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ASEAN 諸国 訪日観光客・日本産農林 水産物等の
特 集 ASEAN 諸国における 訪日観光客・日本産農林 水産物等の 市場拡大に向けて∼タイ編 かねてよりASEAN諸国は、豊富な天然資源と低コストの労働力を背景に、製造業の国 際分業拠点として注目されてきた。5億7千万人を超える域内人口は、EUのそれを上回り、 各国の経済発展により、今日では新たな消費市場としてもその可能性が指摘されている。 特に、シンガポールやタイでは富裕層の増加に伴い、訪日観光客や日本産農林水産物・食 料品の有望なマーケットとして、大きな注目を浴びるようになってきている。 そこで本特集では、昨年のシンガポ−ルに続き、今回はタイを中心に、訪日観光客や日 本産農林水産物等の市場の現況とともに、各関係機関等による訪日観光客誘致や日本産農 林水産物等の販路拡大等の取り組みを紹介する。 1.タイからの訪日観光の動向と 観光客誘致に向けた取り組みについて 日本政府観光局(JNTO)バンコク事務所所長 益田 浩 はじめに となり、治安部隊との間で日本人の死者を含む多 数の死傷者が出る衝突が発生した。5月中旬から 今年、 「微笑みの国」タイのイメージは大きく 下旬にかけては、治安部隊の装甲車が赤シャツ隊 損なわれた。2006年の政変によるタクシン元首相 のバリケードに突入して強制的に排除したもの の失脚以来、断続的にタクシン元首相派と反タク の、市内各所で焼き討ちが発生し、これらの様子 シン元首相派(現政権側)との対立が繰り返され が世界各国のTVで放映された結果、 「タイは危 てきたが、今年4月以降、タクシン元首相派(い 険」とのイメージが一気に広まり、現在でも、特 わゆる「赤シャツ隊」 )がバンコク市内の百貨店、 に日本でのタイのイメージは回復しきれていな ホテルがある商業地域や幹線道路を占拠する事態 い。 2 自治体国際化フォーラム Dec.2010 特 集 ASEAN 諸国における訪日観光客・日本産農林水産物等の市場拡大に向けて しかしながら、この政治騒乱の間も混乱してい たのはバンコク中心部の限られた地域であり、ま ートの開業により再び人気を博している。 これら5カ国・地域に続き、日本、ベトナム、 た、6月以降は通常どおりの市民生活が営まれて 韓国、マカオ、カンボジアなどのアジア諸国・地 いる。さらに、今年のタイでは、第1四半期(1 域が占めている。いずれも2008年には10万人以上 月∼3月)の経済成長率は12.0%、政治騒乱があ のタイ人が訪問した。日本は2005年にタイをビジ った第2四半期(4月∼6月)ですら9.1%を記 ット・ジャパン・キャンペーン(VJC)の重点対 録しており、8月のタイ国家経済社会開発委員会 象市場国と位置づけ、誘致宣伝活動の強化を図っ (NESDB)見通し(政府見通し)でも通年の経済 ていること、ベトナムは格安航空会社(LCC)を 成長率を7.0%∼ 7.5%と予測するなど、世界経済 利用した低廉な旅行商品が人気であること、韓国 の回復や、中国、インド 等とASEANとの自由貿 は韓流ブームで若者の心をつかんでいること、カ 易協定(FTA)の締結・発効を受けた輸出の拡大 ンボジアはアンコールワット観光やカジノ観光で などにより、堅調な経済成長を続けている。この 人気を集めていることが、それぞれの人気の要因 好調な経済や根強い日本人気に支えられて、今年 と考えられる。 のタイからの訪日旅行者数は過去最高を記録する 勢いとなっている。 タイからの外国旅行の動向 タイからの訪日旅行の動向 1. 概 況 タイからの訪日旅行については、2005年にタイ タイからの外国旅行が盛んになったのは、経済 がVJCの重点対象市場に指定されて以来、訪日タ 成長がはじまった1980年代後半からである。一部 イ人数は順調に増加している。日タイ修好120周 の富裕層に限られていた外国旅行が、近隣諸国へ 年および日タイ観光交流年であった2007年には、 の旅行を中心に中産階級、若年層にも一般化する 2月に訪日査証(ビザ)申請手続きの緩和措置 傾向が強まり、近年では高・中所得者層の拡大と (訪日2回目以降の者が対象)が講じられたこと 相まって、 訪問先も多様化している。2004年以降、 や、為替相場がバーツ高基調で推移したことなど タイ人の外国旅行者は順調に伸びており、2007年 がプラスとなり、訪日タイ人数が前年比33.2%増 には初めて400万人台を突破している。2008年は の16万7,481人と大きく増加した。2008年も前年 世界的な景気後退やタイの政局混乱、それに伴う 比14.9%増の19万1,881人と過去最高を記録するな バンコク国際空港の閉鎖などにより、前年比0.5 ど、近年、タイの外国旅行市場において、訪日旅 %増にとどまったが、景気が回復基調となった 行は一種のブームとなっているが、2009年は世界 2009年は、タイの通貨であるバーツ高などの影響 同時不況の影響やタイ国内の政治不安により、前 もあり、再び増加傾向に戻っている。 年比7.5%減の17万7,541人にとどまった。ただし、 訪問先としては近隣のアジア諸国が中心であ 同年10月以降は回復基調に転じている。 り、マレーシアへの旅行者数が最も多く、次いで、 2010年に入り、世界経済の回復などを受けた好 ラオス、中国、シンガポール、香港の順で、毎年、 調なタイ経済や根強い日本人気に支えられて、1 これら5カ国・地域が上位を占めている。ラオス 月から9月までの訪日タイ人数は前年比22.1%増 は古都ルアンパバーン観光などが人気で、2004年 の14万8,900人、過去最高を記録した2008年の同 から2007年の間に倍増と顕著な伸びを示してお 期と比較しても2.6%増となるなど順調に推移し り、また、華人系の多いタイでは中国や香港への ており、年間で20万人を超えて過去最高となるこ 旅行は親戚訪問も含めて根強い需要がある。 とが期待されている。 一方、マレーシア、シンガポールは2006年以降、 近隣のシンガポールやマレーシアと異なり、現 減少傾向にあったが、今年のシンガポールはユニ 在のところ、日本とタイを結ぶ航空路線にはLCC バーサルスタジオやカジノなどを有する総合リゾ が参入していないものの、今年10月末以降、羽田 自治体国際化フォーラム Dec.2010 3 空港とバンコクを結ぶ路線に日本航空、全日空、 急速に普及しており、おおむね6対4くらいの比 タイ国際航空の3社が週7便での就航を予定して 率ではないかと分析している。 