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研究開発実施終了報告書(PDF:1393KB)

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研究開発実施終了報告書(PDF:1393KB)
公開資料
(様式・終了-1)
社会技術研究開発事業
研究開発領域「情報と社会」
研究開発プログラム「ユビキタス社会のガバナンス」
研究開発プロジェクト
「カントリードメインの脆弱性監視と対策」
研究開発実施終了報告書
研究開発期間
平成20年5月~平成22年10月
研究代表者氏名 三上喜貴
(所属、役職)長岡技術科学大学
教授
報告書目次
1.研究開発プロジェクト ............................................................ 3
2.研究開発実施の概要 .............................................................. 3
(1)研究開発目標と研究開発項目 .................................................. 3
(2)研究成果 .................................................................... 3
(2-1)CDG Maturity Index の開発 .............................................. 3
(2-2)Model TLD Charter の開発 ............................................... 4
3.研究開発構想 .................................................................... 6
(1)構想の発端-小さな島嶼ドメインに何故大量のウェブページが存在するのか?....... 6
(2)デジタルデバイドという文脈 .................................................. 8
(3)国際的な議論の動向 .......................................................... 9
(4)研究の方法 ................................................................. 10
4.研究開発成果 ................................................................... 12
4.1 カントリードメイン評価指標の開発(長岡技術科学大学グループ) ............... 12
(1)研究開発目標 ............................................................... 12
(2)研究開発実施内容及び成果 ................................................... 12
(2-1)評価枠組み ........................................................... 12
(2―2)12 の指標 ............................................................. 15
(2-2-1)ドメインの相対価格(月間所得との比率) ........................... 15
(2-2-2)ドメインの相対価格(世界平均価格との比率) ....................... 17
(2-2-3)人口当たりのドメイン発行数 ....................................... 17
(2-2-4)サーバのドメイン外設置比率 ....................................... 17
(2-2-5)国際ニュースメディアへのリンク数 ................................. 17
(2-2-6)国際化ドメイン名(IDN)発行数 .................................... 18
(2-2-7)人口当たり現地言語ページ数 ....................................... 19
(2-2-8)現地言語ページ比率 ............................................... 19
(2-2-9)リーバーソン指標で測った言語多様性 ............................... 19
(2-2-10)スパムメール発信源比率 ......................................... 20
(2-2-11)ドメインの匿名登録者比率 ....................................... 22
(2-2-12)紛争解決手続きの利用可能性 ..................................... 22
(2-3)データ収集対象ドメイン ............................................... 23
(2-4)ガバナンス評価の視覚化 ............................................... 25
(2-4-1)価格行動の窓 ..................................................... 25
(2-4-2)利用水準の窓 ..................................................... 26
(2-4-3)オープン性の窓 ................................................... 27
(2-4-4)言語多様性の窓 ................................................... 30
(2-4-5)言語別構成比 ..................................................... 32
(2-4-6)セキュリティの窓 ................................................. 35
(2-4-7)信頼性の窓 ....................................................... 37
(3)研究開発成果の社会的含意、特記事項など ..................................... 38
(4)研究開発成果の今後期待される効果 ........................................... 38
1
4.2 国際連携とモデルチャーターの開発(国際リエゾン・グループ) ................. 39
(1)研究開発目標 ............................................................... 39
(2)関与者の特定 ............................................................... 39
(3)ccTLD の利用実態の調査 ...................................................... 40
(3-1)ccTLD の管理運用主体の状況 ............................................ 40
(3-2)ccTLD の利用実態 ...................................................... 42
(3-2-2)外国人料金を設定している ccTLD .................................... 46
(3-2-3)無料の登録が可能な ccTLD .......................................... 46
(3-2-4)管理運用実態の調査の結果 ......................................... 47
(3-3)違法・有害コミュニケーションへの対応 ................................. 51
(3-4)まとめ ............................................................... 52
(3-4-1)ccTLD の自治と責務に関する考え方 .................................. 52
(3-4-2)社会的要請への対応 ............................................... 52
(3-4-3)利用者との関係 ................................................... 52
(4)Model TLD Charter の開発 .................................................... 52
(4-1)基本的な考え方 ....................................................... 52
(4-2)Model TLD Charter の意義 .............................................. 53
(4-3)Model TLD Charter で特に考慮すべき課題領域 ............................ 53
(4-3-1)長期的なドメイン名市場の成長 ..................................... 53
(4-3-2)違法・有害コンテンツへの対策 ..................................... 53
(4-3-3)マルチステークホルダー型の管理運用体制の整備 ..................... 54
(4-3-4)Model TLD Charter ................................................ 55
(4-4)Model TLD Charter .................................................... 55
(5)モデルチャーターの社会的実装のための働きかけ ............................... 60
(6)研究開発成果の今後期待される効果 ........................................... 61
5.研究開発実施体制 ............................................................... 61
(1)体制 ....................................................................... 62
(2)研究開発実施者 ............................................................. 62
(2-1)研究統括グループ ..................................................... 62
(2-2)国際リエゾン・グループ ............................................... 63
(3)招聘した研究開発協力者等 ................................................... 64
6.成果の発信やアウトリーチ活動など ............................................... 66
(1)ワークショップ等 ........................................................... 66
(2)論文発表(国内誌 2 件、国際誌 11 件).................................. 67
(3)口頭発表(国際学会発表及び主要な国内学会発表) ............................. 68
(4)新聞報道・投稿、受賞等 ..................................................... 69
(5)特許出願 ................................................................... 70
(6)その他の発表・発信状況、アウトリーチ活動など ............................... 70
2
1.研究開発プロジェクト
(1)研究開発領域:情報と社会
(2)領域総括
:土居範久
(3)研究代表者 :三上喜貴
(4)研究開発プロジェクト名:カントリードメインの脆弱性監視と対策
(5)研究開発期間: 平成20年5月~平成22年10月
2.研究開発実施の概要
(1)研究開発目標と研究開発項目
ドメイン名は、IP アドレス、各種プロトコルなどと並んでインターネットを構成する重要資源
(Critical Internet Resources)の一つであり、安全・安心かつ地球規模でユビキタスなネット
ワークを構築するためには、分権的管理という基本原則の下で、全ての当事者が必要な能力と規
律をもって担当ドメインの下に下位ドメインの配布を行う必要がある。
本研究開発の対象であるカントリー・コード・トップ・レベル・ドメイン(ccTLD)は世界中の
すべての国・地域に平等に割当てられた資源であり、ISO 3166-1 に記載されている国・地域コー
ドに基づき設定され、現在、約 250 の ccTLD が存在する。これらのうち、約 190 は独立国に、ま
た残りは遠隔地の海外領土などに対応し、その管理運営は当該国・地域の管理運営主体に委譲さ
れている。その配布政策、料金、規律や技術的能力、組織体制等には大きな差異が存在しており、
配布政策や料金の差異は当該国・地域におけるインターネット利用の水準に大きな影響を与え、
また規律や技術的能力の欠如は当該ドメインがスパムや不適切なコンテンツの温床となる危険性
を生む。250 の国・地域は、その人口規模、経済力、情報技術の普及の度合いや経験蓄積などの
面で大きく異なるが、安全・安心かつ地球規模でユビキタスなネットワークの実現のためには、
すべての ccTLD 管理者が一定の水準を満足するカントリードメイン管理(カントリードメイン・
ガバナンス、CDG と略す)を実現する必要がある。
インターネットのような高度の一体性を有する地球規模のインフラストラクチャを、分権的管
理という基本原則の下で管理するという事業は前例のないものであり、それが円滑に機能するた
めには、カントリードメイン管理に関する適切な目標設定と、目標の達成状況を多面的に評価で
きる透明度の高い指標が必要である。
こうした認識にたち、本研究開発事業では、以下の二つの具体的開発課題を実現し、その社会
への実装を通じて安全・安心かつ地球規模でユビキタスなネットワークの実現に寄与することを
目標として取り組んだ。
(1)カントリードメイン・ガバナンスの実態を多面的に評価する指標としての CDG Index
(2)望ましいガバナンスのための具体的な諸原則を文書化した Model ccTLD Charter
(2)研究成果
(2-1)CDG Maturity Index の開発
一般論として、ドメイン管理者の機能は、①技術(名前空間における一意性の確保)、②経済(希
少資源としての名前空間の配分)、③政策(名前に関する権利調整)の三つの領域に整理できる
(Mueller, 2002)。一方、管理者の責任という観点からは、ICANN-米商務省のAOCの枠組みが
参考になる。AOCはドメイン管理者の社会に対する4つの責任として、①公共の利益に奉仕し
説明責任と透明性ある意思決定、②DNSの安全性、安定性と耐障害性の保持、③DNS市場に
おける競争、ユーザーの信頼と選択の確保、④DNSの技術的調整における国際的参加の助長、
を挙げている。そして、国別ドメインの場合には、当該地域における利用者コミュニティへの奉
仕という責任が加わる。
こうした整理に基づき、本研究では、CDG Index として、表1に示す 12 の系列からなる指標体
系を構築した。この指標体系を構成するデータは、ドメイン管理者が公表している価格情報及び
ウェブクロウラーによる収集データの解析から得られる指標群であり、透明性が高く、また、継
続して観測することの可能な指標である。また、これを用いてガバナンスの状態を多面的に評価
できることを確認した。
3
表1 CDG 評価指標体系(Country Domain Governance Index)
Category
Indicator
Description
①RPDM
ドメインの相対価格(月間所得との比率)
ア Accessible
Relative Price of DNs to Monthly Income
ク And
セ Affordable
②RPDG
ドメインの相対価格(世界平均価格との比率)
ス
Relative Price of DNs to the Global Average Price
③NDPP
人口当たりのドメイン発行数
Number of DNs (published) Per Population
Openness
of ④RSLO
サーバのドメイン外設置比率
Network
Ratio of Servers Located Outside of the Jurisdiction
⑤NOLM
国際ニュースメディアへのリンク数
Number of Outgoing Links to Global News Media
⑥NIDN
国際ドメイン名(IDN)発行数
言 IDN service
Number of Active IDNs
語
多 Local Language ⑦LLPP
人口当たり現地言語ページ数
様 Use
Number of Local Language Pages per Population
性
⑧RPLL
現地言語ページ比率
Ratio of Pages in Local Languages to the Total Pages
⑨LDLI
リーバーソン指標で測った言語多様性
Linguistic Diversity measured by Lieberson Index
⑩SSMO
スパムメール発信源比率
安 SSR
Share of Spam Mail Origins
全
と
⑪RDRA
ドメインの匿名登録者比率
信
Ratio of DNs whose Registrant is Anonymous
頼 Trusted
⑫ADRP
紛争解決手続きの利用可能性
contents
Availability of Dispute Resolution Process
(2-2)Model TLD Charter の開発
汎用トップレベルドメイン(gTLD)の場合には、1999 年の ICANN の設立以降、ICANN と gTLD の
管理運営主体との間の契約関係が整理されてきた。一方、ccTLD の場合には、ccTLD の管理運営は
それぞれの国・地域の多様な事情が尊重されるべきとの考えから、ICANN との契約関係、第 2 レ
ベル以下のドメイン名の構造、ドメイン名登録資格・登録料など、管理運営のあり方はそれぞれ
の管理運営主体の裁量の下に置かれてきた。これまでの研究では、ccTLD の管理のあり方が、ス
パムやフィッシングといった悪意ある利用者の存在を許すことにつながりうることが示されてき
た。今日の ccTLD の管理運営にはインターネットの初期とは異なる責務が求められていると言え
る。
このような新しい責務に応えるため、ccTLD は登録されたドメイン名が違法・有害なコンテン
ツの頒布に使用されている場合、ドメイン名を強制的に廃止できる体制が必要である。現状でも
多くの ccTLD ではドメイン名の文字列が第三者の商標などの知的財産権を侵害している場合に、
そのドメイン名を廃止できることを利用規約の中で定めている。しかし、違法・有害コンテンツ
の抑止のためにはより踏み込んだ対策が求められる。本研究開発では、このような責務をより積
極的な手段で果たそうとしている先進的な ccTLD の取り組みについての調査を行った。また、本
研究開発では、現地の利用者にとって利用しやすい ccTLD の実現という観点から ccTLD の利用実
態や登録料金について調査を行った。
以上を踏まえて作成したモデルチャーター表2に示す。
4
表2 モデル TLD チャーター(Model ccTLD Charter)の内容
アクセス
言語多様性
リソース
アクセスと価格妥当性の 国際化ドメイン名(IDN)
レイヤー
確保
の実装
■ドメイン名登録料の妥 ■現地言語が最適に反映
当性を最大化する。
される名前空間を構成す
■現地ドメイン名市場に る
おける競争と消費者利益
を最大化する。
■現地ドメイン名市場の
将来的な成長に備える。
現地言語の使用
コンテンツ オープン性
レイヤー
■意思決定と運用におけ ■ 現 地 の 利 用 者 に よ る
る透明性とアカウンタビ ccTLD の利用を支援する。
リティを確保する。
■ICANN、レジストラおよ
びその他のステークホル
ダーとの関係を公式化す
る。
■現地とグローバルな利
益の適切なバランスを図
る。
安全・信頼
セキュリティ、安定性、回
復性
■政府、捜査機関およびそ
の他現地当局と連携する。
■利用者からの高い信頼
を得るため、禁止語彙やド
メイン名の一方的解約条
項を含む、明確な利用規約
を定義する。
信頼できるコンテンツ
■違法・有害なコンテンツ
に対しては積極的な予防
策・対抗策を講じる。
■政府、捜査機関およびそ
の他現地当局と連携する。
■適切なドメイン名紛争
解決プロセスを導入する。
3.成果の展開見通しと課題
研究成果を社会へと展開するために、研究開発期間を通じてカントリードメインの関与者への
積極的提案を行ってきた。
(1)インターネット・ガバナンス・フォーラム
 2009 年 11 月 15 日、Sharm El Sheikh、Egypt、Best Practices in ccTLD Policy and Operations、
ICANN、LACTLD、CoCCA、Caribbean Tele. Union、CENTR、Packet Clearing House 他
 2010 年 9 月 14 日、Vilnius、Lithuania、Strengthening ccTLDs in Africa、Communications
Commission of Kenya、KENIC、tzNIC、ICANN 他
(2) CDG(Country Domain Governance)ワークショップの開催
 2008 年 11 月 20-22 日、長岡、フィリピン、アルゼンチン、スリランカ、オランダ等から参
加者
 2010 年 2 月 18 日、東京、ICANN、アルゼンチン、オランダ等から参加者
(3)
ICANN 公募への応募(特に匿名ドメイン登録問題、2010 年 7 月)
(4) 国際機関への報告
 UNESCO(言語多様性問題、2011 年 2 月共同執筆報告書発行予定)
今後も関与者への継続的働きかけとフィードバックによる改善を行う必要があるが、2011 年以
降も IGF でのフォーラム活動に積極的に参加し、継続的な成果の発表と呼びかけを行う予定であ
る。また、爆発的に増加するデータへの対処として、バイアスを最小化するサンプリング手法(同
様の問題意識を持つ UNION LATINE(フランス)、FUNREDES(ドミニカ)等と共同で EU の第七次計
画(FP7)に対する資金助成要請を準備中である。更に、継続的なデータ収集と指標の取りまとめ
については、今後とも年一回のペースでウェブデータの収集を継続する予定であり、これらの成
果を、学術論文、一般向け書籍(企画進行中)としての発表していくこととしたい。
5
3.研究開発構想
(1)構想の発端-小さな島嶼ドメインに何故大量のウェブページが存在するのか?
インターネットのトップレベルドメインは、それぞれの国や地域毎に配分されたインターネッ
ト資源であり,当事者による自律的な管理(ガバナンス)を基本に運営されている.しかし,適
切な管理がなされていない場合、スパム、児童ポルノ、詐欺など不適切なサイトの温床となる危
険性がある。本研究開発プロジェクトでは、こうしたドメインを発見し、その実態を監視する手
法や評価指標(CDG Maturity Index)を開発し、監視結果に基づき国際社会への注意喚起を行う
とともに、ドメイン管理の理念とモデル規約(Model TLD Charter)を提案することを目的として
研究を行っている。
もともと、本研究開発を構想する契機となったのは、下図である。同図は 250 弱の ccTLD を、
その地域の人口とそのドメインに属するウェブページのページ数とをそれぞれ横軸、縦軸にとっ
てプロットしたものである。同図の中で、右上がりの斜めの直線群はページ密度(人口当たりの
ページ数)が等しい組み合わせを表す。同図では、島嶼ドメイン、先進国ドメイン及びその他の
三色に塗り分けてプロットを行った。
この図から明らかに見て取れるように、絶対数においてページ数が多いカントリードメインは
先進国(具体的には OECD 諸国)であるが、ページ密度が最も高いカントリードメインは、人口の
きわめて小さい島嶼地域である。何故、このような事態が観察されるのか。このような疑問を持
つに至ったころ、
「島巡りスパム」といった見出しの下で、ツバルなどの島嶼ドメインが、スパム
メールの発信源として悪用されているとの記事を目にした。カントリードメインの管理に存在す
る「弱い環」が狙われているのではないか。とすれば、それはグローバルなネットワークの安全
な成長にとって大きな障害となる、というのが研究を構想した発端である。研究代表者の抱いた
こうした問題意識を共有して、研究代表者の研究室に学ぶある学生(和田翔太君、平成 19 年 3 月
修了)が「島嶼国 ccTLD の有効活用と管理改善のための提言」と題する修士論文を書いた。
「提言」
と題されているが、研究の前半は実態分析であり、海底ケーブルも接続していない小さな太平洋
の島々のカントリードメインに何故大量のウェブページが存在するのかを様々な側面から分析し
た。
図1
人口とページ数でみた各カントリードメイン
当時、研究代表者三上は、JST社会技術研究プログラムの支援(「言語間デジタルデバイド
の解消を目指した言語天文台の創設」、平成15年~平成18年)を受けて言語天文台プロジェクト
を終了したところであったから、言語天文台の調査結果との突合せにより、ツバルなどの島嶼地
域ドメインの多くが、もっぱら地域外の利用者によって利用されていることを突き止めた。それ
6
は、ウェブページの使用言語と、サーバの物理的な所在地の分析から結論された。表3にその一
