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一般的合意事項 2015年8月更新版

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一般的合意事項 2015年8月更新版
Applying IFRS
収益認識に関する合同移
行リソース・グループ:
一般的合意事項
2015 年 8 月更新版
目次
概要 .................................................................................. 4
1. ステップ 1:顧客との契約の識別 ........................................ 4
1.1 回収可能性 .................................................................................. 4
1.2 契約の強制可能性及び解約条項 ...................................................... 5
2. ステップ 2:契約における履行義務の識別............................ 6
2.1 履行義務の識別 ............................................................................ 6
2.2 待機義務...................................................................................... 6
2.3 一連の区別できる財及びサービス ..................................................... 7
2.4 収益の総額表示と純額表示-顧客に請求される金額 ........................... 8
2.5 追加の財又はサービスに対する顧客の選択権 .................................... 9
3. ステップ 3:取引価格を決定する....................................... 10
3.1 変動対価.................................................................................... 10
3.2 変動対価を見積もるためのポートフォリオに関する簡便法 .................... 11
3.3 在庫に戻す際の手数料と関連コストの会計処理 ................................ 11
3.4 重要な金融要素 .......................................................................... 12
3.5 顧客に支払われる対価 ................................................................. 13
4. ステップ 4:取引価格の契約における履行義務への配分 ...... 14
4.1 相対的な独立販売価格に基づく配分方法の除外 ............................... 14
5. ステップ 5:各履行義務が充足された時点で
(又は充足されるにつれて)収益を認識する ..................... 15
5.1 コモディティに対する支配の移転時期の決定 ..................................... 15
5.2 複数の財又はサービスが単一の履行義務に結合される場合の進捗度の測定15
5.3 履行義務充足の進捗度を測定する際の実務上の簡便法 ..................... 16
5.4 契約を識別する前の履行義務の部分的な充足 .................................. 17
6. 測定及び認識に関するその他の論点 ............................... 19
6.1 製品保証.................................................................................... 19
6.2 契約を獲得するための増分コスト .................................................... 19
6.3 資産化契約コストの減損判定 ......................................................... 20
6.4 契約資産及び契約負債................................................................. 21
7. この基準の適用範囲 ...................................................... 22
7.1 イスラム金融取引(この論点は IFRS に関して提起された) ................... 22
7.2 特定のクレジットカード契約に関する適用範囲の決定.......................... 22
7.3 寄付(この論点は US GAAP に関して提起された) .............................. 23
2
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
重要ポイント
•
TRG は創設以来 5 回の会議を開催し、数多くの適用上の論点を検討した。 本年
は残り 1 回の会議が、2015 年 11 月 9 日に予定されている。
•
こうした議論を通じて TRG メンバーは、数多くの論点について概ね合意に至った。
本稿ではその合意内容について要約している。
•
TRG メンバーの見解は正式な効力を有するものではないが、各トピックに関する最
新の見解である。企業が新たな収益認識基準を適用する際には、これらの見解に
ついても考慮すべきである。
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
3
概要
国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)(以下、総称して「両
審議会」)は、新たな収益認識基準1に関し、追加の適用指針が必要かどうかの判断に
役立てるため、及び関係者の教育を目的として収益認識に関する合同の移行リソース・
グループ(TRG)を創設した。TRG メンバーは、様々な業種、国、公的部門及び民間部門
の企業の財務諸表作成者、監査人及び利用者で構成されている。本稿では TRG メンバ
ーが 2014 年と 2015 年の会議で概ね合意した論点について、その概要を説明する。
TRG では、2015 年 11 月にもう一度会合が実施される予定である。現時点では 2016
年に TRG 会議の開催は予定されていないが、利害関係者が依然として幅広い適用上
の論点を有しており、TRG の対応を必要とする場合には、改めて TRG 会議が開催され
る可能性もある。
財務諸表作成者が新
基準を適用する際の一
助となるように、TRG は
数多くの適用上の論点
について議論してきた。
TRG メンバーの見解は正式な効力を有するものではないが、各トピックに関する最新の
見解である。企業が新基準を適用する際には、これらの見解についても考慮すべきであ
る。 本稿の要約は、新基準に定められる 5 ステップモデルに従って、TRG での議題ごと
にこれらをまとめているが、TRG 及び両審議会による要約に置き換わるものではないこ
とに留意されたい。本稿は定期的にアップデートされる予定である。本稿の論点及び
TRG が議論したものの合意形成に至らなかった論点については、弊社の TRG 会議に関
する刊行物(http://www.shinnihon.or.jp/services/ifrs/)を参照されたい。
1. ステップ1:顧客との契約の識別
1.1 回収可能性
収益認識基準では、回収可能性とは、企業が権利を得ると見込む対価の金額を顧客が
支払う能力と意図を指す。両審議会は、同基準に定義される契約が存在しているか否か
を判断する上では、顧客の信用リスクの評価が重要な要素であると結論づけた。新基準
において取決めが、契約に該当すると判断するのに必要となる回収可能性要件(あるい
はその他要件)を満たさない場合、企業は次の 2 つの事象のうちどちらか一方の事象が
発生した時点で、返金不能な受領済対価のみを収益として認識することになる。
(1) 企業が履行を完了し、実質的にすべての対価を受領した時点、または
(2) 契約が解除された時点。
契約ポートフォリオに関してはどのように回収可能性を評価すべきか。[2015 年 1 月
26 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、企業が、特定の顧客は契約に定められる金額を支払う可能性が高い
ものの、過去の経験から、契約ポートフォリオに含まれる一部の顧客についてはその対
価を回収できないだろうと判断する場合、企業はそうした特定の契約に関しては収益を
全額認識した上で、対応する契約資産又は債権について個別に減損評価を行うことが
適切であるとの合意に至った。
一部の TRG メンバーは、収益を認識するのと同じ期間に、(予想される価格譲歩に関し
て収益を減額する代わりに)契約に係る貸倒費用を認識するべきかどうかを決定するた