おり、バンコクと東京、あるいは羽田空港と接続 最後に、実際の訪問先としては、タイからの直 する地方都市へのアクセスの大幅な向上が見込ま 行便がある東京、大阪、名古屋および福岡を基点 れ、訪日タイ人の増加に拍車がかかることが見込 として、東京と大阪を結ぶいわゆるゴールデンル まれている。 ートやその周辺の高山・日本アルプスなどの中部 2. 分 析 エリア、さらにはタイの訪日市場がまだ小さかっ 訪日時期は4月、3月、10月の順に多くなって た段階から積極的な広報宣伝活動を継続している いる。 家族旅行の形態がまだ主流のタイにおいて、 仙台などが主な訪問地であり、その他、今年は特 タイの学校が休みになるこれらの時期に訪日旅行 に夏の北海道が人気となった。 のピークが来るものの、近年では、企業のインセ タイで訪日旅行を取り扱う旅行事業者は優に ンティブ旅行や旅行形態の個人旅行(FIT)化に 100を超えているが、大手による寡占状況ではな より、これらの時期以外の訪日も増えている。な く、中規模、小規模の旅行事業者が乱立しており、 お、タイでは見られない桜や紅葉はタイ人に人気 また近年の訪日旅行ブームを背景に、これまで訪 であり、学校の休暇と重なる時期に桜や紅葉が楽 日旅行を取り扱っていなかった旅行事業者の新た しめることは日本人気の一因となっている。 な参入も相次いでいる。このような激しい競争の 訪日タイ人の関心事項は、日本での聞き取り調 中で、他の旅行事業者との差別化のため、新たな 査(JNTO訪日外客訪問地調査2009)やタイの旅 訪問地を組み込んだ旅行商品や、韓国、台湾、中 行フェアでのアンケートによると、日本食、買物、 国、香港、ベトナム、シンガポールなど第3国経 歴史・文化的建造物・旧跡、自然景観、桜、温泉 由の航空路線を活用した低廉な価格の旅行商品な などが上位に挙がっている。特に日本食は、すで どが多く造成されており、結果的に訪日タイ人の にタイで日本食レストランが定着しているとお 裾野を広げるプラスの効果が生じている。 り、すべての世代からの支持があり、寿司、ラー メン、刺身、天ぷら、とんかつ・カツ丼、海鮮・ 魚料理、焼肉が人気である。なお、訪日旅行では、 バンコク事務所の取り組み JNTOバンコク事務所においては、タイにおけ 以前はラーメン、最近ではカニの食べ放題が売り る訪日旅行人気に甘んじることなく、訪日旅行未 の一つとなっている。 経験のタイ人には、タイから最も身近な先進国で 年齢層は男女とも25歳∼ 34歳、35歳∼ 44歳の クールな日本を売り込み、訪日旅行の経験がある 順に多く、次いで、男性は45歳∼ 54歳、女性は タイ人には、あなたの知らない日本がまだまだ残 24歳以下と、総じて比較的若い層が日本を訪問し っているとのメッセージを発するため、観光庁予 ている。そのため、旅行情報の収集先としてウェ 算のいわゆるVisit Japan(VJ)事業と連携しつつ、 ブサイトが最も多く、旅行会社などのパンフレッ 事務所独自の事業もあわせて進めている。 ト、口コミ、新聞、旅行雑誌、TV番組の順とな っている。 今年度の具体的な取り組みとして、VJ事業に ついては、シンガポール、マレーシアとともに 訪日回数は、日本での聞き取り調査では2回目 東南アジア3カ国の共通プロモーションとして、 以上が60.8%、1回目が38.5%となっており、上 共通の図案を活用した訪日PRを進めるとともに、 記の訪日2回目以降の査証手続きの緩和と相まっ 今年8月末に初めてタイ語のフェイスブックのサ て、確実に訪日リピーターが増えている。また、 イトを立ち上げたところ、10月初めの時点で、す 旅行形態については、データによりバラつきがあ でに1万人を超えるファンを獲得しており、訪日 り、一概にはいえないが、バンコク事務所では、 旅行の情報交換を行う新たな場として定着しつつ まだ団体旅行が過半数を占めつつも、個人旅行が ある。また、タイでは新聞や旅行雑誌等への広告 4 自治体国際化フォーラム Dec.2010 特 集 ASEAN 諸国における訪日観光客・日本産農林水産物等の市場拡大に向けて 掲載のほか、交通量の多い高速道路脇に巨大なビ ルボードを設置して、旅行先としての日本の露出 を高めている。 さらに、日本の旅行フェアとは異なり、タイの 旅行フェアは旅行先の情報提供のみならず、旅行 事業者が会場で旅行商品を販売する即売会の役割 を担っていることから、訪日旅行促進に直接結び つく機会であり、4月と10月の訪日旅行シーズ ンをターゲットとして、2月下旬に開催される TTAA(Thai Travel Agents Association)旅行 フェアと9月初めに開催されるDiscovery World 旅行フェア(いずれも会場はバンコク)において、 日本の地方公共団体や宿泊施設、テーマパークな どともに、JNTOもブースを出展している。 今年2月のTTAA旅行フェアでは、九州観光 推進機構、富山県、仙台市など計13団体に出展し ていただき、桜の統一装飾のもと、日本観光のア ピールに努めたところ、同旅行フェアにおける訪 日旅行商品予約・購入者は2,800人を超え、前年 比24%増の実績を上げることができた。なお、自 治体国際化協会シンガポール事務所からも、所長 をはじめとする皆様にブースのカウンターで精力 的に日本各地の観光案内を行っていただいた。あ らためて感謝申し上げたい。 また、去る9月に開催されたDiscovery World 旅行フェアには長野県、神奈川県・静岡県合同な ど計6団体の出展があり、この旅行フェアでも前年 比54%増の販売実績を上げている。 ※タイ語ローカルウェブサイトにおける地方公共団体情報の提供 果的となる。現状ではタイ語による訪日旅行情報 これらの旅行フェアは、出展ブース内で積極的 はまだ不十分であるため、「SayHi」など複数の な情報提供を行うとともに、どの旅行事業者がど 訪日旅行特化型TV番組や、モデル、俳優を使っ のような旅行商品を販売しているのか、またどの た質の高い特集記事を組む多数の旅行雑誌が存在 地域が人気なのか、効果的なPR方法はどうかな するタイの特質を踏まえ、優良メディアに対する どの情報収集、さらには、訪日旅行に関心が高い 日本での取材の誘致や協力を行うとともに、2006 タイの旅行事業者とのネットワーク構築などがで 年1月に開設し、現在、月間12万回以上のページ きる良い機会と評価されており、タイ市場に関心 ビュー回数を誇るタイ語版ローカルウェブサイト がある地方公共団体等におかれては、出展を検討 (www.yokosojapan.org)や毎月2,000件弱の宛先 していただければ幸いである。 次に事務所独自の取り組みとしては、引き続き、 に発信するタイ語ニュースレターにおいて、最新 の日本観光情報などを提供している。 