 位発言者は約 5 割、2 位が 3 割を占め、発言回数の少ない 1 回発言者、2 回発言者はともに 2%だっ
8
表1
分析対象とした掲示板
A 掲示板(100 件分)
B 掲示板(100 件分)
発言期間
2003/1/1-3/8
発言期間
2003/9/10-9/23
発言日数
67 日
発言日数
14 日
1 日あたり発言数(M)
1.49 件
1 日あたり発言数(M)
7.14 件
発言者数
9人
発言者数
17 人
1 発言者あたりの発言数(M)
11.11 件
1 発言者あたりの発言数(M)
5.88 件
1 発言あたりの文字数(M)
191.92
1 発言あたりの文字数(M)
188.62
1 発言あたりの文字数(SD)
68.05
1 発言あたりの文字数(SD)
83.39
表2
発言者別書き込み内容
A 掲示板
1 位発言者
B 掲示板
2 位発言者
サポートの要求
1( 2.0%)
1( 3.3%)
サポートの提供
13(26.5%)
12(40.0%)
情報要求
2( 4.1%)
情報提供
9(18.4%)
自己開示
20(40.8%)
自己開示の要求
1( 2.0%)
非サポート
メタ発言
合計
̶
2 位発言者
3(25.0%)
10(25.0%)
1( 8.3%)
̶
3( 7.5%)
1( 8.3%)
̶
20(50.0%)
15(50.0%)
̶
1 位発言者
2( 5.0%)
̶
̶
̶
̶
1( 2.0%)
2( 6.7%)
49 件
30 件
5(12.5%)
40 件
̶
6(50.0%)
̶
2( 4.1%)
1( 8.3%)
12 件
た。B 掲示板では上位 1 位発言者は 4 割、2 位約 1 割、下位 1 回発言者、2 回発言者はともに 5%、とい
った結果になった。
ついで書き込みの内容分析を行い、発言回数の多い者とその内容との関係を見た(表 2)
。A 掲示板にお
ける発言者の傾向として、上位 1 位発言者はグループ内のサブリーダーとも言える役割を果たしており、
自己開示(40.8%)
、サポートの提供(26.5%)の順に多く発言をしている。2 位発言者は掲示板の開設者
であり、こちらも自己開示(50.0%)、サポートの提供(40.0%)、と同様の傾向である。発言回数の少な
い下位発言者はまず挨拶としての自己開示や情報提供をしており、これをきっかけに今後グループの成員
となっていく可能性を示している。
B 掲示板発言者の 1 位発言者は掲示板主宰者であり、情報提供(50.0%)
、サポートの提供(25.0%)の
順に多く発言をしている。2 位発言者は自己開示(50.0%)
、サポートの要求(25.0%)の順に発言をして
いる。下位発言者は自己開示、情報提供が多い。
つぎに 2 掲示板で書き込み内容の比較を行った(図 1)
。書き込み内容で多いのは、A 掲示板で自己開示
(42.0%)、2 位「サポート提供」27.0%、3 位「情報提供」11.0%、B 掲示板で 1 位「情報提供」30.0%、
2 位「自己開示」24.0%、3 位「サポート提供」22.0%であった。A 掲示板は同じ地域の中で、出会う こ
とを目的の一つとしていると考えられ、まずは自分の状況や心情などを掲示板上でうち明ける、という行
為が多く見られた。身近な地域に住み、同じ病理上の悩みを抱えるものが情緒面からのサポートを提供し
親密さを増している、と思われる。CMC から FTF(対面的コミュニケーション)に発展させるには、より
9
%
&# *
'#
)
*
'# "
) "#
'#
!
"#
!#
!
"#
$
$$#
(
$&#
$
$%#
(
'$#
%
"#
&
' &#
!!#
&
%'#
①A 掲示板
注
②B 掲示板
1:サポートの要求
2:サポートの提供
3:情報要求
4:情報提供
5:自己開示
6:自己開示の要求
7:非サポート
8:メタ発言(返答、訂正等)
図1
発言の内容分析の結果
内面的な情報を提示する必要があるということだろう。それに対し、B 掲示板では情報提供が最も多く、
「情
報」という側面からのサポートが主であることが読み取れる。主宰者が積極的に病気に対する情報を提供
し、それに反応して参加者は心情を吐露し、別の情報を提供し合っている。情報交換が主な支え役となっ
ているグループと言えよう。
摂食障害者のニュースグループの内容分析をした Winzelberg(1997)では、自己開示(31%)、情報提
供(23%)
、サポートの提供(16%)の順になっており、本研究とほぼ同じ結果となっている。
いずれにせよオンライン自助グループにおいては、情報提供やサポートの提供、自己開示など、なんら
かの情報の「提供」を行うという行為が多く見られた。対して「要求」という行為は非常に少ない。一見、
自助グループにおいては精神的、道具的「サポート」を必要とし、またそれらの要求をするように思われ
がちであるが、実際のところは「提供」しているのである。自らの悩みや個別的な情報、その病気になっ
た者にしかわからない気持ちを共有し、情緒的サポートを交換しあうことでコミュニティが成り立ってい
ると言えよう。
以上、オンラインコミュニティにおけるコミュニケーションの役割をセルフサポートの視点から検討し
た。その結果、先行研究と一致した結果が得られ、自助グループにおけるコミュニケーションは、情報提
供やサポートの提供により支えられていることが明らかになった。
また詳細に見ると、同じテーマを扱っていても、掲示板の開設趣旨によりコミュニケーション内容に違
いがあることも明らかになった。対面コミュニケーション(オフ会)に発展する可能性を秘めた掲示板(A
掲示板)では、自己開示など内面の提示がより多く行われている。今後は「与える場」としての掲示板の
機能や、グループ構成員間のネットワーク形成に焦点を当て、グループ内での相互作用の構造を明らかに
したい。
文献
McKenna, K.Y.A. and Bargh, J. A.
1998
Coming out in the age of the Internet: Identity
10
"Demarginalization" through virtual group participation. Journal of Personality and Social
Psychology, 75, 681-694.
村井あきら
Preese, J.
YBCollecion [Online] http://www.edit.ne.jp/ akira/soft/s_ybcollect.html
1999
Empathic communities: balancing emotional and factual communication
Interacting with Computers, 12, 63-78.
Winzelberg, A.
1997
The analysis of an electronic support group for individuals with eating
disorders. Computers in Human Behavior, 13, 393-407.
11
第3章
ネットコミュニティにおける
「オフ会」の役割
坂田正樹・川浦康至
1. 問題
インターネット上の掲示板は、時間的・空間的な制約を受けることなくコミュニティを形成する機会を
もたらした。そうした電子掲示板(BBS)の中には関心最優先のコミュニティもあれば、地域に依拠したコミ
ュニティ(local-based community)も存在する。中でも後者のコミュニティでは、一定の地理範囲に住む
メンバーが大半を占め、オフ会など対面コミュニケーションを志向するものが少なくない。こうした地域
ベースのオンラインコミュニティにおいて、「オフ会」はどんな働きをしているのだろうか。それを検討
することが本研究の課題である。
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2. 方法
分析対象
2003 年 1 月 1 日に開設された Yahoo! Japan の掲示板「パニック障害者の場」
(仮名)の書き込みをダ
ウンロードした。この掲示板を分析対象として取り上げたのは以下の理由による。
①「出会い>地域別>A 県」に分類され、A 県という地域に依拠(メンバーの大半が A 県在住者)
、かつ
出会いというカテゴリーに位置づけていることから「オフ会」への志向がみられる。
②研究者自身がオフ会の正式提案からオフ会開催までの時期に参与観察しており(オフ会には参加しな
かった)、内容を熟知していた。
手続き
オフ会が実施された 8 月 9 日を基点に、
分析対象期間をつぎのような 4 セッションで設定した(週単位)。
12
①Pre Session(6/14∼27):オフ会のことが掲示板の話題にのぼる前の 2 週間。
②Before Session(6/28∼8/8):オフ会が正式に提案されてからオフ会前日までの 6 週間。
③After Session(8/9∼8/22) :オフ会当日からオフ会が話題から消えるまでの 2 週間。
④Post Session(8/23∼9/5):オフ会が話題にのぼらなくなってからの 2 週間。
セッション毎に、①発言内容、②メンバー別発言頻度、③発言のやりとり、を集計し、その推移を分析
した。なお発言件数は総数で 620 にのぼる。対象期間中の掲示板メンバー14 名は、オフ会参加者 7 名、
オフ会非参加者 7 名と半々に分かれた。
3. 結果と考察
7/1 の発言を内容から「オフ会の正式提案」と定義したが、最初の提案は、実は 3/18 まで遡る。発言数
としては、3/18 のオフ会初提案から 3/31 までが 13 発言、4 月が 5 発言、5 月が 1 発言となり、1/1 の開
設から 2 ヶ月半でオフ会の提案がなされていることから、この掲示板がいかに対面会合に強い志向を持っ
ていたかが窺える。
発言の内訳(図 1)をみると、当然ながら Pre Session ではオフ会に関連する発言は皆無に近く、Before
Session では、7/1 のオフ会開催の正式提案を境にオフ会関連の発言が増えると同時にオフ会以外の発言も
急に増え、掲示板全体の雰囲気に影響を与えていることがわかる。After Session をみると、オフ会終了後
の当日は、オフ会関連(お礼や感想など) の 13 発言のみで、オフ会に関連しない発言はなく、その後 1 週
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図1
Pre session
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発言の内訳
Before session
図2
発言者の推移
13
After session Post session
間はオフ会の余韻が発言内容を支配した。だが話題も底をつき、トピック主宰者の体調悪化に伴いオフ会
関連発言は下降線をたどり、
8/20 以降見られなくなった。Post Session ではメンバーが次々に体調を崩し、
病状の自己開示やサポートの提供等に立ち返っている。
発言者の推移(図 2)では、オフ会開催が発言者にどのような影響を及ぼしたか分析した。Pre Session
では、発言頻度の多い「上位発言者」対 同様に少ない「下位発言者」という構図で参加者が推移している。
Before Session に入ると、オフ会の正式提案を機に、オフ会参加者と非参加者がほぼ同等に発言している
が、オフ会が目前に迫った 8/6 から、オフ会参加者の発言が増え、逆に非参加者の発言が減っていく。Post
Session でもその傾向は続き、Pre Session、Before Session のコミュニケーションと明らかな違いをみせ、
オフ会によって掲示板メンバーが分断されるという結果をもたらしていることがわかる。
発言の流れ(図 3)ではオフ会参加者と非参加者間の発言のやりとりを分析し、Pre、Before、After、
Post の各 Session の中でコミュニケーションの方向がどのように変化したかをみた。その結果、Pre およ
び Before Session は、オフ会参加者が中心ではあるものの、全体的には非参加者も含め円滑なコミュニケ
ーションが成されていた。しかし After Session になるとそれが一変し、コミュニケーションの大半がオフ
会参加者同士に集中し、非参加者は一部の積極的なメンバーを除いて発言者がいないという状況に変化し
た。Post Session もその状態が続いている。
このように、積極的に対面会合を志向し、地域に依拠したコミュニティでも、
「オフ会」の開催によって
電子掲示板コミュニケーションに大きな影響を与えることがわかった。上位発言者を多く含むオフ会参加
者を中心に考えるならば、集団凝集性が高まったともいえるが、掲示板全体として捉えるとコミュニティ
崩壊のひきがねになったと解釈できる。その後、非オフ会参加者の大半はこの掲示板を去っていった。残
ったオフ会参加者も結婚を機に退いた者、体調を崩して引きこもる者、入院する者が続出し、何度となく
(言及側)
(被言及側)
■Pre Session(6/14∼27)
オフ会参加者
27
16
オフ会参加者
12
オフ会非参加者
オフ会非参加者
1
■Before Session(6/28∼8/8)
オフ会参加者
137
87
オフ会参加者
71
オフ会非参加者
1
オフ会非参加者
オフ会非参加者
■After Session(8/9∼8/22) 6
オフ会参加者
73
6
オフ会参加者
4
オフ会非参加者
0
オフ会非参加者
■Post Session(8/23∼9/5)
5
オフ会参加者
オフ会非参加者
注
6
10
10
2
オフ会参加者
オフ会非参加者
数字は言及頻度を示す
図 3 発言のやりとり
14
閉鎖の危機的状況を迎えている。だが、その都度、関連掲示板の知人に励まされ、なんとか持ち直してい
る状況である。
「オフ会」というイベントがもつインパクトは、プラス、マイナスの評価はともかくオンラインコミュニ
ティという場に異変をもたらすことだけは間違いない。本研究では、メンバーを分断し、掲示板の活気を
損なうという面でオフ会の強い影響力が確認されたが、今後、多様なオンラインコミュニティを取り上げ、
オフ会の別の役割を明らかにしていきたい。
文献
小川晃子 2004
援助的な電子コミュニティの形成と崩壊過程:
心理学研究, 4, 21-30.