部を示す。例えば、ツバルはサーバの99.1%が海外に所在しており、その設置地域は日本46%、
米国23%となっているが、そのウェブページの使用言語もまたこれと相似的に英語41%、日本語3
2%となっており、現地の言語で書かれたページは一切登場しない。同様にバヌアツの場合には、
サーバの所在地がドイツ96%と圧倒的比重でドイツに置かれているが、使用言語もまたドイツ語7
1%となっている。
海外設置サーバが多いことは、この地域の海底ケーブル敷設図からもうなずかれることである。
太平洋の島々で、大容量の海底ケーブルが敷設されているのはグアムとフィジーのみであり、他
の島々はそうしたアクセスを持たない。従って仮に島に在住する利用者が利用するとすれば衛星
回線などを用いた接続を行うか、逆に島外の利用者向けに島のPRを目的とするウェブページを
作るとすれば海外にサーバを設置したほうが利用者からのアクセスは容易となり、合理的である
とすらいえる。しかし、実際は、管理権限が島々にあるとはいえ、もっぱら海外の利用者が、海
外の閲覧者を相手に、海外に設置したサーバ上に、利用者の言語でウェブページを作成している
のである。
表3 太平洋の島嶼地域ドメインにおけるサーバの設置場所及びウェブの使用言語
ccTLD:国名
サーバの海外設置比率
サーバの主な設置場所
主要な使用言語
Fj:フィジー
52.70%
米 40%,豪 6%
英 87%
fm:ミクロネシア連邦
98.00%
墺 43%,米 21%
英 60%,日 8%
ki:キリバス
99.60%
独 99%
英 55%,独 12%
nr:ナウル
100.00%
ベルギー96%
英 96%
pw:パラオ
100.00%
米 100%
英 87%
sb:ソロモン諸島
41.90%
豪 23%,米 14%
英 98%
to:トンガ
99.80%
日 38%,台湾 29%
日 54%,英 17%
tv:ツバル
99.90%
日 46%,米 23%
英 41%,日 32%
vu:バヌアツ
99.10%
独 96%,加 2%
独 71%,英 19%
ws:サモア
99.70%
米 91%,香港 2%
英 73%,露 5%
出典:言語天文台プロジェクト、2006年
図2
太平洋における海底ケーブル敷設図
こうした予備調査を通じて、グローバルなネットワーク上の「弱い環」を主たる対象とした調
7
査と対策検討、という主題で当初の開発計画が構想された。JSTへの提案時には、研究開発プ
ロジェクト名は「カントリードメインの脆弱性監視と対策」と名付けられた。
(2)デジタルデバイドという文脈
本研究開発プロジェクトの背景にあるもうひとつの文脈は、グローバルなデジタルデバイドと
いう問題意識である。研究代表者は、科研費(基盤研究B、「情報政策の立案・点検のための目
標/指標体系」、平成17年~平成20年)1の研究を通じて、デジタルデバイドの現状を評価するた
めの何らかの指標体系開発という問題と取り組んでいた。
図3に示すデータは、この科研費研究の成果として得られたものであるが、経済学で用いられ
るローレンツ曲線、ジニ係数という道具立てによって、各種コミュニケーション手段の国家間の
配分がどの程度の不均衡であるのかを量的に把握することを試みたものである。
所得分配の不平等を分析する場合のローレンツ曲線とは、所得の低い順に並べたデータから順
次累積所得を計算し、これをグラフにプロットしたものである。所得分配が完全に平等であれば
ローレンツ曲線は、左下から右上へと向かう完全な45度線となる。所得分配が不平等であればあ
るほど、ローレンツ曲線は下に凸となる。また、ジニ係数とは、このようにして作成されたロー
レンツ曲線によって区分された領域の面積から算出される係数である。具体的には、均等分配線
よりも下に位置する三角形の面積を分母として、ローレンツ曲線の区分する上側の面積の比率を
求めたものである。ここに述べた定義から明らかなように、所得分配が完全に均等であるときジ
ニ係数は0である。逆に、所得分配が完全に不平等な場合、ジニ係数は1となる。
図3
ローレンツ曲線、ジニ係数を用いたグローバル・デジタル・デバイドの現状
同図には、基準としての所得分配(実際には国内総生産GDP)の示すローレンツ曲線、携帯
電話の保有状況が示すローレンツ曲線、印刷活動の活動度を代表する指標としての印刷用紙消費
量の示すローレンツ曲線、インターネット利用の水準に概ね等しいと思われるドメイン数を示す
1
この科研費の研究目的は、 検証可能な、 階層構造を持った政策目標とこれを検証するための
指標からなる情報政策目標の体系を構築することであった。 途上国の開発にとって情報通信技術
の活用に対する期待はきわめて大きいが、 情報通信技術へのアクセスにおいて地域間、 国家間
の格差は引き続き大きいのが現状である。 60 億人の世界人口をその所属する国家の平均一人あ
たり所得水準で 10 段階に分解し、各種情報アクセスの現状をみると、世界人口の多くは依然とし
て情報革命の恩恵と無縁な状態におかれている。 こうした認識に立ち、 経済社会発展を目指し
た情報通信政策の立案・点検を行うための政策/指標体系の構築を行った。 継続的な情報収集の
可能性という観点から指標類を絞り込み、 インターネット利用に的を絞った独自のデータを中心
とする目標/指標体系を構築した。
8
ローレンツ曲線の4種類の曲線を描いた。こうしてみると、ドメイン数の不平等度は所得分配が
示す不平等度よりも大きいということになる。途上国における電話アクセスは近年大きく改善し
ているが、これを反映して電話の示すジニ係数は所得分配の示すジニ係数よりもはるかに小さい。
つまり、デジタルデバイドという文脈からも、ドメインの配分という課題は重要な課題であるこ
とが示された。
(3)国際的な議論の動向
ここで、研究の背景として、国際的なフォーラムにおけるインターネット・ガバナンス問題を
巡る経過を整理しておこう。
図4は、インターネットのドメイン数の推移を、1969年におけるARPANETの登場の時点まで遡っ
て描いたものである。1969年にARPANETが登場したとき、それが接続していたサーバはわずか4台
であった。しかし、その後、40年間にその総数は急速に増加し、今日では約10億という数値に近
づいている。
その間に、インターネットの管理体制も大きく変化した。当初からの20年間は軍事的研究、特
にネットワークの抗湛性を確認するための研究から始まってより広範囲にわたる軍事研究拠点間
ネットワークとして運営され、次の10年間は米国科学基金(National Science Foundation)によ
って学術研究機関を結ぶネットワークとして運営され、そして最後の10年間余りは商業的な利用
を中心に利用者が急拡大し、管理体制の面においてもICANNの仕組みが作られ、民間主導の管理体
制として今日に至っている。インターネットの商業的利用はほぼ1990年代の初頭から始まったが、
管理体制の面で民間主導の管理へと本格的な移行が進んだのは1998年のICANN設立以降と考えて
よかろう。
図4 インターネットの成長とガバナンス体制の変遷
出典:Internet Software Consortium, Internet Domain Survey
こうした中で、誰がインターネットを管理するのか、という問題が提起されるに至った。2003
年にジュネーブで開催された世界情報社会サミット(WSIS: World Summit for Infomration Soc
iety)では、政府の関与を強めたガバナンススキームを主張する中国などの意見と、現行のスキ
ームの維持をする米国との意見がぶつかったが、具体的な意見統一にはいたらなかった。その後
の経緯の詳細については既に多くの著者によってまとめられているのでここでは繰り返さない2。
2
例えば、木全紀元、インターネット・ガバナンス-国際的動向とその背景、知的財産創造、2010
年 6 月号、52-75 頁。あるいは山口広文、インターネットガバナンス-インターネットの世界的
普及と国際管理体制の課題、レファレンス、2007 年 9 月号、33-53 頁。
9
一方、国際的なフォーラムにおける議論のもう一方のテーマがデジタルデバイド問題である。
少し遡れば2000年に沖縄と九州を会場として開催されたG8サミットではこの問題が主要なイシュ
ーのひとつとなり、主催国日本のイニシアティブもあって、デジタルデバイド解消を主たる主題
とした「沖縄憲章」もまとめられた。その延長上には、国連のミレニアム開発目標でもデジタル
デバイドの解消を意図した目標や評価指標が導入されたし、また、言語的多様性が、サイバース
ペースの上でもしかるべく反映される必要があるということを訴えたUNESCOの多言語勧告(ある
いはサイバースペース勧告と略される)、WSISでも、この問題は国際社会が解決すべき大きな課
題と確認された。
研究代表者らは、こうした国際社会の動きと丁度同期するように、JSTの支援を受けて「デジタ
ルデバイドの解消を目指した言語天文台の創設」なるプロジェクトに着手したが、この経験が本
研究プロジェクトの発端となったことは既に本節の冒頭で述べたとおりである。
本研究プロジェクトは、その題名のとおり、「カントリードメインの脆弱性」という問題意識
から出発したが、いま振り返ってみると、この10年間に国際社会が情報化社会のあり方について
提起した「インターネットガバナンス」と「デジタルデバイド」という二つのイシューを、カン
トリードメインという領域で考察したプロジェクトとなった、といえそうである。
図5
インターネットガバナンス-国際的な議論の経過
(4)研究の方法
本研究の手順は図6に示される。二つの大きな課題に対応して、二つの流れがある。ひとつは
評価指標の体系であるCDG Indexを開発する作業であり、それは評価枠組みの設定⇒データの収集
と解析⇒評価・検証⇒指標作成、という段階からなる。実際には、これは一方向の流れではなく、
何度も反復する必要があった。もうひとつはモデル規約を開発する流れであり、それは関与者の
特定⇒利用・管理実態の把握⇒課題の抽出⇒モデル規約作成、という段階からなる。両者の作業
は相互に関連しており、二つの課題を分担する長岡技術科学大学と国際大学GLOCOMの両チームは、
随時、成果発表の場で御互いの進捗状況を共有しながら、自分達の作業に全体の成果を反映する
という努力を重ねてきた。
研究チーム間の分担としては、図の左半分である評価枠組みの設定⇒データの収集と解析⇒評
価・検証⇒指標作成という課題を長岡技術科学大学を中心とするチームが担い、右半分の関与者
の特定⇒利用・管理実態の把握⇒課題の抽出⇒モデル規約作成という課題を国際大学グローコム
のチームが担い、両者を研究代表者である三上が調整する、という体制をとった。
このほか、国際大学本校のJay Rajesekara教授、カナダのConcordia University of Alberta
のZavarsky Pavol教授のチームなどが研究に参加し、特にセキュリティ関係の分析に係ってきた。
10
図6
研究の手順
社会への実装という、本プログラムの特色については、上図にあるように関与者を特定する作
業から研究に着手したが、その結果、インターネット・ガバナンスに関する関与者として、図7
に示すような関与者が特定され、これら幾つかのカテゴリーの関与者に対する研究成果のフィー
ドバックを行い、関与者の関心のありかや問題意識とのすりあわせを行うというアプローチをと
った。
本報告書4.2節で詳しく述べるように、IGF、ICANNの会合、地域TLD組織、TLDの活動を技術面、
法律面などから支援する様々なタイプの支援組織などと、本プロジェクトの様々な局面でコンタ
クトを持ち、彼らからの意見のフィードバックを受けることができた。
図7
社会実装に向けて-想定する社会実装の仕組み
11
4.研究開発成果
4.1
カントリードメイン評価指標の開発(長岡技術科学大学グループ)
(1)研究開発目標
インターネットのような高度の一体性を有する地球規模のインフラストラクチャを、分権的管
理という基本原則の下で管理するという事業は前例のないものであり、それが円滑に機能するた
めには、カントリードメイン管理に関する適切な目標設定と、目標の達成状況を多面的に評価で
きる透明度の高い指標が必要である。
こうした認識にたち、指標開発グループでは、カントリー・ドメイン・ガバナンスの実態を多
面的に評価する指標としての CDG Index の体系を構築すべく研究開発に取り組んだ。
(2)研究開発実施内容及び成果
(2-1)評価枠組み
研究開始以来、評価指標をどのような枠組みの下で体系化するかを巡って、幾度も議論と試行
錯誤を重ねてきた。評価指標の枠組みは同時にモデル規約の枠組みでもあり、この点は、国際リ
エゾン・グループと共同で議論を重ねてきた。最終的に到達したのは図8の枠組みである。これ
は、カントリー・ドメインの利用者から見て、何が望ましい環境か、という点から3つの基準を
設定し、これをリソースレベルとコンテンツレベルという2つのレイヤーに展開したものである。
基準
レイヤー
リソース
レイヤ
resource
layer
コンテン
ツレイヤ
contents
layer
アクセス
Access
言語多様性
Lingusitic Diversity
安全・信頼
Security and Trust
自由で安価な利用
Accessible and affordable
国際化ドメイン名(IDN)の利
用
IDN service
セキュリティ、安全性、回復
性(SSR)
Security, stability and
resiliency
ネットワークのオープン性
Openness of network
ローカル言語の使用
Local language use
コンテンツの信頼性
Trustable contents
図8
評価枠組み:3つの基準と2つのレイヤー
ここで、少し理論的な整理をしておくと、インターネット・ガバナンスに関する初期の労作で
ある「Ruling The Root」の著者Milton L. Muellerは、ドメイン管理者の基本的な機能はドメイ
ン名という希少な資源の配分であり、経済学で扱われる通常の資源配分問題と同様の考え方が当
てはまると論じる3。また、Muellerは、資源配分方法として、一般的には、入札、行政的割り当
て、先着順などの様々な方法が適用可能であると述べる。
ここで、ドメイン名を「希少な資源」として扱うことには理由がある。名前空間というのは、
どのような名前でも許す機械的な名前(例えば番号)であれば、実際上無限に大きな空間であり、
希少性は余り問題とならない。Muellerはこの例としてMACアドレスの事例を挙げる。しかし、人
間にとって意味のある名前の空間は、原理的には無限の資源とも言いうるものの、実際上は有限
な資源としての特徴を有していることに注意しなくてはならない。また、ドメイン名は確実な一
意性を有している必要があり、一意性を確実に保証するための何らかの技術的な調整メカニズム
を必要とするという点で単なる希少資源ではない(ここでもMACアドレスとの対比をすれば、世界
3
Milton Mueller, Ruling The Root, MIT Press, 2002.
12
中のベンダーが付番するMACアドレス間の一意性を確実に保証する調整メカニズムはない。同一番
号をもつ機器が同一の機器に接続される確率が極めて低いという理由だけが見かけ上の「一意性」
の保証である)。
こうしたことから、Muellerは、ドメイン名の管理機能には、技術、経済、政策の三つのレイヤ
ーがあると論じる。技術レイヤーとは、即ちドメイン名の一意性保証のための何らかの調整機能
であり、経済レイヤーとは通常の希少資源の配分メカニズムと同様の配分調整機能、政策レイヤ
ーは、ドメイン名に関する紛争が生じた場合に、誰の権利が優先されるべきかを判断し、調停す
る機能である(次表参照)。
図9
ドメイン名管理機能の三つのレイヤー
政策
権利問題
Policy
Decision about rights
経済
希少性の配分問題
Economic
Allocation of economic scarcity
技術
一意性確保のための調整
Technical
Coordination to ensure uniqueness
出典:Milton L. Mueller (2002)
こうした整理に基づくと、ユビキタスなネットワーク維持のための名前空間の管理という根本
的な機能が技術レイヤーに相当し、その下で、ローカルな、あるいはグローバルな顧客の要求に
応じて希少な資源を配分するという名前登録・配布機能が経済レイヤーに相当し、更に、何らか
のドメイン名紛争が生じたときに紛争を解決するメカニズムの側面に対応する。
しかし、この三つのレイヤーだけではカントリードメイン管理者の全ての役割を記述すること
はできない。そこで援用したのが、ICANNと米国商務省との間で交わされたAffirmation of Comm
itmentである(以下、AOCと略す)。この文書は、2009年12月に、新しい管理体制上の諸原則を改
めて確認するものとして両者間で合意されたものであるが、その第3条には、ICANNの責務として
以下の内容が書かれている(ボックスの中の文章は本報告書執筆者の要約である)。この内容は、
ほぼ、そのままカントリードメイン名の管理者の役割にもあてはまる。
参考1 DOC-ICANN AoC の概要
第1条
この約定の目的(Objectives and background of this document)
第2条
インターネットの成功要因の一つはローカルレベルでの意思決定を可能にする分散ネッ
トワークである点にあるが、相互運用性確保のために DNS はグローバルな技術的調整を必要
とする。
(One of the elements of the Internet’s success is a highly decentralized nature of
the network. But global technical coordination of the DNS is required to ensure
interoperability. )
第3条
商務省と ICANN の 4 つの責務(Four major commitments of DOC and ICANN)
i.
公共の利益に奉仕し、説明責任と透明性ある意思決定を行う
( ensure that decisions made in the public interest and are accountable and
transparent)
ii.
DNS の安全性、安定性と耐障害性の保持
(preserve the security, stability and resiliency of the DNS)
iii.
DNS 市場における競争、ユーザの信頼と選択の促進
(promote competition, consumer trust and consumer choice in the DNS marketplace)
iv.
DNS の技術的調整における国際的参加の助長
(facilitate international participation in DNS technical coordination)
第4条
商務省は、複数の利害関係者による、民間主導、ボトムアップ型の意思決定を保証する
ことを確認する。
ICANN は公共の利益に適う決定を行うため、決定の利害得失を分析し、公表する。
(DOC affirms
its commitment to a multi-stakeholder, private sector led, bottom up policy
development. ICANN commits to perform and publish analyses of its decisions on the
13
public.)
第5条
商務省は世界のユーザがローカルな言語と文字セットでインターネットを利用できるこ
との重要性を認識するとともに、SSR が確保される前提の下で ccTLD レベルにおける IDN の
迅速な導入を支持する。
(DOC recognizes the importance of global users being able to use the Internet in their
local languages and character sets and endorses the rapid introduction of IDNs at ccTLD
level.)
第6条
商務省は ICANN の意思決定に関する GAC の役割確認
(Continued commitment of the US and acknowledgement of GAC)
第7条
ICANN の予算、政策決定プロセスの透明性と説明責任
(Transparency and accountability of ICANN's budgeting process, policy development)
第8条
インターネット、ICANN 及びそのステイクホルダーとの関係の現状維持に関する ICANN
の責任
(ICANN's commitment to keep the status quo of the Internet and the organization of
ICANN and relationships with stakeholders)
第9条
ICANN は以下のためのレビューを行う(Actions, including reviews, to be taken by
ICANN)
i.
to ensure accountability, transparency and the interests of global Internet users,
ii.
to preserve security, stability and resiliency,
iii.
promote competition, trust and choice.
第10条 見直し結果の公表(Publication of review results)
第11条 発効日、改訂等に関する規定(Effective date, revisions, etc.)
上記のうち、インターネット上の重要資源の管理者としてステークホルダーに対して説明責任
と透明性のある意思決定を行うこと、また、DNSの技術的調整における国際的参加の助長の二項目
は、そのパフォーマンス評価を指標化し難い要件である。そこで、これはモデル規約には含まれ
るべき条件であるとしても、評価指標の枠組みからは除外して考えた。
一方、DNS市場における競争、ユーザの信頼と選択の促進という条件のうち、DNS市場における
競争及びユーザの選択という条件は、Muellerの整理によるところの経済レイヤーの機能に相当す
る条件であるといえる。競争のプロセスを通じてこの希少な資源の配分が行われるべきことが、
ドメイン名を含む様々なインターネット上の資源の配分の基本的な原則である旨が表明されてい
る。また、選択という中には、合理的な価格の範囲内で選択できる形で資源が提供されている、
ということのほかに、ネットワークのオープン性に関連する選択の自由も含まれていると考えら
れよう。そこで、消費者の自由な選択を可能にするという条件は、順経済的な側面だけではなく、
政治的な側面を含むネットワークのオープン性という側面を考慮する必要があると考えた。これ
は、リソースレベルでの選択の自由と、コンテンツレベルでの選択の自由、と言い換えてもよい
かもしれない。
ユーザの信頼という側面は、単なる資源配分の問題を超えており、名前空間における配分の公
平性や中立性といった要素を含むかもしれない。また、違法・不適切なコンテンツを排除するメ
カニズムが構築されているかどうか、ということに対する信頼の要素を含むかもしれない。そう
いう意味では、この条件は、第3条の二番目に書いたDNSの安全性、安定性と耐障害性の保持の条
件とも関連する。ただし、両者間にはコンテンツレベルと、システムレベルという相違があろう。
そして、第三の視点が言語多様性への配慮という条件である。これは、AOCの中では第5条の国
際化ドメイン名(IDN: Intenationalized Domain Name)の問題として登場するだけであるが、カ
ントリードメイン管理者の問題として分析する場合には、それだけではとどまらない。カントリ
ードメインはドメイン名の表す領域(基本的には国家が単位だが、それだけではない。海内領土
のような地理的に隔絶された地域も含む)の利用者の利用に供されることを前提としており、カ
ントリードメイン管理者は、そのような利用者の利用を促進すると言う前提でその独占的な配布
をゆだねられているのであるから、この側面でのパフォーマンスを評価する視点が存在しなけれ
ばならない。
以上のような考察から構築されたのが、「アクセス」「言語多様性」「安全と信頼」という三
つの視点と、「リソース」「コンテンツ」という二つのレイヤーからなるこの評価枠組みである。
14
(2―2)12 の指標
結論から示すと、この評価枠組みを具体化した指標体系が表1に示す12の指標群である。これ
らの指標群を組み合わせることによって、カントリードメイン管理者のガバナンスのパフォーマ
ンスを評価しようというのが、本研究プロジェクトがその成果として提案する内容である。
これらの指標は、基本的に、オープンな情報源から、継続的に、客観性をもって導出すること
のできる指標群である。このことは、評価指標が、ステークホルダーの間で継続的に共有され、
ドメイン管理者の行動に反映されるためのものであるということを考えると必須の条件である。
実際、これらのデータのうち、ドメイン価格のデータ(①、②)、紛争解決手続きの利用可能性
(⑫)以外の指標は、ウェブデータの自動的な取得と分析から導出される指標群であり、必要な
計算機資源さえあれば、継続的に作成することのできる指標である。ドメイン価格と紛争解決手
段の利用可能性もオープンなデータではあるが、これらの情報が基本的には利用者向けの提供さ
れている情報であるために、機械的なデータ取得作業によって入手することは困難である。今回
のプロジェクトにおいて、この調査は国際大学グローコムのチームによって行われたが、これは
根気を要する調査であった。人間による調査を必要とするとはいえ、しかし、得られるデータは
客観的なものであり、その面で、先述した条件を満たす。
表1 CDG 評価指標体系(Country Domain Governance Index)(再掲)
Category
Indicator
Description
①RPDM
ドメインの相対価格(月間所得との比率)
ア Accessible
Relative Price of DNs to Monthly Income
ク And
セ Affordable
②RPDG
ドメインの相対価格(世界平均価格との比率)
ス
Relative Price of DNs to the Global Average Price
③NDPP
人口当たりのドメイン発行数
Number of DNs (published) Per Population
Openness
of ④RSLO
サーバのドメイン外設置比率
Network
Ratio of Servers Located Outside of the Jurisdiction
⑤NOLM
国際ニュースメディアへのリンク数
