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職業能力開発総合大学校東京校における 職業技術教育訓練10年間の

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職業能力開発総合大学校東京校における 職業技術教育訓練10年間の
職業能力開発総合大学校東京校における
職業技術教育訓練10年間の取り組み
浜松職業能力開発短期大学校
機械系 中村佳史
1.はじめに
平成11年4月、職業能力開発促進法施行規則第
14・15条に基づき東京、大阪、九州そして沖縄
の4校に応用課程が開設された。これまでは普通職
業訓練・普通課程と高度職業訓練・専門課程の訓練
課程であったところ、高度職業訓練の応用課程が新
設されたもので平成13年までに全国11の職業能
力開発大学校に応用課程が開設され現在に至ってい
る。応用課程一期校として開設した職業能力開発総
合大学校東京校に着任し、応用課程「生産機械シス
テム技術科」の前田晃穂教授と取り組んだ10年間
の職業技術教育訓練について報告する。
2.応用課程開設(H11年4月)
応用課程の主たる業務は、高度職業訓練の応用課
程と応用短期課程である。応用課程「生産機械シス
テム技術科」は、高度職業訓練の専門課程(短大)
を修了したものまたはこれと同等のものを対象に2
年間教育訓練をする訓練課程で、応用短期課程「企
業人スクール」は職業に必要な高度の技能で専門的
かつ応用的な技能およびこれに関する知識を習得し
ようとするものを対象に60時間以上教育訓練をす
る訓練課程である。
2.1 生産機械システム技術科の教育訓練目標と教
育訓練システム
応用課程の教育訓練目標は、ものづくりの基本と
なる企画・開発能力、創造力、応用能力、実践的技
術力およびものづくりの実行力を持つ「生産現場の
リーダー」を育成することを目標としている。
「生産現場のリーダー」を育成する教育訓練シス
テムとは、課題学習、実学融合およびワーキンググ
ループ学習を3本の柱とする教育訓練方式であり、
教育訓練システム最大の特筆すべき特徴は教育現場
に「仮想工場」を持ち込んだことである。
「仮想工場」とは企業の生産現場に近づけた教育
のことであり、施設・設備・機器はもとより、生産
現場の実際のものづくりプロセスをもとに教育訓練
をする。そのため設備機器はマシニングセンタ、ワ
イヤーカット放電加工機、フライス盤、旋盤、研削
盤やプラスチック射出成形機など生産現場で使われ
る工作機械等を整備している。学生は主にCAD、
CAM、CAEなどの「ツール」を活用する設計基
本技術を学ぶとともに、単に設計で終わることなく
この「仮想工場」で実際にものづくりを体験するこ
とで何が必要なのかを学ぶことができる。さらに、
生産現場に不可欠な協働作業「コラボレーション」
についても同様に学ぶことができる。
2.2 生産機械システム技術科の教育訓練内容
東京校・生産機械システム技術科の二年間の教育
訓練は大きく四段階にわかれる。3年生(応用1年)
では機械科の学生だけのグループで精密加工応用実
習と標準課題の2段階を取り組み、4年生の開発課
題に必要となる基礎的技能・技術の習得と課題学
習・グループ学習の基本的事項を習得させる。
4年生では機械科・電子科・情報科3科の学生に
よる混成グループで開発課題Ⅰと開発課題Ⅱの2段
階を取り組み、
「生産現場のリーダー」に必要な「人
と人」の協働作業の重点、要点を体験、体得させて
いる。
写真1 精密加工応用実習課題
(1)精密加工応用実習-3年生-10単位(180
H)
精密加工応用実習は3年生最初の3ヶ月間
(1期)
に実施する実習で、学生二人グループで一つの課題
に取り組み、課題製作に当たっては相互に技能・技
術を教え合い協議、協調性の重要性と協働
(collaboration)による技能・技術習得の作業体系
を体験、体得する。また、学生には実習の目的およ
び最終到達目標を明示し、
組立部品点数11点の
「マ
シンバイス」実習課題(写真1)を完成させること
による達成感と充実感を体感させる。
この最小グループ編成での体験はグループ学習方
式に対するアレルギーを払拭させるとともに、次の
標準課題を取り組むためのトレーニング的役割を果
たす教育内容となっている。