15
ひだまり を事例とする検討
対人社会
第4章
ネットコミュニティのセラピー効果
坂田正樹
1. はじめに
4 年前、筆者は不安障害の一種である「パニック障害」を患った。突然の呼吸困難、動悸、めまい、発
汗などがこの病気を象徴する症状であるが、とりわけ呼吸困難は想像を絶する恐怖を伴い、その苦しさは
患った者にしかわからない。
1980 年、この病名がアメリカに初めて登場してから 20 数年、様々な専門薬や心理療法が効果をあらわ
しながらも完治は非常に難しいとされ、筆者自身も呼吸困難の恐怖に脅えながら治療方法を模索していた。
そんなある日、「メディアと自己表現」
(川浦, 2001)という論文を読む機会があった。そこでは鬱病を
例にとられていたが、こうした社会的マイノリティとされる人々は電子掲示板などでカミングアウト(自
己開示)し、同じ境遇の仲間と交流が始まる可能性があると指摘されていた。家族以外には一切、病気を
カミングアウトしていなかった筆者は、これはトライしてみる価値があると思った。と同時に、研究者と
してこのチャンスを逃すまいと野心が働いた。つまり研究者かつ被験者として、テーマを掘り下げていけ
る機会など、そうあるものではない。
そして、昨年の 6 月。電子掲示板、メーリングリスト、ウェブ日記と、いろいろなネットコミュニティ
に参加し、一人のパニック障害患者として心のままに反応し、それを観察するという作業を始めた。また
この時期、プライベートで大手製薬メーカーの「治験プロジェクト」にも参加した。
2. カミングアウトの効果
McKenna and Bargh(1998)はインターネット上のマイノリティ集団に着目し、実際のネット上の集団
を参加者たちは重要視しているか否か、また、そこからどのような恩恵を享受しているのかを検討してい
る。かれらの研究を小林(2000)が簡潔にまとめているので一部引用したい。
McKenna らはニュースグループを、①目に見える顕在的な特徴を持つマイノリティ(肥満、どもり、
脳性麻痺、脱毛症など)、②目に見えない非顕在的な特徴を持つマイノリティ(薬物使用者、ホモセクシャ
ル、サド、マゾなど)、③メジャー(政治経済、親子関係、メロドラマなど)、の 3 つの群に分けている。
そのうち顕在的な特徴を持つマイノリティは、その特徴が周囲に認められやすく、身近な仲間を得ること
が比較的容易と考えられるため、非顕在的な特徴を持つマイノリティのみに焦点をあて、ネット上で形成
されるグループに参加することでどのような恩恵を受けているかを検討している。
彼らは、性に関するトピックを扱う 3 つのグループ(ホモセクシャル、サド、マゾ)を対象に、
「自己
受容」
「社会からの疎外感」
「家族や友達へのカミングアウト」
「孤立感の減少」の 4 つの恩恵を取り上げ、
これらがネット上のマイノリティ集団に参加することによって得られているのかを検討した(図 1)
。また、
ニュースグループやメンバーとのやりとりが自分にとっていかに大切かを示す「ニュースグループの重要
16
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
自己受容
.51
.
ニュースグループ
ニュースグループ・メ
への参加
ンバーの重要性
カミングアウト
24
-.23
疎外感
孤立感
-.19
注:各矢印に示される数値は、それが高いほど関係が強いことを示す。
図1
McKenna and Bargh (1998)が検討したプロセス(小林,2000)
性」が、以上の恩恵を享受する際に影響するか否かも併せて検討している。その結果、4 つの恩恵すべて
をもたらしており、
「ニュースグループへ参加するほど、そのグループのメンバーが重要であることを認識
する。そしてそのことがさらに自己受容を高め、社会からの疎外感を低め、孤立感が軽減される」という
結果を得た。
だが、ネット・コミュニケーションは恩恵ばかりではない。Wallace (1999)は、自分の行動が直接自分
の側に帰属されないとき、社会慣習や制約による抑制が弱まる、と指摘している。とりわけ安全と感じて
いる環境で、対処の難しい個人的問題を話し合う機会を与えられたとき、このことは極めて明白になる。
つまり、オンライン支援グループの活動は盛んだが、この一因は、身近な対面による支援グループよりも、
比較的匿名性の高いインターネットのほうが悩みを気軽に語り合える、というところにある。しかし、匿
名性は環境次第で攻撃行動を引き起こす可能性がある、とも指摘している。また Kiesler ら(1983)の別の
研究によれば、匿名性は利用者の行動を左右することが示されている。彼らはオンライン上の集団形成実
験で、コンピュータ上のメッセージに実名を公表してやりとりする群と、匿名でやりとりする群を設け、
敵対発言の数を比較したところ、匿名群における敵対発言の数は実名群の 6 倍以上を示した。
パニック障害も、まさに非顕在的な特徴を持つマイノリティの典型であり、現実世界ではなかなか共感
できる仲間を見つけにくくネガティブな意見にさらされやすいが、ネット上での集団からはどのような恩
恵(あるいは中傷)を受けるのだろうか。また、外見でわかる顕在的特徴を持つマイノリティは、仲間を
見つけやすくネガティブな感情を持ちにくいとされているが、例えばパニック障害と対照的な「アトピー
性皮膚炎」などでは、どのような結果をもたらすのだろうか。
3. 先行研究に見るネットコミュニティへの期待
ここで、先行研究にはどのようなものがあるのか概観してみよう。
丸山・今川(2001)は、対人関係の悩みについての自己開示がストレス低減に及ぼす影響について調査を
行っている。結果、自己開示がカタルシス機能を持つことを確認し、心理的資源のフィードバックにも低
減効果が認められた。また個人差が自己開示のストレス低減効果に影響を与えていることも確かめられた
と報告している。さらに、和田(1995)も自己開示の一つの機能として 鬱積したことを浄化する ことを
挙げているが、そもそも「自己開示」とは、人が自分の考えや気持ちを他者に伝える行動を指す。安藤(1986)
によれば「特定の他者に対して、言語を介して意図的に伝達される自分自身に関する情報、およびその伝
達手段」と定義しているが、これらは対面コミュニケーションのケースであり、パニック障害というマイ
17
ノリティに属する筆者が 特定の他者を含む不特定の他者 に向けた非対面のネット・コミュニケーション
を活用した場合、どのような心理的影響を受けるのであろうか。
Davison ら(2000)が報告した オフラインとオンラインでは、それぞれどんな病気の人たちが自助グ
ループを求めるか というアメリカの研究を、安藤(2001)が紹介している。結果、オフラインでは、長
い歴史と実績を持つ「断酒会」の存在が圧倒的な アルコール依存症 が 1 位、続いてエイズ、乳癌、前立
腺癌などが上位を占めた。オンラインでは、慢性疲労症候群、多発性硬化症、鬱病、糖尿病などが上位を
占め、人前に出るのが困難な病気を患った人にとって、ネットの利用が有効であることを示した。視点を
変えれば、オフラインに比べオンラインの自助グループは、高額な医療費や死の脅威が比較的少ないこと
を示しているといえる。パニック障害を例にとってみても、エイズや癌ほどシリアスな状況ではないだけ
に、ある意味、ほんの少しの ゆとり がオンラインに活路を見出そうとするエネルギーを生んでいるよう
にも思える。
Muncer ら(2000)は、インターネットの普及に伴い、ソーシャルサポートの場面でネットが利用され
る機会が増え、実践的活用をめぐり議論されるようになってきた現状を指摘し、ニュースグループの「糖
尿病グループ」と「抑鬱グループ」の電子掲示板(BBS)を調査した。内容分析の結果、投稿内容が「情
報的」
「自尊心」「道具的」「交際」「その他」の 5 つのカテゴリーに分けられ、
「糖尿病グループ」は情報
的サポートが多く、やりとりする相手が限られているのに対し、
「抑鬱グループ」は情報ではなく「交際」
を重視しており、活気に満ちた強い結びつきが明らかになった。身体的な病気と精神的な病気の差が歴然
とあらわれたと言える。
4.パニック障害の定義と実情
パニック障害、という病気がどの程度、市民権を得ているかは定かではないが、整理する意味で、定義、
症状、歴史などをひも解いてみたい。
まず、パニック障害の定義として、1980 年にできたアメリカの診断基準では、表 1 の 13 項目のうち 4
つ以上の症状を伴う発作が 10 分以内に起きる、4 週間に4回以上同じような発作が起きる、あるいは 1
度パニック発作が起きて、また発作が起き ß るのではないかという不安状態が 1 ヶ月以上続く、そのいず
れかが発現すればパニック障害と診断される。
パニック障害は、パニック発作(=いわゆる呼吸促迫または息苦しさから、このまま死んでしまうので
は?という激しい発作)
から始まるが、100 人中 1 人から 3 人が経験するだろうという疫学的研究がある。
つまり、学校でいえば 1 クラスに 1 人は存在する計算になるが、その発作の度合いは個人差がある。さら
に、一度パニック発作を経験すると、また起きるのではないかという予期不安の状態に陥る。あの恐ろし
い発作がまた来るのではないかと思うだけで動悸がしたり、胸が苦しくなったり、汗をかいたり、手足が
震えたり…。だが、発作はだいたい 30 分から 1 時間で治まるので、苦しさのあまり救急車を呼んで病院
へ行っても、医者の前に座る頃にはだいたい平常に戻っているケースが多い。とはいえ、こんな生活を毎
日繰り返していると、誰かがいないと外出できなくなり、例えば渋滞や満員電車など身動きのとれない状
況、助けを求められない状況を非常に恐れるようになる。これを広場恐怖、外出恐怖、乗り物恐怖などと
呼んでいるが、こうした状況になると、社会性が無くなり、会社へ行けない、学校へ行けないという問題
を引き起こす。その時点で適切な治療を受けていないと、おそらく次に来るのは 二次的鬱 であろうとい
われている(図 2)
。まさに悪の連鎖である(貝谷,1998)。
18
表 1 パニック障害の診断基準(貝谷,1998 より一部抜粋)
以下の症状のうち、少なくとも 4 項目が発現する。
①呼吸促迫(呼吸困難)または息苦しい感じ
②めまい感、頭が軽くなる感じ、ふらつきの感じ
③心悸亢進、心拍数の増加(頻脈)
④身震い、または振戦
⑤発汗
⑥窒息感
⑦嘔気、または腹部の不調
⑧隣人感
⑨しびれ感、うずき感(知覚異常)
⑩紅潮(突発性の熱感)、ないし冷感
⑪胸部痛、ないし胸部不快感
⑫死への恐怖
⑬気が狂ったり、何か制御できないことをしてしまうという恐怖
注:4 つ以上の症状を持つものが恐慌発作、3 つ以下は症状限定性発作
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図 2 パニック障害の進展
5.パニック障害の歴史
パニック障害という病名が最初に使われたのは、1980 年アメリカにおいてだといわれている。そして、
国際疾病分類(ICD-10)にパニック障害という病名が登場したのは、1992 年。それから、わずか 10 年
あまりしか歴史を刻んでいないだけに、非常に新しい病名であるといえる。なお、パニック障害はエイズ
(HIV)とほぼ同時期に注目され始めたが、新しさという点では、この 2 つの病気には大きな違いがある。
エイズは、近年になって初めて出現した名実ともに新しい病気であるが、パニック障害は病気自体、大昔
からあり、病名だけが新しいといえる。その証拠に日本の医学の古い文献を調べてみると、1686 年、江
戸前期の頃、桂州甫という漢方医が「病名彙解」という書を出しており、その中に 驚悸 という病名が載
っている。つまり、驚悸という病名でパニック発作のことが詳しく記されていたのである。また、西洋医
学の方では、ヨーロッパの医学文献の中にも非常に古くからパニック発作のことや、それを中心とした病
気のことが数多く記されているが、その中で現代のパニック障害の概念と非常に関係が深いものとしては、
世紀末ウィーンの神経科医ジグムント・フロイトが記載した 不安神経症 という病気がある(貝谷,1998)。
19
6.新聞記事に見るパニック障害
パニック障害が病名として登場してから 10 余年、社会的にはどの程度、認知度があり、その過酷な症
状が理解されているのだろうか。一つの目安として、新聞報道の各年毎の記事数と内容の動向を調査し、
まとめてみた。なお、新聞記事のデータ収集は「朝日新聞オンライン記事データベース『聞蔵』」を利用、
朝夕刊、全国紙、地方版のすべての記事を対象に、パニック障害 をキーワードに検索した。実際には 1994