めの分析においては、判断が求められると注意を促した。
回収可能性の再評価のタイミング[2015 年 1 月 26 日開催 TRG 会議]
1
4
IFRS 第 15 号「顧客との契約から生じる収益」/米国会計基準アップデート 2014-09「顧客との契約から生じる
収益」(その大部分が会計基準書(ASC)第 606 号に定められている)
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
新基準では、企業は契約の開始時点(ならびに重要な事実及び状況に変化があった時
点)で、権利を得ると見込む対価(すなわち契約金額ではなく取引価格)を回収する可能
性が高いか否かを評価しなければならない。TRG メンバーは、事実及び状況の変化に
よる回収可能性に関する評価の見直しの要否を決定するためには判断が求められるこ
とに同意した。また、そのような変化が、IFRS 第 15 号に基づく契約がもはや存在しない
ことを示唆するほどに重要なものであるか否かを決定する際にも判断が求められる。
企業は、契約に価格譲歩が含まれるか否かをどのように評価すればよいか?[2015
年 1 月 26 日開催 TRG 会議]
両審議会は、履行に対して一部でも支払を受けるだろうと企業が考えているならば、そ
のことは、当該取決めが契約の定義を満たすことの十分な根拠になりうる(よって対価
のうち回収が見込まれない部分は、むしろ価格譲歩に類似する)と述べている。
TRG メンバーは、企業に判断が求められることに同意した。TRG メンバーはまた、価格
譲歩、減損、及び IFRS 第 15 号の下で契約とみなされるための十分な経済的実質の欠
如を区別するのは、難しい場合があることも認めた。
TRG のアジェンダにはなかったトピックだが、TRG メンバーは、様々な状況において
(例:企業が履行を継続的に行う月々のサービス契約)、返還を要さない現金対価の認
識を際限なく繰り延べることが両審議会の意図であったのかについて質問した。[2015
年 1 月 26 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーはこの論点を議題として取り上げ、両審議会の意図は明確ではなかったと
のことで概ね合意に至った。
両審議会は、TRG が照
会したいくつかの論点
について議論した。
2015 年 3 月の合同会議で FASB は、企業が財の移転及びサービスの提供を中止する
能力を有しており、かつ実際にそれを中止した時点で、契約は終了することを明確にす
るため、収益認識基準の改訂を提案することとした。FASB はまた、約定金額合計では
なく、顧客に移転される財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価に係る
回収可能性を検討すべきであることを明確化するため、ステップ 1 における回収可能性
の閾値の精緻化、及び(または)設例の追加もしくは改訂を提案することとした。FASB ス
タッフは現在、これらの暫定決定を反映した公開草案の起草作業を行っている。
IASB は、2015 年 4 月の会議でもこの論点について審議し、ステップ1の回収可能性の
閾値に関して、IFRS 第 15 号の明確化又は改訂は行わないこととした。IASB は、IFRS
第 15 号やその結論の根拠の説明の中に既に十分な指針が存在すると考えた。
1.2 契約の強制可能性及び解約条項
新基準の下では、解約条項は、両当事者が契約に従って履行することを確約しているか、
つまり同基準で定義される契約が存在するか否かを判断する際の重要な要因となる。
契約のデュレーション(すなわち契約期間)を決定する上で解約条項をどのように評価
すればよいか。[2014 年 10 月 31 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、このトピックに関するスタッフの論点整理ペーパーの設例に示された
結論に概ね合意した。たとえば、契約期間が明示されている契約が、いずれの当事者
からもいつでも無償で解約できるとしたら、当該取決めは、契約期間とは関係なく、毎月
更新される月次の契約として扱うべきであることに、TRG メンバーは概ね同意した。
TRG メンバーはまた、契約に実質的な解約違約金の定めがある場合、その契約期間は
契約上明記されている期間(又は解約違約金の支払いを行う必要がなくなるまでの期
間)と等しくなる点についても概ね合意した。
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
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2. ステップ 2:契約における履行義務の識別
2.1 履行義務の識別
新基準の適用にあたって、企業は契約に含まれる約定された財及びサービスを識別し、
それらの財及びサービスのいずれが区別できるか(すなわち履行義務に該当するか)を
決定しなければならない。
新たな収益認識基準では、従前は成果物として識別されていなかった約定した財又は
サービスの識別が要求されるか?[2015 年 1 月 26 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、新たな収益認識基準は、現在個別に成果物として会計処理されてい
ない約定した財やサービスについてまで、識別することを求める意図はない、ということ
で概ね合意に至った。企業は、形式的、あるいは取るに足らないと思える項目にも注意
を払うかもしれないし、「無償の」財及びサービスについても検討する必要があるだろう。
しかし、特定のアイテムが約定した財又はサービスに該当するかどうかを判断するにあ
たり、重要性を加味することになる。たとえば電気通信会社は、提供する「無料の」携帯
端末に対価を配分しなければならない場合がある。同様に、自動車メーカーも、現行実
務では販売促進のためのインセンティブと捉えられる「無償の」保守サービスに対価を
配分しなければならない場合がある。
FASB は 2015 年 5 月、契約に照らして重要ではないと考えられる約定については、企
業が考慮しないことを許容する新たな収益認識基準の改訂を提案した。FASB の意図は、
企業が契約レベルで重要ではない項目を無視できるようにすることであり、各項目を合
算して企業レベルで重要性を評価することは意図していない。FASB の公開草案のコメ
ント募集期限は 2015 年 6 月 30 日であった。他方 IASB は、意図しない結果が生じる
リスクを回避するため、2015 年 7 月 30 日の公開草案で、当該規定を改訂しないことを
決定した。IASB は、IFRS 第 15 号の規定が既に十分に明確であると考えており、改訂し
てしまうと収益認識基準の範囲に留まらない、より広範な影響が生じる可能性があるた
めである。
2.2 待機義務
新たな収益認識基準では、契約には「財又はサービスをいつでも提供できるように待機
するサービス(例:利用可能となり次第、提供されるソフトウェア製品の不特定のアップ
デート)又は顧客が使用することを決めた時に、財又はサービスを利用できるようにする
サービス」が含まれる場合があると述べられている。2
「典型的な」待機義務に含まれる約定の性質とはどのようなものか?[2015 年 1 月 26
日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、待機義務における約定は、財又はサービス自体の引渡しではなく、顧
客が財又はサービスにアクセスできるという保証であることに総じて同意した。
ある FASB スタッフは、どのような場合にソフトウェア/テクノロジーに係る取引に特定の
アップグレード権(すなわち、独立した履行義務)又は不特定のアップグレート権(すなわ
ち、待機義務)が含まれるのかを判断するための現行の US‐GAAP に基づく実務を変え
ることが FASB の意図ではなかったという考えを示した。
企業は、一定期間にわたり充足される待機義務について、進捗度をどのように測定す
るか?[2015 年 1 月 26 日開催 TRG 会議]
2
6
IFRS 第 15 号第 26 項(e)
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
TRG メンバーは、定額法による収益配分をデフォルトとして使うことはできないことに同
意した。しかし、顧客が契約期間を通じて約定した便益を受領し、消費することが見込ま
れる場合は、時間を基礎とする進捗度の測定(例:定額法)が適切となるであろう。ある
FASB スタッフは、これは不特定のアップグレード権の場合に該当することが多いと述べ
た。TRG メンバーは、便益が契約期間にわたり均等ではない場合(例:冬季に便益がよ
り多くなる年間の除雪契約)、比例的な認識は適切ではない可能性があることに総じて
同意した。
2.3 一連の区別できる財及びサービス
新しい収益認識基準は、一連の区別できる財又はサービスが実質的に同一で、移転パ
ターンが同じであり、かつ(1)一連の財又はサービスに含まれる区別できる財又はサー
ビスのそれぞれが、一定期間にわたり充足される履行義務を表すとともに、(2)企業が、
一連の財又はサービスに含まれる区別できる財又はサービスのそれぞれについて、同
じ測定方法を用いて履行義務の充足に向けての進捗度を測定する場合、一連の区別
できる財又はサービスを単一の履行義務として会計処理することを求めている(以下、
一連規定)。企業は、変動対価を適切に配分し、契約変更及び取引価格の変更に係る
規定を適用するために、一連規定を適用することで単一の履行義務が生じるのか否か
を決定する必要があるだろう。
一連規定を適用するには、財又はサービスは連続して移転される必要があるのか?