ヶ月間の協働作業で完成させ、ものづくりの現場に
おけるコラボレーションの実際を学ばせる。
ハノイの塔
A
(2)標準課題-3年生-20単位(360H)
標準課題は精密加工応用実習終了後の6ヶ月間
(2・3期)で行う実習で、機械設計・製作分野と
機械制御分野からなり、この2分野の学生間の技
能・技術レベルの平準化を図り、開発課題に必要な
基礎技能・技術の習得およびグループでの課題製作
能力が向上するよう課題設定、指導方法等を策定し
ている。
特に「仮想工場」を前提とする教育訓練を実施す
るため教員側が製品発注者となり、学生側を受注者
と仮定して各グループ内での役割分担を決め作業を
進めるプロジェクトクト方式を取り入れ、課題製作
を通していかに効率的、効果的運営をおこなわせる
かを指導の要点としている。
具体的には5~6人でグループを組み、提示され
た課題仕様を満たす装置の設計・製図、部品発注表
作成、加工・組立調整、制御回路、制御プログラム
を作成、制御装置を組み込み自動運転ができること
で完了である。(写真2)
標準課題の設計・製図では2次元CADを使い寸法公
差、機械加工および組立調整を考慮した機械設計図
面作成技術の習得を最大のポイントとしている。最
後に発表報告会で各グループ完成品の自動運転デモ
ンストレーションとプレゼンテーションをおよび報
告書の提出で標準課題を終了する。
B
C
コマ
ベース
1. 1回に1枚のコマしか移動できない
2. 移動の途中で常に大きいコマが下になるよう積む
3. ポール以外のところにコマを置いてはならない
※開発課題1固有のルール
4. 最初に置くコマの順番(大、中、小)は不定である
図1 ハノイの塔のルール
課題「ハノイの塔」とはパズルゲームの一種で、
3本のポールに積み重ねられた大・中・小3個コマ
を一定のルール( 図1)で移動させるもので、この
ゲームを自動で行う機械装置・制御装置・モニタリ
ングシステムを制作することである。機械本体は機
械科、自動制御用電子回路は電子科、パソコンから
自動運転通信とモニタリングは情報科の役割分担で
6ヶ月の決められた期間で完成させる。製作中には
「電子の部分が間に合わない」などのタイムラグも
発生するが、計画通りに作業を行うというプロジェ
クト管理についても学ぶことができる。6ヶ月の間
に2回進行状況をチェックするレビューを実施し、
各グル-プの状況把握と達成度を確認する。最大の
ハードルは装置のマニュアル運転動作検証に合格す
るまで夏季休暇に入れないことである。9月の公開
発表報告会ではプレゼンテーションと製作装置の各
グループ対抗タイムレースを実施し、上位2位およ
び特別賞の3グループを表彰し報告書提出で課題を
終了する(写真3)。
写真2 標準課題完成品
(3)開発課題Ⅰ-4年生-16単位(288H)
開発課題Ⅰは東京校のオリジナルで東京校だけが
実施しており、
H18年開始し今年で4年目である。
この開発課題Ⅰの最大の目的は、生産現場に不可欠
な協働作業「コラボレーション」を応用課程全学生
に体験させることにある。グループ編成は機械・電
子・情報の各科学生3~4人、総勢9~10人の混
成グループで課題「ハノイの塔」を4月に開始し6
写真3 開発課題Ⅰハノイの塔完成品
2
(4)開発課題Ⅱ-4年生-36単位(648H)
開発課題Ⅱは、応用課程2年間の総まとめとなる
年間を通して取り組む課題で開発課題Ⅰと同様に3
科の学生の混成チームによるコラボレーションで実
施する。
テーマは、社会に無い商品・製品開発、団体・企
業等の技術産業社会が抱える課題等から設定する。
団体・企業等からの課題設定では要望内容に対応で
きるか、教育訓練期間および到達点はクリアでき開
発課題で取り組み可能であるか等を検討し設定する
ために、技術産業社会が抱える課題、動向など技術
分野で何を求めているかを常に把握し、開発課題に
反映する必要がある。このため応用課程開設当初よ
り毎年「日本金型工業会」
「プラスチック製品工業協
会」の団体および会員企業から情報収集をし、開発
課題テーマ設定の参考としてきた。
(写真4、5、6)
学生のグループ編成はテーマ内容とボリューム
などから構成人数が決まり、学生は選択したテーマ
をグループで構想設計から製作、組立調整および動
作検証までを完成させる。
これまで取り組んできたテーマには、離型抵抗測