年から 3 件が記事に登場しているが、同一読者コラムの 1 フレーズに過ぎないため、割愛した。図 3 では、
1996 年が事実上、初登場となっている。
1996 年は、年間でわずか 3 件の登場であったが、内容的には ストレス
ギャンブル依存症 などに
スポットが当てられ、パニック障害に関しては、そのような症状もある、といった程度の扱いである。社
会的認知度は不明だが、関心はまだまだ薄いようだ。
1997 年は記事数こそ 2 件と少ないが、パニック障害 という病気にスポットを当て特集を組んでいる。
1 つは、パニック障害を現代病として重要視し、
「不安・抑うつ臨床研究会」発足の記事を特集し、もう 1
つは大学の講演会でパニック障害の歴史や症状、治療法などについて専門家が対談している。
1998 年になると、記事数も 9 件に増え、内容もバラエティ豊かになってきた。書籍やパニック障害に
関する会のお知らせなども増え、社会的関心が増しているのが感じられる。
1999 年は記事数 4 件と少ないが、人に理解されない病気 として、あるいは 思春期のストレス として、
精力的な特集を組んでいる。パニック障害の核心に迫る濃い内容の記事が目を引いた。間違いなく社会的
関心度は上がってきている。
2000 年は記事数が 15 件に増え、内容の充実度も目を見張るものがある。例えば、病気のルーツ、原因、
症状、治療法、薬、豆知識などの情報発信、悩み相談、Q&A、紙上クリニックなど…様々なスタイルでパ
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20
ニック障害にスポットを当てている。テレビでの特集も、この頃から見られるようになり、認知度、関心
度は相当な勢いで高まっている。
2001 年になると、リストラの猛威のせいか、男性サラリーマンのストレスに焦点を当てている。とり
わけ、会社にパニック障害をカミングアウトしても、理解されない、偏見の目で見られるなど、苦悩する
記事が目立つ。半面、パニック障害の会設立のための勧誘記事なども紙面上を賑わす機会が増えた。
2002 年は、2001 年の不遇の年を乗り越えて、明るい兆しが見える記事が増えた。映画(阿弥陀堂だよ
り)や雑誌、本、テレビ(ドキュメント)など、各メディアもパニック障害を取り上げるケースが一段と
増え、理解が難しい病気である分、カミングアウトや様々な情報公開など、開かれた方向へ推し進める風
潮が見られ始めた。なお「阿弥陀堂だより」とは、医師として東京の大学病院で働いていた女性が、ある
時、パニック障害にかかってしまい、東京の生活に疲れた彼女は、夫とともに田舎へ帰り、自分の人生を
取り戻すという作品である(http://www.amidado.com/)。
そして 2003 年、記事数も 2002 年同様に年間 20 件近く露出するようになったが、内容的には、2002
年の盛り上がりを受けて、やや小康状態の感があった。認知度的には、ストレス、エイズ、リストラ、ド
メスティック・バイオレンスなどと肩を並べるほど浸透してきたといえるだろう。また、医学的にも新し
い成果や見解も出始めている。
各年毎、春夏秋冬に分けて数字を見てみたが、総体的に見れば、さほど季節や月によって記事数が左右
するという傾向はなかった。しいて言うならば、夏場の 7∼9 月にかけて安定的に記事数が低いように思
える。例えば 8 月の新聞記事をリサーチしてみると、少年少女の性行動やダイエット法、アウトドア・ラ
イフ、夏休みの課題特集など、開放的なサマーシーズンにふさわしい記事が数多く採り上げられていたこ
とが原因と見られる(なお、書籍や映画、講演会などの告知など、記事とみなせないものは予め割愛した)。
7.ネットコミュニティの紹介
ここまで、様々な先行研究、パニック障害の定義・歴史、新聞報道などを概観し、パニック障害に関連
する周辺を整理してみた。それらの電子掲示板、メーリングリスト、ウェブログのカテゴリーの中から主
なサイトを紹介したい(データはいずれも 2004.3.1 現在)。
Yahoo! JAPAN 掲示板
http://messages.yahoo.co.jp/index.html
Yahoo!の電子掲示板は、エンターテイメント、スポーツ、レジャーから健康と医学、政治、科学まで実
に 1,000 以上のカテゴリーから構成され、毎日大勢のユーザーが全国から訪れる巨大なコミュニティ。こ
の電子掲示板へ参加すれば、同じ趣味や興味を持つユーザー同士が、気軽に出会い、交流し、アイデアを
分かち合うことができる。また、メッセージのタイトルをスレッド表示できる機能を持ち、メッセージの
親子関係を視覚的にわかりやすく捉えることができる。ちなみにパニック障害のトピックは、 健康と医学
のカテゴリー内だけでも 5 件を数え、いずれも活発な書き込みが見られた。なお、パニック障害のトピッ
ク総数は Yahoo!サイドにトピックのみの検索機能がないため、割り出すことができなかった。
主な「パニック障害」トピック
・パニック障害の方いますか?
開設日 1999.9.17、メッセージ数 10,254
21
・パニック障害の方の憩いの場
開設日 2003.1.1、メッセージ数 1,909
・パニック障害でも働きたい!
開設日 2003.3.26、メッセージ数 2,825
・パニックだけど幸せになろうよ
開設日 2003.8.2、メッセージ数 5,933
・パニック障害の方、家族の方お話しましょう
開設日 2003.9.1、メッセージ数 634
Yahoo! JAPAN グループ
http://groups.yahoo.co.jp/
Yahoo!のグループは、前述の掲示板同様、多彩なグループ・カテゴリーを擁する巨大コミュニティであ
る(メーリングリストが活動の中心である)
。インターネット上で仲間と積極的にコミュニケーションをと
りたい人のために グループ活動の場 を提供するサービスである。友人とおしゃべりしたり、一緒に行っ
た旅行の写真を見せあったり、あるいは共通の悩み事を話し合ったり、様々なグループ活動がインターネ
ット上で簡単に実現することができる。なお、パニック障害に関するグループは、検索の結果、9 件あっ
た。いずれも、なかなか理解されないこの病気を、ともに悩み、ともに励まし、ともに生きていこうとい
った主旨のものであった。
主な「パニック障害」関連グループ
・pd-kokufuku
開設日 2001.12.6、会員数 40 名、メッセージ数 1,340
・oneisone
開設日 1999.10.9、会員数 189 名、メッセージ数 2,519
・mental-vacation
開設日 2002.10.28、会員数 61 名、メッセージ数 4,104
・Room-of-Heart
開設日 2002.1.10、会員数 31 名、メッセージ数 692
Free ML
http://www.freeml.com/
Yahoo!同様に多彩なグループ・カテゴリーを抱えた大きな ML コミュニティ。ランキング特集や新着一
覧、プレゼント情報など、メンバーへのサービス企画を満載し、1997 年スタート以来、安定した支持を
得ている。パニック障害のグループは メンタルヘルス のカテゴリーの中で 6 件ヒットした。
主な「パニック障害」関連グループ
・panic-disorder.net
開設日 2003.4.5、会員数 25 名、メッセージ数 5,232
・パニック障害
開設日 2003.9.27、会員数 108 名、メッセージ数 3,960
22
・パニうつ 2
開設日 2001.3.13、会員数 54 名、メッセージ数 470
さるさる日記
http://www.diary.ne.jp/
ホームページをもっていない人でも日記を無料で借りることができる 日記レンタル。ここでは自分の日
記を書くだけでなく、メンバーの日記を読むこともできる。テーマ別に日記を探せる さるさるコミュニテ
ィ や各日記の訪問者ランキングなどサービスも満載。
気になる日記の検索機能もあり、
「パニック障害」をキーワードとして入力してみると、54 件のタイト
ルおよび記事が割り出された(総アクセス数:839,000)。
はてなダイアリー
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ブラウザから簡単に更新ができる無料ウェブ日記。日記中の言葉をキーワード化することにより、共有
の辞書のように使う事もできる。1 日 1 枚画像を登録できたり、携帯電話から日記を書けたり、豊富な機
能を満載した「はてなダイアリー」は誰でも簡単に始められる。なお、有料オプションとして、ヘッダー
の非表示、キーワード自動リンク機能のオフ、大きい画像(長辺 300 ピクセルまで)のアップロード、ア
クセスカウンターなどのサービスが受けられる。「パニック障害」をキーワードに検索すると、 パニック
発作 、 PD(Panic Disorder) 、 広場恐怖症 を含め、48 件の日記に含まれていることがわかった。
楽天広場
https://plaza.rakuten.co.jp/id.phtml
ウェブ日記を中心に、掲示板、友人リンク、プロフィール、アクセスカウンターなど、必要機能を無料
で利用できる初心者向けホームページ。数種類の中から好みのウェブ・デザインが選択でき、画像の貼り
込みも自由にでき、私書箱で非公開の個人的なメールのやりとりもできる。また、トップページでは、新
着、トレンド、ジャンル別ごとに日記を紹介しており、アクセスランキングも 50 位まで毎日発表してい
る。ただし、参加者が多いため、21 時∼23 時までの時間帯はサーバーが落ちやすいのが難点。キーワー
ド検索の機能もないので、パニック障害に関する情報は採取できなかった。
文献
安藤清志
1986
対人関係における自己開示の機能
安藤玲子
2001
どの病気の人たちが自助グループを求めるのか:オフラインとオンラインのグループの
特徴比較
東京女子大学紀要論集, 5,167-199.
NEW 教育とコンピュータ, 17(3), 112-113.
Davison, K. P., Pennebaker, J. W., and Dickerson, S.S.
2000
Who talks? :the social psychology of
illness support groups. American Psychologist, 55, 205-217.
石川大我
2002
ボクの彼氏はどこにいる?
貝谷久宣・不安抑うつ臨床研究会編
1998
講談社
パニック障害
川浦康至
1997
CMC 研究ノート:CMC の社会心理学
川浦康至
2001
メディアと自己表現
日本評論社
Computer Today, 77, 52-57.
21 世紀の社会心理学 5:情報行動の社会心理学
23
北大路書房,
Pp.30-38.
小林久美子
2000 ネットでつながるマイノリティ:ニュースグループにおける自己の受容
NEW 教育
とコンピュータ, 16(8), 110-111.
丸山利弥・今川民雄
2001
対人関係の悩みについての自己開示がストレス低減に及ぼす影響
対人社会
心理学研究, 1, 107-118.
丸山利弥・今川民雄
2002
自己開示によるストレス低減効果の検討
McKenna K.Y.A., and Bargh, J.A.
Demarginalization
1998
対人社会心理学研究, 2, 83-91.
Coming out in the age of the Internet: identity
through virtual group participation. Journal of Personality and Social
Psychology, 75, 681-694.
Muncer, S., Loader, B., Burrows, R., Pleace, N., and Nettleton, S.
2000
Form and structure of
newsgroups giving social support: a network approach. Cyberpsychology and Behavior, 3,
1017-1029.
Siegel, J., Dubrovsky, V., Kiesler, S., and McGuire, T.
1983
Group processes in computer-
mediated communication. American psychologist, 39, 1123-1134.
和田 実
1995
Wallace, P.
訳
青年の自己開示と心理的幸福の関係
1999
2001
社会心理学研究, 11, 11-17.
