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- 新潟大学理学部
博士論文 希土類六硼化物 CexLa1-xB6 の四重極子秩序 赤津 光洋 新潟大学大学院自然科学研究科博士後期課程 エネルギー基礎科学専攻 平成 15 年 目次 1. 序論 -------------------------------------------------------------------------------1. 希土類化合物の四重極子秩序 1 2. CexLa1-xB6 の基礎物性 3 3. 本研究の目的 16 2. 四重極子 -------------------------------------------------------------------------1. 弾性定数 18 2. 四重極子感受率 20 3. 熱膨張と四重極子 25 3. 実験方法と装置 ----------------------------------------------------------------1. 超音波測定 30 2. 熱膨張測定 32 3. 冷凍機 35 4. 40 T 級ハイブリッドマグネット (gama) 36 5. 単結晶試料 37 4. 実験結果と考察 ----------------------------------------------------------------1. CexLa1-xB6 の強磁場中超音波実験 38 2. CexLa1-xB6 の極低温超音波実験 47 3. CexLa1-xB6 の熱膨張実験 63 4. CexLa1-xB6 の IV 相についての考察 68 5. 結論 -------------------------------------------------------------------------------Appendix 結晶場と多重極子演算子の行列計算 79 参考文献 94 謝辞 98 1 18 30 38 77 第1章 1-1 希土類化合物の四重極子秩序 近年、遷移金属化合物の 3d 電子系、希土類化合物の 4f 電子系、アクチノイド 化合物の 5f 電子系で軌道自由度に起因する物性と秩序 (ここでは四重極子秩序、 3d 電子系では軌道秩序ともいう) について精力的に研究されている。以前は、 四重極子秩序において秩序変数である四重極子のモーメントが中性子散乱など で観測できなかったことから「見えない秩序変数」と呼ばれていたが、実験及 び理論の発展により、その興味深い物性についてより理解されてきた。3d 電子 系では、その物性を担う 3d 電子は最外殻に位置し結晶場の影響を強く受け遍歴 傾向が強く、軌道秩序は磁気秩序や電荷秩序と共に現れる。4f 電子系では、4f 電子が閉殻である 5s、5p 軌道の内側にあるため結晶場の影響が小さく一般的に 局在傾向を示し、純粋な四重極子秩序を示す化合物が多数存在する。5f 電子系 の 5f 電子は、閉殻である 6s、6p 軌道の内側にあるが、その波動関数が最外殻外 へ広がっているため、遍歴的性格の 3d 電子系と局在的性格の 4f 電子系の中間の 性質を示すと考えられる。しかし 5f 電子は不安定で、様々な異常物性を示し、 その起源は良く分かっていない。本研究で扱う CeB6 及び La 希釈系の CexLa1-xB6 を含む希土類化合物は、純粋な四重極子秩序を示す化合物が多いため、軌道自 由度や四重極子秩序の研究に適している。 希土類化合物の 4f 電子は、強いスピン-軌道相互作用により軌道角運動量 L とスピン S が合成された全角運動量 J = L+S が良い量子数となり、J 多重項を形 成する。J 多重項の基底状態と励起状態は数千 K の差があり、室温以下の物性 に励起状態は寄与しない。化合物中では、結晶場により J 多重項はさらに分裂 する。その分裂幅は大きくても数百 K 程度であり、希土類化合物の物性は、結 晶場基底状態によってほとんど決まる。 この結晶場基底状態が四重極子成分を持つとき (基底状態がΓ3 二重項、Γ4 三 重項、Γ5 三重項、Γ8 四重項の場合)、低温で四重極子秩序が現れる可能性がある。 四重極子秩序は、磁気秩序と対比して、図 1-1-1 に示すように、電荷分布が強磁 性の様に同じ方向に整列したものを強四重極子秩序、反強磁性の様に交互に整 列したものを反強四重極子秩序と呼ぶ。表 1-1 に主な四重極子秩序を示す希土類 化合物を示す。四重極子秩序を示す希土類化合物は、そのほとんどが立方晶で あり対称性が非常に高い結晶構造であった。最近、DyB2C2 において、正方晶系 で初めて、反強四重極子秩序が発見された[1-22]。周辺物質である HoB2C2 でも反 強四重極子秩序が確認され[1-26]、正方晶系の四重極子秩序として精力的に研究さ れている。 1 (a) (b) - + - + + - - + + - + - - + + - - + - + - + + - + - + - + - - + 図 1-1-1 四重極子 Oxy 型の (a) 強四重極子秩序と (b) 反強四重極子秩序の模式図。 表 1-1 四重極子秩序を示す主な物質。OΓ5 は、Oyz, Ozx, Oxy を指す。 物質名 結晶構造 基 底 状 態 四重極子転移 磁気転移 TQ ( 秩 序 変 数 , 構 TC or N (構造) 造) CeAg[1-1, 2] 立方晶 CsCl 型 Γ8 15.9 K (O20, FQ) [1-3~7] 0 5.2 K (AFM) 立方晶 C6Cr23 型 Γ8 1.3 K (O2 , FQ) 0.75 K (AFM) 立方晶 CaB6 型 Γ8 32 K (OΓ5, FQ) 26 K (AFM) HoB6[1-8, 10~13] 立方晶 CaB6 型 Γ5 6.1 K (OΓ5, FQ) 5.6 K (AFM) CeB6 立方晶 CaB6 型 Γ8 3.3 K (OΓ5, AFQ) 2.3 K (AFM) Ce3Pd20Ge6 DyB6 [1-8~10] PrPb3 [1-14~16] TmTe [1-17~21] DyB2C2 [1-22~25] 立方晶 AuCu3 型 立方晶 NaCl 型 Γ3 Γ8 正方晶 LaB2C2 型 ? 0 - 2 1.8 K (O2 , AFQ) 0.42 K (AFM) 24.7 K (?, AFQ) 15.3 K (AFM) 0.4 K (O2 , AFQ) 強四重極子秩序では、秩序化に伴い結晶格子が自発的に歪み、結晶全体の対 称性を低下させ、電子系のエネルギー利得を得る。この現象を協力型ヤーン・ テラー効果と呼ぶ[1-27]。四重極子と同じ対称性の歪みは一次結合するため (第 2 章参照)、強四重極子秩序の秩序変数である四重極子と同じ対称性の歪みが発生 する。そのため、強四重極子転移後の結晶構造から秩序変数である四重極子を 同定できる。また強四重極子秩序を示す化合物の特徴として、弾性定数の巨大 なソフト化が挙げられる。弾性定数は物質の硬さを表し、一般的に冷やせば物 質は硬くなり弾性定数は増加する。詳細は第 2 章で述べるが、4f 電子の結晶場 基底状態が四重極子成分を持つとき、弾性定数は温度を下げると 1/T に比例した 減少を示す。この減少をソフト化と言う。図 1-1-2 に Oyz、Ozx、Oxy の強四重極 子秩序を示す希土類六硼化物 HoB6 の弾性定数を示す[1-10]。秩序変数と対応する 2 弾性定数 C44 は 80 %以上のソフト化を 示し、他の弾性定数では弾性異常が小 さい。このように強四重極子秩序を示 す化合物では、秩序変数に対応した弾 性定数の巨大なソフト化が観測され る。 一方、反強四重極子秩序を示す化合 物は、強四重極子秩序と違い四重極子 転移によって巨視的な歪みが発生し ないため結晶構造が変化せず、また弾 性定数の巨大なソフト化も見られな い。本研究で扱う希土類六硼化物 CeB6 は、反強四重極子秩序を示す典型物質 であり、磁気八重極子を含め多重極子 図 1-1-2 HoB6 の弾性定数の温度依存性。 による効果が現れるなど興味深い物 [1-10] 性を示す。また Ce を La で希釈した CexLa1-xB6 では、磁気相互作用、四重極子相互作用、近藤効果の競合により新し い相の出現や劇的な磁気相図の変化などを示す。次節では、反強四重極子秩序 を示す物質 CeB6 と CexLa1-xB6 の基礎物性を説明する。 1-2 CexLa1-xB6 の基礎物性 希土類六硼化物 CeB6 は、高濃度近藤物質であり反強四重極子秩序を示す典型 物質として長年研究されてきた[1-28~52]。近年、長年の謎であった反強四重極子秩 序 II 相における中性子散乱と NMR 実験の解釈の不一致が O. Sakai らによって解 決したことや、La 希釈系の CexLa1-xB6 の x = 0.75 で新たに IV 相が発見されるな ど、実験と理論の両面で研究が急速に発展してきた。本節では、この CeB6 と CexLa1-xB6 の基礎物性について説明する。 CeB6 の結晶構造は CaB6 型の立方晶であり、図 1-2-1 に示すように共有結合に よって強固なネットワークを組む正八面体の B62-に Ce3+イオンが囲まれている 構造である。Ce3+の 4f 軌道は 1 個の電子を有し、この 4f 電子の J 多重項の基底 状態は 2F5/2 であり、第 1 励起状態の 2F7/2 は約 3000 K の位置にある。立方対称の 結晶場により 2F5/2 はΓ7 二重項とΓ8 四重項に分裂し、非弾性中性子散乱実験や弾 性定数の測定から、結晶場基底状態はΓ8 四重項であり、励起状態のΓ7 二重項は 約 540 K と高い励起エネルギーを持っていると報告されている[1-10, 29]。結晶場基 底状態のΓ8 四重項は 15 個の多重極子自由度を有する[1-30]。表 1-2-1 にΓ8 四重項 の多重極子自由度を示す。磁気双極子が 3 個、電気四重極子が 5 個、磁気八重 3 極子が 7 個もあり、この多重極子によ る自由度の多さと相互作用が、低温で 複雑な物性を示す原因の一つである。 図 1-2-2 に CeB6 の比熱を示す[1-31]。0 T では、反強磁性転移点 TN = 2.3 K でλ 型の鋭いピークを示し、TQ = 3.3 K の 小さな異常は反強四重極子転移によ るものである。磁場の印加により、反 強磁性転移によるピークは小さくな り低温側にシフトするのに対し、反強 四重極子転移による異常は鋭く大き 図 1-2-1 CeB6 の結晶構造。体心に Ce があ くなり高温側にシフトする。図 1-2-3 り、立方体の頂点の位置に 6 個の B が正八 に CeB6 の比熱から求められたエント 面体を形成している。 ロピーを示す[1-31]。CeB6 のエントロピ ーは、約 20 K ですでに Rln4 に達し、 反強磁性転移点 TN で Rln2 に達する。これほどの高温側からエントロピーが放出 される原因として、基底状態のΓ8 四重項が持つ多重極子自由度の揺らぎによる 効果[1-32, 33]や近藤効果[1-34]が議論されている。 図 1-2-4 に CeB6 の弾性定数の温度依存性を示す[1-10]。詳細は第 2 章で述べるが、 弾性定数 (C11-C12)/2、C44 ともに、反強四重極子転移点 TQ までソフト化しており、 表 1-2-1 Γ8 四重項の持つ 15 個の多重極子自由度。[1-30] Moments Irreducible representations Operators Jx Dipole Γ4− Jy Jz ( 2 2 O20 = 2 J z − J x − J y Γ3+ 2 O22 = J x − J y Quadrupole 2 ) 3 2 O yz = J y J z O zx = J z J x + 5 Γ Oxy = J x J y Txyz = J x J y J z Γ 2− Txα = 2 J z − J x J y − J z J x 3 − 4 Γ 2 2 T yα = 2 J y − J y J z − J x J y 3 2 2 Tzα = 2 J z − J z J x − J y J z 3 Octupole 2 Txβ = J x J y − J z J x 2 Γ5− 2 T yβ = J y J z − J x J y 2 2 Tzβ = J z J x − J y J z 2 4 2 2 図 1-2-2 CeB6 の磁場中比熱 (H//[111])。 図 1-2-3 [1-31] 図 1-2-4 CeB6 の比熱から求められたエン トロピー。[1-31] 図 1-2-5 CeB6 の弾性定数の温度依存性。 [1-35] [1-10] 5 CeB6 の H//[001]の磁気相図。 図 1-2-6 図 1-2-7 CeB6 の中性子散乱実験により提 CeB6 の H//[001]の 11B-NMR ス ペクトルのピーク分裂幅。[1-37] 案された (a) III 相と(b) II 相の磁気構造。 [1-36] 表 1-2-2 特定の磁場方向によって秩序可能な四重極子と誘起されるモーメント。[1-30] 6 Γ8 四重項が基底状態である事が良く現れて いる。また反強四重極子相互作用により前節 1-1 の強四重極子秩序を示す物質 HoB6[1-10]と 違いソフト化は抑えられ小さい。 図 1-2-5 に CeB6 の H//[001]の磁気相図を示 す[1-35]。高温側から、常磁性相の I 相、TQ = 3.3 K から反強四重極子秩序の II 相、TN = 2.3 K 以下は反強四重極子秩序と反強磁性秩序が 共存する III 相で構成されている。II 相におい 図 1-2-8 H//[001]の磁場中におけ て、磁場中で反強磁性モーメントが誘起され る CeB6 の反強四重極子秩序。白丸 存 在 す る こ と が 、 中 性 子 散 乱 実 験 [1-36] と と黒丸は z 軸上にある硼素 B を表 [1-38] NMR[1-37]により明らかになった。II 相におけ す。 る磁場中の中性子散乱実験の結果によると、 H//[001]では磁気モーメントは誘起されないが、H//[110]の場合、波数 k = [1/2 1/2 1/2]の[001]方向に平行な反強磁性モーメントが誘起されることが明らかになっ た。II 相において磁場誘起の反強磁性モーメントと四重極子モーメントは同じ周 期を持つと考えられ、II 相は図 1-2-6 (b) に示すような k = [1/2 1/2 1/2]の反強四 重極子秩序であると J. M. Effantin らによって提案された[1-36]。一方、NMR では 図 1-2-7 に示すように、H//[001]で磁場誘起の反強磁性モーメントによるものと 思われる NMR スペクトルのピーク分裂幅の増大が観測された。この結果から M. Takigawa らによって、J. M. Effantin らとは全く別の k = [0 0 1/2]の 3-k 構造の 反強四重極子秩序が提案された[1-37]。この中性子散乱と NMR 実験の矛盾により、 II 相の秩序変数とその構造は、長い間未解決であった。 この長い間謎であった問題は、近年になって O. Sakai らによって解決した[1- 38]。 表 1-2-2 は、R. Shiina らによって示された主要な磁場方向によって可能な四重極 子秩序と磁場で誘起されるモーメントをまとめたものである[1-30]。表 1-2-2 によ ると、磁場中の四重極子秩序相では磁気双極子モーメントの他に、磁気八重極 子モーメントが誘起されることが分かる。O. Sakai らは、四重極子 Oyz、Ozx、Oxy と八重極子 Txyz を考えることにより、NMR の結果でも、中性子散乱実験と同じ k = [1/2 1/2 1/2]を説明できることを示した。図 1-2-8 に H//[001]の磁場中の Oxy の反強四重極子秩序の模式図を示す[1-38]。H//[001]の場合、k = [1/2 1/2 1/2]の Oxy の反強四重極子秩序では、磁気双極子モーメントは誘起されないが、磁気八重 極子モーメント Txyz が誘起される。このとき、図 1-2-8 の白丸と黒丸の B は異な る微細相互作用を感じる。このため、図 1-2-7 のように、H//[001]の NMR スペク トルのピーク分裂幅は、磁場が印加されることによって増大する。この結果か ら II 相は、H//[001]では Oxy、H//[110]では Oyz+Ozx、H//[111]では Oyz+Ozx+Oxy の 7 図 1-2-10 図 1-2-9 CeB6 における T = 2.7 K、H = 0T CeB6 の H//[11-2]の共鳴 X 線散乱 の温度依存性。[1-43] [1-42] の共鳴 X 線散乱のエネルギー依存性。 反強四重極子秩序であることが明らかになった。また、この系では磁気八重極 子が重要な役割を果たすことが初めて示された。 これまで四重極子秩序の秩序変数を観測する手段がなく、上記で見てきたよ うに、磁場誘起の磁気モーメントなどから間接的にその構造を想像するしかな かった。しかし最近、Y. Murakami らは、共鳴 X 線散乱によって四重極子秩序の 秩序変数を観測することに成功した[1-39~41]。Y. Murakami らは 3d 電子系の軌道秩 序の観測に用いて成果を挙げていたが、H. Nakao らと F. Yakhou らの 2 つのグル ープによって 4f 電子系の CeB6 の II 相で共鳴 X 線散乱実験が行われた[1-42, 43]。 H. Nakao らの結果を図 1-2-9、10 に示す[1-42]。II 相では、5.722 keV で X 線の信 号強度の増大が観測された。T. Nagao らは、II 相の秩序変数が O. Sakai らが指摘 した H//[001]では Oxy、H//[110]では Oyz+Ozx、H//[111]では Oyz+Ozx+Oxy で解析す ることにより共鳴 X 線散乱実験の結果が説明できることを示し、II 相の秩序変 数が理論的解析と一致していることを示した[1-44~47]。 図 1-2-11 に CeB6 の H//[001]の 30 T までの磁気相図を示す[1-48]。反強四重極子 転移温度 TQ は、磁場を上げるにつれて上昇し、30 T の強磁場でも上昇傾向が続 いている。この II 相の磁気相図を説明するために、2 つのモデルが提案されてい る。1 つは、表 1-2-1 に示した高次の項も含めた多重極子を考えるモデルである。 これは、RKKY 型の相互作用を考えた Ohkawa モデル[1-49, 50]の拡張モデルである [1-30, 33, 51, 52] 。もう 1 つは、四重極子 (または多重極子) の揺らぎを考えたモデル [1-53] である 。この揺らぎの効果は、基底状態のΓ8 四重項の 15 個もの多重極子自 由度により、0 T の転移温度を押し下げる。実際には、これら両方が効いている と考えられており、最近 R. Shiina によって両方の効果を取り入れ計算された II 8 相の磁気相図を図 1-2-12 に示す[1-52]。この磁気相図は、以下の秩序変数 Oyz、Ozx, Oxy と磁場誘起される八重極子 Txyz を考慮にいれたハミルトニアンと Zeeman 効 果と揺らぎを考慮することにより得られた。 H I = H 0 + δg Γ 5 OΓ 5 OΓ 5 + δI Γ 2Txyz Txyz (1.1) 図 1-2-11 CeB6 の H//[001]の 30 T まで 図 1-2-12 の磁気相図。反強四重極子転移 TQ のみ 四重極子秩序相の磁気相図。[1-52] R. Shiina により計算された反強 記してある。[1-48] 図 1-2-14 図 1-2-13 CexLa1-xB6 の電気抵抗。 [1-56] 気相図。 9 Ce0.75La0.25B6 の H//[001]の磁 [1-57] ここで、H0 は SU (4) 対称性の部分で 15 個の多重極子が同じ強さの相互作用を 持つ。