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原産国情報による消費者の購買意図プロセス - C-faculty
久保知一研究室第 3 期生卒業論文 原産国情報による消費者の購買意図プロセス 土岐 恵 中央大学商学部久保知一研究室 第 3 期 要約:世界経済のグローバル化に伴って、企業活動の幅が広がった結果、製 品の原産国が多様化している。ライセンス契約が増え、ライセンスを受けた 他国のメーカーがその国で生産・販売をすることも多くなった。このような 状況の中で原産国情報が消費者の購買行動にどのような影響を与えるかをみ ていくことは今後のマーケティングを行う上で重要である。本研究では原産 国としてブランドを所有する本社がある国 (ブランド国) を挙げる。その上 で、原産国と製品カテゴリーとの調和関係から消費者の購買行動を探ってい くことが目的である。そこでモデルを構築し、消費者調査からのデータを用 いて実証研究を行うことでモデルの経験的妥当性を吟味する。本論では共分 散構造分析、分散分析を使用した。分析の結果、国の産業と製品カテゴリー の調和度が製品評価、製品態度を経て購買意図へ繋がることが明らかとなっ た。また、ブランド認知度が高ければ国の産業と製品カテゴリーの調和度が 低くても購買意図は高まることがわかった。 キーワード:カントリー・オブ・オリジン (COO)、情報処理、共分散構造分、 分散分析 1. はじめに 今日、日本には海外ブランドや海外製品が溢れている。日本のブランドであっても海 外で生産されてから日本に輸入されるものも多く、1 つの製品をとっても原産国がどこ なのか 1 カ国だけでは説明できないものも多い1。 1 たとえばヤマハのラケットのブランドの本社機能をもつ国は日本、生産国はマレーシアである。 コカコーラの場合、原液の調達はアメリカからであり、実際に最終的に組み立てられ、製品とな るのは日本国内の工場においてである。 ある製品が海外で生産されているという情報や、その製品のブランドが海外の企業に よって所有されているという情報は、消費者や流通業者の知覚や態度、購買意図にどの ような影響を及ぼすのか。こうした問題については、カントリー・オブ・オリジン (country of origin:COO) という視点で古くからアメリカにおいて研究が進められてき ている。COO とは一般的に訳すと原産国であるが、分業とグローバル化が進んだ現代 では原産国は複数あるとされている。この領域の研究はアメリカにおいて多く行われて きたが、グローバル化が遅れたこと等の理由から日本では COO の領域に関する研究が まだ少ない現状である。 製品の原産国情報が製品評価に影響を及ぼすことは多くの先行研究で明らかになっ ている (たとえば、Erickson, G. M., J. K. Johansson and P. Chao 1984)。特に購入前に内的 手がかり2が有用に使えず、製品の真の品質を把握しにくいほど COO に頼るとされてい る。COO の研究領域の中で、国に対するイメージと製品カテゴリーとの調和関係から 消費者の購買意図を探っている研究としては Roth and Romeo (1992) のみで、この視点 からの研究は未成熟だといえる。国に対するイメージと製品カテゴリーの調和関係とい うのは、当該国に認識される強みと製品特徴の関連性であり、関連がある場合には好ま しい調和が生じる。たとえば、自動車は技術力が必要な製品であり、日本やドイツはそ の分野で強いといえる。したがって、日本製やドイツ製の自動車というのは、この場合、 好ましい調和が生じているといえる。消費者は自らの情報処理能力の限界から最も満足 がいくような商品を選択することから (清水, 1999) 、国イメージと製品カテゴリーの 調和関係から COO を情報処理し、購買意思決定をしていくのではないかと考えられる。 したがって、この調和関係を見ていくことは重要であるといえるだろう。また、COO 情報のみで製品評価をさせてしまうと COO 効果を過大評価してしまう可能性があるこ とから情報手がかりを複数にする必要がある (e.g., Bilkey and Nes1982; Han and Terpstra1988; Hong and Wyer1989)。消費者が用いる手がかりとしては COO の他に、重 要な属性とされているブランド名と知覚品質が挙げられる。また、先行研究ではブラン ド名を明示する際、架空のものにする場合と実在する名前を使用する場合の 2 通りがあ る。本研究では実在するブランド名を挙げる。それによって製品を連想しやすく、より 妥当性のある結果が得られると考えられるだろう。 