[2015 年 3 月 30 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、一連の区別できる財又はサービスは連続して移転される必要はないとい
うことで概ね合意した。すなわち、一連規定は、他の要件が満たされる限り、財又はサービ
スが断続的に移転する場合や重複して移転する場合にも適用しなければならない。ロンド
ンの TRG メンバー3は、財又はサービスの移転の間隔の長さに応じて、一連規定が適用さ
れるか否かを慎重に検討する必要があるかもしれないことにも言及した。
一連規定を適用するには、会計処理の結果が、区別できる財及びサービスが独立した
履行義務であるかのように会計処理した場合と同じ結果になる必要があるか?[2015
年 3 月 30 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、会計処理の結果が同じになる必要はなく、また、財及びサービスが独
立した履行義務であるかのように会計処理した場合と会計処理の結果が同じであること
を証明する必要もないということで概ね合意した。
一連規定を適用するには、企業は、履行義務が「実質的には同じ」となる区別できる財
又はサービスで構成されるか否かを、どのように検討すべきか?[2015 年 7 月 13 日
開催 TRG 会議
主にサービス契約に対する一連規定の適用に焦点を絞った、本論点に関するスタッフ・
ペーパーは、企業が新たな収益認識基準の規定を理解し、履行義務が「実質的に同じ」
となる区別できる財又はサービスで構成されるかどうかを判断するうえで有用であること
に、TRG メンバーは概ね合意した。
スタッフ・ペーパーでは、この判断の最初のステップとして、サービスを顧客に提供する
という企業の約定の内容を検討している。すなわち、約定の内容が一定量のサービス
(例:契約に定められた期間にわたる月次の給与計算サービス)を提供するものであれ
ば、その評価において、各サービスが区別でき、かつ実質的に同じものであるかどうか
3
2015 年 3 月 30 日の TRG 会議は、物理的な理由から TRG のメンバーがノーウォーク州コネチカットにある
FASB のオフィスとロンドンにある IASB のオフィスとに分かれて議論した。
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
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検討する。一方、企業の約定の性質が(不特定の量が提供されるため)一定期間にわ
たり待機すること又は単一のサービスを提供することであるような場合、その評価にお
いては、実際の活動ではなく、各時間増分(例:時間、日)が区別でき、かつ実質的に同
じものであるかどうかを判断する。
スタッフの評価は、新たな収益認識基準における月次の給与計算処理サービス及びホ
テル運営サービスに関する設例と整合している。月次の給与計算処理に関する設例に
おいて、約定の内容は、1 年という期間にわたり実質的に同じ 12 個の区別できるサー
ビスを提供するというものである。ホテル運営に関する設例において、約定の内容は、
日々のホテル運営サービスを提供することである。実際の活動は 1 日の中でも、また日
によっても変化しうるが(例:従業員管理、研修、会計サービス)、そのことによって、
日々の運営サービスが区別でき、実質的に同じであると結論付けることが妨げられるわ
けではない。
2.4 収益の総額表示と純額表示-顧客に請求される金額
新たな収益認識基準では、企業は、約定の内容が、特定の財又はサービスそのものを
提供することなのか(すなわち企業は本人になる)、それとも別の当事者がそうした財や
サービスを提供するのを手配することなのか(すなわち企業は代理人になる)を決定し
なければならない。さらに、新たな収益認識基準は、「第三者に代わり回収される金額
(たとえば一部の売上税)」は、取引価格から控除される、と定めている。4
新たな収益認識基準の下で企業は顧客に請求される金額(例:送料、支払経費の補填
や税金など)の表示をどのように決定することになるのか。[2014 年 7 月 18 日開催
TRG 会議]
TRG メンバーは、第三者に代わって回収されるわけではない金額を取引価格(すなわち
収益)に含めるべきということは、収益認識基準から明らかであるということで概ね合意
した。すなわち、履行義務を充足するにあたり、当該金額を企業が負担しなければなら
ない場合、それは取引価格に含まれ、収益として計上される。
この規定により、税金が企業と顧客のいずれに課せられるのかを判断するために、営
業活動を行う国等で徴収される税金について検討する必要がある、と複数の TRG メン
バーが指摘した。加えて、TRG メンバーの中には、金額が第三者の代わりに回収される
ものかどうかが明確ではない場合に、本人と代理人に関する適用指針を適用すべきで
ある、と考える者もいた。この場合、顧客に請求される金額が発生した費用を控除した
金額で(すなわち、純額で)表示される可能性もある。
2015 年 5 月 12 日の FASB の公開草案で、FASB は、財務諸表作成者に会計方針の
開示を求める規定を定めると共に、売上税や使用税、物品税、付加価値税、フランチャ
イズ税(総称して「売上税」)を含む特定の種類の税金を控除した後の純額で企業が収
益を表示できるようにする実務上の簡便法を追加する提案を行うことを決定した。FASB
の決定は、US GAAP の下での当該規定の適用方法について米国の利害関係者が表
明した懸念に対応するためである。IASB は、この論点は解釈の問題ではなく、論点そ
のものは現行の IFRS の規定で対処できるため、IFRS 第 15 号に関してはこうした簡便
法は必要ないとした。5したがって IASB は 2015 年 7 月 30 日に公表された公開草案に
は同様の簡便法を盛り込んでいない。
4
5
8
IFRS 第 15 号第 47 項
IAS 第 18 号第 8 項
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
2.5 追加の財又はサービスに対する顧客の選択権
新たな収益認識基準は、企業が顧客に与える、顧客が追加の財又はサービスを取得で
きる選択権(例:将来の販売促進インセンティブ、ロイヤルティ・プログラム、更新権)は、
それが顧客に重要な権利を与えるものである場合、当該選択権は別個の履行義務にな
ると定めている。
追加の財やサービスに関する選択権が顧客に重要な権利を与えることになるかどうか
を判断する際、企業は現在の取引のみを考慮すればよいのか、それとも同一の顧客と
の過去及び将来の取引についても考慮しなければならないのか。[2014 年 10 月 31
日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、選択権が重要な権利を表すかどうかを判断する際、企業は一定のプ
ログラム(例:ロイヤルティ・プログラム)の下で累積されるインセンティブについても考慮
すべきであるということで概ね合意に至った。すなわち TRG メンバーは、現在の取引の
みを考慮して評価すべきだとは考えていない。
重要な権利の有無を判
断するには定量的要因
及び定性的要因の双方
を検討する必要があ
る。
重要な権利の評価は定量的な評価のみで行うべきか、それとも定性的な要因について
も考慮すべきか[2014 年 10 月 31 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、定量的要因と定性的要因の両方から評価すべきであるということで概
ね合意に至った(例:同様のサービスに対し新たな顧客が支払うもの、同業他社が提供
する代替のサービスの有無及びその価格、明示されている契約期間以降もなお顧客と
して取り扱われるためのインセンティブが料金に含まれていることが、平均的な顧客年
数から示唆されているか、など)。
重要な権利の行使を企業はどのように会計処理すべきか?すなわち、企業はそれを契
約変更、既存契約の継続、変動対価のいずれとして会計処理すべきか?[2015 年 3
月 30 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーの中には、重要な権利の行使には、契約変更に係る規定を適用すること
が合理的であるということに同意する者もいた。この結論は、主に契約変更の定義(す
なわち、契約の範囲又は価格(あるいはその両方)の変更)に着目している。しかし、多
くの TRG メンバーは、追加の財又はサービスを購入する選択権が(個別に事後的に行
われた交渉の一環としてではなく)当初の契約で想定されていることから、重要な権利
の行使を(契約変更ではなく)既存契約の継続として取り扱うアプローチが望ましいと考
えた。TRG メンバーは、重要な権利の行使は変動対価ではなく、契約変更又は既存の
契約の継続のいずれかとすべきであるということで概ね合意に至った。TRG メンバーは
議論をかさね、企業は事実と状況に照らし、いずれのアプローチが最も適切であるかを
検討し、類似の契約に関しては当該アプローチを一貫して適用する必要があるというこ
とで合意した。
企業は、重要な権利を与える顧客の選択権に重要な金融要素が含まれるかどうかを評
価しなければならないのか?そうであれば、企業はどのようにしてこの評価を行うべき
か?[2015 年 3 月 30 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーによると、他の履行義務で求められるのと同様の方法で、重要な権利に重
要な金融要素が含まれるかどうかを評価する必要がある。この評価は判断を要し、事
実及び状況を考慮する必要がある。
この論点に関し、スタッフ・ペーパーでは当該評価において決定的となりうる要因が説明
されていた。新基準では、顧客が財又はサービスに関して前払いを行っているものの、
