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鋼の表面赤熱脆性抑制に関する研究 秦野 正治 Masaharu Hatano

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鋼の表面赤熱脆性抑制に関する研究 秦野 正治 Masaharu Hatano
鋼の表面赤熱脆性抑制に関する研究
Studies on the suppression of surface hot-shortness in steels
秦野 正 治
Masaharu Hatano
目次
第1章
緒言
1
1−1
表面赤熱脆性とは
1
1−2
表面赤熱脆性に関する最近の研究
2
1−3
本研究目的
7
参考文献
第2章
11
実験方法
13
2−1
供試鋼の作製方法
13
2−2
熱間加工割れ再現実験方法
14
2−3
評価方法
15
参考文献
16
第3章
表面赤熱脆性におよぼす熱履歴の影響
17
3−1
緒言
17
3−2
実験方法
17
3−3
実験結果
18
3−4
考察
25
3−5
まとめ
30
参考文献
31
- 1-
第4章
水蒸気含有雰囲気加熱における表面赤熱脆性
47
4−1
緒言
47
4−2
実験方法
48
4−3
実験結果
50
4−3−1
50
4−3−2
57
4−4
考察
70
4−5
まとめ
78
参考文献
79
第5章
Cu 含有フェライト系ステンレス鋼における表面赤熱脆性の抑制 81
5−1
緒言
81
5−2
実験方法
82
5−3
実験結果
84
5−4
考察
95
5−5
まとめ
98
参考文献
99
第6章
総合考察
101
第7章
総括
110
研究業績
113
略歴
119
- 2-
第1章
緒言
1−1
表面赤熱脆性とは
表面赤熱脆性は、加熱色が赤くなる温度,すなわち 900∼1100℃にかけて鋼
に現れる脆性として古くから知られている。実際、S 含有量が多い鋼材の場合、
表面赤熱脆性を起こしやすく,熱間鍛造や熱間圧延によりその表面には亀裂、
すなわち割れが現れる
1)
。従来、この脆化は、900∼950℃および 1050∼1100
℃の二つの温度域において顕著になることが報告されている。前者は、一般に
もろい FeS が結晶粒界に形成されることにより,後者は、FeS の溶融および鋼
材の表面に富化した Cu や Sn 等が結晶粒界に浸潤・溶融することによって起
こるとされている
1)
。S による前者の脆化は、精錬の脱硫技術により,後者は
Mn を添加して融点の高い MnS を形成することにより工業的に回避されている。
しかし、Cu や Sn は、現在の精錬においても除去することは大変困難である
5)
2-
。このため、Cu や Sn が混入する鉄スクラップを鉄源として用いた場合、Cu
や Sn による表面赤熱脆性は未だ避けられない問題である。
鋼中の Cu や Sn は、酸化物を形成する傾向の小さな元素である
6)
。このた
め鋼材を炉内で加熱すると、鉄、Mn,および Cr 等が選択的に酸化される。そ
の結果、鋼中の Cu や Sn は表面に富化されて,融点の低い金属 Cu あるいは
Cu や Sn を多く含む Fe の低融点合金が出現する
1)
。上述したように、表面赤
熱脆性は、これら融点の低い Cu や低融点合金による結晶粒界の溶融によって
起こることが理解されている。
Cu や Sn による表面赤熱脆性を工業的に防止するには、Ni を添加すること
が唯一の手だてとなっている。古くから Ni は、固体鉄中への Cu の溶解度を
著しく増加させるとともに
を高める
8)
7)
,融点の低い Cu や低融点合金に固溶して、融点
効果があるとされている。従来の研究から、表面赤熱脆性を防止
するには、Ni/Cu=0.5∼1.0 の割合で Ni を添加することが有効で
- 3-
9)
、実際 Cu
を含有する多くの実用鋼には、通常 Ni が添加されている
1 0 , 1 1)
。しかし Ni は、
希少で高価な上に、精錬で除去し難く、Cu や Sn と同じくリサイクルの過程で
鉄スクラップ中に循環濃縮していく。よって、Ni はできるだけ Cu や Sn の表
面赤熱脆性対策として使用したくない元素でもある。これらの研究成果に加え、
表面赤熱脆性はおよそ 1300℃を越えると消失することも古くから知られてい
る
1)
。その要因は、表面に濃化した Cu や Sn の合金が鉄中へ拡散することに
よると説明されている。
1−2
表面赤熱脆性に関する従来の研究
鉄スクラップを鉄源とした際に発生する熱間加工割れ、すなわち表面割れは、
Cu や Sn による表面赤熱脆性をその起源としている。最近の研究から
1 2 ,13 )
、鋼
材の加熱時には鉄が選択酸化されるため,Cu や Sn は酸化層であるスケ−ルと
地鉄の界面に濃化することが明らかとなっている。ここで、これら Cu や Sn
の濃化相は、1100℃付近において液相となる。このため、この濃化液相が熱間
加工により結晶粒界に浸入して粒界強度を弱め、その結果として表面割れが生
じると考えられている
12 )
。図1−1は、従来報告されている例として、(a)
スケ−ル/地鉄界面に出現した Cu 濃化相
12 )
、および(b)Cu 濃化相が熱間加工
で結晶粒界へ浸入することにより生じた表面割れ
あ る 。 こ こ で 、 (a ) は 、 柴 田 ら
1 3)
13)
を示す光学顕微鏡写真で
に よ り 、 0.1%C-0.5%Cu 含 有 鋼 を 大 気 中
1100℃ で 酸 化 後 、 室 温 へ 冷 却 し た 試 験 片 に お い て 観 察 さ れ た も の で あ る 。Cu
は、矢印で示すようにスケ−ルと地鉄の界面に濃化し、薄黄色いコントラスト
の領域と対応している。一方、(b)は、梶谷ら
1 2)
により、0.2%C-1%Cu 含有
鋼を大気中 1100℃において、歪速度 5s - 1 で変位量 1mm の引張変形を加えた後、
室温へ冷却した試験片において観察された地鉄表層部分の金属組織である。図
から分かるように、表面には矢印で示す亀裂、すなわち割れが確認される。さ
らに、割れの先端である結晶粒界には、矢印で示す薄黄色いコントラストの領
- 4-
域からなる Cu 濃化相が認められる。
0.05mm
0.04mm
Cu
図1−1
Cu 含有鋼の(a)スケ−ル/地鉄界面に出現した Cu 濃化相
(b)Cu 濃化相の結晶粒界への浸入による表面割れ
12 )
1 3)
,
を示す
光学顕微鏡写真
(a)0.1%C-0.5%Cu 含有鋼;1100℃,大気中酸化
(b)0.2%C-1.0%Cu 含有鋼;1100℃,大気中引張変形
(引張条件)歪速度 5s - 1 ,変位量 1mm
液体金属が結晶粒界に湿潤し、破断を生じさせるための臨界応力σについて
は、McLean により平衡論的なエネルギ−バランスに基づいた検討がなされて
いる。(1)式は、彼によって得られた臨界応力である
3σb≧2γ SL −γ b
1 4)
。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
ここで、b は金属結晶の原子半径、γ SL とγ b はそれぞれ液相/固相界面エネ
ルギ−と粒界エネル ギ − で あ る 。 (1) 式 か ら 分 か る よ う に 、 高 い 臨 界 応 力σ
を得るには、大きなγ SL と小さなγ b 、すなわち液体 Cu の結晶粒界への湿潤を
抑制する必要がある。
長崎・柴田ら
15 )
は、Cu インプラント試験と呼ぶ方法で、液体 Cu の結晶粒
界への湿潤性を評価している。この試験は、丸棒引張試験片の中軸に丸い穴を
あけ,その中に Cu の丸棒を挿入した後、1100℃で引張試験を行うというもの
- 5-
である。図1−2 1 5 ) には、その例として、IF 鋼(Intersticial Free Steel:Ti 添加
極低炭素鋼)において得られた応力−歪曲線を示している。ここで、歪速度は
2.5×10 -2 s -1 である。図中の IF はベ−スとなる IF 鋼、IFB は IF 鋼に B を 9ppm
添加した鋼、IFP は P を 0.1% 添加した鋼、IFPB は P を 0.1% および B を 7ppm
添加した鋼である。図から分かるように、IF 鋼の破断応力および破断歪は、微
量の B や 0.1%P の添加により上昇している。試験の結果彼らは、B や P を添
加した鋼材では、破断応力が上昇し,液体 Cu の粒界湿潤性が抑制されること
を報告している
1 5)
。さらに彼らは、B や P の添加による液体 Cu の粒界湿潤性
の抑制について、(1)式に基づき以下のように説明している。添加元素が粒
界湿潤性に及ぼす影響としては、(1)式から、①粒界への偏析によるγ b の
減少および
②液体 Cu 中への溶解によるγ SL の増加、の二つの因子が挙げら
れる。また従来の研究から、B や P は粒界に偏析するとともに,液体 Cu 中に
も溶解することが知られている。従って、B や P の添加により液体 Cu の粒界
湿潤性が抑制された理由は、(1)式から予想されるように、結晶粒界エネル
ギ−の低下と固液界面エネルギ−の増加によると推論されている
- 6-
1 5)
。
True stress (MPa)
30 IF steel
implant: 99.9%Cu
25 2.5 ×10 -2 s -1
20
←IFPB
15
10
5
0
図1−2
←IFP
←IFB
IF →
0.02 0.04 0.06 0.08
True strain
0.1
IF 鋼の Cu インプラント試験による応力−歪曲線 15 )
(試験条件)1100℃,大気中,歪速度 2.5×10 - 2 s -1
I F : I F 鋼 、 IFB:9ppmB 添加 IF 鋼、IFP :0.1%P 添加 IF 鋼、
IFPB:0.1%P, 7ppmB 添加 IF 鋼
Seo および柴田ら
1 6)
は、鋼材の表面赤熱脆性の感受性が、以下の( 2)式で
与えられる指数 Ep' により、実験室的に評価できることを提案している。
Ep' (% )=[P(Ar)−P'(Oxi)]/P(Ar)×100
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
ここで、P (Ar)は非酸化雰囲気である Ar ガス中での引張試験から得られる最
大荷重,P'(Oxi)は 、 酸 化 に よ る 断 面 積 減 少 分 で 補 正 し た 、 酸 化 雰 囲 気 中 で の
引張試験から得られる最大荷重である。ここで、 表面赤熱脆性が生じると、
P'(Oxi)は P(Ar)より小さくなる。つまり( 2) 式 か ら 、 評 価 指 数 Ep' が大きい
と、表面赤熱脆性は生じやすくなると理解される。
液体 Cu の結晶粒界への浸入速度は、これまで非常に速いものと報告されて
- 7-
きた
17 )
。しかしながら、Seo ら
18 )
および鈴木
19 )
は、(2)式で与えられる指数
Ep' を用いて表 面赤熱脆性に及ぼす歪速度の影響について評価し、Ep' が歪速度
によって異なることを報告している。図1−318 ) は、Seo らによって示された
0.1%C-0.5%Cu 含有鋼における評価指数 Ep' の歪速度による変化である。ここで
歪速度は、大気中 1100℃の引張試験において、10 - 4 から 10 2 s -1 の範囲で変化さ
せている。図から分かるように、評価指数 Ep' はおよそ 1×10 - 2 s-1 の歪速度で最
も大きくなっている。これらの結果から、表面赤熱脆性は 1×10 - 2 s -1 付近の歪
速 度 で 最 も 生 じ や す く な る と 理 解 さ れ る 。 す な わ ち、脆性は、 1×10 - 2 s- 1 より
速いあるいは遅い歪速度において抑制されることが分かる。
60
50
Ep'
40
30
20
0.1%C-0.5%Cu steel
1100℃ in air
10
0
10-4
図1−3
10-3
10 -2 10-1 100
Strain rate(s-1)
101
102
0.1%C-0.5%Cu 含有鋼の大気中 1100℃引張試験
による指数 Ep' の歪速度に伴う変化
1 8)
液体 Cu の結晶粒界への湿潤性に及ぼす歪速度の影響については、笹沼・柴
田ら
2 0)
により、上述の Cu インプラント試験に基づいた検討がなされている。
図1−4 20 ) は、彼らによって示された 0.1%C-0.5%Cu 含有鋼の Cu インプラン
- 8-
ト試験結果である。この試験には、Cu-20%Sn 合金の丸棒が使用されている。
図から分かるように、歪速度の 8.3×10 -4 から 4.2×10 -1 s -1 への増加により、破
断応力は上昇し,破断歪は減少している。これら結果に基づき、10 - 2 s - 1 より速
い歪速度での脆性抑制は、結晶粒界への液体 Cu の浸入が阻止され、その結果
破断応力が高くなり、鋼材そのものの塑性変形能が低下したためだと説明して
いる
2 0)
。一方、歪速度が遅い 8.3×10 -4 s -1 の場合では、動的再結晶により内部
応力は上昇せず、このため脆化が起こりにくくなる
2 0)
。従って、表面赤熱脆
性が生じる臨界応力は、( 1) 式 の 平 衡 論 的 な エ ネ ルギ−バランスによってだ
けではなく,鋼材の塑性変形能や液体 Cu の流動性等の速度論的な因子によっ
ても支配されていることが理解される。
40
-1
4.2×10 s
-1
Stress / MPa
-2
8.3 ×1 0 s
1100℃
Cu-20%Sn
-1
30
-3
-1
4.2×1 0 s
-4
20
-1
8.3×10 s
10
0
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
Strain
図1−4
0.1%C-0.5%Cu 含有鋼の Cu インプラント試験による
応力−歪曲線の歪速度に伴う変化
(試験条件)1100℃,大気中
- 9-
2 0)
液体 Cu の結晶粒界への浸入には、Cu の濡れ性も深く関与している。田中ら
2 1 , 2 2)
は、種々の酸素分圧下において Fe 基板を 1100℃に加熱後、Fe 基板上に液
体 Cu の液滴を滴下し、その接触角を評価している。図1−5 2 1 ) は、Fe 基板と
液体 Cu の接触角に及ぼす酸素分圧の影響を示したものである。ここで、酸素
分圧は CO2 ガスと Ar-10%H2 ガスの混合比を変化させて調整している。図から
分かるように、Fe 基板と液体 Cu の接触角は、Fe/FeO が共存する酸素分圧域
において 40 degree 以下と小さく、一方 FeO/Fe 3 O4 が共存する酸素分圧域では
80 から 90 degree と大きくなる。このことから、彼らにより、液体 Cu は、低
酸素ポテンシャル下において、濡れ性の良い Fe/FeO 界面に沿って膜状に拡
21,22)
がることが示されている
。また Salter ら
23 )
は、結晶粒界へ湿潤する液体
Cu の濡れ性について検討し、濡れ性の最も良い 1100℃において表面赤熱脆性
が顕著になること,さらに濡れの程度が添加元素により変化することを指摘し
100
Contact angle(degree)
Peculiar-wettability
Non-wettability
ている。
1100℃
80
60
Fe/FeO
FeO/Fe3O4
40
20
0
図1−5
1
2
Log(P CO2 /PH2)
3
1100℃ に 加 熱 し た Fe 基板と液体 Cu の接触角
に及ぼす酸素分圧の影響 21 )
- 10 -
表 面 割 れ の 程 度 を 示 す 割 れ の 深 さ と 幅 は 、 ス ケ − ル / 地鉄界面に存在する液
体 Cu の量に依存することが知られている。梶谷ら
24 )
は、実際液体 Cu の有無
により、割れの進展が 2 つの段階からなることを報告している。図1−6 2 4 ) は、
0.2%C-1.0%Cu 含有鋼において、大気中 1100℃の引張変形による変位量と割れ
の深さおよび幅の変化を示したものである。図から分かるように、●印で示す
割れ深さは、変位量 2mm 以下において急激に大きく増加している。一方、変
位量 2mm 以上では、割れ深さは殆ど変化せず、○印で示す割れ幅が大きく増
加している。すなわち、割れの進展は、深さ方向に成長する第1の段階と、幅
方向への開口が顕著な第2の段階に分けることができる。さらに彼らは、地鉄
表層部分の詳細な組織観察に基づき、上述の結果と液体 Cu の結晶粒界への浸
入挙動との相関につ いて以下のように説明している
2 4)
。彼らによれば、第1
の段階では、スケ−ル/地鉄界面に存在する液体 Cu が粒界に浸入し、割れは深
さ方向に成長する。一方、第2の段階では、液体 Cu の枯渇により深さ方向へ
の成長は停止し,歪量の増加とともに割れは幅方向に成長する。つまり、割れ
の深さは、スケ−ル/地鉄界面に存在する液体 Cu の量に,割れの幅は、歪量に
強く影響されることが理解される。
- 11 -
60
First Stage
Second Stage
50
0.3
40
0.2
30
20
0.1
0.2%C-1.0%Cu steel
1100℃ in air
0
10
Average Crack Width (μm)
Average Crack Depth (mm)
0.4
0
0
1
図1−6
2
3
4
Displacement (mm)
5
0.2%C-1.0%Cu 含有鋼の大気中 1100℃の引張変形
よる割れ深さと幅の変化 24 )
柴田ら
25 ,26 )
は、表面赤熱脆性に及ぼす添加元素の影響について、上述の指数
Ep’ を用いて評価し,以下の 3 つの項目
①スケ−ル/地鉄界面での Cu 濃化相
の量および存 在形態、②Cu 濃化相の結晶粒界への侵入のしやすさ、および③
結晶粒径への影響、に分けて検討することを提案している。図1−7は、表面
赤熱脆性に及ぼす添加元素の影響ついて、その検討結果 を模式的に示したもの
である。ここで、左図に示す①では、元素添加により、Cu 濃化相がスケ−ル
中に排斥され、その結果スケ−ル/地鉄界面に生成する Cu 濃化相の量が減少し、
表面赤熱脆性が抑制される。一方、右図の②では、スケ−ル/地鉄界面に Cu 濃
化相が存在するものの,結晶粒界への浸入を軽減して表面赤熱脆性が抑制され
る。結局、これらの図から、添加元素の中で Mn や S は、①の Cu 濃化相の量
を減少させ、表面赤熱脆性を抑制する。同様な効果は C にも認められる。P や
C については、②の Cu 濃化相の結晶粒界への侵入を軽減し、表面赤熱脆性を
抑制している。S i や B は、①と②の両者により表面赤熱脆性を抑制する。さ
- 12 -
らに、C,P ,B では、高温において③の結晶粒径を小さくすることにより、表
面赤熱脆性の感受性を低下させると理解されている
Si,Mn,B,S( C)
2 5)
。
S i , P , B , C( S n)
Scale
Cu-enriched alloy
Steel
Cu-enriched alloy
①
図1−7
②
表面赤熱脆性に及ぼす添加元素の影響
2 5)
表面赤熱脆性は、加熱雰囲気によっても影響を受けることが明らかとなって
いる。Nicholson ら
27 )
は、脆性の程度が酸化雰囲気中の水分や酸素量によって
影響されることを指摘している。また、柴田ら
2 5)
および内野ら
2 8)
は、雰囲気
として乾燥空気(Dry air )、大気(Air)、および LNG 燃焼雰囲気ガス(16%
H2 O-8%CO2 -2%O2 -bal.N 2 )の 3 種 類 を 取 り 上 げ 、 上 述 の 評 価 指 数 Ep' に及ぼす
こ れ ら 雰 囲 気 の 影 響 に つ い て 調 べ て い る 。 図 1 − 8 2 5) は 、 そ の 例 と し て 、
0.5%C-0.5%Cu 含有鋼において、評価指数 Ep' に及ぼす雰囲気の影響を示したも
の で あ る 。 図 か ら 分 か る よ う に 、Air の Ep' 値は、Dry air に比べて大きく、
16%H 2 O-8%CO2 -2%O2 -bal.N2 雰囲気に比べてはやや小さな値を取る。このこと
から、表面赤熱脆性は、酸化雰囲気中の水分により生じやすくなることが予想
される。
- 13 -
70
60
0.5%C-0.5%Cu
1100℃
Ep'
50
40
30
20
10
Dry air
図1−8
Air
LNG
0.5%C-0.5%Cu 含有鋼の大気中 1100℃引張試験
による指数 Ep' の歪速度に及ぼす雰囲気の影響
2 5)
従来の研究の最後として、本研究を進める上で重要な知見となった今井・国
重らの研究成果
2 9 ,3 0 )
について、少し詳細にその内容を紹介する。彼らの研究は、
熱間加工割れの調査を行い、Cu や Sn による表面赤熱脆性の抑制方法を検討し
たものである。彼らの用いた試料は、軟鋼をベ−スに 0.3%Cu や 0.04%Sn を加
えた鋼材で、溶製後鍛造・熱間圧延により厚さ 20mm とした熱延板である。熱
間 加 工 割 れ の 調 査 に は 、 こ の 熱 延 板 よ り 切 り 出 し た 平 行 部 直 径 8mm, 長 さ
20mm の丸棒引張試験片を使用している。引張試験片の処理については、まず
は予備酸化として、試験片を大気中 1000∼1300℃ で 2∼3 時間保持し、スケ−
ルを生成させた後、一旦室温まで空冷した。その後、Ar 雰囲気中において予
備酸化と同じ温度に保持し、歪み量約 40% の引張変形を加えることにより試験
片平行部に表面割れを発生させている。
図1−9 2 9 ) には、Cu や Sn を添加した鋼材での表面割れに及ぼす加熱温度の
影響について示している。図から分かるように、△印で示す 0.3%Cu 単独含有
- 14 -
鋼では 1100℃のみで割れが生じている。一方、○印の 0.3%Cu-0.04%Sn 含有鋼
では 1000 と 1100℃ の 2 つの温度で割れが発生しており、特に 1100℃での割れ
発生量は Cu 単独含有鋼の場合より多いことが見て取れる。しかし、□印で示
す 0.04%Sn 単独含有鋼では割れは発生していない。これらの結果から、Sn は、
それ自身表面赤熱脆性に寄与しないものの、Cu による脆化を大幅に助長して
いることが分かる。さらに、本結果から、Cu および Cu+Sn 添加材での表面赤
熱脆性は、1200℃以上の高温加熱により抑制されることも理解される。
Number of cracks(cm-2)
15
0.05%C-0.01%Si-0.3%Mn-0.04%Al
0.3%Cu-0.04%Sn
10
0.3%Cu
5
0.04%Sn
0
1000
図1−9
1100
1200
1300
Heating temperature (℃)
Cu や Sn による表面割れに及ぼす加熱温度の影響
2 9)
また彼らは、Cu(S n)含有鋼でのスケ−ル/ 地鉄界面の様子について、大気
