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Title 中国企業のイノベーションと輸出-
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中国企業のイノベーションと輸出--産業レベルデータを
用いた実証研究--
張, 紅咏
經濟論叢 (2013), 186(2): 115-132
2013-03
https://doi.org/10.14989/210015
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
経済論叢(京都大学)第 186 巻第2号,2013 年3月
査読付き論文
中国企業のイノベーションと輸出
†*
――産業レベルデータを用いた実証研究――
張
紅
咏
せている。Rodrik[2006]は,各国の輸出財の
要旨
構成がそれらの国の一人当たりの GDP に正の
近年,中国は技術的に高度な財を輸出するよ
相関があり,高所得国ほど付加価値の高い財を
うになった。それは対内直接投資と加工貿易に
輸出していることを示した。しかし,所得水準
よるものであると多くの先行研究が指摘してい
が低いにもかかわらず,中国の輸出財の構成は
る。本研究では,製造業大中企業の産業レベル
高 所 得 国 の そ れ に 近 い と 報 告 し た。Scott
のデータを利用し,中国企業のイノベーション
[2008]は,アメリカ向けの中国の輸出財のバ
投資(研究開発と技術購入)が,輸出の高度化
ラエティが OECD 諸国のそれによく似ている
にどのように寄与しているかを分析した。実証
ことを示した。このように,低所得国である中
結果では,①中国企業の輸出に占める新製品の
国が,高所得国(OECD 諸国)の輸出と同じよ
割合(輸出の高度化を表す指標)が上昇してい
うな財,より技術的に高度な財を輸出するよう
ること,②イノベーション投資が中国企業の生
になったということを「輸出財の品質向上」や
産性向上と新製品の生産・輸出に寄与している
「輸出の高度化」
(The Sophistication of China’s
こと,③イノベーション投資の目的に関しては,
Exports)と呼ぶ。
地場企業と外資企業間に明確な差異があり,外
中国の輸出財の構成が技術的に高度である要
資企業によるイノベーション投資は「適応的」
因については,いくつかの研究がある。Xu and
であり,輸出向けではなく,中国の国内市場向
Lu[2009]は,中国の産業レベルの輸出財の
けとしたものであることを示している。
OECD 諸国との類似性が,OECD 諸国からの
外資独資企業の直接投資,外資企業による加工
1)
Ⅰ
はじめに
貿易と正の相関があると報告した 。Amiti and
Freund[2010]は,1992 年と 2005 年の製造業
中国は 2001 年に世界貿易機関(WTO)加盟
各産業の技術集約度を比較し,確かに中国が技
以降,貿易自由化が進み,輸出の規模が年々拡
術集約度の高い財の輸出にシフトしつつある
大し,2009 年に世界最大の輸出国となった。最
が,加工貿易による輸出を除くと,輸出財の技
近の研究では,中国の輸出財の構成に関心を寄
1)中国では,通関上,貿易が一般貿易(Ordinary
Trade)と加工貿易(Processing Trade)に分かれて
†
2012 年7月 30 日受付,2012 年9月 24 日受理
いる。加工貿易による輸出は,毎年輸出全体の約5
*
本論文は,2011 年1月 29 日に日本国際経済学会・
割も占めている。また,外資企業は,毎年輸出総額
関 西 支 部 研 究 会 で の 報 告 論 文 R&D, Technology
の約 50%,加工貿易全体の 70∼80%も占めている。
Transfer, and the Sophistication of China’s Exports
『中国統計年鑑』
(China Statistical Yearbook)各年
を大幅に加筆修正したものである。
版による。
116
第 186 巻
第2号
術レベルは決して高くなっていないと指摘し
[2011]は,WTO 加盟が中国民間企業の新製
た。さらに,Blonigen and Ma[2010]は,1997
品開発と輸出参入を促進したと報告したが,イ
年から 2005 年までの間,中国の輸出に占める
ノベーション投資と輸出の直接的な関係につい
外資企業のシェアと外資企業の輸出単価の地場
ては,明らかにされていない。また,Hu et al.
企業のそれに対する比がともに上昇しているこ
[2005],Jefferson et al.[2006]は,研究開発が
とから,輸出財の品質と付加価値において地場
中国企業の生産性や新製品生産に寄与している
企業の外資企業に対するキャッチ・アップは進
と報告したが,研究開発と新製品輸出の関係に
んでいないと結論づけている。このように,外
ついては,分析していない。
資企業は輸出志向が高く,高品質・高付加価値
多くの先行研究が指摘したように,中国輸出
な財を輸出していることに対し,地場企業は輸
における地場企業と外資企業との間に様々な差
出集約度が低く,より低品質・低付加価値財の
異がある。本研究は,イノベーション投資と輸
生産に特化しているといった定型化された事実
出の関係を検証するには,やはり地場企業と外
(Stylized Facts)から,これまでの中国の輸出
資企業を分けて分析する必要があると考える。
の高度化は外資企業と加工貿易によるものであ
企業の所有制については,中国の法令上,海外
るとも言える。
からの投資企業が外資独資企業,合弁企業,合
一方,貿易自由化に伴って近年中国企業は活
作企業に分かれて,さらに海外の出資元で香
発なイノベーション投資(研究開発と技術移転)
港・マカオ・台湾系企業(HMT 企業)とそれ以
2)
を行っている 。本研究は,中国製造業の大中
外の国・地域系企業(Non-HMT 企業)に分か
企業の産業レベルデータを利用し,WTO 加盟
れる。中国本土の企業は国有企業,
私営企業(民
後,中国企業のイノベーション投資が全要素生
間企業)に分かれる。本研究では,海外から投
産性(TFP)の向上と輸出財の品質向上に寄与
資された企業(HMT 企業と NHMT 企業)を「外
しているかどうかを分析するものである。本研
資企業」
,それ以外の企業
(民間企業と国有企業)
究では,財レベルの通関データを用いた先行研
を「地場企業」と呼ぶ。
究と異なり,輸出財の品質向上(輸出の高度化)
本論文の構成は以下の通りである。第2節と
の代理変数として,輸出に占める新製品の割合
第3節では,近年大中企業のイノベーション投
を用いる。新製品とは,新しい技術やデザイン
資と輸出活動を考察する。第4節では,散布図
で作られた斬新なもの,あるいは製造過程の改
によってイノベーション投資と輸出の関係につ
善・新しい材料の使用などによる品質向上を実
いて簡単な検討を行う。第5節では,実証分析
現したもののことである。新製品と称する期間
のための定式化をする。第6節では,推定結果
3)
は,通常,生産開始から1年以内とする 。八代
を示す。第7節では,結論と課題を述べる。付
録では,本研究で用いたデータについて説明す
2)先行研究は,貿易自由化がイノベーション投資を
る。
喚起させる効果があると理論・実証両面から明らか
にしている。例えば,Ederington and MaCalman
[2008],Verhoogen[2008],Bustos[2011]。
3)新製品の定義は『工業企業科技活動統計資料』に
よる。新製品売上高や新製品の輸出額に関しては,
Ⅱ
大中企業のイノベーション投資
近年,中国大中企業はイノベーション投資を
企業の自己申告に基づいて集計されたものであり,
