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河川における外来種管理のための オオキンケイギク
土木技術資料 55-11(2013) 報文 河川における外来種管理のための オオキンケイギクの開花推移に関する新たな把握方法 小栗ひとみ・畠瀬頼子・松江正彦・栗原正夫 定量的に捉えたデータは見あたらない。 1.はじめに 1 植物の開花結実の時期は気候に影響を受けてお 河 川 の 堤 防 の り 面 や 高 水 敷 で は 、 5月 か ら 7月 1) り、南北に長い日本では開花結実の時期は大きく オオキンケイギク 異なる。そのため刈り取りに効果的な時期も、地 ( Coreopsis lanceolate )が一面に黄色い花を咲か 域によって異なるものと予想される。気候と開花 にかけて、特定外来生物 せ る 光 景 が 広 が る ( 図 -1)。 オ オ キ ン ケ イ ギ ク は 、 結実の時期の関係を把握できれば、刈り取りに最 平成3年より 5年に 1回の 頻度で実施されている河 適な時期を広域で推測することができる。 川水辺の国勢調査において、確認河川及び確認地 そこで、筆者らは、推定に必要なデータの取得 区の割合が経年的に増加し、分布が拡大している を 目 的 と し て 、 平 成 22年 度 よ り イ ン タ ー バ ル カ こ と が 報 告 さ れ て い る ( 図 -2)。 河 川 に お い て は 、 メラを用いたオオキンケイギクの開花結実調査を 平成 18年 2月の国土交通大臣を主務 大臣等とす る 実施している。本稿では、インターバルカメラに 防除の公示を踏まえ、オオキンケイギク等陸生植 より連続撮影した画像からオオキンケイギクの開 物 5種 に つい て、 除草 等の 河 川管 理行 為を 「外 来 花量の推移を定量的に把握する手法について、頭 生 物 法 」 第 11条 に 基 づ く 防 除 と 位 置 付 け た 取 り 花数の現地計測との比較によりその有効性を検証 組みが行われている。 した結果を交えて紹介する。 河川の維持管理における除草は、堤防の強度保 持や状態把握のために、出水期前と台風期の点検 に支障が生じないよう、概ね5~7月頃と8~10月 2.インターバルカメラによる連続撮影 2.1 撮影方法 頃 の年 2回 、機械 によ る刈 り取 りが 行わ れて いる。 刈り取りによる管理では、オオキンケイギクの株 調査対象地は、気候条件の異なる岩木川(青森 県 弘 前 市 駒 越地 先 )、 鬼怒 川 ( 栃 木 県さ く ら 市氏 そのものを除去する効果は低いものの、結実前に 刈り取りを行えば、種子の拡散を防止することが できる 2 )。しかし、堤防延長は極めて長大である ため、延長に沿って順次刈り取りを進めていく場 合、区間によっては管理適期を逸してしまう可能 性 が あ る 。 オ オ キ ン ケ イ ギ ク は 、 5mm程 度 の 種 a)堤防のり面 子を1頭花あたり100個程度結実する 3) 。運搬時の 図-1 b)高水敷 河川区域に広がるオオキンケイギクの群生 逸出防止に努めるとされているものの、管理時期 が結実後となった場合には、除草作業時や運搬時 (%) に種子のこぼれ落ちが生じ、拡散を助長してしま う危険性もある。より効果的、効率的な防除を行 うためには、当該地域におけるオオキンケイギク の開花結実の時期を正確に把握し、それを踏まえ て、オオキンケイギクの生育箇所の除草が適期に 合わせられるような作業工程の設定が重要である。 しかし、これまでに、開花から結実までの推移を 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 71.1 48.7 24.4 11.7 5.6 1巡目調査 ──────────────────────── New Grasping Method of the Flowering Transition of Coreopsis lanceolata for Invasive Alien Species Management in River 2巡目調査 確認河川数(%) 図-2 - 25 - 79.5 19.0 3巡目調査 27.3 4巡目調査 確認地区数(%) 河川水辺の国勢調査における オオキンケイギクの分布の推移 土木技術資料 55-11(2013) 家 地 先 )、 木 曽川 ( 岐 阜県 各 務 原 市 川島 笠 田 町地 画素数 先 ) 、重 信川 (愛 媛県 東温 市 南野 田地 先) の 4河 焦点距離 マクロモード:約50㎝ 通常モード:約1.0m~ 水平画角 49° 川の高水敷とした。