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ウガンダ・ナショナルデータベース(国民ID)整備 計
平成 21 年度 円借款案件形成等調査 「ウガンダ・ナショナルデータベース(国民ID)整備 計画調査」 (ウガンダ) 報告書要約 平成 22 年 3 月 財団法人海外通信・放送コンサルティング協力 日本電気株式会社 丸紅株式会社 (1)プロジェクトの背景・必要性 ウガンダ共和国は、サハラ以南の東アフリカ地域に位置している内陸国で、面積は 24.1 万㎢、人口は 3,066 万人、1 人当たりの国民総収入(GNI)は 280 米ドルである。GDP 成長 率は、7.0%であり、近年、徐々に上昇しながら堅調に推移している。これは、現ムセベニ (Mr. Yoweri Kaguta Museveni)大統領による政権が、世界銀行・IMF による構造調整プロ グラムを受け入れ、農産品の生産者価格の自由化、輸出品の公社による独占の廃止、国営 企業の民営化、公共部門(中央省庁)の縮小化等の施策を推進してきたのが主な要因で、 現状のマクロ経済は安定している。 しかしながら、ウガンダは、依然として低所得貧困国(世界銀行分類)であり、貧困削 除のための「貧困撲滅行動計画(PEAP:Poverty Eradication Action Plan)」を 1997 年に策 定し、現行の第3次 PEAP が実行されている。後続文書として、「5カ年国家開発計画」(策 定中)があり、本プロジェクトは、この重点目標にある「人間の安全保障およびグッド・ガ バナンスの向上」に寄与するものである。 本プロジェクトは、ウガンダ」共和国憲法第 16 条(1)および、第 16 条(3)(a)に規 定されている国民 ID 番号を登録し、国民 ID カードを住民に発行することで、 「ウガンダ国 民を確実に認識(Identify)し、ウガンダ国民であることを確認(Verify)できるシステ ムを構築し、国民に対して公正で公平な行政サービス(教育、健康保険、雇用サービス、パ スポート・ビザ発行、選挙人登録など)を提供し、ウガンダ国民の生活水準を高める。」こと を目的とし、国民 ID カードを社会インフラとして定着させるための基盤となる、ウガンダ 国の国家の安全保障、社会的、経済的、政治的な発展を促す包括的なナショナルデータベ ースを構築することである。 ウガンダ国における現状の問題点は、① 住民管理が適正ではない(死亡した場合の住民 登録の抹消処理が行われていない、居住地の管理を行っていないなど)ため、国民の居住地 において、公正で公平な行政サービスを受けることができない、② 住民登録情報が紙ベー スとなっている(紛失の問題や廃棄が適正でない)ため国民の認証ができない、③ 国民情 報の登録が複数の省で行われており、政府予算が無駄に使われている、④ 選挙人登録が二 重に行われ同一人物が複数の選挙権を持っている(ゴーストボータが存在する)などの不正 選挙の問題、⑤ ウガンダ国境において不法移民の流入を管理できないなどであり、これら の問題を解決するために、ナショナルデータベースの構築が必要と考えられている。 また、東アフリカ共同体(East African Community : EAC)の共通市場(Common Market) 閣僚会議では、ケニア、タンザニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジの入出国において、 国民 ID カードの利用を制度化しており、本プロジェクトによる諸国間の人々の移動(国境 管理)の基盤となるナショナルデータベースの整備が強く望まれている。 (2)プロジェクトの内容決定に関する基本方針 ウガンダ国政府は、 同国憲法に則り、具体的なナショナルデータベースの構築に向けて、 ウガンダ国内務省主導の下、「 The Uganda National Population Identification and Verification Programme Draft Roadmap(2009 年3月) 」(以下、国民 ID プロジェクト計画 書という。)