顧客がその財又はサービスの移転時期を選択できる場合、重要な金融要素は存在しな
いとされている。したがって、顧客が選択権の行使時期を選ぶことができる場合、重要
な金融要素は存在しない可能性がある。
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
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企業は、財又はサービスの移転に関係しない返還不能な前払手数料(例:クラブの入
会金、電話、有線又はインターネットの接続手数料)をどの時点で収益として認識すべ
きか?[2015 年 3 月 30 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、返還不能な前払手数料を収益認識する期間は、当該手数料が顧客に
対して将来の契約更新に関する重要な権利を与えるかどうかに応じて変わるということ
で概ね合意に至った。たとえば、顧客に月額利用料が CU100 のサービスを提供するた
めに、最初に CU50 の初期費用を企業が請求したとする。企業が、当該初期費用が重
要な権利を与えるものであると結論付けるなら、当該初期費用は予想される顧客のサ
ービス利用期間(例:2 年)にわたって認識される。これは、その期間が当該手数料に係
る便益が及ぶ期間を表すからである。企業が、当該初期費用が重要な権利を与えるも
のではないと結論付けた場合、当該初期費用は契約に定められた期間(すなわち 1 カ
月)にわたり認識される。
3. ステップ3:取引価格を決定する
3.1 変動対価
新しい収益認識の基準では、契約で約定された対価が変動性のある金額を含む場合、
企業は顧客への財又はサービスの移転と交換に権利を得る対価の金額を見積もる必
要がある。取引価格の変動は、割引、リベート、返金、クレジット、価格譲歩、インセンテ
ィブ、業績報酬、ペナルティーなどから生じうる。企業の対価に対する権利が、将来事象
の発生の有無を条件としている場合も、約定対価は変動しうる。見積取引価格に含める
変動対価の金額には制限が設けられている。すなわち、変動対価を取引価格に含める
ためには、収益の大幅な戻入れが将来生じない可能性が非常に高い6と結論付けなけ
ればならない。
アウトプットの数量は決められていないが契約単価が固定されている場合、対価は変
動対価となるのか?[2015 年 7 月 13 日開催 TRG 会議]
企業が強制力のある権利と義務を有しているが、契約期間全体にわたり提供しなけれ
ばならない業務量が契約に定められておらず、受領する対価は完了した業務量に従っ
て決まるという条件になっている場合、取引価格総額には変動性があるということで、
TRG メンバーは概ね合意に至った。これは、単価は一定であっても、契約上生じうる取
引価格に幅があり、最終的な対価は将来事象(例:顧客の使用量)の発生の有無に左
右されるからである。
この論点に関するスタッフ・ペーパーによると、企業は対価の一部又は全体が固定され
る契約上の最低限度(またその他の条項)についても考慮する必要がある。
変動対価に係る制限は、契約レベルで適用されるのか、それとも履行義務レベルで適
用されるのか?[2015 年 1 月 26 日開催 TRG 会議]
変動対価に課される制
限は、契約レベルで適
用される。
TRG メンバーは、制限は履行義務レベルではなく契約レベルで適用されることで概ね合
意に至った。すなわち、生じる可能性がある収益の戻入れの重要性を評価する際には、
(履行義務に配分された取引価格の一部ではなく)契約の取引価格総額を考慮する。
6
10
FASB の基準書では「可能性が高い(probable)」という用語が使用されているが、その意味は IFRS における
「非常に可能性が高い(highly probable)」と同義であることが意図されている。
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
3.2 変動対価を見積もるためのポートフォリオに関する簡便法
IFRS 第 15 号では、同基準書を個々の契約に適用した結果と重要な相違が生じないと
見込まれるのであれば、類似の契約をまとめてポートフォリオとして会計処理することが
できるとされている。
さらに企業は、取引価格に含める変動対価を見積もるために、「期待値法」又は「最頻
値法」のいずれを使用するかを判断しなければならないが、その判断は、いずれの方法
が、企業が権利を得る対価の額をより的確に予測するものであるかに基づき行う。
期待値法を用いて変動対価の見積りを行うために他の類似の契約からの証拠を検討
する場合、企業はポートフォリオに関する簡便法を適用することになるのか?[2015 年
7 月 13 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、期待値法を用いて変動対価の見積りを行うために他の類似の契約か
らの証拠を検討する場合、企業はポートフォリオに関する簡便法を必ずしも適用する必
要はないということで概ね合意に至った。企業はポートフォリオに関する簡便法の適用
を選択できるが、要求はされない。
3.3 在庫に戻す際の手数料と関連コストの会計処理
企業は、顧客が製品を返品する際、「在庫戻入れ手数料」を請求することがある。返品
された製品を再包装、出荷及び(又は)低価格で別の顧客に再販する際のコストを補う
ために、企業はこうした手数料を徴収する。在庫戻入れ手数料及びそれに関連するコス
トをどのように会計処理すべきかについて、利害関係者は質問した。新しい収益認識の
基準では、返品権は取引価格に変動性をもたらす。企業は予想される返品額を契約の
開始時点で見積り、それを取引価格から控除し、対応する返品負債を計上しなければ
ならない。また、企業は顧客から返品される財を回収する権利について返品資産を認識
する(あわせて売上原価を調整する)。
返品が見込まれる財に係る在庫戻入れ手数料について、企業はどのように会計処理
すべきか?[2015 年 7 月 13 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、返品が見込まれる財に関する在庫戻入れ手数料は、契約の開始時点
で取引価格の見積りに織り込み、財の支配が移転したとき(又は移転するにつれて)収
益に計上するということで全体的な合意に至った。
たとえば、ある企業が 1 個当たり CU100 で 10 個の製品を販売する契約を顧客と締結
したとする。顧客は製品を返品できる権利を有しているが、その場合、10%(又は返品
した製品 1 個につき CU10)の在庫戻入れ手数料を請求される。企業は、販売される製
品のうち 10%が返品されると見積っている。10 個の製品の支配を移転した時点で、企
業は CU910 の収益を認識する[(返品が見込まれない 9 個の製品×販売価格 CU100)
+(返品が見込まれる 1 個の製品×CU10 の在庫への戻入れ手数料)]。CU90 の返品
負債も認識される[(返品が見込まれる 1 個の製品×(販売価格 CU100-CU10 の在庫
への戻入れ手数料)]
予想される返品に係る在庫戻入れのコスト(例:出荷又は再梱包費用)は、どのように
会計処理すべきか?[2015 年 7 月 13 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、在庫戻入れのコストは、財の支配が移転したときに(又は移転するにつ
れ)、返品資産の減額として計上するということで概ね合意に至った。この会計処理は、返
品資産は財を回収するための予想コスト(すなわち在庫戻入れのコスト)控除後の棚卸資
産の従前の帳簿価格で当初測定するという新たな収益認識基準の規定に整合する。
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
11
3.4 重要な金融要素
新基準において、企業は、顧客に財又はサービスを移転する 1 年より前又は後に対価を
受領する場合、契約に重要な金融要素が含まれるか否かを評価することが求められてい
る(例:財又はサービスを提供する前又は後に対価が支払われる場合)。
新基準では、約定対価と財又はサービスの現金販売価格との差額が、資金提供以外
の理由により生じている場合、重要な金融要素は存在しないとされている。この要因は
広義に適用すべきか?それとも狭義に適用すべきか?[2015 年 3 月 30 日開催 TRG
会議]
TRG メンバーは、重要な金融要素が存在するか否かの検討には、相当の判断が求めら
れるということで概ね合意に至った。TRG メンバーはまた、現金販売価格が約定対価と異
なる場合は重要な金融要素が存在すると推定し、反対に顧客から前払金を受領したとい
うだけで重要な金融要素が存在すると推定することにはならないと示唆することが両審議
会の意図ではなかったようであることにも概ね合意した。TRG メンバーは、前払いに関し
て資金提供以外の正当な理由があるかもしれないが、基準では、重要な金融要素に係る
規定から前払いが除外されていないことに着目した。したがって、企業は契約におけるす
べての事実及び状況を分析することが重要になる。
新基準では、契約に重要な金融要素が含まれているか否かを判断するにあたり、約定
した財又はサービスについて、約定対価と現金販売価格との間に差額があるならば、
当該差額について検討しなければならないと定められている。約定対価が現金販売価
格と等しい場合でも金融要素は存在するのか?[2015 年 3 月 30 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、約定した財又はサービスの定価、現金販売価格及び約定対価が仮に
すべて等しかったとしても、重要な金融要素が存在しないと断定すべきではないというこ
とで概ね合意に至った。これは考慮すべき一要因ではあるが、決定要因ではない。
重要ではない金融要素の会計処理は、新基準では対象から外されているのか?