中 1000∼1300℃ ま で加熱後室温に空冷して得られた酸化試験片を用いて、そ
の詳細を観察している。図1−10 3 0 ) は、彼らによって示された 0.3%Cu 単独
含有鋼での光学顕微鏡写真である。1000 お よ び 1100℃の光学写真に注目する
と、スケ−ル/ 地鉄界面は多少の凹凸が見られるものの、基本的には平坦性の
高いものである。一方、1200 および 1300℃では、スケ−ル/地鉄界面の凹凸が
- 15 -
増加している。さらに、1200℃では、スケ−ル中に矢印で示すように Cu 濃化
相である白いコントラストからなる領域も確認されている。これらの観察結果
に基づき、彼らは、1200℃以上の高温加熱による脆化抑制について以下のよう
に説明している
13,29 ,30 )
。鋼材を酸化性雰囲気中の 1200℃以上に加熱すると、
Cu(Sn) 濃 化 相 は ス ケ − ル/地鉄界面に留まらずスケ−ル中にも存在するよう
になる。この理由は、高温での粒界酸化や内部酸化により鉄の選択酸化が促進
さ れ 、Cu(S n ) 濃 化 相 が ス ケ − ル 中 へ 排 斥 さ れ る た め で あ る 。 つ ま り 、高温
加 熱 に よ る 脆 化 抑 制 は 、Cu(S n) 濃 化 相 の ス ケ − ル 中 へ の 排 斥 に よ る と 考 え
られている。さらに彼らは、高温で保持した効果として、鉄の選択酸化によっ
て地鉄界面に濃化した Cu や Sn が、鋼中へ拡散し、希釈されることも指摘し
ている。結局、これらの検討から、表面赤熱脆性の対策として高価な Ni を添
加する以外に、 1200℃以上への鋼材の高温加熱も有効な手段であることが理解
される。
図1−10
0.3% Cu 単独含有鋼のスケ−ル/地鉄界面に及ぼす
加熱温度の影響
3 0)
- 16 -
1−3
本研究の目的
鉄鋼材料は安価で多様な性質を有するため、種々の構造物に大量に使用され
ている。しかし、その結果として鉄スクラップの量は近年大幅に増加しており、
省資源,地球温暖化や廃棄物問題等の観点から、その利用について積極的な対
応が望まれている。実際、現状として、年間約 5,000 万トンの鉄スクラップが
鉄源として利用されているものの、2010 年にはその発生量が 6,400 万トンに達
するとの推定もなされている
3 1)
。また最近では、鉄スクラップの量の問題に
加え、その利用が容易でないという質の問題も生じている。具体的には、精錬
で除去し難い Cu と S n が、鉄スクラップ中に順次濃縮し、特に棒鋼では 2010
年過ぎには Cu 含有量が 0.4% を越えるとの予測もある
1 2)
。これらの背景から、
鉄スクラップのリサイクル率を上げるため、Cu や Sn による表面赤熱脆性の抑
制方法を明らかにすることは、鉄鋼材料分野における重要な課題の一つとなっ
ている。
表面赤熱脆性を抑制するには、加熱時における鋼材の酸化、あるいは鋼中へ
の Cu や Sn の混入を防止すればよいことは明らかである。しかし、現在の熱
間圧延プロセスを無酸化プロセスに置き換えることは容易なことではない。自
動車や家電製品を解体しやすい構造にする,自動車に使用される銅線の量を軽
減する、シュレッダ−の粉砕・分別能力を向上させる等により、鉄スクラップ
中への Cu や Sn の混入を軽減することも考えられる。しかしながら、これら
の直接的な対策を講じるには多大な費用と時間を必要とし、無理をすると環境
負荷を増すことにもなる。よって、これらの手段は決して有効なものではない。
前節では、表面赤熱脆性に関する従来の研究成果の詳細を述べた。しかしこ
れらの研究は、現場の操業条件下で発生する表面赤熱脆性を十分に再現したも
のではない。例えば、実験室において、表面赤熱脆性 は 1100℃付近の比較的
短時間(∼1hr)で実施される引張試験により評価される
1 2 ,15 - 20,24 -2 6 )
。引張試験
に供される試験材の加熱も、殆どの場合,実験室で簡便に実施できる大気中に
おいて行われる。現場で発生する表面赤熱脆性を再現するには、現場熱間圧延
- 17 -
プロセスの熱履歴および加熱雰囲気を十分考慮する必要がある。図1−11に
は、現場の熱間圧延プロセスのイメ−ジ図を示している。まず、連続鋳造によ
りスラブに代表される鋼塊が製造される。スラブの寸法は、例えば厚さ 0.2m,
幅 1m, 長さ 10m 程度である。スラブは、通常室温まで空冷された後、加熱炉
において長時間(2∼3hr )かけて 1000∼1300℃ の 温 度 範 囲 に 加 熱後 0.5∼1hr
間保持される。その後、加熱炉から抽出されたスラブは、水スプレ−などによ
る冷却により 900∼1200℃の温度範囲において熱間圧延される。熱間圧延され
た鋼板は、厚さ 2∼10mm 程度であり、コイルに巻き取り後室温まで空冷され
る。ここで、現場加熱炉の雰囲気についても、その水蒸気濃度は燃焼ガスによ
り変化することになる。具体的には、H 2 を多く含むコ−クス炉ガス(COG)
は燃焼雰囲気ガス中に 20∼30% の水蒸気を含有し,一方 CO を多く含む高炉ガ
ス(BFG)では殆ど水蒸気は含まれていない。また、液化石油ガス(LPG)や
天然ガス(LNG)を用いた燃焼雰囲気ガスの場合、その中には 10∼20% の水蒸
気が含まれる。従って、工業的には、上述した現場操業の熱履歴および加熱雰
囲気の水蒸気濃度を十分考慮して表面赤熱脆性を再現し,その影響について明
らかにすることが必要となる。
連続鋳造
図1−11
スラブ
加熱炉
熱間圧延
現場の熱間圧延プロセスのイメ−ジ図
1−2節で述べたように、表面赤熱脆性は、高価な Ni を添加する以外に、
スラブの加熱温度を 1200℃以上に高温加熱することで抑制できる可能性があ
る。本博士論文では、これらの知見を基に実用的見地から、現場熱間圧延の際
に問題となる表面赤熱脆性、すなわち表面割れが生じる条件と原因を追求した。
具体的には、現場熱間圧延プロセスを想定した熱履歴と加熱雰囲気,および鋼
- 18 -
材の成分が表面割れに対してどのような影響を与えるかについて明らかにした。
実際の手順としては、熱間加工割れ再現実験として、実験室で引張試験に供す
る試験材を、まず 1250℃に徐加熱した後,熱間圧延が行われる 950∼1200℃間
の所定の温度に冷却し、現場の熱履歴を模擬した。この際の加熱雰囲気は、現
場加熱炉を想定した燃焼雰囲気ガスの水蒸気濃度 0∼30%H2 O-1%O2 -bal.N2 、す
なわち水蒸気酸化雰囲気として、引張試験の条件は、1−2節の研究成果に基
づき脆化感受性が最も大きい、1100℃,歪速度 1× 10 - 2 s -1 ,および歪量 40% の熱
延最大圧下率とした。さらに、本研究では、得られた実験結果を基に、表面赤
熱脆性抑制のための現場製造条件、熱履歴と加熱雰囲気の水蒸気濃度、ならび
にその対策としての熱 履歴と S i および Ni 量についてその詳細を検討した。
1−4
本論文の構成
本研究の結果をまとめた本論文の構成は、以下の通りである。
第1章「緒言」では、鋼材の表面赤熱脆性,Cu や Sn による表面赤熱脆性に
関する従来の研究を概観し、これらの背景に基づいた研究目的を述べた。
第 2 章 「 実 験 方 法 」 で は 、 ま ず 本 研 究 に お い て 実 験 に 供 し た 0.3%Cu0.05%Sn 含有鋼の作製方法、ならびにこれら供試鋼を用いて行った熱間加工割
れ再現実験の手順について述べた。さらに、表面割れの評価方法およびスケ−
ル/地鉄界面の観察方法の詳細について説明した。
第3章「表面赤熱脆性におよぼす熱履歴の影響」では、0.3%Cu-0.05%Sn 含
有鋼を 1250℃に加熱後、冷却途中での等温保持により現れる表面割れの特徴
について、熱間加工割れ再現実験を通して明らかにした。その結果、表面割れ
は 1200、1150、および 1100℃での等温保持において発生した。その特徴につ
いては、1200℃ と 1150℃保持の場合、割れは 5 分以下の短時間に集中し、10
分以上の長時間保持では減少することが分かった。一方、低温の 1100℃保持
では 5 分以下において割れは少なく,時間の経過とともに増加した。さらに、
- 19 -
スケ−ル/地鉄界面の観察から、多数割れが観察された試験材には、スケ−ル/
地鉄界面に加え,地鉄表層部分の結晶粒界に沿っても Cu-Sn 濃化相の存在が確
認された。結局、これらの実験結果から、表面割れの原因は、Fe-Cu 系状態図
から予想される,1250℃からの冷却に伴う Cu 固溶量の低下により、液相の Cu
(Sn)濃化相が地鉄表層部分の結晶粒界に沿って析出したことによると結論さ
れる。さらに、1250℃加熱後の脆化対策としては、1200∼1150℃温度域での長
時間保持による、地鉄結晶粒内への Cu の拡散・希釈が有効な手段であること
を明らかにした。
第4章「水蒸気含有雰囲気加熱における表面赤熱脆性」では、現場加熱炉の
水蒸気酸化雰囲気を再現し,この雰囲気での表面割れの特徴、さらには S i や
Ni の微量添加による影響についてその詳細を明らかにした。その結果、まず
1250℃加熱の水蒸気濃度 20∼ 30% の場合、大気中に比べ大きな割れが多数観察
さ れ た 。 そ こ で 、 ス ケ ー ル/地 鉄 界 面 近 傍 の 組 織 を 調 べ た と こ ろ 、 1250 ℃加熱
の地鉄界面は平滑であり、スケ−ル内には基本的に Cu (Sn)濃化相は存在し
ないことが分かった。このため、水蒸気酸化雰囲気による脆化は、平滑なスケ
−ル/地鉄界面での Cu(Sn)濃化合金液膜の生成のしやすさによると推察した。
Si と Ni の微量添加に関しては、0.1%Si 鋼および 0.14%Ni 鋼を用いて水蒸気酸
化雰囲気での脆化を検討し、両鋼において脆化が抑制されることを確認した。
その要因については、0.1%Si 鋼では水蒸気酸化雰囲気での内部酸化、0.14%Ni
で は 不 均 一 酸 化 に よ り 、 ス ケ − ル/ 地 鉄 界 面 が 凹 凸 化 し 、 そ の 結 果 と し て Cu
(Sn)濃化相がスケ−ル中へ取り込まれたためである。また 0.14% Ni 鋼では、
地鉄界面が凹凸化しない、酸化増量の少ない 1%O2 -bal.N 2 の酸化条件において、
地鉄界面が液相を含む Cu-Sn-Ni 濃化相によって覆われ、脆化をむしろ促進す
ることも明らかとなった。結局、脆化抑制元素として知られる Ni での脆化抑
制機構は、スケ−ル/地鉄界面の凹凸化による、スケ−ル中への Cu(Sn)濃化
相の排斥によることが結論された。この結論は、本研究によって明らかとなっ
た新たな知見である。
第5章「Cu 含有フェライト系ステンレス鋼における表面赤熱脆性の抑制」
- 20 -
では、熱間加工割れ再現実験により、Cu 含有ステンレス鋼での表面赤熱脆性
抑制の起源について検討した。ここで従来の研究から、ステンレス鋼では、
Cu 含有量が著しく多い場合でも、普通炭素鋼に比べて表面赤熱脆性は生じに
くいことが知られている。再現実験の結果、0.3%Cu 鋼では大きい割れを生じ
る熱履歴・酸化増量において、16%Cr -2.4%Cu ステンレス鋼では全く割れを生
じないことが分かった。また組織観察から、ステンレス鋼での Cu 濃化相は、
ス ケ − ル の 内 方 成 長 に よ り ス ケ − ル/地鉄界面ではなく,多孔質の内層スケ−
ル中に多数存在すること、さらにスケ−ル /地鉄界 面の凹凸も顕著なものであ
ることが明らかとなった。結局、これら実験事実に基づき、Cu 含有フェライ
ト系ステンレス鋼での脆化抑制の機構は、①スケ−ルの内方成長による内層ス
ケ−ル中への Cu 濃化相の残留,②複雑な形態を有する地鉄界面での Cu 濃化
相の残留の困難さ,③フェライト母材中への Cu 原子の拡散による大きな希釈
作用、の3つの因子によって説明されることが分かった。すなわち、ステンレ
ス鋼に関する再現実験の結果は、表面赤熱脆性への対策として、スケ−ル中へ
の Cu 濃化相の排斥が如何に重要なものであるかを示している。
第6章「総合考察」では、現場条件を再現した表面割れの要因について、ス
ケ−ル/地鉄界面への Cu(Sn)の濃化という視点から検討するとともに,表面
赤熱脆性に及ぼす現場製造条件とその対策についてまとめた。
第7章「総括」では、本研究で得られた成果の総括を行った。
参考文献
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- 21 -
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11) E.T.Stephenson: Metall.Trans, 14A(1983),343.
12) 柴田浩司 : トランプエレメントの鉄鋼材料科学, 日本鉄鋼協会 ,
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14) D.McLean: Grain Boundaries in Metals, Clarendon Press, Oxford,(1957), 99.
15) C.Nagasaki,H.Uchino,K.Shibata,K.Asakura and M.Hatano: Tetsu-to-Hagane,
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17) Jonlet, Ch.,Leroy, V.,Greday, T., and Habraken, L., Investigation of the Hot
Shortness of Copper Bearing Steel, INCRA Report(1969)
18) S.-J.Seo, K.Asakura and K.Shibata: ISIJ Int., 37(1997), 240.
19) 鈴木洋夫 : CAMP-ISIJ, 8(1995), 1391.
20) A.Sasanuma , S.-J., C.Nagasaki and K.Shibata : CAMP -ISIJ, 14(2001),631.
21) 田中敏宏 : 鋼材表面特性に及ぼすスケ−ル性状の影響 , 日本鉄鋼協会,
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22) T.Tanaka,N.Takahira and S.Hara: CAMP -ISIJ, 16(2003),1379.
23) W.J.M.Salter: JISI, 204(1966),478.
24)T.Kajitani, M.Wakoh, N.Tokumitsu, S.Ogibayashi and S.Mizoguchi:
Tetsu-to-Hagane,81(1995), 185.
- 22 -
25)K.Shibata,S.-J.Seo,K.Asakura and Y.Akiyama: Trans.MRS Japan,
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26)K.Shibata,S.-J.Seo,M.Kaga et al.: Materials Trans., 43(2002), 292.
27) A.Nicholson and J.D.Murray: ISIJ, (1965), 1007.
28) H.Uchino, C.Nagasaki, M.Kaga, S.J.Seo, K.Asakura and K.Shibata: Journal of
Advanced Science, 13(2001), 260.
29) N.Imai, N.Komatsubara and K.Kunishige: ISIJ International, 37(1997), 217.
30) N.Imai, N.Komatsubara and K.Kunishige: ISIJ International, 37(1997), 224.
31) K.Noro,M.Takeuch and Y.Mizukami: ISIJ International, 73(1997), 198.
- 23 -
第2章
実験方法
2−1
供試鋼の作製方法
本博士論文では、現場熱間圧延プロセスを想定した熱間加工割れ再現実験を
行うことにより、Cu や Sn による表面赤熱脆性の発現条件およびその要因につ
いて検討した。この章では、本研究で行った再現実験の実験方法として、実験
に用いた試料とその作製方法、再現実験の手順、さらには試料の評価方法につ
いて説明する。
本研究では、前述したように、第3、4、および5章で述べる 3 つの研究課
題について再現実験を行った。まず、これら実験に用いた試料は、3章が
0.3%Cu-0.05%Sn 含有鋼、4章が 0.3%Cu-0.04%Sn 含有鋼およびこの鋼に S i や
Ni を微量添加したもの、さらに5章では約 2.4% の Cu を添加した SUS430 鋼
(16% Cr 鋼)と 0.3%Cu 炭素鋼である。これら試料の中で、たとえば、0.3%Cu
-0.05%Sn 含有鋼は、脱酸に Al を使用した軟鋼、すなわち Al キルド鋼をベ−
スに 0.3%Cu と 0.05%Sn を加えた鋼材で、化学分析によって決定した化学組成
は表2−1に示す通りである。添加元素の特徴は、脱酸の目的だけではなく,
緒言において述べた S による脆化を回避するために 0.3% 程度の Mn を添加し
たこと、Si,P ,Ni,および Cr の量は実用鋼の場合と同程度としたことである。
不純物あるいは脱酸に重要な P ,Al,および N の含有量に関しては、表中に有
効数字2桁の数字で示している。また、4および5章で用いた鋼材については、
それぞれの章の実験方法においてその詳細を報告する。これら鋼材の試料作製
の手順については、まず鋼塊を 50kg 真空溶解炉にて溶製し,熱間鍛造・熱間
圧延により 20mm 厚の熱延板を作製した。次に、熱延板より2種類の試験片、
すなわち 10mm 厚,25mm 角の矩形試験片と平行部直径 8mm,長さ 20mm の丸
棒引張試験片を切り出し,熱間加工割れ再現実験に供した。図2−1には、2
種類の試験片の外観を示している。
- 24 -
表2−1
C
Si
0.046 0.02
代表的な Cu-Sn 含有鋼の化学組成(mass% )
Mn
P
S
0.33 0.026 0.006 0.33
矩形試験片
Sn
Ni
0.05
0.02
Cr
Al
N
0.03 0.039 0.006
丸棒引張試験片
図2−1
2−2
Cu
試験片の外観
熱間加工割れ再現実験方法
熱間加工割れ、すなわち表面割れは、鋼材を大気中あるいは水蒸気酸化雰囲
気において 1250℃まで加熱し、その後の冷却途中で行なう熱間加工の際に生
じる。そこで、この現場での状況を再現するため、本研究では二つのタイプの
熱間加工割れ再現実験を行った。図2−2には、大気中において鋼材の加熱を
行なう、タイプ I の再現実験の手順を示している。大気中の加熱は、箱型の電
気炉を用いて行った。この実験では、まず実スラブの昇温速度を模擬するため、
複数の矩形試験片と丸棒引張試験片を 1050℃から 2 時間かけて大気中で 1250
℃に徐加熱し、30 分間保持することにより酸化処理を行った。次に、熱間加
工が実施される 950∼1200℃温度域内の所定の温度に空冷し,5∼30 分間等温
保持した後,いったん室温まで空冷した。矩形試験片の熱処理はここで終了し、
この試験片を酸化試験片とした。さらに右図に示すように、無酸素雰囲気を確
保するために、Ar 雰囲気中で 1100℃に加熱した丸棒引張試験片に対して,ひ
ずみ速度 0.01s -1 ,ひずみ量約 40% の引張変形を加えた
1 - 3)
。本研究では、この
一連の熱処理を受けた試験片を熱間加工割れ再現試験片、すなわち再現試験片
- 25 -
とした。図2−3には、熱間加工割れ再現実験に使用した島津 AGE 型引張試
験装置および再現試験片を取り付けた加熱部分を示している。
第一工程
Heating
1250℃,30min
第二工程
Holding
Tensile deformation
950∼1200℃,
5∼30min
1100℃,5min
2h
1050℃
Strain:40%
(ε:0.01s -1)
+
in Air
in Ar gas
A.C.
図2−2
大気中の酸化条件下(タイプⅠ)での熱間加工割れ再現実験の手順
引張試験装置全体
図2−3
再現試験片を装着した加熱部分
熱間加工割れ再現実験に使用した引張試験装置
- 26 -
緒言で述べたように、表面割れは、加熱雰囲気中での水蒸気濃度にも強く影
響を受ける。本論文の4および5章では、この点を明らかにするため、現場加
熱炉を想定したタイプ II の再現実験を行った。図2−4には、タイプ II の再
現実験の際に行なった実際の手順を示している。図から分かるように、タイプ
II の場合、手順は3つの工程からなる。まず、第一の工程では、現場加熱炉を
想定した水蒸気酸化雰囲気、すなわち(0, 10, 20, 30)%H2 O-1%O2 -bal.N2 において、
複数の矩形試験片と丸棒引張試験片を 1250℃に徐加熱し、30 分間保持後,い
ったん室温まで空冷した。次に、第二の工程として、1250℃加熱後の冷却途中
での等温保持を模擬し、大気中 1150℃で 5 分間の保持を行い、その後室温に
空冷した。最後の第三工程においては、タイプ I の再現実験の場合と同様に、
Ar 雰囲気中で 1100℃に加熱した丸棒引張試験片に対して,ひずみ速度 0.01s -1 ,
ひずみ量約 40% の引張変形を加えた。ここで、再現実験タイプ I との相違は、
現場における 1250℃加熱後の等温保持を、試料を一旦室温まで冷却し、第二
工程として再度鋼材を加熱することによって行なっている点である。異なる手
順を用いた理由については、水蒸気酸化雰囲気および大気中での加熱を、同一
の電気炉を用いて連続的に行うことができないためである。そのため本研究で
は、両者において表面割れの発生状況に違いがないことを確認したうえで、上
述の手順により再現実験を行った。図2−5には、水蒸気酸化雰囲気の加熱に
用いた環状型の電気炉 LINDBERG 製 ST-4X24-A を示している。加熱雰囲気は、
1∼1.5%O 2 -bal.N2 ボンベガスを加湿して露点調整することにより所定の水蒸気
濃度とした。さらに、第二工程での大気中 1150℃、 5 分間保持の条件は、3章
で述べる再現実験の結果と実機での熱履歴を考慮して選択した。本研究では、
タイプ I の再現実験と同様に、第二工程終了後の試料片を酸化試料片、一連の
工程を行なったものを再現試料片とした。
- 27 -
第一工程
第二工程
Heating in water vapor
containing atomosphere
第三工程
Holding in air
Tensile deformation
1250℃,30min
1150 ℃,5min
2h
1050 ℃
+
in water vapor
of up to 30%
A.C.
図2−4
+
in Air
in Ar gas
A.C.