活発に行っている。図1は,2000 年以降,大中
新製品の技術レベル,種類と単価を確認することは
企業のイノベーション投資集約度の推移を示す
出来ない。
ものである。研究開発,外国技術購入と国内技
中国企業のイノベーションと輸出
図1
117
イノベーション投資集約度の推移(%)
注:イノベーション投資の指標はすべて集約度である。
出所:『工業企業科技活動統計資料』各年版に基づいて,筆者作成。
術購入については,すべて集約度である。本研
が,外資企業の研究開発集約度は低く,2010 年
究でいう研究開発は企業自社内の研究開発(In-
に約 0.8%に止まる。地場企業の研究開発集約
house R&D)を指す。外国(国内)技術購入と
度は外資企業のそれを大きく上回っている。
は,外国(国内)の企業あるいは研究機関から
③
生産技術,デザイン,特許,設備,器具などの
以降年々低下し,2010 年に約 0.1%となった。
4)
地場企業の外国技術購入集約度は,2002 年
購入のことである 。集約度とは,各イノベー
外資企業の場合も同じ傾向がある。
ション投資の売上高に対する比率のことであ
④
る。
と外資企業の両方では,大きな変化がなく,ずっ
①
と低いままである。
各年において,地場企業では,研究開発集
国内技術購入集約度については,地場企業
約度,外国技術購入集約度,国内技術購入集約
このように,2000 年以降大中企業の研究開発
度の順で高い。外資企業の場合も同じである。
集約度が大きく上昇している一方,外国技術購
②
地場企業の研究開発集約度が 2003 年以降
入集約度が徐々に低下していることから,大中
大きく上昇し,2010 年に約 1.2%に達している
企業のイノベーション投資は,外国からの技術
4)研究開発,外国(国内)技術購入の定義は『工業
企業科技活動統計資料』による。通常,研究開発に
はプロセス・イノベーションのための研究開発とプ
購入に大きく依存した状態から徐々に自社内研
究開発へと転換していることがうかがえる。地
場企業の場合,その傾向はより明白である。地
ロダクト・イノベーションのための研究開発の両方
場企業にとって,イノベーション投資による製
が含まれているが,ここではデータ上区別している
品品質を向上させた結果,輸出により国内市場
形になっていない。
に加え海外市場からも追加的な需要を獲得でき
118
第 186 巻
第2号
るため,研究開発や新技術の導入を積極的に行
業の間の差が 0.41 パーセンテージ・ポイント
うインセンティブがある。外国技術購入集約度
まで縮小した。産業平均では大きな変化が見ら
の低下に関しては,
2つの可能性がある。まず,
れない。
外国の先端技術は,地場企業の買えないほど高
②
価なものである可能性がある。他方,地場企業
から,地場企業と外資企業ともに,やはり化学・
と外国企業の技術レベルの格差が縮小している
機械・電子といった資本集約的な産業のほうが
と同時に,さらなる競争を回避するために,外
高く,食品・衣服・繊維などの産業のほうが比
国企業がこれ以上の先端技術を提供しない可能
較的に低い。
5)
性もある 。地場企業に対して外資企業では,
③
2時点産業別のイノベーション投資集約度
2時点で地場企業と外資企業を比較してみ
貿易自由化による外国直接投資の増加の結果,
る。2004 年に繊維(17)
(括弧内は2桁の産業
従来市場取引を通した技術移転が外資企業(多
コードである。以下も同様。)
,医薬品(27)
,化
国籍企業)の企業内で行われるようになったこ
学繊維(28)などの産業では,地場企業より外
6)
とが考えられる 。研究開発に関しては,近年
資企業のほうが高い集約度を有しているが,多
中国の国内需要が拡大し,中国市場に志向する
くの産業では,地場企業のイノベーション投資
外資企業にとって外国にいる本社から新たな技
集約度が外資企業のそれを上回っている。特
術を手に入れることより,現地消費者の嗜好や
に,機械・電子(35,36,37,39,40,41)な
規制などの条件に適応させて,既存の製品や生
どの産業では,地場企業のほうが高い。2010 年
産過程を改変するための研究開発が必要となっ
になると,いくつかの産業ではイノベーション
ている。このようなタイプの研究開発を「適応
投資集約度の高さが逆転している。飲料(15),
7)
的研究開発」(Adaptive R&D)という 。
次に,産業別のイノベーション投資を観察す
化学繊維(28)では,地場企業のほうが高い。
逆に,木材・木製品(20),家具・装備品(21)
,
る。表1は 2004 年と 2010 年に地場企業と外資
印刷(23)では,外資企業のほうが高い。
(7)
企業間のイノベーション投資集約度の比較を示
列の2時点の差の差を見ると,機械・電子(35,
すものである。イノベーション投資集約度と
39,40,41)などの産業では,地場企業と外資
は,研究開発,外国技術購入と国内技術購入の
企業の間の差が縮小している。他方,その差が
総支出の売上に対する比率のことである。
拡大している産業もある。例えば,衣服・靴・
①
帽子(18),革製品・毛皮・羽毛製衣服(19),
産業平均から見ると,2004 年の時点では,
地場企業のイノベーション投資集約度が外資企
業のそれより約 0.61 パーセンテージ・ポイン
トも高い。2010 年となると,地場企業と外資企
7)途上国における外資企業の研究開発に対し,投資
先の国が先進国である場合には,外資企業は投資先
で先端的な研究を行うことによって,自国では得ら
れない技術や知識を利用し獲得しようとする場合が
5)近年,多くの中国企業は対外直接投資や M&A に
ある。このような研究開発を「革新的研究開発」
よって先進国企業の保有する先端技術や認知度の高
(Innovative R&D)と呼ぶ。例えば,Granstrand
いブランドを積極的に獲得しようとしている。ここ
[1999],Kuemmerle[1999]
,戸堂[2008]。なお,
では,外国企業の買収などの経路による外国技術の
戸堂[2008]が日本企業について,Branstetter and
導入に関しては,
『工業企業科技活動統計資料』の外
Foley[2010]がアメリカ企業について分析した結
国技術購入の統計に反映されているかどうかは,不
果では,投資先が先進国である企業と比べて中国に
明である。
おける日本企業とアメリカ企業は,研究開発集約度
6)外資参入により外国技術の購入が減少していると
いう点について,Hu et al.[2005]にも指摘された。
が低く,「革新的研究開発」より「適応的研究開発」
を行っている場合が多い。
中国企業のイノベーションと輸出
表1
産業別のイノベーション投資集約度(%)
2004年
産業
コード
119
産業
⑴
地場企業
産業平均
2010年
⑵
⑶
外資企業 ⑴−⑵の差
⑷
地場企業
⑸
外資企業
⑹
⑷−⑸の差
⑺
⑹−⑶の差
1.34
0.73
0.61
1.24
0.83
0.41
−0.20
13
14
農産・畜産・水産品加工
食料品
0.32
0.92
0.07
0.29
0.25
0.63
0.38
0.78
0.37
0.59
0.02
0.19
−0.24
−0.44
15
飲料
0.73
0.79
−0.05
1.05
0.62
0.43
0.49
17
繊維
0.85
1.00
−0.14
0.69
0.69
0.00
0.14
18
19
衣服・靴・帽子
革製品・毛皮・羽毛製衣服
0.73
0.23
0.54
0.12
0.19
0.11
0.42
0.42
0.19
0.18
0.23
0.23
0.04
0.12
20
木材・木製品
1.53
0.23
1.30
0.34
0.62
−0.28
−1.58
21
22
家具・装備品
紙・紙加工品
0.48
0.88