各河川のオオキンケイギク生 育 地 に、 イン ター バル カメ ラ 2台 を設 置し た。 イ 動画フォーマット ンターバルカメラは、環境省のモニタリングサイ ト 1000 4) 撮影間隔 等 で 実績が あり 、価格が 安く、ま た取 扱 も 容 易 な Brinno社 製 Garden Watch Camを 使 1.3メガピクセル AVI(JPEG切出し可能) プリセット:1分、5分、30分、 1時間、4時間、24時間 カスタム:5秒~11時間59分 a)カメラ本体 用 し た ( 図 -3)。 設 置 に あ た っ て は 、 調 査 区 も し 記録画素数 くは調査区近傍の範囲で、できるだけ多くのオオ 記憶媒体 キンケイギクの個体が、個々の花が識別できる範 電源 囲 で 写り 込む よう 位置 を調 整 し 、 撮影 間隔 2時 間 電源持続時間 で頭花の連続撮影を行った。撮影期間は、オオキ 約1m ンケイギクの開花の始まりを捉えられるよう河川 大きさ ご と に開 始時 期を 調整 し( 岩 木川 : 6月上 旬、 鬼 質量 怒川:5月中旬、木曽川 :5月上旬、重信川: 4月 その他 下 旬 )、 い ず れ も 8月 31日 ま で を 基 本 と し て 設 定 USBフラッシュドライブ (8GBまで対応) 単三乾電池×4本 4~6ヶ月 (撮影頻度により異なる) (幅)9.3×(高さ)19.2× (奥行き)5.3cm 約260g(本体のみ) 飛沫防水 c)諸元 b)設置状況 図-3 した。 1,280×1,024画素 インターバルカメラ 図-4に撮影された画像の一例を示す。これらの よ る 明 る さ の バ ラ ツ キ を 補 正 す る た め 、 Adobe 画像からは 、開花が開始から 1週間~ 10日程度 で Photoshopに よ り 輝 度 の 平 均 値 を 256階 調 の 中 央 ピークを迎える様子や、結実が進んでいく様子を 値付近に調整することによって標準化を行い、解 観察することができる(図-4)。 析用画像を作成した。 続いて、各画像について、Adobe Photoshopの 2.2 撮影画像の解析方法 画像の解析は、Adobe Photoshopを用いて開花 自動選択ツールを用いて開花色エリアを画面上で 色 を 抽 出 す る 方 法 で 行 っ た ( 図 -5)。 ま ず 、 AVI 選択し、選択された範囲を黒色、それ以外の範囲 形式で記録された連続画像の中から、各日で最も を白色に二値化して、各画像の全ピクセル数に占 撮影 状態の良い画 像を選び、 JPEG形 式に変換 し める開花色エリアのピクセル数の割合(開花色面 た。次に、オオキンケイギク以外の地物などの影 積率)を算出した。それらの解析結果は、図-6の 響を排除するため、解析対象範囲の切り出しを ように時系列に整理することで、開花量の推移を 行った。なお、切り出し面積は、インターバルカ 定量的に把握することができる。木曽川の例では、 メラごとに一定とした。さらに、天候の違い等に 平成22年における開花色面積率は、5月22日頃か 5月20日 5月24日 5月 28日 6月 1日 6月 5日 6月9日 6月 13日 6月 17日 6月 21日 6月 25日 図-4 インターバルカメラで撮影された画像 木曽川で平成22年5月20日~平成22年6月25日に撮影された画像を 4日間隔で並べた例。 - 26 - 土木技術資料 55-11(2013) ら 急 激 に 増 加 し て 6月 3日 に 最 大 に 達 し 、 そ の 後 、 急 激 に 低 下 し て 6月 中 旬 に は 0に 近 い 値 で 横 ば い 画像の調整 となった。 画像解析 オオキンケイギク画像 (生データ) 開花色の色域指定 オオキンケイギクが一様に 開花している範囲の切り出し 3.