において、プロジェクト実施体制、財源・資金調達、プロジェクト実施手順な どの検討が行われている。 また、本プロジェクトは、ウガンダ政府の次期5カ年国家開発計画(National Development Plan)に明記されており、ウガンダ政府が目指す行政サービスの向上および国民生活の水 準向上など、本計画の重点分野である「人間の安全保障およびグッド・ガバナンスの向上」 に大きく貢献するものである。 (3)プロジェクトの概要 本プロジェクトは、国民 ID プロジェクト計画書に則り、ウガンダの国民管理業務に直接 貢献するナショナルデータベースの構築・整備を行うものである。国民 ID 番号は、新生児 の場合においては、出生時に発行し、現住民に対しては、登録作業を行う人材を雇用して ナショナルデータベースに登録され、国民 ID カードの発行は、18 歳以上の全国民(約 1,717 万人)および、3ヶ月以上ウガンダ国に滞在する全外国人(約6万5千人)を対象とする。 また、プロジェクトの実行においては、関連する法令の整備、ウガンダ国民のインセン ティブの確立、啓蒙活動(人権を考慮した広報や必要性の訴えかけなど)、国民情報の保護 とアクセスに対して安全で信頼性の高い情報セキュリティの確保などの検討が並行して進 められる。 本プロジェクトの範囲は、ナショナルデータベースのシステム設計、システムの供与お よび設置作業、システム導入時の運用操作指導、国民情報の登録や運用に係わる技術的指 導、システムの運用・保守人材の育成である。 尚、上記の要件は、日本の知見が有効に活用できる技術協力プロジェクトのスキームを 使うことが望ましい。 ① 本プロジェクトの事業総額は約 63 億円である。 事業費の内訳は、機材及び開発・教育・導入費用が約 34 億円、国民IDカードの調 達費用が約 1.5 億円、人件費が約 7.5 億円、および、運用保守費(年間)が約 20 億円 である。 ② 予備的な財務・経済分析の結果概要 財務的分析において、プロジェクトの収入を、国民 ID カードの再発行の手数料お よび、外国人の登録手数料とした場合、財務的内部収益が見込まれないことから、2028 年までに黒字化することができず、財務的内部収益率(FIRR)は、-0.22%である。 また、経済的分析において、プロジェクトの便益を、ナショナルデータベース構築 により削減できる政府財政支出額相当とした場合、2018 年にプロジェクトは黒字に転 換する。尚、この前提において、プロジェクトの全体の経済的内部収益率(EIRR)は、 29.6%であり、社会経済的効果が十分あると考えられる。 ③ 環境社会的側面の検討 本プロジェクトに関して、ジェトロ環境社会配慮ガイドライン、環境社会配慮確認 のための国際協力銀行ガイドライン、JICA 環境社会配慮ガイドライン、および、ウガ ンダ国における環境への影響に関するアセスメント( The Environmental Impact Assessment Regulation)に従い、環境社会的側面の検討を実施した。この結果、本プ ロジェクトで導入される IT 機器は既設の建物に設置される為、大規模な土木建設工 事を伴わず、環境への悪影響は極めて尐ないと考えられる。また、ウガンダ環境管理 局は、既に、内務省の国民 ID プロジェクトについて検証しており、アセスメントの 必要はないとの回答を得ている。 一方で、本プロジェクトは、指紋情報を含む個人情報の保護に対する配慮が必要で ある。人権問題を管轄しているウガンダ人権委員会(Uganda Human Rights Commission: UHRC)は、内務省の事業計画に基づき検討したところ、人権問題が発生する事業内容 ではないとの見解をもっていた。 (4)実施スケジュール 本プロジェクトを実施するに当り、 国民 ID プロジェクト計画書にある予定スケジュール を再考中であり、現時点で、開始年は未定であるが、下記作業において、約5年間のスケ ジュールを検討している。 ウガンダ内務省で検討されている作業内容は下記のとおりである。 1. 政策枠組み/法案の作成 2. 計画作成作業 3. 国民意識の向上に係わる作業 4. プロジェクトの開始 5. サンプリング/トライアルの実施 6. 