Number of Outgoing Links to Global News Media
⑥NIDN
国際ドメイン名(IDN)発行数
言 IDN service
Number of Active IDNs
語
多 Local Language ⑦LLPP
人口当たり現地言語ページ数
様 Use
Number of Local Language Pages per Population
性
⑧RPLL
現地言語ページ比率
Ratio of Pages in Local Languages to the Total Pages
⑨LDLI
リーバーソン指標で測った言語多様性
Linguistic Diversity measured by Lieberson Index
⑩SSMO
スパムメール発信源比率
安 SSR
Share of Spam Mail Origins
全
と
⑪RDRA
ドメインの匿名登録者比率
信
Ratio of DNs whose Registrant is Anonymous
頼 Trusted
⑫ADRP
紛争解決手続きの利用可能性
contents
Availability of Dispute Resolution Process
以下においては、これら12種類の指標群の定義、作成方法、選択した背景などについて述べる。
(2-2-1)ドメインの相対価格(月間所得との比率)
(RPDM: Relative Price of DNs to Monthly Income)
カントリードメイン管理者の提供するドメイン名は、一義的には、ドメイン名の代表する地理
的な領域に居住する利用者のための資源である。カントリードメイン管理者に独占的にこの職務
が委任されているのは、その地域の利益に奉仕するという役割を果たす代償として与えられたも
15
のと理解するべきだろう。実際上、ドメイン管理者によっては、当該地域の利用者の利用などを
考慮せず、いわば高値でも買ってくれる領域外に居住する利用者を対象とするビジネスとして取
り組むものもいるかもしれない。ドメイン価格が当該地域の住民の平均月間所得と比べて相対的
に何か月分に相当するのか、という指標は、その意味で、ドメイン管理者の価格行動の適切さを
評価する指標である。
今回調査したデータを基にして、名目価格と実質価格の分布を比較してみると、図10のように
なる。名目価格はほぼ50米ドル前後の値を示し、その幅も一桁程度の相違しかないのに対して、
平均月間所得で割った実質価格のほうは、月間所得の1%以下という安価な地域から、月間所得の
千倍を超えるような高額な地域に至るまで大きな差がある。そこで、実質価格を第一の評価指標
とした。
図10 ドメイン価格(名目と実質)の分布
実際、多くの国で、カントリードメインは国際水準の価格でも応じる企業ユーザに販売されて
いる。購入した企業は、必ずしも実際に利用することを意図しているわけではなく、他者によっ
て名前が占有されることから防衛するためである場合がほとんどである。不当な占有であれば、
それが判明した時点で、裁判外、あるいは裁判を通じて取り返せる可能性は高いが、そのための
費用は決して安いものではない。こうした費用に比べれば、使用しないドメイン名確保のための
ドメイン量は安価な防衛策である。こうした企業ユーザ、特に多国籍企業ユーザからのドメイン
名確保への強い需要が、ドメインの名目価格を高位の水準に引きとどめている最大の要因であろ
う。
研究チームの一員がこうした販売活動の実態調査のためにツバルを訪問した際、ツバルでは、
こうした対外販収入が、ツバルの国家税収の4分の一を占める重要財源となっていることを知っ
た。ツバル政府は実務をベリサイン社に委託しており、訪問時には、丁度ベリサイン社との価格
交渉の最中であった。“tv”という経済価値のあるドメイン名を有するツバルがこの「資源」
を活用した販売収入で国連加盟を果たし、これによって地球温暖化問題に関する国際社会への発
言の窓口を確保したというストーリは有名であるが、ドメイン名のみが有力な国内資源であると
いう国家(多くは小さな島嶼国家)も決して少なくない。しかし、一方でツバル島の住民の利用
実態はかなり限られたものである。以下に、ツバルのインターネット事情についての現地調査結
果を掲載しておく(訪問は2008年12月)。
(1)インターネット利用者は人口(約1万人)の10~15%か(通信相)
自宅で見られる人はほとんどいない、ほとんどの人はofficeか2軒あるネット・カフェで利用して
いる。
(2)官房長官によると、彼の「.tv」のメルアドには多くのジャンク・メールが入ってくる。通
信相に、「.tv」が子供ポルノなどの「違法サイト」の温床になっているのではないかと聞くと、
「そのような趣旨の報告は受け取っていない」と否定した。ネットカフェ経営者のLonati氏も「.
tv」が「違法サイトの温床になっているとは思わない」と述べた。
16
(3)Lonati氏によると、「.tv」は主として政府関係者がofficeで使っているという。Coconut
Houseには15台のパソコンがあり、ドメインはgmailもしくはyahooを使用しているという。アジア
地域であればスムーズにつながるという。使用料は1時間3オーストラリアドル。
(4)在フィジー大使館のK氏は「.tv」のアドレスには、「つながる人とつながらない人がいる
ようだ」と述べ、connectivityが不安定であるとの見方を示した。
(5)現地に駐在するある日本企業D社の駐在員A氏は、「ワイヤレスでインターネットを使用し
ている」としたうえで、「メールはISDNのスピード」であると指摘、A氏は「.tv」は「つながる
が、平日の昼間はつながりにくい」と述べた。
(6)ちなみに、筆者はバイアクラギ・ホテルの「.tv」のメルアドに日本からメッセージを送ろ
うと何度も試みたが、全くつながらなかった。
(2-2-2)ドメインの相対価格(世界平均価格との比率)
(RPDG: Relative Price of DNs to the Global Average Price)
第二は、ドメイン価格の世界平均価格に対する比率としての相対価格である。①と②は、名目
価格、所得水準から導出される二次的な指標であり、原指標である名目価格、所得水準を評価指
標とすることも一案であるが、指標自体としての意味合いを鮮明に持つ、という意味で二つの相
対価格を評価指標体系として取り上げることとした。
(2-2-3)人口当たりのドメイン発行数
(NDPP: Number of DNs (published) Per Population)
ドメインの利用がどこまで進んでいるかを表す指標として人口当たりのドメイン発行数を取り
上げた。本報告書の3(1)でも取り上げたように、人口当たりのドメイン数は、小さな島嶼地
域がOECD諸国よりも大きな値を示す。これは地域外に在住する利用者への販売が大きな比率を占
めるドメインの場合、人口規模とは全く無関係に大量の利用者を獲得することがあるからである。
従って、この比率が異常に高い値を示すということは、そうしたドメイン販売が過半を占めると
いう実態を意味することになる。
(2-2-4)サーバのドメイン外設置比率
(RSLO: Ratio of Servers Located Outside of the Jurisdiction)
これは、元来、ネットワーク基盤の充実度を評価する指標として考えていたものであるが、ネ
ットワークのオープン性を評価する指標という意味づけで採用することとした。あるカントリー
ドメインを持つウェブサーバは、そのドメインの代表する物理的な領域内にあるとは限らない。
様々な理由から、当該地域内にサーバが置かれるという事態が発生する。第一には領域内におけ
るネットワーク環境の不備から逃れるため、第二に領域内においてはウェブサーバの技術的な管
理運用に十分なスタッフが確保できないため、第三に国内での非技術的な制約要因から逃れるた
め、などの理由が考えられる。
研究代表者らは、かつて、アフリカ大陸のカントリードメイン下にあるウェブサーバの8割以
上が実際にはアフリカ大陸に存在せず、欧米や日本に置かれているという実態について報告した
ことがあるが、その主たる理由はよりよいネットワーク環境を求めてのものであったと思われる。
また本研究プロジェクトの予備調査段階でも、島嶼ドメインの下に置かれたウェブサーバの物理
的な所在地がほとんど海外であることを突き止めた(前出の表1参照)。
しかし、後述するように、この指標は、第三の理由からの海外設置を認めないという、政府の
規制等の存在を間接的に表現する指標であるという点に本研究チームは注目している。この点に
ついての詳細は次項にて述べる。
(2-2-5)国際ニュースメディアへのリンク数
(NOLM: Number of Outgoing Links to Global News Media)
国際ニュースメディアへのリンク数は、コンテンツレベルでの規制の存在を示唆しうる指標と
して取り入れた。ここで、国際ニュースメディアとは、典型的にはBBC、CNN、VOAといったグロー
バルな視聴者をもつニュースメディアである。言語的・政治的な偏りを避けるために極力多くの
言語圏のニュースメディアを採用することとしたいが、現状ではまだ偏りがある。
このデータは、実際にウェブクロウラーによって取得した外向きリンクの中から、グローバル
17
なニュースメディア、ニュースに関するブログ記事が掲載されているブログポータルに向けて張
られたリンクを抜き出し、その総数をカウントしたものである。当初、これを外向きリンク(当
該サイト内でのナビゲーションのためのリンクは除く)の総数で除したものを用いていたが、何
らかの制限のあるドメインでは疎の総数が極めて少ないためにむしろ実数のほうが実態をより的
確に表すとの判断で総数を用いることにした。 この指標において、国際ニュースメディアとし
てカウントしたのは、表4に示すメディアである。
表4
メディア名称
ABC News
BBC News
Al Jazeera
CBC
CNN News
FOX News
Guardian
MSNBC
New York Times
Reuter
Time
Voice of America
リンク数カウントに用いた国際ニュースメディア一覧
サイト URL
使用言語
http://www.abcnews.go.com/ 英語
http://www.bbc.co.uk/
アジア、アフリカの言語を含む 40 言語
http://www.aljazeera.net/
アラビア語、英語
http://www.cbc.ca/
英語
英語、スペイン語、トルコ語、アラビア語、
http://www.cnn.com/
韓国語
http://www.foxnews.com/
英語
http://www.guardian.co.uk/ 英語
http://www.msnbc.msn.com/
英語
http://www.nytimes.com/
英語
http://www.reuters.com/
アジア、アフリカの言語を含む 17 国語
http://www.time.com/
英語
http://www.voanews.com/
アジア、アフリカの言語を含む 52 言語
(2-2-6)国際化ドメイン名(IDN)発行数
(NIDN: Number of Active IDNs)
これは国際化ドメインの発行数である。必ずしも全てのカントリードメインがこれを必要とす
るわけではないので、当該ドメインの現地言語への対応状況を示す一つの指標として用いること
としている。
今回の研究では、IDNの発行数を、収集したウェブデータのURLを逐一チェックするという手法
によってカウントし、香港を事例として、当事者の発表している数字とほぼ同様の結果を得るこ
とができた(表5)。調査方法の詳細はここでは略すが、この方法を用いて、アジア、アフリカ
のIDN発行数のデータを調査した。
IDN
表5
HKIRC
当事者
の発表
データ
169
2,435
74
286
84
109
NA
香港ドメインの IDN 発行数についての検証結果
searched By Google
本プロジェクトの推計値
Pages
URLs
Pages
URLs
Language
個人.hk
17
2
1
1
Chinese
公司.hk
428
6
40
7
Chinese
組織.hk
343
2
10,000
1
Chinese
教育.hk
93
1
2,999
1
Chinese
網絡.hk
0
0
0
0
政府.hk
0
0
0
0
その他
5,505
5
Chinese
IDN total
881
11
18,541
15
HK pages total
56,000,000
10,962,421
IDN page (%)
0.0016%
0.17%
Source: Hong Kong Internet Registration Corporation, CDG project, Google (accessed May 1,
2010)
18
(2-2-7)人口当たり現地言語ページ数
(LLPP: Number of Local Language Pages per Population)
現地言語で書かれたウェブページの存在は、当該ドメインが現地の利用者によって利用されて
いることを物語る最も雄弁な指標である。この指標を導出するためには、話者数の少ない言語も
含めて、多数の種類の言語にわたる言語判定を可能とする技術が必要となるが、本研究チームは、
この点においては言語天文台プロジェクト以来の技術蓄積があり、得意分野として取り組んだ。
本研究期間中にも、この言語判別の制度を向上させる研究に取り組み、また、判別対象言語の
数も約350言語に拡大させることができた。その判定制度は概ね94%と評価している。これは
決して満足できる水準とは呼べないが、統計的なレベルでの指標化には十分満足できる水準であ
る。実際、この技術を用いて判別したドメイン別言語別のウェブページ数はきわめて現地住民の
感覚から見て違和感のないものであるとのコメントを多数の関係者から寄せられている。最終的
な指標は、このページカウントを人口で除したものである。
(2-2-8)現地言語ページ比率
(RPLL: Ratio of Pages in Local Languages to the Total Pages)
この指標⑧と次の指標⑨の持つ意味合いについては、次節で詳しく述べるが、指標⑧は当該ド
メインの下に置かれたウェブページ内に、どのくらいの割合で現地の言語で書かれたページが存
在するかを示す指標である。言語判別は、研究チームが開発したG2LIエンジンを使用している。
これは約350言語を判別できる機能をもち、その判別精度は平均で94%である。非標準コードが使
用されている言語についても、主要なものは判定用データを登録してあるために判別対象言語が
極めて広範囲であることが特徴である4。
なお、ここで、現地言語という範疇の定義はなかなか容易でない。アフリカの多くの国ではフ
ランス語、英語、ポルトガル語が公用語となっているが、これを現地言語というべきかどうか判
断を要するところである。アフリカの場合、これらの欧州語は全て現地言語の中には加えなかっ
たが、カリブ海となると事情は違ってくる。オランダ語を含め、これらの欧州言語を除いてしま
うとほんのわずかな現地言語や、いわゆるクレオールと呼ばれる混合言語が残るだけとなってし
まう。しかし、これらのみを現地言語と扱うのは、当該地域の専門家に言わせると違和感がある
とのことであり、カリブ海・中南米地域では公用語となっているような欧州言語は現地言語とし
て扱うこととした。
(2-2-9)リーバーソン指標で測った言語多様性
(LDLI: Linguistic Diversity measured by Lieberson Index)
リーバーソン多様性指標(LDI: Lieberson’s Diversity Index)は、言語社会学者のリーバー
ソンがその著書5の中で提案した指標であり、基本的には、ある社会の言語別話者数の比率をPiで
表したときに、
LDI=1-∑Pi2
なる式で算出される。直感的に言えば、この指標が意味するものは、ある社会において、異なる
言語の話者と遭遇する確率ということになる。我々は、検討にあたって二つの指標を候補として
考えた。ひとつがLDIであり、もうひとつが同じくPiから算出されるエントロピー指標である(下
図参照)。結果的に、二つの指標はほぼ比例的な動きを示す。但しリーバーソン指標は区間〔0、
1〕に正規化されているのに対して、エントロピーは当該地域で話されている言語が多数に上れ
ば1を超えて大きくなる。加えて後に述べる理由もあり、LDIの方が利用価値が高いという判断か
ら、LDIを評価指標群のひとつとすることにした。
4
この言語判定エンジンは下記のサイトから利用できる。実際の性能を確認していただきたい。
http://gii.nagaokaut.ac.jp:8080/g2liWebHome/index.jsp
5 Stanley Lieberson, Language Diversity and Language Contact, Stanford University Press,
1981
19
図11 二つの言語多様性指標, Lieberson IndexとEntropy
(2-2-10)スパムメール発信源比率
(SSMO: Share of Spam Mail Origins)
本研究を開始する少し前、2006年11月に、McAfeeの分析レポートが、「島巡りスパム」(spam
island-hopping)といったショッキングな見出しで、小さな島嶼ドメインがスパムメールの「踏
み台」となっていると報じた6。3(1)でも述べたように、この報道は我々が本研究を構想する
ひとつのきっかけでもあった。
最終的な指標として採用したのはスパムメールの発信源比率である。それは、本学教員のメー
ルアカウントで受信したスパムメールのうち、SpamAssassinによってスパムメールと判定された
メール16万通をもとに、以下の方法で分析・作成したものである。この分析においては、送信メ
ールのヘッダーに書き込まれた以下の情報を利用する。
① 送信メールサーバのドメイン名(メールサーバTLD、不明の場合にはunknown)
② 送信メールサーバのIPアドレス(IPアドレス)
③ メールサーバのIPからGeoIP7を用いて割り出したサーバ所在国のTLD
(GeoIPTLD、IPが詐称されていた場合にはIPunknownとする)
④ 送信者アドレスに記載されたTLD(メールアドレスTLD)
⑤ メールの到着日付(到着日付)
スパムメールにおける詐称には様々なレベルのものがあるが、メールサーバTLDやメールアドレ
スTLDは詐称が比較的容易であり、ドメイン管理の問題と結び付けて考える材料とはなりにくい。
発信源をIPアドレスのレベルで押さえて分析を行うことが必要であろう。そこで、我々は、まず、
メールサーバのIPアドレスから求められたGeoIPTLDの日変動を追跡調査した。この結果を図12に
示す。日によって若干の変動はあるものの、各日に見られる発信源の上位10カ国は、米国(us)、
イギリス(gb)、フランス(fr)、ドイツ(de)、イタリア(it)、ウクライナ(ua)、ブラジ
ル(br)、ポーランド(pl)、ロシア(ru)、ギリシャ(gr)、スペイン(es)の11のカントリ
ードメインのいずれかであった。また、国別比率についての教員間の分散は小さく、少なくとも
本学教員の受信メールに関する限りある程度一般性のあるデータと評価された。
GeoIPTLDがメールサーバTLDと一致しているとき、それは、いわば公然とスパムメールを発信し
ている状態を意味しよう。また、両者が一致しないとき、どちらかが虚偽の情報であり、詐称さ
れていることを意味する。
McAfee Report, 2006 年 11 月 7 日。このレポートでスパム業者が頻繁に利用する島嶼ドメイン
として名指しされたのは、トケラウ(tk)、ココス(キーリング)諸島(cc)、ツバル(tv)、アメ
リカ領サモア(as)、マン島(im)、トンガ(to)
、サントメ・プリンシペ(st)などだった。
7
MaxMind 社が提供している IP アドレスから地理情報を逆引きするサービス。
6
20
図 12 スパムメール送信メールサーバの所在国(GeoIP による)別比率の日変化
そこで、GeoIPTLDとメールサーバTLDの一致状況についての分析結果を表6に示す。一致状況は
日によって変動するが、全体の3分の1から半分のスパムメールはIPが詐称されていることが分か
った(=メールサーバのIPアドレスから所在国が求められない)。これを除くデータについて、
メールサーバTLDとGeoIPTLDとの一致関係をまとめたものがこの表である。同表の上半分に位置す
る5つのカントリードメインは、特に両者の一致比率が高いカントリードメインであり、スパム
メール発信源に対する追及がさほど厳しくない環境の存在を匂わせる。また、同表の下半分に位
置するカントリードメインではメールサーバTLDがgTLD(多くの場合comであった)である比率が
高い。
表6 スパムメールの発信源(GeoIPTLDに基づく)上位10カ国
GeoIPTLD
発信件数
メールサーバTLD
GeoIPTLDと一致
他のccTLD
Greece(gr)
2,182
85.7%
2.0%
Italy(it)
3,660
84.8%
1.8%
Poland(pl)
3,228
72.9%
21.3%
Brasil(br)
3,211
62.8%
32.3%
Germany(de)
5,619
47.7%
1.2%
Spain(es)
2,357
35.4%
3.6%
France(fr)
5,948
28.1%
0.9%
Russia(ru)
3,139
27.4%
10.6%
Ukraine(ua)
3,249
3.5%
13.7%
UK(gb)
7,935
2.0%
0.7%
USA(us)
19,185
※ 0.03%
0.5%
※:これはGeoIPTLD=メールサーバTLD=ccTLDとしての”us”の場合である。
gTLD
12.4%
13.5%
5.9%
4.9%
51.0%
61.0%
71.1%
62.0%
82.8%
97.3%
99.5%
一方、IPが詐称されているスパムメールのメールサーバTLDとなっているカントリードメ
インは、スパムメール自体にはなんら関与していないにもかかわらず騙れているケースも多
いと考えられるが、一応、これについても調査を行ってみた。ここでメールサーバTLDとし
て登場するドメイン名はGeoIPTLDの分布とかなり異なっており、日本(jp)、ブラジル(br)、
インド(in)、ロシア(ru)、ベトナム(vn)、ドイツ(de)、アルメニア(ar)、サウジ
21
アラビア(sa)、コロンビア(co)、トルコ(tr)となっている。先に示したGeoIPTLDベー
スの発信源上位10カ国と一致しているのは、ロシア、ドイツ、ブラジルのみである。メール
サーバTLDベースでの発信源は、観測者の所在国によってかなり変化する可能性のあること
を物語っていると推測できる。この点は2-4-6項で改めて論じる。
(2-2-11)ドメインの匿名登録者比率
(RDRA: Ratio of DNs whose Registrant is Anonymous)
このデータはいまだに作成中である。また、この比率が実際、どの程度、ドメインの悪用とリ
ンクしているかという因果関係も未検証の領域に属する。そういう意味で、最終報告書では留保
するべき事項かとも迷ったが、ドメインの安定性・安全性・耐障害性(SSR)の観点からは重要な
役割を占めるものであり、指標体系の望ましい姿を示す上で重要なであると考え、敢えて記載し
ておくこととした。この調査については、2010年の7月にはICANNの公募事業8にも応募したところ
であり、JSTプロジェクトとしての研究期間は終了してしまうが、引き続き検討を重ねたい。
(2-2-12)紛争解決手続きの利用可能性
(ADRP: Availability of Dispute Resolution Process)
本データは、国際大学グローコムの研究チームが、個別ドメインごとに管理者のウェブサイト
をチェックし、確認したデータである。ドメインにより、独自の裁判外紛争解決手続きを備えて
いるところと、WIPOのUDRP(Universal Dispute Resolution Process)を用いているところの二
種類があった。2009年の調査時点で、独自のADRPを採用しているドメインが35、UDRPを採用して
いるドメインが54であった。
8
ICANN, WHOIS Privacy and Proxy Abuse Studies
22
(2-3)データ収集対象ドメイン
なお、データ収集を行った対象ドメインは以下のとおりであるが、このうち、ウェブデータの
収集を行ったのはアジア、アフリカの合計140程度のドメインである。これは基本的にはウェブ空
間の大きなドメインは、現在の研究チームの計算機資源では処理しきれない大きさを持っている
ためであり、そのために、ヨーロッパや北米のドメインは除外せざるを得なかった。現在、研究
チームでは、調査結果の有意性を損なわない範囲内でどこまでサンプルサイズを小さくできるか
という研究を進めており、アジア、アフリカのドメインを対象とした分析において、分散分析(A
NOVA: Analysis of Variance)により、サイトあたりの取得ページ数はかなり小さくしても問題
のないこと、しかし、地域内におけるサイトのサンプル数についてはある程度のサンプルが必要
なことなどの結論を得ている9。今後、この研究を更に進めることより、欧州主要国のような大き
なドメインについても必要最小限のデータを取得し、指標を作成することが可能になるものと期
待している。
REGION
Africa
Asia-Pacific
Europe
Latin America
North Amrica
Other
Total
表6 調査対象ccTLDの数とその地域分布
Number of ccTLDs
United Nations member
59
53
82
61
50
41
47
33
5
2
7
2
250
192
以下の表が、これまで当研究チームが取得してきたウェブデータの内容一覧である。
表7
これまでに取得したウェブデータ一覧
YEAR
REGION
Max pages/Host
Number of Pages
Data Size(Byte)
2005
Africa
61,970
62,183,975
517,418,908,968
2005
Asia(CJKを除く)
34,466
51,416,890
490,253,207,703
2007
Africa
10,000
14,629,405
197,735,652,710
2007
Asia(CJKを除く)
10,000
22,827,036
144,587,836,525
2009
Africa
80,000
26,494,210
209,099,050,984
2009
Asia
10,000
46,962,508
464,656,628,810
2009
Caribbean
10,000
58,351,106
316,389,465,077
注:「CJLを除く」とは、中国、日本、韓国の三つのドメインを除外するという意味である。
2005年のデータは本研究プロジェクト開始前に収集したものである。Max pages/Hostとは、デー
