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ハウススイカ後作ホウレンソウの環境にやさしい栽培法
ハウススイカ後作ホウレンソウの環境にやさしい栽培法 1 情報・成果の内容 野菜の有機栽培農産物・特別栽培農産物など安全・安心な農産物に対する消費ニ−ズは 高い。そこで、スイカとその後作に多く栽培されているホウレンソウの環境にやさしい栽 培法について、試験課題「クリーンエネルギーを利用した特産野菜の省力安定生産技術の 確立」(平成13年∼16年度)の中で検討し、この作付体系の一部であるスイカ後作の ホウレンソウ栽培法について、利用可能な技術を明らかしたので紹介する。 (1)肥料はなたね油粕、魚粕粉末を主体に燐酸質肥料(植物由来)、石灰質肥料(カキ 殻粉)、苦土質肥料(天然由来)を使用する。 (2)播種は1作目が8月上旬、2作目が9月下旬、3作目が11月中旬に行う(表1)。 (3)害虫対策として、防虫ネット、銀色テープ、交信攪乱用フェロモン剤、光反射シー トなどを使用する。 (4)土壌病害と雑草対策として太陽熱消毒をスイカ栽培後の7月上旬から8月上旬まで の約1か月間行う。 (5)生産費は慣行栽培に比べ4.7%増加する(表2)。 表1 スイカ後作ホウレンソウの環境にやさしい栽培の作付体系 月 7 8 9 10 11 12 1 2 太陽熱消毒 ==== ホウレンソウ ○―――□○―――□○――――――□□ 凡例:=太陽熱消毒、○播種、―栽培期間、□収穫 表2 生産経費(10a 当たり、ホウレンソウ3作分) 慣行栽培 環境にやさしい栽培 肥料費 45千円 30千円 農薬費 57 51 生産諸材料費 29 70 原価償却費 69 75 その他 357 357 合計 生産費 557 583 注)環境にやさしい栽培の内訳をみると、農薬費は、交信攪乱用フェロモン剤が 49,556 円と硫黄粉剤が 1,092 円。生産諸材料費の増加は、光反射シートが耐用年数2年とみて1年当たり22,680円と抑草シートが耐用年数3 年とみて1年当たり15,603円、銀色テープが2,867円。減価償却費の増加は防虫ネットを耐用年数5年とみて1 年当たり6,086円。スイカとホウレンソウ両方で使用するものは品目で按分した。 2 試験成績の概要 (1)1作目は、前作スイカの肥料の残効があるため無施肥で栽培可能であり、2、3作 目はそれぞれ施肥窒素量5.7kg/10aを施用する(表3 )。収量は慣行栽培と同等程度得ら れる(表4)。 (2)害虫対策は、防虫ネットをハウスのサイド部(1.0mm)と入口(0.6mm)には二重に設置 する。アブラムシ飛来回避のため、銀色テープ(3×60cm)を25cm間隔でビニールひも(ハ ウスバンド用のひもなど)に取り付け後、ハウスサイド周辺の高さ60cmと150cmに設置す る。ハウス内に交信攪乱用フェロモン剤をハスモンヨトウ対策として設置する。ネギアザ ミウマ対策として、光反射シート(幅2m)をハウスの外周に敷く。なお、光反射シート の下に抑草シートを重ねておく。ハダニの発生が見られたら、硫黄粉剤を使用する。ほ場 を定期的に見まわり、害虫の発生に注意し、ヨトウムシ類などは発生初期に取り除く。 以上の対策により害虫も慣行並に抑えることができる(表5)。 -1- (3)太陽熱消毒の手順は、耕耘、畝立て後、かん水量を10a当たり360㎥、ハウスの密閉 期間は地温の40℃以上が192時間を目安とする。地温の測定はハウス中央部より地温の上 昇が遅いハウス端部の深さ20cmで行う。太陽熱消毒により土壌病害も慣行並に抑えること ができる(表5)。また、雑草もハウスサイド通路部の手取り除草が必要となるが、畝上 の雑草の発生は抑草でき問題とならない(データ省略)。 表3 環境にやさしい栽培における施肥 スイカ ホウレンソウ ホウレンソウ(2,3作目) 堆肥 有機質肥料 施肥窒素量 (1作目) 有機質肥料 施肥窒素量 3t/10a なたね油粕 9.5 kg/10a 無施肥 なたね油粕 2.8kg/10a 魚粕粉末 9.6 kg/10a 魚粕粉末 2.9kg/10a 注)ホウレンソウ2、3作目では、上記以外に 1 作当たり燐酸質肥料(植物由来)により燐酸を7.6kg/10a、加 里5.3kg/10a、石灰質肥料(カキ殻粉)により、アルカリ分で24.2kg/10a、苦土質肥料(天然由来)により苦土 4.2kg/10aを施用する。 表4 環境にやさしい栽培におけるホウレンソウの生育 処理区 収量 1株重 kg/a g 1作目環境にやさしい栽培 74.9 25.6±9.35 慣行栽培 67.8 23.3±8.84 2作目環境にやさしい栽培 67.8 23.6±5.86 慣行栽培 64.5 22.2±5.24 3作目環境にやさしい栽培 88.4 30.1±9.42 慣行栽培 95.8 32.6±7.70 注)葉色はミノルタ製SPAD502で測定した。 表5 草丈 葉色 cm 30.3 28.4 27.4 25.6 27.2 27.3 32.7 36.0 38.9 42.4 52.4 51.1 跡地土壌 pH 5.9 5.9 6.1 6.1 5.7 5.7 跡地土壌 EC dS/m 0.15 0.24 0.16 0.24 0.34 0.39 環境にやさしい栽培におけるホウレンソウの病害虫の発生 処理区 立枯病 萎凋病 ヨトウムシ類 ハモグリバエ ハダニ その他害虫 発病株率 発病株率 被害度 被害度 被害度 被害度 % % 1作目環境にやさしい栽培 0.0 0.4 5.2 0.8 0.0 7.2 慣行栽培 0.3 1.0 29.6 1.1 0.0 8.7 処理区 立枯病 萎凋病 シロオビノメイガ ハモグリバエ その他害虫 発病株率 発病株率 被害度 被害度 被害度 % % 2作目環境にやさしい栽培 0.3 0.6 0.6 1.1 1.1 慣行栽培 0.1 0.3 10.7 1.6 13.2 3作目環境にやさしい栽培 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 慣行栽培 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 注)被害度は0:なし、1:小、2:中、3:大とし次式で計算した。 指数=Σ(程度×株数)/(3×総数)×100 3 利用上の留意点 (1)8月上旬は種以降のホウレンソウ栽培に利用できる。品種は鳥取県中部の慣行品種 で1作目「プラトン」、2作目「ミストラル」、3作目「シーバス」を使用した。 (2)太陽熱消毒時のかん水量は、黒ボク土層が30cm程度で下層が粘質土のほ場での目安 であるが、ほ場条件等により必要なかん水量は増減すると考えられる。かん水後は、ほ場 に足を踏み入れられない程度の湛水状態となる。 (3)太陽熱消毒後土壌が硬くしまり、は種しにくい場合は、消毒効果が若干低下すると 考えられるが、再度耕耘し、畝立てを行う。 (4)土壌診断に基づき施肥量は調節する。 4 試験担当者 野菜研究室 研究員 川上俊博 室長 竺原宏人 研究員 篠原勇一* ( *現西部総合事務所) -2-