国民の識別、確認、登録、プロファイル、指紋などの取得 7. 国民情報データの入力 8. システムの検証作業 9. 国民 ID カードの作成 10. 国民 ID カードの配布 この作業内容において、本プロジェクトの範囲は、 「2.計画作成作業の支援」 、 「5.サ ンプリング/トライアルの実施」におけるシステムの供与および設置作業、 「6.国民情報 の取得および、7.データベースへの投入作業」における技術的指導支援、および、シス テムの運用・保守人材の育成である。 (5)円借款要請・実施に関するフィージビリティ ウガンダ政府は、慢性的な予算不足にあり、本事業の実施には、海外からの資金援助・ 技術支援が必要であると考えられる。ウガンダ政府も日本からの支援を要望している。 本プロジェクトの総事業費を63億円とし、財務的分析を行うために、プロジェクトの収 入を国民IDカードの再発行の手数料(1件あたり2600ウガンダシリング=約1.3米ドル)およ び、外国人登録手数料(1件あたり、80,000ウガンダシリング=約40米ドル)の合算とし、 国民IDカードの発行開始年を2013年と想定すると、15年後の2028年においても、プロジェ クト全体の損益計算結果は、赤字である。また、財務的内部収益率(FIRR)は、-(マイナ ス)0.22%であり、この運用期間において、内部収益が見込まれない。 経済的分析において、便益を今回のプロジェクトにより削減できる政府予算であると想 定し、政府の歳出データから行政セクターの支出を算出すると、2018年において、政府予 算は、約1千百万米ドルの削減効果が予測され、損益計算結果が黒字に転換し、経済的内 部収益率は(EIRR)は、29.6%となる。従って、社会的経済効果は大きいと考えられる。 このことから、円借款による資金協力、あるいは、無償資金協力による経済支援が妥当 である。尚、本事業の円滑な実施のためには、計画段階からの支援など、技術協力プロジ ェクトが有効であると考えられる。 (6)我が国企業の技術面等での優位性 本プロジェクトでは、国民情報をナショナルデータベースに登録する際に、登録者の本 人確認の必要がある。バイオメトリクス技術を利用した、我が国の「指紋照合システム」 ( AFIS: Automated Fingerprint Identification System )は、米国技術標準化局( NIST: National Institute of Standards and Technology)の「指紋ベンダ技術評価プロジェクト」 において、照合精度 99.9%、1日の指紋データ照合件数7万件という技術レベルに対して、 首位の評価を得た。 また、この指紋照合システムは、30 ヶ国 350 カ所の導入実績があり、中でも本プロジェ クトと同種のシステムとして南アフリカ共和国内務省が 2002 年に導入した、HANIS (Home Affairs Identification System)については、システム設計、設置、導入、運用保守まで一 貫して実施した経験があることから、この実績を本プロジェクトに活かすことができる。 (7)案件実現までの具体的スケジュールおよび実現を 阻むリスク ウガンダ政府の国民 ID プロジェクト計画書において、計画段階においては、以下のリス クファクターについて対処すべきスケジュールおよび具体的な対策案を検討している。 1. プロジェクト推進のために必要な財源の確保 2. 関連する法令の整備(主に国民情報の取り扱い) 3. ウガンダ国民のインセンティブ(国民 ID の活用意欲の動機づけ)の確立 4. 利害関係者との協議と合意 5. 啓蒙活動(人権問題の解消、国民への広報や必要性の訴えかけなど) 6. 国民情報の保護とアクセスに対して安全で信頼性の高い情報セキュリティの確 保 7. 設置場所の確保 8. 人材(プロジェクトスタッフ、運用保守担当者など)の確保 尚、本調査において、ウガンダ人権委員会(Uganda Human Rights Commission)および、 NEMA(National Environment Management Authority)を訪問し、本プロジェクトの実行に あたり現時点で問題がないことを確認している。 ウガンダ地図