タ取得にあたって、ひとつのドメインから最大何ページのデータを取得するか、というパラメー
タである。2005年時点ではこの上限値として100万ページを指定していた。2005年の欄に記入した
61,970、34,466という数値は、実際の最大ページ数を示す。その他の年の同欄の数値は設定した
上限値であり、また実際上の最大値でもある。
現時点で、各ドメインについて収集されたデータを、12の指標群ごとに整理したものを表8に
しめす。
Subha Fernando, Yew Choong Chew, Kodama Shigeaki and Yoshiki Mikami, Analysis of
variance to find an optimal sample to measure the language diversity of WWW(WWW2011
に投稿中)
23
9
O
M
S
S
I
L
D
L
○
○
○
○
○
○
A
R
D
R
L
L
P
R
○
○
P
R
D
A
P
P
L
L
○
○
⑫
N
D
I
N
○
○
⑪
M
L
O
N
○
○
⑩
O
L
S
R
P
P
D
N
24
○
○
⑨
○
○
⑧
G
D
P
R
○
○
○
○
○
○
⑦
M
D
P
R
○
○
○
○
○
○
⑥
○
○
○
○
○
○
⑤
59
82
50
47
5
7
④
Africa
Asia-Pacific
Europe
Latin America
North Amrica
Other
③
REGION
Number
of
ccTLDs
②
①
表8 収集・整備された指標群(2010年10月末時点)
○
○
○
○
○
○
(2-4)ガバナンス評価の視覚化
以上12種類の指標から、カントリードメインのガバナンスのレベルを評価するわけだが、その
際、分かり易い視覚化を試みた。それが図13に示す幾つかの「窓」である。ここでも、やはり3
つの視点に分類した。図13では、イメージを示したのみであるが、これからの各節で具体的なデ
ータを示す。しかし、共通の趣旨は、250のカントリードメインの該当データの分布図の中で自ら
の位置を知ることにより、ドメイン管理者が自己をよりよく認識する手助けに使用したいという
趣旨である。
本指標が社会に実装されるためには、容易に指標の意味を汲み取れることが極めて重要であり、
これが行えない場合、せっかくの指標群も多くのステークホルダに利用されずに終わってしまう。
その意味で、指標化と並んで、その視覚化にも大きな注意を払ったつもりである。なお、図13に
は7つの窓を標記したが、このうち、言語構成比は国別に作成される図であり、他の窓はやや性
格が異なる。
図13 ガバナンス評価の「窓」
(2-4-1)価格行動の窓
第一の窓は、ドメインの価格行動を監視する窓である。これは、図13に示すように、横軸を所
得、縦軸をドメインの名目価格として表現したグラフである。本図の上では、世界平均のドメイ
ン価格が領域を上限に二分しており、世界平均価格線よりも上に位置するドメイン管理者は、自
らの価格設定が世界平均をも上回るものであることを知る。一方、原点を通るもうひとつの線、
所得比一定線(この場合には月間所得の1%をひとつの目安にして直線を引いた)によってやは
り上下ふたつの領域に区分される。仮にこれらの領域をA(赤色領域)、B(黄色領域)、C(水色
領域)の三つに区分すると、ドメイン管理者は、自らの価格設定が、国際的に見て、また、国内
利用者の所得水準から見てどのような設定となっているのかを知ることになる。図13は世界中の
全てのドメインを調査した結果が書き込まれているため、自らのプロットされた位置を知ること
で、グローバルなポジションを知ることができる。
ちなみに、この三つの領域のいずれに属するかを、当該ドメインの管理者がICANNのプロセスに
どの程度深いかかわりを有しているかで分類して調べたところ、図14に示す結果となった。つま
り、ICANNプロセスのうち、ccNSO及びGACの双方に属するドメイン管理者は、全体の4分の3以上
が比較的リーズナブルな価格行動をとっているのに対して、どちらにも属さないドメイン管理者
は水色領域に属する価格行動をとっているものは全体の4分の1しかいない。これは、ICANNのプ
ロセスにしっかり関与することが全体として合理的な価格行動をとらせる上で一定の効果を有す
るということを物語っているように思われる。
このことがもつドメインガバナンス上のインプリケーションは大きい。ドメイン管理者はイン
ターネットガバナンスの根幹に位置するICANNとの関係を何らかの形で成文化し、関連する活動、
特にccNSOの活動と、GACの活動に関与すべきである。このことは、4.2項で述べるモデル規約
にも反映させた。
25
図14 価格行動-対所得比と世界平均比
図15 ICANNプロセス関与度別の価格行動
図16 ICANNの関係組織
(2-4-2)利用水準の窓
第二の窓は、利用水準の窓である。これは横軸にドメインの相対価格(月間所得との相対比)
をとり、縦軸に人口当たりのドメイン発行数を取ったグラフである。一般にミクロ経済学的分析
枠組みとしては、価格と需要をふたつの軸とするグラフを書いたときに、図15に示すような需要
曲線が描かれる。しかし、この図を実際に作成してみると、ドメイン間の分散はかなり大きい。
そして、このことが意味するのは、価格以外の要因が、ドメインの実際の利用水準には大きく影
響しているのではないか、ということである。その要因が何であるかを特定することは難しいが、
少なくとも、そうした非価格要因が利用水準を向上させる方向に作用しているのか、あるいは抑
制する方向に作用しているのかは、本図を見ることにより知ることができる。
26
図17 利用水準-価格要因と比価格要因
同図において、もちろん高位の利用水準を示すのはOECD諸国である。また、予備調査で人口当
たりページ数の水準が高かった島嶼ドメインは、発行済みサーバ数においてはそれほど、大きな
比率とならない。これは国外在住者向けに販売されているドメインは概ね少数の代理者を通じて
販売されており、ドメイン数としてはそれほど多くないためである。
(2-4-3)オープン性の窓
ネットワークのオープン性は、その全てがドメイン管理者の責任に帰されるものではないが、
現代の社会においてドメイン管理の状態を議論するときに不可欠な、重要な側面である。我々の
評価指標の体系の中では、それは「アクセス」という視点の「コンテンツ」レイヤーに属する。
オープン性に影響を及ぼしうる行動として、様々な行動が考えられる。これを行為の主体別に整
理したものが次の表である。
表9
Registrar
登録機関
ISPs
政府
検索エンジン
ネットワークのオープン性に影響を与えうる行動
差別的な名前付与
国外設置の制限
サイトのブロッキング
投稿者情報の開示
表現の自由への干渉、検閲
意図的なランキング操作
まず、ドメイン名管理者の場合には、差別的な名前付与といった活動が典型的である。これは
ドメイン名の木構造の発達の程度を観察するとよく分かるが、実際上、政府ドメインしか見当た
らないというドメインがある(シリアの場合、”sy”)。これは利用希望がないからという理由も
ありうるが、その状態が今日まで継続しているとも考えにくい。
次に登録機関レベルにおいては、国外に設置されたサーバへの名前付与を拒否するといった行
動がありうる。実際、われわれの調査によれば、幾つかのドメインで、国外設置サーバが確認さ
れていない。これらの国の多くは、情報活動に対して何らかの政治的な抑圧が指摘される国であ
ることが多い。
また、ISPなどのサービスプロバイダーレベルでは、サイトの閲覧に対するブロッキング、当局
からの要請があったときの投稿者の名前開示などの行動がありうる。
政府に関しては、言うまでもなく、検閲など、報道や表現の自由に対する明確な干渉がありう
る。
更に、検索エンジンにおいては、意図的なランキングの操作などが、ネットワークのオープン
性に影響を及ぼす。
しかし、これの全てに関して評価指標を得ることは不可能であり、我々が公開データからの、
27
しかもあまり客観性を損なわない範囲での評価指標としては利用可能な情報はそれほど多くない。
分析用情報源となりうる候補として、我々は、「国境なきジャーナリスト(Reporters Without
Border)が作成する”World Press Freedom Index”や”Enemies of Internet”といった定期的に発表
されるレポート、同様の調査報告として米国の民間組織フリーダムハウスが発表する”Freedom
Index”といった指標、及び我々の独自のデータに基づく、ウェブグラフの解析データを考え、こ
れらのデータの有用性を評価してみた。
まず、国境なきジャーナリストの調査結果について述べよう。これは、現地で活動するジャー
ナリストに対するアンケート調査に基づいて、その国における報道の自由のレベルを約50項目に
わたって取りまとめたものであり、具体的には、その年に何人のジャーナリストが当局によって
拘束されたか、新聞等の発行停止処分が何件あったか、当局による検閲の行われる頻度等が詳し
く調査され、指標化される。最終結果は国別のランキング表の形で公表されている。インターネ
ット関係では、サイトのブロッキング、投稿者の拘束、サイトへの攻撃などに関する現地記者等
の情報に基づいた評価が行われている。重要な情報源であるので、実際に彼らが用いているアン
ケート調査項目を参考に示す。
(参考)国境なきジャーナリストが使用している質問票(INTERNET AND NEW MEDIA関係)
40. Do the authorities control Internet service providers directly or indirectly?(ISP
の管理統制)
41. Cases of access to websites being blocked by filtering mechanisms or being closed down
by authorities?(サイトのブロックや閉鎖) Evaluate the level of this censorship on a
scale 0 to 5.(検閲レベルの評価)
42. Cases of cyber-dissidents or bloggers being detained for more than a day? How many?
(投稿者の拘束)
43. Cases of independent websites being the target of cyber-attacks or counter-information
campaigns?(ウェブサイトへのサイバー攻撃や逆キャンペーン)
こうした調査から得られたランキング情報を、我々は、ウェブから得られたグラフ解析結果と
つき合わせてみた。その結果の一部を図18に示す。これは両軸とも、特定の海外サイト(この図
では海外ニュースメディア)へのリンク数をとったものであり、横軸は国内に設置されたサーバ
からのリンク数を、縦軸には国外に設置されたサーバからのリンク数を取ったものである。する
と、両軸の周辺に、国境なきジャーナリストのランキングで下位20位までに位置する国々が登場
する(図中の赤い○印)。その一致率はきわめて高い。発表会資料では、あえてドメイン名(国
名)は示さなかったが、報道の自由度ランキングで下位20位にランクされた国のうち、アジア地
域の国が12カ国を占めるが、そのうちの7カ国は図16で軸の周辺(つまり、縦軸か横軸の値がゼロ)
に登場する。
図18 特定海外サイトへのリンク数、サーバの国内外設置別(アジア)
28
この図の意味するところは、次のようであると考えられる。まず、あるドメインのページに国
外のニュースサイトなどに張られているリンクが全くないというのは何を意味するか。リンクが
張られない理由として、
(1)海外のニュースサイトへの関心を持つものがいない、
(2)国内でのブロッキング(閲覧制限)のためにこれらのサイト自体にアクセスできない、
(3)言語上の制約のために海外ニュースサイトへの関心がない、
といった原因が考えられる。
このうち、(3)はなるべく多様な使用言語のニュースメディアをカウント対象に含めることによ
って排除することが可能であり、(1)もウェブ利用者の増加とともに次第にその可能性は低下する
ことと思われるので、(2)を有力な原因と推定することにそれほど無理はなかろう。
従って、縦軸に沿った黄色い領域に位置するドメインは、国内に設置されたサーバに対する閲
覧制限があると思われるドメイン、横軸に沿った黄色い領域に位置するドメインは、国外に設置
されたサーバに対する閲覧制限ということになるが、実際、これらの国では海外設置のサーバが
存在しないことが直接の理由である。このことから、横軸の領域は「国外に設置する自由がない
国」、縦軸の領域は「国内からは海外が見えない」という簡明な表現をつけた。
この領域に該当するのは、キプロス(cy)、グルジア(ge)、ヨルダン(jo)、レバノン(lb)、
カタール(qa)、シリア(sy)、イラク(iq)、北朝鮮(kp)、クウェイト(kw)、イエメン(y
e)、ミャンマー(mm)、キルギスタン(kg)の12ドメインだが、このうち、シリア、北朝鮮、イ
エメン、キルギスタン、ミャンマーは報道の自由度ランキングで最下位20位までに入っている国
と一致している。
また縦軸に沿った領域に属するのは、ラオス(la)、トルクメニスタン(tm)、東チモール(t
l)、イラン(ir)及び横軸にも登場するキプロス(cy)、グルジア(ge)、ヨルダン(jo)、レ
バノン(lb)、カタール(qa)、シリア(sy)、イラク(iq)、北朝鮮(kp)の合計12ドメイン
だが、やはりラオス、トルクメニスタン、イラン、シリア、北朝鮮の5カ国は報道の自由度ランキ
ングで最下位20位までに入っている国と一致している。
以上のような分析と考察から、この図は、あるドメインのネットワークのオープン性を示すも
のとして活用することができるのではないかと考えた。しかし、注意しなくてはいけないのは、
これは閲覧制限のためのブロッキングが行われている、という証拠ではないことである。あくま
でもその存在が推定される状況証拠のひとつとしての位置づけにとどまることに留意する必要が
ある。
なお、我々は、ページあたりの外向きのリンク数の分布状態を示す「アウトデグリー分布図」
による分析も試みた。ページあたりのリンク数は、ウェブ上でのリンクの発展が自由な環境で行
われる場合には冪乗則に従った分布を示すという仮説のもとで、理論的な冪乗則分布からの偏差
の度合いによって、そのドメインのウェブ環境の自由の度合いを観察できないか、と考えたので
ある。その結果作成した幾つかのドメインのアウトデグリー分布図を図19に示す。
この図は、ウェブページの少ないドメインから順番に上から下へ、左から右へ、と配列されて
いる。この順序に従ってアウトデグリー分布図が次第に冪乗則で期待される形に近づいているこ
とが観察される。
29
図19 アジア各国ドメインのアウトデグリー分布の冪乗則適合状況
(X軸:アウトデグリー、Y軸:ページ数)
これをより細部にわたって観察するため、中国、日本、ミャンマー、パキスタンの4つのドメ
インについて拡大図を図20に示した。ポータルなどが存在する場合、定型パターンの外向きリン
クが自動的に多数生成されることとなるために、アウトデグリー図の右端にはさみだれ状に点の
打たれた「柱」のようなパターンが多数発生する。こうした「柱」が多数存在することは、それ
だけ、ネットワークの結合を稠密にするリンク付け行動が盛んに行われていることを意味し、ウ
ェブ空間に大きな自由が存在するともいえる。しかし、その関係は簡単ではないので、指標体系
のひとつには組み入れなかった。あくまでも参考として示す。
図20 4カ国のアウトデグリー分布拡大図
(2-4-4)言語多様性の窓
ウェブ上に存在するページが何語で書かれているかという情報は、ウェブ空間の利用者のプロ
ファイルを知るための豊富な情報源である。このため、本指標体系においては、各ドメインの現
状を二つの指標から特徴付けることとした。ひとつはローカル言語比率であり、もう一方はリー
バーソンの多様性指標(LDI)である。
アフリカ地域のドメインについて、この図を作成したものを図21に示す。
30
図21a ローカル言語比率とリーバーソン多様性指標(アフリカ、2009年)
図21b 図19aの左側赤枠内の拡大図
アフリカの場合、ローカル言語の比率は、全体としては極めて低い水準にとどまっている。ロ
ーカル言語比率が相対的に高いのは、スーダン、リビア、エジプト、モーリタニア、チュニジア
など、アラビア語圏がほとんどであり。これにエリトリア、エチオピア及びマダガスカルなど、
ごく少数の例外が加わる。このうち、エリトリア、エチオピアは特殊な文字を使用する言語であ
り、筆者らは、ローカライゼーションの困難から、これほど高いローカル言語水準を達成してい
るとは予想していなかったところであり、驚きであった。2010年のデータではエリトリアのロー
カル言語比率は更に高まっている。マダガスカルもまた例外的にローカル言語比率が高いドメイ
ンであり、リトアニアで開催された第5回IGF会合(2010年9月)でこの数値を発表した後、マダガ
スカルNICの創立者であるLala Andriamampianina氏からは「大変興味深いデータなので、是非電
子データを送って欲しい」との反応があった10。ドメイン管理者といえども、自らの提供するドメ
イン空間が、どの程度まで現地の利用者によって、現地の言葉によって利用されているのかを把
握することは困難であり、我々のデータは驚きを持って受け止められたようだ。
図22に同様の形式のアジアについてのグラフを示す。
10
2010 年 10 月 4 日付け Lala Andriamampianina 私信。
31
図22 ローカル言語比率とリーバーソン多様性指標(アジア、2009年)
アジアの場合、ローカル言語比率がアフリカよりも総じて高い水準にあることがわかる。この
グラフで右の下方がローカル言語比率の高いモノリンガルなウェブ区間であることを示し、左側
に行くほど、ローカル言語比率が低下する。そして、ローカル言語比率が低下したときに、その
空白を単一の外国語が埋めるとき、そのドメインのプロット位置は左下に移動する。これに対し
て、ローカル言語の空白を複数の外国語が埋めるとき、プロット位置は左上に移動する。図20に
おいては、イラク(iq)、日本(jp)、ロシア(ru)、中国(cn)、韓国(kr)、サウジアラビ
ア(sa)、台湾(tw)、ベトナムvnなどがローカル言語80%以上を占めるドメインである。これ
らの国は多様性指標は小さい値をとる。比較的多様性指標が高い値をとるのはトルコ(tr)、イ
スラエル(il)、レバノン(lb)、キルギス(kg)、マカオ(mo)、インドネシア(id)、モン
ゴル(mn)などである。一方、フィリピン、インドなどは実世界における言語多様性はきわめて
高いが、ウェブ上で観察される言語多様性はきわめて低い。英語がドミナントな割合を占めるか
らである。なお、アジアのドメインの中ではラオス(la)が最大のLDIを示しているが、その理由
は在外居住者向けの販売によるものであり、その事情は本報告書3-2-4項に詳しい実地調査
結果として報告されている。
図中に引いた補助線はローカル言語比率をPとしたときのLDIの下限値と上限値を与える曲線
であり、それぞれ
下限値
上限値
1-[P2+(1-P)2]
1-P2
を表す。ローカル言語が複数あるときの扱いは少し面倒になるが、概ね、この両限界の間にプロ
ットされることになる。
(2-4-5)言語別構成比
以上のデータを補足する窓として、言語構成比の図をつけ加えることとした。これは全てのド
メインのデータを全体として表示するものではなく、ドメインごとに作成される図であるために、
他の窓とは異質であるが、ドメイン別の多様性を示すためにはこのような方式とせざるを得ない。
図23に、アジア全体、アフリカ全体の言語構成比及び幾つかのドメインの言語構成比を示す。
32
図23 言語構成比-利用者の姿を写す鏡
33
図23 言語構成比-利用者の姿を写す鏡(続)
これらのドメインのうち、南アフリカを除けば、それぞれのドメインにおける利用者の使用言
語の存在が極めてよく反映されていることが分かる。但し、その構成比においては、実世界の比
率と大きく異なる場合が多い。
図23において、Empty Pageとあるのはページが空である場合、Below Thresholdとあるのは、言
語判別に当たってテキストの長さが十分でない、あるいは判定の基準値を超える確度での判定が
下せなかった場合を指す。前者は主として単なるリダイレクションだけを行っているページと思
われ、実際にはかなりのシェアを占める。また、後者は、何らかの言語で書かれているわけだが、
我々の言語判別エンジンがトレーニングされていない言語である可能性もあるため、一応、別枠
として示した。しかし、350言語以上の判別を行うエンジンであるので、これ以外の言語が見つか
る可能性はかなり低い。むしろ、テキストが短いために判定できなかったケースが多いと考えて
よいだろう。
34
なお、実世界とウェブ空間の言語多様性を比較すると図24のようになっており、多くの国でウ
ェブ空間の多様性は実世界よりも低いが、在外居住者向けにドメイン販売を積極的に行っている
ドメインでは逆にウェブ空間の言語多様性が高い。
図24a 実世界とウェブ空間の言語多様性(アジア)
図24b 実世界とウェブ空間の言語多様性(アフリカ)
(2-4-6)セキュリティの窓
セキュリティの窓として、各ドメインの持つIPアドレスの世界シェア11を横軸にとり、縦軸にス
パムメールのヘッダーに書かれた送信サーバのIPアドレスを元に割り出したTLD(本報告書ではこ
れをGeoIPTLDと呼んでいる)の比率をとったグラフが次の図である(図中、赤い菱形で示した)。
スパムメールの発信を行っているIPの数は、そのドメインが保有するIPアドレスの数が多いほど
当然多くなるだろう。したがって、IPアドレスのシェアと対比しつつ発信源比率の数値を評価す
る必要があると考え、このようなグラフを設定した。
今回は上位10カ国のみを示したが、この10カ国で、IPアドレスの保有シェアにおいて世界の約
60%、スパムメール発信源の約69%を占める。このうち、米国が占めるシェアはIPアドレスベース
で47.6%、スパムメール発信源比率において21.7%である。その他の国もブラジル以外は先進国と
いってよい。本研究が当初想定した小さな島嶼ドメインは、必ずしも大きなシェアを占めていな
11
http://nami.jp/ipv4bycc/total.php を使用した。
35
い。
一方、送信サーバのIPアドレスについて詐称された情報を持つスパムメールの、メールサーバ
のTLD(本報告書ではメールサーバTLDと呼んでいる)も、同様にして、同じグラフにプロットし
てみた。これは、IPを詐称するメール送信者が騙っているTLDである。表面的には、スパムメール
はこれらのドメインから発信されたように見えるから、しばしば見られるスパムメール統計では
この頻度がカウントされていると思われる。こちらの上位10カ国のうち、ドイツ、ブラジル、ロ
シアの三カ国はIPアドレスを元に割り出した発信源の上位10位と一致するものの、それ以外は異
なる結果がでた。この中で日本が大きなシュア(最大のシェア)を占めることからも推測される
ように、この情報は、調査対象のメールの集合によりかなり変化しそうである。
図25 IPアドレス保有シェアとスパムメール発信源比率
もうひとつの試みもここで紹介しておこう。本研究グループの一員であるカナダのConcor
dia大学のZavarsky教授のチームは、30のカントリードメインをサンプルとして、ドメイン
管理ポリシーをセキュリティ面からクラス分けし、管理ポリシーの脆弱性の度合いと、APWG
の分析によるフィッシング・スコアの相関関係についての分析を行った 12。これも大変興味
深い分析であるので、指標作成には結びつかなかったが、ここで紹介しておく。
まず、ドメインを30選択する。選択にあたっては、所得水準による偏りが生じないように、
国連の人間開発指標(HDI: Human Development Index)による上位、中位、下位のそれぞれ
のカテゴリーから10カ国を選ぶ。そして、ウェブ上から得られる各国のドメイン管理ポリシ
ー文書を分析し、セキュリティの観点からその管理レベルの強さをやはり三段階に格付けす
る。ここで管理ポリシーの強さを測る基準としているのは、本研究で示したモデル規約に期
待される基準とほぼ同様の考え方に基づいている。これと、APEGのフィッシング・スコアと
の関係について相関を確認した。
ここでは結果のみを示すが、顕著というほどではないが、管理ポリシーの厳しいドメイン
においてはAPEG調査によるフィッシュ・スコアも相対的に低い(安全である)という結果が
得られている(表10参照)。
今後の指標の拡張にあたっては、スパムだけでなく、フィッシングなどに関するこうした
既存調査の活用も図っていくことが可能であろう。
Collins Umana, Pavol Zavarsky, Ron Ruhl, Dale Lindskog, and Gloria Ake-Johnson,
Comparative Analysis of ccTLD Security Policies, WWW2010
36
12
表10 ドメイン管理ポリシーの厳しさとAPEGフィッシュ・スコア(PS)との相関
0≦PS≦中央値(2.7)
中央値≦PS≦平均値(6.3)
平均値≦PS
Iran(2.8)
Luxembourg(0.7)
Nigeria(8.5)
Lebanon(3.7)
Tonga(10.6)
Sweden(0.9)
Armenia(13.5)
Switzerland(0.9)
Iceland(5.1)
Columbia(17.7)
Netherland(1.1)
Peru(5.1)
Norway(1.2)
Thailand(22.1)
Turkey(1.8)
表中、網掛けの国は管理ポリ
Canada(1.9)
シーが厳しいと評価された
Australia(1.9)
国。残りは中程度の厳しさと
Ireland(2.0)
評価された国。
Japan(2.3)
Ukraine(2.7)
出典:Umana, Zavarsky他(2010)
(2-4-7)信頼性の窓
コンテンツレイヤーにおける信頼性を代表する指標については、今回、ドメイン名に関する紛
争解決手段の利用可能性を挙げるにとどまった。当初の予定としては、ポルノグラフィー、知的
財産権侵害コンテンツをを多く掲載するサイトを特定し、その存在比率からドメインの信頼性指
標を提案することを考えてきたが、これは今後の課題として積み残すことになった。
興味深いのは、この手続きの存在が、ドメインの価格行動の上でも、より合理性の働く方向に
作用しているらしいことである。つまり、この指標は、単にコンテンツレベルでの信頼性を物語
るだけでなく、顧客の要求に真剣に対応しているか否かを表現する指標のひとつであるともいえ
よう。
図26 信頼性指標-裁判外紛争処理手続きと価格行動
37
(3)研究開発成果の社会的含意、特記事項など
2007 年 8 月 22 日に本研究を提案したとき、予想される研究成果の社会的意義として、研究代
表者は以下を挙げた。