水蒸気含有雰囲気加熱(タイプⅡ)での熱間加工割れ再現実験の手順
図2−5
2−3
1100 ℃,5min
Strain:40%
(ε:0.01s -1)
水蒸気酸化雰囲気の加熱に使用した環状型の電気炉
評価方法
熱間加工割れの評価は、熱間加工割れ再現試験片の平行部において単位表面
積当たりの表面割れ発生数(個/cm2 )を目視で数えることによって行った
- 28 -
1 -3 )
。
なお、本研究では、幅 約 0.2mm および深さ約 0.1mm 以上の割れを表面割れと
し、それ以下のものはカウントから除外した。割れの幅と割れの深さについて
は、針式の孔食計や非接触のレ−ザ−1YM82 を用いて測定した。
割れの原因となるスケ−ル/地鉄界面での Cu や Sn の濃化挙動、ならびに水
蒸気や異なる成分を有する鋼材でのスケ−ルの様子は、酸化試験片を用いて、
光学顕微鏡および JEM6400 型走査型電子顕微鏡(SEM)によりその組織を観
察することで明らかにした。スケ−ルや地鉄中における各元素の空間分布およ
び存在する析出物等の化学組成については、エネルギ−分散型 X 線分光法
(EDX)により定量的に解析した。
本実験の熱履歴で生じた酸化増量(Δw)は、酸化試験片を用いて、(2-1)
式により求めた。
Δw(kg/m2 )=(w1 −w2 )/S
・・・・・・・・・・・・
(2-1)
ここで、w 1 は酸化後の試験片重量(kg),w2 は酸化前の試験片重量,S は酸
化前の表面積である。また、水蒸気濃度によるスケ−ルでの結晶構造の違いは、
酸化試験片に生成したスケ−ルの粉末 X 線回折曲線を測定することにより明
らかにした。用いた装置は理学電機 RU-200 で、操作条 件 は 30kV,100mA、ま
た実験に供した試料は、生成したスケ−ルをグラインダ−で研削・粉砕後,め
のう乳鉢で粉末化したものである。
参考文献
1) 今井規雄,国重和俊 : トランプエレメントの鉄鋼材料科学,日本鉄鋼協会 ,
東京, (1997),137.
2) N.Imai, N.Komatsubara and K.Kunishige: ISIJ International, 37(1997), 224.
3)N.Imai, N.Komatsubara and K.Kunishige: ISIJ International, 37(1997), 217.
- 29 -
第3章
表面赤熱脆性におよぼす熱履歴の影響
3−1
緒言
鉄スクラップを鉄源として使用した場合に発生する熱間加工割れ、すなわち
表面割れは、Cu や Sn の液体脆化により生じる。具体的には、スラブ加熱時に
鉄が選択的に酸化され、低融点金属である Cu や Sn が酸化層であるスケ−ル
と地鉄の界面に濃化する。その後、液相となった Cu や Sn が結晶粒界に浸入
して粒界強度を弱めることにより、熱間加工割れが生じると考えられている。
また、緒言で述べた今井・国重らの研究から、Cu や Sn の液体脆化により生じ
る表面割れは、高価な合金元素である Ni の添加に加え、スラブの加熱温度を
1200℃以上の高温域とすることによっても抑制されることが明らかになってい
る
1,2 )
。
そこで本章では、上述の知見を基に実用的見地から、表面割れを生じる条件
と要因について追求する。すなわち、2章で述べた、現場熱間圧延プロセスを
想定した再現実験を行い、これらの詳細を明らかにした。具体的には、03%Cu
-0.05% Sn 含有鋼を 1250℃に加熱し、その後の冷却の際に生じる表面割れの特
徴について調べた。さらに、SEM および EDX を用いて酸化試験片におけるス
ケ − ル/地 鉄 界 面 近 傍 の 組 織 観 察 と 組 成 分 析 を 行 う こ と に よ り 、1250℃からの
冷却時に生じる Cu-Sn 含有鋼での表面赤熱脆性について、その要因を検討した。
3−2
実験方法
本章において 0.3%Cu-0.05%Sn 含有鋼を用いて行った再現実験は、第2章
「実験方法」で述べた二つの実験の中で、大気中の酸化を行うタイプⅠの再現
実験である。図2−1に示したように、その手順は、まず複数の酸化試験片と
- 30 -
再現試験片を 1050℃から 2 時間かけて 1250℃に徐加熱し、30 分間保持した。
次に、1200∼ 950℃間の所定の温度まで空冷後、 5∼30 分間の等温保持を行い、
いったん室温まで空冷した。さらに、Ar 雰囲気中で 1100℃に加熱した再現試
験片に対して、ひずみ量約 40% の引張変形を加え、その平行部に発生した表面
割れを観察した。割れの原因となる Cu や Sn の濃化挙動に関しては、大気中
加熱後のスケ−ル/ 地鉄界面近傍の組織について、SEM を用いてその詳細を調
べた。また、Cu および Sn の空間分布および Cu-Sn 濃化領域の化学組成につい
ても EDX により明らかにした。
3−3
実験結果
タイプⅠの再現試験により得られた、代表的な 5 つの丸棒引張試験片の外観
を図3−1に示す。これら試料に対する 1250℃加熱後の等温保持の条件は、
(1)室温への直接空冷、(2)1200℃での 5 分間保持、(3)1200℃での 10 分
間保持、(4)1100℃での 5 分間保持、および(5) 1100℃での 30 分間保持で
ある。まず、( 1)の直接空冷した試験片には、2章で述べた基準を満たす表
面割れを見出すことは出来なかった。一方、1200℃での 10 分間保持を除く他
の試験片には、表面割れが観察された。また、目視で得られた割れの発生状況
は、引張方向に対して垂直であり、割れの幅は 0.2∼0.3mm、割れの深さは 0.1
∼0.3mm であった。
図3−2には、上述の 5 つの試験片に加え、実験を行ったすべての試験片に
ついて、目視でカウントした表面割れの個数を示している。ここで、等温保持
の条件は、保持温度が 1200、1150、 1100、1000、および 950℃、保持時間が 5、
10、30 分である。図から、まず 1200℃と 1150℃での等温保持による表面割れ
は、5 分以下の短時間で生じ、10 分以上の保持により減少していることが分か
る。一方、 これとは逆に 1100℃における等温保持では、表面割れは時間の経
過とともに増加している。つまり、 1200∼1100℃域での等温保持によって生じ
- 31 -
る表面割れは、その出現に関して 1200 および 1150℃と 1100℃では全く異なる
挙動を示すことが明らかとなった。
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
図3−1
Cu-Sn 含有鋼の代表的な熱間加工割れ
再現試験片の外観
- 32 -
1300
Holding temperature (℃)
Cu-Sn containing steel in air
1200
8
0
2
3
1
1
1100
3
6
6
1000
1
0
0
0
0
0
900
:Number of cracks (1 /cm2)
800
0
図3−2
10
20
Holding time (min)
30
40
Cu-Sn 含有鋼の 1250℃加熱後の表面割れ領域
上述したように、表面割れの出現は等温保持の条件によって異なることが分
かった。そこで、その要因を検討するため、実験を行ったすべての酸化試験片
に対してスケ−ル /地鉄界面付近の組織を、反射電子像を撮影することにより
明らかにした。ここで、反射電子像において、Cu や Sn が濃化した領域は明る
いコントラストととして観察される。図3−3と図3−4には、その例として、
それぞれ 1200℃ と 1100℃において 5 分および 10 あるいは 30 分間保持した酸
化 試 験 片 で の 、 ス ケ − ル/ 地鉄界面付近の反射電子像を示している。まず、割
れを生じた 1200℃ で の 5 分等温保持および 1100℃での 30 分保持(図3−3
(a)と図3−4(b))では、矢印で示すように、Cu-Sn 濃化領域はスケ−ル/
地鉄界面に加え、地鉄内の割れ界面(cracking)、すなわち地鉄表層部の結晶
粒界に沿っても存在している。他方、室温に直接空冷した試験片を含め、割れ
が観察されない 1200℃ で の 10 分保持(図3−3(b))、また割れがわずか
であった 1100℃での 5 分保持(図3−4(a))においては、その反射電子像
- 33 -
中に Cu-Sn 濃化領域の存在を確認することはできなかった。
図3−3
1200℃等温保持した Cu-Sn 含有鋼の
スケ−ル/地鉄界面の反射電子像
(a) 5 分保持 (b) 10 分保持
- 34 -
図3−4
1100℃等温保持した Cu-Sn 含有鋼の
スケ−ル/地鉄界面の反射電子像
(a) 5 分保持 (b) 30 分保持
- 35 -
酸化試験片の観察から、Cu-Sn 濃化領域はスケ−ル/地鉄界面および地鉄表層
部の結晶粒界に沿って存在していることが示された。そこで、スケ−ル /地鉄
界面に存在する Cu-Sn 濃化領域の分布状態よび化学組成について反射電子像お
よび EPMA 分析により明らかにした。図3−5(a)、(b)、および(c)に
は、割れが多数観察された 1100℃ で 30 分保持した酸化試験片におけるスケ−
ル/地鉄界面付近の反射電子像、Cu 分布像、および Sn 分布像を示している。
こ れ ら の 像 か ら 、 ス ケ − ル/地 鉄 界 面 に は 明 る い コ ン ト ラ ス ト を 与 え る Cu-Sn
濃化領域の存在が明瞭に観察される。EPMA 分析によって決定した Cu-Sn 濃化
領域の組成は 81%Cu-13%Sn-6%Fe であり、多量の Cu を含むことが分かった。
さらに矢印で示すように、スケ−ル/地鉄界面に加え、Cu-Sn 濃化領域は地鉄表
層部の結晶粒界に沿っても存在することが確認された。また、ここでは実験結
果を示さないものの、同様な濃化挙動は、多数割れが観察された 1200℃で 5
分間保持した酸化試験片においても認められた。
従来の研究から、軟鋼において、室温へ冷却して観察されたフェライト
(α)粒界における Cu-Sn 濃化領域は、加熱時におけるオ−ステナイト(γ)
粒界と対応づけられている
1,2 )
。これらの実験では、観察に用いられる試験片
の冷却時間は速いため、γ→α変態に伴う Cu,Sn の排斥の寄与は小さいと理解
されている
1,2 )
。従って、EPMA 分析によって見出されたα粒界における Cu-
Sn 濃化領域は、加熱時におけるγ粒界の Cu-Sn 濃化領域にほぼ対応づけるこ
とができる。
- 36 -
図3−5
1100℃,30 分等温保持した Cu-Sn 含有鋼の
スケ−ル/地鉄界面の反射電子像と元素分布像
(a) 反射電子像 (b) Cu 分布像 (c) Sn 分布像
- 37 -
3−4
考察
本章では、0.3%Cu-0.05%Sn 含有鋼を 1250℃に加熱し、その冷却の際に生じ
る表面割れの特徴について再現実験を行うことにより明らかにした。その結果、
表面割れは 、1200、1150、 お よ び 1100℃での等温保持において発生した。そ
の特徴は、1200℃と 1150℃保持の場合、割れは 5 分以下の短時間に集中し、
10 分以上の長時間保持では減少すること、一方、低温の 1100℃保持では時間
の 経 過 と と も に 増 加 し て ゆ く こ と で あ る 。 さ ら に 、 ス ケ − ル/地鉄界面の観察
か ら 、 多 数 割 れ が 観 察 さ れ た 試 験 片 に は 、 ス ケ − ル/地鉄界面に加え,地鉄表
層部分の結晶粒界に沿っても Cu-Sn 濃化領域の存在が認められた。ここでは、
これらの実験結果に基づき、1250℃に加熱した際のスケ−ルの形成、Cu-Sn 濃
化領域の結晶粒界への析出、さらに 1200∼1150℃等温保持による割れの抑制
について、熱力学および速度論的な立場から検討した。
本考察では、まずスケ−ルの形成およびそれに伴う Cu-Sn 濃化領域の出現に
つ い て 検 討 し た 。 図 3 − 6 は 、 反 射 電 子 像 か ら 得 ら れ た ス ケ − ル/ 地鉄界面の
模式図および EPMA 分析によって決定した、界面に垂直な方向の Cu の濃度分
布である。ここで、図中の h は Cu 濃化域のスケ−ル/地鉄界面からの距離、太
矢印は Fe 2 + や Cu の拡散する方向を表している。また、h 内に存在する点線は
結晶粒界を意味してい る。図には、1250℃に加熱後の 1200、1150 および 1100
℃における等温保持により、液相の Cu-Sn 濃化領域がスケ−ルである FeO 層
と地鉄との界面に加え、地鉄表層部の結晶粒界に沿っても析出していることを
示している。そこでこの結果に基づき、スケ−ルの形成・成長および濃化領域
の出現は以下のように説明することができる。まず Cu-Sn 含有鋼を酸化雰囲気
中で 1250℃に加熱すると、表面にはスケ−ルとしての FeO 層が形成される。
この FeO 層は金属欠損の P 型半導体のため、その成長は Fe 2 + イオンの外方拡
散によって律速される。また 1250℃の場合、FeO 中の Fe 2 + イオンの拡散係数
の値は 3× 10 - 11 m2 /s であり
3)
、γ-Fe 中の Cu イオンの拡散係数値 1.1× 10 -1 4 m2 /s
に比べてはるかに大きい 4 ) 。よって、Cu は Fe の選択酸化によりスケ−ル/地鉄
- 38 -
界面に濃化する。特に、γ-Fe に対する Cu の固溶度が 10.5% の固溶限を越えた
場合には、少量の Sn を含む液相の Cu 濃化領域が析出することになる。
FeO
Fe2+
0
h
Cu concentration
Cu
Liquid Cu(-Sn) Cu
Cu
Cu
d ←
Cu
Cu
Cu
Cu
Distance from the interface
Fe2+
Steel(Fe)
←Cu (mass%)
10
図3−6
5
0
Cu-Sn 含有鋼の 1250℃加熱後のスケ−ル/地鉄界面と
その Cu 濃度分布の模式図
得られた実験結果から、Cu-Sn 含有鋼での表面割れは、1250℃からの冷却時
に生じる、Cu-Sn 濃化領域の出現と直接関係していることが予想される。そこ
で、この点について、Fe-Cu 系状態図を用いて熱力学的に検討した。図3−7
には、熱力学計算によって得られた Fe-Cu 合金の平衡状態図を示している。こ
こで、計算は Thermo-Calc
1,2 )
を用いて行った。この状態図から分かるように、
Fe-Cu 合金系の特徴は、他の共晶・包晶系合金の状態図で見られるように、矢
印で示す固相線が液相線とは異なる符号の勾配を持つことである。具体的には、
固相線の Cu 量は 1250℃では約 10.5% 、1200℃で 9.0% 、および 1100℃では約
7.5%で、温度の低下と伴に減少していることが分かる。よって、1250℃から鋼
材を冷却すると、液相の Cu 濃化領域と接触していた地鉄表層部分から、過飽
- 39 -
和に固溶していた Cu(Sn)が液相として析出することになる。一般に、エネル
ギ−的かつ結晶学的に不安定な場所、すなわち結晶粒界が析出サイトの候補と
して挙げられる。3-3 節で述べたように、Cu-Sn 濃化領域は、地鉄表層のα粒
界に沿って見出され、これが加熱時のγ粒界とほぼ対応づけられる。さらに、
再現試験片を Ar 雰囲気中の 1100℃に再加熱して引張試験する場合、その昇温
速度は約 1 分と速い。そのため、再加熱における Cu,Sn のα相への排斥の寄与
も小さい。これら検討より、表面割れは、Cu-Sn 濃化領域の存在する結晶粒界
が起点となって生じた、粒界割れであると推論される。
図3−7
Fe-Cu 合金の計算機状態図
前 節 ま で の 検 討 か ら 表 面 割 れ は 、 1250℃ か ら の 冷 却 の 際 に 生 じ る 、
- 40 -
Cu -S n 濃 化 領 域 の 地 鉄 表 層 部 に 存 在 す る 結 晶 粒 界 へ の 析 出 に よ る こ と が
示 唆 さ れ た 。 こ の た め 、 1200 ∼ 1150℃ 等 温 保 持 に よ る 割 れ の 抑 制 は 、
この濃化領域の消失に関係していることが予想される。そこで、この
推論を確かめるため、地鉄表層部の一つの結晶粒界に注目して、その
拡 散 場 の モ デ ル 化 を 行 っ た 後 、 Cu 原 子 の 定 常 拡 散 を 考 え る こ と に よ り
そ の 詳 細 を 速 度 論 的 に 検 討 し た 。 図 3 − 8 は 、Cu が 濃 化 し た 地 鉄 表 層
部 で の 拡 散 場 モ デ ル と Cu 原 子 の 流 れ を 模 式 的 に 示 し た も の で あ る 。 図
に示すように、本考察では、結晶粒の形状を角筒形としたため、dは
結 晶 粒 径 , r g は 結 晶 粒 の 半 径 , h は C u 濃 化 域 の ス ケ − ル /地 鉄 界 面 か
ら の 距 離 , C は Cu 濃 化 域 内 で 一 様 と 仮 定 し た C u 濃 度 と な る 。 C u 原 子
の流れについては、希釈に関係する鋼中へのフラックス J と表面割れの
要 因 と な る 結 晶 粒 界 へ の フ ラ ッ ク ス J *の 二 つ を 考 え 、 こ れ ら の 競 合 を
検討した。ここで、拡散挙動のより厳密な解析には、空間的な濃度変
化を考慮した三次元非定常拡散に基づいて検討する必要がある。しか
しここでは、現象の定性的な理解を目的としたため、定常拡散を仮定
することにより実際の解析を行った。以下に、まず解析に用いたフラ
ックスおよびマスバランスの式等を示す。
h
d=2r g
L
J* C J*
Grain
boundary
J
Steel
図3−8
C u が 濃 化 し た 地 鉄 表 層 部 分 の 1250 ℃ 加 熱
からの冷却の際に生じる Cu 原子の拡散モデル
- 41 -
図 3 − 8 に 示 す 、Cu 原子 の 鋼 中 へ の フ ラ ッ ク ス J お よ び 結 晶 粒 界 へ
の フ ラ ッ ク ス J *は 、 ま ず 以 下 の よ う に 与 え ら れ る 。
J = 2 r gL D × ( C − C 0 ) / δ
・・・・・・・
①
J *= 2 L h D *× ( C − C s a t) / δ ・・・・・・・
②
① お よ び ② 式 に お い て 、 D は γ -Fe 中 の Cu の 拡 散 係 数
4)
、 C0 は鋼材の
C u 組 成 で あ る 0 . 3% 、 δ は 拡 散 パ ス 長 さ 、 D *は C u 濃 化 域 内 に お い て
結 晶 粒 界 へ 拡 散 す る C u の 拡 散 係 数 、 C s a t は γ - Fe 中 の C u の 固 溶 限 で
あ る 。 こ こ で J *は 、 結 晶 粒 界 を 含 む 、 大 き さ 10μ m 程 度 の Cu 濃 化 域
内 に お け る 流 れ の た め 、 拡 散 係 数 D *を γ - Fe 中 の 拡 散 係 数 D よ り も 大
き い と 予 想 し 、 比 ζ = D * / D を 導 入 し た 。 よ っ て 、 こ の J お よ び J *を
用いることにより、マスバランスの式は、
− 2 r gL h × ( d C / d t ) = J + J *
・・・・・・・・
③
で、①および②式を代入して、
− d C / d t = ( ζ D / r g+ D / h δ ) C − ( ζ D / r gδ × C s a t
+ D / h δ × C 0)
・・・・・・・・・
④
を得ることができる。④式の解については、A=ζD/r g+D/hδ ,B=
ζD/r gδ×Csat+D/hδ×C 0 と 置 く こ と に よ り 、
C (t)=B/A+α×e x p(−At)・・・・・・・・・・ ⑤
となる。ここで、αは定数である。
本研究では、割れが抑制される 1200℃と促進される 1100℃での濃化挙動の
相違を明らかにするため、これら式を用いて濃化域内の Cu 濃度、J、J*等を計
算 し た 。 計 算 に 用 い た 拡 散 係 数 等 の 値 は 、表 3 − 1 に 示 す 通 り で あ る 。 具
体 的 に は 、 拡 散 係 数 D は 文 献 値 ( 4 ) に 基 づ い て 計 算 し た 1200 ℃ と
1100 ℃ で の 値
4)
、 C sat は Fe-Cu 系状態図から求めた値、r g は 反 射 電 子 像
か ら 決 定 し た 結 晶 粒 径 で あ る 。 ま た 、 ζ 、 h、およびδの値は、それぞれ
ζ=2.0、h=1.0×10 - 5 m、δ=1.0×10 -6 mと仮定した。
図3−9には、⑤式を用いて計算した 1200℃ と 1100℃の等温保持での Cu
濃度Cの時間変化を示している。ここで、本解析では、拡散パス長さをδ=
- 42 -
1.0× 10 - 6 m としたため、濃化域内の Cu 濃度は一様ではない。すなわち、図の
縦軸であるC値は結晶粒界の界面近傍における Cu 濃度を表している。また、
t=0 でのC値は 1250℃への加熱により地鉄表層に濃化した Cu 量で、1250℃
における Cu 固溶度の 10.5% とした。そこで、グラフに示した 1200℃および
1100℃の曲線に注目すると、両温度とも時間の経過に伴に Cu 濃度は減少して
い る こ と が 分 か る 。 そ の 特 徴 と し て は 、 1200℃ で の 保 持 に よ る 減 少 の 程 度 が
1100℃に比べ大きく、特に約 300sec (約 5 分)以降において Cu の固溶度であ
る 9.0% よ り 小 さ な 値 と な る こ と で あ る 。 一 方 、 1100℃ で の 等 温 保 持 で は 、
1800sec(30 分)においても Cu 濃度は約 9.0% であり、1100℃での Cu の固溶
度、7.5% より大きな値をとることが理解される。
表3−1
計算に用いた数値
D 1200℃: 5.07×10-15 m2 /s ,D 1100℃: 9.58×10-16 m2/s ,ζ=2.0
r g: 2.0×10-5 m,h: 1.0×10-5 m,δ: 1.0×10-6 m
C sat1200 ℃:9.0 mass% ,Csat1100℃ :7.5 mass%
- 43 -
12
11
1100℃
C (mass%)
10
9
8
1200℃
7
6
5
0
200
400
600
800 1000 1200 1400 1600 1800
Holding time (sec)
図3−9
1200℃ と 1100℃ の 等 温 保 持 に よ る C u 濃 度 変 化
濃化域内の Cu 濃度の計算に引き続き、結晶粒界へ拡散する Cu 原子のJ*を
計算した。具体的には、図3−9に示す Cu 濃度を②式に代入することにより
求めた。図3−10に、得られた 1200℃と 1100℃での等温保持によるJ*の時
間変化をを示している。また、グラフのJ*値は、1200℃における 5 分間保持
での値で規格化している。図から分かるように、1200℃および 1100℃の場合
とも、時間の経過と伴にJ *値は減少している。ここで、注目すべき特徴は、
1100℃保持でのJ *値が常に正の値を取るのに対し、1200℃ で は 約 360sec(約
6 分 ) に お い て J*値が正から負の値へと変化していることである。このこと
は、1100℃での Cu 原子の流れが常に結晶粒界に向かって生じているのに対し、
100℃高い 1200℃においては約 6 分保持を境にして流れの向きが、結晶粒界へ
向かう方向から、その反対方向へと変化していることを示している。
- 44 -
10
J*/J*1200℃,300sec
5
1100℃
0
-5
1200℃
-10
-15
-20
0
200
400
600
800 1000 1200 1400 1600 1800
Holding time (sec)
図3−10
1200℃ と 1100℃ の 等 温 保 持 に よ る C u 原 子 の 流 れ
J *の 変 化
1200℃ お よ び 1100℃ 保 持 で の 表 面 割 れ の 挙 動 を 理 解 す る た め に 、 計
算 に よ っ て 得 た J *値 か ら 、 結 晶 粒 界 に お け る C u 原 子 の 蓄 積 量 を 求 め
た 。 図 3 − 1 1 は 、 図 3 − 1 0 に 示 す J *値 を 時 間 に 関 し て 積 分 す る こ
と に よ っ て 得 た 、 1200℃ と 1100℃ 等 温 保 持 で の 蓄 積 量 を 示 し て い る 。
ま た 、 各 時 間 で の 蓄 積 量 は 1100℃ で 5 分 間 保 持 の 量 に 対 し て 規 格 化 し
て い る 。 図 か ら 、 結 晶 粒 界 で の C u 原 子 の 蓄 積 量 は 、 1100℃ と 1200℃ に
お い て 全 く 異 な る 挙 動 を 示 す こ と が 分 か る 。 ま ず 、 1200℃ の 等 温 保 持
で は 、 時 間 の 経 過 と 伴 に 蓄 積 量 は 、 約 300sec ( 約 5 分 ) ま で 増 加 し 、
そ の 後 減 少 し て い る 。 特 に 、 約 800sec ( 約 13 分 ) 以 降 の 蓄 積 量 は 負 の
値 を 取 る こ と が 分 か る 。 一 方 、 1100℃ の 等 温 保 持 に お い て 蓄 積 量 は 一
様 に 増 加 し て お り 、 1200℃ で 見 ら れ た 挙 動 は 認 め ら れ な い 。
この蓄積量に関する計算結果を基に、表面割れの挙動は以下のよう
- 45 -
に説明される。まず表面割れは粒界割れの一つで、その程度は結晶粒
界 に 存 在 す る Cu -S n 濃 化 領 域 の 量 、 す な わ ち 本 計 算 で の C u 原 子 の 蓄 積
量 に 依 存 す る 。 こ の た め 、 蓄 積 量 の 一 様 な 増 加 を 示 す 1100℃ 保 持 で は 、
実 際 時 間 の 経 過 に 伴 い 多 く の 割 れ が 観 察 さ れ た 。 一 方 、 約 800sec 以 降
の 保 持 で 負 の 蓄 積 量 と な る 1200℃ で は 、 長 時 間 保 持 に よ り Cu - S n 濃 化
領域が結晶粒界から消失し、割れは抑制されることが理解される。結
局 、 こ れ ら 計 算 結 果 は 、 1250℃ か ら の 冷 却 の 際 に 生 じ る 表 面 赤 熱 脆 性
の 要 因 が 、 地 鉄 表 層 部 に 存 在 す る 結 晶 粒 界 へ の Cu -S n 濃 化 領 域 の 出 現
に よ る こ と 、 さ ら に 1200℃ ∼ 1150℃ で の 長 時 間 保 持 が 割 れ の 抑 制 に 対
し て 非 常 に 有効な手段であることを示している。この効果は、液相の Cu 濃化
領域と接触していた高 Cu 濃度の領域から Cu がバルク中へ拡散するため、粒
界における Cu-Sn 濃化領域は消滅するもしくは生成しないために生じると考え
ることができる。
- 46 -
6
4
1100℃
∫J*dt/∫J*1100℃,300sec
2
0
-2
1200 ℃
-4
-6
-8
-10
0
200
400
600
800 1000 1200 1400 1600 1800
Holding time (sec)
図3−11
1200℃ と 1100℃ の 等 温 保 持 に 伴 う C u 原 子 の
結晶粒界における蓄積量の変化
3−5
まとめ
本章では、現場熱間圧延プロセスの熱履歴を再現して 0.3%Cu-0.05%Sn 含有
鋼を 1250℃に加熱し、その冷却の際に生じる表面割れの特徴を調べた。さら
に、スケ−ル/ 地鉄界面近傍の詳細な組織観察と組成分析を行うことにより、
1250℃からの冷却時に生じる Cu-Sn 含有鋼での表面赤熱脆性について、その要
因を検討した。以下に得られた結果を示す。
(1) 表面割れは、1250℃ に 加 熱 後 、1200、1150、および 1100℃での等温保持
において発生した。
(2) 1200℃と 1150℃保持の場合、割れは 5 分以下の短時間に集中し、10 分以上
- 47 -
の長時間保持では減少した。一方、低温の 1100℃保持では 5 分以下におい
て割れは少なく,時間の経過とともに増加した。
(3) 多数割れが観察された 1200℃,5 分等温保持や 1100℃, 30 分等温保持の
試 験 材 に は 、 ス ケ − ル/地 鉄 界 面 に 加 え , 地 鉄 表 層 部 分 の 結 晶 粒 界 に 沿 っ て
も Cu-Sn 濃化領域の存在が確認された。
(4) 表面割れの原因は、Fe-Cu 状態図から予想される,1250℃からの冷却に伴
う Cu 固溶量の低下により、液相の Cu 濃化領域が地鉄表層部分の結晶粒界
に沿って析出したことによると結論された。
(5) (4) の推論について、地鉄表層部の結晶粒に注目して、その拡散場のモデル
化を行い、Cu 原子の定常拡散を考えることによりその詳細を速度論的に検
討した。ここで、Cu 原子の流れについては、希釈に関係する鋼中へのフラ
ックスと表面割れの要因となる結晶粒界へのフラックスの二つを考え、これ
らの競合として検討した。
(6) (5) の検討から、1250℃からの冷却の際に生じる表面赤熱脆性の要因は、地
鉄表層部に存在する結晶粒界への Cu(Sn)濃化相の出現によること、さら
に、1200∼1150℃での長時間保持が割れの抑制に対して非常に有効な手段
であることを明らかにした。
参考文献
1) N.Imai, N.Komatsubara and K.Kunishige: ISIJ International, 37(1997), 217.