The Psychology of the Internet. Cambridge University Press.(川浦康至・貝塚 泉
インターネットの心理学
NTT 出版)
24
第5章
掲示板アクティブユーザーへの
インタビュー
坂田正樹
1. はじめに
本研究では、パニック障害を持つ筆者自らが「Yahoo!掲示板」の 4 つのトピックに参加し、ネット上で
様々な人物とコミュニケーションをとることができた。病状を深刻に悩んでいる人、家族がパニック障害
で対処に困っている人、とにかく治療・薬情報が欲しい人、苦しみを共有したい人…。掲示板参加の目的
は人それぞれだが、ここでとくに注目すべき一人の女性を紹介したい。彼女は、私が参加したトピックの
うち関連する 3 つのトピックに参加しており、いずれのトピックでも発言のインパクトが強く、したがっ
てトラブルも多く、喧嘩して飛び出してはまた舞い戻ってくるという行為を繰り返している。彼女は、な
ぜこんなにも掲示板に執着するのか、そもそも掲示板に参加しようと思ったきっかけは何なのか…。彼女
とは、あるトピックで何度か接触しており、またメールアドレスも公開していたことからインタビューを
申し入れ、メールのやり取りであれば という条件つきで快諾していただいた。アグレッシッブな彼女のキ
ャラクターから、パニック障害の人が掲示板に参加する際の潜在的な何かがすくい取れるのではないか、
という期待もあり、インタビューの対象者にさせていただいた。
調査協力者のプライバシーを保護するため、本人はもとより、本文中に登場する人物名(ハンドルネー
ム)はすべて変更してある。また本稿におけるインタビュー内容は、発言の趣旨が損なわれない範囲で加
工編集を施した。
・協力者:シーサイドさん(仮名)、首都圏在住の 30 代女性
・方法:電子メールによるインタビュー
・期間:2003 年 9 月 4 日∼10 月 4 日
2. インタビュー記録
2003/9.14
筆者(ボギー)→シーサイド
こんにちは。以前「パニック障害者の憩いの場」にいたボギーです。覚えていますか?あれから、パニ
ック障害の様々なトピックを ROM していましたが、僕はいま、あなたにとても興味を持っています。確
かにあなたを追って、いろんなアラシ(誹謗中傷が目的の書き込み)がやってくるのは事実ですが、それ
が単なる嫌がらせなのか、何か原因があるのか、僕にはまったくわかりません。誤解を解きたいというこ
とから、メールアドレスを公開されたのかもしれませんが、僕が気になるのは、なぜ、ここまでいろんな
ことがあるのに、電子掲示板に戻ってくるのだろう…ということです。あなたにとって掲示板とは何なの
か…そこに凄く興味を持ったのです。シーサイドさんは掲示板にとても愛着を持っておられるし、一度去
25
ったトピックにもまた戻ってこられましたよね。もしよろしかったら、メールで結構ですので、お聞かせ
願えないでしょうか?OK であれば、私の所属大学、実名、連絡先、すべて公表します。シーサイドさんは
一切プライベートなことは公開する必要はありません。ご返事お待ちしております。
2003/9.18
シーサイド→筆者
ボギーさん、こんにちは。もちろん、覚えていますよ。お返事が遅くなってごめんなさいね。自分なり
にどうすべきか考えていたんですよ。掲示板が荒れていたのもあったし、疲れがあったのも事実ですね。
ご質問の件、メールのやり取りでしたら構わないですよ。自分でトピックを作ってもメンバーがアラシに
よって追い詰められてしまい、私もずっと心を痛めていました。あそこのトピックもトピ主(トピックの
開設者)さんがいない今は少し大変。代理トピ主を任されたカオルさんもちょっと負担になっているよう
ですね。
2003/9.24
筆者→シーサイド
シーサイドさん、掲示板がいろいろ大変そうですが体調の方はいかがですか?あれだけしつこくアラシ
がやってくるのは過去に何かあったのですか?何かあったにせよ、あまりにもしつこく悪質ですね。その
気になった時でよいのですが、アラシについてのシーサイドさんの正直な気持ちを聞かせてくれません
か?質問を整理します。
①過去、アラシに会うようなトラブルがありましたか?あるいは心当たりとか…何もなければ予測でもい
いです。誰かと仲良くなって妬まれたとか、ストーカーがいるとか、なんでも結構です。
②過去、逆に誰かを攻撃するためにステハン(誹謗中傷の書き込みをしてハンドルネームを消してしまう
行為)したことありますか?あればその理由を教えてください。
まず、この 2 点お聞かせいただけますか?
答えられる範囲で結構です。あなたのくやしい思いをぶつけてくれてもいいですよ。冷静に分析されて
も。あなたのスタイルで答えていただければ OK です。ちなみに、あなたが嘘をついているとか、ついて
ないとか、そんなことは問題ではありません。僕はあなたの発言のみを真実として受け止めますので、自
由に書いてください。どうぞ、よろしく。
2003/9.25
シーサイド→筆者
ボギーさん、こんばんは。メールありがとうございます。 今、正直言ってあまり体調が良くないです。
ちょうど減薬している時期でのあのアラシ騒ぎ、でしたからね。
>あれだけしつこくアラシがやってくるのは過去に何かあったのですか?
私が掲示板に初めて書き込みしたのは 2001 年です。その時、20 代の女性がトピ主をしていたパニック
障害のトピックがあったのですが、メンバーも若い人ばかりで居心地がよく、ついつい嬉しくていっぱい
書き込みをしたんです。それをある古株の人が生意気だといって怒り出し、私を傷つけトピックから追い
出そうとしました。その時、私をかばってくれた友達も最初は良い人でしたが、だんだんしつこさが目立
ち始め、私は他の友達 3 人とそのトピックを去ったのですが、それを妬んで彼女も嫌がらせを始めたんで
す。たぶん、その当時の人たちが未だにつきまとっているんだと思います。
>あなた自身、過去にステハンしたことありますか?あればその理由を教えてください。
あります。事実とは違う事を書かれていたので、それに対する反論でした。ただ、私だとバレないよう
に性別を変えたりしていました。現在はしていません。警告がヤフーからくるそうです。
26
今のトピックを立ち上げたのは、あのメンタルへルスのトピックにうんざりしていたので、決別して1
から出直そうと決めたんです。そしたら、そのトピックのうるさいメンバーたちが土足で人のトピックを
汚しにきて、我が物顔しているんです。しかも、証拠もないのにステハンは全て私らだと憶測で物事を書
いてきて途方にくれていました。自分たちばかりが傷ついたといつもわめきちらし、こちらの気持ちなん
て考えた事なんか 1 度たりともない。私のトピックはパニック障害にあまり詳しくない方でも分かりやす
いように自分の経験や主治医から教わった知識を元にしているんです。落ち着いたなーと思うとまたアラ
シがやって来る。無視すると怒る。どうしたらいいのか分からない!とメンバーとメールなどで何度も話
し合ったか分かりません。これからもこのような事が続くと正直言ってトピックを続ける自信がないです
ね。
2003/9.27
筆者→シーサイド
シーサイドさん、本当に今日は気持ちのよい天気ですね。以前は○○の裏の磯でよく浮き釣りをしたも
のです。ドライブもよくしましたが、最近の混み具合はハンパじゃないので、平日の空いた日じゃないと。
今日はきっと数珠繋ぎですね。
前に掲示板にも書きましたが、僕は F 社の治験を4ヶ月にわたって受けたのですが、パニック症状は9
割方出なくなりました。満員電車と歯医者、この状況はまだ克服できてない。そんなときはワイパックス
を服用しています。あとは自律神経からくる軽いめまい、肩こり、筋肉の緊張、動悸、といったものが少
しあるようです。
シーサイドさん、メールどうもありがとう。あなたの正直な気持ちが聞きたかったのでうれしいです。
次はパニック障害になったきっかけや、掲示板に参加しようと思ったきっかけを聞こうかな?また近々メ
ールしますね。よい週末を!
ここでトラブルが発生した。シーサイドさんがトピ主をしていたトピックがアラシの誹謗中傷にあい、
トピックをやめることを掲示板上で宣言する。彼女は初めて、傷ついた自分の心を掲示板にさらけだして
いる。
2003/9.29
筆者→シーサイド
シ−サイドさん、トピ主をやめて、これからどうするの?掲示板はもうおしまいですか?このメールア
ドレスは生き続けますか?無理にとは言いませんが、せっかく知り合ったのですからもう少しメールのや
りとりさせていただけるとうれしいです。でも強制はできないので、シーサイドさんの決断にまかせます。
今日、お聞きしたいと思っていたのは、
①パニック障害、鬱になった経緯。きっかけ、初期の症状、パニック発作初体験の感想、病院、家族の理
解など、自分には治療が必要である、と認識するまでのことを教えてほしい。
②掲示板をやることになったきっかけ。それから、最初は楽しくてついつい書きすぎて… ということをお
っしゃっていましたが、やり始めのころはかなり心が癒されたのでしょうか?
③これはとても興味深いのですが、あなたにとって掲示板はなんだったのでしょう?離れてはまた戻って
くるこの場所は、あなたにとって唯一の居場所だったのでしょうか?なぜ、戻ってもう一度やり直したい、
と思ったのでしょう。
※これは 掲示板仲間 としての個人的な質問です。いま、孤独ですか?気持ちを分かち合える人がいます
か?自分をさらけだせる恋人や友人はいますか?僕は思うのですが、みっともない姿をさらけだしたり、
27
自分の弱さを露呈したりすると、案外、気分が楽になるものです。シーサイドさんの今日の書き込みを見
て、あなたにもそういう弱い部分があることがわかって安心しました。親近感が湧きました。メールイン
タビュー、まだ続けてもいいですか?
2003/9.29
シーサイド→筆者
こんばんは。突然の事で驚かれたと思います。
>シーサイドさん、トピ主をやめて、これからどうするの?掲示板はもうおしまいですか?
ROM を時々しながら、現実社会に戻れるように自分の治療に励むつもりです。
>このメールアドレスは生き続けますか?
このハンドルネームは消しません。このまま生かして置きますので(他の掲示板仲間との関係もあるの
で)、安心してください。
先日の質問にお答えしますね。
>①パニック障害、鬱になった経緯。きっかけ、初期の症状、パニック発作初体験の感想、病院、家族の
理解など、自分には治療が必要である、と認識するまでのことを教えてほしい。
1998 年の夏ぐらいでした。体調をよく壊すようになったんです。ちょうど転職をして憧れていた○○業
界へ入れた年でした(7 年間、金融機関に勤めていました)
。そんなある日、仕事を終えて△△駅の地下の
アーケードを歩いていたら、突然凄い吐き気と過呼吸に襲われてその場にしゃがみこんでしまいました。5
分もしたら治ったのでただ風邪かな?と思ってそのままにしていたら、それ以降頻繁に同じ症状が起こる
ようになり、最後には駅を見ただけで気分が悪くなりました。毎回、汗だくでメマイがして死ぬかと思い
ましたね。
きっかけは、憧れの職場が理想と違っていたこと、通勤に 2 時間かかったこと、そして妹の留学を巡る
家族との確執が引き金になったのだと思います(当時、自分も留学を希望していたのに許してもらえなか
った)。鬱病と診断されてからは、無気力・無関心でトイレ・お風呂・食事以外は布団の中。誰とも話した
くなかった。外が怖くなった。家の事情で引っ越した後、鬱の症状は自然に治ったが、過呼吸の症状は残
った。ある日、風邪引いて内科へ行った時に呼吸が苦しくなり、デパスという薬を飲んで落ち着いたのを
見て、女医さんが心療内科へ行く事を勧めた。最初は神経症と診断されて、ソラナックスという薬で 1 年
過ごす。しかし、まったく良くならないので、ネットで違う病院を探していたら、パニック障害 という名
の病気を初めて知り、自分の症状とそっくりな事に気が付く。当時、あるサイトで良い病院を紹介してい
たので、現在住んでいる市内にある心療内科へ行くことになった。
家族の理解は最初まったくありませんでした。怠けている・わがまま・現実拒否などいろいろ言われて
相談相手はいませんでした。それでも、母とカウンセリングに行ったり、パニック障害の本やホームペー
ジのコピーを見せたり、理解してもらおうと努力はしました。現在では、家族、それから掲示板仲間も含
めて良き理解者が周りにたくさんできました。私の場合、鬱からパニック障害になったパターンですね。
>②掲示板をやることになったきっかけ。
ある時期まで掲示板という物は全く知りませんでした。ある日、何気なくインターネットを見ていたら
メンタルへルスの所に パニック障害 のトピックを見つけて。その頃、家族の理解がなかったので、とに
かく藁にもすがる気持ちで参加しました。同じ境遇の人たちと理解を深めていきたかったのがきっかけで
す。
>それから、最初は楽しくてついつい書きすぎて… ということをおっしゃっていましたが、やり始めのこ
ろはかなり心が癒されたのでしょうか?