式 1.1 の第 2 項と第 3 項は SU (4) 対称性からのずれを表しており、δgΓ5 とδIΓ2 はそれぞれ四重極子 Oyz、Ozx,Oxy と八重極子 Txyz の相互作用の結合定数 のずれを表している。計算結果では、反強四重極子転移点は H//[001]で約 40 T で極大値を取った後、約 70 T で閉じる。一方、H//[110]、H//[111]では 80 T でも TQ はほとんど減少しない。この計算結果などから、反強四重極子秩序 II 相は閉 じると考えられているが、相転移の観測には非常に高い磁場が必要になるため、 現状では実験が困難である。 反強磁性と反強四重極子秩序が共存する III 相は、図 1-2-6 (a) のように磁気モ ーメントが xy 面内に存在し、それぞれ[110]、[1-10]に平行に並び、波数は k1 = [1/4 1/4 1/2]、k2 = [1/4 -1/4 1/2]の 2-k 構造と複雑な構造をしている。この複雑な磁気 構造は、H. Kusunose らによって理論面から論じられている[1-54, 55]。III 相は Oxy 型の四重極子と磁気双極子、さらにΓ5 型の磁気八重極子 Txβ、Tyβ、Tzβのモーメ ントで構成されていると考え、最隣接イオン間の相互作用だけでなく第二隣接 イオン間との相互作用も考えると III 相の磁気構造を再現できると指摘している。 またこの場合、H//[111]の III’相の磁気構造も説明できる。以上の事からも、CeB6 では磁気八重極子が重要な役割を果たしていると考えられる。 CeB6 を 4f 電子を持たない La で希釈した CexLa1-xB6 は、Ce 濃度 x を調節する ことにより磁気相互作用や四重極子相互作用など多重極子相互作用を制御する ことができる。La3+イオンは Ce3+イオンよりもイオン半径が大きいため、La が 増えるにしたがい結晶の格子定数が CeB6 の 4.141 Å から LaB6 の 4.153 Å と長く なり、多重極子相互作用は弱くなる。図 1-2-13 に CexLa1-xB6 の電気抵抗を示す[1-56]。 電気抵抗は、Ce 濃度 x が、1 から 0.03 までの全てで 100 K より低温で-logT 依存 性を示し、近藤効果が見られる。近藤温度 TK は、ほぼ全濃度で約 1 K であると 報告されており、Ce 濃度 x にほとんど依存しない[1-52]。そのため、Ce 濃度 x を 変化させることにより、磁気相互作用と四重極子相互作用を含む多重極子相互 作用と近藤効果の競合が起こり、CexLa1-xB6 では興味深い多彩な物性が見られる。 Ce 濃度 x が減少すると、CeB6 では TQ = 3.3 K と TN = 2.3 K であった反強四重 極子転移点 TQ と反強磁性転移点 TN はともに減少する。TQ が TN よりも急激に減 少するため、ある Ce 濃度で TQ と TN は交差し、Ce0.75La0.25B6 で新たに IV 相が発 見された[1-53~55]。図 1-2-14 に Ce0.75La0.25B6 の H//[001]の磁気相図を示す[1-57]。0 T で 1.1 ~ 1.6 K、臨界磁場が約 0.7 T 程度と非常に狭い範囲に IV 相は存在する。III 相は反強磁性と反強四重極子秩序の共存相のため、TN > TQ に見える IV 相は反強 磁性秩序と推測されたが、実際にはそのような単純なものではなく、新しい物 性を示す秩序相であることが様々な実験により分かってきた。 図 1-2-15 に Ce0.75La0.25B6 の H//[001]の磁場中比熱を示す[1-57]。0 T の高温側の 10 図 1-2-15 中比熱。 図 1-2-17 Ce0.75La0.25B6 の H//[001]の磁場 図 1-2-16 [1-57] Ce0.75La0.25B6 の弾性定数 C44 の 磁場中温度依存性。 図 1-2-18 [1-57] CexLa1-xB6 の帯磁率。[1-58] Ce0.75La0.25B6 の弾性定数 C11、 CB、(C11-C12)/2 の温度依存性。[1-57] 11 鋭いピークは I-IV 相転移を示し、IV 相は長距離秩序相だと考えられる。低温側 の小さな異常は、IV-III 相転移に対応する。磁場を印加すると、I-IV 相転移のピ ークは急速に消え、12 kOe 以上では反強四重極子秩序 II 相への転移が出現する。 図 1-2-16 に CexLa1-xB6 の帯磁率を示す[1-58]。CeB6 の反強四重極子転移点では小 さな折れ曲がりを示すだけなのに対し、Ce0.75La0.25B6 の I-IV 相転移は反強磁性転 移のようなカスプを示した。しかし IV 相内では、反強磁性秩序 III 相のような 磁気異方性がほとんど見られなかった。 この IV 相の最も重要な特徴は、IV 相内で見られる弾性定数 C44 の巨大なソフ ト化である[1-57]。図 1-2-17 に Ce0.75La0.25B6 の弾性定数 C44 の温度依存性を、図 1-2-18 にその他の弾性定数を示す[1-57]。C44 は I-IV 相転移近傍から急激に減少し、 IV-III 相転移まで 30%以上のソフト化を示し、III 相に入ると急激にハード化する。 一方、その他の弾性定数 C11、CB、(C11-C12)/2 は、I-IV 相転移で小さな異常を示 すだけである。通常、一つの弾性定数だけ巨大なソフト化を示す場合、強四重 極子秩序の可能性が考えられる。しかし、これまで強四重極子秩序を示す化合 物では、図 1-1-2 に示した HoB6 の C44 のように高温側から強四重極子転移点ま でソフト化し転移後はハード化する[1-10]。そのため、IV 相は単純に強四重極子 秩序だと考えることはできない。 図 1-2-19 に Ce0.75La0.25B6 の中性子回折実験の結果を示す[1-60]。III 相では反強 磁性秩序による磁気超格子ピークが見られるのに対し、IV 相では全く観測され ていない。したがって、IV 相は磁気双極子による秩序相ではないと考えられる。 図 1-2-20 に Ce0.70La0.30B6 のµSR の実験結果を示す[1-61]。Ce0.70La0.30B6 も約 1.4 K で IV 相に転移することが報告されている。I 相である 1.4 K 以上では、ミューオ ンスピンの緩和率が比較的小さいのに対し、IV 相では急速な緩和が見られた。 これは IV 相で内部磁場が発生していることを示している。しかし、ミューオン スピンの歳差運動の信号が見られないことから、IV 相は反強磁性秩序相ではな いと報告されている。 図 1-2-21 に Ce0.75La0.25B6 の 11B-NMR スペクトルの半値幅 (FWHM) の温度依 存性を示す[1-62]。NMR スペクトルの半値幅は、温度が下がるにつれて IV 相内で 急激に増大している。K. Magishi らは、この半値幅の増大の原因は IV 相が反強 磁性相であると結論づけている。しかし中性子散乱やµSR の実験から、IV 相は 反強磁性相ではないので、この半値幅の増大はµSR の内部磁場の発生の報告[1-61] と関連していると思われ、その原因は他にあると思われる。 以上の実験結果は、これまで良く知られている磁気秩序や四重極子秩序では 説明できない。CeB6 の II 相や III 相では八重極子が重要な役割を担っているこ とから、IV 相が八重極子秩序である可能性が指摘された[1-54, 63]。しかし八重極 子を直接観測する手段がなく、秩序変数を決定付ける実験結果と理論は未だ提 12 図 1-2-19 Ce0.75La0.25B6 の中性子回折 実験の結果。上の図は 74 mK と 3.5 K 図 1-2-20 の強度の差である。下の図は 1.25 K と 果。(a) LF-µSR 時間スペクトルと (b) その 3.5 K の強度の差である。[1-60] 図 1-2-21 Ce0.75La0.25B6 の 11 Ce0.70La0.30B6 のµSR の実験結 拡大図。[1-61] B-NMR 図 1-2-22 スペクトルの半値幅の (a) H//[111]及 び (b) H//[001]の温度依存性。[1-62] 13 CexLa1-xB6 の比熱。[1-64] 出されていなかった。 Ce0.75La0.25B6 からさらに Ce 濃度 x を減少させると、I-IV 相転移も減少してい く。図 1-2-22 に CexLa1-xB6 の比熱を示す[1-64]。Ce0.75La0.25B6 で約 1.6 K で観測さ れた I-IV 相転移のピークは、Ce0.65La0.35B6 では約 1.2 K で見られ Ce0.75La0.25B6 と 比べて小さくなっており、IV-III 相転移の小さな異常は観測されなかった。さら に x を減少させた Ce0.60La0.40B6 と Ce0.50La0.50B6 では、0.8 K 付近に緩やかなピー クを示した。 最新の研究結果も含めると、CexLa1-xB6 の IV 相は x = 0.8[1-65] ~ 0.65 まで確認さ れている。0 T における III 相の存在は、 現在のところ x > 0.75 までであり、x < 0.70 では確認されていない。これまでの比熱[1-64]、µSR[1-61]実験などの結果から考え て、x = 0.7、0.65 の IV 相は絶対零度まで安定であると思われる。 x < 0.60 以下では、低温低磁場領域の状態について、2 つの解釈があり、決着 がついていない。一つの解釈は、図 1-2-22 で示した x = 0.60 と 0.50 の比熱のピ ークが非常に緩やかなので、その低温低磁場領域は IV 相へ転移せず非磁性近藤 一重項状態へ移行すると主張している[1-64, 66]。また図 1-2-23、24 に示す電気抵抗 の実験[1-66]によると、x = 0.65 の IV 相はフェルミ液体状態であるのに対し、x = 0.50 の低温低磁場領域は非フェルミ液体状態との結果を示しており、非磁性近 藤一重項状態の可能性を支持している。もう一方の解釈は、x < 0.60 以下でも IV 相に転移するという意見である。これは、図 1-2-14 の x = 0.50 の帯磁率で x = 0.70 と似たピークを示すことや、電気抵抗などいくつかの実験結果から主張してい る[1-58, 67]。 Ce 濃度 x の減少により、0 T だけでなく磁場中でも反強四重極子転移点は下降 し、II 相の領域が減少する。 図 1-2-25 に CexLa1-xB6 (x < 0.4) の磁気相図を示す[1-68]。 15 T までの実験結果であるが、Ce0.4La0.6B6 では約 12 T 付近から 15 T まで反強四 重極子転移点が減少しているのが確認でき、II 相が閉じる可能性が示された。し たがって、x = 0.5 付近の希釈された系では、CeB6 と違い比較的低い磁場で II 相 が閉じるかどうかを観測することが可能であると思われる。しかしながら、実 験には 20 T 以上の強磁場が必要である。 最後に CexLa1-xB6 では、希釈系であるにもかかわらずドハース・ファンアルフ ェン効果が観測されている。図 1-2-26 に Ce0.4La0.6B6 のパルスマグネットによる 実験結果[1-69]を図 1-2-27 に Ce0.50La0.50B6 の磁気抵抗の結果[1-66]を示す。パルスマ グネットの実験では、Ce0.4La0.6B6 だけでなく Ce 濃度 x を 0 ~ 1 の間を細かく測 定し、どの濃度でもドハース・ファンアルフェン信号を観測している。CexLa1-xB6 では、Ce3+の 4f 電子は局在しているため、4f0 の La3+結晶学的性質が類似してい る。また、CeB6 と LaB6 の格子定数の違いも 0.01 Å 程度と小さいため、伝導電 子からは CexLa1-xB6 の結晶構造は均一できれいに見えるものと思われる。図 1-2- 14 図 1-2-23 Ce0.50La0.50B6 の電気抵抗。[1-66] 図 1-2-25 CexLa1-xB6 (x < 0.4)の磁気相図。 図 1-2-24 図 1-2-26 [1-68] Ce0.65La0.35B6 の電気抵抗。[1-66] Ce0.4La0.6B6 のドハース・ファ ンアルフェン振動とフーリエ変換の結 果。[1-69] 15 27 の磁気抵抗では、比較的低い磁場で ドハース・ファンアルフェン信号が観 測されており、試料の質が純良である と思われる。本研究で使用した CexLa1-xB6 の試料は、磁気抵抗でドハ ース・ファンアルフェン効果が観測さ れた試料を製作した国井暁教授から の提供であり、均一できれいな試料で あると思われる。 1-3 本研究の目的 これまで見てきたように CexLa1-xB6 mK における H//[001]の磁気抵抗。[1-62] は、基底状態Γ8 四重項の持つ 15 個の 多重極子自由度と近藤効果により、複 雑な磁気相図と興味深い物性を示す。特に IV 相の物性はこれまで見られなかっ たものであり、秩序変数と異常物性の起源は、未だ明らかになっていない。本 研究では、IV 相の秩序変数の解明を行う。さらに、反強四重極子秩序 II 相の磁 気相図の決定を行う。II 相は、様々な研究により秩序変数とその物性が明らかに なってきたが、II 相の磁気相図が本当に閉じるのかどうか分かっていない。II 相の磁気相図を決定する事は、これまで考えられてきた理論が正しいのかどう か、どの相互作用がどのくらいの強さなのかを議論することができるため、重 要である。 以上の目的のために、超音波による弾性定数の測定と熱膨張測定の 2 つの実 験方法を用いた。超音波実験は、軌道自由度に由来する四重極子感受率、価数 揺動物質の電荷自由度に由来する電荷揺らぎモード、カゴ状物質のラットリン グやトンネリングなどのオフセンターモードや音響ドハース効果の観測に対し て強力な実験手段である。第 2 章で述べるように、四重極子は超音波で誘起し た対称歪みと一次結合する。したがって、超音波で測定する弾性定数は、四重 極子感受率として理解できる。特に本研究のような四重極子秩序または四重極 子成分が存在する 4f 電子系では、超音波は重要な実験手段である。熱膨張測定 は、結晶格子のミクロな歪みを結晶全体のマクロな歪みとして観測することが できる。第 2 章で詳しく述べるように、熱膨張の測定方向により歪みの対称性 を区別して観測することができる。そのため熱膨張を測定することにより、歪 みが発生していない場合は反強四重極子秩序、歪みが発生している場合は強四 重極子秩序と判断することができる。さらに強四重極子秩序の場合は秩序変数 を同定することができる。よって、熱膨張測定も四重極子秩序の研究には欠か 図 1-2-27 Ce0.50La0.50B6 の極低温 T = 30 16 せない実験である。 以上の研究目的を達成するために、3 つの具体的な目的を設定した。鈴木修氏、 木戸義勇氏との共同研究により物質・材料研究機構の 40 T 級ハイブリッドマグ ネットを使用する機会を得たので、実際に II 相が閉じるのかどうか調べるため 希釈系の Ce0.50La0.50B6 で強磁場超音波実験を行った。これまでの実験結果や図 1-2-12 の理論計算と比較するため、主要 3 方向 H//[001]、[110]、[111]の 30 T ま での磁気相図の作成を行った。 IV 相 の 重 要 な 特 徴 の 1 つ で あ る 弾 性 定 数 C44 の 巨 大 な ソ フ ト 化 は 、 Ce0.75La0.25B6 では IV-III 相転移で止まり、その後 C44 は急激なハード化を示す。0 T で CexLa1-xB6 (x = 0.70、0.65) は IV 相へ転移するが、これまで反強磁性 III 相 への転移は確認されていない。そのため、CexLa1-xB6 (x = 0.70、0.65)の C44 のソ フト化は極低温まで冷やした場合どこまで続くのか、また III 相への転移が存在 するかどうかを確認する事は、IV 相の秩序変数を考える上で興味がある。また CexLa1-xB6 (x < 0.60)の低温低磁場領域は、IV 相なのか近藤一重項状態に移行して いるのかはっきりしていない。本研究では、 3He-4He 希釈冷凍機を用いて CexLa1-xB6 (x = 0.70 ~ 0.50) の極低温の弾性定数 C44 の測定と Ce0.50La0.50B6 の極低 温の H//[001]、[110]、[111]の弾性定数の測定を行い、極低温領域の磁気相図を決 定し基底状態の議論を行った。 IV 相では弾性定数 C44 が巨大なソフト化を示し、磁気双極子モーメントが発 生していないことから、IV 相は強四重極子秩序の可能性があり、第 2 章で示す ように C44 に対応する歪みεyz、εzx、εxy が発生している可能性がある。CexLa1-xB6 (x = 0.75, 0.70) で熱膨張測定を行い、IV 相で歪みが発生しているかどうか確認 する。第 2 章 2 節で示すように、[001]方向の熱膨張と[111]方向の熱膨張は、そ れぞれΓ3 対称性の歪みεu とΓ5 対称性の歪みεyz = εzx = εxy を区別して観測すること ができるため、[001]方向と[111]方向の熱膨張測定を行った。この熱膨張の結果 と最新の理論的解析の論文をもとに、IV 相の秩序変数の可能性について議論す る。 17 第2章 四重極子 超音波によって測定される弾性定数は、磁気双極子モーメントの応答として の帯磁率と同様に、電気四重極子モーメントの応答としての四重極子感受率と して理解でき、軌道自由度 (四重極子成分) を持つ電子状態を観測することがで きる。結晶のマクロな歪みを観測する熱膨張実験は、測定方向により対称性の 違う歪みを区別して観測することができ、秩序変数の四重極子と同じ対称性の 自発歪みが発生する強四重極子秩序では、秩序変数を同定することができる。 この章では、四重極子と弾性定数と熱膨張について概説する。 2-1 弾性定数 超音波で音速 v を測定することにより弾性定数 C を決定できる。超音波の波 長が結晶の原子間距離に比べて充分に長く、結晶格子の周期を無視できるとき、 結晶を一様な連続体とみなすことができる。本研究で使用した超音波の周波数 は 10 ~ 100 MHz であり音速は 5 km 程度なので、波長は 50 ~ 500 nm となり連続 体近似が成り立つ。 超音波は結晶格子を歪ませながら結晶中を伝搬する。α方向に進行しβ方向に 変位する超音波は、β方向の変位を uβとすると、歪みテンソル∂uβ/∂αを誘起する。 格子の回転を伴わない歪みは、 1 ∂u ∂u ε αβ = β + α = ε βα 2 ∂α ∂β (α, β = x, y, z) (2.1) と定義される。結晶格子が歪むと原子間距離が変化し、弾性エネルギーが上昇 する。また格子の回転は、反対称テンソルで 1 ∂u ∂u ωαβ = β − α = −ω βα 2 ∂α ∂β (2.2) と定義される。横波超音波の波数ベクトル k と変位ベクトル u を入れ替えた場 合、誘起される回転の符号が入れ替わる。格子の回転は原子間距離を変えない ので、一般には弾性エネルギーを変えない。回転の影響は磁場中の弾性定数を 考えるときに現れる。 超音波が誘起する歪みが微小なとき、フックの法則が成り立つ。そのため外 部から加えた応力σκλと結晶内に発生する歪みεαβには、比例関係が成立し、以下 の様に書ける。 σ κλ = Cκλαβ ε αβ (2.3) 18 z z z T1 T y T L x T2 y L y T L x k k x T k [100]方向の波 [110]方向の波 [111]方向の波 L : C11 T : C44 L : (C11+C12+2C44)/2 T1 : C44 T2 : (C11-C12)/2 L : (C11+2C12+4C44)/3 T : (C11-C12+C44)/3 図 2-1-1 立方晶における弾性定数と主要方向へ伝搬・変位する超音波の関係。