2)N.Imai, N.Komatsubara and K.Kunishige: ISIJ International, 37(1997), 224.
3)新居和嘉 : 講座・現代の金属学材料編第 9 巻「金属表面物性工学」 ,
日本金属学会(1990), 110.
4)K.Oikawa: Tetsu-to-Hagane, 68(1982), 1489.
- 48 -
第4章
水蒸気含有雰囲気加熱における表面赤熱脆性
4−1
緒言
3章では、大気中において 1250℃加熱後、冷却途中での等温保持によって
生じる表面割れの要因について、0.3%Cu-0.05%Sn 含有鋼を用いたタイプⅠの
再現実験により明らかにした。しかし、この再現実験は、天然ガス、液化石油
ガス、あるいはコ−クス炉ガスを燃料ガスとして用いた現場加熱炉での状況を
充分に再現するものではない。すなわち、これらのガスは水蒸気を含むため、
実用上の視点からは割れに及ぼす水蒸気の影響を明らかにする必要がある。そ
こで本章では、実用上の必要性から、水蒸気酸化雰囲気において加熱した場合
に発生する表面割れについて、タイプⅡの再現実験を行うことによりその特徴
を調べた。さらに、水蒸気酸化雰囲気での表面割れに及ぼす S i お よ び Ni 微量
置換の影響についても、表面割れの抑制という視点から検討した。
最近、現場加熱炉の雰囲気を想定し、スラブ加熱で生成する酸化層、すなわ
ちスケ−ルに及ぼす水蒸気の影響について研究が進められている
1,2)
。その結
果、水蒸気酸化雰囲気で鋼材を加熱した際の酸化速度やスケ−ルの構造は、実
験室で簡便に実施される大気中酸化の場合とは、大きく異なっていることが報
告されている。また、Nicholson ら
3)
と柴田ら
4)
は、水蒸気を含む雰囲気中で
加熱した鋼材(以下、水蒸気加熱材と称する)において、表面赤熱脆性が助長
されることを指摘している。しかし、これらの研究にもかかわらず、水蒸気加
熱材でのスケ−ルの構造と表面割れとの関係については、現在でもその詳細は
不明のままである。
従来、Cu や Sn に起因する熱間加工割れ防止のために、種々の微量元素の添
加が検討されている。瀬尾・柴田らは、Cu 含有鋼において S i の添加により割
れが抑制されること
5)
,さらに割れの抑制に必要な N i および S i 添加量につい
て、これら添加量間の関係
6)
を示している。また、今井・国重らは、Cu と Sn
- 49 -
含有鋼に関して、割れの防止に必要な Ni の添加量を報告している
7,8)
。しかし
ながら、これら結果は大気中での加熱によって得られたものであり、工業的に
は、水蒸気酸化雰囲気での加熱や熱履歴等の詳細を考慮する必要がある。さら
に、これらの問題に加え、スラブ加熱時における鉄の選択酸化によって生じた、
酸化増量と割れとの関係に関しても、微量元素による置換がどのような影響を
与えるかについては現在でも明らかではない。
これらの背景を受け本章では、高炉ガス、天然ガス、液化石油ガス、および
コ−クス炉ガスを燃料として用いた現場加熱炉を想定し、水蒸気酸化雰囲気で
加熱した際の表面割れの特徴について、2章で述べたタイプⅡの再現実験によ
り明らかにした。具体的には、まず 0.3%Cu-0.05%Sn 含有鋼を用いて行った再
現実験から、水蒸気酸化雰囲気での表面割れの挙動を明らかにするとともに、
異なる水蒸気濃度を有する試験片での酸化増量、スケ−ルの構造、およびスケ
−ル/地鉄界面の様子を光学顕微鏡、粉末 X 線回折、および SEM 等により調べ
た。さらに、水蒸気酸化雰囲気での脆化抑制を目的に、Si と Ni を微量置換し
た 0.1%Si 鋼および 0.14%Ni 鋼を用いて、割れの状況、酸化増量の影響、さら
にスケ−ル/地鉄界面等の詳細について検討した。
4−2
実験方法
上述したように、水蒸気酸化雰囲気での加熱による表面割れは、2章の図2
−2に示すタイプⅡの再現実験によりその詳細を明らかにした。まず、再現実
験に供した鋼材は以下の通りである。本章で行った二つの実験のうち、水蒸気
酸化雰囲気での割れを調べた再現実験では、3章でも用いた 0.3%Cu-0.05%Sn
含有鋼、また Si および Ni の影響を調べた実験には 0.3%Cu-0.04%Sn 含有鋼に、
実用的な問題が生じない範囲で S i と Ni を添加した4種類の鋼材を用いた。こ
れら4種類の鋼材の化学組成を表4−1に示す。表に示すように、(1)と
(2)では、Ni 添加量を実用鋼で不可避的に混入する 0.01% とし、Si 添加量は
- 50 -
脱 酸 に 寄 与 し な い 0.01% 未 満 と 割 れ 抑 制 か ら 0.1% と し た 。 一 方 、 ( 3) と
(4)は、割れ抑制の視点から Ni を 0.14% 添加した鋼材で、Si 置換量をそれぞ
れ 0.01% 未満と 0.02% としたものである。
表4−1
Si や Ni の影響を調査する供試鋼の化学組成(mass% )
Steel
C
Si
Mn
Cu
Sn
Ni
Al
N
(1)Si<0.01%
0.046 <0.01
0.30
0.30
0.04
0.01
0.041 0.0062
(2)0.1%Si
0.051
0.10
0.30
0.30
0.04
0.01
0.040 0.0063
(3)
Si<0.01%-0.14%Ni 0.050 <0.01
0.30
0.29
0.04
0.14
0.039 0.0066
(4)
0.02%Si-0.14%Ni
0.30
0.30
0.04
0.14
0.040 0.0066
0.051
0.02
これら鋼材を用いて行ったタイプⅡに再現実験の手順を、再度簡単に説明す
る。3つの工程から成る再現実験タイプⅡの第一工程では、上述の鋼材を(0、
10、20、および 30)%H2 O-1%O 2 -bal.N2 の水蒸気酸化雰囲気のもと、1050℃か
ら 2 時間かけて 1250℃に徐加熱し、30 分間保持した後、いったん室温まで空
冷した。第二工程においては、現場で行う加熱後の冷却途中での等温保持を模
擬し、大気中で鋼材を加熱した後、1150℃で 5 分間保持し、再度室温に空冷し
た。タイプⅡの再現実験では、この第二工程までの熱処理を受けた試験片を酸
化試験片とした。さらに第三工程では、Ar 雰囲気中で 1100℃に加熱した再現
試験片に対して、ひずみ量約 40% の引張変形を加えた。ここで本再現実験では、
上述したように、水蒸気濃度xを x=0、10、 20、および 30%としている。その
理由は、現場加熱炉で用いる燃料ガスが、高炉ガスで 0%、天然ガスと液化石
油ガスで 10∼20%、およびコ−クス炉ガスでは 20∼30%の水蒸気濃度を含む
からである。
本実験では、このような工程を経て得た試験片に対して以下の観察を行った。
ま ず 、 酸 化 試 験 片 に 対 し て 、 酸 化 増 量 、 ス ケ − ル の 構 造 、 な ら び に ス ケ − ル/
地鉄界面の特徴を光学顕微鏡、粉末 X 線回折、SEM、および EDX を用いて調
べた。一方、再現試験片については、表面割れの発生状況を目視で調べるとと
もに、最大割れ幅と最大割れ深さの大きさをレ−ザ−顕微鏡により測定した。
- 51 -
4−3
実験結果
4−3−1
水 蒸 気 酸 化 雰 囲 気 で 加 熱 し た 0.3%Cu- 0.05%Sn 含 有 鋼 に お
ける表面赤熱脆性の特徴
図4−1に、x%H2 O-1%O2 -bal.N2 の水蒸気酸化雰囲気で加熱を行った4つの
水蒸気加熱材の外観を示している。これら加熱材での水蒸気濃度は(1)x=0、
(2)x=10、 (3)x=20、 お よ び (4)x=30、また( 5)は比較のために大気中
で加熱を行った鋼材(大気加熱材)の外観である。ここでの保持条件は、大気
中 1150℃で 5 分間である。図から、水蒸気を含まない(1)の加熱材では、2
章で述べた基準を超える表面割れを見出すことはできなかった。また、(2)
の x=10 加熱材には、(5)の大気加熱材と同程度の割れが認められた。一方、
(3)と(4)の水蒸気加熱材では明瞭な割れが観察された。すなわち、これら
外観の比較から、水蒸気濃度の増加とともに、割れの程度は顕著になることが
理解される。
- 52 -
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
図4−1
Cu-Sn 含有鋼の熱間加工割れ再現試験片の表面割れ
に及ぼす加熱雰囲気の水蒸気濃度の影響
- 53 -
図4−2には、図4−1に示す水蒸気加熱材を用いて測定した、最大割れ幅
および最大割れ深さを、水蒸気濃度に対してプロットしたものである。また、
図中の点線矢印は大気加熱材での値である。図から、最大割れ幅と深さは、例
えば x=20 では約 1.7mm と約 0.6mm、x=30 では約 3.7mm と約 1.1mm となり、
水蒸気濃度と伴に増加していることが分かる。特に注目すべき点は、x=20 を
越える水蒸気加熱材での値が、大気加熱材の約 0.4mm と約 0.3mm に比べて、
大きな値を取ることである。この実験結果は、表面割れが水蒸気酸化雰囲気で
Maximum cracking
depth (mm)
Maximum cracking
width (mm)
の加熱により促進されることを示している。
4
3
0.3%Cu-0.05%Sn containig steel
2
1
in Air
0
1
0.5
in Air
(approximately 20%O2)
0
0
図4−2
10
20
H2O content (vol.%)
30
Cu-Sn 含有鋼の最大割れ幅と最大割れ深さ
に及ぼす水蒸気濃度の影響
- 54 -
図4−3は、水蒸気加熱材の酸化試験片から決定した、酸化増量の水蒸気濃
度依存性を示している。2章で述べたように、本研究では酸化増量を(酸化に
よる質量増加量)/(酸化前の表面積)の比として求めている。図から、それ
ぞれの加熱材での酸化増量は、x=0 で 0.8kg/m2 、x=10 で 1.1kg/m2 、x=20 では
1.3kg/m2 、および x=30 では 1.5kg/m2 であることが分かる。すなわち、酸化増
量は水蒸気濃度と伴に増加していることが理解される。ここで興味深い点は、
点線矢印で示す大気加熱材での増量が、x=30 の場合に比較してわずかに大き
な値を取ることである。一方、図4−2で述べたように、割れの程度に関して
は、大気加熱材より x=20 以上の水蒸気加熱材の方がより顕著である。このこ
とから、酸化増量は割れの程度に対して直接的な相関を持つものではないこと
が理解される。
2
0.3%Cu-0.05%Sn containig steel
in Air
(approximately 20%O2)
2
Mass gain (kg/m )
1.5
1
0.5
0
0
図4−3
10
20
H2O content (vol.%)
30
酸化増量に及ぼす加熱雰囲気の
水蒸気濃度の影響
- 55 -
上述したように、酸化増量は表面割れの程度に直接関係しないことが分かっ
た。そこで、割れの要因を検討するために、酸化層、すなわちスケ−ルの形態
について光学顕微鏡を用いて調べた。図4−4には、水蒸気加熱材の例として
(a)x=30 加熱材、および比較のための( b)大気加熱材におけるスケ−ルの
光学顕微鏡写真を示している。大気加熱材の保持条件は、1150℃、 5 分間であ
る。まず、水蒸気加熱材のスケ−ルには、矢印 A で示す小さな気孔が数多く
生成している。一方、(b)の大気加熱材では、矢印 B の大きな気孔や矢印 C
の割れが観察され、その特徴は水蒸気加熱材の場合とは大きく異なっているこ
とが分かる。さらに、スケ−ルの剥離する起点(矢印 D)についても、大気加
熱 材 (b)ではスケ−ル/ 地 鉄 界 面 で あ る の に 対 し 、 (a)の水蒸気加熱材では
スケ−ル内に存在している。つまり、水蒸気の存在により、スケ−ルは小さい
気孔を高密度で含むものとなり、さらにスケ−ルと地鉄の密着性は良好なもの
へと変化していることが理解される。
- 56 -
(a)
A
(b)
B
C
D
図4−4
スケ−ルの光学顕微鏡組織
スケ−ルの形態に引 き続き、水蒸気加熱材でのスケ−ル/ 地鉄界面の様子に
ついて光学顕微鏡を用いて調べた。図4−5には、(a)x=30 水蒸気加熱材、
および比較のための(b)大気加熱材でのスケ−ル/地鉄界面の光学顕微鏡写真
を示している。また、大気加熱材の保持条件は図4−4の場合と同じである。
まず(a)の水蒸気加熱材の光学写真に注目すると、矢印で示すスケ−ル/地鉄
界面は、大きく波を打ち、多少の凹凸が見られるものの、基本的には平坦性の
- 57 -
高いものであることが分かる。一方、(b)の大気加熱材には、矢印で示すよ
うに凹凸が明瞭に観察される。すなわ ち、水蒸気加熱材のスケ−ル /地鉄界面
は、大気加熱材の場合と比較して、平坦なものであることが理解される。
(a)
(b)
図4−5
スケ−ル/地鉄界面の形態に及ぼす水蒸気の影響
異なる水蒸気濃度を有する水蒸気加熱材でのスケ−ルの結晶構造を粉末 X
線回折により調べた。図4−6には、比較のための大気加熱材を含め、得られ
た構造とその体積分率を示している。また、積分反射強度の比から求めた体積
分率は、下から上へ、Fe の価数が増加する順に並べた。図から、大気加熱材
および x=0 と 10 の水蒸気加熱材でのスケ−ルは、FeO,Fe 3 O 4 ,および Fe 2 O3
構造を有する領域から、x=20 と 30 水蒸気加熱材では、これら3種類の領域に
加え,Fe 2 SiO 4 (Fayalite)構造の領域も含まれていることが分かる。体積分率
については、x=0 加熱材では Fe 3 O4 領域が全体の 60%程度を占めるのに対し、
x=10、20 お よ び 30 加熱材の場合,スケ−ルは主に FeO 領域から成ることが理
解される。すなわち、これらの実験結果は、水蒸気酸化雰囲気での加熱におい
て低酸素ポテンシャルの環境が生じていることを示唆している。
- 58 -
Volume ratio of various oxides
1
Fe2O3
Fe3O4
0.8
0.6
0.4
FeO
0.2
0
Fe2SiO 4
Heating
in Air
図4−6
4−3−2
0
10
20
30
H2O content (vol% )
スケ−ル構造に及ぼす水蒸 気の影響
水 蒸 気 加 熱 材 の 表 面 割 れ に 及 ぼ す Si お よ び Ni 置 換 の 効 果
前節の実験から、表面割れは水蒸気の存在により顕著なものへと変化するこ
とが示された。そこで本節では、S i および Ni 置換による表面割れの抑制につ
いて検討した。以下に、まず S i 置換に関する実験結果について報告する。図
4−7には、0.3%Cu-0.04%Sn 含有鋼での水蒸気濃度(1)x=0 と (2)x=30 加
熱材、および S i を 0.1% 添加した 0.1%Si-0.3%Cu-0.04%Sn 含有鋼における(3)
x=0 と(4)x=30 加 熱 材での外観を示している。ただし、(1) と (2)の水蒸
気 加 熱 材 に お け る Si 量 は 0.01% 未 満 で あ る 。 ま ず 、 Si を 含 ま な い (1) と
(2)の水蒸気加熱材には、表面割れが明瞭に観察される。ここで注目すべき
点は、割れが観察されない図4−1の場合とは異なり、x=0 加熱材でも割れが
- 59 -
現れるということである。その理由は、(1)の加熱材での Si 量が 0.01% 未満
で、図4−1の 0.02% と異なるためである。次に、S i を添加した加熱材に注目
すると、(3)には表面割れは認められず、また(4)でも小さな割れが確認さ
れる程度である。よって、これらの結果から、0.1% 程度の S i 添加は割れの抑
制に対して効果的であることが結論される。
(1)
(2)
(3)
(4)
図4−7
Si<0.01% 鋼と 0.1%Si 鋼の表面割れに及ぼす水蒸気の影響
- 60 -
Si 置換による表面割れの抑制が確認されたので、この場合での割れの程度と
酸化増量との関係について検討した。ここでは、S i<0.01% および 0.1%Si を添
加した2種類の 0.3%Cu-0.04%Sn 含有鋼に対して、x=0、10、20、および 30 の
水蒸気酸化雰囲気で加熱した際に得られた実験結果について報告する。図4−
8は、割れの程 度を示す最大割れ深さを、酸化増量に対してプロットしたグラ
フである。また実験から、酸化増量は水蒸気濃度と伴に増加することが確認さ
れた。グラフから、まず S i<0.01%鋼では、酸化増量が 0.6 kg/m2 →1.0kg/m2 へ
と増えるに従い、割れの深さも増加していることが分かる。特に、x=30 に対
応する 1.1kg/m2 での深さは約 1.8mm となり、0.67 kg/m2 (x=0)での場合の約
4.5 倍となっている。一方、0.1%Si 鋼では、約 0.8kg/m2 において割れは発生す
るものの、その後の増加によって割れ深さはほとんど変化しないことが分かる。
これにより、Si<0.01% 鋼において酸化増量と割れの程度の間には強い相関が存
在するものの、S i 置換によってこの相関は抑制されることが示された。つまり、
酸化増量による割れの顕在化は、わずかな Si 添加により著しく抑制されるこ
とが定量的にも示された。
- 61 -
Maximum cracking depth (mm)
2
0.3%Cu-0.04%Sn containing steel
1.5
1
Si<0.01%
0.5
0.1%Si
0
0.6
0.8
1
1.2
2
Mass gain (kg/m )
図4−8
Si<0.01% 鋼と 0.1%Si 鋼の最大割れ深さに及ぼす
酸化増量の影響
0.3%Cu-0.04%Sn 含有鋼での検討に引き続き、Ni を含む 0.14%Ni 含有鋼での
Si 添 加 の 効 果 に つ い て 調 べ た 。 図 4 − 9 に は 、 そ の 例 と し て Si<0.01%0.14%Ni 含有鋼における水蒸気濃度( 1)x=0 と(2)x=30、および S i を 0.02%
添加した Ni 含有鋼での(3)x=0 と(4)x=30 の再現試験片の外観を示してい
る。まず x=0 の(1)と(3)から、表面割れは 0.02%Si の場合にも明瞭に観察
され、N i 添加により顕著なものへと変化していることが分かる。一方、x=30
での割れは、Si<0.01% (2)において割れがわずかに認められるものの、(4)
の 0.02%Si 試験片においては現れていない。すなわち、0.3%Cu-0.04%Sn 含有
鋼への Ni 単独置換は x=0 において割れを促進するものの、高水蒸気濃度での
Si と Ni の同時添加は割れの抑制に有効であることが理解される。
- 62 -
(1)
(2)
(3)
(4)
図4−9
0.14%Ni 含有鋼の表面割れに及ぼす S i 量と水蒸気の影響
0.14%Ni 含有鋼においても、 0.3%Cu-0.04%Sn 含有鋼と同様に、Si<0.01% と
0.02%Si の2つの場合について最大割れ深さと酸化増量との関係を調べた。こ
こで、0.14%Ni 含有鋼の場合でも、酸化増量は水蒸気濃度と伴に増加すること
が確認された。図から分かるように、S i 量にかかわらず、x=0 に対応する約
0.6kg/m2 の酸化増量において、最も顕著な割れが発生した。また、その後の酸
- 63 -
化増量の増加により、S i 量が 0.01% 未満の場合には割れ深さは直線的に減少、
0.02%Si においては 0.65kg/m2 以上の酸化増量で、割れは全く生じないことが
分かった。結局、0.14%Ni 鋼での割れは、x=0 の少ない酸化増量において生じ
るものの,酸化増量の増加により割れ深さは減少し,その結果として消失して
しまうことが明らかとなった。
Maximum cracking depth (mm)
2
0.3%Cu-0.04%Sn containing steel
1.5
Si<0.01%-0.14%Ni
1
0.5
0.02%Si-0.14%Ni
0
0.6
0.8
1
1.2
2
Mass gain (kg/m )
図4−10
0.14%Ni 含有鋼の最大割れ深さに及ぼす
酸化増量の影響
Si 置換を行った 0.3% Cu-0.04%Sn 含有鋼および 0.14%Ni 含有鋼での水蒸気加
熱材における表面割れの要因を検討するため、これら鋼材でのスケ−ル /地鉄
界面の様子について反射電子像を撮影することにより調べた。図4−11の
(a)と(b)は、それぞれ Si 置換を行っていない Si<0.01% の Cu-Sn 含有鋼、
(c)と(d)は 0.1%Si-Cu-Sn 含有鋼、および(e)と(f)は 0.02%Si-0.14%Ni
- 64 -
含有鋼での反射 電子像である。まず、(a)と(b)の像から、Si<0.01%-Cu-Sn
含有鋼のスケ−ル /地鉄界面は、水蒸気濃度にかかわらず、平坦なものである
ことが分かる。その特徴は、矢印で示すように、x=30( b)において Cu と Sn
の濃化した領域が界面上に明るい輝点として観察されることである。次に、
(c)と(d)の 0.1% Si を含む Cu-Sn 含有鋼については、スケ−ル/地鉄界面は
共に凹凸しており、また像(d)では Cu と Sn の濃化領域、すなわち輝点(矢
印)がスケ−ル内に現れている。さらに 0.14%Ni 鋼においては、(e)と(f)
の像から分かるように、水蒸気濃度の増加により、界面は平坦なものから凹凸
したものへと変化している。この場合の Cu-Sn 濃化領域(矢印)に関しては、
x=0 ではスケ−ル/地鉄界面をほぼ覆うように、x=30 においてはスケ−ル内の
みに存在している。よって、これらの結果から分かるように、表面割れが抑制
された 0.1%Si-Cu-Sn 含有鋼や 0.02%Si-0.14%Ni 含有鋼では、スケ−ル/地鉄界
面は凹凸し、Cu-Sn 濃化領域もスケ−ル内に存在する。一方、顕著な割れを示
す、酸化増量の少ない x=0 の 0.02%Si-0.14%Ni 鋼 (e)においては、界面は平
