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報告書 (PDF: 9 MB) - 筑波大学教育開発国際協力研究センター

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報告書 (PDF: 9 MB) - 筑波大学教育開発国際協力研究センター
数学オリンピック上位国と我が国との
数学に秀でた生徒の育成方略に関する比較研究
―自ら学ぶブルガリアの数学教育と他国との対比―
(課題番号 17653110)
平成 17 年度∼平成 18 年度科学研究費補助金(萌芽研究)
研究成果報告書
平成 19 年 2 月
研究代表者 礒
田 正 美
(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
研究組織
研究代表者 礒田 正美(筑波大学 大学院人間総合科学研究科)
研究分担者 清水 静海(筑波大学 大学院人間総合科学研究科)
研究分担者 坂井
公(筑波大学 大学院数理物質科学研究科)
研究分担者 飯高
茂(学習院大学 理学部)
研究分担者 長岡 亮介(放送大学 教養学部)
研究分担者 渡邊 公夫(早稲田大学 教育・総合科学学術院)
研究分担者 小原
豊(鳴門教育大学 教員教育国際協力センター)
研究協力者 川崎 宣昭(筑波大学附属高等学校)
研究協力者 大根田 裕(筑波大学附属中学校)
研究協力者 松嵜 昭雄(筑波大学附属駒場中学校)
研究協力者 宮川
健(筑波大学 大学院人間総合科学研究科)
研究協力者 茅野 公穂(筑波大学 大学院人間総合科学研究科)
研究協力者 青山 和裕(筑波大学 大学院人間総合科学研究科)
交付決定額(配分額)
直接経費
間接経費
合計
平成 17 年度
2800 千円
0 千円
0 千円
平成 18 年度
700 千円
0 千円
0 千円
計
3500 千円
0 千円
3500 千円
目
次
はじめに ..................................................................................................................................................................
礒田正美
筑波大学人間総合科学研究科
第 1 部 ブルガリア渡航調査報告
バルカンの小さな教育大国.................................................................................................................................
―ブルガリアを通して見る日本の教育―
長岡亮介
放送大学教養学部
ブルガリアの教育カリキュラム.........................................................................................................................
―学校教育全体における数学の占める割合と学校訪問の報告―
川崎宣昭
筑波大学附属高等学校
第 2 部 ベトナム渡航調査報告
ベトナムの数学授業を参観して.........................................................................................................................
―ハノイ−アムステルダム中等教育学校の授業参観―
松嵜昭雄
筑波大学附属駒場中・高等学校
第 3 部 中国渡航調査報告
科挙の国における数学教育.................................................................................................................................
坂井 公
筑波大学大学院数理物質科学研究科
中国(People’s Republic of China)訪問記 ........................................................................................................
大根田裕
筑波大学附属中学校
第 4 部 算数・数学に秀でた生徒育成のための提言
≪秀でた≫≪人間≫を≪育てる≫ために≪我々≫は何ができるか? .....................................................
長岡亮介
放送大学教養学部
数学に秀でた子どもを育てる政策とは?........................................................................................................
清水静海
筑波大学人間総合科学研究科
結びにかえて
数学に秀でた生徒の教育について ....................................................................................................................
飯高 茂
学習院大学理学部
資料1:明治図書『教育科学数学教育』掲載原稿
数学オリンピック優勝国,ブルガリアの数学教育.......................................................................................
優れた生徒へ育てる数学教育,その背景にあるもの(1)
礒田正美
筑波大学大学院人間総合科学研究科
ブルガリアの数学の公開授業.............................................................................................................................
数学オリンピック第 1 位の背景にある授業
川崎宣昭
筑波大学附属高等学校
代数・幾何を中心としたブルガリアのカリキュラム...................................................................................
教科書の内容からの考察
川崎宣昭
筑波大学附属高等学校
自己教育能力を育てるブルガリアの数学オリンピック出場のための特別トレーニング....................
垣花京子
筑波学院大学情報コミュニケーション学部
資料2
数学における秀でた生徒を育成するためのシンポジウムフライヤー .....................................................
は じ め に
算数・数学は明日をよりよく生きる際に必須の数学的リテラシーを育成する教科であ
る。そして,学校教育においてこそ学びえる能力を育成する教科である。グローバル化
が一層進む知識基盤社会における持続可能な発展を実現する上でも,小学校以来,最優
先されるべき教科である。国際学力調査での高い到達度が,日本の成長基盤であったこ
とはゆるぎない事実である。特に,知識基盤社会においては,算数・数学のプロセス・
スキルに係る一層の伸張が期待される。
他方で,公平な教育から公正な教育への転換政策の下,本来,さらに重視されるべき
基幹教科としての算数・数学が選択化の波にあらわれている。多くの先進国・中進国が,
公正な教育を実現すべく,国策として算数・数学教育重点政策を実施する動向に反して,
わが国ではその基幹教科の授業時数の確保が課題になる状況も発生している。加えて,
公正な教育を実現するために実施された SSH 等においても,受験以外に求められるべき
数学科の教育内容が何かが問われる状況が発生している。
本研究は,数学に秀でた生徒の育成方略を比較検討し,わが国がめざすべき方向性を
問うことを目的に実施された。その方法として秀でた生徒の育成方略の典型を知る目的
で,数学オリンピック上位国に注目した。特に,本研究において「数学において秀でた
生徒」とは数学を自ら考え自ら学ぶ才能を備えた生徒であり,
「数学における秀でた生徒
を育成する」公正な教育とは,数学において,すべての生徒が,その才能をそれぞれに
伸ばしえる開かれた教育環境(公正な教育原理)の下で,自ら学ぼうとする生徒がそれ
ぞれに一層,才能を伸ばすことができる教育を指している。
研究成果は,78 名が参加した公開シンポジウムと明治図書「教育科学数学教育誌」連
載によって広く周知された。調査したブルガリア,中国,ベトナムの中でも,ブルガリ
アの体制が,我々の理想とする秀でた生徒の育成方略モデルを備えていることが特定さ
れたことが,本研究,本報告書の顕著な成果である。
本研究は,事務局を筑波大学教育開発国際協力研究センターの青山和裕研究員が担当
し,研究の実際を各界で活躍する研究分担者及び研究協力者に委ねて推進された。萌芽
研究である本研究の成果が各界に広く影響し,役立てられることを確信しています。
特に,筑波大学数学系,筑波大学附属小学校には,シンポジウムの実施に際してご配
慮いただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
研究代表者 筑波大学 礒田正美
- 1 -
第1部
ブルガリア渡航調査報告
バルカンの小さな教育大国
―ブルガリアを通して見る日本の教育―
長岡 亮介
放送大学教養学部
ブルガリアの教育カリキュラム
―学校教育全体における数学の占める割合と学校訪問の報告―
川崎 宣昭
筑波大学附属高等学校
バルカンの小さな教育大国
― ブルガリアを通して見る日本の教育 ―
長
岡
亮
介
(放送大学教養学部)
1 はじめに
これは,平成17年度文部科学省科学研究費(萌芽研究)「数学オリンピック上位国と我が
国との数学に秀でた生徒の育成方略に関する比較研究―自ら学ぶブルガリアの数学教育と
他国との対比―」(課題番号17653110,研究代表者礒田正美筑波大学人間総合科学研究科助
教授)の調査の一貫として,筑波大学助教授清水静海先生,筑波大学付属高等学校教諭川崎
宣昭先生と筆者の3名で2005年9月中旬1週間に渡って行なったブルガリアにおける数学教
育の実情視察にも続く報告である。
言葉の障壁もさることながら,概してこのような短期間の「視察」紀行は,「若者の旅
行体験記」と同様,個人的な見聞の性急な一般化や,主観的な思い込みの乱暴な普遍化,
要するに,目を閉じたまま巨象を撫でるのに似て,部分的な情報としては間違っていない
かも知れないものの,それを全体的な描像として無批判的に受容されるには小さからぬ危
険があることをお断りした上で,しかし,その危険を回避することを最大限意識して報告
する。
わずか1週間ばかりのごく短期の訪問にも関わらず,
《それなりに包括的な報告》を試みることが出来るのは,
この訪問が,現在日ブルガリア特命全権大使センドフ閣
下(Acad. Blagovest Sendov) の紹介でアレンジされたと
いう特別な幸運によるといって良い。一般にはあまり知
られていないであろうが,センドフ大使は,数学と数学
教育の世界では国際的な著名人である。その結果,現地
時間で夜中に到着し,その翌日の朝から一週間,ほとん
ど隙間なくスケジューリングがなされ,お別れパーティ
で,「ブルガリアに一年間いても,あなたたちがこの1
週間で出会ったほどの人々に会うことは出来ないだろう」といわれたほど,当地の数学教
育の重要な人々の多くにお目にかかり話を伺うことが出来たからである。といっても,訪
問先は,主としてフルガリアの首都であるソフィア(Sofia)であるが,第二の都会プロブデ
ィブ(Plovdiv)も一日の強行軍で訪問した。
訪問の具体的な詳細は本稿では省く。
- 3 -
以下の記述の基礎としている情報は,センドフ大使の
教え子であり,前ブルガリア数学会会長,現「聖クリル
聖メトディス国際財団」総裁のケンデッロフ先生(Acad.
Petar Kenderov)はじめとするブルガリアの数学,数学
教育の指導者たちとの討論,国立及びソフィア市立の数
学学校 1の訪問(見学,質疑応用),そしてブルガリア文
部科学省での次官を交えた懇談で得たものである。なお,
ケンデッロフ先生は現在ICMIのブルガリア代表でもあ
る。
1 なぜ,ブルガリア?
日本では,ブルガリアはもっぱらヨーグルト(と最近では琴欧州!)で有名な「遠い国」
である。研究代表者が,ブルガリアを調査国のひとつ(他は,中国とベトナム)に選んだ
のは,礒田正美,「研究動向から見た学習指導法の改善・No. 100 数学オリンピック優勝
国,ブルガリアの数学教育」(数学教育, 明治図書, pp.99-103, 2003.11, No.552)にあ
るように,ブルガリアが人口わずか800万人のバルカンの小国にも関わらず,日本での国際
数学オリンピック(International Mathematical Olympiad, IMO)で1位の成績をおさめ
た,という理由からである.筆者は,視察旅行に発つ前は,いわゆる(旧)社会主義国で
は,科学技術振興による国力の充実や国威発揚の目的から,数学に限らず,一般に「才能
教育」は盛んであるから,ブルガリアの国際数学オリンピックにおける好成績もそのよう
な国家政策(あるいはその伝統)の結果であるに違いないと多寡を括っていた。しかし,実
際に見た姿は,まったくそれとは違っていた.考えてみれば,TIMSS のような学力試験の
平均値ではなく 2,国際オリンピックのような「トップを目指す」競争では,国家的な政策
だけで,小国が大国に伍するのは確率・統計的に考えても容易でないのは自明である。な
ぜバルカン半島の小国ブルガリアが数学の英才の育成に成功しているのか,この小論は,
この謎に迫るひとつの努力である。
3 コンペの国ブルガリア
まず第一に,ブルガリアは,高校以下の生徒を対象とした「問題解決」(古典的な意味で
の)型の数学の競争試験(地方大会,全国大会,そして近年は国際大会)の伝統が生きる国
である。数学の全国大会の歴史はすでに半世紀を超えているが,地方大会の取り組みはさ
らに古いという。
この事情を反映して,国際数学オリンピックにも,ルーマニアにおける第1回大会(1959
1
2
これらについては後で少し詳しく述べる。
因みに,ブルガリアの TIMSS の成績は決して良い方ではない!
- 4 -
年)以来参加している。1989年に始った国際情報科学オリンピック(IOI)は,ブルガリア
が発祥の地でもある。しかも,近年は,ミドルスクールの1年生(日本でいえば小学校4
年生)からこのような競争試験に参加する。それも,4時間から4時間半もかけて3,4
題の数学の問題に取り組むというのであるから,それだけでも,現代日本との「文化の違
い」に驚かされる。要するに,国際数学オリンピックのために特に秀でた子供たちが選抜・
教育されて出場してくるのではなく,まさに,全国津々浦々で,日頃から「厳しい」競争
的な学習環境が日常的に存在しているのである。
全国試験や国際数学オリンピックなど国際試験の予備試験は,財政的には文部科学省も
関わっているが,試験問題の作成や採点など実質的な仕事は,ブルガリア数学者連合(Union
of Bulgarian Mathematicians, UBM)が,現実には,ソフィア大学の数学科の先生たちとブ
ルガリア科学アカデミー(Bulgarian Academy of Science, BAS)の数学情報学研究所
(Institute of Mathematics and Informatics, IMI)の研究者からなる特別委員会が担当す
る.単に試験を実施するだけでなく,指導的な教師のためのワークショップを組織したり,
そのための教材作成などもこのような委員会のメンバーがボランティア的に行なっている。
さらに,全国の生徒たち,先生たちのために,このような多くの競争試験に向けての数
学,情報科学の学習用・教育用の定期雑誌もこのような活動の延長上に実に数多く出版さ
れている。
上にこのような活動の一端を示す雑誌の表紙の写
真を載せる。左は,2004年度のオリンピック問題集
の表紙(発行はIMIだが,後述するスポンサーの名前
が入っているだけに紙も少し上質である.)右は,
高校入試,大学入試に向けての問題集2003年版であ
る。質素な紙質ながらその密度には驚かされる。
内容を例示するために,小さく読みにくい(元々小
さい!)が,後者に載っているものの中で,ブルガリ語が分からなくても意味が分かる例を
二つ写真に載せよう。左は,単純な立体図形の計量問題(6辺 AB = 2, CD = 4, CA = CB =
DA = DB = √ 10が与えられた4面体ABCDの外接球の半径を求める問題。問題文は最初の3 行
でその後は解の最初の部分。)であり右は導関数に絡む関数の不等式の証明問題(区間[0;1]
で与えられた微分可能な関数 f (x)が, f (0) = f (1) = 0, f
(x) ≤ 1x ∈ [0,1] を満たす
ときに,任意の x ∈ [0,1] に対して不等式が a)| f (x)|≤ x かつ | f (x)| ≤ 1−x
b)| f (x)|<
1
成り立つことを証明せよ。)と解の最初の部分である。
2
- 5 -
このような競争的な学習教育環境を通じてすぐれた若者が全国から選抜・育成されてい
ることは基本的な事実として確認することができる。ただし,以上に述べたようないわば
外面的な情報は,Web などを通じても簡単に入手出来る。たとえば,
http://www.math.bas.bg/bcmi/
である 3。
このような一般的な情報以上に重要なことは,若者に対する教育の財政的な支援を,す
べて行政に頼るのではなく,聖キリル・聖メトディス国際財団や,エブリカ 4財団のような
民間のNGO的な組織が大きな役割を果たしていることである。特に英才のための奨学金,す
ぐれた教師のための顕彰制度のような「民主的な政府」が手をつけにくい分野においてこ
れらの財団が果たしている功績は大きいように思う。驚くべきことにこれらの英才育英の
ための財団は,社会主義政権の時代に誕生したNGOであるが,革命後も名称だけを変更して
今日に至るまで存続発展して来た。これらの財団の運営資金は,いろいろなところから集
めているようであるが,こうした教育を受け米国で成功したブルガリア出身者による「ブ
ルガリア支援アメリカ基金」は彼らの誇りに見えた。わが国からもよく知られた人や組織
が高額の寄付で貢献していた。
4 ブルガリアの「英才教育」の奥行き
...
このようにブルガリアの英才教育を支えているものは表面的 に見れば主に次4のつであ
る。
・上述したような各種,多様なレベルでの競争試験
・それらの試験に向けた対策のための多様な勉強体制
・その勉強を支える才能教育を使命とする英才支援制度
・以上を許容/推進する文教行政,社会風土
確かに,様々な競争試験のために出版されているかなりの数の問題集,その勉強をサポ
ートする特別課外学習クラスは,各種の競争試験と並び,ブルガリアの教育を支える基本
3
bcmi はBulgarian Competitions of Mathematics and Informatics の頭文字であろう。
4
言うまでもなくこの名称はアルキメデスが発した有名な言葉に由来する。
- 6 -
であるが,ブルガリアにおいて特筆すべきは「数学学校」の一般名称で呼ばれる英才の学
校の存在である。
しかし,この名前から我々がすぐに連想するような,「数学方面に高い能力を持つ子供
..
を集めて,数学を集中的能率的に教え鍛える」というような単なる数学専門学校ではない !