タイ語による情報発信を強化している。日本を訪 また、各地方公共団体や観光機構などの観光パ れるタイ人はおおむね英語を理解するものの、母 ンフレットのタイ語化も進めるとともに、地方公 国語であるタイ語による情報発信があればより効 共団体、観光機構、宿泊施設、交通機関、テーマ 自治体国際化フォーラム Dec.2010 5 パーク等によるバンコクでのセミナー開催、旅行 これからも「Yokoso! Japan」に代わる新しいロ 事業者に対するセールスコールについても積極的 ゴ で あ る「Japan. Endless Discovery.」 の も と、 に支援しており、皆様の事業パートナーとしても さらなる日本の魅力の紹介、訪日タイ人の増加に 活用していただきたい。 努めてまいりたい。 おわりに ※Japan. Endless Discovery. ロゴ 今年、 バンコク事務所は創設50年を迎えている。 2.訪日観光客誘致のプロモーションにあたって ∼タイ旅行フェアへの出展および 現地旅行代理店への訪問等を通じて シンガポール事務所所長補佐 小松 幹典(長野県派遣) はじめに 台湾、韓国、香港、中国に加え、シンガポールや タイといった東南アジアの国々においても、外国 「ここ3年ほど、日本を訪れるタイ人の数が明ら 人旅行者の誘致に向けたプロモーション活動に乗 かに増えていると感じる」と語るのは、10年以上 り出したところである。 前からタイに滞在し、 自らも旅行業に携わる某氏。 今般、長野県では、2010年9月初旬の4日間、 政治面での不透明さこそあれ、輸出の伸びと内 タイ・バンコクで開催された一般消費者向けの旅 需拡大による堅調な経済発展を背景に、2004年に 行フェア「Discovery World 2010」に初めて単独 10万人を超えたタイからの訪日者数は、今年、遂 出展した。タイ語のパンフレットやポスターの配 に20万人を突破するものと見込まれている。 現在、 布や掲示、CMの放映等により、タイにおける知 日本を訪れるタイ人のおよそ4分の3は観光を目 名度の向上を図るとともに、併せて現地の旅行会 的とした入国であり、2009年の統計によると、約 社を訪問し、四季それぞれの自然美、東京や名古 13万人のタイ人観光客が日本を訪れたという。 屋といった大都市圏からのアクセスの容易さ等を このような流れを受け、現在、タイ国内では、 紹介しながら、多彩な観光資源を有する「長野」 訪日旅行需要の取り込みを図る旅行代理店の動き の旅行先としての魅力をPRした。 も活発になっている。今年に入り、日系旅行代理 筆者は、かかる一連のプロモーション活動に同 店も、新たな現地法人の設立や店舗開設といった 行したものであるが、本稿では、地方自治体によ 積極的な展開を見せている。また、日本の国内市 る今後のタイでの外客誘致の取り組みの一助とし 場が頭打ちとなる中、海外、特に経済成長著しい ていただくことを願い、これらの活動を通じて得 東南アジア諸国からの外客誘致に関心を寄せる地 た情報等を紹介したい。 方自治体も多く、タイでの旅行フェアへの出展、 観光セミナーの開催、旅行代理店へのセールス コール、ファムトリップやメディア招請などの動 タイの訪日旅行市場と 訪日タイ人の嗜好 きも、多くなっていると聞く。 タイでは、多くの旅行代理店が訪日旅行を取り 筆者の派遣元である長野県も、 アジア地域では、 扱っているといわれている。地元最大手と目され 6 自治体国際化フォーラム Dec.2010 特 集 ASEAN 諸国における訪日観光客・日本産農林水産物等の市場拡大に向けて る2つの旅行代理店でも、年間総客数が、それぞ 物」にも関心が高く、加えて、テレビ等の媒体で れ8,000人から10,000人程度であり、これらを合わ 紹介された場所やお店は、行ってみたい所として せても、年間訪日者数のおよそ1割を占めるに過 挙げられることが多いのだという。 ぎない。すなわち、極端に大きな旅行代理店が存 なお、タイ人は、バイキング(ビュッフェ形式 在しないのである。先般開催された「Discovery で提供される食事)を好むといわれているが、こ World 2010」の会場でも、大小さまざまな旅行代 れは、宗教上の理由から、豚肉や牛肉を食べるこ 理店が出展する中、訪日旅行を取り扱う旅行代理 とができない旅行者もいるため、ツアー催行上も 店が思いのほか多く見られたことは、この事実を 助かっているようである。 示しているということができる。いわゆる「ホー ル・セラー」から仕入れた旅行商品を販売する形 訪日旅行客誘致の方向性 態や、コンソーシアムによる共同販売形態も多い さて、タイからの訪日旅行市場では、現在、リ が、日本の地方自治体等の出展ブースを訪ね、独 ピーターの増加とFIT化が進展しているという。 自に情報収集を行い、商品造成に取り組もうとす これは、従来のツアー商品に多く見られた、東京 る比較的小規模な旅行代理店関係者の意欲的な姿 や大阪といった 「ゴールデン・ルート」以外の新た も、会場内で見受けられたところである。 な訪問先を開拓するニーズに結び付く動きであ 急速にFIT化しつつあるといわれるタイの訪日 る。消費者(旅行者)は、より多様な日本の地域 旅行市場でも、依然としてパッケージツアーへの に関する情報を求め、旅行代理店からも、「日本 参加による団体旅行客が、訪日者の5割から6割 全国にわたる、幅広い情報を持っていなければ、 を占めている。ツアー商品の行き先は、 主に東京、 『次の旅行先』を求めるリクエストに応えること 大阪、北海道、仙台(東北)であるが、最近では、 ができない」「他社が取り扱っていないような旅 これらに加えて現地でのプロモーションを展開し 行先を紹介するための資料がほしい」といった声 ている九州や岐阜(飛騨高山、郡上八幡等)方面 が聞かれる。その文脈において、近年、タイでの の商品も増えている。 プロモーション活動を積極的に展開する地域は、 旅行代理店等から伺ったことを集約すると、タ 旅行フェアでもそれらの地域を訪れるツアー商品 イ人の嗜好は、次のキーワードで表現されるよう の販売が見られるなど、その知名度が確実に高く である。 なっている様子がうかがえた。 ・「桜、紅葉、雪といった四季の風景」…雪は、 また、必要とされる情報の内容も、より実用的 スキーに興じるのではなく、見て触れる対象と で詳しいものであることが求められる傾向にあ して関心が向けられるようである。 る。確かに、観光パンフレットやポスターの写真 ・「食」…タイではなかなか食べることのできな を見て、直感的に旅行先を選ぶ者もいるようでは い、ブドウ、モモ、イチゴといった果物は人気 あるが、実際、旅行フェアで消費者からの問い合 が高く、果物狩りのような体験型の要素があれ わせに接すると、紹介されている場所への具体的 ば、旅行者の受けも良い。 