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今日的課題を通して考えさせる
Ⅲ−1 地理歴史科で主題学習に取り組む 教育課程審議会の「答申」(平成 10 年7 (1)その主題を学ぶことによって、生徒 月)では、地理歴史科における改善の基本 の見方・考え方の幅を広げられるか。 方針として、網羅的な学習や難解な事項の (2)生徒が身につけた見方・考え方を他 教え込みを避けること、自ら調べ、主体的 の場面で応用できるか。 に判断する力を育成することが強調されて いる。具体的には、多角的な見方・考え方 に基づく自分なりの意見を表現する力の育 成 と教える内容を精選し、重点的に扱う内 容を選択することによって、各学校段階の 3 主題学習は、生徒がそれぞれの興味・関 心に応じて自由に主題を設定し、その主題 について主体的に学習し、その成果を発表 特色を打ち出すことが求められている。そ するという形が望ましい。しかし、現実に れを踏まえて、新しい『学習指導要領』で 生徒の様々な興味・関心に対してすべて応 は、地理歴史科において、 えることは難しい。そこで、 (1) 生徒が主体的に活動する時間を確保 ( 1)教師の側でいくつかの主題を設定し、 するために内容の厳選を行う。 その中から選択させる。 (2) 調べ学習や主題学習による内容を工 ( 2)選択した主題に沿って、課題を発見さ 夫し、重点を置いた学習をさせる。 せ、その課題についての考えをまとめさ (3) 世界史と日本史の連携。つまり、世 せる。 界の動きの中で日本の歴史を理解させ ( 3)まとめた考えを発表させ、その内容・ る。 態度・方法などの観点で評価を行う。 という内容が盛り込まれている。このこと を踏まえて、地理歴史科における主題追究 4 学習の在り方を考えてみたい。 1 主題学習の進め方 歴史分野における主題の例 (1)人物とその時代背景に関するもの 例…聖徳太子、大久保利通と西郷隆盛 主題学習の目的 ナポレオンなど 系統的な学習が陥りがちな欠点を補うこ (2)地域の歴史に関するもの とが主題学習の目的である。系統的な学習 例…尾張の新田開発、地元からの海外 のみでは、生徒は受け身の授業態度に陥り 移民の記録など やすく、主体的・活動的な学習姿勢を生み 出すことが難しい。そこで、主題を設定し、 (3)芸術・文化・信仰など 例…絵画から読みとれる時代背景、文 一つの歴史的事項に対して、多角的、多面 学作品に現れる時代背景など 的に追究・考察させることにより、自ら考 (4)衣食住・産業技術・交通通信など え、学ぶ姿勢を育成することができる。 例…日明貿易が明の税制と日本の経済 2 主題設定の視点 に与えた影響、特定の商品の流通 「内容の精選と重点化」ということに照 とその影響など らし、実際の設定に当たっては、少なくと (5)その他 も次の視点が必要である。 例…女性の社会的地位、教育の普及など -1- 主題学習:時代学習の展開例(ヨーロッパ人の「アジアを見る眼」の転換) 学 習 事 項 学 習 内 容 と 指 導 上 の 留 意 導 ヨーロッパ人の世 中世的世界観 入 界観の移り変わり キリスト教万能 合理主義的発想 を確認する 神は絶対的存在 人間中心の世界観 点 近代的世界観 「哲学は神学の婢」ということわざをあげてイメージをつかませる。 ア ジ ア へ の あ こ プレスター=ジョン伝説 がれ アジアには、プレスター=ジョンと呼ばれるキリスト教徒 (キリスト教的 の王がいる。彼はペルシアを破り、イェルサレムの教会を 世界観に由来) 展 助けようとした。 発 問 「プレスター=ジョンがキリスト教徒だと考えられた理由を考えよう」 「キリスト教徒の敵であるイスラムを破ってくれるプレスター・ジョ 開 ンはキリスト教徒に違いない。」<敵の敵は味方>の論理 ア ジ ア に 対 す る イメージ転換の背景(アジアの現実の報告) イメージの転換 ① キリスト教徒が 支配する土地 ワールシュタットの戦い(1241) タルタル人(地獄の使者)の恐怖が印象づけられる。 ② プラノ=カルピニの報告(1246) アジアの支配者は、非キリスト教徒のモンゴル人である。モンゴル人 は宗教・民族に関わらず利用できるものは何でも利用する合理主義を持 ち合わせており、アジア全域にまたがる物流を促進している。また、紙 ↓ 非キリスト教世 の使用に見られるように優れた文化を持っている。 界だが、うまく ③ 機能している マルコ=ポーロの「東方見聞録」(1299) アジアの豊かな物産を目指すイタリア商人の活動が展開される中、マ ルコ=ポーロは大都を訪れた。それは、冒険的なものではなく、イタリ ア商人にとっては、ごく普通のことであった。その記録はヨーロッパ人 に驚きとともに迎えられ、 「うそつきマルコ」と言われたほどであった。 アジアへの 非キリスト教世界のアジアという現実が明らかになるが、それは失望で 新たなあこがれ はなく、 「豊かなアジア」(香辛料などヨーロッパにはないものがあり通 商も盛んである)という新たなあこがれを生み出した。それが、大航海 時代への原動力となる。 終 【まとめ】 中世末期にヨーロッパ人の世界観は大転換した。アジアに対するヨーロッパ人 結 の認識の変化がヨーロッパ自身を変化させたのである。 参考文献:NHK 取材班『大モンゴル2』角川書店、平成4年。 ドレージュ『シルクロード』創元社、平成4年。 -2- 地域の歴史を中心とした主題学習例(尾張の新田開発と農業生産力の向上) 過程 学 習 内 容 と 活 動 導 江戸時代約 200 年余りの期間の田畑面積の変 入 化、石高の変化について数字をあげながら、どの 10 分 留 意 田畑面積 点 石高 年 町歩 年 万石 ような時期に増加したのか、確認する。 1600 16 1592 1845 発問①江戸時代初期になぜ、田畑面積、石高が 1720 29 1700 2576 1872 30 1832 3040 増加したのであろうか。 江戸時代の生産力の向上 平和な時代…幕府の勧農政策 具体的内容に触れ、江戸時 農業技術の改善…新しい農具の発明 代の生産力の向上には、様々 商業的農作物の栽培…城下町の形成 な要因があったことに気づか 新田開発…治水、灌漑技術の進歩 せる。 名古屋市南西部及び海部郡の地図を見せる 展 開 江戸時代、新田開発が盛ん 名古屋市…藤高新田、小川新田 であった愛知県南西部に注目 海部郡…神戸新田、四郎兵衛新田、鍋蓋新田、 させ、○○新田という地名が 六条新田、飛島新田など 多いことに気づかせる。 新田開発の種類 代官見立新田…天領の代官が見立てて開発 新田開発について、時間的 村請新田…村役人が中心で、村単位で開発 な推移について 考えさせる。 町人請負新田…商業資本家としての町人の計 35 分 画による 地図(菊池敏夫『新田開発』 ) 名古屋市及び海部郡の新田開発 熱田新田(1647)…初代藩主徳川義直の提唱 を見せることによって、時代 茶屋新田(1663)…茶屋新四郎(名古屋)の開発 的推移についても確認させ (茶屋四郎次郎の分家。名古屋で呉服商を営む) 神戸新田(1707)…神戸文左衛門(名古屋) (名古屋を代表する材木商で、材木の値下がり から新田開発に取り組む) る。 新田開発が藩自体の経営か ら有力商人の経営に移ってい ったことに気づかせる。 発問②新田開発の主体は当初、藩であったが、や 江戸時代 300 年の幕府、藩 がて有力商人などに移っている。どうして、 の財政の悪化について考えさ そのような状況になったのか。 せ、また、資本主義の芽生え についても考えさせる。 終結 5分 発問③江戸時代の新田開発はどのような意義が 地域の歴史から、全体像へ と思考を広げさせたい。 あったのだろうか。 -3- Ⅲー2 国際理解教育の視点と教材化を考える 国際化の進展が進み、国際社会で主体的 ③自己(自国)と他者(他国)の関係に に生きる日本人としての自覚がこれまで以 ついて考えさせる。 上に求められている。地理歴史科において ④自己(自国)と他者(他国)の在り方 は、教科目標に「国際社会に主体的に生き について考えさせる。 る民主的、平和的な国家・社会の一員とし ⑤自国と世界の関係について考えさせ て必要な自覚と資質を養う」とあり、国際 る。 的資質の育成が中心的な目標になってい *世界における自国の位置づけ る。公民科においても、その目標に「広い =人類的問題の理解と認識 視野に立って、現代の社会について主体的 *世界における自国の役割 に考察させ、理解を深めさせるとともに、 =人類的問題の解決への自国の貢献 人間としての在り方生き方についての自覚 3 国際理解教育の基本概念 を育て、民主的、平和的な国家・社会の有 国際理解教育の基本概念を整理すると次 為な形成者として必要な公民としての資質 のようになる。 を養う」とあり、国際理解教育に対する期 待が述べられている。ここでは、公民科に ① 異文化理解 おいて、 「国際社会に生きる日本人の育成 」 という目標と「自ら学び、考え判断する力 ③ 国際協力と参加、国際協調 を育てる」という方法とを結びつけて国際 ④ 基本的人権の尊重 理解教育の教材化について考えてみる。 1 ② 相互依存関係の認識の増大 ⑤ 個人・社会・集団・国家等の相互間 の権利と義務の認識 国際理解教育の根本 「国際理解」というと、何か国境をこえ ⑥ 社会的・国際的なルール作りとその た事柄の理解に関することのようにとらえ 尊重 がちであるが、今、私たちが直面している ⑦ 平和の価値とその尊重 問題は 心の国境(心の扉) をいかにうまく 開くかに関わっているのであり、それは人 間が生きている限り、常に存在している自 分と他人の在り方、あるいは自己と他者の 関わり方に深く根ざしているものである。 2 4 国際理解教育により育成すべき態度 以上のことを理解させるために次のよう な態度・能力を育成する必要がある。 ◇ 他者の意見を聞き、理解する態度を 養う。 国際理解教育の基本要素 国際理解教育の教材化に際し、次のよう ◇ 自己の意見を表明する能力を養う。 な基本要素を満たすことが大切である。 ◇ 情報の収集と分析能力を養う。 ◇ 情報の発信能力を養う。 ①自己(自国)と他者(他国)の差異に ◇ 異なる意見や他者の存在を理解し、 気づかせる。 許容する心を養う。 ②自己(自国)と他者(他国)の共通点 に気づかせる。 -4- 国際理解教育の実践例 テーマ 学 習 内 容 と学 習 活 動 指導上の留意点 時事問題 ①新聞を読み、海外ニュース・国際関係 *国際関係の諸問題に触れ 発表学習 を通した の記事の中から印象の深かったものを切 させることによって国際情勢 新 聞 などで 国際理解 り抜き、指定用紙に貼らせる。 に対する興味・関心を深めさ 情報収集 教育 ②その内容を80∼100字でまとめ、感想 せ、視野を広げさせる。 を書かせる。 