2 消費者が製品を認識・評価する際には、判断手がかりとして COO、ブランド名、ストア・イ メージ、保証等の外的手がかりと、味、性能などの内的手がかりを使用するが、内的手がかりは 製品を経験しないとわかりにくい。 本論では、国イメージと製品カテゴリーの調和という視点から、実在するブランドを 挙げて消費者の購買意図モデルを構築し、共分散構造分析による実証研究を行うことで 経験的妥当性を吟味する。さらに、ブランド認知度、国のイメージと製品カテゴリーと の調和度について購買意図や知覚品質の大きさの違いを分散分析によって吟味する。 本論は以下のように構成される。第 2 節では、COO に関する先行研究のレビューを 行う。第 3 節では、先行研究で挙げるモデルをもとに本論のモデルを構築し仮説の提唱 をする。第 4 節では調査方法に言及し、第 5 節では分析結果について検討する。最終節 では、分析結果の考察を行い、本論の限界および研究課題について言及する。 2. 先行研究レビュー 本節では、消費者の原産国情報による購買意図モデルを構築するために COO、ブラ ンドの情報処理についての先行研究のレビューを行う。最初に COO の複雑化に関する 研究から、本論におけるカントリー・オブ・オリジンの定義を行う。次にモデル構築に 繋がる先行研究を 2 つ挙げ、最後にブランドの購買類型について言及していく。 2-1. カントリー・オブ・オリジン (COO) の定義 一般的に原産国というと製品の最終組み立て国だと考えられることが多い。しかし、 ある製品が企画設計され消費されるまでには 5 つの次元で原産国が存在する。1 つは製 品のブランドを所有する会社が本社機能を置いている国 (ブランド国)、次にデザイン 機能を持つ国 (デザイン国)、そして部品や原材料の調達先としての国、最終製品を完 成させる国 (最終組み立て国)、最後に消費される国である。一般的に、消費者が製品 を手に取る際に、知ることができる原産国はブランドを所有する国と最終組み立て国で ある。 今日、日本において海外ブランドの製品が多く売られているにもかかわらず、この研 究領域においてブランド国を取り上げている先行研究が少ない。また、李炅泰 (2010) によると企業実務者はブランド国と最終組み立て国はどちらも顧客購買意図に影響を 与えると考えており、その活用によって成果も得られていることが分かっている。しか し、実際にブランド国を意識的に活用している企業は少ないという現状がある。本論で は実在する製品のブランドを挙げて消費者の購買意思決定プロセスを明らかにするこ とから、製品の原産国をブランド国と定義する。そしてブランド国情報の活用方法につ いて言及していく。 3 2-2. カントリー・オブ・オリジンの先行研究 COO 情報が消費者の製品評価に及ぼす影響に関して、多くの初期研究では被験者に COO 情報のみを与え、製品評価を行わせていた。このような実験では消費者は COO 効 果を過大評価しすぎてしまうという批判から、被験者に複数の情報手がかりを提供し、 現実に即した実証分析を行うようになった。Amine and Shin (2002)、Han and Terpstra (1988) などでは消費者の製品評価に COO がブランドより強い影響を与えると分析して いる。それに対し、Tag and Kim (1999) ではブランドが COO より強い影響を与えると 分析している。このように COO 情報の相対的な影響力については見解が分かれている。 しかし、複数の手がかりのもとでも COO は製品評価に有意な影響を及ぼすことが実証 された。 Häubl (1996) は消費者の製品評価における原産国とブランド・ネームの効果モデルを 2 カ国以上に適用できるかを調査している (図 1)。この研究ではドイツ人とフランス人 の自動車所有者を被験者としている。ここで提唱されるモデルは消費者情報処理プロセ ス( Bettman, 1979; Ozanne et al., 1992; Stayman et al., 1992; Wright, 1975 )、態度理論 (Ajzen and Fishbein, 1980; Bagozzi, 1989a; Eagly and Chaiken, 1993)、そして近年の COO 研究の成 果をもとに構築された。 図1 Häubl (1996) のモデル 当該国製の自動車 国の経験的評価 の評価 国の情緒的評価 国の自動車産業の評価 製品の外観評価 製品態度 ブランドイメージ 製品特徴に対する評価 行動意図 そして Häubl (1996) の研究の結果、新しい自動車に対する消費者の態度と行動意図は ブランド・ネームと原産国の影響を受けていることが示された。国の情緒的評価から国 の経験的評価、それから当該国の自動車産業の評価、そして当該国における自動車の評 価へのパスは有意であった。