実際,我々が訪問した2つの国立数学学校(ソフィア市,プロブディブ市)においても,ソフ
ィア市立数学学校 5においても,カリキュラムは決して数学に偏していない!それどころか,
英語教育は,「優秀な入学生を逃さないために」それに力点をおく「国際学校」に負けな
いように配慮され,体育,芸など若人の人間性を育む上で大切なものにも時間をきちんと
割いている。校長室を飾る大きなトロフィーの多くは,そのような活動の成果であり,IMO
を含め,表彰写真しかない数学コンペの方での輝ける戦績の展示はむしろ地味なほどであ
る。
このようなブルガリアの意欲的な学校教育の背景には,1979 年(「民主主義革命」の前!)
に開始されたPGE と呼ばれる教育の大実験があると聞いた。この実験では全国に約30校
(各地域に一つ)の学校が選ばれそこで1年次(小学校1年生)から12年次(高校3年生)
までのカリキュラムを全面的に見直し,個々別々の科目に分散していた知識の再統合とい
う大胆な試みが実施された。その実験の中で,数学と言語(国語,外国語)の教育の結合
がとりわけ有意義,有効であることが確認されたという。この実験は,1991年の革命で終
了するが,この実験を受けて,数学学校を含め多種の英才養成学校が設立されたようであ
る。この実験の総責任者が若き日のセンドフ大使であったという。1991年の革命以降,旧
体制のほとんどの制度は全面的な見直しを受けたが,数学学校のような英才教育機関とそ
こでの教育の基本方針は守られている。
しかしかといって,英才教育が政府,文部科学省による強いリーダーシップによってい
るというわけでは必ずしもない。実際,現在の文部科学省の次官であるアタナソフ(Kiril
5
後述するようにここが一番のエリート校のようであった。
- 7 -
Atanasov)氏が35年にわたり教鞭をとってきた(最後は校長として在職した)プロブディ
ブの国立数学学校ですら,財政的には決して豊かではなく,生徒の募集に関しても,外国
語教育に力点をおいた国際学校など他のエリート学校 6との競争の中で「苦戦」していると
いうことである。
また,ブルガリアにおいてさえ,数学学校をはじめとする特別学校を廃止し,一律公平
の教育システムへ移行させようとする力は,文部行政の中には隠然と存在するそうである。
「民主主義国家」の行政が,叡知ある監視を怠れば,平等や一様に傾くのはどこでも変わ
りない!
こうした中でもっとも学校経営に成功しているのはソフィア市立の数学学校であった。
国際数学オリンピックなどの選手をもっとも多く輩出していることはこの学校長の自慢で
あったが,私がもっとも驚いたことは,ここでは,賄いきれない「入学需要」に応えるた
めに午前・午後の2部制で授業を行なっていたことである。
さらに驚いたことは,週末には,大学進学に向けた特別講座が開講され,人気のある先
生はそこで正規の給料以外の報酬を得ているという話であった。
確かに,カリスマ教師と称賛される先生は
自分の数学的学識に実に自信をもって教えて
いた。実際,たまたま小学校1年生の授業を
参観したが,整数の性質の講義するのに先生
がその脳裏に「ペアノの公理」をおいていた
り,小学校1年生には随分難しいと思われる
整数の合同式の関係を念頭においた問題を演
習の素材として取り上げていることには「教
育玩具を駆使」したり,「教材提示の工夫」
などで分かりやすく教えることが無条件に良し
とされている国の教育に慣れた目にはたいへん
に衝撃的であった。(「ペアノの公理」を念頭に
おいた小学校一年生向けの授業が理想的であるか否かは別の話である。)
私立学校の状況についての情報(その存在すら)は不覚にも収集をうっかりしてしまっ
たが,アレンジしてもらった私たちの訪問先の中で私がもっとも驚いたのは,「21 世紀ア
カデミー」という名前の商業教育サービス機関(分かりやすくいえば「塾」であるが日本
のそれから連想されるのとはかなり趣きが異る)の存在である。大学を含めブルガリアで
見た学校の多くが,昔は立派だったろうが今は老朽化が否めない建物を校舎として使って
6
中には,日本語教育にも力をいれるブルガリア屈指の名門校「第18 学校」もある!これについては後に述
べる。
- 8 -
いるのに対し,屋上に洒落たカフェテラスまである近代的なデザインの高層ビルに入って
いるその「アカデミー」は,進学のための教育サービスを商業的に展開する傍ら,才能あ
る少年少女を放課後に集め,Internetを利用した自主的な学習活動を支援し,またそのこ
とによって,UBMやIMIの研究者との英才教育の共同プロジェクトのパートナーとなってい
ることに大きな感銘を覚えた.
実際,そこで私たちが出会ったのは,不自由もない環境で育てられてきたであろう富裕
層の小賢しい受験秀才とはまるで反対の,幼くしてすでにきらめきを発する早熟の子供た
ち,おずおずとしたはにかみ屋ながら確かな知性の可能性を感じさせる子供たちであった。
少年たちの中には,ブルガリアからは遥かな国,日本の文化に惹かれているものもいた。
その情熱の半分は外国からの客人に対する社交辞令として差し引かねばなるまいが,決し
て「日本経済の効果」ではないことは強調しておきたい!実際,ブルガリアには,自動車
をはじめ,日本のメーカ,商社は意外なほど進出していない。「ブルガリアが外国製品を
買えるほどまだ経済的に十分豊かでないからである」といった安易な説明が予想されるが,
それは的確とは思えない。実際,ベンツもフィリップスも町に溢れていた.自動車も電化
製品も西欧製が幅を効かせている中で,普段は海外でしばしば見掛ける日本製品は意外な
..
ほど見当たらない。そんな環境の中で,歌舞伎や相撲などの日本文化 に関心を持つ子供た
ちが育っている。これに関連して,先に触れた通称「第18学校」と呼ばれるソフィアの名
門学校(William Gladstone School)では,つい最近,小学生からの日本語教育コースが始
った。将来のビジネス展開,文化交流を見据えた長期的なヴィジョンである。翻って,日
本では,一体どれほどの子供たち(大学生や大人でもいい)が,他国の文化に関心をもっ
ているだろう。実に恥ずかしい話であるが,筆者自身も今回ブルガリアを訪問する前,「ブ
ルガリアの文字はロシア語の文字と同じ」と思っていた。そうではなくブルガリアの聖人
キリルSt. Cyrillがギリシャ文字をベースとしフルガリアの音韻体系を考慮して創作した
ものという話(歴史的真相は定かではない)である.そもそもBulgariaという国名表示す
- 9 -
ら,本来ならBblgariaとでも書くべきところを,ブルガリア流の発音が出来ない外国人用
に発音しやすくしたものなのである!他国の文化に対する尊敬こそ,自国の文化に対する
真の誇りにつながるという当たり前の原理を至るところで見せ付けられた。
5 ブルガリアの「英才教育」の背景
以上だけを見ると,ブルガリアが,競争で少年少女を数学の勉強に煽り立てているとい
う見方をすることも不可能ではない。「競争に打ち克つ一握りの勝者の栄光の影に,脱落
したる子供たちの未来を真剣に見ているのか?」といった《素朴な疑問》7から,「国際数
学オリンピックのような試験で,真の学問的な能力が試せるのか?」といった《本格的な
疑問》まで,このような試験成績を駆動力として若者を引っ張る教育の方法には批判的な
検討の余地があることは自明である。
これに対してブルガリアの数学教育の指導者たちの示した見解は明快であった。一つは,
「石油などの自然資源は使えばなくなる。他方,若者の才能は発掘しなければ見失われる。
だから才能の発掘にはあらゆる努力が必要である。才能は数学に限らない。すべての若者
が,それぞれいろいろな才能を持っているはずである。」という機動的な現実主義とお気
楽にすら映る教育に関する楽観主義,そしてもう一つは,「競争的環境の負の効果は言う
までもなくありうる.負の効果と正の効果を見比べ,総合的な効果を最大にするように努
7
あまりに日本的な疑問というべきか。
- 10 -
力していかなければならないとつねづね考えている。」という思慮深きプラグマティズム
である。しかし,これらが空疎な美辞麗句でないのは,このような発言が,実践の先頭に
立っている人のものであるからであり,さらにまた次のような新しい試みと一緒になって
進行しているからである。
まず,国際数学オリンピックをはじめとして,制限時間内に与えられた問題を解くとい
った受動的な勉強のスタイルは,深い数学的な思索力を試すものとして最適なものとは言
えない,という極めてもっとも深刻な批判に対して,ブルガリアの教育者たちは,短距離
走的な競争試験の他に,時間制限を遥かに緩め,図書館利用も友人とのアイデアの交換も
許容した新しい形式のコンペ(いわばゼミコンペ)を開始している。これはIMIの中にある
小さな研究グループが米国MITの協力を得て実施しているもので,まだ規模は小さいが数学
教育の未来に向けて大きな可能性を秘めた大胆な実験である。大学の研究者がちょっと来
て行なう特別講義の開催が「高大連携」の実情であるわが国の現状を考えると羨望を通り
越してしまう。
ブルガリアの数学教育の特徴の一つは情報科学との協調と共同にある。数学と情報科学
は,「もっとも近くに見えて実際はもっとも遠い」世界である。「情報科学教育のかなり
の部分は工学的で,論理的,数学的ではない」「ブラックボックス化が進行しすぎた技術
の利用は数学教育には馴染まない」「情報科学で必要な数学は微積分を頂点とする教育体
系とはまったく異なる。」という勇ましい「正論」が罷り通るのがわが国に限らず一般的
である。この点,ブルガリアは驚き呆れるほど,《共存》に楽観的である。数学会(BMS)
には副会長のポストが2つあり,数学と情報から一人ずつでているといった組織的な緊密
性の他に,来るべき社会の中で,情報技術がますます普及していくことを見据えるなら,
それを数学に取り込んでおく方が排除するより数学にとって遥かに有利である,という戦
略的観点が数学者に共有されている。
当然のことであるが,ブルガリアにも数学が不得意な子供たちはたくさんいる。高校生
くらいになると「好きでも得意でもないけれど自分の将来=入試のために数学を頑張って
勉強している」というものの割合も決して小さくない。しかし,それゆえに,数学的な才
能のある若者を表彰する制度を批判する意見は耳にしなかった。嫉妬が尊敬を掻き消すほ
どの大勢を得るには至っていないようである。人々の不満,不平を「代弁」して視聴率や
販売部数を稼ぐ商業主義的ジャーナリズムがまだ蔓延っていないせいかも知れない。そも
そも数学のコンペで良い成績をとること自身が青年たちに共通の大きな目標になっている
様子もない。実際,高校レベルの数学全国大会や国際数学オリンピックなどで好成績をあ
げると,プロブディブ大学への推薦が与えられるという特典もあるが,頂点にソフィア大
学が聳える現状では,これはプロブディブ大学の「青田買い」としてしか見られていない
ようである。数学学校でも成績最上位のものが,数学系あるいは理学系に進むとは限らな
いという話も聞いた。
- 11 -
6 ブルガリア数学教育を支える叡知
数学コンペの話の表層だけを見ると,ブルガリアでは,小学生のときからかなり高いレ
ベルの先進的な数学教育がなされているように思われがちだが,むしろ実際は,伝統的な
数学教育のスタイルを堅実に守っているというべきである。
確かに,前述したように,電卓やコンピュータの利用にも先進的に取り組んでいるが,
「検算するために」「計算の煩雑な処理を避けるために」電卓やPCを用いるというような
安易な使い方はしていない(という証言を聞いた)。コンピュータ利用推進派と思しき人
物の「電子機器は,良い生徒が良い先生のもとで使うとき,奇跡的な効果を発揮する魅力
的な道具であるが,悪い先生の指導を改善する魔法の杖では決してない。」という言葉に
すべて象徴されている.流行を追い掛けない彼らの教育への姿勢は日本のソロバンが初等
段階の数学教育で使われていることにも表れている。
伝統的といえば,初等幾何が学校教育の中でこれほど重視されている国はないのではな
いかと思うほど,幾何教育は熱心に取り組まれている。コンペ対策の演習問題書にも幾何
の問題がたくさん取り上げられていることにも幾何重視の姿勢は表れている。和算の算額
なども「数学的に美しい図柄」として尊重されていた!