カントリードメインは世界中のすべての国・地域に平等に割当てられた貴重な資源であり,
分権的管理という基本原則の下で安全・安心な地球規模のネットワークを構築するには,全
ての当事者が必要な能力と自覚をもって担当ドメインを管理する必要があり、正確な実態の
認識は事態改善の第一歩である。

最も弱い当事者を念頭においたルール作りと対策検討は実効ある国際ルールを生み出すうえ
で大きな説得力をもつ。

ドメイン管理のルール作りは、新しい社会に相応しいマルチステークホルダー主義による意
思決定メカニズムのモデル。
今日これを振り返ってみて、変更を要する点はない。カントリードメインガバナンスの実
態について、正確、多面的かつ客観的なデータをステークホルダーが自由に入手可能な形で
提供することは、インターネットの望ましい利用基盤を形成していくもっとも確かな圧力を
生み出すものと考える。当初、こうしたデータの提供先として、直接の当事者であるカント
リードメイン管理者を想定していたが、むしろ、ユーザーコミュニティ、政府、各種の支援
組織など、多種多様なステークホルダが利用することによって、管理者への圧力が生まれる
という図式のほうが、インターネットの管理方式には相応しいだろう。そのような意味で、
インターネットの利用者の立場に立って、かなり広範な側面を網羅しようと試みた指標体系
が一応形を成したことは大きな社会的意義を有するものと考えている。
本研究は、
「カントリードメインの脆弱性」という問題意識からはじめたが、最終的には、
ドメインガバナンスとデジタルデバイド、双方の視点を体現した指標体系、指標群になった
という点でも、時代の流れを踏まえた成果となったのではないかと考える。
(4)研究開発成果の今後期待される効果
インターネットガバナンス及びデジタルデバイドの問題については、引き続き、国際社会の重
要なイシューとして議論、提言が重ねられていくであろう。そして、これらの視点を体現した本
指標体系は、世界的にみても初めての試みであると自負している。
IGF 等のフォーラムの活動への参加を通じて、これまでに、指標体系についての基本的な考え
方、具体的な指標の一部は提示し、議論の材料に供し、カントリードメインの管理者、支援組織、
研究者からの関心を獲得してきたが、今後は、IGF や ICANN 関係組織のようなインターネットの
ステークホルダのフォーラム、WWW 等の研究者コミュニティ、ITU、UNESCO 等の国際機関の報告書
(ITU-D の報告書、UNESCO の出版物など)への素材提供などのチャンネルを通じて、完成した全
体像を示し、成果を国際社会にフィードバックしていきたい。
38
4.2
国際連携とモデルチャーターの開発(国際リエゾン・グループ)
(1)研究開発目標
国際リエゾン・グループ(リーダー:上村圭介国際大学グローバル・コミュニケーション・セ
ンター主任研究員)は、インターネットの国別トップレベルドメイン(country-code top-level
domain)のガバナンスの課題の分析と、そのガバナンスを向上させるために必要な管理運用方針
に求められるべき原則の抽出を目標とした。
その上で三つのことを目指した。第一は、①ccTLD の管理運用に関するポリシーを決定する国
際的フォーラムや、そこに参加する ccTLD 関係組織、IP アドレス管理組織、その他関係者との対
話や意見交換を通じて、ccTLD のガバナンスに関する関与者の特定を行い、本グループとの国際
連携を進めることである。本研究開発の成果の社会実装を進めるために、成果の受け手である「関
与者」を特定し、彼らとの国際連携の上で、実装へ向けた関係作りを進めた。
第二は、②カントリー・ドメインの利用・管理実態に関する調査である。ここでは、ccTLD の
利用・管理実態に関する海外調査である。ここでは、国・地域ごとに割り当てられている ccTLD
が、どのような主体によって運用されているか、どのような管理運用方針をもち、利用者によっ
てどのように利用されているかを明らかにした。
第三は、③それらを踏まえた Model TLD Charter の開発である。関与者の特定、課題の抽出お
よび利用・管理実態調査の結果を受けて、今後の ccTLD の管理運用において検討を要する課題か
らなる Model TLD Charter を開発した。
本グループの研究開発の特徴は、インターネットの重要資源の管理運用を統括・調整する
Internet Corporation for Assigned Names and Numbers を始めとする関与者との直接の対話や
意見交換を通じて、Model TLD Charter の開発を漸進的に進めたところである。これは、すでに
現実のシステムとして機能している ccTLD のガバナンスについて、全くの部外者がそれまでの経
緯を無視して机上の正論を振りかざすことのないようにするためである。
(2)関与者の特定
ICANN と ccTLD 管理運用主体との間の関係は、インターネット発展の歴史的経緯を今でも強く
反映している。ICANN は、Internet Corporation for Assinged Names and Numbers との名が示す
通り、ドメイン名と IP アドレスの管理運用を行なう組織である。しかし、2003 年の世界情報社
会サミット(WSIS)で採択されたジュネーブ行動宣言において、"Governments are invited to ...
manage or supervise, as appropriate, their respective country code top-level domain name
(ccTLD)"と規定され、政府が ccTLD の管理運用に関与することが排除されていない。その結果、
ccTLD に関してはそれぞれの自治に基づいた自主的な管理運用が尊重される。
しかし、ccTLD の管理運用に関する ICANN と各国政府との間の関係は、電気通信や郵便事業に
見るような国際体制におけるそれと比べると明確なものではない。ICANN はアメリカ商務省から
契約によってインターネットの管理運用を委託されてきた民間組織である。国として ICANN と直
接 ccTLD の管理運用について覚え書き等を取り交わすケースも少なくないが、政府は、ICANN と
ccTLD との間の既存の関係を追認するという立場をとるケースもまた相当数に上る。また、各国
政府の関与が排除されないながらも、政府との直接的・明示的な関係をもたない ccTLD 管理運営
主体も若干ながら存在する。
本研究開発の過程で特定された関与者のグループは下表の通りである。本研究開発の成果の一
つである Model TLD Charter の開発と普及について、Internet Governance Forum や ICANN 総会
における ccTLD 関連会合・ワークショップなどの機会を活用して、関与者へのプレゼン、意見交
換などを行った。
関与者のグループ
ICANN
各 ccTLD 管理運用関係者
表 11 関与者と役割
概略・役割
ドメイン名を始め、インターネットの重要資源の管理・調整を推進
する。内部に Country-Code Name Supporting Organization(ccNSO)、
Government Advisory Committee(GAC)を有する。
ccTLD を管理運用する主体。ccTLD の管理運用主体であるレジストリ
のほか、利用者へのドメイン名の販売等を実施するレジストラ、単
39
各国政府
地域 TLD 組織
ccTLD の管理運用に関す
るボランタリー組織
インターネットガバナン
スフォーラム
研究者コミュニティ
にレジストリやレジストラと利用者の間の取り次ぎだけを行うリセ
ラ(再販業者)などがある
監督官庁として ccTLD の管理運用に関して責任・権限を有する、あ
るいは監督者としてではなく民間活動としての ccTLD の管理運用を
追認する
地域ごとに ccTLD や他の TLD の管理運用主体が組織し、地域ごとの
ドメイン名の課題について情報共有や意見集約を行う。世界の 5 地
域(アジア太平洋、欧州、北米、中南米、アフリカ)ごとに設けら
れている。
ICANN など「公的」な枠組みとは別に、事業者同士の私的な枠組みを
通じて、より実務的な視点から ccTLD の管理運用の質を向上させよ
うとする試みがなされている。その代表例は、Council of Country
Code Administrators(CoCCA)である。
政府・国際機関、産業界、非営利組織、技術コミュニティなどのス
テークホルダーの対等な参加を通じて、インターネットの管理運用
上の政策的諸課題について議論することで、各ステークホルダー間
の問題意識の整合や、課題解決のためのベストプラクティスの共有
などを行う。IGF 本会合のほか、地域・国別に行われる IGF 関連会合
13
が開催される。
Internet Governance Academic Network(GigaNet)を中心に、ドメ
イン名の管理運用を含む、インターネットガバナンスの政策的課題
について研究する学者・研究者。彼らの多くが、単なる学術研究だ
けでなく、その成果を踏まえて、政策的な実践を進めている。
狭義には、ccTLD の管理運用に直接関与するのは、ICANN および各 ccTLD 管理運用主体である。
しかし、ccTLD を含むインターネットガバナンスの政策課題についての意識共有、意見交換とい
った活動は、それ以外の主体や場面において行われている。したがって、本研究開発の成果物の
一つである Model TLD Charter を提示する先としては、ICANN および ccTLD 管理運用主体のほか、
インターネットガバナンスフォーラムや、ccTLD の管理運用に関するボランタリー組織、研究者
コミュニティを含むことが必要である。
(3)ccTLD の利用実態の調査
(3-1)ccTLD の管理運用主体の状況
ccTLD を管理運用する主体は、それぞれの国・地域によって組織形態や運用モデル(営利か非
営利かなど)が大きく異なる。本調査研究では IANA Root Zone データベースに登録されている情
報をもとに、ccTLD がどのような主体によって管理運用されているのかを調査した。ここでは、
管理運用主体の組織形態を政府機関、民間企業、非営利組織、学術機関、その他(個人など)の
5 つに分類した。ccTLD の管理運用主体には、Sponsoring Organization、Administrative Contact、
Technical Contact という三つの役割があり、IANA Root Zone データベースでは、それぞれの役
割をどのような主体が担当しているかを記している。Sponsoring Organization は、その ccTLD
の管理運用の責任をもつ主体、Administrative Contact および Technical Contact はそれぞれ実
務・技術的な連絡窓口を担当する主体である。これらすべての役割を一つの主体が担当すること
もあるが、複数の組織に分かれていることもある。特に、政府がその ccTLD の管理運用の責任を
もち、その管理運用の実務を民間事業者に委ねる場合がそれに該当する。
表 12 管理主体の属性
S.O.
A.C.
政府
53
60
民間企業
92
84
13
T.C.
32
114
このような会合は regional IGF または national IGF と呼ばれる。
40
非営利組織
学術機関
その他
合計
37
58
5
245
37
61
3
245
38
54
7
245
Affiliation of Contacts
300
250
200
150
100
50
0
S.O.
A.C.
T.C.
Government
Private
Not for profit
Academic
Other
図 27 管理主体の属性
ccTLD の管理運用は、各国政府の強い影響下にあり、公式には ICANN と ccTLD の関係は対等な
ものとされる。したがって、技術的には、ccTLD の管理運用の権限の源泉は ICANN にあるが、ICANN
は ccTLD の管理運用主体の行動を規制・制約することはできない。そのため、ccTLD の管理運用
に関して ICANN と何らかの取り決めを交わすかどうかも ccTLD 管理運用主体の判断に委ねられて
いる。本研究開発で調査した時点14では、ICANN との何らかの契約関係をもつ ccTLD は約 250 ある
うちの 51 件に留まっていた。
Accountability
Framework, 15
Not signed, 192
MoU, 7
Sponsorship
Agreement, 7
Registry
Agreement, 1
Letter of
Exchange, 21
図 28 ICANN 管理主体の間の契約関係
しかしながら、ccTLD 管理運用が可能なのは、ICANN を中心としたインターネットガバナンスの
枠組みが機能するからであり、その意味において ccTLD 管理運用主体には、ICANN の枠組みに積
14
2007 年末時点。
41
極的に参加することが期待される。
ccTLD の管理運用に関する ICANN の内部機構としては ccNSO(Country Code Name Supporting
Organization)と GAC(Government Advisory Committee)がある。ccNSO は ccTLD 管理運用主体
によって構成されるステークホルダーグループである。一方、GAC は ICANN の理事会に対して各
国政府の立場から助言をする組織である。下表は、これらの ICANN 内部機構への ccTLD の参加状
況をまとめたものである15。
表 13 ICANN のステークホルダーグループへの参加状況
GAC 参加
GAC 非参加
計
ccNSO 参加
47
32
79
ccNSO 非参加
59
107
166
計
106
139
245
本研究開発で調査を実施した時点16では、GAC に参加する ccTLD の数は 106、ccNSO に参加する ccTLD
の数は 79 であった。合意文書の取り交わしの状況と合わせると、ICANN のガバナンスの枠組みへ
の参加が十分進んでいない様子がうかがえる。
(3-2)ccTLD の利用実態
本調査研究では、ccTLD 運用の実態を調査する上で可能な限り、追跡可能なデータに基づくこ
とを基本方針とした。一般的に、インターネットの管理運用に関する情報は広く公表されている。
技術規格である RFC は、その策定経緯を含め、誰にでも公開されていることは知られている。一
方、ccTLD の管理運用については、国・地域ごとに方針が異なることもあり、情報公開の基準が
一様ではなく、ドメイン名の登録数を公表している ccTLD 管理運用主体は 57 件にすぎない。そこ
で、本調査研究では ccTLD の利用実態の全体像を把握するために、Internet Systems Consortium
(ISC)が四半期ごとに公表している Domain Name Survey を使用した。
ISC のドメイン名調査は、IP アドレスを下にしたドメイン名の逆引きによって得られるドメイ
ン名を TLD ごとにまとめたものである。そのため、複数のドメイン名が一つの IP アドレスに対応
する場合には、そのすべてを知ることができないなどの制約がある。しかし、ドメイン名の登録
数のデータは、管理運用主体以外には公表されていないことや、公表されていても概数などに限
られることが多い。そのため、外部からの「観察」によるデータを採用せざるを得ないのが現状
である。本研究開発が提唱する Model TLD Charter とも関連するが、ccTLD の管理運用について
の情報は、その公共性に鑑み、一定の基準に合致するものについてはすべて公開することが相応
しいと考えられる。
VeriSign の資料によれば、2008 年 7 月の時点で、6,500 万件あるとされる。一方、ISC のドメ
イン名調査結果をもとに集計すると、同時期のドメイン名の総数は 114 万件である。ISC のデー
タは全体の 1.8%を捕捉しているに留まっている。ドメイン名の登録数を公表している 57 件の
ccTLD と比較をした場合、Y=0.775X-0.4028(X=log10(x)、Y=log10(y))との近似式が導かれ、
R^2=0.7691 となったことから、両者は高い相関を有していることが分かる。ccTLD の関係者から
は、ISC のような外部観察のデータに基づいた調査の信頼性についての疑問の声も聞かれたが、
ccTLD の全体的な傾向を導き出し、それを踏まえた管理運用方針への一般的な提言を行う上では、
ISC のような外部データも有効であると考えられる。
15
16
ここでは、運営実態が確認できる 245 件の ccTLD を対象にしている。
2008 年初頭。
42
Registered domain names
Calculated figures (from ISC data)
1.E+06
1.E+05
1.E+04
1.E+03
y = 0.4028x 0.775
R2 = 0.7691
1.E+02
1.E+01
1.E+00
1.E+03 1.E+04 1.E+05 1.E+06 1.E+07 1.E+08
Published figures
図 29 実測データと ISC データの比較
名前空間の設定と登録数
Internet Systems Consortium(ISC)のドメイン名に関するデータや ccTLD 管理組織による情
報を分析した結果、実質的に現在機能している 245 の ccTLD において、1,680 件を超える名前空
間(利用者がドメイン名を登録できる空間)が設定されていることが確認された。
700,000
300
600,000
250
500,000
200
400,000
150
300,000
100
200,000
# of names
# of name spaces
Number of name spaces and registrations
50
100,000
0
# of names
Tr
A
ad rt
em
Tr ark
an
sp
C
om or
m t
un
ity
O
th
er
s
C
om
m
er
ci
al
R
eg
io
n
G al
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is
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io
A
n
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G
m
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N
et ver ic
w
nm
or
en
k
P
ro t
vi
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In
r
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v
In
i
d
fo
rm ual
at
io
na
l
M
ilit
P
ar
ro
y
fe
ss
io
na
l
M
ed
ic
al
M
ed
ia
0
# of NS
図 30 名前空間の数と登録数
本研究開発で明らかにした名前空間一覧をもとに、それぞれの名前空間の利用状況を分析した
結果、利用されている名前空間のほとんどは商用(*.com.fj や*.co.jp など)と汎用 ccTLD(*.jp
や*.de)の二つであることが明らかになった。また、設定されながらまったく活用されていない、
つまり登録された名前が存在しないと思われるドメイン名が 300 件近くあることも今回の調査で
明らかになった。名前空間の構造の設計は ccTLD の管理運用の中でも重要な課題と考えられてい
るが、実態としてはその努力は報われていないと言える。
ccTLD 別ドメイン名登録数の分析
ccTLD ごとに、一人あたりドメイン名登録数と、それぞれの ccTLD が対応する国・地域の一人
あたり GDP を比較した場合、両者は比較的高い相関を示す(R^2=0.53314)。また、ドメイン名登
録数を単純に一人あたりではなく、インターネット利用者数あたりドメイン名登録数に置き換え
ると、回帰直線の傾斜がなだらかになり、かつ相関が弱まることが見られる。
43
1e+01
GDP per capita and number of registrations per head
R^2: 0.53314 y= 1.20346 x+ -8.62182 / R^2: 0.14231 y= 0.43432 x+ -4.85606
1e-07
1e-05
1e-03
Number of registrations per head
1e-01
Per resident
Per Internet user
1e+02
1e+03
1e+04
1e+05
1e+06
GDP per capita
図 31 1 人あたり GDP と 1 人あたりドメイン名登録数
一方、インターネット普及度17と 1 人あたりのドメイン名登録数をプロットしたのが下図である。
この図からは、インターネットの普及度と一人あたりドメイン名登録数の関係は 2 つのグループ
に分けて考えることができる。一つは、インターネットの普及とドメイン名の登録数が正の相関
にあるグループである。このグループの 1 人あたりのドメイン名登録数は帯状に分布している。
もう一つのグループは、この帯から外れる 1 人あたりドメイン名登録数を有する。これらのグル
ープには、TV、NU、MS、TO、FM など、ccTLD の略号が、英語またはその他の言語の単語の略語に
なっているものが含まれる。このような ccTLD は、国内利用者の需要に関わらず、在外利用者が
ドメイン名を登録するために、その結果 1 人あたり登録数が押し上げられることになっているも
のと考えられる。
1e+00
Internet penetration and domain name registration
NU
CX
TV
1e-02
TO
WS
MS
SH
LI
VG
GP
GI
BZFM
ST
1e-06
1e-04
CZHU
SI IE
JE PT
KY MTILLT
SM
VCSK
NR
GR NCCY PL
AI
CKPF
BN
RO
CL
IT
RU
BR
QA
AW
MK
ZAFJ
AM
BW
VIUY
UA
BH DM HR AE
AR
BG
ES
NAVU
MD
GEZWEC
MX
PAPE CR MQ
SC MO
MVJO
MU
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VE
TR
CO
SZ
DJ
KW
LB
MY
GD
CU
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BY
SV
SRGT TH BS
SB
LC GU
LV
GA
BA
MH
GW
LA
MN
KG
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AZ SA
BO
HN OM
JM
LK
NI
PG
ZM
MAGY
PHCV AL
KE
VN
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TN GF
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LSIDTJ
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UZ EG
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UG
YE
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AO
TM
KM
BJ
KH
NP
GM
CI
SNPK CN
LY
BFGH
IR
BICM
IN
DZ
SL
GN
CD
MW
SY
RW
CF
TG
CG
ER
KZ
ML
ET
AF NG
HT
BD
LR
MR SD
TD
MM
SO
IQ
IS
AU
AG
NZ
CH
MC
FIDKNL FK
BMNO
AT DE
LU
GG
UK
TW
BE ADJP SE
HK SG
CA
FR
EE
BB
KR
US
1e-08
Domain names per resident
TK
0
20
40
60
80
100
Internet users per 100 inhabitants
図 32 インターネット利用者数とドメイン名登録数
17
ITU による人口 100 人あたり利用者数。
44
人口 1 人あたりドメイン名の登録数と 1 人あたり GDP を、所得グループに分けて分析した結果
が下図である。前述の通り、一般的な傾向として、1 人あたり登録数と 1 人あたり GDP には相関
が見られる。したがって、1 人あたり GDP が少なければ、登録数も少ないことが予想される。と
ころが、1 人あたり GDP が低いグループでは、ccTLD ごとの登録数のばらつきが、1 人あたり GDP
が高いグループに比べて大きい。このようなばらつきの違いは、1 人あたり GDP が高いグループ
でも見られるが、そのばらつきは、低位のグループに比べると小さい。所得グループごとの登録
数には優位な差がある。これは、需要が少ないはずの低位のグループには、国内のドメイン名利
用者ではなく、国外の利用者に対してドメイン名を販売することに積極的な ccTLD が存在するこ
とを反映したものと考えることができる。
-2
-3
-4
-5
-7
-6
Registrations per resident (log10)
-1
Registrations per resident by GDP class
LL
L
H
HH
GDP group
図 33 所得グループごとの登録数
表 14 所得グループ別の登録数のばらつき
所得階層
標準偏差
HH
0.66
0.75
H
0.70
L
1.20
1.13
LL
0.86
ccTLD の管理運用体制とドメイン名登録料の水準
次に ccTLD ごとのドメイン名登録料について分析する。登録料に関する費用としては、ドメイ
ン名の販売事業者が管理運用主体に対して支払う費用がある。前者が小売価格とすると、後者は
卸売価格に相当する。ここでの登録料は、利用者がドメイン名を登録しようとするときに支払う
必要のある登録料とした。また、登録料の有無が明らかなものだけを対象とし、ccTLD ごとに、
登録料が設定されている、または明示的に登録料が無料とされている名前空間について代表的な
登録料を調査した。管理運用主体が徴収すべき登録料が利用規約などによって定められている場
合には、その値を使用した。
一つの ccTLD は、複数の名前空間に対応して複数の登録料をもつ。そこで、ccTLD の登録料水
準を総合的に判断するために、本研究開発では、中央値と加重平均値の二つを計算した。加重平
均値の計算にあたっては、名前空間ごとに登録料×登録数(=推定売上)を算出し、それを登録
数で除した。その結果が下表である。分散分析の結果、GAC への参加の有無とドメイン名登録料
の水準は、優位に関連していることが明らかになった。
45
表 15 ステークホルダーグループへの参加と登録料水準
GAC 参加
GAC 非参加
ccNSO 参加
$30.9($25.0)
$124.4($56.3)
ccNSO 非参加
$69.4($29.0)
$124.0($115.7)
全体
$60.5 ($27.29)
下表に示す通り、あるドメイン名空間に利用者が名前を登録する際の料金の観点で見ると、よ
いガバナンス体制にある ccTLD は利用者が支払う価格が低く、ガバナンス体制が十分整備されて
いないと思われる ccTLD では利用者が支払う価格が高くなる傾向が確認できる。これは、ccTLD
の管理運用体制の成熟度が、低廉なドメイン名登録料といった利用者の利益と無関係ではないこ
とを示すものと言える。つまり、ccTLD の管理運用には、利用者の利益の増進と、よいガバナン
ス体制の実現の両方が求められているのである。
(3-2-2)外国人料金を設定している ccTLD
ドメイン名登録にあたり、その国または地域に居住する利用者、その国または地域で登記され
た法人利用者向けの料金と、在外利用者向けの料金が別々に設定されることがある。このような
「外国人料金」を設けている ccTLD は本研究開発で実施した調査では、以下の 21 の ccTLD に認め
られる18。しかも、国内利用者向け登録料と在外利用者向け登録料の間には大きな差が見られる。
前者が US$52.9 であるのに対して、後者は US$158.8 に上る19。











