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海外研修レポート 0. はじめに 1.実験目的

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海外研修レポート 0. はじめに 1.実験目的
海外研修レポート
学生番号:0601-25-9565 氏名: 青沼可也 所属分野名:University of Colorado Anschutz Medical Campus
Department of Dermatology
期間:2016年8月17日~2016年9月30日
活動内容(概略): ガン細胞増殖抑制効果についての解明
0. はじめに
逆説的かもしれないが、私は4回生になってからも基礎研究とはどんなものか全く想像
がつかず、ほぼ興味が持てなかったため、マイコースで思いっきり基礎研究をしてみたい
と考えた。興味が無いのは「知らない」からだからこそ、研究だけに打ち込む期間を過ご
してみて、基礎研究の世界を体験し自分の医学的見地を広めたいと思ったのである。海外
を選んだのは、最初は「せっかく思いっきりやるなら場所も思いっきり海外で」というよ
うな考えからであった。
正直にそう申し上げたところ、武田先生に、上記のコロラド大学の研究室を紹介してい
ただいた。この研究室のリーダーは京都大学医学部 OG の藤田真由美教授であり、教授は
研究室のリーダーと同時に臨床医もこなされていると伺ったため、藤田教授の医師として
女性としての人生の歩まれ方に非常に興味を持ったことも、海外でのマイコース留学の決
意を固める理由となった。
1.実験目的
ガン細胞増殖抑制効果についての解明
とは、より詳しく言えば、
「メラノーマ(悪性黒色腫)において、ヒト由来のたんぱく質がガン細胞の増殖を抑える
効果があるかどうかについて調べ、もし抑制効果があるならば、その機序を解明すること。」
である。
既存の実験において、あるヒトタンパク質(以下タンパク A と記す)を組み込まれたマウ
スでメラノーマ細胞の増殖が抑制されるという結果が得られていた。また、この抑制効果
は in vivo の実験、さらにいえばタンパク A の遺伝子導入を行ったマウスの場合で最も劇的
にみられ、タンパク A を皮下注したマウスでは抑制効果は小さく、in vitro の実験では全く
といっていいほど抑制効果が見られなかった。すなわち、タンパク A が癌細胞増殖の抑制
効果を持つには、生体のなんらかのシステムが存在することが必要なのであり、単なるタ
ンパク A と癌細胞の一対一の関係では抑制は起こらないと考えられた。そこで、続いて
TUNEL 染色や Ki-67 染色、HA 染色といった免疫学的分析、組織学的分析を行った結果、
タンパク A は何らかの免疫学的機序をとおして、癌細胞の増殖を抑制するということが予
測された。
さらに別の実験において、タンパク A がメラノーマ細胞におけるある遺伝子(以下 gene1
と記す)の発現を抑制するという結果が得られていた。
この遺伝子は、ガン細胞の免疫逃避機構に関わっていることが予測され、gene1 をタンパク
A によって抑制すれば、それがガン細胞の増殖抑制につながるのではないかと期待して実験
をすすめた。
2. 実験方法
もちいた方法は主に qPCR である。具体的な手順としては以下である。
用いた細胞:B16F10(マウスのメラノーマ細胞)及び 1205Lu, HS294T(ヒトのメラノー
マ細胞) 24時間もしくは48時間培養したもの。
① マウスまたはヒトのメラノーマ細胞にタンパク A を濃度を変えて注入する。タンパク A
の み を 濃 度 を 変 え て 注 入 し た 6 サ ン プ ル ( 0ug/ml, 25ug/ml, 50ug/ml, 100ug/ml,
200ug/ml)、タンパク A とともに IFNγも同時に注入した6サンプル(IFNγ+タンパ
ク A 0ug/ml, 25ug/ml, 50ug/ml, 100ug/ml, 200ug/ml)の合計12サンプル(cDNA)
を用いる。
②サイバーグリーン、発現を調べたい遺伝子のプライマー、水を混合して 60ul ずつ5つの
チューブに分注する。そののち、①のサンプルを各チューブに 4ul ずつ注入する。このとき、
ハウスキーピング遺伝子としては GAPDH を用いる。
③②の各サンプル 60ul を、PCR 用のプレートの各チューブに 20ul ずつ分注する。その後、
リアルタイム PCR マシーンにかけ、遺伝子発現の変化を観察する。
3. 実験結果
調べた遺伝子の数が多く煩雑になるため、とくに今回のプロジェクトの核となる遺伝子数
種について詳しく述べ、その他の遺伝子の結果については軽く触れるだけにとどめる。
まず、最も注目し力を入れて取り組んだ gene1 の発現についてであるが、図1のような結
果が得られた。
IFNrは gene1 を誘導する。既存の実験でも、私自身が行った実験でも、タンパク A は IFN
rの発現を増長したが、逆に gene1 の発現はタンパク A のもとでは減っていた。IFNrか
ら gene1 発現に至るまでの間の分子学的経路は未だわかっていないが、関係するとされて