たまたま高校生の授業を参観する機会があったが,そこで取り上げられたのは「2次不等
式の解法」や「数学的帰納法」というテーマであった。先生の講義は間違ってはいないも
ののあまりに正統的,したがって新しいもの好きの日本人には,あまりに平凡であること
に驚いたが,さらに驚いたのは,その後に出された演習問題とその解法の指導であった。
具体的な詳細は省くが,前者の場合だと,2次不等式からその応用として分数不等式へ向
かうような,わが国の40年前の数学I的な,良く言えばこってりした,悪く言えばひどくか
- 12 -
び臭い問題が,必ずしも数学的に整理されずに黒板に書かれ,生徒たちは,その問題と代
表者による解答を必ずしも十分に理解せずにノートに写すといったスタイルのものであっ
た。高校生の能力は多様で,良くできる生徒とそうでない生徒の落差は明らかであったが,
授業は,必ずしも全員の一様な理解や教室全体の理解の感動を目指して行なわれているよ
うには映らなかった。それでも生徒たちは,一生懸命,黒板とノートに向かっていた。ち
ょうど30年前の日本の高校生のように,である。
ブルガリアと日本の教育のもっとも大きな差の一つは,生徒の自主性を引きだすことへ
の教師たちの意識的な努力の有無である。ある「カリスマ教師」が彼女の指導上のポイン
トとして述べた「私たちは,生徒たちが出来るだけ図書館へ行くように指導している」と
いう話は,上のような「退屈な古典的授業」と調和する。まさしく読書という静かな自分
との対話を通してしか知的な力をつけることは出来ないはずであるのに,わが国では,す
みからすみまで先生が整然と子供たちに理解させ,さらには「理解の定着」と称して反復
練習まで面倒を見るのが一般的 8なのではないか。ソフィア市立数学学校の小学校一年生の
学期最初の授業で,黒板に,数冊の参考書の書籍情報が書かれ,それを売っている書店の
行き方までが指導されていた(ようであった)ことにはたまげたが,自発的な学習,孤独
な読書でこそ真の学力がつく,という当たり前の教育が実践されているのではないだろう
か。
ブルガリアと日本の教育のもう一つ大きな差は,教育システムの弾力性(硬直性)であ
る。小学校段階から採り入れられ,学年進行によって拡大する選択科目制度やコース制は,
表向きは,金太郎飴的な全国一律の水平性を金科玉条としてきたわが国の学校システムと
は決定的に異っている。
7 結びに代えて
以上が,TIMSSでは平凡でありながらIMOで高成績を修めるブルガリアの数学教育と文化
について,短期滞在中に筆者に見えた秘密である。
それにしても,教育における弾力性は,現場の教師の能力とモラールによってこそ保証
されるものであり,良い先生の確保がブルガリアでも最重要課題となっているが,これに
ついてはうまく行っていないようである。実際,「給与が安いために教員のなり手がいな
い」̶ これが文部科学省を含めブルガリアの至るところで聞かされた愚痴である。ブルガ
リア文部科学省は,教員給与の改善に向けて動きを開始しているというが,確かに私たち
が会った高校生の誰一人として「将来は学校の教員になりたい」という希望を述べたもの
はいなかった。優秀な大学卒業生にとって,サラリーの面でより魅力的な職業があること
は決してブルガリアに限らない。しかしブルガリアにおいては,教師の社会的地位の低さ
がサラリーにもっとも端的に象徴されているようである。
8
最近ますます一般化しているように感じられるのは筆者だけであろうか。
- 13 -
老朽化したビルが立ち並ぶソフィア市内を離れて少し山の手に登ると,突然「超」をつ
けて呼びたくなるような高級な住宅街が目に入ってくる。革命の動乱期に,うまく波に乗
った人々たちの住宅であると後で聞いた。社会主義政権の崩壊は,古めかしい権力の崩壊
であるだけでなく,若者の間に,伝統的な価値観への不信と拝金主義へと傾きやすい短期
的な指向の芽を植え付けてしまったのかも知れない。
だとすれば,ブルガリアもこれからはたいへんだろう。
- 14 -
ブルガリアの教育カリキュラム
― 学校教育全体における数学の占める割合と学校訪問の報告―
川
宣
昭
(筑波大学附属高等学校)
1.ブルガリア訪問の目的
秀でた子供たちをどのように教育するのかについての調査研究でブルガリアを訪問する
ことは,今回で 2 回目である。前回は約 2 年半前に,ブルガリアの東北部のルセ(数学専門
学校),及び中部のタルノボの高校(普通高校)を訪問し,平面図形・空間図形の演習,およ
び三平方の定理の授業を参観した。そのときは,購入した教科書や参観した授業の内容か
ら判断し,解析的な内容よりも代数・幾何学的な分野の内容の方が充実している印象を受
けた。また,数学専門学校の生徒は,板書をしながら自分が解いた演習問題を説明でき,
生徒は数学の内容をしっかりと理解しており,かつ説明能力もあることを報告した。
今回訪問したのは,ブルガリアの首都ソフィアとその南西に位置するプロブディブであ
り,数学の授業参観だけではなく,大学や教育科学省の訪問を通じて,ブルガリアのカリ
キュラムがどのような構造になっているのかを調査した。また,秀でた子供たちを育てる
ことに対する考え方や,子供たちが数学の学習をどのように考えているのかについても,
教育科学省の方々や生徒たちからの聞き取りによって調査を行った。
2.秀でた生徒を育てる教育に対する全般的な印象
聞き取り調査の結果,以下の①∼③の基本的な考え方があると考えた。
① 「才能のある子供は国の宝である」という考え方
② 生徒(子供)の方が教師よりも能力があって伸びるという考え方
③ 数学は様々な分野で役に立つという考え方
①については,才能のある子供たちを発掘するための地方・国内・バルカン地方のオリ
ンピック(数学・情報(Informatics))が毎年行われ,国際オリンピックに参加する子供たちの
人選もこれらのオリンピックによって行われている。また,資金を集めて才能のある子供
たちを育てる財団が複数あり,大学の数学者自身が直接学校に出向いて才能のある子供た
ちのために指導・訓練する体制もある。数学や情報をあまり得意としない子供たちの教育
に対するスタンスについても教育科学省で質問してみたが,いわゆる「落ちこぼれ」とい
う発想はなく,
「数学が得意でなれれば,他の分野を学べる学校に進学すればよい」という
回答であった。
②については,直接高等学校の教師に尋ねてみた結果の回答である。実際に授業参観に
おいて生徒が教師の間違いに気づき,それを修正しながら自分の問題を解答していた場面
- 15 -
があった。また,教師の重要な役割のひとつとして才能のある生徒を発掘することである
という話もあった。
③については,情報を専門とする生徒に数学生徒の学習についてどのように考えている
かを尋ねてみた。なお,情報とは日本の新教科「情報」とは異なり,プログラミング言語
の学習やソフトの開発,ホームページ作成等を学習内容に積極的に取り入れている教科で
ある。情報には数学の知識が必要であると生徒自身が考えており,情報だけではなく生物
や科学・天文学などの他の領域でも数学の学習は必要であることを授業の中のプログラミ
ングで体験している。
3.ブルカリアのカリキュラム
表1はブルガリアのすべ
ての教科のカリキュラム表
であり,Ⅰ∼Ⅳ年生が初等
教育,Ⅴ∼Ⅷ年生が中等教
年齢
7 8 9
学年
Ⅰ Ⅱ Ⅲ
時間/週 31 32 32
必修
19 20 23
必修選択 3 2 2
選択
4 4 4
育前期,Ⅸ∼ⅩⅡ年生が中
10
Ⅳ
32
23
2
4
11
Ⅴ
34
27
3
4
12
Ⅵ
34
27
3
4
13
Ⅶ
34
27
3
4
14
Ⅷ
34
27
3
4
15
Ⅸ
36
27
5
4
16 17
18
Ⅹ ⅩⅠ ⅩⅡ
36 36
31
20 10
6
12 22
26
4
4
4
表1:ブルガリアのカリキュラム表
等教育後期である。単位時間あたりの授業は,Ⅰ・Ⅱ年生が 35 分,Ⅲ∼ⅩⅡ年生は 40∼
45 分である。このカリキュラム表の必修・選択必修・選択の時間数は以下の図のようにな
る。
すべての学年において,
選択の時間が 4 時間置
かれている。また必修
選択の時間は,学年が
進行するにつれて多くなる。このことは,必修科目以外の学習内容を学校ごとに独自で決
めることが可能であることを意味する。すなわち学校独自の特色を出すカリキュラムを編
成しやすく,実際に数学・情報専門学校や言語の専門学校,日本語を専門的に学習するこ
とができるコースがある学校などが存在している。
表 2 は,数学の授業の時間数である。Ⅰ-grade とⅣ∼Ⅶ-grade までは時間数が定められ
ているが,それ以外の grade では時間数に幅がある。
年齢
7
8
9
学年
Ⅰ Ⅱ
Ⅲ
時間/週 31 32
32
数学
4 3∼5 3∼5
時間数/年 124 112 112
10
Ⅳ
32
4
128
11 12 13
14
15
16
17
18
Ⅴ Ⅵ Ⅶ
Ⅷ
Ⅸ
Ⅹ
ⅩⅠ ⅩⅡ
34 34 34
34(36)
36
36
36
31
4
4
4
4(3)
2(3)
2(3)
2(2)
0(2)
136 136 136 136(108) 72(108) 72(108) 72(72) 0(62)
表2:週当たりの数学の時間数
日本の場合には,どちらかといえば学習指導要領を遵守して数学の授業が行われている
ことが多い。ブルガリアも学習指導要領はあるが,前述のように学校によって特色のある
- 16 -
カリキュラムを編成でき,様々な才能を伸ばせる可能性がある。因みに,数学の才能を伸
ばすための数学専門高校が国内に 30 校設置されている。ブルガリアのカリキュラムは,今
までに 2 回ほど改訂されており,前回の改訂では少々易しくなって数学の力も少々落ちた
という指摘もある。
4.ブルガリアの数学の教科書
前回(2 年前)に訪問したルセ(数学専門学校),及びタルノボ(普通高校)の授業,今回訪問
したプロブディブの数学情報専門学校では,いずれも教科書を使用せずに授業を行ってい
た。しかし,教科書を全く使用しないのではなく,授業の最初に教科書その他の書籍の紹
介をしている。数学の教科書は,日本の場合と同様に複数の出版社から発行されているが,
Ⅹ-grade∼ⅩⅡ-grade の教科書は 2 レベル発行されている。
今回は 2 種類の出版社の教科書を購入できた。日本の場合は,教科書を個人で簡単に購
入することはできないが,ブルガリアの数学の教科書は,日本の書店で様々な数学の参考
書を購入することができるのと同じ感覚で一般の書店にて購入できる。数学の教科書と同
様に,数学オリンピック関係の書籍も多数販売されている。なお,教科書の内容は,代数
学・関数・幾何学・統計学・モデリング・論理の内容で構成されている。
5.ブルガリアの学校訪問と数学の授業
プロブディブの数学情報専門高校は,建物は大き
いが,Elementary School の子供たちも同じ建物を使
っている。すなわち,同じ建物の中に複数の学校が
存在しているのである。ブルガリアは,いくつもの
学校を複数の敷地に建設する財政的な余裕がないこ
とがその理由である。午前中がギムナジオム,午後
は Elementary School の授業が行われる。校舎の正面
玄関には,過去に数学オリンピックや Informatics のオ
リンピックで成果を上げた生徒の写真が多く掲示さ
れている。親子で掲示されていたり,一人で数学オリ
ンピックに複数回入賞したりしている生徒もいる。
このギムナジオムには 8∼12grades の学年がある。
1 学年は 200 人近くであり,全生徒数は 1100 人程度
である。また,教師は 80 人程度で,そのうち 12 人
が数学の教師,18 人が Informatics の教師である。数
学は,8∼12grades について順に週当たり 5,6,6,7,
8 時間学んでいる。日本では,教科書を中心とした授業が行われることが多いが,ここで
- 17 -
の授業では生徒に教科書を開くことをあまり指示せず,どちらかといえば教科書は参考書
代わりに使用していた。生徒は教師の板書をノートに写すか,または演習の授業であった。
演習では問題解決能力を高める問題が板書によって紹介され,生徒はそれらの問題を宿題
でやってくるという形である。先生によっては演習問題を教科書以外の専門書や外国の文
献から選択してくる場合もある。生徒は複数の教科の授業を 1 冊のノートにまとめており,
生徒の聞き取りによれば授業のノートを自宅で整理しながら復習しなければならないとい
うことである。すなわち,自宅学習を余儀なくされる。11-grade の数列(数学的帰納法)の授
業も参観したが,扱われている問題は日本の授業とほとんど変わらない。
今回のブルガリア訪問では,前回の訪問も含めてある意味で特別な学
校だけを訪問している。学校の教師の大きな役割として秀でた生徒を発掘すること,大学
の数学者自らが秀でた生徒を教育していること,国内やバルカン地方における数学オリン
ピックを通じてそれらの生徒たちを育てること,秀でた生徒に資金を投資する財団が存在
することが日本の場合と異なる点である。
- 18 -
訪問による全般的な印象
Ⅰ.数学の学習に対する特徴的な考え方
ブルガリアの数学教育
Ⅱ.数学の学習を助ける制度
Ⅲ.子供たちの学習スタイル
筑波大学附属高等学校
川
宣 昭
Ⅳ.選択性豊富なカリキュラム
Ⅰ.数学の学習に対する特徴的な考え方
Ⅱ.数学の学習を助ける制度
・才能を発掘する制度
国内・バルカン地方のオリンピック開催
・資金制度
才能のある子供たちへの投資
・大学との協力体制
大学の先生が子供たちを直接指導
・子供に適した進路選択
数学が得意でなければ他の分野を頑張
ればよい!
・才能のある子供は国の宝
・教師よりも高い生徒の能力
・数学の有効性
生物・化学・天文学などへの応用
・子供に適した進路選択
数学が得意でなければ他の分野を頑張
ればよい!
Ⅲ.子供たちの学習スタイル
Ⅳ.選択性豊富なカリキュラム
・教科書は参考書代わり
授業では複数の教科書を紹介
・自宅学習中心
ノートの整理
板書による宿題
参考:情報学 ⇒ プログラミングの基礎
は学校
それ以上の学習は自宅
・特色のあるカリキュラム編成が可能
⇒ 様々な子供の才能を発掘するため
様々な専門学校
数学・情報科学・言語学の専門学校など
(数学専門学校は30校)
- 19 -
日本の生徒との比較
カリキュラム
ブルガリア
日本
教材
教材を自ら
探せる。
与えられる
ことが多い。
学習スタイル
自分自身で
学習する傾
向が強い。
他者から教
わる傾向が
強い。
大学の先生
による指導
塾・予備校
家庭教師な
ど
学校外教育
A.全般的なカリキュラム
必修・選択の時間数など
B.数学のカリキュラム
数学の授業時間数など
A.全般的なカリキュラム
初等教育
年齢
7
8
9
10
学年
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
時間/週
31
32
32
32
必修
19
20
23
23
必修選択
3
2
2
2
選択
4
4
4
4
16
17
18
上級学年ほど選択の枠が広がる傾向
中等教育(前期)
中等教育(後期)
年齢
15
年齢
11
12
13
14
学年
Ⅴ
Ⅵ
Ⅶ
Ⅷ
学年
Ⅸ
Ⅹ
ⅩⅠ
ⅩⅡ
36
36
36
31
時間/週
34
34
34
34
時間/週
必修
27
27
27
27
必修
27
20
10
6
必修選択
3
3
3
3
必修選択
5
12
22
26
選択
4
4
4
4
選択
4
4
4
4
- 20 -
B.数学のカリキュラム
初等教育
・年齢
・学年
・時間/週
・数学の時間数(/週)
・数学の時間数(/年)
全体の枠組み
学習内容は?
数学の教科書
中等教育(前期)
年齢
7
8
9
10
学年
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
時間/週
31
32
32
32
数学
4
3∼5
3∼5
4
時間数/年
124
112
112
128
中等教育(後期)
年齢
11
12
13
14
年齢
15
16
17
18
学年
Ⅴ
Ⅵ
Ⅶ
Ⅷ
学年
Ⅸ
Ⅹ
ⅩⅠ
ⅩⅡ
時間/週
34
34
34
34(36)
時間/週
36
36
36
31
数学
4
4
4
4(3)
数学
2(3)
2(3)
2(2)
0(2)
時間数/年
136
136
136
136(108)
時間数/年
72(108)
72(108)
72(72)
0(62)
数学の教科書(1)
<式の計算>
<方程式>
4 + 15 − 4 − 15 の計算
x = 0.9 のとき,
2x + 3 + 3 − 2x
2x + 3 − 3 − 2x
数学の教科書(2)
Ⅸ-grade(中学校3年生)
三角比
x ( x + 1)( x + 2)( x + 3) = 15
代数教材の充実
∼ Ⅹ-grade (高校1年)
初等幾何学への応用
ヘロンの公式
チェバ・メネラウスの定理
2 x 2 − 14 x + 13 = 5 − x
の値
Ⅸ-grade(中学3年)
円の性質(接弦定理・円に内接する四角形の性質)
2 x 5 + 5 x 4 − 13 x 3 − 13 x 2 + 5 x + 2 = 0
解析幾何学の考え方の基本事項
⎧1 1 5
⎪x + y = 4
⎨
⎪ x 2 + y 2 = 17
⎩
教科書に図の掲載が少ない。
幾何教材の充実
- 21 -
図は自分
で描く。
数学の教科書(3)
ⅩⅠ-grade(高校2年)
数学の教科書(4)
∼ ⅩⅡ-grade (高校3年)
<統計教材>
<解析教材>
ⅩⅠ-grade
度数分布表・平均値・分布図
積分の教材が見当たらない?
ⅩⅡ-grade
正規分布・分散・標準偏差
簡単な数列は扱うが漸化式は?
様々な空間図形の問題
立体の切断・カヴァリエ
リの原理による求積問題
複素数はⅩⅡ-gradeで初めて扱う。
<幾何教材>
ⅩⅡ-grade
ただし,ⅩⅠ-gradeで無限大を扱う部分がある。
代数・幾何(+統計)重視の内容?
幾何教材(空間図形)と統計教材の充実
Ⅰ-grade(小学校1年) <自然数の集合(1)>
Ⅰ-grade(小学校1年) <自然数の集合(2)>
Nを自然数とするとき,その性質は,
① 1が最小数である.
② 最小数の1に1を次々と加えていくことによってす
べての自然数が表現できる.
③ 最大の自然数は存在しない.
④ 任意の2つの自然数を選んだとき,またはの大小関
係が成立する.
N={1,2,3,4,・・・} と表現する.
自然数は,0,1,2,3,4,5,6,7,8,9の
数字を使って表現される.
10進法についても扱われ,
22 = 2 + 10 × 2
222 = 2 + 10 × 2 + 100 × 2
のように表現できる.