28
当時、家族に話すと嫌な顔をされたので、ある意味、自分の逃げ場所になっていました。トピックの人
が気持ちを理解してくれたのがたまらなく嬉しかったので、積極的にいろんな人とお話をしたかった。楽
しかったですね。
>これはとても興味深いのですが、あなたにとって掲示板はなんだったのでしょう?
パニック障害という病は、家族の理解を得ても発作や気分の波の苦しみまでは本人にしか分からないと
思います。私も実際そうでした。だから掲示板は、安住の地だったのでしょうね。なんというか他人の努
力をバネにしていたので、ある意味、勇気をもらって踏み台にしていたといっていいかもしれません。
>離れてはまた戻ってくるこの場所は、あなたにとって唯一の居場所だったのでしょうか?なぜ、戻って
もう一度やり直したい、と思ったのでしょう。
掲示板をきっかけにお互いの顔を知るほど親しくなった人がいるので(今でも付き合いはあります)
、愛
着があったのでしょうね。何度もやり直したのは、自分がある程度良くなってきたので、いま闘っている
人に 頑張るとここまで良くなる という勇気を自分の経験を通して掲示板で伝えたかったからです。ボラ
ンティアみたいなものですね。
>いま、孤独ですか?気持ちを分かち合える人がいますか?自分をさらけだせる恋人や友人はいますか?
最初は孤独でした。友人たちにも隠していました。でも勇気を出して話したら「何でもっと早く言わな
かったの?」と怒られました(^^; 。友人は一番の理解者ですね。恋人はいませんが、気持ちをさらけだ
せる友達はいます。掲示板で知り合ったパニック障害仲間の友達も良き理解者であり、アドバイスしてく
れています。
>シーサイドさんの今日のカキコを見て、あなたにもそういう部分があることがわかって安心しました。
親近感が湧きました。
意地っ張りなんですよ。弱い所を見せるのがあまり好きではなくて。でも突っ張っているのもダメだな、
と最近悟りました。
>メールインタビュー、はまだいいですか?
構わないですよ。今はとても気持ちが穏やかです。何か取り憑いていた物が取れたようなすがすがしい気
分です。これからは第三者の立場で掲示板を見たいし、パニック障害以外の趣味のページにも参加したい
ですね。
2003/9.30
筆者→シーサイド
シーサイドさん、ご返事ありがとう!ちょっと意地悪な質問もありましたが、よく答えてくれました。
理解してくれる友達がいてよかったですね。僕の場合、本当の意味で理解者と言えるのは、醜い面もすべ
て見てきた妻以外いません。友達といえば…男友達には、なぜか言えなかった。僕も意地っ張り、体裁主
義なところが強くある。プライドも高い。だから、友達自体、数えるほどしかいないし、あとは知り合い、
といった程度のつきあい。ほんと、心を裸にできないタイプなんです。
シーサイドさん、心の状態がいい感じのところまで復調してきているのなら、そちらに集中して下さい
ね。趣味の話の掲示板に参加するんですか?健康的でいいですね!もうシーサイドさんにとっての春(季
節は秋だが)は目の前だね。
P.S.
妹さんが留学したということだけど、結局シーサイドさんも留学したんだよね??(ずっと前に掲
示板にそう書き込みしてあったけど…)
メンタルヘルスに関する日本とアメリカの違い、凄く興味があるんだけど、体験談や向こうとの体制(ケ
ア)の違いなんか、教えていただけるとうれしいです。
29
2003/10.3
シーサイド→筆者
ボギーさん、こんにちは。さわやかな秋晴れですね。
>アメリカの話(もし留学されてなかったらゴメン)は、体験談だけでもいいですよ。とくになければそ
れでも。
行ったのはカナダの○○なんです。妹が先に行っていたので、彼女とアパートを共有しました。当時は
まだパニック障害であることを知らなかったのですが、学校の先生には一応、自分の症状をすべて話しま
した。そしたら、彼らは本当に自分の事のように心配をしてくれて、いつでも力になるから…と。その後、
自分なりに調べたのですが、メンタルな病気に対して偏見を持つカナダ人は皆無でした。何しろハンディ
キャップという言葉が禁句ですから。そして、すべてのメンタルに関する病院・施設・カウンセリングが
充実をしていて、家族が理解するのは当たり前の世界でした。さらに完治が近づいてきた人々に対して社
会に復帰出来るよう、職業訓練みたいなボランティアもありました。もちろん、フィジカルな病の人も介
護犬や盲導犬などが当然のようにいて…とにかく彼らの接し方がとっても明るかったのが印象的でした。
誰ともなく、困っている人を見かけると自然に手を差し伸べる。見てみぬふりとか偏見という言葉は、私
がいたところでは存在しませんでした。留学は 1 年間でしたが、実際私も、最後の方はお薬を飲まなくて
も生活できるようになっていましたから。学校の対応に大きなカルチャーショックを受けた話は、また今
度いたします。
2003/10.4
シーサイド→筆者
こんばんは。この間の続きですが、英会話学校では、講師全員が当たり前のようにメンタルな病を理解
しているということと、彼らの国では心療内科へ通うことは内科へ通う感覚と同じで日常茶飯事だという
ことです。病院へ行くことを勧めてくれた講師は、授業を始める前には必ず OK?というさりげない気遣い
がありました。国全体が弱者に対して強いバックアップ体制になっているところも、考え方にいい影響を
与えていると思うのですが。こういった面では日本という国を軽蔑していて、いつの日か向こうに住みた
いと思っています…。
3. 考察
筆者自身の掲示板ライフとシーサイドさんを比較してみると、予想以上に共通点が多い。
まず、掲示板に辿りつくまでのプロセスだが、彼女の場合も、やはりパニック障害を誰も理解してくれ
ない、というところから端を発している。息が苦しい、頭が痛い、吐き気がする、めまいがする、でも、
病院へ行ってもどこも悪くないと診断される。その時点で「きっと、気のせいだよ」とか「怠けているだ
けだ」とか、フィジカルな面だけで健康状態を判断されてしまう。そして本人は反論もできず、ただ塞ぎ
込み、ひたすら症状に耐えながら自分を孤独へ追いやっていく。インターネット全盛の時代、はけ口がな
い状態をどうにかしたいと模索するうちに、電子掲示板に辿りつき、同じ症状の人間がこんなにたくさん
いることに驚き、そして歓喜する。これは私やシーサイドさんだけでなく、パニック障害で悩んでいる掲
示板参加者の多くは、ほぼ同じプロセスでここにやってくると(その書き込みの内容から)推測される。
そして、そのあまりのうれしさに普段の鬱積した気持ちが爆発し、つい書き込みをし過ぎ、のめり込ん
でしまう。この心理も度合いの差こそあれ、経験上理解できる。だが、そこから先の展開は、本人の性質
やトピックのメンバー、方向性によって状況が変わってくる。私の場合は、トラブルに巻き込まれたり、
30
トピック事態に疑問を感じたりした時は静かに退散したが、シーサイドさんの場合は自身がトラブルの火
種となり、誹謗中傷されても執拗に粘り、そして闘いの姿勢も見せている。掲示板に出会えた時の最初の
歓びは共通のものだが、深くそのトピックに関わっていくにつれて、リアルライフと同じように人間関係
が生まれ、意見の相違があったり、派閥ができたり、孤立したり…コミュニケーションがテキストに限定
されるだけにこじれた時の収拾が難しい。とくにトピ主が不在であったり、トピ主事態に問題があったり
すると、精神状態が不安定な人の集まりなだけにブレーキが効きにくい。シーサイドさんの場合は、書き
込みを見る限り、物事をはっきりと言い切り、自分のモラルに反することには徹底的に批判する。よく言
えば一本気で純粋なので、反論されたり、誤解されたりすると執拗に闘ってしまう性質が伺える(ステハ
ンも認めている)。
つまり、パニック障害をはじめとするメンタルヘルス系のトピックは、心の病気であるがためにトラブ
ルは起こりやすいが、それを乗り越えて実りあるトピックになるか、それとも争いの絶えないトピックに
なるか、その分岐点はあくまでも人それぞれのパーソナリティや人間関係にあり、それはリアルライフも
ネットの世界も同じだ、ということである。パニック症状を持つ人がたくさん存在することに感動し、自
分もパニック障害であることを告白し、そして痛みを共有し、それが日常化すると、今度はメンバーひと
りひとりの性格や生き方にスポットが当たってくるのだ。
シーサイドさんの心の動きを改めて考えてみた。彼女のインタビューに偽りがあるかどうかは推測の域
を出ないが、
「あなたは自分をさらけだせる人がいるか」という問いに対する彼女の答えに違和感を覚えた。
友達に話したら なぜ早く言わなかったの? と怒られ、友達は一番の理解者だと彼女は言い切る。そんな
に理解してくれる友達がいるなら、なぜ掲示板に辿りつき、執着するのか、という疑問もわくが、そんな
ことよりも、友達 に触れた質問に対しての答えが妙にドライでステレオタイプなところに、彼女の心の傷
の深さ、孤独の深さを痛感してしまうのだ。
様々なトラブルがシーサイドさんを苦しめたことも確かだが、彼女の性格を考えれば、彼女なりの社会
との関わり方であり、彼女はその瞬間を確かに熱く生きていたように思える。美しい人生相談のようなト
ピックは理想ではあるが、そうではない電子掲示板の姿にも大きな存在意義があると、私は感じた。
31
付録 1
体験的ネットコミュニティ論
坂田正樹
2003 年 4 月∼8 月の記録。電子掲示板、メーリングリスト、ウェブ日記…。これは、筆者自身がネット
コミュニティを通じて感じ取った心のドキュメントである。
1. すべては「治験広告」から始まった
「愛と青春の旅だち」
(1982 年製作/米)という映画の中で、主人公の海軍士官学校訓練生が鬼軍曹のし
ごきに屈してこう叫ぶシーンがある。僕にはもう行くところがないんだ!。心を許し合える友人もいない、
良き理解者もいない札つきの不良青年が、最後に見つけた自分の居場所。それが、おおよその人間が避け
て通る過酷な海軍士官学校だった。
突然息が苦しくなる(日に数十回)過呼吸症状に苦しめられていた私は、事あるごとにこのシーンを思
い出した。こんな症状を告白したところで誰も理解はしてくれない、かといって隠しながら日常生活を送
っていると、動けない、走れない、と怠け者呼ばわりされてしまう。まさに八方塞がりの自分には 居場所
がない という心の叫びが虚しくこだましていた。
ところがある日、朝刊を何気なく眺めていたら治験参加者募集の広告が目に入った。パニック障害は治
療できる病気です。それはまるで神のお導きのようなフレーズ。近くの内科で専門的な治療もせずに、な
んの効果もない安定剤をただ気休めに飲んでいた私は、前々から自分はパニック障害ではないか?という
思いを抱いていた。あなたは○○○です というきちんとした病名を宣告され、きちんとした治療を欲して
いた私は、迷わず治験事務局に参加を申し込み、そして指定の病院を訪れることにした。2003 年 4 月初旬、
奇しくも大学院での研究活動が始まる前日のことだった。
2. 心療内科 初体験は葛藤との闘いだった
私が参加することに決めたプロジェクトは、鬱病をはじめ中枢神経系疾患にいち早くスポットを当て、
積極的に治験を展開している製薬会社 F 社である。
当日、私は診察先として紹介された T 大学医学部付属病院に足を運んだ。まず、担当の薬剤師グループ
の出迎えを受け、心療内科へ案内される。治験者の場合、通常の患者さんの合間を縫っての診察となるの
で、名前が呼ばれるまで待合室で待機せよ、ということだ。
ゆったりとした緑色のソファに腰を下ろし、ふと周りを見渡してみる。考えてみれば、心療内科なんて
一番縁のない所だと思っていたのに、いまこうして、私はここにいる。クラゲがゆったり漂う水槽、リラ
ックスを演出する優しい環境音楽…。騒々しい大学病院の中にあってここは異質な空間だ。患者さんも予
想以上に幅広い。ただひたすら一点を見つめる老女、両脇を抱えられながら強制連行される号泣女性、恰
幅のいい重役風サラリーマン、やせ細った女子高校生、どう見ても健康そうな職人風の茶髪のお兄さん…。
まさに世代も職業も性別もバラエティ豊かな面々が待合室にギッシリ座っている。彼らの中にあって、私
32
はいったいどのように映っているのだろう…。