いる遺伝子のいくつかは論文等で発表されている。私は主に四つの遺伝子(以下 gene2~5
と記す)に注目して解析した。図2~6に結果を示す。
gene1/GAPDH mRNA
【図1】
0.020
Control
IFN-r
0.015
0.010
0.005
0.000
0
20
50
100
200
500
タンパクA(ug/ml)
まず、IFNrから初めに誘導されるのは gene2 である。タンパク A の濃度を変えたときの
gene2 の発現は図2,3のようになった。
gene2/GAPDH mRNA
【図2】
0.1200
0.1000
Naïve
Vac
0.0800
0.0600
0.0400
0.0200
0.0000
No
IFNr
0
20
200
タンパクA (ug/ml)
gene2/GAPDH mRNA
【図3】
0.0030
0.0025
Naïve
0.0020
0.0015
0.0010
0.0005
0.0000
No
IFNr
0
20
200
タンパクA (ug/ml)
つづいて gene3,4,5 の結果も示す。
gene3/GAPDH mRNA
【図4】
0.0140
0.0120
0.0100
0.0080
0.0060
0.0040
0.0020
0.0000
Control
0
IFNr
25
50
100
200
タンパクA (ug/ml)
gene4/GAPDH mRNA
【図5】
0.0100
Control
IFNr
0.0080
0.0060
0.0040
0.0020
0.0000
0
25
50
100
タンパクA (ug/ml)
200
gene5/GAPDH mRNA
【図6】
0.2500
Control
IFNr
0.2000
0.1500
0.1000
0.0500
0.0000
0
25
50
100
200
タンパクA (ug/ml)
以上はすべてマウスのメラノーマ細胞における結果であるが、ヒトメラノーマ細胞におけ
るヒト gene1 におけるタンパク A の効果も調べたため、以下に示す。
gene1 /GAPDH mRNA
【図7】
0.0008
Control
IFNr
0.0007
0.0006
0.0005
0.0004
0.0003
0.0002
0.0001
0.0000
タンパクA (ug/ml)0
25
50
100
200
4. 考察
まず、図1の左のグラフで、タンパク A=0ug/ml のところを見ると、IFNrの gene1 への
純粋な効果を見ることができ、gene1 は劇的に増加している。
すなわち、IFNrが gene1 を誘導していることが確かめられる。次に、右のグラフに着目
すると、IFNrが無いとき、gene1 の発現はタンパク A とともに増加している。一方で、IFN
rのもとでは、逆にタンパク A が増えると gene1 の発現量は減少している。
このことから、タンパク A が、IFNr→gene1 の経路を何らかの形で抑制している、とい
う結論が導ける。
同様にして図3~6も見ていくと、gene2 についても gene1 と同じことがいえる。ふたつ
のグラフは非常によく似た傾向を示している。すなわち、
「ⅰ)IFNrは gene2 を誘導する。
ⅱ)IFNrがないとき、タンパク A とともに gene2 の発現は増加する。 ⅲ)IFNrの元
だと、タンパク A の濃度上昇につれ gene2 の発現量は減少する。」といえるので、タンパク
A が、IFNr→gene2 の経路を何らかの形で抑制している、という結論が導ける。
Gene3,4,5 については、特筆すべき減少や増加は見られなかったため、タンパク A はこれ
らの遺伝子発現に寄与しているかどうかは分からない。これらはすべて転写因子であるた
め、転写反応がすでに終わっている24時間後、48時間後の細胞では変化が見られない
のかもしれない。よりタンパク A の効果を詳しく正確に調べるには、転写反応が行われる
6時間ほどの期間培養された細胞で解析を行う必要がある。
最後に、図7の、ヒトの細胞を用いたときの結果であるが、マウスの場合と違い、タンパ
ク A=50ug/ml までは gene1 の発現量は増加し、その後減少している。しかし、IFNrが
ないときと比べた場合やはり、タンパク A は gene2→gene1 の経路に何らかの影響を及ぼ
していることが、期待できる結果ではある。
今後、ウエスタンブロットや FACS をおこない、タンパクレベルでの発現量も解析してい
って、真にタンパク A が gene1 の発現に抑制効果を持つのか確かめることが重要である。
逆に、タンパクレベルでも、今回の PCR の結果と同様の結果が得られれば、がん治療の免
疫学的アプローチの探求において大きな一歩であるといえるし、臨床的に大いに希望がも
てるであろう。
**************************************
ここからは、研究以外の側面について、なるべく気軽にお話しします。
5.ビザや研究所への研修申し込み方法
私は2か月弱の滞在であったため、学生ビザは必要ありませんでした。
長期滞在には必要なようです。行き先がアメリカだったので、ESTA を取得しました。基本
的に情報収集をのんびりしていたので、直前に取るという少々危険な行為に及んでしまい