頭花数の現地計測との比較 開花エリアと 非開花エリアを二値化 切り出し画像 インターバルカメラの設置位置近傍に、 輝度調整 1m×1m調査区を5区(生育数が少なかった岩木川 解析用画像 は 2区 ) 設 置 し 、「 未 開 花 」、「 開 花 」、「 開 花 終 了 画像に占める 開花色面積率の算出 ( 初 期 )」(花 弁 がし お れ、 花 弁 の色 が 濃い 黄 色に 変 色し たも の)、「 花弁 なし 」の 4分 類によ り、 頭 図-5 花 数 の 計 測 を 行 っ た 。 調 査 は 、 6月 ~ 8月 に か け 0.50 て 、 1週 間 に 1回 の 割 合 で 実 施 し た 。 平 成 22年 の のように推移しており、開花色面積率の推移傾向 と良く対応する結果となっている。この傾向は、 岩木川、鬼怒川でも同様であった。なお、重信川 0.45 0.40 開花色面積率 データを見ると、木曽川 では、開花頭花数は図-7 0.35 0.30 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 は、調査開始時に開花がほぼ終了していたため、 7 17 27 7 17 27 6 日 日 日 日 日 日 日 日 16 日 28 8… 月 18 月 8… 月 7… 月 7… 月 7… 月 6… 月 6… 月 6… 月 のカメラで撮影した場合にも、開花色面積率が高 5… 日 また、カウントデータを扱うことのできるポア と開花色面積率の関係を解析したところ、いずれ 5… 月 0.00 今回の分析からは除外した。 ソン回帰分析を用いて、カメラごとの開花頭花数 画像解析の手順 図-6 開花色面積率の推移(木曽川・平成 22年) 木曽川における平成 22年5月18日~平成22年8月19日の 撮影画像を解析した結果 いほど頭花数も有意に多いことが明らかとなった 90 80 これらの結果により、オオキンケイギクの開花 量を定量的に把握する手法として、インターバル カメラによって連続撮影された画像から、開花色 面積率を算出する方法が有効であることが確認さ 平均開花頭花数 (表-1,図-8)。 70 60 50 40 30 20 10 8… 18 28 7 17 27 7 17 27 6 16 日 日 日 日 日 日 日 日 日 本手法の適用にあたっては、インターバルカメ 月 8… 月 7… 月 7… 月 7 … 月 6… 月 6 … 月 6… 月 5… 日 4.インターバルカメラ設置上の留意点 5 … 月 0 月 れた。 平均開花頭花数の推移(木曽川・平成 22年) 図-7 ラ設置の際に、以下の点に留意することにより、 60 効果的な画像解析を行うことができるので、参考 50 カメラごとのポアソン回帰分析の結果 カメラ 岩木川No.1 岩木川No.2 鬼怒川No.1 鬼怒川No.2 木曽川No.1 木曽川No.2 標準回帰係数 0.508 0.308 0.719 0.791 1.090 1.134 S.E. 0.061 0.072 0.029 0.033 0.040 0.045 z値 8.29 4.29 25.11 24.17 27.05 25.02 平均開花頭花数 表-1 p値 <0.001 <0.001 <0.001 <0.001 <0.001 <0.001 [凡例] 40 岩木川No.1カメラ 岩木川No.2カメラ 30 鬼怒川No.1カメラ 鬼怒川No.2カメラ 20 木曽川No.1カメラ 木曽川No.2カメラ 10 平 成 22年 の デ ー タ を 用 い た 。 開 花 頭 花 数 に 対 す る 開 花 色 面積率の標準回帰係数を示している。 S.E.は回帰係数の標 準 偏差 。 z値は 回帰 係数 を標準 偏差 で割 った 値で 、この値 を 使って回 帰係数の 有意性 検定 であるWald testを 行って い る 。 そ の 結 果 、 い ず れ も有 意 水 準 1%で 、 有 意 な 差 が認 められた( p<0.001)。 - 27 - 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 開花色面積率平均 図-8 平均開花頭花数と画像解析値との関係 平成22年のデータを用いた。 土木技術資料 55-11(2013) とされたい。 目標を設定しており、外来種対策の具体的な施策 ①インターバルカメラの設置位置とオオキンケイ のひとつとして、河川における外来種の急速な分 ギクの個体との距離が接近していると、特定の 布拡大を踏まえた外来種対策の推進が挙げられて 花が大写しになって開花面積を過大に評価する いる。