坦で、かつ界面は濃化領域によって覆われていることが明らかとなった。
- 65 -
図4−11
スケ−ル/地鉄界面の反射電子像
(a),(b);S i<0.01% 鋼
(c),(d); 0.1%Si 鋼
(e),(f);0.02%Si-0.14%Ni 鋼
Si を添加した 0.3%Cu-0.04%Sn 含有鋼および 14%Ni 含有鋼における Cu, Sn,
Si お よ び Ni の濃化領域について、その分布と化学組成を SEM お よ び EDX に
より調べた。ここで SEM により得られる反射電子像中には、原子番号が大き
な Cu、Sn あるいは Ni の濃化領域が明るいコントラストで、原子番号の小さ
な Si の濃化領域は暗いコントラストとして観察される。図4−12と図4−
- 66 -
13には、それぞれ 0.1%Si-Cu-Sn 含有鋼での反射電子像と、Cu、Sn、Si の分
布像、および 0.02%Si-0.14%Ni 含有鋼の反射電子像と、Cu、Ni、S i の分布像を
示している。水蒸気濃度は共に表面割れが抑制された x=30 である。まず、図
4−12の Cu-Sn 含有鋼では、反射電子像中のスケ−ル内に濃化領域を示す輝
点が観察され、対応する位置に Cu と Sn の分布像もコントラストを与えてい
る。一方、Si はスケ−ル内と地鉄表層に分布しており、ここでは示さないもの
の Si と O の分布は対応する位置に分布していた。すなわち、Si は、酸化物と
して存在しており、スケ−ル中への濃化に加え,地鉄表層での内部酸化も確認
された。また、0.02%Si-0.14%Ni 鋼においても、反射電子像中に輝点として観
察される濃化領域は、スケ−ル内に存在している。濃化領域の構成元素につい
ては、図に示す N i と Cu に加え、S n も含まれていることが分かった。EDX 測
定によって決定した濃化領域の化学組成は、 20.5%Ni-13.2%Cu-1.4%Sn-64.9%Fe
で、多くの Ni を含んでいる。さらに注意深い解析から、0.02%Si-0.14%Ni 鋼で
の S i の輝点は、スケ−ルと地鉄表層の一部領域にのみ観察され、0.1%Si-CuSn 含有鋼で見られた Si の内部酸化やスケ−ル中への濃化を確認することはで
きなかった。
- 67 -
図4−12
30%H 2 O 雰囲気酸化した 0.1%Si 鋼のスケ−ル/地鉄界面
の反射電子像と Cu,Sn,Si 分布像
- 68 -
図4−13
30%H 2 O 雰囲気酸化した 0.14%Ni-0.02%Si 鋼の
スケ−ル/地鉄界面の反射電子像と Cu,Ni,Si 分布像
顕著な割れが観察された、x=0 での 0.02%Si-0.14%Ni 含有鋼から得られた反
射電子像、および Cu、Sn と Ni の分布像を図4−14に示す。まず反射電子
像から、図4−11で示したように、スケ−ル /地鉄界面は平坦で、かつ界面
は濃化領域によって覆われていることが確認される。また、Cu、Sn および Ni
の分布像は、反射電子像の明るいコントラスト領域と対応しており、濃化領域
はこれら元素から成ることが理解される。EDX 測定から決定した化学組成は
68.2%Cu-11.6%Sn-11.0%Ni-9.2%Fe で、x=30 の N i 含有鋼とは異なり、非常に多
くの Cu を含むことが分かった。さらに矢印で示すように、本加熱材の特徴と
して、Cu-Sn-Ni 濃化領域が部分的に結晶粒界へ湿潤している様子も認められる。
- 69 -
図4−14
0%H 2 O 雰囲気酸化した 0.14%Ni-0.02%Si 鋼の
スケ−ル/地鉄界面の反射電子像と Cu,Sn,Ni 分布像
4−4
考察
本章では、現場加熱炉での状況を模擬したタイプⅡの再現実験によ
り 、 水 蒸 気 酸 化 雰 囲 気 で 加 熱 し た 0.3%Cu- 0.05%Sn 含 有 鋼 で の 表 面 割 れ
の 特 徴 、 さ ら に Si や Ni の 微 量 置 換 し た 際 の 表 面 割 れ の 抑 制 に つ い て そ
の詳細を検討した。その結果、水蒸気濃度の増加に伴い表面割れの程
度 は よ り 顕 著 に な る こ と 、 ま た Si お よ び Ni の 置 換 は 、 実 際 割 れ の 抑 制
に効果的であることが分かった。さらに本研究において、割れの程度
- 70 -
と 酸 化 増 量 と の 間 に 、 興 味 深 い 相 関 が 見 出 さ れ た 。 図 4 − 15 は 、 再
現 実 験 に 用 い た C u -S n 含 有 鋼 に 関 し て 、 割 れ の 程 度 を 示 す 最 大 割 れ 深
さ と 酸 化 増 量 と の 相 関 を ま と め た も の で あ る 。 こ こ で 図 中 に は 、 0.3%
Cu -0.04%Sn 含 有 鋼 に ( 1 ) Si<0.01% 、 ( 2 ) 0 . 1 % S i 、 ( 3 ) Si<0.01% 0.14%Ni、 ( 4) 0 . 0 2 % S i- 0.14%Ni を 添 加 し た 、 4 種 類 の 鋼 材 の 結 果 が 示
さ れ て い る 。 図 か ら 、 S i と N i を 添 加 し て い な い ( 1) で は 、 酸 化 増 量
の増加に伴い割れ深さも増加しており、正の相関が認められる。Si を
0.1% 添 加 し た ( 2) に つ い て は 、 酸 化 増 量 に 対 し て 割 れ 深 さ は あ ま り 変
化 せ ず 、 ( 1) で の 正 の 相 関 が 抑 制 さ れ て い る 。 一 方 、 ( 3) と ( 4) の
0.14%Ni 鋼 で は 、 割 れ 深 さ は 酸 化 増 量 と 伴 に 減 少 し 、 負 の 相 関 を 示 す こ
と が 理 解 さ れ る 。 特 に 、 ( 4) の 0 . 0 2 % S i- 0.14%Ni に お い て は 、 割 れ は
完全に抑制されている。そこで本考察では、これら相関の要因を明ら
か に す る た め に 、 水蒸気酸化雰囲気で生成したスケ−ルの構造およびスケ−
ル/地鉄界面の特徴、さらに Si および Ni を置換した Cu-Sn 含有鋼におけるス
ケ − ル/地 鉄 界 面 の 様 子 、 濃 化 領 域 の 空 間 分 布 、 な ら び に そ の 濃 化 挙 動 の 詳 細
について、得られた実験結果を基に検討した。
- 71 -
Maximum cracking depth (mm)
2
0.3%Cu-0.04%Sn containing steel
1.5
: Si<0.01%
: 0.1% Si
: Si<0.01% -0.14% Ni
: 0.02% Si-0.14% Ni
1
0.5
0
0.5
図4−15
0.6
0.7
0.8
0.9
1
2
Mass gain (kg/m )
1.1
1.2
水蒸気酸化雰囲気による 0.3%Cu-0.05%Sn 含有鋼
の酸化増量と割れとの相関に及ぼす S i および N i 置換の影響
4−4−1
水 蒸 気 酸 化 雰 囲 気 で 加 熱 し た 0.3%Cu- 0.05%Sn 含 有 鋼 に
おける脆化促進要因
水蒸気酸化雰囲気での表面割れの要因を明らかにするため、考察の最初とし
て、0.02%Si-0.3%Cu-0.05%Sn 含 有 鋼 に お け る ス ケ − ル 構 造 か ら 、 水 蒸 気 酸 化
雰囲気とは、どのようなものであるかを検討した。図4−16には、x=20 お
よび 30 水蒸気加熱材でのスケ−ル構造の模式図を示している。本考察におい
て、これら水蒸気加熱材でのスケ−ルは、地鉄表面から Fe の価数が増加する
順に、FeO/Fe 3 O 4 /Fe 2 O3 と積層しているとし、各領域の面積比は図4−6に
示す体積分率から決定した。この図を基に、各構造領域の成長は以下のように
説明される。まず、これら領域の中で Fe 2 + から成る FeO 層は、金属欠損の P
型半導体のため、その成長は Fe 2 + の外方拡散によって律速される。一方、Fe 3 +
- 72 -
から成る Fe 2 O 3 層は O 2- の内方拡散によって成長すると言われている
1 1)
。本再
現実験で加熱を行った 1250℃の場合、FeO 中の Fe 2 + の拡散係数は、Fe 2 O3 中の
O2 - の拡散係数に比べてはるかに大きな値を取る
11)
。よって、スケ−ル内にお
いて FeO 層は Fe 2 O 3 層よりも十分広い領域を占めることになる。また Fe 3 O4 層
は、従来の研究から、FeO 層の外層における Fe 3 + の外方拡散により成長するこ
とが理解されている
1 1)
。さらに、本研究で得られた興味深い結果の一つは、
x=20 と 30 水蒸気加熱材における、Fe 2 SiO 4 構造領域の出現である。よく知ら
れているように、鋼中の S i は Fe よりもはるかに酸化されやすいので、低酸素
ポテンシャルの環境では選択的に酸化されて、SiO 2 の内部酸化を生じる
1 1)
。
Fe 2 SiO 4 は、実際この SiO 2 が FeO と反応して生成したものとして理解される。
また、1250℃において Fe 2 SiO 4 相は液相で
Si の内部酸化は促進される
13 )
12 )
、液相の Fe 2 SiO4 が生成すると、
。このため Fe 2 SiO4 層は、Si の内部酸化が生じた
後、FeO と反応することにより酸化層へと変化したものであると推察される。
- 73 -
1250℃,20∼30%H 2O-1%O2-bal.N 2
O ion
0 - Fe O /
2 3
Fe
3O 4
-5 Fe3O 4
-10 - /FeO
logPO2 (atm)
Fe2O3
Fe3O4
FeO
FeO/Fe
Fe2SiO 4
Fe ion
Steel(Fe)
図4−16
-20
γ
水蒸気加熱材のスケ−ル構造の模式図
上 述 の 検 討 か ら 、 水 蒸 気 酸 化 雰 囲 気 に お い て は 、 Fe 2 SiO4 相の生成がお
きる。水 蒸 気 酸 化 雰 囲 気 で は 、 酸 素 あ る い は 水 蒸 気 の内方拡散によっても、
酸化が生じると指摘されている
1 4)
。この内方拡散による酸化は、Fe の外方拡
散による大気中の酸化と比較して、大きなボイドの発生を抑制し、緻密なスケ
−ルを生成させる。このため、スケ−ル内の酸素の拡散が抑制され、Fe の酸
化が減少するために、Fe 2 SiO 4 相が形成される。Fe 2 SiO 4 /Fe 間の平衡酸素ポテ
ンシャルは、FeO/Fe よりもはるかに低いため、前述の S i の優先酸化がさら
に進行していく。当然、酸化速度は低下するので、スケ−ルの成長はゆっくり
と な り 、 平 滑 な ス ケ − ル/ 地鉄界面が形成される。これは、再現実験からも明
らかである。
こ れ ま で の 議 論 を 基 に 、 水 蒸 気 酸 化 雰 囲 気 中 で 1250℃ ま で 加 熱 し た
0.3%Cu- 0.05%Sn 含 有 鋼 に つ い て 、 そ の 表 面 割 れ の 要 因 を 検 討 し た 。
- 74 -
前 段 落 で 述 べ た よ う に 、 水 蒸 気 酸 化 雰 囲 気 で は 、 スケ−ル内の酸素の拡
散が抑制され、Fe の酸化が減少するために、Fe 2 SiO 4 相が形成される。そのた
め、酸化速度は低下するので、スケ−ルの成長はゆっくりとなり、1250℃にお
いても平滑なスケ−ル /地鉄界面が形成される。水蒸気酸化雰囲気での表面割
れは、平滑なスケ−ル/地鉄界面への Cu(Sn)濃化領域の出現のしやすさに、
直接関係することになる。一方、第3章における速度論を用いた検討から、大
気中での表面割れは、地鉄表層部に存在する結晶粒界への Cu (Sn)濃化領域
の 出 現 に よ る こ と が 示 さ れ た 。 こ こ で 、 ス ケ − ル/ 地鉄界面への濃化領域の出
現のしやすさは、同時に、地鉄表層部に存在する結晶粒界への出現のしやすさ
をも示唆するものである。よって、水蒸気酸化雰囲気において割れの程度が顕
著になった理由 は、大気中の場合と同様に、地鉄表層部に存在する結晶粒界へ
の Cu-Sn 濃化領域の出現によると推論した。
4−4−2
水 蒸 気 酸 化 雰 囲 気 で 加 熱 し た 0 . 3 % C u- 0.04%Sn 含 有 鋼 の 脆
化 に 及 ぼ す Si お よ び Ni 置 換 の 効 果
水 蒸 気 酸 化 雰 囲 気 で の 表 面 割 れ の 要 因 に 引 き 続 き 、 割 れ に 及 ぼ す Si
お よ び Ni 置 換 の 効 果 に つ い て 検 討 し た 。 こ こ で は 、 酸 化 増 量 が 多 い 場
合 に 見 ら れ た 、 Si お よ び Ni 添 加 に よ る 表 面 割 れ の 抑 制 に つ い て そ の 詳
細を議論する。本章で述べた実験結果から、水蒸気酸化雰囲気での表
面 割 れ は 、 酸 化 増 量 の 多 い 0 . 1 % S i 鋼 お よ び 0.14%Ni 鋼 に お い て 抑 制 さ
れ る こ と が 示 さ れ た 。 こ こ で 、 こ れ ら 鋼 材 に 共 通 す る 特 徴 は 、 酸化増量
の増加により、スケ−ル/ 地鉄界面が凹凸化し、Cu(Sn )濃化領域がスケ−ル
中 へ 取 り 込 ま れ る こ と で あ る 。 し か し 、 ス ケ − ル/ 地鉄界面が凹凸化する機構
は、Si と Ni 置換では異なることが予想される。そこで、まず Si 置換の場合か
ら検討する。鋼中の S i は、Fe に比べて低酸素ポテンシャル下において選択的
に酸化するため、内部酸化を生じやすい
1 1)
- 75 -
。実際 0.1%Si 鋼では、図4−12
で示したように、S i の内部酸化やスケ−ル中への S i の濃化が認められる。こ
のことは、S i 置換によるスケ−ル/ 地鉄界面の凹凸化が、水蒸気酸化雰囲気で
の Si の内部酸化によることを示唆している。一方,鋼中の Ni は、Cu と同様
に酸化され難い元素であり
1 1)
、鉄の選択酸化によりスケ−ル/ 地鉄表面に濃化
する。深川らは、N i によりスケ−ル/地鉄界面が凹凸化する要因として、鉄の
選択酸化により地鉄表面に Ni 濃度の差が生じ、その結果、地鉄表面の酸化が
不均一になるためと指摘している
1 5)
。本研究では、彼らの指摘に従い、0.14%
Ni 鋼のスケ−ル/地鉄界面の凹凸化は、不均一な Ni 濃度分布に起因する不均一
酸化から生じたものと考えた。結局、酸化増量の多い場合における S i および
Ni 置換による脆化抑制は、0.1%Si 鋼では水蒸気酸化雰囲気での Si の内部酸化、
0.14%Ni では不均一な Ni 濃度分布から生じる不均一酸化により、スケ−ル/地
鉄界面が凹凸化し、その結果として Cu(Sn )濃化合金がスケ−ル中へ取り込
まれたためと結論される。さらに、0.02%Si-0.14%Ni 鋼での抑制が、0.1%Si 鋼
に比べて顕著である理由は、Ni 含有量が多いために、スケ−ル/地鉄界面の凹
凸化がより顕著なものへと変化したことによると推察した。
酸化増量が少ない場合の 0.14%Ni 鋼では、割れの程度と酸化増量との負の相
関に関係して、顕著な割れが観察される。従来の研究から、Ni は Cu の表面赤
熱脆性を抑制する元素であることが知られている
9)
。このため、少ない酸化増
量での割れ促進は、表面赤熱脆性における興味深い現象の一つである。そこで、
この要因について検討した。実験から得られた、少ない酸化増量での 0.14%Ni
鋼の特徴は、スケ−ル/地鉄界面が平坦で、かつその界面が Cu-Sn-Ni 濃化領域
によって覆われていることである。ここで N i は、Cu と同様に、酸化物を形成
する傾向が小さいものの 1 6 ) 、Cu や Sn とは安定な合金相を形成する
Ni は Cu に比べてγ-Fe 中を拡散する速度が遅い
1 7)
8)
。また、
。このため、スケ−ル形成
時の鉄の選択酸化により地鉄表面に濃化した Ni は、同時に濃化する Cu の鋼
中への拡散を抑制し、その結果として Cu-Sn-Ni 濃化合金はスケ−ル/地鉄界面
に出現することになる。この挙動は、Cu 濃化領域の出現が Sn の添加により助
長される現象
7)
と類似している。つまり、少ない酸化増量の 0.14%Ni 鋼におけ
- 76 -
る 割 れ 促 進 の 理由 は 、 ス ケ − ル/地鉄界面が凹凸化しない酸化条件において、
Ni が Cu-Sn 濃化領域の出現を助長したことによると推察される。
少ない酸化増量での 0.14%Ni 鋼における表面割れは、平坦なスケ−ル/地鉄
界面への Cu-Sn-Ni 濃化領域の出現と直接関係している。そこで、この濃化領
域の出現について熱力学を用いて検討した。図4−17は、計算によって得ら
れた、1100℃における Fe-Cu-Sn-Ni 系の Fe 側の状態図で、図中には X=Fe+Sn
とした X-Cu-Ni 擬三元系として描いている 8 ) 。また、計算は Thermo-Calc
7 ,8 )
を
用いて行った。この相図において、0.14%Ni 鋼での地鉄表面における Cu や Ni
濃度は、鉄の選択酸化に伴い、母材での濃度比にほぼ等しい Ni/Cu=0.5 の ac
線上に沿って増加する。このため、Cu や Ni 濃 度 が c 点の固溶限(固相線)に
達した時、液相の Cu-Sn-Ni 濃化領域が出現することになる。その組成に関し
て は 、 こ の 相 図 か ら 決 定 で き な い も の の 、 EDX 分 析 に よ り 68%Cu-12%Sn11%Ni-Fe であることが明らかとなった。
図4−17
Fe-Cu-Sn-Ni 系の固相線の計算結果(1100℃)
- 77 -
最後に、水 蒸 気 酸 化 雰 囲 気 中 で 生 じ る 表 面 割 れ に 対 す る 、 S i お よ び N i
に よ る 置 換 効 果 に つ い て ま と め る 。 図 4 − 1 8 は 、 0.3%Cu- 0.04%Sn 含
有鋼での異なる酸化増量における表面割れの要因について、スケ−ル/
地 鉄 界 面 の 模 式 図 を 用 い て 説 明 し た も の で あ る 。 ①の S i<0.01%鋼では、
酸 化 増 量 に か か わ ら ず 、 平 滑 な ス ケ − ル/ 地鉄界面が形成される。このため、
この鋼材の特徴は、酸化増量の増加により Cu(Sn )濃化領域の生成のしやす
さが増し、割れも顕著なものへと変化する。②の 0.1%Si 鋼においては、S i の
内部酸 化 に よ り ス ケ − ル/ 地鉄界面が凹凸化する。その結果、Cu (Sn)濃化合
金はスケ−ル中へ取り込まれるため、酸化増量が増加しても割れは顕在化しな
い 。 一 方 、 0.02%Si-0.14%Ni 鋼 の ③ で は 、 上 述 の 2 つ の 場 合 と 異 な り 、
0.6kg/m2 程度の少ない酸化増量において脆化は促進した。その理由は、平滑な
スケ−ル/地鉄界面が 1100℃において液相を含む Cu-Sn-Ni 濃化領域によって覆
われたためである。この場合の酸化増量の増加に伴う変化については、地鉄表
層での Ni 濃度の不均一によりスケ−ル/地鉄界面が凹凸化し、Cu-Sn-Ni 濃化領
域がスケ−ル中へ取り込まれ、脆化は抑制される。結局、脆化抑制元素として
知られる Ni の脆化抑制は、スケ−ル/地鉄界面の凹凸化による、スケ−ル中へ
の Cu 濃化領域の排斥によることが理解される。
- 78 -
①Si<0.01% steel
mass gain ;0.7 → 1.1(kg/m 2)
FeO
Fe
FeO
Liquid Cu-Sn
Cu
Steel
Steel
Maximum cracking depth
;0.4 → 1.7mm
②0.1%Si steel
Si oxide
mass gain ;0.6 → 1.1(kg/m 2)
FeO
Liquid
Cu-Sn
FeO
Steel
Steel
Maximum cracking depth
;0 → 0.3mm
③0.14%Ni-0.02%Si steel
mass gain ;0.6 → 1.0(kg/m 2)
Liquid+Solid Cu-Sn-Ni
FeO
FeO
Liquid+solid Cu-Sn-Ni
Steel
Steel
Maximum cracking depth
;0.6 → 0mm
図4−18
0.3% Cu-0.04% Sn 含有鋼の酸化増量と割れとの相関に
及ぼす Si お よ び Ni 置換の影響
- 79 -
4−5
まとめ
本章では、現場加熱炉の水蒸気酸化雰囲気を再現し、この雰囲気で
の 表 面 割 れ の 特 徴 、 さ ら に は Si や Ni の 微 量 置 換 に よ る 影 響 に つ い て そ
の 詳 細 を 調 べ た 。 さ ら に 、 酸化増量、スケ−ルの構造、お よびスケ−ル/地
鉄界面の詳細な組織観察と組成分析を行うことにより、水蒸気酸化雰囲気での
脆化促進要因ならびに S i および N i の微量置換の効果について検討した。以下
に得られた結果を示す。
(1) 1250℃加熱の水蒸気濃度 20∼30% の場合、大気中に比べて酸化増量が少な
いにもかかわらず、大きな割れが多数観察された。
(2) 水蒸気加熱材のスケ−ルは、大気加熱材と比較して Fe 3 O4 構造が減少し、
主に FeO 構造から成り、Fe 2 SiO4 構造も含まれた。
(3) 水 蒸 気 加 熱 材 の ス ケ − ル/地 鉄 界 面 は 、 大 気 加 熱 材 と 比 較 し て平滑なもの
であった。これは、内部酸化が抑制された結果、1250℃においても平滑なス
ケ−ル/地鉄界面が生成したと理解される。
(4) (1)から(3) の結果から、水蒸気酸化雰囲気による脆化促進要因については、
平滑なスケ−ル/ 地鉄界面での Cu(Sn)濃化合金液膜の生成のしやすさによ
ると推察した。
(5) Si および Ni の微量置換に関しては、0.1%Si 鋼および 0.14%Ni 鋼の両鋼に