な行き方を尋ねているものも多く、なかには、独 ・「温泉」…かつては、人前で肌を露出すること 自に情報を集め、詳細な旅程を組んだ上で、それ に抵抗を感じる者が多いといわれていたが、最 が無理のないものであるかを確認する者もいた。 近では、露天風呂や浴衣での街中の散策を楽し タイ国内から直接日本国内の手配を行い、タイか みたいといった声も強く、今やツアーに1回は らツアー添乗を行うケースが珍しくない旅行代理 組み込まれる要素となっている。 店の立場からは、交通手段のみならず、宿泊施設 ・「寺院・仏像」…敬虔な仏教徒の多い国であ り、日本の寺院や仏像への関心も高い。 また、デジタルカメラのような電化製品の「買 (子ども料金の設定の有無等を含む)や食事場所 のリストを求める声も強く聞かれたところである。 いうまでもなく、 旅行商品の造成にあたっては、 自治体国際化フォーラム Dec.2010 7 そもそも、売れる見込みが立たない商品が造られ タイの人々にとって、「日本」は、あこがれの ることはない。また、せっかく造られた商品も、 旅行先である。その想いは、実際に日本を訪れて 売れ行きが芳しくなければ、継続的な販売展開は なお一層、強くなるようである。冒頭で紹介した 望むべくもない。すなわち、旅行代理店への情報 氏は、「旅行先としてご紹介いただく素材が、日 提供と、消費者への露出は、両者の嗜好を的確に 本人から見て有名であるかどうかは問題ではな 捉えながら、いわば車の両輪のように、双方を地 い。 タイ国内でそれを有名な場所に仕立てるのは、 道に、そして継続的に行われなければ、その効果 旅行業に携わる者の仕事である」とも言う。 が薄れてしまうのである。旅行代理店へのアプ 今秋、羽田空港にタイ・バンコクからの直行便 ローチと旅行フェアへの出展などのプロモーショ が就航し、訪日旅行市場には、追い風となってい ン活動を継続的に行ってきた仙台市が、タイ国内 る。地方自治体等による継続的なプロモーション で大きなプレゼンスを持っていることは、その典 活動を通じて、日本に関心を寄せるタイの人々に、 型的な例である。 より多くの日本の地方の魅力を知っていただき、 訪日客数が増加し、その結果、地域に活力がもた 結びにかえて らされることを期待してやまない。 3.タイからの誘客 ∼九州観光推進機構の取り組み 九州観光推進機構海外誘致推進部長 本 重人 はじめに 九州観光推進機構は、九州が一体となって観光 振興に取り組むため、2005年4月に、九州地域戦 略会議(九州地方知事会と主要経済団体で構成)が があり、海外誘致で大きなポイントとなる「足」の確 保ができていることや、近年のタイの経済発展ぶり がその背景となっている。 タイからの入国者数 立ち上げた組織で、企画部、国内誘致推進部、海 法務省出入国管理統計による九州への入国者数 外誘致推進部が実動部隊となっている。 は表のとおりであり、昨年は新型インフルエンザの 海外からの誘客は海外誘致推進部が担当してお 影響等により前年比で約25%減となったが、今年は り、韓国、中国、台湾、香港、タイ、シンガポール 全国と同様に持ち直しており、一昨年と同様かそれ の6カ国・地域を対象にプロモーションを行っている。 以上の数字が出るのではないかと期待されている。 事業の推進にあたっては、国土交通省九州運輸 局と連携し、主にVJ事業を活用した事業展開を図っ ている。 タイへのアプローチ 表 タイからの入国者数 (単位:人、%) 2004年 2005 2006 前年比 140.0 取り組み始めたのは、実はごく最近のことで、2009 出展:法務省出入国管理統計年報 8 自治体国際化フォーラム Dec.2010 2008 2009 人数 5,105 4,826 6,744 11,394 12,986 9,797 九州観光推進機構が本格的にタイからの誘客に 年度からである。福岡空港とバンコクを結ぶ定期便 2007 94.5 139.7 169.0 114.0 75.4 特 集 ASEAN 諸国における訪日観光客・日本産農林水産物等の市場拡大に向けて タイ市場から見た日本 JNTOが昨年度に実施したバンコクの旅行フェア 会場でのアンケート調査によると、タイで人気のある 日本の旅行地は、1位:東京、2位:北海道、3位: 大阪と続き、九州の福岡が7位に入っている。北海 道人気が高まっており、雄大な自然や雪国への憧れ を刺激するPRが功を奏しているものと思われる。ま た、日本の興味の対象としては、 「自然景観」「桜」 九州観光説明会(2009年12月、バンコク) 「ショッピング」 「日本食」などの人気が高いそうである。 一方、九州観光推進機構が去る9月の旅行博(ディ スカバリー・ワールド2010)で行ったアンケートの集 計によると、 「日本のどこに行ったか」という問いに 対しては、1位:東京、2位:大阪、3位:北海道、 4位:九州、5位:東北という結果であった。 また、 「日本に旅行する目的」については、1位: 自然景観、2位:歴史・文化、3位:温泉、4位:グ ルメ、5位:ショッピングの順であった。 旅行会社招請事業(2010年1月、佐賀県鹿島市の祐徳稲荷神社) 九州観光推進機構の取り組み 九州観光推進機構が本格的にタイ市場へのアプ 旅行博での印象 ローチを始めたのは前述のとおり昨年度からで、具 去る9月2日から5日までバンコクで開催された旅 体的には、昨年12月にバンコクの日本大使館の建物 行博(ディスカバリー・ワールド2010)に、九州ブース の一部をお借りして九州観光説明会を開催したのを を出展した。昨年は35万人が来場した大規模なもの 皮切りに、今年1月にタイ旅行業協会の会員旅行会 で、会場で旅行商品を直接消費者に販売しており、 社幹部17名を九州の視察旅行に招請、2月には最大 昨年の販売実績は11億円もあったそうである。 規模のTTAA旅行博(集客80万人)に初めて出展す 初日からすごい数の人が会場を訪れ、ほとんどの るとともに、現地のフリーペーパーやテレビ番組の 通路は人で溢れている。 取材旅行を行った。 九州ブースにもたくさんの人が訪れ、見る間に用 また、本年度は、2種類のタイ語パンフレットの 意したパンフレットがなくなっていく。結局、これで 改訂・増刷を行うとともに、9月にはバンコクの旅行 は最終日までもたないということで、1日あたりの配 博(ディスカバリー・ワールド2010)に出展した。また、 布枚数を制限せざるを得ず、次回への教訓となった。 10月末には、タイの旅行会社の商品造成担当者やマ タイでは、FIT化(団体旅行から個人旅行へのシ スコミを招いて、九州各地の視察旅行を行ったところ フト)が 進 である。 