国の評価について言及しており、なおかつその変数からの パスが有意であることから、このモデルに基づいて次節でモデル構築を行う。 また、Roth and Romeo (1992) の研究では、国に対するイメージと製品カテゴリーの 間の調和という観点から COO を調査している。ある製品カテゴリーにとって重要な特 徴が、ある国のイメージと結びついている時に調和が起こる。そのような結びつきがな い場合には製品カテゴリーと国のイメージとの間に不調和が存在することになる。たと えばフランスには優れたデザイン性と名声に結び付きがある一方で、ハンガリーはその 2 つの結びつきはとても弱い。さらにデザイン性と名声は消費者が靴を購入する際に重 要な特性であるが、ビールを購入する際にはあまり重要でないかもしれない。ある国の 強みがある製品カテゴリーにとって重要な特性である場合、製品と国の間に望ましい調 和が生じる。そしてこの「望ましい調和」は購買意図に結びつくことが示されている。 2-3. ブランドの購買行動類型 消費者が製品を購入する際の行動は、購買の対象となる財の種類によって異なる。本 研究では消費者の購買意図モデルを提唱するため、ここで Assael (1987) のブランドの 購買行動類型を挙げる。 図2 購買行動類型 関与水準 高 低 大 複雑な購買行動型 小 ブランド間の知覚差異 バラエティ・ シーキング型 不協和低減型 習慣購買型 5 購買行動類型とは、アメリカの消費者行動研究者 Henry Assael が製品のタイプによ って消費者の購買行動に違いがあるとして製品を 4 カテゴリーに分類したものである。 「関与水準」と「ブランド間の知覚差異」という 2 つの軸を使用している。 「複雑な購買行動型」では、消費者の購買プロセスは「認知」⇒「評価」⇒「行動」 となる。関与水準が高く、ブランド間の知覚差が大きい場合、消費者の購買行動は複雑 となるのである。たとえば自動車やパソコンなどの製品がこのタイプに該当する。「バ ラエティ・シーキング型」での消費者の購買プロセスは、「認知」⇒「行動」⇒「評価」 となる。関与水準が低く、ブランド間知覚差が大きい製品の場合、消費者は別のブラン ドへスイッチしやすくなる。たとえば菓子類や飲料等の比較的低価格な製品がこのタイ プに該当する。「不協和低減型」では、消費者の購買プロセスは「行動」⇒「認知」⇒ 「評価」となる。関与水準が高くてもブランド間の知覚差異が分かりにくい製品、たと えば家具や白物家電がこのタイプに該当するといわれている。そして「習慣購買型」で は購買行動プロセスが「行動」のみである。関与水準が低く、ブランド間の知覚差異も 小さい場合、消費者は「いつも買っている」、「最初に目についた」、「ブランド・ネ ームを知っている」等の理由で購買する。以上 4 つの類型から本研究の財に合うものを 採用する。 3. モデル構築、仮説提唱 本論では、国のイメージと製品カテゴリーの調和関係とブランドを考慮した消費者の 購買意図モデルを構築していくことから本節では先に挙げた Häubl (1996) のモデルを もとにブランドの情報処理プロセス、そして知覚品質を構成概念として加えていく。 3-1. 基本モデルからの仮説 国の評価は消費者の特性や経験により異なるため、Häubl (1996) のモデルにおける 「国の情緒的評価」、「国の経験的評価」は構成概念として使用しないこととする。し たがって、図 1 のパス図の右側の構成概念 (国の自動車産業の評価、当該国製の自動車 の評価、製品態度、行動意図) を本研究に適用させてモデルに採用する。 また、「国の産業の評価」という構成概念は当該国に技術力がある、熟練された労働 力があるといった国の強みを測るものである。本研究では、その国の強みと製品カテゴ リーの調和度に着目していくことから「国の産業の評価」を「国の産業と製品カテゴリ ーの調和度」に構成概念名を変更する。したがって以下の仮説を提唱する。 H1: 国の産業と製品カテゴリーの調和度は、当該国製の製品評価に正の影響を与える。 H2: 当該国製の製品評価は、製品態度に正の影響を与える。 また、前節で挙げた Roth and Romeo (1992) の研究で国の強みと製品カテゴリーが「望 ましい調和」である場合には購買意図に結び付くことが示されていたことから、以下の 仮説が提唱される。 H3: 国の産業と製品カテゴリーの調和度は、購買意図に正の影響を与える。 3-2. 拡張 Fishbein モデル 拡張 Fishbein モデルとは Fishbein and Ajzen (1970) によって提唱されたものである。 このモデルは対象物に対する一般的な態度を測定していた Fishbein モデルとは異なり、 ある状態における特定な態度を測定することを提唱している。また、状況をより特定す るために、主観的規範と呼ばれる消費者の行動に影響する社会的影響を用いて作成して いる。