おいて、水蒸気酸化雰囲気による脆化が抑制された。これら両鋼は、水蒸気
酸化雰囲気の加熱により、スケ−ル/ 地鉄界面が凹凸化して Cu(Sn)濃化相
がスケ−ル中へ取り込まれた。
(6) 0.14%Ni 鋼では、酸化増量の少ない 1%O2 -bal.N2 の酸化条件において、大き
な割れが観察された。これらスケ−ル /地鉄界面は、平滑でかつその界面は
Cu-Sn-Ni 濃化相によって覆われた。
(7) (5) の結果から、Si および Ni による脆化抑制要因については、0.1%Si 鋼で
は水蒸気酸化雰囲気での内部酸化、0.14%Ni 鋼では不均一酸化により、スケ
- 80 -
−ル/地鉄界面が凹凸化し、その結果として Cu(Sn)濃化相がスケ−ル中へ
排斥されたためと結論した。
(8) (6)の結果から、0.14%Ni 鋼の脆化要因については、スケ−ル/地鉄界面が凹
凸化しない酸化増量の少ない 1%O2 -bal.N 2 の酸化条件において、地鉄表面が
1100℃において液相を含む Cu-Sn-Ni 濃化相に覆われたことによると結論し
た。
(9) (5) および(6) の結果から、結局、脆化抑制元素として知られる N i の脆化抑
制機構は、スケ−ル/地鉄界面の凹凸化による、スケ−ル中への Cu 濃化相の
排斥によることが結論された。この結論は、本研究によって明らかとなった
新たな知見である。
参考文献
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- 82 -
第5章
Cu 含有フェライト系ステンレス鋼における表面赤熱脆性の抑制
5−1
緒言
第3および4章では、Cu-Sn 含有鋼を用いて、大気中あるいは現場加熱炉を
想定した水蒸気酸化雰囲気中での加熱によって生じる表面赤熱脆性、すなわち
表面割れの要因について再現実験により明らかにした。その結果、表面割れは
地鉄表層部の結晶粒界に沿って出現した Cu(Sn)濃化領域によること、水蒸
気酸化雰囲気中での水蒸気濃度の増加により割れは顕在化すること、さらに Si
および Ni の添加は割れの抑制に効果的であることが分かった。一方、従来の
研究から、1% を越える多くの Cu を含むフェライト系ステンレス鋼では、炭素
鋼に比べて、表面割れは生じにくいことが知られている。この事実は、一見、
第3および4章の結果と矛盾するように思われる。そこで本章では、Cu 含有
フェライト系ステンレス鋼において、なぜ Cu による表面赤熱脆性が普通炭素
鋼と比較して生じ難いかを、タイプⅡの再現実験を行うことにより明らかにし
た。なお、オ−ステナイト系ステンレス鋼では、通常 8% 程度の Ni が添加され
ており、このため Cu による表面赤熱脆性を生じることはない
1)
。
国内外からの購入スクラップを主原料とし、電気炉溶製を主体に製造されて
きたステンレス鋼は、普通炭素鋼と比較して多くの元素を含む合金であり、不
純物の許容範囲も概して広い
1)
。これら元素の中で表面赤熱脆性の要因となる
Cu は、多 量 の Ni を含有するオ−ステナイト系ステンレス鋼のみならず,Ni
を添加しないフェライト系ステンレス鋼においても、耐食性や成形性のために
1% 未満の範囲で添加されることがある
2 -4 )
。さ ら に 近年、食品業界や医療分野
の要望で、塗装などによらず、無垢のままで抗菌性を発現する Cu 含有フェラ
イト系抗菌ステンレス鋼が開発された
5 - 7)
。ここで、このステンレス鋼の特徴
は、1% を越える多量の Cu を含んでいることである。しかし、このように多量
の Cu が添加されているにもかかわらず、このステンレス鋼は基本的に表面割
- 83 -
れを発現することはない。
これら実用上の背景に加え、学術的には、大谷らにより固体 Fe への Cu の
溶解度について熱力学に基づいた解析が行われている。彼らの結果によれば、
Cr 量の増加により溶解度は減少し、15% Cr 以上でその値は半減する
8)
。この
ため、フェライト系ステンレス鋼では、普通炭素鋼に比べて Cu が結晶粒界等
に析出し易く、表面赤熱脆性が生じやすいと予想される。しかしこの予想も、
脆性が観察されないという実際の実験結果とは異なるものである。また、この
ような状況にもかかわらず、Cu 含有フェライト系ステンレス鋼での Cu による
表面割れの研究は現在でも報告されておらず、その詳細は不明のままである。
本章では、第3および4章での結果を踏まえ、Cu 含有フェライト系ステン
レ ス 鋼 に お け る 表 面 割 れ 抑 制 の 要 因 に つ い て 検 討 し た 。 具 体 的 に は 、 16%Cr2.4%Cu ステンレス鋼および 0.3%Cu 炭素鋼を用いて現場加熱炉を模擬したタ
イプⅡの再現実験を行い、水蒸気酸化雰囲気での表面割れの特徴、割れの程度
と酸化増量の相関、さらにスケ−ルと地鉄表層部の組織等について光学顕微鏡、
SEM、および EDX により明らかにした。ここで、0.3%Cu 含有鋼を用いた理由
は、炭素鋼の一例として、フェライト系ステンレス鋼での実験結果と比較する
ためである。
5−2
実験方法
本研究では、Cu 含有フェライト系ステンレス鋼および 0.3%Cu 含有鋼の2種
類の鋼材を用いてタイプⅡの再現実験を行った。表5−1に2種類の供試鋼の
化学組成を示す。まずフェライト系ステンレス鋼は、SUS430 鋼に 2.4% の Cu
を添加した鋼材で、本研究では 16%Cr -2.4%Cu 鋼と呼ぶ。ここで、この鋼材の
特徴は、Si の添加量を実用鋼で通常脱酸に用いる 0.3% とし,Ni は実用鋼で不
可避的に混入する 0.2% ,A l は脱酸剤として使用しない場合の 0.001% としたこ
とである。比較のために用いた Cu 含有鋼については、軟鋼に 0.3% の Cu を添
- 84 -
加した鋼材であり、これを 0.3%Cu 鋼とした。
表5−1
供試鋼の化学組成(mass% )
Steel
C
Si
Mn
Cu
Cr
Ni
16%Cr-2.4%Cu
0.072
0.30
0.71
2.44
16.2
0.20
0.001 0.0290
0.046 <0.01
0.30
0.30
0.01
0.01
0.041 0.0062
0.3%Cu
Al
N
Cu 含有フェライト系ステンレス鋼の表面赤熱脆性は、第4章と同じタイプ
Ⅱの再現実験、すなわち水蒸気酸化雰囲気中加熱での割れの特徴を調べること
により、その詳細を明らかにした。2章で述べたように、具体的な手順は、ま
ず(10 および 20)%H2 O-1%O2 -bal.N2 の水蒸気酸化雰囲気中で鋼材を 1250℃に
加熱後、所定の温度で 5 分間の等温保持を行い、室温に再度空冷した。この等
温保持の条件は、第 4 章での再現実験の場合と同様に、実機を想定したもので、
第 3 章の実験結果を考慮して選択した。さらに、Ar 雰囲気中で 1100℃に加熱
した再現試験片に対して、ひずみ速度 0.01s - 1 ,ひずみ量約 40% の引張変形を加
えた。
上述の手順によって得た酸化試験片および再現試験片を用いて観察を行った。
表面割れの発生状態は、再現試験片の平行部に現れた割れに対して、目視で認
められる発生点の数をカウントすることにより評価した。割れの程度を示す最
大割れ深さについては、レ−ザ−顕微鏡により測定した。また、本実験の熱履
歴で生じた酸化増量は、酸化試験片を用いて、(酸化による質量増加量)/
(酸化前の表面積)の比から求めた。さらに、表面割れの要因を検討するため、
エ ッ チ ン グ を 施 し た 酸 化 試 験 片 で の ス ケ − ル お よ び ス ケ − ル/地鉄界面の組織
を光学顕微鏡、ならびに SEM を用いて明らかにした。組織中に現れた濃化領
域等に関しては、EDX によりその化学組成を決定した。
- 85 -
5−3
実験結果
図5−1には、x%H 2 O-1%O2 -bal.N2 の水蒸気酸化雰囲気において 1250℃に加
熱し、等温保持を行った 16%Cr-2.4%Cu 鋼および 0.3%Cu 鋼の水蒸気加熱材の
外観を示している。これら加熱材での水蒸気濃度は、両者の酸化増量を極力同
じ に す る た め 、 (1) , ( 2) お よ び (3) の 16%Cr -2.4%Cu 鋼 で は x=20 、
(4),(5)および(6)の 0.3%Cu 鋼では x=10 とした。また、1250℃加熱後
大気中で行う等温保持の条件については、(1)と(4) が 1200℃ で の 5 分保
持、(2)と(5)が 1150℃での 5 分保持、さらに(3) と (6)では 1100℃で
の 5 分 保 持 で あ る 。 図 か ら 分 か る よ う に 、 ( 1) , ( 2) , ( 3) の 16%Cr2.4%Cu 鋼においては、表面割れの存在を見出すことができなかった。すなわ
ち、従来知られているように、フェライト系ステンレス鋼において、表面割れ
は強く抑制されていることが確認された。
- 86 -
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
図5−1
16%-2.4%Cu 鋼と 0.3%Cu 鋼の再現試験片の表面割れ
- 87 -
図5−2には、上述の6つの試験片だけでなく、実験を行ったすべての試験
片について、目視でカウントした表面割れの個数を示している。本再現実験に
おいて、これら試験片に対する等温保持は、保持時間を 5 分とし、1200、1150、
1100、1050、および 1000℃の 5 つの温度で行った。図から、0.3%Cu 鋼の表面
割れは、1050℃ か ら 1200℃での等温保持において発生し、その個数は保持温
度の上昇とともに増加していることが分かる。一方、図5−1で示されたよう
に、16%Cr-2.4%Cu 鋼においては、等温保持の温度によらず割れは全く発生し
ていない。
6
-2
Number of cracks (cm )
5
4
0.3%Cu, in 10%H2O
3
2
16%Cr-2.4%Cu,
in 20% H2O
1
0
1000
1050
1100
1150
1200
Holding temperature in air ( ℃)
図5−2
16%Cr-2.4%Cu 鋼と 0.3%Cu 鋼の 1250℃加熱後の
表面割れ発生個数
図5−3は、図5−2に示す水蒸気加熱材を用いて測定した、割れの程度を
示す最大割れ深さを、酸化増量に対してプロットしたグラフである。また、実
験から酸化増量は、等温保持温度の上昇と伴に増加することが確認された。グ
- 88 -
ラフから、まず 0.3%Cu 鋼では、酸化増量が 0.8kg/m2 から 0.85kg/m2 へと僅か
に 増 加 す る だ け で 、 割 れ の 深 さ は 急 激 に 増 加 し 、 4 章 で 示 し た Si<0.01%0.3%Cu 鋼での割れ深さと酸化増量との正の相関が確認される。一方、目視に
おいて割れの全く観察されない 16%Cr-2.4%Cu 鋼では、0.3%Cu 鋼に比べて、
より大きな酸化増量を生じるものの、レ−ザ−顕微鏡を用いても割れ深さを測
定することはできなかった。
Maximum cracking depth (mm)
0.8
0.6
0.3%Cu, in 10%H2O
0.4
16%Cr-2.4%Cu,
in 20% H2O
0.2
0
0.8
0.85
0.9
0.95
1
2
Mass gain (kg/m )
図5−3
16%Cr-2.4%Cu 鋼と 0.3%Cu 鋼の最大割れ深さに
及ぼす酸化増量の影響
上 述 し た よ う に 、 0.3%Cu 鋼において顕著な割れを生じた熱履歴・酸化増
量に対して、16%Cr-2.4%Cu 鋼では割れを全く生じないことが分かった。そこ
で、割れ抑制の要因を検討するために、ステンレス鋼でのスケ−ルの形態につ
い て そ の 特 徴 を 光 学 顕 微 鏡 を 用 い て 調 べ た 。 図5 − 4 に は 、 ( a ) 16%Cr2.4%Cu 鋼 、 お よ び 比 較 の た め の ( b) 0.3%Cu 鋼 に お け る ス ケ − ル の 光
- 89 -
学 顕 微 鏡 写 真 を 示 し て い る 。 観 察 に 用 い た 酸 化 試 験 片 は 、 水蒸気酸化雰
囲気中で 1250℃に加熱後,1150℃で 5 分間の等温保持を行ったものである。
(a)の顕微鏡写真から 16%Cr-2.4%Cu 鋼でのスケ−ルは、矢印 A で示す境界
を境にして、元々の合金表面から上方側に成長した外層スケ−ルと下方側に生
成した内層スケ−ルから成ることが分かる
10)
。ここで従来の研究から、外層
スケ−ルは Fe 酸化物からなること、また内層スケ −ルには多くの Cr を含むこ
と が 報 告 さ れ て い る 。 こ れ ら ス ケ − ル の 特 徴 と し て は 、スケ−ル 中の矢印 B
の領域に割れが観察され、外層スケ−ルは2層からなること、また内層スケ−
ルには数多くの気孔(矢印 C)が生成していることである。さらに、多孔質な
内層スケ−ル中には、可視光の反射が殆ど生じない、矢印 D の暗いコントラ
ストの領域も存在している。スケ−ル/ 地鉄界面については、矢印 E で示すよ
うに、入り組んだ形態を有しており、スケ−ルと地鉄との良好な密着性を示唆
している。一方、(b)の 0.3%Cu 鋼では、元々の合金表面(矢印 F)の上方側
に、Fe の外層スケ−ルのみが生成している。この外層スケ−ルは、(a)の内
層スケ−ルと比較して気孔が少なく、地鉄との密着性はあまり良くないことが
分かる。つまり、16%Cr -2.4%Cu ステンレス鋼は、0.3%Cu 炭素鋼とは異なり、
Fe の外層スケ−ルに加え,多孔質でかつ地鉄との密着性の高い、内層スケ−
ルを有することが明らかとなった。
- 90 -
B
A
C
D
E
F
図5−4
16%Cr-2.4%Cu 鋼と 0.3%Cu 鋼の 1250℃加熱後に
1150℃等温保持したスケ−ルの光学顕微鏡組織
(a) 16%Cr-2.4%Cu 鋼
(b) 0.3%Cu 鋼
スケ−ルの形態に引き続き、スケ−ル /地鉄界面の様子について光学顕微鏡
を用いて調べた。ここで、ステンレス鋼での地鉄は、元々の合金表面から内方
に成長した、内層スケ−ルとの間に界面を形成している。図5−5には、
(a)16%Cr-2.4%Cu 鋼、および比較のための(b)0.3%Cu 鋼でのスケ−ル/地
鉄界面の光学顕微鏡写真を示している。観察に用いた酸化試験片は、図5−4
と同じものである。まず(a)16%Cr-2.4%Cu 鋼の光学写真に注目 すると、内層
スケ−ル中には、矢印 A で示す小さい気孔が数多く観察される。また、スケ
- 91 -
−ル/ 地鉄界面の凹凸も顕著であり、地鉄との高い密着性が予想される。一方、
(b)の 0.3%Cu 鋼では、矢印 B で示すように、地鉄表面からスケ−ルが剥離
し て お り 、 ス ケ − ル/ 地鉄界面は平坦性の高いものであることが分かる。すな
わち、これらの実験結果から、多孔質な内層スケ−ルと地鉄の界面は、顕著な
凹凸を有するものであることが明らかとなった。
A
B
図5−5
16%Cr-2.4%Cu 鋼と 0.3%Cu 鋼のスケ−ル/地鉄界面
の光学顕微鏡組織
(a) 16%Cr-2.4%Cu 鋼 (b) 0.3%Cu 鋼
16%Cr-2.4%Cu 鋼における地鉄表層部の金属組織は、エッチングを施した酸
化試験片を用いて光学顕微鏡により調べた。図5−6には、1250℃加熱後室温
へ空冷した 16%Cr -2.4%Cu 鋼での地鉄表層部の 光学顕微鏡写真を示している。
この顕微鏡写真から、地鉄は明るいコントラストを示す フェライト (α)領域
- 92 -
と、矢印で示す、腐食により暗いコントラストとして観察される針状のマルテ
ンサイト(α’)領域
11)
から成ることが分かる。さらに、内層スケ−ルに接す
る地鉄表面は、このマルテンサイト 領域に覆われ、凹凸 した形態を呈している
ことも理解される。
図5−6
16%Cr-2.4%Cu 鋼の 1250℃加熱後の
表層部分の金属組織
上述の光学顕微鏡観察から、割れが抑制された 16%Cr -2.4%Cu 鋼は、多孔質
の 内 層 ス ケ − ル を 有 し 、 さ ら に ス ケ − ル/ 地鉄界面の凹凸も顕著なものである
ことが分かった。そこで、ステンレス鋼での割れの抑制要因を明らかにするた
め、16%Cr-2.4%Cu 鋼での内層スケ−ルおよびスケ−ル/地鉄界面の特徴につい
て、SEM および EDX 測定によりその詳細を検討した。ここで、SEM によって
得られる反射電子像では、大きな原子番号を持つ Cu および Ni の濃化領域が
明るいコントラストとして観察される。図5−7は、16%Cr -2.4%Cu 鋼での内
層スケ−ルおよび内層スケ−ル /地鉄界面の 反 射 電 子 像 である。また観察には、
図5−5と同じ酸化試験片を用いている。まず、内層スケ−ル中に は 、矢印 A
- 93 -
で示す小さな気 孔が数多く存在している。その特徴は、多孔質の内層スケ−ル
中に、Cu や N i の濃化領域が明るい輝点(矢印 B)として観察されることであ
る。EDX 測定から決定した濃化領域の化学組成は 20%Cu-10%Ni-2%Cr-Fe であ
った。一方、スケ−ル/ 地鉄界面には、矢印 C で示すように、スケ−ルと地鉄
が 入 り 組 ん で 存 在 し て お り、 本研究では、 この く し 状 の 内 層 ス ケ − ル/ 地鉄界
面 を金 属 / 酸 化 物 混 合 層 と 呼 ぶ こ と に す る 。よ っ て 、 こ の 実 験 結 果 は 、
16%Cr-2.4%Cu 鋼におけるスケ−ル/地鉄界面の顕著な凹凸化は、金属/酸化物
混合層の形成によって生じたことを示している。
B
A
C
図5−7
16%Cr-2.4%Cu 鋼の内層スケ−ルと地鉄表層
の反射電子像
図5−7に示す領域を用いて、地鉄表層お よ び内層スケ−ルにおける Cr お
よび Cu 濃度の空間分布を EDX 法により測定した。図5−8には、実際に測
定を行った領域と、スケ−ル/地鉄界面に垂直な方向に沿った、Cr と Cu の濃
度分布を示している。図から、地鉄と内層スケ−ルは、Ⅰa、Ⅰb、Ⅱ、Ⅲa お
- 94 -
よびⅢb の5つの領域から成ることが分かる。具体的には、領域Ⅰa は地鉄、
領域Ⅰb は地鉄の Cr 欠乏領域、領域Ⅱはスケ−ル/地鉄界面の金属/酸化物混
合層、領域Ⅲa はスケ−ル/地鉄界面から 0.2mm までの内層スケ−ル、さらに
領域Ⅲb は 0.2∼0.4mm までの内層スケ−ルである。そこで、Cr の濃度分布か
ら説明すると、領域Ⅰb の Cr 欠乏領域では、領域Ⅰa の地鉄と比較して Cr 濃
度が約 1% 低い。領域Ⅱの金属/酸化物混合層においては、Cr 濃度が 20% を越
えている。内層スケ−ルの領域Ⅲについては、領域Ⅲa で の Cr 濃度が領域Ⅲb
より高く、30% を越える値を示している。すなわち、このような高い Cr 濃度
は、金属/酸化物混合層および内層スケ−ルにおいて、Cr の酸化が進行して
いることを示唆している。一方、Cu の濃度分布に関しては、まずⅠb とⅡの
領域において 3.5∼4.0% の Cu 濃度を示し、地鉄の 2.4% より高いことから、Cu
の濃化が認められる。また、反射電子像中に多数の濃化領域が観察される領域
Ⅲa では、実際 8% を越える Cu 濃度の領域も現れている。さらに、領域Ⅲb に
おいても Cu 濃 度 は 4% を越えている。結局、これらの結果から、内層スケ−
ルにおける高い Cu 濃度は、多数の Cu 濃化領域が内層スケ−ルに残留し、ス
ケ−ルの内方成長によって生じたスケ−ル /地鉄界面には濃化しにくいことを
示している。
- 95 -
Concentration of Cr (mass%)
35
Concentration of Cu (mass%)
Steel
10
Scale(Fe,Cr) 3O4
a)Cr
30
Ⅰa Ⅰb Ⅱ
Ⅲa
Ⅲb
25
20
15
b)Cu
5
0
-0.1
0
0.1
0.2
0.3
Distance from the scal/steel interface (mm)
図5−8
0.4
16%Cr-2.4%Cu 鋼の地鉄表層から内層スケ−ル中
の Cr と Cu の濃度
Ⅰa)地鉄
Ⅰb)地鉄の Cr 欠乏層
Ⅱ)金属/酸化物混合層
Ⅲa)地鉄界面から 0.2mm までの内層スケ−ル
Ⅲb)0.2∼0.4mm までの内層スケ−ル
- 96 -
5−4
考察
本章では、Cu 含有フェライト系ステンレス鋼における表面割れ抑制の要因
について、水蒸気酸化雰囲気中で加熱を行うタイプⅡの再現実験により明らか
にした。その結果、0.3%Cu 炭素鋼において大きい割れを生じる熱履歴・酸化
増量に対して、16%Cr -2.4%Cu ステンレス鋼では割れを全く生じないことが分
かった。さらに、詳細な組織観察から、ステンレス鋼での Cu 濃化領域は、ス
ケ − ル/地 鉄 界 面 で は な く 、 多 孔 質 の 内 層 ス ケ − ル 中 に 多 数 存 在 し 、 さ ら に ス
ケ − ル/地 鉄 界 面 の 凹 凸 化 も 顕 著 な も の で あ る こ と が 示 さ れ た 。 一 方 、 第 4 章
において、Si および Ni の微量添加による Cu-Sn 含有鋼での脆化の抑制は、ス
ケ−ル/地鉄界面の凹凸化による、スケ−ル中への Cu 濃化領域の排斥によるこ
と が 結 論 さ れ た 。 し か し 、 ス ケ − ル/地鉄界面の顕著な凹凸化が見られるもの
の、ステンレス鋼での脆化の抑制は、Cu-Sn 含有鋼とは異なり、ステンレス鋼
特 有 の 内 層 ス ケ − ル お よ び ス ケ − ル/地鉄界面の形成と直接関係していること
が予想される。そこで、ここでは、内層スケ−ルの形成という視点に立ち、ス
テンレス鋼での脆化抑制の機構について検討した。
本考察では、まず Cu-Sn 含有鋼とは異なる、ステンレス鋼特有の内層スケ−
ルおよびスケ−ル /地鉄界面の形成について検討する。水蒸気酸化雰囲気中で
ステンレス鋼を 1250℃に加熱すると、元々の合金表面を境界にして、その外