学習形態 ↓ まとめ ③ま と め た プ リ ン ト に 基 づ い て 記 事 *発表をさせる際、教師が記 の 内 容 ・ 問 題 点 な ど に つ い て 報 告 さ 事の客観性、正確さなどにつ せる。 いて補足する。 日米比較 ①多民族を抱え込んでアメリカ社会はど *星条旗が自由と正義のシ を通した のように作られていったのか。 ンボルであることに気づかせ 国際理解 *初期の入植者・ 旧移民・ 新移民 ると共に、建国以来「民主主 (アメリ ②多人種・民族がアメリカ社会に同化す 義と自由の保証」を社会理念 カ 合 衆 るための努力と苦悩について考える。 としていることを考えるきっか 国) ↓ 発 表 視聴覚学習 ↓ 視聴覚教材 使用 スライド資 *多数派民族( WASP) の存在 けにさせる。 *少数派民族の実態 Native American, *ビデオ・ スライド等を学習活 ビデオ Japanese American,Black American etc. 動の中で見せることによりアメ 地 ③多人種・多民族をまとめていくものは リカ社会の理想と現実に気づ (U.S.A.) 何か。→ 憲法・ 英語・星条旗の存在 かせる。 ④生 徒 に 書 か せ た 意 見 ・ 感 想 を 紙 面 *生徒に意見・感想をまとめ 料 図 ↓ 紙面発表 させる際、教師側の視点を明 にまとめ発表させる。 確にしておく。 人の国際 ①わが国における外国人労働者の実態 *日本の入国管理法、国別 化ーわが *不法就労者の実態と位置づけ 不法就労外国人摘発数の推 国におけ ・ 基幹産業を支える外国人労働者 移等の資料やビデオ視聴か る外国人 ・ 労働市場の二重構造 ら、外国人労働者問題につ 労働者ー ②彼らはなぜ来るのか。 いて気づいたことを発表させ *国際的労働者移動の現状 る。 *労働者移動が起きる要因 *資料(ドイツでの外国人就 ③ドイツと比較。*GestAr bei t e r *外国人労働者受け入れの歴史 討論学習 視聴覚教材 使用 ( ビデオ) やビデオを通してドイツの現 ↓ ④グ ル ー プ 別 学 習 に よ る 問 題 点 の 整 *問題点の整理と討論に際 し、教師側の補足を忘れな * 「 賛 成 」 と 「 反 対 」 に 生 徒 を グ ル い。 ープ分けし、討論させる。 -5- と 業者及び失業者数の推移) 状に気づかせる。 理とディスカッションする。 視聴覚学習 討 論 Ⅲー3 環境教育の視点と教材化を考える 人間活動と環境との関わりについて深い 2 環境教育の進め方 理解と認識を持ち、環境に配慮した生活・ 環境教育においては、環境に関する内容 行動をとるとともに、問題の発生をもたら の理解だけにとどまらず、体験的な学習や している社会や経済の仕組みにも目を向 問題解決能力の育成が求められている。 け、それらの構造を環境に配慮したものへ また、環境教育は全ての教科と何らかの と変えていく努力が強く求められいる。 関わりを持ち、相互の連携の上に立って総 また、ゆとりが無く、体験や人との関わ 合的・相互関連的に取り組まねばならない りが少なく、すぐムカつき、キレる生徒に ため、学校教育活動全体を通じて行うべき 対して、環境教育を通して、大自然に触れ ものである。 させ、地域を思いやり、住んでいる町を好 環境教育の進め方についてまとめてみる きにさせ 、「生きる力」を養うことも期待 と次のようになる。 されている。 ① ここでは、公民科における環境教育の教 知識の習得にとどまらず技能の習得 や態度の形成を目指すもので、総合的 材化を進める視点をまとめてみたい。 1 ・相互関連的なアプローチが必要であ る。(主題学習) 環境教育の基本理念 ② 環境教育の目標は、人間と環境との関わ 地域の身近な問題に目を向けた学習 内容を工夫すべきである 。(日常生活 りについて理解と認識を深め、環境に配慮 に見られる身近な事象の教材化) した行動がとれる人間を育てることにあ ③ る。そこでその理念を列挙すれば、次のよ 身近な問題がグローバルな環境問題 につながっていることを認識させ、グ うに要約できよう。 ① ローバルな問題解決への意欲・態度を 環境資源のもつ価値についての認識 育てていける学習内容を工夫する。 を育てること。 ② ④ 環境との触れ合いを通して、豊かな な問題解決能力を育てるような授業展 感性と自然を慈しむ心を育てること。 ③ 開をすべきである 。(発表学習・討論 人間の活動が環境に及ぼす影響につ 学習) いての認識を深めること。 ④ 生徒自らが問題を見いだし、主体的 人間の活動と環境容量との調和につ いて社会的合意の形成を図ること。 ⑤ 環境から学ぶ… 国民一人一人が、学習活動を通して 感受性や関心を培う。 自主的に実践活動し、よりよい環境を 環境について学ぶ…自然を理解する。 築いていくようにすること。 環境のために学ぶ…実践する。 “ Think globally, Act locally” (地球規模で考え、足下から行動する) -6- 環境教育の実践例(公民科) 学習内容 指 導 内 容 の 視 点 科学技術 の発達 ★科学技術の発達が人間 生活にどのような影響を 与えたのか。そして我々 はどのように対応すべき かを考えさせる。 *自分のこととし て考えることがで きたか[関心・興 味]。①②③④⑤ *現状を正確に調 べることができた か[技能・表現]。 ①②③ *現状を正確に認 識できたか[知識 ・理解]。