定システムの開発、樹脂成形圧力・温度同時同位置
測定センサーの開発、電子金型設計書の開発などこ
れまで社会にはなく、また金型産業業界でのニーズ
の高いテーマも取り組んできた。
特許を取れるもの、
商品として市場に出せるもの、データベースができ
れば金型業界での利用価値が非常に高いものなどで
ある。(図2)
最終まとめとして、毎年2月末開催するポリテッ
クビジョンで就職先企業等外部から参加者を迎えプ
レゼンテーションおよび成果物の展示とデモンスト
レーションを実施している。
3.応用短期課程 「企業人スクール」
3.1 応用短期課程「企業人スクール」の開設
金型業界では、2007年問題いわゆる団塊の世
代が持つ技能・技術の伝承に対する危惧から体系的
な「金型技術者教育」の早期実現を切望していた。
その背景には、韓国では既に10大学に金型学科が
設置され毎年「金型技術者」を送り出し、同様中国
でも金型技術者育成システムを持ち「金型技術者」
を育成しているという実体がある一方で、H11年
当時日本の大学等公的教育機関において「金型技術
者教育」を体系的に実施しているところは無く、立
ち後れている日本の「金型技術者教育」の早期実現
が切望の最大理由であった。
このため東京校においては機械系が管理する施
設・設備・機器および教員の専門要素の洗い出しと
写真4開発課題Ⅱ カセット式金型
図2 開発課題Ⅱ 電子金型設計書(EMD)
写真6 開発課題ⅡDSI成形金型
写真5 開発課題Ⅱアンダーカット成形金型
3
応用課程・開発課題との関連性を精査し、併せて日
本の機械技術教育分野で「後れ」を取っている機械
技術教育分野の洗い出しを行った結果、辿り着いた
キーワードが「金型」であった。
金型には、射出成形プラスチック金型、プレス金
型など色々な種類があるが、東京校の環境・諸条件
から「射出成形プラスチック金型」に的を絞り、
「プ
ラスチック金型設計技術者育成」を目的とする企業
人スクールのコース設定が最良であると判断した。
週金曜・土曜の2日開講で述べ10週間(約3ヶ
月)におよぶことが障害にならないか、日本金型工
業会加盟の会員企業規模が従業員100名以上は少
なく、少人数規模の多い金型企業から長期におよぶ
コースに社員を受講派遣して貰えるのかが懸念され
た。
3.2「企業人スクール」のコース内容
企業人スクールのコース内容については教員、時
間、教材、機器および器材など必要項目を洗い出し
た結果、コース内容は「IT支援によるプラスチッ
ク金型の設計・製作と射出成形技術」とした。コー
ス内容はプラスチック射出成形金型設計技術者に総
合的に必要である要素を洗い出し(1)金型設計(2)C
AD技術(3)CAE技術(4)CAM技術(5)射出成形
技術の5分野構成とし、コース時間については12
0時間(20日間)に設定した。(図3、4)
また「企業人スクール」コース内容を「日本金型
工業会」と協議したところ、金型業界の受講ニーズ
に充分マッチしていた。金型工業会でも兼ねてから
ほぼ同一内容の講座を考えていたが実施条件が揃わ
ずこれまで開講できずにきていたので、職業能力開
発総合大学校東京校生産機械システム技術科でのコ
ース開設は金型業界にとってもタイムリーであった。
ただし、コース時間120時間(20日間)、毎
図3 企業人スクールコース日程
H18 企業人スクール
IT支援による プラスチック金型の設計・製作と射出成形技術
講 義 用 テ キスト
職業能力開発総合大学校東京校
問い合わせ先 援助計画課 Tel 042-346-7170
実技手順書
②金型CAD技術 ・ ・ ・ 製品の3次元モデ リングと、金型への転写(キャビ・コア 金型)手順
ソフトウェア:SolidWorks
① プラスチック金型の設計技術 ・ ・ ・ 一般的金型知識と具体的な課題を提示した 教材
プラスチック成形金型の設計
② 金型CAD技術
CAD概論
・・・
CA Dの歴史から3次元CADシス テム 、
③金型CAE技術 ・ ・ ・ 金型に おける構造解析、および樹脂 流動解析の手順 ソフトウェア: C osmosWorks (CosmosJapan),Timon(東レ),Planets(プラメディア)
③ 金型CAE技術
CAE概論・・・ 設計者のた めの一般的解析技術 をやさしく解説
及び CA Dデー タ変換と、そ の問題点などを解説