Ⅹ-grade(高校1年) <2次不等式(1)>
Ⅹ-grade(高校1年) <2次不等式(2)>
- 22 -
ⅩⅠ-grade(高校2年) <数列(1)>
ⅩⅠ-grade(高校2年) <数列(2)>
ⅩⅠ-grade(高校2年) <数列(3)>
ⅩⅠ-grade(高校2年) <数列(4)>
1
n(n + 1)(n + 2)(n + 3)
4
1
1 ⋅ 2 ⋅ 3 ⋅ 4 + 2 ⋅ 3 ⋅ 4 ⋅ 5 + L + n(n + 1)(n + 2)(n + 3) = n(n + 1)(n + 2)(n + 3)(n + 4)
5
n
(1 + x) ≥ 1 + nx
a1 + a 2 + L + a n n
≥ a1 a 2 L a n
n
1
1
1
+
+L+
>1
n +1 n + 2
3n + 1
n 2 > 2n + 1 (n ≥ 3)
1
1
1 13
+
+L+
>
( n ≥ 2)
n +1 n + 2
2n 24
n −1
1× 2 × 3 × Ln > 2
( n > 2)
1
13 + 2 3 + 33 + L + n 3 = { n( n + 1)}2
2
1
1
1
1
n
+
+
+
=
1 ⋅ 4 4 ⋅ 7 7 ⋅ 10 (3n − 2)(3n + 1) 3n + 1
1 ⋅ 2 ⋅ 3 + 2 ⋅ 3 ⋅ 4 + L + n(n + 1)(n + 2) =
- 23 -
第2部
ベトナム渡航調査報告
ベトナムの数学授業を参観して
―ハノイ−アムステルダム中等教育学校の授業参観―
松嵜
昭雄
筑波大学附属駒場中・高等学校
ベトナムの数学授業を参観して
― ハノイ−アムステルダム中等教育学校の授業参観 ―
松
嵜
昭
雄
(筑波大学附属駒場中・高等学校)
1.ベトナムの首都ハノイ訪問
昨年11月8日から11月12日まで4泊5日の日程で,ベトナム社会主義共和国(以下,ベトナ
ム)を訪問する機会を得ました。ベトナムは,1976年に社会主義国家として統一を果たした
ばかりですが,数学オリンピックの成績上位国であり,2003年と2004年の国際順位はとも
に第4位という好成績でした(2005年の国際順位は第15 位)。今回の訪問目的は,萌芽研究
「数学オリンピック上位国と我が国との数学に秀でた生徒の育成方略に関する比較研究」
(代表:礒田正美)の一貫で,数学オリンピックの成績上位国であるベトナムの教育システ
ムや教育政策,また,実際の学校での取り組みなどについて現地調査をおこなうことでし
た。訪問先はベトナムの首都ハノイで,ホーチミンに次いで人口約300万人を有する,政治・
文化の中心都市です。また,ベトナム全土の大学の約7割がハノイに集中しており,言うな
れば科学技術・教育の中心としての役割も担っています。ハノイ滞在中は,ハノイ教育省
Ministry of Education and Training においてベトナムの教育事情に関するインタビュー,
現地高校の数学授業の参観,そして,使用されている教科書などの資料収集をおこないま
した。ベトナムの教育システムや教育政策,数学教育に対する取り組みなどについては,
同行した渡邊公夫先生の本誌掲載の報告をご覧下さい。本稿では,現地高校の訪問先とな
った,ハノイ−アムステルダム中等教育学校の数学授業の参観について報告します。
2.ハノイ−アムステルダム中等教育学校の訪問
訪問したハノイ−アムステルダム中等教育学校 Hanoi-Amsterdam Schoolは,ハノイ市の
西部に位置します。1986 年にはじまった市場経済活性化を謳うドイモイ(刷新)政策により
街は活気に満ち溢れており,学校の周りを含めた街中いたるところで道路整備などの開発
がおこなわれていました。
校名にアムステルダムとあるのは,ハノイとの友好提携を結んでいることに由来します。
また,ハノイ−アムステルダム協会Hanoi-Amsterdam Organization に寄せられた支援金の
補助を受けている,国連インターナショナル・スクールです。生徒の内訳は,前期中等教
育段階の6学年から9学年と,後期中等教育段階の10学年から12学年までの生徒が在籍し,
約2000人の生徒からなるマンモス学校でした。
本校は,ハノイの中でも指折りの進学校で,ほぼすべての生徒が大学へ進学します。ま
- 25 -
た,数学オリンピックや物理オリンピックなどの各種大会への参加も積極的で,まずは学
校レベルの大会に参加し,市レベル,国レベルの大会へと挑戦していきます。ハノイ−ア
ムステルダム中等教育学校の生徒の中からも,各種大会への代表選手が輩出されています。
3.第12 学年の数学授業
授業を参観したのは,第12学年の授業で,「関数の極限」を取り上げていました。はじ
めに, x →∞, x →−∞としたときの「関数の極限」に関する基本事項を教師が板書とし
てまとめ,その後,2つの関数が提示されました。提示された関数は,(1) y =
(2) y =
x
x 2+
1
2x2 − 3
と
x 2+1
で,これらの関数の極限を求める問題に取り組んでいました。(1)は教師が
説明し,(2)は指名された生徒が黒板に解答を書きました。生徒の解答は,以下の通りでし
た。
y = lim
x →+∞
y = lim
x→−∞
x
x +1
2
= lim
x
x +1
2
x→+∞
= lim
x → −∞
x
x
2
x
1
+ 2
2
x
x
= lim
x →+∞
x
x
−
2
x
1
+ 2
2
x
x
- 26 -
1
1+
= lim
x → −∞
1
x2
=
1
=1
1+0
1
1
− 1+ 2
x
= −1
指名された生徒による解答の説明はなく,教師自らが y =
x
x 2+1
のグラフを描き,この
関数の極限について説明をおこないました。教師主導による講義形式の授業であり,また,
授業中の生徒による発言はなく,淡々と授業が進行している印象を受けました。教師によ
る板書やグラフ描画も丁寧で,生徒も課題に取り組みながら板書された内容を丁寧にノー
トに写していました。その後,練習問題が提示され,その問題に取り組んで授業が終了と
なりました。練習問題として提示された関数は,
sin x
2 x x 2 − 2 x+3
+1
2
,y =e ,y =
,y = x
y= 2
3 −1
x − 4 x+3
x
x
といったものでした。
生徒が練習問題に取り組む間,教師は机間巡視をおこないながら,生徒の質問を受けた
り,ノートチェックをしていました。生徒を指名して解答を板書させたり,机間巡視によ
る指導など,日本の授業風景と似通った点が多く,特筆すべき点はありません。
特徴的であったのは,生徒の机上には,関数電卓が置かれており,問題を解く際に頻繁
に使用していた点です。授業後におこなった,数学授業に対する生徒へのインタビューか
ら,数学の授業の中で日常的に関数電卓を利用していることが分かりました。また,関数
電卓の操作方法についての解説本も市販されており,関数電卓の利用が数学授業の前提と
- 27 -
なっていることが伺えました。ちなみに,ハノイ−アムステルダム中等教育学校では,生
徒自らが使用する関数電卓を購入しています。
4.今後の授業参観の展望
今回の訪問では,ハノイ−アムステルダム中等教育学校の通常クラスの授業を参観しま
した。残念ながら,数学オリンピックに挑戦するような生徒を対象とした,特別クラスの
授業参観はかないませんでした。特別クラスの授業は,ゼミ形式でおこなわれていること
を学校長に対するインタビューから聞くことができました。特別クラスの授業は,午前中
の授業終了後,午後の時間を利用して授業がおこなわれています。今後,ベトナムを訪問
する機会があった場合,是非とも特別クラスのゼミ形式の授業を参観してみたい。
[参考]
ハノイ−アムステルダム中等教育のHPhttp://www.hn-ams.org/en/hn-ams/
- 28 -
数学における秀でた生徒を育成するためのシンポジウム
−世界の英才教育と自ら学ぶ子どもの育成−
−世界の英才教育と自ら学ぶ子どもの育成−
ベトナム社会主義共和国
ベトナム教育視察報告
筑波大学附属駒場中・高等学校
松嵜 昭雄
[email protected]
人口:約7973
万人
人口:約7973万人
首都:ハノイ
言語:ベトナム語
教育訓練省へ訪問
Ministry of Education and Training
ベトナムの教育についての
インタビュー
ベトナムの教育システム
主に,アメリカや
シンガポールの大学へ留学
Director
LE QUAN TAN
義務教育段階
- 29 -
ベトナムの学校数
*(
ベトナムの生徒数
*(
)内はnon-public schoolの数
199919992000
200020002001
200120012002
200220022003
200320032004
200420042005
199919992000
)内はnon-public schoolの数
200020002001
200120012002
200220022003
200320032004
200420042005
Primary
School
13,387
(76)
13,738
(74)
13,936
(77)
14,163
(79)
14,346
(77)
14,518
(75)
Primary
School
10,063,025
(30,595)
9,751,431
(27,490)
9,336,913
(31,662)
8,841,004
(29,886)
8,350,191
(29,458)
7,773,484
(28,739)
Lower
Secondary
7,381
(86)
7,733
(98)
8,092
(95)
8,396
(82)
8,734
(81)
9,041
(61)
Lower
Secondary
5,767,298
(202,617)
5,918,153
(186,336)
6,254,254
(1,68,866)
6,497,548
(161,226)
6,612,099
(138,936)
6,670,714
(120,237)
Upper
Secondary
1,083
(262)
1,251
(346)
1,397
(402)
1,532
(442)
1,685
(494)
1,828
(509)
Upper
Secondary
1,975,835
(672,654)
2,199,814
(755,438)
2,334,255
(783,845)
2,458,446
(801,504)
2,616,207
(832,497)
2,802,101
(844,589)
《資料提供》 LE QUAN TAN 氏
《資料提供》 LE QUAN TAN 氏
義務教育段階:public schoolの数が圧倒的多数
義務教育段階:public schoolへ通う生徒が圧倒的に多い
後期中等教育段階:non-public schoolの割合が年々増加
後期中等教育段階:non-public schoolへ通う生徒が約3割
ハノイー
ハノイーアムステルダム中等教育学校訪問
HanoiHanoi-Amstersam School
Vice President
English teacher
- 30 -
国際オリンピックの実績
国際数学
オリンピックの成績
の成績
国際数学オリンピック
メダル獲得者数 / 参加者・出場者
199919992000
200020002001
200120012002
200220022003
200320032004
200420042005
金メダル
銀メダル
1999年
1999年 第40回
40回 ルーマニア大会
3名
3名
銅メダル
2000年
2000年 第41回
41回 韓国大会
3名
2名
数 学
6/6
(3位)
6/6
(5位)
6/6
(10位)
6/6
(5位)
6/6
(4位)
6/6
(4位)
2001年
2001年 第42回
42回 アメリカ大会
1名
4名
物 理
4/5
5/6
5/5
3/4
5/5
4/4
2002年
2002年 第43回
43回 英国大会
−
−
−
化 学
4/4
4/4
4/4
4/4
4/4
4/4
2003年
2003年 第44回
44回 日本大会
2名
3名
1名
生 物
2/4
4/4
2/4
4/4
4/4
2004年
2004年 第45回
45回 ギリシア大会
4名
2名
情 報
4/4
4/4
3/4
国内予選
2022 /
4461
2049 /
4544
2193 /
4686
4/4
2217 /
4730
2122 /
−
2005年
2005年 第46回
46回 メキシコ大会
2422 /
−
2006年
2006年 第47回
47回 スロベニア大会
《資料提供》 LE QUAN TAN氏
学校別予選
第2段階
市内予選
第3段階
国内予選
第4段階
国際オリンピック
ベトナム代表者
3名
3名
2名
2名
http://imo.math.ca [2006, December 1]
ベトナムの国際オリンピック
代表者選抜方法
第1段階
2名
1名
- 31 -
President
DO LENH DIEN
秀でた生徒を対象とする授業
∼ハノイーアムステルダム中等教育学校の場合∼
通常授業とは別に,特別クラスを編成している。
午前中
午後の時間を利用
* 1・2週間に1回程度
実施形態
生徒数名と教師によるセミナー形式
授業時間
2∼3時間程度
- 32 -
第3部
中国渡航調査報告
科挙の国における数学教育
坂井
公
筑波大学数理物質科学研究科
中国(People’s Republic of China)訪問記
大根田
裕
筑波大学附属中学校
科挙の国における数学教育
坂
井
公
(筑波大学数理物質科学研究科)
この報告で述べる視察調査は,科学研究費補助金「数学オリンピック上位国と我が国と
の数学に秀でた生徒の育成方略に関する比較研究」の一環として,筑波大学付属中学校教
諭の大根田裕先生と筆者の 2 名により行ったものである。調査は,2005 年の 12 月 12 日よ
り 1 週間ほどをかけて中華人民共和国の首都北京において進められた。調査に赴いた訪問
先は,主に北京師範大学国際交流と合作処,北京師範大学数学学院,北京師範大学第 1 付
属中学,北京師範大学第 2 付属中学,中国教育部基礎教育と教材発展センターの 5 施設で
ある。
1.はじめに
上記研究課題のための視察調査は,ブルガリア,ベトナムに続くものであるが,数学オ
リンピックの上位国とはいっても,中国にはブルガリアやベトナムと同列には論じられな
い条件がある。それは,中国が紛れもない超大国だということだ。面積は日本の約 26 倍の
960 万平方 Km,人口は 2005 年に 13 億を超えたとされている。
どういう分野であれ,一人の天才が生まれてくるための条件が,人種や地域などに拠ら
ないのであれば,その天才は,人口の多い国に生まれてくる可能性が高くなる。こういう
点から考えると,中国が好成績を修めるのは当然で,実際,2004 年のアテネオリンピック
では,32 個の金メダルを獲得し,同じく超大国のアメリカの 35 個に継ぐ成績を残してい
る。従って,特に「育成」というようなことがなくとも,数学オリンピックでの中国の好
成績は,十分うなずける結果ではあった。
しかし,一方,中国は科挙の国である。優秀な人材を身分・家柄などに関係なく試験に
より選び出すシステムを,6 世紀後半の隋の時代から導入しているというのは,世界史的
に見ても異例であり,しかもそれが長く機能し続け,競争率も熾烈を極めた。今は廃止さ
れているものの,知的エリートを選別するという伝統には根強いものがある。だから,数
学の秀才たちを育成するようなシステムがあっても,不思議ではない。
2.全体的な印象
さて,実際に中国の教育機関を訪問し,北京の街を歩いてみた印象は,上の考えのどち
らとも矛盾しないものだった。結論的なことを最初に述べるなら,国家的な政策として「秀
でた生徒」を育てようとする動きは何もないようである。大学関係者からは,数学オリン
- 33 -
ピックに対して,強い関心が示されたことはなかったし,教育行政の担当者は,むしろ英
才教育に対して批判的であった。
しかし,これをもって,中国社会が「数学に秀でた生徒」を育成することに熱心でない
とするのは間違いのようである。国や大学とは裏腹に,教育現場の教師たち,親たち,そ
して生徒たち自身も,数学的英才を目指すことに十分熱心であり,科挙の伝統が強く受け
継がれていることを感じられたからだ。
以下,各訪問先での会見をふり返りながら,上の印象を少し詳しく述べてみたい。
3.大学関係者との会見
最初に訪問したのは,北京師範大学の国際交流と合作処だった。ここは,今回の調査の
ホスト役の方順姫氏の職場であり,最初の訪問先になるのは自然なことなのだが,名前か
らも分かるように,直接,数学教育に関わる部門ではない。
処長の洪成文氏から中国の教育や入試システムについて説明して頂いた。紙面の制限も
あるので,詳しくは述べないが,中国のシステムは,日本と大きくは変わらないものであ
った。秀でた生徒の育成や選別に関しても,何かをしているという話は洪氏からは聞けな
かった。「科挙制度は少数精鋭を育てるのには良かった」というコメントを述べられたが,
筆者はこれを英才教育への批判と受け取った。
大学関係者とは,他には,北京師範大学の数学学院で,郭玉峰,曹一鳴,朱文訪の 3 人
の先生と会見した。こちらは,数学教育の専門家であるが,教員養成が主務であり,直接,
生徒たちを指導しているわけではない。そういうこともあってか,やはり数学オリンピッ
クにつての強い関心はみられないようであった。ただ,
「中国数学会には数学オリンピック
の普及を目的とする分科会がある」ということだったので,中国数学会全体がそういうこ
とに冷ややかというのではないようだ。
4.教育行政関係者との会見
中国教育部の基礎教育と教材発展センターの Liu Jian 氏と会見した。ここは,日本でい
えば文部科学省の一部局で,近年,進められている「数学課程標準」の改訂のことが主た