②③④ ⑤ *問題点を確認で きたか[思考・判 断]。④⑤ ★資源・エネルギーが現 代の社会生活を支え、そ の需要と供給が日常生活 や国際社会において重要 な意味持っていることに 気づかせる。 ★新しいエネルギーの開 発と利用が、人類の福祉 向上の上で重要な問題で あることに気づかせる。 ★この問題は自分たちの 生活の在り方や価値観と も深く関わっている問題 であり、人間としての在 り方生き方に関する自覚 を深めさせる。 ①資源・エネルギーがなくなれば、 人類が生存できなくなることを理解 させる。 *自分のこととし て考えるとができ たか[関心・興 味]。①②③④ ★人口の動態変化が社会 生活に影響を与え、エネ ルギー問題や環境問題と かかわる問題であること に気づかせる。 ★次のような問題を取り 上げて、人口問題が各個 人の生き方と密接に関わ るものであることを認識 させる。 ①発展途上国における急 激な人口の増大に伴う食 糧問題。 ②人口の動きが経済成長 に与える影響。 ③労働力の需給の問題 ①地球的視点で理解を深めるため地 図を活用する。 ○大量生産方式と 大量消費生活 ○産業公害の実態 ○防止対策の現状 人口の動 き 評価の観点 ①産業革命や大量生産方式について 歴史的な事項を押さえる。 ②企業の営利原則と結びつけて技術 の進歩を理解させる 。(技術の進歩 は経済を変え、市場要求は技術を変 える) ③工場や事務所の機械化の例は生徒 の保護者から聞き取りをさせ、生徒 が主体的に授業に参加できるような 工夫をする。(発表学習) ④新聞、年鑑類を利用して各種公害 の現状を調べさせる 。 (発表学習) ⑤対策の現状を国・自治体、企業、 住民の各レベルで考えさせる 。( 討 論学習) ○科学技術の発達 資源・エ ネルギー の需給 指導方法の工夫及び留意点 ②温暖化、酸性雨、砂漠化等の地球 環境問題について身近なところから 調べさせる。(発表学習) ③省資源・省エネルギーの現状を国 ・自治体、企業、消費者レベルで考 えさせる。 ④代替エネルギーの開発の現状、原 子力発電について考えさせる 。( 討 論学習) ②人口ピラミッド等の統計資料を活 用する。 ③世界規模の問題と日本の問題、さ らに地域的問題に分けて取り扱うよ うにする。 ④それぞれの国、地域の抱える問題 を上げさせる。特に環境問題との関 係を視聴覚に訴え 、考えさせる 。 (視 聴覚教材学習) -7- *現状を正確に調 べることができた か[技能・表現]。 ②③④ *現状を正確に認 識できたか[知識 ・理解]。②③④ *問題点を確認で きたか[思考・判 断]。③④ *自分のこととし て考えることがで きた[関心・興味] か。①②③ *現状を正確に調 べることができた か[技能・表現]。 ①② *現状を正確に認 識できたか[知識 ・理解]。①②③ ④ *問題点を確認で きたか[思考・判 断]。④ Ⅲー4 1 地理歴史科A科目のねらいと指導の要点を考える (3) 世界史は、全ての生徒が履修し、特に 新教育課程とA科目の位置づけ 平成 11 年3月に新しい『学習指導要領』 時数の少ない世界史Aでは指導内容の精 が告示され、それに伴い平成 14 年度から 選、重点化が大切である。また、高校で初 は完全学校週5日制が始まり(週 30 時間授 めてまとまって世界史の内容に接すること 業)、平成 15 年度からは新課程の施行とな となるので、細かなことに深入りせず、世 り、 「情報科」及び「総合的な学習の時間」 界史的な思考に慣れさせ、歴史的思考力を が加わる。このため、各学校においては現 培うことが必要である。 行以上にA科目を取り入れた弾力性のある 【世界史Aの内容構成】 教育課程を編成することが必要である。ま (1)諸地域世界と交流圏 た、生徒の興味・関心に基づく主題を設定 東アジア世界/南アジア世界/イスラ し、主体的な学習を促し、生きて働く実践 ーム世界/ヨーロッパ世界/ユーラシア 的な学力の育成を目指す各A科目について の交流圏 の指導内容・指導方法の研究が一層望まれ (2)一体化する世界 る。 2 大航海時代の世界/アジアの諸帝国と ヨーロッパの主権国家体制/ヨーロッパ 世界史Aのねらいと指導の要点 世界史Aは、 「近現代史を中心」として、 ・アメリカの諸革命/アジア諸国の変貌 と日本 「我が国の歴史と関連」づけながら「人類 (3)現代の世界と日本 の課題」を多角的に考察し、歴史的思考力 急変する人類社会/2つの世界戦争と を培うことを目標としている。 平和/米ソ冷戦とアジア・アフリカ諸国 (1) 前近代史では、ユーラシアに形成され /地球社会への歩みと日本/地域紛争と た諸地域の特質と相互の交流や交流圏の理 解が期待される。従来の「世紀ごとの世界」 が静態的なとらえ方であったのに対し、今 国際化社会/科学技術と現代文明 3 次改訂では都市や港に支えられた交流圏が 日本史Aのねらいと指導の要点 標準単位数2単位の日本史Aは、選択履 重視され、近代以降へのつなぎとしている 。 修の幅を拡大し、多様な教育課程の編成を (2) 16 ∼ 19 世紀を「広義の近代」ととら 可能にするとともに、生徒の興味・関心を え、大航海時代から始まるヨーロッパ主導 高め主体的な日本史の学習ができる科目と の接触と交流、近代世界の成立と変容を扱 して設置された。また、日本の歴史は中学 っている。