[2015 年 3 月 30 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、新基準によって、重要ではない金融要素を会計処理するという判断が
妨げられることにはならないであろうことに合意した。さらに、重要ではない金融要素に対
して、重要な金融要素に係る規定を適用することを選択した企業は、同様の状況におけ
るすべての類似契約に首尾一貫して当該規定を適用しなければならない。
新基準には、顧客による支払いと企業による財又はサービスの移転の間の期間が 1 年
以内の場合、重要な金融要素に関して契約を評価しなくてもよいとする実務上の簡便
法が含まれている。企業は、この実務上の簡便法を、複数の履行義務に対する支払い
が 1 回で行われる契約にも適用できるか否かをどのように検討すべきか?[2015 年 3
月 30 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、事実及び状況に応じて、(1)最初に引き渡される財又はサービスに関し
て受領する対価に適用する、あるいは(2)対価を財及びサービスに比例配分することで
概ね合意に至った。
このトピックに関するスタッフ・ペーパーには、24 回均等の月賦払いと引き換えに、契約
の開始時に機器を、24 カ月にわたって関連するデータ・サービスを提供する契約を締結
する電気通信会社の例が示されていた。(1)のアプローチの場合、財又はサービスの移
転と顧客の支払いとの間の期間が、機器と関連サービスの両方について 1 年より短くな
るため、実務上の簡便法を適用できることになる。(2)のアプローチの場合、機器に係る
支払いが 24 カ月(すなわち、1 年より長い期間)にわたって行われるものとみなされるた
め、実務上の簡便法を適用することはできない。
12
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
(2)のアプローチは、現金の支払いが契約内の特定の財又はサービスに直接紐づけら
れない、上述したスタッフの例示に類似した状況において適切となる可能性がある。一方、
(1)のアプローチは、現金の支払いが特定の財又はサービスに直接紐づけられている状
況で適切となる可能性がある。
契約に重要な金融要素が含まれる場合、企業は収益の調整をどのように算定すべき
か?[2015 年 3 月 30 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、新しい収益認識基準には、金融要素による取引価格の調整の計算方
法に関する指針は含まれていないということで概ね合意に至った。金融要素は、金利費
用(顧客が前払いする場合)、又は金利収益(顧客が後払いする場合)として認識される。
企業は、適切な会計処理を判断するにあたり、収益認識基準以外の規定(すなわち、
IFRS 第 9 号「金融商品」/IAS 第 39 号「金融商品:認識及び測定」又は米国会計基準
(ASC)835-30「利息―利息の帰属計算」)を考慮する必要がある。
企業は、契約に複数の履行義務がある場合、重要な金融要素をどのように配分すべき
か?[2015 年 3 月 30 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、現金は代替可能物であるため、特定の履行義務への配分を求めること
が難しい場合もあるが、一定の要件を満たす場合には、変動対価及び(又は)値引きを
(全てではない)1 つ又は複数の履行義務に配分するという新基準の規定を適用すること
が合理的となりうるとした。
3.5 顧客に支払われる対価
新たな収益認識基準は、「顧客への支払いが、顧客が企業に移転する区別できる財又は
サービスとの交換とならないかぎり、企業は顧客に支払われる対価(例:企業に対する債
務金額に充当できる現金、クレジット、優待券、割引券など)を収益の減額として会計処理
しなければならない」と定めている。
顧客へのどの支払いが、顧客に支払われる対価に係る規定の範囲に含まれるか?
[2015 年 3 月 30 日及び 7 月 13 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、支払いが通常の事業の過程において市場価格で取得した区別できる
財又はサービスに対するものであることが明らかな場合、顧客への支払いを個別に分析
する必要はないことに概ね同意した。しかしながら、顧客への支払いの事業上の目的が
明確ではない場合、あるいは他の企業が顧客の財又はサービスを購入した場合の市場
条件とは異なる条件で財又はサービスを取得している場合には、その支払いは当該規定
に基づく評価が必要となる。
顧客に支払われる対価に係る規定が適用される場合に、どの当事者が企業の顧客で
あるとされるか?[2015 年 3 月 30 日及び 7 月 13 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、これらの規定が、契約の流通網に含まれる企業/顧客へのすべての支
払いに適用されると考えている。しかし TRG メンバーは、新たな収益認識基準の下では、
流通網に含まれない企業の顧客のさらにその顧客に対する支払についても、最終顧客を
含めた両者を企業の顧客であるとみなして、当該規定を適用すべき場合があることに同
意した。たとえば、本人、代理人及び最終消費者が関係する契約では、代理人にとって、
本人のみが顧客であると考える場合、又は 2 人の顧客(本人及び最終消費者)が存在す
ると結論付ける場合がある。TRG メンバーは、代理人が、最終顧客への支払いを収益の
減額とするか、営業費とするかの判断にあたり、事実及び状況を評価する必要がある点
に留意した。
顧客に支払われる対価の認識時期に関する規定と、変動対価の認識に関する規定は
どのように整合するのか?[2015 年 3 月 30 日及び 7 月 13 日開催 TRG 会議]
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
13
TRG メンバーは、価格譲歩などの変動対価を含む顧客に支払われる対価の認識時期に
関し、規定間に矛盾が生じている可能性があることにも概ね同意した。顧客に支払われ
る対価に関する規定では、取引価格の減額(よって収益の減額)は、企業が約定した財又
はサービスを顧客に移転した時点と、企業が対価を支払う約定をした時点のいずれか遅
い時点で認識される。一方、企業が過去にこうした種類の対価を顧客に提供してきた実
績を有する場合、変動対価の見積りに関する規定に基づくと、顧客に当該対価をまだ支
払っていない、あるいは支払う約定がなくとも、(取引価格の見積りが行われる)契約の開
始時点で顧客への支払金額を考慮する必要がある。
しかし、こうした矛盾点は頻繁に生じるものではないことに言及する TRG メンバーもおり、
この点に関する基準の改訂は支持を得られなかった。
4. ステップ4:取引価格の契約における履行義務への配分
4.1 相対的な独立販売価格に基づく配分方法の除外
新基準の独立販売価格の比率による配分方法に従うと、契約の取引価格は、2 つの例外
を除き、契約で識別されたすべての履行義務に比例的に配分される。例外規定の 1 つで
は、変動対価のすべてを、契約に含まれる 1 つ又は複数の履行義務(ただし、すべてで
はない)、もしくは単一の履行義務の一部を構成する一連の別個の財又はサービスで約
定した 1 つ又は複数の別個の財又はサービス(ただし、すべてではない)といった契約の
特定の部分に配分する。この例外規定を適用するには、2 つの要件を満たさなければな
らない。まず、変動対価の支払条件が、履行義務を充足する又は区別できる財やサービ
スを移転するための企業の努力に個別に関連していなければならない。次に、対価のう
ち変動金額部分全体を特定の履行義務、もしくは区別できる財又はサービスに配分する
ことが、新たな収益認識基準における配分目的に沿うものでなければならない。
値引きの中には金額が変動する値引き及び(又は)将来の事象によって決まる値引き
のように変動対価の定義も満たすものがあるが、企業はどちらの例外規定を適用すれ
ばよいか?[2015 年 3 月 30 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、新基準の下で、まず企業は変動性のある値引きが変動対価に係る例
外規定の適用要件を満たすかどうかを判断することで概ね合意した。当該要件を満たさ
ない場合、次に値引きに係る例外規定の適用要件を検討する。一方、値引きに変動性
がない場合(すなわち、値引額が固定で将来事象に左右されない場合)は、値引きに係
る例外規定のみを検討する。
変動対価全体を契約の特定部分に配分する規準を満たすためには、配分は相対的な
独立販売価格に基づいてなされなければならないのか?[2015 年 7 月 13 日開催 TRG
会議]
変動対価を契約の特定の部分(例えば一連の区別できる財又はサービス)に配分する
場合、相対的な独立販売価格に基づく配分は配分目的を達成するために要求されない
ということで、TRG メンバーは概ね合意に至った。新たな収益認識基準はその結論の根
拠で、「独立販売価格は、配分目的を達成するためのデフォルトの方法ではあるが、一
定の状況(たとえば変動対価を配分する場合)では他の方法も使用され得る」と説明し
ている。7
7
14
IFRS 第 15 号 BC-279 項-BC280 項
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