る話題となった。この標準は,ほぼ日本の学習指導要領に当たり,中等教育までのカリキ
ュラムを定め,教科書を作る際の指導原理となるものである。教育部からはこの標準の解
説書も出ており,Liu の名は編集委員の常務の欄にあるので,新課程を定める上での主要
メンバーであったことがうかがわれる。
今回の改定の主眼は,
「生活により密着した話題が多くなっている」とことであった。新
課程に準拠した教科書を入手したところ,この言葉の意味は小学校の教科書で特に顕著と
感じたので,6 年生の上巻の目次を一部挙げる。
- 34 -
目次は,この後「四 数学と交通」「五数学と
体育」と続き,下巻に入っても似たようなタイ
トルが続く。内容も,無味乾燥な計算というよ
うなものは少なく,応用を視野に入れたものが
多い。筆者には,日本で批判を浴びた「ゆとり
教育」と同様な匂いが感じられ,危惧するとこ
ろがあったが,Liu 氏も「難度的には易しくな
った」,「教え方に混乱がある」など批判がある
ことは認めていた。
このような人であるから Liu 氏は,
「基礎教育
の大切さ」「生活に密着した数学」「生徒それぞ
れに合った教育」というような点を強調され,
英才教育にははっきり否定的だった。数学オリ
ッピックなども,数学が好きというより,賞や
優遇措置を目指した競争を加熱させるというこ
とで, 歓迎しない様子であった。
5.教育現場と社会
教育現場としては,北京師範大学第 2 付属中
学の初中部(日本の中学校に当たる)で中 1 と中
2 の授業,北京師範大学第 1 付属中学の高中部
(日本の高校に当たる)で高 1 の授業を参観した。
筆者は初中等数学教育が専門ではないので,授
業そのものについての感想は,同行した大根田
先生に譲ることにして,秀でた生徒の育成につ
いて教育現場がどう取り組んでいるか,参観後
の教師との会見から分かったことを簡単に述べ
たい。
大学や行政に比して,教育現場は,秀でた生
徒を育てることに熱心であるといえる。これは,
数学オリンピックなどで好成績を収めることが,
大学入試などで優遇され,学校にとっても名誉
となることが起因している。学校側の取り組み
としては,生徒の希望により特別の補習授業や,
習熟度別のクラス編成ということを行うという
- 35 -
ことである。
当然,科挙の伝統を持つ一般社会も,知的エリートには敏感である。民間には学習塾も
あり,そこに通う生徒も少なくない。さらには,市主催のコンテストというようなことも
行われ,その大会を目標としたり,さらには数学オリンピックを目指すような塾もあると
のことだった。右は小学生向けの数学オリンピック向けの参考書の例であるが,北京師範
大学出版社からだけでもこの種のものがいくつか出ている。
6.結び
調査期間が短く,地域も北京に限られていたために,この観察がどれだけ正しく中国全
体の数学教育を捕らえているか疑問ではあるが,とりあえずの結論を出すなら,「13 億の
人口が大きな因子ではあることも間違いはなかろうが,科挙の伝統に根付くエリート待望
の風潮があり,それを地域社会が助長していることが,中国の数学オリンピックでの好成
績を支えている」といえよう。
食事に行ったときのことだが,通訳の人によれば,たまたま隣に座ったグループが,子
供の教育のことで数学オリンピックを話題にしていたそうだ。
- 36 -
中 国 (People
s Republic of China)訪 問 記
大
根
田
裕
(筑波大学附属中学校)
1.はじめに
この教育視察は,科学研究費補助金「数学オリンピック上位
国と我が国 との数学に 秀でた生徒 の育成方略 に関する比 較研
究」の一環として,筑波大学助教授の坂井公先生と筆者により
行ったものである。
2005 年の 12 月に北京を訪問し,北京師範大学国際交流と合
作処,北京師範大学数学学院,北京師範大学付属中学,北京師
範大学第二付属中学,中国教育部基礎教育と教材発展センター
の 5 施設を訪問した。
【数学学院前にて】
2.中国の教育事情
学校制度については小学校6年,初級中学(中学校)3年,高級中学(高校)3年,大
学4年で,基本的に日本と同じである。ただし,大学に入るためには,全国大学統一試験
に合格し,成績によって大学に入学できるといった,厳格な入学試験制度を制定している。
総人口 13 億で,中学校における在学者は1学年平均 2000 万人。高校への進学率は日本の
大学進学率に等しく約 1000 万人,大学への進学者は約 100 万人で全体の5%である。少
子化が進む中で,中国は日本の 10 倍の総人口,学年在学者を抱えているが,大学進学者
においては日本とほぼ同数ことを考えれば,中国の大学受験はすさまじい受験競争がある
ということがわかるだろう。
3.初級中学(中学校)における教育課程の概要
教育課程においては,
「教学大綱」という形で規定している。全体目標の前に前書きがあ
り,数学観や数学を学習する意義を強調している。
「対立統一」
「運動変化」
「相互関連」
「相
互転化」という弁証法的観点を学習指導に取り入れ,目標に明記しているのが特徴である。
また,教科書作成及び現場の指導に自由を与えるという考えで,初等中学数学過程を規定
する大綱は学年別に作られていないところも特色。大きく代数と幾何という数学の2分野
別にされている。9月初めから始まり,2月中旬から第二学期が始まる二学期制を採用し,
各学期は約 20 週間,授業は毎週 5 日間。数学の配当授業時数は,おおよそ,小学校では日
本と同じであるが,中学校では日本が減少するのに対して,中国では増加している。
- 37 -
週5時間の授業時数で,1単位時間は 45 分。内容配置は大綱に示していないが,教科
書各冊の前書きに「これが○学年用のもので,1週間○時間の授業を行う」と記されてい
る。以下表で示す。なお,代数及び
幾何の内容については,ページの制限より項目のみとする。
学
年
第1学年
第2学年
第3学年
代
数
幾
何
上半期
5
0
下半期
3
2
上半期
3
2
下半期
2
3
上半期
2
3
下半期
2
3
計
5
5
5
代数の内容
①有理数
②整数の加法と減法
次不等式と一元一次連立不等式
③一元一次方程式
⑥整式の除法と除法
の開法(開平方と開立方)⑩二次ルート
フ
式
④二元一次連
立方程式
⑤一
⑦因数分解
⑧分数式
⑨数
⑪一元二次方程式
⑫関数とそのグラ
⑬統計処理
幾何の内容
①線分と角
②交わると平行
③三角形
④四角形
⑤相似
⑥三
角比
⑦円
4.高級中学(高校)における教育課程の概要
1∼2年は必修で,週4時間の授業時数,1単位時間は 45 分。3年は選択必修で,理
系は週4時間,文系は週2時間。日本と違うところは,高校進学者は否が応でも数学を学
習しなければならないところが特徴である。以下のように,科目名及び内容が履修方法別
に示されている。
高級中学:(必修)数学(集合と理論,関数,不等式,平面ベクトル,三角関数,数列,
直線と円の方程式,円錐曲線方程式,直線と平面,簡単な立体,順列と組合せ及び二項定
理,確率),(文系用)数学Ⅰ(統計,極限と導関数,
課題研究),(理系用)数学Ⅱ(確率と統計,極限,導
関数と微分,積分,複素数,課題研究)
5.各訪問校の特徴
今回訪問した二つの付属学校は,中国屈指の名門校
である。北京師範大学付属中学校は 1901 年に設立さ
- 38 -
れた最も早い公立中学で,天安門広場に近い交通利便な学校である。現在6学年計 76 学
級があり,生徒数は 3267 人である。教師数は 227 人で,内特級教師8人,高級教師 86 人,
中級教師 81 人であり,指導水準の高い科学研究志向型の教師チームが形成されている。
北京師範大学第二付属中学は 1953 年に設立され
た公立中学校で,生徒数 2000 余名である。教師数
は 129 人で,内特級教師9人,高級教師 45 人,中
級教師 48 人であり,女性教師 80 人といった,指導
水準の高い教師チームが形成されている。一つの学
校に高級教師がこれほど多いのは中国でも希である。
6.授業の内容と特徴
北京師範大学付属中学校の授業について
北京師範大学附属中学校
高校1年の等比級
数の授業を参観した。
授業内容は等比数列の演習で,授 業 は 教 師
が 学 習 内 容 を 確 認( 問 答 法 )し な が ら
演 習 を 行 う と い う 形 式 で あ っ た 。 生徒
は以外に素直に発言しており,日本の中学1年
生程度の発言量があったように感じた。これに
はびっくりした。筆記用具は万年筆,ボールペ
ン。ノートはまちまち,教科書に記載している
生徒も見うけられた。さらに驚いたことは,学術用語を 普 段 の 授 業 か ら 何 気 な く 用
い て い る と い う こ と が 挙 げ ら れ る 。 中国の漢字文明(簡体字)に慣れ親しんでい
るところに原因があるのではないだろうか。中学1年から学術記号を取り入れているとの
ことであった。
北京師範大学第二付属中学校の授業について
北京師範大学第二付属中学校の中2,中1年の授
業を参観した。
最初の,2年生の授業は,途中から参観するとい
うトラブルがあり,授業の感想を述べるには抵抗が
あるが,代数と比較して,幾何の内容を日本より若
干遅らせて指導している。授業内容は,等脚台形の
性質を確認しながら,問題演習を行うというもので
あった。
PC を用いて機敏に提示するが,考える授業というよりは,すぐに補助線を提示してしま
- 39 -
うといった,理解中心の講義調の授業であった。生徒のノートを覗くと,傍心を除いた四
心や三平方の定理などが断片的に記述されてあった。推察するに,かなり内容注入型の授
業のように感じた。
1年生の授業は,単項式÷単項式,多項式÷単項式
であったが,指数は文字式を用いて一般的式で表現
していた。驚いたことに【問 29】の多項式÷多項式
をも扱い,(a+b) 4 をといった解を出す場面では,展
開した生徒の複数存在に驚愕した。実験クラスであ
ることからうなずけるが,個人的には,二項定理な
ども学習済みでとのことであった。
この授 業 で は ,プ リ ン ト が 2 枚 配 布 さ れ ,
授業中に 1 枚を使い,残りの 1 枚は家庭学習用であった。問題は教師の
力作だが,到達目標を逸脱してた問題の混在と問題数が気になったとこ
ろ で あ る 。 そ の 他 , 黒 板 の 使 用 面 積 , PC に よ る 問 題 提 示 法 , ノ ー ト 指 導
なども気になった。
生 徒 は ,代 数 や 幾 何 な ど 科 目 ご と で ノ ー ト を 使 い 分 け る こ と を せ ず に ,
一冊のノートを使っていた。中学一年で 3 乗根まで扱っている,中学二
年生が二次方程式を解くといったように,単元構成は日本とはかなり異
なるようであった。
7.最後に
中国で生きていくには自己主張するしかないため,親までもが教育に
対して積極的である。現場では教育成果を上げるため,課外授業も行わ
れていると聞く。塾にいく子もいる。オリンピックを冠に掲げている塾
もあり,父兄の関心が子供の数学オリンピックの階級に向けられている
様子もうかがえた。大学入試において,数学オリンピック等の成績を考
- 40 -
慮するならば,なおさらである。
教育行政は基礎教育を重視した教科書改訂を近年しており,数学オリ
ンピックなどの賞を目的にしてしまう傾向を危惧しているが,数学オリ
ンピック重視の世論とは溝があるようであった。今回,残念なことは,
数学オリンピックなどの上位者で,数学と物理に突出した生徒の指導方
法 の 開 発 研 究 を し て い る ,北 京 師 範 大 学 付 属 実 験 中 の「 理 系 実 験 ク ラ ス 」
を参観できなかったのが残念であった。最後に,今回の訪問にあたり特
段 の 便 宜 を 図 っ て く れ た 北京師範大学国際交流の方順姫女史に,ここで感謝の意を
表したい。
8.参考文献
杜 威;算 数・数 学 の カ リ キ ュ ラ ム の 改 善 に 関 す る 研 究 − 諸 外 国 の 動 向 (2)− 中
国,
「 教 科 等 の 構 成 と 開 発 に 関 す る 調 査 研 究 」研 究 成 果 報 告 書 ( 2 3 ) ,国 立
教 育 研 究 所 , 2005,5-25
- 41 -
第4部
算数・数学に秀でた生徒育成のための提言
≪秀でた≫≪人間≫を≪育てる≫ために≪我々≫は何ができるか?
長岡
亮介
放送大学教養学部
数学に秀でた子どもを育てる政策とは?
清水
静海
筑波大学人間総合科学研究科
《秀でた》《人間》1 を《育てる》ために《我々》は何ができるか?
長
岡
亮
介
(放送大学教養学部)
0 はじめに
TIMSS では決して好成績でない(国民の平均的な数学基礎学力が高いとはいえない)に
も関わらず,人口たった 800 万人の「バルカンの小国」が数学オリンピックのようなもの
で好成績を収めている奇跡的な国の秘密に出会ったブルガリア訪問 2 を踏まえて,私は,上
記のタイトルのために,極めて乱暴であるが次のことをその戦略として提案したい。戦術
レベルまでの具体化はまだ先の話である。
日本の数学教育の課題としては
1. やるべきこと
2. やってはいけないこと
3. できること
4. できないこと
があると考える。それぞれについて簡単なスケッチを描く。
1 やるべきこと
• まず第一になさなければならないのは,あらゆる方面での《才能》の差を,単に許容
するのではなくきちんと認知することである。
少なくとも,「才能教育」が音楽と体育に限られるのはまったくのナンセンスである。
マスコミや世論が恐くてこの問題をタブー視するのは健全でない。
• 次に重要なのは,そのような才能を発掘し磨くという奇跡的な仕事を受け持つ《教師
の誇りと自信》を回復する手だてを考慮することである。これは,しばしば語られる
1
与えられた課題からいえば,本来はここで「生徒」というべきであるが,本当に重要なのは,学校教育に
おける「お勉強」が得意の小さな秀才ではなく,才能と努力を通じた活躍によって豊かな人間社会の持続的
な発展に貢献する,秀でた一人前の人間を育成することこそ重要であると思うから敢えて変更する。
2
その報告は,すでにいろいろな場所に詳しく書いたのでここでは取り上げない。関心のある方は是非それ
を読んでいただきたい。
- 43 -
「給料」や「社会的なステイタス」ではカバーできない,
《教育への情熱と使命感》の
持続と発展をつねに視野におくべきである。
• 当然,これを誘発,誘導する政策が不可欠である。頑張っている先生への
激励
(顕
3
彰?) や,教員の自発的な再教育 の仕組みも考えるべきである。
2 やってはいけないこと
「やるべきこと」を張り切ると同時に,やらないように警戒したいこともある。いや,
「やるべきこと」以上に大切なのは,それ阻む原因を除去することである。
具体的には
• 現場の教員の自信を失わせる方向に傾きかねない政策,例えば
– 指導要領の頻繁な改訂,特に
新しい
教育内容の導入
– 新しい教育理念,教育方法への急激な転換
に対しては,慎重な叡知ある保守的態度で臨みたい。
• また,やれ,
「文部科学省が悪い」だの,やれ「指導要領が悪い」だの,やれ「校長が
悪い」だの,やれ「PTA が悪い」だの,……といった,現状の刷新が困難であること
の原因究明を急ぎすぎることは,結局,責任転嫁になってしまう。このような習慣を
克服しなければならない。
• そのためにも,教員の,教育に無関係の業務の増加,煩雑化は,是が非でも阻止した
い。特に,accountability だけのための業務の煩雑化を促進する動きに乗らないことが
重要であると思う。少々暇な教員の「小悪」に目くじら立てる動きにマスコミと一緒
になって「はしゃいで騒がない」度量が求められている。
3 できること
できるといっても,すぐにできることと,少し時間をかけないとできないことがあるが,
いずれにしても
• 一般的に言えば,才能のある(あるいは,ない) 生徒のための特別サービスに尽きる。
具体的には,教室学習に必ずしもとらわれない発展的な学習の支援である。例えば
– 放課後の課外活動
– 週末や長期休暇の才の特別活動
– 最近話題の「高大連携」などのための様々な仕組みを活用した活動
3
教育 teaching というより学習 learning と本当はいいたい。
- 44 -
など,いろいろもあるだろう。
ここで重要なのは,《生徒・学生の伸びやかな自発性と教師の確かな指導性の調和》
であると思う。
• そのためにも,
《尊敬される数学像,尊敬される数学教員像を確立》することも大切で
ある。それは
– 数学の感動体験の演出する知恵(「退屈な授業」,
「忍耐の時間」の克服は最小限の課
題である。)
– 物理,科学など数学周辺領域の教員との協力関係の樹立
– 他教科,他専門へのより深い理解と尊敬を数学教員がもつ努力を払い続けることな
どによってなされると考える。
4 できないこと
しかし,できないと覚悟しなければならないこともある。
• まずは,すぐに, 明るい未来
が拓けると期待できないことである。平凡ながら,粘
り強く努力精進する時間が長く続くことは覚悟しなければならない。
• また,身内がすべて味方であると信頼し切ることもできない。改革のための
力
抵抗勢
は,至るところに存在しうる。逆に,潜在的な数学支持者は意外に数学教育の外
の世界にたくさん存在する!
• いまや, 数学教育への風 がもう一度吹いてくれるとは期待できない。過去の栄光の
数学の時代
を心に秘めて,逆風にしっかりと耐え忍ぶ気構えも重要である。
- 45 -
- 46 -
数学に秀でた生徒を育てる政策とは?
清 水 静 海
(筑波大学人間総合科学研究科)
提言2:数学に秀でた子どもを育てる政策とは?
提言2:数学に秀でた子どもを育てる政策とは?
公(学会・行政・学校)・私(民間・財団)
1.サポーティング・システムの構築
2.社会への啓蒙・啓発
3.数学コーチャーのシステムの構築
4.公教育のカリキュラム・システムの改善
5.教師教育(養成・現職)の改善
BULGARIA 05.9.13.−21.