[2-1] Cκλαβは弾性スティフネス定数と呼ばれ物質の固さを表し、通常これを単に弾性 定数と呼ぶ。弾性定数は 21 個の独立な値を持つが、本研究の対象である CexLa1-xB6 は立方晶なのでその数は 3 個に減少し、式 2.3 は σ xx C11 σ yy C12 σ C zz = 12 σ yz 0 σ zx 0 σ 0 xy C12 C12 0 0 C11 C12 0 0 C12 0 C11 0 0 C 44 0 0 0 0 0 C 44 0 0 0 0 0 ε xx 0 ε yy 0 ε zz 0 ε yz 0 ε zx C 44 ε xy (2.4) となる。ここで弾性定数の添え字は、1 = xx, 2 = yy, 3 = zz, 4 = yz, 5 = zx, 6 = xy と 定義する。 x 方向へ伝搬し x 方向へ変位する縦波超音波について考える。結晶中の微小体 積要素に働く力を考え、x 方向の運動方程式をたてると、 ∂ 2 u x ∂σ xx ∂σ xy ∂σ xz ρ 2 = + + (2.5) ∂x ∂y ∂z ∂t となる。ここでρは結晶の密度である。y 方向及び z 方向についても同様の式が 成り立つ。式 2.5 に式 2.4 を代入し計算すると ∂ 2u ∂ 2u ∂ 2u ∂ 2u ρ 2 x = C11 2x + C 44 2x − 2x ∂t ∂x ∂z ∂y ∂ 2u y ∂ 2u z + (C12 + C 44 ) − ∂x∂y ∂x∂z を得る。x 方向へ伝搬する縦波 u x = u 0 exp{i (k x x − ωt )} (2.6) (2.7) 19 を式 2.6 に代入すると、 ω C11 = ρ kx 2 = ρv x 2 ( vx = ω kx ) (2.8) が得られる。ここで vx は x 方向へ伝搬し x 方向へ変位する縦波超音波の音速で ある。弾性定数は音速の 2 乗に比例していることがわかる。図 2-1-1 に立方晶に おける弾性定数と入射超音波の伝搬方向、変位方向の関係を示す。 2-2 四重極子感受率 次に弾性定数と四重極子感受率について説明する。ここで研究対象が CexLa1-xB6 なので、立方晶の場合にしぼって説明する。希土類イオンの 4f 電子は、 スピン-軌道相互作用によって J 多重項に分裂し、フント則に従った多重項基底 状態をとる。Ce3+イオンの場合、基底状態が 6 重縮退の 2F5/2 であり、約 3000 K に励起状態の八重縮退である 2F5/2 がある。室温以下の物理現象を考える場合、 基底状態の 2F5/2 のみを考えればよい。立方対称の結晶場ハミルトニアンは、 ( ) ( H CEF = B4 O40 + 5O44 + B6 O60 − 21O64 ) (2.9) と記述でき、結晶場は B4 と B6 の 2 つの結晶場パラメータによって決まる[2-2, 3]。 Olm はスティーブンスの等価演算子であり、以下の様に定義される。 O40 = 35 J z − 30 J ( J + 1)J z + 25 J z − 6 J ( J + 1) + 3J 2 ( J + 1) 4 2 2 2 表 2-1 立方晶の四重極子と対称歪みの対称性と弾性定数の関係。 対称性 四重極子 2 Γ1 2 OB = J x + J y + J z O = 0 2 2J z − J x − J y ε β = ε xx + ε yy + ε zz 2 εu = 3 2 O22 = J x − J y Γ5 2 弾性定数 2 O4 = O40 + 5O44 2 Γ3 対称歪み 2ε zz − ε xx − ε yy 3 ε v = ε xx − ε yy 2 O yz = J y J z + J z J y ε yz Ozx = J z J x + J x J z ε zx ε xy Oxy = J x J y + J y J x 20 C11 C11 − C12 2 C44 ( 4 4 ) O44 = J + + J − / 2 O60 = 231J z − 315 J ( J + 1)J z + 735 J z + 105 J 2 ( J + 1) J z − 525 J (J + 1)J z 6 4 4 2 2 2 + 294 J z − 5 J 3 ( J + 1) + 40 J 2 ( J + 1) − 60 J ( J + 1) 2 { 3 }( 2 ) ( ){ (2.10) } O64 = 11J z − J ( J + 1) − 38 J + − J − / 4 + J + + J − 11J z − J ( J + 1) − 38 / 4 2 4 4 4 4 2 超音波によって格子に与えられた変調は、4f 電子の結晶場ポテンシャルに摂 動として作用し、これを四重極子-歪み相互作用と呼ぶ。表 2-1 に立方晶におけ る、対称歪みと四重極子の対称性と弾性定数の関係を、図 2-2-1 に対称歪みと四 重極子の模式図を示す。四重極子と同じ対称性の対称歪みは一次結合するため、 立方晶系での四重極子-歪み相互作用を記述するハミルトニハンは、 H QS = −∑ g Γ OΓγ ε Γγ Γγ ( (2.11) ) = − g Γ1 OB ε B − g Γ3 O20 ε u + O22 ε v − g Γ5 (O yz ε yz + O zx ε zx + O xy ε xy ) と書くことができる。ここで OΓγは四重極子演算子、εΓγは対称歪み、gΓは四重極 子-歪み相互作用の結合定数であり、超音波で測定した弾性定数の解析により 絶対値 |gΓ| を決定することができる。式 2.11 を結晶場の摂動として取り入れ、 結晶場準位の |i> 状態のエネルギーを歪みに対する二次の摂動項まで展開する と次のように記述できる。 ( ) Ei ε Γγ = E − i H QS i + ∑ 0 i j ≠i i H QS j 2 Ei0 − E 0j = Ei0 − g Γ ε Γγ i OΓγ i + g Γ ε Γγ ∑ 2 j ≠i i OΓγ j (2.12) 2 Ei0 − E 0j 次に立方晶の格子系の弾性エネルギーは、フックの法則から E elastic = 1 2 C Γ ε Γγ ∑ 2 Γ ( ) ( 1 1 1 1 2 2 2 2 2 2 = C B ε B + (C11 − C12 ) ε u + ε v + ε yz + ε zx + ε xy 2 2 2 2 ) (2.13) と書ける。ここで CB = (C11+2C12)/3 は体積弾性率である。 結晶中の全自由エネルギーは電子系の自由エネルギーと格子系のエネルギー の和で表され、式 2.12 と 2.13 から次のように与えられる。 1 2 F = ∑ C Γ0 ε Γγ − Nk B T log Z (Ei ) (2.14) Γ 2 ここで CΓ0 は四重極子-歪み相互作用が存在しない場合の弾性定数であり、N は 21 図 2-2-1 四重極子と対称歪み 22 単位体積中の希土類イオンの数である。Z は分配関数であり、 E (ε ) Z = ∑ exp − i Γ i k BT (2.15) である。系が安定となる条件∂F/∂εΓγ = 0 から ε Γγ = Ng Γ OΓγ (2.16) C Γ0 となり、四重極子と歪みが比例関係にあることがわかる。 自由エネルギーの式 2.14 を歪みεΓγで二階微分しεΓγ → 0 の極限をとることに より、弾性定数 CΓを求めることができる。 C Γ (T ) = C Γ0 − Ng Γ χ Γ (T ) 2 (2.17) χΓ (T) は四重極子感受率と呼び、 − g Γ χ Γ (T ) = 2 ∂ 2 Ei ∂ε Γγ 2 1 ∂Ei − k B T ∂ε Γγ 2 ∂Ei − ∂ε Γγ 2 (2.18) と与えられる。ここで<>はボルツマン分布の熱平均 ∑ A exp(− E / k T ) = ∑ exp(− E / k T ) i Ai i B i i (2.19) B i である。式 2.18 の第一項は、ヴァン・ブレック項と呼び、四重極子演算子の非 対角成分から寄与であり、低温で一定値を示す。第二項は、キュリー項と呼び、 四重極子演算子の対角成分からの寄与であり、1/T に比例し低温で発散する。以 下にヴァン・ブレック項が支配的な場合とキュリー項が支配的な場合の例を示 す。図 2-2-2 に立方晶中の Ce3+イオンの 4f 電子の結晶場基底状態がΓ8 四重項ま たはΓ7 二重項の場合の四重極子感受率の温度依存性を示す。図 2-2-2 の左図は、 弾性定数 (C11-C12)/2 の四重極子感受率であり、対応する四重極子は O20、O22 で ある。右図は、弾性定数 C44 の四重極子感受率であり、対応する四重極子は Oyz、 Ozx、Oxy である。Appendix を参考にすると、Γ7 二重項が基底状態の場合、O20、 O22、Oyz、Ozx、Oxy のΓ7 二重項の対角項は 0 であるため低温でキュリー項の寄与 がなくなり、(C11-C12)/2、C44 はともに低温でソフト化が無くなり絶対零度で一定 値を示す。一方、Γ8 四重項が基底状態の場合、O20、O22、Oyz、Ozx、Oxy のΓ8 四 重項の対角項は有限の値を持つため低温でキュリー項が支配的になり、 (C11-C12)/2、C44 はともにソフト化を示し絶対零度に向かって発散する。 希土類化合物中の四重極子を持つイオン間には、強的または反強的な四重極 23 0 0 Γ7 ground state -10 -20 -χΓ (T) ∆ Γ8 ground state -30 5 3 -χΓ (T) ∆ -10 -40 -50 -20 -40 -60 0.5 1.0 1.5 T/∆ 2.0 Γ7 ground state -30 C 44 mode -50 (C 11-C 12)/2 mode -60 Γ8 ground state 2.5 0.5 1.0 1.5 T/∆ 2.0 2.5 図 2-2-2 立方晶中の Ce3+イオンの 4f 電子の結晶場基底状態がΓ8 四重項またはΓ7 二重項 の場合の四重極子感受率の温度依存性。 子相互作用が働く。隣接するαサイトとβサイトの四重極子の間に働く相互作用 を考えた場合のハミルトニアンは、 H QQ = − ∑ GΓαβ OΓαγ OΓβγ (2.20) α ≠β と書き表せる。ここで GΓαβは四重極子相互作用の強さを表す結合定数である。α サイトに注目し、βサイトの四重極子をαサイト以外の四重極子の期待値で置き 換える分子場近似によって式 2.20 を書き直すと立方晶では、 H QQ = − g Γ ' ∑ OΓγ OΓαγ α ( α = − g Γ 3 ' ∑ O20 O20 + O22 O22 α α )− g ' ( O Γ5 α yz α O yz + O zx O zx + O xy O xy α ) (2.21) となる。ここで g Γ ' = ∑ GΓαβ (2.22) β とした。よって、gΓ’も四重極子相互作用の結合定数である。四重極子-歪み相 互作用を加えたハミルトニアンは、 α α H QS + H QQ = −∑ ∑ g Γ OΓγ ε Γγ + ∑ g Γ ' OΓγ OΓγ α Γγ Γγ g ' α = −∑∑ g Γ OΓγ ε Γγ + Γ OΓγ gΓ α Γλ = −∑∑ g Γ OΓγ ε Γγ α α eff Γγ 24 (2.23) と書き表すことが出来る。ここでεΓeff は、 ε Γγ eff = ε Γγ + g Γγ ' g Γγ (2.24) OΓ γ とし、有効歪みとして扱う。式 2.23 のハミルトニアンは、式 2.11 の HQS と同じ 形になり、前述の考え方と同様の議論ができる。よって、四重極子相互作用を 考慮した場合の弾性定数は、 Ng Γ χ Γ (T ) 1 − g Γ ' χ Γ (T ) 2 C Γ = C Γ0 − (2.25) と求められる。gΓ’が正の場合は、四重極子間に強的な相互作用が働き、弾性定 数のソフト化が大きくなる。負の場合は、反強的な相互作用が働き、ソフト化 は抑えられ小さくなる。 2-3 熱膨張と四重極子 結晶格子で生ずるミクロな歪みは、マクロな歪み、つまり熱膨張として観測 することができる。式 2.16 より、同じ対称性の四重極子と歪みは線形結合して いることがわかる。そのため強四重極子秩序では、秩序変数である四重極子の 対称性と同じ歪みが発生するため、熱膨張を測定することにより秩序変数を決 定することができる。ここでは、立方晶の 3 つの主軸方向の熱膨張と対称性に よって分類した対称歪みとの関係について述べる。 図 2-3-1 に示すように、互いに直交する単位長さのベクトル x、y、z で記述で きる結晶格子が歪んで x’、y’、z’になる場合、 z z' 90° 90° y' 90° y x x' 図 2-3-1 結晶格子の歪みによる軸の変化。 25 x' = (1 + ε xx )x + ε xy y + ε xz z y ' = ε yx x + (1 + ε yy )y + ε yz z (2.26) z ' = ε zx x + ε zy y + (1 + ε zz )z と記述できる。変化後の長さ|x’|2 は、第一次近似までとると 2 x'⋅ x' = x' = 1 + 2ε xx + ε xx + ε xy + ε xz 2 2 2 ∴ x' = 1 + 2ε xx + ε xx + ε xy + ε xz ≅ 1 + ε xx + K 2 2 2 (2.27) となり、x、y、z の長さの変化はそれぞれεxx、εyy、εzz であることが分かる。例 えば、立方晶の四回軸[001]方向の熱膨張測定から得られる変化は、εzz となる。 εzz を図 2-2-1 で示した対称歪みで書くと 1 1 1 ∆L (2ε zz − ε xx − ε yy ) = 1 ε B + 1 ε u (2.28) = ε zz = (ε xx + ε yy + ε zz ) + L [001] 3 3 3 3 3 となり、εzz は体積歪みεB と正方晶歪みεu の和で書き表される。 次に立方晶の二回軸と三回軸方向の熱膨張と対称歪みの関係を述べる。二回 軸[110]方向の熱膨張を考える場合、x、y、z に以下の回転操作を行う。 a= b= 1 2 1 2 (x + y ) (− x + y ) (2.29) c=z 1 a 2 1 b = − 2 c 0 1 2 1 2 0 0 x 0 y 1 z (2.30) a、b、c は、回転操作後の単位ベクトルである。これは、図 2-3-2 (a) に示すよ うな z 軸を中心に 45 度回転させた場合である。この回転操作 R を 1 2 1 R = − 2 0 1 2 1 2 0 0 0 1 (2.31) とする。結晶が歪むことによって蓄えられる弾性エネルギーU は、歪みの二次 26 (a) (b) z [001] z [001] z’ [111] 54.7° y’ [-110] y’ [-110] y [010] y [010] 45° x [100] x’ [110] x [100] x’ [11-2] 図 2-3-2 二回軸を主軸とする変換 (a) と三回軸を主軸とする変換 (b)。 多項式で U = ∑ C ijkl ε ij ε kl (2.32) と書ける。座標の回転操作 R に対して弾性エネルギーは不変なので、 U ' = RUR −1 = R(∑ C ijkl ε ij ε kl )R −1 = ∑ C ijkl Rε ij R −1 Rε kl R −1 = ∑ C ijkl ε ij ' ε kl ' (2.33) となる。よって、回転操作によって、歪みεij がεij’に変換される。 ε xx ' ε xy ' ε xz ' ε ij ' = ε yx ' ε yy ' ε yz ' ε ' ε ' ε ' zy zz zx = Rε ij R −1 1 1 1 1 − 0 0 2 2 2 ε xx ε xy ε xz 2 1 1 1 1 = − 0 ε yx ε yy ε yz 0 2 2 2 2 0 ε zx ε zy ε zz 0 0 1 0 1 1 1 1 (ε zx + ε yz ) − (ε xx − ε yy ) (ε xx + ε yy + 2ε xy ) 2 2 2 1 1 1 (ε xx + ε yy − 2ε xy ) (ε yz − ε zx ) = − (ε xx − ε yy ) 2 2 2 1 1 (ε zx + ε yz ) (ε yz − ε zx ) ε zz 2 2 27 (2.34) 以上から、二回軸[110]方向の熱膨張は、 ∆L 1 1 1 = ε xx ' = (ε xx + ε yy ) + ε xy = ε B − ε u + ε xy 2 3 L [110 ] 2 3 (2.35) となる。 三回軸[111]方向の熱膨張では、図 2-3-2 (b) に示すような、[001]軸を中心とし た 45 度の回転と[-110]軸を中心にした[001]軸から 54.7 度の回転を合成した z を [111]方向にする場合を考える。この場合の回転操作は a= b= c= 1 6 1 2 1 3 (x + y − 2z ) (− x + y ) (2.36) (x + y + z ) 1 a 6 1 b = − 2 c 1 3 1 − 6 1 2 1 3 2 3 x 0 y 1 z 3 (2.37) となり、回転操作 R は以下のようになる。 1 6 1 R = − 2 1 3 1 6 1 2 1 3 − 2 3 0 1 3 (2.38) 歪みεij は回転操作 R によってεij’に変換され 28 ε xx ' ε xy ' ε xz ' ε ij ' = ε yx ' ε yy ' ε yz ' ε ' ε ' ε ' zy zz zx = Rε ij R −1 1 6 1 = − 2 1 3 1 6 1 2 1 3 − 2 6 ε xx 0 ε yx 1 ε zx 3 ε xy ε yy ε zy 1 ε xz 6 1 ε yz 6 ε zz 2 − 6 − 1 1 2 2 0 1 3 1 3 1 3 1 1 (− ε xx + ε yy ) 1 (ε xx + ε yy − 2ε zz ) (ε xx + ε yy + 4ε zz ) 18 12 6 1 1 (− ε yz + ε zx ) + 1 (− ε yz − ε zx + 2ε xy ) + (− 2ε yz − 2ε zx + ε xy ) + 3 18 3 1 1 (− ε xx + ε yy ) (− ε xx + ε yy ) 1 6 12 ( = ε xx + ε yy ) − ε xy 1 1 2 (− ε yz + ε zx ) (ε yz − ε zx ) + + 3 6 (2.39) 1 1 1 (ε xx + ε yy − 2ε zz ) (− ε xx + ε yy ) (ε xx + ε yy + ε zz ) 18 6 3 2 + 1 (− ε yz − ε zx + 2ε xy ) + 1 (ε yz − ε zx ) ( ) + + + ε ε ε yz zx xy 3 18 6 となる。よって三回軸[111]方向の熱膨張は、 ∆L 1 2 = ε zz ' = ε B + (ε yz + ε zx + ε xy ) (2.40) L [111] 3 3 と表すことができる。これは、体積歪みεB と結晶格子の角度変化を表す歪みεyz、 εzx、εxy との和になっている。表 2-2 に立方晶の四、三、二回軸の熱膨張と対応 する歪みをまとめた。 表 2-2 熱膨張と対称歪みの関係。 [001]方向 ∆L L [110]方向 ∆L 1 1 = εB − ε u + ε xy L [110 ] 3 2 3 [111]方向 ∆L L [001] [111] 1 1 = εB + εu 3 3 1 2 = ε B + (ε yz + ε zx + ε xy ) 3 3 29 第3章 実験方法と装置 本研究では、3He-4He 希釈冷凍機を用いた極低温での超音波による弾性定数の 測定や 3He 冷凍機を用いた熱膨張測定、物質・材料研究機構の 40 T 級ハイブリ ッドマグネットを用いた強磁場超音波実験を行った。