5. ステップ 5:各履行義務が充足された時点で(又は充
足されるにつれて)収益を認識する
5.1 コモディティに対する支配の移転時期の決定
新たな収益認識基準の下では、3 つの要件のうち 1 つでも満たした場合には、財又はサ
ービスに対する支配は一定期間にわたって移転するものとされ、企業は一定期間にわた
って履行義務を充足し、収益を認識する。最初の要件は、顧客が企業の履行によって提
供される便益を、企業が履行するにつれて同時に受け取って消費するというものである。
コモディティが一定期間にわたり移転されるか否かは、コモディティの販売が一連規定を
満たすかどうかを判断するうえで重要であり、それによって、企業が変動対価をどのよう
に配分し、契約の条件変更や取引価格の変動に関する規定をどのように適用すべきか
に影響を及ぼす。
企業の履行に従い、顧客がコモディティ(例:電気、天然ガス、灯油)の便益を受領し同時
に消費しているかどうかを評価する際、企業はどのような要因を考慮すべきか?[2015
年 7 月 13 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、コモディティの便益を顧客が受領すると同時に消費しているか否かを
評価する際、企業は既知となっているすべての事実及び状況を考慮しなければならな
いということで全体的な合意に至った。考慮すべき事実及び状況としては、コモディティ
に内在する性質(例:コモディディは保管できるか)や契約条件(例:急な需要にも対応す
るための継続的供給契約)、インフラやその他の配送メカニズムについての情報などが
挙げられる。
したがって、契約の事実及び状況から、顧客が便益を受領すると同時に消費していると
いうことが示されるか否かにより、コモディティの販売に係る収益は、一定期間にわたり
認識される可能性も、一時点で認識される可能性もある。当該検証においては相当の
判断が求められるだろう。
5.2 複数の財又はサービスが単一の履行義務に結合される場合の進
捗度の測定
履行義務が一定期間にわたり充足されると判断された場合、IFRS 第 15 号によれば、
企業は、関連する財又はサービスを移転する際の企業の履行を最も忠実に表す単一
の収益認識方法を選択しなければならない。新たな収益認識基準では、進捗の測定に
関し(1)インプット法(例えば、消費した資源、費やした労働時間、発生したコスト、経過
時間、機械使用時間)と(2)アウトプット法(現在までに完了した履行の調査、達成した
成果の鑑定評価、達成したマイルストーン、経過時間、生産した単位数や引渡した単位
数)という 2 つの方法が定められている。
2 つ以上の財及び(又は)サービスで構成される、一定期間にわたり充足される履行義務
を移転する際の企業の履行を描写するために、複数の進捗度の測定方法を使用するこ
とができるか?新たな収益認識モデルのステップ 2 では、区別できる束を識別するため
に、区別できない財又はサービスとの結合が求められる複数の区別できない、及び(又
は)区別できる財又はサービスが、単一の履行義務に含まれる可能性がある。この履行
義務の束を本稿では「結合履行義務」と呼ぶ。[2015 年 7 月 13 日開催 TRG 会議]
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
15
TRG メンバーは、企業が結合履行義務は一定期間にわたり充足されると判断する場合、
財又はサービスを移転する企業の履行を最も的確に描写する単一の進捗度の測定方
法を選択しなければならないことで概ね合意に至った。TRG メンバーによる議論はなか
ったが、スタッフ・ペーパーでは、進捗度を測定する単一の方法とは、使用されるすべて
の測定方法がアウトプット法又はインプット法である限り、複数の進捗度測定方法を適
用できると幅広く解釈すべきではない点に言及している。TRG メンバーはまた、現行実
務にばらつきが見られ、納入物を別個の会計単位に区分することができない場合に複
数の配分モデルを用いている企業においては、単一の進捗度の測定方法を選択するこ
とで、その実務が変更される可能性があることを認識していた。
企業は、一定期間にわたり充足される結合履行義務の進捗に関する適切な単一の測
定方法をどのように決定すべきか?[2015 年 7 月 13 日開催 TRG 会議]
企業が結合履行義務を構成する財又はサービスを異なる時点で移転する場合、及び
(又は)仮に各約定が別個の履行義務であれば異なる進捗度の測定方法(例:時間量を
基にしたインプット法と労働量を基にしたインプット法)を使用するような場合においては、
適切に単一の進捗度の測定方法を決定することは困難であることを、TRG メンバーは
認識していた。そうした決定には相当の判断が必要となるが、TRG メンバーは、単一の
進捗度測定方法の決定において選択される測定方法は、「自由な選択」であるわけでも
なければ、あるアプローチがデフォルトであるわけでもないということで概ね合意した。た
とえば、企業は、約定された財又はサービスのうち最後の履行期間にわたり収益が認
識されるように、「最終引渡物」法をデフォルトで選択できる訳ではない。むしろ企業は、
結合履行義務を充足する際の企業の履行を最も正確に描写する単一の進捗度測定方
法を選択しなければならない。
一部の TRG メンバーは、企業が適切な収益認識パターンを判断するためには、財又は
サービスがなぜ結合履行義務に束ねられたのか、その理由を検討する必要があると指
摘した。たとえば、ある財又はサービスが、区別できないという理由で他の財又はサー
ビスと結合される場合、その財又はサービスが単独では顧客に価値や効用を提供して
いないことを示す場合がある。そのような場合には、結合履行義務の収益認識パターン
の決定にあたって、こうした財又はサービスの移転は考慮しないことになる。
TRG メンバーはまた、適切に選択された単一の進捗度の測定方法が契約の経済的実
態を忠実に描写しない場合、企業は履行義務が適切に結合されているかどうか、慎重
に検討しなければならない(すなわち 2 つ以上の履行義務が存在する可能性がある)と
いうことで概ね合意に至った。
5.3 履行義務充足の進捗度を測定する際の実務上の簡便法
新たな収益認識基準は、企業が現在までに完了した履行部分の価値に直接対応する
金額で顧客から対価を受領する権利を有している場合(たとえば、企業が提供したサー
ビスの時間数ごとに固定単価を請求できる契約)には、企業が請求する権利を有する金
額で収益を認識することを企業に認める実務上の簡便法(すなわち「請求権」の簡便法)
を定めている。さらに、両審議会は、一定の情報について企業が開示しないことを選択
できる実務上の簡便法も定めた。「請求権」の簡便法に従って収益が認識される契約又
は契約の想定期間が 1 年以内となる契約に関して、企業は、残存履行義務に配分され
た取引価格の金額(「受注残」に関する開示に類似する)を開示しないことを選択するこ
とができる。
企業は、契約期間を通じて変動する料金を定める契約に「請求権」の簡便法を適用す
ることができるのか?[2015 年 7 月 13 日開催 TRG 会議]
16
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
TRG メンバーは、「請求権」の簡便法を適用できるかどうかの決定には判断が求められ
るということで概ね合意した。TRG メンバーはまた、料金の変動が顧客にとっての価値
の変動に直接対応する場合、料金の変動を定める契約であっても「請求権」の簡便法
の要件を満たすことは可能であるということでも合意した。すなわち、実務上の簡便法の
要件を満たすために、契約期間全体に適用される固定単価が定められている必要はな
い。そうした要件を満たす契約の例としては、顧客への作業量が減少するため、契約期
間を通じて料金が徐々に引き下げられる IT 委託契約や電力の先物市場価格を反映さ
せる複数年の電力契約などが挙げられる。しかし、米国証券取引委員会(SEC)のオブ
ザーバーはまた、類似の財又はサービスに関する収益のうち変動金額部分を認識する
ためには、変動価格が顧客にとっての価値を表すという強い証拠を企業が有している必
要があると指摘した。
TRG メンバーはまた、各財又はサービスの増分部分に関し企業が請求する権利を有し
ている金額が、顧客にとっての価値に直接対応するか否かを判断するためには、企業
はすべての重要な前払金又は遡及調整(たとえば累積するリベート)を評価しなければ
ならないのか、議論した。すなわち、返還不能の前払金又は遡及調整により、顧客にと
っての価値に対する支払い時期が変わり、契約期間の前の方、又は後ろの方に集中す
ることとなる場合、請求される金額が、財又はサービスに関し顧客に提供される価値に
直接対応すると企業が結論付けることは難しくなる可能性がある。
この質問に関するスタッフ・ペーパーでは、顧客と支払スケジュールについて合意してい
たとしても、それは企業が請求権を有する金額と、現在までに完了した履行の顧客にと
っての価値とが直接対応するとことを意味するわけではない点にも言及している。さらに
スタッフ・ペーパーでは、条項が実質的ではないとみなされる(たとえば企業が具体的な
最低支払金額を超える金額の受領を見込む)場合には、具体的な契約最低支払金額
(又は数量割引)が定められていたとしても、必ずしも実務上の簡便法を適用できない
わけではないと説明されていた。
企業が(たとえば実質的な契約上の最低支払金額又は数量割引が定められているた