側に Fe の外方拡散による外層スケ−ル、内側には酸素および水蒸気の内方拡
散により内層スケ−ルが形成される
1 0 ,11 )
。この内層スケ−ルはステンレス鋼
特有のものであり、Cr の 内 部 酸 化 、 す な わ ち Cr の選択酸化により成長する
10 , 1 1 )
。ここで、本研究で得られた興味深い特徴は、内層スケール/ 地鉄界面で
の金属/酸化物混合層の存在と地鉄表層でのα’相である。特に、スケ−ル/地
鉄界面の顕著な凹凸化は、前者の金属/酸化物混合層の出現と直接関係してい
る。そこで、これらの特徴の中で、まず地鉄表層でのα’ 相の出現について検
討する。まず、検討にあたり考慮すべき最も重要な因子は、鋼中を拡散する
Cr 原子の速度が Fe に比べて遅いという事実である。このため、内層スケ−ル
- 97 -
直下の地鉄には、Cr 欠乏領域を生じる可能性がある
1 0)
。実際、図5−8に示
したように、本ステンレス鋼において母相より約 1%Cr 濃度の低い Cr 欠乏領
域の存在が見出された。ここで、加熱時の 1250℃ で の 16%Cr 鋼は、わずかに
オ−ステナイト(γ)相を含むものの、基本的にはα単相である
11 )
。この状
態で地鉄表層に Cr 欠乏領域が生じると、Cr 濃度はγル−プ内の組成へと変化
することになり、α→γ相変化が生じる。また、このγ相は室温への冷却時に
α’相へと相変態する。つまり、地鉄表面がα’相に覆われた理由は、Cr の選択
酸化で生じた Cr 欠乏領域の出現によると推察される。さらに、この検討結果
を基に、くし状の金属/酸化物混合層の出現は、以下のように説明される。す
なわち、上述したγ相から成る Cr 欠乏領域は、Cr 濃度が低いため、α母相に
比べて酸化されやすい状態にある。よって、くし状の金属/酸化物混合層は、
1250℃において地鉄表層のγ相が選択的に酸化されることによって生成したも
のと理解される。
上 述 し た ス テ ン レ ス 鋼 特 有 の 内 層 ス ケ − ル お よ び ス ケ − ル/地鉄界面の形成
に基づい て 、16%Cr-2.4%Cu ステンレス鋼での脆化抑制の機構について検討し
た。図5−9は、実験によって得られた、地鉄表層と内層スケ−ルの模式図、
および界面に垂直な方向に沿った Cu の濃度分布である。この図において、矢
印は O、Cr および Cu の拡散方向、黒丸は Cu-Ni 濃化領域、斜線領域はγ相の
選択酸化により生成した酸化物、およびαはフェライト母相を表している。ま
た 、 内 層 ス ケ ー ル と 斜 線 領 域 の 結 晶 構 造 は 、 文 献 ( 10 ) と ( 11 ) に 基 づ き
(Fe,Cr) 3 O4 とした。ここで模式図に示すように、その特徴は、1250℃への加熱
において Cu 濃化領域は内層スケ−ル中に多数残留すること、内層スケ−ル/地
鉄界面は、くし状の金属/酸化物混合層の出現により凹凸化することである。
そこで、この模式図に示された実験結果に基づき、16%Cr-2.4%Cu ステンレス
鋼での脆化抑制の機構を、以下のように説明する。
上述したように、ステンレス鋼での内層スケ−ルは、Cr の選択酸化により
成長する。この内層スケールの成長において、Cr に比べて酸化物を形成する
傾向の小さな金属 Cu、Ni お よ び Fe は、この内層スケ−ル内に残留し、安定
- 98 -
な合金相を形成することになる
1 2 ,13 )
。Cu-Ni(Fe)濃化領域は、その結果とし
て 、 多 孔 質 な 内 層 ス ケ − ル 中 に 留 ま る こ と が 期 待 さ れ る 。 つ ま り 、 Cu-Ni
(Fe)濃化領域が内層スケ−ル内に残留した要因は、Cr の選択酸化から生じ
るスケ−ルの内方成長によると理解することができる。また、内方成長によっ
て生じたスケ−ル/ 地鉄界面は、Cr 欠乏領域でのγ相の選択酸化により、くし
状の複雑な形状へと変化する。ここで、この複雑なスケ−ル/地鉄界面では、Si
や Ni を添加した Cu-Sn 含有鋼での凹凸した界面と同様に、Cu 濃化領域は残留
しにくいと思われる。これらのことに加え、1250℃での母相は大部分がα相で
あり、α相中の Cu の拡散係数はγFe 中と比べて 2 桁大きいという事実から
1 4)
フェライト母相へ向かう Cu 原子の拡散により希釈作用も期待される。結局、
こ れ ら の 考 察 を 基 に 、 16%Cr-2.4% 鋼 で の 脆 化 抑 制 の 機 構 は 、 ① ス ケ − ル の 内
方成長による内層スケ−ル内への Cu 濃化領域の残留、②複雑な形状を有する
スケ−ル/地鉄界面での Cu 濃化領域の残留の困難さ、および③フェライト母相
中への Cu 原子の拡散による大きな希釈作用、の 3 つの因子を考慮することに
よって説明されることになる。
- 99 -
、
Liquid Cu-Ni
●
●
O
(Fe,Cr)3O 4
0
Cu
α
γ γ
γ
γ
γ
Cr
Cr
Cu
-0.1
5
図5−9
α
Cu
Fe-16% Cr
α(+γ)
←Cu (mass%)
10
5−5
O
Metal/scale mixed zone
Distance from the scale/steel interface(mm)
0.1
Inner scale
Inner scale :(Fe,Cr) 3O4
0
16%Cr-2.4%Cu 鋼の脆化抑制機構の模式図
まとめ
本章では、Cu 含有フェライト系ステンレス鋼における表面割れ抑制の要因
について、第4章で検討した水蒸気酸化雰囲気中での再現実験を行うことによ
りその詳細を調べた。さらに、炭素鋼と異なるステンレス鋼特有の内層スケ−
ルおよびスケ−ル /地鉄界面の詳細な観察と組成分析を行うことにより、ステ
ンレス鋼での脆化抑制機構について検討した。得られた結果を以下に示す。
(1) 16%Cr-2.4%Cu ステンレス鋼では、 0.3%Cu 炭素鋼で大きい割れを生じる熱
履歴・酸化増量において、Cu 含有量が著しく多いにもかかわらず、全く割
れを生じなかった。
(2) 16%Cr-2.4%Cu ステンレス鋼は、0.3% 炭素鋼と比較して、Fe の外層スケ−
ルに加え、Cr を含む多孔質でかつ地鉄との密着性が高い内層スケ−ルを有
した。
- 100 -
(3) 16%Cr-2.4%Cu 鋼のスケ−ル/地鉄界面は、くし状に発達したスケ−ルの出
現により顕著な凹凸を有する複雑な形態となった。
(4) 16%Cr-2.4%Cu 鋼は、Cu 濃化相が多孔質の内層スケ−ル中に多数存在し、
Cu 濃度は地鉄表面より内層スケ−ル中の方が高くなった。
(5) 16%Cr-2.4% 鋼での脆化抑制の機構は、①スケ−ルの内方成長による内層ス
ケ−ル中への Cu 濃化相の残留、②複雑な形態を有するスケ−ル/地鉄界面で
の Cu 濃化相の残留の困難さ、③フェライト母材中への Cu 原子の拡散によ
る大きな希釈作用、の 3 つの因子によって、地鉄表面への Cu の濃化が抑制
されるためであると結論した。
参考文献
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2)T.Akiyama,S.Kiya,K.Gosyokubo,K.Yokoyama,K.Hirahara,M.Hoshi:
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東京, (1997), 113.
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(1997),10.
- 101 -
10)新居和嘉 : 講座・現代の金属学材料編第 9 巻金属表面物性工学 , 日本金属
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(1995), 362.
12)N.Imai, N.Komatsubara and K.Kunishige: ISIJ International, 37(1997), 217.
13)N.Imai, N.Komatsubara and K.Kunishige: ISIJ International, 37(1997), 224.
14)K.Oikawa: Tetsu-to-Hagane, 68(1982), 1489.
- 102 -
第6章
総合考察
本博士論文では、Cu-Sn 含有鋼において、現場操業の条件下で発生する表面
赤熱脆性、すなわち表面割れを再現し,その発生条件と原因を追求した。具体
的には、現場熱間圧延プロセスを想定した 熱履歴と加熱雰囲気、および 鋼材
の成分が表面割れに対してどのような影響を与えるかについて明らかにした。
さらに、ステンレス鋼での再現実験により、表面赤熱脆性抑制の機構およびそ
の対策について明確なものとした。本章では、現場条件を再現した表面割れの
要因について、スケ−ル/地鉄界面への Cu(Sn)の濃化という視点から,従来
の研究成果との違いを明らかにするとともに、表面赤熱脆性に及ぼす現場製造
条件とその対策についてまとめた。
本研究において表面割れの要因は、現場熱履歴を再現することにより,従来
の研究成果と異なる新たな知見が得られた。図6−1は、従来研究と現場熱履
歴 を 再 現 し た 表 面 割 れ の 要 因 に つ い て 、 ス ケ − ル/ 地鉄界面の模式図を用いて
説明したものである。(a )の従来研究では、 1100∼1200℃の温度範囲に加熱
し、室温へ直接空冷した引張試験片により表面割れを評価している
1)
。これ
ら 鋼 材 の 表 面 割 れ は 、1100℃ 付 近 の 大 気 中 の 酸 化 に お い て 、 平 滑 な ス ケ − ル/
地鉄界面に出現する Cu(S n)濃化相を起源としている。つまり、表面割れは、
1-2 節で述べたように、熱間加工により Cu(Sn)濃化液相が結晶粒界へ浸入し
て発生すると考えられている
1 -3 )
。一方、(b)の本研究では、熱延工場で通
常行われる 1250℃加熱の熱履歴を再現した。具体的には、図2−1の実験方
法で述べたように、実スラブの昇温速度を模擬して 1250℃に徐加熱し、次に
室温へ直接空冷するのではなく、熱間加工が実施される 1100℃付近の温度域
で等温保持を行った。先ず、1250℃ 加 熱 に よ り 、 図 中 の 破 線 で 示 す ス ケ − ル/
地鉄界面に出現した Cu (Sn)濃化液相と接触する地鉄表層部分は、1250℃の
Cu 固溶度に達する高 Cu 領域になっていると考えられる。その後、1100℃の等
温保持により、地鉄表層部分の高 Cu 領域から過飽和に固溶していた Cu(Sn)
が液相として結晶粒界に析出することになる。つまり、現場熱履歴を再現した
- 103 -
表 面 割 れ の 要 因 は 、 従 来 か ら 言 わ れ て い る ス ケ − ル/ 地 鉄 界 面 に 出 現 し た Cu
(Sn) 濃 化 相 で は な く ,1250℃ 加 熱 か ら 1100℃への冷却により、地鉄表層部
分の高 Cu 領域から過飽和に固溶していた Cu(Sn)が液相として結晶粒界へ析
出することによると推論した(第3章)。
(a)
1100-1200℃,1-2hr
1100℃
Scale(FeO)
Liquid Cu(Sn)
in Air
A.C.
Steel(Fe)
1250℃,0.5hr
1100℃,0.5hr
(b)
2hr
1050℃
in Air
A.C.
Scale
(FeO)
1250℃
Liquid Cu(Sn)
Liquid
Cu(Sn)
Cu concentrated area
Steel(Fe)
図6−1
1100℃
Scale
(FeO)
Liquid
Cu(Sn)
Steel(Fe)
Cu-Sn 含有鋼の現場熱履歴を再現した表面割れの要因を説明する
模式図(a)従来研究(b)現場熱履歴を再現した本研究
上 述 し た 表 面 割 れ の 要 因 は 、 Fe-Cu 系 状 態 図 を 用 い て 熱 力 学 的 に 検 討 し 、
- 104 -
1250℃からの冷却に伴う Cu 固溶量の低下により、液相の Cu(Sn)濃化相が地
鉄表層部分の結晶粒界に沿って析出したことによると推論した。そこで、この
推論について本研究では、第3章の考察で述べたように、地鉄表層部の結晶粒
に注目して、その拡散場のモデル化を行い、Cu 原子の定常拡散を考えること
によりその詳細を速度論的に明らかにした。ここで、Cu 原子の流れについて
は、希釈に関係する鋼中へのフラックスと表面割れの要因となる結晶粒界への
フラックスの二つを考え、これらの競合として検討した。すなわち、これらの
検討により、1250℃からの冷却の際に生じる表面赤熱脆性の要因は、地鉄表層
部に存在する結晶粒界への Cu(Sn)濃化相の出現によること、さらに 1200∼
1150℃での長時間保持による Cu 原子の鋼中への希釈効果が割れの抑制に対し
て非常に有効な手段であることを熱力学および速度論的な立場から明らかなも
のとした(第3章)。
本研究において、表面割れの程度は、現場加熱炉の水蒸気酸化雰囲気を再現
することにより,大気と比較してより顕著になることを示した。図6−2は、
この 理由について、大気と水蒸気酸化雰囲気でのスケ−ル/ 地鉄界面の模式図
を用いて説明したものである。(a)の大気加熱の場合、スケ−ル/地鉄界面は
内 部 酸 化 に よ り 凹 凸 化 し て 、Cu (Sn )濃化相がスケ−ル中へ排斥されるため
に脆化が抑制される。一方、(b)に示す水蒸気濃度 20∼30% 加熱の場合、
1250℃加熱でもスケ−ル/地鉄界面は平滑であり、平滑な界面に Cu(Sn)濃化
相は出現しやすい。ここで、スケ−ル/地鉄界面への Cu(Sn)濃化相の出現の
しやすさは、同時に、地鉄表層部に存在する結晶粒界への出現のしやすさをも
意味する。よって、水蒸気酸化雰囲気において割れの程度が顕著になった理由
は、地鉄表層部に存在する結晶粒界への Cu(Sn)濃化相の出現のしやすさに
よると推論した(4章)。
- 105 -
Suppression of hot-shortness
(b) 1250℃, 20-30%H2O-bal.N 2
Scale
Liquid Cu(Sn) (FeO)
(a) 1250℃, in Air
Liquid Cu(Sn)
Scale
Severe hot-shortness
Steel(Fe)
Steel(Fe)
図6−2
水蒸気酸化雰囲気において顕著な表面割れを示す要因を説明する
模式図
( a ) 大気(b)20-30%H 2 O-bal.N2 雰囲気
Si と Ni の 微 量 添 加 に 関 し て は 、 4 章 で 述 べ た よ う に 、 0.1%Si 鋼 お よ び
0.14%Ni 鋼において水蒸気酸化雰囲気による脆化が抑制されることを確認した。
また、0.14%Ni 鋼では、酸化増量の少ない 1%O 2 -bal.N 2 の酸化条件において、
脆 化 を む し ろ 促 進 す る こ と も 明 ら か と な っ た 。 図 6 − 3 は 、0.1%Si 鋼および
0.14%Ni 鋼での脆化の抑制ならびに促進要因について、スケ−ル/地鉄界面の模
式図を用いて説明したものである。0.1%Si 鋼では、水蒸気酸化雰囲気での内
部酸化によりスケ−ル /地鉄界面が凹凸化する。その結果として、Cu(S n)濃
化相はスケ−ル中へ取り込まれるために脆化が抑制される。0.14%Ni 鋼におい
て も 、 ス ケ − ル/ 地鉄界面は不均一酸化により凹凸化し,同様の脆化抑制効果
が確認された。しかし、0.14%Ni 鋼では、酸化増量の少ない 1%O 2 -bal.N 2 の酸
化条件において、平滑なスケ−ル/地鉄表面が液相の Cu-Sn-Ni 濃化相によって
覆われ、脆化は促進する。結局、脆化抑制元素として知られる Ni での脆化抑
制は、スケ−ル/地鉄界面の凹凸化による、スケ−ル中への Cu 濃化相の排斥に
よることが結論された。この結論は、本研究によって明らかとなった新たな知
見である(第4章)。
- 106 -
Suppression of hot-shortness
(a) 1250℃, 20-30%H2O-bal.N 2
Scale
(FeO)
Severe hot-shortness
(b) 1250℃, 1%O2-bal.N 2
Liquid Cu(-Ni,Sn)
Liquid Cu-Sn-Ni
Scale
(FeO)
0.1%Si, 0.14%Ni steel
0.14%Ni steel
図6−3
0.1%Si 鋼と 0.14%Ni 鋼の脆化の抑制ならびに促進要因を説明
する模式図(a)20-30%H 2 O-bal.N2 雰囲気(b)1%O2 -bal.N2 雰囲気
最後に、ステンレス鋼での再現実験により、表面赤熱脆性抑制の機構および
その対策について明確なものとした。5章で述べたように、16%Cr -2.4%Cu ス
テンレス鋼では、0.3%Cu 炭素鋼で大きい割れを生じる熱履歴・酸化増量にお
いて、Cu 含有量が著しく多いにもかかわらず、全く割れを生じないことを確
認した。図6−4は、炭素鋼との比較においてステンレス鋼で脆化が抑制され
た要因について、ステンレス鋼特有の内層スケ−ルおよびスケ−ル /地鉄界面
の模式図を用いて説明したものである。(a)の 0.3%Cu 炭素鋼では、Fe の外
方拡散で FeO 主体の外層スケ−ルを生成する。ここで、20% 水蒸気酸化雰囲気
では、黒川らの実験結果
4)
に基づき、0.1mm 程度の内層スケ−ルを生成して
いると予測される。0.3%Cu 炭素鋼の脆化は、水蒸気の存在による平滑なスケ
−ル/地鉄界面への Cu(Sn)濃化相の出現のしやすさにより顕著なものとなる。
一方、(b)のステンレス鋼では、スケ−ルの内方成長により Cu 濃化相はス
ケ − ル/地鉄界面ではなく,多孔質の内層スケ−ル中に多数残留する。さらに、
スケ−ル/ 地 鉄 界 面 の 凹 凸 も 顕 著 な も の で あ る 。結局、これら実験事実に基づ
き、Cu 含有フェライト系ステンレス鋼での脆化抑制の機構は、①スケ−ルの
内方成長による内層スケ−ル中への Cu 濃化相の残留,②複雑な形態を有する
- 107 -
地鉄界面での Cu 濃化相の残留の困難さ,③フェライト母材中への Cu 原子の
拡散による大きな希釈作用、の3つの因子によって説明されることを明らかに
した。すなわち、ステンレス鋼に関する再現実験により、表面赤熱脆性への対
策として、スケ−ル中への Cu 濃化相の排斥が如何に重要なものであるかを明
No craking
FeO
O2,H2O
FeO
Cu(Sn)
Liquid Cu(Sn)
0.3%Cu steel
0.2mm
0.1mm
O2,H2O
Fe3O4
Liquid Cu(Ni,Fe)
(Fe,Cr)3O4
Fe
Inner Scale
Cracking
Outer Scale
確なものとした(第5章)。
Fe
Cr
16%Cr-2.4%Cu steel
図6−4
水蒸気酸化雰囲気において 1250℃加熱した 16%Cr-2.4%Cu 鋼の脆化
の抑制を説明する模式図
(a),(b)20%H 2 O-bal.N2 雰囲気
表6−1は、本研究により得られた成果に基づいて、表面赤熱脆性に及ぼす
現場製造条件とその対策についてまとめたものである。現場熱履歴を再現した
1250℃加熱後の冷却の際に生じる表面割れの要因は、従来から言われているス
ケ−ル/地鉄界面に出現する Cu(Sn)濃化相ではなく,1250℃からの冷却時に
生じる,地鉄表層部分の結晶粒界への Cu(S n)濃化相の出現による。1250℃
加熱後の脆化対策として、1200∼1150℃の長時間保持(> 5 分)による鋼中へ
- 108 -
の Cu 原子の希釈効果が有効な手段となる。これら脆化は、現場加熱炉の雰囲
気、特に水蒸気濃度によって大きく影響を受ける。高炉ガスを想定した場合、
加熱雰囲気には水蒸気を殆ど含まない。そのため、酸化増量の少ない酸化条件
において脆化は抑制される。しかし、Ni/Cu=0.5 程度の Ni 添加は、高炉ガスを
想定した酸化増量の少ない酸化条件において、平滑なスケ−ル/ 地鉄界面が液
相の Cu-Sn-Ni 濃化相によって覆われ、脆化は促進する場合もある。従って、
Ni の添加は好ましくない。天然ガス、液化石油ガスおよびコ−クス炉ガスを
想定した場合、加熱雰囲気には 10∼30% の水蒸気を含む。ここで、水蒸気濃度
20∼30% の場合、スケ−ル/地鉄界面は平滑なままで酸化が進行するため、平滑
な界面に Cu(Sn)濃化相は出現しやすい。そのため、表面割れの程度は大気
と比較してより顕著になる。水蒸気酸化雰囲気での脆化対策として、 0.1% 程度
の Si 添加および Ni/Cu=0.5 程度の Ni 添加は、Cu(Sn)濃化相をスケ−ル中へ
排斥する作用を有するため、効果的である。S i および Ni の複合添加もより効
果的である。ここで、S i 添加は、熱間圧延された鋼材表面に赤スケ−ルと呼ば
れるデスケ−リング不良を起こすことが知られており
5)
、工業的には 0.5% を
上限とすることが好ましい。すなわち、脆化対策として、Si の添加は上限値、
Ni の添加には酸化条件を考慮する必要がある。ステンレス鋼は、炭素鋼と比
べて Cu 含有量が著しく高いにも拘わらず、Cu 濃化相をスケ−ル中へ排斥する
効 果 が 極 め て 大 き い た め 、 脆 化 は 抑 制 さ れ る 。 つ ま り 、 脆 化 対 策 と し て 、Cu
濃化相をスケ−ル中へ排斥することは非常に有効な手段であると結論される。
現場製造プロセスを大きく変えることなく、鉄鋼の Cu や Sn による表面赤
熱脆性を抑制するには、熱履歴や加熱雰囲気の水蒸気濃度,鋼材の成分によっ
て変化するスケ−ル/地鉄界面への Cu(Sn )の濃化挙動を考慮する必要があ
る。本博士論文で明らかにした表面赤熱脆性に及ぼす現場製造条件とその対策
を現場製造プロセスにおいて検証することが今後の課題と考える。
- 109 -
- 110 -
参考文献
1) 今井規雄, 国重和俊 : トランプエレメントの鉄鋼材料科学, 日本鉄鋼協会 ,
東京, (1997), 137.