0.30
0.38
0.18
0.50
0.21
0.83
0.30
0.81
−0.08
0.02
−0.27
−0.48
23
印刷
1.37
0.44
0.93
1.00
1.04
−0.04
−0.97
24
文教・体育用品
0.83
0.37
0.46
1.18
25
26
27
28
29
石油製品・石炭製品
化学原料・化学製品
医薬品
化学繊維
ゴム製品
0.30
1.50
1.89
0.78
1.53
0.13
1.13
2.92
1.30
0.17
0.37
−1.03
−0.52
0.20
1.27
1.89
1.31
0.36
0.06
1.06
2.19
1.14
0.82
0.14
0.21
−0.30
0.16
−0.03
−0.16
0.73
0.68
30
31
32
33
プラスチック製品
窯業・土石製品
鉄鋼
非鉄金属
1.18
0.71
1.06
1.18
0.64
0.35
0.86
0.37
1.41
0.89
0.83
−0.15
0.69
1.70
1.14
0.67
1.22
1.24
0.86
1.00
0.61
0.46
0.29
−0.33
0.61
−0.43
−0.54
−0.17
−0.07
34
35
36
37
金属製品
一般機械
特殊機械
輸送用機械
0.88
1.75
1.93
2.32
0.25
0.97
0.98
1.78
−0.23
0.63
0.77
0.95
0.53
0.81
1.06
1.90
2.52
2.11
1.11
0.69
1.44
1.23
1.31
−0.30
0.37
0.46
1.29
0.80
−0.07
−0.25
−0.32
0.35
0.26
39
40
41
42
電気機械
情報通信機械・電子部品
精密機械
工芸品及びその他の製造業
2.26
5.09
2.82
1.42
0.99
1.11
0.61
0.13
1.27
3.98
2.21
1.29
1.88
4.16
2.74
0.86
1.44
0.91
1.04
0.19
0.43
3.25
1.70
0.67
−0.83
−0.73
−0.51
−0.63
0.35
出所:『工業企業科技活動統計資料』各年版に基づいて,筆者作成。
文教・体育用品(24)といった中国の伝統的な
のかについては,検証すべき課題である。
産業もあれば,特殊機械(36)
,輸送用機械(37)
のような新興産業もある。
Ⅲ
以上の結果をまとめると,2004 年より 2010
大中企業の輸出
年に多くの産業では,地場企業と外資企業の間
中国企業にとって,WTO 加盟により海外市
にイノベーション投資集約度の差が縮小してい
場の拡大とほぼ同時に,国内市場(内需)も拡
るが,2010 年時点で多くの産業では,地場企業
大している。確かに製造業の輸出規模は拡大し
のほうが依然として高い。その差は,繊維・衣
ているが,輸出集約度(売上高に占める輸出の
服などの産業では小さいが,機械・電子などの
割合)
,輸出に占める新製品の割合が必ずしも
産業では比較的に大きい。こういった地場企業
上昇しているとは限らない。図2は,2000 年か
と外資企業の間のイノベーション投資の差異
ら 2010 年の地場企業と外資企業それぞれの輸
が,地場企業と外資企業それぞれの生産性と新
出活動の推移を表しているものである。
製品開発に対してどのように影響を与えている
①
輸出集約度から見ると,2000 年以降,地場
120
第 186 巻
図2
第2号
輸出集約度・輸出に占める新製品の割合の推移(%)
出所:
『工業企業科技活動統計資料』各年版,
『規模以上工業統計報表統計』各年版に基づいて,
筆者作成。
企業の場合,大いに上昇することもなく,約
していることから,輸出財の品質向上が進んで
10%に安定している。それに対して,外資企業
いることがうかがえる。外資企業より地場企業
では,2000 年から 2004 年まで輸出集約度が大
のほうが,輸出に占める新製品の割合の成長が
きく上昇し,2004 年以降徐々に低下し,2010 年
より早く,近年中国輸出高度化の原動力となっ
に 30%強に止まった。
ているとも言える。
②
輸出に占める新製品の割合に関しては,
図2で示した指標は製造業全体のものであ
2003 年以降,地場企業の新製品輸出の比率が大
り,産業によって輸出や新製品輸出が大きく異
きく上昇し,20%弱から約 35%まで成長した。
なる可能性があるため,以下では産業別に観察
外資企業では,2000 年から 2002 年まで大きく
することにする。表2は産業別の輸出集約度を
低下したが,その後,徐々に上昇しているが,
示したものである。
2010 年の時点では,地場企業より 10 パーセン
①
テージ・ポイント以上も低い。
地場企業の輸出集約度は 16.7%で,外資企業の
産業平均から見ると,2004 年の時点では,
先述したように,新製品とは,新しい技術・
43%より非常に低い。2010 年には,地場企業外
デザイン・材料で作られたもの,あるいは製造
資企業ともに低下しているが,外資企業の下げ
過程の改善による品質向上を実現したものであ
幅が大きいため,地場企業と外資企業の間の差
り,本研究では輸出に占める新製品の割合を輸
が縮小している。
出財の技術レベルの代理変数として用いる。図
②
2から,近年輸出集約度が上昇していないにも
ると,2時点でほとんどの産業では,地場企業
かかわらず,輸出に占める新製品の割合が上昇
より外資企業の輸出集約度が高い。ただし,2
産業別で地場企業と外資企業を比較してみ
中国企業のイノベーションと輸出
表2
産業別の輸出集約度(%)
2004年
産業
コード
121
産業
⑴
地場企業
産業平均
16.7
43.0
11.1
9.6
24.7
9.5
2010年
⑵
⑶
外資企業 ⑴−⑵の差
⑷
地場企業
⑸
外資企業
⑹
⑷−⑸の差
⑺
⑹−⑶の差
−26.4
11.8
28.6
−16.7
9.6
−13.6
0.1
5.4
6.2
8.2
6.3
−2.8
−0.0
10.8
−0.1
13
14
農産・畜産・水産品加工
食料品
15
飲料
2.8
3.4
−0.6
0.8
1.9
−1.1
−0.5
17
繊維
22.3
57.6
−35.4
10.4
34.5
−24.1
11.3
18
19
衣服・靴・帽子
革製品・毛皮・羽毛製衣服
35.1
27.1
67.1
77.8
−31.9
−50.7
22.2
19.8
48.1
44.9
−25.8
−25.1
6.1
25.6
20
木材・木製品
23.6
56.4
−32.8
15.9
34.1
−18.2
14.6
21
22
家具・装備品
紙・紙加工品
52.8
2.1
66.6
19.3
−13.8
−17.2
27.2
1.7
53.8
14.6
−26.6
−12.9
−12.8
4.2
23
印刷
2.8
31.6
−28.9
5.3
41.5
−36.2
−7.4
24
文教・体育用品
54.5
87.8
−33.2
25
26
27
28
29
石油製品・石炭製品
化学原料・化学製品
医薬品
化学繊維
ゴム製品
1.3
7.5
11.3
2.6
19.2
23.0
15.2
12.0
8.1
48.3
−21.8
−7.7
−0.8
−5.5
44.7
0.8
4.7
7.7
8.8
67.0
4.9
8.9
15.2
6.7
−22.3
−4.1
−4.2
−7.5
2.1
11.0
17.6
3.5
−6.7
7.6
30
31
32
33
プラスチック製品
窯業・土石製品
鉄鋼
非鉄金属
10.7
8.1
5.6
12.0
62.3
33.3
5.8
29.0
−29.2
−51.6
−25.2
−0.1
−17.0
14.0
9.9
4.1
1.9
1.9
40.7
38.2
14.9
4.3
17.9
−26.7
−28.3
−10.8