表 16 外国人料金を設定している ccTLD
ccTLD(国・地域名)
ccTLD(国・地域名)
 JM(Jamaica)
AG(Antigua and Barbuda )
 KN(Saint Kitts and Nevis)
AM(Armedia)
 LC(Saint Lucia)NA(Namibia)
BS(Bahamas)
 PA(Panama)
BT(Bhutan)
 PK(Pakistan)
CG(Republic of Congo)
 RW(Rwanda)
CK(Cook Islands)
 SC(Seychelles)
CU(Cuba)
 SN(Senegal)
EC(Ecuador)
 TT(Trinidad and Tobago)
FJ(Fiji)
 VI(US Virgin Islands)
GP(Guadeloupe)
GT(Guatemala)
(3-2-3)無料の登録が可能な ccTLD
また、無料でドメイン名を登録することのできる ccTLD も存在する。その ccTLD に設けられて
いる名前空間のすべてが無料登録の対象になるわけではないが、何らかの名前空間を無料で開放
している ccTLD は下表の通りである。ただし、ドメイン名を無料で発行する場合でも、
「国民 1 人
につき 1 ドメイン」または「登記された法人 1 社につき 1 ドメイン」といった制約が課せられる
ことが一般的である。
18
その後、MN(モンゴル)の管理運用の元関係者から、MN にも外国人料金の設定があるとの
指摘を受けた。
19 国内利用者による登録数と在外利用者による登録数の配分が不明なため、ここでは中央値ベー
スで比較。
46
表 17 無料登録が可能な名前空間をもつ ccTLD
ccTLD(国・地域名)
ccTLD(国・地域名)
MX(Mexico)
AG(Antigua and Barbuda )
NG(Nigeria)※現地利用者のみ登録可
AR(Argentina)
NP(Nepal)※現地利用者、在外利用者ともに
BS(Bahamas)
無料
CG(Republic of Congo)
PA(Panama)
EC(Ecuador)
RW(Rwanda)
EE(Estonia)※現地利用者のみ登録可
SC(Seychelles)
GG(Guernsey)
TT(Trinidad and Tobago)
JM(Jamaica)
YU(Yugoslavia)20
LB(Lebanon)※現地利用者のみ登録可
MG(Madagaskar)
ZA(South Africa)
MP(Northern Marianas)
また、これらのほかにも TK(トケラウ諸島)は、ドメイン名を登録する際に、有料と無料の二
つのプランを選ぶことができる。無料のプランを選択した場合には、TK の管理運用主体が提供す
るホスティングサービスを通じてドメイン名を利用することになり、自動的にポップアップ広告
が表示される。
なお、ここでの無料登録の対象名前空間は、その国・地域の利用者または在外利用者がドメイ
ン名を登録することが可能なものである。政府機関向け名前空間、教育・研究機関向け名前空間
は、多くの ccTLD で事実上無料で提供されているが、一般の利用者がドメイン名を登録できる名
前空間ではないため、ここでいう無料登録が可能な名前空間の中には含まない。
(3-2-4)管理運用実態の調査の結果
本研究開発では、個別の ccTLD の管理運用の実態を明らかにするために、管理運用を実際に担
当している主体に対してヒアリング調査を行った。.KH(カンボジア)
、.LA(ラオス)、.TH(タイ)
の三つの ccTLD について、それぞれレジストリから運営方針や運営状況について行ったヒアリン
グの結果を以下に示す。
.KH(カンボジア)
.KH は、カンボジアの逓信省(郵政電気通信省)によってスポンサーされ、管理・技術運用も
同省が実施している。
.KH の下には、*.com.kh、*.edu.kh、*.gov.kh、*.mil.kh、*.net.kh、*.org.kh、*.per.kh の
七つの名前空間が確保されている。このうち、*.mil.kh については調査の時点で設けられたばか
りであり、まだ DNS 上にゾーンとして存在していない。*.per.kh は個人名によるドメイン名を登
録するための名前空間である。国営の公社は*.com.kh の名前空間を取得することとされており、
*.gov.kh は政府機関に限定して発行されている模様である。
カンボジア国内に、.KH を取り扱うレジストラは多数存在するとされるが、DNS レコードの更新
などが自動化されているわけではなく、事実上郵政電気通信省がレジストリおよびレジストラ業
務も兼ねており、実際にはレジストラは代理店として申請者のドメイン名の申し込みなどを取り
次ぐだけであると考えられる。ただし、レジストラになるには郵政電気通信省との契約が必要と
なる。
ドメイン名の取得・維持の費用は、年間 33 ドルである。これはレジストラが郵政電気通信省に
対して支払う金額で、レジストラはこの金額に手数料等を加算して、40 ドル前後を利用者から徴
収している。
ドメイン名の運用担当者によれば、現在.KH 以下に登録されているドメイン名は 900 から 1,000
件程度である。
ドメイン名の取得資格は厳しく確認され、法人であれば登記簿が必要とされる。登記簿が用意
できない場合には、申請者がそのドメイン名を取得する正当性があることについて利用者と郵電
省の間で合意書が交わされることになる。後日その申請者がそのドメイン名を取得するに相応し
20
YU は旧ユーゴスラビアのドメイン名
47
い資格がないと判断されれば、ドメイン名を返却することになる。
郵電省には、.KH 以下のドメイン名の利用をめぐって、商号の変更などの問題が寄せられる。
レジストラは苦情や申し入れの取り次ぎだけを行い、実際には郵政電気通信省の担当者がほとん
どすべての対応を行う。この対応は担当者の時間的な制約もあり、円滑に進んでいない。
著者が訪問した際の印象では、.KH の運用はほとんど手作業で行われている。DNS レコードの更
新などの技術的な操作の現場を見ることはできなかったが、例えばドメイン名取得・更新の費用
の請求書は、郵政電気通信省の次官(undersecretary)の決裁が必要とされ、その書類の回付に
多くの時間が費やされている。これは、.KH 下のドメイン名の数が少ないから可能であることと
思われるが、ドメイン名の取得ニーズが拡大した際には処理が追いつかず、混乱を伴うことが予
想される。また、政府内の力関係もあり、郵政電気通信省は.KH の管理を引き続き同省が行う意
向を示しているが、人的・資金的な手当ては十分ではない。.KH の運営からは年間約 30,000 ドル
の収入が同省にもたらされる計算になる。これはカンボジア政府の予算額として決して少なくな
い金額であるはずだが、このような額の収益を得るのであれば、ドメイン名管理運用のための体
制を十分整備することが望まれる。
また、.KH 以下でスパムやフィッシングの問題が発生しつつあることは認識されているが、レ
ジストリの立場としてはその解決には踏み込むことができない状況である。これは、レジストリ
と登録者との間でそのような問題が発生したときの解決手順について明記されていないことが原
因であると考えられる。
.LA(ラオス)
.LA はラオス人民民主共和国に対応するドメイン名である。ラオスがインターネットに接続し
たのは、1996 年、カナダの IDRC による PAN Networking プロジェクトがラオスで実施されたこと
がきっかけとなった。その際に、.LA の権限委譲を IANA に対して申請した。当時は、管理担当者
はラオス人、技術運用担当者はシンガポールテレコム(SingTel)であった。ラオス政府の窓口に
なったのは、科学技術環境庁(STEA)、現在の国家科学技術庁(NAST)であった。
2000 年に、オーストラリアの企業である Steering Pacific が、.LA の運用に関する契約をラオ
ス政府から獲得したが、プライマリ DNS サーバをラオス国内に設置すること、および運用からの
ロイヤルティをラオス政府に対して支払うこととという契約時の条件を果たさなかったため、契
約が打ち切られた。
2001 年には、ポルノサイトについての苦情が訴訟にまで発展し、2001 年には ICANN によって.LA
の機能が一時停止されるという事態を巻き起こした。その後、イギリスの GAA International
Limited が.LA の運用を引き継ぐこととなり、さらに 2002 年には DNS の管理は Register.com に移
された。
.LA は、アメリカのロサンゼルス市の略号と同一であるため、.LA は汎用 ccTLD としてインター
ネット上では同市のドメインであるとしてマーケティングされている。現在.LA には 26,000 件ほ
どのドメイン名の登録がある。
ラオス政府は GAA からドメイン名に比例するロイヤルティとして 26 万ドル、またそれ以外に技
術費用として 13 万ドルを得ている。これは、国内むけ名前空間の運用のための費用(インターネ
ット接続や機器のコスト)として使われている。レジストリとして独立した運用を行うには、年
間で 30 万ドル必要とされ、単年度的にはレジストリとして独立できるだけの収益があることにな
るが、当面は現状の運用体制を継続するとのことである。
このように.LA が「ロサンゼルス市」のドメインとしてマーケティングされているため、あた
かも.LA ドメインは外国に売却されてしまったかのように見えるが、ラオス政府の担当者の話で
は、第二レベルの属性ドメインも存在するとのことであった。現在、名前空間として設けられて
いるのは、下表の 12 件である。
*.com.la
*.gov.la
*.edu.la
*.per.la
図 18 .LA に設定されている名前空間
*.party.la
*.prn.la
*.mil.la
*.info.la
*.net.la
*.int.la
*.assembly.la
*.org.la
48
これらの名前空間にドメイン名を登録するには年間 15 ドルの登録料が必要となる。これらの名
前空間に登録できない名称として、約 5,000 語からなる禁止語リストが定義されている。この中
には、政府機関の名称、省(州)名、人名、花の名前、卑猥な単語が含まれる。
しかし、国内の利用者には、その存在が十分知られていない。現在ビエンチャン在住のラオス
人技術者の一人は、国内にいる日本留学経験者の同窓会組織のためのウェブサイトを作る際、
*.com.la を取得したいと考えたが、そのための情報が十分提供されていなかったため、結局
*.com.la の取得を断念し、*.com を使用することにしたと述べた。
このように、国内利用者へのサービスも十分意図されていながら、.LA があたかもロサンゼル
スに売り渡されたように見えてしまうことで、その意図が国内利用者に周知されていない状況が
ある。これは、手続き上は問題ないが、不必要な誤解を招くおそれがあるため、是正されること
が期待される。
*.la の売り込み方には、三つの形態がある。一つは、プレミアムドメイン名である。これは、
2001 年に 250 のドメイン名を確保し、1 件について 1,000 ドルの価格を設計した。しかし、結局
10 件ほどしか売れていないということである。なお、GAA はこの収益をラオス政府に支払うこと
になっている。
また、それ以外にブランド、企業名に関連するドメイン名を 200 ドルで販売する。これについ
ては、予め目ぼしいドメイン名(例えば Rolex など)
「予約」しておき、そのブランドの所有者が
申し出てきた際に発行するというものであった。
最後のクラスは、先願主義(First-come, first-served)的手続きによって取得できる、一般
のドメイン名である。これは、年間 50 ドルで取得することができる。そのうち、ラオス政府は半
額の 25 ドルをドメイン名登録 1 件について得る。
紛争解決の手段としては、.LA では、アメリカ法に基づいた利用規約(AUP)を採用している。
AUP の範囲内で、反政府的な内容であればドメイン名の運用を停止することができることになっ
ているとされる。"Registrations are subject to the terms and conditions of LANIC and of LA
Names the owner and operator of this web site."(2006 年 5 月 20 日付 Legal Information and
Terms of Use)。ただし、ポルノ系のコンテンツが掲載されたドメインへの対応は特に行われない。
*.la に関する GAA との当初の契約は 7 年間に及ぶものであり、2009 年 3 月 4 日に契約期間が終
了した。ラオス政府は同社との契約を継続することを選択したが、次の契約期間は 2 年間となる
見込みである。ラオス政府は、次の目標としてレジストリを是非ラオス国内に設置する意向をも
っているが、技術運用や人材の問題があり、まだ実現していない。
*.la 以外の名前空間があまり活用されていない理由として、ラオスからのインターネット接続
の貧弱さが挙げられた。現在、ラオスのインターネットは衛星回線などを通じて接続されており、
この費用が 3.5Mbps で月に 5,000 ドル近くかかるという。そのため、ラオスの企業であっても、
海外のホスティングサービスを利用することが多いという。
.TH(タイ)
.TH はタイ王国に結びつけられたドメイン名である。タイネットワーク情報センター財団(Thai
Network Information Center Foundation: THNIC)が統括・管理・技術運用のすべてを担当して
いる。タイ政府はドメイン名の運用について介入できる立場にはない。THNIC の運営はすべてド
メイン名からの収入で賄われており、利潤が発生した場合には、インターネット研究所を通じて
タイ国内のインターネット基盤整備や人材育成などの形でコミュニティに還元される。
発行しているドメイン名は、*.ac.th、*.co.th、*.go.th、*.in.th、*.mi.th、*.net.th、*.or.th
がある。それぞれの名前空間におけるドメイン名の取得には資格審査が行われ、正当な資格がな
い申し込み人からのドメイン名登録は受け付けられない。企業向け名前空間である*.co.th での
ドメイン名の登録には法人登記簿の写しが必要となるほか、個人向け名前空間である*.in.th で
あっても個人の本人確認証の写しが必要となる。.TH ドメイン下の名前空間はすべて国内利用者
向けとされ、国外の利用者によるドメイン名登録は受け付けられていない。
また、資格要件のほかに、ドメイン名として受け付けられる文字列の制約も設けられている(RFC
の規程による制約も除く)。例えば、*.co.th 下には登記された企業名や登録商標に基づくドメイ
ン名だけが許容されることとなっている。また、ドメイン名として使うことのできない禁止語リ
ストも提示され、その中には王室に関わる名前、卑猥な言葉、性に関する表現、地名や名所の名
前が含まれるという。
49
スパムやフィッシングの対策に際して、ドメイン名の停止(レジストリデータベースからの削
除または一時削除)が有効に機能する場合があるが、THNIC ではドメイン名を司法手続きによっ
て停止することはあっても、利用契約等によりドメイン名を停止することができるようにはなっ
ていない。
THNIC では、レジストラは認めていない。THNIC が、レジストリであり、唯一のレジストラであ
る。ドメイン名の登録に関するその他の事業者はすべて、ドメイン名再販業者(リセラ)である
という。リセラは、利用者の登録申し込みを受け付け、レジストリ/レジストラである THNIC に
その申し込みを取り次ぎ、手数料を受け取るという仕組みを取っている。しかし、リセラはレジ
ストラである THNIC に対して、リセラ契約を結ぶ必要があるほか、セキュリティ保証金を供託す
ることが求められている。
ボランタリー組織(CoCCA)
CoCCA とは Council of Country Code Administrators (CoCCA) の略称であり、2003 年、クリ
スマス島(.CX)の国別ドメイン管理者のイニシアチブによって設立された。現在は、会員制の非
営利企業の組織形態をとり、ccTLD 管理運用主体を中心に 22 の会員を有する。職員数は 5 名であ
る。
CoCCA の設立の背景は、ccTLD のガバナンスのあり方の見直しにあった。CoCCA の発祥であるク
リスマス島はオーストラリアの海外領土だが、同じく海外領土であるココス諸島の ccTLD(.CC)
が、1990 年代後半の IT バブル時代、ドメイン販売で大きな成功を収めたことから、.CX にも同様
の成功を収めることが期待された。しかし、2001 年に規制環境が変更となり、それまで.CX を運
営していたイギリス企業から地域保有の非営利企業である CoCCA へと運営が譲渡された。当時、
クリスマス島唯一の ISP は既に倒産し活動を停止しており、CoCCA の活動はその債権を購入する
ことから始まった。
このような状況下で、資本も限られる中、基本的に島のインターネットを一手に引き受けなけ
ればならない苦しい状態であった。.CX のような小さな国や地域ではインフラ設備が不十分で、
需要も少ないため、インターネットの運用のコストは極めて大きなものになる。このような条件
で ccTLD を運営するための打開策として、.CX は同様の小規模 ccTLD と共同でソフトウェアを開
発し、その費用を分担する道を選択した。このプロジェクト運営のために設立されたのが CoCCA
である。
CoCCA には主に二つの機能がある。レジストリ機能の代行、そして利用規約(AUP)の導入・管
理である。レジストリ機能を CoCCA が提供することで、CoCCA 会員は ccTLD の管理運用のための
コストを軽減できる。CoCCA は各 ccTLD の代表窓口を提供するが、ccTLD の運営責任は依然として
各 ccTLD の管理運用主体が保持する。CoCCA の特色は、
①共有レジストリ機能、および②占有レジストリ機能の利用法を提供できるところにある。また、
CoCCA は、レジストラやドメイン名の再販業者に対する認定(accreditation)プログラムを運営
している。これによって、CoCCA の共通認定を受ければ、レジストラや再販業者は、ccTLD ごとに
個別に認定を取得する必要がなくなる。
一方、AUP については、CoCCA は苦情等のヘルプデスク窓口として機能する。利用規定違反が行
われた際、ドメイン停止権限を持つ。CoCCA は技術的、人材的に安定していない小規模 ccTLD に、
信頼のおける利用規定の枠組みを提供する。CoCCA の苦情申し立ての仕組みは 3 段階で構成され
る。第 1 段階が CoCCA 職員による調査、第 2 段階が CoCCA のオンブズマン・オフィスによる調査、
そして第 3 段階が専門家パネルによる調査である。
ドメイン名利用者は、通常管理運用主体に対して苦情を申し立てるが、CoCCA では管理運用機
能を代行する CoCCA が苦情の申し立てを受け付けることを特色としている。多くの小規模の ccTLD
は大量の苦情が寄せられることを懸念するが、CoCCA には正規の「苦情申し立て手続き」があり、
そのプロセスを経ない申し立てについては対応しないため、苦情申し立ては本当に必要なものへ
と抑制される。
AUP の導入に前向きでない ccTLD も多いが、小規模 ccTLD の発展においては、ccTLD が「信頼の
おけるブランド」として確立される必要があり、そのためには AUP の導入が必要不可欠である。
CoCCA の会員になることで、有益な AUP の枠組みを入手することが可能になる。
また、小規模 ccTLD はフィッシング詐欺目的のドメインとして多用される傾向がある。こうし
た ccTLD には、技術的、人材的、そして経済的な制約から、ドメイン管理の専門職員がいない場
50
合が多い。しかし、犯罪行為を防止するために迅速な対応が必要な場合も多くあり、CoCCA は窓
口機能は、こうした問題を解決するためにも機能している。
CoCCA の苦情申し立ては、現在は手作業で管理されているが、将来的には正確な対応を実現す
るためにも自動オンライントラッキング・システム導入が必要である。また、CoCCA は少人数で運
営されているため、効率化を図るために高度に自動化されたオンラインのドメイン名登録サービ
スを提供していた。しかし、自動化が行き過ぎたことは、多数のクレジットカード詐欺やフィッ
シングを増長する結果となった。このことからは、ある程度の人的監視が必要不可欠であること
が明らかになった。
CoCCA が受け付ける苦情の大半はフィッシングに関するものである。ドメイン名を停止するこ
とで、このような行為は効果的に抑制できる。しかし、CoCCA が停止できるのは、ccTLD 管理運用
主体の影響力の及ぶ、第 2 レベルのドメイン名だけである。一方、フィッシングには、第 2 レベ
ルにドメイン名を登録した利用者が管理する第 3 または第 4 レベルのドメイン名が使われること
も少なくない。このような深いレベルのドメイン名を停止するためには、第 2 レベルのドメイン
名の利用を停止せざるを得ないが、そうすると、第 3 レベル以下にある多くの罪のないドメイン
名も同時に停止することになってしまう問題がある。
現在、CoCCA は順調に活動しているが、その要因には会員 ccTLD が比較的小規模で、苦情件数
やマーケットも小規模であったことがあげられる。最近はより大規模な ccTLD も CoCCA への加入
を検討している。彼らが興味を抱いているのは CoCCA の無料の共有レジストリの活用であり、AUP
を含む政策環境に対しては関心がない。大規模な ccTLD の半数は独自の AUP を有しており、今後
CoCCA がどのように彼らから信頼を勝ち得、共通の AUP に統合していくかが鍵となる。また、240
地域ある ccTLD の内、50 から 60 の ccTLD に潜在的に CoCCA 加入の可能性がある。これらの ccTLD
の参加を促していく必要がある。
(3-3)違法・有害コミュニケーションへの対応
ICANN・DoC 間の新しいサービス合意に基づいて、Security、Stability、Resilience(略して
SSR)と呼ばれるセキュリティ対策の確実な実施をフォローすることが重要となっている。この観
点から見たドメイン管理者の役割として重要な事項が、一旦違法・有害なコミュニケーションの
当事者であることが明らかとなったユーザに対してドメインの利用を差し止めることのできるよ
うな強力な権利をドメイン利用者との間で構築しておくことである。
本研究開発事業では、APTLD 加盟 ccTLD および OECD 加盟国の ccTLD の 59 件の利用規約を分析
し、利用中のドメイン名についての強制的な取消や差し止めの可否やその具体的な条件について
調査した。その結果、ドメイン名の強制的な取り消しを利用規約上定めている ccTLD は対象中、
45 件であった(参考 4)。しかし、大半はドメイン名利用料金の不払いによる取り消しを認めたも
のであって、登録ドメイン名を利用したコンテンツ配信の適切性・適法性にまで踏み込んだ規程
をもつのは 7 件に留まる。
表 19 差し止めの条件等の有無
項目(差し止めの条件)
あり
強制的取り消しの条項の有無
45
第三者権利侵害全般
23
(うち知的財産権侵害)
8
違法行為全般
31
(うちスパム、フィッシング)
7
なし
14
37
51
30
52
ドメイン名はインターネットにおける情報発信のボトルネックの一つであり、このボトルネッ
クを適切に管理・運用することは、違法・有害コンテンツに効果的に対抗しうる。しかし、ドメ
イン名の利用規約の分析からは、この点についての制度整備が十分でない状況が明らかになった。
クリスマス島(.CX)及びこれに倣ったモンゴル(.MN)の利用規約では"transmission of illegal
contents"を根拠にしたドメイン名の登録取り消し条項を採用しているが、このような対策は他の
ccTLD の管理運用にあたっても有効と考えられる。
51
(3-4)まとめ
ccTLD の管理運用および利用の実態調査の結果からは、今後の ccTLD の運用に関して、ccTLD の
自治と責務、新しい社会的要請への対応、利用者との関係の三つの観点から、国・地域を越えて
新たな課題が現われつつあることが分かった。
(3-4-1)ccTLD の自治と責務に関する考え方
ccTLD の自治と責務を考える上では、ccTLD の自治を保証しつつ、ccTLD がインターネット全体
に果たすべき責務を明確化することが求められる。今日、ccTLD は単にドメイン名を IP アドレス
に変換する役割を担うわけではなく、その役割をもとに悪意あるコンテンツから利用者を守るな
どの新しい役割が発生している。加えて、ドメイン名登録から得られる収益が、ローカルなイン
ターネットコミュニティとグローバルなインターネットコミュニティの双方にバランスよく還元
されることが求められると考えられる。
(3-4-2)社会的要請への対応
社会的要請への対応にあたっては、他関係者との調整体制の確立が急務である。これは、従来
の知的財産権侵害への対応に加え、他のステークホルダーと協調して、スパム源、フィッシング
サイトへの対策が可能なように、明確な AUP を導入するほか、他の関係機関(通信事業者、捜査
機関)との調整枠組みの導入が必要であることが確認された。
また、万一レジストリが機能しなくなったときに備え、DNS やユーザデータのエスクロー制度
など、フォールオーバーの仕組みが利用者保護の観点から求められている。すでに先端的な取り
組みをしている ccTLD ではすでにそのような仕組みが取り入れられている。さらに、ドメイン名
「ビジネス」が複雑化する今日、ドメイン名を取り扱う異なる事業者の間の関係を整理すること
も求められている。ドメイン名の取り扱いには、唯一オーソライズされたデータベースを管理す
るレジストリ、レジストリに利用者からのデータを登録するレジストラ、そして、ドメイン名取
得代行、再販などの二次取引を手掛けるその他多くの事業者、また正規のレジストラなどからド
メイン名を取得した上で、そのドメイン名以下の第 3 レベル、第 4 レベルの階層に利用者の希望
する名前を登録する疑似レジストラなど多様なプレーヤーが存在する。これら多様なプレーヤー
の存在がドメイン名の管理運用の規律の輪における断絶を作ることのないような連携体制の構築
が必要である。
(3-4-3)利用者との関係
利用者との関係においては、違法・有害コンテンツの発信に使われたドメイン名に対して一時
利用停止などの行動を可能にすることを視野に入れた利用規定(Acceptable Use Policy)の導入
が求められている。また、複数の ccTLD をまたがって発生する知的財産権侵害およびその他の苦
情申し立ての処理を円滑化するために、ccTLD 間の手続き共通化や標準化などが必要であると考
えられる。
(4)Model TLD Charter の開発
(4-1)基本的な考え方
本研究開発で実施した ccTLD の管理運用および利用の実態の調査、ならびに ccTLD 関係者への
ヒアリング調査を踏まえると、従来は ccTLD あるいは TLD 一般の運用上の責務とは考えられてこ
なかった新たな責務が求められる状況が浮かび上がってきた。
個別の ccTLD の運用においては一般ユーザがほとんど存在せず、商標権等の保護の目的だけに
名前が登録され、それにより多額の収益が当該国政府にもたらされているケースが存在すること
が明らかになった。このような非対称性は、ccTLD における「ローカルコミュニティへの奉仕」
とグローバルなインターネットへの貢献における均衡を崩すことに結びつきかねず、ccTLD の管
理運用の状況を図るためのベンチマークを示すことが必要であると考えられる。
また、従来 ICANN がアメリカ政府商務省との間で交わしていた Joint Project Agreement(JPA)
が、2009 年 10 月 1 日より新たな Affirmation of Commitments(AoC)と呼ばれる合意に置き換え
られた。新たな合意の下では ccTLD については最小限に触れられているだけであり、このことか
らも、ICANN の運用指針の枠組みに ccTLD の運用についての共通の指針を検討する余地がある。
52
このような観点から、本研究開発では ccTLD がその管理運用方針を策定する上で参照すべきベ
ンチマークとしての Model TLD Charter の開発を行った。Model TLD Charter の趣旨は、
「ccTLD
は、その範囲として想定される国・地域の利用者のためにドメイン名空間を提供し、もってロー
カル、およびグローバルなインターネット・コミュニティの利益に資すること」という大原則を
示した上で、その大原則の下で今後の ccTLD の管理運営において考慮すべき 6 分野の課題を示し
た。
なお、本 Model TLD Charter は、単独で ccTLD の管理運営のあり方全体を規定することを意図
したものではなく、ICP-1、Affirmation of Commitments など既存の管理運営の枠組みにおいて
十分言及されていない課題を示すものである。
(4-2)Model TLD Charter の意義
これまでの本調査研究によって、
ccTLD の運用がそれぞれの運用主体によってばらつきがあり、
そのばらつきは、健全で安心できるインターネットの発展を妨げかねないことが明らかになった。
本調査研究で構想する Model TLD Charter は、そのばらつきを一定範囲の中に収めることで、現
代社会の共通インフラとなったインターネットの安定的発展を促すものと期待できる。具体的に
は、Model TLD Charter は、ccTLD ごとに自治的に決められている ccTLD の運用ポリシーに一定の
基準を導入することで、利用者の安心が高めることができる。さらに、新 gTLD 創設プロセスの導
入により新しい gTLD が増加することが期待されている中、新しい gTLD の運用ポリシーの参照モ
デルとしても応用することが期待できる。
(4-3)Model TLD Charter で特に考慮すべき課題領域
これまでの研究開発活動におけるドメイン名の利用および管理運用実態の分析、ならびに国際
化 ccTLD や新しい gTLD プログラムの導入などの動向からは、今後の ccTLD の管理運用においては、
特に以下の 3 つの点を考慮する必要があると思われる。
(4-3-1)長期的なドメイン名市場の成長
開発途上国のドメイン名は、一種の外貨獲得資源として、国内利用者だけでなく、在外利用者
に対して積極的に販売されてきた。また、比較的経済発展が進んだアジア諸国・地域の ccTLD と、
アフリカ諸国・地域の ccTLD を比較すると、前者はドメイン名の取得・利用が大小の組織や個人
に広くまたがっているのに対して、後者では、ホスティング事業者など大きな組織の割合が多い。
これは、アフリカの諸 ccTLD は、現時点ではスキル、知識、そして自己規律のある専門家によっ
て利用されることがほとんどであることを示すものと思われる。
今後、ドメイン名の利用が、大組織だけでなく、中小組織や個人に広がっていくにつれ、十分
なスキル、知識、そして自己規律をもつ利用者の割合は減少する。そうなった場合、これまで先
進国で見られてきたような、ccTLD を使ったスパム発信やフィッシングサイト運営や、そこから
の被害がアフリカの ccTLD でも増加することが懸念される。
また、在外利用者向けのドメイン名の販売には、長期的には二つの問題がある。一つは、登録
料設定の問題である。在外利用者を主たる「顧客」と設定した場合、ドメイン名の管理運用体制
が国内の利用者にとって利用しにくいものとなるおそれがある。実際に、ラオス(.LA)では、ロ
サンゼルス市民向けのドメイン名としてのブランド化が過度に進んでいるため、国内の利用者
が.LA ドメインをどのように取得すればよいのか分からないという事態が発生してしまっている。
もう一つは、在外利用者への積極的なドメイン名の販売を進めていると、将来的に国内利用者
による需要が高まったときに、短い文字列で訴求力のあるドメイン名が、国内利用者でなく、在
外利用者によって占められてしまうことになる。
したがって、ccTLD 管理運用を考える上では、長期的な国内利用者への便宜を損なわないよう
な活用のための方策を打ち出す必要がある。
(4-3-2)違法・有害コンテンツへの対策
本来ドメイン名とコンテンツは独立している。ドメイン名の管理運用事業者は、ドメイン名利
用者に対してインターネット上の資源を識別するための識別子の別名にすぎない。コンテンツは、
その識別子とは関わりなく作成・公開される。
その一方で、ドメイン名レイヤでの対応(強制解約・停止など)によって違法・有害コンテン
53
ツを抑制できることもある。そのためには、利用規約の中で、ドメイン名の強制的な解約や停止
が可能になっていることが望ましい。
本研究開発により、APTLD 加盟国と APTLD のメンバーの ccTLD を調査したところ、CX や MN など
いくつかの ccTLD では違法・有害コンテンツの配布がなされていた場合にドメイン名の利用を差
し止める、あるいは強制的に解約することのできる条項をもつことが明らかになった。強制的解
約・差し止めについては、従来でも、登録・更新料の不払い、あるいはドメイン名として登録さ
れた文字列における商標等の知的財産権侵害などの事態が生じた場合には実施できるとする利用
規約をもつ ccTLD は多い。しかし、コンテンツの内容にまで踏み込んだ解約・差し止めをもつ ccTLD
はまだ限られている。
本研究開発の結論は、ccTLD が直接コンテンツを管理したり、その内容に直接立ち入ることを
提案するものではない。しかし、現状では第三者からの合理的・合法的な要求によってドメイン
名の利用停止が必要な場合であっても、利用規約の中でそれが可能になっていない。もちろん、
裁判官の差し止め命令など、司法的措置の下にドメイン名の利用を停止することは可能だが、そ
れだけでは迅速に対応することができない。そこで、利用規約の中で、ccTLD 管理運用主体は改
めて利用者の権利と義務について明確に記すことが望ましいものと思われる。
(4-3-3)マルチステークホルダー型の管理運用体制の整備
前述の通り、ccTLD の管理運用における公開性、アカウンタビリティと、サービスとしての ccTLD
の質(価格等)の間には関連を見ることができる。このことは、ccTLD のよいガバナンス(good
governance)を考える上で、これらの指標を総合的に高める努力が求められるということを示し
ている。
元来、ccTLD はインターネットの公共財21であり、その管理運用主体はインターネットコミュニ
ティ全体からその管理運用を託された立場にある。したがって、ccTLD の管理運用にあたっては、
インターネットコミュニティのごく一部だけが過剰な利益を生むような構造は慎むべきであると
言える。また、ccTLD は、好むと好まざると ICANN の枠組みでその管理運用が可能になっている
ことを考えると、拠出金を始め ICANN への貢献・関与が今まで以上に積極的に奨励されるべきと
言える。
ccTLD に求められるこのような規律を、具体的にどのような手段によって実現するかは、それ
ぞれの ccTLD が属する国・地域に委ねられるべきである。しかし、その過程では、すべてのステ
ークホルダを巻き込んだコンセンサスがなければならない。
特に、ccTLD が当該国・地域の利用者以外の利用者を主たるターゲットとするなら、それはそ
もそも ccTLD が与えられていることの妥当性を損ないかねない。そもそも当該国・地域の利用者
による利用に供されないのであれば、管理運営主体の選定は、よりグローバルな視点でなされる
べきとも言える。したがって、ccTLD のマーケティングはその影響を十分考慮した上でなされる
べきである。
また、当該国・地域の利用者向けのサービスを提供するためには、利用者の利便性を考慮した
ドメイン名の運用がなされることが必要である。ここでは二つの論点がある。一つは、ドメイン
名の階層構造の設計である。本研究開発による分析で明らかになった通り、汎用と商用の二つの
名前空間が、ドメイン名登録数のほとんどを占めている。名前空間が増えることは、防衛的登録
の必要性を増加させ、また技術運用以外の面での管理運営コストを増加させることになる。した
がって、名前空間の設計にあたっては、利用者の利用意志を十分反映し、管理運用上および利用
上の過剰な負担を発生させないことが求められる。
利用者向けのサービス提供のもう一つの論点は、その ccTLD が当該国・地域の利用者の言語に
よるコンテンツの発信に使われることを推進するということである。本研究開発では、当該国・
地域の言語によるコンテンツが、対応する ccTLD を使って公表されていないケースが多数存在す
ることを明らかにした。この点は、前述のマーケティング方針とも関連するが、ccTLD が当該国・
地域の利用者の利用に供されるとするなら、その利用者の言語によるコンテンツの作成・公表が
なされなければならない。
21
RFC 1581 には"ccTLDs are a public goods, and registries are a trustee on behalf of the
Internet community as a whole."と記される。
54
(4-3-4)Model TLD Charter
本研究開発で開発した Model TLD Charter は、システム/コンテンツの 2 レベル、およびユビ
キタス性/言語的多様性/安心・安全の 3 分野からなる、合計 6 項目で構成される。
表 20 Model TLD Charter の 6 項目
ユビキタスに使用可能
システムレベル
(1)自由で安価な利用
コンテンツレベ (2)オープン・ネットワ
ル
ーク
言語的多様性への対応
(3)IDNの利用
(4)ローカル言語の利用
安全安心して利用可能
(5)安全性
(6)コンテンツの信頼性
これらの 6 項目は、さらに個別の課題をもつ。ccTLD は、今後のその管理運用におけるガバナ
ンスを高めるために、従来の枠組みの中でこれまで言及されてきた課題に加えて、これらの課題
についての対応が求められる。以下、これら 6 項目について、ccTLD がどのような課題を検討す
べきかを示す。
(4-4)Model TLD Charter
前文
ccTLD の目的は、その範囲として想定される国・地域の利用者のためにドメイン名空間を提供
し、それを通じて、ローカル、およびグローバルなインターネット・コミュニティの利益に資す
ることである。ccTLD の管理運用については、これまでに有効なベスト・プラクティスを積み上
げられてきているが、インターネットの重要資源となった ccTLD の新たな期待に応えるため、
ccTLD のガバナンス構築にあたっては、従来の枠組みで言及されるポリシー上の課題に加えて、
以下西雌 6 項目の課題について検討・配慮することを提案する。
①自由で安価な利用(accessible/affordable)