ここまで来て、まだプライドを捨てきれない私は、足を組み、あなた方とは違う! と言わんばかりに気
難しそうに手持ちの新聞を睨みつけている。これが待合室に来て、最初の 5 分。居心地が悪い。だが、さ
らに 5 分経つとなぜか次第に自分が情けなくなり、俺も落ちたものだ と責め始める。そしてさらに 5 分、
10 分と経つと、落ち込みも峠を越して、待合室の面々となんだか妙な連帯感みたいなものを勝手に抱き始
める。心のバリアが崩れていく感覚…秘密にすることに慣れ、それが定めだと決めつけていたこの得体の
知れない病気を、ほんの少し社会に 自己開示 したことがうれしく思えてきた。回復に向かって大きな第
一歩を踏み出せた、そんな気持ちが少しずつ心を支配し始めたのだ。
3. 医師からのうれしい?宣告
どうぞ、診察室へお入りください コールが待合室に響き渡る。いよいよ始まるチャレンジにドキドキ
しながら扉を開ける。担当医と軽く挨拶を交わした後、ついに問診が始まった。症状についての細かい質
問を数十項目受け、次いで育った家庭環境、現在の家族構成、仕事内容、趣味、運動量、食生活など、矢
継ぎ早に、そして事務的に洗いざらい聞かれる。問診を終えホッとするのも束の間、今度は身体測定と心
電図および血液検査を一通りこなし、約半日の時間を費やし初回が終わった。この診察の結果を受けて、
パニック障害かそうでないかが判断され、めでたく?パニック障害の診断が下ったら、次のステップに進
むことができる。そして 1 週間後、2 回目の診察日。まるで大学合格の結果を待つ受験生のような気分だ
が、よくよく考えると、病気を宣告されることを望んでいる自分もなんだか妙だ。
診察室にお入りください。扉を開けると、担当医の先週よりやや引き締まった表情がそこにあった。坂
田さん、あなたは間違いなくパニック障害です …。過呼吸に苦しめられてまる 3 年、晴れて私はきちんと
した病気として認定された。記念すべきこの日は、先週の小さな自己開示に次ぐ第 2 のステップとなった。
4. 「治験」はフルマラソン
パニック障害である、と医師から宣告されると、今度は治験薬が身体に合うかどうかの反応を見るため
に極少量を試験的に 1 週間服用し様子を見る。そこで身体に異常がみられなかったら、ようやく治験プロ
ジェクトへの参加が認められる。以後、16 週間(4 ヶ月!)にわたる長丁場。慎重に身体の様子をチェッ
クしながら治験薬を少しずつ増量し、最終的には初期の 4 倍量を服用することになる。それなりの副作用
(頭痛、吐き気、めまい、倦怠感等)は覚悟しなければならない。安全性は高いとはいえ実験は実験、病
院側が慎重に対処すればするほど、なんだか怖さが増してくる。だが、もう 2 度と、あの呼吸困難の恐怖
は味わいたくないので意志はまったく揺らがなかった。
そして診察最後の仕上げは、同意書へのサイン。薬剤師が文面を長々と読み上げ、本人が納得したらサ
インをして、晴れて パニック障害治験者 としてデビューとなるのだ。
コソコソと内科へ行って中途半端な診察を受けていた頃を思うと、 治験に参加する というアクション
を起こしただけで気持ちがなんだかオープンになった。今から思えば、ここで私は、そうだ、これからは
積極的に自己開示していこう という思いが芽生えたような気がする。
5. さらなる自己開示
33
4 月中旬から本格的に治験が始まり、その日から治験薬以外の薬はすべて処分させられた。最初はパニ
ック障害の症状が出てもなるべく我慢し、どうしてもダメな場合は頓服薬を服用してもよい、というルー
ルが告げられた(症状が出ても我慢?)
。それまで気休めとはいえ内科から薬を処方されていたので、それ
を飲まないとどうなるものか…と不安に思っていたが、案の定、最初の 1 週間は呼吸困難のオンパレード
で、そのたびに頓服薬を飲み、必死の思いで凌いでいた。だが、医者から そんなに頓服薬ばかり飲んでい
たら効果がわからないでしょ! と厳しい一言。治験中は、頓服薬はおろか風邪薬やビタミン剤も薬剤師の
了解なしに飲んではいけないのだ。これは本当に辛かった。正直、大学院の講義など受けられるような状
態ではなかった。ちなみに治験薬は、まだ日本では世に出ていないので詳細は述べられないが、パニック
障害の原因の一つであるセロトニン(神経情報を伝達する物質)の働きを高めるもので、アメリカ、イギ
リスなど 54 カ国では既に発売済だった。
ところで、始まったばかりの大学院。体調は最悪といっても、ゼミは這ってでも行かねばならない。私
はマスコミ、広告、消費者行動研究に関心があったので、そちら方面のゼミを中心に履修したが、電子メ
ディアの勉強もこれからの時代ははずせない、という思いから、川浦ゼミの CMC 研究(川浦,1997)を選
択した。最初は気楽に ホームページの研究論文とか読みたいなぁ くらいの思いだったが、たまたま『情
報行動の社会心理学』の第 3 章「メディアと自己表現」(川浦, 2001)を読み、その中に書かれていた カ
ミングアウト という部分を読んで衝撃が走った。この論文では鬱病を例に、こうした病気の人は社会的マ
イノリティとされ、同じ境遇にいる人たちを見つけることは容易ではないが、ホームページの掲示板など
で仲間を探し出し、交流が始まる可能性があると指摘されていた。パニック障害→インターネット→カミ
ングアウト…。私の積極志向はさらに加速度を増した。
6. バリバリの「パニック障害」です
2001 年 1 月、「私、バリバリの『鬱』です」という大きな文字のキャッチフレーズと、木の実ナナさん
の満面の笑顔が印象的な新聞広告がシオノギ製薬から出された。これは、日本における治験広告の草分け
と思われるが、川浦(2001)は「メディアと自己表現」の中でこう分析している。
なんともあっけらかんとしたカミングアウト。驚きと同時に、一瞬ホームページを見ているような錯
覚に襲われた。日本で鬱病患者は 1,000 万人といわれるほどポピュラーな病気だから、コソコソしない
で堂々と公表しようということの表れなのか…。
さらにこう続く。
同じ病気の人間が大勢いることはわかっていても、声を上げにくい、かけにくい。そんな時にホーム
ページを開けば、顔も名前も知られることなく、病気を訴えることができる。それを見た人たちの中か
ら「実は私も…」とフィードバックが寄せられ、掲示板で交流が始まる可能性がある。
この章を読み、私は、バリバリの「パニック障害」です と思いっきり掲示板に書き込みをしたい衝動に
駆られた。同じ病気の人と交流を持ちたい、あの苦しみを共有したい、いろんな情報交換をしてみたい…
夢はどんどん膨らむばかり。同性愛のカミングアウトに悩んだという石川大我氏が自著『ボクの彼氏はど
こにある』の中で、神様、仏様、パソ様と、パソコンを生きる希望を与えるツールとして称えている。個
人の力、しかも匿名で、世界中の不特定多数の人々に情報を発信できるパソコンは、まさに社会的マイノ
リティの武器なのだ。
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まさか大学院のゼミで背中を押されるとは思ってなかったが、私はインターネットを通じて、パニック
障害を自己開示することを決意した。とりあえずポピュラーなところでトライしてみようと Yahoo!掲示
板 のメンタルヘルスを検索してみた。いくつかトピックとして立てられていたが、一番書き込みが多く活
気のある パニック障害の方いますか? というトピックに書き込みしてみることにした。
7. 意外にも気軽に参加できない「電子掲示板」
まず、Yahoo!専用のユーザーID を取得し、ハンドルネーム(ここではニックネームと呼んでいる)をは
じめ必要事項を入力し会員登録した。
Yahoo!掲示板の場合は、例えばメンタルヘルスという項目のところに自分が興味を持っているテーマの
トピックを立ち上げて、そこに同じテーマに関心を持っている人たちが書き込むしくみになっている。あ
る特定の人に宛てたい時やレスしたい時は、その人の書き込みページの「返信」というところをクリック
すれば書き込み画面が出てくる。書き込み作業が終わり「メッセージを投稿」というボタンをクリックす
ると、晴れて自分の文章が公の場に登場するのだ。そして、その掲示板の一番下に
これは○○○(ハン
ドルネーム)さんの○○○(掲示板のカウント数)に対する返信です というコメントが出るので誰に対し
てのレスかがわかるようになっている。不特定多数にメッセージを宛てる場合は、トピックを立ち上げた
時の最初のカウント番号「1」に返信するのがルールになっているようだ。
あまり多くはないが、それでも 5 つくらいは「パニック障害」とついたトピックがあっただろうか。そ
の中から一番歴史が古く(1999 年 9 月 17 日開設)
、登場人物も多く(20 名ほどが入れ替わり立ち代り)、
活気のある パニック障害の方いますか? というトピックをとりあえず選んで、さぁ、思う存分吐露しよ
う! と思い画面に向かった。だが、なかなか思い切って書き込みができない…。なんだろう、この緊張感。
匿名だし、周りはみんなパニック障害の人ばかりだし、さっさと気楽に書き込めばいいのに、これがまた
構えてしまうのだ。理由をあれこれ考えてみると、まず掲示板そのものに慣れていないこと。いくら匿名
とはいえ、自分の病気をカミングアウトするという行為は、なかなか第一歩が踏み出せないものだ。頭で
はわかっていても、指と心が反応しない。最初に何を書けばいいのか、という迷いも書き込みにブレーキ
をかけてしまう。それと、ここのトピックは掲示板であるにも関わらず、まるでチャットのようにレスが
クイックで返ってくるのでタイミングも難しかった。まるで、大縄がブンブン回っていて、なかなか飛び
込めない運動音痴のような感じだ。結局、思い立ってから 2 週間、行こうか戻ろうかで、結局、参加する
ことができなかった…。
8. ちょっぴりほろ苦かった「電子掲示板」初体験
5 月後半、今後のゼミの進め方について説明があった。まず、自分が興味を持った論文について発表す
ること、最後に身近なテーマで調査し発表する、という旨だった。カミングアウトとインターネットの関
係に密かに肩入れしていた私は思い切って現状を告白することにした。
僕は電子メディアにおけるカミングアウトについて関心を持っている。実は僕自身カミングアウトした
いことがあるので、自分を実験台に調査報告してみたい
…。
そして、自分がパニック障害で治験を受けていることなど、おおよそのことを報告した。この時は、そ
れは面白い調査だからぜひやってみて、というくらいで個人的で小さな範囲の研究になりそうだったが、
日を追うごとに大きく育ち、気が付けば、ゼミが終了したあとも夏休みなどを利用して集まり、研究会を
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する共同プロジェクトになっていた。
さて肝心の掲示板デビューだが、ゼミでもカミングアウトして研究したいと宣言した以上、後へは引け
ない。思い切って自分がなぜパニック障害になったかを適当にまとめて掲示板に載せてみた。しかし、い
やな予感は的中した。あまりの登場人物の多さと書き込みの多さに埋もれてしまい、まったく反応がない。
ここのトピックはすでにトピ主(トピックの発起人)が姿を消し、無法地帯になっていたのでなおさら、
なんだか抽選箱に埋もれた葉書のように、私の書き込みは読まれることなく永遠の眠りにつこうとしてい
た。梅雨の真っ只中、6 月下旬のことである。
図 1 は私が初めて掲示板に書き込んだ文章である。これは、あるメンバーがパニック障害になった原因
を書き込みしたことに対してのレスになっているが、基本的には 初めまして の意味合いが強い。ここに
書かれているように、私の場合、母親の病気に相当なショックを受けてパニック障害を起こしてしまった
のだが、そのあとの予期不安がもっと酷かった。つまり、電話=父親=母親の病状悪化、という方程式が
頭の中で出来上がってしまい、電話の音を聞くだけで呼吸困難に陥るという悪循環を招いていた。その後、
もしも満員電車で発作が出たら、とか、歯医者で出たら、映画館で出たら、とか、どんどん行動範囲が狭
くなり、まさに引きこもりの一歩手前まで悪化していった。
9. 自殺騒ぎの渦中に立たされ絶句