また、 20 世紀史では、政治史 校で一通り触れられていることを踏まえ、 の動きだけでなく、輸送革命、マスメディ 国際社会で主体的に生き抜く日本人の育成 アの発達、社会の大衆化、公教育の普及と の観点から近現代史に重点をおいて学習す 国民統合などの社会の変化も積極的に取り るように構成されている。 上げ、 20 世紀を人類史的視野からとらえ (1) 今次改訂では、前近代史を概観する学 させようとしている。また、主題を設定し、 習をなくしたことが最も大きな特徴であ 生徒の主体的な追究学習が求められてい る。その代わりに、大項目「歴史と生活」 る。 において、2∼3の「時代を区切らない縦 -8- 割りの主題」を設定し、科目の導入として、 (1) 大項目「現代世界の特色と地理的技能」 あるいは、学習の深化と歴史的思考力の育 では、地図や統計、画像などの情報収集、 成を図ることを目的として作業的体験的な 選択、処理(読図、作図、景観写真の読み 学習を実施するようにしている。 取りなど)の作業的体験的学習を通じて地 (2) 「世界の中の日本」という観点が重視 理的技能の獲得を目指している。 されている。特に、近代以降の日本の歴史 (2) 大項目「地域性を踏まえてとらえる現 が国際社会の全体的な動向の中でどのよう 代世界の課題」においては、異文化理解や な展開を示してきたか、その過程を多角的 地球的課題を「地域性を踏まえて」追究し 、 ・多面的に考察させることが、科目の目標 地理的見方・考え方を獲得させようとして である「国民としての自覚と国際社会に主 いる。ここでは、2∼3の国を選び、また、 体的に生きる日本人としての資質を養う」 地球的課題についても2∼3の課題につい ことにつながる。そのために、グループや て追究学習を進めるようになっている。 個人による調査・研究・発表・報告などの 【地理Aの内容構成】 活動により「自分なりの歴史像」を確立さ (1)現代世界の特色と地理的技能 せていくことが大切である。 球面上の世界と地域構成/結び付く現 代世界/多様さを増す人間行動と現代世 【日本史Aの内容構成】 界/身近な地域の国際化の進展 (1)歴史と生活 衣食住の変化/交通・通信の変化/現 (2)地域性を踏まえてとらえる現代世界 代に残る風習と民間信仰/産業技術の発 の課題 達と生活/地域社会の変化 世界の生活・文化の地理的考察/地球 的課題の地理的考察 (2)近代日本の形成と19世紀の世界 国際環境の変化と幕藩体制の動揺/ 5 明治維新と近代国家の形成/国際関係の (1) 網羅的にならない 推移と近代産業の成立 A科目は、 標準2単位の科目であるので、 (3)近代日本の歩みと国際関係 全体としては 50 時間くらいしか授業が実 政党政治の展開と大衆文化の形成/ 施できない。この中で何をどのように生徒 近代産業の発展と国民生活/両大戦をめ に教え、体験させてていくのか、十分吟味 ぐる国際情勢と日本 して計画を立てる必要がある。網羅的、体 (4)第二次世界大戦後の日本と世界 系的に構成する必要はなく、その授業を通 戦後政治の動向と国際社会/経済の発 して、各科目の「見方・考え方」が身に付 展と国民生活/現代の日本と世界 4 A科目の指導上の留意点 くようにすることが大切である。 地理Aのねらいと指導の要点 (2) 身近な教材や体験的・作業的な時間を 標準単位数2単位の地理Aは、多様な選 設ける 択・履修ができるよう内容を重点化すると A科目では、歴史や地理の理論を理解さ ともに、今日的な課題を生徒の日常生活と せるだけの時間的余裕はない。身近な材料 関連づけて取り扱ったり、作業的・体験的 から歴史や地理の見方が学べ、作業や体験 な学習を取り入れたりするなど、生徒の興 からその科目の良さが感じられるような工 味・関心に配慮した内容、構成になってい 夫が大切である。 る。 -9- Ⅲー5 1 公民科で在り方生き方教育に取り組む の諸課題や現代の諸課題について考えを深 公民科と「在り方生き方」 『学習指導要領』では、公民科の目標を め、ひいては、生徒自らの人生観や世界観 「広い視野に立って、現代の社会について の確立に役立てようとしているのである。 主体的に考察させ、理解を深めさせるとと つまり、倫理の学習は、単に先哲の思想を もに、人間としての在り方生き方について 学ぶのみではなく、「 先 哲 の 思 想 を 手 掛 か の自覚を育て、民主的、平和的な国家・社 りとして自らの在り方生き方について、生 会の有為な形成者として必要な公民として 徒自身が理解と思索を深めていく」ことに の資質を養う」としている。 ある。その観点からすると、よい授業とは 、 今日の青少年は自我の確立が遅れ、社会 その授業が生徒の在り方生き方に影響を与 的連帯感や責任意識が低い、といわれるが 、 えているか否かによる。そして、よい授業 「現代の社会」と「人間としての在り方生 を実現するには、今日の生徒の実態を踏ま き方」について学習し、国家・社会の有為 えた教材を工夫しなければならない。 な形成者を育成することを目標とする公民 また、今次の改訂では、「現代の諸課題 科は、こうした青少年の現状を打開する中 と倫理」とする課題追究学習のための中項 核的教科であるといえる。 目を最後に配置している。倫理の授業によ また、「公民としての資質」には、激変 って身につけた「倫理的な見方・考え方」 する社会にあって、その時々に、自分自身 に基づき、生徒が現代の課題と自己の課題 や社会の課題に対する情報を収集、分析し、 とをつなげて追究させることを通じて「生 自らの在り方生き方について自らの判断で きる主体としての自己」確立を支援してい 対応していこうとする姿勢を含むものであ かなければならない。 