ましたが、当然前もって取得しておくことをおすすめします。
研修申し込みについては、武田先生に直接、藤田教授の連絡先を教えていただき、メール
で申し込みました。すぐに返事がきて、快諾してくださいました。
6.宿泊について
宿泊は、前年度同じ研究室に通っていた先輩に直接連絡し、その先輩が使っていらっしゃ
ったシェアハウスを紹介していただきました。シェアハウスのオーナーにメールにて連絡
し、その後はずっとメールで日程などについてやり取りしました。
シェアハウスは研究室から歩いて15分のところにあり、立地としては最も近いところで
あったかと思います。コロラドは基本的にだだっぴろく、土地をかなり贅沢?に使ってい
るので病院の周りには何もなく、大体の人が車通勤でした。シェアハウス付近の治安は気
にならなかったです。黒人さんから突然ヘーイ!と話しかけられて一瞬怖かったですが、
本当にフレンドリーなだけの人でした。怖がってすみません。
唯一不便といえば不便だったのは、最寄りのスーパーが歩いて30分のところにあったと
いうことです。私は歩くのはすきなので、そんなに苦ではなく、むしろ自炊と散歩を息抜
きにしていました。シェアハウスの友達はウーバー(やや安価なタクシーのようなサービ
ス)を呼んだりしていましたが、それはリッチな人むけです。
費用は1か月650$なので、約7万円です。キッチンとバスルームのみ共用で、寝室は
個室だったのでプライベートと人とのかかわりの両方をいいところどりできるという感じ
で、私はとても満足しました。
Wifi がつかえ、キッチンは清潔で、オーブンや食洗機、冷蔵庫も十分に大きいものがあり、
ほぼ毎日自炊をしていました。オーブンで焼くハンバーグはフライパンで焼くよりもジュ
ーシーです!最後の日には、研究室の人へのプレゼントに、チャーシューとケーキ(取り
合わせが変なのは見逃してください)を焼きました。
シェアハウスの個室です。
7.週末の過ごし方
アメリカの人は本当にオンとオフがはっきりしていて、平日はしっかり仕事をしますが、
金曜日の午後あたりになると、もうそわそわしてきて、土日はレッツエンジョーイ!フー!
みたいな感じです。
それにならって、私も土日は精力的にいろんなところへ出向き、たくさん楽しみました。
小さなお出かけだと、シェアハウスの友だちとショッピングモールに買い物にいったり、
現地で仲良くなった人にランチにおよばれしてもらったり、などです。
遠出した思い出でいうと…
最初の週はロッキーマウンテンに。
景色が本当に壮大です。スケールが日本では経験できないものです!
左はエルク。食べられます。食べました。この写真のを食べたわけではないです。ハンバ
ーガー屋さんで食べました。バッファローハンバーガーもあります。
次の週はダウンタウンへ行き、その次の週は、同じくマイコースで研修中の友人を頼って
ロサンゼルスに突発的に旅行しました。飛行機は往復で2万円くらいでした。
ディズニーランドと、ハリウッドにて。有名なウォークオブフェイムで、誰しもやってし
まいがちなことです。ベッターなことばかりやって、きゃっきゃと楽しんでおりました。
ちなみにロサンゼルスの宿は Booking.com でぱっとドミトリー型のシェアハウス?のよう
なものを適当にとってしまったのですが、そこで出会った人たちは全員優しくてたくさん
話して仲良くなりました。
9月に入ると、研究室で年がちかい Jenny と仲良くなり、彼女にいろいろなところに連れ
て行ってもらいました。コロラドの名所である Garden of the Gods や、おすすめのアイス
クリームやさん(本当においしかったです!)、そしてシアトルにまで。
彼女は本当に真心をつくして私に接してくれ、非常に賢く優しい女性で、心から尊敬する
友人となりました。彼女と出会えたことだけでも、アメリカに行ってよかったと自信を持
って断言できます。
Garden of the Gods にて。景色、すばらしかったです!!!
スターバックス世界1号店(ロゴがここだけ違うらしいです)と、世界の Google 社(なん
と中に入れました、すべてがおしゃれでした)にて。シアトルは最高の街です!!
7.さいごに
冒頭でも述べたように、私はマイコース期間を迎えるまで、基礎研究には全く興味が持て
ませんでした。英語にも実験手技にも、アメリカでの生活にもすべて不慣れななか、心が
折れそうになることは何度もありました。しかし、医学知識もおぼつかない、いち学生に
過ぎない私を他の研究員と同様に扱ってくださり、厳しくしかしあたたかく指導してくだ
さった藤田教授のおかげで、だんだんと研究の面白さを肌で感じ、最終週の間際には、実
験の結果が気になりすぎて土日の朝にも自主的に研究室に行くほど、夢中になってプロジ
ェクトに取り組むことができました。
研究員や、シェアハウスの同居人にも恵まれ、その人々の賢さ、思いやり、人間的な魅力
を毎日感じることができたのは本当に学業面でも精神面でも大きな財産だと確信しており
ます。
藤田教授をはじめとする、アメリカでお世話になったすべての方々、そしてもちろんこの
機会を与えてくださり、様々なアドバイスをくださった武田教授に心から感謝を申し上げ
ます。
研究室のみなさんと最後におすしを!!!
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