S.Shimizu (University of Tsukuba)
1.サポーティング・システムの構築
(1) サポート体制の構築と整備
(2) 顕彰システムの構築
HSSI:
Founders of HSSI
The Union of Bulgarian Mathematicians (UBM)
HIGH SCHOOL STUDENTS INSTITUTE
OF MATHEMATICS AND INFORMATICS
The “Evrika”
Evrika” Foundation
The High School Students Institute
of Mathematics and Informatics was
established in September 2000.
The founding of the High School
Students Institute (HSSI) was one of
the initiatives of the Bulgarian mathematical community in the celebration
of the World Mathematical Year 2000.
The International “St Cyril and St Methodius”
Methodius” Foundation
The Institute of Mathematics and Informatics
at the Bulgarian Academy of Sciences
1.サポーティング・システムの構築
Bulgaria has a relatively well-developed network of
Mathematics and Informatics competitions for
secondary school students, which allow young people to
exhibit their abilities and gifts. Apart from that there
are many students, who are highly creative only if not
“under the pressure” of the limited competition time.
It is the mission of HSSI to identify such students
and to take care of them developing the future leaders in
science.
(1) サポート体制の構築と整備
学会、文部科学省等行政及び民間との
連携によるシステムの構築
日本学術会議数学委員会
日本数学会、日本数学教育学会
NGO、NPOの活動の育成
民間団体の育成
民間基金の活用
- 47 -
14.09.2005 Wednesday P.M. :
17:00
◎ Visiting the Sts Cyril and Methodius International Foundation,
meeting with Petar Kenderov, President and Michael Tachev,
Executive director of the Foundation
◎ Official dinner
2.社会への啓蒙・啓発
・優秀な若者を育てることは使命
・優秀な子どもたちを見出し、育成することは喜び
・人材は国の資源
・人材の育成は国の繁栄
・近隣諸国を含め、世界を視野に入れた
人材育成への貢献
1.サポーティング・システムの構築
(2) 顕彰システムの構築
・・・才能のある子ども
・・・かれらを発掘し育成した教師、学校
3.数学コーチャーのシステムの構築
3.数学コーチャーのシステムの構築
(1) ティーズ・マインド + コーチャーズ・マインド
(2) 数学コーチャーの育成
・・・はやりの「コミュニケーター」とは異なる
- 生涯学習を視野へ
- 学校数学から学習数学への拡張
共同(いっしょに)
協同(力を合わせて)
協働(切磋琢磨して)
による数学の学び
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The Research Summer School
The three-week Research Summer School (RSS)
takes place in July–August.
The scientific program of RSS includes:
Lectures and practical courses
during the first two weeks
High School Students Workshop
in the third week Social program
3.数学コーチャーのシステムの構築
(1) ティーズ・マインド + コーチャーズ・マインド
(2) 数学コーチャーの育成
・・・はやりの「コミュニケーター」とは異なる
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3.公教育のカリキュラム・システムの整備
3.公教育のカリキュラム・システムの改善
(1) 数学を基盤として支える内容の重視
・・・物理、化学、語学なども
・・・InfomaticsとMathematics
(1) 数学を基盤として支える内容の重視
(2) 数学カリキュラムの共通性と個別性
3.公教育のカリキュラム・システムの整備
(2) 数学カリキュラムの共通性と個別性
① 共通性は実質的・本質的に
・・・数学的活動(創造・活用・説明)を
中心としたもの
② 個別性は大胆に(公正)
中等教育を中心に
・・・各学校が教科の教育において
特色を出しやすくする
・・・選択に充てる時間を増やし、
内容や科目の設定は学校に委ねる
◎ 算数的活動・数学的活動の充実
数量や図形などについて実感的な理解
を深めたり,
数学的な思考力を高めたり,
算数・数学の学習の楽しさや学ぶこと
の意義を実感したりできるようにするた
めに,
児童生徒が主体的に取り組む算数的活
動や数学的活動を生かした指導を一層重
視してはどうか。
算数・数学の改善の方向
「算数・数学科の現状と課題,改善の方向性(検討素案)」
【教育課程部会(第43回(第3期第29回)、H18.8.11、資料5-1 )】
◎ 基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着
◎ 数学的な思考力・表現力の育成
◎ 数量や図形についての豊かな感覚の育成
◎ 算数的活動・数学的活動の充実
○ 統計に関わる内容の指導の充実
○ 高等学校数学の科目構成
○これまでの「内容に関する領域」に加えて「活動に関する
領域」(仮称)を設けるなどしてはどうか。
○例えば,
実生活・実社会の考察に算数・数学を生かす活動,
ものごとを筋道を立てて論理的に考え,判断する活動,
自分の考えや判断を評価し改善する活動,
自分の考えを数学的に表現したり解釈したりする活動
などを「活動に関する領域」(仮称)に例示してはどうか。
- 50 -
5.教師教育(養成・現職)の改善
SCHOOLS
HIGH SCHOOLS
SECONDARY SCHOOLS
MATH SCHOOLS
LANGUAGE SCHOOLS
OTHER SCHOOLS
- 51 -
◎ 意識の変革
① 教師よりも生徒ができるようになるのは当たり前
② 才能を伸ばすことを最重要視
③ 確かな数学観への転換
・・・数学することの実体験と反省の重視
④ 学習指導観
・・・子どもたちの学びを導くこと
1999
- 52 -
結びにかえて
数学に秀でた生徒の教育について
飯高
茂
学習院大学理学部
数学に秀でた生徒の教育について
飯
高
茂
(学習院大学理学部)
ここで,考える教育の中には入試のための勉強,すなわち験勉強は入りません。日本の
高校の教育から受験勉強を除くと,数学に秀でた生徒のための教育はおよそ行われてこな
かったといえるでしょう。実を言いますと,私は高校生の頃,受験勉強を無視して,大学
の数学を勉強するという教育を受けたことがあります。それは,1高校教師の個人的な試
みですが,その一端を NHK の生活人新書のシリーズの中の「いいたかないけど数学者な
のだ」に書きました。あるいは参考になるかもしれません。
しかし,数学の天才を育てるための教育をするべきか,あるいは,そんな教育ははたし
て可能か?と問われれば「それはとんでもないことです」と言わざるをえません。数学の
天才を教育で作ることは絶対にできません。
これと似た話は,楽天の野村監督の談話にありました。
「野球では,4番とエースは養成
できない。みつけてつれてくるしかない」という意味のことを言っていました。これは野
球人としての長い経験に裏付けられた発言ですから重みがあります。数学でも全く同じで
す。数学の天才を教育で作ることはできないのです。たとえば,15歳だけれども数学の
天才がみつかった。そこで大学で特別に教育してほしい,と言われたとします。私ならこ
う答えるでしょう。
「本当に彼が天才なら,ほっておくのが一番です。本物なら自分で勝手に数学をします。
そして,20年も経てば偉大な数学者になるでしょう。私たちができることは,奨学金を
探すこと,できれば学位を得た後で,研究に専念できる職を探すことですね。それだけで
す」
20世紀の数学の天才は,A.Grothendieck(無国籍)と佐藤幹夫(日本)の二人です。
(も
っともこれは私見にすぎません。)お二人とも 1928 年の生まれで,戦争に影響され,数学
の勉強に専念できる環境ではなかったのです。組織的に数学の勉強をする時間も,本も無
かったので,結局自分で考えて数学を作ってきたのです。幅広く,思想も深い数学がこう
して作られてきたのでした。
数学の天才を育てる教育は考えないことにします。数学ができる人をもっと支援したい,
という考え方はありえます。そしてもう少し積極的に考えていいようです。数学者のピー
ターさんが,日本の高校生は数学ができると,
「数学はもう勉強しなくていいから,英語や
社会をもっとやった方がいい」と指導されると言って笑っていました。いかにもありそう
な話です。ピーターさんも日本の教育事情に詳しいですね。
- 53 -
受験マインドの強い学校でも,数学の勉強をさらにしたい人をもう少し伸ばす方策があ
ってもよさそうです。意外なところで塾がしています。河合塾では大学の数学にもっとふ
れさせる機会を作るために K 塾というのを作り,数学オリンピックでメダルを取って東大
で数学をしているような学生を講師にして,勝手にやらせています。最初のうちは,数の
合同の概念,などとかわいいことをしていますが,すぐに大学院レベルの話に持っていき
ます。話す方はともかく聞く方はわかるはずは無いのですが,結構人気があるそうです。
塾ですから,相当な金をとってしています。また有名な塾SEGは中学生対象に,extremal
コースという,これも受験と関係ないコースを作って,古川氏と講師が勝手にやっていま
す。この8月に頼まれて,私も講師を務め3時間ほど話しました。小6を含む中学生なの
ですが,よくできて熱心でした。こういう民間レベルの努力がいまなされつつあることは,
とてもいいことです。こういうことは公教育ではできないでしょう。
世界的な規模で行われる数学オリンピックも年々盛んになっています。社会主義諸国は
だいぶ前から,またアメリカも世界一が好きな国ですから,数学オリンピックで成績をあ
げることに国として熱心に取り組んでいます。日本も最近は10位前後で安定してきまし
た。国を挙げて取り組んでいない割には日本は健闘していると言えましょう。ブルガリア
などでは,これで金メダルをとれればアメリカの大学からスカラーシップをとり,留学し
て,貧乏な国を出ることができるので,必死に努力するという面もあるそうです。
かって,文部省で,数学と理論物理を学ぶために高校2年生から大学に入れる制度,い
わゆる飛び入学制度を作る計画が出され,そこでは,数学で異能の才を持つ人を早期に大
学に入れるようにしようとしました。異能の才とは今からみてもずいぶんこじつけの多い,
苦しいいい方ですね。日本数学会はこのような特別の措置に反対しました。しかし,千葉
大学では生物学が専門の学長が先頭を切って導入しました。今でも,先進科学コースとし
て残っている制度なのですが,これまでのところ目立った成果をあげているとは言えない
状態です。
数学に秀でた生徒の教育を諸外国はどのようにしているか,という研究がなされ本日そ
の研究成果の発表がなされます。中国のように数学オリンピックにきわめて熱心なところ,
旧社会主義から脱する過程で,数学の英才教育をいかに維持するかに努めた国もあります。
諸国は事情がそれぞれですから,成功例をそのまま日本に持ってきても,うまくいかない
でしょう。むしろ失敗例に学ぶことが大切でしょう。
受験のための教育ではなく,興味をもったらそれを伸ばす教育が大切で,それを高校で
行うのは高校の先生の責任です。最近は,高校と大学の教育の連携も盛んですから,必要
に応じて大学が助力するのが適当であろうと思います。21世紀に入り,人材の育成はま
すます大切です。それを,楽しみながら,わくわくするような期待をもって数学の人材育
成をしたいものです。
- 54 -
資料1
明治図書,『教育科学数学教育』掲載原稿
数学オリンピック優勝国,ブルガリアの数学教育
優 れ た 生 徒 へ 育 て る 数 学 教 育 , そ の 背 景 に あ る も の (1)
礒田
正美
筑波大学大学院人間総合科学研究科
ブルガリアの数学の公開授業
数学オリンピック第 1 位の背景にある授業
川崎
宣昭
筑波大学附属高等学校
代数・幾何を中心としたブルガリアのカリキュラム
教科書の内容からの考察
川崎
宣昭
筑波大学附属高等学校
自己教育能力を育てるブルガリアの数学オリンピック出場のための
特別トレーニング
垣花
京子
筑波学院大学情報コミュニケーション学部
数学オリンピック優勝国,ブルガリアの数学教育
優れた生徒に育てる数学教育,その背後にあるもの⑴
礒
田
正
美
(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
2003 年 7 月東京で行われた数学オリンピックで,人口約 800 万人の農業国ブルガリアが,
人口 12 億の大国中国を押さえて初優勝した。我が国は 9 位だった。日本では,数学好きの
高校生が参加する国内予選,予選通過者の合宿トレーニングによる選考を経てオリンピッ
ク出場となる。数学オリンピックは各国 6 名の参加者がそれぞれ問題解決を行い,その高
得点者に金銀銅のランクを与え,総合して国順位を決める仕組みである。
数学オリンピックの成績は,科学技術立国を担う人材をいかに育てるか,ごく「普通の
生徒」を「優れた生徒」へ,生徒の才能をどう育てるかという国家課題と関わっている。
優れた数学者の世界でさえ,大学時代の成績序列と業績序列が逆転することは普通のこと
で,取り組む問題,指導教官の人を育てる力など,数学者が数学者として活躍するまでに
は出会いも含めた多様な要因がある。関係国では,数学オリンピック参加者が,後に情報
科学者や物理学者,医者等々になる場合も多いようで,数学オリンピックが国を担う理系
人材を育てる機会として機能している。
基礎学力を比較する国際数学調査(TIMSS)によれば,比較相対として「できる」のに
「嫌い」という生徒が多いのが漢字文化圏に共通する傾向である。特に我が国では数学オ
リンピックを志向するか否かは心の育成,我々がそこで目指されるような数学する心を育
てるかという問題と切り離せない。そこでは,我々は「何を目指すのか」が問い返される。
国際数学調査の成績がよいこと,数学オリンピックの成績が悪いこと,そこに実は日本人
が目指してきたことがよく現れている。
我々の不足を考えるきっかけを提供するために,優勝国ブルガリアで数学オリンピック
に出場する生徒をどのように育てているのかを以下数回にわたり紹介しよう。
1.数学オリンピックの発祥と数学校
数学オリンピック発祥は,東欧,旧ソ連の社会主義圏であり,特にソ連国内では数学を
競う大会は第二次世界大戦前からあったという。それが国際大会として組織されたのが
1959 年(6 カ国)であり,以後,毎年,参加国を漸次増大させてきた。初回からすべて参
加した国はチェコ,ルーマニア,ブルガリアであり,特にブルガリアは今回初優勝である。
ブルガリアの数学オリンピック国内委員会を支えてきたのは,各地の有志による数学サ
ークルである。最初にできたのがルセ市,ルセ大学を中心とする数学サークルである。数
学サークルは,大学教官と地域の高校教師とが共同して,数学好きな生徒を鍛える集いで
- 55 -
ある。
数学好きで才能のある生徒を育てるための国家的取り組みは,1970 年に設立された数学
校に象徴される。以下,最初にできた 2 校の内の 1 校,ルセ市場ババトンカ数学校を例に
する。ババトンカ数学校は,26 名×2 学級の中等学校(14 歳∼18 歳)である(ブルガリア
の学校制度は 3・4・5 の 12 年制の義務教育)。同校は 135 年前に設立された女子校を改変
して設置されており,数学校 2 学級,情報校 2 学級,生物校 2 学級が合同した学校である。
数学 2 学級の入試倍率は 2.5 倍という:ちなみに,日本で高校に科学教育の振興をめざし
て理数科が設立されたのは 1968 年である。これまでに 14 名の国際数学オリンピック出場
者を出している地方の名門校である。鳥取県の中学校と姉妹校協定を結び,これまで日本
とも国際交流をしている学校でもある。
ブルガリアの中等学校教育課程は,週 2 時間で履修する数学 1 と週 6 時間で履修する数
学 2 のいずれかを選択する形式であり,数学 2 は数学 1 の内容を含んでいる。教科書の厚
さは日本と比較して時数相応であり,週 6 時間の数学 2 は日本より内容量は多いが,大学
の内容を先取りするというより初等幾何学で取り上げる内容が深く,充実している。数学
校は数学 2 の履修が指定されているが,入試がなく入れる一般校でも数学 2 を選択しえる
点で数学校は特別ではない。予算処置も,教員研修などの仕組みも一般校と同等であると
いう。
数学校の特殊性は,数学好きの生徒が選抜されていること,数学オリンピック問題集を
副読本として持たせていること,放課後,希望者に補講すること,そして数学オリンピッ
クの出場者やその関係者など,数学サークルの担い手が教師や校長をしている点である。
ただし,オリンピック出場経験のある教員は一般校にもおり,一般校からもオリンピッ
ク出場者が出る。日本の学校でも放課後に補講があり,問題集を利用する。そうなると数
学校の特殊性は,数学好きの生徒が選抜される点にどうやら限られる。最初から選抜者で
ある点で授業の進度,深さが一変することは,日本の 6 年一貫の私立校をみれば明らかな