さらに拡張 Fishbein モデルでは、状況特定的な態度と主観的規範が直接購買行動 に影響するのではなく、その 2 つが購買意図を形成すると考えている。この購買意図を 仲介することで、購買行動を直接観察することの困難性を取り除き、態度と購買との関 係がより明らかにされている。この関係を式で示すと以下のようになる。 ܤ؆ ܫܤൌ ܤ ܽ ܰ ܤ ܥܯ ୀଵ ୀଵ B: 行動 BI: 意図 Bi: ある特定の状況で、特定の行動を形成する結果についての信念 αi: Bi の評価 NBj: 他人がどう考えるか、という規範的信念 MCj: 規範的信念に従おうとする動機 7 行動は行動の意図とほぼ同値として捉えている。右辺のうち、前者が特定的な態度を 測定し、後者が主観的規範を測定している。 このモデルの問題点は、状況特定的な態度と、主観的規範が明確に分けられるもので はないことから、実際のデータで確かめようとする場合にはダブルカウントしていると いうことである (Miniard and Cohen 1983)。主観的規範を用いるとモデルの当てはまり が悪くなることが考えられるため、本研究では社会的規範の概念を採用しないこととす る。 そして態度を構成する概念の 1 つとして本研究では「知覚品質」を採用することにす る。「知覚品質」とは Morgan (1985) によると消費者が実際に知覚する製品の品質を表 す概念である。消費者を購買に促すには高品質だと知覚させなければならないと考えら れる。また、Holbrook (1981) は、製品属性情報はそのままではなく、消費者の知覚を 経て態度形成に至るとしている。したがって、次の仮説が提唱される。 H4: 知覚品質は、製品態度に正の影響を及ぼす。 H5: 製品態度は、購買意図に正の影響を及ぼす。 3-3. ブランドに関する仮説 次節でも述べるが、本研究では財としてポータブルオーディオプレイヤーを用いるた め、消費者の購買プロセスは購買行動類型の中では「複雑な購買行動型」になると考え られる。また、Häubl (1996) のモデルから製品評価は製品態度に影響を与えることから ブランド評価は製品態度にも影響すると考えられる。したがって以下の仮説を提唱する。 H6: ブランド認知は、ブランド評価に正の影響を及ぼす。 H7: ブランド評価は、製品態度に正の影響を及ぼす。 H8: ブランド評価は、購買意図に正の影響を及ぼす。 ここまで提唱した仮説をまとめると以下のモデルが構築される。なお、本論では CIP モデル(county-of-origin information processing model)と呼ぶ。 図3 CIP モデル 知覚品質 (+) 当該国製の (+) 製品態度 製品評価 (+) (+) (+) (+) 国の産業と製品 購買意図 カテゴリーの調和度 ブランド認知 (+) ブランド評価 (+) 3-4 製品の種類による仮説 次節で詳しく述べるが、本研究ではブランド認知度、国の産業と製品カテゴリーの調 和度の高さの異なる財を 3 つ用いる。 国の産業と製品カテゴリーの調和度と購買意図の関係の仮説を提唱するにあたって、 ここで適合性の研究を紹介する。 3-4-1 適合性に関する研究 適合性とは、ある外部参照基準における複数の対象同士の評価のことである (Osgood and Tannenbaum 1955)。適合性に関する研究は彼らを発端にマッチアップ仮説研究に繋 がっていくことになる。マッチアップ仮説とは、もとは広告研究において有名人のイメ ージと製品イメージとの一致が効果的な広告をもたらすと指摘したものである。適合性 研究の意義としては次のことが挙げられている。第 1 に 2 つの対象の組み合わせが影響 することを明示した点、第 2 に、適合性とは人と製品だけでなく、事業同士や慈善事業 9 とブランドの組み合わせなど他の組み合わせで援用することが可能であるという点で ある。この議論で実際に行われた研究に Bucklin and Sengupta (1993) が挙げられる。彼 らによると、企業が提携する際には、事業領域の類似性や目標の適合性が組織間の補完 効果を高めるといったように、提携相手の経営スタイルと文化の類似性が重要である。 この実験の結果、組織的適合性の高さが関係性を強めることが明らかにされている。本 論では、この適合性の研究を援用して国の産業と製品カテゴリーの適合 (本論では調 和) を考慮していく。したがって、次の仮説が提唱される。 H9: ブランド認知度が同水準で高い場合、国の産業と製品カテゴリーの調和度が高い方 が、購買意図は高くなる。 また、Gardner (1971) はブランド・ネームと知覚品質の関係について実証研究を行っ ており、その結果、消費者はブランド・ネームを有しない製品より有する製品の品質を 高く評価することが示された。