−2.5
−16.0
2.5
23.3
14.4
−2.3
34
35
36
37
39
金属製品
一般機械
特殊機械
輸送用機械
電気機械
17.9
11.4
7.4
11.4
18.5
74.0
33.6
44.5
27.3
64.3
−56.1
−22.2
−37.2
−15.9
10.1
10.6
6.3
12.5
31.0
22.5
20.1
24.0
−20.9
−11.8
−13.7
−11.5
1.0
35.2
10.4
23.4
4.4
40
41
42
情報通信機械・電子部品
精密機械
工芸品及びその他の製造業
22.4
16.0
39.3
67.8
75.0
79.0
−45.8
−45.4
−59.0
−39.6
10.2
33.2
16.9
17.9
36.1
66.1
53.7
39.3
−25.8
−32.9
−36.8
−21.4
19.9
12.5
22.2
18.2
出所:『工業企業科技活動統計資料』各年版,『規模以上工業統計報表統計』各年版に基づいて,筆者作成。
表3は産業別の輸出に占める新製品の割合を
時点間の変化を観察すると,
産業平均と同様に,
多くの産業では,地場企業と外資企業の間の差
示したものである。
が小さくなっている。輸出志向の強かった外資
①
企業は,中国国内市場での売上が拡大している
見ると,2004 年の時点では,地場企業が外資企
ことが分かる。
業より 12.7 パーセンテージ・ポイントも高く,
③
2時点での地場企業を観察すると,繊維・
2010 年になると,その差がさらに拡大し,17.9
衣服(17,18,19)などの伝統的な輸出産業で
パーセンテージ・ポイントに達している。両方
は,輸出集約度が大きく低下している。一方,
の企業では,輸出に占める新製品の割合が上昇
機械(35,36,37,41)などの産業では,輸出
しているが,外資企業より地場企業のほうの成
集約度が安定している。新興産業である情報通
長率が高く,輸出の高度化が進んでいることが
信機械・電子部品(40)では,輸出集約度が
分かる。
2004 年の 22.4%から 33.2%へと大きく上昇し
②
た。
ると,2時点でほとんどの産業では,地場企業
輸出に占める新製品の割合の産業平均から
産業別で地場企業と外資企業を比較してみ
122
第 186 巻
表3
第2号
産業別の輸出に占める新製品の割合(%)
2004年
産業
コード
産業
⑴
地場企業
産業平均
21.3
8.6
4.8
4.9
3.5
7.3
2010年
⑵
⑶
外資企業 ⑴−⑵の差
⑷
地場企業
⑸
外資企業
⑹
⑷−⑸の差
⑺
⑹−⑶の差
12.7
29.3
11.5
17.9
5.1
1.2
−2.5
7.4
24.4
4.4
10.4
3.0
14.0
1.7
16.5
26.6
13
14
農産・畜産・水産品加工
食料品
15
飲料
7.7
3.2
4.5
33.4
2.3
31.1
17
繊維
15.1
12.3
2.8
32.9
11.8
21.1
18.3
18
衣服・靴・帽子
14.7
4.2
10.5
8.7
3.4
5.3
−5.2
19
革製品・毛皮・羽毛製衣服
9.1
3.3
5.8
16.0
3.5
12.5
6.6
20
21
木材・木製品
家具・装備品
3.8
12.8
4.1
5.4
−0.3
7.4
7.7
18.3
11.7
4.7
−4.0
13.7
−3.7
6.2
22
23
紙・紙加工品
印刷
11.1
46.3
11.7
1.4
−0.5
44.8
40.6
8.6
9.2
1.7
31.4
6.9
31.9
−38.0
24
25
26
27
文教・体育用品
石油製品・石炭製品
化学原料・化学製品
医薬品
10.9
0.2
17.0
3.8
5.1
12.2
7.1
−4.9
4.7
14.4
6.2
30.2
6.4
2.5
15.2
7.9
3.7
15.0
0.9
8.5
10.3
28
29
30
31
32
化学繊維
ゴム製品
プラスチック製品
窯業・土石製品
鉄鋼
27.2
47.7
31.8
17.6
24.1
19.7
10.7
6.5
10.0
4.7
15.9
12.0
16.5
41.2
21.8
12.9
8.2
7.7
38.9
25.5
52.0
18.6
29.8
50.1
14.9
12.1
10.5
12.5
13.8
24.0
13.4
41.5
6.1
16.1
7.4
−27.8
19.6
−6.9
7.9
33
34
35
36
37
非鉄金属
金属製品
一般機械
特殊機械
輸送用機械
11.0
11.8
33.3
34.0
38.7
6.1
4.9
12.2
12.1
16.9
4.9
6.8
21.1
22.0
21.8
81.9
22.3
23.6
39.7
44.7
32.9
9.1
7.0
20.0
15.1
18.7
17.1
72.8
15.3
3.6
24.6
9.4
67.8
8.5
−17.5
2.6
39
40
41
42
電気機械
情報通信機械・電子部品
精密機械
工芸品及びその他の製造業
43.6
45.3
45.1
7.2
16.1
20.3
11.1
2.7
27.4
25.0
34.0
4.5
63.3
36.6
22.1
24.0
21.3
19.2
23.5
4.0
26.0
42.1
17.4
−1.4
20.0
4.2
14.7
−7.6
−35.4
15.5
出所:『工業企業科技活動統計資料』各年版,『規模以上工業統計報表統計』各年版に基づいて,筆者作成。
の輸出に占める新製品の割合が外資企業のそれ
度が非常に高いにもかかわらず,イノベーショ
より高い。
ン投資集約度が低く,輸出に占める新製品の割
③ (7)列で2時点間の差の変化を観察すると,
合も低いことである。特に,機械・電子(35,
その差が縮小している産業もあるが,多くの産
36,37,39,40,41)のような産業は,本来な
業では,その差が拡大している。繊維・衣服
(17,
らば企業所有制を問わず,資本集約度やイノ
18,19),文教・体育用品(24)
,工芸品及びそ
ベーション投資集約度が高く,売上に占める新
の他の製造業(42)などだけでなく,化学(26,
製品比率も高いはずである。外資企業のイノ
29),機械(36,37,39)でも,その差の拡大は,
ベーション投資集約度が低い理由としては,地
外資企業の新製品輸出比率の低下によるものと
場企業より外資企業のイノベーション投資の生
いうより,地場企業の新製品輸出比率の上昇に
産性が高いため,少ない投資で済むこと;多国
よるものである。
籍企業の生産工程の細分化により,中国におけ
以上で示したように,興味深いのは,多くの
る外資企業が主として労働集約的な生産工程の
産業では地場企業と比べて外資企業の輸出集約
生産活動を行っているため,資本集約的でなく
中国企業のイノベーションと輸出
123
なることが考えられる。外資企業の輸出に占め
るものではなく,外資企業や加工貿易によるも
る新製品の割合が低い理由は,外資企業の新製
のであると考えられる。
品は主に中国国内市場向けであり,輸出を目的
②
としないこと;加工貿易や企業内貿易により,
情報通信機械・電子部品(40),精密機械(41)
新製品の輸出はある程度外国の親会社が決定し
は,イノベーション投資が活発であり,輸出産
ていることが考えられる。外資企業に対して地
業でもある。特に情報通信機械・電子部品(40)
場企業では,貿易自由化による海外市場の拡大,
では,イノベーション投資集約度が4%,輸出
イノベーション投資による生産性向上と新製品
集 約 度 が 30% を 超 え て い る。家 具・装 備 品
生産拡大の結果,輸出に占める新製品の割合が
(21)
,文教・体育用品(24)は,イノベーショ
上昇しつつあると考えられる。このように,企
ン投資集約度が低いが,輸出集約度が高い。