んでいる証 こうした取り組みにより、タイにおける九州の知名 左であろう 度も徐々に向上してきており、主要な旅行会社も九 が、「 九州 州商品の強化に取り組むなど、九州の定番化につな 内のホテル がる動きが見られる。 や旅館の 情報が欲し い」「 10月 旅行博覧会の九州ブース(2010年9月、バンコク) 自治体国際化フォーラム Dec.2010 9 の九州でどんなフルーツ狩りができるか?」「熊本− テーマにブース装飾を行ったところであるが、今後も、 島原間のフェリーの所要時間と料金は?」など具体的 引き続きメインテーマに置いて、九州を印象づけて な質問が多く、FIT向け情報ツールの充実が急務で いきたいと考えている。 あることを実感した。 打てば響くタイ市場 今後の展開 九州のセールスポイントは、何といっても観光資 昨年度から本格的にタイ市場の開拓に取り組んで 源に恵まれていること。豊かな自然、多種多様な食 きて思うのは、タイ市場はプロモーションに対して素 材、豊富な温泉、日本文化・歴史など、海外からの 直に応えてくれるということである。旅行好きの国民 観光客を惹きつける多くの魅力を有している。 性に加え、成長率が7%にも達しようとする好調な また、冬場といえども山間部以外は降雪がないた 経済環境が海外旅行人気に拍車をかけている。 め交通上の障害がなく、季節に関わりなく年間を通 そして、日本そのものが人気ということもあって、 して観光を楽しむことができる。 まだ知られていない地域でも、情報提供を行うとそ しかし、現時点ではまだこうした天恵を十分に生 こを選んでくれる。中国市場のように何が何でもゴー かしているとは言い難く、十分な情報発信ができて ルデンルートということはなく、実に素直な市場との いないのが実情である。 印象が強い。まさに、打てば響く市場である。 今後は、タイ市場の特性を踏まえ、九州運輸局 九州が売りたいもの や九州への直行便を持つタイ航空とも連携しながら、 大規模な旅行博覧会への出展をはじめ、九州商品 九州は豊かな自然に恵まれた日本有数の食料供 造成に意欲的な旅行会社への支援、マスメディアで 給基地であり、豊富で新鮮な海鮮料理をはじめ、佐 の露出などに取り組んでいくことにしている。その中 賀牛、かごしま黒豚、宮崎地鶏、熊本の馬肉など でも、特に増えつつあるFIT(個人旅行者)向けの 多種多様な食材を有し、まさに「フード・アイランド− 情報提供については、充実・強化する必要がある。 食の島」であるにもかかわらず、タイの旅行会社によ また、現状では福岡空港を拠点とした九州北部の ると 「まだ知られていない」とのことである。 商品化は進んでいるが、空港から距離がある九州南 タイ人は日本料理への興味が高く、バンコク市内 部の商品化は進んでいないことから、来年3月12日 に多数の日本料理店が展開していることを踏まえ、 の九州新幹線全線開業は、九州南部の開発の契機 9月の旅行博出展では、タイ人が好むグルメと花を になるものと考えている。 4.タイへの日本産農林水産物・食品の 輸出および販路開拓について 日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク・センター 井上 知郁 ジェトロ・バンコク・センターでは、日本産農林 談会の実施、日本国内で開催される商談会へのタ 水産物・食品の輸出促進のため、ジェトロ本部(東 イ国内バイヤー招聘への協力、タイ国内事情に精 京)や国内事務所と緊密に連携しつつ、タイ国内 通した農林水産・食品コーディネーターを活用し で開催される国際食品見本市(THAIFEX(タイ た中小企業・団体等に対する個別相談対応やビジ フェックス))等における日本ブースの設置や商 ネスマッチング支援、各種調査等を行っている。 10 自治体国際化フォーラム Dec.2010 特 集 ASEAN 諸国における訪日観光客・日本産農林水産物等の市場拡大に向けて 加工食品 29億円(17.1%) 畜産品 12億円(6.8%) ※カッコ内は全体に 占める割合 穀粉等 8億円(4.9%) 野菜・果実等 4億円(2.3%) その他農産物 16億円(9.1%) 農産物 69億円(40.1%) } 林産物 2億円(1.4%) 水産物 (調製品以外) 98億円(57.1%) 水産調製品 2億円(1.4%) 水産物 101億円 (58.5%) } ※資料:財務省「貿易統計」をもとに作成。 アルコール飲料、たばこ、真珠を含む。 本稿では、タイに対する日本産農林水産物等の 5位真珠となっている。特徴としては、缶詰など 輸出の現状について紹介したのち、ジェトロが最 の加工原料用として用いられるかつお・まぐろ類 近実施したアンケート調査結果や具体的事例をも (約60億円)をはじめとする水産物の割合が高い とに、日本産農林水産物・食品のタイへの輸出と ことがあげられる。2009年の日本からタイへの水 販路拡大に必要なことは何かを探る。 産物の輸出額は、農林水産物等全体の輸出額の約 農林水産物等の輸出の現状 日本から海外への農林水産物等の輸出額は近 6割を占め、101億円となっている。 日本からタイへの農林水産物等の輸出額は減少 (前年比で36%減)しているが、これは高い割合 年、増加傾向で推移してきたが、2009年は、世界 を占める水産物の輸出額の減少(前年比47%減) 的な景気後退の影響等により減少している。農林 によるところが大きい。とりわけ、世界的な景気 水産物等の輸出額を品目別で見ると、水産物が約 後退の影響による缶詰需要の落ち込みや日本近海 4割、加工食品が約3割を占め、残りは畜産品、 での不漁等により、加工原料用のかつお・まぐろ 穀物等、野菜・果実等となっている。 類の輸出額が減少(前年比53%減)したことがあ また輸出先国・地域別では、7割がアジア、2 げられる。一方で、りんご、梨などのプレミアム 割が北米となっており、順位は、1位:香港、2位: な果実を中心とする「野菜・果実等」(約4億円) 米国、3位:台湾、4位:中国、5位:韓国となっ や「加工食品」(29億円)の輸出額については、前 ている。 年並みの水準を維持している。 タイに対する農林水産物等の輸出の現状 根強いプレミアム日本産果実人気 日本からタイへの2009年の農林水産物等の輸 日本からタイに輸出されるプレミアム果実は、 出額は172億円(2008年は274億円)で、日本の輸 タイ人の富裕層を中心に根強い人気を維持してい 出相手先国・地域でタイは6位(2008年は6位)と る。このような日本産果実としては、りんご、梨、 なっている。品目別では、1位かつお・まぐろ類、 柿、ぶどう、メロン、桃、いちごなどがある。