そこから以下の仮説が提唱される。 H10: 国の産業と製品カテゴリーの調和度が高い場合、ブランド認知度の高い方が、知 覚品質は高くなる。 4. 調査方法 モデルの経験的妥当性をテストするため、都内の大学生を対象に質問紙調査を行った。 調査には情報処理を比較的多く必要とする経験財としてポータブルオーディオプレイ ヤーを用いることにした。質問項目は Häubl (1996)、Yasin, Noor and Mohamad (2007)、 Keller (1998)、Dodds, Monroe, and Grewal (1991) を参考にしつつ本論に援用できるよう 改良した。なお、国の産業と製品カテゴリーの調和度の質問項目については独自に開発 した。調査設計の妥当性の吟味のため、東京都内に通う大学生を対象にプリテスト (n=24) を行った。その結果、ソニーのウォークマンと Apple の iPod は全員が知ってい ると答えていたのでそのまま採用することにした。そしてトランセンドの MP3 プレイ ヤーは上記の 2 つよりは知っている人が少なかった。したがって、認知度が高く、国の 産業と製品カテゴリーが調和しているものとして日本企業であるソニー株式会社のウ ォークマン3を、認知度は高いが、国の産業と製品カテゴリーが調和していないものに アメリカ企業である Apple の iPod4を、そして認知度は中くらいで、国の産業と製品カ テゴリーの調和しているものに台湾企業であるトランセンド・インフォメーションの MP3 プレイヤー5を採用した。 また、本調査で実際に用いた製品名は各々「ウォークマン」、「iPod nano」、「MP330」 とした。本テストはプリテスト同様、東京都内に通う大学生を対象に質問紙調査を行っ た。回収された質問票から、欠損値のあるものや著しく回答に隔たりのあるものを除く と、有効回答は 200 枚であった。 5. 分析結果 5-1 共分散構造分析 図 3 に示されたモデルを、統計ソフト SPSS Inc PASW Statistics 18 および Amos 18 を 用いて共分散構造分析によって経験的にテストした。まず、潜在変数の信頼性分析を行 ったところ、クロンバックの係数は全てにおいて.70 を上回った。なお、クロンバック の係数およびモデルの適合度をあげるため、観測変数の一部を除いて分析を行った。 以下にその分析結果が示されている。全ての潜在変数のクロンバックの係数が十分に 高いといえるだろう。 3 質問票の作成にあたり、ソニー株式会社のウェブサイト (http://www.sony.co.jp/walkman/) を参 照した。 4 5 質問票の作成にあたり、Apple のウェブサイト (http://www.apple.com/jp/ipod/) を参照した。 質問票の作成にあたり、トランセンド・インフォメーションのウェブサイト (http://www.transcend.co.jp/) を参照した。 11 表 1 信頼性係数(n=200) 潜在変数 観測変数(質問項目:1-5 の 5 点尺度で測定) 国の産業と製品カテゴ ○○*1 には優れたポータブルオーディオプレイヤーを生産す リーの調和度 る技術力があると思う。 クロンバッ クの .869 ○○のポータブルオーディオプレイヤーに対して好ましい 印象を持つ。 当該国製の製品評価 めったに修理しなくて済む。 .802 素晴らしい品質である。 知覚品質 品質に期待できる。 .899 商品の品質は高い。 ブランド認知 特徴が頭に浮かんでくる。 .739 ロゴやシンボルを思い出せる。 ブランド評価 □□*2 は高い信頼性を持つ。 .848 完璧な出来栄えである。 製品態度 肯定的に評価している。 .776 私のニーズを満たしている。 購買意図 私は□□をお店で見てみようと思う。 .807 私は□□を試しに操作してみようと思う。 *1 *2 は国名(日本、アメリカ、台湾)が入る。 は製品名(ソニーのウォークマン等)が入る。 次に妥当性のチェックのため、確認的因子分析を行った。はで、自由度は、 有意確率であった。適合度指標 GFI および自由度調整済み適合度指標 AGFI は 各々.894 および.841 であり推奨水準よりやや下回っているが程々の適合度であるとい える。平均二乗誤差平方根の RMSEA は.075 であり、データが適合していないといえる が、これはサンプルサイズを増やすことによって適合すると考えられる。 続いて、共分散構造分析を行った。まず、モデルの全体的評価を行う。このモデルに 対する値は 122.598 で、自由度は、有意確率はであった。適合度指標 GFI およ び自由度調整済み適合度指標 AGFI は各々.912 および.862 で GFI の推奨水準である.90 と AGFI の推奨基準の.85 を共に上回っており、高い適合度を示している。