業所有制によってイノベーション投資と輸出・
③
新製品輸出の関係が異なっていることがうかが
集約度の差が小さいが(表1でも確認できる)
,
える。
輸出集約度のバラつきが非常に大きい。上部に
企業所有制別で見ると,地場企業の場合,
外資企業では,産業間イノベーション投資
位置する文教・体育用品(24),情報通信機械・
Ⅳ
イノベーション投資と輸出・新製品
輸出
電子部品(40),精密機械(41)などの産業では,
イノベーション投資集約度は高くないが,輸出
が売上の約 70%も占めている。情報通信機械・
本節では,散布図によってイノベーション投
資と輸出・新製品輸出の関係について簡単な検
電子部品(40),精密機械(41)では,地場企業
と外資企業の違いが明白である。
討を行うことにする。散布図は,製造業の各産
図4はイノベーション投資集約度と輸出に占
業企業所有制別について,2004 年から 2010 年
める新製品の割合の散布図を表すものである。
の7年間の平均をとったデータを利用する。な
横軸はそのままイノベーション投資集約度をと
お,産業間企業間規模の差異をコントロールす
り,縦軸は輸出に占める新製品の割合をとった
るために,イノベーション投資集約度,輸出集
ものである。
8)
約度及び輸出に占める新製品の割合を用いる 。
①
回帰直線の傾きは正であり,図3と比較し
図3はイノベーション投資集約度と輸出集約
て,イノベーション投資集約度は,輸出集約度
度の散布図であり,左側から地場企業,外資企
と正の相関関係が見られないが,輸出の新製品
業,全企業の順となっている。横軸は,
イノベー
の割合との間に正の相関関係を見出している。
ション投資集約度を示し,縦軸は輸出集約度を
右側に位置する産業ほど,イノベーション投資
示している。右側に位置する産業ほど,イノ
集約度が高く,輸出に占める新製品の割合が高
ベーション投資集約度が高く,輸出集約度が高
い。
い。なお,直線は,回帰直線である。
②
①
いずれの散布図でも,イノベーション投資
回帰直線の傾きは正ではあるが,産業間の差が
と輸出との正の相関が見られない。中国企業の
大きい。また,イノベーション投資集約度と輸
全体の輸出の急成長はイノベーション投資によ
出集約度の高い,情報通信機械・電子部品(40)
企業所有制別で見ると,地場企業の場合,
と精密機械(41)
(図3に示している)などの産
8)本節では,イノベーション投資集約度ではなく,
業は,輸出に占める新製品の割合も比較的に高
イノベーション投資の大半を占める研究開発の集約
い。逆に,農産・畜産・水産品加工(13)と石
度を用いても非常に近い結果が得られた。
油製品・石炭製品(25)のような非輸出型産業
124
第 186 巻
図3
第2号
イノベーション投資集約度と輸出集約度
注:各産業について 2004∼2010 年のデータを平均化した値を利用している。図中の番
号は表1と表2,表3で示した産業コードである。
出所:
『工業企業科技活動統計資料』各年版,
『規模以上工業統計報表統計』各年版に基
づいて,筆者作成。
では,イノベーション投資集約度が低く,輸出
ブ=ダグラス型の生産関数を考える。
に占める新製品の割合も低い。
p1€
③
外資企業では,輸出集約度のバラつきが大
VA iot/A iotK biotK L biotL
VA は付加価値額,K は資本投入量(純固定
きいが,輸出に占める新製品の割合については,
資産)
,L は労働投入量(雇用者数)である。i
産業間に大きな差が見られない。
は産業,o は企業所有制,t は年である。b K と
b L は,それぞれ資本と労働の投入係数である。
Ⅴ
実証分析のための定式化
イノベーション投資は生産技術のパラメーター
A に正の影響を与えると仮定すると,TFP は研
イノベーション投資の結果は,
生産性向上
(プ
究開発,外国技術購入と国内技術購入によって
ロセス・イノベーション)と新製品開発(プロ
得られると分解することができる。i 産業 o 企
ダクト・イノベーション)であると言われてい
業所有制 t 年の TFP の対数値は,p1€ 式で資本
る。第2節と第3節では,研究開発集約度と輸
と労働の投入で説明できない実際の付加価値額
出に占める新製品の割合が上昇していること,
の残差であると定義する 。
9)
産業間企業間イノベーション投資と輸出の差異
が存在していることを示した。第4節では,イ
9)Ito et al.[2012]は,2000 年から 2007 年まで産業
ノベーション投資集約度と輸出に占める新製品
別地域別地場企業の TFP を推定した。本研究で
の割合の間に正の相関関係が観察された。本節
では,より厳密な計量分析による検証を行う。
TFP については,Ito et al.[2012]に倣って
以下のように推定する。まず,以下のようなコ
は,TFP の対数値は 2004 年から 2010 年まで産業
別企業所有制別の TFP の推定値であり,推定の際
に,企業所有制と産業の固定効果を用いた。サンプ
ルとデータ期間が異なるため,Ito et al.[2012]の推
定値とは直接的に比較することは難しい。
中国企業のイノベーションと輸出
図4
125
イノベーション投資集約度と輸出に占める新製品の割合
注:各産業について 2004∼2010 年のデータを平均化した値を利用している。図中の番
号は表1と表2,表3で示した産業コードである。
出所:
『工業企業科技活動統計資料』各年版,
『規模以上工業統計報表統計』各年版に基
づいて,筆者作成。
p2€
lnTFP iot/lnVA iot,lnV iot
KlnK iot,b
LlnL iot
/lnVA iot,b
中国企業の TFP は研究開発ストック,外国
年における誤差項で平均値 0,分散一定と仮定
する。イノベーション投資ストックの推定方法
については,付録で記述している。
技術購入ストックと国内技術購入ストックの線
イノベーション投資と新製品輸出の関係を,
形 関 数 と し て 表 す。イ ノ ベ ー シ ョ ン 投 資 が
Jefferson et al.[2006]に倣って以下のような線
TFP に与える影響を次の式によって推定す
形関数として表す 。
10)
11)
p4€ lnNPX iot/h 0+d 1lnK iot+d 2lnL iot+d 3lnM iot+
る 。
RD
iot
FT
iot
DT
iot
p3€ lnTFP iot/a 0+a 1lnS +a 2lnS +a 3lnS +
m io+m t+v iot
m io+m t+v iot
ここでは,S
RD
iot
は
ここでは,NPX は新製品の輸出である。K,
は国内技術購入ス
L,M はそれぞれ純固定資産,雇用者数,中間
は研究開発ストック,S
外国技術購入ストック,S
FT
DT
g 1lnS RD
iot +g 2lnS iot +g 3lnS iot +
DT
iot
FT
iot
トックとする。a 0 は定数項であり,m io は産業
別企業所有制別の個別効果,m t は時間の固定効
11)Jefferson et al.[2006]は,新製品集約度(新製品
果である。最後に,v iot は産業・企業所有制の t
売上高 / 売上高)を被説明変数とし,研究開発集約
度(研究開発 / 売上高)を説明変数とし,企業規模
と企業所有制の差異をコントロールした推定式を考
10)地場企業の TFP が外資企業からの技術スピル・
案し,中国企業の研究開発と新製品生産の関係につ
オーバーにも影響されると考えられるが,それが本
いて回帰分析を行った。なお,Griliches[1998],
研究の範囲を超えているため,ここでは考慮しない。
Jefferson et al.[2006]は,研究開発と新製品生産の
外資企業のスピル・オーバーについて,Ito et al.