る。公民科では、国家・社会の有為な形成 【倫理の内容構成】 者として必要な思索の方法や実践する力を (1)青年期の課題と人間としての在り方 育成していくことが大切である。 生き方 2 青年期の課題と自己形成/人間として 各科目のねらいと指導の要点 の自覚/国際社会に生きる日本人とし (1) 倫理 ての自覚 在り方生き方学習の中心科目は、 「倫理」 (2)現代と倫理 である 。「倫理」は 、「青年期における自 現代の特質と倫理的課題/現代に生き 己形成と人間としての在り方生き方につい る人間の倫理/現代の課題と倫理 て理解と思索を深めさせるとともに、人格 の形成に努める実践的意欲を高め、生きる (2) 現代社会 「現代社会」は 、「広い視野に立って、 主体としての自己の確立を促し、良識ある 公民として必要な能力と態度を育てる」こ とを目標としている。また 、「倫理」は、 高等学校における道徳教育の充実を図るた めの中核科目であり、日本や世界の先哲の 基本的な考え方を手掛かりにして、青年期 現代の社会と人間についての理解を深めさ せ、現代社会の基本的な問題について主体 的に考え公正に判断するとともに自ら人間 としての在り方生き方について考える力の 基礎を養い、良識ある公民として必要な能 - 10 - 力と態度を育てる」ことを科目の目標とし 究学習を行わせるようにしている。 ている。これは、学習対象が「現代の社会」 【政治・経済の内容構成】 と「人間」及びその相互の関わりであって、 (1)現代の政治 社会が抱える基本的な問題を生徒に主体的 民主政治の基本原理と日本国憲法/現 に考えさせ、人間としての在り方生き方の 代の国際政治 問題として判断できるような能力を育成す (2)現代の経済 ることを目指している。 経済社会の変容と現代経済の仕組み/ また、「現代社会」は、現行では標準4 国民経済と国際経済 単位の科目であったが、今次の改訂で、標 (3)現代社会の諸課題 準2単位の科目に圧縮された。そのため、 現代日本の政治や経済の諸課題/国際 現代社会の諸問題(環境、生命倫理、宗教 社会の政治や経済の諸課題 ・芸術、福祉など)について自己との関わ 3 りに着目して課題を設け、追究学習を行わ せたり、現代社会の特質を理解させる際に も、大衆化、少子高齢化、高度情報化、国 際化などから選択して理解させるようにし ている。現代の課題を網羅的に扱うのでは なく、焦点化したり、生徒の実態に応じて 選択するとともに、学習方法も主体的な課 題追究学習を実施するようにしている。 具体的な取り組みとテーマ設定 このように、今次の改訂では「現代の諸 課題」を「在り方生き方」(自己の課題) につなげ、主題学習として追究させること が期待されている。従って、授業の実施に 際しては、断片的な知識ではなく、生涯を 通じて応用でき、実生活の中で活きる知識 ・技能を学ばせるとともに、どのような生 き方をすればよいのかについて多角的・総 【現代社会の内容構成】 合的に考えさせるようにしなければならな (1)現代に生きる私たちの課題 い。 (2)現代の社会と人間としての在り方生 そこで、複数の単元に核としてのテーマ き方 を設定し、それをもとに統合し、該当単元 現代の社会生活と青年/現代の経済と に織り込まれている在り方生き方について 経済活動の在り方/現代の民主政治と民 考えさせる授業展開を工夫する。 主社会の倫理/国際社会の動向と日本の 例えば、次のようなテーマが考えられる。 果たすべき役割 『自己形成』を通じて「自立」 (3) 政治・経済 『西欧思想』を通じて「探求/理性」 「政治・経済」は、 「現代における政治、 『宗教』を通じて「生きる」 経済、国際関係などについて客観的に理解 『近現代思想』を通じて「自由」 させるとともに、それらに関する諸課題に 『生命や家族』を通じて「愛」 ついて主体的に考察させ、公正な判断力を 『現代社会の特質』を通じて「今」 養い、良識ある公民として必要な能力と資 『古代日本人思想』を通じて「融和」 質を育てる」ことが科目の目標となってい 『東洋・日本思想』を通じて「秩序」 る。政治・経済においても、政党政治や選 挙などに着目して望ましい政治の在り方や 主権者としての参政の在り方について考察 させることができる。また、大項目「現代 テーマの扱いは生徒が理解しやすいもの を選択すればよい。また、テーマは身近で 対立点のはっきりしたものが分かりやす い。 社会の諸課題」では、課題を設定させ、追 - 11 - Ⅲー6 インターネットを授業に取り入れる 近年の情報の発展は著しい。特にインタ 2 インターネット利用上の留意点 ーネットの上では、最新の情報や深く高度 インターネットは、新しいメディアであ な内容まで幅広い情報を得ることができ るが故に、整備されていない点が多くある。 る。また、情報を得るだけではなく、情報 そこで、授業に導入する場合には、以下の を発信することによって様々な意見を得る 点について留意したい。 こともできる。ここでは、インターネット (1) 生徒自身にインターネットへの接続を が地理歴史科・公民科の授業の中でどのよ させる場合には、生徒の目に触れさせたく うに応用できるかの可能性について述べ ない情報(公序良俗に反する内容など)を る。 排除する必要がある。