オオキンケイギクのみならず、外来種の管 ことになるため、個々の花が識別できる範囲で、 理を効果的・効率的に進めるためには、地域に できるだけ多くの個体が写り込むよう位置を調 よって異なる開花結実特性を把握することが必要 整する。 であり、その際に本手法が役立つものと期待する。 ②オオキンケイギクの開花色の誤推定の原因にな る黄色系統の色(標識ロープなど)が写り込ま 謝 ないようにする。 辞 調査にあたっては、東北地方整備局青森河川国 ③画像の切り出しにかかる労力を軽減させるため 道事務所、関東地方整備局下館河川事務所、中部 に、できるだけ人工構造物等の地物や背景の空 地方整備局木曽川上流河川事務所及び四国地方整 などが入らないように画角を調整する。 備局松山河川国道事務所に大変お世話になった。 ④強い光が当たると、花に当たった光の色調と、 ここに感謝の意を記します。 葉や果実など花以外の植物体に当たって反射し た光の色調の差異が少なくなり、開花色の誤推 定の原因になるため、設置方向は昼間の反射の 強い南向きを避ける。 ⑤ USBメ モ リ か ら の デ ー タ の 回 収 等 の 作 業 時 に 、 インターバルカメラの画角にずれが生じないよ うにする。 5.おわりに 本稿では、簡易に使用できるインターバルカメ ラと一般的な画像編集ソフトを使って、オオキン ケイギクの開花量の推移を定量的に把握する手法 を 紹 介し た。 4河 川に おけ る イン ター バル カメ ラ で の 連 続 撮 影 は 、 平 成 25年 度 ま で 継 続 し て 実 施 しており、データの蓄積を図っている。今後、そ れらのデータをもとに開花結実時期と気象条件と の関係を解析し、管理に最適な時期の推定を行う ことで、効率的な河川管理に寄与していきたい。 「生物多様性国家戦略2012-2020」(平成24年9 月)では、愛知目標の達成に向けたわが国の国別 小栗ひとみ 国土交通省国土技術政策 総合研究所道路研究部緑 化生態研究室 主任研究 官 Hitomi OGURI 参考文献 1) 特 定 外 来 生 物は 、 生 態 系、人 の 生 命 ・ 身体 、 農 林 水 産 業 へ 被 害を 及 ぼ す 、又は 及 ぼ す お それ が あ る と し て 、「 特 定 外 来 生 物 に よ る 生 態 系 等 に 係 る 被 害 の 防 止 に 関 す る 法 律 」( 略 称 : 外 来 生 物 法 ) に 基 づ い て 指定 さ れて お り 、そ の 飼 養 、栽 培 、保 管、 運 搬 、 輸 入 は原 則 禁 止 、野外 へ 放 つ ・ 植え る 、 ま く こ と は 禁 止と さ れ 、 必要な 場 合 に は 防除 を 行 う とされている。 2) 畠 瀬 頼 子 、 小 栗 ひ と み 、 松 江 正 彦 : 刈 り 取 り 管 理 の時期および回数が特定外来生物オオキンケイギ クに及ぼす影響と防除効果、ランドスケープ研究 73(5)、pp.421~426、2010 3) 畠 瀬 頼 子 、 小栗 ひ と み 、松江 正 彦 : 木 曽川 の 礫 河 原に侵入した特定外来種オオキンケイギクの生 育・開花特性と種子生産、ランドスケープ研究 70(5)、pp.467~470、2007 4) 正 式 名 称 は 、「 重 要 生 態 系 監 視 地 域 モ ニ タ リ ン グ 推進事業」という。全国の様々なタイプの生態系 に 1000ヶ 所程度 の調 査サイト を設 け、長 期継 続し てモニタリングを行っている。 この他に、本調査の関連論文として、 5) 小 栗 ひ と み 、 畠 瀬 頼 子 、 松江 正 彦 、 栗 原 正 夫 : イ ン タ ー バ ル カ メ ラ を 用 い たオ オ キ ン ケ イ ギ ク の 開 花 量 の 推 定 方 法 、 ラ ン ド ス ケ ー プ 研 究 76(5) 、 pp.493~496、2013 畠瀬頼子 松江正彦 国土交通省国土技術政策 総合研究所道路研究部緑 化生態研究室 招聘研究 員、学術博士 Dr. Yoriko HATASE - 28 - 神奈川県県土整備局 都市部参事(前 国土 交通省国土技術政策総 合研究所環境研究部緑 化生態研究室長) Masahiko MATSUE 栗原正夫 国土交通省国土技術政策 総合研究所道路研究部緑 化生態研究室長 Masao KURIHARA