④金型CAM技術 ・ ・ ・ 金型のCA D/CAM,高速加工技術 ,CUP金型の加工手順
ソフトウェア:FF/CAM (牧野フライス) ,マ シニングセンタ :V55 (牧野フライス) ④ 金型CAM技術 ・ ・ ・ 金型加工に おける高速加工の目的・概要をわかりやす く解説
高速加工の理論
⑤射出成形技術 ・ ・ ・ 一般的成形手法と金型CAM技術課題(CUP)の成形手順
射出成形機:M18・SE75D(住友重機械工業)
⑤プラスチック射出成形 ・ ・ ・ 成形機の概要 、成形条件と成形不良などをわかりやすく解説
図4 企業人スクールコース内容
4
3.3 教材作成の協力支援体制
ング(株))にお願いすることにした。設計ツール
「企業人スクール」5分野の使用教材作成では、
として3D-CADの利用は当たり前の時代となり、
専門分野毎に協力企業および協力者を取り付ける急
同社から永當伸治教育担当部長の技術協力を得るこ
務であったため5分野毎の使用教材コンセプトを作
とができた。
成し、応用課程立ち上げと並行して我々の持つネッ
その他、射出成形の協力支援として坂本プラスチ
トワークを活用して選出した以下の教材作成協力要
ック㈱代表の坂本康彦氏、金型、試作等機械加工技
請先企業に足を運び協力支援を構築した。
術の協力支援として野末モールド(有)代表の野末
(1)最も重要である「金型設計」の教材作成支援を、 晴康氏からも技術協力を得ることができた。
当時金型業界に影響力を持つ存在である日本金型工
H11年度内に団体、企業等からの無償協力を取
業会会長職にある埼玉県の従業員230名の大手金
り付け、企業人スクール5分野・5分冊の教材をH
型企業、池上金型工業(株)同社池上恵三社長に協
12年内完成とする強行スケジュールで教材作成に
力を依頼するとともに、設定コースの目的等の説明
取り組み、H13年2月第 1 回企業人スクール開講
と東京校の実行計画への無償協力をお願いした。ま
に間に合わせた。以後、毎年開講する「企業人スク
た、同社金型設計30年の設計部長鈴木次郎氏の技
ール」での活用と応用課程「生産機械システム技術
術協力を得ることができた。なお、鈴木次郎氏は現
科」および専門課程「モールドデザインコース」の
在も東京校応用課程「生産機械システム技術科」客
授業でも活用している(写真7)。
員教授および「モールドデザインコース」非常勤
講師として迎えている。
(2)金型製作に不可欠な機械加工技術「CAM技
術」の教材作成支援を、金型業界で神話と言われ
る機械メーカーで、金型加工技術に関するユーザ
の相談に対応するため金型加工技術センターを持
つ東京都の牧野フライス製作所(株)同社牧野二
郎社長に協力を依頼するとともに、設定コースの
目的等の説明と東京校の実行計画への無償協力を
お願いした。東京校にはCAM技術で使用する牧
野フライス製作所製のマシニングセンタおよびC
写真7金型設計・CAD・CAM・CAE・射出成形テキス
AMソフトがあり、同社が所有する教育資料デー
また、日本金型工業会、プラスチック製品工業協
タおよび加工データの活用および教材作成のための
会の団体および団体加盟の企業を始め、連携を取っ
無償人材派遣をお願いし、金型加工技術センター長
てきた企業等とは現在も継続して情報交換をする中
の鹿志村一男氏の技術協力を得ることができた。
から応用課程・開発課題で取り組む金型関係のテー
(3)金型設計で今後益々重要な役割を持つ
「CAE技
マも多数あり、離型抵抗測定システム、温度圧力セ
術」の教材作成支援を、東京都の大塚商会(株)に
ンサー、電子金型設計書などはその代表的テーマで
お願いすることにした。金型設計で「CAE技術」
ある。
の流動解析、構造解析は今後さらに活用される技術
であり、大塚商会(株)解析部署の責任者である今
3.4 広報活動と受講者募集
木敏雄次長および秋山健一氏、大沼伸幸氏の技術協
日本金型工業会は東京に本部を置き、関東以北を
力を得ることができた。
管轄する東部支部、
東海・北陸を管轄する中部支部、
(4)プラスチック製品成形のための「射出成形技術」 近畿以西を管轄する西武支部3支部で構成されてい
の教材作成支援には、千葉県の住友重機械工業(株) る。同工業会とは毎年、企業人スクール開講案内お
にお願いすることにした。成形品の良否は、金型自
よび募集要領を3支部会員企業(約500社)への