め)「請求権」の簡便法を適用する要件を満たしていないと判断する場合、企業はなお
「受注残」に関する簡便法を使用することができるか?[2015 年 7 月 13 日開催 TRG
会議]
TRG メンバーは、(1)当初の予想契約期間が 1 年以内となる、又は(2)「請求権」の簡便
法の要件を満たす契約に関してのみ、残存履行義務に配分される取引価格の金額を開
示しなくとも良いとする「受注残」に関する簡便法を適用できるということは、新たな収益
認識基準において明らかであるということで概ね合意に至った。契約がこれらの要件の
いずれも満たさない場合、受注残に関する開示を行わなければならない。だが、企業は
これらの規定を適用したとしても、取引価格に含まれない対価(たとえば制限が課せら
れる変動対価の見積金額)を定性的に説明することができる。
5.4 契約を識別する前の履行義務の部分的な充足
企業は、取決めの条件に基づき対価を受領するか、又は履行を開始しているとしても、
新基準に定められる 5 つの契約の要件をすべて満たすまでは取決めに係る収益の認
識を開始することはできない。また、企業は、一定の要件を満たせば、具体的に特定で
きる予想される契約に係る一定の履行コストを資産化することができる。
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
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企業は、(1)契約に関して顧客と合意に達する前、又は(2)契約が新基準に基づき会計
処理されるための要件を満たす(スタッフ・ペーパーでは「契約成立日/CED」とされてい
た)前に、特定の予想される契約に係る活動を開始することがある。これらの活動によ
って、CED 時点で顧客に財又はサービスが移転されることになる場合、そうした活動に
係る収益は CED 時点でどのように認識すべきか?[2015 年 3 月 30 日開催 TRG 会
議]
TRG メンバーは、最終的に移転される財又はサービスが一定期間にわたり収益を認識
するための要件を満たす場合、収益は、CED 時点における履行義務の部分的又は完
全な充足を反映し、CED 時点で累積的にキャッチアップする方法で認識されるということ
で概ね合意に至った。累積的にキャッチアップする方法は、企業が財又はサービスの支
配を顧客に移転した時点で(又は移転するにつれて)収益を認識するという新基準の一
般原則に整合しているとみなされた。
企業は、CED より前に発生した、他の基準書(例:IAS 第 2 号「棚卸資産」)の適用範囲
に含まれない履行コストをどのように会計処理すべきか?[2015 年 3 月 30 日開催
TRG 会議]
TRG メンバーは、CED 以降顧客に移転される財又はサービスに関連して、CED より前の
活動について生じるコストは、特定の予想される契約を履行するためのコストとして資産
化できるということで概ね合意に至った。しかし、TRG メンバーは、そうしたコストを資産
化するには、収益認識基準の他の要件(例:それらのコストが、予想される契約の下で
回収することが見込まれている)も満たす必要があることに留意した。CED 時点で顧客
に移転される財又はサービスに関係するコストのうち資産化されなかったものは直ちに
費用計上される。資産化されたコストは、関連する財又はサービスが顧客に移転される
期間にわたり償却される。
18
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
6. 測定及び認識に関するその他の論点
6.1 製品保証
IFRS 第 15 号では、サービス型と品質保証型の 2 種類の製品保証を取り扱っている。
顧客が製品保証を別個に購入するオプションを有している場合、又は販売時に存在した
欠陥の修理に加えてサービスを提供する保証である場合には、当該製品保証はサービ
ス型の製品保証に該当する。サービス型の製品保証は履行義務として会計処理される。
品質保証型の製品保証は、追加の財又はサービスを提供しないが、引き渡した製品が
契約に定められた仕様に従っていることを保証するものである。品質保証型の製品保
証は、IAS 第 37 号「引当金、偶発負債及び偶発資産」/ASC460「保証」に従って会計処
理される。
企業は、製品保証が個別に価格付けされていない場合、サービス型の製品保証(すな
わち履行義務)に該当するかどうかをどのように評価すればよいか?[2015 年 3 月 30
日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、製品保証が、製品が合意された仕様を満たしているという保証に加えて
サービスを提供しているか否かの評価は判断を要するものであり、事実及び状況に左右
されることについて概ね合意に至った。新基準では、価格が個別に設定されていること以
外には、サービス型の製品保証に該当するための明確な基準は示されていない。
しかし、当該ガイダンスにはこの評価の際に考慮しなければならない 3 つの要因(すな
わち、製品保証が法律で要求されているかどうか、保証対象期間の長さ、及び企業が
履行を約束している作業の内容)が含まれている。企業は、適切な会計処理を決定する
ために、提供している製品保証の種類ごとに評価する必要がある。
6.2 契約を獲得するための増分コスト
IFRS 第 15 号/ASC340-408では、契約を獲得するための増分コスト(例:販売手数料)
は、企業がそれらのコストの回収を見込んでいる場合、資産として認識される。
2015 年 1 月 26 日に開催された TRG 会議では、次のような質問について議論された。
契約の更新に際して支払われる手数料は、いつ、どの金額で資産計上すれば良い
か?企業は当該資産をどのように償却し、更新が当初支払われた手数料に見合うもの
かどうかをどのように評価するのか?
個別の契約として処理されない契約変更に関して稼得した手数料を資産化すべきか?
手数料が将来事象を条件としている場合、増分コストとみなすことができるか?
払い戻し条項がある手数料、及び(又は)累積的な閾値の達成を条件とする手数料は
資産化できるか?
手数料の支払に係る付加給付は、資産化金額に含めるべきか?
異なる期間にわたり充足される複数の履行義務に関係する契約コスト資産は、どのよう
なパターンで償却すべきか?
TRG メンバーは、スタッフ・ペーパーにおける詳細な質問に焦点を合わせるのではなく、
収益認識基準におけるコストの資産化に係る基本原則について議論した。TRG メンバ
8
ASC 340-40「その他の資産及び繰延コスト — 顧客との契約」
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
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ーは、IFRS 第 15 号(ASC340-40 又は ASC606)によって、現行の IFRS/US GAAP の
負債に関する規定が変わるわけではないことに概ね合意した。よって、企業はまず適用
できる負債の基準を参照し、当該コストの認識時期を決定する。その後に、IFRS 第 15
号(ASC340-40)の規定を適用し、関連するコストを資産化する必要があるか否かを判
断する。
TRG メンバーは、収益認識基準を変更する必要はないことに概ね合意した。また、コスト
の認識に関しては、事実及び状況を分析し、適切な会計処理を決定するために相当な
判断が求められる局面があることでも意見が一致した。たとえば、異なる期間にわたり
充足される複数の履行義務に関係する契約コスト資産の償却パターンなどの項目を評
価する際に判断が求められる。
6.3 資産化契約コストの減損判定
IFRS 第 15 号/ASC340-40 に従って資産化されるコスト(すなわち契約履行の際に発生
するコスト及び契約を獲得するための増分コスト)については、各報告期間末時点で減
損テストを実施する必要がある。関係する約定された財及びサービスの提供と交換に
企業が受領を見込む金額から、そうした財及びサービスの提供に直接関連する残りの
コストを控除した後の金額を、資産の帳簿価額が上回る場合、減損が発生していること
になる。
資産化された契約コストの減損テストにおいて、受け取ると予想される残りの対価を算
定する際には、契約の更新及び延長についても考慮すべきか?[2014 年 7 月 18 日開
催 TRG 会議]
TRG メンバーは、資産化された契約コストの減損テストでは、契約の更新又は期間延長
によって生じる将来キャッシュ・フローも含めるべきであるということで概ね合意に至った。
IFRS 第 15 号内に、また ASC340-40 と ASC606 との間に矛盾点が見られたことから、
このような質問が提起されたわけだが、IFRS 第 15 号/ASC340-40 は、収益認識基準
に従って資産化されるコストは、「将来見込まれる特定の契約」(例:契約の更新及び
(又は)期間延長)に従って移転される財又はサービスに関係する可能性があると指摘
している。さらに、資産の帳簿価格が、当該資産が関連する財又はサービスと交換に企
業が受け取ることを見込む対価の残りの金額を上回る場合には、企業は減損損失を認
識すること、及び残りの対価の算定には IFRS 第 15 号/ASC340-40 の原則を適用しな
ければならないと定められている。一方、IFRS 第 15 号第 49 項/ASC606-10-32-4 は、