埋もれてしまった初めての書き込み…だが、しばらくすると一人の女性からレスが入った。お母様のこ
とはショックだったでしょう、お気持ちお察しします みたいなことが書かれていたが、本当に飛び上がる
ほどうれしかった。掲示板で初めてコミュニケーションが成立したのだ。それからしばらくは、緊張感も
とれ、気軽な感じで時々書き込みをするようになった。また、冷静にトピックの動きや傾向を分析する余
裕も次第に生まれてきた。
よく見渡せば、ここのトピックは主婦が圧倒的に多い。もともとパニック障害は女性が多いとも言われ
ているが、それにしても多すぎる。そのせいか、まるでチャットをやっているかのようにレスが物凄く早
いのだ。みんなパソコンに張り付いているのだろうか?それだけ夢中になるということは、辛い症状を少
原因について私も考えた
2003/ 6/XX XX:XX
メッセージ: XXXX / 9856
投稿者:
名前
(XX 歳/男性/○○市)
はじめてのカキコです。
いまから 3 年前、出張先で母親が末期がんであることを父から知らされました。その夜、ホテルの一室でいろんな
想いが走馬灯のように頭をかけめぐり、気がつけば脈は激しく、呼吸は荒く、まさに死の恐怖。15 分くらい、悪夢
は続き、終わったあとは全身が痺れ切っていました。前日仕事で 1 時間しか寝ていなかったせいもありますが、わ
たしの場合、ターニングポイントが明確でした。その後、父親の電話に出ると必ず母の病状が悪化しているもので
すから、電話のベルが鳴るたびに呼吸困難に陥り、いまではどんどんそのアイテムが広がり、お風呂、映画館、満
員電車、美容院、階段など、きりがないくらい。でも、この病気を克服するために様々なことにトライし、ようや
くその成果が現れつつあります。。。
㻃
図1
Yahoo!掲示板「パニック障害の方いますか?」での初書き込み
䛙䜒䛵㽙㽙䛛䜙䛴 㻼㻼㻼㻼 䛱ᑊ䛟䜑㏁ಘ䛭䛟
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しでも緩和したい気持ちの表れでもあるだろうし、引きこもっている方もいるということだろう。とにか
くリアルライフで言えなかったことが、ズバズバ言えるわけだから、書き込みが慣れてきた頃は確かに気
持ちよく、やみつきになる。タブーの話がメインの話に変貌するのだ。さらにパニック障害の話題がマン
ネリ化すると、子供の話、夫の悪口、自分の生き方など、井戸端会議風にどんどんエスカレートしていく。
だが、吐き出すだけ吐き出すと、今度は各人の性格が掲示板に反映されてくる。言いたい放題の人、相談
に乗る人、怒っている人、まじめな人、無意味なことばかり言っている人。そして、時々表れるアラシ(ト
ピックを誹謗中傷でメチャクチャにする人)…。
ここまで掲示板の人間関係が深くなってくると、アラシの嫌がらせはさておき、それなりにやっかいな
問題も出てくる。私も一度、とんでもない目に遭った。何かちょっとした掲示板上での言い争いが勃発し、
自殺発言まで飛び出し、一時騒然となった。その時、私も発言をしたのだが、言葉の捉え違いがあり、み
なさん、さようなら… という意味深な書き込みをされてしまった。まぁ、ハッタリだとは思っていたが(そ
の方は今も元気にトピックで書き込みを続けている)が、それを読んだ時はさすがに恐怖を感じ、絶句し
てしまった。匿名でテキストだけのやりとりなので、中途半端な人間関係だと、ちょっとした言い方がと
んでもない争いに発展してしまうリスクもはらんでいるのだ。メンタルヘルス系のトピックでは、死にた
いとか、気分を害したとか、もうここへは来ないとか…ちょっとしたことでそういう発言をする人が結構
多いが、どうやら、その言葉自体に意味があるのではなく、かまってほしい、あるいは注目してほしい、
という孤独感の表れではないかと思えてきた。
掲示板に少し没頭しすぎたかなぁと、ふと我に返る。一生懸命書き込みするのもいいが、掲示板はほど
ほどがいい。ROM するだけでも、いろんな情報が手に入るし、仲間がこんなにいるんだ、という思いも感
じ取れるわけだし。とくにパニック障害に関連して鬱病の人も参加してくると、同じ苦しみの共有者とは
いえ精神的に不安定な人ばかりの集まりになるわけだから、揉め事も避けられない。
もう少し、穏やかなトピックを探してみよう。私はこのトピックを3週間で退散することにした。
10. 掲示板はオアシスときどきストレス
最初に参加したトピックは、やはり強力なリーダーシップを取れるトピ主さんがいなかったことも荒れ
た原因だろうか。今度は、管理する人がいるトピで、過去の書き込みをしっかり ROM してから参加する
ことにした。まず、病気、療養と看護 という項目の中にあった パニック障害でも働きたい! というトピ
ックを見つけ、書き込みをしてみた。ここは、気配りのあるトピ主さんが管理していて、たいした話はし
ていないがほのぼのとしたいい感じで平和な世界を作り上げている。だが、ハンドルネームも一新して 僕
も仲間に入れてくださーい みたいなノリで入り込んでみると、意外にもトピ主さん以外はなんとなく冷め
ていて、排他的な印象を受けてしまった。書き込みをしても反応なし、なんとなく無視されている感じが
するのだ。どうやら仲間の輪が出来上がっていて、トピ主さんは歓迎の言葉をかけてくれるものの、空気
的には よそ者が来た なのだ。テキストだけの世界でも、なんとなくグループの絆や集団雰囲気なんかを
肌で感じられてしまうのだから不思議だ。
同じ頃、並行してパニック障害の新たなトピックを探していた私は、偶然 A 県の 出会い という項目の
中に パニック障害の方の憩いの場
というトピックを見つけた。ここもトピ主さんがしっかりしていて平
穏な掲示板を維持している。関東の人間だけどいいですか? みたいな感じで書き込みしたら、ほとんどの
人が好意的に迎えてくれ、しばらくお世話になることにした。そう… お世話になる という言い方がピッ
タリだ。たかが掲示板なのに、気軽に書き込みしていけばいいのに、なんだか新しいサークルに入部する
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ような感覚なのだ。たぶん、これは私の勝手な解釈、思い込みだとは思うのだが。だから、しばらくする
と、書き込みしなきゃいけない、という変な義務感が生まれ、面倒くさくなってしまう傾向も。案の定、
このトピックもみんながオフ会をやろう!ということでにわかに盛り上がり始めた頃、当然 A 県まで行け
ない私は蚊帳の外。実際、日常生活ではなんの変化もないはずなのに、妙な孤独感が心を吹き抜ける。結
局、私の場合、僕も皆さんと同じパニック障害です!お互いがんばりましょう! と書き込みすればそれで
満足。あとは、こんな人もいる、こんな情報があった、この人より自分の方がマシ、とか、掲示板を ROM
すればそれで十分満されることが判った。
パニック障害者にとって電子掲示板とは?これは私見だが、そこのトピックのメンバーと意気投合すれ
ばオアシスにもなるし、住み心地のいい自分の 居場所 にもなる。インターネットといえども、現実社会
と同じで、その環境に合う、合わない、があると思うのだ。逆に言えば、居心地のよさの裏返しとして排
他的な雰囲気が生まれ、住処のような雰囲気を醸し出しているのだと思う。
11. なぜか盛り上がらないメーリングリスト
掲示板の役割がなんとなく見えてきた頃、メーリングリストならどうなるのか興味を持った。
「FreeML」
というメーリングリストの無料サービスサイトにユーザー登録し、現在動いているテーマの中からパニッ
ク障害を探すが、Yahoo!掲示板と違ってなかなか活気のあるものが見当たらない。ようやく見つけた パ
ニうつ 2 というメーリングリストに登録してみたが、1 日に何件か、ポツリ、ポツリと覇気のないメッセ
ージが届くだけ。誰かがテーマを投げかけると、一瞬盛り上がりを見せるが、あっという間に意気消沈。
寂しい、の一言であった。結局、届いたメッセージを見るだけで、とてもこちらから発信する気にはなれ
なかった。
しかし、なぜこうも、メーリングリストは盛り上がらないのだろう。これも実際に体験してみて肌で感
じたことだが、Yahoo!のように RAM する人、ROM する人が入り乱れ、ざわざわと活気のある大型掲示
板に比べて、メーリングリストは少数のパニック障害者が、なんだか世の中の片隅に寄り添って傷口を舐
め合っているように思われる。これでは、ますます社会的マイノリティの意識が高まり、孤独感が増幅す
るだけだ。川浦ゼミでもメーリングリストを活用しているが、連絡事項や研究に関する質問、近況報告、
ときにはプライベートな話題も含めて、こんなに便利で楽しいコミュニケーションツールはない、という
好意的な感じを持っている。つまり、テーマや用途によって表情を変えるわけだが、メンタルな病気のコ
ミュニケーションツールとしては、少なくとも向いていないように思われた。ただし全面否定ではなく、
メンバーのキャラクターや人数、テーマの設定次第では、活気のあるメーリングリストを作ることは十分
可能だとは思う。
12. ウェブ日記に見つけた自分の 居場所
この研究をはじめる時、川浦さんから掲示板やメーリングリストに参加する際、体験記のようなものを
つけておくように言われていた。だが、パソコンになんとなく打ち込んでいくのも味気ないし、きっと長
続きもしない。そこで、いろいろ検討した結果、
「楽天」の無料ホームページに自分のサイトを作り、ウェ
ブ日記をつけることにした。これが予想以上に簡単で面白い!フォーマットが出来上がっているし、デザ
インもサンプルから好きなものを選ぶだけなので、必要データを入力すればパソコン音痴の私でも簡単に
ホームページを立ち上げることができる。ハンドルネームは、Yahoo!の掲示板で使っていたものをそのま
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ま使い、大好きなミュージシャンの写真を散りばめながら、少しずつ自分の世界観を出すようにタイトル
や誘い文句、自己紹介も演出していった。ちなみにこのホームページには、自分の好きなことをツラツラ
書ける「日記」機能の他に、
「掲示板」機能や「メール」機能もあって、「楽天」内の他のホームページの
人たちと自由に交流を持つことができる。また、気に入ったサイトにリンクすることができ、そのサイト
の日記が更新されると自動で知らせてくれる、というフレンドリーな機能もある。ちなみに、わがホーム
ページのタイトルは「Roll Over Panic」だ。
研究の一環と考えていたので、最初はまじめにパニック障害についてウェブ日記に書いていた。だが、
それに対する感想や共感、批判、回答など、書き込みがほとんどない。周囲は、まるで人が溢れる商店街
のようにざわざわ賑やかなのに、私のホームページだけは閑古鳥が鳴いている。そこで、パニック障害の
ことだけに限定せず、自分のカラーが出るよう少しずつ日記の内容を変えていった。昔見た映画のことや、
今日あった妙な出来事、青春時代の思い出、愛犬との出逢いなど…もちろん、パニック障害の経過や Yahoo!
掲示板での出来事、治験の経過なども時折散りばめながら。すると、途端に掲示板への書き込みが増え、
リンク仲間もどんどん増えて、1 日に 14、5 件のやりとりをするようになった。最初はホームページ上だ
けの関係だったが、個人的にメールをもらったり、チャットに誘われたり、
「楽天」以外の別サイトでやり
とりしたりと、ネット上とはいえ、毎日がまるでお祭り騒ぎのように楽しかった。パニック障害の研究日
記、ということをすっかり忘れて(すみません!)
、ネット・コミュニケーションに没頭していたわけだが、
よくよく考えてみると、この 没頭 するということ自体がパニック障害による症状を忘れさせ、結果的に
は、とても効果的なリハビリツールになっていた。パニック障害のことばかりに執着するよりも、パニッ
ク障害も、今日あった出来事も、過去の思い出も、すべてが自分で、すべてが現実であるという日記の書
き方が心の浄化を生んでくれたのだと思う。
まったく予期していなかったが、ウェブ日記に私は自分の 居場所 を見つけたのだ。
13. 居心地のよさが裏目に?