また、平均 二乗誤差平方根 RMSEA は.065 であり、このデータがモデルに適合していることを示し ている。 次に、モデルの部分的評価を行う。国の産業と製品カテゴリーの調和度は当該国製の 製品評価に正の影響を与えていた (=.758, t=6.909, p<0.01)。これは仮説 1 を支持する結 果である。次に当該国製の製品評価は製品態度に正の影響を与えていた (=.173, t=2.405, p<0.05)。これは仮説 2 を支持する結果である。次に国の産業と製品カテゴリー の調和度は購買意図に対して正の影響を与えていたが、影響力は小さく、t 検定の結果 棄却された(=.023, t=.162, p>.10)。これにより仮説 3 は棄却された。次に知覚品質は製 品態度に正の影響を与えていたが、非有意であり、仮説 4 も棄却された (=.183, t=1.172, p>.10)。そして製品態度は購買意図に強い正の影響を与えていた (=.796, t=4.381, p<0.01)。これは仮説 5 を支持する結果である。次にブランド認知はブランド評価に非常 に強い正の影響を与えていた (=.988, t=5.210, p<0.01)。これは仮説 6 を支持する結果で ある。次にブランド評価は製品態度に正の影響を与えていた (=.541, t=3.175, p<0.01)。 これは仮説 7 を支持する結果である。次にブランド評価は購買意図に負の影響を与えて いた (=-.387, t=-2.020, p<0.05)。これにより仮説 8 は棄却された。 表 2 構造方程式モデルの推定値結果 H1 国の産業と製品カテゴリーの調和度 → 当該国製の製品評価 (+) .758 t= 6.909** H2 当該国製の製品評価 → 製品態度 (+) .173 t= 2.405* H3 国の産業と製品カテゴリーの調和度 → 購買意図 (+) .023 t= .162 H4 知覚品質 → 製品態度 (+) .183 t=1.172 H5 製品態度 → 購買意図 (+) .796 t=4.381** H6 ブランド認知 → ブランド評価 (+) .988 t=5.210** H7 ブランド評価 → 製品態度 (+) .541 t=3.175** H8 ブランド評価 → 購買意図 (-) -.387 t=-2.020* *:5%水準で有意、**:1%水準で有意。 13 図 2 CIP モデルの分析結果 知覚品質 .183 当該国製の 製品態度 製品評価 .173* .796** .758** 国の産業と製品 .541** .023 購買意図 カテゴリーの調和度 ブランド認知 ブランド評価 -.387* .988** **: 1%水準で有意、*: 5%水準で有意。(d.f=67), P<0.01 GFI : .912, AGFI : .862, RMSEA : .065 実線: 有意、点線: 非有意。 以上の結果から、まず有意になった仮説について考察する。国の産業と製品カテゴリ ーの調和度から製品評価へのパス、製品態度から購買意図へのパスが強い影響を与えて いることがわかった。製品評価から製品態度へのパスの影響が小さいのは、評価は態度 形成に関する処理作業の 1 つとも考えられていることから、消費者の作業記憶上での情 報処理が類似していることが考えられる (新倉, 2005)。また、ブランド認知からブラン ド評価へも強い影響を与えていることがわかる。そしてブランド評価は製品態度を通じ て購買意図へ影響を与えることからブランド評価は態度を形成する付加的な 1 つの要 因として働いていると考えられる。ブランド評価から購買意図へは負の影響を与えてい る。その理由として、消費者がブランドを評価する場合、評価されるブランドは価格も 高いものと思われるため、総合的に購買が敬遠されたのではないかと考えられる。 次に非有意になった仮説について考察する。国の産業と製品カテゴリーの調和度は購 買意図に直接の影響を与えていなかった。前述したように国の産業と製品カテゴリーの 調和度は製品評価に強い影響を与えていることから、消費者は図 2 の有意になった上部 分の情報処理プロセスを経て購買意図へ繋がっていくのであり、調和度が直接購買意図 へ繋がらないことがわかった。次に知覚品質から製品態度へも影響を与えていなかった が、これは消費者が製品を高品質だと知覚することが、その製品に対しての好感度に関 係がないということを示している。知覚品質については、次に行う分散分析でさらに言 及する。 本研究では異なるブランド国をもつ財を用いたことから各々の財における共分散構 造分析も行ったが、データとモデルの適合が上手くいかなかったことから、ここには明 記しない。 