体の良否とプラスチック成形条件の良否がある。射
定期刊行物との同時配送と、併せて工業会メールマ
出成形技術の教材作成では後者の成形条件に関わる
ガジンでの企業人スクール案内および受講者募集の
成形機メーカーの協力は不可欠であり、同社開発設
随時提供の協力をして頂いている。
計室の滝川直樹マネージャーの技術協力を得ること
また、横浜に本部を置く東日本プラスチック製品
ができた。
工業協会にも日本金型工業会と同様、毎年募集要領
(5)金型設計、成形品モデリング等金型に関わる「C
を定期刊行物(約70社)と同時配送をして頂くこ
AD技術」の教材作成支援には、東京都の日立造船
とを取り付けている。
情報システム(株)(現NTTデータエンジニアリ
その他、各団体には毎年足を運び企業人スクール
5
受講者募集等への協力依頼を始めとして団体加入企
業の情勢および動向などの情報収集を行い、応用課
程の開発課題テーマの参考にしている。
なお、懸念していた120時間(20日間)のコ
ース設定については、結果的にH13年2月の初回
開講以来H20年まで9回開講したコースに述べ約
150人が受講され、定員10名に対し1回平均1
6.7人の受講者を受け入れることができた。
受講者は岩手県、宮城県、群馬県、栃木県、埼玉
県、千葉県、東京都、神奈川県、長野県、富山県、
静岡県、愛知県、岐阜県、京都府、大阪府、広島県
の1都2府13県の広範囲に渡り、本コースが全国
的ニーズのあるコースとなっている。
導入し試行することになった。「モールドデザイン
コース」はプラスチック射出成形金型技術者養成を
主目的とするコース内容で、「精密機械コース」は
精密機械加工の設計製作技術者養成を主目的とする
コース内容である(図5、6)。
生産技術科の基礎的学科および実技は1年生の3
期までに習得するカリキュラムを組み、4期からそ
れぞれのコースに分かれ各コースの専門技能・技術
を習得する。
4期からコース分けとしているのは
「モ
ールドデザインコース」が後述する「実践型人材養
成システム」
の受け入れ実施短大であるためである。
3.5 H16年度「ものづくり白書」に掲載
H17年6月に公開された経済産業省「平成16
年度ものづくり白書(ものづくり基盤技術の振興施
策)」に当「企業人スクール」が掲載された。第 1
部「我が国ものづくり基盤技術の現状と課題」第 2
章「将来のものづくり基盤技術を担う人材の育成」
第 3 節「ものづくり技能継承と若者確保育成に向け
た取組」第 2 項「企業が求めるものづくり人材ニー
ズに即した職業能力開発の推進」の事例「職業能力
開発大学校における企業人スクール]
に掲載された。
以下に本文を記載する。
「職業能力開発総合大学校東京校(東京都小平市)
では、企業人スクールの1コースとして、(社)日
本金型工業会と連携し、
参加企業を中心に 11 社の従
業員に対し「IT 支援によるプラスティック金型の設
計・製作と射出成形技術」を実施した。金型業界に
おいては CAD/CAM や CAE(流動・構造解析技術)を
利用したいわゆる IT 支援技術の導入が急速に進ん
でおり、これらの技術を今まで養った熟練技能・技
術の上にいかにうまく取り入れるかが重要な課題で
ある。当該コースは、金型の設計から 3D・CAD によ
る製品のモデリング、そのモデルを用いた CAE、さ
らには CAM による高速金型加工およびその金型を用
いた射出成形までの一連の技術を習得させる課題学
習型の金型技術者養成コースとして実施され、この
技術習得により製造コストや工期の削減が可能とな
った。また、若年金型技術者の早期育成等に役立っ
ている。
図5 モールドデザインコース概要
図6 精密機械コース概要
4.2「モールドデザインコース」の教育訓練内容
「モールドデザインコース」のカリキュラムは、
「企業人スクール」の「IT 支援による金型プラスチ
ック金型の設計・製作と射出成形技術」のコース内
容をベースに新たな教育訓練システム「実践型人材
養成システム」に適用する内容を作成した。教育訓
練内容の基本構成は「プラスチック金型設計」「金
型CAD技術」「金型CAM技術」「金型CAE技
術(流動)」「射出成形技術」からなり、1年4期
(12月)から2年6期(9月)までの間でこれら
の基礎的金型専門要素を習得させる。2年後半の