これらの実験を行うため に、3He-4He 希釈冷凍機、熱膨張測定装置などを立ち上げ、LabVIEW でこれら 実験装置を制御し自動測定するシステムの構築を行った。この章では、これら の実験装置について解説する。 3-1 超音波測定装置 超音波によって結晶格子に誘起される歪みは電気四重極子と一次結合するた め、超音波で測定される弾性定数は電気四重極子の応答である四重極子感受率 として理解できる。それゆえ超音波測定は軌道縮退を持つ電子状態を観測する ことができるため、磁気双極子の応答としての帯磁率と同様に、超音波は 4f 電 子系の重要な実験手法となっている。また電荷秩序を示す価数揺動物質では、 電荷揺らぎモードと結合したソフトモードを観測できる。また最近では、カゴ 状物質でのオフセンターモードによる超音波分散も観測されている。 超音波測定では、位相比較法を用いた[3-1, 2]。物質の弾性定数 C は、密度ρと超 音波の音速 v により C = ρv2 と表すことができる。位相比較法とは、音速 v の変 化を、超音波が物質中を伝播するときに生じる位相の遅れを検出して、求める 方法である。図 3-1 に位相比較法による超音波測定の原理図を示す。信号発信器 から発信された信号 (sin 波) は、まず参照系信号と測定系信号に分かれる。測 Signal Generator Pulse Generator Asin2πft Negative Feedback divider Diode Switch Csinφ = 0 φ = constant measure side reference side Transducer Sample Asin2πft Phase Detector Csinφ Pulse Echo Bsin(2πft+φ) φ = (2n-1)ft0 = (2n-1)fl/v 1st 2nd 3rd 図 3-1 位相比較法による超音波測定の原理図。 30 定系の信号は、ダイオードスイッチ volt によって約 500 ns のパルス信号に pulse echo pattern 変換され、試料に接着されたトラン スデューサで超音波に変換される。 V = V0e − βt 試料中を伝播する超音波は、試料の V0 両端で反射を繰り返し、入力側の反 対側のトランスデューサによって 電気信号へ再び変換される。これを time τ 超音波パルスエコーと呼ぶ (図 3-2)。 測定系の信号は、参照系の信号と比 図 3-2 オシロスコープ上で確認できる超 べて試料中を超音波として伝播し 音波パルスエコーの模式図。 た時間だけ遅れが生じ、参照系と測 定系の信号間に位相差が生じる。n 番目のパルスエコーは φ n = 2π (2n − 1) f v (3.1) だけ位相が遅れる。ここで l は試料長、f は信号 (超音波) の周波数、v は超音波 の音速である。参照系の信号は V R = A sin (2π ft ) (3.2) であり、測定系の信号は VS = B exp{− α (2n − 1)l}sin (2π ft + φ n ) (3.3) である。ここで A、B は各出力の振幅、αは試料に固有の超音波吸収係数である。 これら参照系と測定系の信号を位相検出器に入力する。位相検出器から得られ る位相成分を sin 成分で得るため、測定系信号の位相を 90 度変えて VS = B exp{− α (2n − 1)l}cos(2π ft + φ n ) (3.4) としている。この測定系信号と参照系信号は位相検出器で Vout = V R + VS = 1 AB exp{− α (2n − 1)l}{sin (4π ft + φ n ) − sin φ n } 2 (3.5) となり、交流成分と直流成分の和として出力される。Vout の 2f の周期を持つ交流 成分をローパスフィルタでカットすることにより、位相差のみに依存する直流 成分 V ∝ sin φ n (3.6) が得られる。V = 0 つまりφn が常に一定になるように信号発信器に負帰還をかけ 周波数 f を変化させると、式 3.1 より ∆v ∆ f = (3.7) v f となり、音速の相対変化を周波数の相対変化として検出することができる。弾 31 性定数の絶対値 C は、図 3-2 の超音波パルスエコーの間隔τと試料の長さ l から 音速 v = l/τを求める事により得られる。エコー間隔τは、オシロスコープ上で肉 眼によって観測しているため、弾性定数の絶対値には数%の誤差が生じる。しか し、弾性定数の相対変化に関しては、測定周波数など条件にもよるが、10-6 程度 の分解能があり、小さな相転移の弾性異常なども観測することができる。 図 3-2 の様に、多数のエコーが観測できる場合、高次のエコーで測定すること で実効的な試料長が長くなり、高い分解能を得ることができる。また高い周波 数で測定しても分解能が高くなる。実際の実験では、高次のエコーが多数出現 する試料は限られており、精度の良いデータを得るために超音波の周波数を上 げている。本研究で超音波を発生させるために使用している圧電素子には、 LiNbO3 を用いている。LiNbO3 は機械結合定数が水晶に比べて大きいので、入力 電圧を抑えることができる為、試料等の発熱を抑えることができ、極低温の実 験が可能なためである。PZT も機械結合定数が大きいが、LiNbO3 の方が熱に対 して安定であり、電極の金の蒸着などがしやすい為、PZT は使用していない。 超音波の周波数を上げるためには、LiNbO3 を薄くし共鳴周波数を上げるか、3 倍 5 倍・・・などの奇数倍高調波を使用する。高調波は周波数を上げるにつれ 超音波吸収が激しくなり大きな入力パワーが必要となるが、LiNbO3 を薄くして 高周波を出す場合はそれほどパワーが必要にはならない。そこで本研究では、 通常使用する厚さ 200 µm の LiNbO3 の他に、100 µm と 40 µm の厚さの物を用意 して実験を行っている。LiNbO3 は厚さの逆数に比例して発振する周波数が決ま り、 200 µm の LiNbO3 の基本周波数は縦波で約 16 MHz、40 µm の縦波で約 80 MHz である。また本研究では、縦波と横波の超音波が必要なため、縦波では 36°Y カ ット、横波では X カットを使用している。 上記に示している様に、本研究では超音波を 10 MHz から 100 MHz 以上の高 周波までの幅広い周波数帯を使用して実験を行っている。そのため、測定装置 にいくつかの工夫を施した。精度の良い位相検出器や高倍率のアンプは狭帯域 であるため、これらを使用するのにメインの信号発信機の他にもう 1 台の信号 発信機 (Local) を用意し、中間周波数変換を行っている。これにより、10 MHz から設計上 1 GHz 程度までの広帯域を、1 台の測定装置で行うことができる。 超音波測定を行うためには、圧電素子を平行に面だしした試料の両面に接着 しなくてはならない。接着剤は、得意とする温度領域と試料との相性などを加 味して選んでいる。本研究では、極低温から 150 K までを信越化学工業の脱酢 酸タイプの一液型 RTV ゴムを使用した。 3-2 熱膨張・磁歪測定装置 熱膨張と磁歪の測定は、それぞれ温度変化や磁場変化に対する試料の長さの 32 変化を測定する実験方法である。X 線や中性子線回折は試料の格子定数のミク ロな変化を直接測定するのに対し、熱膨張測定は格子の変化を試料長のマクロ な変化として観測する。 熱膨張の測定方法として、ストレインゲージ法、光干渉法、キャパシタンス 法等があり、それぞれ一長一短の性質を持つ。これらの測定方法の中で本研究 では、キャパシタンス法を用いた。キャパシタンス法は上記の測定方法の中で 最も精度が高く、長さ 1 mm 程度の小さな試料を測定する事もできる。また、最 も普及しているストレインゲージ法は磁場に弱いのに対し、キャパシタンス法 は磁場の影響が少ない。以上の理由から、キャパシタンス法を熱膨張の測定方 法として選んだ。 図 3-3 に、今回用いた熱膨張計測用セルの模式図を示す。キャパシタンス法と は、試料長の変化を電極板間の静電容量の変化として測定する方法である。試 料長 L が∆L 変化すると電極板間の距離 D も∆D = −L だけ変化する。電極板間の 静電容量 C は C= επR 2 (3.8) D であり、試料長の変化∆L に対して静電容量 C は反比例して変化する。ここでε は誘電率、R は電極板の半径である。式 3.8 と∆D = −∆L を用いると線熱膨張の 式は、 ∆L επR 2 = L L 1 1 − C0 C (3.9) と表せる。ここで C0 は任意に選んだ基準の静電容量である。 静電容量を正確に測定するためには、浮遊静電容量を極力除く事である。図 図 3-3 熱膨張測定装置の概略図。 33 3-3 にある様に、本研究で使用したセルは、電極板間の周りをグラウンドに落と してある金属で覆う三端子法を用いた。また信号線はシールド線を用いる事で 信号線からの浮遊静電容量の影響を取り除いている。静電容量の測定には、キ ャパシタンスブリッジ Andeen-Hegerling 社製のモデル 2500A を使用した。一般 的に室内に置かれたブリッジ内の標準キャパシタンスは、室温の揺らぎに対し て 10~40 ppm/K 程度の変化があるため、室温の変化が測定値のドリフトとして 観測されてしまう。この点について、今回使用したキャパシタンスブリッジは、 標準キャパシタンスが温度コントロールされており、室温の変化に対する測定 値の変動は 0.1 ppm/K 以下であり、8 桁の分解能がある。 熱膨張測定用セルの素材は、絶縁部分とバネ以外は全て無酸素銅を用いた。 無酸素銅は熱伝導が良い上に、真鍮等と比べて加工歪みが入りにくい。ネジ等 も無酸素銅を用いたのは、無酸素銅との熱膨張率の違いにより測定値に飛びが 入るなど不具合が多いからである。無酸素銅にも欠点がある。銅なので非常に 柔らかく、加工しにくい上にネジ山等が壊れやすいので、取り扱いに注意が必 要である。バネには、燐青銅を用いた。電極板間の調節は上部のネジで行って いる。このネジはプローブ上部で調節可能であり、冷凍機内で低温にした状態 で電極板間を調節する事ができる。しかし、低温にした状態で調節すると試料 に負担をかけたり、セルの中で試料の位置が変わったりする事があるため、余 程の事がない限り使用しない。 熱膨張の測定の際には、熱交換ガスとして室温で数 Torr の 4He ガスを用いた。 誘電率εは、ε = εr×ε0 と書くことができる。ここでεr は比誘電率でありε0 は真空の 4 誘電率である。 He ガスの誘電率はほぼ 1 であり低温では非常に希薄になるので、 ε~ε0 として取り扱った。 熱膨張実験では、振動にも気を使い除震を行っている。実際の熱膨張測定で は、電極板間が 50 µm 程度であり強い振動があると測定に影響がでる。除震は 2 種類の手段で行っている。小口用のメタルデュワーでは、砂箱の上に枠組みを 組み、さらにエアダンパーを用いている。また 4He をひくポンプからの振動を 抑えるために、デュワーに伸びているフレキシブルチューブを砂箱の中を通し ている。3He 冷凍機では、デュワーそのものを砂箱の上に置くことができないた め、デュワーを支える台に除震用ゴム板を敷き、1 K ポットをひくフレキシブル チューブを砂箱の中に入れて、除震している。 34 3-3 冷凍機 本研究では、極低温実験を行うため に、Oxford 社製の 3He-4He 希釈冷凍機 とハンドメイドの 3He 冷凍機を用いた。 まず図 3-4 に 3He-4He 希釈冷凍機の外 観図を、図 3-5 に模式図を示す。本装 置は、1999 年 11 月から本格的に稼動 し始め、その立ち上げに筆者も携わっ た。本装置は、トップローディング型 の希釈冷凍機であり、混合器の温度を 図 3-4 3He-4He 希釈冷凍機の外観図。 低温に保ったまま短時間で試料の交 換を容易に行うことができる。基本仕様は、100 mK での冷却能力が 250 µW で あり、3He-4He の混合気体の体積は大気圧換算で 302 l、そのうち 3He の体積は 40 l である。試料スペースは直径 24 mm あり、試料回転機構を備えたプローブ もある。プローブは 3 本あり、超音波測定用 1 本、試料回転機構を備えた超音 波測定用 1 本、電気抵抗用 1 本がある。超音波用プローブは、プローブ頭部か ら先端まで 50 Ωの同軸パイプが装備されており、ローパワーでローノイズの超 音波測定が可能である。この希釈冷凍機には、16-18 T の超伝導マグネットが装 備されており、極低温強磁場の極限環境での測定が可能である。温度計は KOA 社のチップ抵抗 RuO2 の 1.5 kΩと 2.2 kΩの 2 種類を校正して使用している。2.2 kΩ は高温側 (0.1 K ~ 1.5 K) で 1.5 kΩは低温側 (20 mK ~ 600 mK) で主に使用して いる。 3 He 冷凍機は、新潟大学後藤研究室 で作成されたもので、3He を循環させ ることにより最低温 0.4 K で長時間運 転することができる。またトップロー ディング方式を採用しており、試料の 交換が容易に行えるようになっている。 本装置には、Oxford 社製の 12-14 T マ グネットを装備しており、プローブも 通常の超音波用の他に、超音波用の一 軸ゴニオ、二軸ゴニオや熱膨張用プロ ーブも備えている。この装置で使用し た温度計は、0.4 K ~ 1.9 K は KOA 社の RuO2 (3 kW) を 、 1.2 K ~ 40 K は LakeShore 社 の セ ル ノ ッ ク ス 図 3-5 3He-4He 希釈冷凍機の模式図。 35 CX-1030-AA を、15 K 以上では LakeShore 社の白金温度計 PT-111 を校正して使 用した。 3-4 40 T 級ハイブリッドマグネット (gama) 本研究では、強磁場超音波実験を行うため、独立行政法人物質・材料研究機 構の強磁場研究センター (TSUKUBA MAGNET LABORATORY) に設置されて いる 40 T 級ハイブリッドマグネット (gama) を共同研究により使用した。ハイ ブリッドマグネットの外観を図 3-6 に内部構造図を図 3-7[3-3]に示す。このマグネ ットは、内径 40 cm の室温空間に 15 T の磁場を発生させる超伝導マグネットと この内径 40 cm の空間に水冷銅マグネットを組み込み、最高 37 T 以上の磁場を 発生させることが可能である。実際の運用は、主に最高磁場 30 T で口径 52 mmφ と最高磁場 35 T で口径 32 mmφで行わ れおり、実用で提供されている磁場と しては世界最高レベルである。 本研究では、このハイブリッドマグ ネットに 4He 冷凍機を用いて 1.5 K ~ 12 K まで超音波実験を行った。使用した 温度計は、校正済みの LakeShore 社の セルノックス CX-1030-AA を用いた。 セルノックスの特徴は強磁場でも比較 的磁場依存性が小さい[3-4]ので、強磁場 図 3-6 物質・材料研究所の 40 T 級ハイ 中実験でも使用に耐えうる。実際の実 ブリッドマグネット (gama) の外観図。 図 3-7 ハイブリッドマグネットの内部構造図。[3-3] 36 験では、1 ユニット 3 時間、午前午後にそれぞれ 1 ユニットの 1 日合計 6 時間し か実験できない。昇磁降磁にそれぞれ 1 時間以上かかるため、温度依存性を測 定するためには、磁場の影響を受けにくいキャパシタンス温度計では温度追随 性が悪いため、セルノックスが最適であった。 3-5 単結晶試料 本研究で使用した CexLa1-xB6 の単結晶は、全て東北大学理学部物理学科の国井 暁教授から提供していただいた。これらの試料はフローティングゾーン法によ り作成され、放電カッターで直方体に整形したものである。平行度の悪いもの や形を整えるために、一部の試料はカーボランダムで研磨した。試料は、その 用途に応じて[001]、[110]面で切り出したものと[111]面を切り出したものを Ce 濃度 x に応じて、それぞれ数種類用意した。用意した試料の大きさは、1 辺が 3 ~ 6 mm と大きなものであり、超音波や熱膨張実験に最適なものである。 37 第4章 実験結果と考察 この章では、3He-4He 希釈冷凍機を用いた超音波実験と 3He クライオスタット を用いた熱膨張実験、物質・材料研究機構の 40 T 級ハイブリッドマグネット (gama) を用いた強磁場中超音波実験の結果と考察について述べる。 4-1 CexLa1-xB6 の強磁場中超音波実験 CexLa1-xB6 の反強四重極子秩序 II 相の強磁場領域の磁気相図を決定する為、物 質・材料研究所の 40 T 級ハイブリッドマグネット (gama) を用いて超音波実験 を行った。 図 4-1-1 に Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 C11 の H//[001]の強磁場中温度依存性を示 す。15 T では約 3.5 K にみられた I-II 相転移による C11 の弾性異常は、磁場を強 くするにつれ低温側に移動し、30 T では 1.8 K までの範囲では観測されなかった。 I 相における C11 は、15 T の高温から 5 K 付近までのソフト化は磁場の上昇に伴 い減少しハード化の傾向を示す。一方、5 K 以下の I-II 相転移近傍のソフト化は 磁場が上がるにつれ増加した。しかし 30 T では 25 T まで見られた急激なソフト 化が見られないため、30 T には II 相が存在せず I 相が低温まで続いているもの と考えられる。 図 4-1-2 に Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 C11 の H//[001]の磁場依存性を示す。1.5 K では、C11 は約 2.5 T で I-II 相転移を示し 8 T 付近まで増加する。8 T 以降緩やか な勾配で増加していくが、約 27 T で II-I 相転移に対応した急激な増加を観測し た。3.0 K では、1.5 K と比べて緩やかに増加し、約 7.5 T で I-II 相転移を、約 23 T で II-I 相転移による弾性異常を示した。4.2 K では、I 相から II 相への転移はみ られず、単調に増加した。これは、図 4-1-1 の磁場中温度依存性をみると I-II 相 転移が 4 K 以下で起きており、4 K 以上は II 相が存在しないことと一致する。 上記の結果より得られた磁気相図を図 4-1-3 に示す。磁場を印加すると、約 15 T まで I-II 相転移温度は上昇するが、15 T 以上で下降し始め、より高磁場になる ほど急激に下降した。C11 の 30 T の温度依存性の結果も考慮にいれると、H//[001] で II 相は 30 T 以下で閉じていると考えられ、絶対零度での外挿値は約 29 T と見 積もられる。 次に Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 CL[111] = CB+4C44/3 の H//[111]の強磁場中温度依存 性を図 4-1-4 に示す。10 T では、I-II 相転移温度 TQ ~ 3.9 K までソフト化を示し 極小値を取った後、急激に増加した。I-II 相転移による極小値は、20 T までは高 温側へシフトしたが、それ以降は徐々に低温側へシフトした。また I 相における ソフト化は、磁場が上がるにつれ増大し、特に転移点近傍で急激になった。 38 I 10 3 C11 (10 J/m ) 49.5 I II Ce0.50La0.50B6 k//u//H//[001] II 49.4 2 4 6 T (K) 8 15T 17.5T 20T 22.5T 25T 30T 10 図 4-1-1 Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 C11 の H//[001]の強磁場中温度依存性。 