中 2位さば、 3位さけ・ます、 4位ソース混合調味料、 国産や韓国産と比べ価格面で数倍高いが、ブラン 自治体国際化フォーラム Dec.2010 11 ドイメージが確立された日本産果実については、 (50バーツ/匹) で、 10日間で数千匹を売り上げた。 タイ人富裕層による「まとめ買い」や「リピーター 日本の伝統的なお菓子である「たいやき」は、味 化」が見られる。 覚面でタイ人が好む甘味・辛味・酸味の「3味」の 2009年10月中旬から11月上旬 (10/19∼ 11/4)に うちの甘味を有しているが、このフェアでは外観 日系大手デパート(バンコク伊勢丹)食品売場に 面でもカラフルな色合いによりタイ人が好む「か て実施された「和歌山柿フェア」においては、和 わいさ」を引き出す一工夫がなされたことが好結 歌山県の特産品である「紀ノ川柿」(290バーツ/ 果につながった。 個) 、 「たねなし柿 (刀根早生、平核無) 」(240バー 菓子類のタイへの輸入関税は、JTEPAによっ ツ/個)の試食を伴った販売が行われた(1バーツ て段階的に引き下げられ、チョコレート菓子は、 は約2.7円。以下同) 。 基本税率10∼ 60%のものが11年度は3.75%に、14 これらの柿は、鮮度や品質を保持するため空輸 年度からは撤廃、チューインガムやキャンデー類 で届けられ高価格であったにもかかわらず、4∼ についても、基本税率30∼ 60%のものが11年度 5個をまとめ買いする消費者も多く、 「紀ノ川柿」 は13.33%に、15年度からは撤廃される。このため、 については約400個、「たねなし柿(刀根早生、平 本来であればJTEPA特恵税率の適用を受けるこ 核無)」については約300個が完売、フェア終了後 とで、価格をある程度抑えることも可能となる。 も追加発注品が販売される状況となった。外観が 一方で、タイの日系輸入業者によれば、日本で より赤く、より高価な「紀ノ川柿」から先に売れ 原産地証明を取得するにあたり、原材料成分ごと るといった特徴もあった。この結果については、 の含有量に関する情報をメーカー側から聞き取る 3Lサイズという「大きさ」と、甘味を中心とし ことが必ずしも容易でなく、原材料成分ごとの原 た「味の良さ」が、見栄えの良さと甘味を好むタ 産国およびタリフコードの特定も容易でないなど イ人富裕層に受け入れられたものと分析(和歌山 の理由で、JTEPAの恩恵を十分に得られないケー 県担当者)されている。なお、和歌山県産柿のプ スが存在するとのことである。 ロモーションは、 2007年度の「日本食品フェア」 (農 林水産省事業でジェトロが受託)以来、3年目と 日本食レストランで使用される日本の調味料 なることから、一定の知名度アップも背景にある タイの日本食レストランは、国内に1,200店舗 ものと考えられる。 以上、 バンコクには800店以上(2010年3月末現在、 このように、プレミアムな日本産果実について ジェトロ調べ)存在する。これは、1980年代後半 は、高価であっても品質が見合っていれば、タイ 以降の2度の日本食ブームを経て、4万6千人を 人富裕層は購入するといった傾向や、有望な品目 数える在留邦人のみならず、タイ人の間にも日本 についてはブランドイメージ定着のため、地道な 食が浸透した結果である。これらの日本食レスト プロモーションを継続することの重要性がうかが ランにおいては、価格を抑えるためタイ産農林水 える。 産物を食材として使用しているものの、味付けの 上昇する日本産スイーツ人気 要であるソースやタレなどの調味料については、 日本からのものを使用しているところが多い。 日本からタイに輸出される加工食品の中で、最 2008年12月にバンコク伊勢丹6階に開店したと 近人気が上昇しているものに、日本産スイーツが んかつ専門店「さぼてん」は、日本の味の再現を ある。 重視して成功した店である。客の約8割がタイ人 2010年2月にバンコク伊勢丹食品売場にて実 であり、昼食・夕食時には店の前に行列ができる 施された「スイーツ&フルーツフェア」において、 ほどの人気である。日本からとんかつソースなど タイ人消費者の人気を得たのは、菓子処「京ひみ を輸入している。「さぼてん」の成功により、メ こ」(京都市)のカラフルな色合いの「たい焼き」 ニューは少なくても日本の味をきちんと再現して 12 自治体国際化フォーラム Dec.2010 特 集 ASEAN 諸国における訪日観光客・日本産農林水産物等の市場拡大に向けて 提供できる専門店の可能性が開かれ、1年後には 同階に日本食専門店レストラン7店からなる「伊 (複数回答あり)。同調査結果では、約8割のタ イ人が、健康のために食事に「とても気を遣う」 勢丹ごちそう通り」 がオープンすることになった。 (26.0%)もしくは「気を遣う」(52.5%)と回答し 「さぼてん」を経営するグリーンハウスフーズ ている。さらに、約半数のタイ人が「脂肪分の摂 (東京都)の尾作伸也マネジャーは「日本で本物の り過ぎ」(45.8%)、「栄養が偏らないようにする 日本料理を食べた経験を持つタイ人は多い。この こと」(51.8%)に気をつけていると回答した(複 ようなタイ人が、当店の料理を『日本と同じ』と 数回答あり)。また、食の安全についても、同調 いってくれ、それが口コミで広がって現在の成功 査によると、 食物に含まれる残留農薬については、 につながっている。今後も、日本でやっている普 約8割のタイ人が「とても気になる」(35.0%)も 通のことをタイでも着実に行い、いい集客効果を しくは「気になる」(45.0%)と回答するとともに、 出していきたい」と語る。 食品購入時にチェックする表示については、ほぼ 日本食レストランチェーンの大戸屋 (ベタグロ・ すべてのタイ人が「消費期限」(89.5%)、4割弱 オオトヤ〈タイランド〉)は、バンコクとその近 のタイ人が 「原料」 (41.3%)、 「食品添加物」 (37.3%) 郊にレストランとして「大戸屋ごはん処」を21店 と回答するなど、関心の高さがうかがえる(複数 舗、メニューを限定し価格を抑えた「OOTOYA 回答あり)。 KITCHEN」を1店舗展開するほか、バンコク伊 勢丹5階には惣菜売場 「OOTOYA DELI」を展開 タイへの輸出のために必要なこと し、弁当の宅配事業も行っている。「日本の家庭 タイへの輸出のために必要なこととして、前述 の味 (おふくろの味) 」と「高品質な食材」を重視す のアンケート調査の結果、日本食品輸入・卸売業、 る同社では、牡蠣、ホタテ貝等の魚介類に加え、 小売業およびレストランなど業界関係者から寄せ 味付けに重要なしょうゆベースのたれ類を日本か られた意見は以下のとおりである。 