5-2 分散分析 次に各々の財における購買意図の大きさの違いをみるため、統計ソフト SPSS Inc PASW Statistics 18 を用いて従属変数を購買意図、分類変数を「ソニーのウォークマン /Apple の iPod nano / トランセンドの MP330」として一元配置の分散分析を行った。サ ンプルは共分散構造分析に用いたデータを使用した (n=200)。従属変数である購買意図 は、 その 4 つの質問項目のデータを主成分分析により 1 つにまとめた。 分散分析の結果、 F 値は 5.947、p 値は.003 であり 1%水準で有意であった (表 3)。記述統計量をみると購 買意図の平均値はソニーのウォークマンで.063、Apple の iPod nano で.045、トランセン ドの MP330 で-.518 であった (表 4)。したがってソニーのウォークマンが 1 番購買意図 の高い財であると判断される。また、どの組み合わせに差がみられるかを調べるために Tukey の多重比較を行った (表 5)。ソニーのウォークマンと Apple の iPod nano の組み 合わせの有意確率は.983 と 5%水準でも有意でなかった。それゆえ差は認められなかっ た。ソニーのウォークマンとトランセンドの MP330 の組み合わせの有意確率は.003 と 1%水準で有意であり、差が認められた。また、Apple の iPod nano とトランセンドの MP330 の組み合わせについても同様に有意確率は.004 と 1%水準で有意であり、差が認 められた。したがって仮説 9 は棄却され、調和度が低くてもブランド認知が高ければ購 買意図は調和度の高いものと同じくらいになることがわかった。 以下にその分析結果を記す。 15 表 3 分散分析 平方和 自由度 F 値 平均平方 グループ間 11.612 2 5.806 グループ内 396.387 406 .976 合計 407.999 408 有意確率 5.947 .003 表 4 記述統計量 従属変数:購買意図 度数 平均値 標準偏差 標準誤差 平均値の 95%信頼区間 下限 上限 最小値 最大値 ソニー 186 .063 .929 .068 -.070 .198 -2.792 1.246 Apple 184 .045 1.044 .077 -.106 .197 -2.792 1.246 トラン センド 39 -.518 .985 .157 -.837 -.198 -2.792 1.246 合計 409 -.000 .999 .049 -.097 .097 -2.792 1.246 表 5 多重比較 Tukey HSD (I) O (J) O 平均値の 95% 信頼区間 差 (I-J) ソニー Apple Apple 有意確率 下限 上限 .018 .102 .983 -.223 .260 トランセンド .582 * .174 .003 .172 .991 ソニー -.018 .102 .983 -.260 .223 * .174 .004 .153 .973 ソニー -.582* .174 .003 -.991 -.172 Apple -.563* .174 .004 -.973 -.153 トランセンド トランセンド 標準誤差 .563 次に、財の種類によって知覚品質の高さは異なるのかを調べるため、同じく分散分析 を行った。その結果、F 値は 43.219、p 値は.000 であり、1%水準で有意であった (表 6)。 これにより、財の種類により知覚品質の高さは異なることがわかる。記述統計量をみる と、知覚品質の平均値はソニーのウォークマンで.411、Apple の iPod nano で-.226、トラ ンセンドの MP330 で-.887 であった (表 7)。したがって、ソニーのウォークマンが 1 番 知覚品質の高い製品であると判断できる。また、どの組み合わせに差がみられるか調べ るため、Tukey の多重比較を行った (表 8)。全ての組み合わせにおいて有意確率.000 と 1%水準で有意であった。したがって、全ての製品の組み合わせの間に差があるといえ る。したがって仮説 10 は部分的に支持される。以下にその分析結果を記す。 