I I ∆C11/C11 0.2% II I 4.2K 3.0K 1.5K Ce0.50La0.50B6 k//u//H//[001] 0 10 H (T) 20 30 図 4-1-2 Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 C11 の H//[001]の磁場依存性。 39 30 25 Ce0.50La0.50B6 H (T) 20 H//[001] 15 II 10 III 5 I 0 0 1 2 3 T (K) 4 5 6 図 4-1-3 Ce0.50La0.50B6 の H//[001]の磁気相図。黒三角は強磁場実験から得られた相転 移点である。他の点は以前の結果と第 4 章 2 節で得られた相転移点である。 28.14 Ce0.50La0.50B6 k//u//H//[111] I 10 3 CL[111] (10 J/m ) 28.12 28.10 28.08 I II CL[111]=CB+4C44/3 28.06 2 図 4-1-4 10T 15T 20T 25T 30T 4 6 T (K) 8 10 Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 CL[111] = CB+4C44/3 の H//[111]の強磁場中温度依存性。 40 ∆CL[111]/CL[111] 0.05% II 1.6K I II 3.1K 4.0K I 4.8K I Ce0.50La0.50B6 k//u//H//[111] CL[111]=CB+4C44/3 0 5 10 15 20 H (T) 25 30 図 4-1-5 Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 CL[111] = CB+4C44/3 の H//[111]の磁場依存性。 図 4-1-5 に Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 CL[111] = CB+4C44/3 の H//[111]の磁場依存性 を示す。4.8 K では II 相が存在せず、CL[111]は単調に減少した。4.0 K では I-II 相 転移による極小値を約 10.5 T で示し、15 T 以降再び減少した。4.0 K の I-II 相転 移がブロードな極小を示すのは、I-II 相境界が H-T 相図で垂直に近く立っている 事に起因している。3.1 K、1.6 K では、温度が下がるにつれ I-II 相転移による弾 性異常は鋭くなり、転移磁場は減少した。I-II 相転移は 1.6 K、3.1 K、4.0 K の各 温度で観測できたが、H//[001]でみられた II-I 相転移は、H//[111]では 30 T まで の磁場では見られなかった。 H//[111]で行った実験結果から得られた磁気相図を図 4-1-6 に示す。I-II 相転移 点は磁場が上がるにつれ上昇し、約 20 T で極大値を示した後、緩やかに下降し た。30 T での I-II 相転移温度は TQ = 4.14 K を示し、H//[111]では 30 T でも II 相 は閉じないことが明らかになった。 図 4-1-7 に Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 CL[110] = (C11+C12+2C44)/2 の H//[110]の強磁 場中温度依存性を示す。10 T で CL[110]は TQ = 3.8 K で I-II 相転移を示し、磁場を 強くするにつれ TQ は上昇し、30 T では TQ = 4.5 K を示した。H//[001]の C11 と同 じように、H//[110]の CL[110]のソフト化は、磁場を強くするにつれ減少するが、 転移点近傍では急激な変化を示した。 次に Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 CL[110] = (C11+C12+2C44)/2 の H//[110]の磁場依存性 を図 4-1-8 に示す。CL[110]は、4.0 K では緩やかに増加し I-II 相転移点が不明瞭で 41 30 25 Ce0.50La0.50B6 H//[111] H (T) 20 II 15 10 III 5 I 0 0 図 4-1-6 1 2 3 T (K) 4 5 6 Ce0.50La0.50B6 の H//[111]の磁気相図。黒三角は強磁場実験から得られた相転 移点である。他の点は以前の結果と第 4 章 2 節で得られた相転移点である。 k//u//H//[110] II 3 CL[110] (10 J/m ) 29.04 I Ce0.50La0.50B6 10 29.03 II 29.02 29.01 I CL[110]=(C11+C12+2C44)/2 30T 25T 20T 15T 10T 2 10 4 6 T (K) 8 図 4-1-7 Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 CL[110] = (C11+C12+2C44)/2 の H//[110]の強磁場中温度 依存性。 42 ∆CL[110]/CL[110] 0.1% II I Ce0.50La0.50B6 I k//u//H//[110] CL=(C11+C12+2C44)/2 1.5K 2.0K 3.1K 4.0K 0 5 10 15 20 H (T) 25 30 図 4-1-8 Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 CL[110] = (C11+C12+2C44)/2 の H//[110]の磁場依存性。 30 25 Ce0.50La0.50B6 H//[110] H (T) 20 15 II 10 5 I III 0 0 1 2 3 T (K) 4 5 6 図 4-1-9 Ce0.50La0.50B6 の H//[110]の磁気相図。黒三角は強磁場実験から得られた相転移 点である。他の点は以前の結果と第 4 章 2 節で得られた相転移点である。 43 30 H//[110] H//[111] 25 H//[001] H (T) 20 Ce0.50La0.50B6 15 II 10 III 5 I 0 0 図 4-1-10 1 2 3 T (K) 4 5 6 Ce0.50La0.50B6 の磁場方向 H//[001]、[111]、[110]の磁気相図。低磁場領域は、 第 4 章 2 節から引用した。 あったが、温度が下がるにつれ I-II 相転移近傍で急激な増加を示し、転移磁場は 低下した。 図 4-1-9 に Ce0.50La0.50B6 の H//[110]の磁気相図を示す。H//[110]では、H//[001]、 H//[111]と違い、I-II 相転移温度 TQ は 30 T まで上昇した。しかしながら、TQ の 上昇率は減少しており、さらに高磁場では相境界が閉じる傾向を示すと考えら れる。30 T の I-II 相転移温度は TQ[001]はなく、TQ[111] < TQ[110]となり 30 T では最 も高い I-II 相転移温度 TQ = 4.5 K を示した。 図 4-1-10 に Ce0.50La0.50B6 の H//[001]、[110]、[111]の磁気相図を示す。I-II 相転 移温度 TQ は、磁場を強くするにつれて上昇し、15 T で TQ[001] < TQ[111] ~ TQ[110]の 磁気異方性を示した。この結果は、これまでの 15 T 以下で行われた実験結果と 一致する。H//[001]では 15 T 以上に磁場を上げると、TQ[001]は急速に減少し、絶 対零度では HII-I ~ 29 T で II 相が閉じる。一方、H//[111]、[110]では 20 T 以上で TQ[111]は徐々に減少し、TQ[110]は徐々に増加した。どちらも 30 T の強磁場でも II 相は閉じなかった。30 T で TQ[111] = 4.14 K と TQ[110] = 4.52 K であり、TQ[111] < TQ[110] の磁気異方性を示した。強磁場での II 相の強い磁気異方性 TQ[001] << TQ[111] ~ TQ[110]は、基底状態であるΓ8 四重項の Zeeman 分裂の強い磁気方位依存性に起因 していると R. Shiina らによって指摘されている[1-30]。図 4-1-11 にΓ8 四重項の H//[001]、[111]、[110]の各磁場方向の Zeeman 分裂の様子を示す。H//[001]の分裂 44 Energy Level (K) 100 H//[001] H//[111] H//[110] 50 0 -50 CeB6 Γ8 Quartet -100 0 20 40 60 H (T) 80 100 図 4-1-11 Γ8 四重項の磁場方向 H//[001]、[111]、[110]の Zeeman 分裂の様子。 47.7 Ce0.75La0.25B6 10 3 C11 (10 J/m ) k//u//H//[001] 30T 25T 20T 15T 10T II 47.6 II 2 図 4-1-12 I I 4 6 T (K) 8 10 Ce0.75La0.25B6 の弾性定数 C11 の H//[001]の強磁場中温度依存性。 45 30 25 H (T) 20 II 15 I CexLa1-xB6 10 x=1 x=1:D. Hall et al. x=0.75 x=0.50 5 0 0 図 4-1-13 2 4 6 T (K) 8 10 12 CexLa1-xB6 (x = 1[1-45]、0.75、0.50) の H//[001]の磁気相図。I-II 相転移のみ 掲載した。 幅は H//[111]、[110]と比べて大きく、そのため H//[001]の II 相は H//[111]、[110] より低磁場で閉じるものと考えられる。図 1-2-10 で示した R. Shiina らによる II 相の磁気相図の計算結果[1-52]は、細かい点ではあるが、I-II 相転移温度が TQ[111] > TQ[110]となっており本研究結果と異なる。これは、R. Shiina らの計算が、これま での 15 T 以下での実験結果[1-68]TQ[111] > TQ[110]を基にして、それに合わせるよう にパラメータを設定したためと思われる。また R. Shiina らは式 1.1 で、四重極 子 Oyz、Ozx、Oxy と八重極子 Txyz を特に重要なパラメータとし、その他の多重極 子による相互作用は均等に取り扱っている。しかし実際の系では、H//[110]、[111] で磁気双極子が磁場誘起されるうえ、それぞれの多重極子間の相互作用の強さ には違いがある。そのため、今回の実験で得られた磁気相図と理論計算の結果 に小さな相違点が発生していると思われる。今回得られた Ce0.50La0.50B6 の磁気相 図により、より定量的に多重極子相互作用の大きさを見積もることができると 期待できる。 次に Ce0.75La0.25B6 で弾性定数 C11 の H//[001]の強磁場中温度依存性を測定した 結果を図 4-1-12 に示す。10 T では、TQ = 5.1 K で観測した I-II 相転移による折れ 曲がりは、磁場を上げるにつれて高温側にシフトしたが、30 T では低温側へシ フトした。 こ の 結 果 か ら 得 ら れ た Ce0.75La0.25B6 の H//[001] の 磁 気 相 図 と CeB6 、 Ce0.50La0.50B6 の磁気相図を図 4-1-13 に併せて示す。反強四重極子秩序 II 相は、 46 Ce 濃度 x が上がるにつれてその領域を拡大し、I-II 相境界は高温側へシフトして いく。Ce0.50La0.50B6 では I-II 相転移温度 TQ は 15 T 付近で極大値を示したが、 Ce0.75La0.25B6 では 15 T 以上でも TQ は上昇し 25 T 付近で極大値を示した。これは Ce 濃度が増加したことにより、四重極子相互作用が強くなったことを示してい る。x = 0.50 では約 29 T で閉じ 15 T で I-II 相転移温度 TQ が極大値を取っていた のが、x = 0.75 では約 25 T 付近で TQ の極大値を示し 30 T では閉じなくなる。x = 1 では、x = 0.75 まで見られた TQ の極大値も高磁場側にシフトし、TQ は 30 T ま で磁場が上がるにつれ上昇している。図 4-1-13 を見ると、I-II 相境界はほぼ Ce 濃度 x に線形的に依存している様に思われる。これは、四重極子相互作用を含 め多重極子相互作用が、Ce 濃度 x に比例しているものと考えられる。 4-2 CexLa1-xB6 の極低温超音波実験 CexLa1-xB6 の IV 相の秩序変数を考える上で、x = 0.70 ~ 0.50 の極低温の状態や IV 相で巨大なソフト化を示す弾性定数 C44 の極低温の振る舞いを調べることは 不可欠である。そのため、x = 0.70 ~ 0.50 で極低温超音波実験を行った。 図 4-2-1 に Ce0.70La0.30B6 の弾性定数 C44 の H//[001]の磁場中温度依存性を示す。 上矢印は弾性定数 C11 から決定した I-IV 相転移点である。0 T では、I-V 相転移 点近傍から C44 に急激なソフト化が現れ、0.6 K 付近で極小値を取った後わずか にハード化した。ソフト化の大きさは約 24%あり、ソフト化に伴って激しい超 音波吸収が見られ、最低温まで超音波吸収は回復しなかった。0.3 T では、ほぼ 0 T と同様の振る舞いを示した。Ce0.75La0.25B6 の C44 は、図 1-2-17 を見ると IV 相 で巨大なソフト化を示した後、TN = 1.1 K で極小値を取り III 相で I 相と同程度ま で急激にハード化する。Ce0.70La0.30B6 の C44 の 0 T、0.3 T では急激なハード化が 無いため、少なくとも 20 mK までは IV 相が安定であると考えられる。1 T で C44 は、0 T、0.3 T 程ではないが 1.5 K 付近から IV 相への相転移に伴う急激なソフ ト化を示し、約 1.2 K で III 相へ相転移しハード化した。2 T では IV 相への相転 移に伴う急激なソフト化は全く見られず、約 1.6 K で II-III 相転移に伴う弾性異 常が見られた。 図 4-2-2、 3 に Ce0.70La0.30B6 の弾性定数 C44 の H//[001]の磁場依存性を示す。IV-III 相転移の C44 の変化量が非常に大きく、III-II 相転移など高磁場側の変化が見に くいため低磁場側と高磁場側に分けた。低磁場側の図 4-2-2 では、C44 は 60 mK、 90 mK、300 mK のそれぞれで、IV 相中ではほとんど変化がみられなかったが、 0.6 T 近傍でヒステリシスを伴う 20%以上の巨大な変化を示した。この巨大な C44 の弾性異常は、IV-III 相転移によるものと考えられる。 また磁場が上がるにつれ、 IV-III 相転移の C44 のハード化に伴い、超音波吸収が急速に回復した。一般的に 超音波吸収と弾性定数の変化量が非常に激しい場合、超音波実験では弾性定数 47 8.0 II III 10 3 C44 (10 J/m ) 7.5 7.0 I Ce0.70La0.30B6 k//H//[001] u//[100] IV 6.5 0T 0.3T 1T 2T 6.0 0.0 0.5 1.0 T (K) 1.5 2.0 図 4-2-1 極低温における Ce0.70La0.30B6 の弾性定数 C44 の H//[001]の磁場中温度依存性。 上矢印は I-IV 相転移を、下矢印は反強磁性転移 TN を示す。 8.0 III IV 10 3 C44 (10 J/m ) 7.5 Ce0.70La0.30B6 7.0 k//H//[001] u//[100] 6.5 60mK 90mK 300mK 6.0 0.0 図 4-2-2 0.5 H (T) 1.0 1.5 Ce0.70La0.30B6 の弾性定数 C44 の H//[001]の磁場依存性の低磁場側拡大図。 48 0.5% ∆C44/C44 II III II III IV Ce0.70La0.30B6 k//H//[001] u//[100] 0 図 4-2-3 2 4 H (T) 6 60mK 90mK 300mK 8 10 Ce0.70La0.30B6 の弾性定数 C44 の H//[001]の磁場依存性の高磁場側拡大図。 の正確な変化量を観測するのは難しい。今回の CexLa1-xB6 の C44 の場合も、C44 の変化と超音波吸収が IV-III 相転移点近傍で激しいため、C44 の観測が困難であ った。そこで 0 T と高磁場側の弾性定数の温度変化から、低磁場側と高磁場側の C44 の磁場依存性の基準の絶対値を求めた。そのため C44 の磁場依存性は IV-III 相転移付近で途切れている。次に高磁場側の図 4-2-3 であるが、C44 は各温度と もに約 4.3 T 付近で III-II 相転移による折れ曲がりを示し、II 相では単調に増加 した。III 相にはサブ相である III’相が存在するが、C44 には III’相に由来する弾性 異常は見られなかった。 弾性定数 C44 では IV-III 相での異常が大きく IV-III 相転移磁場を決定できなか ったため、H//[001]で弾性定数 C11 の磁場依存性の測定を行った。その結果を図 4-2-4 に示す。C11 は、20 mK、295 mK ともに約 0.7 T 近傍でヒステリシスを伴う 弾性異常を示した。このヒステリシスは、IV-III 相転移によるものと思われ、温 度が下がるにつれヒステリシスが大きくなった。また III-II 相転移によるメタ的 な増加を約 4.3 T で観測した。4 T 付近にみられるヒステリシスは III-III’相転移 によるものと考えられるが、III-III’相転移による弾性異常は非常に小さいのか、 明確な弾性異常は見られなかった。 上記の実験及び後述する熱膨張実験から作成した、Ce0.70La0.30B6 の H//[001]の 磁気相図を図 4-2-5 に示す。IV-III 相転移、III-II 相転移はともに絶対零度にむか って一定値を取るように見え、絶対零度での外挿値はそれぞれ HIV-III ~ 0.7 T、 49 III' ∆C11/C11 0.2% II III 295mK IV Ce0.70La0.30B6 20mK 0 1 2 k//u//H//[001] 3 H (T) 4 5 6 図 4-2-4 Ce0.70La0.30B6 の弾性定数 C11 の H//[001]の磁場依存性。 8 Ce0.70La0.30B6 H//[001] 6 H (T) III' II 4 III 2 I IV 0 0 1 2 T (K) 3 4 図 4-2-5 Ce0.70La0.30B6 の H//[001]の磁気相図。 50 5 8.5 II III I 3 C44 (10 J/m ) 8.0 7.5 10 IV 7.0 Ce0.65La0.35B6 6.5 k//H//[001] u//[100] 6.0 図 4-2-6 0.0 0.5 1.0 T (K) 0T 0.2T 2T 1.5 2.0 Ce0.65La0.35B6 の弾性定数 C44 の H//[001]の磁場中温度依存性。上矢印は I-IV 相転移を、下矢印は反強磁性転移 TN を示す。 HIII-II ~ 4.3 T である。上記で述べた弾性定数 C44 の絶対値が極低温低磁場で回復 しないことに加えて、 IV-III 相転移点が一定磁場に収束していくことは、 Ce0.75La0.25B6 と違い Ce0.70La0.30B6 の IV 相は絶対零度まで安定であることを示唆 している。 次に図 4-2-6 に Ce0.65La0.35B6 の弾性定数 C44 の H//[001]の磁場中温度依存性を 示す。