ら輸入している。 方法論に関する意見としては、 日本食品の特性・魅力について 日本食品の特性・魅力について、ジェトロが 2008年10月∼ 11月にかけて、日本産農水産品・食 品を扱う主要な日本食品輸入・卸売業、小売業お よびレストラン19社を対象にタイ国内で実施した ① タイ人にアピールする広告媒体など多様なメ ディアの活用 ② 試食会の実施(まだ認知されていない食品に 関して試食会は特に有効) ③ 大量販売品目とそうでない品目について別々 の販売戦略の立案 アンケート調査結果によると、コメントの多い順 などが挙げられている。 に、 「高い品質」 「高い安全性や健康へのアピール」 また、タイ人の嗜好に関する意見としては、 「おいしさ」「レベルの高い商品包装」「繊細さや 精巧さ」などとなっている。また、「かっこよさ」 「目新しさ」「タイ料理との親和性」を挙げた意見 もあった。このように「外観」に関するコメント ① 味覚・価格・用途など日本の消費者と大きく 異なるケースがあるので注意が必要 ② タイの市場・消費者のニーズの正確な把握が 必要 も少なからず存在することも注目される。 ③ 自らタイを訪問して理解を深めることが必要 これに関連し、タイ人消費者の健康志向の高 などが挙げられている。 まりについては、最近の見逃せない傾向である。 さらに、先に述べた日本食品の特性・魅力に関 ジェトロが2010年2月に、バンコクに住むタイ 連して、日本食品が評価を得ている点も意識した 人400人を対象に実施したアンケート調査による 対応が必要であることはいうまでもない。 と、外食で日本食を選ぶ理由として、「健康に良 い」(32.5%)と回答したタイ人の割合が最も多い 自治体国際化フォーラム Dec.2010 13 タイにおいて日本産農林水産物・食品が優位性を おわりに 示すことができるのはどこなのかを見極めること 経済が発展し富裕層が多く存在するタイは、日 がますます重要となってくる。 本産農林水産物・食品の輸出および販路拡大に 輸出促進に関わる企業・団体の皆様方の日頃の とって魅力的な市場である。一方で、タイには安 ご努力に敬意を表しつつ、タイ市場進出に向けた 価な農林水産物が豊富に存在するうえ、日系企業 さらなるご活躍に期待したい。 が現地生産する食品も多く存在する。このため、 5.タイにおける日本食フェアの 開催状況と地方自治体の取り組みについて シンガポール事務所調査役 井口 洋(兵庫県派遣) はじめに している。 これら日本食フェアの中から、バンコク中心部 日本食レストランが1,200軒を超え、45,000人を にあるセントラルワールドに出店しているバンコ 超える在留邦人の届出があり、東南アジア一の日 ク伊勢丹における日本食フェアの最近のトレンド 本食材消費地であり、地元の人々の間にもすでに を取材した結果、以下のような情報を得た。 日本食が広く浸透しているといわれているタイに おいて、日本食フェアがどのような形で開催され 日本食フェアの実施状況などから ているのか、また、日本の地方自治体は、このよ バンコク伊勢丹における最近の主な日本食フェ うな状況に対してどのようなアプローチを試みて アは、2009年では、「仙台・東北ジャパンフェア」 いるのか、本稿では、「タイにおける日本食フェ (11月5日∼ 15日、仙台市、福島市、山形市、仙台・ アの開催状況と地方自治体の取り組みについて」 、 福島・山形三市観光・物産広域連携推進協議会)、 関係先への取材などに基づき、いくつかの参考情 「日本全国味の縦断フェア」(12月3日∼ 13日、 報をご紹介する。 タイにおける日本食フェアの一例 岩手県・静岡県・Agri & Foods Export Frontier, Hiroshima( 事務局:(公財)ひろしま産業振興機 構) ・大分県ほか)、2010年では、北海道物産展(8 タイに在住する日本人の多くは、首都バンコク 月26日∼ 9月5日) 、九州物産展 (10月21日∼ 10月 近郊で暮らしているが、こうした日本人などをコ 31日)などがある。 アの顧客としてバンコク市内で主に日本食フェア 以下、バンコク伊勢丹の担当者から伺った現地 が開催されているのは、バンコク伊勢丹(日系百 の状況を紹介する。 貨店) 、サイアムパラゴン (現地大型ショッピング まず、物産展を開催するにあたっては、個々の モール)、エンポリアム(現地高級デパート)、フ 自治体が単独で開催しても利益を出すことは難し ジスーパー(日系小売店)である。地域にこだわ いようだ。「九州」「東北」などはある程度の知名 らず、さまざまな食材やメニューを紹介するいわ 度があるため、まずは広域で取り組むことが得策 ゆる日本食フェアが目立つ中、北海道を筆頭に、 と思われる。北海道の認知度は高く、これには、 仙台・東北や九州など地域を冠したフェアも健闘 物産のみならず、観光PRも功を奏していると見 14 自治体国際化フォーラム Dec.2010 特 集 ASEAN 諸国における訪日観光客・日本産農林水産物等の市場拡大に向けて られ、雪やカニといえば北海道というイメージが 日本食のもつ安全、 安心や健康というイメージは、 定着しているようである。 確かに大きなアドバンテージではあるが、購買層 また、日本のラーメンは大変人気があるとのこ の拡大や継続的な販路確保のためには、それだけ とである。タイでは、様々な日本のラーメン店が ではなかなか難しいという現実がこれらのコメン バンコクを中心に既に多くの店舗を展開してい トの中に垣間見られる。 る。今年2月に開催されたスイーツフェアでは、 また、自治体が実施するフェアにおいては、例 逆に「ラーメンは出していないのか」との問い合 えば、輸送費などの経費について参加自治体が相 わせもあったということだが、なぜ日本のラーメ 当の資金援助を行っている場合もあるので、間 ンがこれほど人気があるのかというと、味にバラ 違ってもこれらのフェアの成果を直ちに継続販売 エティがあり、値段が安いことと、温かい麺でな の可否の材料にしてはならない、とのコメントも いと食べないというタイ人の気質が関係している あった。 のではないか、とのことであった。 フェアを行う際の工夫としては、タイ人はイベ 外食産業に日本食材の販路を模索できないかと ント好きであるため、フェアに併せて、仙台市が いう観点では、1,200軒を超えるといわれる日本 行った七夕飾りや書道のパフォーマンス、山形市 食レストランの中で高級路線を維持しながら成功 の舞妓の踊りなど、とりわけ日本の伝統文化に関 している大戸屋やフジレストラン、モスバーガー わるプロモーションイベントを併せて開催する などに食材を提供するということも考えられる と、集客率が上がる傾向があるようだ。 