表 6 分散分析 平方和 自由度 F 値 平均平方 グループ間 71.647 2 35.824 グループ内 337.354 407 .829 合計 409.001 409 有意確率 43.219 .000 表 7 記述統計量 従属変数:知覚品質 平均値の 95% 信頼区間 度数 平均値 標準偏差 標準誤差 下限 上限 最小値 最大値 ソニー 186 .411 .786 .057 .297 .525 -2.791 1.118 Apple 185 -.226 1.033 .075 -.376 -.076 -3.148 1.118 39 -.887 .833 .133 -1.157 -.616 -3.148 1.118 410 .000 1.000 .049 -.097 .097 -3.148 1.118 トランセン ド 合計 表 8 多重比較 Tukey HSD (I) O (J) O 平均値の 95% 信頼区間 差 (I-J) ソニー 下限 上限 .094 .000 .415 .860 * .160 .000 .921 1.675 -.6378* .094 .000 -.860 -.415 * .160 .000 .283 1.037 ソニー -1.298* .160 .000 -1.675 -.921 Apple -.6605* .160 .000 -1.037 -.283 ソニー トランセンド トランセンド 有意確率 .637* Apple トランセンド Apple 標準誤差 1.298 .6605 17 6. 本論の知見と今後の課題 グローバル化が進む近年では、さまざまな製品分野において海外ブランドが輸入され、 日本国内で販売されている。さらに、海外ブランドのライセンスを受けたメーカーが国 内で生産・販売することも多くなっている。本研究ではカントリー・オブ・オリジンの 研究領域の中で原産国としてブランドを所有する国を挙げた。そして特に原産国のイメ ージと製品カテゴリーとの調和関係に焦点を当てて、消費者が実際のブランドをどのよ うな購買プロセスをたどっていくのかを探った。具体的には Häubl (1996) で使用され たモデルと拡張 Fishbein モデルを本論に援用できるように組み替えた。また、Roth and Romeo (1992) から「国のイメージと製品カテゴリーの調和度」という概念を本研究に 合わせて変数名を変え、さらに具体的な質問項目がなかったため独自で作成した。構築 されたモデルは、都内の大学生を対象にアンケート調査から得たデータを用いて経験的 にテストされた。分析の結果、国の産業と製品カテゴリーの調和度は購買意図に直接影 響を与えず、製品に対する評価、製品への態度を通って購買意図に至ることがわかった。 これは Roth and Romeo (1992) の研究で述べている結果を否定するものである。 本研究から次のような知見が導き出されるだろう。企業が製品を販売しようとする際、 そのブランド国が当該製品カテゴリーで重要な特徴に対して強みを持つならばその調 和関係をアピールするべきである。たとえば、調和関係が販売される国の消費者に認識 されているのであれば、製品のパッケージや宣伝に原産国としてブランド国を使用する。 また、もし調和関係があるにもかかわらずブランド国の強みが販売される国の消費者に 認識されていないのであれば、その国のイメージを連想させるようなプロモーションを 行う必要があるといえる。分散分析の結果で台湾企業であるトランセンドのポータブル オーディオプレイヤーに対する購買意図が他の 2 つより低かったのは国のイメージが あまりなかったからかもしれない。また、日本企業であるソニーのウォークマンとアメ リカ企業である Apple の iPod nano の購買意図にあまり差がなかったのはブランド認知 度が関係しているといえる。国の産業と製品カテゴリーの間に調和関係がない国がブラ ンド国となる場合、ブランド認知度をあげることで十分に消費者の購買意欲は高めるこ とができるだろう。また、ソニーのウォークマンは知覚品質が 3 つの財の中で 1 番高か ったにもかかわらず、Apple の iPod とほとんど同じ購買意図の高さであることから、消 費者はある程度の品質があれば満足し購買に至るとも考えられる。 本論ではいくつかの限界が存在する。第 1 に、今回被験者に与えた手がかりとして製 品判断に重要だと考えられる COO、ブランド名、知覚品質を挙げた。共分散構造分析 の分析結果で知覚品質が購買意図に負の影響を与えていたことから、知覚品質を規定す る要因を考える必要があるだろう。たとえば、価格や保証、広告に使用される芸能人な ども製品の品質を判断する際に考慮するかもしれない。第 2 に研究対象としてポータブ ルオーディオプレイヤーを 3 つ挙げたが、それらの製品を使用したことのある人と知っ ているだけの人ではその製品に対する態度が異なるように感じた。製品の認知度合いも 考慮する必要があるかもしれない。第 3 に調査対象が都内の大学生と限定的な点である。 本研究では対象とする財としてポータブルオーディオプレイヤーを用いたため購買層 としては大学生も含まれるが、消費者としては一部であり十分でない。調査対象者を広 げる必要があるといえよう。これらの点に留意したうえでさらなる調査が行われること が課題であろう。 参考文献 Ajzen, I. & Fishbein, M. 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