ドメイン名登録料金水準の適正化(Maximize affordability of domain name registration)
ドメイン名は、インターネット上の財として国境を越えて広く取引されている。そのため、ド
メイン名の登録料金は各国・地域の経済水準に関わらず、名目値で 50 ドル近辺の水準に収斂する
傾向がある。
ドメイン名が、その国・地域の利用者によって使われることを期待するならば、登録料は彼ら
が利用者しやすい水準に設定されることが必要である。
ドメイン名をいわゆる外貨獲得の手段として活用する場合も、インターネットの公共財として
の ccTLD がもつ特権的な性格に鑑み、その料金水準は合理的な範囲内に設定されることが望まし
い。

ドメイン名市場における競争と消費者利益の最大化(Maximize competition and consumer
benefits in local domain name market)
ドメイン名は一種の公共財として管理運用されるが、利用者の視点から見れば、それは一つの
商用サービスである。したがって、複数のプレーヤーの参加によるドメイン名市場の活性化を通
じ、ドメイン名の管理運用の効率性を向上させ、消費者としての利用者の利益が最大化すること
を目指すことが望ましい。また、ccTLD 管理運営に伴うポリシー策定、監督、実運用といった役
割をそれぞれ独立した主体に分担させることも、現地のドメイン名市場が成熟した場合には検討
すべきである。

将来的なドメイン名市場の成長への配慮(Prepare for future growth of local domain name
market)
ドメイン名の登録数は、1 人あたり所得と相関する関係にあるが、その相関は 1 人あたり所得
の少ない ccTLD については弱くなる。これは、所得の少ない ccTLD では、購買力のある国外・地
域外の利用者向けにドメイン名を販売するケースがあることが理由と考えられる。ドメイン名が
外貨獲得の手段として活用される場合、将来国内・地域内ドメイン名市場が成熟した場合に、国
55
内・地域内のドメイン名利用者が必要とするドメイン名を利用できるような対策が求められる。
②オープン性(open)

透明性・合理性に基づく意思決定と運用(Ensure transparency and accountability in
decision making operation)
ccTLD は、本来の趣旨と公共性に鑑み、現地のステークホルダーを巻き込んだ透明で合理的な
枠組みの下にその意思決定と運用を進めることが求められる。ccTLD が自主性を与えられるのは、
ccTLD が自ら関係するステークホルダーに呼びかけ、彼らの参加を踏まえることで最適な管理運
用を実現することができると期待されているからである。したがって、その期待に応えるために
は、現地のステークホルダーの参加を得た、透明で合理的な意思決定と運用が必要である。

ICANN 、 レ ジ ス ト ラ お よ び そ の 他 の ス テ ー ク ホ ル ダ ー と の 関 係 の 成 文 化 ( Formalize
relationships with ICANN, registrars and other stakeholders)
ICANN が成立して 10 年以上が経過し、インターネットはその間、社会の重要インフラとしての
機能を拡大している。一方、ccTLD はその歴史的経緯から、形式的および実質的に相当程度の自
主性をもって管理運用されている。しかし、インターネットをめぐる大きな状況変化の下、ICANN
の枠組みがもたらす利益を享受し続けるためには、また、社会の重要インフラとしてのインター
ネットへの安全と安心を担保するためには、ccTLD 管理運用主体には、ICANN との契約関係の締
結、当該国・地域当局との直接的合意の取り交わしなど、各ステークホルダーとの関係を成文化
することが望ましい。

ローカルとグローバルの利益の均衡維持(Maintain fair balance between local and global
interests)
ccTLD は、ドメイン名の発行やそれに伴う収益から、それぞれの国・地域に利益を還元する役
割をもつ。一方、個別な最適化が、インターネット全体的としての最適化に結びつかないケース
もこれまで生じている。在外利用者向けに高水準な料金を設定をすることや、特定の ccTLD がス
パムやフィッシングの踏み台にされることなどなどは、部分最適が全体最適に結びつかない例と
言える。したがって、ccTLD の管理運用にあたっては、ccTLD というインターネットの一部におけ
る最適化と、インターネット全体における最適化の均衡維持を考慮することが求められる。
③IDN の利用(IDN service)

ローカル言語の存在感を反映した名前空間の設定(Formulate the name space where local
languages are best represented)
ccTLD 下の名前空間の設計にあたっては、利用者の利用意志を十分反映し、管理運用の観点か
ら、また利用者の利便性の観点から過剰な負担とならないようにすることが求められる。これま
での調査より、ほとんどのドメイン名は商用と汎用の名前空間に登録されていることが明らかに
なった。多数の名前空間を設けることは、防衛的登録の必要性を高めることにつながり、利用者
にとっては不都合も生じる。
④ローカル言語の利用

真正なローカル利用者による ccTLD の利用促進(Support the use of the ccTLD by authentic
local users)
本研究開発では、当該国・地域の言語によるコンテンツが、対応する ccTLD を使って公表され
ていないケースが多数存在することを明らかにした。この点は、前述のマーケティング方針とも
関連するが、ccTLD が当該国・地域の利用者の利用に供されるとするなら、その利用者の言語に
よるコンテンツの作成・公表を促進することが必要である。
⑤安全性(SSR)
56

政府、捜査機関、およびその他当局との協力関係構築(Liaison with government, law
enforcement and other local authorities)
違法・有害なコンテンツの発信や配布に迅速に対応するためには、ccTLD 管理運用主体は、捜
査機関や他の政府当局との連携が求められる。ccTLD はその出自から、必ずしも政府当局と密接
な関係を構築していないケースもある。しかし、ccTLD は、社会・経済活動が依存するインフラ
としての機能を拡大しつつあり、その安定的な管理運用を進めるためにも政府、捜査機関および
その他の当局との協力関係の構築が必要である。

ドメイン名として利用不可能な語彙、ドメイン名の取消・差し止め条項を含む、利用規約の
制定(Provide acceptable use policy that enhances users' confidence, which include
explicit vocabulary of prohibited strings and revocation and suspension clauses)
ドメイン名とコンテンツは直交する関係にあり、ドメイン名を発行する ccTLD の管理運営主体
と、それを利用して流通・配布されるコンテンツは本来無関係である。しかし、違法・有害なコ
ンテンツやセキュリティ上の懸念を有するコンテンツの拡散が問題化する中、ccTLD 管理運用主
体は、利用規約によって違法・有害コンテンツの配布・流通に使われているドメイン名に対して、
一時的な利用停止や、強制的な解約・差し止めなどの措置に関する権限を留保しておくことが必
要である。
⑥コンテンツの信頼性

違法・有害コンテンツに対する積極的対策の措置(Take preemptive actions against illegal
and harmful content)
識別子の一部としてのドメイン名と、それを利用して公表・配布されるコンテンツとの間の独
立性には配慮しつつ、違法・有害なコンテンツに対する緊急かつ円滑な対応を可能にするため、
ccTLD は、利用規約の整備を含め、他ステークホルダーとの連携など、違法・有害コンテンツに
対する積極的対策を措置することが求められる。

適 切 な 裁 判 外 紛 争 処 理 メ カ ニ ズ ム の 採 用 ( Prepare appropriate domain name dispute
resolution processes)
適切な裁判外紛争処理メカニズムは、ccTLD の管理運用のガバナンスの成熟度を示す一つの要
素である。ccTLD 管理運営主体は、裁判外紛争処理メカニズムの整備を進めることが期待される。
(英訳)
Foreword
The country-code top-level domain (ccTLD) provides domain name space on the Internet
for the users of the country and territory designated by the country code, thus serving
the benefit of local and global Internet community. Since its early days, the administration
of the ccTLD has been strengthened and enhanced by various best practices to date. However,
to further strengthen the administration of the ccTLD and to respond to newer requirements
and responsibilities of the ccTLD, it is proposed that each ccTLD administrator consider
the following principles in the six areas in addition to the existing policy issues in the
formulation of the governance framework of the ccTLD.
(1) Accessible and affordable use of the domain name

Maximize affordability of domain name registration
Domain names are a public goods on the Internet and traded across national borders.
It is found that the average registration fee, i.e. price, of domain names is somewhere
around $50 per year, and that the price reflects more of its global nature than local
standards of living.
57
If it is expected that domain names are primarily used by the local registrants of
the country or territory that the ccTLD designates, the registration fee of domain names
needs to be set at a level with which the local registrant feel comfortable and affordable.
Where domain names are sold as a means of attracting revenues from the rest of the
Internet, it should be taken into consideration that the ccTLD administrator enjoys a
privileged position as a sole provider of the goods, and the pricing of the ccTLD should
be in reasonable and acceptable ranges for non-local registrants.

Maximize competition and consumer benefits in local domain name market
From a fee-paying registrant's perspective, domain names registration is a commercial
service. It is desirable that multiple players be invited in local domain name market, at
registry and/or registrar level, in order to enhance competition and maximize consumer
benefits. It is also worth considering to hand over the administrator's roles, such as
policy-setting, oversight, and the actual operation of the registry into distinct entities
respectively, as the local domain name market matures.

Prepare for future growth of local domain name market
Although in general the number of domain name registrations and per-capita incomes,
the correlation is weaker in ccTLDs with lower per-capita incomes. This reflects the fact
that ccTLDs with lower per-capita incomes tend to sell domain names to non-local
registrants. In the longer term, however, this practice may lead to the exhaustion of names
with popularity in the given ccTLD, and local domain name registrants may be unable to find
names that they favor in the future. To avoid this situation, a means should be considered
in order to meet the local demands of domain name registrations when local domain name market
matures in the future.
(2) Openness

Ensure transparency and accountability in decision making and operation
It is desirable that all stakeholders be engaged in the decision-making and
administration of a ccTLD in a inclusive, transparent, and accountable way. The legitimacy
of the autonomy of the ccTLD rests on the expectation that the administrator of the ccTLD
voluntarily calls on all relevant stakeholders for participation and engagement.

Formalize relationships with ICANN, registrars and other stakeholders
More than a decade has passed since the inception of ICANN. The Internet has further
developed into critical infrastructure of the society. Synchronized coordination and
operation are required across all levels of the Internet today, whereas the ccTLD is
administered with a considerable degree of autonomy and independence. As the societal
nature and the overall governance framework of the Internet have changed and it is necessary
to assure trust and confidence in the Internet, the ccTLD administrator is expected to
formalize the relationships with ICANN, local authorities, registrars and other
stakeholders to continue to receive the benefits that the ICANN regime produces.

Maintain fair balance between local and global interests
The ccTLD, on one hand, serves the country or territory that it designates by way of
maintaining domain names and generating revenues, among other functions. On the other hand,
however, the individual practice of the ccTLD may not lead to the benefit of the Internet
on the whole. Setting prohibitively high prices for local or non-local registrants, or
unintentionally attracting sources of spam and phishing sites are such examples. In order
to avoid these unintentional consequences, fair balance between local and global interests
should be maintained in the administration of the ccTLD.
58
(3) IDN Service

Formulate the name space where local languages are best represented
It is desirable that the willingness of the registrant be taken into consideration
in designing the name space structure under the ccTLD, and that the resulted name space
structure do not impose an excessive burden to the registrant from a usability point of
view. It has been found that most names are registered under generic and commercial name
spaces. It should also be noted that multiple name spaces may increase the necessity of
defensive registrations or other forms of user inconvenience.
(4) Use of local language

Support the use of the ccTLD by authentic local users
It is found that the some ccTLDs do not show fair representation of content in languages
that are presumably used in the country or territory that the ccTLD designates. If the ccTLD
is to serve the local community that it designates, the creation and publication of content
in the language(s) of the local registrant should be promoted.
(5) Security, stability and resiliency

Liaison with government, law enforcement and other local authorities
In responding to the transmission and communication of illegal and harmful content,
intervention at the registry level may work effectively. Therefore, where appropriate, the
ccTLD administrator should work closely with law enforcement agencies and other relevant
authorities. From historical reasons, ccTLD administrators choose not to work closely with
local authorities. However, as the role of the Internet as common infrastructure across
societal and economic activities is growing, the administration of the ccTLD comprise part
of the well being of the Internet and its administrator should liaison with government,
law enforcement and other local authorities.

Provide acceptable use policy that enhances users' confidence, which include explicit
vocabulary of prohibited strings and revocation and suspension clauses
The domain name and content are, in principle, orthogonal. The responsibility of the
administrator of the ccTLD does not go as far as to the content on top of it. However, the
proliferation of illegal and harmful content on the Internet is an emerging concern, and
the ccTLD administrator should explicitly reserve such rights as to suspend, cancel or
revoke domain names so that illegal and harmful content may be discouraged.
(6) Trustworthy content

Take preemptive actions against illegal and harmful content
While respecting the distinct roles of the domain name which along with other
addressing elements constitutes an identifier on the Internet and content which is located
by the identifier, the administrator of the ccTLD should develop and maintain well
documented terms of use for the registrant, liaison with other stakeholders, and take other
forms of proactive actions against illegal and harmful content.