関係を表す関数を知識生産関数(Knowledge Pro-
[2012]などに参照されたい。
duction Function)と呼ぶ。
126
第 186 巻
第2号
財投入である。h 0 は定数項であり,それ以外
占める輸出(X)の割合であり,NPX/X は輸出
の項の定義は p3€ 式のそれと同じである。
(X)に占める新製品輸出(NPX)の割合であ
次に,新製品の輸出は以下のように分解され
る。
p5€
NPX/
る。p7€ 式の両辺に対数をとると,
X
NPX
lnNPX/ln +ln
+lnY
Y
X
p8€
NPS NPX
}
}Y
Y
NPS
となる。p8€ 式の第2項と第4項については,
ここでは,NPS/Y は新製品集約度,売上高
p6-2€ と p6-3€ 式と同様な方法で推定を行うた
(Y)に占める新製品売上高(NPS)の割合で
め,推定式を省略する。イノベーション投資を
あり,NPX/NPS は新製品売上(NPS)に占め
はじめとする変数が,輸出集約度,輸出に占め
る新製品輸出(NPX)の割合である。p5€ 式の
る新製品の割合に与える影響を分析する。
両辺に対数をとると,
p6€
lnNPX/ln
NPS
NPX
+ln
+lnY
Y
NPS
Ⅵ
となる。p6€ 式の各項について,以下の各式を
用いて推定を行う。
p6-1€
全企業・産業別地場企業・産業別外資企業に分
DT
g 3lnS iot +m io+m t+v iot
DT
g 31lnS iot +m 1io+m 1t+v 1iot
NPX iot
ln
/h 2+d 12lnK iot+d 22lnL iot+
NPS iot
FT
d 32lnM iot+g 12lnS RD
iot +g 22lnS iot +
DT
g 32lnS iot +m 2io+m 2t+v 2iot
p6-4€
lnY iot/h 3+d 13lnK iot+d 23lnL iot+
RD
iot
①
イノベーション投資全体は産業レベルの
TFP に有意に寄与していることが確認できる。
各イノベーション投資ストックが 10%増加す
ると,TFP を約 1.5%∼5.9%上昇させる。
②
研究開発は新製品の輸出額に正で有意な効
果がある。研究開発ストックの 10%増加は新
製品輸出を2%以上増加させる。また,研究開
発は,売上に占める新製品の割合,輸出に占め
12)
FT
iot
d 33lnM iot+g 13lnS +g 23lnS +
DT
g 33lnS iot +m 3io+m 3t+v 3iot
このように,イノベーション投資をはじめと
する変数が,新製品の輸出額,売上に占める新
製品の割合,新製品売上に占める新製品輸出の
割合,売上高のそれぞれに与える影響を分析す
ることが可能である。
p5€ 式と異なり,以下のように新製品輸出を
分解することもできる。
p7€
けて回帰分析を行った。表4は産業別全企業に
ついての推定結果を示している。
NPS iot
ln
/h 1+d 11lnK iot+d 21lnL iot+
Y iot
FT
d 31lnM iot+g 11lnS RD
iot +g 21lnS iot +
p6-3€
本節では,TFP と新製品輸出の分解式につ
いての推定結果を報告する。推定の際,産業別
lnNPX iot/h 0+d 1lnK iot+d 2lnL iot+
FT
d 3lnM iot+g 1lnS RD
iot +g 2lnS iot +
p6-2€
推定結果
X NPX
NPX/ }
}Y
Y
X
ここでは,X/Y は輸出集約度,売上高(Y)に
る新製品の割合,売上高にも寄与している 。
しかし,研究開発は新製品売上に占める新製品
輸出の割合に対して負の効果が検出された。
③
外国技術購入は新製品の輸出,新製品売上
に占める新製品輸出の割合,輸出集約度に対し
て正の効果が見られないが,売上に占める新製
品の割合を増加させる効果がある。
12 )新 製 品 生 産 に つ い て の 結 果 は Jefferson et al.
[2006]と一致している。Jefferson et al.[2006]は,
1997 年から 1999 年大中企業のミクロデータを利用
し,企業所有制をコントロールした推定では,研究
開発(研究開発集約度)が新製品生産(新製品集約
度)に有意に寄与していると報告した。
中国企業のイノベーションと輸出
表4
推定結果1(全企業)(2004年∼2010年)
⑴
⑵
⑶
⑷
TFP
新製品の
輸出額
新製品売上/
売上
新製品輸出/
新製品売上
純固定資産
−0.222
−0.003
[0.210]
雇用者数
0.369
研究開発ストック
**
***
0.649
[0.177]
0.592
***
[0.088]
外国技術購入ストック
0.162
***
−0.174
[0.109]
[0.153]
中間財投入
127
−0.223
***
[0.088]
*
−0.186
[0.111]
**
0.278
[0.119]
−0.075
0.0794
輸出/売上
売上
−0.010
[0.188]
−0.045
[0.172]
***
[0.135]
0.090
[0.123]
0.052
[0.121]
−0.148
**
−0.219
[0.179]
[0.147]
**
−0.073
[0.092]
0.227
[0.084]
**
−0.0802
0.017
−0.143
[0.064]
*
0.438
−0.222
[0.108]
*
⑺
0.443
[0.174]
***
0.375
[0.068]
⑹
新製品輸出/
輸出
−0.166
[0.189]
**
⑸
0.149
[0.060]
***
0.745
[0.098]
***
*
**
0.124
[0.048]
−0.011
[0.039]
***
0.147
[0.050]
[0.041]
***
−0.742
[0.100]
0.137
[0.143]
*
0.193
[0.043]
−0.004
[0.156]
**
0.325
[0.158]
産業ダミー
年ダミー
[0.114]
Yes
Yes
[0.170]
Yes
Yes
[0.093]
Yes
Yes
[0.165]
Yes
Yes
[0.128]
Yes
Yes
[0.135]
Yes
Yes
[0.037]
Yes
Yes
標本数
グループ数
決定係数
784
112
0.874
784
112
0.855
784
112
0.719
784
112
0.642
784
112
784
112
784
112
0.784
0.583
0.982
国内技術購入ストック
国有企業ダミー
HMT企業ダミー
NHMT企業ダミー
0.0989
**
***
0.534
[0.041]
[0.067]
[0.045]
[0.035]
0.017
0.069
0.008
0.0776
[0.024]
−0.115
[0.109]
−0.009
[0.096]
[0.042]
−0.082
[0.173]
0.230
[0.152]
[0.046]
**
−0.343
[0.140]
***
0.833
[0.142]
[0.038]
0.146
[0.154]
***
−0.613
[0.143]
−0.156
*
0.503
***
0.906
***
[0.008]
**
***
−0.559
0.013
[0.011]
***
0.193
[0.067]
***
0.104
[0.031]
***
0.187
注:ダミー以外の変数はすべて対数値である。
***
**
*
, , はそれぞれ,1%,5%,10%水準で有意であることを示す。括弧内は,分散不均一及び系列相関に頑健
な標準誤差である。推定結果から産業ダミー,年ダミーと定数項を除いている。係数は,イノベーション投資の分散
をウェイトとして加重最小二乗法(Weighted Least Squares)で推定した。
④
国内技術購入は新製品の輸出額,輸出に占
一番大きい。国内技術購入の効果より外国技術
める新製品の割合に対して有意な結果が得られ
購入のそれがやや小さい。
た。
②
⑤
国有企業の生産性が一番低い;NHMT 企
研究開発は新製品の輸出額,売上に占める
新製品の割合,
輸出に占める新製品輸出の割合,
業は一番生産的;HMT 企業と民間企業の間に
売上高にも寄与している。これは,全企業の場
生産性の有意な差が見られない。
合の結果と一致している。
⑥
③
外資企業は地場企業より新製品の輸出が多
外国技術購入は TFP の向上に寄与してい
く,輸出集約度も高いが,輸出に占める新製品
るのに対して新製品の生産と輸出には寄与して
の割合が低い。外資企業は輸出志向ではある
いない。地場企業では,外国技術購入による新
が,輸出に占める新製品の割合が必ずしも高く
製品開発の目的については,輸出向けか国内市
ない。
場向けか明確ではないと考えられる。
表5は産業別地場企業についての推定結果を
④
国内技術購入は輸出に占める新製品輸出の