取引価格の算定時に、企業は契約の「取消、更新又は変更」を想定してはならない、と
述べている。
場合によっては、契約の更新や期間延長を除外することで、即座に減損損失が認識され
かねない。なぜなら、企業が受け取ると予測する対価には契約の更新や期間延長から見
込まれるキャッシュ・フローが含まれない一方で、契約コストは契約の延長期間や更新さ
れた期間にわたって回収される前提で資産化されていたかもしれないためである。
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収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
6.4 契約資産及び契約負債
契約資産及び契約負債
は契約レベルで合算
し、履行義務レベルで
は合算しない。
新基準は、契約のいずれかの当事者が履行した場合に、契約資産又は契約負債が生
じるとの考え方に基づいている。同基準書では、契約資産又は契約負債を貸借対照表
に表示することが要求されている。企業は、約定した財又はサービスを引き渡すことに
より履行義務を充足した時点で、顧客から対価を受け取る権利を獲得し、契約資産を有
することになる。他方、例えば顧客が約定対価を前払いして先に履行した場合には、企
業は契約負債を有していることになる。
複数の履行義務を伴う契約に係る契約資産及び契約負債の表示を企業はどのように
判断するのか?[2014 年 10 月 31 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、契約資産と契約負債は履行義務レベルではなく、契約レベルで判断
すべきであるという点で概ね合意に至った(すなわち、契約に含まれる各履行義務ごと
に資産又は負債を個別に認識するのではなく、それらを単一の契約資産又は負債に集
約する)。
新基準に従って結合が求められる複数の契約の表示を企業はどのように判断するの
か?[2014 年 10 月 31 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、新基準に従って同一の顧客(又は当該顧客の関連当事者)との複数
の契約を結合しなければならない場合、これらの契約に係る契約資産又は契約負債も
まとめる(すなわち純額表示)ことになるという点で概ね合意に至った。しかし、TRG メン
バーは、すでに新基準への対応を進めている一部の企業では、当該分析を行うことは
実務上困難である可能性があることを認識している。というのも、そうした企業のシステ
ムでは通常、新基準の認識及び測定に関する規定に準拠するために、履行義務レベル
でデータが収集されているからである。
契約資産及び契約負債は、他の貸借対照表項目(たとえば売掛金)とどのような場合に
相殺されるのか?[2014 年 10 月 31 日開催 TRG 会議]
TRG メンバーは、新基準は相殺に関する規定は定めておらず、企業は他の基準書の規
定9に従い相殺することが適切かどうかを判断する必要があるということで概ね合意に
至った。
9
IAS 第 32 号「金融商品:表示」/ASC 第 210-20 号「貸借 IFRS 第 9 号(又は IAS 第 39 号)及び IAS 第
32 号
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
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7. この基準の適用範囲
7.1 イスラム金融取引(この論点は IFRS に関して提起された)
イスラム金融機関(IFI)は、融資による利息を獲得しない、シャリア(イスラム法)に則った
金融商品及び取引を取り扱う。利息を獲得する代わりに、これらの取引では、実物資産
(例えば車など)の売買を伴わせることによって、IFI は貸出の対価としての利潤たるプレミ
アムを稼得することができるのである。すなわち、通常、IFI は原資産を現金購入し、(たと
え短期間であっても)これを法的に所有した上で、延払条件で直ちに当該資産を売却する。
こうした取引から生じる金融商品は、金融商品に関する基準10の適用対象となる。
金融商品に関する基準を適用する前に、シャリア適格の金融商品及び取引を構成する
延払条件付取引は、新しい収益認識基準の適用対象となるか?[2015 年 1 月 26 日
開催 TRG 会議]
ロンドンでの会議に参加した TRG メンバーは、シャリア適格の金融商品及び取引は、収
益認識基準の適用対象外になる可能性があることに概ね同意したが、契約は国や地域
ごとに、また国や地域内でもしばしば異なるため、この分析は具体的な事実及び状況に
左右されるとともに、相当な判断が要求されるだろう。ノーウォークでの会議に参加した
TRG メンバーは、この論点について議論しなかった。
7.2 特定のクレジットカード契約に関する適用範囲の決定
クレジット・カードを発行する銀行は、様々なクレジット・カードの契約に従って、カード利
用者から多岐にわたる収益(たとえば年会費など)を得ることができる。こうした手数料
の中には、カード利用者に付随的なサービス(例:コンシェルジュ・サービスや空港ラウ
ンジの利用)を受ける権利を与えるものもある。
カード発行体はまた、その利用代金に基づきカード利用者に特典を与えることもある。
US GAAP の利害関係者は、特に財又はサービスがカード利用者に提供される場合に、
このような手数料やプログラムは FASB の新たな収益認識基準の適用対象となるか否
かについて質問を提起した。
クレジットカードの手数料は FASB の新しい収益認識基準の適用範囲に含まれるか?
[2015 年 7 月 13 日開催 TRG 会議]
ノーウォークの TRG メンバーは、クレジット・カードにかかる手数料は ASC 第 310 号「未
収金」の適用対象となり、ASC 第 606 号の適用対象にはならないということで概ね合意
に達した。当該手数料には、カード利用者に付随的なサービスを利用できる権利を与え
る年会費も含まれる。ノーウォークの TRG メンバーは、この結論は現在のクレジット・カ
ード手数料の会計処理に整合すると考えていた。しかし、SEC のオブザーバーは ASC
第 310 号が適用されるには、契約の内容はまさにクレジット・カードによる貸付に関する
ものでなければならず、企業は新しいプログラムが開発される都度、契約の内容を評価
する必要があると述べており、ノーウォ-クの TRG メンバーも概ね合意した。
この質問は US GAAP の利害関係者のみが提起したが、ロンドンの TRG メンバーは、
IFRS 適用企業は、クレジット・カードの手数料が IFRS 第 9 号(又は IAS 第 39 号)の適
用対象となるかどうかをまず見極める必要があるということで概ね合意に達した。
IFRS 第 9 号(又は IAS 第 39 号)では、金融商品に係る実効金利と不可分な手数料は、
実効金利の調整として処理することが求められている。反対に、金融商品に係る実効金
10 IFRS 第 9 号(又は IAS 第 39 号)及び IAS 第 32 号
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収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
利と不可分ではない手数料は、一般的には IFRS 第 15 号に従って会計処理されるだろ
う。したがってクレジット・カードの手数料は、IFRS と US GAAP でその処理が異なる場合
がある。
クレジットカード所有者への特典プログラムは FASB の新しい収益認識基準の適用範
囲に含まれるか?[2015 年 7 月 13 日開催 TRG 会議](これは米国基準に関してのみ
提起された。)
ノーウォークの TRG メンバーは、クレジット・カードの特典プログラムに関するすべての
対価(すなわちクレジット・カードの手数料)について、ASC 第 310 号の適用対象である
と判断される場合には、ASC 第 606 号の適用対象にはならないということで概ね合意に
達した。しかし、クレジット・カードの特典プログラムは多岐にわたるものが提供されてい
ることから、事実及び状況に照らしてこの判断を行なわなければならない。
7.3 寄付(この論点は US GAAP に関して提起された)
現在、米国会計基準に従う非営利組織は、寄付(すなわち、有志で現金又はその他資
産を何の見返りもなく譲渡するという無条件の約束)を会計処理するにあたり、
ASC958-605「非営利組織―収益認識」に基づいている。寄付は、FASB の新しい収益
認識基準の適用範囲から明示的には除外されていないが、新基準(すなわち、
ASC606)によって ASC958-605 自体が置き換えられるわけではない。
寄付は FASB の新しい収益認識基準の適用範囲に含まれるか?[2015 年 3 月 30 日
開催 TRG 会議]
ロンドンでの会議に参加した TRG メンバーは、この論点について議論しなかった。ノーウ
ォークの会議に参加した TRG メンバーは、寄付は見返りのない譲渡であるため、FASB
の新しい収益認識基準の適用範囲には含まれないということで概ね合意した。すなわち、
寄付は、一般的に企業の通常の活動から生み出される財又はサービスと交換に提供さ
れるものではない。
収益認識に関する合同移行リソース・グループ:一般的合意事項 8 月更新版
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