Prepare appropriate domain name dispute resolution processes
Appropriate alternative dispute resolution mechanism forms part of the mature
governance of the ccTLD administration. The administrator of the ccTLD is expected to
develop an alternative dispute resolution mechanism.
59
現行のインターネットガバナンスの運用は、
「壊れていない限り手を入れない」ことが前提とな
22
っている。そのため、明らかな問題 に直面している、あるいは今の枠組みでは実現できない要求
を抱えているという状況23が発生しない限り、現行の ccTLD の管理運用のあり方が修正されること
はない。したがって、Model TLD Charter は、現行の ccTLD の管理運用のあり方を今すぐに修正
するということを意図したものではない。
Model TLD Charter は、今後何らかのきっかけで ccTLD の管理運用のあり方の見直しが行われ
る際に、ccTLD がステークホルダーとの関係を構築する上で考慮すべき課題を示している。それ
ぞれの課題についてどのような対応・対策を講じるかは、その自治の下に各 ccTLD が決定すべき
である。しかし、ccTLD の管理運用において、本チャーターが掲げる課題は常に関わるものであ
り、ccTLD は、それぞれの課題に直接向き合うか否かも含め、何らかの態度を示すことが求めら
れる。本来取り組むべき課題に向き合わないことは望ましくないが、ccTLD の管理運用主体に対
してどのような課題について判断が迫られているのかを示すことで、彼らの取り組みを促すこと
が期待できる。また、仮に管理運用主体による取り組みがなされなかった場合でも、本チャータ
ーが ccTLD の管理運用におけるガバナンスを評価する際のチェックリストとして機能することで、
利用者がその ccTLD の管理運用を評価する際の指標となる。
(5)モデルチャーターの社会的実装のための働きかけ
本研究開発で作成した Model TLD Charter の社会的な実装については、下表に示す通り働きか
けを行った。
働きかけ(場所)
太平洋島嶼国電気通信
連合(フィジー/ナン
ディ)
IGF 第 4 回会合(エジプ
ト/シャルム・イッシ
ーフ)
「.日本」管理運用事業
者選定基準案へのコメ
ント提出(東京)
IGF 第 5 回会合(リトア
ニア/ビリニュス)
22
23
表 21 社会的実装のための働きかけ
時期・出張者
内容
2009 年 4 月 29 日
太平洋島嶼国電気通信連合(PITA)において、
上村圭介
ccTLD 登録料・登録数と国・地域別経済発展状況、
運営主体の属性などとの関連についての調査結
果を示した上で、その結果に基づいて本調査研究
開発が目指すモデルチャーターの内容について
紹介を行い、関係者の協力・理解を求めた。
2009 年 11 月 15 日 ccTLD 登録料・登録数と国・地域別経済発展状況、
運営主体の属性などとの関連についての調査結
~18 日(16 日)
果と、モデルチャーターで取り上げるべき項目に
上村圭介
ついてフィードバックを求めた。
2010 年 3 月 23 日
2009 年 11 月 16 日、ファストトラック手続きに基
上村圭介
づく国際化国別トップレベルドメイン名(IDN
ccTLD)の申請受付が開始された。これを受けて、
アラビア語圏、中国語圏を中心に国際化 ccTLD へ
の申請が次々と行われている。日本でも、
「.日本」
の導入へ向けた調整が総務省および日本インタ
ーネットドメイン名協議会を中心に進められて
いる。ccTLD 登録料・登録数と国・地域別経済発
展状況、運営主体の属性などとの関連についての
本調査研究開発の成果をもとに、
「.日本」の管理
運用事業者選定基準の作成について考慮すべき
論点について指摘、提言を行い、本研究開発の成
果が反映されるべく働きかけを行った。
2010 年 9 月 14 日~ IGF 第 5 回会合(2010 年 9 月 14 日~17 日)期間
中に開会されたワークショップ(Strengthening
17 日
ccTLDs in Africa)において、本調査研究開発で
上村圭介
技術的な不備など。
国際化ドメイン名への対応に伴う利用・運用方針の策定など。
60
IGF Japan 設立準備会 2010 年 10 月
合での成果報告(沖縄) Adam Peake
LACTLD への提案(コロ
ンビア/カルタヘナ)
2010 年 12 月
上村圭介
実施したドメイン名の利用・管理実態の調査研究
を踏まえ、最終的なモデルチャーターの概要を示
し、関係者の理解と実装へ向けた取り組みを求め
た。とりわけ、アフリカ諸国の ccTLD 管理者から
はモデルチャーターの内容について理解と支持
を得ることができた。
IGF に対応して、国内でドメイン名・IP アドレス
資源の運用、インターネット上の法規制などの諸
課題の所在やその性格についてマルチステーク
ホルダー型で明らかにするために開催された IGF
Japan 設立準備会合での成果報告において、ccTLD
の管理運用方針が考慮すべき点について報告し
た。
違法・有害コンテンツの配布・流通を意図した悪
意ある ccTLD 利用者への抑止策の導入状況、現地
経済開発状況とドメイン名の普及状況の比較、現
地利用者にとってのドメイン名の利用しやすさ
(affordability)を踏まえた長期的ドメイン名
管理運用方針について、本調査研究開発が明らか
にした成果を、ラテンアメリカにおける ccTLD 関
係者に対して報告するとともに、成果の一つであ
るモデルチャーターについての実装を呼びかけ
る。
(6)研究開発成果の今後期待される効果
Model TLD Charter は、現時点で ICANN との関係の公式化が完了していない ccTLD や、運用の
あり方や他ステークホルダーとの関係を今後整備していこうとする ccTLD によって、管理運用や
国内・地域内ステークホルダとの関係構築の指針として参照されることが期待される。特に、ア
フリカ諸国の ccTLD では、ccTLD の管理運用におけるガバナンスを高め、ccTLD の信頼性や安定性
を向上させることに取り組み始めており、その中で本研究開発が示す Model TLD Charter は一定
の役割を果たすものと期待される。2010 年 9 月のインターネットガバナンスフォーラムにおける
ワークショップでも、Model TLD Charter の内容について、出席した東アフリカ諸国の ccTLD 関
係者が強い興味を示していることからも、本研究開発の成果が広く普及することへの期待がもて
る。
また、今後、インターネットのドメイン名に関しては、恒久プロセスによる IDN ccTLD の導入
や、新しい手続きによる gTLD の導入などが ICANN によって実施される予定である。本 Model TLD
Charter は、このような新しい管理運営を進めるドメイン名の規律を考える上での活用が期待さ
れる。
5.研究開発実施体制
61
(1)体制
研究体制
研究代表者
長岡技術科学大学
三上喜貴
研究統括グループ
長岡技術科学大学
三上喜貴
国際リエゾングループ
国際大学 GLOCOM
上村圭介
(2)研究開発実施者
(2-1)研究統括グループ
氏 名
所 属
役 職
研究開発項目
参加時期
19 年 10 月~
三上 喜貴
長岡技術科学大学
教授
技術経営研究科
Chandrajid
Ashuboda
Marasinghe
長岡技術科学大学
准教授
経営情報系
研究統括補佐
村上 直久
長岡技術科学大学
准教授
経営情報系
利用・管理実態調査
湯川 高志
長岡技術科学大学
准教授
電気系
調査・データマイニング手法 19 年 10 月~
開発
中平 勝子
長岡技術科学大学
助教
経営情報系
データ収集と解析
児玉茂昭
長岡技術科学大学
Chew Yew
Choong
長岡技術科学大学 産 学 官 連 携
データ収集と解析
経営情報系
研究員
19 年 10 月~
Osman
Omerjan
長岡技術科学大学 博 士 後 期 課
データ収集と解析
経営情報系
程2年
21 年 4 月~
Ohnmar Htun
長岡技術科学大学 博 士 後 期 課
研究支援
経営情報系
程2年
21 年 11 月~
Pann You
Mon
長岡技術科学大学 博 士 後 期 課
研究支援
経営情報系
程2年
22 年 4 月~
19 年 10 月~
産学官連携
研究支援
研究員
19 年 10 月~
19 年 10 月~
20 年 8 月~
(21 年 9 月)
産学官連携ア データ収集と解析, データベ 21 年 4 月~
シスタント
ース構築
(21 年 8 月)
新井裕樹
Carla Salem
研究統括
長岡造形大学
修士課程
ホームページデザイン
62
20 年 5 月~
1年
(21 年 3 月)
J. R.
Rajasekera
国際大学大学院
経営学研究科
教授
E-ビジネス経営学
プログラム
問題定義,技術的経済的分
析についての助言
19 年 10 月~
Pavol
Zavarsky
コンコルディア大学
(カナダ)
准教授
アルバータ校
調査・データマイニング手法
開発
Vincent
GILBERT
コンコルディア大学
20 年 2 月~
博 士 後 期 課 調査・データマイニング手法
(カナダ)
程1年
開発
アルバータ校
19 年 10 月~
20 年 2 月~
コンコルディア大学
博 士 後 期 課 調査・データマイニング手法
(カナダ)
程1年
開発
アルバータ校
International
問題定義,技術的経済的分
Viola Krebs Conference
Director
21 年 4 月~
析についての助言
Volunteers
長岡技術科学大
博士後期課 調査・データマイニング手法 21 年 6 月~
Suvashis
学大学院経営情
程1年
開発
(22 年 3 月)
Das
報系
アジアにおけるドメインガバ
BPPTeknologi/IP
ナンスの実態などについて、
Hammam
22 年 1 月~
TEKnet( イ ン ド ネ CIO
また、技術的経済的分析に
Riza
シア)
ついての助言
アフリカにおけるドメインガバ
アジスアベバ大学
22 年 1 月~
Solomon
ナンスの実態などについて、
情報科学部コンピ
准教授
Atnafu
また、技術的経済的分析に
ュータ科学科(エ
Besufekad
ついての助言
チオピア)
脆弱性監視と対策に係る調
産学官連携
査実験を行うのに必要な、デ 22 年 4 月~
安達和美
アシスタント
ータ入力や研究補助
ETIENNE
JANOT
(2-2)国際リエゾン・グループ
氏
名
上村
所
圭介
Adam Peake
田中多鶴子
松浦
良
和島隆典
法坂千代
長谷川智徳
属
国際大学
GLOCOM
国際大学
GLOCOM
国際大学
GLOCOM
国際大学
GLOCOM
早稲田大学大学
院
一橋大学国際・公
共政策大学院
創価大学大学院
役職
主任研究員
主幹研究員
臨時雇員
臨時雇員
臨時雇員
臨時雇員
臨時雇員
63
研究開発項目
参加時期
利用・管理実態の調査・分
析
関与者の特定及び国際連携
に関する分析
用・管理実態に関するデー
タ収集
用・管理実態に関するデー
タ収集
利用・管理実態の調査・分
析
利用・管理実態の調査・分
析
利用・管理実態の調査・分
析
19 年 10 月~
19 年 10 月~
20 年 5 月~
(21 年 2 月)
20 年 11 月~
(21 年 3 月)
21 年 6 月~
(22 年 3 月)
21 年 6 月~
(22 年 8 月)
22 年 4 月~
(3)招聘した研究開発協力者等
氏 名(所属、役職)
招聘の目的
滞在先
Marcel Diki-Kidiri
CDGプ ロ ジェ ク ト に 関 し て 、 長 岡 技 術 科 学
フランス国立主任研究員 ア フ リ カ に お け る フ ラ ン ス 語 大学
国際化ドメインネーム(IDN)と
ccTLD に 対 す る 実 態 調 査 を 行
う。
Ruwan Asanka Wasara
CDG'08国際シンポジウムにお 長 岡 技 術 科 学
コロンボ大学研究員
いて研究発表を行い、スリラン 大学
カにおけるドメインガバナン
スの実態について意見交換を
行う。
Carolina Aguerre
CDG'08国際シンポジウムにお 長 岡 技 術 科 学
サン・アンドレス大学
いて研究発表を行い、南米にお 大学
研究員
けるドメインガバナンスの実
態について意見交換を行う
Shakrange Turrance
国際化ドメインネーム(IDN)を 長 岡 技 術 科 学
Nandasara
は じ め と す る ド メ イ ン 管 理 へ 大学
コロンボ大学
の脅威の分析についての共同
研究を行う。
Viola Krebs
CDG第 一 回全 体 会 合 に 参 加 の 長 岡 技 術 科 学
ICVolunteers
後 、 台 湾 で 開 催 さ れ た 大学
Secretary-General
Asia@home に 参 加 し て プ ロ ジ
ェクトに関する調査および意
見交換を行い、その後長岡技術
科学大学において台湾におけ
る成果の報告を行った。
Hamman Riza
CDG workshop 2010において、 長 岡 技 術 科 学
BPPTeknologi/IPTEKnet
イ ン ド ネ シ ア に お け る ド メ イ 大学
(インドネシア)
ンガバナンスの実態について
Chief Information
の報告を行い、また本事業の研
Officer
究成果についてコメントを行
った。
Solomon Atnafu
CDG workshop 2010において、 長 岡 技 術 科 学
アジスアベバ大学情報科学 イ ン ド ネ シ ア に お け る ド メ イ 大学
部コンピュータ科学科(エ ン ガ バ ナ ン ス の 実 態 に つ い て
チオピア)
の報告を行い、また本事業の研
助教授
究成果についてコメントした。
滞在期間
平成 20 年
11月9-24日
平成 20 年
11月18-26日
平成 20 年
11月17-26日
平成 21 年
1 月 11 日2 月 12 日
平成 21 年
4月13-21日
平成 22 年
2月14-19日
平成 22 年
2月14-20日
国際リエゾン・グループ
氏 名(所属、役職)
招聘の目的
滞在先
滞在期間
Garth Miller
ccTLD管 理 運 営 主 体 に よ る ボ 国際大学(グロ 平成 20 年 5 月 26
Founder & Director
ラ ン タ リ 組 織 の 活 動 に つ い て ーバル・コミュ 日-6 月 2 日
Council of Country Code 報告。
ニケーショ
Administrators
ン・センター)
64
YJ Park
Delft
University
Technology
主任研究員
CDG'08国際シンポジウムにお 国際大学(グロ 平成 20 年
of いて研究発表を行い、各国のド ーバル・コミュ 11月19-21日
メインガバナンスの実態につ ニ ケ ー シ ョ
ン・センター)
いて意見交換を行う。
Garth Miller
CDG'08国際シンポジウムにお 国際大学(グロ 平成 20 年
Founder & Director
いて研究発表を行い、各国のド ーバル・コミュ 11月19-22日
Council of Country Code メ イ ン ガ バ ナ ン ス の 実 態 に つ ニ ケ ー シ ョ
Administrators
ン・センター)
いて意見交換を行う。
Erick Ahon Iriarte
C D G W o r k s h o p 2 0 10 に お い 国際大学(グロ 平 成 22 年 2 月
Director
て、ラテンアメリカのccTLD管 ーバル・コミュ 17-21 日
LACTLD
理運用の状況について報告し、 ニ ケ ー シ ョ
モ デ ル TLDチ ャ ー タ ー の 案 に ン・センター)
関して意見交換を行う。
イ ン タ ー ネ ッ ト ガ バ ナ ン ス フ イ ン タ ー ネ ッ 2010 年 9 月 14-17
Ntahigiye Abibu
ォーラム第5回会合で国際大学 ト ガ バ ナ ン ス 日
TZNIC事務局長
GLOCOMがKENICと共催した フォーラム
ワ ー ク シ ョ ッ プ に お い て タ ン ※国際大学(グ
ザ ニ ア の ccTLD管 理 運 用 状 況 ローバル・コミ
について報告し、本研究開発で ュ ニ ケ ー シ ョ
作 成 し た モ デ ル TLDチ ャ ー タ ン・センター)
ーの案に関して意見交換を行
う。
65
6.成果の発信やアウトリーチ活動など
(1)ワークショップ等
年月日
名称
場所
参加人数
2008 年
5 月 28 日
研究チーム全体会合
国際大学
GLOCOM
22 名
2008 年
9 月 25 日
IECP 研究会シリーズ第
一回
国際大学
GLOCOM
40 名
2008 年
10 月 9 日
IECP 研究会シリーズ第
二回
国際大学
GLOCOM
40 名
2008 年
11 月 22 日
CDG’08 国際シンポジ
ウム
長岡技術科
学大学
27 名
2009 年
4 月 14 日
第一回全体会議
国際大学
GLOCOM
18 名
2009 年
5 月 27 日
2009 年
6 月 18 日
第二回全体会議
長岡技術科
学大学
長岡技術科
学大学
17 名
2009 年
7 月 17 日
第四回全体会議
長岡技術科
学大学
18 名
2009 年
9 月 18 日
2009 年
10 月 23 日
2009 年
11 月 6 日
2009 年
11 月 16 日
第五回全体会議
国際大学
GLOCOM
国際大学
17 名
長岡技術科
学大学
シャルム・エ
ル・シェイク
18 名
長岡技術科
学大学
18 名
2009 年
12 月 25 日
第三回全体会議
第六回全体会議
第七回全体会議
4th Internet
Governance Forum
第八回全体会議
66
16 名
15 名
130 名
概要
本研究開発の全体計画と今年
度の計画について、CoCCA の
Girth Miller 氏と ICANN CTO
の John Crain 氏を外部アドバ
イザとして招いて討議した。
インターネットの利用形態の
変化に伴うドメイン名利用の
変化について外部から講師を
招いて研究会を行った。
インターネットの利用拡大に
よって現実の問題となった IP
アドレスの枯渇の問題と、対
策について研究会を行った。
カントリードメインガバナン
スというテーマについて論文
を公募し、採用された論文の
著者を招 聘するとと もに、
CoCCA の Girth Miller 氏を招
いてシンポジウムを行った。
2008 年度の成果の取りまと
めと 2009 年度の活動につい
て討議
各研究参画者の研究進捗状況
について報告
各研究参画者の研究進捗状況
について報告。およびナイジ
ェリア・キルギスタン・ドミ
ニカのドメインガバナンスの
状況について調査した結果の
報告
ICANN の開催した会議に参
加した研究参画者からのレポ
ート、および IGF で開催する
ワークショップについての討
議
IGF で開催するワークショッ
プについての討議
IGF で開催するワークショッ
プについての討議
IGF で開催するワークショッ
プについての討議
本事業の研究成果の発表を行
い、また、他の参加者からの
フィードバックを受けた。
IGF における成果の報告と、
それを受けての今後の研究方
針について討議した。
2010 年
2月6日
第九回全体会議
長岡技術科
学大学
16 名
2010 年
2 月 18 日
CDG Workshop 2010
国際大学
GLOCOM
20 名
2010 年
4 月 28 日
2010 年
9 月 14 日
第十回全体会議
長岡技術科
学大学
ビリニュス
14 名
5th Internet
Governance Forum
120 名
CDG ワークショップおよび
来年度の計画について討議し
た。
本事業の研究成果の発表を行
い、今後の研究方針に対して
海外から招聘した専門家から
のアドバイスを受けた。
平成 22 年度の研究計画につ
いて討議を行った。
本事業の研究成果の発表を、
アフリカ地域の地域ドメイン
に関するワークショップの会
場において発表した。
(2)論文発表 (国内誌 2 件、国際誌 11 件)
1. S.T. Nandasara, Shigeaki Kodama, Chew Yew Choong, Rizza Caminero, Ahmed Tarcan,
Hammam Riza, Robin Lee Nagano and Yoshiki Mikami. An Analysis of Asian Language Web
Pages. International Journal on Advances in ICT for Emerging Regions 1 pp.12-23. 2008.
2. Keisuke Kamimura. Management of ccTLDs and its impact on Internet governance.
Proceedings of the International Symposium on CDG, pp.21-26. 2008.
3. Jay Rajasekera.. Potential Impact of Top Level Domain Name Liberalization on ccTLD.
Proceedings of the International Symposium on CDG, pp.43-50. 2008.
4. Yuki Arai, Katsuko Nakahira, Yoshiki Mikami. Design of database for a country domain
analysis system. Proceedings of the International Symposium on CDG, pp.51-56. 2008.
5. Aline Uwera Hakizabera, Argha Aditia Senoutomo, Noel Saracanlao,Shanti Sukmawati,
Yoshiki Mikami, C.A. Marasinghe. Country Domain Governance Information Portal.
Proceedings of the International Symposium on CDG, pp.57-63. 2008.
6. Shigeaki Kodama. Languages on the Asian and African Domains. Proceedings of the
International Symposium on CDG, pp.77-82. 2008.
7. Katsuko T. Nakahira, Tomohiro Takimoto and Yoshiki Mikami. A Hierarchical Clustering Tool
Using Bipartite Graph Partition Algorithm. The Journal of Three Dimensional Images 23(1)
pp.88-92. 2009.
8. Shigeaki Kodama. Languages on the Asian and African Domains. The Journal of Three
Dimensional Images 23(1) pp.58-63. 2009.
9. Keisuke Kamimura. 2009. Administration and marketing of the ccTLD and its policy implications
on Internet governance. Second International Workshop on Global Internet Governance: An
Interdisciplinary Research Field in Construction, Brussels, Belgium, 11 May 2009
10. X. Lin, P. Zavarsky, R. Ruhl, and D. Lindskog, "Threat Modeling for CSRF Attacks", Trust and
Security Models and Emerging Approaches, Proceedings IEEE CSE'09, 12th IEEE International
Conference on Computational Science and Engineering, vol. 3, pp.486-491, Vancouver, BC,
Canada, August 29-31, 2009, ISBN: 978-0-7695-3823-5.
11. M. Saran and P. Zavarsky, "A Study of Methods for Improving Internet Usage Policy
Compliance", Risk and Trust, Proceedings IEEE CSE'09, 12th IEEE International Conference on
67
Computational Science and Engineering, vol. 3, pp.371-378, Vancouver, BC, Canada, August
29-31, 2009, ISBN: 978-0-7695-3823-5
12. Chew Y. Choong, Yoshiki Mikami, C. A. Marasinghe and S. T. Nandasara. Optimizing n-gram
Order of an n-gram Based Language Identification Algorithm for 68 Written Languages.
International Journal on Advances in ICT for Emerging Regions 2 pp.21-28. 2009
13. Collins Umana, Pavol Zavarsky, Ron Ruhl, Dale Lindskog, Oluwatoyin Gloria Ake-Johnson,
"Comparative Analysis of ccTLD Security Policies," socialcom, pp.926-933, 2010 IEEE Second
International Conference on Social Computing, 2010.
(3)口頭発表(国際学会発表及び主要な国内学会発表)
件)
招待講演
(国内会議
1 件、国際会議
口頭講演
(国内会議 11 件、国際会議 11 件)
ポスター発表 (国内会議
1 件、国際会議
件)
招待講演
1. 2. Katsuko Nakahira. Measuring Language Diversity in Cyberspace. Linguistic and Cultural
diversity in Cyberspace, Yakutsk. 2008 年 7 月 4 日
口頭講演
1. Chew Yew Choong, Madhuri Bayya, Yoshiki Mikami. National Language Policy: Language
Diversity for National Unity. he international conference "National Language Policy: Language
Diversity for National Unity", バンコク. 2008 年 7 月 4-5 日
2. 新井裕樹, 中平勝子, 三上喜貴. 情報格差観測のための指標開発とデータベース設計.
FIT2008(第 7 回情報科学技術フォーラム), 慶応大学湘南藤沢キャンパス, 2008 年 9 月 3 日.
3. Chew Yew Choong, Yoshiki Mikami, Katsuko T. Nakahira. The G2LI (Language Identifier) HTML
parsing system reviewed. 電子情報通信学会信越支部大会, 長岡工業高等専門学校, 2008 年 9 月
29 日
4. Chandrajith Ashuboda Marasinghe. Languages in Asia and Africa in the Internet. World
Congress on Specialized Translation: Languages and intercultural Dialogue in a Globalizing
World. Cuba, Habana. 2008 年 12 月 12 日
5. 新井裕樹, 中平勝子, 三上喜貴. カントリー・ドメイン・ガバナンス分析用統合データ管理
システム. 情報処理学会第 71 回全国大会, 立命館大学, 2009 年 3 月 11 日.
6. Chandrajith Ashuboda Marasinghe. Lingusitic Diversity on the Internet. International Mother
Language Day Celebrations, Mexico City, 2009 年 2 月 21 日.
7. Chew Yew Choong. Cyber Volunteers and Language Diversity on Internet. LIFT’09. ジュネ
ーブ. 2009 年 2 月 25 日
8. Keisuke Kamimura. 2009. The degree of variance: statistical overview of the administration and
marketing of the ccTLD. PITA (Pacific Islands Telecommunications Association) The 13th AGM,
Nadi, Fiji, 25 April-1 May, 2009
9. Keisuke Kamimura. 2009. Administration and marketing of the ccTLD and its policy implications
on Internet governance, Second International Workshop on Global Internet Governance: An
Interdisciplinary Research Field in Construction, Brussels, Belgium, 11 May 2009
68
10. 新井裕樹・三上喜貴・中平勝子. インターネット上の言語分布状況に関する調査. 第 8 回
情報科学技術フォーラム講演論文集. (4), p.529 平成 21 年 9 月 4 日.
11. Keisuke Kamimura. 2009. Country Domain Governance Technology and Policy Perspectives, Best
Practices in ccTLD Policy and Operations (Workshop Number: 113), Internet Governance Forum,
Sharm El Sheik, Egypt, 15-18 November, 2009
12. Jay Rajasekera and Suvashis Das. Do the Internet Security Alerts Have an Impact on Lowering
ccTLD Security Level? Giganet 2009 Annual Symposium. November 14, 2009.
13. Jay Rajasekera and Suvashis Das. Countering Security Risks at ccTLD Level and SSR. APNIC 29,
March 3, 2010
14. Ohnmar Htun, Shigeaki Kodama and Yoshiki Mikami. Measuring Phonetic Similarities in
Myanmar IDNs. ICCA 10, March 3, 2010.
15. 中平勝子・三上喜貴. 2010. ジニ係数を用いたグローバルデジタルディバイドの数量的評価.
情報処理学会第 72 回全国大会講演論文集(5), 5J-1.
16. 上村圭介・三上喜貴・中平勝子・和島隆典. 2010. 国別トップレベルドメイン名(ccTLD)
の affordability に関する分析:価格と利用実態の観点から. 情報処理学会第 72 回全国大会講
演論文集(5), 5J-2.
17. 難波弘行・中平勝子・三上喜貴. 2010. サーバ所在区分別で見た Web グラフ構造の分析~
outdegree 成長図の利用~. FIT2010(第 9 回情報科学技術フォーラム) , 九州大学伊都キャンパ
ス, 2010 年 9 月 7 日.
18. 難波弘行・中平勝子・三上喜貴. 2010. サーバ所在区分別で見た海外報道機関リンク率. 電
子情報通信学会信越支部大会, 長岡技術科学大学, 2010 年 10 月 2 日.
19. Ohnmar Htun, Shigeaki Kodama, Yoshiki Mikami, Katsuko Nakahira. Cross Language Phonetic
Similarity Matrix. 電子情報通信学会信越支部大会, 長岡技術科学大学, 2010 年 10 月 2 日.
20. Keisuke Kamimura. Ensuring better governance of ccTLDs: Policy implications from a study of
country domain governance. Workshop #63: Strengthening African ccTLDs, Internet Governance
Forum 2010, Vilnius, Lithuania, 14 September 2010.
21. 難波弘行・中平勝子・三上喜貴. Web リソースの経年変化を用いた情報基盤利用状況の分
析. 情報処理学会第 73 回全国大会. 2010 年 3 月
22. 竹下峰弘・中平勝子・三上喜貴. 情報処理学会第 73 回全国大会. 2010 年 3 月
ポスター発表
1. 新井裕樹, 中平勝子, 三上喜貴. 情報格差観測のための分析システムの開発. 人文科学と
コンピュータシンポジウム 2008, 筑波大学, 2008 年 12 月 21 日
(4)新聞報道・投稿、受賞等
新聞報道・投稿
受賞
その他
69
(5)特許出願
国内出願(
海外出願(
件)
件)
(6)その他の発表・発信状況、アウトリーチ活動など
その他の発表
Keisuke Kamimura (2008). Country Domain Governance (CDG) Project: The Effect of ccTLD Operator
Policies on Abuse Within ccTLDs. Counter eCrime Operations Summit (CeCOS) II. 27 April, 2008.
上村圭介. 2010. 日本インターネットドメイン名協議会による「.日本」管理運営事業者の「選定
基準(案)」に対する意見の提出. 2010 年 3 月.
上村圭介. 2010. ccTLD の実態から見たクリティカル・インターネット・リソースの課題. IGF
Japan 設立に向けて(CIR セッション). 2010 年 10 月 30 日.
上村圭介. 2010. 世界の ccTLD についての研究報告:数で見る ccTLD の管理運営と利用. 日本イ
ンターネットドメイン名協議会. 2010 年 11 月 18 日
村上直久,米・欧・新興国がせめぎ合い-インターネットの運用めぐり(国連第5回 IGF で議
論)、金融財政ビジネス,2010 年 11 月 18 日号(第 10123 号)
,10-13 頁.
村上直久,ツバルからの報告・パート2「援助合戦と情報化社会の予期せぬ恩恵」,時事トップ
コンフィデンシャル,2008 年 2 月 15 日,14-17 頁.
国際研究公募への発表
ICANN 公募への応募(特に匿名ドメイン登録問題、2010 年 7 月)
インターネット上で近年問題となっているフィッシングサイトやスパムメールなどの有害
なコンテンツは、ドメイン管理上の問題、すなわち匿名で、あるいは第三者に情報を開示
しないまま登録可能なドメイン上で作成されていることが多い。このため、有害コンテン
ツの取り締まりを行うことが難しかったり、被害者が加害者の責任を問うことができなか
ったりといった問題を生じる。研究代表者らは、この問題について考えるために、匿名あ
るいは第三者に情報を開示しないまま登録可能なドメインの実態についての調査研究を、
ICANN の公募に対して提案した。この調査研究には、本研究で開発した研究手法を用いる
予定である。
EU の第七次計画(FP7)に対する資金助成要請
インターネット上でどのようなコンテンツが流通しているかを把握するためには、本研究
で行ったような、定期的に実データを収集して行う調査が欠かせない。しかし、インター
ネット上に流通するデータの爆発的な増加が、悉皆的な調査を不可能にしている。この爆
発的に増加するインターネット上のデータへの対処として、バイアスを最小化するサンプ
リング手法を、同様の問題意識を持つ UNION LATINE(フランス)
、FUNREDES(ドミニ
カ)等と共同で、EU の第七次計画(FP7)に対する資金助成に提案する予定である。
国際機関への報告
UNESCO(言語多様性問題、2011 年 2 月共同執筆報告書発行予定)
UNESCO によって編集が進められている言語多様性の問題に関する書籍に、本研究の成
果に関係した事項、特に本研究において改良を進めることのできた言語判定エンジンと、
それによって得られたデータに関する種々の考察について執筆を行う予定である。本書は、
70
研究代表者以外にも、世界各国から多数の第一線の研究者が参加する書籍であり、公刊さ
れれば国際的に多くの注目を集めるものと思われる。
インターネットにおける研究成果の発信
情報格差観測・カントリードメイン分析システム試験運用サイト
URL: http://mzl.nagaokaut.ac.jp/LAB/
2008 年 8 月から運用中。ドメインガバナンスに関する諸指標の公開を行っている。
G2LI 公開サイト
URL: http://gii.nagaokaut.ac.jp:8080/g2liWebHome/index.jsp
2009 年 10 月から運用中。言語判定ツールなどを公開している。
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