そのためには、生徒 1 が操作できる範囲に制限を加える必要があ インターネット利用の可能性 (1) る。 調べ学習に利用する インターネットを利用することにより、 あらゆるジャンルの最新情報を容易に取り 出すことができる。これは 、「調べ」を容 易にするとともに、その「詳しさ 」、「新 しさ」という点では、図書館での調べをは るかに上回る。ただし、これらの情報につ ( 2 ) インターネット上の情報の特色とし て、発信者の匿名性がある。提供された情 報がどの程度信頼できるものであるかを吟 味しなければならない。そのための基準と して、 ①情報の発信者が信頼できるか 電子メールアドレスなどの連絡先が明 いては、電子メールを活用して発信者と連 記されているか。発信者が本人である 絡を取り、どのような立場の人物が発信し ことが確認できるか。発信した組織は た情報なのかを確認し、情報を取捨選択し 社会的信頼のあるところか。情報発信 なければならない。 (2) したWWWサイトは長い期間運営され 意見を求める媒体とする ているか。 公民科では、環境問題など、対立する意 見を併記する形で授業が進められることも ②他の情報源で裏付けがとれるか 引用された情報には、元情報の所在や 多い。そのような場合に、ネット上に自分 情報の確認方法が記されているか。複 たちの意見を公開し、それに対する意見を 数の情報ソースから裏付けがとれたか 海外も含めて、広く求めることができる。 そして、寄せられた意見をもとに新しい考 え方を生み出すことができる。このような ネット上での討論の過程で自分たちの考え が不足していた部分や異なる立場に立つ人 々の考え方に気づくことができる。それに より自己を相対化させ、思考を深めること ができる。なお、海外との交流を図る上で は、 英語科との横断的な学習も可能である 。 の2点があげられる。 (3) インターネットは基本的に不特定多数 を対象とする媒体である。従って個人情報 の保護には最大限の注意を払う必要があ る。 (4) インターネット上で公開されている情 報についても、知的所有権の問題が起こる 可能性があるので、注意が必要である。 - 12 - 3 たとえば、ナポレオンはフランスやドイ 今後の可能性 インターネットによる情報の特色は、そ ツではどのように教えられているのかを調 の双方向性にある。つまり、一方的に情報 べることで、ナポレオンについて多面的な を受けるのでもなく、一方的に情報を発信 評価を行うことができる。 するのでもないという点で、これまでのメ 【地理の授業での応用例】 ディアとは大きく異なるのである。そこで、 地理の授業では、資料の収集が中心にな インターネットを活用する上では、この特 ると思われるが、各国大使館のホームペー 色を十分に理解し、活用することが大切で ジや都市のホームページ、または企業のホ ある。 ームページが利用できると思われる。いず 【公民科の授業での応用例】 れも、常に最新の情報に更新されているた ★「死刑制度について考える」 め、 リアルタイムの資料収集が可能になる。 ①クラス内で、死刑制度の是非についての このようなホームページを検索するには、 討論を行い、クラス内での考え方をまと 後掲のリンク集や、検索エンジンを活用す める。 ると容易である。 ②ネット上にホームページを開設し、自分 たちの主張を公開し、それに対する意見 4 資料探しに利用できるリンク集の例 大 阪 教 育 大 学 の リ ン ク 集 を求める。 http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/educ/ktj20. ③電子メールを交換することで、ネット上 html での討論を行う。 日本教育工学振興会(JAPET) http://www.db.japet.or.jp/hirose/shah.html ④寄せられた意見をもとに、さらに討論を 行う。 ☆このような情報を得るための方法 この授業のポイント 通常行われる討論が、クラスの枠から出 メーリングリスト(ML)に登録するこ ることは少ない。しかし、インターネット とで自動的に電子メールが配信される。ま を利用することで、国内はもちろん海外か た、情報を求めたい場合にも、質問、また らも(学生、社会人を問わず)意見を求め は、お願いの形で送信すれば、MLを通し ることができる。このように、国内外の人 て登録メンバーに自動的に配信され、それ と各テーマについて広範な討論を行うこと に対する返事が期待できる。 ができる。それを通じて、自己の考え方を 深めることができるとともに、単なる社交 地 理 歴 史 ・ 公民科で利用できるMLの例 儀礼的な国際理解教育を超えた国際理解教 IECC 育も行うことができる。 http://www.stolaf.edu/netoworok/iecc/ 【歴史授業での応用例】 ① intro.html 資料の検索 NCSS インターネット上には、書物として出版 されていないような詳細な情報も公開され ている。これらを資料として活用すること ができる。 ② http://207.69.210.46/about/home.html こねっと・ワールド http://www.wnn.or.jp/wnn-s/ikenkoukan/ index_f1.html 各国の歴史教育の実態を探ることによ り、より相対化した授業展開を行う。 - 13 - Ⅲー7 総合的な学習の時間と地理歴史科・公民科の役割について考える 平成 10 年7月、教育課程審議会の「答 ・自己の生き方を自覚させる。 「学校知」 申」がなされ、平成 15(2003)年度から、 「総 合的な学習の時間」が小学校3年生から高 を「生きて働く知」に転換する。 【時間数】 等学校まで教育課程に必置となる。以下、 小学校では、3・4年生で各 105 時間、 設置の趣旨や地理歴史科・公民科の授業と 5・6年生で各 110 時間、中学校では、 の関連について考えてみたい。 70~130 時間(学年により異なる)、高等学 校では、卒業までに 105~210 時間(3∼6 1「総合的な学習の時間」の概要 単位)を必修とする。 (1) 導入の背景 ア 【内容】 学ぶ楽しさの回復 ・国際理解、情報、環境、福祉・健康な 近年、生徒の学習意欲や学力が低下して ど横断的・総合的課題。 いる。それは、生徒の中に「学びたいもの ・児童・生徒の興味・関心に基づく課 がない」と感じたり 、「学んでもしょうが 題。 ない」と感じる状況がある。つまり、学び ・地域や学校の特色に応じた課題。 の魅力を感じられず、学校で学習したこと など各学校が創意工夫して展開する。 は自分の人生に役立っていないと感じてい るのである。こうした中で 、「学ぶって本 【方法】 自然・社会体験、見学や調査、発表・ 当は楽しい!」と感じたり 、「学習したこ とが人生に役に立つ」という実感を学校教 討論を積極的に行う(方法知の獲得)。 高校では、生き方、進路についての学 育の中で与えることが緊急の課題と認識さ 習もよい。 れるようになった。 イ 指導体制の工夫(外部講師、全教職員が 横断的な学習 現代社会の抱える諸課題(国際化、環境 問題等)を生徒が考え、自分なりの解決策 一体となった指導)が重要である。 【評価】 数値的な評価は行わない。活動の過程、 を求めていくには、従来のように各教科、 科目でバラバラに教えるのではなく、教科 報告書や作品、発表や態度を評価する。 を横断的に(クロスさせて)扱ったり、教 2 科で学んだことを組み合わせたりする時間 (1) 名古屋大学教育学部附属中・高校 を設けることが効果的であるという認識が ある。学問自体の「学際化」も背景になっ 先行研究に学ぶ(例) ・「自らの人生の課題」と「現代の課題」 とが結びつく総合学習を目指す。 ている。 ・学校行事(修学旅行、文化祭、卒業式 (2) 内容 等)と「総合学習」とを結びつける。 【ねらい】 ・評価の観点を明確にしている。 ・自ら課題を見つけ考え判断し問題を解 (ア)知的関心の形成と問題解決能力 決する能力を育成する。 (イ)体験・コミュニケーション能力 ・調べ方、まとめ方、発表、討論の仕方 (ウ)創造的表現能力 を習得させる。 ④総合的思考力と実践能力 - 14 - 【概念図】 (2) 埼玉県立春日部東高校 【1年次】国際理解、情報、環境、福祉 知識・技能 の基礎的事項(内容)を学習する(各 地理歴 総合的 担任が指導する)。また、ディベート、 史科・ な学習 ロールプレイ、コンピュータ実習、講 公民科 の時間 演会などを実施する(方法的側面)。 夏休みに地域調査をし、報告書を作 他教科 「生きて 特別 働く知」 活動 成する。(訪問の仕方指導を含む)。 【2.3年次】興味・関心に基づき個人 (1) 技能として やグループでの学習を進める。 【地理科による】 実験・体験・調査を重視する。研究 ・物事を空間的広がりの中で認識する力。 発表会を持つ。HR担任は、学習の進 ・統計や地図を読んだり作成する能力。景 捗状況を把握する。全教員で数人ずつ 観写真の読み取り。 分担し指導する。 ・地域調査、野外調査の方法。 6月にテーマを決定し、夏休みに体 【歴史科による】 験や調査研究をする。11 月に中間発 ・物事を時間の経過により認識する力。 表会を行い、2月に全体発表会を行う。 ・年表作成や史料・資料の読解力。 【評価について】レポート又は作品、自 ・史跡見学の仕方。 己評価表、担任評価(面接)で評価す 【公民科による】 る。 3 ・物事を個人、集団、社会参加等の視点か 地理歴史科・公民科と「総合的な学習 の時間」の関連 ら認識する力。 ・物事を「理想と現実(事実 )」という視 地理歴史科・公民科は、生徒が「総合的 点から認識する力。 な学習の時間」でテーマを追究するための ・統計処理、情報検索、社会調査の技法。 「情報供給源」としての役割を果たす。ま (2) 知識として(例) た 、「総合的な学習の時間」で使う各種の 【環境問題】歴史「文明の起こり」「産業 スキル(技術)をも提供する。 革命」「現代の課題」 一般化すれば、各教科、科目で修得した 地理「自然環境と人間生活」 知識や技能の「基礎・基本」を「総合的な 「諸民族と生活」「世界の環 学習の時間」で応用し、自らの体験に基づ 境問題」 いた「知」とし、その経験が反作用として 公民「環境と生活」「環境保 各教科での学習の動機付け(インセンティ 全と倫理」「経済と福祉の向 ブ)や理解の深化に役立つ。教科と「総合 上」など 的な学習の時間」とは、相互補完的な関係 【福祉問題】公民「人権保障 」「社会保 にあるといえる(右上概念図参照)。 障・社会福祉」など そこで 、「総合的な学習の時間」で使え 【国際化】 地理歴史、公民科の全体 る地理歴史科・公民科の技能と知識をいく 【情報化】 歴史「戦争とマスコミ 」「マ つか紹介する。 スメディアの発達の歴史」 公民「世論と情報操作」 - 15 -