示している。
割合に寄与している。地場企業の国内技術購入
①
イノベーション投資が TFP の上昇に有意
は生産性の向上だけでなく,外国にない中国国
に寄与しているが,その内,研究開発の効果は
内の新しい技術やデザインで作られた財やバラ
128
第 186 巻
表5
推定結果2(地場企業)(2004年∼2010年)
⑴
⑵
⑶
⑷
TFP
新製品の
輸出額
新製品売上/
売上
新製品輸出/
新製品売上
純固定資産
*
−0.515
[0.283]
*
雇用者数
***
[0.066]
外国技術購入ストック
0.156
***
−0.092
[0.179]
⑹
⑺
輸出/売上
新製品輸出/
輸出
売上
−0.165
[0.241]
[0.256]
−0.154
−0.196
[0.274]
−0.104
0.297
0.249
−0.056
[0.234]
[0.173]
−0.019
[0.220]
0.089
[0.186]
0.198
[0.225]
−0.129
0.839
[0.229]
0.400
−0.227
⑸
0.467
***
中間財投入
研究開発ストック
第2号
***
0.450
[0.104]
−0.021
[0.182]
0.274
[0.208]
[0.228]
[0.223]
0.290
[0.082]
−0.026
[0.115]
0.001
[0.101]
0.262
[0.082]
0.046
−0.048
***
−0.016
***
[0.102]
***
0.769
[0.149]
***
0.014
**
0.187
[0.080]
−0.019
[0.035]
***
0.265
[0.055]
[0.047]
[0.047]
0.094
0.044
0.046
産業ダミー
年ダミー
[0.050]
***
−0.754
[0.063]
Yes
Yes
[0.066]
0.068
[0.176]
Yes
Yes
[0.033]
0.075
[0.147]
Yes
Yes
[0.057]
−0.241
[0.196]
Yes
Yes
[0.048]
***
−0.375
[0.138]
Yes
Yes
[0.046]
0.209
[0.185]
Yes
Yes
[0.022]
**
0.233
[0.099]
Yes
Yes
標本数
グループ数
決定係数
392
56
0.956
392
56
0.877
392
56
0.729
392
56
0.649
392
56
0.746
392
56
0.577
392
56
0.979
国内技術購入ストック
国有企業ダミー
[0.055]
*
[0.113]
−0.005
[0.057]
0.0949
[0.016]
**
0.005
注:ダミー以外の変数はすべて対数値である。
***
**
*
, , はそれぞれ,1%,5%,10%水準で有意であることを示す。括弧内は,分散不均一及び系列相関に頑健
な標準誤差である。産業ダミー,年ダミーと定数項の結果は表示していない。係数は,イノベーション投資の分散を
ウェイトとして加重最小二乗法(Weighted Least Squares)で推定した。
エティの輸出を目的としたものであると示唆し
業による研究開発が「適応的研究開発」である
ている。
ことを裏付けている。
表6は産業別外資企業についての推定結果を
③
外資企業にとって,外国技術購入は新製品
示している。
売上に占める新製品輸出の割合,輸出集約度に
①
研究開発は TFP の向上への寄与が大きい
対し負の効果があり,研究開発と同様に,特に
が,外国技術購入や国内技術購入については有
中国の国内市場向けを目的としたものであるこ
意な効果が見られない。外資企業では,
外国
(国
とがうかがえる。また,外国技術購入は新製品
内)技術購入の目的は生産性の向上ではない可
の輸出額と売上には有意な効果をもっておら
能性がある。
ず,
この点は研究開発の効果とは異なっている。
②
全企業と地場企業の場合と同様に,研究開
外資企業では,外国技術購入を通じて外国にい
発は新製品の輸出額,売上に占める新製品の割
る親会社との間にトランスファー -プライシン
合,輸出に占める新製品輸出の割合,売上高に
グ(Transfer Pricing)が行われる可能性もあり,
も寄与している。しかし,研究開発は新製品売
そのような取引は外資企業の売上に寄与してい
上に占める新製品輸出の割合,輸出集約度につ
ないと考えられる。
いては負の結果が得られた。外資企業の研究開
④ 国内技術購入については,外資企業では
発による新製品生産は,
海外市場向けではなく,
TFP の向上と新製品の生産の双方で有意な効
中国の国内市場向けであることを意味してい
果は見られない。
る。これは,第2節で議論したように,外資企
中国企業のイノベーションと輸出
表6
推定結果3(外資企業)(2004年∼2010年)
⑴
⑵
⑶
⑷
TFP
新製品の
輸出額
新製品売上/
売上
新製品輸出/
新製品売上
純固定資産
−0.046
0.191
[0.245]
雇用者数
0.358
中間財投入
研究開発ストック
***
0.418
[0.074]
129
**
−0.261
[0.155]
−0.025
[0.125]
0.004
[0.317]
−0.657
[0.160]
**
0.234
[0.107]
外国技術購入ストック
0.048
−0.027
国内技術購入ストック
[0.031]
0.037
[0.051]
0.020
[0.043]
[0.044]
***
0.138
*
[0.151]
−0.135
[0.338]
***
−0.321
[0.127]
**
−0.159
0.498
[0.069]
⑹
⑺
輸出/売上
新製品輸出/
輸出
売上
−0.152
[0.259]
0.260
[0.178]
⑸
0.082
0.023
[0.179]
[0.233]
[0.042]
0.113
0.122
0.123
[0.100]
0.070
[0.154]
***
−0.863
[0.233]
[0.256]
**
−0.192
[0.068]
***
*
−0.122
*
***
0.369
[0.090]
0.101
**
*
[0.063]
***
0.797
[0.044]
−0.006
[0.056]
−0.027
[0.091]
0.041
[0.070]
0.017
[0.049]
−0.003
[0.005]
0.006
[0.040]
[0.042]
[0.007]
*
[0.034]
[0.057]
0.472
[0.094]
Yes
Yes
*
産業ダミー
年ダミー
0.306
[0.088]
Yes
Yes
−0.172
[0.092]
Yes
Yes
0.581
[0.154]
Yes
Yes
0.243
[0.118]
Yes
Yes
0.166
[0.088]
Yes
Yes
0.0630
[0.020]
Yes
Yes
標本数
グループ数
決定係数
392
56
0.907
392
56
0.893
392
56
0.735
392
56
0.729
392
56
0.886
392
56
0.555
392
56
0.992
NHMT企業ダミー
***
***
**
0.0561
[0.024]
***
**
***
注:ダミー以外の変数はすべて対数値である。
***
**
*
, , はそれぞれ,1%,5%,10%水準で有意であることを示す。括弧内は,分散不均一及び系列相関に頑健な
標準誤差である。産業ダミー,年ダミーと定数項の結果は表示していない。係数は,イノベーション投資の分散をウェ
イトとして加重最小二乗法(Weighted Least Squares)で推定した。
Ⅶ
おわりに
中国の国内市場向けとしたものであることを示
している。
近年,貿易の自由化に伴って中国企業の高品
本研究は,中国企業によるイノベーション投
質財の輸出が拡大し,輸出の高度化が進んでい
資(特に,研究開発)の結果,産業全体の生産
る。本研究は,先行研究では十分考慮されてい
効率の改善と新製品開発,さらに,輸出財のグ
ない中国企業のイノベーション投資に注目し,
レードアップが進行しつつあることを明らかに
製造業大中企業の産業レベルのデータを用い
した。先行研究は,中国企業の高品質財の輸出
て,研究開発と技術移転が生産性と新製品の生
が外国直接投資と加工貿易の拡大によるもので
産・輸出に与える影響について実証分析を行っ
あると指摘したことに対して,本研究の実証結
た。
果から,2004 年以降中国輸出の高度化は中国企
実証結果は,①中国企業の輸出に占める新製
品の割合(高品質財の輸出を表す指標)が上昇
業のイノベーションによるものであると言え
る。
している。②研究開発と技術購入は,中国企業
最後に,現時点で中国企業のイノベーション
の TFP の向上,新製品生産・新製品輸出に寄
投資と新製品輸出に関する企業レベル・財レベ
与している。③研究開発と技術購入の目的に関