リンク仲間はピーク時で 15 人くらいいたが、その半分がパニック障害の人、あるいはパニック症状を併
発している鬱病の人だった。リンクしていなくても、実は私もパニック障害でした とか、母がパニック障
害です、何かアドバイスを! という人がたくさん書き込みをしてくれて、正直、世の中にはこんなにパニ
ック障害で苦しんでいる人がいるのかと驚いたものだ。
その中で、とくに仲良くなった 3 人がいて、その 3 人とも鬱病をかかえていた。自分のウェブ日記に内
面を吐露するような詩を書いている藍さん(仮名)、登校拒否で悩んでいる高校生のリュウヘイくん(仮名)
、
そして離婚して生活保護を受けているレインさん(仮名)
。彼らと出逢って、私はかつて経験したことのな
い友情に一喜一憂した。濃密で、純粋で、それでいて、いつも瀬戸際にいるような危うい友情。彼らの悩
み相談にのるうちに、何を勘違いしたのか、すっかりカウンセラー気分になって、こうしたら?とか、そ
れじゃダメだ!とか、アドバイスしている自分がそこにいた(自分もパニック障害なのに…)
。だが、この
カウンセリング行為がジャブとなって、やがて私の心にズシリと効いてくることになるとは。
例えばレインさん。彼女は現在 16 歳の息子さんと二人で生活保護を受けて暮らしている。だが、その息
子さんが思春期にさしかかり暴力的になってきたそうで、教育上叱ろうとすると反抗され、その都度、猛
烈なパニック症状に襲われ、その後、地の果てまで気分が落ち込んでしまうというのだ。
レインさんが鬱病になるまでの経緯(幼少期からの生い立ち)を聞かされたが、とても公表できるよう
な内容ではない。あまりにも悲惨で、あまりにも悲しすぎて、胸を激しくかきむしられた。人のメールを
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読んで初めて涙を流した。そんな彼女も、ひと頃は冗談をいうほど元気だったが、ある日、息子さんとの
トラブルが原因で音信不通になってしまった。その後、メールは届かない、ウェブ日記に書き込みもない。
きっと家にはいると思うが、どこかへ失踪してしまったかのような雰囲気だ。私はメールや掲示板に毎日
書き込みして、呼びかけ続けた。だが、返答はない。そのまま虚しく半月が過ぎた頃、とても短いメール
が届いた。もうダメです、ホームページ閉じます…。真剣に心配していた分、この言葉はいたく傷ついた。
あまりにも一方的、ホームページを閉じてしまえばもう話す手段がない。連絡の取りようがない。その後、
彼女はいったいどうなってしまったのか…。ネットの残酷さをそこに見た。遮断されると、もう身動きが
できないのだ。本当の名前も知らない、住所も知らない、連絡先も知らない関係なのに、気持ちはリアル
ライフ以上に深く入り込んでいる…このアンバランスさにたまらない苦しさを感じた私は、しばらくレイ
ンさんの帰りを待つも、日記を書く気力を失くしてしまい、ホームページを一時休止することにした。お
盆休みの 8 月中旬のことだった…。
これを失敗と呼ぶのは、ちょっとレインさんに申し訳ない気もするが、自分の接し方にも問題があった。
だから、今ではいい教訓として受け止めて、いつかまたウェブ日記に戻りたいと思っている。自ら去って
いった人をいつまでも心配し続けても、責任を感じ続けても、何も始まらない。気持ちをリセットして、
もう一度やり直したいと思った。なぜなら、ウェブ日記には、それ以上に私の心を惹きつける魅力がたく
さんあるからだ。パニック障害のことを書こうが、映画の話を書こうが、自由気まま。自分の思っている
ことを自分の言葉で表現できるし、日記だからテーマは毎日変えられる(電子掲示板や ML はテーマが決
められている)
。
私の場合、好き勝手に自分の叫びたいことを叫ぶことができれば、それがカタルシスになり元気になれ
る。パニック障害も含んだ多彩な内容は OK だが、パニック障害だけに執着した内容は逆に NG なのだ。
パニック障害の人だけで集まるのではなく、パニック障害の人もいる、鬱病の人もいる、映画好きもいれ
ば、歌舞伎好きもいて、マラソン好きもいたりする。マイノリティ同士で固まるのではなく、みんな同じ
レベルで共存することが、私にとって一番理想の環境なのだ。それがネットの世界、とくにウェブ日記で
は自然にできてしまうように思うのだ。
14. 治験終了
8 月末、4 ヶ月にわたる治験が滞りなく終了した。最初は副作用に苦しんだが、幸い薬と相性がよく、パ
ニック障害は 9 割がた姿を消した。医師はこのまま薬を飲まずに様子を見る、といっているが、頓服はし
ばらく手放せないだろう。パニックが出そうになったら頓服を飲む。これは大切なことだ。そうやって症
状を出さないことが、あの辛い過呼吸の残像を忘れさせ、意識しないようになるからだ。本当の治療はこ
れからだ。まずは予期不安がなくなるまでが勝負だ。
しばらく離れていた Yahoo!掲示板を ROM してみた。例の自殺騒ぎに巻き込まれたトピックは、メンバ
ーが分散し、いろんなところで新しいトピックを立ち上げていた。病気、症状 の項目にある「パニック障
害の方、ご家族の方お話しましょう」もそのひとつで、ある意味で、旧トピックの避難場所になっている。
トピ主さんの人柄もあって(彼自身は健常者で、奥さんがパニック障害)
、穏やかで平和な人生相談のよう
なトピックになっている。このようなトピックなら、たくさんのパニック障害の人たちが集まり、癒され、
そして救われていくことだろう。
言葉は、鋭い刃物にもなれば、暖かい毛布にもなる。とくにネットの世界では、それがより際立ってく
るから難しい。例えば 大変ですね、がんばってください は、時々私には 大変そうだけど、関わりたくな
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い というふうに聞こえてしまう。被害者意識の卑屈さにも思えるし、ある意味で真理のようにも思えるが、
いつだったか…川浦氏が私にこう言った。それ(パニック障害)が起きた時、私はどう対処すればいいで
すか?。これ以上も、これ以下もない言葉。患者を甘やかさない姿勢と、いざという時はまかせろという
意志がこれほど明確に表れた言葉は他にないだろう。
しばし、ネットの世界をさまよい歩く。メッセージの裏に隠された本当の優しさ、厳しさ、そして切な
さが、私の心を揺り動かしていた。
15. おわりに
ウェブ日記に活路を見出しながら、いまだ復活を遂げていない今、私はネットコミュニティとは対極の
世界を彷徨っている。1 つは電子掲示板で知り合った人から勧められた某メンタルヘルス系の講座であり、
もう 1 つは主治医に勧められた臨床心理士によるカウンセリングである。つまり、非対面ではなく、対面
コミュニケーションの世界に足を踏み込んだのである。前者は、浄土真宗をベースにした説話や様々な神
経障害を克服した成功者たちの体験談が中心となる。後者は、静かに子供時代から遡り、自分の生い立ち
や性格、家族、友人関係などをひとつひとつ根気よく整理していく作業が中心である。同時に接する機会
を得たが、私は後者のカウンセリングを選んだ。
電子掲示板やウェブ日記にトライしてみて感じたことは、パニック障害という病気で繋がったネット上
の仲間たちと、それこそヘトヘトになるまで吐露しあうと、いままで抱いてきたマイノリティという感覚
がなくなり、現実世界でもそのまま突っ走ってしまえるだけの神経が備わっていたりする。失敗もいろい
ろあったが、様々なネットコミュニティを経験したことで、パニック障害であることを対面で公表するこ
とにまったく違和感がなくなってしまった。私は今、友人、知人、誰かれかまわずパニック障害を告白し
ているが、病気を拒否せず自分の心の中に取り込むことができれば、おのずと、いま自分に何が必要か冷
静に見えてくるものだ。そして私は、あえて時間を要するカウンセリングを選択した。
私にとって、ネットコミュニティは結論こそ出してはくれなかったが、カミングアウトできるかどうか
で悩んでいた自分が嘘のようにオープンになれたのは、電子掲示板やウェブ日記での真剣なコミュニケー
ションがあったからだと思っている。ある者は癒され、ある者は傷つき、あるものは勇気をもらい、ある
者はそこで何かを学び悟っていく。受ける影響は人それぞれだが、ネットコミュニティには、少なくとも
現状を変えるパワーがあることだけは間違いない。
何はともあれ、私の闘いはまだまだ続く。そして私は心の中でこう叫ぶ…Roll over panic!と。
文献
石川大我
2002
ボクの彼氏はどこにいる?
講談社
川浦康至
1997
CMC 研究ノート:CMC の社会心理学
川浦康至
2001
メディアと自己表現
Computer Today, 77, 52-57.
21 世紀の社会心理学 5:情報行動の社会心理学
Pp.30-38.
41
北大路書房,
付録 2
YBCollection
(http://www.edit.ne.jp/ akira/soft/s_ybcollect.html)
●本ソフトの機能
取得したいトピックのURL、取得掲示板、出力タイプを指定してファイルに保存する。
●処理手順
1. 取得したいトピックのURLを、「取得URLと…」の真下のボックスにセットします。設定は、ブラウザ
からのドラッグ&ドロップか、手動で設定してください(詳細は下記を参照)。
2. 「取得メッセージ番号」ボックスで、ダウンロードしたいメッセージの範囲を指定します。
3. ダウンロードしたい掲示板を「掲示板設定」ボックスから選びます(ドラッグ&ドロップした場合は自
動的に設定されます)。
4. 出力タイプを「出力タイプ設定」ボックスの中から選びます。
5. 「出力ファイルの設定」で、出力先ファイル名を指定します。
6. 「ダウンロード&出力」ボタンを押して処理を開始します。
42
●URLの設定法
1.ドラッグ&ドロップによる設定
WEBブラウザよりメイン画面の一番左上のテキストボックスにURLをドラッグ&ドロップします。
・トピック一覧から、ドラッグ&ドロップする
・個々の発言画面から、ドラッグ&ドロップする
2.手動による設定
・下記のトピックを取得する手順を説明します。
http://messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=GR&action=m&board=1835134&tid=daa47a4a4namfd
&sid=1835134&mid=1&type=date&first=1
・Yahoo!掲示板の場合、最後のほうにあるmid=1の1がメッセージ番号(mid)を表しています。
・URLのメッセージ番号の手前まで(mid=まで)をメイン画面左上のテキストボックスにセットします。
・URLのメッセージ番号の次の文字から最後までをメイン画面右上のテキストボックスにセットします。
●今回の研究用に作成した出力タイプ・ファイル
ᴆ
ᴆ rem1=各項目をタブ区切りで出力し、行の最後に CRLF を付加するᴆ
ᴆ rem2=項目{発言番号、コメント先発言番号、題名、発言者、コメント先発言者、発言日時、本文}ᴆ
ᴆ
ᴆ [basic]ᴆ
ᴆ name=ログ解析用ᴆ ←「出力タイプ設定欄」に表示されるラベルᴆ
ᴆ version=1ᴆ
ᴆ special=ᴆ
ᴆ mark=tabᴆ
ᴆ
ᴆ [html1]ᴆ
ᴆ [html2]ᴆ
ᴆ <@SYS_MSG_NUM><@SYS_TAB><@res><@SYS_TAB><@title><@SYS_TAB><@name><@SYS_TAB><@resname>ᴆ
ᴆ <@SYS_TAB><@postdate><@SYS_TAB><@body><@SYS_TAB><@SYS_CR><@SYS_LF>ᴆ
ᴆ [html3]ᴆ
・このファイルを、YBCollection 本体と同じフォルダーに保存する。その際、ファイル名は先頭を_(下
線)で始め、拡張子は out にする。
・注釈文(rem1、2)でわかるように、このタイプ・ファイルを使うと、①発言番号、②コメント先、③題名、
④発言者、⑤コメント先発言者、⑥発言日時、⑦本文、の7項目がタブ区切りで出力される。
43
オンライン自助コミュニティにおける社会的相互作用
●パニック障害掲示板の分析
2005 年 4 月発行
著者
川浦康至・松田光恵・坂田正樹
発行者
川浦康至
〒185-8502 東京都国分寺市南町 1-7-34
東京経済大学コミュニケーション学部
川浦研究室
042-328-7924
[email protected]
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