ことだが,それだけであれば日本並みであり,この小国がなぜ,数学オリンピックで優勝
しえたのか説明できない。
2.普通の生徒を優秀な生徒へ育成する仕組み
日本と比較して明瞭に違うのは数学に関心をもつ生徒,数学好きで将来,情報科学や数
学など数学的推論に基盤をおく科学技術の担い手を育てる仕組みが数学関係者に共通する
社会文化的営みとして存在する点である。学校で指定されるから数学を学ぶ,塾で入試を
煽られるから数学を学ぶのではなく,自らの知的好奇心を満たす楽しみとして数学を学ぶ。
それは,日本では和算家の時代を想像させる営みである。以下,数学サークル,サマー・
セミナーに象徴されるその営みを紹介する。
1)世代を超えた数学サークル
- 56 -
すでに 40 年を超える伝統をもつ数学オリンピックは,最初の数学サークルで高校生を鍛
えた第一世代,そのサークルで鍛えられ,オリンピックに出場し,今,数学者・情報科学
者,数学教師を本職としながら数学サークルを支える第二世代,そして,第二世代が鍛え
る現役高校生という三世代にわたる数学の地域社会を形成している。あの人の息子が誰で,
誰に教わった彼が,勉強会で知り合った彼女と結婚して,その息子が今,勉強会に来てい
るというような社会がそこにある。
特に,第二世代の数学校設立 1970 年時には,国としての数学課程が週 9 時間,放課後希
望者に補講週 2 時間,特に数学オリンピック候補者向けに週 6 時間,計 17 時間もの数学授
業が設けられたという。もとの授業時数が多いのはもちろんだが,追加の 8 時間は日本で
言えば進学塾の特訓相応である。その後,基準として授業時数は週 6 時間に減り,ルセ市
の場合希望者に補講 2 回(1 回 4 時間)が組まれている。8 時間もの補講は,市民会館で,
数学校の生徒に限定せず,一般生を対象に行われる。学校を離れてそのような取り組みが
なされてきたことは,ひとえに数学を学ぶ楽しみ,数学を教える楽しみを基礎にした主体
的な社会文化的営みが行われてきたことを示している。教える側も,週 6 時間の授業で扱
わないような内容を 8 時間分工夫することは,数学を教えることを楽しめるからこそでき
ることである。
オリンピック前に候補者向けに行われる大学関係者・出場者による特別補講もまた,数
学を学ぶ楽しみ,教える楽しみとして行われてきた。日本の進学塾との相違は,市民会館
で教える際の財政的支援は市が,大学で教える際の財政的支援は大学が行い,保護者・本
人負担が全くない自発的な営みとしてその補講が進められていることである。
2) ヴァルカン数学サマー・セミナー
国際数学オリンピック委員会委員長アレクサンダー・ソイファ(コロラド大学)は,ブ
ルガリアの優勝を祝う国内の祝賀会で次のような祝辞を送っている。
「15 年前,ブダペストで数学教育世界会議の『優れた生徒育成部会』に出席したとき,
見知らぬ座長で今回優勝を果たしたブルガリア国内委員会の代表を務めるピータ・ケンデ
リュから声をかけられた,久しぶりと。どこであったか聞くと,22 年もの間,一度も会う
こともなく,優れた生徒をどう育てるかを問題にするあの部会で再開した。お互い顔も変
わり,相対する異なる世界にいたが,その一言で,時を越えてともに学びあった時代の記
憶がよみがえった。我々はそれ以来,次世代を担う若者を育てるための文化を培う道をと
もに歩んできた。おめでとう。ブルガリアのみなさん。」
日本も含めて各国の数学オリンピックは,携わる関係者が更新を自ら育てる文化的営み
として展開されてきた。特にバルカン地域では,バルカン数学オリンピックが 1980 年より
開催され,その参加者を鍛えるバルカン数学サマースクールが 1989 年より催されてきた。
数学好きの生徒とそれを鍛える教師が,旅券代を派遣国負担,宿泊費を開催国負担という
各国支援のもとで,毎年,夏に学びあっている。既に,この地域では,数学者・情報科学
- 57 -
者,そして優れた生徒を鍛える数学教師は,オリンピック,サマースクール以来の国境を
越えた友人である。その絆は強い。
日本に欠けるもの,それは普通の生徒を,数学者と数学教師が数学好きの優れた生徒へ
と鍛えようとする社会と,その営みを楽しむ教師・研究者,生徒の存在である。そこで楽
しむのは生徒が挑戦する数学であり,数学者が研究中の数学ではないし,教育者が話題に
する理解や指導法でもない。生徒を鍛える数学を数学者,数学教師も自ら楽しみ,ともに
営む,そのような文化が日本にも一層必要な気がしてならない。
- 58 -
ブルガリア数学の公開授業
数学オリンピック第 1 位の背景にある授業
川
宣
昭
(筑波大学附属高等学校)
1.はじめに
2003 年度国際数学オリンピックでは,ブルガリアが第 1 位を獲得した。そのブルガリア
のルセ市のババトンカ数学学校で 1 時間,タルノボ市のエミリアスタニエック校(ギムナ
ジウム)で 1 時間の公開授業が International Conference(ICCME&EGS ‘03)[参照 1]の中で
行われた。前者の学校では教師が事前に出題した初等幾何学の問題を取り上げ,後者はほ
ぼ教科書にしたがってピタゴラスの定理の教材が扱われていた。後者の授業は,夏休み前
に行われた授業の再現であった。エミリアスタニエック校では”Math 1”の教科書を利用し
て週当たり 2 時間,ババトンカ数学学校では”Math 2”の教科書を利用して週当たり 6 時間
の授業が実施されている。本稿では,それぞれの授業で扱われた教材とその特徴・生徒の
活動について,日本の場合と比較しながら紹介したい。
2.ババトンカ数学学校の公開授業の教材
60 分間の授業時間の中で,教師があらかじめ出題しておいた課題を生徒に発表させる形
式で行った。発表で用いる図はあらかじめ OHP シートとして用意し,生徒の発表と同時に
OHP のプレゼンテーションを他の生徒が援助するという形式である。紹介された問題は 9
題だが,ここではそのうち 3 題を紹介する。難易度は比較的高いものが多い。
[1]△ABC について辺 AB の中点を M とし,中線 CM 上に 3 点
M 1 , M 2 , M 3 を CM 1 = M 1M 2 = M 2 M 3 = M 3 M となるようにとる。ま
た, AM 1 , AM 2 , AM 3 と BC との交点をそれぞれ B1 , B2 , B3 とし,BC
の長さを a とするとき, CB1 , B1 B2 , B2 B3 , B3 B の長さを a で表せ。
[2]平行四辺形 ABCD の線分 AD 上に任意の点 M をとり,線分 CM
DB DA
−
= 1 であることを
DN DM
と対角線 BD との交点を N とするとき,
証明せよ。
[3]中 心 O1 , 半 径 r1 の 円 k1 と 中 心 O2 , 半 径 r2 の 円 k2 ( た だ し ,
O1O2 > max(r1 , r2 ), r1 > r 2 )が異なる 2 点 A,B で交わっており,線
分 O1O2 と円 k1 及び k 2 との交点を図のようにそれぞれ M,N とする。
この 2 円の共通接線を ST とし,MS と NT との交点を P とすると
き,
- 59 -
(a)3 点 A,B,P は一直線上にあることを証明せよ。
(b)PA・PB・MN=PM・PN・ST が成立することを証明せよ。
3.エミリアスタニエック校の公開授業
約 1 時間の公開授業は,以下の内容・順序・時間配分で行われた。
∼ 5分
学習目標を明らかにする。(本日の公開授業の意図を含む。)
∼ 7分
テープを用いて古代ギリシャの音楽を生徒に聴かせる。
∼16 分
右図を用いて,△ABC∽△ACD であることの証明
を生徒が行う。
∼20 分
同様に△ABC∽△BCD,△ACD∽△BCD の証明を
生徒が行う。
∼31 分
右図における辺の長さの関係 xy = z 2 の証明と,その
式が相似の性質を意味していることの説明を教師が行う。
∼35 分
以上で証明した相似の性質を利用して,ピタゴラスの定理
教師が行う。
∼36 分
定理を発見したピタゴラスの人物写真を紹介
する。
∼37 分
右の写真を用いて定理の別証を教師が行う。
∼44 分
〔例題 1〕の実践
〔例題 1〕樹木が側に倒れたときの話題
川幅が 4m,地上 3m の部分で樹木が倒れてしまったときに,川の向
こう岸に樹木の頭が届いていた。樹木の倒れる方角が,川の流れと垂
直であったとき,樹木の高さを求めよ。
∼48 分
〔例題 2〕の実践
〔例題 2〕風が吹いて蓮の花が移動した距離から湖の深さを知る方法
湖に咲いている蓮の花の水面上の高さが 0.5 フィートであった。
その花は強い風が吹いてちょうど 2 フィート離れた場所に沈ん
だ。このとき,湖の深さを求めよ。
∼54 分
〔例題 3〕の実践
〔例題 3〕直接測定できない円の半径を求める方法
ある作業をしているときにディスクが壊れてしまい,その
ディスクの半径を直接測定できなくなった。ディスクの弧の
上にある異なる 2 点間の距離が 8cm,円弧の高さが 2cm であ
るとき,そのディスクの半径を求めよ。
∼54 分
ピタゴラスの定理の代数的な活用例
- 60 -
a 2 + b 2 = c 2 の証明を
3 辺の長さが”6, 8, 10”,” 3 , 6 , 3”,”2, 4, 5”の場合に直角三角
形であるかどうかの判定を生徒にさせる。
∼57 分
実用的な測量の話を教師が行う。
∼59 分
右写真のように 3:4:5 の直角三角形を利用した
測量の方法を,生徒を交えながら紐を使って行う。
∼61 分
本日のまとめを行う。
4.2 つの公開授業の特徴と日本との比較
●数学の授業の内容について
ババトンカ数学学校では,紹介した 3 題の事例のように問題のレベルがかなり高い。夏
休み中に出題された課題を発表するという形式であっても,その問題の本質を生徒自身が
しっかりと掴んでいなければ,板書しながら発表するという方法はとれない。問題はすべ
て初等幾何学であり,日本のカリキュラムと比較して,初等幾何学の教育は充実している
と考えられる。また,これらの教材を準備したり,指導する教師の実力もかなりのもので
あると考えられ,数学学校の場合には国際数学オリンピックに出場した生徒が教師として
戻ってくるという例も少なくない。
エミリアスタニアック校の場合は,音楽を聴かせたり数学者の写真を教室に準備してお
くなど,数学史の内容に力を入れた教材を教師自身が準備している。また,扱われている
〔例題 1〕∼〔例題 3〕のような練習問題も興味深い実践的なものが多く,生徒も面白い題
材だと考えて問題に取り組んでいることだろう。更に前ページのような図を事前に準備し
ておくなど,教材研究が大変熱心に行われていることがわかる。
●授業の進度
エミリアスタニエック校では,ある程度教科書の内容に従った授業であった。公開授業
は,既に生徒が学習した内容を再び実施するというデモンストレーションであったため,
様々な実験をさせたり練り合い活動の時間をほとんどとらなかったが,週に 2 時間という
時間数から考えて,通常の授業もあまりゆっくりとした進度では難しく,この日の 1 時間
分の授業は,実際には 2 時間程度しかかけていないだろう。日本で同じ内容の授業をする
場合は,3 時間以上必要ではないかと思われる。ババトンカ数学学校では,使われている
数学の教科書の厚さがエミリアスタニアック校のものの約 2.5 倍あり,週当たり 6 時間の
授業があっても,進度はある程度速くなければならないだろう。いずれの学校も,それだ
けの進度に耐えうる数学の力が多くの生徒にあるものと考えられる。
●生徒の授業中の活動
日本では,ほとんどの生徒が自分の解答のすべてを黒板に書いてから説明をする。しか
し,ブルガリアの生徒の場合は両者の学校とも,板書をしながら自分の考え方を説明でき
る。その説明も,自分のノートを見ながら話をするのではない。日本でこのような活動が
- 61 -
できる生徒は少数ではないかと思う。数学を専門とする学校であってもなくても生徒にこ
のような説明能力があることは,ブルガリアの国民全体が数学を学習する文化的な伝統が
あるのではないかと思われる。
●生徒の授業後の活動と教科書
日本の教科書に比べて練習問題がかなりたくさんあり,答えもある程度充実している。
教科書の解説も丁寧であまり飛躍がなく,日本の教科書よりもレベルが高いが,わかりや
すい記述になっているので,授業で動機付けられた後,生徒は自分の力でその日の学習を
深めることができる。ただし,
「解説+定理+証明」あるいは「解説+例題+解答」という
形式が多く,大学等で扱う数学の専門書の高校版という感じがする。日本の教科書のよう
に「調べてみよう」という題材や,練り合い活動のために記述された部分は少ないように
感じる。
参 照 : (1)”CREATIVITY IN MATHEMATICS EDUCATION AND THE EDUCATION OF
GIFTED STUDENTS”
- 62 -
代数・幾何を中心としたブルガリアのカリキュラム
教科書の内容からの考察
川
宣
昭
(筑波大学附属高等学校)
1.はじめに
2003 年度国際数学オリンピックで第 1 位を取得したブルガリア
の数学のカリキュラムがどのようになっているのかについては大
変興味深い。本稿では,購入してきたブルガリアの数学の教科書
を参考資料とし,どのような内容がどの学年で扱われているのか
についての日本との違いや,扱われている内容の教科書の記述方
法の違いについて紹介することにする。なお,7 年生は日本の中
学校 1 年生,12 年生は高校 3 年生に相当する。
2.教科書の練習問題の充実
章末問題で扱われている練習問題の題数が大変多い。
ブルガリアの後期中等教育段階では数学を専門とする
学校と標準的な学校が存在するが,後者で扱われてい
る教科書の場合,例えば,9 年生の無理方程式を扱う
章では 48 題(上写真)。相似を扱う章では 21 題(左写
真)の練習問題が掲載されている。幾何の問題では図
の掲載がほとんどなく,問題文から図を描ける力を養
成していることになっている。
3.代数計算の教材の充実
前項の写真のように,9 年生ですでに無理方程式ほ扱ってい
る。その他の 9 年生の代数教材として右枠の問題が教科書に掲
載されており,少々驚きを感じる。日本の高校 1 年生の因数分
解や展開公式,整式の除法,2 次方程式の解の公式や解と係数
の関係,分母の有理化の計算,分数方程式や無理方程式,高次
方程式,2 次以上の連立方程式,二重根号を扱っており,それ
ぞれの練習問題が前項の写真のように充実している。また,式
の計算では,右枠の③の形式の計算問題が多く扱われており,
文字式の計算の学習意義を生徒に伝えようとしている。
- 63 -
日本の前期中等教育の最初の年に当たる 7 年生では,一次不等式,連立一次不等式・二
次不等式(二次関数を用いないで代数的に処理できる程度のもの)が扱われる一方,日本
の場合は旧課程で中学校 3 年生で扱われ,更に新課程では高校 1 年生の内容となった。更
に絶対方程式や不等式も扱われ,かなり代数計算に力を入れた内容である。日本の後期中
等教育の最初の年である 10 年生では指数法則や対数法則が扱われている。
4.初等幾何学の教材の充実
ブルガリアでは,代数教材と同様に初等幾何の教材も充実している。教科書の本文では
図が掲載されていることが多いが,練習問題では,前述のように問題文から自分の力で図
を描くことが要求される。
9 年生の教科書では,日本の場合と同様に円の性質,相似の性質,三平方の定理が取り
上げられている。円の性質は,接弦定理や円に内接する四角形の性質が含まれ,円の性質
と相似三角形の問題を組み合わせた例題も扱われている。また,チェバの定理・メネラウ
スの定理も積極的に取り上げている。三平方の定理では,定理の証明とその応用問題を取
り上げた後で三角比を定義し,30°,45°,60°の三角比の値,三角比の相互関係の公式
とその証明も扱われている。また,座標平面上に図形を置くという解析幾何学の発想を導
き出すような扱いもあり,座標平面上で両端点の座標を与えた線分の長さを求める公式も
扱われている。
10 年生では日本と同様に三角比が扱われ,ヘロンの公式も掲載されているが,三角比を
用いた初等幾何学の問題解決が主流であり,15°や 75°などの三角比の値を初等幾何学の
知識で求めたり,円に外接する多角形の面積を求める公式などが例題として扱われている。
11 年生では三角関数の和積・積和公式が取り上げられ,日本の場合には高校 2 年生の教科
書に 2∼3 貢程度の掲載だけだが,ブルガリアの教科書では初等幾何学の問題に応用する例
題 が 多 く 掲 載 さ れ , 三 角 比 を 用 い て 二 等 分 線 の 長 さ を 求 め た り ,
sin α + sin β + sin γ = 4 cos
α
2
cos
β
2
cos
γ
2
の等式の証明問題も例題の中にある。すべての生徒
がこれらの教材を学習しており,ブルガリアのカリキュラム全体として幾何教育の充実が
伺える。
主に数学を専門とする学校では,標準的な学校では扱わないベクトルを学習し,平面幾
何や空間図形の問題の解決を目的とした学習が行われている。更に,12 年生で立体の切断
に関する図形問題,カヴァリエリの原理を用いた求積問題など,教科書の約 4 分の 1(年
間約 90 時間程度と推測)が幾何学の内容に関する教材である。日本の教科書では次貢のよ
うに公式化していないが,ブルガリアの教科書 2 では公式化されている教材がある。ブル
ガリアの幾何教育の充実の一面がうかがえる。
<中線の長さを直接求める公式>
- 64 -
AB = c, BC = a, CA = b とし,辺 AB,BC,CA の中点をそれぞれ
M c , M b , AM a = ma , BM b = mb , CM c = mc とするとき,
1
M a A2 = (2b 2 + 2c 2 − a 2 )
4
1
M b B 2 = ( 2c 2 + 2 a 2 − b 2 )
4
1
M cC 2 = (2a 2 + 2b 2 − c 2 )
4
5.基礎的な統計教育は全員が学習
日本の場合,統計的な内容は中学校でほとんど扱われなくなったり,高等学校でも選択
制によって理系の生徒でも学習する機会が少なくなった。しかし,ブルガリアではすべて
の生徒が資料の整理を 11 年生で学習する。度数分布表を作成したりそれらの平均値を求め
ることを学習し,棒グラフや折れ線グラフ
で分布図を視覚的に表現することまで学習
する。数学を専門とする学校では更に 12
年生で正規分布を利用して分数や標準偏差
の意味と求め方を学習する。場合の数や確
率の学習はほぼ日本の場合と同じ内容をす
べての生徒が学習するが,数学を専門とす
る学校でも検定や推定の話までは扱ってい
ない。
左の写真は,統計的な内容を扱っている
11 年生の教科書の一部分である。
6.意外な教材が理系のみの学習内容か?