ルのデータが整備されていないため,
本研究は,
しては,企業所有制によって異なり,外資企業
大中企業の産業レベルでの分析に止まってお
によるイノベーション投資は「適応的イノベー
り,実証結果に対する解釈が要注意な部分がい
ション投資」であり,外国市場向けではなく,
くつかある。通関データではないため,本研究
130
第 186 巻
では一般貿易と加工貿易を区別できておらず,
新製品の輸出額の内,加工貿易によるものも
入っている。また,データの期間がやや短いた
め,推定の際の内生性の問題が残っている。最
後に,地場企業の TFP や新製品の生産・輸出
に関しては,外資企業から技術スピル・オーバー
第2号
Griliches, Z. [1998] R&D and Productivity, Chicago :
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Hu, A. G. Z., G. Jefferson, and J. Qian [2005] “R&D
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Ito, B., N. Yashiro, Z. Xu, X. Chen, and R. Wakasugi
や中間財購入について考慮していない。これら
[2012] “How Do Chinese Industries Benefit from
については,今後の課題にしたい。
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Blonigen, B. and A. Ma [ 2010 ] “ Please Pass the
Catch-Up : The Relative Performance of Chinese
and Foreign Firms in Chinese Exports ” in
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Feenstra, R. and S.-J. Wei, The University of
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Branstetter, L. and C. Foley [2010] “Facts and Fallacies about U. S. FDI in China” in China’s Growing
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八代尚光[2011]『新中国企業論―国際化とイノベー
ションの研究―』文眞堂。
中国企業のイノベーションと輸出
付録:
ⅰ.データについて
131
回 帰 分 析 で は,28 の 2 桁 産 業,2004 年 か ら
2010 年までのパネルデータを利用した。
データの実質化については,生産高・付加価
本研究は,中国国家統計局が毎年収集した,
値・売上高・輸出のデータは,生産者物価指数
製造業に属する大中企業の産業レベルの集計
(PPI)によって実質化したものを利用した。
データを利用する。大中企業は,雇用者数 300
中間財投入については,中間投入デフレーター
人以上,売上高3千万元以上,固定資産4千万
によって実質化した。固定資産残高とイノベー
元以上という3つの条件を同時に満たすすべて
ション投資のデータについては,固定資産投資
の企業を指す。研究開発・外国(国内)技術購
デフレーターによって実質化した。以上の価格
入・新製品売上・新製品輸出・売上・雇用者数
指 数 は,
『中国統計年鑑』
( China Statistical
のデータについては,
『工業企業科技活動統計
Yearbook)各年版による。
資料』
(Statistics on Science and Technology
Activities of Industrial Enterprises)の各年版
ⅱ.イノベーション投資ストックの計測
を利用した。ただし,各変数の 2004 年のデー
以下では,産業別の研究開発ストックの計測
タは,『中国経済普査年鑑』
(China Economic
方法について述べる。研究開発ストックとは各
Census Yearbook)2004 年版を利用した。輸
年の研究開発支出のフローが蓄積されて現在と
出・固定資産残高・中間財投入のデータについ
将来の生産技術及び新製品開発に寄与すると考
ては,
『規模以上工業統計報表統計』(Industry
えて,初期の研究開発ストックと各年の研究開
Statistics Data for State-owned and Non-state-
発支出を用いて恒久棚卸法(Perpetual Inven-
owned Industrial Enterprises above Desig-
tory Method)によってストックを推計するこ
nated Size)各年のデータを利用した。この統
とができる。ここでは,Hu et al.[2005],Ito et
計はもともと企業レベルのデータであり,大中
al.[2012]などの先行研究に従い,研究開発ス
企業より規模の小さい企業も含めているため,
トックの償却率 d は 15%とする。しかし,初
利用の際には,大中企業以外の企業を除いてか
期時点(本研究では 2004 年)での研究開発ス
ら,2桁産業レベルで企業所有制別集計したも
トックが得られないことで,まずこれを推計す
のを利用した。なお,2008 年∼2010 年に中間
るために,データが得られる以前の研究開発支
財投入のデータが欠損しているため,2004 年∼
出の成長率を何らかの方法で仮定しなければな
2007 年の各年に,産業別企業所有制別の生産高
らない。i 産業 o 企業所有制企業 t 年の研究開
に占める中間財投入のシェアを平均化したもの
発支出を E RD
iot とおき,2004 年以前と 2004 年以
を利用して推定した。付加価値については,生
降の支出が平均成長率 g io で増加していると仮
産高から中間財投入を引いたものを利用した。
定すると,i 産業 o 企業所有制企業の 2004 年の
本研究は以上のデータを2桁産業別企業所有
制別で接続したものを利用した。産業分類は
研究開発ストックは,
p9€
RD
RD
S RD
io2004/E io2004+p1,d€E io2003+
『国民経済行業分類標準』
(GB/T4754-2002)
に従う。ただし,規制産業である煙草産業,生
産と輸出活動の規模が特に小さいリサイクル産
p1,d€ 2E RD
io2002+…
/
業を分析対象としない。産業別企業所有制別の
イノベーション投資と新製品輸出のデータにつ
いては,2004 年以降のみ利用可能であるため,
/
E RD
io2004
1,d
1,
1+g io
r
E
RD
io2004
p1+g io€
g io+d
132
第 186 巻
/
第2号
E RD
io2005
€
g io+d
で求めることができる。
2005 年から 2010 年まで各年の研究開発ス
トックは,
RD
RD
S RD
iot /E iot +p1,d€S iot-1
p10€
によって推定する。
最後に,外国技術購入ストックと国内技術購
入ストックについては,同じ方法を用いて推定
した。ただし,研究開発より技術購入のほうは,
年,産業,企業所有制によって支出額増減の変
動が大きいため,支出の成長率に関する仮定が
適用できない場合がある。その際,2004 年の支
出額を初期のストックと見なし,2004 年以降各
年のストックは p10€ 式を用いて推定した。
ⅲ.記述統計
変数
標本数
平均値
標準誤差
最小値
最大値
TFP
研究開発ストック
外国技術購入ストック
国内技術購入ストック
新製品の輸出
売上高
純固定資産
雇用者数
中間投入
新製品売上/売上
新製品輸出/新製品売
上
輸出/売上
新製品輸出/輸出
784
784
784
784
784
784
784
784
784
784
14.87
11.78
9.49
8.11
11.75
15.87
14.58
12.08
15.33
2.41
1.55
1.86
2.83
2.73
2.12
1.36
1.31
1.14
1.45
0.91
9.18
4.74
−0.08
−0.08
4.07
11.32
9.90
8.28
9.31
−6.37
18.94
16.34
15.36
14.61
17.73
19.44
18.37
14.86
19.06
4.41
784
2.68
1.29
−2.92
4.61
784
784
2.66
2.43
1.22
1.18
−2.23
−5.57
4.52
4.58
注:変数はすべて対数値である。
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