7・8期は「実践型人材養成システム」を活用する
学生は「OJT実習(企業研修)」、活用しない学
生は「モールドデザインコース」の卒研で「プラス
チック射出成形金型の設計製作」が取り組み課題で
4.専門課程活用型「実践型人材養成システム」
4.1 専門課程・生産技術科「コース制」導入
東京校専門課程生産技術科では社会ニーズの多様
化に応え、より専門的技術を習得した技術者を育成
することを目的にH19年から「モールドデザイン
コース」と「精密機械コース」の「2コース制」を
6
ある。なお、H20年度については後述する「第1
回日本・中国・韓国大学金型グランプリ」が開催さ
れることになり、グランプリのプラスチック金型部
門参加に振り替えた。
の面談等を経て3社とH20年4月からの雇用契約
を結ぶことができ、雇用契約企業でのH20年10
月から半年間のOJT実習を終え、
H21年3月
「実
践型人材養成システム」ならびに専門課程卒業と同
時に正規正社員となった。
なお、雇用契約を結んだ企業業種はプラスチック
金型が2社、プレス金型が1社であった。当初「モ
ールドデザインコース」のカリキュラムがプラスチ
ック金型技術者を対象としており、プレス金型の企
業には不向きではとの懸念があった。しかし、厚生
労働省委託の日本金型工業会モデルプロジェクト委
員会で協議する中、金型の基礎的知識および技能・
技術はプレス金型とプラスチック金型には共通事項
があり基礎知識を習得できれば充分であるとのプレ
ス金型企業の委員からの意見があり「実践型人材養
成システム」に「モールドデザインコース」を活用
することを決定し、結果的にプレス金型企業との雇
用契約にもつながった。
4.3 実践型人材養成システムの取り組み
職業能力開発促進法がH18年10月改正され、
新たな訓練システムとして専門課程活用型の「実践
型人材養成システム」が導入されることとなり、H
19年度から東京校専門課程生産技術科の「モール
ドデザインコース」を活用して本実施に入ることと
なった(図7)。
実践型人材養成システムについて
就職
応用課程へ進学
生産技術科
1年生
10月に希望調査
モールドデザインコース
Ⅳ期~
企業面接
確約企業へ就職
実践型人材養成システム
実践型人材養成システム(Mold
Mold Design コースの学生のみ)
・生産技術科の学生を対象に募集
・企業と面談を行い、卒業時に就職することを確約
H19年度開設! メリット
・企業は、2年後に技術を身につけた学生を確保できる
・学生は、OJT(企業研修中)は企業から給与がもらえる
・プラスチック分野の専門家をめざせる
・応用課程への進学も可能!!
能開総合大東京校にプラスチック金型コース
能開総合大東京校にプラスチック金型コース
教育訓練期間: 2年間(短期大学課程)
募 集 人 員: 5名程度
図7 実践型人材養成システム概要
新設された専門課程活用型の「実践型人材養成シ
ステム」の実施にあたり、東京校においては金型技
術者育成で実績を持つ「企業人スクール」のプログ
ラムを活かした「モールドデザインコース」のモデ
ルカリキュラムを作成すると同時に、日本金型工業
会には本システムの実施団体として協力して頂く体
系を構築し、生産技術科「モールドデザインコース」
を活用する形でH19年よりスタートすることとな
った。なお、事務処理等の実質的作業を金型工業会
東部支部が請け負う了解を取り付けた。
H19年度「実践型人材養成システム」の活用企
業募集に当たり、日本金型工業会東部支部と第1回
企業説明会を共同開催したところ東京、神奈川、埼
玉、茨木、栃木、群馬、静岡の各地域15社18名
の参加者があった。同時に実施した実習場見学は、
参加者に東京校における金型教育訓練の実態と「実
践型人材養成システム」の実施内容の理解には充分
効果があった。また、厚生労働省への申請書作成指
導マニュアル作成および申請手続き説明会の開催な
ど日本金型工業界東部支部とタイアップする実施体
制も整備できた。
H19年度「モールドデザインコース」を専攻し
た学生は8名で、この中から4名の学生が「実践型
人材養成システム」を活用することを選択し企業と
組織的・体系的な教育訓練で
論理的思考と確かな技を
アナログ技術とデジタル技術の融合
そして、ものづくり日本の復権へ
・ かねてより業界から多くの要望が寄せられていた金型学科が、職業