Ce0.65La0.35B6 の C44 は、0 T、0.2 T ともに Ce0.70La0.30B6 と同様の振る舞い を示し、I-IV 相転移温度付近から約 25%の急激なソフト化を示し、約 0.5 K で極 小値をとった後小さな増大を示す。またソフト化に伴い激しい超音波吸収がみ られ、IV 相中では 0.5 K 以下の極低温でもほとんど回復することはなかった。 そのため、Ce0.65La0.35B6 も Ce0.70La0.30B6 と同様に 0 T では 20 mK まで IV 相が安 定であると思われる。2 T では、巨大なソフト化は消失しており、1.48 K に II-III 相転移による弾性異常を観測した。 図 4-2-7 に Ce0.65La0.35B6 の弾性定数 C44 の H//[001] の磁場依存性を示す。 Ce0.65La0.35B6 では、IV 相での C44 の磁場依存性の測定が困難であったため、IV-III 相転移後の部分を示す。Ce0.65La0.35B6 の C44 の磁場依存性も Ce0.70La0.30B6 とよく 似ており、IV-III 相転移で急激にハード化した後、 約 4.4 T で III-II 相転移を示し、 II 相では単調に増加した。またサブ相の III’相による弾性異常は見られなかった。 Ce0.65La0.35B6 の C44 では低磁場部分を観測できなかったため、弾性定数 C11 の H//[001]の磁場依存性を測定した。図 4-2-8 にその結果を示す。Ce0.65La0.35B6 の 51 Ce0.65La0.35B6 k//H//[001] u//[100] ∆C44/C44 II III 0.5% II III IV 0 図 4-2-7 28 mK 130mK 420mK 2 4 H (T) 6 8 10 Ce0.65La0.35B6 の弾性定数 C44 の H//[001]の磁場依存性。 0.2% ∆C11/C11 III' II 240mK III IV 20mK 0 図 4-2-8 1 2 Ce0.65La0.35B6 k//u//H//[001] 3 H (T) 4 5 6 Ce0.65La0.35B6 の弾性定数 C11 の H//[001]の磁場依存性。 52 8 Ce0.65La0.35B6 H//[001] H (T) 6 III' 4 II III 2 I IV 0 0 1 2 T (K) 3 4 5 図 4-2-9 Ce0.65La0.35B6 の H//[001]の磁気相図。 C11 も Ce0.70La0.30B6 と同じ振る舞いを示しており、20 mK、240 mK で約 0.9 T 付 近で IV-III 相転移によるヒステリシスを伴った弾性異常を示した。また 4 T 付近 で III-III’相転移のヒステリシスを観測し、4.4 T で III’-II 相転移によるメタ的な C11 の増加を観測した。 以上の Ce0.65La0.35B6 の弾性定数の測定の結果から得られた磁気相図を図 4-2-9 に 示 す 。 Ce0.65La0.35B6 の 磁 気 相 図 は Ce0.70La0.30B6 と 良 く 類 似 し て お り 、 Ce0.65La0.35B6 の IV 相も絶対零度まで安定であると思われる。Ce0.70La0.30B6 と比べ て、I-IV 相境界と I-II 相境界は低温側へ、IV-III 相境界は高磁場側へシフトして いる。これは Ce 濃度の減少により四重極子相互作用を含む多重極子相互作用が 減少しているためだと考えられる。 続いて Ce0.60La0.40B6 の弾性定数 C44 の H//[001]の磁場中温度依存性を図 4-2-10 に示す。0 T で C44 は、約 11%のソフト化を示し 370 mK で極小値を取った。こ の Ce0.60La0.40B6 の C44 のソフト化は、CexLa1-xB6 (x = 0.75, 0.70, 0.65) と比較して Ce 濃度の減少の割合以上にソフト化の大きさが小さくなっており、超音波吸収 も比較的小さかった。H//[001]に 1 T、1.4 T の磁場を印加すると急速にソフト化 が抑えられ、II、III 相に相転移する 3 T ではソフト化が消失した。 図 4-2-11、12 に Ce0.60La0.40B6 の弾性定数 C44 の H//[001]の磁場依存性を示す。 Ce0.70La0.30B6 と同じ理由から低磁場側と高磁場側に分けた。まず低磁場側では、 28 mK、100 mK、250 mK ともに 0.5 T 程度までほとんど変化しないのに対し、I-III 53 8.2 II III I I 7.8 0T 1T 1.4T 3T 10 3 C44 (10 J/m ) 8.0 7.6 7.4 Ce0.60La0.40B6 7.2 k//H//[001] u//[100] 0.0 図 4-2-10 0.5 T (K) 1.0 1.5 Ce0.60La0.40B6 の弾性定数 C44 の H//[001]の磁場中温度依存性。下矢印は反強 磁性転移 TN を示す。 8.0 7.8 10 3 C44 (10 J/m ) I 7.6 III 28mK 100mK 250mK Ce0.60La0.40B6 7.4 k//H//[001] u//[100] 7.2 0.0 図 4-2-11 0.5 1.0 1.5 H (T) 2.0 2.5 Ce0.60La0.40B6 の弾性定数 C44 の H//[001]の磁場依存性の低磁場側拡大図。 54 Ce0.60La0.40B6 II 3 C44 (10 J/m ) k//H//[001] u//[100] 10 0.5% II III 28mK 100mK 250mK I 0 4 H (T) 6 8 10 Ce0.60La0.40B6 の弾性定数 C44 の H//[001]の磁場依存性の高磁場側拡大図。 0.2% II 275mK III' ∆C11/C11 図 4-2-12 2 I III 20mK Ce0.60La0.40B6 k//u//H//[001] 0 図 4-2-13 1 2 3 H (T) 4 5 6 Ce0.60La0.40B6 の弾性定数 C11 の H//[001]の磁場依存性。 55 相境界近傍で急激な C44 の増加を示した。データが途切れているのは、各温度の I-III 相転移近傍での C44 の変化量が磁場中温度依存性の結果とずれており、磁場 中温度依存性のデータを基にして図示した。次に高磁場側を見ると、I-III 相転移 による C44 の増加は III 相内では収まるが II 相へ転移するとまた増加した。 Ce0.60La0.40B6 の III-II 相転移による弾性異常は、Ce0.70La0.30B6 と Ce0.65La0.35B6 と比 較して鈍っているように見える。 図 4-2-13 に Ce0.60La0.40B6 の弾性定数 C11 の H//[001]の磁場依存性を示す。20 mK、 275 mK ともに C11 は、1.5 T 付近でヒステリシスを伴う急激な変化を示し、それ 以降は磁場が上がるにつれて増加し約 4.4 T でメタ的な増加を示した。1.5 T 付 近のヒステリシスを伴った弾性異常は、CexLa1-xB6 (x = 0.70, 0.65) と比べ変化が 大きく鋭くなっている。4 T 付近のヒステリシスは III-III’相転移によるものと考 えられる。約 4.4 T の弾性異常は III’-II 相転移によるものと思われるが CexLa1-xB6 (x = 0.70, 0.65) と比較してメタ的な飛びが小さくなっている。 以上の結果から、図 4-2-14 に Ce0.60La0.40B6 の H//[001]の磁気相図を示す。極低 温低磁場領域は、この節の最後で詳しく議論する。磁場中では、Ce0.65La0.35B6 と 比べて I-II 相境界がさらに低温側にシフトし、II 相の領域が減少している。III-II 相転移磁場の絶対零度での外挿値は約 4.4 T であり、Ce0.70La0.30B6、Ce0.65La0.35B6 と比較してほとんど変化せず、Ce 濃度に依存していない。 次に Ce0.50La0.50B6 の極低温領域の磁気異方性を調べるため、極低温超音波実験 により H//[001]、[110]、[111]の磁気相図の作成を行った。図 4-2-15 に Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 C11 の H//[001]の極低温磁場依存性を示す。各温度とも、I 相では緩 やかに増加し約 1.7 T でヒステリシスを伴った I-III 相転移による弾性異常を示し た。III 相では、CexLa1-xB6 (x = 0.70~0.60) でみられた III’相によるヒステリシス は見られず、約 4.3 T で III-II 相転移による C11 の増加を観測した。 図 4-2-16 に Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 CL[111] = CB+4C44/3 の H//[111]の極低温磁 場依存性を示す。621 mK では、約 1.7 T で I-II (もしくは I-III) 相転移と思われ る弾性異常を観測した。430 mK 以下では、約 1.7 T の弾性異常は徐々に急にな り、3 T 近傍で変化は小さいが III-II 相転移と考えられる異常を観測した。また 低温になるにつれ、0 T ~ 2 T でヒステリシスが発達した。1.7 T 近傍のヒステリ シスは、I-III 相転移が一次転移であることに由来する。一方 0 T ~ 1.7 T のヒステ リシスは、この極低温低磁場領域が完全な非磁性の近藤一重項状態では説明が 困難である。第 4 章 3、4 節で述べるように、IV 相では Oyz+Ozx+Oxy の強四重極 子モーメントが発生している。Ce0.50La0.50B6 の極低温低磁場領域では、強四重極 子モーメント、または磁気双極子モーメントが誘起されている可能性があると 考えられる。 次に図 4-2-17 に Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 CL[110] = (C11+C12+2C44)/2 の H//[110] 56 8 Ce0.60La0.40B6 H//[001] 6 H (T) III' II 4 III 2 I 0 0 1 図 4-2-14 T (K) 3 4 5 Ce0.60La0.40B6 の H//[001]の磁気相図。 0.5% ∆C11/C11 2 270mK II III I 55mK Ce0.50La0.50B6 k//u//H//[001] 0 図 4-2-15 1 2 3 H (T) 4 5 6 Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 C11 の H//[001]の極低温磁場依存性。 57 ∆CL[111]/CL[111] 0.5% II 240mK 621mK I III 94mK II 29mK 430mK III I Ce0.50La0.50B6 k//u//H//[111] CL[111]=CB+4C44/3 0 図 4-2-16 1 2 3 H (T) 4 5 6 Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 CL[111] = CB+4C44/3 の H//[111]の極低温磁場依存性。 29mK III ∆CL[110]/CL[110] 0.5% 120mK I II 342mK Ce0.50La0.50B6 k//u//H//[110] CL[110]=(C11+C12+2C44)/2 0 図 4-2-17 1 2 3 T (K) 4 5 6 Ce0.50La0.50B6 の弾性定数 CL[110] = (C11+C12+2C44)/2 の H//[110]の極低温磁場依 存性。 58 の極低温磁場依存性を示す。342 mK では、約 1.7 T で相転移による変曲点を示 し、1 T 以下の弱磁場でヒステリシスを観測した。温度を下げるにつれヒステリ シスは発達し、29 mK では図 4-2-16 と同様に 2 T 付近までヒステリシスが広が った。29 mK の 1.7 T 付近のヒステリシスは、一次転移である I-III 相転移による ものと考えられる。しかし、III-II 相転移による弾性異常は確認できなかった。 III-II 相転移を観測するため、Ce0.50La0.50B6 の弾性定数(C11-C12)/2 の H//[110]の 極低温磁場依存性を測定した。図 4-2-18 にその結果を示す。1.6 K では、I 相で 下に凸状に緩やかに増加し、2.2 T の I-II 相転移以上の II 相では上に凸状の増加 を示した。一方、0.4 K 以下では約 1.7 T 付近で I-III 相転移によると思われる弾 性異常を示した。0.4 K と 0.15 K の I 相での昇磁と降磁の不一致は測定上のエラ ーによるものであるが、34 mK の 1.7 T 付近の弾性異常にみられる不一致は、I-III 相転移に対応したヒステリシスだと思われる。そのため H//[110]でも III 相が存 在していると考えられる。しかし、CL[110]と同様に III-II 相転移は確認できなか った。図 4-2-16、17 で見られた低磁場側のヒステリシスは、(C11-C12)/2 では見ら れなかった。 以上の結果から、図 4-2-19 に Ce0.50La0.50B6 の磁場方向 H//[001]、[111]、[110] の弱磁場領域の磁気相図を示す。H//[110]の III 相は、2 T 近傍の非常に狭い領域 に存在していると思われる。III 相の磁気異方性は非常に大きく、III 相が閉じる 磁場は、HIII-II[001] > HIII-II[111] > HIII-II[110]となっている。一方、I-III 相転移は 20 mK ではどの磁場方向でもほぼ 1.7 T 程度と同じ転移磁場であった。I-III 相転移磁場 の磁気異方性が小さいのは、近藤効果の破れる磁場に磁気異方性がほとんどな いことを示唆している。 ここで CexLa1-xB6 (x = 0.60, 0.50) の極低温低磁場領域の基底状態について考 察する。基礎物性でも述べたように、CexLa1-xB6 (x = 0.60, 0.50) の極低温低磁場 領域では、非フェルミ液体的な振る舞いを示す非磁性の近藤一重項状態へ移行 する意見[1-64, 66]と IV 相へ転移する意見[1-58, 67]の 2 つがある。まず、図 4-2-14 に 示す CexLa1-xB6 の弾性定数 C44 の温度依存性について考察する。CexLa1-xB6 (x = 0.75 ~ 0.65) では、 IV 相に特有の巨大で急激なソフト化が見られた。一方、 CexLa1-xB6 の x = 0.60 以下の Ce 濃度では、x = 0.70 ~ 0.65 で見られた C44 の急激 で巨大なソフト化は急速に抑えられていき、Ce0.25La0.75B6 ではほとんど見られな かった。CexLa1-xB6 (x = 0.60, 0.50) の C44 のソフト化は、x = 0.75 ~ 0.65 の IV 相で のソフト化が急激で 20%以上あるのに比較して、傾斜が緩やかでソフト化の大 きさもそれぞれ約 11%と 5%になっており、IV 相と x = 0.60、0.50 の極低温領域 は異なる基底状態であると考えられる。 図 4-2-21 に CexLa1-xB6 の各相転移温度の Ce 濃度 x 依存性を示す。反強四重極 子転移温度 TQ と反強磁性転移温度 TN は、x = 1 から Ce 濃度 x の減少に伴い転移 59 II 0.5% 1.6K II ∆C/C I 34mK 0.4K III Ce0.50La0.50B6 (C11-C12)/2 k//H//[110] u//[1-10] I 0 図 4-2-18 0.15K 1 2 3 H (T) 4 5 6 Ce0.50La0.50B6 の弾性定数(C11-C12)/2 の H//[110]の極低温磁場依存性。 5 Ce0.50La0.50B6 4 H (T) III 3 2 1 0 0.0 図 4-2-19 II H//[001] H//[111] H//[110] 0.5 T (K) I 1.0 1.5 Ce0.50La0.50B6 の磁場方向 H//[001]、[111]、[110]の弱磁場領域の磁気相図。 60 CexLa1-xB6 ∆C44/C44 H=0T x=1 x=0.75 x=0.70 x=0.65 x=0.60 x=0.50 x=0.25 5% 0.0 図 4-2-20 0.5 1.0 1.5 T (K) 2.0 2.5 CexLa1-xB6 の弾性定数 C44 の極低温における温度依存性。 4 T (K) 3 2 TQ TN TI-IV TIV-III 1 0 0.5 図 4-2-21 CexLa1-xB6 H=0T II I 0.6 TK III IV 0.7 0.8 0.9 Ce concentration x 1.0 CexLa1-xB6 の 0 T における各相転移温度の Ce 濃度 x 依存性。 61 6 x=0.60 x=0.50 5 III' 4 H (T) x=0.65 II x=0.70 III' III' CexLa1-xB6 H//[001] x=1 III' II II II x=0.75 II 3 2 1 0 III III III I III I I IV III' IIB III IIA III I III" IV I IV III" I 0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5 T (K) T (K) T (K) T (K) T (K) T (K) 図 4-2-22 CexLa1-xB6 の H//[001]の磁気相図。 温度が下がり、x = 0.8 より高濃度側で交差した後、それぞれ TQ が TIV-III へ TN が TI-IV へ変化したように見える。TQ と TIV-III、TN と TI-IV は、それぞれ Ce 濃度 x に 線形な相関を示している。この図から、x = 0.70 で IV-III 相転移は約 0.5 K 付近 に現れそうであるが、これまでの実験結果から IV-III 相転移は 20 mK まで観測 されていない。CexLa1-xB6 では近藤温度が濃度にほとんど依存せず TK ~ 1 K と言 われており[1-52]、IV-III 相転移が近藤温度よりも充分に低い温度 TIV-III << TK とな る Ce 濃度では III 相へ転移しないと考えられる。そのため、x = 0.70 では絶対零 度まで IV 相が安定であると考えられる。x = 0.65 も x = 0.70 と同様だと考えられ る。I-IV 相転移も IV-III 相転移と同様に TIV << TK となる Ce 濃度から消失し、非 磁性近藤一重項状態へ移行すると予想される。図 4-2-21 を見ると I-IV 相転移温 度 TI-IV と近藤温度 TK が x = 0.60 付近の Ce 濃度で交わる。また CexLa1-xB6 (x = 0.60、 0.50) の弾性定数 C44 は、それぞれ約 11%と 5%のソフト化を示し、CL[110]と CL[111] の極低温磁場依存性では低磁場でヒステリシスが観測された。そのため、 CexLa1-xB6 (x = 0.60、0.50) の極低温低磁場領域は純粋な近藤一重項状態へは移行 していないと思われる。第 4 章 3、4 節で述べるが、IV 相では Oyz+Ozx+Oxy の強 四重極子モーメントが発生していると考えられる。C44 のソフト化の減少やヒス テリシスが発生していることから、CexLa1-xB6 (x = 0.60、0.50) の極低温低磁場領 域は、近藤効果により強四重極子モーメントが IV 相よりも縮小されたような短 距離秩序が発達している状態になっている可能性がある。 