2) N.Ima i, N.Komatsubara and K.Kunishige: ISIJ International, 37(1997), 217.
3) N.Imai, N.Komatsubara and K.Kunishige: ISIJ International, 37(1997), 224.
4)S.Nishizawa, K.Kurokawa and H.Takahashi: CAMP -ISIJ, 15(2002),1100.
5) T.Fukagawa, H.Okada, Y.Maehara and H.Fujikawa:Tetsu-to-Hagane,82(1996), 63.
- 111 -
第7章
総括
鉄スクラップを鉄源として使用した場合に発生する熱間加工割れ、すなわち
表面割れは、Cu や Sn の表面赤熱脆性により生じる。従来の研究から、表面割
れは、高価な合金元素である Ni を添加する以外に、スラブ加熱温度を 1200℃
以上の高温加熱とすることで抑制される可能性がある。本博士論文では、これ
ら知見に基づいて現場操業の条件下で発生する表面割れを再現し,その発生条
件と原因を追求した。すなわち、現場熱間圧延プロセスを想定した熱履歴と加
熱雰囲気、および鋼材の成分が表面割れに対してどのような影響を与えるかに
ついて明らかにした。さらに、ステンレス鋼での再現実験により、表面赤熱脆
性抑制の機構およびその対策について明確なものとした。本研究成果に基づい
て、表面赤熱脆性に及ぼす現場製造条件とその対策についてまとめた。以下に、
本博士論文で得られた結果を要約する。
第3章では、現場熱履歴を再現して 0.3%Cu-0.05%Sn 含有鋼を 1250℃に加熱
し、その冷却の際に生じる表面割れの特徴を明らかにした。表面割れは、1250
℃に加熱後,1200、1150、 お よ び 1100℃での等温保持において発生した。そ
の特徴については、1200℃と 1150℃保持の場合、割れは 5 分以下の短時間に
集中し、10 分以上の長時間保持では減少した。一方、低温の 1100℃保持では
5 分以下において割れは少なく,時間の経過とともに増加した。さらに、スケ
−ル/地鉄界面の観察から、多数割れが観察された試験材には、スケ−ル/地鉄
界面に加え,地鉄表層部分の結晶粒界に沿っても Cu-Sn 濃化相の存在が確認さ
れた。結局、これらの実験結果から、表面割れの原因は 、Fe-Cu 系状態図から
予 想 さ れ る , 1250℃ か ら の 冷 却 に 伴 う Cu 固 溶 量 の 低 下 に よ り 、 液 相 の Cu
(Sn)濃化相が地鉄表層部分の結晶粒界に沿って析出したことによると推論し
た。これら推論について、地鉄表層部分の結晶粒に注目して、その拡散場のモ
デル化を行い、Cu 原子の定常拡散を考えることによりその詳細を速度論的に
検討した。これらの検討により、1250℃からの冷却の際に生じる表面赤熱脆性
の原因は、地鉄表層部に存在する結晶粒界への Cu(Sn)濃化相の出現による
- 112 -
こと、さらに 1200∼1150℃での長時間保持による Cu 原子の希釈効果が割れの
抑制に対して非常に有効な手段であることを明らかにした。
第4章では、現場加熱炉の水蒸気酸化雰囲気を再現し,この雰囲気での表面
割れの特徴、さらには S i や Ni の微量添加による影響についてその詳細を調べ
た。その結果、まず 1250℃加熱の水蒸気濃度 20∼30% の場合、大気中より大
きな割れが多数観察された。スケ−ル /地鉄界面の組織観察から、1250 ℃加熱
の地鉄界面は平滑であり、スケ−ル内には基本的に Cu (Sn)濃化相は存在し
ないことが分かった。このため、水蒸気酸化雰囲気による脆化は、平滑なスケ
−ル/地鉄界面での Cu(Sn)濃化相(液体)の生成のしやすさによると推察し
た。Si と Ni の微量添加に関しては、0.1%Si 鋼および 0.14%Ni 鋼を用いて水蒸
気酸化雰囲気での脆化を検討し、両鋼において脆化が抑制されることを確認し
た 。 そ の 要 因 に つ い て は 、 0.1%Si 鋼 で は 水 蒸 気 酸 化 雰 囲 気 で の 内 部 酸 化 、
0.14%Ni 鋼では不均一酸化により、スケ−ル/地鉄界面が凹凸化し,その結果と
して Cu(Sn)濃化相がスケ−ル中へ取り込まれるためである。また、0.14%Ni
鋼では、地鉄界面が凹凸化しない、酸化増量の少ない 1%O2 -bal.N2 の酸化条件
において、地鉄界面が液相を含む Cu-Sn-Ni 濃化相によって覆われ、脆化をむ
しろ促進することも明らかとなった。結局、脆化抑制元素として知られる Ni
で の 脆 化 抑 制 は 、 ス ケ − ル / 地 鉄 界 面 の 凹 凸 化 に よ る 、 ス ケ − ル 中 へ の Cu
(Sn)濃化相の排斥によることが結論された。
第5章では、ステンレス鋼での熱間加工割れ再現実験により、表面赤熱脆性
抑制の機構およびその対策について検討した。ステンレス鋼では、Cu 含有量
が著しく多い場合でも、普通炭素鋼に比べて表面赤熱脆性は生じにくいことが
知られている。再現 実験の結果、0.3%Cu 炭素鋼では大きい割れを生じる熱履
歴・酸化増量において、16%Cr-2.4%Cu ステンレス鋼では全く割れを生じない
ことが分かった。また組織観察から、ステンレス鋼での Cu 濃化相は、スケ−
ルの内方成長によりスケ−ル/ 地鉄界面ではなく,多孔質の内層スケ−ル中に
多 数 存 在 す る こ と 、 さ ら に ス ケ − ル/地鉄界面の凹凸も顕著なものであること
が明らかとなった。結局、これら実験事実に基づき、Cu 含有フェライト系ス
- 113 -
テンレス鋼での脆化抑制の機構は、①スケ−ルの内方成長による内層スケ−ル
中への Cu 濃化相の残留,②複雑な形態を有する地鉄界面での Cu 濃化相の残
留の困難さ,③フェライト母材中への Cu 原子の拡散による大きな希釈作用、
の3つの因子によって説明されることが分かった。すなわち、ステンレス鋼に
関する再現実験の結果は、表面赤熱脆性への対策として、スケ−ル中への Cu
濃化相の排斥が如何に重要なものであるかを明らかにした。
第6章では、現場条件を再現した表面割れの要因について、従来の研究成果
との違いを明らかにするとともに、表面赤熱脆性に及ぼす現場製造条件とその
対策についてまとめた。現場熱履歴を再現した 1250℃ 加 熱 後 の 冷 却の際に生
じ る 表 面 割 れ の 要 因 は 、 従 来 か ら 言 わ れ て い る ス ケ − ル/地鉄界面に出現する
Cu(Sn ) 濃 化 相 で は な く ,1250℃ か ら の 冷 却 時 に 生 じ る , 地 鉄 表 層 部 分 の 結
晶粒界への Cu(Sn )濃化相の出現による。1250℃加熱後の脆化対策として、
1200∼1150℃の長時間保持(>5 分)が有効な手段となる。これら脆化は、加
熱雰囲気の水蒸気濃度によって大きく影響を受ける。高炉ガスを想定した場合、
水蒸気を殆ど含まず、酸化増量の少ない酸化条件において脆化は抑制される。
しかし、Ni/Cu=0.5 程度の Ni 添加は、酸化増量の少ない酸化条件において、脆
化を促進する場合もある。天然ガス、液化石油ガスおよびコ−クス炉ガスを想
定した場合、加熱雰囲気には 10∼30% の水蒸気を含む。ここで、水蒸気濃度
20∼30% の場合、表面割れの程度は大気と比較してより顕著になる。水蒸気酸
化雰囲気での脆化対策として、0.1% 程度の S i 添加および Ni/Cu=0.5 程度の Ni
添加は効果的である。ここで、S i 添加は、熱間鋼板のスケ−ル疵の問題から
0.5% を 上 限 と す る こ と が 好 ま し い 。 す な わ ち 、 脆 化 対 策 と し て 、S i の添加は
上限値、Ni の添加には酸化条件を考慮する必要がある 。ステンレス鋼は、炭
素鋼と比べて Cu 含有量が著しく高いにも拘わらず脆化は抑制される。つまり、
脆化対策として、Cu 濃化相をスケ−ル中へ排斥することは非常に有効な手段
であると結論した。
- 114 -
研究業績
論文リスト(Cu や Sn による表面赤熱脆性に関する研究)
(1)"Cu,Sn 含有鋼の表面赤熱脆性におよぼす熱履歴の影響 "
秦野正治,国重和俊,小溝裕一:鉄と鋼 ,88(2002),142
(第3章)
(2)"Cu,Sn 含有鋼の表面赤熱脆性におよぼす水蒸気の影響 "
秦野正治,国重和俊:鉄と鋼,89(2003),659
(第4章)
(3)"水蒸気含有雰囲気加熱における Cu,Sn 含有鋼の表面赤熱脆性に及ぼす
Si,Ni の影響 "
秦野正治,国重和俊:鉄と鋼,89(2003),1134
(第4章)
(4)"Cu 含有フェライト系ステンレス鋼における表面赤熱脆性抑制機構"
秦野正治,国重和俊:鉄と鋼,90(2004),134
(第5章)
(5)"Effect of Boron on Copper Induced Surface Hot Shortness of 0.1% Carbon
Steel"
T.Nagakura,M.Kaga,K.Shibata,K.Asakura,M.Hatano: ISIJ International,vol.42
(2002),Supplement,S57
(第1章)
- 115 -
(6)"IF 鋼の銅起因表面赤熱脆性とボロン,リンの影響 "
長崎千裕,内野浩志,柴田浩司,朝倉健太郎,秦野正治:鉄と鋼 ,89(2003),322
(第1章)
(7)"鉄鋼リサイクル原料の不純物無害化熱延プロセス "
柴田浩司,国重和俊,秦野正治:ふぇらむ,7(2002),18
(第1章)
特許リスト(Cu や Sn による表面赤熱脆性に関する研究)
(1)"熱間圧延鋼材およびその製造方法 "
発明者:秦野正治,柴田浩司,朝倉健太郎
出願人:住友金属工業(株),特願 2000-378836
(2)"熱間圧延鋼材の製造方法"
発明者:秦野正治,国重和俊
出願人:住友金属工業(株),特願 2001-048159
(3)"Cu 含有鋼材の製造方法 "
発明者:秦野正治,国重和俊
出願人:住友金属工業(株),特願 2003-091851
(4)"複層組織クロム系ステンレス鋼材とその製造方法 "
発明者:秦野正治,柘植信二,安達和彦 ,青木正紘 ,御所窪賢一
出願人:住友金属工業(株),特願 2001-368775
- 116 -
(5)"クロム系ステンレス鋼材およびその製造方法 "
発明者:秦野正治,柘植信二,青木正紘
出願人:住友金属工業(株),特願 2003-037098
発表リスト(Cu や Sn による表面赤熱脆性に関する研究)
(1)"銅や錫による表面赤熱脆性の抑制方法について "
国重和俊,秦野正治,小溝裕一
バリヤフリ−プロセス部会 2000 年(第 2 回)ワ−クショップ
(2)"Cu や Sn による表面赤熱脆性の無害化熱延プロセス"
秦野正治,国重和俊,小溝裕一
日本鉄鋼協会 2001 年東北支部主催ベ−スメタル研究ステ−ション
シンポジュ−ム
(3)"銅や錫による表面赤熱脆性の抑制方法について "
秦野正治,国重和俊,今井規雄,小溝裕一
日本鉄鋼協会 2000 年秋期(第 140 回)講演大会討論会
(4)"銅起因表面赤熱脆性に及ぼす微量ボロンの影響 "
加賀仁,柴田浩司,朝倉健太郎,秦野正治
日本鉄鋼協会 2001 年春期(第 141 回)講演大会
(5)"Cu,Sn 表面赤熱脆性に及ぼす熱履歴の影響 "
秦野正治,国重和俊
日本鉄鋼協会 2002 年秋期(第 144 回)講演大会討論会
- 117 -
(6)"Surface Hot-shortness due to Copper in Ultra -low Carbon Steel"
C.Nagasaki,K.Shibata,K.Asakura and M.Hatano
日本鉄鋼協会 2003 年春期(第 145 回)講演大会
(7)"Influence of Thermal History on Surface Hot-shortness of Cu-Sn Containing
Steel"
秦野正治,国重和俊,小溝裕一
日本鉄鋼協会 2003 年秋期(第 146 回)講演大会国際セッション
(8)"Cu 含有フェライト系ステンレス鋼における表面赤熱脆性抑制機構"
秦野正治,国重和俊
日本鉄鋼協会 2004 年秋期(第 148 回)講演大会
(9)"Cu と Sn による鋼材の表面赤熱脆性回避と抑制機構"
秦野正治,国重和俊
日本鉄鋼協会「鋼材表面特性に及ぼすスケ−ル性状の影響」研究会成果
報告シンポジュ−ム , 2005 年 1.27.
特許リスト(その他の研究)
(1)"表面性状に優れた Cr 系ステンレス鋼酸洗鋼帯の製造方法"
発明者:秦野正治,柘植信二
出願人:住友金属工業(株),特願平 10-59210
(2)"Cr 系ステンレス鋼板の熱間圧延方法 "
発明者:秦野正治,柘植信二,後藤邦夫
出願人:住友金属工業(株),特願 2000-11950
- 118 -
(3)"表面性状に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法"
発明者:後藤勇三,秦野正治
出願人:住友金属工業(株),特願平 10-40411
(4)"耐孔食性に優れたオ−ステナイト系ステンレス鋼板の製造方法 "
発明者:秦野正治,柘植信二
出願人:住友金属工業(株),特願平 10-345058
(5)"オ−ステナイト系ステンレス鋼板の製造方法 "
発明者:秦野正治,柘植信二
出願人:住友金属工業(株),特願 2000-169555
(6)"オ−ステナイト系ステンレス鋼帯およびその製造方法 "
発明者:秦野正治,柘植信二,山岸昭仁
出願人:住友金属工業(株),特願 2002-132196
(7)"オ−ステナイト系ステンレス鋼帯およびその製造方法 "
発明者:秦野正治,宮腰皓
出願人:住友金属工業(株),特願 2002-302390
(8)"極軟質オ−ステナイト系ステンレス光輝焼鈍鋼材およびその製造方法 "
発明者:秦野正治,伊藤宏治
出願人:新日鐵住金ステンレス(株),特願 2004-021724
(9)"ステンレス鋼板およびその製造方法 "
発明者:秦野正治,山岸昭二,松橋透 ,高橋明彦
出願人:新日鐵住金ステンレス(株),特願 2004-223823
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発表リスト(その他の研究)
(1)"SUS304-BA 調質圧延材の変形組織に及ぼす表層窒化の影響 "
秦野正治,柘植信二
日本鉄鋼協会 1998 年秋期(第 136 回)講演大会
(2)"SUS430 熱延板焼鈍時の窒化に及ぼすスケ−ル性状の影響"
秦野正治,柘植信二
日本鉄鋼協会 1999 年秋期(第 138 回)講演大会
(3)"1473K におけるフェライト系ステンレス鋼の水蒸気加熱スケ−ル構造"
秦野正治,柘植信二
日本鉄鋼協会 2001 年春期(第 141 回)講演大会
(4)"1473K における SUS304 鋼の水蒸気酸化挙動に及ぼす Si 量の影響 "
秦野正治,柘植信二
日本鉄鋼協会 2001 年秋期(第 142 回)講演大会
(5)"Nb 添加フェライト系ステンレス鋼の水蒸気雰囲気中の加熱スケ−ル"
秦野正治,柘植信二
日本鉄鋼協会 2003 年春期(第 145 回)講演大会
( 6) "極 軟 質 オ ー ス テ ナ イ ト 系 ス テ ン レ ス 鋼 の 二 次 加 工 性 と 深 絞 り 性 "
秦 野 正 治 ,石 丸 詠 一 朗 ,高 橋 明 彦
日本鉄鋼協会 2004 年春期(第 147 回)講演大会
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謝辞
本論文は、早稲田大学理工学部物質開発工学科教授 小山泰正博士の御指導
と御鞭撻を賜って作成したものです。懇切な御教示に加え、終始熱意のこもっ
たお言葉を頂きました。
早稲田大学理工学部物質開発工学科教授 伊藤公久博士、ならびに早稲田大
学理工学部物質開発工学科助教授 吉田誠博士には、本論文の内容に関し大変
有益な御教示を賜りました。
本論文の内容は、住友金属工業株式会社 総合技術研究所で行ったものであ
り、総合技術研究所副所長 小溝裕一博士(現:大阪大学接合科学研究所教
授)、総合技術 研究所材料研究部次長 国重和俊博士(現:香川大学工学部材
料創造工学科教授)、総合技術研究所ステンレス・チタン研究部長 石山成志博士,ステンレ
ス材料グル-プ長 柘植信二氏、総合技術研究所鋼管鋼材研究部長 大塚伸夫博士
には、御指導、御鞭撻を頂くと共に発表の許可を賜りました。
本研究は、関係者各位の多大な御指導と御援助を賜り成し遂げることができ
たものです。特に、香川大学工学部教授 国重和俊博士には、研究の当初から
研究の進め方の御指導に加え、幾多の討論と御助言を賜りました。さらに、東
京大学名誉教授 柴 田 浩 司 博士には、実験方法や実験結果に関する幾多の御助
言と御鞭撻を賜りました。さらに、住友金属工業株式会社 総合技術研究所な
らびに住友金属テクノロジ−の関係者各位には実験に協力して頂きました。
さらに、新日鉄住金ステンレス株式会社へ転籍以降、研究センタ−長 北村信也博
士(現:東北大学教授)、研究センタ−長 平松博之氏、薄板研究室長 高橋明
彦博士には、本論文の作成への御理解と発表の許可を賜りました。
また、早稲田大学理工学部物質開発工学科助手 浅田敏弘博士をはじめ小山
研究室の皆様には、いろいろとお世話を頂きました。
本論文を終えるにあたり、これらの方々に深く感謝の意を表します。
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