日本の場合,複素数の話は高校 2 年生の数学Ⅱ(新課程)の複素数と方程式の部分で学
習する。旧課程では数学 B で複素数平面が扱われていたが,新課程では扱わなくなった。
ブルガリアでは 11 年生まで複素数を扱わず,数学を専門とする学校の 12 年生で初めて複
素数を学習する。しかも,複素数平面まで扱うことになっている。
ブルガリアでは意外なものがあまり扱われていない。日本の場合,センター試験の出題
科目との関連で,文系の生徒でも微分法・積分法を学ぶ機会が多いが,ブルガリアでは日
本の通常の微分法の学習が数学を専門とする学校の 12 年生で行われている。また,購入で
きた教科書の中に積分の計算は見当たらない。整関数の範囲の不定積分や定積分の計算が
扱われていない可能性がある。ただし,数学を専門とする学校の 11 年生で学習する数列で
は,日本の高等学校の理系の生徒が高校 3 年生で学習する無限の概念まで扱われている。
- 65 -
(標準的な学校では有限数列の扱いである。)なお,ブルガリアでは,日本の高校生にとっ
て悩みの種である漸化式がほとんど扱われていない。
日本では解析が中心のカリキュラムであるという話をよく聞く。日本の高等学校では旧
課程までほとんど初等幾何学を扱わず,今回の新課程でも今まで中学校で扱ってきた初等
幾何学が高等学校に移行したものである。ブルガリアの場合は,解析よりも代数や幾何が
主流のカリキュラムであると考えられる。それゆえ,数列や微分法・積分法の扱い方が日
本の場合よりも緩やかになっていると考えられる。
教科書で扱われている問題の中には,日常生活との関連を考慮したユニークな教材もあ
り,将来数学とは無縁な生徒に知的好奇心を誘発させるような興味関心のある例題も多数
扱われており,日本のカリキュラムとの相違点も含めて別な機会に紹介したい。
- 66 -
自己教育能力を育てるブルガリアの
数学オリンピック出場のための特別トレーニング
垣
花
京
子
(筑波学院大学情報コミュニケーション学部)
9 月 は じ め に ブ ル ガ リ ア で 開 催 さ れ た 第 3 回 ICCME&EGS (International Conference
“Creativity in Mathematics Education and The Education of Gifted Students”)の特別講演で Sava
Grozdev 氏が「生徒−研究者」と題し,自己教育 (self-education)について述べた。ブルガ
リアが数学オリンピックで優秀な成績をおさめるために行っている特別トレーニングの目
的の 1 つが,自己教育力の育成であると述べている。日本では「自己学習能力を育てる」
ことに関して 1983 年に中教審教育内容等小委員会審議経過報告書の中で述べられ,「自己
教育」という言葉が使われるようになった。最近では平成 10 年告示の学習指導要領の総則
で述べられているように「自ら学び自ら考える力の育成」という言葉に成り代わっている。
現在,コンピュータが発達し,情報通信技術の環境が急速に変化し,情報の量もそれらを
得る手段も 1980 年代とは比べものにならないほど多く,各個人が自分自身で学習し,自分
自身を教育する機会も多くなるだろう。そこで,自己教育について再考察することは意味
があると考える。本文では,Grozdev 氏の講演を中心に自己教育力の育成について考察す
る。
Grozdev 氏はブルガリア科学アカデミーに所属し,長い間ブルガリアで,オリンピック
に出場するための優秀な生徒を育ててきた。
1.数学オリンピック出場の準備のためのトレーニング
ブルガリアでは,数学オリンピックに出場できるような生徒を育てるために学校の授業
とは別に,特別トレーニングが実施される。このトレーニングは,数学オリンピックに出
場経験のある教師,先輩たち,研究者,数学を楽しんでいる人たちが中心になって行って
いる数学サークルやサマーセミナー(礒田正美,2003)などの中で行われ,常に創造的な
雰囲気を作り出すようにし,この創造的な雰囲気の中で,独自の考えをもち,自分で学習
する自己教育能力を育てることを重視して行われている。その結果,生徒は研究者のよう
に,独自の考えをもち,自分で問題を見つけ自己教育ができるようになると Grozdev 氏は
述べている。
2.自己教育を実現するための動機付け
自己教育を実現するためには生徒に動機を与えることが重要であり,ブルガリアでは数
- 67 -
学オリンピックや数学コンテストに出場することが,生徒にとって自ら数学を勉強しよう
とする自己教育の大きな動機付けになっているようである。国内での数学オリンピックが
1949 年に始まり,世界で最も早くから行われ,今では,毎年,国が主催する約 30 のコン
テストやその他地域単位で行われるコンテストがある。これらは非常に質も高く,重要な
大会であり,多くの生徒が参加している。また,ヨーロッパを中心に行われている「ヨー
ロッパのカンガルー(http://www.mathcomp.leeds.ac.uk/kangaroo#kangaroo)」では,興味がわ
くような楽しい問題が集められ,小さいころから多くの子どもたちが数学を楽しみながら
参加している(Sava Grozdev)。ブルガリアの生徒にとって数学オリンピックやこれらのコン
テストでよい成績を納めることは,将来,アメリカやイギリスの大学への留学が保証され
たり,医者,情報科学者,物理学者などになることに直ちにつながったりして,将来の生
活が保証されるようである。今回,日本で行われたオリンピックで優勝した選手の 6 人の
うち若い 2 人を除いて,4 人がアメリカの大学での奨学金が保証され,2 人がハーバード大
学へ,1 人がカリフォルニア工科大学,1 人ががスタンフォード大学への留学が決まってい
る(林衛,2003)。このようにコンテストに参加し,よい成績を納めたいという気持ちが,
小さいときから育まれ,数学学習への大きな動機付けになっている。前述の中教審の審議
経過報告書の中にも,自己教育力を育成するために学習意欲をもたせる必要があり,動機
付けが重要であると述べられている。日本では,以前は, よい大学に入りたい , 良い会
社に勤めたい
ということが学習意欲をもたせる 1 つの動機付けとなったが,最近は物質
的に恵まれた子どもたちにとって,これらのことは動機付けになりにくい。数年前の数学
オリンピックで日本の代表となった女子生徒が大学で数学を専攻した後,ジャズピアニス
トになっているということを聞くと,数学学習への動機付けは
び,楽しさ
美しさ , 問題解決の喜
など感性的なものが必要になってくるだろう。
3.自己教育力をつけるための基礎になる学習活動
Grozdev 氏の講演の中で,自己教育力をつけるための基礎になる学習活動として次のよ
うなことが挙げられている。
・ 定期購読雑誌に載っているコンテストへ参加する。
・ 過去に行われたオリンピックや数学コンテストの問題を解く。
・ いろいろな話題の問題とその解決方法を整理する。
・ ある特定の話題に関する文献やインターネットで提供されている資料を読む。
・ 基礎数学に関していろいろな雑誌の中にある問題を追跡する。
・ 雑誌などに定期的に出てくる問題を整理する。
・ 特定の話題の問題や特定の方法を集める。
・ 1 つの問題のいろいろな解を探索し,発表し,議論その結果を小論にする。
・ 特別の問題を調べる。
- 68 -
・ 科学論文を含む論文を書く練習をする。
・ 国内や国際的に行われる数学の行事に参加する。
さらに,これらの活動を行うとき,彼らは各自がノートを作るように指導されている。
ノートには集めた問題や,その開方,それらに関する話題や記事をまとめ。自分自身でサ
ブノートを作り,自分が作ったノートを繰り返し読むように指導されている。一般に,人
に教えられたことはすぐ忘れるが,自分自身で調べ,自分で作ったノートの内容は身につ
いていくことになり,自己学習能力をつける大きな力になっている。生徒たちはこれらの
活動の中で,自主的に図書館で調べたり,数学的な論文を読んだり,教師や大学の先生や
研究者に相談したり,コンピュータを使って学んだりする。そして生徒の数学文化が広が
り,深まり,新しい知識を得る可能性が広がる。その結果,数学オリンピックに参加し,
成功できるような潜在力をつけると同時に数学的創造性を高めると Grozdev 氏は述べてい
る。このような活動を日ごろから繰り返すことで,ババトンカ数学学校の公開授業(川
宣昭,2003)で見たような活動,すなわち,宿題に出されたかなり高いレベルの問題につ
いて,図を OHP で写し,ノートも見ずに黒板にその解を書きながら生徒自身が説明するよ
うな活動に結びつくのだろう。
しかし,ここで示された具体的な活動は,本誌を読まれる先生の多くが,授業以外の時
間に自分自身が行ってきた数学の学習の仕方に通じることを思い起こされるのではないだ
ろうか。これらの活動は,特別優秀な生徒のための活動としてだけではなく,課題を選ぶ
ことで,多くの生徒が自分で学習する道を見つけることができるのではないだろうか。
「ヨ
ーロッパのカンガルー」の中に見られるような楽しい問題をインターネットなどで提供し,
学校以外での活動で,コンテストに参加したり,自ら数学の問題に取り組む機会を増やす
ことで,自己教育できる子どもたちを育てることができることを示唆している。今後,e
ラーニングなどの環境も整い,大人も子どもも自分自身で課題を見つけ,調べ学習する機
会が増え,ますます自己学習能力が身についていることが重要になってくる。そのために,
学校教育の中で数学の授業時間が削減されている現在,動機付けになるような機会を多く
作る必要があるとブルガリアでの数学教育の一端に触れ,あらためて強く感じた。日本で
も文部科学省が SSH(スーパーサイエンスハイスクール)プロジェクトを立ち上げ,理数
科教育の for excellent のカリキュラムを考える研究が進められている。科学,物理,生物
など理科教育では多くの実践的な新しい試みが報告されている。数学教育でも大学が主催
する特別講座,数学博物館,インターネットなどいろいろな形で,興味深い問題や話題を
提供し,数学文化に触れ,問題を解く楽しみを感じ,数学学習への動機付けになるような
機会をますます作っていく必要があるだろう。
<参考文献>
Sava Grozdev (2003), STUDENTS – RESEARCHERS, 第 3 回 ICCME&EGS, Proceeding,
- 69 -
pp.49-53
Sava Grozdev, Svetlozar Doichev, Svetoslov Savchev, The Geometric Problems in the Bulgarian
National
Competitons
–
Tendency
to
Development,
http://www.mathhouse.nct/html/articles/geo/pdf_files/The %20Geometric%20in%20Bulgarian%20
National.pdf
礒田正美(2003),数学オリンピック優勝国,ブルガリアの数学教育−優れた生徒へ育てる
数学教育,その背後にあるもの(1)−,教育科学/数学教育,11 月号,明治図書,pp.99-103
中教審教育内容等小委員会審議経過報告書,1983 年 11 月
学習指導用語辞典(1997),辰野千寿編,教育出版
川
pp.307-308
宣昭(2003),ブルガリアの数学の公開授業−数学オリンピック第 1 位の背景にある授
業,教育科学/数学教育,12 月号,明治図書,pp.98-102
林衛(2003),国際数学オリンピック日本大会,数学セミナー2003, 9, pp.4-8
- 70 -
資料2
数学における秀でた生徒を育成するためのシンポジウムフライヤー
数学における秀でた生徒を
育成するためのシンポジウム
― 世界の英才教育と自ら学ぶ子どもの育成 ―
日時 2006年12月2日(土)
8時50分~12時20分
場所 筑波大学附属小学校講堂
主催 シンポジウム実行委員会
後援 日本数学教育学会、筑波大学数学系
■主題
学びたい子どもが自ら進んで学べる公正
な教育が話題にされています。
ブルガリア、
ベトナム、中国における数学オリンピック
への取り組みを例に、学びたい子どもが
自ら進んで学べる公正な算数・数学教育
像を探ります。
註:「数学における秀でた生徒」とは数学を自ら考え自ら
学ぶ才能を備えた生徒であり、
「数学における秀でた生
徒を育成する」公正な教育とは、数学において、すべて
の生徒が、その才能をそれぞれに伸ばしえる開かれた
教育環境(公正な教育の原理)の下で、自ら学ぼうとす
る生徒がそれぞれに一層、才能を伸ばすことができる
ようにする教育を指します。
■プログラム(予定)
開場(8時50分)
総合司会●礒田正美
開会 ●飯高 茂
NCTM Principle(2000)Equity:Excellence in mathematics
education requires equity-high expectations and strong
support for all students.
各国報告
ベトナム:松嵜昭雄
中国:大根田裕
ブルガリア:招聘者:通訳有
休憩
パネル「数学に秀でた生徒の育成方略を探る」
ベトナム担当:渡辺公夫
中国担当:坂井 公
ブルガリア担当:川崎宣昭
提言1/数学に秀でた子どもを育てるには?●長岡亮介
提言2/数学に秀でた子どもを育てる政策とは?●清水静海
補足/全体討議/総括
閉会(12時20分)
■シンポジウム実行委員会
実行委員長 飯高 茂(学習院大学)
委員 長岡亮介(放送大学) 渡辺公夫(早稲田大学)
清水静海(筑波大学) 坂井 公(筑波大学)
礒田正美(筑波大学) 大根田裕(筑波大学)
川崎宣昭(筑波大学) 松嵜昭雄(筑波大学)
【事務局・問い合わせ先】
〒305-8572 茨城県つくば市天王台1-1-1
筑波大学教育開発国際協力研究センター(CRICED)
Tel:029-853-6573 (青山・茅野)/7286(礒田)
E-mail:[email protected]
【参加方法・詳細情報・更新情報】
URL:http://www.criced.tsukuba.ac.jp/math/excellent/
数学オリンピック上位国と我が国との
数学に秀でた生徒の育成方略に関する比較研究
―自ら学ぶブルガリアの数学教育と他国との対比―
(課題番号
17653110)
平成 17 年度∼平成 18 年度科学研究費補助金(萌芽研究)
研究成果報告書
2006 年 2 月発行
研究代表者:礒田正美(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
編
集
:青山和裕(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
発
行
:筑波大学教育開発国際協力センター
〒305−8572
電話
印
茨城県つくば市天王台 1−1−1
029−853−7286
刷:前田印刷株式会社
〒305−0033
電話
筑波支店
茨城県つくば市東新井 14−3
029−851−6911
- 73 -
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