CexLa1-xB6 の x = 0.60、 0.50 は、IV 相のある状態からない状態へ移行する臨界濃度であると考えられ、 そのため極低温低磁場では非フェルミ液体的な振る舞いを示していると思われ る。また非フェルミ液体的な振る舞いや異常物性は、disorder の可能性も否定で 62 きない。CexLa1-xB6 (x = 0.60、0.50) の極低温低磁場領域を明らかにするためには、 さらに詳細な実験を行う必要がある。特に Oyz+Ozx+Oxy の強四重極子モーメント が発生している可能性があるので、系統的に極低温まで熱膨張測定を行う必要 がある。 以上の結果をまとめた CexLa1-xB6 の H//[001]の磁気相図を図 4-2-22 に示す。I-II 相転移は、Ce 濃度 x が下がるにつれて低温側にシフトし、IV 相が出現する Ce 濃度以下では II 相は磁場中でのみ存在する。反強磁性秩序 III 相は、Ce 濃度 x が下がるにつれ、反強磁性転移温度は低温側にシフトするが、絶対零度での III-II 相転移磁場 HIII-II は x = 0.75 までは上昇し、それ以降一定値を示す。IV 相は、x = 0.75 で非常に狭い領域に存在していたが、x = 0.70, 0.65 では絶対零度まで安定に なる。x = 0.60、0.50 は、極低温低磁場領域は非磁性の近藤一重項状態へ移行す るが、短距離秩序が発達している可能性も考えられる。 4-3 CexLa1-xB6 の熱膨張実験 これまでの超音波実験の結果より、CexLa1-xB6 の x = 0.70、0.60 では IV 相が絶 対零度まで安定であることが分かったが、秩序変数については分からなかった。 IV 相では弾性定数 C44 が巨大なソフト化を示しており、結晶構造が歪む強四重 極子秩序の可能性も考えられるため、CexLa1-xB6 (x = 0.75、0.70) で熱膨張測定を 行った。 図 4-3-1 に Ce0.75La0.25B6 の∆L//H//[001]の磁場中熱膨張を示す。0 T と 0.5 T で ∆L/L[001]は、温度が下がるにつれて緩やかに減少したが、I-IV 相転移で増加に転 じ、IV-III 相転移近傍で急激な減少を示した。0 T の IV 相での∆L/L[001]の増加量 は約 2.7 x 10-6 であり、0.5 T と比べて∆L/L[001]の増加率はほぼ変わらず磁場依存 性はほとんどない。2 T では、約 2.8 K で I-II 相転移を示し II 相では単調に減少 し、III 相で大きく減少した。4 T では、2 T と同様に II 相で単調に減少した。 図 4-3-2 に Ce0.75La0.25B6 の∆L//H//[001]の磁歪を示す。4.2 K で∆L/L[001]は、磁場 印加に伴い単調に増加し、約 5.4 T で I-II 相転移による異常を示した。1.6 K と 1.3 K では、IV 相内で∆L/L[001]は、ほぼ一定であり、IV-III 相転移近傍で急激に減 少しヒステリシスを示した。IV-III 相転移の後、III 相で増加に転じ III-II 相転移 で折れ曲がり、II 相で単調に増加した。0.9 K では、0.8 T 以下で III”-III 相転移 によるヒステリシスを観測した。III 相内では単調に増加し、約 4 T で III-II 相転 移による折れ曲がりを示した。1.3 K、0.9 K ともにサブ相 III’による異常は見ら れなかった。 図 4-3-3 に Ce0.75La0.25B6 の∆L//H//[111]の磁場中熱膨張を示す。I 相と II 相では、 ∆L/L[111]は、∆L//H//[001]の結果とほぼ同様の振る舞いを示し、温度の低下ととも 63 I 10 IV III -6 ∆L/L (10 ) I II II 0T 0.5T 2T 4T Ce0.75La0.25B6 III ∆L//H//[001] 1 2 T (K) 3 4 図 4-3-1 Ce0.75La0.25B6 の∆L//H//[001]の磁場中熱膨張。 IV II 4.2K I -6 ∆L/L (10 ) 1.6K II III 0.9K 1.3K III Ce0.75La0.25B6 III" 0 2 20 ∆L//H//[001] 4 H (T) 6 8 図 4-3-2 Ce0.75La0.25B6 の∆L//H//[001]の磁歪。 64 III I IV -6 ∆L/L (10 ) III I II 0T 0.5T 2T 4T 10 Ce0.75La0.25B6 ∆L//H//[111] 1 2 T (K) 3 4 図 4-3-3 Ce0.75La0.25B6 の∆L//H//[111]の磁場中熱膨張。 I 4.2K III' III III' 2 III" 0.7 K III 0 20 0 0 1.4K 0.7K II Ce0.75La0.25B6 ∆L//H//[111] 1 1 II 1.5K II -6 ∆L/L (10 ) IV 2 3 H (T) 4 5 6 図 4-3-4 Ce0.75La0.25B6 の∆L//H//[111]の磁歪。インセットは 0.7 K の低磁場拡大図であ る。 65 10 I -6 ∆L/L (10 ) IV IV I II I II III Ce0.70La0.30B6 ∆L//H//[001] 1 2 T (K) 3 0T 0.5T 1T 2T 4T 4 図 4-3-5 Ce0.70La0.30B6 の∆L//H//[001]の磁場中熱膨張。 に減少した。一方、IV 相内では∆L//H//[001]と全く逆に∆L/L[111]は減少し、磁場を 強くするにつれ変化量が大きくなった。また IV-III 相転移や III 相でも∆L/L[111] は、∆L//H//[001]と逆に増加の傾向を示したが、∆L//H//[001]と比べその変化量は 小さかった。 図 4-3-4 に Ce0.75La0.25B6 の∆L//H//[111]の磁歪を示す。4.2 K では、I 相で∆L/L[111] は緩やかに単調減少し、II 相で I 相よりも大きな減少を示した。1.5 K と 1.4 K では、IV 相内で減少を示し、約 0.8 T で IV-III (III’) 相転移による異常を示した。 ∆L//H//[001]で見られた IV-III 相転移によるヒステリシスは、∆L//H//[111]ではほ とんど見られなかった。0.7 K では 0.5 T 以下で III”-III 相転移によるヒステリシ スが観測された。III 相内では∆L/L[111]は、ほぼ一定であるが 1.2 T 付近の III-III’ 相 転 移 で 急 激 に 増 加 し III’ 相 で 大 き く 減 少 し た 。 III-III’ 相 転 移 の 異 常 は 、 ∆L//H//[001]や弾性定数の測定では観測が困難であったが、∆L//H//[111]の磁歪で は明確に観測することができた。 次 に Ce0.70La0.30B6 の 熱 膨 張 の 結 果 を 示 す 。 Ce0.70La0.30B6 の 熱 膨 張 は 、 Ce0.75La0.25B6 と基本的に同様の振る舞いを示した。図 4-3-5 に Ce0.70La0.30B6 の ∆L//H//[001]の磁場中熱膨張を示す。0 T、0.5 T では I-IV 相転移後、Ce0.75La0.25B6 が III 相に転移して∆L/L[001]が大きく減少するのに対し、Ce0.70La0.30B6 では IV 相 から III 相へ転移しないため∆L/L[001]は増加し続けた。 図 4-3-6 に Ce0.70La0.30B6 の∆L//H//[001]の磁歪を示す。1.0 K では、IV 相でほぼ 66 10 II 4.3K 1.6K -6 ∆L/L (10 ) I II 1.0K IV III Ce0.70La0.30B6 ∆L//H//[001] 0 2 4 H (T) 6 8 10 図 4-3-6 Ce0.70La0.30B6 の∆L//H//[001]の磁歪。 I -6 ∆L/L (10 ) IV IV I II III II Ce0.70La0.30B6 10 ∆L//H//[111] 1 2 T (K) 3 0T 0.5T 1T 2T 4T 4 図 4-3-7 Ce0.70La0.30B6 の∆L//H//[111]の磁場中熱膨張。 67 I 4.2K I II -6 ∆L/L (10 ) IV III 1.5K II 10 1.0K Ce0.70La0.30B6 ∆L//H//[111] 0 2 4 H (T) 6 8 図 4-3-8 Ce0.70La0.30B6 の∆L//H//[111]の磁歪。 一定値を示し、IV-III 相転移で急激に減少した。IV-III 相転移は 1 次転移であり ヒステリシスを示すと期待されるが、温度が十分に低くないためほとんど見ら れなかった。Ce0.75La0.25B6 と同様に Ce0.70La0.30B6 の∆L/L[001]でも III’相の異常は見 られなかった。 Ce0.70La0.30B6 の∆L//H//[111]の磁場中熱膨張を図 4-3-7 に示す。Ce0.70La0.30B6 は Ce0.75La0.25B6 と違い低磁場では III 相へ転移せず IV 相が絶対零度まで安定なため、 ∆L/L[111]は温度が下がるにつれて減少し続け、0 T、0.5 T、1 T で I-IV 相転移後 10-5 ~ 10-6 程度の減少を示した。 図 4-3-8 に Ce0.70La0.30B6 の∆L//H//[111]の磁歪を示す。1.0 K の IV 相では、 Ce0.75La0.25B6 と比較して∆L/L[111]の変化量が大きい。これは図 4-3-7 の∆L//H//[111] の熱膨張が IV 相で磁場が強くなるにつれて変化量が大きくなることに対応して おり、IV 相が絶対零度まで安定である Ce0.70La0.30B6 では、より低温で IV 相内の ∆L/L[111]の減少が大きくなると思われる。また 1.0 K の IV 相では、∆L/L[111]が昇 磁と降磁で不一致を示しているが、これはヒステリシスではなく測定装置側の エラーによるものと思われる。 4-4 CexLa1-xB6 の IV 相についての考察 熱膨張測定の結果から、IV 相の秩序変数について考察する。Ce0.75La0.25B6 と Ce0.70La0.30B6 の IV 相における熱膨張は、[001]軸に伸び[111]軸へ縮んだ。式 2.16 によれば、常磁性相や反強四重極子秩序などの結晶の対称性の低下が起こらな 68 図 4-4-1 IV 相における立方晶から三方晶への歪み い場合は、対称歪みεu またはεyz、εzx、εxy が発生しない。つまりεu = 0 及びεyz = εzx = εxy = 0 ならば、[001]軸の熱膨張∆L/L[001]と[111]軸の熱膨張∆L/L[111]は、∆L/L[001] = ∆L/L[111] = εB で同じ振る舞いを示すはずである。IV 相における熱膨張実験の結果 は、IV 相内で正方晶歪みεu または三方晶歪みεyz = εzx = εxy が発生していることを 示している。第 1 章で述べたように、中性子散乱[1-60]やµSR[1-61]の実験からは、 磁気双極子モーメントは観測されなかった。そのためこの歪みは、磁歪ではな く四重極子によるものと考えられる。IV 相では、弾性定数 C11、(C11-C12)/2 はソ フト化せず、C44 のみ巨大なソフト化を示すことから、表 2-1 より四重極子 Oyz、 Ozx、Oxy が秩序変数に関係し、O20 と O22 は無関係であると推測できる。そのた め IV 相では、正方晶歪みεu ではなく図 4-4-1 に示すような三方晶歪みεyz = εzx = εxy が発生していると考えられる。ここでεu = 0 と仮定すると、式 2.28、2.40 か ら体積歪みεB とεyz = εzx = εxy を求める式は以下のように書ける。 ∆L εB = 3 (4.1) L [ 001] 1 ∆L ∆L − 2 L [111] L [ 001] ε xy = (4.2) 式 4.1 を熱膨張の実験結果に適用した結果を図 4-4-2 に示す。Ce0.75La0.25B6、 Ce0.70La0.30B6 ともに 0 T では、εB が I 相で降温とともに緩やかに減少し、I-IV 相 転移で増加に転じる。Ce0.75La0.25B6 では、さらに低温で IV-III 相転移に伴う減少 を示す。III 相でのεB の異常は、III 相が反強磁性相であり磁気双極子モーメント による磁歪が絡んでくるため、純粋なεB だけではなくεu の効果も混ざっている と考えられる。Ce0.70La0.30B6 の 0.5 T、1 T では、I 相と IV 相ともに 0 T とほとん 69 IV IV -6 εB (10 ) 0 -40 I IV -20 III CexLa1-xB6 x=0.75:0T x=0.70:0T x=0.70:0.5T x=0.70:1T -60 1.0 T (K) 1.5 2.0 図 4-4-2 CexLa1-xB6 (x = 0.75, 0.70) の体積歪みεB の温度依存性。 CexLa1-xB6 -6 εyz = εzx = εxy (10 ) 5 III IV I 0 I IV x=0.75:0T x=0.70:0T x=0.70:0.5T x=0.70:1T -5 IV 1.0 T (K) 1.5 2.0 図 4-4-3 CexLa1-xB6 (x = 0.75, 0.70) のΓ5 対称歪みεyz = εzx = εxy の温度依存性。 70 ど変わらない結果が得られた。これは、H//[001]でεB が IV 相内では磁場に依存 していないと考えられる。 次に式 4.2 を適用しεyz = εzx = εxy の温度依存性を求めた結果を図 4-4-3 に示す。 以下では簡単にεyz = εzx = εxy をεxy と表す。0 T では、Ce0.75La0.25B6、Ce0.70La0.30B6 ともに I 相でほぼεxy = 0 である。これは常磁性である I 相では、Γ5 対称性の歪み が発生していないことを表している。一方、IV 相では I-IV 相転移温度以下でεxy ~ -4x10-6 が発生した。これは、Γ5 型の四重極子 Oyz、Ozx、Oxy による強四重極子 秩序である可能性を示唆している。Ce0.75La0.25B6 の III 相への転移にともなう急 激な増加は、上述したように磁歪によりεu も含んでいる可能性がある。 Ce0.70La0.30B6 のεxy の磁場中温度依存性は、次の仮定の下に計算したものであ る。式 4.2 をみると∆L/L[111]から∆L/L[001]を引いている。このとき、どちらも実験 条件が同じでなければいけないので、磁場方向が同じであることが前提である。 図 4-3-1 及び図 4-3-5 から、H//[001]の磁場中では、IV 相で∆L/L[001]はほとんど変 化がなかった。∆L/L[001]はεB/3 に等しく、H//[111]でもほとんど変化せず、H//[001] と同じだと仮定し計算した。Ce0.70La0.30B6 のεxy は、磁場を上げるにつれ、減少 率が増加した。これは、0 T ではドメインの効果により歪みが実際よりも小さく でており、磁場を印加することでドメインが整列し歪みが大きく発生したと考 えられる。 以上のことから、IV 相では三方晶歪みεyz = εzx = εxy ≠ 0 が発生することがわか った。素直に考えると Oyz、Ozx、Oxy の強四重極子秩序だと考えるのが妥当であ るが、他の多重極子が IV 相の秩序変数で四重極子を強的に誘起し三方晶歪みを 発生させる可能性も考えられる。CexLa1-xB6 の基底状態はΓ8 四重項なので、15 個の多重極子が秩序変数の候補となる。15 個の多重極子の内、IV 相で磁気双極 子モーメントは観測されていないため、磁気双極子 Jx、Jy、Jz は除外される。ま たΓ4 対称性の磁気八重極子 Txα、Tyα、Tzαは、対称性から磁気双極子も誘起して しまうので、秩序変数候補から除外される。Γ3 対称性の四重極子 O20 と O22 は、 正方晶歪みεu を発生させるので、これも除外される。残った秩序変数候補を整 理すると、電気四重極子 Oyz、Ozx、Oxy と磁気八重極子 Txyz、Txβ、Tyβ、Tzβの7 個が残る。この中で Txyz、Txβ、Tyβ、Tzβは、直接歪みと線形結合しないが、歪み と二次結合の場合が考えられ、四重極子 Oyz、Ozx、Oxy を誘起させる可能性があ る。 以上で議論した秩序変数について、結晶場と多重極子演算子の計算の観点か ら議論する。ここで議論されている多重極子演算子の行列計算については、 Appendix に詳しい計算結果を掲載する。結論から述べると、IV 相の秩序変数は 電気四重極子 Oyz+Ozx+Oxy と磁気八重極子 Txβ+Tyβ+Tzβの 2 つが考えられる。図 4-4-4 に Oyz+Ozx+Oxy に よ る Γ8 四 重 項 基 底 状 態 の 分 裂 の 模 式 図 を 示 す 。 71 Oyz+Ozx+Oxy Γ8 Jx=Jy=Jz 2 ± 0.866 −2 ± 0.866 図 4-4-4 四重極子 Oyz+Ozx+Oxy によるΓ8 四重項基底状態の分裂の模式図。図中の数 字は、それぞれモーメントの大きさを表す。 Oyz+Ozx+Oxy が秩序化すると、Γ8 四重項は 2 つのクラマース二重項に分裂し、< Oyz+Ozx+Oxy > = ±2 のモーメントを持つ。この時、磁気双極子 Jx、Jy、Jz は常磁 性状態である。そのため、Oyz+Ozx+Oxy の強四重極子秩序であれば、磁気秩序が なく三方晶歪みが発生する IV 相の物性と一致する。次に図 4-4-5 に Txβ+Tyβ+Tzβ によるΓ8 四重項基底状態の分裂の模式図を示す。Txβ+Tyβ+Tzβが秩序化すると、 Γ8 四重項は 2 つのクラマース二重項に分裂するのではなく、一重項、二重項、 一重項の 3 つに分かれる。Appendix にまとめたように、それぞれ Txβ、Tyβ、Tzβ 単独の秩序が起きた場合は 2 つの二重項に分裂するが、Txβ+Tyβ+Tzβの場合だけ例 外的に 3 つに分裂する。基底状態となる一重項に注目すると、Jx、Jy、Jz は、そ れぞれ <Jx> = <Jy> = <Jz> = 0 となり、磁気双極子モーメントは発生しない。Oyz、 Ozx、Oxy は、それぞれ <Oyz> = <Oxy> = −0.667、<Ozx> = 0.667 となり、四重極子 モーメントを持つ。図 4-4-5 を見てわかるように、2 本の一重項のどちらも四重 極子モーメントの符号が同じなので、Txβ+Tyβ+Tzβが強八重極子秩序、反強八重極 子秩序のどちらでも強的に四重極子モーメントが誘起されることが期待される。 そのため、Txβ+Tyβ+Tzβが秩序変数でも三方晶へ歪むことが分かる。以上のことか ら、秩序変数が四重極子 Oyz+Ozx+Oxy、八重極子 Txβ+Tyβ+Tzβのどちらであっても、 IV 相では Oyz+Ozx+Oxy の強四重極子モーメントが現れていると考えられる。図 4-4-6 に Oyz+Ozx+Oxy の 強 四 重 極 子 モ ー メ ン ト の 模 式 図 を 示 す 。 四 重 極 子 Oyz+Ozx+Oxy は、四重極子 O20 の主軸を三回軸[111]に変化させたものと同じであ る。 計算から求めた四重極子モーメントと、熱膨張実験から得られる歪みεyz = εzx = εxy の大きさから求めた四重極子モーメントを比較してみる。Ce0.75La0.25B6 は、 0 T でも低温で IV 相から III 相へ転移してしまうので、絶対零度まで IV 相が続 いていると考えられる Ce0.70La0.30B6 で考察する。