能力開発総合大学校東京校、生産技術科の中にモールドデザインコー
スとして誕生しました。
・ 本コースには実践型人材養成システム※を取り入れ、業界と協力して
作り上げたカリキュラムをもとに、OJTとOFF-JTを組み合わせた実践
的な教育訓練を行います。
・ 一定の基準を満たしたときには、国の各種支援制度を利用できます。
・ 詳しくは下記へお問い合わせください。 ※実践型人材養成システムについては、別途パンフレットをご覧ください
問い合わせ先
東京都小平市小川西町2-32-1 職業能力開発総合大学校東京校
援助計画課 042-346-7170
図8モールドデザイン開設パンフレット
また、日本金型工業会現会長の大垣精工(株)上
田勝弘社長は10年以上前から日本の大学に一日も
早く「金型学科」の設置を切望し、先頭を切って関
係部門への働きかけをして来られた。東京校にも金
型学科設置を切望され、韓国、中国に後れを取らな
い、追い越されない為にも早期実現を強く主張され
ている。東京校生産技術科の「モールドデザインコ
ース」は専門課程内のコース設定で「金型専攻学科」
として設置されていないが、これまで「金型技術者
育成コース」が「ゼロ」であったことからすれば大
きな一歩前進であると言える(図8)。
7
4.4 日本・中国・韓国大学金型グランプリ
H20年7月、日本・中国・韓国の金型工業会の
3者協議で「第 1 回日本・中国。韓国大学金型グラ
ンプリ」開催が決定された。開催目的は3カ国の各
大学において金型について学ぶ学生が同一テーマに
基づき金型製作を行い、成果を発表することにより
金型産業の重要性、金型づくりのおもしろさの認識
度を国際的に高めるとともに、参加学生の金型製作
技術の向上を目指すことにある。H20年10月、
金型グランプリ課題が提示され、H21年3月の締
め切り、同年4月発表に向け各大学の取り組みが開
始された。参加大学は各国金型工業会から推薦され
た大学で、日本からは職業能力開発総合大学校東京
校、岩手大学、日本工業大学、岐阜大学、九州工業
大学の5校が、韓国から3大学、中国から2大学の
合計10大学であった。当校も「モールドデザイン
コース」の「実践型人材養成システム」活用以外の
2年生4名の学生がエントリーし、プラスチック部
門課題であるプラスチック製品「コインケース」に
取り組み、冬季・春季休暇を返上して取り組み、4
月開催されたインターモールド会場でのプレゼンテ
ーションおよび展示発表を終えた(写真8、9)。
金型グランプリ課題の発表が時期的に遅かったこ
と、課題成形品に難易度の多少高い要素が含まれて
いたことなどから時間的に厳しいところがあったが、
「モールドデザインコース」の教育訓練の成果を試
すにはタイムリーな企画であった。結果として「モ
ールドデザインコース」のカリキュラム構成が妥当
であることが検証できたことおよび今回エントリー
した東京校短大2年生が金型設計から加工、組立調
整および成形まで全てを取り組んだことは高く評価
できる。因みに日本の文科省の4大学および中国、
韓国はすべて4年生または大学院生でのエントリー
であった。
5.最後に
今回、日本金型工業会は東京校に金型グランプリ
参加を非常に強く要望された。
その背景を考えるに、
これまで東京校で取り組んできた応用課程「開発課
題」の取り組み、「企業人スクール」開講、専門課
程「モールドデザインコース」開設および「実践型
人材養成システム」の実施等、地域および企業・団
体のニーズに応えてきた実績が高く評価された証で
あり、金型技術者育成における東京校に対する強い
期待感の表れであると考える。
また、金型工業会事務局長から金型設計製作がで
きる大学は東京校をおいてはないと言っていただい
たことは、これまで体系的に金型技術者育成教育訓
練をどこよりも率先して実践してきた実績を認めて
いただいたものと自負している。
東京校としてはこの期待に今後も応えるとともに、
日本金型工業会および会員金型企業から信頼され、
文科省の工科系大学では出来ない金型技術者育成を
継続することが重要であると考えている。
写真8 東京校展示ブース&成形品コインケースと成形金型
写真9 金型グランプリスケジュール&学生プレゼンテーション
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