が、 前述のラーメンを例にとると、 「具材の豚肉は、 バンコク伊勢丹における顧客の構成比は、タイ 味は日本産に劣らないといわれていることからタ 人が7割、日本人が2割、その他が1割とのこと イ産が用いられていることが多い」というのが現 で、7割を占めるタイ人の顧客層にどのようにア 状だそうである。言い換えれば、 タイにおいては、 ピールしていくかが課題であり、日本の自治体と 食品加工業が盛んで日系企業も多数進出している 協力することで、顧客への提案により厚みが増す ことなどから、日本食メニューの食材が豊富に手 と考えているので、日本の自治体からの積極的な に入る環境であるため、日本から食材そのものを アプローチを期待している、とのことであった。 輸出する場合には、コスト面の問題も含め販路開 拓は容易ではないということを充分認識しなけれ フェア出展自治体からの参考情報 ばならないということである。 一方、出展している日本の自治体から取材した 一方、農産品の高級品、ブランド品に目を向け 参考情報の主なものは、次のとおりである。 てみると、岡山県が、毎年お盆の時期に実施して 1.公益財団法人ひろしま産業振興機構の場合 いる白桃・ピュオーネのプロモーションや、和歌 ※同機構は、2009 年に出展した Agri & Foods Export Frontier, Hiroshima(広島県内の地域産品の海外販 路開拓・拡大を目的とした民間主導による協議会組 織)の事務局を務めている。 山県が実施している柿のプロモーションは、確か に、値段を気にせず、「おいしいかどうか」を購 入の基準としている富裕層には人気があるが、現 在、1個1,800円程の白桃が半額程度にならない タイをターゲットとしてフェアに参加した主な と中間層より少し上位のクラスへの購買層の拡大 理由は、①目覚しい経済発展を背景に、ASEAN は困難ではないかとのことであった。 諸国、さらにAJCEPやEPA・FTAなどを通じて、 また、「仙台・東北ジャパンフェア」のように、 インド・中近東・ヨーロッパへの輸出拠点になっ 4年連続で健闘をされたフェアもあるが、物産展 ていること、②インドシナ半島の経済の中心とし によっては、1年前のフェアの際と商品が変わり て、今後、巨大な食品消費市場が生まれることが 映えしないというケースも多く、次の手が出てこ 期待されること、③アセアン諸国の中では人口も ないと飽きられるだろう、 とのコメントもあった。 多く、富裕層に加えて消費意欲の旺盛なニュー 自治体国際化フォーラム Dec.2010 15 ファミリー層の増加が見込まれること、④外食文 30社前後の出展団体による地域産品が実演も含め 化の根強いタイは、個人消費者向け販売に加え、 て販売されたほか、七夕、雀踊り、書道(以上、 ロットのまとまる外食産業向け業務用分野の市場 仙台市) 、愛宕陣太鼓 (福島市) 、山形舞妓 (山形市) が魅力であること、とのことである。 などのプロモーションイベントや観光PRが併せ 出店形態では、「日本全国味の縦断フェア」と て行われた。来訪者は、最も多い年で、6万人程 銘打って、北海道から宮崎までの合計25社で、多 度に上った。 種多様な産品を一堂に紹介する物産展であったこ 当初は、観光客誘致活動の足がかりとして、認 とにより、来客者の多様なニーズに対応すること 知度を上げるために3カ年計画で企画された物産 ができたとのことで、言い換えれば、多彩なコン 展であるが、さらに1年継続開催したということ テンツで広域で連携した形でのフェアの方が受け である。 入れられやすいということがわかる。 バンコク開催の旅行博覧会での仙台市が行った 外食産業が盛んなタイは、人々の食に対する要 来訪者アンケートの結果によれば、この間に併 求レベルが益々高まっており、ヒット商品も多く 行して行われた物産展やメディアを活用したPR 生み出され、市場として大変魅力ある国である一 などの効果も相まって、事業開始当初は20%台で 方、タイの食品加工業は大変盛んで、日系企業が あった認知度が、2009年度には70%台まで上昇す 多数、現地に進出しているほか、現地の食品・食 るなど一定の成果を得た、という話である。 材はジャンルが幅広く、かつ大変安いという現状 が、フェアを行う中での市場調査で明確になり、 結びに 価格面で競争できる商品、機能面で特異性を持っ タイにおける日本食フェアに関わる状況を見て た商品などの提案が必要であるということをつぶ きたが、まず東南アジア一大きな日本人コミュニ さに感じたという。 ティが存在することは、日本食・日本の食材の売 また、試食は大変効果的であるが、地元の料理 り込み先としてタイをターゲットとする一つの大 や食材にも使えるメニューを併せて紹介しながら きなファクターである。 行うほうが購買促進に有効であるようだ、との興 一方、個々の食品・食材に着目すれば、これま 味深いコメントもあった。 で日本のいくつかの食材が築いてきたように、食 最後に、フェアへの参加を通じて、1回や2回 の安全、安心、健康志向を背景とした高級品・ブ の催事の結果、商品が恒常的に店舗の棚に並ぶ ランド品のステータスを得るべく、富裕層をター ことは極めて難しいことを、参加企業も含めて再 ゲットとした戦略を立てる手法、そうした糸口も 認識する必要があるとともに、仮に定番化につな 利用しながら、地元の豊富な食材供給環境に対抗 がったとしても、さまざまな商品があらゆるルー するべく価格面での挑戦を行い、中間層より少し トで簡単に入手できる市場において、 販促フォロー 上位クラスも視野に入れたある程度の販売量を見 と消費者の関心をつねに捉えておく努力を継続す 越した戦略を立てる手法が考えられるが、いずれ ることの重要性を実感した、とのことであった。 の場合においても、認知度が結果を大きく左右す 2.仙台市の場合 ることはいうまでもない。その意味で、仙台市の 2005年度から行ってきたタイにおける観光客誘 ように、観光、物産、そして文化の相乗効果によ 致活動の一環として、仙台・東北の認知度向上を り、着実に認知度を上昇させることは、今後の展 目的に、2006年度から「仙台・東北ジャパンフェ 開に大きなアドバンテージを得るものといえる。 ア」を仙台・福島・山形三市観光・物産広域連携推 最後に、本稿における販売店側からの参考意見 進協議会が中心となり実施してきたもので、2009 や先駆の自治体からの参考情報が、これからのタ 年度には4回目となるフェアを開催した。 イにおける地方自治体の販路開拓の取り組みの一 実施時期は、おおむね11月上旬で、11日間程度、 助となれば幸いである。 16 自治体国際化フォーラム Dec.2010