図 4-4-7 に 0 T 及び磁場中の歪 みεyz = εzx = εxy と次の式 72 Txβ+Tyβ+Tzβ Jx=Jy=Jz Oyz+Ozx+Oxy 50.912 0 −0.667 0 ± 0.866 0.667 −50.912 0 −0.667 Γ8 図 4-4-5 八重極子 Txβ+Tyβ+TzβによるΓ8 四重項基底状態の分裂の模式図。図中の数字 は、それぞれモーメントの大きさを表す。 図 4-4-6 四重極子 Oyz+Ozx+Oxy の強四重極子秩序の模式図 73 -6 εyz = εzx = εxy (10 ) 0 Ce0.70La0.30B6 IV -5 I H//[111] 0T 0.5T 1T -10 -6 0.79 y=-7.66x10 (1.34-T) -5 y=-1.07x10 (1.33-x) -15 -5 y=-1.46x10 (1.32-x) 0.0 図 4-4-7 0.5 1.0 T (K) 0.69 0.61 1.5 2.0 εxy = A (TC-T)βにより図 4-4-3 の Ce0.70La0.30B6 のεxy にフィッティングした結果。 ε xy = A(TC − T )β (4.3) によりフィッティングした結果を示す。0 T では、β = 0.79 であり二次の相転移 を示すβ = 0.5 と大きく異なる。磁場を印加するとβは減少し、1 T ではβ = 0.61 となり、0.5 に近づく。これは、磁場の印加によりドメイン構造が整列すること によって自発歪みεyz = εzx = εxy の大きさも増大し、二次転移的になっていると考 えられる。0 T のεyz = εzx = εxy の絶対零度での外挿値は、約-9.6x10-6 であった。 次に歪みから四重極子モーメントを見積もる。歪みと四重極子の関係式 2.16 か ら、 O xy = 0 C 44 ε xy Ng Γ5 (4.4) となる。ここで Oyz = Ozx = Oxy を Oxy、εyz = εzx = εxy をεxy と表記した。Ce0.70La0.30B6 の弾性定数の解析から得られた、gΓ5 = 142 K、C440 = 7.936 x 1010 J/m3 と N = 9.83 x 1027 を用いて式 4.4 を計算した結果、<Oxy> = 1.65 x 10−2 (εxy = 4 x 10-6)と <Oxy> = 3.94 x 10-2 (εxy = −9.6 x 10-6) が得られた。図 4-4-4、5 をみると、モーメントの大 きさはそれぞれ 2、0.667 であり、歪みから見積もられた値は 1 桁以上小さい。 この理由として一つは、熱膨張ではマクロな歪みを観測するため、ドメイン効 果により実際の歪みよりも小さくでている可能性が考えられる。もう一つの理 74 Txβ+Tyβ+Tzβ の反強八重極子 図 4-4-8 図 4-4-9 秩序を考えた場合の 0.2 T の磁化の温度 依存性を計算した結果。 Oyz+Ozx+Oxy の強四重極子秩 序を考えた場合の 0.2 T における磁化の [4-2] 温度依存性を計算した結果。[4-2] 由として、近藤効果が考えられる。反強磁性相の III 相では、中性子実験から CeB6 で <Jz> = 0.28 µB[1-33]であり、計算から得られる 1.57 µB よりも非常に小さく、近 藤効果により磁気双極子モーメントがスクリーニングされていると考えられる。 この場合と同様に、四重極子も近藤スクリーニングによりモーメントが小さく でている可能性が考えられる。 最近、K. Kubo らによって、IV 相が Txβ+Tyβ+Tzβの反強八重極子秩序の場合、 ほとんどの異常物性が説明できると指摘された[4-1, 2]。図 4-4-8 に Txβ+Tyβ+Tzβの反 強八重極子秩序の場合の 0.2 T における磁化を計算した結果を示す。反強八重極 子転移でカスプが現れ、実験結果を再現している。しかし、実際の実験結果で は磁気異方性はほとんどないが、 図 4-4-8 では磁気異方性が現れている。これは、 各ドメインが等確率で現れた場合、磁気等方性を説明することができる可能性 がある。 一方、Oyz+Ozx+Oxy の強四重極子秩序を考えた場合、磁化の温度依存性のカス プを再現できない。図 4-4-9 に Oyz+Ozx+Oxy の強四重極子秩序の場合の 0.2 T にお ける磁化の温度依存性の計算結果を示す。磁化は温度が下がるにつれて上昇し 続け低温で一定値を示し、実験結果と全く違った結果が得られた。 さらに、K. Kubo らは弾性定数 C44 モードの四重極子感受率の計算も試みてい る。八重極子 Txβ、Tyβ、Tzβの相互作用を考え、式 2.23 と同じように H = −6 I 5u ∑ Tα5u Tα5u + g Γ 5 OΓ 5ε Γ 5 (4.5) α とハミルトニアンを考え、計算した結果が図 4-4-10 である。ここで I5u は、八重 極子相互作用の結合定数である。四重極子感受率は、八重極子転移点で不連続 的に跳び、転移点以降は緩やかに増加する。弾性定数 C44 の実験結果では、I-IV 75 相転移点近傍から急激に減少し III 相 へ転移するまでハード化しない。この 計算結果では、C44 が減少することは 再現できているが転移点以下で違い が生じている。超音波による C44 の測 定では IV 相で激しい超音波吸収が観 測されており、四重極子揺らぎが生じ ている可能性が高い。そのため実験結 果と計算結果に食い違いが生じてい ると思われる。 図 4-4-10 八重極子 Txβ、Tyβ、Tzβを考慮 以上の K. Kubo らの計算結果を考 した場合の四重極子感受率 χΓ5 の温度依 えると、IV 相は Oyz+Ozx+Oxy の強四重 存性の計算結果。[4-2] β β β 極子秩序よりも Tx +Ty +Tz の八重極 子秩序である可能性が高いと思われ、 その場合八重極子秩序を示す物質としては、NpO2[4-3~5]に続いて 2 例目となる。 今後の課題としては、八重極子秩序を直接確認するための手段がないので、ま だ行われていない実験を行い確認していく必要がある。超音波実験では、IV 相 での弾性定数 C44 モードの超音波吸収の測定が行われていない。C44 モードでは 超音波吸収が激しすぎて測定が困難なので、 C44 が含まれている CL[111] = CB+4C44/3 モードを用いて弾性定数と超音波吸収を測定する必要がある。これに より IV 相での四重極子 Oyz、Ozx、Oxy の動的情報が得られる。熱膨張実験では、 Ce0.70La0.30B6 の IV 相で発生している歪みεyz = εzx = εxy が絶対零度でどの程度の値 を持つか、四重極子 Oyz+Ozx+Oxy のモーメントの最終的な大きさを知る上で必要 であり、希釈冷凍機を用いて極低温熱膨張実験を行う必要がある。 76 第5章 結論 本研究では、CexLa1-xB6 の反強四重極子秩序 II 相の磁気相図を研究するため、 物質・材料研究所の 40 T 級ハイブリッドマグネットを用いて強磁場中超音波実 験を行った。また、これまで未解決であった IV 相の秩序変数の研究のため、極 低温超音波実験と熱膨張実験を行った。本研究で得られた結果を以下にまとめ る。 Ce0.50La0.50B6 で強磁場中超音波実験を行った結果、H//[001]で反強四重極子秩 序 II 相が約 29 T で閉じることを初めて示した。また、強磁場では反強四重極子 転移点 TQ が、TQ[001] << TQ [111] < TQ[110]と非常に強い磁気異方性を示した。この強 い磁気異方性の一因は、Zeeman 分裂の磁気異方性によるものと考えられる。こ の磁気異方性は、Γ5 型の四重極子 Oyz、Ozx、Oxy とΓ2 型の八重極子 Txyz の相互作 用と揺らぎを取り入れた R. Shiina による理論的に求められた磁気相図[1-46]とほ ぼ一致する。しかし、R. Shiina の計算では、TQ[111] > TQ[110]であり、実験結果と異 なる部分もある。この詳細な II 相の磁気相図を決定できたことにより、理論面 では多重極子相互作用や揺らぎを定量的に議論することが可能となると考えら れ、一層の研究の進展が望めると思われる。今後の課題としては、H//[110]、[111] で II 相がどの程度の磁場で閉じるのかを確認するために、パルス磁場による超 音波実験装置を開発し、実験する必要がある。 CexLa1-xB6 (x = 0.75、0.70) で熱膨張測定を行った結果、試料が IV 相で[001]方 向に伸び[111]方向に縮むのを観測した。これは、結晶構造が立方晶から三方晶 へ歪む三方晶歪みεyz = εzx = εxy ≠ 0 が発生していることを示している。これまで の中性子散乱やµSR の実験から IV 相では双極子モーメントが発生しておらず通 常の磁気秩序が否定されているため、三方晶歪みの発生は IV 相内で Oyz+Ozx+Oxy の強四重極子モーメントが発生していることを意味している。結晶場と多重極 子演算子の行列計算を行い、Oyz+Ozx+Oxy の強四重極子秩序または Txβ+Tyβ+Tzβの 八重極子秩序が IV 相の秩序変数である可能性を示した。最近の K. Kubo らの計 算結果[4-1, 2]を考えると、IV 相は Txβ+Tyβ+Tzβの反強八重極子秩序の可能性が高い と思われる。 CexLa1-xB6 (x = 0.70 ~ 0.50) で極低温超音波実験を行った結果、x = 0.70、0.65 の弾性定数 C44 は IV 相で 20 %以上の巨大なソフト化を示し、III 相へ転移する x = 0.75 と違い極低温まで冷やしてもソフト化は回復しなかった。そのため x = 0.70 と 0.65 の IV 相は絶対零度まで安定であると考えられる。一方、x = 0.60 の C44 のソフト化は 0 T で約 11 %と IV 相のある x = 0.75 ~ 0.65 と比べて小さく緩や かなものであった。x = 0.50 の H//[001]、[110]、[111]での超音波実験では、x = 0.50 77 の H//[110]で III 相がまだ残っており、HIII-II[001] > HIII-II[111] > HIII-II[110]の強い磁気異 方性を示した。また極低温低磁場 (H = 0 ~ 1.7T) の CL[110] = (C11+C12+2C44)/2 と CL[111] = CB+4C44/3 の磁場依存性で、ヒステリシスを観測した。x = 0.60、0.50 の 1 K 以下の極低温低磁場領域は、電気抵抗[1-62]で非フェルミ液体の振る舞いを示 しており、比熱は近藤一重項状態へ移行している事を示唆している。以上から、 CexLa1-xB6 (x = 0.60、0.50) は、IV 相が秩序化する状態から秩序化しない状態へ 移行する臨界濃度であると考えられ、CexLa1-xB6 (x = 0.60、0.50) の極低温低磁場 領域は、非磁性の近藤一重項状態であるが四重極子または八重極子の短距離秩 序が発達している可能性がある。今後の課題として、八重極子モーメントを直 接観測する手段がないため、まだ行われていない実験を行い、IV 相が Txβ+Tyβ+Tzβ の反強八重極子秩序であることを検証していく必要がある。Ce0.70La0.30B6 の IV 相は絶対零度まで安定であると考えられるため、極低温熱膨張実験を行い、IV 相で発生する三方晶歪みεyz = εzx = εxy ≠ 0 がどの程度発達するか観測し、四重極 子 Oyz+Ozx+Oxy のモーメントの最終的な大きさを決定する。また CexLa1-xB6 (x = 0.60、0.50) の低温低磁場領域は、非磁性の近藤一重項状態であるが IV 相の秩序 変数である四重極子 Oyz+Ozx+Oxy または八重極子 Txβ+Tyβ+Tzβの短距離秩序が発達 している可能性がある。その場合、三方晶歪みεyz = εzx = εxy ≠ 0 が発生するので、 極低温熱膨張実験を行い三方晶歪みが発生するかどうか確認する。IV 相では、 弾性定数 C44 モードで激しい超音波吸収が見られる。これを直接測定することは 非常に困難なため、弾性定数 CL[111]モードで C44 モードの超音波吸収を間接的に 測定することにより、IV 相での四重極子 Oyz、Ozx、Oxy の揺らぎなど動的情報が 得られると思われる。 78 Appendix 結晶場と多重極子演算子の行列計算 CexLa1-xB6 の IV 相では、三方晶歪みが発生するため、四重極子 Oyz+Ozx+Oxy の強四重極子モーメントが発生していると考えられる。また IV 相では、磁気双 極子モーメントが確認されていない。このような状態が起こりうる秩序変数と 秩序に伴って誘起されるモーメントを考えるため、Ce3+の立方対称の結晶場と 15 個の多重極子演算子の行列計算を行った。計算は以下の手順で行った。 Ce3+の立方対称の結晶場<HCEF>を計算 (1) (2) <HCEF>を対角化して得られた波動関数|i>を 15 個の多重極 子演算子 An (n = 1~15) に適用 (3) 秩序変数と思われる多重極子の行列<An>のΓ8 四重項の部分を対 角化し、得られた波動関数| j>を磁気双極子 Jx、Jy、Jz、電気四重 極子 O20、O22、Oyz、Ozx、Oxy に適用 (1)、(2) は手計算で、(3)は Fortran による数値計算によって求めた。手計算の部 分は数値計算で、数値計算の部分は手計算で、いくつかの計算結果を抜き出し て検算を行っている。(3) の最後に得られた多重極子の対角成分の基底状態の部 分が<An> = 0 ならモーメントが誘起されず、<An> ≠ 0 ならモーメントが誘起さ れる。 Ce3+イオンの立方対称中の結晶場ハミルトニアンは、 ( ) ( H CEF = B4 O40 + 5O44 + B6 O60 − 21O64 ) と定義され、B4 と B6 は結晶場パラメータである。CexLa1-xB6 は Oh 群なので、そ の対称性の良さから B6 は自然と消え、HCEF の行列要素は以下のようになる。 79 これを対角化すると、<HCEF>と波動関数は以下のようになる。 得られた波動関数を表 1-2-1 の 15 個の演算子に適用する。その結果が以下の通 りである。 80 81 82 83 四重極子 Oyz+Ozx+Oxy が秩序変数の場合 四重極子 Oyz+Ozx+Oxy が秩序変数の場合を考える。<Oyz>+<Ozx>+<Oxy>のΓ8 四 重項|ν>、|κ>、|λ>、|µ>の部分を対角化すると、 となり、波動関数は 84 となる。この波動関数を磁気双極子 Jx、Jy、Jz、電気四重極子 O20、O22、Oyz、 Ozx、Oxy に適用すると以下のようになる。 85 以上の計算結果から、四重極子 Oyz+Ozx+Oxy が秩序した場合、Γ8 四重項は 2 つの クラマース二重項に分裂し、磁性は常磁性であることがわかる。そのため、四 重極子 Oyz+Ozx+Oxy の強四重極子秩序の場合、三方晶に歪み磁気双極子モーメン トが発生しないという IV 相の性質と一致する。 磁気八重極子 Txyz が秩序変数の場合 磁気八重極子 Txyz が秩序変数の場合を考える。<Txyz>のΓ8 四重項|ν>、|κ>、|λ>、 |µ>の部分を対角化すると、以下のように書ける。 86 このときの波動関数は、 と記述できる。この波動関数を磁気双極子 Jx、Jy、Jz、電気四重極子 O20、O22、 Oyz、Ozx、Oxy に適用する。 87 88 以上の計算結果から、八重極子 Txyz が秩序した場合、Γ8 四重項は 2 つのクラマ ース二重項に分裂し、磁性は常磁性である。基底状態の二重項部分に注目する と、四重極子 O20、O22 は 0 であり、Oyz、Ozx、Oxy はパラ状態である。そのため、 Txyz が秩序しても Oyz+Ozx+Oxy の強四重極子モーメントは発生せず、八重極子 Txyz が IV 相の秩序変数ではないと考えられる。 磁気八重極子 Tzβが秩序変数の場合 磁気八重極子 Tzβが秩序変数の場合を考える。<Tzβ>のΓ8 四重項|ν>、|κ>、|λ>、 |µ>の部分を対角化すると、行列と波動関数は以下のように書ける。 得られた波動関数を磁気双極子 Jx、Jy、Jz、電気四重極子 O20、O22、Oyz、Ozx、 Oxy に適用する。 89 90 以上の計算結果から、八重極子 Tzβが秩序した場合、Γ8 四重項は 2 つのクラマー ス二重項に分裂し、双極子、四重極子ともにパラ状態または 0 である。そのた め、Tzβは IV 相の秩序変数ではないと考えられる。 磁気八重極子 Txβ+Tyβ+Tzβが秩序変数の場合 磁気八重極子 Txβ+Tyβ+Tzβが秩序変数の場合を考える。<Txβ>+<Tyβ>+<Tzβ>のΓ8 四重項|ν>、|κ>、|λ>、|µ>の部分を対角化すると、行列と波動関数は以下のよう に書ける。 91 得られた波動関数を磁気双極子 Jx、Jy、Jz、電気四重極子 O20、O22、Oyz、Ozx、 Oxy に適用する。 92 八重極子 Txβ+Tyβ+Tzβが秩序化した場合、Γ8 四重項は 2 つのクラマース二重項に 分裂するのではなく、2 つの一重項と 1 つの二重項に分裂する。基底状態の一重 項に注目すると、双極子はいずれも 0 であり磁気双極子モーメントが発生しな いことがわかる。また四重極子 O20、O22 も同様に 0 である。一方、四重極子 Oyz、 Ozx、Oxy は有限の値を持ち、さらに基底状態となりうるどちらの一重項の場合で も符号が変わらない。そのため、Txβ+Tyβ+Tzβの強八重極子秩序、反強八重極子秩 序のどちらの場合でも Oyz+Ozx+Oxy の強四重極子モーメントが発生することがわ かる。以上のことから、Txβ+Tyβ+Tzβの八重極子秩序の場合、三方晶に歪み磁気双 極子モーメントが発生しないという IV 相の性質と一致する。 以上の計算結果から、IV 相の秩序変数は、四重極子 Oyz+Ozx+Oxy または八重 極子 Txβ+Tyβ+Tzβのどちらかであると考えられる。 93 参考文献 [1-1] R. 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B 68 (2003) 174425. 97 謝辞 本研究を行うにあたり、様々な人からご指導や援助を受けました。ここに深 く感謝の意を申し上げます。 後藤輝孝教授には、大学 4 年に研究室に配属して以来 6 年間にわたり、ご指 導を受けました。研究者としての姿勢から実験技術など様々なことを教えてい ただきました。ここに、深く感謝いたします。 東北大学の国井暁教授には、大量の試料を提供していただきました。この研 究は、国井暁教授の純良な試料なしには行えませんでした。 根本祐一助教授には、実験技術から論文の作成まで、親身に指導していただ きました。 新潟大学の土屋良海教授、山田裕教授、大野義章教授、佐々木進助教授には、 論文審査員として有益な助言をいただきました。 物質・材料研究機構の木戸義勇ディレクターとの共同研究により、強磁場実 験を行うことができました。珠玉のデータを得られると共に、貴重な体験をす ることができました。 研究室の OB である東北大学の中村慎太郎博士、東京電機大学の森田憲吾博士、 物質材料研究機構の鈴木修博士には、研究の助言から学会などでお世話になり ました。 研究室の同僚である柳澤達也氏には、日々の議論から研究姿勢など多くの刺 激を受けました。また実験装置の立ち上げなどでお互いの得意分野で相互補完 できたことは、研究を発展させる上で欠かせないものでした。 研究室の後輩である山口隆氏、坂井一浩氏には、研究の議論や実験のサポー トなど多岐にわたりお世話になりました。大貫圭氏は、私のプログラムの指導 にも良くついてきて、結晶場計算のプログラムを完成させてくれました。森脇 達也氏、尾関文崇氏、林耕平氏他後輩諸氏には、実験のサポートでお世話にな りました。 秘書の畑中正恵氏には、書類の作成から伝票処理まで様々なことでお世話に なりました。ここに感謝いたします。 最後に、学生生活を支え励ましてくれた家族に感謝します。 98